JP3952180B2 - 導電性珪素複合体及びその製造方法並びに非水電解質二次電池用負極材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質として有用とされる導電性を付与した導電性珪素複合体粉末、その製造方法及び該粉末を用いた非水電解質二次電池用負極材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯型の電子機器、通信機器等の著しい発展に伴い、経済性と機器の小型化、軽量化の観点から、高エネルギー密度の二次電池が強く要望されている。従来、この種の二次電池の高容量化策として、例えば、負極材料にV、Si、B、Zr、Snなどの酸化物及びそれらの複合酸化物を用いる方法(特開平5−174818号、特開平6−60867号公報他)、溶融急冷した金属酸化物を負極材として適用する方法(特開平10−294112号公報)、負極材料に酸化珪素を用いる方法(特許第2997741号公報)、負極材料にSi2N2O及びGe2N2Oを用いる方法(特開平11−102705号公報)等が知られている。また、負極材に導電性を付与する目的として、SiOを黒鉛とメカニカルアロイング後、炭化処理する方法(特開2000−243396号公報)、Si粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(特開2000−215887号公報)、酸化珪素粒子表面に化学蒸着法により炭素層を被覆する方法(特開2002−42806号公報)がある。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−174818号公報
【特許文献2】
特開平6−60867号公報
【特許文献3】
特開平10−294112号公報
【特許文献4】
特許第2997741号公報
【特許文献5】
特開平11−102705号公報
【特許文献6】
特開2000−243396号公報
【特許文献7】
特開2000−215887号公報
【特許文献8】
特開2002−42806号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の方法では、充放電容量が上がり、エネルギー密度が高くなるものの、サイクル性が不十分であったり、市場の要求特性には未だ不十分であったりし、必ずしも満足でき得るものではなく、更なるエネルギー密度の向上が望まれていた。
【0005】
特に、特許第2997741号公報では、酸化珪素をリチウムイオン二次電池負極材として用い、高容量の電極を得ているが、本発明者らがみる限りにおいては、未だ初回充放電時における不可逆容量が大きかったり、サイクル性が実用レベルに達していなかったりし、改良する余地がある。また、負極材に導電性を付与した技術についても、特開2000−243396号公報では、固体と固体の融着であるため、均一な炭素皮膜が形成されず、導電性が不十分であるといった問題があるし、特開2000−215887号公報の方法においては、均一な炭素皮膜の形成が可能となるものの、Siを負極材として用いているため、リチウムイオンの吸脱着時の膨張・収縮があまりにも大きすぎて、結果として実用に耐えられず、サイクル性が低下するためにこれを防止するべく充電量の制限を設けなくてはならず、特開2002−42806号公報の方法においては、微細な珪素結晶の析出、炭素被覆の構造及び基材との融合が不十分であることより、サイクル性の向上は確認されるも、充放電のサイクル数を重ねると徐々に容量が低下し、一定回数後に急激に低下するという現象があり、二次電池用としてはまだ不十分であるといった問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、よりサイクル性の高いリチウムイオン二次電池の負極の製造を可能とする導電性珪素複合体及びその製造方法並びに非水電解質二次電池用負極材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、よりサイクル性の高い非水電解質二次電池負極用の活剤として有効な導電性珪素複合体を見出した。
【0008】
即ち、充放電容量の大きな電極材料の開発は極めて重要であり、各所で研究開発が行われている。このような中で、リチウムイオン二次電池用負極活物質として珪素及び無定形である酸化珪素(SiOx)はその容量が大きいということで大きな関心を持たれているが、繰り返し充放電をしたときの劣化が大きい、即ちサイクル性に劣ること、また、特に初期効率が低いことから、ごく一部のものを除き実用化には至っていないのが現状であった。このような観点より、このサイクル性及び初期効率の改善を目標に検討した結果、酸化珪素粉末にCVD(即ち、化学蒸着)処理を施すことによって、従来のものと比較して格段にその性能が向上することを見出したが、長期安定性、初期効率に更なる改良が求められた。
【0009】
このため、CVD処理酸化珪素をリチウムイオン二次電池負極の活物質として使用した時に、多回数の充放電後の急激な充放電容量低下の原因について、構造そのものからの検討を行い、解析した結果、リチウムを大量に吸蔵・放出することによって大きな体積変化が起こり、これに伴い粒子の破壊が起こること、更にリチウムの吸蔵によってもともと導電性が小さい珪素及び珪素化合物が体積膨張することによって電極自体の導電率が低下し、結果として集電性の低下によりリチウムイオンの電極内の移動が妨げられ、サイクル性及び効率低下が惹起されたことが原因であることがわかった。
【0010】
そこで、このようなことに基づいて、表面の導電性はもちろん、リチウムの吸蔵・放出に伴う体積変化に対して安定な構造について鋭意検討を行った結果、珪素微結晶又は微粒子を不活性で強固な物質、例えば二酸化珪素に分散し、更にこの表面の少なくとも一部に導電性を賦与するための炭素を融着させることによって、リチウムイオン二次電池負極活物質としての上記問題を解決し、安定して大容量の充放電容量を有し、かつ充放電のサイクル性及び効率を大幅に向上させることが出来得ることを見出した。従って、珪素の微結晶及び/又は微粒子を珪素化合物、例えば二酸化珪素の中に細かく分散し、またこの場合、特にこの複合物の表面の少なくとも一部が融着するように炭素コートすることが有効であることを知見し、本発明をなすに至った。
【0011】
従って、本発明は、下記の導電性珪素複合体及びその製造方法並びに非水電解質二次電池用負極材を提供する。
(1)X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1〜500nmである、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体。
(2)水酸化アルカリ溶液と作用させることによって水素ガスを発生しうるゼロ価の珪素を1〜35重量%含有する、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体。
