JP4164175B2 - 電子写真感光体、プロセスカートリッジ及び電子写真装置、並びに、電子写真感光体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子写真感光体、電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置並びに電子写真感光体の製造方法に関し、詳しくは特定の樹脂を含有する表面層を有する電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置並びに該電子写真感光体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、電子写真感光体に用いられる光導電材料としては、セレン、硫化カドミウム及び酸化亜鉛等の無機材料が知られていた。他方、有機材料であるポリビニルカルバゾール、フタロシアニン及びアゾ顔料等は高生産性や無公害性等の利点が注目され、無機材料と比較して光導電特性や耐久性等の点で劣る傾向にあるものの、広く用いられる様になってきた。
【0003】
これらの電子写真感光体は、電気的及び機械的特性の双方を満足するために電荷発生層と電荷輸送層を積層した機能分離型の感光体として利用される場合が多い。一方当然のことながら電子写真感光体には適用される電子写真プロセスに応じた感度、電気的特性、光学的特性、耐久特性を備えていることが要求される。
【0004】
近年では、複写機におけるデジタル化が急速に展開する一方で、レーザービームプリンターの分野においても高速/高精細/高耐久化が進んでおり、それに見合った電子写真感光体の開発が求められている。デジタル化が主流となってきた現在においては、光源として半導体レーザーを用いた電子写真装置が一般的ではあるが、その発振波長は790±20nmと赤外領域であり、この波長領域に十分な感度を有する電荷発生材料の1つとして、従来からフタロシアニン化合物が広く用いられている。
【0005】
その種類は多く、無金属フタロシアニン及び金属フタロシアニンに分けられるが、金属フタロシアニンの中でも、特開昭50−38543号公報に示されるような銅フタロシアニン、特開昭61−21705号公報、特開昭61−239248号公報、特開昭64−17066号公報及び特開平3−128973号公報等に示されるオキシチタニウムフタロシアニンがよく知られている。更に、近年では特開平1−221459号公報、特開平5−98181号公報、特開平7−207171号公報等に開示されているクロロガリウムフタロシアニンや特開平5−236007号公報、特開平7−53892号公報等に開示されているヒドロキシガリウムフタロシアニン等を含め、新規な中心金属を有するフタロシアニン化合物が提供されている。また、以上の各々のフタロシアニン化合物に対して、さまざまな結晶型の存在が報告されている。
【0006】
これらフタロシアニン化合物を電荷発生材料として用いた場合に十分な感度や電子写真特性を発現させるためには、電荷輸送材料の組み合わせが非常に重要である。一般に電子写真感光体における光導電性は、例えば現在の主流である積層機能分離型感光体を例に挙げて説明すると、まず電荷発生材料に光が吸収されることで光キャリアが発生し、この光キャリアが電荷輸送層に注入し輸送されることで発現するものと考えられている。ここで電荷輸送材料は、電荷輸送能のみならず電荷発生材料における電荷の発生そして注入に対しても、その関与が非常に大きいことが報告されており、フタロシアニン化合物においても例外ではない。
【0007】
一般に電荷輸送層は、不活性の線状高分子中に低分子量の電荷輸送材料を混合して形成されるが、先で述べた様に電荷の発生/注入効率及び電荷輸送能を十分に発揮させるためには、電荷輸送材料の濃度は十分に高いことが望ましい。しかし一方で、そのような低分子量材料の含有量を増大させることは成膜性を低下させ、析出やクラック等の発生を引き起こす。また、膜自体の機械的強度が低下することにより、電子写真プロセスにおける繰り返し使用時の膜削れや傷等が問題となり、十分な耐久性を確保することができない。
【0008】
これらの問題点を解決する手段として、硬化性の樹脂を電荷輸送層用の樹脂として用いる試みが、例えば特開平2−127652号公報等に開示されているが、この場合においても低分子量成分は、あくまでもバインダー樹脂中において可塑剤として作用するので、先に述べたような析出やクラックの問題の根本的な解決にはなっていない。
【0009】
また、硬化性樹脂とはいうものの十分な光感度発現を担う大量の低分子成分添加による可塑的効果は大きく、十分な機械的強度を得ることは難しい。また、特開平5−216249号公報、特開平7−72640号公報等においては、電荷輸送層に炭素−炭素二重結合を有するモノマーを含有させ、電荷輸送材料の炭素−炭素二重結合と熱あるいは光のエネルギーによって反応させて電荷輸送層硬化膜を形成した電子写真感光体が開示されているが、電荷輸送材料はポリマー主骨格にペンダント状に固定化されているだけであり、先の可塑的な作用を十分に排除できないため機械的強度が十分ではない。また、電荷輸送能の向上のために電荷輸送材料の濃度を高くすると、架橋密度が低くなり十分な機械的強度を確保することができない。更には、重合時に必要とされる開始剤類の電子写真特性への影響も懸念される。
【0010】
また、別の解決手段として例えば特開平8−248649号公報等において、熱可塑性高分子主鎖中に電荷輸送能を有する基を導入し、電荷輸送層を形成させた電子写真感光体が開示されているが、従来の分子分散型の電荷輸送層と比較して析出等に対しては効果があり、機械的強度も向上するが、あくまでも熱可塑性樹脂であり、その機械的強度には限界があり、樹脂の溶解性等を含めたハンドリングや生産性の面で十分であるとは言い難い。以上述べた様に、これまでの系では高い機械的強度と優れた光感度の発現の両立が達成されておらず、それらの改良が強く望まれているのが現状である。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、優れた光感度の発現及び繰り返し使用時の耐磨耗性に優れ、更に繰り返し使用時における残留電位の上昇等の感光体特性の変化や劣化が非常に少なく、繰り返し使用時にも安定した性能を発揮することができる電子写真感光体並びに電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、感光体の表面層の耐摩耗性及び耐傷性が向上し、長寿命で高画質な電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置並びに電子写真感光体の製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に従って、導電性支持体及び該導電性支持体上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、
該感光層が、電荷発生材料としてフタロシアニン化合物を含有し、
該電子写真感光体の表面層が、同一分子内に2つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合あるいは架橋させて得られる硬化物を含有し、
