以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
[I.フタロシアニン結晶]
本発明のフタロシアニン結晶は、フタロシアニン結晶前駆体を、必要に応じて特定の化合物類の存在下、特定の化合物類に接触させることにより、結晶型を変換する工程(以下適宜「結晶型変換工程」という場合がある。)を経て得られるものである。
ここで、結晶型変換工程は、フタロシアニン結晶前駆体を接触させる特定の化合物類(以下適宜「結晶型変換用接触化合物類」という場合がある。)、及び、その際に必要に応じて共存させる特定の化合物類(以下適宜「結晶型変換用共存化合物類」という場合がある。また、結晶型変換用接触化合物類及び結晶型変換用共存化合物類を纏めて適宜「結晶型変換用化合物類」という場合がある。)の種類に応じて、以下の(A)〜(D)に分類される。
(A)フタロシアニン結晶前駆体を、芳香族アルデヒド化合物に接触させることにより、結晶型を変換する。即ち、結晶型変換用接触化合物類として芳香族アルデヒド化合物を使用する(以下、この芳香族アルデヒド化合物を「結晶型変換用化合物類(A)」という場合がある。)。
(B)フタロシアニン結晶前駆体を、有機酸、有機酸無水物及びヘテロ原子を有する有機酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物(以下適宜「特定有機酸化合物」という。)の存在下、酸性を示す官能基を有さない有機化合物(以下適宜「非酸性有機化合物」という。)に接触させることにより、結晶型を変換する。即ち、結晶型変換用共存化合物類として特定有機酸化合物を使用し、結晶型変換用接触化合物類として非酸性有機化合物を使用する(以下、これらの特定有機酸化合物及び非酸性有機化合物を併せて「結晶型変換用化合物類(B)」という場合がある。)。
(C)フタロシアニン結晶前駆体を、1013hPa、25℃の条件下において固体であり、電子吸引性の置換基を有する芳香族化合物(以下適宜「電子吸引性特定芳香族化合物」という。)の存在下、1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない有機化合物(以下適宜「非酸性特定有機化合物」という。)に接触させることにより、結晶型を変換する。即ち、結晶型変換用共存化合物類として電子吸引性特定芳香族化合物を使用し、結晶型変換用接触化合物類として非酸性特定有機化合物を使用する(以下、これらの電子吸引性特定芳香族化合物及び非酸性特定有機化合物を併せて「結晶型変換用化合物類(C)」という場合がある。)。
(D)フタロシアニン結晶前駆体を、酸素原子を含有する基、及び、原子量30以上のハロゲン原子を置換基として有する芳香族化合物(以下適宜「特定置換基含有芳香族化合物」という。)に接触させることにより、結晶型を変換する。即ち、結晶型変換用接触化合物類として特定置換基含有芳香族化合物を使用する(以下、この特定置換基含有芳香族化合物を「結晶型変換用化合物類(D)」という場合がある。)。
結晶型変換工程では、上述の結晶型変換用化合物類(A)〜(D)のうち、何れか一種の結晶型変換用化合物類を単独で用いてもよく、二種以上の結晶型変換用化合物類を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
以下の記載では、特に断り書きの無い限り、結晶型変換用化合物類の種類に拠らず共通の事項については纏めて説明し、結晶型変換用化合物類(A)〜(D)の各々に固有の事項についてのみ個別に説明するものとする。
〔I−1.フタロシアニン結晶の組成〕
本発明において「フタロシアニン結晶」とは、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物を含有する結晶をいう。即ち、一種のフタロシアニン化合物のみで構成される結晶のみならず、複数種のフタロシアニン化合物からなる混晶や、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物と他の分子とからなる混晶をも含めて、本発明では「フタロシアニン結晶」というものとする。
また、本発明において「フタロシアニン化合物」とは、フタロシアニン骨格を有する化合物を言う。その具体例としては、無金属フタロシアニン;銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、鉛フタロシアニン等の、平面分子構造を有するフタロシアニン;オキシチタニウムフタロシアニン、オキシバナジウムフタロシアニン、クロロアルミニウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン等の、分子がシャトルコック構造を有するフタロシアニン;ジクロロ錫フタロシアニン、ジクロロ珪素フタロシアニン、ジヒドロキシ錫フタロシアニン、ジヒドロキシ珪素フタロシアニン等の、分子がこま型構造を有するフタロシアニン;等が挙げられる。
本発明のフタロシアニン結晶が単一種のフタロシアニン化合物から構成される場合、電子写真感光体としての特性の面を考慮すると、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物が望ましい。また、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物の中でも、一般的に電子写真感光体としての特性が良好であることから、フタロシアニン化合物分子の中心金属が、酸化物、塩化物、又は水酸化物の形態を取ることが好ましく、フタロシアニン結晶の製造の容易さからは、中心金属が酸化物の形態を取ることがより好ましい。具体例としては、オキシチタニウムフタロシアニン又はオキシバナジウムフタロシアニンが特に好ましく、オキシチタニウムフタロシアニンが最も好ましい。
一方、本発明のフタロシアニン結晶が複数種の分子からなる混晶である場合としては、上述のように、複数種のフタロシアニン化合物から構成される(即ち、フタロシアニン化合物以外の化合物を含まない)場合と、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物と、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物以外の化合物とから構成される(即ち、フタロシアニン化合物以外の化合物を含む)場合とが挙げられるが、結晶安定性の面から、複数種のフタロシアニン化合物から構成される(即ち、フタロシアニン化合物以外の化合物を含まない)方が好ましい。
本発明のフタロシアニン結晶が混晶の場合、電子写真感光体としての特性の面を考慮すると、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物を主成分として含有することが好ましい。この主成分として含有されるフタロシアニン化合物(以下適宜「主成分のフタロシアニン化合物」という。)は、その分子の中心金属が酸化物、塩化物、又は水酸化物の形態を取ることが好ましく、フタロシアニン結晶の製造の容易さからは、中心金属が酸化物の形態を取ることがより好ましい。具体例としては、オキシチタニウムフタロシアニン又はオキシバナジウムフタロシアニンが特に好ましく、オキシチタニウムフタロシアニンが最も好ましい。主成分のフタロシアニン化合物の含有量は、混晶であるフタロシアニン結晶に対して、通常60重量%以上であるが、含有される量が少ないと結晶型制御性が低下することから、70重量%以上が好ましく、分散時の結晶安定性の点からは、80重量%以上がより好ましく、電子写真感光体として用いた際の特性の面からは、85重量%以上が更に好ましい。
また、本発明のフタロシアニン結晶が混晶の場合、上述の主成分のフタロシアニン化合物以外に含有されるフタロシアニン化合物(以下適宜「主成分以外のフタロシアニン化合物」という。)としては、混晶としての結晶安定性の面から、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物、又は、平面分子構造を有するフタロシアニン化合物が好ましい。中でも、電子写真感光体特性の面から、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物の中では、オキシバナジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニンが好ましく、平面構造を有するフタロシアニン化合物の中では、無金属フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、鉛フタロシアニンが好ましい。これらの中でも、オキシバナジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、無金属フタロシアニンがより好ましく、混晶結晶中での空いた空間がより増えることから、平面分子構造を有する無金属フタロシアニンが特に好ましい。主成分以外のフタロシアニン化合物は、一種類のみを使用してもよく、二種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよいが、一種類のみを用いことが好ましい。主成分以外のフタロシアニン化合物の含有量は、混晶であるフタロシアニン結晶に対して、通常40重量%以下であるが、多過ぎると結晶型制御性が低下することから、30重量%以下が好ましく、分散時の安定性の面からは、20重量%以下が好ましく、電子写真特性の面からは、15重量%以下が好ましい。但し、主成分以外のフタロシアニン化合物の含有量が余りに少な過ぎると、その含有による効果が得られない場合があるため、その含有量は0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。
〔I−2.フタロシアニン結晶前駆体〕
本発明のフタロシアニン結晶は、フタロシアニン結晶前駆体を結晶型変換用化合物類に接触させることにより結晶型を変換する工程を経て得られるものである。ここで「フタロシアニン結晶前駆体」とは、結晶型を変換する処理(以下「結晶型変換処理」という場合がある。)を施すことにより、フタロシアニン結晶が得られる物質をいう。よって、フタロシアニン結晶前駆体は、一種のフタロシアニン化合物、二種以上のフタロシアニン化合物の混合物、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物と一種又は二種以上の他の化合物との混合物の何れであってもよい(以下の記載ではフタロシアニン化合物又はフタロシアニン化合物を含有する混合物を総称して「フタロシアニン類」と呼ぶ場合がある。)。また、その存在状態も特に制限されないが、結晶変換時の結晶型の制御性を考慮すると、フタロシアニン結晶前駆体としては、通常は得られるフタロシアニン結晶と同一の分子構造を有するアモルファス性フタロシアニン類又は低結晶性フタロシアニン類が用いられる。
本発明において「低結晶性フタロシアニン類」とは、粉末X線回折(X-ray diffraction:以下「XRD」と省略する場合がある。)スペクトルにおいて、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)0°〜40°の範囲内に半値幅が0.30°以下のピークを有さないフタロシアニン類をいう。この半値幅が小さ過ぎると、固体中でフタロシアニン分子がある程度一定の規則性や長期的秩序を有している状態になっており、結晶型を変換させる際に結晶型の制御性が低下することから、本発明においてフタロシアニン結晶前駆体として用いる低結晶性フタロシアニン類は、その半値幅が通常0.35°以下、更には0.40°以下、特に0.45°以下のピークを有さないものであることが好ましい。
なお、本明細書において、フタロシアニン類の粉末X線回折スペクトルの測定、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)の決定、並びにピーク半値幅の算出は、以下の条件で行なうものとする。
粉末X線回折スペクトルの測定装置としては、CuKα(CuKα1+CuKα2)線をX線源とした集中光学系の粉末X線回折計(例えばPANalytical社製PW1700)を使用する。
粉末X線回折スペクトルの測定条件は、走査範囲(2θ)3.0〜40.0°、スキャンステップ幅0.05°、走査速度3.0°/min、発散スリット1°、散乱スリット1°、受光スリット0.2mmとする。
ピーク半値幅は、プロファイルフィッティング法により算出することができる。プロファイルフィッティングは、例えばMDI社製粉末X線回折パターン解析ソフトJADE5.0+を用いて行なうことができる。その算出条件は以下の通りである。即ち、バックグランドは、全測定範囲(2θ=3.0〜40.0°)から理想的な位置に固定する。フィッティング関数としては、CuKα2の寄与を考慮したPeason-VII関数を用いる。フィッティング関数の変数としては、回折角(2θ)、ピーク高さ、ピーク半値幅(βo)の3つを精密化する。CuKα2の影響を除去し、CuKα1由来の回折角(2θ)、ピーク高さ、ピーク半値幅(βo)を計算する。非対称は0に、形定数は1.5に固定する。
上記のプロファイルフィッティングより算出したピーク半値幅(βo)を、同測定条件、同プロファイルフィッティング条件により算出した標準Si(NISTSi 640b)の111ピーク(2θ=28.442°)のピーク半値幅(βSi)により、下式に従って補正することにより、試料由来のピーク半値幅(β)が求められる。
なお、低結晶性フタロシアニン類とアモルファス性フタロシアニン類との境界は明確ではないが、本発明では何れも好ましいフタロシアニン結晶前駆体として使用することが可能である。以下の記載では、低結晶性フタロシアニン類とアモルファス性フタロシアニン類とを特に区別せずに呼ぶ場合、「低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類」と総称することにする。
後述のように、本発明のフタロシアニン結晶の結晶型としては、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型(特定結晶型)が好ましいが、27.2°付近にピークを有する低結晶性フタロシアニン類は、上記特定結晶型を有するフタロシアニン結晶とある程度類似した規則性を有しており、上記特定結晶型への結晶型制御性に優れることから、フタロシアニン結晶前駆体として好ましい。この場合における低結晶性フタロシアニンは、その半値幅が通常0.30°以下、好ましくは0.35°以下、より好ましくは0.40°以下、更に好ましくは0.45°以下の範囲のピークを含まないものである。
一方、27.2°付近にピークを有さない低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類をフタロシアニン結晶前駆体として用いる場合には、上記特定結晶型を有するフタロシアニン結晶への結晶型制御性が低いことから、結晶性が低いことが望ましく、この場合における低結晶性フタロシアニンは、その半値幅が通常0.30°以下、好ましくは0.50°以下、より好ましくは0.70°以下、更に好ましくは0.90°以下の範囲のピークを含まないものである。
図2〜5に、低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類の粉末X線回折スペクトルの例を示す。なお、これらのX線回折スペクトルは、本発明を詳細に説明するために例示したものであり、本発明の趣旨の範囲に反しない限り、本発明においてフタロシアニン結晶前駆体として使用可能なフタロシアニン類は、これらのX線回折スペクトルを有する低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類に限定されるものではない。
結晶性を有するフタロシアニン類(フタロシアニン結晶)は、通常は固体中でフタロシアニン分子が一定の規則性や長期的秩序を有している状態であり、粉末X線回折スペクトルを測定すると明確なピークを有する。これに対して、低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類は、固体中で分子配列の規則性や分子配列の長期的秩序が低下した状態にあり、図2〜5として例示した粉末X線回折スペクトルのように、ハロー図形を示すか、或いは、ピークを有してもその半値幅が非常に広いものとなる。
本発明においてフタロシアニン結晶前駆体となる低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類の調製法としては、アシッドペースト法、アシッドスラリー法等の化学的処理法、粉砕、磨砕等の機械的処理法等の公知の調製法を用いることが可能であるが、より均一な低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類が得られることから、化学的処理法が好ましく、中でもアシッドペースト法がより好ましい。
〔I−3.結晶型変換用化合物類〕
<I−3−1.結晶型変換用化合物類(A)>
結晶型変換用化合物類(A)は、芳香族アルデヒド化合物である。芳香族アルデヒド化合物は、結晶型変換用接触化合物類として使用される。
(芳香族アルデヒド化合物)
芳香族アルデヒド化合物は、芳香環に直接結合したアルデヒド基を有する化合物である。
芳香族アルデヒド化合物は、ヒュッケル則を満たす芳香環を1つ以上有する化合物であれば、芳香環の数は特に制限はないが、ヒュッケル則における、4n+2(nは整数)の式において、nの値は通常5以下である。中でも、結晶変換の際の操作性や、フタロシアニン結晶の電子写真感光体特性を考慮すると、nの値は好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1である。
芳香環の種類には、炭素原子と水素原子とからなる芳香族炭化水素環と、炭素原子と水素原子以外に、窒素原子、硫黄原子、酸素原子等のヘテロ原子が芳香環構造に組み込まれた芳香族複素環とがある。
芳香環の具体例としては、n=3の場合、アントラセン、フェナンスレン、アクリジン、フェナンスリジン、フェナントロリン、フェナジン等、n=2の場合、ナフタレン、アズレン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、ナフチリジン等、n=1の場合、ベンゼン、ピリジン、ピラジン、ピロール、チオフェン、フラン、チアゾール、オキサゾール、イミダゾール等の公知の芳香族炭化水素環構造及び芳香族複素環構造が挙げられる。前記芳香族炭化水素環構造及び芳香族複素環構造は、芳香環部分以外に、更に芳香族性を有さない縮合環を有していてもよい。
芳香族アルデヒド化合物が有する分子当たりのアルデヒド基の数は特に制限されないが、通常1以上、また、通常4以下、好ましくは2以下である。
芳香族アルデヒド化合物がアルデヒド基以外に有していてもよい置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等のアルコキシ基;ベンジルオキシ基等のアラルキルオキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基等のチオアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ニトロ基;シアノ基;カルボキシ基;スルホ基;スルフィノ基;スルフェノ基;ヒドロキシ基;メルカプト基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;アセチル基等のケトン基;カルボキサミド基等のアミド基;アミノ基、モノメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等の置換、もしくは非置換のアミノ基;メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基等のエステル基;トリフルオロメチル基等のハロゲン化アルキル基などの公知の置換基が可能である。
前記した置換基の例の中で、アルキル基、アルコキシ基、置換アミノ基、エステル基、ケトン基等の置換基内に炭素鎖を有する置換基は、その炭素鎖部分が直鎖状、分岐状、環状の何れの構造を有していてもよいが、これら置換基の炭素鎖部分の構造が大き過ぎると結晶の安定性に悪影響を与えることから、直鎖状、分岐状構造が好ましい。また、これら置換基内の炭素鎖部分の炭素数は、通常20以下である。炭素鎖部分の炭素数が多過ぎると芳香族アルデヒド化合物の効果が減少することから、この炭素数は好ましくは15以下、より好ましくは10以下である。
前記置換基の中でも、結晶型の制御性や電荷発生能力の点から、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ケトン基、エステル基、カルボキシ基、ニトロ基等が好ましく、ハロゲン原子、ケトン基、アルコキシ基がより好ましい。
芳香族アルデヒド化合物がアルデヒド基以外に有する置換基の数は特に制限されないが、結晶変換時の操作性やフタロシアニン結晶の電子写真感光体特性を考慮すると、好ましくは5以下、より好ましくは3以下であり、更に好ましくは1以下である。なお、アルデヒド基以外の置換基が互いに結合して環構造を形成していてもよい。
芳香族アルデヒド化合物の例としては、芳香族炭化水素環を有するものと、芳香族複素環を有するものが挙げられる。
芳香族炭化水素環を有する芳香族アルデヒド化合物の具体例としては、ベンズアルデヒド類(例えば、フルオロベンズアルデヒド、クロロベンズアルデヒド、メトキシベンズアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、フェニルベンズアルデヒド、1,2,3,4−テトラヒドロナフトアルデヒド等)、ナフトアルデヒド類(1−ナフトアルデヒド、2−ナフトアルデヒド等)、アンスアルデヒド類(9−アンスアルデヒド等)が挙げられる。
芳香族複素環を有する芳香族アルデヒド化合物の具体例としては、ピリジンカルボアルデヒド類(2−ピリジンカルボアルデヒド等)、キノリンカルボアルデヒド類(2−キノリンカルボアルデヒド等)、チオフェンアルデヒド類(2−チオフェンアルデヒド等)、ピロールカルボアルデヒド類(ピロール−2−カルボアルデヒド等)が挙げられる。
上述の芳香族アルデヒド化合物の中でも、結晶変換能力の点から、芳香族炭化水素環にアルデヒド基が直接結合した芳香族アルデヒド化合物が好ましく、中でも、電子写真感光体に用いた際の環境変動による安定性の面から、ベンズアルデヒド類がより好ましい。
結晶型変換用化合物類(A)としては、上述の芳香族アルデヒド化合物のうち、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
芳香族アルデヒド化合物の使用量は、接触処理に用いる手法等によっても異なり、一概には規定できないが、一般的には、フタロシアニン結晶前駆体に対する重量割合で、通常50重量%以上、好ましくは100重量%以上、また、通常2000重量%以下、好ましくは1000重量%以下の範囲である。なお、二種以上の芳香族アルデヒド化合物を併用する場合には、これらの合計割合が上記範囲を満たすようにする。
また、一種又は二種以上の芳香族アルデヒド化合物を、一種又は二種以上の他の化合物と混合して、フタロシアニン結晶前駆体に接触させてもよい。この場合、芳香族アルデヒド化合物と併用する他の化合物は、使用するフタロシアニン結晶前駆体や得られるフタロシアニン結晶に好ましからぬ影響を与えるものでない限り、その種類は特に制限されない。但し、芳香族アルデヒド化合物以外の他の化合物を併用する場合でも、芳香族アルデヒド化合物と他の化合物との総量に対する芳香族アルデヒド化合物の割合を、通常50重量%以上、中でも75重量%以上とすることが好ましい。
<I−3−2.結晶型変換用化合物類(B)>
結晶型変換用化合物類(B)は、有機酸、有機酸無水物及びヘテロ原子を有する有機酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物(特定有機酸化合物)と、酸性官能基を有さない有機化合物(非酸性有機化合物)とからなる。特定有機酸化合物は結晶型変換用共存化合物類として使用され、非酸性有機化合物は結晶型変換用接触化合物類として使用される。
(特定有機酸化合物)
特定有機酸化合物は、有機酸、有機酸無水物及びヘテロ原子を有する有機酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物である。
・有機酸:
有機酸とは、酸性を示す化合物類の総称であり、具体的には、カルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸、スルフェン酸、フェノール、エノール、チオール、ホスホン酸、リン酸、ボロン酸、イミド酸、ヒドラゾン酸、ヒドロキシム酸、ヒドロキシサム酸等の、酸性を示す官能基(これを以下適宜「酸性官能基」と略称する。)を有する化合物類である。
特定有機酸化合物として使用される有機酸は、上述した各種の酸性官能基を有する化合物類であれば、その種類は特に制限されないが、試薬の汎用性・安定性の面から、通常は炭素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、ホウ素原子から構成される酸性官能基を有する有機酸が用いられる。このような有機酸の例としては、カルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸、フェノール、チオール、ホスホン酸、リン酸、ボロン酸、ボリン酸等が挙げられる。中でも、得られるフタロシアニン結晶を材料として用いた電子写真感光体の特性を考慮すると、カルボン酸、スルホン酸、フェノール、ホスホン酸、リン酸、ボロン酸が好ましく、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、リン酸、ボロン酸がより好ましい。
酸性官能基は如何なる公知の構造を有していてもよいが、例としてはカルボキシル基、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、メルカプトカルボニル基、ヒドロペルオキシ基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基、フェノール性水酸基、チオール基、ホスフィニコ基、ホスホノ基、セレノノ基、セレニノ基、セレネノ基、アルシニコ基、アルソノ基、ボロン酸基、ボラン酸基等が挙げられる。これら酸性官能基の中でも、原料の汎用性、安全性の面から、通常は炭素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、ホウ素原子から構成される酸性官能基が好ましく、カルボキシル基、チオカルボキシル基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基、フェノール性水酸基、チオール基、ホスフィニコ基、ホスホノ基、ボロン酸基、ボラン酸基がより好ましく、電子写真感光体としての特性の面から、カルボキシル基、ホスフィニコ基、ホスホノ基、スルホ基、ボロン酸基が更に好ましい。
特定有機酸化合物として使用される有機酸は、その構造中に酸性官能基を有することにより本発明の効果を発揮している。よって、酸性官能基は、有機酸一分子当たり少なくとも1個含まれていればよいが、複数含まれていても構わない。有機酸一分子に複数の酸性官能基が含まれている場合には、これら複数の酸性官能基は同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。但し、有機酸一分子当たりの酸性官能基の個数が多過ぎると、併用する非酸性有機化合物に対する溶解性が低下し、本発明の効果が低下することから、好ましくは10個以下であり、より好ましくは7個以下、更に好ましくは4個以下である。
有機酸は構造の面から、酸性官能基部分と、酸性官能基部分以外の部分(有機残基部分)とに区別することができる。酸性官能基部分の構造については前述の通りであるが、有機残基部分の構造については特に制限は無く、如何なる公知の構造を有していてもよい。但し、フタロシアニン化合物の分子(以下「フタロシアニン分子」と略称する場合がある。)はその構造中に多数のπ電子を有しており、フタロシアニン分子同士が発達したπ電子の相互作用によりフタロシアニン結晶を構築しているため、そのフタロシアニン分子と有機酸との相互作用が大きくなる程、フタロシアニン結晶中への有機酸の取り込みが容易になる。従って、有機酸とフタロシアニン分子との相互作用が強まるように、有機酸の有機残基部分はπ電子を有する構造であることが好ましい。有機残基部分が有するπ電子の数は特に制限されず、有機酸一分子につきπ電子が少なくとも2個(即ち、炭素−炭素二重結合が少なくとも一つ)含まれていればよい。但し、フタロシアニン分子との相互作用を強める観点から、有機残基部分は、ヒュッケル則を満たす芳香族性を有する構造を含んでいることが好ましい。
特定有機酸化合物として使用される有機酸の分子量は特に制限されないが、通常50以上、好ましくは100以上、また、通常1200以下、好ましくは1000以下の範囲である。有機酸の分子量が小さ過ぎると水への溶解性が高くなり、それによりフタロシアニン結晶内での存在量が減少して本発明の効果が小さくなる傾向がある。また、有機酸の分子量が大き過ぎると有機酸の分子体積が大き過ぎるため、フタロシアニン結晶内での存在量が減少して本発明の効果が小さくなる傾向がある。特に、有機酸の有機残基部分の分子体積が大き過ぎるとフタロシアニン結晶中への取り込みが困難になることから、有機残基部分の分子量は通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、更に好ましくは300以下である。
有機酸の状態としては、有機酸そのままの状態、有機酸がイオン化した状態、有機酸イオンが対イオンと結合して塩を形成した状態等が考えられるが、本発明では有機酸自体が結晶中に取り込まれることにより、酸性官能基部分が効果の発現に寄与していると推測できることから、本発明において使用される有機酸は、上述の何れの状態であってもよい。
なお、本発明では後述のように、フタロシアニン結晶前駆体を特定有機酸化合物の存在下で非酸性有機化合物と接触させる際に、水を共存させることが好ましい。従って、接触処理を行なう前の段階では有機酸以外の化合物であるが、水と接触することにより加水分解等によって有機酸へと転換される化合物も、特定有機酸化合物として使用することが可能である。以下の説明ではこのような化合物も含めて「有機酸」と総称することにする。
・有機酸無水物:
有機酸無水物とは、二つのアシル基が酸素原子を共有する形の結合(これを以下適宜「酸無水物結合」という。)を有する化合物である。主な有機酸無水物としては、一つの酸性官能基を有する有機酸二分子が分子間で酸無水物結合を形成しているものと、二つ以上の酸性官能基を有する有機酸が単一分子内で酸無水物結合を形成しているものとが挙げられる。前者は更に、同一種類の二分子の有機酸が酸無水物結合を形成しているものと、異なる種類の二分子の有機酸が酸無水物結合を形成しているものとに分けられる。本発明で使用される有機酸無水物の種類は特に制限されず、これらの何れの有機酸無水物であってもよい。
