以下、本発明について詳細に説明するが、以下の説明において例示する各例示物等はあくまで例として挙げたものであり、本発明はこれら例示物に何ら制限されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
[1.フタロシアニン組成物]
[1−1.フタロシアニン化合物の構造]
本発明の第1のフタロシアニン組成物(以下適宜、「第1のフタロシアニン組成物」という)は、下記一般式(1)で示されるフタロシアニン化合物、及び、下記一般式(2)で示されるフタロシアニン化合物の双方を含有することを特徴とする。ただし、下記一般式(1),(2)において、M1とM2とは異なる種類のものを表す。
以下、上記の一般式(1)及び一般式(2)について詳細に説明する。
上記一般式(1)において、M
1はフタロシアニンと結合しうる任意の少なくとも1つの原子(以下適宜、「中心原子」という)または原子団(以下適宜、「中心原子団」という)を表す。即ち、M
1は中心原子単体であってもよく、中心原子が他の物質と結合した中心原子団であってもよい。
中心原子は1個でもよく、2個以上であっても良い。中心原子が2個以上であるものの具体例としては、下記の無金属フタロシアニンが挙げられる。この無金属フタロシアニンにおいては、窒素に結合した2個の水素がそれぞれ中心原子となる。
また、ここでいう、中心原子団を中心原子と共に構成する他の物質は任意である。したがって、他の物質と結合した中心原子団M
1は、例えば、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等であってもよい。
M1の中心原子が属する長周期型周期表の族としては、フタロシアニン化合物を製造する際に用いる、M1を導入するための化合物の汎用性を考慮すると、通常、1族、2族、4族、5族、8族、10〜14族が挙げられる。この中でも、得られる第1のフタロシアニン組成物の光導電特性を考慮すると、1族、4族、5族、13族、14族が好ましい。さらに、フタロシアニン化合物の単分子構造がいわゆるシャトルコック構造を有する場合、第1のフタロシアニン組成物がより好ましい光導電性を示すことから、4族、5族、13族がより好ましい。
また、水素原子以外のM1は、通常、典型金属元素、半金属元素、遷移金属元素である。
さらに、水素原子以外のM1の中心原子が属する周期表の具体的な周期は、通常、第2周期、第3周期のような第2周期以降、好ましくは第3周期、第4周期、第5周期のような第3周期以降であり、より好ましくは第4周期以降である。第1のフタロシアニン組成物の光導電性特性は、無置換フタロシアニンの光導電性特性が及ぼす影響が大きいことから、無置換フタロシアニンである一般式(1)のフタロシアニン化合物が優れた光導電性を有することが望ましいためである。
また、M1の中心原子が属する周期表の具体的な周期は、好ましくは第6周期以上であり、より好ましくは第5周期以上である。中心原子または中心原子団(以下適宜、中心原子と中心原子団とを区別せずに述べる場合「中心物質」という)であるM1が占有する体
積が大きすぎると、ダブルデッカー型、トリプルデッカー型と呼ばれる中心物質をフタロシアニン環で挟み込んだ形の分子になり、これらの形のフタロシアニン化合物は光導電性が劣ることからである。なお、本明細書において、周期表の「以上」とは、当該周期または当該周期よりも周期表の上部にある周期のことを指す。
ここで、M1の具体例を挙げると、M1が原子単体である場合には、その中心原子M1の具体例としては、水素、銅、亜鉛、マグネシウムなどが挙げられる。
また、M1が中心原子と他の物質とが結合した原子団である場合には、その中心原子団M1の具体例はクロロアルミニウム、クロロガリウム、クロロインジウム、ジクロロ錫、ジクロロケイ素、ジクロロゲルマニウム等のハロゲン化物類、ヒドロキシアルミニウム、ヒドロキシガリウム、ヒドロキシインジウム、ジヒドロキシ錫、ジヒドロキシケイ素、ジヒドロキシゲルマニウムなどの水酸化物類、オキシチタニウム、オキシバナジウム等の酸化物類、メトキシガリウム、エトキシガリウム、メトキシインジウム、(R,R)−ジメチルエチレングリコキシドチタニウム、(R,S)−ジメチルエチレングリコキシドチタニウム、(S,S)−ジメチルエチレングリコキシドチタニウム、ジメトキシチタニウム等の金属アルコキシドなどが挙げられる。
一方、上記一般式(2)において、M2はフタロシアニンと結合しうる任意の原子(中心原子)または原子団(中心原子団)を表す。即ち、M1と同様、M2は中心原子単体であってもよく、中心原子が他の物質と結合した中心原子団(化合物)であってもよい。ここでいう他の物質は任意である。したがって、他の物質と結合した中心原子団M2は、例えば、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物等であってもよい。ただし、上記のように、M2の中心原子は上記のM1の中心原子とは異なる種類の原子である。
M2の中心原子が属する長周期型周期表の族としては、本発明にかかる置換フタロシアニンである一般式(2)のフタロシアニン化合物の製造時収率等の生産効率を考慮すると、2族、4族、5族、8族、10族〜14族が挙げられる。この中でも、得られる第1のフタロシアニン組成物の光導電特性を考慮すると、4族、5族、13族、14族が好ましい。さらに、フタロシアニン化合物の単分子構造がいわゆるシャトルコック構造を有する場合、第1のフタロシアニン組成物がより好ましい光導電性を示すことから、4族、5族、13族がより好ましい。
また、M2の中心原子は、通常、典型金属元素、半金属元素、遷移金属元素である。
さらに、M2の中心原子が属する周期表の具体的な周期は、通常は第2周期、第3周期、第4周期、第5周期のような第2周期以降であり、好ましくは第3周期以降であり、より好ましくは第4周期以降である。一般式(2)のような本発明にかかる置換フタロシアニンの原料となる化合物は一般的に高価であり、その製造収率が高いことが望ましいが、一般式(2)のフタロシアニン化合物の製造収率を上げるにはフタロシアニン環形成時にしっかりとしたテンプレート効果を示す元素が好ましいためである。
また、M2の中心原子が属する周期表の具体的な周期は、好ましくは第6周期以上であり、より好ましくは第5周期以上である。M1と同様、中心物質であるM2が占有する体積が大きすぎると、ダブルデッカー型、トリプルデッカー型と呼ばれる中心物質をフタロシアニン環で挟み込んだ形の分子になり、これらの形のフタロシアニン化合物は光導電性が劣ることからである。
ここで、M2の具体例は、水素原子を除く、M1の具体例として例示したものと同様のものが挙げられる。
また、上記一般式(2)において、X1〜X4はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、即ち、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子を表わす。その中でも、一般式(2)のフタロシアニン化合物の結晶性を考慮すると置換ハロゲン基X1〜X4のサイズが小さい方が好ましいため、X1〜X4はフッ素原子、塩素原子が好ましい。さらに、第1のフタロシアニン組成物の光導電特性を考慮すると、フッ素原子がより好ましい。
さらに、上記一般式(2)において、a、b、c及びdはハロゲン原子X1〜X4の個数を示し、それぞれ0以上4以下の整数を表し、且つ、a+b+c+d≧1を満たす。
a+b+c+dが小さすぎると所望する光導電性を有するフタロシアニン組成物が得られないことから、a+b+c+dは好ましくは2以上であり、より好ましくは3以上である。また、a+b+c+dが大きすぎると得られるフタロシアニン組成物の帯電性が低下することから、好ましくは7以下であり、より好ましくは6以下である。
さらに、原料の汎用性を考慮すると、a、b、c及びdはそれぞれ2以下であることが好ましく、それぞれ1以下であることがより好ましい。
また、製造の容易さから、a=b=c=dであることが好ましい。一般式(2)のフタロシアニン化合物の結晶性を考慮すると、a=b=c=d=1がより好ましい。
次に、本発明の第2のフタロシアニン組成物(以下適宜、「第2のフタロシアニン組成物」という)は、下記一般式(3)で示されるフタロシアニン化合物、及び、下記一般式(4)で示されるフタロシアニン化合物の双方を含有することを特徴とする。ただし、下記一般式(3),(4)において、M
3とM
4とは同じ種類の原子を表し、Y
1及びY
2の少なくともいずれかはハロゲン原子を表す。
以下、上記の一般式(3)及び一般式(4)について詳細に説明する。
上記一般式(3)において、M3は周期表の13族の原子を表す。中でも、一般式(1)についての説明で述べたのと同様、第2のフタロシアニン組成物の光導電性特性は、無置換フタロシアニンの光導電性特性が及ぼす影響が大きいことから、無置換フタロシアニンである一般式(3)のフタロシアニン化合物が優れた光導電性を有することが望ましい。したがって、M3としては、Al、Ga、Inが好ましい。また、一般式(3)のフタロシアニン化合物の結晶安定性を考慮すると、Ga、Inがより好ましい。
また、Y1はM3と結合しうる1価の結合基を表す。その具体例としては、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基等が挙げられる。中でも、製造の容易さを考慮するとハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基が好ましい。また、フタロシアニン組成物の光導電性を考慮すると、ハロゲン原子、水酸基がより好ましく、ハロゲン原子がさらに好ましい。
上記一般式(4)において、M4は周期表の13族の原子を表す。中でも、後述するように本発明のフタロシアニン組成物は共結晶性を有することが好ましい。
また、Y2はM4と結合しうる1価の結合基を表す。その具体例は、Y1と同様、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基等が挙げられる。中でも、製造の容易さを考慮するとハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基が好ましい。また、フタロシアニン組成物の光導電性を考慮すると、ハロゲン原子、水酸基がより好ましく、ハロゲン原子がさらに好ましい。
また、上記一般式(4)において、X5〜X8はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、即ち、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子を表わす。その中でも、一般式(4)のフタロシアニン化合物の結晶性を考慮すると置換ハロゲン基X5〜X8のサイズが小さい方が好ましいため、X5〜X8はフッ素原子、塩素原子が好ましい。さらに、第2のフタロシアニン組成物の光導電特性を考慮すると、フッ素原子がより好ましい。
さらに、上記一般式(4)において、e、f、g及びhはハロゲン原子X5〜X8の個数を示し、それぞれ0以上4以下の整数を表し、且つ、e+f+g+h≧1を満たす。
e+f+g+hが小さすぎると所望する光導電性を有するフタロシアニン組成物が得られないことから、e+f+g+hは好ましくは2以上であり、より好ましくは3以上である。また、e+f+g+hが大きすぎると得られるフタロシアニン組成物の帯電性が低下することから、好ましくは7以下であり、より好ましくは6以下である。
さらに、原料の汎用性を考慮すると、e、f、g及びhはそれぞれ2以下であることが好ましく、それぞれ1以下であることがより好ましい。
また、製造の容易さから、e=f=g=hであることが好ましい。一般式(4)のフタロシアニン化合物の結晶性を考慮すると、e=f=g=h=1がより好ましい。
また、一般式(2)のフタロシアニン化合物及び一般式(4)のフタロシアニン化合物において、ハロゲン原子X1〜X8がフタロシアニン環の六員環に結合する位置としては、以下の式(6)において(a)〜(d)で表わされる4つの位置が挙げられる(なお、式(6)は、一般式(2)や一般式(4)の六員環部分の部分構造を表わす。)が、その結合位置は特に制限されず、(a)〜(d)何れの位置に結合していてもよい。但し、一つの位置に二つのハロゲン原子X1〜X8が結合することはない。
例えば、一般式(2)においてa=b=c=d=1の場合や、一般式(4)においてe=f=g=h=1の場合には、後述する製造方法において用いる原料の種類を選択することにより、一般式(2)のフタロシアニン化合物及び一般式(4)のフタロシアニン化合物については、ハロゲン原子が六員環の(a)または(b)の位置に結合した構造と、(c)または(d)の位置に結合した構造とをある程度製造し分けることが可能である。
具体例を挙げると、一般式(2)のフタロシアニン化合物を合成する際に、原料であるハロゲン原子X
1〜X
4を有する置換フタロニトリルの異性体のうち、下記式(7)の置換フタロニトリルのみを使用すると、全てのハロゲン原子X
1〜X
4が(a)または(b)の位置に結合した構造のフタロシアニン化合物が、また、下記式(8)の置換フタロニトリルのみを使用すると、全てのハロゲン原子X
1〜X
4が(c)または(d)の位置に結合した構造のフタロシアニン化合物が、それぞれ得られることになる。さらに、一般式(4)のフタロシアニン化合物を合成する際に、原料であるハロゲン原子X
5〜X
8を有する置換フタロニトリルの異性体のうち、下記式(7)の置換フタロニトリルのみを使用すると、全てのハロゲン原子X
5〜X
8が(a)または(b)の位置に結合した構造のフタロシアニン化合物が、また、下記式(8)の置換フタロニトリルのみを使用すると、全てのハロゲン原子X
5〜X
8が(c)または(d)の位置に結合した構造のフタロシアニン化合物が、それぞれ得られることになる。なお、式(7)及び式(8)において、ハロゲン原子X
1〜X
8は記号X
xで示す。
勿論、これらの原料である置換フタロニトリルの異性体を適宜併用することにより、(a),(b),(c),(d)の結合位置が混在する、一般式(2)や一般式(4)のフタロシアニン化合物を得ることも可能である。但し、製造コストを考慮すると、原料として式(7)の置換フタロニトリルを使用することが好ましいことから、a=b=c=d=1の一般式(2)のフタロシアニン化合物の構造、及び、e=f=g=h=1の一般式(4)のフタロシアニン化合物の構造としては、全てが(a)または(b)の位置に結合した構造が好ましい。