(3)ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1580cm-1付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体。
(4)平均粒子径0.01〜30μm、BET比表面積0.5〜20m2/g、被覆炭素量3〜70重量%である(1)〜(3)のいずれか1項記載の導電性珪素複合体。
(5)珪素微結晶の大きさが1〜500nmであり、珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着していることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項記載の導電性珪素複合体。
(6)被覆炭素量が5〜70重量%である(1)〜(5)のいずれか1項記載の導電性珪素複合体。
(7)酸化珪素を900〜1400℃の温度で有機物ガス及び/又は蒸気で不均化すると共に化学蒸着処理することを特徴とする珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体の製造方法。
(8)酸化珪素が平均粒子径0.01〜30μm、BET比表面積0.1〜30m2/gの一般式SiOx(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素粉末であることを特徴とする(7)記載の導電性珪素複合体の製造方法。
(9)酸化珪素をあらかじめ不活性ガス雰囲気下900〜1400℃で熱処理を施して不均化してなる珪素複合物、シリコン微粒子をゾルゲル法により二酸化珪素でコーティングした複合物、シリコン微粉末を微粉状シリカと水を介して凝固させたものを焼結して得られる複合物、又は珪素及びこの部分酸化物もしくは窒化物を不活性ガス気流下800〜1400℃で加熱したものを、800〜1400℃の温度で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理することを特徴とする珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体の製造方法。
(10)酸化珪素をあらかじめ500〜1200℃の温度で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理したものを、不活性ガス雰囲気下900〜1400℃で熱処理を施して不均化することを特徴とする珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体の製造方法。
(11)化学蒸着処理及び/又は不均化処理を流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉又はロータリーキルンのいずれかの反応装置を用いて行うことを特徴とする(7)〜(10)のいずれか1項記載の導電性珪素複合体の製造方法。
(12)(1)〜(6)のいずれか1項記載の導電性珪素複合体を用いた非水電解質二次電池用負極材。
(13)(1)〜(6)のいずれか1項記載の導電性珪素複合体と導電剤の混合物であって、混合物中の導電剤が1〜60重量%であり、かつ混合物中の全炭素量が25〜90重量%である混合物を用いた非水電解質二次電池用負極材。
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極活物質として使用した場合、充放電容量が現在主流であるグラファイト系のものと比較してその数倍の容量であることから期待されている反面、繰り返しの充放電による性能低下が大きなネックとなっている珪素系物質のサイクル性及び効率を改善した導電性珪素複合体に関するもので、この導電性珪素複合体は、珪素の微結晶が珪素系化合物、好ましくは二酸化珪素に分散した構造を有する粒子表面を好ましくはその少なくとも一部が炭素と融合した状態で炭素でコーティング(融着)してなるものである。
【0013】
本発明において、融着とは、層状に整列した炭素層と、内部の珪素複合体との間に炭素と珪素が共存し、かつ、双方が界面部において融合している状態を示し、透過電子顕微鏡で観察することができる(図3参照)。
【0014】
この場合、本発明の導電性珪素複合体は、下記性状を有していることが好ましい。
i.銅を対陰極としたX線回折(Cu−Kα)において、2θ=28.4°付近を中心としたSi(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の広がりをもとに、シェーラーの式によって求めた珪素の結晶の粒子径が好ましくは1〜500nm、より好ましくは2〜200nm、更に好ましくは2〜20nmである。珪素の微粒子の大きさが1nmより小さいと、充放電容量が小さくなる場合があるし、逆に500nmより大きいと充放電時の膨張収縮が大きくなり、サイクル性が低下するおそれがある。なお、珪素の微粒子の大きさは透過電子顕微鏡写真により測定することができる。
ii.固体NMR(29Si−DDMAS)測定において、そのスペクトルが−110ppm付近を中心とするブロードな二酸化珪素のピークとともに−84ppm付近にSiのダイヤモンド結晶の特徴であるピークが存在する。なお、このスペクトルは、通常の酸化珪素(SiOx:x=1.0+α)とは全く異なるもので、構造そのものが明らかに異なっているものである。また、透過電子顕微鏡によって、シリコンの結晶が無定形の二酸化珪素に分散していることが確認される。
iii.リチウムイオン二次電池負極において、リチウムイオンを吸蔵・放出しうるゼロ価の珪素が、炭化珪素微粉末中遊離珪素を測定する方法であるISO DIS 9286に準じた方法である、水酸化アルカリを作用させる時に水素が生成することによって水素発生量として測定ができ、水素発生量から換算して1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、更に好ましくは20重量%以上で、上限として35重量%以下、特に30重量%以下であることが好ましい。ゼロ価の珪素が1重量%未満では、Li吸蔵・放出の活物質量が少ないため、リチウムイオン二次電池とした場合の充放電容量が小さくなるし、逆に35重量%より多くなると、リチウムイオン二次電池とした場合の充放電容量は大きくなるものの、充放電時の電極の膨張・収縮が大きくなりすぎて、結果としてサイクル性が低下するおそれがある。
iv.粒子の表面部分を透過電子顕微鏡で観察すると、カーボンが層状に整列し、これによって導電性が高まり、更に、その内側は二酸化珪素との融合状態にあることによって、カーボン層の脱落防止ができ、安定した導電性が確保される。
v.ラマン分光スペクトルより、1580cm-1付近にグラファイトに帰属されるスペクトルを有することより、炭素の一部又はすべてがグラファイト構造である。
【0015】