有機酸無水物の例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水トリフルオロ酢酸等の、同一種類のカルボン酸二分子が分子間で酸無水物結合を形成してなるカルボン酸無水物;酢酸プロピオン酸無水物、酢酸トリフルオロ酢酸無水物等の、異なる種類のカルボン酸二分子が分子間で酸無水物結合を形成してなるカルボン酸無水物;無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、1,2−ナフタル酸無水物、1,8−ナフタル酸無水物等の、ジカルボン酸が同一分子内で酸無水物結合を形成してなるカルボン酸無水物;メタンスルホン酸無水物、ベンゼンスルホン酸無水物等の、同一又は異なる種類のスルホン酸二分子が分子間で酸無水物結合を形成してなるスルホン酸無水物;ベンゼンスルフィン酸無水物等の、同一又は異なる種類のスルフィン酸二分子が分子間で酸無水物結合を形成してなるスルフィン酸無水物;ベンゼンスルホン酸ベンゼンスルフィン酸無水物、環状無水スルホ酢酸等の、同一又は異なる種類の有機酸二分子が分子間で酸無水物結合を形成してなる鎖状若しくは環状の有機酸無水物などが挙げられる。これらの中でも、本発明で使用する有機酸無水物としては、電子写真感光体としての特性の面から、同一の酸からなるカルボン酸無水物、異種のカルボン酸からなるカルボン酸無水物、分子内で酸無水物結合を有するカルボン酸無水物、スルホン酸無水物が好ましく、より好ましくは同一の酸からなるカルボン酸無水物、分子内で酸無水物結合を有するカルボン酸無水物である。
なお、特定有機酸化合物として使用される有機酸無水物の酸無水物結合以外の部分(有機残基部分)の構造は特に制限されず、如何なる構造であってもよいが、上記「・有機酸」の欄で説明したのと同様の理由から、π電子を有する構造であることが好ましい。有機残基部分が有するπ電子の数は特に制限されず、有機酸一分子につきπ電子が少なくとも2個(即ち、炭素−炭素二重結合が少なくとも一つ)含まれていればよい。但し、フタロシアニン分子との相互作用を強める観点から、有機残基部分はヒュッケル則を満たす芳香族性を有する構造を含んでいることが好ましい。
有機酸無水物の分子量は特に制限されないが、大き過ぎるとフタロシアニン結晶中へ取り込まれ難くなる傾向があるため、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、更に好ましくは300以下である。一方、有機酸無水物の分子量があまりに低過ぎるとフタロシアニン分子との相互作用が減少し、フタロシアニン結晶内での有機酸無水物の存在量が減少して本発明の効果が小さくなる傾向があるので、分子量の下限は通常50以上、好ましくは100以上である。
・ヘテロ原子を有する有機酸エステル:
ヘテロ原子を有する有機酸エステルとは、ヘテロ原子を有する有機酸の酸性官能基部分を、酸性を示さない有機酸エステルへと変化させた有機化合物である。例としては、酸性を有するスルホン基をスルホン酸メチル基へと変化させ、酸性を示さない状態とした化合物等が挙げられる。
ヘテロ原子とは、一般的には有機化合物を構成する原子のうち、炭素原子及び水素原子以外の原子を意味する。しかし、有機酸は通常、少なくとも酸素原子及び/又は窒素原子を酸性官能基中に有しているため、酸素原子及び窒素原子をヘテロ原子に含めると、あらゆる有機酸エステルがヘテロ原子を有する有機酸エステルに該当することになってしまい、定義として適切でない。このため、本発明においては炭素原子、水素原子、窒素原子及び酸素原子以外の原子をヘテロ原子として定義するものとする。
一般的に、有機化合物の構造中に導入されるヘテロ原子としては、ホウ素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、セレン原子、テルル原子等が挙げられるが、本発明で使用される有機酸エステルが含有するヘテロ原子としては、通常はホウ素原子、硫黄原子、リン原子が用いられる。中でも、本発明で使用される有機酸エステルの汎用性を考慮すると、硫黄原子、リン原子が好ましい。
有機酸エステルの構造において、ヘテロ原子が導入される部位は特に制限されず、如何なる部位に導入されていてもよいが、有機酸エステルに誘導される前の有機酸の構造において、酸性官能基部分(例えばスルホ基、ホスホノ基等)にヘテロ原子を有することが好ましい。即ち、本発明で使用される有機酸エステルは、ヘテロ原子を含む酸エステル基を有することが好ましい。
なお、ヘテロ原子を有する有機酸エステルの構造において、ヘテロ原子を含む酸エステル基以外の部分(有機残基部分)の構造は特に制限されず、如何なる構造であってもよいが、上記「・有機酸」の欄で説明したのと同様の理由から、π電子を有する構造であることが好ましい。有機残基部分が有するπ電子の数は特に制限されず、有機酸一分子につきπ電子が少なくとも2個(即ち、炭素−炭素二重結合が少なくとも一つ)含まれていればよい。但し、フタロシアニン分子との相互作用を強める観点から、有機残基部分はヒュッケル則を満たす芳香族性を有する構造を含んでいることが好ましい。
ヘテロ原子を有する有機酸エステルの例としては、メチルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル等のホスホン酸エステル;メチルリン酸ジメチル、フェニルリン酸ジメチル等のリン酸エステル、メタンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル等のスルホン酸エステル類;メチルスルフィン酸メチル、フェニルスルフィン酸メチル等のスルフィン酸エステル;メチルスルフィノ酸メチル、フェニルスルフィノ酸メチル等のスルフィノ酸エステル;メチルボロン酸ジメチル、フェニルボロン酸ジメチル等のボロン酸エステルなどが挙げられる。中でも、試薬の汎用性の面から、ホスホン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、ボロン酸エステルが好ましく、より好ましくはホスホン酸エステル、スルホン酸エステルである。
ヘテロ原子を有する有機酸エステルの分子量は特に制限されないが、大き過ぎるとフタロシアニン結晶中へ取り込まれ難くなるため、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、更に好ましくは300以下である。一方、ヘテロ原子を有する有機酸エステルの分子量があまりに低過ぎるとフタロシアニン分子との相互作用が減少し、フタロシアニン結晶内でのヘテロ原子を有する有機酸エステルの存在量が減少し本発明の効果が小さくなる傾向があるので、分子量の下限は通常50以上、好ましくは100以上である。
・その他:
特定有機酸化合物としては、上述した有機酸、有機酸無水物及びヘテロ原子を有する有機酸エステルのうち、何れかの化合物を用いる。何れか一種の特定有機酸化合物を単独で用いてもよく、二種以上の特定有機酸化合物を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に、二種以上の特定有機酸化合物を併用する場合には、有機酸、有機酸無水物、ヘテロ原子を有する有機酸エステルという3つのカテゴリーのうち、何れか一つのカテゴリーから二種以上の化合物を選択して併用してもよく、任意の2つのカテゴリー又は3つ全部のカテゴリーからそれぞれ一種又は二種以上の化合物を選択して併用してもよい。
また、特定有機酸化合物の存在形態も特に制限されず、液体、気体、固体の何れであってもよい。
(非酸性有機化合物)
非酸性有機化合物は、上記「・有機酸」の欄で説明した酸性官能基を、その構造中に有さない有機化合物のことを言う。
本発明で使用される非酸性有機化合物は、結晶型を変換する能力を有するものであれば、その種類は特に制限されない。
非酸性有機化合物は、大別すると、脂肪族化合物と芳香族化合物とに分けられる(以下の記載ではこれらを適宜、それぞれ「非酸性脂肪族化合物」及び「非酸性芳香族化合物」というものとする。)。
非酸性脂肪族化合物の例としては、ピネン、テルピレノン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン、2−メチルペンタン、リグロイン、石油ベンジン等の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素化合物;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメチルセロソルブ、エチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等の脂肪族エーテル化合物;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,2,2,2−テトラクロロエタン等のハロゲン化脂肪族化合物;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等の脂肪族ケトン化合物;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ヘキシル、アクリル酸ブチル、プロピオン酸メチル、酢酸シクロヘキシル等の脂肪族エステル化合物;メタノール、エタノール、ブタノール等の脂肪族アルコール化合物;ノルマルプロピルアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物などが挙げられる。なお、これらの非酸性脂肪族化合物が有する炭化水素骨格は、鎖状(直鎖状でも分岐鎖状でもよい)であっても環状であってもよく、鎖状と環状とが結合したものであってもよい。
一方、非酸性芳香族化合物の例としては、トルエン、キシレン、ナフタレン、ビフェニル、ターフェニル等の芳香族炭化水素化合物;モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジクロロトルエン、クロロナフタレン、ブロモベンゼン等のハロゲン化芳香族化合物;ニトロベンゼン、フルオロニトロベンゼン等の芳香族ニトロ化合物;安息香酸メチル、安息香酸ブチル、クロロ安息香酸メチル、メチル安息香酸メチル、フェニルアセテート等の芳香族エステル化合物;ジフェニルエーテル、アニソール、クロロアニソール等の芳香族エーテル化合物;ベンズアルデヒド、クロロベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物;アセトフェノン、クロロアセトフェノン等の芳香族ケトン化合物;チオフェン、フラン、キノリン、ピコリン等の複素環芳香族化合物などが挙げられる。
これら非酸性有機化合物の中でも、結晶型の変換能力の点から、ハロゲン原子若しくは酸素原子を含有する脂肪族化合物若しくは芳香族化合物、又は、芳香族炭化水素化合物が好ましい。中でも、得られるフタロシアニン結晶の分散時の安定性を考慮すると、ハロゲン化脂肪族化合物、脂肪族エーテル化合物、脂肪族ケトン化合物、脂肪族エステル化合物、芳香族炭化水素化合物、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族ニトロ化合物、芳香族ケトン化合物、芳香族エステル化合物、芳香族アルデヒド化合物がより好ましく、得られるフタロシアニン結晶を材料として用いた電子写真感光体の特性の面から、脂肪族エーテル化合物、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族ニトロ化合物、芳香族ケトン化合物、芳香族エステル化合物、又は芳香族アルデヒド化合物が更に好ましい。
なお、これらの非酸性有機化合物は、その構造中の置換基等の種類によっては、上述した化合物群のうち複数種の化合物群に同時に属する場合がある(例えばニトロクロロベンゼンは「ハロゲン化芳香族化合物」及び「芳香族ニトロ化合物」の双方に属する。)が、そのような非酸性有機化合物は、それら複数種の分類全ての属性を有しているものとして、化合物の属性を判断することとする(例えばニトロクロロベンゼンは、ハロゲン化芳香族化合物及び芳香族ニトロ化合物の両方の属性を有する)。
これらの非酸性有機化合物は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
非酸性有機化合物の存在形態は特に制限されず、液体、気体、固体の何れであってもよいが、非酸性有機化合物とフタロシアニン結晶前駆体との接触処理は通常、非酸性有機化合物が液体の状態で行なわれることから、非酸性有機化合物の融点は通常150℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下である。
非酸性有機化合物の分子量も特に制限されないが、非酸性有機化合物とフタロシアニン結晶前駆体との接触処理は通常、非酸性有機化合物が液体の状態で行なわれることから、非酸性有機化合物の分子量があまり大き過ぎると望ましくない。具体的に、非酸性有機化合物の分子量は通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、更に好ましくは300以下である。一方、非酸性有機化合物の分子量があまりに低過ぎると一般的に沸点が低くなり、揮発し易いため生産時の取り扱い性を低下させる傾向があるので、分子量の下限は通常50以上、好ましくは100以上である。
(特定有機酸化合物と非酸性有機化合物との併用)
フタロシアニン結晶前駆体の結晶変換処理時に、結晶型変換用化合物類(B)として、特定有機酸化合物及び非酸性有機化合物を併用することにより、得られるフタロシアニン結晶を材料として用いた電子写真感光体の特性がなぜ向上するのか、そのメカニズムについては明白ではないが、結晶変換処理時に非酸性有機化合物が共存することによって、同時に用いる特定有機酸化合物がより効率的にフタロシアニン結晶中に取り込まれることにより、本発明の効果が得られているものと推測される。
<I−3−3.結晶型変換用化合物類(C)>
結晶型変換用化合物類(C)は、1013hPa、25℃の条件下において固体であり、電子吸引性の置換基を有する芳香族化合物(電子吸引性特定芳香族化合物)と、1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない有機化合物(非酸性特定有機化合物)とからなる。電子吸引性特定芳香族化合物は結晶型変換用共存化合物類として使用され、非酸性特定有機化合物は結晶型変換用接触化合物類として使用される。
(電子吸引性特定芳香族化合物)
電子吸引性特定芳香族化合物は、1013hPa、25℃の条件下において固体であり、電子吸引性の置換基(以下適宜「電子吸引性基」と略称する。)を有する芳香族化合物である。
ここで「電子吸引性基」とは、Hammett則における置換基定数σp 0(以下単に「置換基定数σp 0」という場合がある。)の値が正の値を示す置換基のことを指すものとする。ここで、「Hammett関係則」とは、芳香族化合物における置換基が芳香環の電子状態に与える効果を説明するために用いられる経験則であり、通常は、日本化学会編「化学便覧基礎編II 改訂4版」(平成5年9月30日、丸善(株)発行)379ページに記載されているように、無置換の安息香酸のpKaからその置換基を有する安息香酸のpKaを減算した値として算出される。置換基定数σp 0の値は、水素原子の場合を0とすると、電子吸引性が高くなるに従って絶対値の大きな正の値となり、電子供与性が高くなるに従って絶対値の大きな負の値となる。よって、この置換基定数σp 0を用いることにより、置換基を有している芳香族化合物の電子状態や電子密度を予測・表現することが可能となる。代表的な置換基について、日本化学会編「化学便覧基礎編II 改訂4版」(平成5年9月30日、丸善(株)発行)に記載されている置換基定数σp 0の値を下記表1に示す。なお、本発明においては、前記文献に置換基定数σp 0の値が記載されている置換基については、その値を用いるものとし、記載されていない置換基については、日本化学会編「化学便覧基礎編II 改訂4版」(平成5年9月30日、丸善(株)発行)に記載されている置換基定数σp 0の値の測定条件と同様の条件で測定し、算出することにより求めるものとする。
本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物が有する電子吸引性基は、その置換基定数σp 0の値が0より大きなものであればその種類は特に制限されないが、得られた電子写真感光体の環境変動に対する特性の安定性の面から、置換基定数σp 0の値が通常0.200以上、中でも0.300以上である電子吸引性基が好ましい。
本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物が有する電子吸引性基の数は、1つ以上であれば特に制限は無いが、電子吸引性基の数が多過ぎると非酸性特定有機化合物に対する溶解性が低下し、得られる効果が低下することから、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。なお、二以上の電子吸引性基を有する場合には、それらは同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物が有する電子吸引性基の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、アルデヒド基、ニトロ基、ニトロソ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルコキシスルホニル基、アルコキシスルフィニル基、アルキルスルホニルオキシ基、アルキルスルフィニルオキシ基、フルオロアルキル基、カルボキシアミド基、スルホンアミド基、カルボキシイミド基、アゾ基、アリール基、チオアルキル基、カルボキシル基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基、ホスフィニコ基、ホスホノ基、ボロン酸基、ボラン酸基等が挙げられる。中でも、電子吸引性特定芳香族化合物の安定性・汎用性の面から、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、アルデヒド基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、スルホ基、ボロン酸基が好ましく、より好ましくはシアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルボキシル基、ボロン酸基であり、更に好ましくは、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、カルボキシル基である。
本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物が有する電子吸引性基部分の分子量は、大き過ぎると化合物全体の分子体積が大きくなり、フタロシアニン結晶へ取り込まれ難くなることから、通常は300以下であり、好ましくは250以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは150以下である。
本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物は、その構造の面から、電子吸引性基部分と、電子吸引性基以外の部分(芳香環部分)の2つに区別することが出来る。
本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物の芳香環部分の構造は、平面環状ポリエン内に4n+2個(ここでnは0以上の整数を表わす。)のπ電子を有する構造、即ちヒュッケル則を満たす芳香族性を有する構造であれば、如何なる構造であってもよいが、芳香環部分の構造が大き過ぎると溶解性の低下などの弊害が多くなる場合があることから、ヒュッケル則における4n+2の式において、nは5以下であることが好ましく、より好ましくは4以下であり、更に好ましくは3以下である。
本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物の芳香環部分の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、ピレン、ペリレン等の炭化水素からなる芳香環、ピロール、チオフェン、フラン、シロール、ピリジン、インドール、クロマン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、キノリン、イソキノリン、カルバゾール、アクリジン、フェノキサジン、チアントレン等のヘテロ原子を含む芳香環等が挙げられる。これらの芳香環の中でも、非酸性特定有機化合物に対する溶解性の面から、芳香環を構成する元素数が14以下の芳香環が好ましく、元素数が10以下の芳香環がより好ましい。また、炭化水素からなる芳香環がより好ましく、ベンゼン、ナフタレンが更に好ましい。
本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物の芳香環部分の分子量は、大き過ぎるとフタロシアニン結晶中への電子吸引性特定芳香族化合物の取り込みが困難になることから、通常1000以下であり、好ましくは500以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは200以下である。
本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物は、先述した電子吸引性基以外の置換基を有していてもよい。電子吸引性特定芳香族化合物が電子吸引性基以外に有してもよい置換基の例としては、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルケニル基、フェノール性水酸基、置換、無置換のアミノ基等が挙げられるが、電子供与性が強くなると本発明の効果が得られ難くなることから、アルキル基、アルケニル基が好ましく、より好ましくはアルキル基である。これら電子吸引性基以外の置換基も、電子吸引性基と同様に、分子量が大き過ぎると電子吸引性特定芳香族化合物全体の分子体積が大きくなり、フタロシアニン結晶へ取り込まれ難くなることから、その分子量は、通常は300以下、好ましくは250以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは150以下である。
また、本発明で使用される電子吸引性特定芳香族化合物は、1013hPa(760mmHg)、25℃の条件下において固体のものである。このような条件を満たす化合物は、フタロシアニン分子と強く相互作用を有するという理由で好ましい。
本発明で好適に使用される電子吸引性特定芳香族化合物の構造の例を以下に挙げる。但し、以下の構造はあくまでも例として示すものであり、本発明で使用可能な電子吸引性特定芳香族化合物の構造は、以下の例示に限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限り、任意の構造の電子吸引性特定芳香族化合物を用いることができる。なお、下記構造式中、「Me」はメチル基を表わし、「Ph」はフェニル基を表わし、「Bz」はベンゾイル基を表わす。
なお、電子吸引性特定芳香族化合物としては、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(非酸性特定有機化合物)
非酸性特定有機化合物とは、1013hPa、25℃の条件下において液体状態であり、酸性を示す官能基を有さない有機化合物を言う。即ち、上記<I−3−2.結晶型変換用化合物類(B)>の欄で説明した非酸性有機化合物のうち、1013hPa、25℃の条件下において液体状態である化合物が、非酸性特定有機化合物に該当する。
ここで「酸性を示す官能基」とは、有機酸が構造中に有する酸性を示すために機能する官能基であり、例としては、カルボキシル基、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、メルカプトカルボニル基、ヒドロペルオキシ基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ酸基、フェノール性水酸基、チオール基、ホスフィニコ基、ホスホノ基、セレノノ基、セレニノ基、セレネノ基、アルシニコ基、アルソノ基、ボロン酸基、ボラン酸基等が挙げられる。本発明に使用される非酸性特定有機化合物は、これらの酸性を示す官能基を有さない有機化合物である。
本発明で使用される非酸性特定有機化合物は、如何なる構造を有していてもよいが、フタロシアニン結晶前駆体と接触させた際の結晶型の制御性の観点から、その構造中に無置換アミノ基、1置換アミノ基、及びアルコール性水酸基を有さない有機化合物であることが好ましい。
本発明で使用される非酸性特定有機化合物は、大別すると、脂肪族化合物と芳香族化合物に分けることができる(以下の記載ではこれらを適宜、それぞれ「非酸性特定脂肪族化合物」及び「非酸性特定芳香族化合物」というものとする。)。
非酸性特定脂肪族化合物の例としては、ピネン、テルピレノン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン、2−メチルペンタン、リグロイン、石油ベンジン等の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素化合物;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメチルセロソルブ、エチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等の脂肪族エーテル化合物;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,2,2,2−テトラクロロエタン等のハロゲン化脂肪族化合物;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等の脂肪族ケトン化合物;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ヘキシル、アクリル酸ブチル、プロピオン酸メチル、酢酸シクロヘキシル等の脂肪族エステル化合物;メタノール、エタノール、ブタノール等の脂肪族アルコール化合物;ノルマルプロピルアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物などが挙げられる。なお、これらの非酸性特定脂肪族化合物が有する炭化水素骨格は、鎖状(直鎖状でも分岐鎖状でもよい)であっても環状であってもよく、鎖状と環状とが結合したものであってもよい。
一方、非酸性特定芳香族化合物の例としては、トルエン、キシレン、ナフタレン、ビフェニル、ターフェニル等の芳香族炭化水素化合物;モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジクロロトルエン、クロロナフタレン、ブロモベンゼン等のハロゲン化芳香族化合物;ニトロベンゼン、フルオロニトロベンゼン等の芳香族ニトロ化合物、安息香酸メチル、安息香酸ブチル、クロロ安息香酸メチル、メチル安息香酸メチル、フェニルアセテート等の芳香族エステル化合物;ジフェニルエーテル、アニソール、クロロアニソール等の芳香族エーテル化合物;ベンズアルデヒド、クロロベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物;アセトフェノン、クロロアセトフェノン等の芳香族ケトン化合物;チオフェン、フラン、キノリン、ピコリン等の複素環芳香族化合物などが挙げられる。
これら非酸性特定有機化合物の中でも、結晶型の変換能力の点から、ハロゲン原子若しくは酸素原子を含有する脂肪族化合物若しくは芳香族化合物、又は、芳香族炭化水素化合物が好ましい。中でも、得られたフタロシアニン結晶の分散時の安定性を考慮すると、ハロゲン化脂肪族化合物、脂肪族エーテル化合物、脂肪族ケトン化合物、脂肪族エステル化合物、芳香族炭化水素化合物、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族ニトロ化合物、芳香族ケトン化合物、芳香族エステル化合物、芳香族アルデヒド化合物がより好ましく、得られたフタロシアニン結晶を材料として用いた電子写真感光体の特性の面から、脂肪族エーテル化合物、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族ニトロ化合物、芳香族ケトン化合物、芳香族エステル化合物、又は芳香族アルデヒド化合物が更に好ましい。
なお、これらの非酸性特定有機化合物は、構造中の置換基等の種類によっては、上述した化合物群のうち複数種の化合物群に同時に属する場合がある(例えばニトロクロロベンゼンは「ハロゲン化芳香族化合物」及び「芳香族ニトロ化合物」の双方に属する。)が、そのような非アルコール性有機化合物は、それら複数種の分類全ての属性を有しているものとして、化合物の属性を判断することとする(例えばニトロクロロベンゼンは、ハロゲン化芳香族化合物及び芳香族ニトロ化合物の両方の属性を有する)。
また、本発明で使用される非酸性特定有機化合物は、1013hPa(760mmHg)、25℃の条件下において液体状態のものである。
非酸性特定有機化合物の分子量は特に制限されないが、分子量の増加と共に粘度等が上昇し、製造性が低下することから、非酸性特定有機化合物の分子量は通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、更に好ましくは300以下である。一方、非酸性特定有機化合物の分子量があまりに小さ過ぎると、一般的に沸点が低くなり、揮発し易いため生産時の取り扱いが低下する傾向があるので、分子量の下限は通常50以上、好ましくは100以上である。
なお、非酸性特定有機化合物としては、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(電子吸引性特定芳香族化合物と非酸性特定有機化合物との併用)
結晶型を変換させる際の電子吸引性特定芳香族化合物の存在が、フタロシアニン結晶の電子写真感光体としての特性になぜ影響を及ぼすか、そのメカニズムは明白ではないが、非酸性特定有機化合物と電子吸引性特定芳香族化合物とが共存していることにより、電子吸引性特定芳香族化合物がより効率的にフタロシアニン結晶中に取り込まれることにより、本発明の効果が得られているのではないかと推測される。
<I−3−4.結晶型変換用化合物類(D)>
結晶型変換用化合物類(D)は、酸素原子を含有する基、及び、原子量30以上のハロゲン原子を置換基として有する芳香族化合物(特定置換基含有芳香族化合物)である。この特定置換基含有芳香族化合物は、結晶型変換用接触化合物類として使用される。
(特定置換基含有芳香族化合物)
特定置換基含有芳香族化合物とは、酸素原子を含有する基、及び、原子量30以上のハロゲン原子を置換基として有する芳香族化合物をいう。