該正孔輸送性化合物が、下記一般式(1)で示される化合物:
【0014】
【化6】
【0015】
(一般式(1)中、Aは正孔輸送性基を示す。P 1 は連鎖重合性官能基である下記構造式(14)で示される基:
【0016】
【化7】
【0017】
を示す。aは2以上の整数を示す。)
であり、
上記一般式(1)中のAにおけるP 1 との結合部位を水素原子に置き換えて導き出される化合物が、下記一般式(3)で示される化合物、下記一般式(5)で示される化合物、又は、下記一般式(7)で示される化合物である
ことを特徴とする電子写真感光体が提供される:
【0018】
【化8】
【0019】
(一般式(3)中、R4、R5、R8及びR9 は置換基としてアルキル基を有してもよいフェニル基を示す。R 4、R5、R8及びR 9 は同一であっても異なっていてもよい。Qはアルキレン基及び酸素原子を組み合わせて導き出される有機残基を示す。R 4 及びR 8 には上記P 1 との結合部位となる水素原子がある。)
【0020】
【化9】
【0021】
(一般式(5)中、Ar3 は置換基としてアルキル基を有してもよいフェニル基を示す。Ar4は置換基としてアルキル基を有してもよいフェニル基を示す。Ar 3 及びAr 4 には上記P 1 との結合部位となる水素原子がある。)
【0022】
【化10】
【0023】
(一般式(7)中、R 18 は置換基としてアルキル基を有してもよいフェニル基を示す。Ar6は置換基としてアルキル基を有してもよいフェニル基を示す。R 18 及びAr 6 には上記P 1 との結合部位となる水素原子がある。)。
【0024】
また、本発明に従って、上記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置が提供される。
【0025】
また、本発明に従って、上記電子写真感光体を製造する方法であって、前記正孔輸送性化合物の重合あるいは架橋を電子線を用いて行うことにより前記正孔輸送性化合物を硬化させる工程を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法が提供される。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
まず、本発明における連鎖重合性官能基について説明する。本発明における連鎖重合とは、高分子物の生成反応を大きく連鎖重合と逐次重合に分けた場合の前者の重合反応形態を示し、詳しくは例えば技報堂出版 三羽忠広著の「基礎 合成樹脂の化学(新版)」1995年7月25日(1版8刷)P.24に説明されている様に、その形態が主にラジカルあるいはイオン等の中間体を経由して反応が進行する不飽和重合、開環重合そして異性化重合等のことをいう。
【0028】
前記一般式(1)における連鎖重合性官能基Pとは、前述の反応形態が可能な官能基を意味するが、ここではその大半を占め応用範囲の広い不飽和重合あるいは開環重合性官能基の具体例を示す。
【0029】
不飽和重合とは、ラジカル、イオン等によって不飽和基、例えばC=C、C≡C、C=O、C=N、C≡N等が重合する反応であるが、主にはC=Cによる場合が大部分である。不飽和重合性官能基の具体例を表1に示すが、これらに限定されるものではない。
【0030】
【表1】
【0031】
表中、Rは置換基を有してもよいメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、置換基を有してもよいベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、ナフチル基、アンスリル基等のアリール基又は水素原子を示す。
【0032】
開環重合とは、炭素環、オクソ環、窒素ヘテロ環等のひずみを有した不安定な環状構造が触媒の作用で活性化され、開環すると同時に重合を繰り返し鎖状高分子物を生成する反応であるが、この場合基本的にはイオンが活性種として作用するものが大部分である。開環重合性官能基の具体例を表2に示すが、これらに限定されるものではない。
【0033】
【表2】
【0034】
表中、Rは置換基を有してもよいメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、置換基を有してもよいベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、ナフチル基、アンスリル基等のアリール基又は水素原子を示す。
【0035】
上記で説明したような本発明に係わる連鎖重合性官能基は、下記一般式(14)で示されるアクリロイルオキシ基が、重合特性等の点から用いられる。
【0036】
【化11】
【0037】
本発明で「連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物」とは、上記で説明した連鎖重合性官能基が上記で説明した正孔輸送性化合物に官能基として2つ以上化学結合している化合物を示す。この場合それらの連鎖重合性官能基は、全て同一でも異なったものであってもよい。それらの連鎖重合性官能基を2つ以上有する正孔輸送性化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物である。
【0038】
【化12】
【0039】
上記一般式(1)中、P 1 は連鎖重合性官能基である上記構造式(14)で示される基を示す。aは2以上の整数を示す。
【0040】
上記一般式(1)中のAは正孔輸送性基を示し、正孔輸送性を示すものであればいずれのものでもよく、P 1 との結合部位を水素原子に置き換えた水素付加化合物(正孔輸送化合物)として示せば、例えば、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリフェニルアミン等のトリアリールアミン誘導体、9−(P−ジエチルアミノスチリル)アントラセン、1,1−ビス−(4−ジベンジルアミノフェニル)プロパン、スチリルアントラセン、スチリルピラゾリン、フェニルヒドラゾン類、チアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナジン誘導体、アクリジン誘導体、ベンゾフラン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、チオフェン誘導体、N−フェニルカルバゾール誘導体、置換基を有してもよいナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、フルオレン、フルオランセン、アズレン、インデン、ペリレン、クリセン、コロネン等の縮合環炭化水素、又は置換基を有してもよいベンゾフラン、インドール、カルバゾール、ベンズカルバゾール、アクリジン、フェノチアジン、キノリン等の縮合複合環等が挙げられる。
【0041】
上記一般式(1)中のAにおけるP 1 との結合部位を水素原子に置き換えて導き出される化合物は、下記一般式(3)で示される化合物、下記一般式(5)で示される化合物、又は、下記一般式(7)で示される化合物である。
【0042】
【化13】
【0043】