本発明の導電性珪素複合体粉末の平均粒子径は、0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上、特に好ましくは0.3μm以上で、上限として30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下が好ましい。平均粒子径が小さすぎると、嵩密度が小さくなりすぎて、単位体積当たりの充放電容量が低下するし、逆に平均粒子径が大きすぎると、電極膜作製が困難になり、集電体から剥離するおそれがある。なお、平均粒子径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における重量平均値D50(即ち、累積重量が50%となる時の粒子径又はメジアン径)として測定した値である。
【0016】
本発明の導電性珪素複合体粉末のBET比表面積は、0.5〜20m2/g、特に1〜10m2/gが好ましい。BET比表面積が0.5m2/gより小さいと、表面活性が小さくなり、電極作製時の結着剤の結着力が小さくなり、結果として充放電を繰り返した時のサイクル性が低下するし、逆にBET比表面積が20m2/gより大きいと、電極作製時に溶媒の吸収量が大きくなり、結着性を維持するために結着剤を大量に添加する場合が生じ、結果として導電性が低下し、サイクル性が低下するおそれがある。なお、BET比表面積はN2ガス吸着量によって測定するBET1点法にて測定した値である。
【0017】
また、本発明における導電性珪素複合体粉末の被覆(蒸着)炭素量は、上記導電性珪素複合体粉末(即ち、化学蒸着処理により表面が導電性皮膜で覆われた珪素複合物粉末)中、3重量%以上、より好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上で、上限として70重量%以下、より好ましくは50重量%以下、更に好ましくは40重量%以下、特に好ましくは30重量%以下が好ましい。被覆(蒸着)炭素量が少なすぎると、珪素複合物の導電性は改善されるものの、リチウムイオン二次電池とした場合のサイクル特性が十分でない場合があり、多すぎると、炭素の割合が多くなりすぎ、負極量が減少してしまう場合がある。また、嵩密度が小さくなり、単位体積当たりの充放電容量が低下してしまう場合がある。
【0018】
導電性珪素複合体粉末の電気伝導率は1×10-6S/m以上、特に1×10-4S/m以上が望ましい。電気伝導率が1×10-6S/mより小さいと電極の導電性が小さく、リチウムイオン二次電池用負極材として用いた場合にサイクル性が低下するおそれがある。なお、ここでいう、電気伝導率とは4端子を持つ円筒状のセル内に被測定粉末を充填し、この被測定粉末に電流を流した時の電圧降下を測定することで求めた値である。
【0019】
次に、本発明における導電性珪素複合体の製造方法について説明する。
本発明の導電性珪素複合体粉末は、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなる、好ましくは0.01〜30μm程度の平均粒子径を有するものであれば、その製造方法は特に限定されるものではないが、例えば下記I〜IIIの方法を好適に採用することができる。
I:一般式SiOx(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末を原料として、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下900〜1400℃、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1050〜1300℃、更に好ましくは1100〜1200℃の温度域で熱処理することにより、原料の酸化珪素粉末を珪素と二酸化珪素の複合体に不均化すると共に、その表面を化学蒸着する方法、
II:一般式SiOx(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末をあらかじめ不活性ガス雰囲気下900〜1400℃、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1300℃で熱処理を施して不均化してなる珪素複合物、シリコン微粒子をゾルゲル法により二酸化珪素でコーティングした複合物、シリコン微粉末を煙霧状シリカ、沈降シリカのような微粉状シリカと水を介して凝固させたものを焼結して得られる複合物、又は珪素及びこの部分酸化物もしくは窒化物等の好ましくは0.1〜50μmの粒度まで粉砕したものをあらかじめ不活性ガス気流下で800〜1400℃で加熱したものを原料に、少なくとも有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下、800〜1400℃、好ましくは900〜1300℃、より好ましくは1000〜1200℃の温度域で熱処理して表面を化学蒸着する方法、
III:一般式SiOx(1.0≦x<1.6)で表わされる酸化珪素粉末をあらかじめ500〜1200℃、好ましくは500〜1000℃、より好ましくは500〜900℃の温度域で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理したものを原料として、不活性ガス雰囲気下900〜1400℃、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1300℃の温度域で熱処理を施して不均化する方法。
【0020】
なお、本発明において酸化珪素とは、通常、二酸化珪素と金属珪素との混合物を加熱して生成した一酸化珪素ガスを冷却・析出して得られた非晶質の珪素酸化物の総称であり、本発明で用いられる酸化珪素粉末は一般式SiOxで表され、平均粒子径は0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.5μm以上で、上限として30μm以下、より好ましくは20μm以下が好ましい。BET比表面積0.1m2/g以上、より好ましくは0.2m2/g以上で、上限として30m2/g以下、より好ましくは20m2/g以下が好ましい。xの範囲は1.0≦x<1.6、より好ましくは1.0≦x≦1.3、更に好ましくは1.0≦x≦1.2であることが望ましい。酸化珪素粉末の平均粒子径及びBET比表面積が上記範囲外では所望の平均粒子径及びBET比表面積を有する導電性珪素複合体粉末が得られないし、xの値が1.0より小さいSiOx粉末の製造は困難であるし、xの値が1.6以上のものは、化学蒸着処理を行い、導電性珪素複合体粉末とした時に、不活性なSiO2の割合が大きく、リチウムイオン二次電池として使用した場合、充放電容量が低下するおそれがある。
【0021】
上記I又はIIの方法に関し、800〜1400℃(好ましくは900〜1400℃、特に1000〜1400℃)の温度域での化学蒸着処理(即ち、熱CVD処理)において、熱処理温度が800℃より低いと、導電性炭素皮膜と珪素複合物との融合、炭素原子の整列(結晶化)が不十分であり、逆に1400℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、リチウムイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池としての機能が低下するおそれがある。