特定置換基含有芳香族化合物の芳香族骨格としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ビフェニル、ターフェニル等の芳香族炭化水素骨格や、ピロール、チオフェン、フラン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、フェナントロリン等の複素環芳香族骨格が挙げられるが、芳香族骨格部分に窒素、酸素、硫黄等のヘテロ原子を有すると、本発明のフタロシアニン結晶における好適な結晶型である上述の特定結晶型への制御性が低下することから、芳香族炭化水素骨格が好ましい。特定置換基含有芳香族化合物はフタロシアニン結晶前駆体と接触させる際に液体状態であることが好ましいが、芳香族骨格部分の分子量が大きいと液体状態を取り難いことから、通常はベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、ピロール、チオフェン、フラン、ピリジン等の骨格が用いられる。中でも、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル等の芳香族炭化水素骨格が好ましく、フタロシアニン結晶の電子写真感光体特性の面から、ベンゼンが特に好ましい。
また、特定置換基含有芳香族化合物とフタロシアニン結晶前駆体との接触は普通100℃以下で行なわれるため、特定置換基含有芳香族化合物の融点は通常100℃以下である。あまり融点が高過ぎると、フタロシアニン結晶前駆体との接触の際に特定置換基含有芳香族化合物の取扱性が低下することから、特定置換基含有芳香族化合物の融点は好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下である。
特定置換基含有芳香族化合物が有する原子量30以上のハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、製造時の取扱の面から塩素原子、臭素原子が好ましく、電子写真感光体としての特性の面から塩素原子がより好ましい。
特定置換基含有芳香族化合物が有する原子量30以上のハロゲン原子は、通常はその芳香族骨格に直接結合している。原子量30以上のハロゲン原子の数は任意であるが、ハロゲン原子の数が多くなるにつれて凝固点が高くなり、製造時の取扱性が低下することから、3以下が好ましく、電子写真感光体の感度の面から、2以下がより好ましい。中でも、モノハロゲン置換芳香族化合物であることが特に好ましい。
特定置換基含有芳香族化合物が有する酸素原子を含有する基の種類は特に制限されないが、例としては、フェノール性水酸基;アルデヒド基;カルボン酸基;ニトロソ基;ニトロ基;イミド酸基;ヒドロキシム酸基;ヒドロキシサム酸基;シアン酸基;イソシアン酸基;アゾキシ基;アミド基;アセチル基、フェノキシ基等のアシル基;メトキシ基、ベンジルオキシ基、フェノキシ基等のエーテル基;ジメチルアセタール基、メチルエチルアセタール基、エチレンアセタール基等のアセタール基が挙げられる。これらの基のうち、アルキル鎖等の更に置換が可能な置換基を有する基については、それらの置換基が更に置換されていてもよい。
前記酸素原子を含有する基の中でも、結晶制御性の面から、アルデヒド基、エステル基、アシル基、アシルオキシ基等のカルボニル基を有する置換基、ニトロ基、エーテル基が好ましく、中でもアルデヒド基、ニトロ基、エーテル基、エステル基、アシル基、アシルオキシ基がより好ましい。
本発明の効果は、特定置換基含有芳香族化合物を用いることにより、フタロシアニン結晶前駆体との接触時の結晶型の制御能力が増加し、更に、該特定置換基含有芳香族化合物がフタロシアニン結晶中に取り込まれ効果を発現すると推測されることから、酸素原子を含有する基は、芳香環に直接結合していてもよく、2価の有機残基(アリーレン基を除く。)を介して芳香環に結合していてもよい。
酸素原子を含有する基が2価の有機残基を介して芳香環に結合している場合、有機残基の分だけ特定置換基含有芳香族化合物の分子体積が大きくなり、フタロシアニン結晶中へ取り込まれ難くなるため、有機残基部分の分子量は通常100以下、好ましくは50以下である。但し、酸素原子を含有する基は、2価の有機残基を有さず、エーテル基の様に酸素原子を介して芳香環に直接結合するか、或いは、カルボニル基の炭素原子やニトロ基の窒素原子の様に、芳香環に直接結合する原子が酸素原子を有することがより好ましい。
酸素原子を含有する基一つ当たりの分子量は、通常は300以下である。この分子量が大き過ぎると電子写真感光体の特性が低下することから、中でも250以下が好ましく、200以下がより好ましく、150以下が更に好ましい。
特定置換基含有芳香族化合物が有する酸素原子を含有する基の数については、多過ぎると特定置換基含有芳香族化合物の分子量、分子体積が共に増加し、特定置換基含有芳香族化合物を用いることにより得られる効果が低下することから、通常5以下、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1である。
特定置換基含有芳香族化合物は、酸素原子を含有する基及び原子量30以下のハロゲン原子の他に、芳香環にその他の置換基を有していてもよい。その他の置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基等のアルキル基;チオメチル基、チオエチル基等のチオアルキル基;シアノ基;メルカプト基;アミノ基、モノメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等の置換若しくは無置換のアミノ基;トリフルオロメチル基等のハロゲン化アルキル基;フッ素原子等の公知の酸素原子を含有しない置換基;分子量29以下のハロゲン原子等が挙げられる。
前述したその他の置換基の例のうち、アルキル基、置換アミノ基、ハロゲン化アルキル基等の炭素鎖を有する置換基については、その炭素鎖部分が直鎖状、分岐状、環状の何れの構造を有していてもよいが、これら置換基の炭素鎖部分の構造が大き過ぎると、得られるフタロシアニン結晶の安定性に悪影響を与えることから、直鎖状又は分岐状の構造であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。また、当該炭素鎖部分の炭素数は、通常20以下であるが、炭素鎖部分の炭素数が多過ぎると特定置換基含有芳香族化合物の効果が減少することから、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは6以下である。
前述したその他の置換基の例の中でも、結晶変換時の結晶制御性を考慮すると、フッ素原子又はアルキル基が好ましい。中でも、置換基としての3次元的な分子体積が大きくなると結晶変換時の結晶制御性が低下することから、メチル基、エチル基、フッ素原子がより好ましく、メチル基又はフッ素原子が更に好ましい。
なお、前記特定置換基含有芳香族化合物は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、一種又は二種以上の特定置換基含有芳香族化合物を、一種又は二種以上の他の化合物と混合して、フタロシアニン結晶前駆体に接触させてもよい。この場合、特定置換基含有芳香族化合物と併用する他の化合物は、使用するフタロシアニン結晶前駆体や得られるフタロシアニン結晶に好ましからぬ影響を与えるものでない限り、その種類は特に制限されない。但し、特定置換基含有芳香族化合物以外の他の化合物を併用する場合でも、特定置換基含有芳香族化合物と他の化合物との総量に対する特定置換基含有芳香族化合物の割合を、通常50重量%以上、中でも75重量%以上とすることが好ましい。
特定置換基含有芳香族化合物の使用量は、接触処理に用いる手法等によっても異なり、一概には規定できないが、一般的には、フタロシアニン結晶前駆体に対する重量割合で、通常50重量%以上、好ましくは100重量%以上、また、通常2000重量%以下、好ましくは1000重量%以下の範囲である。なお、二種以上の特定置換基含有芳香族化合物を併用する場合には、これらの合計割合が上記範囲を満たすようにする。
<I−3−5.その他>
結晶型変換工程では、上述したように、上述の結晶型変換用化合物類(A)〜(D)のうち、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
〔I−4.結晶型変換工程〕
結晶型変換工程は、上述の結晶型変換用化合物類を使用して、フタロシアニン結晶前駆体の結晶型を変換するものである。即ち、フタロシアニン結晶前駆体を、必要に応じて用いられる結晶型変換用共存化合物類の共存下、結晶型変換用接触化合物類に接触させることにより、その結晶型を変換するものである。
ここで、結晶型変換工程において、フタロシアニン結晶前駆体を、結晶型変換用接触化合物類と接触させる手法は特に制限されず、いかなる公知の手法を用いてもよい。
中でも、水の共存下で、フタロシアニン結晶前駆体を結晶型変換用接触化合物類と接触させるのが一般的であり、本発明のフタロシアニン結晶を得るために好適である。
水を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、結晶型変換用接触化合物類に対する重量比で、通常100重量%以上、中でも500重量%以上、また、通常5000重量%以下、中でも1500重量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、二種以上の結晶型変換用接触化合物類を併用する場合には、それらの合計重量が上記範囲を満たすようにすることが好ましい。
フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類との具体的な接触の方法としては、例えば、フタロシアニン結晶前駆体を、結晶型変換用化合物類を含む蒸気や液体、又は、結晶型変換用化合物類を含む溶液と共存させ、撹拌しながら接触させる方法や、フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類とを、自動乳鉢、遊星ミル、振動ボールミル、CFミル、ローラーミル、サンドミル、ニーダー等の装置中でメディアと共に物理的な力を加えながら接触させる方法などが挙げられる。
フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類との接触時の温度は特に制限されないが、通常は150℃以下である。よって、本発明に使用される結晶型変換用接触化合物類は、何れもその融点が通常150℃以下であることが望ましい。結晶型変換用接触化合物類の融点があまり高過ぎると、結晶変換時の結晶型変換用接触化合物類の取扱性が低下することから、120℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下である。
フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類との接触処理(即ち、結晶型変換処理)により、本発明のフタロシアニン結晶が得られる。得られた本発明のフタロシアニン結晶は、必要に応じて水や各種の有機溶媒等を用いて洗浄してもよい。接触処理後又は洗浄後において得られる本発明のフタロシアニン結晶は、通常はウェットケーキの状態である。前述したように、本発明の効果は、結晶変換時にフタロシアニン結晶前駆体を結晶型変換用化合物類と接触させた際に、フタロシアニン結晶中に結晶型変換用化合物類が取り込まれることにより得られるものであると考えられることから、接触処理後又は洗浄後における本発明のフタロシアニン結晶の、ウェットケーキ中におけるフタロシアニン類の含有量(ウェットケーキ総重量に対するフタロシアニン類の重量)は特に制限されず、いかなる量であってもよい。
接触処理後又は洗浄後に得られた本発明のフタロシアニン結晶のウェットケーキは、通常は乾燥工程に供される。乾燥方法は送風乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の公知の方法で乾燥することが可能である。
以上の方法により得られる本発明のフタロシアニン結晶は、通常は、一次粒子が凝集して二次粒子を形成する形態をとる。その粒子径は、フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類との接触時の条件・処方等によって大きく異なるが、分散性を考慮すると、1次粒子径として、500nm以下が好ましく、塗布成膜性の面からは250nm以下であることが好ましい。
本発明において、フタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類との接触前後で、結晶変換がされたか否かの定義は、以下の通りである。即ち、接触前後において粉末X線回折スペクトルの各ピークが全く同一の場合は結晶変換がされてないものと定義し、接触前後において粉末X線回折スペクトルから得られるピーク位置、ピークの有無、ピーク半値幅等の情報に少しでも差異が認められた場合は結晶変換がされたものと定義する。
〔I−5.フタロシアニン結晶の結晶型〕
本発明のフタロシアニン結晶の結晶型は、フタロシアニン結晶前駆体と異なる結晶型であれば、如何なる結晶型であってもよいが、中でも、フタロシアニン結晶を電子写真感光体の材料として使用した場合における電子写真感光体の特性の面から、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型(以下適宜「特定結晶型」という。)が好ましい。
本発明の効果が得られるメカニズムは明らかとなっていないが、フタロシアニン結晶前駆体を結晶型変換用化合物類に接触させて結晶型を変換する際に、フタロシアニン環と結晶型変換用化合物類とが相互作用を持ち、結晶型変換用化合物類がフタロシアニン結晶中に取り込まれるとともに、取り込まれた結晶型変換用化合物類が、結晶中に存在する増感剤としての水と相互作用することにより、低湿条件下での結晶中からの水の脱離を抑制し、低湿条件下でも水分子がフタロシアニン結晶中で存在することができるようになり、増感剤である水の脱離による感度低下を抑制しているため、或いは、結晶型変換用化合物類が増感剤である水分子の替わりに増感剤としての役割を果たしているためではないかと考えられる。
ここで、上述の特定結晶型は、他の結晶型と比較して結晶密度が低く、結晶中の空いている空間部分が多いため、フタロシアニン結晶を結晶型変換用化合物類と接触させて上述の特定結晶型を構築する際に、結晶型変換用化合物類がフタロシアニン結晶中に容易に取り込まれ、フタロシアニン結晶中で増感剤としての役割を果たしているのではないかと考えられる。
以下、本発明のフタロシアニン結晶が上述の特定結晶型を有する場合に、本発明の効果がなぜ顕著に得られるのか、その推測されるメカニズムを、結晶型変換用化合物類の種類毎に分けて、より具体的に検討する。
結晶型変換用化合物類(A)を用いる場合、即ち、フタロシアニン結晶前駆体を芳香族アルデヒド化合物に接触させ、本発明のフタロシアニン結晶を得る場合には、該結晶型を構築する際に、フタロシアニン環と芳香族アルデヒド化合物の芳香環部分のπ電子同士が相互作用を持ち、芳香族アルデヒド化合物がフタロシアニン結晶中に取り込まれるとともに、取り込まれた芳香族アルデヒド化合物のアルデヒド基部分が、結晶中に存在する増感剤としての水と相互作用することにより、低湿条件下での結晶中からの水の脱離を抑制し、低湿条件下でも水分子がフタロシアニン結晶中で存在することができるようになり、増感剤である水の脱離による感度低下を抑制しているため、或いは、芳香族アルデヒド化合物のアルデヒド基が増感剤である水分子の替わりに増感剤としての役割を果たしているためではないかと考えられる。
結晶型変換用化合物類(B)を用いる場合、即ち、フタロシアニン結晶前駆体を特定有機酸化合物の存在下で非酸性有機化合物に接触させ、本発明のフタロシアニン結晶を得る場合には、該結晶型を構築する際に、特定有機酸化合物がフタロシアニン結晶中に取り込まれるとともに、取り込まれた特定有機酸化合物が、結晶中に存在する増感剤としての水と相互作用することにより、低湿条件下での結晶中からの水の脱離を抑制し、低湿条件下でも水分子がフタロシアニン結晶中で存在することができるようになり、増感剤である水の脱離による感度低下を抑制しているため、或いは、特定有機酸化合物が増感剤である水分子の替わりに増感剤としての役割を果たしているためではないかと考えられる。
結晶型変換用化合物類(C)を用いる場合、即ち、フタロシアニン結晶前駆体を電子吸引性特定芳香族化合物の存在下で非酸性特定有機化合物と接触させ、本発明のフタロシアニン結晶を得る場合には、該結晶型を構築する際に、電子吸引性特定芳香族化合物がフタロシアニン結晶中に取り込まれるとともに、取り込まれた電子吸引性特定芳香族化合物が、結晶中に存在する増感剤としての水と相互作用することにより、低湿条件下での結晶中からの水の脱離を抑制し、低湿条件下でも水分子がフタロシアニン結晶中で存在することができるようになり、増感剤である水の脱離による感度低下を抑制しているため、或いは、電子吸引性特定芳香族化合物が増感剤である水分子の替わりに増感剤としての役割を果たしているためではないかと考えられる。
結晶型変換用化合物類(D)を用いる場合、即ち、フタロシアニン結晶前駆体を特定置換基含有芳香族化合物と接触させ、本発明のフタロシアニン結晶を得る場合には、上記の特定置換基含有芳香族化合物が、原子量30以上のハロゲン原子を有していることにより、特定結晶型へと結晶変換する際の結晶型制御性に優れ、且つ、フタロシアニン結晶前駆体のフタロシアニン環と特定置換基含有芳香族化合物の芳香環部分のπ電子同士が相互作用することにより、特定置換基含有芳香族化合物が結晶変換の際にフタロシアニン結晶中に取り込まれ、特定置換基含有芳香族化合物中の酸素原子を含有する基が、結晶中で増感剤の役割を果たしているのではないかと考えられる。
以上の理由から、本発明のフタロシアニン結晶は、上述の特定結晶型を有するものが望ましい。
本発明のフタロシアニン結晶が上述の特定結晶型を有する場合、27.2°のピークと共に示す明確なピークの組み合わせとしては、以下の(i)〜(iii)が挙げられる。
(i)9.6°、24.1°、27.2°
(ii)9.5°、9.7°、24.1°、27.2°
(iii)9.0°、14.2°、23.9°、27.1°
中でも、上記(i)〜(iii)のピークの組み合わせのうち、上記(i)又は(ii)のピークの組み合わせを示すものが、分散時の結晶安定性に優れることから好ましい。
特に、7.3°、9.6°、11.6°、14.2°、18.0°、24.1°及び27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型、又は、7.3°、9.5°、9.7°、11.6°、14.2°、18.0°、24.2°及び27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型が、電子写真感光体の材料として用いた場合の暗減衰、残留電位の観点からより好ましい。
なお、26.2°又は28.6°付近にピークを有するフタロシアニン結晶は、分散時に他の結晶型に転位し、電子写真特性の低下を招くことから、本発明のフタロシアニン結晶は、26.2°又は28.6°付近には明確なピークを有さないことが好ましい。
上述のように、本発明のフタロシアニン結晶における結晶型変換用化合物類の効果は、結晶変換の際にフタロシアニン結晶前駆体と結晶型変換用化合物類とを接触させることにより、結晶型変換用化合物類がフタロシアニン結晶中に取り込まれることにより得られるものであると考えられ、結晶の中の分子の配向性には依存していないものと考えられる。よって、上に挙げた好ましいピークの組み合わせにおいて、各ピーク間の強度比は、本発明の効果とは相関性が無いと考えられる。従って、これらのピークはいかなる強度比を有していてもよいが、通常は27.2°付近のピーク又は9.6°付近のピークが最大となることが多い。
〔I−6.塩素化オキシチタニウムフタロシアニン〕
本発明のフタロシアニン結晶として好適なオキシチタニウムフタロシアニン結晶(オキシチタニウムフタロシアニンを少なくとも含む結晶又は混晶)の場合、製造法の違いにより、その結晶中にフタロシアニン環が塩素化されたオキシチタニウムフタロシアニン(塩素化オキシチタニウムフタロシアニン)を含有する場合がある。本発明の効果は、フタロシアニン結晶中に、結晶型変換用化合物類が含有されることにより発現していると考えられることから、結晶型変換用化合物類が多く取り込まれるように、オキシチタニウムフタロシアニン結晶中には空間が多く存在している方が好ましい。塩素化オキシチタニウムフタロシアニンはフタロシアニン環部分にクロロ基を有しており、分子体積が無置換のオキシチタニウムフタロシアニンと比較して大きくなっている。このため、結晶中に塩素化オキシチタニウムフタロシアニンが存在すると、結晶型変換用化合物類を取り込むための空間が少なくなる。以上の理由から、オキシチタニウムフタロシアニン結晶の製造のためのフタロシアニン結晶前駆体として用いるオキシチタニウムフタロシアニン類(以下「オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体」と略称する。)は、塩素化オキシチタニウムフタロシアニンの含有量が少ない方が好ましい。
オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体中の塩素化オキシチタニウムフタロシアニンの含有量は、如何なる従来公知の分析方法により測定することも可能であるが、例えば、特開2001−115054号公報に記載の元素分析法及びマススペクトル測定により決定することが出来る。具体的な元素分析法及びマススペクトル測定の条件としては、例えば以下の条件が挙げられる。
<塩素含有量測定条件(元素分析)>
オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体100mgを精秤して石英ボード上に載置し、昇温型電気炉(例えば三菱化学社製QF−02等)にて完全燃焼し、燃焼ガスを水15mlにて定量吸収させる。得られた吸収液を50mlに希釈し、イオンクロマトグラフィー(Dionex社製「DX−120」)で塩素分析を行なう。下記にイオンクロマトグラフィーの条件を示す。
カラム:Dionex IonPak AG12A+AS12A
溶離液:2.7mM炭酸ナトリウム(Na2CO3)/0.3mM炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)
流量:1.3ml/min
注入量:50μl
<マススペクトル測定条件>
(a)試料の調製:
オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体0.50gを、ガラスビーズ(φ1.0〜1.4mm)30g及びシクロヘキサノン10gと共に50mlのガラス容器に入れ、染料分散試験機(ペイントシェーカー)で3時間分散処理をし、5重量%オキシチタニウムフタロシアニン分散液とする。この5重量%オキシチタニウムフタロシアニン分散液1μlを20mlサンプル瓶に採取し、クロロホルム5mlを加え、1時間超音波により分散させることにより、10ppmオキシチタニウムフタロシアニン分散液を調製する。
(b)測定装置・条件:
測定装置:JEOL製JMS−700/MStaion
イオン化モード:DCI(−)
反応ガス:イソブタン(イオン化室圧力1×10-5Torr)
フィラメントレート:0 → 0.90A(1A/min)
質量分析能:2000
スキャン法:MF−Linear
スキャン質量範囲:500 to 600
全質量範囲スキャン時間:0.8sec
繰り返し時間:0.5sec
(c)塩素化オキシチタニウムフタロシアニンと無置換オキシチタニウムフタロシアニンとのマススペクトルピーク強度比の算出方法:
上記手順で調製した10ppmオキシチタニウムフタロシアニン分散液1μlをDCIプローブのフィラメントに塗布し、上記条件によりマススペクトル測定を行なう。得られたマススペクトルにおいて、塩素化オキシチタニウムフタロシアニンの分子イオンに相当するm/z=610及び無置換オキシチタニウムフタロシアニンの分子イオンに相当するm/z=576のイオンクロマトグラフィーから得られるピーク面積の比(「610」ピーク面積/「576」ピーク面積)をマススペクトルピーク強度比として算出する。
上述の<塩素含有量測定条件(元素分析)>に基づく測定によって得られる、オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体中に含有される塩素化オキシチタニウムフタロシアニンの量は、好ましくは0.4重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下、更に好ましくは0.2重量%以下である。
また、上述の<マススペクトル測定条件>に基づく測定によって得られる、オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体中の塩素化オキシチタニウムフタロシアニンと無置換オキシチタニウムフタロシアニンとのマススペクトルピーク強度比は、好ましくは0.050以下、より好ましくは0.040以下、更に好ましくは0.030以下である。
〔I−7.その他〕
本発明における結晶型変換用化合物類の使用が、フタロシアニン結晶の電子写真感光体としての特性に影響を及ぼすメカニズムは明白ではないが、上述のように、結晶変換時に結晶型変換用化合物類がフタロシアニン結晶中に取り込まれることにより、本発明の効果が得られているのではないかと考えられる。
結晶中に取り込まれる結晶型変換用接触化合物類の量は、製法によっても異なり、特に制限されるものではないが、フタロシアニン結晶100重量部に対して、通常0.1重量部以上である。中でも、結晶型変換用接触化合物類の取り込み量が少ないと本発明の効果が少なくなることから、0.2重量部以上が好ましく、より好ましくは0.3重量部以上である。但し、結晶型変換用接触化合物類の取り込み量が多過ぎるとフタロシアニン結晶の安定性が低下することから、10重量部以下が好ましく、より好ましくは7重量部以下である。なお、フタロシアニン結晶中に結晶型変換用接触化合物類が複数種存在する場合には、その合計量が上記範囲となることが好ましい。
フタロシアニン結晶中における結晶型変換用接触化合物類の含有量は、公知の熱重量分析方法に従って測定することにより算出が可能である。特に、上述の特定結晶型を有するフタロシアニン結晶は、220〜270℃付近で結晶転位することが知られており、この結晶転位の際に結晶中に含有されている化合物が放出される。よって、上述の特定結晶型を有するフタロシアニン結晶の熱重量分析においては、結晶転位前後の重量差(例えば200℃と300℃での重量差)から含有されている結晶型変換用接触化合物類の量を算出することが可能である。
[II.電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体(以下「本発明の感光体」と略称する場合がある。)は、導電性支持体上に感光層を有する感光体であって、下記の規定(1)及び規定(2)のうち、少なくとも一方の規定を満たすものである。
・規定(1):感光層の膜厚が特定の範囲内であって、半減露光量の値、及び、湿度変化による光減衰特性の変動が、特定の範囲を満たす。
・規定(2):感光層が本発明のフタロシアニン結晶を含有する。
本発明の感光体は、規定(1)及び規定(2)のうち、何れか一方の規定のみを満たすものであってもよいが、規定(1)及び規定(2)の双方を満たすことが好ましい。
以下の記載では、まず感光体の特性面に主に着目し、規定(1)を満たす本発明の感光体(以下適宜「特定特性感光体」という。)について説明した上で、続いて電子写真感光体の構成面に主に着目し、規定(2)を満たす本発明の感光体(以下適宜「特定構成感光体」という。)について説明するものとする。また、「特定特性感光体」と「特定構成感光体」とを特に区別しない場合には、「本発明の感光体」と総称する。
なお、「特定特性感光体」及び「特定構成感光体」という語は、あくまでも説明の便宜のために用いるものであり、本発明になんら影響を与えるものではない。
〔II−1.感光体の特性〕
本発明の特定特性感光体は、上記規定(1)を満たす感光体、即ち、後述する半減露光量E1/2の値、及び、湿度変化による光減衰特性の変動が、感光層の膜厚に応じて、それぞれ所定範囲内にある感光体である。
この特徴は、本発明の特定特性感光体が、半減露光量E1/2が小さく感度が高いこと、及び、湿度変化による光減衰特性の変動が極めて小さいことを表わしている。
感光体の半減露光量E1/2は、小さければ小さいほど、プリンタや複写機などの画像形成装置における、露光光のエネルギー量を小さくすることができ、例えば光源の消費電力を下げることが可能となるので好ましい。
感光体は、通常、その感光層の膜厚によって静電容量が異なるので、感光層の膜厚が異なると同じ電位でも表面電荷の量が異なる。即ち、感光体はその感光層の膜厚によって、量子効率が1であるときの感度が異なる。
本発明においては、半減露光量が小さく感度が高いのと同時に、湿度による光減衰特性の変動が極めて小さいという技術思想は共通であるが、以上の理由から、感光層の膜厚を区分し、その量子効率が1であるときの感度を考慮した上で、半減露光量E1/2及び湿度による光減衰特性の変動の程度を規定している。これにより、感光層の膜厚に応じて画像形成装置に対する特性が特に適した感光体を規定することが可能である。
具体的に、本発明の特定特性感光体の半減露光量E1/2を、その感光層の膜厚の範囲毎に分けて規定すると、以下の通りである。
感光層の膜厚が35±2.5μmの感光体の場合は、温度25℃、相対湿度50%rhにおける半減露光量E1/2が、通常0.059以下、好ましくは0.054以下、より好ましくは0.051以下、更に好ましくは0.049以下である。
感光層の膜厚が30±2.5μmの感光体の場合は、温度25℃、相対湿度50%rhにおける半減露光量E1/2が通常0.061以下、好ましくは0.056以下、より好ましくは0.053以下、更に好ましくは0.051以下である。
感光層の膜厚が25±2.5μmの感光体の場合は、温度25℃、相対湿度50%rhにおける半減露光量E1/2が通常0.066以下、好ましくは0.061以下、より好ましくは0.058以下、更に好ましくは0.055以下である。
感光層の膜厚が20±2.5μmの感光体の場合は、温度25℃、相対湿度50%rhにおける半減露光量E1/2が通常0.079以下、好ましくは0.073以下、より好ましくは0.069以下、更に好ましくは0.066以下である。
感光層の膜厚が15±2.5μmの感光体の場合は、温度25℃、相対湿度50%rhにおける半減露光量E1/2が通常0.090以下、好ましくは0.083以下、より好ましくは0.079以下、更に好ましくは0.075以下である。
但し、本発明では、感光体の表面電位V0の絶対値|V0|を550Vから275Vまで減衰させるのに必要とする、780nmの波長の光の露光量(μJ/cm2)を、半減露光量E1/2として定義する。半減露光量E1/2の測定方法については、<半減露光量E1/2の測定方法>の項において後述する。
また、本発明において感光層の「膜厚」とは、積層型感光体の場合には電荷発生層と電荷輸送層の合計の膜厚を指し、単層型感光体の場合には感光層の膜厚を指すものとする。
