以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々に変更して実施することができる。
[I.フタロシアニン結晶]
〔フタロシアニン結晶の組成〕
本発明において「フタロシアニン結晶」とは、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物を含有する結晶をいう。即ち、一種のフタロシアニン化合物のみで構成される結晶のみならず、複数種のフタロシアニン化合物からなる混晶や、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物と他の分子とからなる混晶をも含めて、本発明では「フタロシアニン結晶」というものとする。
また、本発明において「フタロシアニン化合物」とは、フタロシアニン骨格を有する化合物を言う。その具体例としては、無金属フタロシアニン;銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、鉛フタロシアニン等の、平面分子構造を有するフタロシアニン;オキシチタニウムフタロシアニン、オキシバナジウムフタロシアニン、クロロアルミニウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン等の、分子がシャトルコック構造を有するフタロシアニン;ジクロロ錫フタロシアニン、ジクロロ珪素フタロシアニン、ジヒドロキシ錫フタロシアニン、ジヒドロキシ珪素フタロシアニン等の、分子がこま型構造を有するフタロシアニン;等が挙げられる。
本発明のフタロシアニン結晶が単一種のフタロシアニン化合物から構成される場合、電子写真感光体としての特性の面を考慮すると、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物が望ましい。また、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物の中でも、一般的に電子写真感光体としての特性が良好であることから、フタロシアニン化合物分子の中心金属が、酸化物、塩化物、又は水酸化物の形態を取ることが好ましく、フタロシアニン結晶の製造の容易さからは、中心金属が酸化物の形態を取ることがより好ましい。具体例としては、オキシチタニウムフタロシアニン又はオキシバナジウムフタロシアニンが特に好ましく、オキシチタニウムフタロシアニンが最も好ましい。
一方、本発明のフタロシアニン結晶が複数種の分子からなる混晶である場合としては、上述のように、複数種のフタロシアニン化合物から構成される(即ち、フタロシアニン化合物以外の化合物を含まない)場合と、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物と、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物以外の化合物とから構成される(即ち、フタロシアニン化合物以外の化合物を含む)場合とが挙げられるが、結晶安定性の面から、複数種のフタロシアニン化合物から構成される(即ち、フタロシアニン化合物以外の化合物を含まない)方が好ましい。
本発明のフタロシアニン結晶が混晶の場合、電子写真感光体としての特性の面を考慮すると、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物を主成分として含有することが好ましい。この主成分として含有されるフタロシアニン化合物(以下適宜「主成分のフタロシアニン化合物」という。)は、その分子の中心金属が酸化物、塩化物、又は水酸化物の形態を取ることが好ましく、フタロシアニン結晶の製造の容易さからは、中心金属が酸化物の形態を取ることがより好ましい。具体例としては、オキシチタニウムフタロシアニン又はオキシバナジウムフタロシアニンが特に好ましく、オキシチタニウムフタロシアニンが最も好ましい。主成分のフタロシアニン化合物の含有量は、混晶であるフタロシアニン結晶に対して、通常60重量%以上であるが、含有される量が少ないと結晶型制御性が低下することから、70重量%以上が好ましく、分散時の結晶安定性の点からは、80重量%以上がより好ましく、電子写真感光体として用いた際の特性の面からは、85重量%以上が更に好ましい。
また、本発明のフタロシアニン結晶が混晶の場合、上述の主成分のフタロシアニン化合物以外に含有されるフタロシアニン化合物(以下適宜「主成分以外のフタロシアニン化合物」という。)としては、混晶としての結晶安定性の面から、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物、又は、平面分子構造を有するフタロシアニン化合物が好ましい。中でも、電子写真感光体特性の面から、シャトルコック構造を有するフタロシアニン化合物の中では、オキシバナジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニンが好ましく、平面構造を有するフタロシアニン化合物の中では、無金属フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、鉛フタロシアニンが好ましい。これらの中でも、オキシバナジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、無金属フタロシアニンがより好ましく、混晶結晶中での空いた空間がより増えることから、平面分子構造を有する無金属フタロシアニンが特に好ましい。主成分以外のフタロシアニン化合物は、一種類のみを使用してもよく、二種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよいが、一種類のみを用いことが好ましい。主成分以外のフタロシアニン化合物の含有量は、混晶であるフタロシアニン結晶に対して、通常40重量%以下であるが、多過ぎると結晶型制御性が低下することから、30重量%以下が好ましく、分散時の安定性の面からは、20重量%以下が好ましく、電子写真特性の面からは、15重量%以下が好ましい。但し、主成分以外のフタロシアニン化合物の含有量が余りに少な過ぎると、その含有による効果が得られないため、その含有量は0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。
〔フタロシアニン結晶前駆体〕
本発明のフタロシアニン結晶は、フタロシアニン結晶前駆体を、後述する特定アルコール性化合物の存在下、後述する非アルコール性有機化合物に接触させることにより結晶型を変換する工程を経て得られるものである。ここで「フタロシアニン結晶前駆体」とは、結晶型を変換する処理(以下「結晶型変換処理」という場合がある。)を施すことにより、フタロシアニン結晶が得られる物質をいう。よって、フタロシアニン結晶前駆体は、一種のフタロシアニン化合物、二種以上のフタロシアニン化合物の混合物、一種又は二種以上のフタロシアニン化合物と一種又は二種以上の他の化合物との混合物の何れであってもよい(以下の記載ではフタロシアニン化合物又はフタロシアニン化合物を含有する混合物を総称して「フタロシアニン類」と呼ぶ場合がある。)。また、その存在状態も特に制限されないが、結晶変換時の結晶型の制御性を考慮すると、フタロシアニン結晶前駆体としては、通常はアモルファス性フタロシアニン類又は低結晶性フタロシアニン類が好ましい。
本発明において「低結晶性フタロシアニン類」とは、粉末X線回折(X-ray diffraction:以下「XRD」と省略する場合がある。)スペクトルにおいて、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)0°〜40°の範囲内に半値幅が0.30°以下のピークを有さないフタロシアニン類をいう。この半値幅が小さ過ぎると、固体中でフタロシアニン分子がある程度一定の規則性や長期的秩序を有している状態になっており、結晶型を変換させる際に結晶型の制御性が低下することから、本発明においてフタロシアニン結晶前駆体として用いる低結晶性フタロシアニン類は、その半値幅が通常0.35°以下、更には0.40°以下、特に0.45°以下のピークを有さないものであることが好ましい。
なお、本明細書において、フタロシアニン類の粉末X線回折スペクトルの測定、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)の決定、並びにピーク半値幅の算出は、以下の条件で行なうものとする。
粉末X線回折スペクトルの測定装置としては、CuKα(CuKα1+CuKα2)線をX線源とした集中光学系の粉末X線回折計(例えばPANalytical社製PW1700)を使用する。
粉末X線回折スペクトルの測定条件は、走査範囲(2θ)3.0〜40.0°、スキャンステップ幅0.05°、走査速度3.0°/min、発散スリット1°、散乱スリット1°、受光スリット0.2mmとする。
ピーク半値幅は、プロファイルフィッティング法により算出することができる。プロファイルフィッティングは、例えばMDI社製粉末X線回折パターン解析ソフトJADE5.0+を用いて行なうことができる。その算出条件は、以下の通りである。即ち、バックグランドは、全測定範囲(2θ=3.0〜40.0°)から理想的な位置に固定する。フィッティング関数としては、CuKα2の寄与を考慮したPeason−VII関数を用いる。フィッティング関数の変数としては、回折角(2θ)、ピーク高さ、ピーク半値幅(βo)の3つを精密化する。CuKα2の影響を除去し、CuKα1由来の回折角(2θ)、ピーク高さ、ピーク半値幅(βo)を計算する。非対称は0に、形定数は1.5に固定する。
上記のプロファイルフィッティングより算出したピーク半値幅(βo)を、同測定条件、同プロファイルフィッティング条件により算出した標準Si(NIST Si 640b)の111ピーク(2θ=28.442°)のピーク半値幅(βSi)により、下式に従って補正することにより、試料由来の半値幅(β)が求められる。
なお、低結晶性フタロシアニン類とアモルファス性フタロシアニン類との境界は明確ではないが、本発明では何れも好ましいフタロシアニン結晶前駆体として使用することが可能である。以下の記載では、低結晶性フタロシアニン類とアモルファス性フタロシアニン類とを特に区別せずに呼ぶ場合、「低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類」と総称することにする。
後述のように、本発明のフタロシアニン結晶の結晶型としては、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型(特定結晶型)が好ましいが、27.2°付近にピークを有する低結晶性フタロシアニン類は、上記特定結晶型を有するフタロシアニン結晶とある程度類似した規則性を有しており、上記特定結晶型への結晶型制御性に優れる。この場合における低結晶性フタロシアニンは、その半値幅が通常0.30°以下のピークを有さないものであり、好ましくは0.35°以下のピークを有さないものであり、より好ましくはその半値幅が0.40°以下のピークを有さないものであり、特に好ましくはその半値幅が0.45°以下のピークを有さないものである。
一方、27.2°付近にピークを有さない低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類をフタロシアニン結晶前駆体として用いる場合には、上記特定結晶型を有するフタロシアニン結晶への結晶型制御性が低いことから、結晶性が低いことが望ましい。この場合における低結晶性フタロシアニンは、その半値幅が通常0.30°以下のピークを有さないものであり、好ましくはその半値幅が0.50°以下のピークを有さないものであり、より好ましくはその半値幅が0.70°以下のピークを有さないものであり、更に好ましくはその半値幅が0.90°以下のピークを有さないものである。