【0022】
一方、上記I又はIIIの方法に関し、酸化珪素の不均化において、熱処理温度が900℃より低いと、不均化が全く進行しないかシリコンの微細なセル(珪素の微結晶)の形成に極めて長時間を要し、効率的でなく、逆に1400℃より高いと、二酸化珪素部の構造化が進み、リチウムイオンの往来が阻害されるので、リチウムイオン二次電池としての機能が低下するおそれがある。
【0023】
なお、上記IIIの方法においては、CVD処理した後に酸化珪素の不均化を900〜1400℃、特に1000〜1400℃で行うために、化学蒸着(CVD)の処理温度としては800℃より低い温度域での処理でも最終的には炭素原子が整列(結晶化)した導電性炭素皮膜と珪素複合物とが表面で融合したものが得られるものである。
【0024】
このように、好ましくは熱CVD(800℃以上での化学蒸着処理)を施すことにより炭素膜を作製するが、熱CVDの時間は、炭素量との関係で、適宜設定される。この処理において粒子が凝集する場合があるが、この凝集物をボールミル等で解砕する。また、場合によっては、再度同様に熱CVDを繰り返し行う。
【0025】
なお、上記Iの方法において、原料として一般式SiOx(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素を用いた場合には、化学蒸着処理と同時に不均化反応を行わせ、二酸化珪素中に結晶構造を有するシリコンを微細に分散させることが重要であり、この場合、化学蒸着及び不均化を進行させるための処理温度、処理時間、有機物ガスを発生する原料の種類及び有機物ガス濃度を適宜選定する必要がある。熱処理時間((CVD/不均化)時間)は、通常0.5〜12時間、好ましくは1〜8時間、特に2〜6時間の範囲から選ばれるが、この熱処理時間は熱処理温度((CVD/不均化)温度)とも関係し、例えば、処理温度を1000℃にて行う場合には少なくとも5時間以上の処理を行うことが好ましい。
【0026】
また、上記IIの方法において、有機物ガス及び/又は蒸気を含む雰囲気下に熱処理する場合の熱処理時間(CVD処理時間)は、通常0.5〜12時間、特に1〜6時間の範囲とすることができる。なお、SiOxの酸化珪素をあらかじめ不均化する場合の熱処理時間(不均化時間)は、通常0.5〜6時間、特に0.5〜3時間とすることができる。
【0027】
更に、上記IIIの方法において、SiOxをあらかじめ化学蒸着処理する場合の処理時間(CVD処理時間)は、通常0.5〜12時間、特に1〜6時間とすることができ、不活性ガス雰囲気下での熱処理時間(不均化時間)は、通常0.5〜6時間、特に0.5〜3時間とすることができる。
【0028】
本発明における有機物ガスを発生する原料として用いられる有機物としては、特に非酸化性雰囲気下において、上記熱処理温度で熱分解して炭素(黒鉛)を生成し得るものが選択され、例えばメタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素の単独もしくは混合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環乃至3環の芳香族炭化水素もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も単独もしくは混合物として用いることができる。
【0029】
なお、上記熱CVD(熱化学蒸着処理)及び/又は不均化処理は、非酸化性雰囲気において、加熱機構を有する反応装置を用いればよく、特に限定されず、連続法、回分法での処理が可能で、具体的には流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。この場合、(処理)ガスとしては、上記有機物ガス単独あるいは有機物ガスとAr、He、H2、N2等の非酸化性ガスの混合ガスを用いることができる。
【0030】
この場合、回転炉、ロータリーキルン等の炉芯管が水平方向に配設され、炉芯管が回転する構造の反応装置が好ましく、これにより酸化珪素粒子を転動させながら化学蒸着処理を施すことで、酸化珪素粒子同士に凝集を生じさせることなく、安定した製造が可能となる。炉芯管の回転速度は0.5〜30rpm、特に1〜10rpmとすることが好ましい。なお、この反応装置は、雰囲気を保持できる炉芯管と、炉芯管を回転させる回転機溝と、昇温・保持できる加熱機構を有しているものであれば特に限定せず、目的によって原料供給機構(例えばフィーダー)、製品回収機構(例えばホッパー)を設けることや、原料の滞留時間を制御するために、炉芯管を傾斜したり、炉芯管内に邪魔板を設けることもできる。また、炉芯管の材質についても特に限定はされず、炭化珪素、アルミナ、ムライト、窒化珪素等のセラミックスや、モリブデン、タングステンといった高融点金属、SUS、石英等を処理条件、処理目的によって適宜選定して使用することができる。
【0031】
また、流動ガス線速u(m/sec)は、流動化開始速度umfとの比u/umfが1.5≦u/umf≦5となる範囲とすることで、より効率的に導電性皮膜を形成することができる。u/umfが1.5より小さいと流動化が不十分となり、導電性皮膜にバラツキを生じる場合があり、逆にu/umfが5を超えると、粒子同士の二次凝集が発生し、均一な導電性皮膜を形成することができない場合がある。なお、ここで流動化開始速度は、粒子の大きさ、処理温度、処理雰囲気等により異なり、流動化ガス(線速)を徐々に増加させ、その時の粉体圧損がW(粉体重量)/A(流動層断面積)となった時の流動化ガス線速の値と定義することができる。なお、umfは、通常0.1〜30cm/sec、好ましくは0.5〜10cm/sec程度の範囲で行うことができ、このumfを与える粒子径としては一般的に0.5〜100μm、好ましくは5〜50μmとすることができる。粒子径が0.5μmより小さいと二次凝集が起こり、個々の粒子の表面を有効に処理することができない場合がある。
【0032】
本発明で得られた導電性珪素複合体の粉末は、これを負極材(負極活物質)として、高容量でかつサイクル特性の優れた非水電解質二次電池、特に、リチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0033】
この場合、得られたリチウムイオン二次電池は、上記負極活物質を用いる点に特徴を有し、その他の正極、負極、電解質、セパレータなどの材料及び電池形状などは限定されない。例えば、正極活物質としてはLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、V2O5、MnO2、TiS2、MoS2などの遷移金属の酸化物及びカルコゲン化合物などが用いられる。電解質としては、例えば、過塩素酸リチウムなどのリチウム塩を含む非水溶液が用いられ、非水溶媒としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフランなどが単体で又は2種類以上を組み合わせて用いられる。また、それ以外の種々の非水系電解質や固体電解質も使用できる。