なお、感光層上に表面保護層が存在する場合には、表面保護層も含めた膜厚を、感光層の膜厚とするものとする。
一方、電荷発生層、電荷輸送層、単層型感光層、表面保護層以外の層(例えば、中間層)が存在する場合、その層の膜厚は感光層の膜厚に含めないものとする。
感光層の膜厚は、種々の方法で測定することが可能であるが、例えば、東京精密社製サーフコム570Aを用いて測定することが可能である。
一方、感光体の湿度変化による光減衰特性の変動は、小さければ小さい方が、その感光体をプロセスカートリッジ、又は画像形成装置に用いた場合、単位時間当たりに多くの枚数を印刷でき、かつ消費電力が少なく、かつ環境変動に由来する画像欠陥を少なくすることが出来る。
具体的に、本発明の特定特性感光体の湿度変化による光減衰特性の変動は、以下のように規定される。
即ち、本発明の特定特性感光体は、温度25℃、相対湿度50%rhにおける光減衰曲線と、温度25℃、相対湿度10%rhにおける光減衰曲線とを比較したときに、露光量が半減露光量E1/2の0倍から10倍までの範囲において、同じ露光量における表面電位の差の絶対値(以下適宜「環境変動依存量」と呼ぶ。その測定方法は<環境変動依存量>の項で後述する。)が、通常50V以下、好ましくは40V以下、より好ましくは35V以下、更に好ましくは30V以下、特に好ましくは20V以下である。
感光体の環境変動依存量が小さいほど、環境変動に由来する画像劣化が小さくなる。
なお、本発明では、半減露光量E1/2及び光減衰曲線の測定環境を、その温度及び湿度により規定しているが、これらの測定は、可能な限り誤差の小さな環境で行なうことが望ましい。
具体的に、温度については、本発明で規定する温度の±2℃の範囲内であれば、本発明で規定する温度に該当するものと判断される。
また、湿度については、相対湿度で表わした場合に、本発明で規定する湿度の±5%の範囲内であれば、本発明で規定する湿度に該当するものと判断される。
温度及び相対湿度の測定方法に制限は無いが、通常、日本工業規格(JIS: Japanese Industrial Standards)により規格化された方法に準拠した方法で測定する。温度については、JIS Z8704,Z8705,Z8707 に測定方法が規定されており、湿度については、JIS Z8806 に測定方法が規定されている。
<半減露光量E1/2の測定方法>
なお、本発明において、半減露光量E1/2は、市販の感光体評価装置(シンシア55、ジェンテック社製)を用いて、スタティック方式で測定した値である。具体的には、以下に説明する手順によって求められる。
帯電器を0°、露光装置及び表面電位計プローブを90°、除電器を270°の角度に配置し、帯電器、表面電位計プローブ、除電器を感光体表面からの距離が2mmとなるように配置する。
まず、暗所で、感光体の表面電位が約−700Vになるような放電が行なわれるように設定したスコロトロン帯電器上を、一定の回転速度(30rpm)で感光体表面を通過させ帯電させる。帯電後の感光体表面がプローブ位置に到達したら停止させ、停止してから2.5秒後に、付属の分光光源システムPOLAS34から得た、強度0.15μW/cm2の780nmの単色光を7.5秒間照射する。この時、感光体の表面電位が−550Vから−275Vになるまでに要した露光量を測定する。再び感光体を回転させ、除電器により全周除電を行なった後、同じ操作を行なう。このサイクルを6回繰り返し、1回目を除く5回の露光量の測定値を平均し、得られた平均値を半減露光量E1/2(μJ/cm2)とする。
なお、以上は負帯電型感光体の場合を例として説明したが、正帯電型感光体の場合には電位を正にして考えればよい。
なお、半減露光量E1/2の測定は、測定対象の感光体を、温度25℃±2℃、湿度50%±5%の環境中に、5時間以上放置した後に、同環境下で行なう。
<環境変動依存量の測定方法>
本発明における環境変動依存量は、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置〔「続電子写真技術の基礎と応用」、(電子写真学会編、コロナ社発行、第404〜405頁記載)〕に感光体を装着し、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の評価を行なうことにより得られる。具体的には、以下に説明する手順によって求められる。
帯電器を−70°、露光装置を0°、表面電位計プローブを36°、除電器を−150°の角度に配置し、各機器は感光体表面からの距離を2mmに配置する。帯電はスコロトロン帯電器を用いる。露光ランプはウシオ電機社製のハロゲンランプJDR110V−85WLN/K7を用い、朝日分光社製フィルターMX0780を用いて780nmの単色光とする。除電光には660nmのLED光を用いる。
感光体を一定の回転速度(60rpm)で回転させながら、感光体の初期表面電位の絶対値が700V(正帯電用感光体の場合は+700V、負帯電型感光体の場合は−700V)となるように帯電させ、帯電した感光体表面が780nmの単色光が露光される露光部を通過し、表面電位計のプローブの位置に来た時の表面電位を測定する(露光〜電位測定間100ms)。780nmの単色光をNDフィルターに通して光量を変化させ、露光量が半減露光量E1/2の0倍から10倍までの範囲の光を照射し、それぞれの露光量における表面電位を測定する。この操作を、温度25℃±2℃、相対湿度50%rh±5%の環境(以下適宜「NN環境」という場合がある)で行ない、各露光量におけるNN環境下での露光後電位(以下適宜「VNN」という場合がある)を測定する。
その後、温度25℃±2℃、相対湿度10%rh±5%の環境(以下適宜「NL環境」という場合がある)において同様の操作を行ない、各露光量におけるNL環境下での露光後電位(以下適宜「VNL」という場合がある)の測定を行なう。
同じ露光量におけるNN環境下での露光後電位VNNとNL環境下での露光後電位VNLとの差の絶対値(|VNN−VNL|)を計算し、その最大値を環境変動依存量とする。
なお、NN環境下及びNL環境下で露光後電位を測あ定する際は、測定対象の感光体を、それぞれNN環境(温度25℃±2℃、相対湿度50%rh±5%)及びNL環境(温度25℃±2℃、相対湿度10%rh±5%)中に、5時間以上放置した後に行なう。
<感度保持率の測定方法>
本発明において、感光体の湿度変化による感度保持率(以下、単に「感度保持率」という場合がある。)は、上記環境変動依存量の測定方法と同じ測定装置を用いて、同じ測定装置条件において、以下の手順に従って帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の評価を行なうことにより得られる。
感光体を一定の回転速度(60rpm)で回転させながら、感光体の初期表面電位の絶対値が700V(正帯電用感光体の場合は+700V、負帯電型感光体の場合は−700V)となるように帯電させ、帯電した感光体表面が780nmの単色光が露光される露光部を通過し、表面電位計のプローブの位置に来た時の表面電位を測定する(露光〜電位測定間100ms)。780nmの単色光をNDフィルターに通して光量を変化させて照射して、表面電位が初期表面電位の絶対値が350V(正帯電用感光体の場合は+350V、負帯電型感光体の場合は−350V)となる時の照射エネルギー(露光エネルギー)を測定する。
照射エネルギー(露光エネルギー)をNN環境下で測定した値(単位μJ/cm2)を、標準湿度感度(以下適宜「En1/2」と言う場合がある。)とし、NL環境下で測定した値(単位μJ/cm2)を、低湿感度(以下適宜「El1/2」と言う場合がある。)とする。
なお、上記環境変動依存量の測定方法の場合と同様に、NN環境下及びNL環境下で露光後電位を測定する際は、測定対象の感光体を、それぞれNN環境及びNL環境中に、5時間以上放置した後に行なう。
得られた標準湿度感度En1/2及び低湿感度El1/2の値を用い、下記式に従って計算することにより、湿度変化による感度保持率を算出する(単位%)。
特に、上述の特定結晶型(CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを示す結晶型)を有するオキシチタニウムフタロシアニン結晶を感光層中に含有する感光体を、NN環境(常温常湿環境)からNL環境(常温低湿環境)に変更する際には、結晶中に存在する水が脱離するのに時間を要するため、電気特性の環境依存性を評価する場合には、電位測定前に測定を行なう環境下で少なくとも5時間放置するようにする。
また、電荷輸送物質による電荷の移動度が遅い場合には、露光後、測定までに要する時間の変化に対する表面電位の変化が充分に小さくなるように、露光から測定までの時間を適宜長くするのが好ましい。
〔II−2.感光体の構成〕
本発明の特定構成感光体は、導電性支持体上に感光層を有するとともに、上記規定(2)を満たす、即ち、感光層中に本発明のフタロシアニン結晶を含有する感光体である。
本発明の特定構成感光体の感光層は、本発明のフタロシアニン結晶を、1種類のみ単独で含有していてもよいが、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有していてもよい。
本発明のフタロシアニン結晶は、通常は電荷発生物質として機能するものである。
本発明の特定構成感光体の感光層は、電荷発生物質として、本発明のフタロシアニン結晶のみを含有していてもよいが、その他の1種又は2種以上の電荷発生物質を併有していてもよい。
以下、本発明の感光体の構成について、詳細に説明する。
なお、特定構成感光体は、上記規定(2)が必須である点を除けば、その構成は上述の特定特性感光体と同様である。
従って、以下の記載では基本的に、特定構成感光体の構成と特定特性感光体の構成とを特に区別することなく、本発明の感光体の構成として纏めて説明し、構成上異なる点については適宜付言するものとする。
<II−2−1.導電性支持体>
導電性支持体としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙等が主として使用される。形状としては、ドラム状、シート状、ベルト状などのものが用いられる。また、金属材料の導電性支持体に、導電性・表面性などの制御のためや欠陥被覆のために、適当な抵抗値をもつ導電性材料を塗布したものを用いてもよい。
導電性支持体の表面は、平滑であってもよいし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理したりすることにより、粗面化されていてもよい。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものであってもよい。また、安価化のためには切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。特に引き抜き加工、インパクト加工、しごき加工等の非切削アルミニウム基体を用いる場合、処理により、表面に存在した汚れや異物等の付着物、小さな傷等が無くなり、均一で清浄な基体が得られるので好ましい。
また、導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いる場合、陽極酸化被膜を施してから用いてもよい。陽極酸化被膜は、例えば、クロム酸、硫酸、シュウ酸、ホウ酸、スルファミン酸等の酸性浴中で、陽極酸化処理することにより形成されるが、硫酸中での陽極酸化処理がより良好な結果を与える。硫酸中での陽極酸化の場合、硫酸濃度は100〜300g/l、溶存アルミニウム濃度は2〜15g/l、液温は15〜30℃、電解電圧は10〜20V、電流密度は0.5〜2A/dm2の範囲内に設定されるのが好ましいが、前記条件に限定されるものではない。
陽極酸化被膜の平均膜厚が厚過ぎると、封孔液の高濃度化、高温・長時間処理により強い封孔条件が求められる。従って生産性が悪くなると共に、被膜表面にシミ、汚れ、粉ふきといった表面欠陥を生じ易くなる。このような点から、陽極酸化被膜の平均膜厚は、通常20μm以下、特に7μm以下で形成されることが好ましい。
陽極酸化被膜を形成した場合、封孔処理を行なうことが好ましい。封孔処理は、通常の方法で良いが、例えば、主成分としてフッ化ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる低温封孔処理、或いは、主成分として酢酸ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる高温封孔処理を施すのが好ましい。
低温封孔処理の場合、使用するフッ化ニッケル水溶液の濃度は、適宜選択することが可能であるが、中でも3〜6g/lの範囲とすると、より好ましい結果が得られる。フッ化ニッケル水溶液のpHは、通常4.5以上、好ましくは5.5以上、また、通常6.5以下、好ましくは6.0以下の範囲で処理するのがよい。pH調節剤としては、シュウ酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、アンモニア水等を用いることが出来る。また、被膜物性を更に改良するために、フッ化コバルト、酢酸コバルト、硫酸ニッケル、界面活性剤等をフッ化ニッケル水溶液に加えてもよい。処理温度は、封孔処理をスムーズに進めるために、通常25℃以上、好ましくは30℃以上、また、通常40℃以下、好ましくは35℃以下の範囲とするのがよい。処理時間は、被膜の膜厚1μmあたり1〜3分間の範囲で処理することが好ましい。次いで水洗、乾燥して低温封孔処理を終える。
高温封孔処理の場合、封孔剤としては、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸鉛、酢酸ニッケル−コバルト、硝酸バリウム等の金属塩水溶液を用いることが出来るが、特に酢酸ニッケルを用いるのが好ましい。酢酸ニッケル水溶液を用いる場合、その濃度は通常5〜20g/lの範囲内で使用するのが好ましい。酢酸ニッケル水溶液のpHは通常5.0〜6.0の範囲で処理するのが好ましい。pH調節剤としては、アンモニア水、酢酸ナトリウム等を用いることが出来る。なお、被膜物性を改良するために、酢酸ナトリウム、有機カルボン酸、アニオン系、ノニオン系界面活性剤等を酢酸ニッケル水溶液に加えてもよい。処理温度は通常80℃以上、通常100℃以下、好ましくは90℃以上、好ましくは98℃以下の範囲である。処理時間は通常10分以上、好ましくは20分以上である。次いで水洗、乾燥して高温封孔処理を終える。
<II−2−2.下引き層>
導電性支持体と後述する感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けてもよい。下引き層としては、バインダー樹脂、バインダー樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したものなどが用いられる。
下引き層に用いられる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子が挙げられる。これらの金属酸化物粒子は、何れか1種類を単独で用いてもよいし、複数種を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。これらの金属粒子の中でも、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコーン等の有機物による処理を施されていてもよい。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスの何れも用いることが出来る。また、複数の結晶状態のものが含有されていてもよい。
金属酸化物粒子の粒径としては、種々のものが利用できるが、中でも特性及び液の安定性の面から、平均一次粒径として通常10nm以上、また、通常100nm以下、特に50nm以下の範囲のものが好ましい。
下引き層は、前記金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ニトロセルロース等のセルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、澱粉、スターチアセテート、アミノ澱粉、ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物等の有機ジルコニウム化合物、チタニルキレート化合物、チタニルアルコキシド化合物等の有機チタニル化合物、シランカップリング剤などの公知のバインダー樹脂を用いることが出来る。これらは単独、もしくは硬化剤とともに硬化した形で使用できる。中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は良好な分散性、塗布性を示し好ましい。
バインダー樹脂に対する金属酸化物粒子の使用比率は任意に選ぶことが可能であるが、分散液の安定性、塗布性の観点から、通常10重量%以上、500重量%以下の範囲で使用することが好ましい。
その他、下引き層には、画像欠陥防止などを目的として、顔料粒子、樹脂粒子等を含有させてもよい。
下引き層の膜厚は任意に選ぶことが出来るが、感光体特性及び塗布性から、通常0.01μm以上、中でも0.1μm以上、また、通常30μm以下、中でも20μm以下の範囲内とすることが好ましい。
<II−2−3.感光層>
導電性支持体の上(下引き層を設ける場合は下引き層の上)には、感光層が形成される。感光層は、電荷発生物質と、電荷輸送物質と、バインダー樹脂とを含んで構成される。
感光層の構造としては、電荷発生物質と電荷輸送物質がバインダー樹脂中に分散されて同一層に存在する単層構造の感光層(以下適宜「単層型感光層」という。)と、電荷発生物質がバインダー樹脂中に分散された電荷発生層と電荷輸送物質がバインダー樹脂中に分散された電荷輸送層とに機能分離された積層構造の感光層(以下適宜「積層型感光層」という。)とが挙げられるが、何れを使用することも可能である。また、積層型感光層の場合、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層の順に積層される順積層型感光層と、導電性支持体側から電荷輸送層、電荷発生層の順に積層される逆積層型感光層とに分けられるが、何れを適用することも可能である。以下、各構造について説明する。
(積層型感光層の電荷発生層)
積層型感光層の電荷発生層は、溶媒又は分散媒にバインダー樹脂を溶解又は分散させるとともに、電荷発生物質を分散させて塗布液を調製し、これを順積層型感光体の場合は導電性支持体上(下引き層を設ける場合には下引き層上)、逆積層型感光体の場合は電荷輸送層上に塗布・成膜し、電荷発生物質の微粒子をバインダー樹脂によって結着することにより形成される。
・電荷発生物質:
特定構成感光体の場合、電荷発生物質としては、少なくとも本発明のフタロシアニン結晶が用いられる。また、特定特性感光体の場合も通常は、電荷発生物質として、少なくとも本発明のフタロシアニン結晶が用いられる。
本発明のフタロシアニン結晶は、何れか一種を単独で用いてもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、本発明のフタロシアニン結晶のみを電荷発生物質として用いてもよいが、本発明のフタロシアニン結晶を他の電荷発生物質と組み合わせ、混合状態として用いてもよい。
電荷発生物質として用いられる本発明のフタロシアニン結晶の粒子径は、充分小さいことが好ましい。具体的には、1μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下で使用される。
本発明のフタロシアニン結晶と混合状態として用いる他の電荷発生物質としては、公知の各種の染顔料が挙げられる。染顔料の例としては、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、スクアレン(スクアリリウム顔料)、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等が挙げられる。中でも、光感度の面から、フタロシアニン顔料、アゾ顔料が好ましく使用される。なお、他の電荷発生物質は何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組成及び組み合わせで併用してもよい。
・バインダー樹脂:
電荷発生層のバインダー樹脂の種類は特に制限されないが、その例としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼインや、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アルキッド樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマーの中から選択し、用いることが出来るが、これらポリマーに限定されるものではない。なお、これらのバインダー樹脂は何れか一種を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
・配合比:
電荷発生層におけるバインダー樹脂と電荷発生物質との配合比(重量)としては、バインダー樹脂100重量部に対する電荷発生物質の比率で、通常10重量部以上、好ましくは30重量部以上、また、通常1000重量部以下、好ましくは500重量部以下の範囲とする。電荷発生物質の比率が高過ぎる場合は、電荷発生物質の凝集等の課題により塗布液の安定性が低下する場合があり、一方、低過ぎる場合は感光体としての感度の低下を招く場合があることから、前記範囲で使用することが好ましい。
・溶媒又は分散媒:
塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン等の飽和脂肪族系溶媒;トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒;グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類;アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン等の鎖状及び環状ケトン系溶媒;ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等の鎖状及び環状エーテル系溶媒;アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒;n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物;リグロイン等の鉱油;水などが挙げられ、上述の下引き層を溶解しないものが好ましく用いられる。これらの溶媒又は分散媒は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
・分散の手法:
電荷発生物質を溶媒又は分散媒に分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法等の公知の分散方法を用いることが出来る。この際、電荷発生物質粒子を通常0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.15μm以下の粒子サイズに微細化することが有効である。
・膜厚:
電荷発生層の膜厚は、通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、通常10μm以下、好ましくは0.6μm以下の範囲とする。
(積層型感光層の電荷輸送層)
積層型感光層の電荷輸送層は、溶剤にバインダー樹脂を溶解又は分散させるとともに、電荷輸送物質を分散させて塗布液を調製し、これを順積層型感光体の場合は電荷輸送層上、逆積層型感光体の場合は導電性支持体上(下引き層を設ける場合には下引き層上)に塗布し、電荷輸送物質の微粒子をバインダー樹脂によって結着することにより形成される。
・バインダー樹脂:
バインダー樹脂としては、例えばブタジエン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、部分変性ポリビニルアセタール、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロースエステル樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は珪素試薬などで修飾されていてもよい。上記バインダー樹脂のうち、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が特に好ましい。
ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂の中でも、下記構造式で表わされるビスフェノール残基、及び/又は、ビフェノール残基を含有するポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が感度、残留電位の点から好ましく、中でも移動度の面からポリカーボネート樹脂がより好ましい。
なお、これらのバインダー樹脂は、適当な硬化剤を用いて熱、光等により架橋させて用いることもできる。
また、バインダー樹脂は、何れか一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いることもできる。
・電荷輸送物質:
電荷輸送物質としては、公知の物質であれば特に限定されるものではなく、例えば、2,4,7−トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン化合物等の電子吸引性物質、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、或いはこれらの化合物からなる基を主鎖若しくは側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等が挙げられる。これらの中で、カルバゾール誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。
・配合比:
バインダー樹脂と電荷輸送物質との割合は、バインダー樹脂100重量部に対して通常20重量部以上、残留電位低減の観点から30重量部以上が好ましく、更に繰り返し使用時の安定性、電荷移動度の観点から、40重量部以下がより好ましい。一方で、感光層の熱安定性の観点から、通常は150重量部以下、更に電荷輸送物質とバインダー樹脂の相溶性の観点からは好ましくは120重量部以下、更に耐刷性の観点からは100重量部以下がより好ましく、耐傷性の観点からは80重量部以下がとりわけ好ましい。
・溶媒又は分散媒並びに分散の手法:
溶媒又は分散媒の種類、並びに電荷輸送物質を溶媒又は分散媒に分散させる手法については、<積層型感光層の電荷発生層>の欄で説明した通りである。
・膜厚:
電荷輸送層の膜厚は特に制限されないが、長寿命や画像安定性の観点、並びに高解像度の観点から、通常5μm以上、中でも10μm以上、また、通常50μm以下、中でも45μm以下、更には30μm以下の範囲とすることが好ましい。
(単層型感光層)
単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質とバインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して得られる塗布液を、導電性支持体上(下引き層を設ける場合には下引き層上)に塗布、乾燥し、電荷発生物質及び電荷輸送物質の微粒子をバインダー樹脂によって結着することにより形成される。電荷発生物質としては、上記の<積層型感光層の電荷発生層>の欄で説明したものが用いられ、電荷輸送物質及びバインダー樹脂としては、上記の<積層型感光層の電荷輸送層>の欄で説明したものが用いられる。バインダー樹脂に対する電荷発生物質及び電荷輸送物質の比率も、それぞれ上述の<積層型感光層の電荷発生層>及び<積層型感光層の電荷輸送層>の欄で説明した通りである。
単層型感光層内に分散されるフタロシアニン結晶は、少な過ぎると充分な感度が得られず、多過ぎると帯電性の低下、感度の低下の弊害があるので、例えば、バインダー樹脂100重量部に対する電荷発生物質の比率が、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上、また、好ましくは50重量%以下、より好ましくは20重量%以下の範囲で使用される。
溶媒又は分散媒の種類、並びに分散の手法については、上記の<積層型感光層の電荷発生層>の欄で説明した通りである。
単層型感光層の膜厚は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下の範囲で使用される。
(その他の成分)
なお、感光層には成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性などを向上させるために周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤などの添加物を含有させてもよい。
<II−2−4.その他の層>
電子写真感光体の構成としては、以上説明した各層に加え、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、他の層を設けてもよい。
例えば、感光層の損耗を防止したり、帯電器等からの発生する放電物質等による感光層の劣化を防止・軽減する目的で、感光層の上に保護層を設けてもよい。保護層は、適当なバインダー樹脂中に導電性材料を含有させて形成するか、特開平9−190004号公報、特開平10−252377号公報等に記載のようなトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する化合物を用いた共重合体を用いることが出来る。導電性材料としては、TPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス−(m−トリル)ベンジジン)等の芳香族アミノ化合物、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化錫−酸化アンチモン、酸化アルミ、酸化亜鉛等の金属酸化物などを用いることが可能であるが、これに限定されるものではない。保護層に用いるバインダー樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シロキサン樹脂等の公知の樹脂を用いることができ、また、特開平9−190004号公報、特開平10−252377号公報の記載のようなトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する骨格と上記樹脂の共重合体を用いることも出来る。保護層は、電気抵抗が109〜1014Ω・cmとなるように構成することが好ましい。電気抵抗が高過ぎると、残留電位が上
昇しカブリの多い画像となってしまう傾向があり、一方、電気抵抗が低過ぎると、画像のボケ、解像度の低下が生じてしまう傾向がある。また、保護層は像露光に照射される光の透過を実質上妨げないように構成されなければならない。