上記一般式(3)中、R4、R5、R8及びR9 は置換基としてアルキル基を有してもよいフェニル基を示す。R 4、R5、R8及びR 9 は同一であっても異なっていてもよい。Qはアルキレン基及び酸素原子を組み合わせて導き出される有機残基を示す。R 4 及びR 8 には上記P 1 との結合部位となる水素原子がある。
【0044】
【化14】
【0045】
上記一般式(5)中、Ar3 は置換基としてアルキル基を有してもよいフェニル基を示 す。Ar4は置換基としてアルキル基を有してもよいフェニル基を示す。Ar 3 及びAr 4 には上記P 1 との結合部位となる水素原子がある。
【0046】
【化15】
【0047】
上記一般式(7)中、Ar6は置換基としてアルキル基を有してもよいフェニル基を示す。R 18 は置換基としてアルキル基を有してもよいフェニル基を示す。R 18 及びAr 6 には上記P 1 との結合部位となる水素原子がある。
【0048】
また、上記一般式(3)中のQは、下記一般式(9)で示される基が好ましく、下記一般式(10)で示される基が特に好ましい。
【0049】
【化16】
【0050】
上記一般式(9)中、X1 、X 2 及びX3は置換基を有してもよいメチレン基、エチレン基、プロピレン基等の炭素数1以上20以下のアルキレン、(CR23=CR24)m1 (R 23 及びR 24 は置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基又は水素原子を示す。R 23 及びR 24 はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。m 1 は1〜5の整数を示す。)、C=O、S=O、SO2、酸素原子又は硫黄原子を示す。Ar8及びAr9は置換基を有してもよいアリーレン基(ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、ベンゾチオフェン、ピリジン、キノリン、ベンゾキノリン、カルバゾール、フェノチアジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン等より2個の水素原子を取り除いたアリーレン基。)を示す。p、q、r、s及びtは0〜10の整数を示す。但し、p、q、r、s及びtは同時に0であることはない。
【0051】
【化17】
【0052】
上記一般式(10)中、X4及びX5は(CH2)g (gは1〜10の整数を示す。)、(CH=CR25)h (R 25 は置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基又は水素原子を示す。hは1〜5の整数を示す。)、C=O、又は酸素原子を示す。Ar10は置換基を有してもよいアリーレン基(ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、ベンゾチオフェン、ピリジン、キノリン、ベンゾキノリン、カルバゾール、フェノチアジン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン等より2個の水素原子を取り除いたアリーレン基。)を示す。u、v及びwは0〜10の整数を示す。特に、0〜5の整数の時が好ましい。但し、u、v及びwは同時に0であることはない。
【0053】
なお、上述の一般式(3)、(5)、(7)、(9)及び(10)中のR 4 、R 5 、R 8 、R 9 、R 18 、Ar 3 、Ar 4 、Ar 6 及びR 18 がそれぞれ有してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基が挙げられ、Ar 8 〜Ar10、X1〜X 5 及びQがそれぞれ有してもよい置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子又はニトロ基又はシアノ基又は水酸基又はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基又はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基又はフェノキシ基、ナフトキシ基等のアリールオキシ基又はベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基、フルフリル基、チエニル基等のアラルキル基又はフェニル基、ナフチル基、アンスリル基、ピレニル基等のアリール基又はジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジ(p−トリル)アミノ基等の置換アミノ基、スチリル基、ナフチルビニル基等のアリールビニル基等が挙げられる。
【0054】
また、本発明における同一分子内に2つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物は、酸化電位が1.2(V)以下であることが好ましい。つまり前記一般式(1)で示される連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物及び正孔輸送性基Aの水素付加物は、酸化電位が1.2(V)以下であることが好ましく、0.4〜1.2(V)であることがより好ましい。それは、酸化電位が1.2(V)を超えると電荷発生材料よりの電荷(正孔)の注入が起こりにくく残留電位の上昇、感度悪化及び繰り返し使用時の電位変動が大きくなる等の問題が生じ、また0.4(V)未満では帯電能の低下等の問題の他に、化合物自体が容易に酸化されるために劣化しやすく、それに起因した感度悪化、画像ボケ及び繰り返し使用時の電位変動が大きくなる等の問題が生じるためである。
【0055】
なお、ここで述べている酸化電位は、以下の方法によって測定される。
【0056】
(酸化電位の測定法)
飽和カロメル電極を参照電極とし、電解液に0.1N(n−Bu)4N+ClO4 −アセトニトリル溶液を用い、ポテンシャルスイーパによって作用電極(白金)に印加する電位をスイープし、得られた電流−電位曲線がピークを示した時の電位を酸化電位とした。詳しくは、サンプルを0.1N(n−Bu)4N+ClO4 −アセトニトリル溶液に5〜10mmol%程度の濃度になる様に溶解する。そしてこのサンプル溶液に作用電極によって電圧を加え、電圧を低電位(0V)から高電位(+1.5V)に直線的に変化させた時の電流変化を測定し、電流−電位曲線を得る。この電流−電位曲線において電流値がピーク(ピークが複数ある場合には最初のピーク)を示した時の電位を酸化電位とした。
【0057】
また更に、上記連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物は正孔輸送能として1×10−7(cm2/V.sec)以上のドリフト移動度を有しているものが好ましい(但し、印加電界:5×104V/cm)。1×10−7(cm2/V.sec)未満では、電子写真感光体として露光後現像までに正孔が十分に移動できないため見かけ上感度が低減し、残留電位も高くなってしまう問題が発生する場合がある。
【0058】
以下に本発明に係わる、連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物の代表例を挙げるがこれらに限定されるものではない。
【0059】
【化18】
【0060】