【0034】
なお、上記導電性珪素複合体粉末を用いて負極を作製する場合、導電性珪素複合体粉末に黒鉛等の導電剤を添加することができる。この場合においても導電剤の種類は特に限定されず、構成された電池において、分解や変質を起こさない電子伝導性の材料であればよく、具体的にはAl、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、Sn、Si等の金属粉末や金属繊維、又は天然黒鉛、人造黒鉛、各種のコークス粉末、メソフェーズ炭素、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、各種の樹脂焼成体等の黒鉛を用いることができる。
【0035】
ここで、導電剤の添加量は、導電性珪素複合体粉末と導電剤の混合物中1〜60重量%が好ましく、特に10〜50重量%、とりわけ20〜50重量%が好ましい。1重量%未満だと充放電に伴う膨張・収縮に耐えられなくなる場合があり、60重量%を超えると充放電容量が小さくなる場合がある。また、混合物中の全炭素量(即ち、導電性珪素複合体粉末表面の被覆(蒸着)炭素量と、導電剤中の炭素量との合計量)は25〜90重量%が好ましく、特に30〜50重量%が好ましい。全炭素量が25重量%未満だと充放電に伴う膨張・収縮に耐えられなくなる場合があり、90重量%を超えると充放電容量が小さくなる場合がある。
【0036】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、下記例で%は重量%を示し、grはグラムを示す。
【0037】
[実施例1]
本発明で得られた導電性珪素複合体の構造について、一例として、酸化珪素(SiOx)を原料として用いて得られた導電性珪素複合体について説明する。
【0038】
酸化珪素(SiOx:x=1.02)を、ヘキサンを分散媒としてボールミルで粉砕し、得られた酸化珪素粉末をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン−アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件で酸化珪素の不均化と同時に熱CVDを行った。こうして得られたものの固体NMR、X線回折測定結果、透過電子顕微鏡写真及びラマンスペクトル(励起光:532nm)をそれぞれ図1〜4に示した。まず、原料である酸化珪素と導電性珪素複合体の固体29Si−NMR測定結果より、リチウムイオン二次電池負極活物質として、その性能の優れる導電性珪素複合体では、珪素の集合体である−84ppm付近のピークが出現しており、原料の酸化珪素の構造である二酸化珪素と珪素との全くのランダムな構造とは異なっていることを示している。また、Cu−Kα線によるX線回折パターンより、得られた導電性珪素複合体では、これも酸化珪素とは異なり、2θ=28.4°付近のSi(111)に帰属される回折線が存在し、この回折線の半価幅よりシェーラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは11nmであり、このことからも微細な珪素(Si)の結晶が、二酸化珪素(SiO2)の中に分散しているものが好ましいことが分かる。更に、この粒子の表面付近の透過電子顕微鏡写真より、炭素原子が粒子表面に沿って層状に整列しており、図4のラマン分光スペクトルにおいてもグラファイト構造が確認され、このことによって粉末としての導電率が高くなるものである。更に、炭素層の下部では基材との融着が観察され、これによってリチウムイオンの吸蔵・放出に伴う粒子の破壊や導電率の低下が抑えられ、特にサイクル性の向上に結びついているものである。
【0039】
更に詳述すると、図1は、固体29Si−NMRによる酸化珪素粉末を原料にして、熱CVD(メタンガス)をして得られた導電性珪素複合体と原料酸化珪素粉末の比較であり、酸化珪素ではゼロ価の珪素に帰属される−72ppm付近を中心としたブロードなピークと、4価の珪素(二酸化珪素)に帰属される−114ppm付近を中心にしたブロードなピークが観察されるのに対して、本発明による導電性珪素複合体では−84ppm付近にゼロ価の珪素が集合して珪素−珪素結合を形成していることを示しているピークが観察される。
【0040】
また、図2は、X線回折(Cu−Kα)による酸化珪素粉末を原料にして、熱CVD(メタンガス)をして得られた導電性珪素複合体と原料酸化珪素粉末の比較で、酸化珪素は2θ=24°付近に均質でかつ無定形であることを示す極めてブロードなピークが観察されるのみであるのに対して、本発明による導電性珪素複合体では2θ=28.4°付近に結晶性の珪素(ダイヤモンド構造)のSi(111)と帰属されるピークが観察される。この半価幅よりシェーラー法を用いて求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは、約11nmである。
【0041】
図3の導電性珪素複合体粉末及びその表面部の透過電子顕微鏡写真から、最外殻部では炭素原子が層状に配列していることが分かる。また、図4の導電性珪素複合体のラマンスペクトルは、1580cm-1付近のスペクトルより炭素の一部あるいは全部がグラファイト構造であることを示している。結晶性がよいと1330cm-1付近のスペクトルが減少する。
【0042】
更に、塊状の酸化珪素(SiOx:x=1.02)を、縦型の反応器に入れて、アルゴン気流下で1200℃まで加熱し、ここにメタン(50vol.%)−アルゴン混合ガスを通気しながら2時間加熱し、熱CVDを行った。このようにして得られた導電性珪素複合体をFIB加工により薄片化したものの透過電子顕微鏡写真を図5に示したが、この写真も珪素は明らかに微細な結晶として分散していることを示している。なお、写真の中の黒っぽく見えたり、又は白っぽく見える規則的な形状の粒子が珪素の結晶である。結晶の向きにより電子の透過性が異なるために、白く見えたり黒く見えたりする。黒く見えるものの中には双晶となっているのも見られる。
【0043】
[実施例2]
酸化珪素(SiOx:x=1.02)を、ヘキサンを分散媒としてボールミルで粉砕し、得られた懸濁物をろ過し、窒素雰囲気下で脱溶剤後、平均粒子径が約0.8μmの粉末を得た。この酸化珪素粉末をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン−アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件で酸化珪素の不均化と同時に熱CVDを行った。こうして得られたものは、蒸着炭素量が16.5%であり、水酸化カリウム水溶液との反応による水素量より求めたゼロ価の珪素である活性珪素は26.7%であった。また、X線回折(Cu−Kα)を行い、2θ=28.4°のSi(111)に帰属される回折線の半価幅からシェーラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは約11nmであった。熱CVD後、導電性珪素複合体をらいかい器で解砕し、平均粒子径が約2.8μmの粉末を得た。これを用いて下記方法で電池評価を行った。結果を表1に示す。