更に、ハロゲン原子X1〜X4の総数が2個以上である場合や、ハロゲン原子X5〜X8の総数が2個以上である場合には、一般式(2)のフタロシアニン化合物や一般式(4)のフタロシアニン化合物にはそれぞれ構造異性体が存在する。例えば、a=b=c=d=1であって、全てのハロゲン原子X1〜X4が(a)または(b)の位置に結合した一般式(2)のフタロシアニン化合物においては、各々のハロゲン原子X1〜X4の結合位置の組み合わせに応じて、6種類の構造異性体が存在することになる。さらに、例えば、e=f=g=h=1であって、全てのハロゲン原子X5〜X8が(a)または(b)の位置に結合した一般式(4)のフタロシアニン化合物においても、各々のハロゲン原子X1〜X4の結合位置の組み合わせに応じて、6種類の構造異性体が存在することになる。なお、これらの構造異性体に便宜上(I)〜(VI)の符号を付して表わす。
各構造異性体(I)〜(VI)におけるハロゲン原子X1〜X4,X5〜X8の結合位置の組み合わせを、以下の表1に示す。なお、構造異性体(III)〜(VI)については複数の組み合わせが考えられるが、表1ではそのうちの一つの組み合わせを代表例として示す。
ただし、表1で示す環A、環B、環C及び環Dは、一般式(2)のフタロシアニン化合物や一般式(4)のフタロシアニン化合物が有する六員環のうち、下記式(9a)や(9b)に示す位置の環のことを指す。
ただし、上記の一般式(2)のフタロシアニン化合物や一般式(4)のフタロシアニン化合物は、上述の構造異性体(I)〜(VI)の何れかに限定されるものではなく、何れか1種の単体でも2種以上の混合物でもよいが、通常は6種の構造異性体(I)〜(VI)全ての混合物として得られる。この場合、各構造異性体(I)〜(VI)の組成比についても特に限定されない。
また、一般式(2)のフタロシアニン化合物や一般式(4)のフタロシアニン化合物は、置換基(ハロゲン原子)の数が異なるフタロシアニン化合物の組成物であっても構わない。
また、一般式(2)や一般式(4)のフタロシアニン化合物は、それぞれ、結晶性を有していても良く、無定形(アモルファス)であっても良いが、光導電材料としての用途を考えると、一般式(2)や一般式(4)のフタロシアニン化合物は、以下に挙げる特定の結晶型又は無定形の性質を有することが好ましい。
即ち、X線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度(2θ±0.2゜)が
i)少なくとも7.0゜、16.6゜、25.4゜及び27.0゜に強いピークを有するもの、
ii)少なくとも6.9゜、13.0゜、16.2゜、25.7゜、及び28.0゜に強いピークを有するもの、
iii)7.0°、16.5°、27.2°にピークを有するもの、
iv)6.9°、16.0°、26.4°にピークを有するもの、及び
v)3゜〜40゜の範囲内に明確なピークを有さないもの(以下、適宜「無定形物」という。)
が、好ましい態様として挙げられる。
[1−2.フタロシアニン組成物の組成]
本発明の第1及び第2のフタロシアニン組成物(以下適宜、第1のフタロシアニン組成物と第2のフタロシアニン組成物とを区別せずに述べる場合、単に「本発明のフタロシアニン組成物」という)中における、フタロシアニン化合物それぞれの組成割合について制限はなく、その具体的組成割合は任意である。
ただし、本発明のフタロシアニン組成物全体を100重量部とした場合、それに含まれる本発明にかかる置換フタロシアニン{即ち、第1のフタロシアニン組成物中においては一般式(2)のフタロシアニン化合物、第2のフタロシアニン組成物中においては一般式(4)のフタロシアニン化合物}の組成割合は、通常0.1重量部以上である。本発明にかかる置換フタロシアニンの組成割合が著しく低いと、電荷発生物質として用いた場合に所望の感度を得ることができないことから、本発明にかかる置換フタロシアニンの組成割合は1重量部以上が好ましい。さらに、得られる電子写真感光体の環境依存特性等のバランスを考慮すると、本発明にかかる置換フタロシアニンの組成割合は5重量部以上がより好ましく、10重量部以上が更に好ましい。
また、置換又は無置換のフタロニトリル、1,3−ジイミノイソインドリン、フタル酸等の本発明にかかる置換フタロシアニンの製造用の原料は一般的に高価であるので、製造コストの面から、本発明にかかる置換フタロシアニンの組成割合は、通常80重量部以下である。さらに、本発明のフタロシアニン組成物の光導電特性を考慮すると、50重量部以下が好ましく、製造面での操作性を考慮すると、40重量部以下がより好ましい。
なお、本発明にかかる置換フタロシアニンのうち、ハロゲン原子X1〜X8がハロゲン原子であるものは、適宜、ハロゲン置換フタロシアニンと呼ぶこととする。
[1−3.フタロシアニン組成物の存在状態]
本発明のフタロシアニン組成物の存在状態としては、本発明にかかる無置換フタロシアニン{即ち、第1のフタロシアニン組成物においては一般式(1)のフタロシアニン化合物、第2のフタロシアニン組成物においては一般式(3)のフタロシアニン化合物}と本発明にかかる置換フタロシアニンとを含有していれば制限はなく、任意の存在状態で存在することができる。存在状態の具体例としては、単なる粒子同士の混合体、分子レベルで混合されて分子配列が規則性を有さない無定形状態、分子レベルで混合されて分子配列が規則性を有する共結晶状態などが挙げられる。ただし、通常は、無定形状態、共結晶状態であることが好ましい。さらに、一般的に無定形状態は安定性に乏しい部分があるため、共結晶状態であることがより好ましい。なお、本発明のフタロシアニン組成物は、1種の存在状態のみを有していてもよく、任意の組み合わせ及び比率で2種以上の存在状態を有していてもよい。
さらに、本発明のフタロシアニン組成物が示す粉末X線のスペクトルパターンは任意であり、どのようなスペクトルパターンであってもよい。
具体例を挙げると、本発明のフタロシアニン組成物の存在状態が粉末同士の混合体である場合、粉末X線のスペクトルパターンとしては、混ぜ合わせる前の、一般式(1)及び一般式(2)、又は、一般式(3)及び一般式(4)のフタロシアニン化合物それぞれの粒子が示すスペクトルパターンを足し合わせた形で現れる。
また、本発明のフタロシアニン組成物の存在状態が無定形状態である場合、粉末X線のスペクトルパターンとしては、明確なピークは現れない。
さらに、本発明のフタロシアニン組成物の存在状態が共結晶状態の場合、本発明のフタロシアニン組成物に含有されるフタロシアニン結晶のいずれか1つのフタロシアニン化合物の結晶構造を主として示すが、含有されるフタロシアニン結晶のいずれの結晶型にも属さない新規の結晶型を示すこともある。
なお、本発明のフタロシアニン組成物が2種以上の存在状態を有する場合、その粉末X線のスペクトルパターンは、それらの存在状態に応じたスペクトルパターンが組み合わされたスペクトルパターンをとる。
ところで、共結晶状態の本発明のフタロシアニン組成物が示す粉末X線のスペクトルパターンは、いかなる公知の結晶型のスペクトルパターンでもとることが可能である。ただし、公知の無置換フタロシアニンがとりうる結晶型のうちで光導電性に優れたものと同様の結晶型、または、公知の無置換フタロシアニン同士からなるフタロシアニン組成物がとりうる結晶型のうちで光導電性に優れたものと同様の結晶型を有する場合に、共結晶状態を有している本発明のフタロシアニン組成物は良好な光導電性を示すことが多い。したがって、共結晶状態を有する本発明のフタロシアニン組成物は、上記の光導電性に優れたものと同様の結晶型となることが好ましい。それら好ましい結晶型の公知文献の例を以下に挙げる。ただし、本発明の趣旨に反しない限り、本発明のフタロシアニン組成物の結晶型は以下の結晶型に限定されるものではない。
A,B,C及びD型のTiOPc(Pcは、フタロシアニンを表す)に関しては、次の文献が挙げられる。
特開昭62−67094号公報
特開昭61−217050号公報
特開昭61−239248号公報
特開平1−207755号公報
特開平4−323270号公報
特開平6−287189号公報
特開平2−008256号公報
特開平2−289658号公報
特開平7−271073号公報
特開平3−128973号公報
I型、II型の他のGaClPcに関しては、次の文献が挙げられる。
特開平1−221459号公報
特開平5−98181号公報
特開平11−172142号公報
V型のGaOHPcに関しては、次の文献が挙げられる。
特開平5−263007号公報
特開平6−279698号公報
特開平10−67946号公報
特開2002−235014号公報
PcGaOGaPcに関しては、次の文献が挙げられる。
特開平10−88023号公報
特開2000−219817号公報
X型、τ型の無金属フタロシアニンに関しては、次の文献が挙げられる。
JOURNAL OF IMAGING SCIENCE Volume35,Number 4,235−239ページ(1991)
電子写真学会誌 第24巻 第2号 1985年 102−107ページ
Journal of Imaging Technology 11:7−11(1985)
米国特許第3357989号明細書
フタロシアニン化合物の組成物に関しては、次の文献が挙げられる。
特開平4−351673号公報
特開平4−372663号公報
特開平5−45914号公報
特開平5−186702号公報
特開平6−234937号公報
特開平8−41373号公報
特開平6−175382号公報
特開平6−145550号公報
特開平3−9962号公報
特開2000−313819号公報
特開2000−336283号公報
特開2002−244321号公報
本発明のフタロシアニン組成物の形状としては、特に制限もされないが、通常は粒子の形状である。粒子の粒子径も特には制限されないが、光導電材料としての特性を十分に発揮させる観点からは、通常10nm以上、好ましくは、50nm以上、また、通常1.0μm以下、好ましくは、500nm以下、より好ましくは300nm以下の範囲とするのが好適である。
[1−4.フタロシアニン化合物の製造方法]
次に、上記一般式(1)〜(4)のフタロシアニン化合物の製造方法を説明する。上記一般式(1)〜(4)のフタロシアニン化合物の製造方法について特に制限はなく、上述した上記一般式(1)〜(4)のフタロシアニン化合物を製造することができれば任意の方法で製造することができる。例えば、置換又は無置換のフタロニトリルと金属ハロゲン化物等の金属塩とを加熱融解または有機溶媒の存在下で加熱するフタロニトリル法、置換又は無置換の1,3−ジイミノイソインドリン等のインドリン系化合物と金属ハロゲン化物等の金属塩とを加熱融解または有機溶媒の存在下で加熱する方法、置換又は無置換の無水フタル酸を尿素及び金属ハロゲン化物等の金属塩と加熱融解または有機溶媒の存在下で加熱するワイラー法、置換又は無置換のシアノベンズアミドと金属塩とを反応させる方法、置換又は無置換のジリチウムフタロシアニンと金属塩とを反応させる方法等が挙げられる。
また、上記一般式(1)〜(4)のフタロシアニン化合物の合成は、有機溶媒の存在下で行なうことが好ましい。無溶媒条件下で合成を行なうと、例えばフッ素置換クロロガリウムフタロシアニン(即ち、上記一般式(4)においてM4がガリウムであり、Y2が塩素原子であり、X5〜X8がフッ素原子である化合物)を合成する場合、フタロシアニン環にもクロロ化が起こってしまい、所望の構造のフタロシアニン化合物が得られなくなる場合がある。また、有機溶媒を使用しないと、反応時に存在する不純物や未反応原料、反応により生じる副生物等がフタロシアニン固体中に取り込まれてしまい、得られるフタロシアニン化合物の光導電特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
合成に用いる有機溶媒としては、反応に対して不活性であり、且つ高沸点である溶媒が好ましい。具体例としては、α−クロロナフタレン、β−クロロナフタレン、o−ジクロロベンゼン、ジクロロトルエン等のハロゲン化芳香族系溶媒;α−メチルナフタレン、β−メチルナフタレン、テトラヒドロナフタレン(テトラリン)等のアルキル化芳香族系溶媒;ジフェニルメタン、ジフェニルエタン等のジアリール化脂肪族系溶媒;メトキシナフタレン等のアルコキシ化芳香族系溶媒;エチレングリコール等の多価アルコール系溶媒;ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ブチルセルソルブ等のエーテル系溶媒;キノリン等の複素環芳香族系溶媒;スルホラン、ジメチルスルホキシド、N−メチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの中でも、ハロゲン化芳香族系溶媒、アルキル化芳香族系溶媒または非プロトン性極性溶媒が好ましい。これらの溶媒は単独で用いても良く、二種以上を組み合わせて混合溶媒として用いても良い。
さらに、フタロニトリル法を用いる場合、置換又は無置換のフタロニトリルと金属塩とを、上記の有機溶媒中で25〜300℃で撹拌または加熱しながら撹拌することにより、上記の一般式(1)〜(4)のフタロシアニン化合物を製造することができる。また、必要に応じて4級アンモニウム塩、尿素、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)等の触媒を添加し反応を行なっても良い。
また、一般式(2)のフタロシアニン化合物や一般式(4)のフタロシアニン化合物の合成に際しては、合成反応時、単一の置換フタロニトリルを使用すると、フタロシアニン骨格の4つのフェニル環(即ち、上記の環A〜D)上の置換基(ハロゲン原子)の数が一定のフタロシアニン化合物を得ることが出来るし、合成反応時、有する置換基の数が異なるフタロニトリル(無置換フタロニトリルを含む)を共に使用すれば、フタロシアニン骨格の4つのフェニル環上の置換基の数が異なるフタロシアニン化合物の混合物を得ることが出来るが、本発明ではいずれの化合物、または混合物でもよい。
置換フタロニトリルの等価体としては、置換ジイミノイソインドリン、置換フタル酸、置換無水フタル酸、置換シアノベンズアミドなども利用可能である。
[1−5.本発明のフタロシアニン組成物の製造方法]
次に、本発明のフタロシアニン組成物の製造方法を説明する。本発明のフタロシアニン組成物の製造方法について特に制限はなく、上述した本発明のフタロシアニン組成物を製造することができれば任意の方法で製造することができるが、通常は、本発明にかかる無置換フタロシアニン{一般式(1),(3)のフタロシアニン化合物}と、本発明にかかる置換フタロシアニン{一般式(2),(4)のフタロシアニン化合物}とを混合することにより製造する。