また、電子写真感光体の表面の摩擦抵抗や摩耗を低減したり、電子写真感光体から転写ベルトや紙へのトナーの転写効率を高める等の目的で、電子写真感光体の表面層(感光層、保護層等)に、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂等を含有させてもよい。また、これらの樹脂からなる粒子や、無機化合物の粒子等を含有させてもよい。
<II−2−5.各層の形成方法>
これらの感光体を構成する各層は、前記方法により得られた塗布液を、支持体上に公知の塗布方法を用い、各層ごとに塗布・乾燥工程を繰り返し、順次塗布していくことにより形成される。
単層型感光体の感光層及び機能分離型感光体の電荷輸送層を形成する場合、塗布液の固形分濃度は、通常5重量%以上、中でも10重量%以上、また、通常40重量%以下、中でも35重量%以下の範囲とするのが好ましい。また、塗布液の粘度は、通常10mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上、また、通常500mPa・s以下、好ましくは400mPa・s以下の範囲とするのが好ましい。
機能分離型感光体の電荷発生層を形成する場合、塗布液の固形分濃度は、通常0.1重量%以上、中でも1重量%以上、また、通常15重量%以下、中でも10%以下の範囲とするのが好ましい。また、塗布液の粘度は、通常0.01mPa・s以上、中でも0.1mPa・s以上、また、通常20mPa・s以下、中でも10mPa・s以下の範囲とするのが好ましい。
塗布液の塗布方法としては、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等が挙げられるが、他の公知のコーティング法を用いることも可能である。
塗布液の乾燥方法は特に制限されないが、通常は、室温における指触乾燥後、無風又は送風下で加熱乾燥することが好ましい。加熱温度は特に30〜200℃の温度範囲で、1分〜2時間に亘って、また加熱温度は一定であっても、乾燥時に変更させながら行なってもよい。
[III.画像形成装置]
〔III−1.画像形成装置の基本構成〕
次に、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置(本発明の画像形成装置)の実施の形態について、装置の要部構成を示す図1を用いて説明する。但し、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
図1に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1、帯電装置2、露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。帯電装置としては、コロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、電圧印加された直接帯電部材を感光体表面に接触させて帯電させる直接帯電装置(接触型帯電装置)帯電ブラシ等の接触型帯電装置などがよく用いられる。直接帯電手段の例としては、帯電ローラ、帯電ブラシ等の接触帯電器などが挙げられる。なお、図1では、帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示している。直接帯電手段として、気中放電を伴う帯電、或いは気中放電を伴わない注入帯電何れも可能である。また、帯電時に印可する電圧としては、直流電圧だけの場合、及び直流に交流を重畳させて用いることもできる。
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LEDなどが挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが、例えば波長が780nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm〜500nmの短波長の単色光などで露光を行なえばよい。
現像装置4は、その種類に特に制限はなく、カスケード現像、一成分絶縁トナー現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像などの乾式現像方式や、湿式現像方式などの任意の装置を用いることができる。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジなどの容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケルなどの金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂などを被覆した樹脂ロールなどからなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
規制部材45は、シリコーン樹脂やウレタン樹脂などの樹脂ブレード、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、リン青銅などの金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は5〜500g/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
アジテータ42は、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
トナーとしては、粉砕トナーの他に、懸濁造粒、懸濁重合、乳化重合凝集法等のケミカルトナーを用いることができる。特に、ケミカルトナーの場合には、4〜8μm程度の小粒径のものが用いられ、形状も球形に近いものから、ポテト状、ラグビーボール状等の球形から外れたものも使用することができる。重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化には好適に用いられる。
なお、本発明ではトナーとして、後出の〔III−2.トナー〕の欄で詳述する、特定のトナー(本発明に係るトナー)を使用することが好ましい。
トナーTの種類は任意であり、粉状トナーのほか、懸濁造粒、懸濁重合、乳化重合凝集法等のケミカルトナーを用いることができる。ケミカルトナーの場合には、4〜8μm程度の小粒径のものが好ましく、また、トナー粒子の形状も、球形に近いものから、球形から外れたポテト状のものまで、様々な形状のものを使用することができる。特に重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化に好適に用いられる。
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写などの静電転写法、圧力転写法、粘着転写法など、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー、転写ローラ、転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙、媒体)Pに転写するものである。
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナーなど、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。なお、残留トナーが少ない場合、或いは殆ど存在しない場合には、クリーニング装置6は省略することが可能である。
定着装置7は、上部定着部材(定着ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス、アルミニウムなどの金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シートなどが公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を向上させる為にシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着など、任意の方式による定着装置を設けることができる。
以上のように構成された画像形成装置では、次の方法(本発明の画像形成方法)に従って画像の記録が行なわれる。
即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば−600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させてもよく、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行なう。
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、負極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行なうことができる構成としてもよい。除電工程は、電子写真感光体に露光を行なうことで電子写真感光体の除電を行なう工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程などの工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
なお、電子写真感光体1を単独で、又は、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5、クリーニング装置6、及び定着装置7のうち1つ又は2つ以上の要素と組み合わせて、一体型のカートリッジ(以下適宜「電子写真感光体カートリッジ」という)として構成し、この電子写真感光体カートリッジを複写機やレーザービームプリンタ等の画像形成装置本体に対して着脱可能な構成にしてもよい。この場合、画像形成装置に対して着脱可能に構成されたカートリッジケースを用い、これに電子写真感光体1を単独で、又は上述の要素と組み合わせて収容し支持させることにより、電子写真感光体カートリッジとすることができる。こうした構成により、例えば電子写真感光体1やその他の部材が劣化した場合に、この電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することにより、画像形成装置の保守・管理が容易となる。
〔III−2.トナー〕
本発明の画像形成装置では、トナーとして、以下に説明する特定の特性を備えたトナー(これを以下「本発明に係るトナー」という場合がある。)を使用することが好ましい。
<トナーの平均円形度>
本発明に係るトナーは、フロー式粒子像分析装置によって測定される平均円形度が、通常0.940以上、中でも0.950以上、更には0.960以上であることが好ましい。トナーの形状が球形に近いほど、トナーの粒子内での帯電量の局在化が起こり難く、現像性が均一になる傾向にある。また、前記平均円形度の上限は1.000以下であれば制限は無いが、トナーの形状が球形に近いほどクリーニング不良が起こり易く、また、完全な球状トナーを作ることは製造上困難であるので、通常0.995以下、中でも0.990以下とすることが好ましい。
なお、前記の平均円形度は、トナーの粒子の形状を定量的に表現する簡便な方法として用いたものである。本発明では、シスメックス社製フロー式粒子像分析装置FPIA−2000を用いて測定を行ない、測定された粒子の円形度aを下式(A)により求めるものとする。
円形度a = L0/L (A)
(式(A)中、L0は粒子像と同じ投影面積を持つ円の周囲長を示し、Lは画像処理した時の粒子像の周囲長を示す。)
前記の円形度は、トナー粒子の凹凸の度合いの指標であり、トナーが完全な球形の場合1.00を示し、表面形状が複雑になるほど円形度は小さな値となる。
平均円形度の具体的な測定方法としては、以下の通りである。即ち、予め容器中の不純物を除去した水20mL中に分散剤として界面活性剤(好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩)を加え、更に測定試料(トナー)を0.05g程度加える。この試料を分散した懸濁液に超音波を30秒照射し、分散液濃度を3.0〜8.0千個/μLとして、上記フロー式粒子像測定装置を用い、0.60μm以上160μm未満の円相当径を有する粒子の円形度分布を測定する。
<トナーの種類・製造方法>
トナーの種類は、通常はその製造方法に応じて様々なものが挙げられるが、本発明に係るトナーの種類は制限されず、何れを用いることも可能である。
以下、トナーの製造方法とともに、そのトナーの種類を説明する。
本発明に係るトナーは、従前公知の何れの方法で製造しても構わない。トナーの製造方法の例としては、重合法や溶融懸濁法などが挙げられるが、水系媒体中でトナー粒子を生成する、いわゆる重合法トナーが好ましい。重合法トナーとしては、例えば、懸濁重合法トナー、乳化重合凝集法トナーなどが挙げられる。特に、乳化重合凝集法は、液状媒体中でポリマー樹脂微粒子と着色剤等とを凝集させてトナーを製造する方法であり、凝集条件を制御することによってトナーの粒径及び円形度を調整することができるので好ましい。
また、トナーの離型性、低温定着性、高温オフセット性、耐フィルミング性などを改良するために、トナーに低軟化点物質(いわゆるワックス)を含有させる方法が提案されている。溶融混練粉砕法では、トナーに含まれるワックスの量を増やすのは難しく、重合体(バインダ樹脂)に対して5重量%程度が限界とされている。それに対して、重合トナーでは、特開平5−88409号公報及び特開平11−143125号公報に記載のごとく、低軟化点物質を多量(5〜30重量%)に含有させることが可能である。なお、ここでいう重合体は、トナーを構成する材料の一つであり、例えば後述する乳化重合凝集法により製造されるトナーの場合、重合性モノマーが重合して得られるものである。
以下、乳化重合凝集法により製造されるトナーについて、更に詳細に説明する。
乳化重合凝集法によりトナーを製造する場合、その製造工程としては、通常、重合工程、混合工程、凝集工程、融合工程、洗浄・乾燥工程を行なう。即ち、一般的には乳化重合により重合体一次粒子を得て(重合工程)、その重合体一次粒子を含む分散液に、必要に応じ、着色剤(顔料)、ワックス、帯電制御剤等の分散体を混合し(混合工程)、この分散液中に凝集剤を加えて一次粒子を凝集させて粒子凝集体とし(凝集工程)、必要に応じて微粒子等を付着する操作を行ない、その後に融合させて粒子を得て(融合工程)、得られた粒子を洗浄、乾燥することにより(洗浄・乾燥工程)、母粒子が得られる。
(1.重合工程)
重合体の微粒子(重合体一次粒子)としては、特に限定されない。従って、液状媒体中で重合性モノマーを、懸濁重合法、乳化重合法等により重合させて得られる微粒子、樹脂等の重合体の塊を粉砕することによって得られる微粒子の何れを重合体一次粒子として用いてもよい。但し、重合法、特に乳化重合法、中でも乳化重合におけるシードとしてワックスを用いたものが好ましい。乳化重合におけるシードとしてワックスを用いると、重合体がワックスを包み込んだ構造の微粒子を重合体一次粒子として製造することができる。この方法によれば、ワックスをトナーの表面に露出させず、トナー内に含有させることができる。このため、ワックスによる装置部材の汚染がなく、また、トナーの帯電性を損なうこともなく、かつ、トナーの低温定着性や高温オフセット性、耐フィルミング性、離型性等を向上させることができる。
以下、ワックスをシードとして乳化重合を行ない、これにより重合体一次粒子を得る方法について説明する。
乳化重合法としては、従来より知られている方法に従って行なえばよい。通常は、ワックスを乳化剤の存在下で液状媒体に分散してワックス微粒子とし、これに重合開始剤、重合により重合体を与える重合性モノマー、即ち、重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物、及び、必要に応じて連鎖移動剤、pH調整剤、重合度調節剤、消泡剤、保護コロイド、内添剤等を混合、攪拌して重合を行なう。これにより、重合体がワックスを包み込んだ構造を有する重合体の微粒子(即ち、重合体一次粒子)が液状媒体に分散したエマルジョンが得られる。なお、重合体がワックスを包み込んだ構造としては、コアシェル型、相分離型、オクルージョン型などが挙げられるが、コアシェル型が好ましい。
(1−i.ワックス)
ワックスとしては、この用途に用い得ることが知られている任意のものを用いることができる。例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、共重合ポリエチレン等のオレフィン系ワックス;パラフィンワックス;アルキル基を有するシリコーンワックス;低分子量ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂系ワックス;ステアリン酸等の高級脂肪酸;エイコサノール等の長鎖脂肪族アルコール;ベヘン酸ベヘニル、モンタン酸エステル、ステアリン酸ステアリル等の長鎖脂肪族基を有するエステル系ワックス;ジステアリルケトン等の長鎖アルキル基を有するケトン類;水添ひまし油、カルナバワックス等の植物系ワックス;グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと長鎖脂肪酸より得られるエステル類又は部分エステル類;オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等の高級脂肪酸アミド;低分子量ポリエステルなどが挙げられる。中でも、示差熱分析(DSC)による吸熱ピークを50〜100℃に少なくとも1つ有するものが好ましい。
また、ワックスの中でも、例えば、エステル系ワックス、パラフィンワックス、低分子量ポリプロピレン、共重合ポリエチレン等のオレフィン系ワックス、シリコーンワックス等は、少量で離型性の効果が得られるので好ましい。特に、パラフィンワックスが好ましい。
なお、ワックスは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ワックスを用いる場合、その使用量は任意である。但し、重合体100重量部に対して、ワックスを通常3重量部以上、好ましくは5重量部以上、また、通常40重量部以下、好ましくは30重量部以下とすることが望ましい。ワックスが少な過ぎると定着温度幅が不十分となる可能性があり、多過ぎると装置部材を汚染して画質の低下が生じる可能性がある。
(1−ii.乳化剤)
乳化剤に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意のものを使用することができる。例えば、非イオン性、アニオン性、カチオン性、及び両性の何れの界面活性剤も用いることができる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタンモノラウレート等のソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
また、アニオン性界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類等が挙げられる。
更に、カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩類、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド等の4級アンモニウム塩類等が挙げられる。
また、両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルベタイン等のアルキルベタイン類等が挙げられる。
これらの中でも、非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤が好ましい。
なお、乳化剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
乳化剤の配合量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は重合性モノマー100重量部に対して乳化剤を1重量部以上、10重量部以下の割合で用いる。
(1−iii.液状媒体)
液状媒体としては、通常は水系媒体を用いる。中でも水が好ましい。但し、液状媒体の質は液状媒体中の粒子の再凝集による粗大化にも関係し、液状媒体の導電率が高いと経時の分散安定性が悪化する傾向がある。従って、液状媒体として水等の水系媒体を使用する場合には、その導電率が通常10μS/cm以下、好ましくは5μS/cm以下となるように脱塩処理されたイオン交換水或いは蒸留水を用いることが好ましい。なお、導電率の測定は、導電率計(横河電機社製のパーソナルSCメータモデルSC72と検出器SC72SN−11)を用いて25℃下で測定を行なう。
液状媒体の使用量に制限は無いが、通常は重合性モノマーに対して、1重量倍以上、20重量倍以下程度の量を用いる。
なお、液状媒体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
この液状媒体に、乳化剤の存在下で前記ワックスを分散させることにより、ワックス微粒子を得る。乳化剤及びワックスを液状媒体に配合する順は任意であるが、通常は、まず乳化剤を液状媒体に配合し、その後にワックスを混合する。また、乳化剤は液状媒体に一度に配合してもよく、連続的に配合してもよい。
(1−iv.重合開始剤)
上記のワックス微粒子を調製した後、液状媒体に、重合開始剤を配合する。重合開始剤としては本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その例を挙げると、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;t−ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、p−メンタンヒドロパーオキシド等の有機過酸化物類;過酸化水素等の無機過酸化物類などが挙げられる。中でも、無機過酸化物類が好ましい。なお、重合開始剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
重合開始剤の他の例として、過硫酸塩類、有機又は無機過酸化物類と、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸等の還元性有機化合物類、チオ硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等の還元性無機化合物類などとを併用して、レドックス系開始剤とすることもできる。この場合、還元性無機化合物類は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
重合開始剤の使用量にも制限は無く、任意であるが、通常は重合性モノマー100重量部に対して、0.05重量部以上、2重量部以下の割合で用いられる。
(1−v.重合性モノマー)
上記のワックス微粒子を調製した後、液状媒体には、前記の重合開始剤の他に、重合性モノマーを配合する。重合性モノマーに特に制限は無いが、例えば、スチレン類、(メタ)アクリル酸エステル、アクリルアミド類、ブレンステッド酸性基を有するモノマー(以下、単に「酸性モノマー」と略記することがある)、ブレンステッド塩基性基を有するモノマー(以下、単に「塩基性モノマー」と略記することがある)等の単官能性モノマーが主として用いられる。また、単官能性のモノマーに多官能性のモノマーを併用することもできる。
スチレン類としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−n−ノニルスチレン等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
アクリルアミド類としては、例えば、アクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジプロピルアクリルアミド、N,N−ジブチルアクリルアミド等が挙げられる。
酸性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ケイ皮酸等のカルボキシル基を有するモノマー;スルホン化スチレン等のスルホン酸基を有するモノマー;ビニルベンゼンスルホンアミド等のスルホンアミド基を有するモノマーなどが挙げられる。
塩基性モノマーとしては、例えば、アミノスチレン等のアミノ基を有する芳香族ビニル化合物、ビニルピリジン、ビニルピロリドン等の含窒素複素環含有モノマー;ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
なお、酸性モノマー及び塩基性モノマーは、対イオンを伴って塩として存在していてもよい。
多官能性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジアリルフタレート等が挙げられる。また、グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アクロレイン等の反応性基を有するモノマーを用いることも可能である。中でもラジカル重合性の二官能性モノマー、特に、ジビニルベンゼン、ヘキサンジオールジアクリレートが好ましい。
これらの中でも、重合性モノマーとしては、少なくともスチレン類、(メタ)アクリル酸エステル、カルボキシル基を有する酸性モノマーから構成されるのが好ましい。
特に、スチレン類としてはスチレンが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル類としてはアクリル酸ブチルが好ましく、カルボキシル基を有する酸性モノマーとしてはアクリル酸が好ましい。
なお、重合性モノマーは、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
ワックスをシードとして乳化重合を行なう際には、酸性モノマー又は塩基性モノマーと、これら以外のモノマーとを併用することが好ましい。酸性モノマー又は塩基性モノマーを併用することにより、重合体一次粒子の分散安定性を向上させることができるからである。
この際、酸性モノマー又は塩基性モノマーの配合量は任意であるが、全重合性モノマー100重量部に対する酸性モノマー又は塩基性モノマーの使用量を、通常0.05重量部以上、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、また、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下となるようにすることが望ましい。酸性モノマー又は塩基性モノマーの配合量が少な過ぎると、重合体一次粒子の分散安定性が悪化する可能性があり、多過ぎると、トナーの帯電性に悪影響を及ぼす可能性がある。
また、多官能性モノマーを使用すると、トナーの定着性を向上させることができるので好ましい。多官能性モノマーを併用する場合、その配合量は任意であるが、重合性モノマー100重量部に対する多官能性モノマーの配合量は、通常0.005重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.3重量部以上、また、通常5重量部以下、好ましくは3重量部以下、より好ましくは1重量部以下である。多官能性モノマーの配合量が少な過ぎると、耐高温オフセット性が劣る可能性があり、多過ぎると、低温定着性が劣る可能性がある。
液状媒体へ重合性モノマーを配合する方法は特に限定されず、例えば、一括添加、連続添加、間欠添加の何れでもよいが、反応制御の点からは連続的に配合するのが好ましい。また、複数種の重合性モノマーを併用する場合、各重合性モノマーは、別々に配合してもよく、また予め混合してから配合してもよい。更には、複数種のモノマーの混合物の組成を変化させながら配合してもよい。
(1−vi.連鎖移動剤等)
上記のワックス微粒子を調製した後、液状媒体には、前記の重合開始剤及び重合性モノマーの他に、必要に応じて、連鎖移動剤、pH調整剤、重合度調節剤、消泡剤、保護コロイド、内添剤などの添加剤を配合する。これらの添加剤は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。また、これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
連鎖移動剤としては、公知の任意のものを使用することができる。具体例を挙げると、t−ドデシルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、ジイソプロピルキサントゲン、四塩化炭素、トリクロロブロモメタン等が挙げられる。また、連鎖移動剤は、重合性モノマー100重量部に対して、通常5重量部以下の割合で用いられる。
更に、保護コロイドとしては、この用途に用い得ることが知られている任意のものを使用することができる。具体例を挙げると、部分又は完全ケン化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体類等などが挙げられる。
また、内添剤としては、例えば、シリコーンオイル、シリコーンワニス、フッ素系オイル等のトナーの粘着性、凝集性、流動性、帯電性、表面抵抗等を改質するためのものが挙げられる。
(1−vii.重合体一次粒子)
ワックス微粒子を含む液状媒体に重合開始剤及び重合性モノマー、並びに、必要に応じて添加剤を混合し、攪拌し、重合させることにより、重合体一次粒子を得る。この重合体一次粒子は、液状媒体中にエマルションの状態で得ることができる。
重合開始剤、重合性モノマー、添加剤などを液状媒体に混合する順番に制限は無い。また、混合、攪拌の方法なども制限は無く、任意である。
更に、重合反応(乳化重合反応)時の温度も、反応が進行する限り任意であるが、通常50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、また、通常120℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下とすることが望ましい。
重合体一次粒子の体積平均粒径に特に制限は無いが、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、また、通常3μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下とすることが望ましい。体積平均粒径が小さ過ぎると、凝集速度の制御が困難となる場合があり、また、体積平均粒径が大き過ぎると、凝集して得られるトナーの粒径が大きくなり易く、目的とする粒径のトナーを得ることが困難となる場合がある。なお、体積平均粒径は、後述する動的光散乱法を用いた粒度分析計で測定することができる。
本発明においては、体積粒度分布は動的光散乱法により測定される。この方式は、微小に分散された粒子のブラウン運動の速さを、粒子にレーザー光を照射してその速度に応じた位相の異なる光の散乱(ドップラーシフト)を検出して粒度分布を求めるものである。実際の測定では、上記の体積粒径については、動的光散乱方式を用いた超微粒子粒度分布測定装置(日機装社製、UPA−EX150、以下UPAと略す)を用いて、以下の設定にて行なう。
測定上限 :6.54μm
測定下限 :0.0008μm
チャンネル数:52
測定時間 :100sec.