【0044】
[電池評価]
リチウムイオン二次電池負極活物質としての評価はすべての実施例、比較例ともに同一で、以下の方法・手順にて行った。
まず、得られた導電性珪素複合体に人造黒鉛(平均粒子径D50=5μm)を加え、人造黒鉛の炭素と蒸着した導電性珪素複合体中の炭素が合計40%となるように加え、混合物を製造した。この混合物にポリフッ化ビニリデンを10%加え、更にN−メチルピロリドンを加え、スラリーとし、このスラリーを厚さ20μmの銅箔に塗布し、120℃で1時間乾燥後、ローラープレスにより電極を加圧成形し、最終的には2cm2に打ち抜き、負極とした。
【0045】
ここで、得られた負極の充放電特性を評価するために、対極にリチウム箔を使用し、非水電解質として六フッ化リンリチウムをエチレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンの1/1(体積比)混合液に1モル/Lの濃度で溶解した非水電解質溶液を用い、セパレーターに厚さ30μmのポリエチレン製微多孔質フィルムを用いた評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
【0046】
作製したリチウムイオン二次電池は、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用いて、テストセルの電圧が0Vに達するまで3mAの定電流で充電を行い、0Vに達した後は、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が100μAを下回った時点で充電を終了した。放電は3mAの定電流で行い、セル電圧が2.0Vを上回った時点で放電を終了し、放電容量を求めた。
【0047】
以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の充放電試験を30サイクル、50サイクル行った。結果を表1に示す。
【0048】
[実施例3]
ブロック状又はフレーク状の酸化珪素を不活性ガス(アルゴン)雰囲気下で1300℃、1時間加熱し、珪素と二酸化珪素への不均化を行った。こうして得られたものについてX線回折(Cu−Kα)を行い、2θ=28.4°のSi(111)に帰属される回折線の半価幅からシェーラー法により求めた結晶の大きさは約55nmであった。このようにして熱処理を行った珪素−二酸化珪素複合物をヘキサンを分散媒としてボールミルで粉砕し、得られた懸濁物をろ過し、窒素雰囲気下で脱溶剤後、平均粒子径が約8μmの粉末を得た。この珪素複合物粉末を縦型管状炉(内径約50mmφ)を用いて、メタン−アルゴン混合ガス通気下で1100℃、3時間の熱CVDを行った。こうして、得られた導電性珪素複合体をらいかい器で解砕した。得られた導電性珪素複合体粉末の蒸着炭素量は11.3%、活性珪素量は28.1%、平均粒子径は8.6μmであり、シェーラー法により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは約60nmであった。
【0049】
こうして得られた導電性珪素複合体の粉末のリチウムイオン二次電池負極活物質としての評価を、実施例2と全く同じ条件で行った。その結果を表1に示す。
【0050】
[実施例4]
実施例2で使用した酸化珪素粉末を原料にして、縦型管状炉(内径約50mmφ)を用いて、アセチレン−アルゴン混合ガス通気下、800℃、1時間の熱CVDを行った。その後、約1200℃に設定したロータリーキルンにより、不活性気流下で平均滞留時間約1時間熱処理を施して不均化を行った。こうして得られた導電性珪素複合体の粉末の分析結果は、炭素量:17.5%、活性珪素量:25.4%、平均粒子径:3.1μmであり、X線回折(シェーラー法)により求めた二酸化珪素中に分散した珪素の結晶の大きさは約20nmであった。このような物性の珪素複合体についてのリチウムイオン二次電池負極活物質としての評価を実施例2と全く同じ条件で行った。その結果を表1に示す。
【0051】
[実施例5]
工業グレードの金属珪素粉末(Elkem社製 Sirgrain Powder 10μm品)をWilly A Bachofen AG社製粉砕装置DYNO−MILL Type KDL−Pilot A(0.1mmのジルコニアビーズ使用)を用いて、ヘキサンを分散媒として粉砕し、得られた珪素微粉末(平均粒子径約90nm)100grとヒュームドシリカ(日本アエロジル製 アエロジル200)を200grの割合で混合し、ここに水を加えて固く練ったものを150℃で乾燥して固形化した。その後、このものを窒素雰囲気下で1000℃、3時間焼結した。冷却後、ボールミルでヘキサンを分散媒として平均粒子径8μmまで粉砕した。この珪素−二酸化珪素複合物粉末をロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン−アルゴン混合ガス通気下で1150℃、平均滞留時間約2時間の条件で熱CVDを行った。こうして得られたものは、蒸着炭素量が18.5%であり、水酸化カリウム水溶液との反応による水素量より求めたゼロ価の珪素である活性珪素は29.7%であった。熱CVD後、導電性珪素複合体をらいかい器で解砕し、平均粒子径が約9.2μmの粉末を得た。
【0052】
解砕した珪素複合物を実施例2と同様の条件でリチウムイオン負極活物質としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例1]
実施例3で得られた酸化珪素の珪素と二酸化珪素への不均化反応物(珪素−二酸化珪素複合物)の粉末について熱CVD処理を行わずに、実施例2と全く同じ条件でリチウムイオン二次電池負極活物質としての評価を行った。その結果を表1に示す。
【0054】
[比較例2]
実施例2によって得られた酸化珪素粉末を原料にして、縦型管状炉(内径約50mmφ)を用いて、アセチレン−アルゴン混合ガス通気下、800℃、1時間熱CVDをした。こうして得られた酸化珪素のカーボンCVD処理粉末の分析結果は、蒸着炭素量:18.5%、活性珪素量:25.4%、平均粒子径:2.1μmであった。また、X線回折測定においては、原料である酸化珪素のパターンと同一であり、不均化は起こっていなかった。このような物性の珪素複合体についてのリチウムイオン二次電池負極活物質としての評価を実施例2と全く同じ条件で行った。その結果を表1に示す。このものは、X線回折より無定形の酸化珪素(SiOx)粉末のカーボンコートしたものと同定されるものであるが、サイクル性、初期効率ともに低いものである。