【化19】
【0061】
【化20】
【0062】
【化21】
【0063】
【化22】
【0064】
本発明において、連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物の代表的な合成方法を以下に示す。
【0065】
(合成例1:化合物No.152の合成)
以下のルートに従い合成した。
【0066】
【化23】
【0067】
1(70g:0.35mol)、2(98g:0.42mol)、無水炭酸カリウム(73g)及び銅粉(111g)を1,2−ジクロロベンゼン600gと共に180〜190℃で加熱攪拌を10時間行った。反応液を濾過後、減圧下で溶媒を除去し、残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い3を86.2g得た。
【0068】
3(80g:0.26mol)をN,N−ジメチルフォルムアミド(DMF)300gに加え室温で攪拌しながらエタンチオールナトリウム塩(約90%:62g)をゆっくり添加した。添加終了後そのまま室温で1時間攪拌後、更に還流下で3時間加熱攪拌を行った。冷却後反応液を水にあけ希塩酸で弱酸性にし、酢酸エチルで抽出し、有機層を更に1.2Nの水酸化ナトリウム水溶液で抽出し、水層を希塩酸で酸性にして酢酸エチルで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後減圧下で溶媒を除去した。残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い4を64g得た。
【0069】
4を(60g:0.21mol)をN,N−ジメチルフォルムアミド300gに加え室温で攪拌しながら苛性ソーダ(8.3g)をゆっくり添加した。添加終了後そのまま室温で30分間攪拌後、1,2−ジヨードエタン(31.7g:0.1mol)をゆっくり滴下した。滴下終了後に30分間攪拌後、更に70℃で5時間加熱攪拌を行った。反応液を水にあけトルエンで抽出を行い、有機層を更に水洗後無水硫酸ナトリウムで乾燥し減圧下で溶媒を除去した。残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い5を49.1g得た。
【0070】
DMF182gを0〜5℃に冷却後、オキシ塩化リン63.6gを10℃を超えない様にゆっくり滴下した。滴下終了後15分間そのまま攪拌後、5(42.2g:0.07mol)/DMF102g溶液をゆっくり滴下した。滴下終了後そのまま30分間攪拌後室温に戻し2時間攪拌し、更に80〜85℃に加熱し15時間攪拌を行った。反応液を約15%の酢酸ナトリウム水溶液1.5kgにあけ12時間攪拌を行った。それを中和後、トルエンを用い抽出し有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後溶媒を除去し、残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い6を23g得た。
【0071】
乾燥THF100mlに水素化リチウムアルミニウム0.89gを加え室温で攪拌しているところへ6(15g:0.023mol)/乾燥THF100ml溶液をゆっくり滴下した。滴下終了後に室温で4時間攪拌後、5%塩酸水溶液200mlをゆっくり滴下した。滴下終了後トルエンで抽出し有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後溶媒を除去し、残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い7を13.6g得た。
【0072】
7(10g:0.015mol)及びトリエチルアミン(6.1g:0.06mol)を、乾燥THF120mlに加え0〜5℃に冷却後、塩化アクリロイル(4.1g:0.045mol)をゆっくり滴下した。滴下終了後ゆっくり室温に戻し、室温でそのまま6時間攪拌を行った。反応液を水にあけ中和後、酢酸エチルで抽出し有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後溶媒を除去した。残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い8(化合物No.152)を6.4g得た(酸化電位:0.78V)。
【0073】
(合成例2:化合物No.320の合成)
以下のルートに従い合成した。
【0074】
【化24】
【0075】
1(50g:0.173mol)、2(8.0g:86mmol)、無水炭酸カリウム(47.8g)及び銅粉(55g)を1,2−ジクロロベンゼン200gと共に180〜190℃で加熱攪拌を13時間行った。反応液を濾過後、減圧下で溶媒を除去し、残留物をアセトン/メタノール混合溶媒で2回再結晶を行い3を51g得た。
【0076】
DMF35gを0〜5℃に冷却後、オキシ塩化リン(18.4g:0.12mol)を10℃を超えない様にゆっくり滴下した。滴下終了後15分そのまま攪拌後、3(50.0g:0.12mol)/DMF50g溶液をゆっくり滴下した。滴下終了後そのまま30分攪拌後室温に戻し、1時間攪拌し更に80〜85℃に加熱し5時間攪拌を行った。反応液を約15%の酢酸ナトリウム水溶液800gにあけ12時間攪拌を行った。それを中和後、トルエンを用い抽出し有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後溶媒を除去し、残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い4を37.8g得た。
【0077】
4(30g:67mmol)及び1,1−ジフェニルメチルジエチルフォスフェート(20.5g:67mmol)を乾燥THF200mlに溶解し、そこに室温で油性水素化ナトリウム(約60%:2.97g:約74mmol)をゆっくり添加した。添加終了後に室温で30分間攪拌後、3時間加熱攪拌を行った。反応液を冷却後、水にあけトルエンで抽出し有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後溶媒を除去した。残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い5を21.1g得た。
【0078】
5(20g:33.6mmol)をメチルセルソルブ200gに加え室温で攪拌しながらナトリウムメチラート(7.0g)をゆっくり添加した。添加終了後そのまま室温で1時間攪拌後、更に70〜80℃で12時間加熱攪拌を行った。反応液を水にあけ希塩酸で中和後、酢酸エチルで抽出し有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後減圧下で溶媒を除去した。残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い6を15.1g得た。
【0079】