図2〜5に、低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類の粉末X線回折スペクトルの例を示す。なお、これらのX線回折スペクトルは、本発明を詳細に説明するために例示したものであり、本発明の趣旨の範囲に反しない限り、本発明においてフタロシアニン結晶前駆体として使用可能なフタロシアニン類は、これらのX線回折スペクトルを有する低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類に限定されるものではない。
結晶性を有するフタロシアニン類(フタロシアニン結晶)は、通常は固体中でフタロシアニン分子が一定の規則性や長期的秩序を有している状態であり、粉末X線回折スペクトルを測定すると明確なピークを有する。これに対して、低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類は、固体中で分子配列の規則性や分子配列の長期的秩序が低下した状態にあり、図2〜5として例示した粉末X線回折スペクトルのように、ハロー図形を示すか、或いは、ピークを有してもその半値幅が非常に広いものとなる。
本発明においてフタロシアニン結晶前駆体となる低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類の調製法としては、アシッドペースト法、アシッドスラリー法等の化学的処理法、粉砕、磨砕等の機械的処理法等の公知の調製法を用いることが可能であるが、より均一な低結晶性/アモルファス性フタロシアニン類が得られることから、化学的処理法が好ましく、中でもアシッドペースト法がより好ましい。
〔特定アルコール性化合物〕
本発明のフタロシアニン結晶は、上述のフタロシアニン結晶前駆体を、1013hPa、20℃の条件下における水に対する溶解度が10重量%以下のアルコール性水酸基を有する化合物(これを適宜「特定アルコール性化合物」と略称する。)の存在下、後述の非アルコール性有機化合物に接触させて結晶型を変換することにより得られたものである。
本発明において「アルコール性水酸基」とは、芳香族環を形成していない炭素原子に直接結合した水酸基のことをいう。なお、本明細書ではこの「アルコール性水酸基」を少なくとも一つ有する化合物を「アルコール性化合物」と総称するものとする。
本発明で使用されるアルコール性化合物は、1013hPa(760mmHg)、20℃の条件(この条件を以下「特定条件」と略称する場合がある。)下における水に対する溶解度が10重量%以下のものである。特定条件下におけるアルコール性化合物の水に対する溶解度の測定は、以下の手順で行なう。即ち、特定条件下、液体状又は固体状のアルコール性化合物を、水に対して所定量(例えば水100重量%に対して0.5重量%)ずつ加え、混合するという操作を繰り返す。液体性のアルコール性化合物の場合には、水とアルコール性化合物とが相分離を起こし、均一に混ざり合わなくなった時点で、また、固体性のアルコール性化合物の場合は、アルコール性化合物が水に溶解しなくなった時点で飽和状態に達したと判断し、その時点におけるアルコール性化合物の累積添加量を、特定条件下におけるアルコール性化合物の水に対する溶解度として規定する。
本発明で使用される特定アルコール性化合物の、特定条件下における水への溶解度は、通常10重量%以下であるが、フタロシアニン結晶前駆体と接触させた際に、アルコール性化合物がより効率的にフタロシアニン結晶中に取り込まれるようにする観点から、好ましくは7.5重量%以下であり、より好ましくは5.0重量%以下である。
本発明で使用される特定アルコール性化合物は、その構造中に上述のアルコール性水酸基を有することにより上述の効果を発揮しているため、アルコール性水酸基を一分子あたり少なくとも一個有していればよく、その数に特に制限は無い。但し、アルコール性水酸基の個数が多過ぎると、後述する非アルコール性化合物に対する溶解性よりも水に対する溶解性の方が高くなってしまい、得られる効果が低下する傾向がある。よって、特定アルコール性化合物一分子あたりのアルコール性水酸基の数は、好ましくは5個以下、より好ましくは3個以下、更に好ましくは1個である。
本発明で使用される特定アルコール性化合物は、その構造面から、アルコール性水酸基部分とアルコール性水酸基以外の部分(有機残基部分)の2つに区別することが出来る。有機残基部分の構造は特に制限されないが、例としては、各種の脂肪族基又は芳香族基が挙げられる。
脂肪族基は、炭素原子及び水素原子のみからなる脂肪族炭化水素基でもよく、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子(例えば酸素原子や窒素原子等)を含有するヘテロ基含有脂肪族炭化水素基であってもよい。また、脂肪族炭化水素基の構造は鎖状構造であっても環状構造であってもよく、鎖状構造の場合には直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。更には、鎖状構造と環状構造とが結合したものであってもよい。
一方、芳香族基も、炭素原子及び水素原子のみからなる芳香族炭化水素基でもよく、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子(例えば酸素原子や窒素原子等)を含有する芳香族複素環基であってもよい。
また、上述の脂肪族基と芳香族基が結合したものであってもよい。
但し、本発明では、フタロシアニン結晶前駆体を特定アルコール性化合物及び非アルコール性化合物と接触させる際に、フタロシアニン結晶が特定アルコール性化合物を結晶中に取り込むことにより、上述の効果が得られていると推測されることから、特定アルコール性化合物の分子体積が大きくなると、特定アルコール性化合物がフタロシアニン結晶中に取り込まれ難くなり、上述の効果が減少する傾向がある。このため、特定アルコール性化合物の有機残基部分は、直鎖状脂肪族炭化水素基、環状脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基であることが好ましく、環状脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基であることがより好ましい。
また、フタロシアニン結晶前駆体と特定アルコール性化合物及び非アルコール性化合物との接触処理は、後述のように通常は水の存在下で行なわれるので、特定アルコール性化合物の水への溶解性が高過ぎると、結晶型の変換時に、特定アルコール性化合物がフタロシアニン結晶中へ取り込まれ難くなり、得られる効果が減少する傾向がある。従って、水への溶解性が高まらないように、特定アルコール性化合物の有機残基部分は、炭素原子及び水素原子のみから構成され、その他のヘテロ原子を含有しないことが好ましい。
また、フタロシアニン化合物の分子(以下「フタロシアニン分子」と略称する場合がある。)はその構造中に多数のπ電子を有しており、フタロシアニン分子同士が、発達したπ電子の相互作用によりフタロシアニン結晶を構築しているため、そのフタロシアニン分子と特定アルコール性化合物との相互作用が大きくなるほど、フタロシアニン結晶中への特定アルコール性化合物の取り込みが容易になる。従って、特定アルコール性化合物とフタロシアニン分子との相互作用が強まるように、特定アルコール性化合物の有機残基部分はπ電子を有する構造であることが好ましい。特定アルコール性化合物の有機残基部分が有するπ電子の数は特に制限されず、特定アルコール性化合物一分子につきπ電子が少なくとも2個(即ち、炭素−炭素二重結合が少なくとも一つ)含まれていればよい。但し、フタロシアニン分子との相互作用を強める観点から、有機残基部分は、ヒュッケル則を満たす芳香族性を有する構造を含んでいることが好ましい。芳香族性を有する構造は、ヒュッケル則を満たす構造であれば如何なる構造であってもよいが、芳香環部分の構造が大き過ぎると溶解性の低下等の弊害が多くなることから、ヒュッケル則における4n+2(nは整数)の式において、nは5以下であることが好ましく、より好ましくは4以下であり、更に好ましくは3以下である。
芳香族性を有する構造の例としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、ピレン、ペリレン等の炭化水素からなる芳香環、ピロール、チオフェン、フラン、シロール、ピリジン、インドール、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、キノリン、イソキノリン、フェナントレン等のヘテロ原子を含む芳香環等が挙げられる。中でも、後述の非アルコール性有機化合物に対する溶解性の面から、特定アルコール性化合物の有機残基部分における芳香環を構成する元素の数は、好ましくは14以下、より好ましくは10以下である。具体的には、炭化水素からなる芳香環がより好ましく、ベンゼンが特に好ましい。
本発明で使用される特定アルコール性化合物は、有機残基部分の分子体積が大き過ぎると、フタロシアニン結晶中への取り込みが困難になることから、その有機残基部分の炭素数は通常20以下、好ましくは15以下、より好ましくは13以下、更に好ましくは11以下である。
本発明で好適に使用される特定アルコール性化合物の構造の例を以下に挙げる。但し、以下の構造はあくまでも例として示すものであり、本発明で使用可能な特定アルコール性化合物の構造は、以下の例示に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない限り、任意の構造の特定アルコール性化合物を用いることができる。
特定アルコール性化合物の状態としては、特定アルコール性化合物そのままの状態、特定アルコール性化合物がイオン化した状態、イオン化した特定アルコール性化合物が対イオンと結合して塩を形成した状態等が考えられる。本発明では、特定アルコール性化合物自体がフタロシアニン結晶中に効率よく取り込まれることにより、アルコール性水酸基部分が効果の発現に寄与していると推測できることから、特定アルコール性化合物は上述のいずれの状態であってもよい。但し、得られるフタロシアニン結晶が電子写真感光体の特性に与える影響を考慮すると、特定アルコール性化合物そのままの状態で用いるのが好ましい。
また、特定アルコール性化合物の存在形態も特に制限されず、液体、気体、固体の何れであってもよい。
なお、特定アルコール性化合物としては、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
〔非アルコール性有機化合物〕
本発明のフタロシアニン結晶は、上述の特定アルコール性化合物の存在下、上述のフタロシアニン結晶前駆体を、アルコール性水酸基を有さない有機化合物(これを適宜「非アルコール性有機化合物」と略称する。)に接触させて得られたものである。
本発明で使用される非アルコール性有機化合物は、上記[特定アルコール性化合物]の欄で説明したアルコール性水酸基を、その構造中に有さない有機化合物のことを言う。本発明で使用される非アルコール性有機化合物は、結晶型を変換する能力を有するものであれば、その種類は特に制限されない。
非アルコール性有機化合物は、大別すると、脂肪族化合物と芳香族化合物に分けることができる(以下の記載ではこれらを適宜、それぞれ「非アルコール性脂肪族化合物」及び「非アルコール性芳香族化合物」というものとする。)。