粒子透過性 :吸収
粒子屈折率 :N/A(適用しない)
粒子形状 :非球形
密度 :1g/cm3
分散媒種類 :WATER
分散媒屈折率:1.333
なお、測定時は、サンプル濃度指数が0.01〜0.1の範囲になるように粒子の分散体を液状媒体で希釈し、超音波洗浄器で分散処理した試料で測定する。そして、本発明に関わる体積平均粒子径は、上記の体積粒度分布の結果を算術平均値として計測される。
また、重合体一次粒子を構成する重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下適宜、「GPC」と略す場合がある)により測定した分子量分布におけるピーク分子量(以下「GPCにおけるピーク分子量」という場合がある。)のうち少なくとも1つが、通常3000以上、好ましくは1万以上、より好ましくは3万以上、また、通常10万以下、好ましくは7万以下、より好ましくは6万以下に存在することが望ましい。ピーク分子量が前記範囲にある場合、トナーの耐久性、保存性、定着性が良好となる傾向がある。ここで、前記のピーク分子量とは、ポリスチレン換算した値を用いるものとし、測定に際しては溶媒に不溶の成分を除くものとする。ピーク分子量は、後述するトナーの場合と同様に測定することが可能である。
特に、前記の重合体がスチレン系樹脂である場合、GPCにより測定した重合体の数平均分子量は、通常2000以上、好ましくは2500以上、より好ましくは3000以上、また、通常5万以下、好ましくは4万以下、より好ましくは3.5万以下であることが望ましい。また、GPCにより測定した重合体の重量平均分子量は、通常2万以上、好ましくは3万以上、より好ましくは5万以上、また、通常100万以下、好ましくは50万以下であることが望ましい。数平均分子量、重量平均分子量の少なくとも一方、好ましくは双方が前記の範囲に収まるスチレン系樹脂を重合体として用いた場合、得られるトナーは、耐久性、保存性、定着性が良好となるからである。更に分子量分布において、メインピークが2つあるものでもよい。なお、スチレン系樹脂とは、スチレン類が全重合体中の通常50重量%以上、好ましくは65重量%以上を占めるものを指す。
また、重合体の軟化点(以下「Sp」と略記することがある)は、低エネルギー定着の点から、通常150℃以下、好ましくは140℃以下であることが望ましく、また、耐高温オフセット性や耐久性の点から、通常80℃以上、好ましくは100℃以上であることが望ましい。ここで、重合体の軟化点は、フローテスターにおいて、試料1.0gをノズル1mm×10mm、荷重30kg、予熱時間50℃で5分、昇温速度3℃/分の条件下で測定を行なったときの、フロー開始から終了までのストランドの中間点での温度として求めることができる。
更に、重合体のガラス転移温度〔Tg〕は、通常80℃以下、好ましくは70℃以下である。重合体のガラス転移温度〔Tg〕が高過ぎると低エネルギー定着ができなくなる可能性がある。また、重合体のガラス転移温度〔Tg〕の下限は、通常40℃以上、好ましくは50℃以上である。重合体のガラス転移温度〔Tg〕が低過ぎると耐ブロッキング性が低下する可能性がある。ここで重合体のガラス転移温度〔Tg〕は、示差走査熱量計において、昇温速度10℃/分の条件で測定した曲線の転移(変曲)開始部に接線を引き、2つの接線の交点の温度として求めることができる。
重合体の軟化点及びガラス転移温度〔Tg〕は、重合体の種類及びモノマー組成比、分子量等を調整することによって、前記範囲とすることができる。
(2.混合工程及び凝集工程)
前記の重合体一次粒子が分散したエマルジョンに、顔料の粒子を混合し、凝集させることにより、重合体、顔料を含む凝集体(凝集粒子)のエマルジョンを得る。この際、顔料としては、予め液状媒体に界面活性剤等を用いて均一に分散させた顔料粒子分散体を用意し、これを重合体一次粒子のエマルジョンに混合することが好ましい。この際、顔料粒子分散体の液状媒体として、通常は水等の水系溶媒を使用し、顔料粒子分散体を水系分散体として用意する。また、その際には、必要に応じてワックス、帯電制御剤、離型剤、内添剤等をエマルジョンに混合してもよい。また、顔料粒子分散体の安定性を保持するために、上述した乳化剤を加えてもよい。
重合体一次粒子としては、乳化重合により得た前記の重合体一次粒子を使用することができる。この際、重合体一次粒子は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。更に、上述した乳化重合とは異なる原料や反応条件で製造した重合体一次粒子(以下適宜「併用重合体粒子」という)を併用してもよい。
併用重合体粒子としては、例えば、懸濁重合や粉砕で得られた微粒子などが挙げられる。このような併用重合体粒子の材料としては樹脂を使用できるが、この樹脂としては、上述の乳化重合に供するモノマーの(共)重合体の他に、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルブチラール、ビニルピロリドン等のビニル系モノマーの単独重合体又は共重合体、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などの熱可塑性樹脂、及び、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられる。なお、これらの併用重合体粒子も、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。但し、併用重合体粒子の割合は、重合体一次粒子及び併用重合体粒子の重合体の合計に対して、通常5重量%以下、好ましくは4重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。
また、顔料に制限は無く、その用途に応じて任意のものを用いることができる。但し、顔料は通常は着色剤粒子として粒子状で存在するが、この顔料の粒子は、乳化重合凝集法における重合体一次粒子との密度差が小さい方が好ましい。前記の密度差が小さいほうが、重合体一時粒子と顔料とを凝集させた場合に均一な凝集状態が得られ、従って得られるトナーの性能が向上するからである。なお、重合体一次粒子の密度は、通常は1.1〜1.3g/cm3である。
前記の観点から、JIS K 5101−11−1:2004に規定されるピクノメーター法で測定される顔料粒子の真密度は、通常1.2g/cm3以上、好ましくは1.3g/cm3以上、また、通常2.0g/cm3未満、好ましくは1.9g/cm3以下、より好ましくは1.8g/cm3以下である。顔料の真密度が大きい場合は、特に液状媒体中での沈降性が悪化する傾向にある。加えて、保存性、昇華性などの課題も考慮すると、顔料はカーボンブラック又は有機顔料であるのが好ましい。
以上の条件を満たす顔料の例示としては、以下に示すイエロー顔料、マゼンタ顔料及びシアン顔料などが挙げられる。また、黒色顔料としては、カーボンブラック、又は、以下に示すイエロー顔料/マゼンタ顔料/シアン顔料を混合して黒色に調色されたものが利用される。
このうち、黒色顔料として使用されるカーボンブラックは、非常に微細な一次粒子の凝集体として存在し、顔料粒子分散体として分散させたときに、再凝集によるカーボンブラック粒子の粗大化が発生し易い。カーボンブラック粒子の再凝集の程度は、カーボンブラック中に含まれる不純物量(未分解有機物量の残留程度)の大小と相関が見られ、不純物が多いと分散後の再凝集による粗大化が顕著となる傾向を示す。
不純物量の定量的な評価としては、以下の測定方法で測定されるカーボンブラックのトルエン抽出物の紫外線吸光度が、通常0.05以下、好ましくは0.03以下である。一般に、チャンネル法のカーボンブラックは不純物が多い傾向を示すので、本発明に係るトナーに使用するカーボンブラックとしては、ファーネス法で製造されたものが好ましい。
なお、カーボンブラックの紫外線吸光度(λc)は、次の方法で求める。即ち、まずカーボンブラック3gをトルエン30mLに充分に分散、混合させて、続いてこの混合液をNo.5C濾紙を使用して濾過する。その後、濾液を吸光部が1cm角の石英セルに入れて市販の紫外線分光光度計を用いて波長336nmの吸光度を測定した値(λs)と、同じ方法でリファレンスとしてトルエンのみの吸光度を測定した値(λo)とから、紫外線吸光度はλc=λs−λoで求める。市販の分光光度計としては、例えば島津製作所製紫外可視分光光度計(UV−3100PC)等がある。
また、イエロー顔料としては、例えば、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物などに代表される化合物が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、109、110、111、128、129、147、168、180、185等が好適に用いられる。
更に、マゼンタ顔料としては、例えば、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アンスラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキウ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物などが用いられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、166、169、177、184、185、202、206、207、209、220、221、238、254、C.I.ピグメントバイオレット19等が好適に用いられる。
中でも、C.I.ピグメントレッド122、202、207、209、C.I.ピグメントバイオレット19で示されるキナクリドン系顔料が特に好ましい。このキナクリドン系顔料は、その鮮明な色相や高い耐光性などからマゼンタ顔料として好適である。キナクリドン系顔料の中でも、C.I.ピグメントレッド122で示される化合物が、特に好ましい。
また、シアン顔料としては、例えば、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アンスラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物などが利用できる。具体的には、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、66等が特に好適に利用できる。
なお、顔料は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
上記の顔料は、液状媒体に分散させ、顔料粒子分散体としてから重合体一次粒子を含有するエマルションと混合する。この際、顔料粒子分散体中における顔料粒子の使用量は、液状媒体100重量部に対して、通常3重量部以上、好ましくは5重量部以上、また、通常50重量部以下、好ましくは40重量部以下である。着色剤の配合量が前記範囲を上回ると、顔料濃度が濃いので分散中で顔料粒子が再凝集する確率が高まる場合があり、前記範囲未満だと、分散が過剰となって適切な粒度分布を得ることが困難になる場合がある。
また、重合体一次粒子に含まれる重合体に対する顔料の使用量の割合は、通常1重量%以上、好ましくは3重量%以上、また、通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下である。顔料の使用量が少な過ぎると画像濃度が薄くなる可能性があり、多過ぎると凝集制御が困難となる可能性がある。
更に、顔料粒子分散体には、界面活性剤を含有させてもよい。この界面活性剤に特に制限は無いが、例えば、乳化重合法の説明において乳化剤として例示した界面活性剤と同様のものが挙げられる。中でも、非イオン系界面活性剤、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類等のアニオン系活性剤、ポリマー系界面活性剤等が好ましく用いられる。また、この際、界面活性剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
なお、顔料粒子分散体に占める顔料の割合は、通常10〜50重量%である。
また、顔料粒子分散体の液状媒体としては、通常は水系媒体を用い、好ましくは水を用いる。この際、重合体一次粒子及び顔料粒子分散体の水質は各粒子の再凝集による粗大化にも関係し、導電率が高いと経時の分散安定性が悪化する傾向がある。従って、導電率を、通常10μS/cm以下、好ましくは5μS/cm以下となるように脱塩処理されたイオン交換水或いは蒸留水を用いることが好ましい。なお、導電率の測定は、導電率計(横河電機社製のパーソナルSCメータモデルSC72と検出器SC72SN−11)を用いて25℃下で測定を行なう。
また、重合体一次粒子を含有するエマルションに顔料を混合させる際、エマルションにワックスを混合してもよい。ワックスとしては、乳化重合法の説明において述べたものを同様のものを使用することができる。なお、ワックスは、重合体一次粒子を含有するエマルションに顔料を混合する前、混合中、後の何れにおいて混合してもよい。
また、重合体一次粒子を含有するエマルションに顔料を混合させる際、エマルションに帯電制御剤を混合してもよい。
帯電制御剤としては、この用途に用いられ得ることが知られている任意のものを使用することができる。正荷電性帯電制御剤としては、例えば、ニグロシン系染料、4級アンモニウム塩、トリフェニルメタン系化合物、イミダゾール系化合物、ポリアミン樹脂などが挙げられる。また、負荷電性帯電制御剤としては、例えば、Cr、Co、Al、Fe、B等の原子を含有するアゾ錯化合物染料;サリチル酸若しくはアルキルサリチル酸の金属塩又は金属錯体;カーリックスアレン化合物、ベンジル酸の金属塩又は金属錯体、アミド化合物、フェノール化合物、ナフトール化合物、フェノールアミド化合物などが挙げられる。中でも、トナーとしての色調障害を回避するため、無色ないしは淡色のものを選択することが好ましく、特に正荷電性帯電制御剤としては4級アンモニウム塩、イミダゾール系化合物が好ましく、負荷電性帯電制御剤としてはCr、Co、Al、Fe、B等の原子を含有するアルキルサリチル酸錯化合物、カーリックスアレン化合物が好ましい。帯電制御剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
帯電制御剤の使用量に制限は無いが、重合体100重量部に対し、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、また、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下とすることが望ましい。帯電制御剤の使用量が少な過ぎても多過ぎても、所望の帯電量が得られなくなる可能性がある。
帯電制御剤は、重合体一次粒子を含有するエマルションに顔料を混合する前、混合中、混合後の何れにおいて混合してもよい。
また、帯電制御剤は、前記顔料粒子と同様に、液状媒体(通常は、水系媒体)に乳化した状態として、凝集時に混合することが望ましい。
上記の重合体一次粒子を含有するエマルションに顔料を混合した後、重合体一次粒子と顔料とを凝集させる。なお、上述した通り、混合の際には通常、顔料は顔料粒子分散体の状態として混合する。
凝集方法に制限は無く任意であるが、例えば、加熱、電解質の混合、pHの調整等が挙げられる。中でも、電解質を混合する方法が好ましい。
電解質を混合して凝集を行なう場合の電解質としては、例えば、NaCl、KCl、LiCl、MgCl2、CaCl2等の塩化物;Na2SO4、K2SO4、Li2SO4、MgSO4、CaSO4、ZnSO4、Al2(SO4)3、Fe2(SO4)3等の硫酸塩などの無機塩;CH3COONa、C6H5SO3Na等の有機塩などが挙げられる。これらのうち、2価以上の多価の金属カチオンを有する無機塩が好ましい。
なお、電解質は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電解質の使用量は、電解質の種類によって異なるが、エマルジョン中の固形成分100重量部に対して、通常0.05重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、また、通常25重量部以下、好ましくは15重量部以下、より好ましくは10重量部以下である。電解質を混合して凝集を行なう場合において、電解質の使用量が少な過ぎると、凝集反応の進行が遅くなり、凝集反応後も1μm以下の微粉が残ったり、得られる凝集体の平均粒径が目的の粒径に達しないなどの可能性があり、また、電解質の使用量が多過ぎると、凝集反応が急速に起こるため粒径の制御が困難となり、得られる凝集体中に粗粉や不定形のものが含まれる可能性がある。
得られた凝集体は、後述する二次凝集体(溶融工程を経た凝集体)と同じく、引き続き液状媒体中で加熱して球形化するのが好ましい。加熱は、二次凝集体の場合と同様の条件(融合工程の説明において述べるのと同様の条件)で行なえばよい。
一方、加熱により凝集を行なう場合、温度条件は凝集が進行する限り任意である。具体的な温度条件を挙げると、通常15℃以上、好ましくは20℃以上、また、重合体一次粒子の重合体のガラス転移温度〔Tg〕以下、好ましくは55℃以下の温度条件で凝集を行なう。凝集を行なう時間も任意であるが、通常10分以上、好ましくは60分以上、また、通常300分以下、好ましくは180分以下である。
また、凝集を行なう際には、攪拌を加えることが好ましい。攪拌に使用する装置は特に限定されないが、ダブルヘリカル翼を有するものが好ましい。
得られた凝集体は、そのまま次工程の樹脂被覆層を形成する工程(カプセル化工程)に進んでもよいし、引き続き液状媒体中で加熱による融合処理を行なった後に、カプセル化工程に進んでもよい。なお、凝集工程の後にカプセル化工程を行ない、カプセル化樹脂微粒子のガラス転移温度〔Tg〕以上の温度で加熱して融合工程を行なうことが、工程を簡略化でき、トナーの性能劣化(熱劣化など)を生じないので好ましい。
(3.カプセル化工程)
凝集体を得た後、当該凝集体には、必要に応じて樹脂被覆層を形成することが好ましい。凝集体に樹脂被覆層を形成させるカプセル化工程とは、凝集体の表面に樹脂被覆層を形成することにより、凝集体を樹脂により被覆する工程である。これにより、製造されるトナーは樹脂被覆層を備えることになる。カプセル化工程では、トナー全体が完全に被覆されない場合もあるが、顔料は、実質的にトナー粒子の表面に露出していないトナーを得ることができるようになる。この際の樹脂被覆層の厚さに制限は無いが、通常は0.01〜0.5μmの範囲である。
前記樹脂被覆層を形成する方法としては、特に制限はないが、例えば、スプレードライ法、機械式粒子複合法、in−situ重合法、液中粒子被覆法などが挙げられる。
上記スプレードライ法により樹脂被覆層を形成する方法としては、例えば、内層を形成する凝集体と樹脂被覆層を形成する樹脂微粒子とを水媒体中に分散して分散液を作製し、分散液をスプレー噴出し、乾燥することによって、凝集体表面に樹脂被覆層を形成することができる。
また、前記機械式粒子複合法により樹脂被覆層を形成する方法としては、例えば、内層を形成する凝集体と樹脂被覆層を形成する樹脂微粒子とを気相中に分散させ、狭い間隙で機械的な力を加えて凝集体表面に樹脂微粒子を成膜化する方法であり、例えばハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所社製)、メカノフュージョンシステム(ホソカワミクロン社製)などの装置が使用できる。
更に、前記in−situ重合法としては、例えば、凝集体を水中に分散させ、モノマー及び重合開始剤を混合して、凝集体表面に吸着させ、加熱して、モノマーを重合させて、内層である凝集体表面に樹脂被覆層を形成する方法である。
また、前記液中粒子被覆法としては、例えば、内層を形成する凝集体と外層を形成する樹脂微粒子とを、水媒体中で反応或いは結合させ、内層を形成する凝集体の表面に樹脂被覆層を形成させる方法である。
外層を形成させる場合に用いる樹脂微粒子は、凝集体よりも粒径が小さく樹脂成分を主体とする粒子である。この樹脂微粒子は、重合体で構成された粒子であれば特に制限はない。但し、外層の厚みがコントロールできるという観点から、上述した重合体一次粒子、凝集体、又は、前記の凝集体を融合した融合粒子と同様の樹脂微粒子を用いることが好ましい。なお、これらの重合体一次粒子等と同様の樹脂微粒子は、内層に使用する凝集体における重合体一次粒子等と同様に製造することができる。
また、樹脂微粒子の使用量は任意であるが、トナー粒子に対して通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは25重量%以下の範囲で用いることが望ましい。
更に、凝集体に対する樹脂微粒子の固着又は融合を効果的に行なうためには、樹脂微粒子の粒径としては、通常0.04μm以上、1μm以下程度のものが好ましい。
樹脂被覆層に用いられる重合体成分(樹脂成分)のガラス転移温度〔Tg〕としては、通常60℃以上、好ましくは70℃以上、また、通常110℃以下が望ましい。更に、樹脂被覆層に用いられる重合体成分のガラス転移温度〔Tg〕は、重合体一次粒子のガラス転移温度〔Tg〕より5℃以上高いものであることが好ましく、10℃以上高いものであることがより好ましい。ガラス転移温度〔Tg〕が低過ぎると、一般環境での保存が困難となる場合があり、また高過ぎては充分な溶融性が得られない場合がある。
更に、樹脂被覆層中にはポリシロキサンワックスを含有させることが好ましい。これにより、耐高温オフセット性の向上という利点を得ることができる。ポリシロキサンワックスの例を挙げると、アルキル基を有するシリコーンワックスなどが挙げられる。
ポリシロキサンワックスの含有量に制限は無いが、トナー中、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.08重量%以上、また、通常2重量%以下、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下とする。樹脂被覆層中のポリシロキサンワックスの量が少な過ぎると、耐高温オフセット性が不十分となる可能性があり、多過ぎると耐ブロッキング性が低下する可能性がある。
樹脂被覆層中にポリシロキサンワックスを含有させる方法は任意であるが、例えば、ポリシロキサンワックスをシードとして乳化重合を行ない、得られた樹脂微粒子と、内層を形成する凝集体とを、水系媒体中で反応或いは結合させ、内層を形成する凝集体の表面にポリシロキサンワックスを含有する樹脂被覆層を形成させることにより含有させることが可能である。
(4.融合工程)
融合工程では、凝集体を加熱処理することにより、凝集体を構成する重合体の溶融一体化を行なう。
また、凝集体に樹脂被覆層を形成してカプセル化樹脂微粒子とした場合には、加熱処理をすることにより、凝集体を構成する重合体及びその表面の樹脂被覆層の融合一体化がなされることになる。これにより、顔料粒子は実質的に表面に露出しない形態で得られる。
融合工程の加熱処理の温度は、凝集体を構成する重合体一次粒子のガラス転移温度〔Tg〕以上の温度とする。また、樹脂被覆層を形成した場合には、樹脂被覆層を形成する重合体成分のガラス転移温度〔Tg〕以上の温度とする。具体的な温度条件は任意であるが、樹脂被覆層を形成する重合体成分のガラス転移温度〔Tg〕よりも、通常5℃以上高温であることが好ましい。その上限に制限は無いが、「樹脂被覆層を形成する重合体成分のガラス転移温度〔Tg〕よりも50℃高い温度」以下が好ましい。
なお、加熱処理の時間は処理能力、製造量にもよるが、通常0.5〜6時間である。
(5.洗浄・乾燥工程)
上述した各工程を液状媒体中で行なっていた場合には、融合工程の後、得られたカプセル化樹脂粒子を洗浄し、乾燥して液状媒体を除去することにより、トナーを得ることができる。洗浄及び乾燥の方法に制限は無く任意である。
<トナーの粒径に関する物性値>
本発明に係るトナーの体積平均粒径〔Dv〕に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常4μm以上、好ましくは5μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは8μm以下である。トナーの体積平均粒径〔Dv〕が小さ過ぎると画質の安定性が低下する可能性があり、大き過ぎると解像度が低下する可能性がある。
また、本発明に係るトナーは、体積平均粒径〔Dv〕を個数平均粒径〔Dn〕で除した値〔Dv/Dn〕が、通常1.0以上、また、通常1.25以下、好ましくは1.20以下、より好ましくは1.15以下であることが望ましい。〔Dv/Dn〕の値は、粒度分布の状態を表わし、この値が1.0に近い方ほど粒度分布がシャープであることを表わす。粒度分布がシャープであるほど、トナーの帯電性が均一となるので望ましい。
更に、本発明に係るトナーは、粒径25μm以上の体積分率が、通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下、更に好ましくは0.05%以下である。この値は小さいほど好ましい。これは、トナーに含まれる粗粉の割合が少ないことを意味しており、粗粉が少ないと、連続現像の際のトナーの消費量が少なく、画質が安定するので好ましいのである。なお、粒径25μm以上の粗粉は全く存在しないのが最も好ましいが、実際の製造上は困難であり、通常は0.005%以下にしなくとも構わない。
また、本発明に係るトナーは、粒径15μm以上の体積分率が、通常2%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.1%以下である。粒径15μm以上の粗粉も全く存在しないのが最も好ましいが、実際の製造上は困難であり、通常は0.01%以下にしなくとも構わない。
更に、本発明に係るトナーは、粒径5μm以下の個数分率が、通常15%以下、好ましくは10%以下であることが、画像カブリの改善に効果があるので、望ましい。
ここで、トナーの体積平均粒径〔Dv〕、個数平均粒径〔Dn〕、体積分率及び個数分率は、以下の手順で測定することができる。トナーの粒子径の測定装置としては、コールターカウンターのマルチサイザーII型或いはIII型(ベックマン・コールター社製)を用い、個数分布・体積分布を出力するインターフェイス及び一般的なパーソナルコンピューターを接続して使用する。また、電解液としてはアイソトンIIを用いる。測定法としては、前記電解液100〜150mL中に分散剤として界面活性剤(好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩)を0.1〜5mL加え、更に測定試料(トナー)を2〜20mg加える。そして、試料を懸濁した電解液は超音波分散器で約1〜3分間分散処理を行ない、前記コールターカウンターのマルチサイザーII型或いはIII型により、100μmアパーチャーを用いて測定する。このようにしてトナーの個数及び体積を測定して、それぞれ個数分布、体積分布を算出し、それぞれ体積平均粒径〔Dv〕、個数平均粒径〔Dn〕を求める。
<トナーの分子量に関する物性値>
本発明に係るトナーのTHF可溶分のGPCにおけるピーク分子量のうち少なくとも1つは、通常1万以上、好ましくは2万以上、より好ましくは3万以上であり、通常15万以下、好ましくは10万以下、より好ましくは7万以下である。なお、THFはテトラヒドロフランのことを言う。ピーク分子量が何れも前記範囲より低い場合は、非磁性一成分現像方式における機械的耐久性が悪化する場合があり、ピーク分子量が何れも前記範囲より高い場合は、低温定着性や定着強度が悪化する場合がある。
なお、本発明に係るトナーのTHF可溶分のGPCにおけるピーク分子量は、測定装置:HLC−8120GPC(東ソー株式会社製)を用いて、次の条件で測定される。
即ち、40℃のヒートチャンバー中でカラムを安定化させ、この温度におけるカラムに、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を毎分1mLの流速で流す。次いで、トナーをTHFに溶解後、0.2μmフィルターで濾過し、その濾液を試料として用いる。
測定は、試料濃度(樹脂の濃度)を0.05〜0.6質量%に調整した樹脂のTHF溶液を測定装置に50〜200μL注入して行なう。試料(トナー中の樹脂成分)の分子量測定にあたっては、試料の有する分子量分布を、数種の単分散ポリスチレン標準試料により作成された検量線の対数値とカウント数との関係から算出する。検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、例えば、PressureChemical Co.製或いは、東洋ソーダ工業社製の、分子量が6×102、2.1×103、4×103、1.75×104、5.1×104、1.1×105、3.9×105、8.6×105、2×106、4.48×106のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を用いるのが適当である。また、検出器にはRI(屈折率)検出器を用いる。
更に、前記の測定方法で用いるカラムとしては、103〜2×106の分子量領域を適確に測定するために、市販のポリスチレンゲルカラムを複数組合せるのがよく、例えば、Waters社製のμ−styragel500,103,104,105の組合せや、昭和電工社製のshodex KA801,802,803,804,805,806,807の組合せが好ましい。
また、本発明に係るトナーのTHF不溶分は、後述するセライト濾過による重量法で測定した場合、通常10%以上、好ましくは20%以上であり、また、通常60%以下、好ましくは50%以下である。前記範囲にない場合は、機械的耐久性と低温定着性の両立が困難となる場合がある。
なお、トナーのテトラヒドロフラン(THF)不溶分の測定は、以下の手順で行なうことができる。即ち、試料(トナー)1gをTHF100gに加え、25℃で24時間静置して溶解させた後、セライト10gを用いて濾過し、濾液の溶媒を留去してTHF可溶分を定量し、それを1gから差し引いて、THF不溶分を算出することができる。
<トナーの軟化点及びガラス転移温度>
本発明に係るトナーの軟化点〔Sp〕に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、低エネルギーで定着する観点から、上限は通常150℃以下、好ましくは140℃以下であることが望ましい。また、耐高温オフセット性、耐久性の点から、軟化点の下限は通常80℃以上、好ましくは100℃以上であることが望ましい。
なお、トナーの軟化点〔Sp〕は、フローテスターにおいて、試料1.0gをノズル1mm×10mm、荷重30kg、予熱時間50℃で5分、昇温速度3℃/分の条件下で測定を行なったときの、フロー開始から終了までのストランドの中間点での温度として求めることができる。
また、本発明に係るトナーのガラス転移温度〔Tg〕に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常80℃以下、好ましくは70℃以下であると、低エネルギーで定着できるので望ましい。また、ガラス転移温度〔Tg〕は、通常40℃以上、好ましくは50℃以上であると、耐ブロッキング性の点で望ましい。
なお、トナーのガラス転移温度〔Tg〕は、示差走査熱量計において、昇温速度10℃/分の条件で測定した曲線の転移(変曲)開始部に接線を引き、2つの接線の交点の温度として求めることができる。
トナーの軟化点〔Sp〕及びガラス転移温度〔Tg〕は、トナーに含まれる重合体の種類及び組成比に大きく影響を受ける。このため、トナーの軟化点〔Sp〕及びガラス転移温度〔Tg〕は、前記の重合体の種類及び組成を適宜最適化することにより調整することができる。また、重合体の分子量、ゲル分、ワックス等の低融点成分の種類及び配合量によっても、調整することが可能である。
<トナー中のワックス>
本発明に係るトナーがワックスを含有する場合、トナー粒子中におけるワックスの分散粒径は、平均粒径として、通常0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上であり、また、上限は通常3μm以下、好ましくは1μm以下であることが望ましい。ワックスの分散粒径が小さ過ぎると、トナーの耐フィルミング性改良の効果が得られない可能性があり、ワックスの分散粒径が大き過ぎると、トナーの表面にワックスが露出し易くなり、帯電性や耐熱性が低下する可能性がある。
なお、ワックスの分散粒径は、トナーを薄片化して電子顕微鏡観察する方法の他、ワックスが溶解しない有機溶剤等でトナーの重合体を溶出した後にフィルターで濾過し、フィルター上に残ったワックス粒子を顕微鏡により計測する方法などにより確認することができる。