6(15g:29.3mmol)及びトリエチルアミン(8.88g:87.9mmol)を、乾燥THF100mlに加え0〜5℃に冷却後、塩化アクリロイル(8.0g:88.4mmol)をゆっくり滴下した。滴下終了後ゆっくり室温に戻し、室温でそのまま6時間攪拌を行った。反応液を水にあけ中和後、酢酸エチルで抽出し有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後溶媒を除去した。残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い7(化合物No.320)を9.8g得た(酸化電位:0.76V)。
【0080】
(合成例3:化合物No.410の合成)
以下のルートに従い合成した。
【0081】
【化25】
【0082】
1(50g:0.173mol)、2(7.5g:81mmol)、無水炭酸カリウム(47.8g)及び銅粉(55g)を1,2−ジクロロベンゼン200gと共に180〜190℃で加熱攪拌を10時間行った。反応液を濾過後、減圧下で溶媒を除去し、残留物をシリカゲルカラムを用い精製を行い3を58g得た。
【0083】
DMF35gを0〜5℃に冷却後、オキシ塩化リン(18.4g:0.12mol)を10℃を超えない様にゆっくり滴下した。滴下終了後15分そのまま攪拌後、3(50.0g:0.12mol)/DMF50g溶液をゆっくり滴下した。滴下終了後そのまま30分攪拌後に室温に戻し、1時間攪拌し更に80〜85℃に加熱し5時間攪拌を行った。反応液を約15%の酢酸ナトリウム水溶液800gにあけ12時間攪拌を行った。それを中和後、トルエンを用い抽出し有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後溶媒を除去し、残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い4を37.8g得た。
【0084】
4(25g:56mmol)をエタノール200mlに加え、そこへ1,1−ジフェニルヒドラジン塩酸塩(35g:159mmol)を添加した。添加終了後そのまま室温で1時間攪拌後、50℃で更に2時間加熱攪拌を行った。反応液を冷却後、水にあけトルエンで抽出し有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後に溶媒を除去した。残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い5を24.5g得た。
【0085】
5(20g:33mmol)をメチルセルソルブ200gに加え室温で攪拌しながらナトリウムメチラート(12.0g)をゆっくり添加した。添加終了後そのまま室温で1時間攪拌後、更に40〜50℃で8時間加熱攪拌を行った。反応液を水にあけ希塩酸で中和後、酢酸エチルで抽出し有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後減圧下で溶媒を除去した。残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い6を7.1g得た。
【0086】
6(7.0g:11mmol)及びトリエチルアミン(3.5g:35mmol)を、乾燥THF100mlに加え0〜5℃に冷却後、塩化アクリロイル(2.5g:28mmol)をゆっくり滴下した。滴下終了後ゆっくり室温に戻し室温でそのまま4時間攪拌を行った。反応液を水にあけ中和後、酢酸エチルで抽出し有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後溶媒を除去した。残留物をシリカゲルカラムを用いカラム精製を行い7(化合物No.410)を2.8g得た(酸化電位:0.69V)。
【0087】
本発明においては、前記同一分子内に2つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合・架橋させることで、その感光層中において、正孔輸送能を有する化合物は2つ以上の架橋点をもって3次元架橋構造の中に共有結合を介して取り込まれる。前記正孔輸送性化合物は、それのみを重合・架橋させる、あるいは他の連鎖重合性官能基を有する化合物と混合させることのいずれもが可能であり、その種類/比率は全て任意である。ここでいう他の連鎖重合性官能基を有する化合物とは、連鎖重合性官能基を有する単量体あるいはオリゴマー/ポリマーのいずれもが含まれる。
【0088】
正孔輸送性化合物の官能基とその他の連鎖重合性化合物の官能基が同一の基あるいは互いに重合可能な基である場合には、両者は共有結合を介した共重合3次元架橋構造をとることが可能である。両者の官能基が互いに重合しない官能基である場合には、感光層は2つ以上の3次元硬化物の混合物あるいは主成分の3次元硬化物中に他の連鎖重合性化合物単量体あるいはその硬化物を含んだものとして構成されるが、その配合比率/製膜方法をうまくコントロールすることで、IPN(Inter Penetrating Network)すなわち相互進入網目構造を形成することも可能である。
【0089】
また、前記正孔輸送性化合物と連鎖重合性官能基を有しない単量体あるいはオリゴマー/ポリマーや連鎖重合性以外の重合性基を有する単量体あるいはオリゴマー/ポリマー等から感光層を形成してもよい。
【0090】
更に、場合によっては3次元架橋構造に化学結合的に組み込まれないすなわち連鎖重合性官能基を有しない正孔輸送性化合物を含有することも可能である。また、その他の各種添加剤、フッ素原子含有樹脂微粒子等の潤剤その他を含有してもよい。
【0091】
本発明の感光体の構成は、導電性支持体上に感光層として電荷発生材料を含有する電荷発生層及び電荷輸送材料を含有する電荷輸送層をこの順に積層した構成あるいは逆に積層した構成、また電荷発生材料と電荷輸送材料を同一層中に分散した単層からなる構成のいずれの構成をとることも可能である。前者の積層型においては電荷輸送層が二層以上の構成、また後者の単層型においては電荷発生材料と電荷輸送材料を同一に含有する感光層上に更に電荷輸送層を構成してもよく、更には電荷発生層あるいは電荷輸送層上に保護層の形成も可能である。
【0092】
これらいずれの場合においても、先の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物、前正孔輸送性化合物を重合又は架橋し硬化したものの一方又は両方を感光層が含有していればよい。但し、電子写真感光体としての特性、特に残留電位等の電気的特性及び耐久性の点より、電荷発生層/電荷輸送層をこの順に積層した機能分離型の感光体構成が好ましく、本発明の利点も電荷発生/注入効率及び電荷輸送能を低下させることなく表面層の高耐久化が可能になった点にある。
【0093】
次に、本発明による電子写真感光体の製造方法を具体的に示す。
【0094】
電子写真感光体の支持体としては、導電性を有するものであればよく、例えば、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、亜鉛及びステンレス等の金属や合金をドラム又はシート状に成形したもの、アルミニウム及び銅等の金属箔をプラスチックフィルムにラミネートしたもの、アルミニウム、酸化インジウム及び酸化錫等をプラスチックフィルムに蒸着したもの、導電性材料を単独又はバインダー樹脂と共に塗布して導電層を設けた金属、またプラスチックフィルム及び紙等が挙げられる。
【0095】