非アルコール性脂肪族化合物の例としては、ピネン、テルピレノン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、デカン、2−メチルペンタン、リグロイン、石油ベンジン等の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素化合物;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメチルセロソルブ、エチレングリコールジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン等の脂肪族エーテル化合物;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,2,2,2−テトラクロロエタン等のハロゲン化脂肪族化合物;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等の脂肪族ケトン化合物;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ヘキシル、アクリル酸ブチル、プロピオン酸メチル、酢酸シクロヘキシル等の脂肪族エステル化合物;メタノール、エタノール等の、上記特定条件下における水に対する溶解度が10重量%を越える脂肪族アルコール化合物;ノルマルプロピルアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド化合物などが挙げられる。なお、これらの非アルコール性脂肪族化合物が有する炭化水素骨格は、鎖状(直鎖状でも分岐鎖状でもよい)であっても環状であってもよく、鎖状と環状とが結合したものであってもよい。
一方、非アルコール性芳香族化合物の例としては、トルエン、キシレン、ナフタレン、ビフェニル、ターフェニル等の芳香族炭化水素化合物;モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ジクロロトルエン、1−クロロナフタレン、ブロモベンゼン等のハロゲン化芳香族化合物;ニトロベンゼン、2−フルオロニトロベンゼン等の芳香族ニトロ化合物、安息香酸メチル、安息香酸ブチル、2−クロロ安息香酸メチル、2−メチル安息香酸メチル、フェニルアセテート等の芳香族エステル化合物;ジフェニルエーテル、アニソール、クロロアニソール等の芳香族エーテル化合物;ベンズアルデヒド、2−クロロベンズアルデヒド等の芳香族アルデヒド化合物;アセトフェノン、2−クロロアセトフェノン等の芳香族ケトン化合物;チオフェン、フラン、キノリン、ピコリン等の複素環芳香族化合物などが挙げられる。
これら非アルコール性有機化合物の中でも、結晶型の変換能力の点から、ハロゲン原子若しくは酸素原子を含有する脂肪族化合物若しくは芳香族化合物、又は、芳香族炭化水素化合物が好ましい。中でも、得られたフタロシアニン結晶の分散時の安定性を考慮すると、ハロゲン化脂肪族化合物、脂肪族エーテル化合物、脂肪族ケトン化合物、脂肪族エステル化合物、芳香族炭化水素化合物、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族ニトロ化合物、芳香族ケトン化合物、芳香族エステル化合物、芳香族アルデヒド化合物がより好ましく、得られたフタロシアニン結晶を材料として用いた電子写真感光体の特性の面から、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族ニトロ化合物、芳香族ケトン化合物、芳香族エステル化合物、又は芳香族アルデヒド化合物が更に好ましい。
なお、これらの非アルコール性有機化合物は、構造中の置換基等の種類によっては、上述した化合物群のうち複数種の化合物群に同時に属する場合がある(例えばニトロクロロベンゼンは「ハロゲン化芳香族化合物」及び「芳香族ニトロ化合物」の双方に属する。)が、そのような非アルコール性有機化合物は、それら複数種の分類全ての属性を有しているものとして、化合物の属性を判断することとする(例えばニトロクロロベンゼンは、ハロゲン化芳香族化合物及び芳香族ニトロ化合物の両方の属性を有する)。
また、非アルコール性有機化合物は、フタロシアニン結晶と接触させた際の結晶型の制御性の面から、その構造中に酸性を示す官能基(以下適宜「酸性官能基」と略称する。)を有さない方が好ましい。酸性官能基とは、有機酸が構造中に有する酸性を示すために機能する官能基であり、例としては、カルボキシル基、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、メルカプトカルボニル基、ヒドロペルオキシ基、スルホ基、スルフィノ基、スルフェノ基、フェノール性水酸基、チオール基、ホスフィニコ基、ホスホノ基、セレノノ基、セレニノ基、セレネノ基、アルシニコ基、アルソノ基、ボロン酸基、ボラン酸基等が挙げられる。
非アルコール性有機化合物の分子量も特に制限されないが、非アルコール性有機化合物とフタロシアニン結晶前駆体との接触処理は通常、非アルコール性有機化合物が液体の状態で行なわれることから、非アルコール性有機化合物の分子量があまり大き過ぎると望ましくない。具体的に、非アルコール性有機化合物の分子量は通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、更に好ましくは300以下である。一方、非アルコール性有機化合物の分子量があまりに低過ぎると一般的に沸点が低くなり、揮発し易いために生産時の取り扱い性が低下する傾向があるので、分子量の下限は通常50以上、好ましくは100以上である。
非アルコール性有機化合物の存在形態は特に制限されず、液体、気体、固体の何れであってもよいが、非アルコール性有機化合物とフタロシアニン結晶前駆体との接触処理は通常、非アルコール性有機化合物が液体の状態で行なわれることから、非アルコール性有機化合物の融点は、通常150℃以下、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下である。
これらの非アルコール性有機化合物は、何れか一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
〔特定アルコール性化合物と非アルコール性有機化合物との併用〕
フタロシアニン結晶前駆体の結晶変換処理時における、特定アルコール性化合物及び非アルコール性有機化合物の併用が、得られるフタロシアニン結晶を材料として用いた電子写真感光体の特性になぜ影響を及ぼすのか、そのメカニズムについては明白ではないが、結晶変換処理時に非アルコール性有機化合物が共存することによって、同時に用いる特定アルコール性化合物がより効率的にフタロシアニン結晶中に取り込まれることにより、本発明の効果が得られているものと推測される。
〔接触手順〕
特定アルコール性化合物の存在下、非アルコール性有機化合物とフタロシアニン結晶前駆体とを接触させる方法は特に制限されず、いかなる公知の方法を用いることが可能である。
中でも、水及び特定アルコール性化合物の共存下でフタロシアニン結晶前駆体を非アルコール性有機化合物と接触させるのが一般的であり、本発明のフタロシアニン結晶を得るために好適である。水を使用する場合、その使用量は特に制限されないが、特定アルコール性化合物に対する重量比で、通常100重量%以上、中でも500重量%以上、また、通常5000重量%以下、中でも1500重量%以下の範囲とすることが好ましい。
特定アルコール性化合物の存在下における非アルコール性有機化合物とフタロシアニン結晶前駆体との具体的な接触の方法としては、例えば、フタロシアニン結晶前駆体を、非アルコール性有機化合物及び特定アルコール性化合物を含む蒸気や液体、又は非アルコール性有機化合物及び特定アルコール性化合物を含む溶液と共存させ、撹拌しながら接触させる方法や、特定アルコール性化合物の存在下、フタロシアニン結晶前駆体と非アルコール性有機化合物とを自動乳鉢、遊星ミル、振動ボールミル、CFミル、ローラーミル、サンドミル、ニーダー等の装置中でメディアと共に物理的な力を加えながら接触させる方法などが挙げられる。
特定アルコール性化合物の存在下における非アルコール性有機化合物とフタロシアニン結晶前駆体との接触時の温度は特に制限されないが、通常は150℃以下である。よって、本発明に使用される非アルコール性有機化合物及び特定アルコール性化合物は、何れもその融点が通常150℃以下であることが望ましい。非アルコール性有機化合物及び特定アルコール性化合物の融点があまり高過ぎると、結晶変換時の非アルコール性有機化合物及び特定アルコール性化合物の取扱性が低下することから、その融点は何れも120℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下である。
特定アルコール性化合物の存在下におけるフタロシアニン結晶前駆体と非アルコール性有機化合物との接触処理(即ち、結晶型変換処理)により、本発明のフタロシアニン結晶が得られる。得られた本発明のフタロシアニン結晶は、必要に応じて水や各種の有機溶媒等を用いて洗浄してもよい。接触処理後又は洗浄後において得られる本発明のフタロシアニン結晶は、通常はウェットケーキの状態である。前述したように、本発明の効果は、結晶変換時にフタロシアニン結晶前駆体を特定アルコール性化合物の存在下で非アルコール性有機化合物と接触させた際、フタロシアニン結晶中に特定アルコール性化合物が取り込まれることにより得られるものであると考えられることから、接触処理後又は洗浄後における本発明のフタロシアニン結晶の、ウェットケーキ中におけるフタロシアニン類の含有量(ウェットケーキ総重量に対するフタロシアニン類の重量)は特に制限されず、いかなる量であってもよい。
接触処理後又は洗浄後に得られた本発明のフタロシアニン結晶のウェットケーキは、通常は乾燥工程に供される。乾燥方法は送風乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の公知の方法で乾燥することが可能である。
以上の方法により得られる本発明のフタロシアニン結晶は、通常は、一次粒子が凝集して二次粒子を形成する形態をとる。その粒子径は、特定アルコール性化合物の存在下でフタロシアニン結晶前駆体を非アルコール性有機化合物に接触させる際の条件・処方等によって大きく異なるが、分散性を考慮すると、1次粒子径として、500nm以下が好ましく、塗布成膜性の面からは250nm以下であることが好ましい。
本発明において、特定アルコール性化合物の存在下、フタロシアニン結晶前駆体と非アルコール性有機化合物との接触前後で結晶変換がされたか否かの定義は、以下の通りである。即ち、接触前後において粉末X線回折スペクトルの各ピークが全く同一の場合は結晶変換がされてないものと定義し、接触前後において粉末X線回折スペクトルから得られるピーク位置、ピークの有無、ピーク半値幅等の情報に少しでも差異が認められた場合は結晶変換がされたものと定義する。
〔フタロシアニン結晶の結晶型〕
本発明のフタロシアニン結晶の結晶型は、フタロシアニン結晶前駆体と異なる結晶型であれば、如何なる結晶型であってもよいが、中でも、フタロシアニン結晶を電子写真感光体の材料として使用した場合における電子写真感光体の特性の面から、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型(本明細書では、この結晶型を適宜「特定結晶型」という。)が好ましい。
本発明の効果が得られるメカニズムは明らかとなっていないが、フタロシアニン結晶前駆体を特定アルコール性化合物の存在下で非アルコール性有機化合物に接触させ該結晶型を構築する際に、特定アルコール性化合物がフタロシアニン結晶中に取り込まれるとともに、取り込まれた特定アルコール性化合物が、結晶中に存在する増感剤としての水と相互作用することにより、低湿条件下での結晶中からの水の脱離を抑制し、低湿条件下でも水分子がフタロシアニン結晶中で存在することができるようになり、増感剤である水の脱離による感度低下を抑制しているため、或いは、特定アルコール性化合物が増感剤である水分子の替わりに増感剤としての役割を果たしているためではないかと考えられる。