また、特に、本発明のフタロシアニン組成物において、共結晶状態のフタロシアニン組成物を製造する場合には、本発明にかかる無置換フタロシアニンと本発明にかかる置換フタロシアニンとの混合後に、無定形化により本発明にかかる無置換フタロシアニン及び本発明にかかる置換フタロシアニンの結晶の分子配列の規則性を無くさせる無定形化工程と、無定形化工程において無定形化されたフタロシアニン組成物を溶剤処理等によって分子レベルで規則性のある共結晶状態へと誘導する共結晶化工程とを行なうことが望ましい。また、無定形化工程と共結晶化工程とを同時に行なうことも可能である。
無定形化工程は、本発明にかかる無置換フタロシアニン及び本発明にかかる置換フタロシアニンを無定形化する工程である。
無定形化工程において行なう操作に制限はなく、前記のように本発明にかかる無置換フタロシアニン及び本発明にかかる置換フタロシアニンを無定形化することが出来れば任意の方法を採用することができる。具体例としては、アシッドペースト法、アシッドスラリー法等の化学的無定形化処理方法(以下適宜、「化学的処理方法」という)、磨砕法等の機械的・物理的力を用いる機械的無定形化処理方法(以下適宜、「機械的処理方法」という)などの公知の処理方法が挙げられる。なお、これらの方法は1種を単独で行なってもよく、2種以上を任意の組み合わせで行なってもよい。
化学的処理方法であるアシッドペースト法、アシッドスラリー法等を用いる場合には、原料であるフタロシアニン化合物に対して、化学的反応を引き起したり、フタロシアニン環の開裂による分子の破壊を起こしたり、用いた酸に起因する不純物が残存したりする可能性がある。このため、得られる本発明のフタロシアニン組成物の光導電特性に悪影響を及ぼす虞がある。また、化学的処理方法では大量の酸を用いることから、廃酸の処理等で環境負荷が大きい。以上から、無定形化工程においては、機械的処理方法を採用することが好ましい。即ち、本発明のフタロシアニン組成物の製造においては、機械的処理方法によって本発明にかかる無置換フタロシアニン及び本発明にかかる置換フタロシアニンの無定形化を行なう機械的無定形化工程を経ることが望ましい。
また、これらの工程では、本発明にかかる無置換フタロシアニン及び置換フタロシアニンをそれぞれ独立に無定型化を行なっても良く、本発明にかかる無置換フタロシアニンと置換フタロシアニンとを混合した後に、混合物として無定型化を行なっても良いが、より均一な共結晶性組成物を得るためには、本発明にかかる無置換フタロシアニンと置換フタロシアニンを混合した後に、混合物として無定型化処理を行うのが好ましい。
機械的処理方法に用いる装置に制限はなく、公知の装置を任意に用いることができるが、例えば、自動乳鉢、遊星ミル、振動ボールミル、CFミル、ローラーミル、サンドミル、ニーダー、ボールミル、アトライター、ロールミル、ホモミキサー等の装置を用いることが出来る。
また、機械的処理として摩砕処理を行なう場合、磨砕メディアとしては、ガラスビーズ、スチールビーズ、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ、炭化ケイ素ビーズ、窒化ケイ素ビーズ、窒化ホウ素ビーズ等の公知の磨砕メディアを用いることが出来る。また、磨砕処理時に磨砕メディア以外に磨砕後容易に除去することの出来る食塩、ぼう硝等の磨砕助剤を併用して実施することも可能である。
なお、機械的処理は、乾式で行なっても、湿式で行なってもよい。
乾式で機械的処理を行なう場合、処理温度は通常0℃以上、好ましくは10℃以上、また、通常150℃以下であり、好ましくは100℃以下である。
湿式で機械的処理を行なう場合に用いる溶剤としては、公知の溶剤のいずれも用いることが可能である。その具体例としては、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の鎖状及び環状飽和脂肪族系溶媒、トルエン、キシレン、ナフタレン、テトラヒドロナフタレン、メチルナフタレン、ジフェニルメタン、アニソール等の芳香族系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒、エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等の鎖状及び環状ケトン系溶媒、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサリン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等の鎖状及び環状エーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、N−メチルー2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン、2−ブチロラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物、リグロイン等の鉱油、水などが挙げられる。中でも、湿式機械処理時の操作性を考慮すると、鎖状及び環状飽和脂肪族系溶媒、芳香族系溶媒、アルコール系溶媒、鎖状及び環状ケトン系溶媒、エステル系溶媒、鎖状及び環状エーテル系溶媒、非プロトン性極性溶媒、水が好ましい。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
さらに、湿式機械処理時に使用する溶剤の量としては、フタロシアニン組成物1重量部に対し、下限は通常0.01重量部以上であり、生産性を考慮すると0.1重量部以上が好ましい。また、上限は、通常200重量部以下であり、生産性を考慮すると100重量部以下が好ましい。
また、湿式機械処理時の処理温度としては、下限は通常溶剤の凝固点以上であり、安全性を考慮すると10℃以上が好ましい。また、上限は通常溶剤の沸点以下であり、安全性を考慮すると200℃以下が好ましく、より好ましくは150℃以下である。
無定形化工程の後、無定形化された本発明にかかる無置換フタロシアニン及び本発明にかかる置換フタロシアニンに対して、共結晶化工程を行なう。共結晶化工程は、無定形化工程で無定形化された本発明にかかる無置換フタロシアニン及び本発明にかかる置換フタロシアニンを、分子レベルで規則性のある共結晶状態へと誘導する工程である。
共結晶化工程において行なう操作に制限はなく、前記のように、本発明にかかる無置換フタロシアニン及び本発明にかかる置換フタロシアニンを分子レベルで規則性のある共結晶状態へと誘導することが出来れば任意の方法を採用することができる。通常は、機械的無定形化処理後、無定形固体を溶媒処理し、所望の結晶型に変換することにより行なう。なお、機械的無定形化処理として摩砕処理を行なっていた場合には、無定形固体を摩砕メディアから分離してから溶媒処理を行なってもよく、また、摩砕メディアとともに溶剤処理を行なってもよい。さらに、溶媒処理の具体的方法としては、無定形固体を溶媒中に分散撹拌することにより処理してもよく、また、無定形固体を溶媒蒸気に曝すことにより処理してもよい。更に、無定形化工程と共結晶化工程とを同時に行なうことも可能である。
溶媒処理に用いる溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の鎖状及び環状飽和脂肪族系溶媒、トルエン、キシレン、ナフタレン、テトラヒドロナフタレン、メチルナフタレン、ジフェニルメタン、アニソール等の芳香族系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒、エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等の鎖状及び環状ケトン系溶媒、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサリン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等の鎖状及び環状エーテル系溶媒、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン、2−ブチロラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物、リグロイン等の鉱油、水などが挙げられる。中でも、結晶型の変換時の操作性を考慮すると、鎖状及び環状飽和脂肪族系溶媒、芳香族系溶媒、アルコール系溶媒、鎖状又は環状ケトン系溶媒、エステル系溶媒、鎖状又は環状エーテル系溶媒、非プロトン性極性溶媒、水が好ましい。なお、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、溶媒処理時の処理温度は、下限は、通常、用いる溶媒又は混合溶媒の凝固点以上であり、安全性の面から、好ましくは10℃以上である。また、上限は、通常、用いる溶媒又は混合溶媒の沸点以下であり、安全性の面から、好ましくは200℃以下である。
また、溶媒の使用量としては、フタロシアニン組成物1重量部に対して、通常0.01重量部以上、生産性を考慮すると好ましくは0.1重量部以上、また、通常500重量部以下、生産性を考慮すると250重量部以下である。
なお、微細化工程において湿式摩砕処理を行なった場合は、必要に応じて、溶媒処理時にガラスビーズ、アルミナビーズ、スチールビーズ、ジルコニアビーズ、炭化ケイ素ビーズ、窒化ケイ素ビーズ、窒化ホウ素ビーズ等の公知の磨砕メディアを用いてミリング処理を行なってもよい。
共結晶化工程では、溶媒処理後、得られた本発明のフタロシアニン組成物から溶媒処理に用いた溶媒を乾燥・除去する。乾燥方法に制限はなく任意の方法を採用することが出来、常温乾燥、減圧乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥等の公知の方法を用いて乾燥させることが出来る。
ここで、本発明のフタロシアニン組成物の製造方法による利点を説明する。従来は、例えば特許文献3の技術のように、フタロシアニン化合物の製造時に大量の濃硫酸を使用していた。この場合には、大量の廃棄物を生じていたため、廃棄物処理等の環境に対する負荷が非常に大きく、さらに、酸を用いることによる化学反応が起こったり、酸起因の不純物により電子写真に用いた場合、感度や帯電性などの電気特性が悪化するという課題を有していた。しかし、本発明のフタロシアニン組成物は、その製造過程において濃硫酸等を使用しないため、自然環境に対して悪影響を与える虞が小さく、さらに、感度や帯電性などの電気特性に、悪影響を与えず、生産性が高い、という利点がある。
[2.フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物]
[2−1.フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の構造]
本発明で用いられるフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物は、フタロシアニン環の芳香族環上にフッ素原子が置換したフタロシアニン環を有し、該フタロシアニン環がガリウム金属に配位した、下記一般式(5)で表される化合物である。
上記一般式(5)中、Xはハロゲン原子を表し、k、l、mはそれぞれ置換するフッ素原子の個数を表す。また、k、l、mは、各々独立に0〜4の整数である。
k、l、mは、各々独立して0〜4の整数を表わすが、フッ素原子の数が少な過ぎると、所望の帯電性、残留電位を得られないことから、1≦k+l+mを満たすことが好ましく、より好ましくは3≦k+l+mである。一方、フッ素原子の数が多過ぎても、所望の帯電性、残留電位を得られないことから、k+l+m≦6の式を満たすことが好ましく、また、原料となるフタロニトリル、無水フタル酸、1,3−ジイミノイソインドリン等は置換基を有する数が多くなるほど単価が高くなる傾向があることから、製造コスト面を考慮すると、k+l+m≦5を満たすことがより好ましい。得られるフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の光導電性の点から、k+l+m=3を満たすことが特に好ましく、製造原料の汎用性を考慮すると、k=l=m=1であることが特に好ましい。
フッ素原子がフタロシアニン環の六員環に結合する位置としては、以下の式(6)において(a)〜(d)で表わされる4つの位置が挙げられる(なお、式(6)は、一般式(5)の六員環部分の部分構造を表わす。)が、その結合位置は特に制限されず、(a)〜(d)何れの位置に結合していてもよい。但し、一つの位置に二つのフッ素原子が結合することはない。
例えば、k=l=m=1の場合、後述する製造方法において用いる原料の種類を選択することにより、フッ素原子が六員環の(a)または(b)の位置に結合した構造と、(c)または(d)の位置に結合した構造とをある程度製造し分けることが可能である。具体的には、原料の一つであるモノフルオロフタロニトリルの異性体のうち、4−フルオロフタロニトリルのみを使用すると、全てが(a)または(b)の位置に結合した構造のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が、また、3−フルオロフタロニトリルのみを使用すると、全てが(c)または(d)の位置に結合した構造のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が、それぞれ得られることになる。
勿論、これらのフルオロフタロニトリルの異性体を適宜併用することにより、(a),(b),(c),(d)の結合位置が混在するフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物を得ることも可能である。但し、製造コストを考慮すると、原料として4−フルオロフタロニトリルを使用することが好ましいことから、k=l=m=1のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の構造としては、全てが(a)または(b)の位置に結合した構造が好ましい。