本発明においては、導電性支持体の上にバリアー機能と接着機能をもつ下引き層を設けることができる。下引き層は感光層の接着性改良、塗工性改良、支持体の保護、支持体上の欠陥の被覆、支持体からの電荷注入性改良、また感光層の電気的破壊に対する保護等のために形成される。
【0096】
下引き層の材料としては、ポリビニルアルコール、ポリ−N−ビニルイミダゾール、ポリエチレンオキシド、エチルセルロース、エチレン−アクリル酸共重合体、カゼイン、ポリアミド、N−メトキシメチル化6ナイロン、共重合ナイロン、にかわ及びゼラチン等が知られている。これらはそれぞれに適した溶剤に溶解されて支持体上に塗布される。その際の膜厚としては0.1〜2μmが好ましい。
【0097】
本発明の感光体が機能分離型の感光体である場合には、電荷発生層及び電荷輸送層を積層する。電荷発生層は、無金属あるいは金属フタロシアニン化合物を含有するが、必要に応じてそれらの電荷発生材料と適当なバインダー樹脂によって構成される。ここで中心金属は、金属元素単体あるいは酸化物、塩素やフッ素その他のハロゲン化物、水酸化物等の金属化合物のいずれもの形をとることができる。更に、2量体以上の多量体構造、置換基を有するものでも構わない。
【0098】
これらの中でも、特に無金属フタロシアニン及び金属フタロシアニンの中ではオキシチタニウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニンは、特に良好な感光体特性を示す点から好ましい。更に、これらのフタロシアニンは、α、β、γ、ε及びX型等の結晶型を有しており、その選択は任意である。また、種々のフタロシニン化合物を2種類以上で混合して用いることも可能である。更に、他の電荷発生材料として、セレンやシリコン等の無機系材料や、アントアントロン顔料、ジベンズピレンキノン顔料、ピラントロン顔料、トリスアゾ顔料、ジスアゾ顔料、モノアゾ顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、非対称キノシアニン顔料、キノシアニン等の有機系材料等を混合することも可能である。
【0099】
機能分離型感光体の場合、電荷発生層は前記電荷発生材料を0.3〜4倍量のバインダー樹脂及び溶剤と共にホモジナイザー、超音波分散、ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、アトライター及びロールミル等の方法でよく分散し、分散液を塗布し、乾燥されて形成されるか、又は前記電荷発生材料の蒸着膜等、単独組成の膜として形成される。その膜厚は5μm以下であることが好ましく、特に0.1〜2μmの範囲であることが好ましい。
【0100】
バインダー樹脂を用いる場合、例えば、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリウレタン、セルロース樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0101】
本発明における前記連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物は、前述した電荷発生層上に電荷輸送層として、もしくは電荷発生層上に電荷輸送材料とバインダー樹脂からなる電荷輸送層を形成した後に、正孔輸送能力を有する表面保護層として用いることができる。いずれの場合も前記表面層の形成方法は、前記正孔輸送性化合物を含有する溶液を塗布後、重合・架橋反応をさせるのが一般的であるが、前もって正孔輸送性化合物を含む溶液を反応させて硬化物を得た後に、再度溶剤中に分散あるいは溶解させたもの等を用いて表面層を形成することも可能である。
【0102】
これらの溶液を塗布する方法は、例えば、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、カーテンコーティング法及びスピンコーティング法等が知られているが、効率性や生産性の点からは浸漬コーティング法が好ましい。また、蒸着、プラズマ、その他の公知の製膜方法が適宜選択できる。
【0103】
本発明において、連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物は、電子線により重合・架橋させることが好ましい。電子線による重合の最大の利点は、重合開始剤を必要としない点であり、これにより非常に高純度な三次元感光層マトリックスの作製が可能となり、良好な電子写真特性が確保される点である。また、短時間でかつ効率的な重合反応であるがゆえに生産性も高く、更には電子線の透過性の良さから、厚膜時や添加剤等の遮蔽材料が膜中に存在する際の硬化阻害の影響が非常に小さいこと等が挙げられる。但し、連鎖重合性官能基の種類や中心骨格の種類によっては重合反応が進行しにくい場合があり、その際には影響のない範囲内での重合開始剤の添加は可能である。
【0104】
電子線照射をする場合の加速器としては、スキャニング型、エレクトロカーテン型、ブロードビーム型、パルス型及びラミナー型等いずれの形式も使用することができる。電子線を照射する場合に、本発明の感光体においては電気特性及び耐久性能を発現させる上で照射条件が非常に重要である。本発明において、加速電圧は300kV以下が好ましく、最適には150kV以下である。また、照射線量は、好ましくは1〜100Mradの範囲、より好ましくは3〜50Mradの範囲である。加速電圧が上記を超えると感光体特性に対する電子線照射のダメージが増加する傾向にある。また、照射線量が上記範囲よりも少ない場合には架橋が不十分となりやすく、線量が多い場合には感光体特性の劣化が起こりやすいので注意が必要である。
【0105】
前記連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を電荷輸送層として用いた場合の前記正孔輸送性化合物の量は、電荷発生材料であるフタロシアニンの種類や結晶型、膜厚その他の条件により様々であるが、概して重合硬化後の電荷輸送層膜の全重量に対して、前記一般式(1)で示される連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性基Aの水素付加物が分子量換算で20%以上、好ましくは40%以上含有されていることが望ましい。それ以下であると電荷発生/注入効率や電荷輸送能が低下し、感度低下及び残留電位の上昇等の問題点が生ずる。この場合の電荷輸送層としての膜厚は1〜50μmであることが好ましく、特には3〜30μmであることが好ましい。
【0106】
前記正孔輸送性化合物を電荷発生層/電荷輸送層上に表面保護層として用いた場合、その下層に当たる電荷輸送層は適当な電荷輸送材料、例えばポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリスチリルアントラセン等の複素環や縮合多環芳香族を有する高分子化合物や、ピラゾリン、イミダゾール、オキサゾール、トリアゾール、カルバゾール等の複素環化合物、トリフェニルメタン等のトリアリールアルカン誘導体、トリフェニルアミン等のトリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、N−フェニルカルバゾール誘導体、スチルベン誘導体、ヒドラゾン誘導体等の低分子化合物等を適当なバインダー樹脂(前述の電荷発生層用樹脂の中から選択できる。)と共に溶剤に分散/溶解した溶液を前述の公知の方法によって塗布、乾燥して形成することができる。