特に、上述の特定結晶型は、他の結晶型と比較して結晶密度が低く、結晶中の空いている空間部分が多いため、特定アルコール性化合物の存在下で非アルコール性有機化合物をフタロシアニン結晶前駆体に接触させて上述の特定結晶型を構築する際に、特定アルコール性化合物がフタロシアニン結晶中に容易に取り込まれ、フタロシアニン結晶中で増感剤としての役割を果たしているのではないかと考えられる。以上の理由から、本発明のフタロシアニン結晶は、上述の特定結晶型を有するものが望ましい。
本発明のフタロシアニン結晶が上述の特定結晶型を有する場合、27.2°のピークと共に示す明確なピークの組み合わせとしては、以下の(i)〜(iii)が挙げられる。
(i)9.6°、24.1°、27.2°
(ii)9.5°、9.7°、24.1°、27.2°
(iii)9.0°、14.2°、23.9°、27.1°
中でも、上記(i)〜(iii)のピークの組み合わせのうち、上記(i)又は(ii)のピークの組み合わせを示すものが、分散時の結晶安定性に優れることから好ましい。
特に、7.3°、9.6°、11.6°、14.2°、18.0°、24.1°及び27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型、又は、7.3°、9.5°、9.7°、11.6°、14.2°、18.0°、24.2°及び27.2°に主たる回折ピークを有する結晶型が、電子写真感光体の材料として用いた場合の暗減衰、残留電位の観点からより好ましい。
なお、26.2°又は28.6°付近にピークを有するフタロシアニン結晶は、分散時に他の結晶型に転位し、電子写真特性の低下を招くことから、本発明のフタロシアニン結晶は、26.2°又は28.6°付近には明確なピークを有さないことが好ましい。
上述のように、本発明のフタロシアニン結晶における非アルコール性有機化合物及び特定アルコール性化合物の効果は、結晶変換の際に特定アルコール性化合物の存在下でフタロシアニン結晶前駆体と非アルコール性有機化合物とを接触させた際、特定アルコール性化合物がフタロシアニン結晶中に取り込まれることにより得られるものであって、結晶の中の分子の配向性には依存していないものと考えられる。よって、上に挙げた好ましいピークの組み合わせにおいて、各ピーク間の強度比は、本発明の効果とは相関性が無いと考えられる。従って、これらのピークはいかなる強度比を有していてもよいが、通常は27.2°付近のピーク又は9.6°付近のピークが最大となることが多い。
〔塩素化オキシチタニウムフタロシアニン〕
本発明のフタロシアニン結晶として好適なオキシチタニウムフタロシアニン結晶(オキシチタニウムフタロシアニンを少なくとも含む結晶又は混晶)の場合、製造方法の違いにより、その結晶中にフタロシアニン環が塩素化されたオキシチタニウムフタロシアニン(塩素化オキシチタニウムフタロシアニン)を含有する場合がある。本発明の効果は、フタロシアニン結晶中に特定アルコール性化合物が含有されることにより発現していると考えられることから、特定アルコール性化合物が多く取り込まれるように、オキシチタニウムフタロシアニン結晶中には空間が多く存在している方が好ましい。塩素化オキシチタニウムフタロシアニンはフタロシアニン環部分にクロロ基を有しており、分子体積が無置換のオキシチタニウムフタロシアニンと比較して大きくなっている。このため、結晶中に塩素化オキシチタニウムフタロシアニンが存在すると、特定アルコール性化合物を取り込むための空間が少なくなる。以上の理由から、オキシチタニウムフタロシアニン結晶の製造のためのフタロシアニン結晶前駆体として用いるオキシチタニウムフタロシアニン類(以下「オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体」と略称する。)は、塩素化オキシチタニウムフタロシアニンの含有量が少ない方が好ましい。
オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体中の塩素化オキシチタニウムフタロシアニンの含有量は、従来公知の元素分析法及びマススペクトル測定により決定することが出来る。中でも、マススペクトル測定の方法としては、特開2001−115054号公報の<マススペクトル測定法>の欄に記載の各種の方法を用いることができる。具体的な元素分析法及びマススペクトル測定の条件としては、例えば以下の条件が挙げられる。
<塩素含有量測定条件(元素分析)>
オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体約100mgを精秤して石英ボード上に載置し、昇温型電気炉(例えば三菱化学社製QF−02等)にて完全燃焼し、燃焼ガスを水15mlにて定量吸収させる。得られた吸収液を50mlに希釈し、イオンクロマトグラフィー(Dionex社製「DX−120」)で塩素分析を行なう。下記にイオンクロマトグラフィーの条件を示す。
カラム:Dionex IonPak AG12A+AS12A
溶離液:2.7mM炭酸ナトリウム(Na2CO3)/0.3mM炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)
流量:1.3ml/min
注入量:50μl
<マススペクトル測定条件>
(a)試料の調製:
オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体0.50gを、ガラスビーズ(φ1.0〜1.4mm)30g及びシクロヘキサノン10gと共に50mlのガラス容器に入れ、染料分散試験機(ペイントシェーカー)で3時間分散処理をし、5重量%オキシチタニウムフタロシアニン分散液とする。この5重量%オキシチタニウムフタロシアニン分散液1μlを20mlサンプル瓶に採取し、クロロホルム5mlを加え、1時間超音波により分散させることにより、10ppmオキシチタニウムフタロシアニン分散液を調製する。
(b)測定装置・条件:
測定装置:JEOL製JMS−700/MStaion
イオン化モード:DCI(−)
反応ガス:イソブタン(イオン化室圧力1×10-5Torr)
フィラメントレート:0 → 0.90A(1A/min)
質量分析能:2000
スキャン法:MF−Linear
スキャン質量範囲:500 to 600
全質量範囲スキャン時間:0.8sec
繰り返し時間:0.5sec
(c)塩素化オキシチタニウムフタロシアニンと無置換オキシチタニウムフタロシアニンとのマススペクトルピーク強度比の算出方法:
上記手順で調製した10ppmオキシチタニウムフタロシアニン分散液1μlをDCIプローブのフィラメントに塗布し、上記条件によりマススペクトル測定を行なう。得られたマススペクトルにおいて、塩素化オキシチタニウムフタロシアニンの分子イオンに相当するm/z=610及び無置換オキシチタニウムフタロシアニンの分子イオンに相当するm/z=576のイオンクロマトグラフィーから得られるピーク面積の比(「610」ピーク面積/「576」ピーク面積)をマススペクトルピーク強度比として算出する。
上述の<塩素含有量測定条件(元素分析)>に基づく測定によって得られる、オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体中に含有される塩素化オキシチタニウムフタロシアニンの量は、好ましくは0.4重量%以下、より好ましくは0.3重量%以下、更に好ましくは0.2重量%以下である。
また、上述の<マススペクトル測定条件>に基づく測定によって得られる、オキシチタニウムフタロシアニン結晶前駆体中の塩素化オキシチタニウムフタロシアニンと無置換オキシチタニウムフタロシアニンとのマススペクトルピーク強度比は、好ましくは0.050以下、より好ましくは0.040以下、更に好ましくは0.030以下である。
[II.電子写真感光体]
以下、本発明の電子写真感光体について詳述する。本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層を有し、該感光層に、上に説明した本発明のフタロシアニン結晶を含有するものである。
[II−1.導電性支持体]
導電性支持体としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙等が主として使用される。形状としては、ドラム状、シート状、ベルト状などのものが用いられる。また、金属材料の導電性支持体に、導電性・表面性などの制御のためや欠陥被覆のために、適当な抵抗値をもつ導電性材料を塗布したものを用いてもよい。
導電性支持体の表面は、平滑であってもよいし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理したりすることにより、粗面化されていてもよい。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものであってもよい。また、安価化のためには切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。特に引き抜き加工、インパクト加工、しごき加工等の非切削アルミニウム基体を用いる場合、処理により、表面に存在した汚れや異物等の付着物、小さな傷等が無くなり、均一で清浄な基体が得られるので好ましい。
また、導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いる場合、陽極酸化被膜を施してから用いてもよい。陽極酸化被膜は、例えば、クロム酸、硫酸、シュウ酸、ホウ酸、スルファミン酸等の酸性浴中で、陽極酸化処理することにより形成されるが、硫酸中での陽極酸化処理がより良好な結果を与える。硫酸中での陽極酸化の場合、硫酸濃度は100〜300g/l、溶存アルミニウム濃度は2〜15g/l、液温は15〜30℃、電解電圧は10〜20V、電流密度は0.5〜2A/dm2の範囲内に設定されるのが好ましいが、前記条件に限定されるものではない。
陽極酸化被膜の平均膜厚が厚過ぎると、封孔液の高濃度化、高温・長時間処理等により強い封孔条件が求められる場合がある。従って生産性が悪くなると共に、被膜表面にシミ、汚れ、粉ふきといった表面欠陥を生じ易くなる傾向がある。このような点から、陽極酸化被膜の平均膜厚は、通常20μm以下、特に7μm以下で形成されることが好ましい。
陽極酸化被膜を形成した場合、封孔処理を行なうことが好ましい。封孔処理は、通常の方法で良いが、例えば、主成分としてフッ化ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる低温封孔処理、或いは、主成分として酢酸ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる高温封孔処理を施すのが好ましい。
低温封孔処理の場合、使用するフッ化ニッケル水溶液の濃度は、適宜選択することが可能であるが、中でも3〜6g/lの範囲とすると、より好ましい結果が得られる。フッ化ニッケル水溶液のpHは、通常4.5以上、好ましくは5.5以上、また、通常6.5以下、好ましくは6.0以下の範囲で処理するのがよい。pH調節剤としては、シュウ酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、アンモニア水等を用いることができる。また、被膜物性を更に改良するために、フッ化コバルト、酢酸コバルト、硫酸ニッケル、界面活性剤等をフッ化ニッケル水溶液に加えておいてもよい。処理温度は、封孔処理をスムーズに進めるために、通常25℃以上、好ましくは30℃以上、また、通常40℃以下、好ましくは35℃以下の範囲とするのがよい。処理時間は、被膜の膜厚1μmあたり1〜3分間の範囲で処理することが好ましい。次いで水洗、乾燥して低温封孔処理を終える。