更に、置換しているフッ素の総数が2個以上である場合には、フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の構造異性体が存在する。例えば、全てのフッ素原子が(a)または(b)の位置に結合したフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物において、各々のフッ素の結合位置の組み合わせに応じて、6種類の構造異性体が存在することになる(これらの構造異性体に便宜上(I)〜(VI)の符号を付して表わす。)。各構造異性体(I)〜(VI)におけるフッ素原子の結合位置の組み合わせを、以下の表2に示す。構造異性体(III)〜(VI)については複数の組み合わせが考えられるが、表2ではそのうちの一つの組み合わせを代表例として示す。
なお、表2で示す環A、環B、環C及び環Dは、本発明にかかるフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が有する六員環のうち、下記式(10)に示す位置の環のことを指す。
本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物は、上述の構造異性体(I)〜(VI)の何れかに限定されるものではなく、何れか1種の単体でも2種以上の混合物でもよいが、通常は6種の構造異性体(I)〜(VI)全ての混合物として得られる。この場合、各構造異性体(I)〜(VI)の組成比についても特に限定されない。
また、本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物は、置換しているフッ素の数が異なる化合物の組成物であっても構わない。
また、本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物は、結晶性を有していても良く、無定形(アモルファス)であっても良いが、光導電材料としての用途を考えると、以下に挙げる特定の結晶型又は無定形の性質を有することが好ましい。
中でも、好ましくは、CuKα特性X線に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角2θ(±0.2°)で(1)7.0°、16.5°、27.2°にピークを有するもの、(2)6.9°、16.0°、26.4°にピークを有するもの、または(3)3°〜40°の範囲に明確なピークを有さないもの(無定形物)であり、特に好ましくはフッ素置換基数が4であるフッ素置換クロロガリウムフタロシアニンである。
さらに、本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の形状は特に制限されないが、通常は粒子の形状である。粒子の粒径も特に制限されないが、光導電材料としての特性を十分に発揮させる観点からは、通常0.01μm以上、好ましくは0.03μm以上、また、通常0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.15μm以下の範囲とするのが好適である。
[2−2.フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の製造方法]
本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物は、公知のフタロシアニンの製造方法を用いて製造することができる。製造方法の例としては、フッ素置換フタロニトリルと金属ハロゲン化物等の金属塩とを加熱融解または有機溶媒の存在下で加熱するフタロニトリル法、フッ素置換1,3−ジイミノイソインドリン等のインドリン系化合物と金属ハロゲン化物等の金属塩とを加熱融解または有機溶媒の存在下で加熱する方法、フッ素置換無水フタル酸を尿素及び金属ハロゲン化物等の金属塩と加熱融解または有機溶媒の存在下で加熱するワイラー法、フッ素置換シアノベンズアミドと金属塩とを反応させる方法、フッ素置換ジリチウムフタロシアニンと金属塩とを反応させる方法等が挙げられる。
本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の合成は、有機溶媒の存在下で行なうことが好ましい。無溶媒条件下で合成を行なうと、例えばフッ素置換クロロガリウムフタロシアニン(即ち、上記一般式(5)においてXが塩素原子である化合物)を合成する場合、フタロシアニン環にもクロロ化が起こってしまい、所望の構造のフッ素置換クロロガリウムフタロシアニンが得られなくなる場合がある。また、有機溶媒を使用しないと、反応時に存在する不純物や未反応原料、反応により生じる副生物等がフタロシアニン固体中に取り込まれてしまい、得られるフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の光導電特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
合成に用いる有機溶媒としては、反応に対して不活性であり、且つ高沸点である溶媒が好ましい。具体例としては、α−クロロナフタレン、β−クロロナフタレン、o−ジクロロベンゼン、ジクロロトルエン等のハロゲン化芳香族系溶媒;α−メチルナフタレン、β−メチルナフタレン、テトラヒドロナフタレン(テトラリン)等のアルキル化芳香族系溶媒;ジフェニルメタン、ジフェニルエタン等のジアリール化脂肪族系溶媒;メトキシナフタレン等のアルコキシ化芳香族系溶媒;エチレングリコール等の多価アルコール系溶媒;ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ブチルセルソルブ等のエーテル系溶媒;キノリン等の複素環芳香族系溶媒;スルホラン、ジメチルスルホキシド、N−メチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの中でも、ハロゲン化芳香族系溶媒、アルキル化芳香族系溶媒または非プロトン性極性溶媒が好ましい。これらの溶媒は単独で用いても良く、二種以上を組み合わせて混合溶媒として用いても良い。
フタロニトリル法を用いる場合、フッ素置換フタロニトリルとハロゲン化ガリウム化合物とを、上記の有機溶媒中で25〜300℃で撹拌または加熱しながら撹拌することにより、本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物を製造することができる。また、必要に応じて4級アンモニウム塩、尿素、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)等の触媒を添加し反応を行なっても良い。
より具体的な例として、Xが塩素原子である場合には、フッ素置換フタロニトリルをガリウム源であるGaCl3と混合し、α−クロロナフタレン溶媒中で、200℃で12時間程度反応させることにより合成可能である。
式(5)に示される化合物の合成に際しては、合成反応時、単一のフッ素化フタロニトリル原料を使用すると、フタロシアニン骨格の4つのフェニル環上のフッ素原子数が一定のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物を得ることが出来るし、合成反応時、フッ素置換基数の異なるフタロニトリル原料を共に使用すれば、フタロシアニン骨格の4つのフェニル環上のフッ素原子数が異なるフタロシアニン化合物の混合物を得ることが出来るが、本発明ではいずれの化合物、または混合物でもよい。フッ素化フタロニトリル原料の等価体としては、フッ素置換ジイミノイソインドリン、フッ素置換フタル酸、フッ素置換無水フタル酸、フッ素置換シアノベンズアミドなども利用可能である。
このようにして得られるフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物では、フッ素置換基の数は原料の選択に依存し、原理的にはフッ素置換基数が1から13までのフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が合成可能である。一例を示すと、無置換フタロニトリルとモノフルオロフタロニトリルとを使用すれば、フッ素置換基数が0、1、2、3、4のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が得られ、モノフルオロフタロニトリルとテトラフルオロフタロニトリルとを使用すれば、フッ素置換基数が4、7、10、13のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が得られる。また、合成時のそれぞれのフタロニトリルの混合量比を変えれば、特定のフッ素置換基数をもつフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の比率を多くしたり、実質的に含まれないものとすることも可能である。ここで、実質的に含まれないとは、当該フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物を、その効果が確認できない程度微量含有していても含まないものと見なすという意である。
原料となるフッ素置換フタロニトリルまたはその等価体は、原料の入手の容易さ、コストの観点からは、フッ素原子数が少ないものが好ましく、モノフルオロフタロニトリルあるいはその等価体の使用が好ましい。
得られたフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物は、そのまま電子写真感光体の感光層に用いられることもあるが、特定の結晶型とするために、さらに処理を加える場合もある。フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が、異なるフッ素置換基数をもつガリウムフタロシアニンからなる場合、合成で得られた組成分の分布の変化により、結晶型が変化することがあり、特に、フッ素置換基数が2つ以上のフッ素置換フタロニトリルあるいはその等価体を原料にしてフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物を合成する際には、得られたフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物においてフッ素置換基の大きさに由来すると考えられる結晶型の変動が起こりやすくなるため、原料の組み合わせから考えた最もフッ素置換基数の多いフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が、得られたフッ素置換ガリウムフタロシアニン混合物中で通常1%以下、好ましくは0.1%以下で用いられる。そして、フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が異なるフッ素置換基数を持つガリウムフタロシアニンからなる場合、フッ素置換基数が最大のフッ素置換ガリウムフタロシアニンのフッ素数が7以下とすることが好ましい。
また、フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が、異なるフッ素置換基数をもつフッ素置換ガリウムフタロシアニン組成物からなる場合、結晶型の変動が起こりやすく、該フッ素置換ガリウムフタロシアニン組成物を用いた電子写真感光体の各種特性を安定させる事が困難となるので、フッ素置換基数が一種のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物を用いるのが好ましい。この場合、電気特性および原料入手の容易性の観点から、フッ素置換基の総数が、4であるものが特に好ましい。
本発明で使用されるフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物は、CuKα特性X線に対するX線回折スペクトルにおいて明確なピークを有さない、いわゆる結晶性を有さない無定型物であっても(以下、これを適宜「フッ素置換ガリウムフタロシアニン無定形物」または、単に「無定形物」という。)、結晶性を有する結晶性物でもかまわないが、好ましくはCuKα特性X線に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角2θ(±0.2°)で(1)7.0°、16.5°、27.2°にピークを有するもの、または(2)6.9°、16.0°、26.4°にピークを有するもの、(3)3°〜40°の範囲に明確なピークを有さないもの(無定形物)であり、特に好ましくはフッ素置換基数が4であるフッ素置換クロロガリウムフタロシアニンである。
CuKα特性X線に対するX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角2θ(±0.2)で(1)7.0°、16.5°、27.2°にピークを有するもの、または(2)6.9°、16.0°、26.4°にピークを有するものを得るためには、更に以下の処理を行なって、乾式磨砕または化学的処理後の無定形物を所望の結晶型に変換する必要がある(以下、この処理を適宜「結晶型変換処理」という。)。
結晶型変換処理は、溶媒と接触させることにより行なう。溶媒との接触方法としては、粒子を溶剤中でスラリー状態とすることにより行なっても良いし、溶剤蒸気に曝す等のいかなる公知の接触方法を用いても良い。用いる溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン等の飽和脂肪族系溶媒;トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒;グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類;アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等の鎖状または環状のケトン系溶媒;ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等の鎖状または環状のエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒;n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物;リグロイン等の鉱油;水などが挙げられる。中でも、操作性を考慮すると、飽和脂肪族系溶媒、芳香族系溶媒、アルコール系溶媒、鎖状または環状ケトン系溶媒、エステル系溶媒、鎖状または環状エーテル系溶媒、非プロトン性極性溶媒、水が好ましい。これらの溶媒は何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて混合溶媒として用いても良い。処理温度としては、溶媒(または混合溶媒)の凝固点以上、沸点以下で行なうことが可能であるが、安全性の面から、通常10℃以上、200℃以下の範囲で行なわれる。溶媒の使用量としては、生産性の観点から、フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の無定形物1重量部に対して通常0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上、また、通常500重量部以下、好ましくは250重量部以下の範囲とする。