【0107】
この場合の電荷輸送材料とバインダー樹脂の比率は、両者の全重量を100とした場合に電荷輸送材料の重量が30〜100が望ましく、好ましくは50〜100の範囲で適宜選択される。電荷輸送材料の量がそれ以下であると、電荷発生/注入効率や電荷輸送能が低下し、感度低下及び残留電位の上昇等の問題点が生ずる。電荷輸送層の膜厚は、上層の表面保護層と合わせた総膜厚が1〜50μmとなる様に決定され、好ましくは5〜30μmの範囲で調整される。
【0108】
本発明においては上述のいずれの場合においても、前記連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物の硬化物を含有する感光層に、前記電荷輸送材料を含有することが可能である。単層型感光層の場合は、前記正孔輸送性化合物を含む溶液中に同時に電荷発生材料が含まれることになり、この溶液を適当な下引き層あるいは中間層を設けてもよい、導電性支持体上に塗布後に重合・架橋させて形成される場合と、導電性支持体上に設けられた電荷発生材料及び電荷輸送材料から構成される単層型感光層上に前記正孔輸送性化合物を含有する溶液を塗布後、重合・架橋させる場合のいずれもが可能である。
【0109】
本発明における感光層には、各種添加剤を添加することができる。添加剤とは酸化防止剤及び紫外線吸収剤等の劣化防止剤や、フッ素原子含有樹脂微粒子等の潤剤その他である。
【0110】
図1に本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成を示す。
【0111】
図において、1はドラム状の本発明の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。感光体1は、回転過程において、一次帯電手段3によりその周面に正又は負の所定電位の均一帯電を受け、次いでスリット露光やレーザービーム走査露光等の像露光手段(不図示)からの画像露光光4を受ける。こうして感光体1の周面に静電潜像が順次形成されていく。
【0112】
形成された静電潜像は、次いで現像手段5によりトナー現像され、この現像により形成されたトナー像は、不図示の給紙部から感光体1と転写手段6との間に感光体1の回転と同期して取り出されて給紙された転写材7に、転写手段6により順次転写されていく。
【0113】
像転写を受けた転写材7は、感光体面から分離されて像定着手段8へ導入されて像定着を受けることにより複写物(コピー)として装置外へプリントアウトされる。
【0114】
像転写後の感光体1の表面は、クリーニング手段9によって転写残りトナーの除去を受けて清浄面化され、更に前露光手段(不図示)からの前露光光10により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、一次帯電手段3が帯電ローラー等のを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
【0115】
本発明においては、上述の電子写真感光体1、一次帯電手段3、現像手段5及びクリーニング手段9等の構成要素のうち、複数のものをプロセスカートリッジとして一体に結合して構成し、このプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンター等の電子写真装置本体に対して着脱可能に構成してもよい。例えば、一次帯電手段3、現像手段5及びクリーニング手段9の少なくとも1つを感光体1と共に一体に支持してカートリッジ化して、装置本体のレール12等の案内手段を用いて装置本体に着脱可能なプロセスカートリッジ11とすることができる。
【0116】
また、画像露光光4は、電子写真装置が複写機やプリンターである場合には、原稿からの反射光や透過光、あるいはセンサーで原稿を読みとり、信号化し、この信号に従って行われるレーザービームの走査、LEDアレイの駆動及び液晶シャッターアレイの駆動等により照射される光である。
【0117】
本発明の電子写真感光体は、電子写真複写機に利用するのみならず、レーザービームプリンター、CRTプリンター、LEDプリンター、液晶プリンター及びレーザー製版等の電子写真応用分野にも広く用いることができる。
【0118】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、「部」は重量部を示す。
【0119】
(実施例1)
まず、導電層用の塗料を以下の手順で調製した。10%の酸化アンチモンを含有する酸化スズで被覆した導電性酸化チタン粉体50部、フェノール樹脂25部、メチルセロソルブ20部、メタノール5部及びシリコーンオイル(ポリジメチルシロキサンポリオキシアルキレン共重合体、平均分子量3000)0.002部を1mmφガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散して調製した。この塗料を30mmφのアルミニウムシリンダー上に浸漬塗布方法で塗布し、140℃で30分間乾燥して、膜厚が20μmの導電層を形成した。
【0120】
次に、N−メトキシメチル化ナイロン5部をメタノール95部中に溶解し、中間層用塗料を調製した。この塗料を前記の導電層上に浸漬コーティング法によって塗布し、100℃で20分間乾燥して、膜厚が0.6μmの中間層を形成した。
【0121】
次に、CuKα特性X線回折のブラッグ角(2θ±0.2°)の9.0°、14.2°、23.9°及び27.1°に強いピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを3部、ポリビニルブチラール樹脂2部及びシクロヘキサノン35部を1mmφガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散して、その後に酢酸エチル60部を加えて電荷発生層用塗料とした。この塗料を前記の中間層の上に浸漬コーティング法で塗布して、90℃で10分間乾燥して、膜厚が0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0122】
次いで、化合物例No.152の正孔輸送性化合物60部をモノクロロベンゼン30部/ジクロロメタン30部の混合溶媒中に溶解し、電荷輸送層用塗料を調製した。この塗料を前記の電荷発生層上にコーティングし、加速電圧150kV、照射線量20Mradの条件で電子線を照射し樹脂を硬化させ、膜厚が15μmの電荷輸送層を形成し、電子写真感光体を得た。
【0123】
作製した電子写真感光体について、この感光体をキヤノン(株)製LBP−SXに装着して電子写真特性及び耐久性を評価した。初期の感光体特性[暗部電位Vd、光減衰感度(暗部電位−700V設定で−150Vに光減衰させるために必要な光量)及び残留電位Vsl(光減衰感度の光量の3倍の光量を照射した時の電位)]を測定し、更に10000枚の通紙耐久試験を行い、目視による画像欠陥の発生の有無の観察、感光体の削れ量及び耐久後の前記感光体特性を測定し、各々の変化値△Vd、△Vl(初期にVlが−150Vとなる光量と同量の光量を耐久後に照射した時のVlの変化量)及び△Vslを求めた。