また、本発明に係るトナーに占めるワックスの割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、好ましくは0.1重量%以上であり、また通常20重量%以下、好ましくは15重量%以下とすることが望ましい。ワックスの割合が少な過ぎると、定着温度幅が不十分となる可能性があり、多過ぎると、装置部材を汚染して画質が低下する可能性がある。
<外添微粒子>
本発明に係るトナーは、その流動性、帯電安定性、高温下での耐ブロッキング性などを向上させるために、トナー粒子表面に外添微粒子を添着させて使用してもよい。
外添微粒子をトナー粒子表面に添着させる方法としては、例えば、上述したトナーの製造方法において、液状媒体中で二次凝集体と外添微粒子を混合した後、加熱してトナー粒子上に外添微粒子を固着させる方法;二次凝集体を液状媒体から分離、洗浄、乾燥させて得られたトナー粒子に乾式で外添微粒子を混合又は固着させる方法などが挙げられる。
乾式でトナー粒子と外添微粒子とを混合する場合に用いられる混合機としては、例えば、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、V型ミキサー、レディゲミキサー、ダブルコーンミキサー、ドラム型ミキサーなどが挙げられる。中でもヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の高速攪拌型の混合機を用い、羽根形状、回転数、時間、駆動−停止の回数等を適宜設定して均一に攪拌、混合することにより混合することが好ましい。
また、乾式でトナー粒子と外添微粒子を固着させる場合に用いられる装置としては、圧縮剪断応力を加えることの出来る圧縮剪断処理装置や、粒子表面を溶融処理することのできる粒子表面溶融処理装置などが挙げられる。
圧縮剪断処理装置は、一般に、間隔を保持しながら相対的に運動するヘッド面とヘッド面、ヘッド面と壁面、或いは壁面と壁面によって構成される狭い間隙部を有し、被処理粒子が該間隙部を強制的に通過させられることによって、実質的に粉砕されることなく、粒子表面に対して圧縮応力及び剪断応力が加えられるように構成されている。このような圧縮剪断処理装置としては、例えば、ホソカワミクロン社製のメカノフュージョン装置等が挙げられる。
一方、粒子表面溶融処理装置は、一般に、熱風気流等を利用し、母体微粒子と外添微粒子との混合物を母体微粒子の溶融開始温度以上に瞬時に加熱し外添微粒子を固着できるように構成される。このような粒子表面溶融処理装置としては、例えば、日本ニューマチック社製のサーフュージングシステム等が挙げられる。
また、外添微粒子としては、この用途に用い得ることが知られている公知のものが使用できる。例えば、無機微粒子、有機微粒子などが挙げられる。
無機微粒子としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化タングステン、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化カルシウム等の炭化物、窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化珪素等の窒化物、ホウ化ジルコニウム等のホウ化物、シリカ、コロイダルシリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、タルク、ハイドロタルサイト等の酸化物や水酸化物、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の各種チタン酸化合物、リン酸三カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸イオンの一部が陰イオンによって置換された置換リン酸カルシウム等のリン酸化合物、二硫化モリブデン等の硫化物、フッ化マグネシウム、フッ化炭素等のフッ化物、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸、滑石、ベントナイト、導電性カーボンブラックをはじめとする種々のカーボンブラック等を用いることができる。更には、マグネタイト、マグへマタイト、マグネタイトとマグヘマタイトの中間体等の磁性物質などを用いてもよい。
一方、有機微粒子としては、例えば、スチレン系樹脂、ポリアクリル酸メチルやポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、テトラフロロエチレン樹脂、トリフロロエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリアクリロニトリルなどの微粒子を用いることができる。
これら外添微粒子の中では、特に、シリカ、酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛、カーボンブラック等が好適に使用される。
また、これらの無機又は有機微粒子の表面には、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、シリコーンワニス、フッ素系シランカップリング剤、フッ素系シリコーンオイル、アミノ基や第4級アンモニウム塩基を有するカップリング剤等の処理剤によって疎水化などの表面処理が施されていてもよい。なお、処理剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
なお、外添微粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
更に、外添微粒子の数平均粒径は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.001μm以上、好ましくは0.005μm以上、また、通常3μm以下、好ましくは1μm以下であり、異なる平均粒径のものを複数配合してもよい。なお、外添微粒子の平均粒径は、電子顕微鏡観察やBET比表面積の値からの換算等により求めることができる。
また、本発明に係るトナーに対する外添微粒子の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明に係るトナーと外添微粒子との合計重量に対する外添微粒子の割合として、通常0.1重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましくは6重量%以下、より好ましくは4重量%以下とすることが望ましい。外添微粒子が少な過ぎると、流動性や帯電安定性が不足する可能性があり、多過ぎると、定着性が悪化する可能性がある。
<その他>
本発明に係るトナーの帯電特性は、負帯電性であっても、正帯電性であってもよく、用いる画像形成装置の方式に応じて設定することができる。なお、トナーの帯電特性は、帯電制御剤などのトナー母粒子構成物の選択及び組成比、外添微粒子の選択及び組成比等により調整することができる。
また、本発明に係るトナーは、一成分現像剤として用いることも、キャリアと混合して二成分現像剤として用いることも可能である。
本発明に係るトナーを二成分現像剤として用いる場合、本発明に係るトナーと混合して現像剤を形成するキャリアとしては、例えば、公知の鉄粉系、フェライト系、マグネタイト系キャリア等の磁性物質、又は、それらの表面に樹脂コーティングを施したものや、磁性樹脂キャリア等が挙げられる。
キャリアの被覆樹脂としては、例えば、一般的に知られているスチレン系樹脂、アクリル樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等が利用できるが、これらに限定されるものではない。
キャリアの平均粒径は特に制限はないが、通常10μm以上、通常200μmの平均粒径を有するものが好ましい。
キャリアは、トナー1重量部に対して、通常は5重量部以上、100重量部以下の割合で用いるのが好ましい。
なお、電子写真方式によるフルカラー画像の形成は、マゼンタ、シアン、イエローの各カラートナー、及び、必要に応じてブラックトナーを用いて、常法により実施することができる。
以下、合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[粉末XRDスペクトル測定及びピーク半値幅の算出条件]
なお、後述の各合成例及び比較合成例で得られたフタロシアニン類の粉末X線回折スペクトルは、以下の手順で測定した。即ち、測定装置としては、CuKα特性X線(波長1.541Å)を線源とした集中光学系の粉末X線回折計であるPANalytical社製のPW1700を使用した。測定条件は、X線出力40kV,30mA、走査範囲(2θ)3〜40°、スキャンステップ幅0.05°、走査速度3.0°/min、発散スリット1.0°、散乱スリット1.0°、受光スリット0.2mmとした。
ピーク半値幅は、プロファイルフィッティング法により算出した。プロファイルフィッティングは、MDI社製粉末X線回折パターン解析ソフトJADE5.0+を用いて行なった。その算出条件は、以下の通りとした。即ち、バックグランドは、全測定範囲(2θ=3.0〜40.0°)から理想的な位置に固定した。フィッティング関数としては、CuKα2の寄与を考慮したPeason−VII関数を用いた。フィッティング関数の変数としては、回折角(2θ)、ピーク高さ、ピーク半値幅(βo)の3つを精密化した。CuKα2の影響を除去し、CuKα1由来の回折角(2θ)、ピーク高さ、ピーク半値幅(βo)を計算した。非対称は0に、形定数は1.5に固定した。
上記のプロファイルフィッティングより算出したピーク半値幅(βo)を、同測定条件、同プロファイルフィッティング条件により算出した標準Si(NISTSi 640b)の111ピーク(2θ=28.442°)のピーク半値幅(βSi)により、下式に従って補正することにより、試料由来のピーク半値幅(β)を求めた。
[合成例1(β型オキシチタニウムフタロシアニン結晶)]
特開平10−7925号公報に記載の「粗TiOPcの製造例」、次いで「実施例1」の手順に従って、β型オキシチタニウムフタロシアニン結晶を調製した。得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図6に示す。また、得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶中に含有される塩素分を、上記[発明を実施するための最良の形態]の<塩素含有量測定条件(元素分析)>の欄に記載の手法に従って分析した結果、塩素含有量は検出下限以下の0.20重量%以下であった。また、上記[発明を実施するための最良の形態]の<マススペクトル測定条件>の欄に記載の手法に従って、得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶中のオキシチタニウムフタロシアニンに対するクロロオキシチタニウムフタロシアニンのピーク強度比を測定したところ、0.002であった。
[合成例2(低結晶性オキシチタニウムフタロシアニン)]
合成例1で得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶50重量部を、−10℃以下に冷却した95%濃硫酸1250重量部中に加えた。この時、硫酸溶液の内温が−5℃を超えないように、ゆっくりと加えた。添加終了後、濃硫酸溶液を−5℃以下で2時間撹拌した。撹拌後、濃硫酸溶液をガラスフィルターで濾過し、不溶分を濾別後、濃硫酸溶液を氷水12500重量部中に放出することにより、オキシチタニウムフタロシアニンを析出させ、放出後1時間撹拌した。撹拌後、溶液を濾別し、得られたウェットケーキを再度、水2500重量部中で1時間洗浄し、濾過を行なった。この洗浄操作を、濾液のイオン伝導度が0.5mS/mになるまで繰り返すことにより、低結晶性オキシチタニウムフタロシアニンのウェットケーキ452重量部を得た(オキシチタニウムフタロシアニン含有率11.1重量%)。得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図7に示す。
[実施例1〜4、比較合成例1]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例2で得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニンのウェットケーキ33重量部を水90重量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表2の右欄に示す化合物各13重量部を加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加えて1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これらを以下適宜、実施例1〜4及び比較合成例1のフタロシアニン結晶という。)。実施例1〜4及び比較合成例1のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルをそれぞれ図8〜12に示す。図8〜12の粉末XRDスペクトルから明らかなように、実施例1〜4及び比較合成例1のフタロシアニン結晶は、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。
[合成例3(低結晶性フタロシアニン組成物)]
合成例2において、原料として用いた合成例1のオキシチタニウムフタロシアニン結晶50重量部を、合成例1のオキシチタニウムフタロシアニン結晶47.5重量部と無金属フタロシアニン(大日本インキ化学工業(株)社製「FastgenBlue8120BS」)2.5重量部との混合物に変更した以外は、合成例2と同様の操作を行なうことにより、低結晶性フタロシアニン組成物のウェットケーキ410重量部を得た(フタロシアニン類の含有率12.2重量%)。得られた低結晶性フタロシアニン類の粉末XRDスペクトルを図13に示す。
[実施例5〜8、比較合成例2]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例7で得られた低結晶性フタロシアニン組成物のウェットケーキ33重量部を水90重量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表3の右欄に示す化合物各13重量部を加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加え1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニンと無金属フタロシアニンとの混晶を得た(これらを各々、実施例5〜8及び比較合成例2のフタロシアニン結晶という。)。得られた実施例5〜8及び比較合成例2のオキシチタニウムフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図14〜18に示す。図14〜18の粉末XRDスペクトルから明らかなように、実施例5〜8及び比較合成例2のオキシチタニウムフタロシアニン混晶は、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。
[感光体の製造方法]
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(厚み75μm)の表面にアルミニウム蒸着膜(厚み70nm)を形成した導電性支持体を用い、その支持体の蒸着層上に、以下に示す手法で調製した下引き層用分散液をバーコーターにより、乾燥後の膜厚が1.25μm以下となるように塗布し、乾燥させ下引き層を形成した。
下引き層用分散液の調製は以下の手法で行なった。即ち、平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機((株)カワタ社製「SMG300」)に投入し、回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1−プロパノールのボールミルにより分散させることにより、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε−カプロラクタム[下記式(A)で表わされる化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表わされる化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表わされる化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表わされる化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表わされる化合物]の組成モル比率が、60%/15%/5%/15%/5%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行なうことにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの重量比が7/1/2で、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の下引き層分散液とした。
一方、電荷発生物質として、後述するフタロシアニン結晶各20重量部を用い、これを1,2−ジメトキシエタン280重量部と混合し、サンドグラインドミルで2時間粉砕して微粒化分散処理を行なった。また、1,2−ジメトキシエタン253重量部及び4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン85重量部の混合液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)社製、商品名「デンカブチラール」#6000C)10重量部を溶解させて、バインダー液を調製した。上述の微粒化分散処理により得られた微細化処理液及び上述のバインダー液と1,2−ジメトキシエタン230重量部とを混合して、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を、前記導電性支持体上に形成された下引き層上に、バーコーターにより、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように塗布し、乾燥させて電荷発生層を形成した。
更に、特開2002−80432号公報の「実施例1」に基づいて合成された、下記構造式(F)で示される構造を主成分とする、幾何異性体の化合物群からなる混合物50重量部を電荷輸送物質として用い、また、下記構造式(G)で示される2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位51モル%と、下記構造式(H)で示される1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位49モル%とからなり、p−t−ブチルフェノールに由来する末端構造式を有するポリカーボネート樹脂100重量部をバインダー樹脂として用い、その他に、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール8重量部、シリコーンオイル(商品名「KF96」、信越化学工業(株)製)0.03重量部を、テトラヒドロフラン/トルエン(重量比8/2)混合溶媒640重量部に溶解させて電荷輸送層用塗布液Aを調製した。この電荷輸送層用塗布液を、前述のようにして電荷発生層を設けた樹脂フィルム上に、乾燥後の膜厚が25μmとなるように塗布し、乾燥させて電荷輸送層を形成することにより、積層型感光層を有する電子写真感光体を作製した。
[実施例9〜16、比較例1,2]
電荷発生物質として実施例9〜16、比較合成例1,2のフタロシアニン結晶を用い、上述の感光体製造方法に従って電子写真感光体を製造した。これらを以下適宜、実施例9〜16、比較例1,2の電子写真感光体という。各電子写真感光体と、電荷発生物質として用いたフタロシアニン結晶及びその組成との対応を下記表4に示す。
[電子写真感光体の評価]
実施例9〜16及び比較例1,2の電子写真感光体を、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置(「続電子写真技術の基礎と応用」、電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)に装着し、以下の手順に従って帯電、露光、電位測定、除電のサイクルを実施することにより、電気特性の評価を行なった。
帯電器を−70°、露光装置を0°、表面電位計プローブを36°、除電器を−150°の角度に配置し、各機器は感光体表面からの距離を2mmに配置した。帯電はスコロトロン帯電器を用いた。露光ランプはウシオ電機社製のハロゲンランプJDR110V−85WLN/K7を用い、朝日分光社製フィルターMX0780を用いて780nmの単色光とした。除電光には660nmのLED光を用いた。
感光体を一定の回転速度(60rpm)で回転させながら、感光体の初期表面電位が−700Vとなるように帯電させ、帯電した感光体表面を780nmの単色光が露光される露光部を通過させ、表面電位計のプローブの位置に来た時の表面電位を測定した(露光〜電位測定間100ms)。
続いて、感光体表面に対し、780nmの単色光をNDフィルターに通して光量を変化させて照射して、表面電位が−350Vとなる時の照射エネルギー(露光エネルギー)を測定した。
感光体をNN環境下に8時間放置した後に、NN環境下で測定した照射エネルギー(露光エネルギー)の値(単位μJ/cm2)を標準湿度感度(以下「En1/2」と言う場合がある。)とし、感光体をNL環境下に8時間放置した後に、NL環境下で測定した照射エネルギー(露光エネルギー)の値(単位μJ/cm2)を低湿感度(以下「El1/2」と言う場合がある。)とした。
得られた標準湿度感度:En1/2及び低湿感度:El1/2の値を用い、下記式に従って計算することにより、湿度変化による感度保持率を算出した(単位%)。
実施例9〜16、比較例1,2の電子写真感光体についての電気特性の評価結果を下記表5に示す。
電荷発生物質として用いた実施例1〜8、比較合成例1,2のフタロシアニン結晶は、粉末XRDスペクトル(図8〜12,14〜18)から明らかなように、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するフタロシアニン結晶であった。
これらの実施例1〜8、比較合成例1,2のフタロシアニン結晶を電荷発生物質として用いた実施例9〜16、比較例1,2の電子写真感光体を、そのフタロシアニン結晶の組成に応じて二組に分け{(オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶:実施例9〜12、比較例1)と、(オキシチタニウムフタロシアニンと無金属フタロシアニンとの混晶:実施例13〜16、比較例2)}、各組について実施例と比較例とを比較すると、標準湿度感度El1/2は、実施例、比較例ともに同等である。しかしながら、感度保持率の値を比較すると、実施例の電子写真感光体の方が比較例の電子写真感光体に比べて、湿度変化に対する感度の変動が少ない。
以上の結果から、フタロシアニン結晶前駆体を芳香族アルデヒド化合物に接触させることにより結晶型を変換する工程を経て得られた実施例1〜4及び実施例5〜8のフタロシアニン結晶(即ち、本発明のフタロシアニン結晶)を電子写真感光体に用いた際に、使用環境の変化に対する感度変動を大幅に改善することが可能であることが明らかとなった。
[実施例17〜22、比較合成例3〜8]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例2で得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニンのウェットケーキ38重量部を水100重量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表6の右欄に示す芳香族化合物各9mlを加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加えて1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これらを以下適宜、実施例17〜22、比較合成例3〜8のフタロシアニン結晶という。)。実施例17〜22、比較合成例3〜8のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルをそれぞれ図19〜30に示す。図19〜30の粉末XRDスペクトルから明らかなように、実施例17〜22、比較合成例3〜8のフタロシアニン結晶は、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。
[実施例23〜25、比較合成例9〜12]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例3で得られた低結晶性フタロシアニン組成物のウェットケーキ33重量部を水90重量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表7の右欄に示す芳香族化合物各9mlを加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加え1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニンと無金属フタロシアニンとの混晶を得た(これらを各々、実施例23〜25、比較合成例9〜12のフタロシアニン結晶という。)。得られた実施例23〜25、比較合成例9〜12のオキシチタニウムフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図31〜37に示す。図31〜37の粉末XRDスペクトルから明らかなように、実施例23〜25、比較合成例9〜12のオキシチタニウムフタロシアニン混晶は、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。
[実施例26〜34、比較例3〜12]
電荷発生物質として実施例17〜25、比較合成例3〜12のフタロシアニン結晶を用い、上述の感光体製造方法に従って電子写真感光体を製造した(これらを以下適宜、実施例26〜34、比較例3〜12の電子写真感光体という。)。各電子写真感光体と、電荷発生物質として用いたフタロシアニン結晶との対応を、下記表8及び表9に示す。
[電子写真感光体の評価]
実施例26〜34、比較例3〜12の電子写真感光体を、実施例9〜16の評価と同様にして電気特性の評価を行ない、実施例26〜34、比較例3〜12の電子写真感光体についての電気特性の評価結果を、下記表8及び表9に示す。なお、下記表8及び表9において、類似する構造の芳香族化合物とフタロシアニン結晶前駆体とを接触させて得られたフタロシアニン結晶を用いた実施例及び比較例については、上下に並べて示している。
電荷発生物質として用いた実施例17〜25、比較合成例3〜12のフタロシアニン結晶は、粉末XRDスペクトル(図19〜37)から明らかなように、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するフタロシアニン結晶であった。
これらの実施例17〜25、比較合成例3〜12のフタロシアニン結晶を電荷発生物質として用いた実施例26〜34、比較例3〜12の電子写真感光体を、使用したフタロシアニン結晶の組成と、フタロシアニン結晶を製造する際に結晶変換処理に用いた芳香族化合物の構造とに応じて8組(実施例26,27及び比較例3;実施例28及び比較例4;実施例29及び比較例5;実施例30及び比較例6;実施例31及び比較例7,8;実施例32及び比較例9;実施例33及び比較例10;実施例34及び比較例11,12)に分け、各組について実施例と比較例とを比較すると、実施例の電子写真感光体の方が比較例の電子写真感光体に比べて、高い標準湿度感度En1/2が得られているのが分かる。
以上の結果から、フタロシアニン結晶前駆体を特定置換基含有芳香族化合物に接触させることにより結晶型を変換する工程を経て得られた実施例17〜25のフタロシアニン結晶(即ち、本発明のフタロシアニン結晶)は、電子写真感光体に用いた際に、高い標準湿度感度En1/2が得られることが明らかとなった。
[実施例35〜68、比較合成例13〜14]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例2で得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニンのウェットケーキ40重量部を水90重量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表10に示す実施例35〜68の接触処理液(非酸性有機化合物に特定有機酸化合物を所定の濃度で混合した溶液)各9mlを加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加えて1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これらを以下適宜、実施例35〜68のフタロシアニン結晶という。)。
また、上述の実施例35〜68において、実施例35〜68の接触処理液の代わりに、下記表11に示す比較合成例13,14の接触処理液(非酸性有機化合物のみからなる液)各9mlを用いた他は、実施例35〜68と同様の操作を行なうことにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これらを以下適宜、比較合成例13,14のフタロシアニン結晶という。)。
実施例35〜68及び比較合成例13,14のフタロシアニン結晶について、粉末XRDスペクトルを測定した。得られた粉末XRDスペクトルは、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。なお、使用した非酸性有機化合物が同一の場合は、特定有機酸化合物の存在の有無にかかわらず、概ね同じ形状の粉末X線回折スペクトルが得られた。代表例として、実施例35、64、65、67、68で得られたフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルをそれぞれ図38〜図42に示す。
[実施例69]
合成例2で得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニン(フタロシアニン結晶前駆体)のウェットケーキ40重量部を、テトラヒドロフラン(非酸性有機化合物)100mlに3−クロロ安息香酸(特定有機酸化合物)15gを溶解させた溶液(下記表10に示す実施例69の接触処理液)に加え、室温で3時間撹拌した。撹拌後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これを以下適宜、実施例69のフタロシアニン結晶という。)。実施例69のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図43に示す。図43から明らかなように、合成例37のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルは、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。
[比較合成例15]
上述の実施例69において、3−クロロ安息香酸のテトラヒドロフラン溶液の代わりにテトラヒドロフラン100mlを用いた他は、実施例69と同様の操作を行なうことにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これを以下適宜、比較合成例15のフタロシアニン結晶という。)。比較合成例6のフタロシアニン結晶について粉末XRDスペクトルを測定したところ、得られた粉末XRDスペクトルは、上記実施例69のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトル(図43)と概ね同じ形状であった。