【0055】
[比較例3]
平均粒子径約90nmの金属珪素粉末の代わりに平均粒子径1μmの金属珪素粉末を使用した以外は、実施例5と同様な方法で導電性珪素複合体を製造した。こうして得られた珪素−二酸化珪素複合物のカーボンCVD処理粉末の分析結果は、蒸着炭素量:17.8%、活性珪素量:28.5%、平均粒子径:9.5μmであった。このような組成のカーボン被覆珪素−二酸化珪素複合物についてのリチウムイオン二次電池負極活物質としての評価を実施例2と全く同じ条件で行った。その結果を表1に示す。
【0056】
[比較例4]
実施例5で得られた珪素微粉末(平均粒子径90nm)と平均粒子径8.0μmの球状シリカとを重量比約1:2で単純に混合した混合物を、実施例2に記載したCVD条件にてCVD処理を行い、蒸着炭素量:14.0%、活性珪素量:34.0%の複合物を得た。このものについてのリチウムイオン二次電池負極活物質としての評価を実施例2と全く同じ条件で行った。この結果、サイクル性が極めて低いものであった。
【0057】
【表1】
【0058】
[比較例5]
実施例5で用いたヒュームドシリカ(日本アエロジル製、アエロジル200)200gをロータリーキルン型の反応器を用いて、メタン−アルゴン混合ガス雰囲気下で1150℃、平均滞留時間2時間の条件で熱CVDを行った。得られたCVD処理粉末は、炭素含有量:12%、活性珪素量:0%、平均粒子径:3.6μmの黒色粉末であった。
次に、このCVD処理粉末につき、実施例2と同様な方法でリチウムイオン二次電池負極活物質としての電池評価を行った。その結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
ここで、得られた充放電容量は、添加した黒鉛導電材及び蒸着した炭素が寄与した値のみであり、SiO2はほとんど不活性な物質であった。
この場合、本発明者の検討によると、黒鉛のみを負極活物質として用いた以外は、実施例2と同様の電池の初回充電容量は400mAh/g、初回放電容量は340mAh/gであり、上記試験における負極材混合物中の全体の炭素含有量は40重量%であり、比較例5の初回充放電容量は、黒鉛のみの初回充放電容量の40%に相当するものであることから、比較例5においては、CVDによる被覆(蒸着)炭素及び添加した黒鉛のみが充放電に作用していることがわかる。
【0061】
[実施例6]
図6に示す回分式流動層反応装置を用いて、導電性珪素複合体粉末を製造した。ここで、図6において、1は流動層反応室で、その内部に酸化珪素の流動層2が形成される。3は流動層反応室1の外側に流動層2を囲むように配設されたヒーターである。また、4はガス分散板であり、流量計6を介装した有機物ガス又は蒸気の導入管7及び不活性ガス導入管8を通って有機物ガス又は蒸気と不活性ガスがそれぞれガスブレンダー9に導入、混合され、この混合ガスがガス供給管10を通って上記反応室1の底部から上記反応室1内に供給され、更に上記ガス分散板4の多数の小孔から噴出することにより、酸化珪素の流動層2が形成されるものである。なお、11はガス排出管、12は差圧計である。
平均粒子径1.0μm、BET比表面積6m2/gの酸化珪素粉末SiOx(x=1.05)50gを流動層反応室1の内径がφ80mmの流動層反応炉に仕込んだ。次に流量計6を介してArガスを2.0NL/min流入させながら、ヒーター3に通電して300℃/時間の昇温速度にて1100℃の温度まで昇温・保持した。1100℃に到達後、CH4ガスを1.0NL/min追加流入し、3時間の化学蒸着処理を行った。運転終了後、降温し、黒色粉末を回収した。この黒色粉末をらいかい器にて1時間粗粉砕し、導電性珪素複合体粉末を得た。得られた導電性珪素複合体粉末は、平均粒子径2.5μm、BET比表面積9m2/g、黒鉛被覆量25%、シェーラー法により求めた珪素の微粒子の大きさが30nm、水酸化カリウム水溶液との反応による水素量より求めたゼロ価の活性珪素量が28.0%の粉末であった。
【0062】
電池評価
実施例2と同様にして評価用リチウムイオン二次電池を作製した。
作製したリチウムイオン二次電池は、一晩室温で放置した後、二次電池充放電試験装置((株)ナガノ製)を用い、テストセルの電圧が0Vに達するまで1mAの定電流で充電を行い、0Vに達した後は、セル電圧を0Vに保つように電流を減少させて充電を行った。そして、電流値が20μAを下回った時点で充電を終了した。放電は1mAの定電流で行い、セル電圧が1.8Vを上回った時点で放電を終了し、放電容量を求めた。
【0063】
以上の充放電試験を繰り返し、評価用リチウムイオン二次電池の50サイクル後の充放電試験を行った。その結果、初回放電容量;1493mAh/cm3、50サイクル目の放電容量;1470mAh/cm3、50サイクル後のサイクル保持率;98.5%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0064】
[実施例7〜9]
原料酸化珪素粉末の平均粒子径、BET比表面積及び処理条件を表3に示す値にした他は実施例6と同様な方法で導電性珪素複合体粉末を製造した。得られた珪素複合体粉末の平均粒子径、BET比表面積、黒鉛被覆量、珪素微粒子の大きさ、ゼロ価の珪素含有量を表3に併記する。また、得られた導電性珪素複合体粉末を用いて実施例2と同様な方法で評価用リチウムイオン二次電池を作製し、実施例6と同様な方法で充放電試験を行った。試験結果を表4に記す。
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
[実施例10]
図7に示す回転炉を用いて、導電性珪素複合体粉末を製造した。
図7は、本発明の実施に好適な回転炉の一例を示す。図7において、21は原料の酸化珪素粉末Pが収容される炉芯管であり、この炉芯管21は円筒体の軸方向を水平方向に沿って又は水平方向に対し0〜10°、特に0.1〜5°傾斜させて配置した形態を有する。この場合、炉芯管21の入口側にはフィーダー22が連設されていると共に、出口側には回収ホッパー23が連設されており、炉芯管21を水平方向に対し傾斜させる場合、入口側から出口側に向けて下降傾斜するように配設する。24はモーター25の作動により上記炉芯管21を回転させる機構(ここでは、モーター25の回転軸26に取り付けられたプーリー27と炉芯管21に取り付けられたプーリー28との間にベルト29を巻回した機構であるが、これに制限されるものではない)である。また、上記炉芯管21はローラー30、30上に回転可能に配設されており、上記炉芯管回転機構24の作動により所定速度で回転し得るようになっている。
33は有機物ガス又は蒸気導入管、34は不活性ガス導入管であり、それぞれ流量計31、32が介装されていると共に、これら導入管33、34はガスブレンダー35と連結されており、ここで混合された混合ガスがガス供給管36により、炉芯管21の入口から炉芯管21内に導入されるものである。また、上記炉芯管21の外側には、ヒーター37が配設されているものである。