なお、フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の無定形物を溶媒と接触させる際には、必要に応じて攪拌等の操作を加えて、接触性を高めても良い。また、攪拌時には、湿式ガラスビーズ、アルミナビーズ、スチールビーズ、ジルコニアビーズ、炭化ケイ素ビーズ、窒化ケイ素ビーズ、窒化ホウ素ビーズ等の公知の攪拌メディアを用いてもよい。
更に、湿式磨砕処理を行なう場合には、湿式磨砕処理用の溶剤と結晶型変換処理用の溶媒として同一のものを選択することにより、湿式磨砕処理と結晶型変換処理とを同時に行なうことが可能となる。
以上の結晶型変換処理により、フッ素置換ガリウムフタロシアニンの無定形物を、上記の結晶に変換することができる。
なお、湿式磨砕処理および/または結晶型変換処理を行なった場合、目的とするフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の無定形物または結晶は、上述の溶剤および/または溶媒中に分散した湿ケーキの状態で得られることになる。この湿ケーキから、常温乾燥、減圧乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥等の公知の方法を用いて溶剤および/または溶媒を除去し、乾燥させることにより、所望のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の無定形物または結晶が得られる。
本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物は、電子写真感光体において電荷発生物質として使用されるが、単独で使用されても、その他のフタロシアニン化合物と共に使用されても構わない、好ましくは、その他のフタロシアニン化合物と共に使用することである。本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が、本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物以外のその他のフタロシアニン化合物と、共に使用される場合としては、
1)フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の合成反応時に他のフタロシアニン化合物と同一反応系内で一緒に合成されて得られた組成物を感光層において使用する場合。
2)フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物と他のフタロシアニン化合物を別々に合成し、これを引き続く合成、あるいは精製処理時に混ぜて処理して、最終的に得られた組成物を感光層において使用する場合。
3)フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物と他のフタロシアニン化合物とを混合し、後述する感光層用塗布液調製方法に従い、感光層用塗布液を調製して使用する場合。
4)感光層用塗布液調製時に、フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物および他のフタロシアニン化合物の塗布液をそれぞれ別々に調製し、感光層塗布時にそれぞれの塗布液を混ぜて感光層作成に使用する場合。
が、例としてあげられる。これらのうち、上記2)の例に相当する場合が好ましい。更に好ましくは、別々に合成したフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物と他のフタロシアニン化合物とからなるフタロシアニン組成物が、後述する混晶性組成物であるようにして利用することが好ましい。
[2−3.フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物を用いたフタロシアニン組成物および混晶性組成物]
本発明の電子写真感光体に用いる電荷発生物質として、本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物を含有する前項のフタロシアニン組成物を使用する場合、一般式(5)で示されるフタロシアニン環上にフッ素原子を持つフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物が成分として含有されている組成物を使用する。
上記組成物中にはフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物以外に、好ましくはフタロシアニン骨格、ポルフィリン骨格、テトラアザポルフィリン骨格を持つフタロシアニン類縁体化合物を含有する。特に材料コスト面では、フタロシアニン化合物は好ましい。また、フタロシアニン化合物としては、無金属、あるいは金属フタロシアニンのいずれも使用することが出来るが、電子写真感光体用途では、無金属フタロシアニン、オキシチタニウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、および/または、ヒドロキシガリウムフタロシアニンと共に使用することが好ましい。
本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物と、フタロシアニン類縁体化合物は、任意の組成比率で用いることができるが、通常、該フタロシアニン組成物中、フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物は80重量%以下の含有率で含まれる。コスト的見地からは60重量%以下が好ましく、50重量%以下の含有率で含有されることがさらに好ましい。
一方で含有量が少な過ぎると、本発明の効果が十分に発揮されないことがあるので、通常、組成物中0.1重量%以上で使用され、1重量%以上で用いられることが好ましい。
該フタロシアニン組成物は、含有される各々の成分がそれぞれ独立した粒子の混合状態であっても、分子レベルで規則性のある構造であっても構わないが、結晶構造を持つ組成物であることが好ましく、特に好ましくは、混合したもとのフタロシアニン化合物およびその類縁体の結晶型とは異なる新たな結晶型を示すか、あるいは組成物に含有されるいずれか1つの化合物の結晶構造を主として示す混晶性の組成物であることが好ましい。
また、該フタロシアニン組成物において分子レベルで規則性のある構造を形成する場合、通常、微細化によって無定型化した後、溶剤処理等によって規則性のある構造を形成する手法をとる。
微細化による無定形化の方法としては、磨砕法等の機械的な力を用いた処理方法や、アシッドペースト法、アシッドスラリー法等の化学的な処理方法の中から、任意の方法を選択して実施することができる。また、前述の方法のうち2種類以上を組み合わせて行なうことも可能である。中でも、アシッドスラリー法、アシッドペースト法では大量の酸が必要であり、製造後の廃酸の処理において大量の塩基を用いて中和しなければならず、廃棄物処理に多大なコストがかかり、且つ、大量の廃棄物が生成してしまうという非常に大きい問題があり、また、通常は、使用される酸の陰イオン由来の不純物による電気特性の特に帯電性能が低下したり、フタロシアニン環や、中心金属の配位子が酸と反応することにより、フタロシアニン分子の構造が異なったものに変換されたり、酸によりフタロシアニン環構造の分解等が起きてしまうため、磨砕法等の機械的な力を用いた処理方法を用いることが好ましい。
機械的な力を用いて磨砕処理を行なう場合、磨砕に用いる装置は特に制限されないが、例としては、自動乳鉢、遊星ミル、ボールミル、CFミル、ローラーミル、サンドミル、ニーダー、アトライター等が挙げられる。磨砕メディアを使用する場合、その種類は特に制限されないが、具体例としてはガラスビーズ、スチールビーズ、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ、炭化ケイ素ビーズ、窒化ケイ素ビーズ、窒化ホウ素ビーズ等が挙げられる。磨砕時には、磨砕メディア以外にも磨砕後に容易に除去することのできる磨砕助剤を併用して実施することも可能である。磨砕助剤の例としては、食塩、ぼう硝等が挙げられる。
磨砕は乾式で行なっても良く、溶剤の共存下、湿式で行なっても良い。湿式で磨砕を行なう場合、用いる溶剤は特に制限されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン等の飽和脂肪族系溶媒;トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒;グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類;アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等の鎖状または環状ケトン系溶媒;ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等の鎖状または環状エーテル系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒;n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物;リグロイン等の鉱油、水などが挙げられる。中でも、湿式磨砕時の操作性を考慮すると、飽和脂肪族系溶媒、芳香族系溶媒、アルコール系溶媒、鎖状または環状ケトン系溶媒、エステル系溶媒、鎖状または環状エーテル系溶媒、非プロトン性極性溶媒、水が好ましい。これらの溶剤は何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて混合溶剤として用いても良い。溶剤の使用量は、生産性の観点から、磨砕対象となるフッ素置換ガリウムフタロシアニン組成物1重量部に対して通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、また、通常200重量部以下、好ましくは100重量部以下の範囲とする。処理温度としては、溶剤(または混合溶剤)の凝固点以上、沸点以下で行なうことが可能であるが、安全性の面から、通常10℃以上、200℃以下の範囲で行なわれる。なお、湿式磨砕を行なうための装置としては、上に例示した磨砕用の装置に加えて、ニーダー等を用いることができる。
なお、乾式磨砕・化学的処理によって得られるフッ素置換ガリウムフタロシアニン組成物の微細粒子は、CuKα特性X線に対するX線回折スペクトルにおいて明確なピークを有さない、結晶性を有さない無定形物となる。
分子レベルで規則性のある構造を形成するには、前記無定形化の後、溶媒と接触させることにより行なう。溶媒との接触方法としては、粒子を溶剤中でスラリー状態とすることにより行なっても良いし、溶剤蒸気に曝す等のいかなる公知の接触方法を用いても良い。用いる溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン等の飽和脂肪族系溶媒;トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒;グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類;アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等の鎖状または環状のケトン系溶媒;ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等の鎖状または環状のエーテル系溶媒;ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒;n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物;リグロイン等の鉱油;水などが挙げられる。中でも、操作性を考慮すると、飽和脂肪族系溶媒、芳香族系溶媒、アルコール系溶媒、鎖状または環状ケトン系溶媒、エステル系溶媒、鎖状または環状エーテル系溶媒、非プロトン性極性溶媒、水が好ましい。これらの溶媒は何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて混合溶媒として用いても良い。処理温度としては、溶媒(または混合溶媒)の凝固点以上、沸点以下で行なうことが可能であるが、安全性の面から、通常10℃以上、200℃以下の範囲で行なわれる。溶媒の使用量としては、生産性の観点から、フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の無定形物1重量部に対して通常0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上、また、通常500重量部以下、好ましくは250重量部以下の範囲とする。
なお、フッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の無定形物を溶媒と接触させる際には、必要に応じて攪拌等の操作を加えて、接触性を高めても良い。また、攪拌時には、湿式ガラスビーズ、アルミナビーズ、スチールビーズ、ジルコニアビーズ、炭化ケイ素ビーズ、窒化ケイ素ビーズ、窒化ホウ素ビーズ等の公知の攪拌メディアを用いてもよい。
更に、湿式磨砕処理を行なう場合には、湿式磨砕処理用の溶剤と結晶型変換処理用の溶媒として同一のものを選択することにより、湿式磨砕処理と結晶型変換処理とを同時に行なうことが可能となる。
以上の結晶型変換処理により、フッ素置換ガリウムフタロシアニンの無定形物を、上記の結晶に変換することができる。
なお、湿式磨砕処理および/または結晶型変換処理を行なった場合、目的とするフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の無定形物または結晶は、上述の溶剤および/または溶媒中に分散した湿ケーキの状態で得られることになる。この湿ケーキから、常温乾燥、減圧乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥等の公知の方法を用いて溶剤および/または溶媒を除去し、乾燥させることにより、所望のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物の無定形物または結晶が得られる。