高温封孔処理の場合、封孔剤としては、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸鉛、酢酸ニッケル−コバルト、硝酸バリウム等の金属塩水溶液を用いることができるが、特に酢酸ニッケルを用いるのが好ましい。酢酸ニッケル水溶液を用いる場合、その濃度は通常5〜20g/lの範囲内で使用するのが好ましい。酢酸ニッケル水溶液のpHは通常5.0〜6.0の範囲で処理するのが好ましい。pH調節剤としては、アンモニア水、酢酸ナトリウム等を用いることができる。なお、被膜物性を改良するために、酢酸ナトリウム、有機カルボン酸、アニオン系、ノニオン系界面活性剤等を酢酸ニッケル水溶液に加えてもよい。処理温度は通常80℃以上、通常100℃以下、好ましくは90℃以上、好ましくは98℃以下の範囲である。処理時間は通常10分以上、好ましくは20分以上である。次いで水洗、乾燥して高温封孔処理を終える。
[II−2.下引き層]
導電性支持体と後述する感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けてもよい。下引き層としては、バインダー樹脂、バインダー樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したものなどが用いられる。
下引き層に用いられる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子が挙げられる。これらの金属酸化物粒子は、何れか1種類を単独で用いてもよいし、複数種を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。これらの金属粒子の中でも、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコーン等の有機物による処理を施されていてもよい。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスの何れも用いることができる。また、複数の結晶状態のものが含有されていてもよい。
金属酸化物粒子の粒径としては、種々のものが利用できるが、中でも特性及び液の安定性の面から、平均一次粒径として通常10nm以上、また、通常100nm以下、特に50nm以下の範囲のものが好ましい。
下引き層は、前記金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ニトロセルロース等のセルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、澱粉、スターチアセテート、アミノ澱粉、ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物等の有機ジルコニウム化合物、チタニルキレート化合物、チタニルアルコキシド化合物等の有機チタニル化合物、シランカップリング剤などの公知のバインダー樹脂を用いることができる。これらは単独、もしくは硬化剤とともに硬化した形で使用できる。中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は良好な分散性、塗布性を示し好ましい。
バインダー樹脂に対する金属酸化物粒子の使用比率は任意に選ぶことが可能であるが、分散液の安定性、塗布性の観点から、通常10重量%以上、500重量%以下の範囲で使用することが好ましい。
その他、下引き層には、画像欠陥防止などを目的として、顔料粒子、樹脂粒子等を含有させてもよい。
下引き層の膜厚は任意に選ぶことができるが、感光体特性及び塗布性から、通常0.01μm以上、中でも0.1μm以上、また、通常30μm以下、中でも20μm以下の範囲内とすることが好ましい。
[II−3.感光層]
導電性支持体の上(下引き層を設ける場合は下引き層の上)には、感光層が形成される。感光層は、電荷発生物質と、電荷輸送物質と、バインダー樹脂とを含んで構成される。
感光層の構造としては、電荷発生物質と電荷輸送物質がバインダー樹脂中に分散されて同一層に存在する単層構造の感光層(以下適宜「単層型感光層」という。)と、電荷発生物質がバインダー樹脂中に分散された電荷発生層と電荷輸送物質がバインダー樹脂中に分散された電荷輸送層とに機能分離された積層構造の感光層(以下適宜「積層型感光層」という。)とが挙げられるが、何れを使用することも可能である。また、積層型感光層の場合、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層の順に積層される順積層型感光層と、導電性支持体側から電荷輸送層、電荷発生層の順に積層される逆積層型感光層とに分けられるが、いずれを適用することも可能である。以下、各構造について説明する。
<積層型感光層の電荷発生層>
積層型感光層の電荷発生層は、溶媒又は分散媒にバインダー樹脂を溶解又は分散させるとともに、電荷発生物質を分散させて塗布液を調製し、これを順積層型感光体の場合は導電性支持体上(下引き層を設ける場合には下引き層上)、逆積層型感光体の場合は電荷輸送層上に塗布・成膜し、電荷発生物質の微粒子をバインダー樹脂によって結着することにより形成される。
・電荷発生物質:
電荷発生物質としては、少なくとも本発明のフタロシアニン結晶が用いられる。本発明のフタロシアニン結晶は、何れか一種を単独で用いてもよいが、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、本発明のフタロシアニン結晶のみを電荷発生物質として用いてもよいが、本発明のフタロシアニン結晶を他の電荷発生物質と組み合わせ、混合状態として用いてもよい。
電荷発生物質として用いられる本発明のフタロシアニン結晶の粒子径は、充分小さいことが必要である。具体的には、1μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下で使用される。
本発明のフタロシアニン結晶と混合状態として用いる他の電荷発生物質としては、公知の各種の染顔料が挙げられる。染顔料の例としては、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、スクアレン(スクアリリウム顔料)、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等が挙げられる。中でも、光感度の面から、フタロシアニン顔料、アゾ顔料が好ましく使用される。
・バインダー樹脂:
電荷発生層のバインダー樹脂の種類は特に制限されないが、その例としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼインや、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アルキッド樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマーの中から選択し、用いることができるが、これらポリマーに限定されるものではない。なお、これらのバインダー樹脂は何れか一種を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
・配合比:
電荷発生層におけるバインダー樹脂と電荷発生物質との配合比(重量)としては、バインダー樹脂100重量部に対する電荷発生物質の比率で、通常10重量部以上、好ましくは30重量部以上、また、通常1000重量部以下、好ましくは500重量部以下の範囲とする。電荷発生物質の比率が高過ぎる場合は、電荷発生物質の凝集等の課題により塗布液の安定性が低下する傾向があり、一方、低過ぎる場合は感光体としての感度の低下をまねく傾向があることから、前記範囲で使用することが好ましい。
・溶媒又は分散媒:
塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン等の飽和脂肪族系溶媒;トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒;グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類;アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン等の鎖状及び環状ケトン系溶媒;ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等の鎖状及び環状エーテル系溶媒;アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒;n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物;リグロイン等の鉱油;水などが挙げられ、上述の下引き層を溶解しないものが好ましく用いられる。これらの溶媒又は分散媒は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
・分散の手法:
電荷発生物質を溶媒又は分散媒に分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法等の公知の分散方法を用いることができる。この際、電荷発生物質粒子を通常0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.15μm以下の粒子サイズに微細化することが有効である。
・膜厚:
電荷発生層の膜厚は、通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、通常10μm以下、好ましくは0.6μm以下の範囲とする。
<積層型感光層の電荷輸送層>
積層型感光層の電荷輸送層は、溶剤にバインダー樹脂を溶解又は分散させるとともに、電荷輸送物質を分散させて塗布液を調製し、これを順積層型感光体の場合は電荷輸送層上、逆積層型感光体の場合は導電性支持体上(下引き層を設ける場合には下引き層上)に塗布し、電荷輸送物質の微粒子をバインダー樹脂によって結着することにより形成される。
・バインダー樹脂:
バインダー樹脂としては、例えばブタジエン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、部分変性ポリビニルアセタール、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロースエステル樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は珪素試薬などで修飾されていてもよい。上記バインダー樹脂のうち、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が特に好ましい。
ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂の中でも、下記構造式で表わされるビスフェノール残基、及び/又は、ビフェノール残基を含有するポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が感度、残留電位の点から好ましく、中でも移動度の面からポリカーボネート樹脂がより好ましい。なお、複数の構造式を括弧で括って連結して示しているものは、各構造式で表される部分構造を併有することを表わし、それらの部分構造の結合順序等は、特に制限されないものとする。
なお、これらのバインダー樹脂は、適当な硬化剤を用いて熱、光等により架橋させて用いることもできる。
また、バインダー樹脂は、何れか一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いることもできる。
・電荷輸送物質:
電荷輸送物質としては、公知の物質であれば特に限定されるものではなく、例えば、2,4,7−トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン化合物等の電子吸引性物質、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、或いはこれらの化合物からなる基を主鎖若しくは側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等が挙げられる。これらの中で、カルバゾール誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。
・配合比:
バインダー樹脂と電荷輸送物質との割合は、バインダー樹脂100重量部に対して通常20重量部以上、残留電位低減の観点から30重量部以上が好ましく、更に繰り返し使用時の安定性、電荷移動度の観点から、40重量部以下がより好ましい。一方で、感光層の熱安定性の観点から、通常は150重量部以下、更に電荷輸送物質とバインダー樹脂の相溶性の観点からは好ましくは120重量部以下、更に耐刷性の観点からは100重量部以下がより好ましく、耐傷性の観点からは80重量部以下がとりわけ好ましい。
・溶媒又は分散媒並びに分散の手法:
溶媒又は分散媒の種類、並びに電荷輸送物質を溶媒又は分散媒に分散させる手法については、<積層型感光層の電荷発生層>の欄で説明した通りである。
・膜厚:
電荷輸送層の膜厚は特に制限されないが、長寿命や画像安定性の観点、並びに高解像度の観点から、通常5μm以上、中でも10μm以上、また、通常50μm以下、中でも45μm以下、更には30μm以下の範囲とすることが好ましい。
<単層型感光層>
単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質とバインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して得られる塗布液を、導電性支持体上(下引き層を設ける場合には下引き層上)に塗布、乾燥し、電荷発生物質及び電荷輸送物質の微粒子をバインダー樹脂によって結着することにより形成される。電荷発生物質としては、上記の<積層型感光層の電荷発生層>の欄で説明したものが用いられ、電荷輸送物質及びバインダー樹脂としては、上記の<積層型感光層の電荷輸送層>の欄で説明したものが用いられる。バインダー樹脂に対する電荷発生物質及び電荷輸送物質の比率も、それぞれ上述の<積層型感光層の電荷発生層>及び<積層型感光層の電荷輸送層>の欄で説明した通りである。
単層型感光層内に分散されるフタロシアニン結晶は、少な過ぎると充分な感度が得られない傾向があり、また、多過ぎると帯電性の低下、感度の低下の弊害が生じる傾向があるので、例えば、バインダー樹脂100重量部に対する電荷発生物質の比率が、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは1重量%以上、また、好ましくは50重量%以下、より好ましくは20重量%以下の範囲で使用される。
溶媒又は分散媒の種類、並びに分散の手法については、上記の<積層型感光層の電荷発生層>の欄で説明した通りである。
単層型感光層の膜厚は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下の範囲で使用される。
<その他の成分>
なお、感光層には成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性などを向上させるために周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤などの添加物を含有させてもよい。
[II−4.その他の層]
電子写真感光体の構成としては、以上説明した各層に加え、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、他の層を設けてもよい。
例えば、感光層の損耗を防止したり、帯電器等からの発生する放電物質等による感光層の劣化を防止・軽減する目的で、感光層の上に保護層を設けてもよい。保護層は、適当なバインダー樹脂中に導電性材料を含有させて形成するか、特開平9−190004号公報、特開平10−252377号公報等に記載のようなトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する化合物を用いた共重合体を用いることができる。導電性材料としては、TPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス−(m−トリル)ベンジジン)等の芳香族アミノ化合物、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化錫−酸化アンチモン、酸化アルミ、酸化亜鉛等の金属酸化物などを用いることが可能であるが、これに限定されるものではない。保護層に用いるバインダー樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シロキサン樹脂等の公知の樹脂を用いることができ、また、特開平9−190004号公報、特開平10−252377号公報の記載のようなトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する骨格と上記樹脂の共重合体を用いることもできる。保護層は、電気抵抗が109〜1014Ω・cmとなるように構成することが好ましい。電気抵抗が高過ぎると、残留電位が上昇しカブリの多い画像となってしまう傾向があり、一方、電気抵抗が低過ぎると、画像のボケ、解像度の低下が生じてしまう傾向がある。また、保護層は像露光に照射される光の透過を実質上妨げないように構成されなければならない。
また、電子写真感光体の表面の摩擦抵抗や摩耗を低減したり、電子写真感光体から転写ベルトや紙へのトナーの転写効率を高める等の目的で、電子写真感光体の表面層(感光層、保護層等)に、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂等を含有させてもよい。また、これらの樹脂からなる粒子や、無機化合物の粒子等を含有させてもよい。
[II−5.各層の形成方法]
これらの感光体を構成する各層は、前記方法により得られた塗布液を、支持体上に公知の塗布方法を用い、各層ごとに塗布・乾燥工程を繰り返し、順次塗布していくことにより形成される。
単層型感光体の感光層及び機能分離型感光体の電荷輸送層を形成する場合、塗布液の固形分濃度は、通常5重量%以上、中でも10重量%以上、また、通常40重量%以下、中でも35重量%以下の範囲とするのが好ましい。また、塗布液の粘度は、通常10mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上、また、通常500mPa・s以下、好ましくは400mPa・s以下の範囲とするのが好ましい。
機能分離型感光体の電荷発生層を形成する場合、塗布液の固形分濃度は、通常0.1重量%以上、中でも1重量%以上、また、通常15重量%以下、中でも10%以下の範囲とするのが好ましい。また、塗布液の粘度は、通常0.01mPa・s以上、中でも0.1mPa・s以上、また、通常20mPa・s以下、中でも10mPa・s以下の範囲とするのが好ましい。
塗布液の塗布方法としては、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等が挙げられるが、他の公知のコーティング法を用いることも可能である。
塗布液の乾燥方法は特に制限されないが、通常は、室温における指触乾燥後、無風又は送風下で加熱乾燥することが好ましい。加熱温度は特に30〜200℃の温度範囲で、1分〜2時間に亘って、また加熱温度は一定であっても、乾燥時に変更させながら行なってもよい。
[III.画像形成装置]
次に、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置(本発明の画像形成装置)の実施の形態について、装置の要部構成を示す図1を用いて説明する。但し、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
図1に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1、帯電装置(帯電部)2、露光装置(露光部)3及び現像装置(現像部)4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。帯電装置としては、コロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、電圧印加された直接帯電部材を感光体表面に接触させて帯電させる直接帯電装置(接触型帯電装置)帯電ブラシ等の接触型帯電装置などがよく用いられる。直接帯電手段の例としては、帯電ローラ、帯電ブラシ等の接触帯電器などが挙げられる。なお、図1では、帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示している。直接帯電手段として、気中放電を伴う帯電、あるいは気中放電を伴わない注入帯電何れも可能である。また、帯電時に印可する電圧としては、直流電圧だけの場合、及び直流に交流を重畳させて用いることもできる。
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LEDなどが挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが、例えば波長が780nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm〜500nmの短波長の単色光などで露光を行なえばよい。
現像装置4は、その種類に特に制限はなく、カスケード現像、一成分絶縁トナー現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像などの乾式現像方式や、湿式現像方式などの任意の装置を用いることができる。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジなどの容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケルなどの金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂などを被覆した樹脂ロールなどからなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
規制部材45は、シリコーン樹脂やウレタン樹脂などの樹脂ブレード、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、リン青銅などの金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は5〜500g/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
アジテータ42は、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
トナーとしては、粉砕トナーの他に、懸濁造粒、懸濁重合、乳化重合凝集法等のケミカルトナーを用いることができる。特に、ケミカルトナーの場合には、4〜8μm程度の小粒径のものが用いられ、形状も球形に近いものから、ポテト状、ラグビーボール状等の球形から外れたものも使用することができる。重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化には好適に用いられる。