[実施例70〜74]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例3で得られた低結晶性フタロシアニン組成物のウェットケーキ33重量部を水90重量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表11に示す実施例70〜74の接触処理液(非酸性有機化合物に特定有機酸化合物を所定の濃度で混合した溶液)各9mlを加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加え1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニンと無金属フタロシアニンとの混晶を得た(これらを各々、実施例70〜74のフタロシアニン結晶という。)。
実施例70〜74のフタロシアニン結晶について、粉末XRDスペクトルを測定した。得られた粉末XRDスペクトルは、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。また、これらの粉末X線回折スペクトルは、何れも概ね同じ形状であった。代表例として、実施例70で得られたフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図44に示す。
[実施例75〜114]
電荷発生物質として実施例35〜74のフタロシアニン結晶を用い、上述の感光体製造方法に従って電子写真感光体を製造した(これらを以下適宜、実施例75〜114の電子写真感光体という。)。各電子写真感光体と、電荷発生物質として用いたフタロシアニン結晶及びその組成との対応を、下記表12及び表13に示す。
[電子写真感光体の評価]
実施例75〜114、比較例13〜15の電子写真感光体について、実施例9〜16の評価と同様にして電気特性の評価を行ない、実施例75〜114、比較例13〜15の電子写真感光体についての感度保持率の評価結果を、下記表12及び表13に示す。なお、下記表12及び表13において、同じ非酸性有機化合物を用いて得られたフタロシアニン結晶を使用した実施例及び比較例については、上下に並べて示している。
これらの実施例35〜74、比較合成例13〜15のフタロシアニン結晶を電荷発生物質として用いた実施例75〜114、比較例13〜15の電子写真感光体を比較すると、比較例14、15の電子写真感光体は、標準湿度感度En1/2に劣るものであり、しかも感度保持率も劣るものであった。また、比較例13の電子写真感光体は、標準湿度感度En1/2は実施例の電子写真感光体とほぼ同等であったが、感度保持率の値を比較すると、非酸性有機化合物及び特定有機酸化合物に接触させて得られたフタロシアニン結晶を用いた実施例の電子写真感光体の方が、非酸性有機化合物のみに接触させて得られたフタロシアニン結晶を用いた比較例の電子写真感光体に比べて、湿度変化に対する感度の変動が少なくより好ましいことが分かる。
[実施例115、116]
上述の[感光体の製造方法]において、電荷発生層用塗布液を調製する際に、電荷発生物質として、上述の各実施例及び比較合成例のフタロシアニン結晶各20重量部の代わりに、実施例1のフタロシアニン結晶20重量部と3−クロロ安息香酸1.25重量部とを併せて用いた他は、上述の[感光体の製造方法]の手順に従って電子写真感光体を製造した。これを以下適宜、実施例115の電子写真感光体という。
また、3−クロロ安息香酸1.25重量部の代わりにトリメリット有機酸無水物1.25重量部を用いた他は、実施例115と同様の手順に従って電子写真感光体を製造した。これを以下適宜、実施例116の電子写真感光体という。
これら実施例115、116の電子写真感光体についても、上述の実施例9〜16、比較例1,2の電子写真感光体の場合と同様の手順に従って、電気特性の評価を行なった。
実施例79,86,115,116の電子写真感光体についての電気特性の評価結果を下記表14に示す。
以上の結果から、上述の特定有機酸化合物を電荷発生層用塗布液の調製時に加えただけでは、感度の向上及び使用環境の湿度変化に対する感度変動の抑制効果は、小さいことが分かる。
[実施例117〜131]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例2で得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニンのウェットケーキ40重量部を水100量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表15に示す実施例117〜131の接触処理液(非酸性特定有機化合物に電子吸引性特定芳香族化合物を所定の濃度で混合した溶液)各9mlを加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加えて1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これらを以下適宜、実施例117〜131のフタロシアニン結晶という。)。
実施例117〜131のフタロシアニン結晶について、粉末XRDスペクトルを測定した。得られた粉末XRDスペクトルは、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。なお、使用した非酸性特定有機化合物が同一の場合は、電子吸引性特定芳香族化合物の存在の有無にかかわらず、概ね同じ形状の粉末X線回折スペクトルが得られた。代表例として、実施例128〜131で得られたフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルをそれぞれ図45〜図48に示す。
[実施例132]
合成例2で得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニン(フタロシアニン結晶前駆体)のウェットケーキ40重量部を、テトラヒドロフラン(非酸性特定有機化合物)100mlにフタリド(電子吸引性特定芳香族化合物)15gを溶解させた混合溶液(下記表15に示す実施例132の接触処理液)に加え、室温で3時間撹拌した。撹拌後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これを以下適宜、実施例132のフタロシアニン結晶という。)。実施例132のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図49に示す。図49から明らかなように、実施例132のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルは、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。
[実施例133〜136]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例3で得られた低結晶性フタロシアニン組成物のウェットケーキ33重量部を水90重量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表16に示す実施例133〜136の接触処理液(非酸性特定有機化合物である3−クロロベンズアルデヒドに電子吸引性特定芳香族化合物を所定の濃度で混合した溶液)各9mlを加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加え1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニンと無金属フタロシアニンとの混晶を得た(これらを各々、実施例133〜136のフタロシアニン結晶という。)。
実施例133〜136のフタロシアニン結晶について、粉末XRDスペクトルを測定した。得られた粉末XRDスペクトルは、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。また、これらの粉末X線回折スペクトルは、何れも概ね同じ形状であった。代表例として、実施例133で得られたフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図50に示す。
[実施例137〜156]
電荷発生物質として実施例117〜136のフタロシアニン結晶を用い、前記[感光体製造方法]に従って電子写真感光体を製造した(これらを以下適宜、実施例137〜156の電子写真感光体という。)。各電子写真感光体と、電荷発生物質として用いたフタロシアニン結晶及びその組成との対応を、下記表17及び表18に示す。
[電子写真感光体の評価]
実施例137〜156、比較例13〜15の電子写真感光体を、実施例9〜16の電子写真感光体の評価の場合と同様の手順に従って電気特性の評価を行なった。実施例137〜156、比較例13〜15の電子写真感光体についての感度保持率の評価結果を、下記表17及び表18に示す。なお、下記表17及び表18において、同じ非酸性有機化合物を用いて得られたフタロシアニン結晶を使用した実施例及び比較例については、上下に並べて示している。
これらの実施例117〜136、比較合成例13〜15のフタロシアニン結晶を電荷発生物質として用いた実施例137〜156、比較例13〜15の電子写真感光体を比較すると、比較例14、15の電子写真感光体は、標準湿度感度En1/2に劣るものであった。比較例13の電子写真感光体は、標準湿度感度En1/2は実施例の電子写真感光体とほぼ同等であったが、感度保持率の値を比較すると、非酸性特定有機化合物及び電子吸引性特定芳香族化合物に接触させて得られたフタロシアニン結晶を用いた実施例の電子写真感光体の方が、非酸性特定有機化合物のみに接触させて得られたフタロシアニン結晶を用いた比較例の電子写真感光体に比べて、湿度変化に対する感度の変動が少なくより好ましいことが分かる。
[実施例157,158]
上述の[感光体の製造方法]において電荷発生層用塗布液を調製する際の微細分散処理工程において、電荷発生物質として実施例1のフタロシアニン結晶20重量部を使用するとともに、フタリド1.25重量部を併せて用いた他は、上述の[感光体の製造方法]の手順に従って電子写真感光体を製造した。これを以下適宜、実施例157の電子写真感光体という。
また、フタリド1.25重量部の代わりに2−スルホ安息香酸無水物1.25重量部を用いた他は、実施例157と同様の手順に従って電子写真感光体を製造した。これを以下適宜、実施例158の電子写真感光体という。
これら実施例157,158の電子写真感光体についても、実施例9〜16の電子写真感光体の評価の場合と同様の手順に従って電気特性の評価を行なった。評価結果を下記表19に示す。
以上の結果から、上述の電子吸引性特定芳香族化合物を電荷発生層用塗布液の調製時に加えただけでは、本発明のフタロシアニン結晶による上述の効果(感度の向上及び使用環境の湿度変化に対する感度変動の抑制効果)は、小さいことが分かった。
[実施例159]
表面が粗切削(Rmax=1.2)された外径30mm、長さ350mm、肉厚1.0mmのアルミニウム合金よりなるシリンダーを、陽極酸化処理を行ない、その後酢酸ニッケルを主成分とする封孔剤によって封孔処理を行なうことにより、約6μmの陽極酸化被膜(アルマイト被膜)を形成した。
このシリンダーを、先に実施例87で作製した電荷発生層形成用塗布液に浸漬塗布し、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように電荷発生層を形成した。次に、前記構造式(G)で表わされる繰り返し単位51モル%と、前記構造式(H)で表わされる繰り返し単位49モル%とからなり、p−t−ブチルフェノールに由来する末端構造式を有するポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量49200)を100重量部、前記式(F)で表わされる構造を主成分とする、幾何異性体の化合物群からなる混合物を50重量部、酸化防止剤としてBHT(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン)を8重量部、レベリング剤としてシリコーンオイル0.05重量部を、テトラヒドロフランとトルエンとの混合溶媒(テトラヒドロフラン80重量%、トルエン20重量%)640重量部に混合し、電荷輸送層形成用塗布液を調製した。先に作製した電荷発生層を形成したシリンダーを、この電荷輸送層形成用塗布液に浸漬塗布し、乾燥後の膜厚35μmの電荷輸送層を設けることによって電子写真感光体を作製した。これを実施例159の電子写真感光体という。
[実施例160]
電荷輸送層の膜厚を30μmとした以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例160の電子写真感光体という。
[実施例161]
電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例161の電子写真感光体という。
[実施例162]
電荷輸送層の膜厚を20μmとした以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例162の電子写真感光体という。
[実施例163]
電荷輸送層の膜厚を15μmとした以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例163の電子写真感光体という。
[実施例164]
実施例159に用いた電荷発生層形成用塗布液の代わりに、実施例105で作製した電荷発生層形成用塗布液を用いた以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例164の電子写真感光体という。
[実施例165]
電荷輸送層の膜厚を30μmとした以外は実施例164と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例165の電子写真感光体という。
[実施例166]
電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は実施例164と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例166の電子写真感光体という。
[実施例167]
電荷輸送層の膜厚を20μmとした以外は実施例164と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例167の電子写真感光体という。
[実施例168]
電荷輸送層の膜厚を15μmとした以外は実施例164と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例168の電子写真感光体という。
[実施例169]
実施例159に用いた電荷発生層形成用塗布液の代わりに、実施例97で作製した電荷発生層形成用塗布液を用いた以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例169の電子写真感光体という。
[実施例170]
電荷輸送層の膜厚を30μmとした以外は実施例169と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例170の電子写真感光体という。
[実施例171]
電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は実施例169と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例171の電子写真感光体という。
[実施例172]
電荷輸送層の膜厚を20μmとした以外は実施例169と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例172の電子写真感光体という。
[実施例173]
電荷輸送層の膜厚を15μmとした以外は実施例169と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例173の電子写真感光体という。
[実施例174]
実施例159に用いた電荷発生層形成用塗布液の代わりに、実施例79で作製した電荷発生層形成用塗布液を用いた以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例174の電子写真感光体という。
[実施例175]
電荷輸送層の膜厚を30μmとした以外は実施例174と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例175の電子写真感光体という。
[実施例176]
電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は実施例174と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例176の電子写真感光体という。
[実施例177]
電荷輸送層の膜厚を20μmとした以外は実施例174と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例177の電子写真感光体という。
[実施例178]
電荷輸送層の膜厚を15μmとした以外は実施例174と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例178の電子写真感光体という。
[実施例179]
実施例159に用いた電荷発生層形成用塗布液の代わりに、実施例145で作製した電荷発生層形成用塗布液を用いた以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例179の電子写真感光体という。
[実施例180]
電荷輸送層の膜厚を30μmとした以外は実施例179と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例180の電子写真感光体という。
[実施例181]
電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は実施例179と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例181の電子写真感光体という。
[実施例182]
電荷輸送層の膜厚を20μmとした以外は実施例179と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例182の電子写真感光体という。
[実施例183]
電荷輸送層の膜厚を15μmとした以外は実施例179と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例183の電子写真感光体という。
[実施例184]
実施例159に用いた電荷発生層形成用塗布液の代わりに、実施例144で作製した電荷発生層形成用塗布液を用いた以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例184の電子写真感光体という。
[実施例185]
電荷輸送層の膜厚を30μmとした以外は実施例184と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例185の電子写真感光体という。
[実施例186]
電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は実施例184と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例186の電子写真感光体という。
[実施例187]
電荷輸送層の膜厚を20μmとした以外は実施例184と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例187の電子写真感光体という。
[実施例188]
電荷輸送層の膜厚を15μmとした以外は実施例184と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例188の電子写真感光体という。
[実施例189]
実施例159に用いた電荷発生層形成用塗布液の代わりに、実施例9で作製した電荷発生層形成用塗布液を用いた以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例189の電子写真感光体という。
[実施例190]
実施例159に用いた電荷発生層形成用塗布液の代わりに、実施例26で作製した電荷発生層形成用塗布液を用いた以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例190の電子写真感光体という。
[比較実施例16]
実施例159に用いた電荷発生層形成用塗布液の代わりに、比較実施例15で作製した電荷発生層形成用塗布液を用いた以外は実施例159と同様にして電子写真感光体を作製した。これを比較実施例16の電子写真感光体という。
[比較実施例17]
電荷輸送層の膜厚を30μmとした以外は比較例16と同様にして電子写真感光体を作製した。これを比較実施例17の電子写真感光体という。
[比較実施例18]
電荷輸送層の膜厚を25μmとした以外は比較例16と同様にして電子写真感光体を作製した。これを比較実施例18の電子写真感光体という。
[比較実施例19]
電荷輸送層の膜厚を20μmとした以外は比較例16と同様にして電子写真感光体を作製した。これを比較実施例19の電子写真感光体という。
[比較実施例20]
電荷輸送層の膜厚を15μmとした以外は比較例16と同様にして電子写真感光体を作製した。これを比較実施例20の電子写真感光体という。
[電子写真感光体の評価]
実施例159〜190、比較例16〜20で得られた電子写真感光体の半減露光量E1/2を、市販の感光体評価装置(シンシア55、ジェンテック社製)を用いて、以下に説明する手順に従ってスタティック方式で測定した。
帯電器を0°、露光装置及び表面電位計プローブを90°、除電器を270°の角度に配置し、帯電器、表面電位計プローブ、除電器を感光体表面からの距離が2mmとなるように配置し、暗所で、感光体の表面電位が約−700Vになるような放電が行なわれるように設定したスコロトロン帯電器上を、温度25℃±2℃、相対湿度50%rh±5%の環境中に8時間放置した後の感光体を、一定の回転速度(30rpm)で感光体表面を通過させ帯電させた。
帯電後の感光体表面がプローブ位置に到達した際に停止させ、停止してから2.5秒後に、付属の分光光源システムPOLAS34から得た、強度0.15μW/cm2の780nmの単色光を7.5秒間照射し、感光体の表面電位が−550Vから−275Vになるまでに要した露光量を測定した。再び感光体を回転させ、除電器により全周除電を行なった後、同じ操作を行なった。このサイクルを6回繰り返し、1回目を除く5回の露光量の測定値を平均し、得られた平均値を半減露光量E1/2(μJ/cm2)とした。測定結果を下記表20及び表21に示した。
次に、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置〔「続電子写真技術の基礎と応用」、(電子写真学会編、コロナ社発行、第404〜405頁記載)〕に感光体を装着し、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の評価を行なった。
帯電器を−70°、露光装置を0°、表面電位計プローブを36°、除電器を−150°の角度に配置し、各機器は感光体表面からの距離を2mmに配置した。帯電にはスコロトロン帯電器を用いた。露光ランプは、ウシオ電機社製のハロゲンランプJDR110V−85WLN/K7を用い、朝日分光社製フィルターMX0780を用いて780nmの単色光とした。除電光には660nmのLED光を用いた。
温度25℃±2℃、相対湿度50%rh±5%の環境中に8時間放置した後の感光体を一定の回転速度(60rpm)で回転させながら、感光体の初期表面電位が−700Vとなるように帯電させ、帯電した感光体表面を780nmの単色光により露光する露光部を通過させ、表面電位計のプローブの位置に来た時の表面電位を測定した(露光〜電位測定間100ms)。
780nmの単色光をNDフィルターに通して光量を変化させ、露光量が半減露光量E1/2の0倍から10倍までの範囲の光を照射し、それぞれの露光量における表面電位を測
定した。この操作を、温度25℃±2℃、相対湿度50%rh±5%の環境(常温常湿環境。以下「NN環境」という場合がある。)で行ない、各露光量におけるNN環境下での露光後電位(これを以下「VNN」という場合がある。)を測定した。
その後、感光体を温度25℃±2℃、相対湿度10%rh±5%の環境中に8時間放置した後に、温度25℃±2℃、相対湿度10%rh±5%の環境(常温低湿環境。以下「NL環境」という場合がある。)において同様の操作を行ない、各露光量におけるNL環境下での露光後電位(これを以下「VNL」という場合がある。)の測定を行った。
同じ露光量におけるNN環境下での露光後電位VNNとNL環境下での露光後電位VNLとの差の絶対値(|VNN−VNL|)を計算し、その最大値を環境変動依存量として、下記表20及び表21に示した。
また、各電子写真感光体を用いて画像を形成し、以下の評価方法により画像評価を行なった。
ミノルタ社製デジタル複写機DIALTA Di350用カートリッジに、当該電子写真感光体を装着し、このカートリッジを当該複写機に装着した。この複写機を、温度35℃±2℃、相対湿度83%rh±5%の環境中で24時間放置した後に、更に温度5℃±2℃、相対湿度10%rh±5%の環境中で5時間放置した後、ハーフトーン画像を印刷した。印刷された画像に基づいて、電子写真感光体の1周期で発生する黒いスジの出方を比較した。
なお、当該複写機はスコロトロン帯電器により電子写真感光体を帯電させ、2成分接触現像方式で現像する装置であり、黒いスジが発生し易い。
表20及び表21の結果から、以下のことが分かる。
実施例159〜190の電子写真感光体は、同じ膜厚で比較したときに、各比較例の感光体よりも半減露光量En1/2が小さく、高感度であって、環境変動依存量も小さい。また、これらの電子写真感光体を搭載した接触現像方式の画像形成装置により画像を形成して、画像特性を評価した結果をみると、各比較例の電子写真感光体では黒いスジが見られたのに対し、各実施例の電子写真感光体では見られなかった。
以上のことから、実施例159〜190の電子写真感光体は高感度で、且つ、湿度変動に対して特性の変動が小さいこと、更に、これらの電子写真感光体を搭載したプロセスカートリッジ及び画像形成装置は、環境の変動に対して画像欠陥のない高品質な画像を提供出来ることが明らかとなった。
[実施例191]
前記構造式(G)で表わされる繰り返し単位51モル%と、前記構造式(H)で表わされる繰り返し単位49モル%とからなり、p−t−ブチルフェノールに由来する末端構造式を有するポリカーボネート樹脂100重量部、下記構造式(I−1)で表わされる電荷輸送物質50重量部、及び、シリコーンオイル0.05重量部を、テトラヒドロフラントとトルエンとを重量比8:2で混合した混合溶媒640重量部に溶解して、電荷輸送層用塗布液を調製した。
実施例9において、上記方法で調製した電荷輸送層用塗布液を用いた以外は、実施例9と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例191の電子写真感光体という。
[実施例192]
実施例191において用いた上記構造式(I−1)で表される化合物の代わりに、下記構造式(I−2)で表わされる化合物を用いた以外は、実施例191と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例192の電子写真感光体という。
[実施例193]
実施例191において用いた上記構造式(I−1)で表される化合物の代わりに、下記構造式(I−3)で表わされる化合物を用いた以外は、実施例191と同様にして電子写真感光体を作製した。これを実施例193の電子写真感光体という。
[実施例194]
実施例191において用いた上記構造式(I−1)で表される化合物の代わりに、下記構造式(I−4a)で表わされる化合物及び下記構造式(I−4b)で表わされる化合物の重量比1/1の混合物を、その合計重量が実施例191で用いた構造式(I−1)で表される化合物の重量と同じになるように用い、更に、実施例9で用いた電荷発生層用塗布液の代わりに、実施例87で用いた電荷発生層用塗布液を用いた以外は、実施例191と同様の操作を行ない、電子写真感光体を作製した。これを実施例194の電子写真感光体という。
[実施例195]
実施例194において用いた上記構造式(I−4a)の化合物及び上記構造式(I−4b)の化合物の混合物の代わりに、下記構造式(I−5a)で表わされる化合物及び下記構造式(I−5b)で表わされる化合物の重量比1/1の混合物を、その合計重量が実施例194で用いた構造式(I−4a)で表わされる化合物及び構造式(I−4b)で表される化合物の混合物の合計重量と同じになるように用いた以外は、実施例194と同様の操作を行ない電子写真感光体を作製した。これを実施例195の電子写真感光体という。
[実施例196]
実施例194において用いた上記構造式(I−4a)の化合物及び上記構造式(I−4b)の化合物の混合物の代わりに、下記構造式(I−6)で表わされる化合物を実施例194で用いた構造式(I−4a)で表わされる化合物及び構造式(I−4b)で表される化合物の混合物の合計重量と同じになるように用いた以外は、実施例194と同様の操作を行ない、電子写真感光体を作製した。これを実施例196の電子写真感光体という。
[実施例197]
実施例196において、電荷輸送層用塗布液に用いたポリカーボネート樹脂の代わりに、下記構造式(I−7)で表わされる繰り返し構造単位からなるポリカーボネート樹脂を用いた以外は、実施例196と同様の操作を行ない、電子写真感光体を作製した。これを実施例197の電子写真感光体という。
[実施例198]
実施例196において、電荷輸送層用塗布液に用いたポリカーボネート樹脂の代わりに、下記構造式(I−8)で表される繰り返し構造単位からなるバインダー樹脂を用い、前記構造式(I−6)で表される化合物の代わりに、前記構造式(F)で表される構造を主成分とする、幾何異性体の化合物群からなる混合物を用いた以外は、実施例196と同様にして、電子写真感光体を作製した。これを実施例198の電子写真感光体という。
[実施例199]
実施例198において用いた、構造式(I−8)で表される繰り返し構造単位からなるバインダー樹脂の代わりに、下記構造式(I−9)で表される繰り返し構造単位からなるバインダー樹脂を用い、電荷発生層用塗布液として実施例79で用いた電荷発生層用塗布液を用いた以外は、実施例198と同様にして、電子写真感光体を作製した。これを実施例199の電子写真感光体という。
[実施例200]
実施例198において、電荷輸送層用塗布液に用いたバインダー樹脂の代わりに、下記構造式(I−10)で表わされる繰り返し構造単位からなるバインダー樹脂を用いた以外は、実施例198と同様の操作を行ない、電子写真感光体を作製した。これを実施例200の電子写真感光体という。
[実施例201]
実施例198において用いた電荷発生層用塗布液の代わりに、実施例97で用いた電荷発生層用塗布液を用い、電荷輸送層用塗布液のバインダー樹脂として、下記構造式(I−11)で表わされる繰り返し構造単位からなる化合物を用いた以外は、実施例198と同様の操作を行ない、電子写真感光体を作製した。これを実施例201の電子写真感光体という。
[実施例202]
実施例201において用いた電荷輸送層用塗布液のバインダー樹脂の代わりに、下記構造式(I−12)で表わされる繰り返し構造単位からなるポリカーボネート樹脂を用いた以外は、実施例201と同様の操作を行ない、電子写真感光体を作製した。これを実施例202の電子写真感光体という。
[比較例21]
実施例191において用いた、電荷発生層用塗布液の電荷発生物質を、比較合成例1で得られた化合物に代えた以外は、実施例191と同様の操作を行ない、電子写真感光体を作製した。これを比較例21の電子写真感光体という。
[比較例22]
実施例192において用いた、電荷発生層用塗布液の電荷発生物質を、比較合成例1で得られた化合物に代えた以外は、実施例192と同様の操作を行ない、電子写真感光体を作製した。これを比較例22の電子写真感光体という。
[電子写真感光体特性の測定]
実施例191〜202、比較例21,22の電子写真感光体について、実施例9〜16の電子写真感光体と同様の手順に従って、標準湿度環境及び低湿環境における半減露光量を測定し、湿度変化による感度保持率(%)を求めた。その結果を下記表22に示す。
表22の結果から、本発明の電子写真感光体は、様々な電荷輸送物質及び様々なバインダー樹脂を用いた感光層を有するものであっても、使用環境の湿度変化に対する感度の変動が少ないことが分かる。