[3.光導電性材料]
本発明のフタロシアニン組成物は、ペーパーライクディスプレイ等の各種の画像表示デバイス、光情報記録媒体、太陽電池用材料、光導電性材料として用いることが可能であるが、特に電子写真感光体の材料としての使用が好ましい。
[4.電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層を有する電子写真感光体において、前記感光層中に、上述した本発明のフタロシアニン材料(即ち、本発明のフタロシアニン組成物又は本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン)を含有することを特徴とする。
[4−1.導電性支持体]
導電性支持体について特に制限は無いが、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を混合して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫合金)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙などが主として使用される。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、その形態としては、例えばドラム状、シート状、ベルト状などのものが用いられる。さらに、金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性などの制御のためや欠陥被覆のため、適当な抵抗値を有する導電性材料を塗布したものを用いても良い。
また、導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、陽極酸化処理を施してから用いても良い。なお、陽極酸化処理を施した場合には、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。
支持体表面は、平滑であっても良いし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていても良い。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものでも良い。また、安価化のためには、切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。
[4−2.下引き層]
導電性支持体と後述する感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けても良い。下引き層としては、樹脂、樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したものなどが用いられる。また、下引き層は、単一層であっても、複数層を設けてもかまわない。
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子などが挙げられる。これらは一種類の粒子を単独で用いても良いし、複数の種類の粒子を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いても良い。
これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。
酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコーン等の有機物による処理を施されていても良い。なお、酸化チタン粒子に施される処理は1種類であってもよく、また、2種以上の処理を任意の組み合わせ及び程度で施されていてもよい。
さらに、酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。なお、酸化チタン粒子は、その結晶型が1種類のみであってもよく、2種以上の結晶型が任意の組み合わせ及び比率で含まれていてもよい。
また、金属酸化物粒子の粒径としては種々のものが利用できるが、中でも下引き層の原料であるバインダー樹脂等の特性及び液の安定性の面から、平均一次粒径として通常10nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下のものが望ましい。
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ニトロセルロース等のセルロースエステル樹脂、セルロースエーテル樹脂、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、澱粉、スターチアセテート、アミノ澱粉、ジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムアルコキシド化合物等の有機ジルコニウム化合物、チタニルキレート化合物、チタニルアルコキシド化合物等の有機チタニル化合物、シランカップリング剤等が挙げられる。なお、これらは単独で用いても良く、或いは2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、硬化剤とともに硬化した形で使用してもよい。中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は、良好な分散性及び塗布性を示し、好ましい。
また、下引き層に用いられるバインダー樹脂に対する金属酸化物粒子の混合比は任意に選べるが、通常はバインダー樹脂100重量部に対して、10重量部以上500重量部以下の範囲で使用することが、塗布液の安定性、塗布性の面で好ましい。
さらに、下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができるが、電子写真感光体の電気特性、強露光特性、画像特性、及び繰り返し特性、並びに製造時の塗布性を向上させる観点から、通常は0.01μm以上、好ましくは0.1μm以上、また、通常30μm以下、好ましくは20μm以下が望ましい。
また、下引き層には、画像欠陥防止などを目的として、顔料粒子、樹脂粒子などを含有させてもよい。
[4−3.感光層]
続いて、導電性支持体上に(前述の下引き層を設けた場合は下引き層上に)形成される感光層について説明する。
感光層は、上述した本発明のフタロシアニン材料を電荷発生物質として含有する層であり、その型式としては、電荷発生物質と電荷輸送物質とが同一層に存在し、バインダー樹脂中に分散された単層構造のもの(以下適宜、「単層型感光層」という)と、電荷発生物質がバインダー樹脂中に分散された電荷発生層及び電荷輸送物質がバインダー樹脂中に分散された電荷輸送層を含む、二層以上の層からなる積層構造のもの(以下適宜、「積層型感光層」という)とが挙げられるが、いずれの形態であってもよい。また、積層型感光層としては、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層して設ける順積層型感光層と、逆に電荷輸送層、電荷発生層の順に積層して設ける逆積層型感光層とが挙げられるが、公知のどのような形態を採用することも可能である。
(電荷発生層)
積層型感光層の場合、電荷発生層は、バインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に、上述した本発明のフタロシアニン材料を少なくとも1種含有する電荷発生物質を分散させて塗布液を調製し、これを導電性支持体上に塗布し、電荷発生物質を各種バインダー樹脂で結着することにより形成される。
電荷発生物質としては、上述した本発明のフタロシアニン材料を単独で用いてもよいし、他の公知の電荷発生物質と併用してもよい。また、他の電荷発生物質を併用する場合、それらは単に混合・分散状態として併用してもよいし、もしその併用する電荷発生物質が本発明のフタロシアニン材料と共結晶を形成することが可能であれば共結晶状態として用いても良い。
本発明のフタロシアニン材料と併用できる電荷発生物質としては、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、スクアレン(スクアリリウム顔料)、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等が挙げられる。これらの中でも、光感度の面から、フタロシアニン顔料、アゾ顔料が好ましい。
ここで、本発明のフタロシアニン材料と他の電荷発生物質とを併用する場合には、本発明のフタロシアニン材料及び他の電荷発生物質を粉体又は分散液の状態で混合してもよいし、本発明のフタロシアニン材料や他の電荷発生物質それぞれの製造工程(顔料化、結晶化などの各種処理工程を含む)において混合してもよい。このように、それぞれの製造段階で混合する方法としては、例えば併用する電荷発生物質が本発明のフタロシアニン材料と共結晶を形成することが可能である場合、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が挙げられる。特に、電荷発生物質に共結晶状態を生じさせるためには、特開平10−48859号公報記載のように、2種類の結晶を混合後に機械的に磨砕、不定形化した後に、溶剤処理によって特定の結晶状態に変換する方法が挙げられる。
積層型感光層における電荷発生層に用いられるバインダー樹脂に制限はなく、任意の樹脂を用いることが出来る。その具体例としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼインや、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アルキッド樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマーなどを挙げることが出来る。また、例えば、ポリビニルアセテート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナールや、セルロースエステル、セルロースエーテル、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルアルコール、エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体および共重合体、ポリアミド、けい素樹脂等も挙げられる。なお、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
また、バインダー樹脂を溶解させ、塗布液の作製に用いられる溶媒、分散媒に特に制限はなく、任意の溶媒及び分散媒を用いることが出来る。その具体例を挙げると、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ノナン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の鎖状及び環状飽和脂肪族系溶媒、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロナフタレン等のハロゲン化芳香族系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒、エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等の脂肪族多価アルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等の鎖状及び環状ケトン系溶媒、ギ酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリノン、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、スルフォラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン等の含窒素化合物、リグロイン等の鉱油、水などが挙げられる。中でも、下引き層を溶解しないものが好ましい。なお、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
積層型感光層の電荷発生層において、バインダー樹脂に対する電荷発生物質の配合比(重量)は、バインダー樹脂100重量部に対して、通常1重量部以上、好ましくは10重量部以上、より好ましくは30重量部以上、また、通常2000重量部以下、好ましくは1000重量部以下、より好ましくは500重量部以下である。電荷発生物質の比率が高すぎる場合は電荷発生物質の凝集等により塗布液の安定性が低下し、一方低すぎる場合は感光体としての感度の低下をまねく虞があることから、前記範囲で使用する事が好ましい。なお、電荷発生物質として本発明のフタロシアニン材料を他の電荷発生物質と併用する場合には、その併用する電荷発生物質と本発明のフタロシアニン材料との合計が上記範囲内になるようにする。
また、電荷発生層には、電子吸引性化合物を含有させても良い。電子吸引性化合物としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができるが、例えば、クロラニル、2,3−ジクロロ−1,4−ナフトキノン、1−ニトロアントラキノン、1−クロロ−5−ニトロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、フェナントレンキノン等のキノン類;4−ニトロベンズアルデヒド等のアルデヒド類;9−ベンゾイルアントラセン、インダンジオン、3,5−ジニトロベンゾフェノン、2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロフルオレノン、3,3’,5,5’−テトラニトロベンゾフェノン等のケトン類;無水フタル酸、4−クロロナフタル酸無水物等の酸無水物;テトラシアノエチレン、テレフタラルマロノニトリル、9−アントリルメチリデンマロノニトリル、4−ニトロベンザルマロノニトリル、4−(p−ニトロベンゾイルオキシ)ベンザルマロノニトリル等のシアノ化合物;3−ベンザルフタリド、3−(α−シアノ−p−ニトロベンザル)フタリド、3−(α−シアノ−p−ニトロベンザル)−4,5,6,7−テトラクロロフタリド等のフタリド類等の電子吸引性化合物が挙げられる。
また、積層型感光層の電荷発生層の膜厚は、通常0.05μm以上、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.15μm以上、また、通常10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下、さらに好ましくは0.8μm以下である。