【0124】
結果を表3に示すが、本発明の感光体では初期の感光体特性が非常に良好であり、耐久での削れ量が少なく、かつ耐久においても感光体特性にはほとんど変化が見られないという様に、非常に安定した良好な特性を示している。
【0125】
(実施例2〜3)
実施例1において正孔輸送性化合物No.6を表4の様に代えた以外は、実施例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した。その結果を表3に示す。
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
(比較例1)
実施例1において電荷発生層を形成した後、下記構造式(22)で示されるスチリル化合物15部及び下記構造式(24)で示される繰り返し単位を有するポリメチルメタクリレート樹脂15部をモノクロロベンゼン50部/ジクロロメタン20部の混合溶媒中に溶解して調製した電荷輸送層用塗料を用いて、前記電荷発生層上に電荷輸送層を形成した。この時の電荷輸送層の膜厚は15μmであった。この電子写真感光体を実施例1と同様に評価した結果、初期の電子写真特性は良好であったが、耐久での表面層の削れ量が多く、かぶり、傷等の画像欠陥が発生している。更に、8000枚以降は削れによって電荷輸送層の膜厚が薄くなり、帯電不良が発生し、画像形成が不可能となった。その結果を表6に示す。
【0129】
【化26】
【0130】
【化27】
【0131】
(比較例2)
比較例1において構造式(24)で示されるポリメチルメタクリレート樹脂の代わりに構造式(23)で示されるポリカーボネート樹脂を用いた以外は、比較例1と同様に電子写真感光体を作製し、評価した結果、ポリメチルメタクリレート樹脂の場合に比べて耐久性は若干向上したものの十分ではなく、やはり耐久後の画像欠陥は発生した。その結果を表6に示す。
【0132】
(比較例3)
比較例2において構造式(22)で示されるスチリル化合物10部、構造式(23)で示されるポリカーボネート樹脂15部とした以外は、比較例2と同様に電子写真感光体を作製し、評価した結果、比較例2に比べて耐久性は向上したものの、電荷輸送材料間の距離が広がったことによって電荷輸送能が低下し、感度低下及び残留電位の上昇が見られた。その結果画像においてはゴーストの発生が見られた。その結果を表6に示す。
【0133】
(比較例4)
比較例2において構造式(22)で示されるスチリル化合物15部、構造式(23)で示されるポリカーボネート樹脂10部とした以外は、比較例2と同様に電子写真感光体を作製し、評価した結果、比較例2に比べて感度上昇及び残留電位が低下し、良好な感光体特性が得られたが、電荷輸送材料の可塑的効果により膜強度が大幅に低下し、耐久性が大幅にダウンした。その結果を表6に示す。
【0134】
(比較例5)
実施例1における正孔輸送性化合物No.6の代わりに、特開平5−216249号公報に開示されている下記構造式(25)で示される化合物を用いた以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。結果初期の電子写真特性は良好であったが、実施例1に対して耐久性が大幅に低下した。その結果を表6に示す。
【0135】
【化28】
【0136】
(比較例6)
実施例1において電荷発生層を形成した後、特開平8−248649号公報のP10〜11に記載されている製造法に従って合成した下記構造式(26)で示されるポリカーボネート樹脂20部をテトラヒドロフラン80部に溶解して調製した電荷輸送層用塗料を用いて、前記電荷発生層上に電荷輸送層を形成した。この時の電荷輸送層の膜厚は15μmであった。この電子写真感光体を実施例1と同様に評価した結果、比較例1及び比較例2に対して機械的強度は向上したものの十分な耐久性が確保できなかった。その結果を表6に示す。
【0137】
【化29】
【0138】
【表5】
【0139】
【発明の効果】
本発明の電子写真感光体は、耐磨耗性及び耐傷性に優れた効果を有する。更に、感度、残留電位等の電子写真特性も非常に良好であり、また繰り返し使用時にも安定した性能を発揮することができる。また、電子写真感光体の効果は、電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置においても当然に発揮され、長期間高画質が維持される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の例を示す図である。
Claims (7)
- 導電性支持体及び該導電性支持体上に形成された感光層を有する電子写真感光体において、
該感光層が、電荷発生材料としてフタロシアニン化合物を含有し、
該電子写真感光体の表面層が、同一分子内に2つ以上の連鎖重合性官能基を有する正孔輸送性化合物を重合あるいは架橋させて得られる硬化物を含有し、
該正孔輸送性化合物が、下記一般式(1)で示される化合物:
であり、
上記一般式(1)中のAにおけるP 1 との結合部位を水素原子に置き換えて導き出される化合物が、下記一般式(3)で示される化合物、下記一般式(5)で示される化合物、又は、下記一般式(7)で示される化合物である
ことを特徴とする電子写真感光体:
- 前記フタロシアニン化合物がオキシチタニウムフタロシアニンである請求項1に記載の電子写真感光体。
- 請求項1又は2に記載の電子写真感光体と、該電子写真感光体を帯電する帯電手段、該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像手段、及び、該電子写真感光体の表面の転写残りトナーを除去するクリーニング手段からなる群より選ばれる少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱可能であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
- 請求項1又は2に記載の電子写真感光体、該電子写真感光体を帯電する帯電手段、帯電した該電子写真感光体に対し像露光を行い該電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する像露光手段、該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像手段、及び、該電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を転写材に転写する転写手段を有することを特徴とする電子写真装置。
- 請求項1又は2に記載の電子写真感光体を製造する方法であって、前記正孔輸送性化合物の重合あるいは架橋を電子線を用いて行うことにより前記正孔輸送性化合物を硬化させる工程を有することを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
- 前記電子線の加速電圧が300kV以下である請求項5に記載の電子写真感光体の製造方法。
- 前記電子線の照射線量が1〜100Mradである請求項5又は6に記載の電子写真感光体の製造方法。
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