トナーTの種類は任意であり、粉状トナーのほか、懸濁造粒、懸濁重合、乳化重合凝集法等のケミカルトナーを用いることができる。ケミカルトナーの場合には、4〜8μm程度の小粒径のものが好ましく、また、トナー粒子の形状も、球形に近いものから、球形から外れたポテト状のものまで、様々な形状のものを使用することができる。特に重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化に好適に用いられる。
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写などの静電転写法、圧力転写法、粘着転写法など、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー,転写ローラ,転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙,媒体)Pに転写するものである。
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナーなど、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。なお、残留トナーが少ないか、ほとんど無い場合、クリーニング装置6は無くてもかまわない。
定着装置7は、上部定着部材(定着ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス,アルミニウムなどの金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シートなどが公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を向上させる為にシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着など、任意の方式による定着装置を設けることができる。
以上のように構成された画像形成装置では、次の方法(本発明の画像形成方法)に従って画像の記録が行なわれる。
即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば−600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させてもよく、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行なう。
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、負極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行なうことができる構成としてもよい。除電工程は、電子写真感光体に露光を行なうことで電子写真感光体の除電を行なう工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程などの工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
なお、電子写真感光体1を単独で、又は、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5、クリーニング装置6、及び定着装置7のうち1つ又は2つ以上の要素と組み合わせて、一体型のカートリッジ(これを適宜「電子写真感光体カートリッジ」という)として構成し、この電子写真感光体カートリッジを複写機やレーザービームプリンタ等の画像形成装置本体に対して着脱可能な構成にしてもよい。この場合、画像形成装置に対して着脱可能に構成されたカートリッジケースを用い、これに電子写真感光体1を単独で、又は上述の要素と組み合わせて収容し支持させることにより、電子写真感光体カートリッジとすることができる。こうした構成により、例えば電子写真感光体1やその他の部材が劣化した場合に、この電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することにより、画像形成装置の保守・管理が容易となる。
以下、合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に反しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[粉末XRDスペクトル測定及びピーク半値幅の算出条件]
なお、後述の各合成例及び比較合成例で得られたフタロシアニン類の粉末X線回折スペクトルは、以下の手順で測定した。即ち、測定装置としては、CuKα特性X線(波長1.541Å)を線源とした集中光学系の粉末X線回折計であるPANalytical社製のPW1700を使用した。測定条件は、X線出力40kV,30mA、走査範囲(2θ)3〜40°、スキャンステップ幅0.05°、走査速度3.0°/min、発散スリット1.0°、散乱スリット1.0°、受光スリット0.2mmとした。
ピーク半値幅は、プロファイルフィッティング法により算出した。プロファイルフィッティングは、MDI社製粉末X線回折パターン解析ソフトJADE5.0+を用いて行なった。その算出条件は、以下の通りとした。即ち、バックグランドは、全測定範囲(2θ=3.0〜40.0°)から理想的な位置に固定した。フィッティング関数としては、CuKα2の寄与を考慮したPeason−VII関数を用いた。フィッティング関数の変数としては、回折角(2θ)、ピーク高さ、ピーク半値幅(βo)の3つを精密化した。CuKα2の影響を除去し、CuKα1由来の回折角(2θ)、ピーク高さ、ピーク半値幅(βo)を計算した。非対称は0に、形定数は1.5に固定した。
上記のプロファイルフィッティングより算出したピーク半値幅(βo)を、同測定条件、同プロファイルフィッティング条件により算出した標準Si(NIST Si 640b)の111ピーク(2θ=28.442°)のピーク半値幅(βSi)により、下式に従って補正することにより、試料由来の半値幅(β)を求めた。
[合成例1(β型オキシチタニウムフタロシアニン結晶)]
特開平10−7925号公報に記載の「粗TiOPcの製造例」、次いで「実施例1」の手順に従って、β型オキシチタニウムフタロシアニン結晶を調製した。得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図6に示す。また、得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶中に含有される塩素分を、上記[発明を実施するための最良の形態]の<塩素含有量測定条件(元素分析)>の欄に記載の手法に従って分析した結果、塩素含有量は検出下限以下の0.20重量%以下であった。また、上記[発明を実施するための最良の形態]の<マススペクトル測定条件>の欄に記載の手法に従って、得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶中のオキシチタニウムフタロシアニンに対するクロロオキシチタニウムフタロシアニンのピーク強度比を測定したところ、0.002であった。
[合成例2(低結晶性オキシチタニウムフタロシアニン)]
合成例1で得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶60重量部を、−10℃以下に冷却した95%濃硫酸1500重量部中に加えた。この時、硫酸溶液の内温が−5℃を超えないように、ゆっくりと加えた。添加終了後、濃硫酸溶液を−5℃以下で2時間撹拌した。撹拌後、濃硫酸溶液をガラスフィルターで濾過し、不溶分を濾別後、濃硫酸溶液を氷水15000重量部中に放出することにより、オキシチタニウムフタロシアニンを析出させ、放出後1時間撹拌した。撹拌後、溶液を濾別し、得られたウェットケーキを再度、水3000重量部中で1時間洗浄し、濾過を行なった。この洗浄操作を、濾液のイオン伝導度が0.5mS/mになるまで繰り返すことにより、低結晶性オキシチタニウムフタロシアニンのウェットケーキ604重量部を得た(オキシチタニウムフタロシアニン含有率9.9重量%)。得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図7に示す。
[合成例3〜25、比較合成例1〜7]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例2で得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニンのウェットケーキ40重量部を水100重量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表1に示す合成例3〜25の接触処理液(非アルコール性有機化合物に特定アルコール性化合物を所定の濃度で混合した溶液)各9mlを加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加えて1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これらを以下適宜、合成例3〜25のフタロシアニン結晶という。)。
また、合成例3〜25の接触処理液の代わりに、下記表1に示す比較合成例1〜7の接触処理液(非アルコール性有機化合物のみからなる液、特定アルコール性化合物のみからなる液、或いは、特定アルコール性化合物以外のアルコール性化合物を非アルコール性有機化合物に所定の濃度で溶解させた溶液)各9mlを用いた他は、合成例3〜25と同様の操作を行なうことにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これらを以下適宜、比較合成例1〜7のフタロシアニン結晶という。)。
合成例3〜25及び比較合成例1〜7のフタロシアニン結晶について、粉末XRDスペクトルを測定した。得られた粉末XRDスペクトルは、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。なお、使用した非アルコール性有機化合物が同一の場合は、特定アルコール性化合物の存在の有無にかかわらず、概ね同じ形状の粉末X線回折スペクトルが得られた。代表例として、合成例3、18、20、22、24で得られたフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルをそれぞれ図8〜図12に示す。
[合成例26]
合成例2で得られた低結晶性オキシチタニウムフタロシアニン(フタロシアニン結晶前駆体)のウェットケーキ40重量部を、テトラヒドロフラン(非アルコール性有機化合物)100mlにジメチルベンジルカルビノール(特定アルコール性化合物)15gを溶解させた溶液(下記表1に示す合成例26の接触処理液)に加え、室温で3時間撹拌した。撹拌後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これを以下適宜、合成例26のフタロシアニン結晶という。)。合成例26のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図13に示す。図13から明らかなように、合成例26のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルは、CuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。
[比較合成例8]
上述の合成例26において、ジメチルベンジルカルビノールのテトラヒドロフラン溶液の代わりにテトラヒドロフラン100ml(下記表1に示す比較合成例8の接触処理液)を用いた他は、合成例26と同様の操作を行なうことにより、オキシチタニウムフタロシアニン単独からなる結晶を得た(これを以下適宜、比較合成例8のフタロシアニン結晶という。)。比較合成例8のフタロシアニン結晶について粉末XRDスペクトルを測定したところ、得られた粉末XRDスペクトルは、前述の合成例26のフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトル(図13)と概ね同じ形状であった。