さらに、電荷発生物質を分散媒中に分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法、遊星ミル分散法、ロールミル分散法、超音波分散法等の公知の分散方法を任意に用いることが出来る。なお、分散時には、電荷発生物質の粒子を通常0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.15μm以下の粒子サイズに微細化することが有効である。
(電荷輸送層)
積層型感光層の電荷輸送層は、電荷輸送物質を含有するとともに、通常はバインダー樹脂と、必要に応じて使用されるその他の成分とを含有する。このような電荷輸送層は、具体的には、例えば電荷輸送物質等とバインダー樹脂とを溶媒または分散媒に溶解又は分散して塗布液を作製し、これを順積層型感光層の場合には電荷発生層上に、また、逆積層型感光層の場合には導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布、乾燥して得ることができる。
バインダー樹脂は、電荷輸送層の膜強度確保のために使用されるものである。その種類に制限はなく、公知の樹脂を任意に用いることが出来るが、例えば、ブタジエン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ビニルアルコール樹脂、エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、部分変性ポリビニルアセタール、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロースエステル樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等を用いることが出来る。中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が特に好ましい。なお、これらは適当な硬化剤を用いて熱、光等により架橋させて用いることもできる。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
より好ましいバインダー樹脂としては、下記一般式(11)で示される単位の一種或いは二種以上からなるポリカーボネート樹脂、および下記一般式(12)で示される単位の一種或いは二種以上からなるポリアリレート樹脂が挙げられる。
ここで、Ar1,Ar2は各々独立して置換基を有していても良いアリーレン基を表す。また、一般式(11)において、Xは、酸素原子、硫黄原子などの架橋原子、単結合、または−CR1R2−を表し、R1およびR2はおのおの独立して水素原子、アルキル基、アリール基、またはR1とR2が連結した脂環構造を示す。
ここで、Ar1,Ar2は各々独立して置換基を有していても良いアリーレン基を表す。また、一般式(12)において、Xは、酸素原子、硫黄原子などの架橋原子、単結合、または−CR1R2−を表し、R1およびR2はおのおの独立して水素原子、アルキル基、アリール基、または連結した脂環構造を示す。Ar3は置換基を有していてもよいアリーレン基、または、酸素原子、硫黄原子などの架橋原子により複数のアリール基が連結された2価基を表す。
好ましくは、一般式(11)および(12)において、O−Ar1−X−Ar2−Oで表される構造部分はビスフェノール成分、またはビフェノール成分の部分構造からなる。それらのビスフェノール成分、およびビフェノール成分の好ましい具体例として以下に例示されるものが挙げられる。
即ち、例えば、4,4’−ビフェノール、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,3’−ジ(t−ブチル)−4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,3’,5,5’−テトラ(t−ブチル)−4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチル −4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、2,4’−ビフェノール、3,3’−ジメチル−2,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,3’−ジ(t−ブチル)−2,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、2,2’−ビフェノール、3,3’−ジメチル−2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、3,3’−ジ(t−ブチル)−2,2’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、等のビフェノール化合物;
ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、等のビスフェノール成分などが挙げられる。
電荷輸送物質としては特に限定されず、任意の物質を用いることが可能である。公知の電荷輸送物質の例としては、2,4,7−トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン化合物等の電子吸引性物質、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖又は側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等が挙げられる。これらの中でも、カルバゾール誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。なお、これらの電荷輸送物質は、何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせで併用しても良い。
前記電荷輸送物質の好適な構造の具体例を以下に示す。これら具体例は例示のために示したものであり、本発明の趣旨に反しない限りはいかなる公知の電荷輸送物質を用いても良い。なお、以下の構造式においてMeはメチル基を表し、n−Buはノルマルブチル基を表す。
バインダー樹脂と電荷輸送物質との割合は任意であるが、通常はバインダー樹脂100重量部に対して電荷輸送物質を20重量部以上の比率で使用する。中でも、残留電位低減の観点から30重量部以上が好ましく、更には、繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点から40重量部以上がより好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点から、電荷輸送物質を通常は150重量部以下の比率で使用する。中でも、電荷輸送材料とバインダー樹脂との相溶性の観点から120重量部以下が好ましく、耐刷性の観点から100重量部以下がより好ましく、耐傷性の観点から80重量部以下が特に好ましい。
電荷輸送層の膜厚は特に制限されないが、長寿命、画像安定性の観点、更には高解像度の観点から、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは45μm以下、更には30μm以下の範囲とする。
(単層型感光層)
単層型感光層は、電荷発生物質及び電荷輸送物質に加えて、積層型感光層の電荷輸送層と同様に、膜強度確保のためにバインダー樹脂を使用して形成する。具体的には、電荷発生物質と電荷輸送物質と各種バインダー樹脂とを溶剤に溶解又は分散して塗布液を作製し、導電性支持体上(下引き層を設ける場合は下引き層上)に塗布、乾燥して得ることができる。
電荷輸送物質及びバインダー樹脂の種類並びにこれらの使用比率は、積層型感光層の電荷輸送層について説明したものと同様である。これらの電荷輸送物質及びバインダー樹脂からなる電荷輸送媒体中に、さらに電荷発生物質が分散される。
電荷発生物質は、積層型感光層の電荷発生層について説明したものと同様のものが使用できる。但し、単層型感光層の場合、電荷発生物質の粒子径を充分に小さくする必要がある。具体的には、通常1μm以下、好ましくは0.5μm以下の範囲とする。
単層型感光層内に分散される電荷発生物質の量は、少な過ぎると充分な感度が得られない一方で、多過ぎると帯電性の低下、感度の低下などの弊害があることから、単層型感光層全体に対して通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下の範囲で使用される。
また、単層型感光層の膜厚は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下の範囲である。
また、単層型感光層におけるバインダー樹脂と電荷発生物質との使用比率は、バインダー樹脂100重量部に対して電荷発生物質が通常0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上、また、通常30重量部以下、好ましくは10重量部以下の範囲とする。
(その他)
積層型感光層、単層型感光層ともに、感光層又はそれを構成する各層には、成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性などを向上させる目的で、周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤などの添加剤を含有させても良い。
例えば、電荷輸送層に使用される添加剤の例としては、成膜性、可撓性、機械的強度を向上させるために使用される周知の可塑剤や架橋剤、酸化防止剤、安定剤、増感剤、塗布性を改善するための各種レベリング剤、分散補助剤などの添加剤があげられる。可塑剤としては、例えばフタル酸エステル、りん酸エステル、エポキシ化合物、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステル、メチルナフタレンなどの芳香族化合物などが挙げられ、レベリング剤としては、例えばシリコーンオイル、フッ素系オイル等があげられる。
また、積層型感光層、単層型感光層ともに、上記手順により形成された感光層を最上層、即ち表面層としてもよいが、その上に更に別の層を設け、これを表面層としてもよい。
例えば、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減する目的で、保護層を設けても良い。
保護層は、導電性材料を適当なバインダー樹脂中に含有させて形成するか、特開平9−190004号、特開平10−252377号各公報に記載のトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する化合物を用いた共重合体を用いることができる。
保護層に用いる導電性材料としては、TPD(N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス−(m−トリル)ベンジジン)等の芳香族アミノ化合物、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化錫、酸化チタン、酸化錫−酸化アンチモン、酸化アルミ、酸化亜鉛等の金属酸化物などを用いることが可能であるが、これに限定されるものではない。
保護層に用いるバインダー樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、シロキサン樹脂等の公知の樹脂を用いることができ、また、特開平9−190004号公報、特開平10−252377号公報に記載のようなトリフェニルアミン骨格等の電荷輸送能を有する骨格と上記樹脂の共重合体を用いることもできる。
保護層の電気抵抗は、通常109Ω・cm以上、1014Ω・cm以下の範囲とすることが望ましい。電気抵抗が前記範囲より高くなると、残留電位が上昇しカブリの多い画像となってしまう一方、前記範囲より低くなると、画像のボケ、解像度の低下が生じてしまう。また、保護層は像露光の際に照射される光の透過を実質上妨げないように構成されなければならない。
また、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を低減、トナーの感光体から転写ベルト、紙への転写効率を高める等の目的で、表面層にフッ素系樹脂、シリコン樹脂、ポリエチレン樹脂等、又はこれらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を、表面層に含有させても良い。或いは、これらの樹脂や粒子を含む層を新たに表面層として形成しても良い。
[4−4.各層の形成方法]
これらの感光体を構成する各層は、含有させる物質を溶媒または分散媒に溶解又は分散させて得られた塗布液を、各層ごとに順次塗布・乾燥工程を繰り返すことにより形成される。この際用いる溶媒又は分散媒の種類や使用量は特に制限されないが、各層の目的や選択した溶媒・分散媒の性質を考慮して、塗布液の固形分濃度や粘度等の物性が所望の範囲となるように適宜調整するのが好ましい。
例えば、単層型感光層、及び積層型感光層の電荷輸送層の場合には、塗布液の固形分濃度を通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、また、通常40重量%以下、好ましくは35重量%以下の範囲とする。また、塗布液の粘度を通常10cps以上、好ましくは50cps以上、また、通常500cps以下、好ましくは400cps以下の範囲とする。
また、積層型感光層の電荷発生層の場合には、塗布液の固形分濃度は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲とする。また、塗布液の粘度は、通常0.01cps以上、好ましくは0.1cps以上、また、通常20cps以下、好ましくは10cps以下の範囲とする。
さらに、塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒に特に制限は無い。具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ギ酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等が挙げられる。また、これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び種類で併用してもよい。