【0067】
平均粒子径2.5μm、BET比表面積10m2/gの酸化珪素粉末SiOx(x=1.05)をフィーダー22内に仕込んだ。次に流量計(Arガス)32を介してArガスを3.0NL/min流入させながら、ヒーター37に通電して300℃/時間の昇温速度にて1200℃の温度まで昇温・保持した。1200℃に到達後、内径φ80mmの炭化珪素製炉芯管1を2°に傾斜し、同時にモーター25を作動させ、炉芯管21を2rpmの速度で回転させた。次にCH4ガスを流量計31(CH4ガス)を介して2.0NL/min追加流入し、300g/時間の割合で酸化珪素粉末を炉芯管21内に供給し、化学蒸着処理を行った。この化学蒸着処理を10時間連続運転で行った結果、特に問題なく安定して製造でき、約4kgの黒色粉末が製造できた。
【0068】
次に、この黒色粉末をらいかい器にて1時間粗粉砕し、導電性珪素複合体粉末を得た。得られた導電性珪素複合体粉末は、平均粒子径3.2μm、BET比表面積9.8m2/g、黒鉛被覆量18重量%、X線回折において結晶性Siのピークが見られる粉末であった。
これを用いて、評価用リチウムイオン二次電池を作製し、実施例6と同様な方法で充放電試験を行った。その結果、初回放電容量;1420mAh/cm3、50サイクル目の放電容量;1400mAh/cm3、50サイクル後のサイクル保持率;98.6%の高容量であり、かつ初回充放電効率及びサイクル性に優れたリチウムイオン二次電池であることが確認された。
【0069】
【発明の効果】
本発明の導電性珪素複合体は、非水電解質二次電池用負極材として用いられて、良好なサイクル性を与える。
【図面の簡単な説明】
【図1】固体29Si−NMRによる酸化珪素粉末を原料にして、熱CVD(メタンガス)をして得られた導電性珪素複合体と原料酸化珪素粉末の比較を示すチャートである。
【図2】X線回折(Cu−Kα)による酸化珪素粉末を原料にして、熱CVD(メタンガス)をして得られた導電性珪素複合体と原料酸化珪素粉末の比較を示すチャートで、(A)は導電性珪素複合体、(B)は酸化珪素のチャートである。
【図3】導電性珪素複合体粉末及びその表面部の透過電子顕微鏡写真で、(A)は粒子の外観、(B)は粒子表面部を示す。
【図4】導電性珪素複合体のラマンスペクトルである。
【図5】(A)は、導電性珪素複合体内部の透過電子顕微鏡写真、(B)はその部分拡大図である。
【図6】実施例6で用いた回分式流動層反応装置の概略図である。
【図7】実施例10で用いた回転炉の概略図である。
【符号の説明】
1 流動層反応室
2 流動層
3 ヒーター
4 ガス分散板
6 流量計
7 ガス導入管(有機ガス又は蒸気)
8 ガス導入管(不活性ガス)
9 ガスブレンダー
10 ガス供給管
11 ガス排出管
12 差圧計
21 炉芯管
22 フィーダー
23 回収ホッパー
25 モーター
30 ローラー
31 流量計(CH4ガス)
32 流量計(Arガス)
35 ガスブレンダー
37 ヒーター
P 粉体層
Claims (13)
- X線回折において、Si(111)に帰属される回折ピークが観察され、その回折線の半価幅をもとにシェーラー法により求めた珪素の結晶の大きさが1〜500nmである、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体。
- 水酸化アルカリ溶液と作用させることによって水素ガスを発生しうるゼロ価の珪素を1〜35重量%含有する、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体。
- ラマン分光スペクトルより、ラマンシフトが1580cm-1付近にグラファイト構造特有のスペクトルを有する、珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体。
- 平均粒子径0.01〜30μm、BET比表面積0.5〜20m2/g、被覆炭素量3〜70重量%である請求項1〜3のいずれか1項記載の導電性珪素複合体。
- 珪素微結晶の大きさが1〜500nmであり、珪素系化合物が二酸化珪素であり、かつその表面の少なくとも一部が炭素と融着していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の導電性珪素複合体。
- 被覆炭素量が5〜70重量%である請求項1〜5のいずれか1項記載の導電性珪素複合体。
- 酸化珪素を900〜1400℃の温度で有機物ガス及び/又は蒸気で不均化すると共に化学蒸着処理することを特徴とする珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体の製造方法。
- 酸化珪素が平均粒子径0.01〜30μm、BET比表面積0.1〜30m2/gの一般式SiOx(1.0≦x<1.6)で表される酸化珪素粉末であることを特徴とする請求項7記載の導電性珪素複合体の製造方法。
- 酸化珪素をあらかじめ不活性ガス雰囲気下900〜1400℃で熱処理を施して不均化してなる珪素複合物、シリコン微粒子をゾルゲル法により二酸化珪素でコーティングした複合物、シリコン微粉末を微粉状シリカと水を介して凝固させたものを焼結して得られる複合物、又は珪素及びこの部分酸化物もしくは窒化物を不活性ガス気流下800〜1400℃で加熱したものを、800〜1400℃の温度で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理することを特徴とする珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体の製造方法。
- 酸化珪素をあらかじめ500〜1200℃の温度で有機物ガス及び/又は蒸気で化学蒸着処理したものを、不活性ガス雰囲気下900〜1400℃で熱処理を施して不均化することを特徴とする珪素の微結晶が珪素系化合物に分散した構造を有する粒子の表面を炭素でコーティングしてなることを特徴とする非水電解質二次電池負極材用導電性珪素複合体の製造方法。
- 化学蒸着処理及び/又は不均化処理を流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉又はロータリーキルンのいずれかの反応装置を用いて行うことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項記載の導電性珪素複合体の製造方法。
- 請求項1乃至6のいずれか1項記載の導電性珪素複合体を用いた非水電解質二次電池用負極材。
- 請求項1乃至6のいずれか1項記載の導電性珪素複合体と導電剤の混合物であって、混合物中の導電剤が1〜60重量%であり、かつ混合物中の全炭素量が25〜90重量%である混合物を用いた非水電解質二次電池用負極材。
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