[合成例27(低結晶性フタロシアニン組成物)]
合成例2において原料として用いた合成例1のオキシチタニウムフタロシアニン結晶60重量部を、合成例1のオキシチタニウムフタロシアニン結晶47.5重量部と無金属フタロシアニン(大日本インキ化学工業(株)社製「FastgenBlue8120BS」)2.5重量部との混合物に変更した以外は、合成例2と同様の操作を行なうことにより、低結晶性フタロシアニン組成物のウェットケーキ410重量部を得た(フタロシアニン類の含有率12.2重量%)。得られた低結晶性フタロシアニン類の粉末XRDスペクトルを図14に示す。
[合成例28〜31、比較合成例9]
フタロシアニン結晶前駆体として、合成例27で得られた低結晶性フタロシアニン組成物のウェットケーキ33重量部を水90重量部中に加え、室温で30分撹拌した。その後、下記表2に示す合成例28〜31の接触処理液(非アルコール性有機化合物である3−クロロベンズアルデヒドに特定アルコール性化合物を所定の濃度で混合した溶液)各9mlを加え、更に室温で1時間撹拌した。撹拌後、水を分離し、メタノール80重量部を加え、室温で1時間撹拌洗浄した。洗浄後、濾別し、再度メタノール80重量部を加え1時間撹拌洗浄した後、濾別し、真空乾燥機で加熱乾燥することにより、オキシチタニウムフタロシアニンと無金属フタロシアニンとの混晶を得た(これらを各々、合成例28〜31のフタロシアニン結晶という。)。
また、上述の合成例28〜31の接触処理液の代わりに、下記表2に示す比較合成例9の接触処理液(非アルコール性有機化合物である3−クロロベンズアルデヒドのみからなる液)9mlを用いた他は、合成例28〜31と同様の操作を行なうことにより、オキシチタニウムフタロシアニンと無金属フタロシアニンとの混晶を得た(これを以下適宜、比較合成例9のフタロシアニン結晶という。)。
合成例28〜31及び比較合成例9のフタロシアニン結晶について、粉末XRDスペクトルを測定した。得られた粉末XRDスペクトルは、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するものであった。また、これらの粉末X線回折スペクトルは、何れも概ね同じ形状であった。代表例として、合成例28で得られたフタロシアニン結晶の粉末XRDスペクトルを図15に示す。
[感光体の製造方法]
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(厚み75μm)の表面にアルミニウム蒸着膜(厚み70nm)を形成した導電性支持体を用い、その支持体の蒸着層上に、以下に示す手法で調製した下引き層用分散液をバーコーターにより、乾燥後の膜厚が1.25μm以下となるように塗布し、乾燥させ下引き層を形成した。
下引き層用分散液の調製は以下の手法で行なった。即ち、平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機((株)カワタ社製「SMG300」)に投入し、回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1−プロパノールのボールミルにより分散させることにより、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε−カプロラクタム[下記式(A)で表される化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表される化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表される化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表される化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表される化合物]の組成モル比率が、60%/15%/5%/15%/5%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行なうことにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの重量比が7/1/2で、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の下引き層分散液とした。
一方、電荷発生物質として、後述するフタロシアニン結晶各20重量部を用い、これを1,2−ジメトキシエタン280重量部と混合し、サンドグラインドミルで2時間粉砕して微粒化分散処理を行なった。また、1,2−ジメトキシエタン253重量部及び4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン85重量部の混合液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)社製、商品名「デンカブチラール」#6000C)10重量部を溶解させて、バインダー液を調製した。上述の微粒化分散処理により得られた微細化処理液及び上述のバインダー液と1,2−ジメトキシエタン230重量部とを混合して、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を、前記導電性支持体上に形成された下引き層上に、バーコーターにより、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように塗布し、乾燥させて電荷発生層を形成した。
更に、特開2002−80432号公報の実施例1に基づいて合成された、下記構造式(F)で示される化合物50重量部を電荷輸送物質として用い、また、下記構造式(G)で示される2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位51モル%と、下記構造式(H)で示される1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位49モル%とからなり、p−t−ブチルフェノールに由来する末端構造式を有するポリカーボネート樹脂100重量部をバインダー樹脂として用い、その他に、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール8重量部、シリコーンオイル(商品名「KF96」、信越化学工業(株)製)0.03重量部を、テトラヒドロフラン/トルエン(重量比8/2)混合溶媒640重量部に溶解させて電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を、フィルムアプリケーターにより、前記電荷発生層上に乾燥後の膜厚が25μmとなるように塗布し、乾燥させて電荷輸送層を形成することにより、積層型感光層を有する電子写真感光体を作製した。
[実施例1〜28、比較例1〜9]
電荷発生物質として合成例3〜26及び合成例28〜31、並びに、比較合成例1〜9のフタロシアニン結晶を用い、上述の感光体製造方法に従って電子写真感光体を製造した(これらを以下適宜、実施例1〜28、比較例1〜9の電子写真感光体という。)。各電子写真感光体と、電荷発生物質として用いたフタロシアニン結晶及びその組成との対応を、下記表3及び表4に示す。
[電子写真感光体の評価]
実施例1〜28、比較例1〜9の電子写真感光体を、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置(「続電子写真技術の基礎と応用」、電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)に装着し、以下の手順に従って帯電、露光、電位測定、除電のサイクルを実施することにより、電気特性の評価を行なった。
温度25℃、湿度50%の条件下、感光体の初期表面電位が−700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを照射して、表面電位が−350Vとなる時の照射エネルギー(半減露光エネルギー)を標準湿度感度(以下「En1/2」と言う場合がある。)として測定した(単位μJ/cm2)。また、温度25℃、湿度10%の条件下で前記同様の測定を行なうことにより、低湿感度(以下「El1/2」と言う場合がある。)として測定した(単位μJ/cm2)。得られた標準湿度感度En1/2及び低湿感度El1/2の値を用い、下記式に従って計算することにより、湿度変化による感度保持率を算出した(単位%)。
実施例1〜28、比較例1〜9の電子写真感光体についての電気特性の評価結果を下記表3及び表4に示す。なお、下記表3及び表4において、同じ非アルコール性有機化合物を用いて得られたフタロシアニン結晶を使用した実施例及び比較例については、上下に並べて示している。
電荷発生物質として用いた合成例3〜26及び合成例28〜31、並びに、比較合成例1〜9のフタロシアニン結晶は、粉末XRDスペクトル(図8〜13、15)から明らかなように、何れもCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するフタロシアニン結晶であった。
これらの合成例3〜26及び合成例28〜31、並びに、比較合成例1〜9のフタロシアニン結晶を電荷発生物質として用いた実施例1〜28、比較例1〜9の電子写真感光体を、そのフタロシアニン結晶の組成及びフタロシアニン結晶製造時に使用した非アルコール性有機化合物の種類に応じて7組(実施例1〜15及び比較例1〜3;実施例16、17及び比較例4;実施例18、19及び比較例5;実施例20、21及び比較例6;実施例22、23及び比較例7;実施例24及び比較例8;実施例25〜28及び比較例9)に分け、各組について実施例と比較例とを比較すると、温度25℃、湿度50%の条件下における感度(標準湿度感度En1/2)は、実施例、比較例ともに同等であった。しかしながら、感度保持率の値を比較すると、非アルコール性有機化合物及び特定アルコール性化合物に接触させて得られたフタロシアニン結晶を用いた実施例の電子写真感光体の方が、非アルコール性有機化合物のみ又は特定アルコール性化合物のみに接触させて得られたフタロシアニン結晶、或いは非アルコール性有機化合物と特定アルコール性化合物以外のアルコール性化合物との組み合わせに接触させて得られたフタロシアニン結晶を用いた比較例の電子写真感光体に比べて、湿度変化に対する感度の変動が少ないのが分かる。
[比較例10、11]
上述の[感光体の製造方法]において電荷発生層用塗布液を調製する際に、電荷発生物質として比較合成例1のフタロシアニン結晶20重量部を使用するとともに、ベンジルアルコール1.25重量部を併せて用いた他は、上述の[感光体の製造方法]の手順に従って電子写真感光体を製造した。これを以下適宜、比較例10の電子写真感光体という。
また、ベンジルアルコール1.25重量部の代わりにβ−フェニルエチルアルコール1.25重量部を用いた他は、比較例10と同様の手順に従って電子写真感光体を製造した。これを以下適宜、比較例11の電子写真感光体という。
これら比較例10、11の電子写真感光体についても、上述の実施例1〜28、比較例1〜9の電子写真感光体の場合と同様の手順に従って、電気特性の評価を行なった。
実施例13、14、比較例1、10、11の電子写真感光体についての電気特性の評価結果を下記表5に示す。
以上の結果から、上述の特定アルコール性化合物を電荷発生層用塗布液の調製時に加えただけでは、本発明のフタロシアニン結晶による上述の効果(感度の向上及び使用環境の湿度変化に対する感度変動の抑制効果)は得られないことが明らかとなった。