塗布液の塗布方法としては、浸漬コーティング法、スプレーコーティング法、スピナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等が挙げられるが、他の公知のコーティング法を用いることも可能である。
さらに、塗布液の乾燥は、室温における指触乾燥後、通常30℃以上、200℃以下の温度範囲で、1分から2時間の間、静止又は送風下で加熱乾燥させることが好ましい。また、加熱温度は一定であってもよく、乾燥時に温度を変更させながら加熱を行なっても良い。
[5.画像形成装置]
次に、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置(本発明の画像形成装置)の実施の形態について、装置の要部構成を示す図73を用いて説明する。但し、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
図73に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1,帯電装置2,露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5,クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図73ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2,露光装置3,現像装置4,転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。帯電装置としては、コロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、電圧印加された直接帯電部材を感光体表面に接触させて帯電させる直接帯電装置(接触型帯電装置)帯電ブラシ等の接触型帯電装置などがよく用いられる。直接帯電手段の例としては、帯電ローラ、帯電ブラシ等の接触帯電器などが挙げられる。なお、図73では、帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示している。直接帯電手段として、気中放電を伴う帯電、あるいは気中放電を伴わない注入帯電いずれも可能である。また、帯電時に印可する電圧としては、直流電圧だけの場合、及び直流に交流を重畳させて用いることもできる。
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LEDなどが挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが、例えば波長が780nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm〜500nmの短波長の単色光などで露光を行なえばよい。
現像装置4は、その種類に特に制限はなく、カスケード現像、一成分絶縁トナー現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像などの乾式現像方式や、湿式現像方式などの任意の装置を用いることができる。図73では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジなどの容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄,ステンレス鋼,アルミニウム,ニッケルなどの金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコン樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂などを被覆した樹脂ロールなどからなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
規制部材45は、シリコン樹脂やウレタン樹脂などの樹脂ブレード、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、リン青銅などの金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は5〜500g/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
アジテータ42は、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
トナーTの種類は任意であり、粉状トナーのほか、懸濁造粒、懸濁重合、乳化重合凝集法等のケミカルトナーを用いることができる。ケミカルトナーの場合には、4〜8μm程度の小粒径のものが好ましく、また、トナー粒子の形状も、球形に近いものから、球形から外れたポテト状のものまで、様々な形状のものを使用することができる。特に重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化に好適に用いられる。
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写などの静電転写法、圧力転写法、粘着転写法など、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー,転写ローラ,転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙,媒体)Pに転写するものである。
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナーなど、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。なお、残留トナーが少ないか、ほとんど無い場合、クリーニング装置6は無くてもかまわない。
定着装置7は、上部定着部材(定着ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図73では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス,アルミニウムなどの金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シートなどが公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を向上させる為にシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着など、任意の方式による定着装置を設けることができる。
以上のように構成された電子写真装置では、次のようにして画像の記録が行なわれる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば−600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させても良く、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行なう。
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、負極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行なうことができる構成としても良い。除電工程は、電子写真感光体に露光を行なうことで電子写真感光体の除電を行なう工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程などの工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
なお、電子写真感光体1を、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5、クリーニング装置6、及び定着装置7のうち1つ又は2つ以上と組み合わせて、一体型のカートリッジ(以下適宜「電子写真感光体カートリッジ」という)として構成し、この電子写真感光体カートリッジを複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真装置本体に対して着脱可能な構成にしてもよい。この場合、例えば電子写真感光体1やその他の部材が劣化した場合に、この電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することにより、画像形成装置の保守・管理が容易となる。
以下に挙げる実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明の趣旨に反しない限り本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、合成例、実施例中「部」とあるは「重量部」を示す。
[本発明のフタロシアニン組成物に対応した実施例]
I.フタロシアニン化合物の合成
<合成例1(α型オキシチタニウムフタロシアニン結晶の合成)>
特開平2−308863号公報中の「実施例1」に記載されている方法と同様の操作を行なうことにより、α型オキシチタニウムフタロシアニンを得た。得られたα型オキシチタニウムフタロシアニンの粉末X線回折図を図1に示す。
<合成例2(クロロガリウムフタロシアニン結晶の合成)>
特開平6−73303号公報中の実施例1と同様の操作を行なうことにより、クロロガリウムフタロシアニンを得た。得られたクロロガリウムフタロシアニンの粉末X線回折図を図2に示す。
<合成例3(クロロインジウムフタロシアニン結晶の合成)>
オルトフタロニトリル50部、三塩化インジウム23.7部をα−クロロナフタレン250部中に添加し、200℃で13時間反応させた後、生成物を熱時濾過し、N−メチルピロリドン、メタノール、トルエン、水で洗浄した。次いで得られた湿ケーキを乾燥させることによりクロロインジウムフタロシアニンを27部得た(収率42%)。得られたクロロインジウムフタロシアニンの粉末X線回折図を図3に示す。
<合成例4(テトラフルオロオキシチタニウムフタロシアニン結晶の合成)>
4−フルオロフタロニトリル17.5部及び四塩化チタン6部をα−クロロナフタレン130部中に添加し、200℃において4時間反応させた後、生成物を熱時濾過し、N−メチルピロリドン、メタノール、トルエン、水で洗浄した。次いで、得られた湿ケーキを乾燥させることによりテトラフルオロオキシチタニウムフタロシアニン結晶を8.0部得た。(収率40%)得られたテトラフルオロオキシチタニウムフタロシアニン結晶の粉末X線回折図を図4に示す。
<合成例5(テトラフルオロクロロガリウムフタロシアニン結晶の合成)>
4−フルオロフタロニトリル26.7部及び三塩化ガリウム7.5部をα−クロロナフタレン100部中に添加し、210℃において8.5時間反応させた後、生成物を熱時濾過し、N−メチルピロリドン、メタノール、トルエン、水で洗浄した。次いで、得られた湿ケーキを乾燥させることによりテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニン結晶を19.2部得た(収率61%)。得られたテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニン結晶の粉末X線回折図を図5に示す。
<合成例6(テトラフルオロクロロインジウムフタロシアニン結晶の合成)>
4−フルオロフタロニトリル22.6部及び三塩化インジウム8部をα−クロロナフタレン70部中に添加し、200℃において11時間反応させた後、生成物を熱時濾過し、N−メチルピロリドン、メタノール、トルエン、水で洗浄した。次いで、得られた湿ケーキを乾燥させることによりテトラフルオロクロロインジウムフタロシアニン結晶を14.2部得た(収率59%)。得られたテトラフルオロクロロインジウムフタロシアニン結晶の粉末X線回折図を図6に示す。
<合成例7(β型オキシチタニウムフタロシアニン結晶の合成)>
特開昭62−67094号公報中の製造例1と同様の操作を行なうことにより、β型オキシチタニウムフタロシアニンを得た。得られたβ型オキシチタニウムフタロシアニンの粉末X線回折図を図7に示す。
<合成例8(インドリン及びTi(OBu)4を原料とするβ型オキシチタニウムフタロシアニン結晶の合成>
1,3−ジイミノイソインドリン50.8部、及び、チタニウムテトラブトキシド35.8部をオルトジクロロベンゼン455部中に添加し、140℃で4時間反応させた後、生成物を熱時濾過し、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、トルエン、水で洗浄した。得られた湿ケーキを真空加熱乾燥機で乾燥させた。乾燥させて得られた粗オキシチタニウムフタロシアニンを乾式ミリング処理を行なうことにより、アモルファスオキシチタニウムフタロシアニンを得、このアモルファスオキシチタニウムフタロシアニンを再度N−メチル−2−ピロリドン、水、メタノールで洗浄することにより、オキシチタニウムフタロシアニンを37.8部得た(収率76%)。得られたオキシチタニウムフタロシアニンの粉末X線回折図を図8に示す。
<オキシチタニウムフタロシアニンのCl置換体量測定>
合成例1,7,8で合成したオキシチタニウムフタロシアニンについて、以下のようにして、マススペクトル(質量スペクトルともいう)のスペクトル強度比を測定し、各合成例で得られたオキシチタニウムフタロシアニン中に占める、塩素化オキシチタニウムフタロシアニンの割合を測定した。
1.試料の調製
オキシチタニウムフタロシアニン0.50部をガラスビーズ(1.0〜1.4φ)30部、シクロヘキサノン10部と共に50mLガラス容器に入れ、ペイントシェーカーで3時間分散処理し、オキシチタニウムフタロシアニンの分散液とした。この分散液を20mLサンプル瓶に1μL採取し、クロロホルム5mLを加えた。次に1時間超音波により分散させ、測定用10ppm分散液を調製した。
2.測定
マススペクトル測定条件
測定装置:JEOL社製 JMS−700/MStation
測定モード:DCI(−)
反応ガス:イソブタン(イオン化室圧力1×10-5Torr)
フィラメントレート:0→0.90A(1A/min)
加速電圧:8.0KV
質量分析能:2000
スキャン法:MF−Linear
スキャン範囲:500 to 680
全質量範囲スキャン時間:0.8秒
繰り返し時間:0.5秒(スキャン時間0.05秒、待ち時間0.45秒)
「1.試料の調製」で調製した測定用分散液1μlをDCIプローブのフィラメントに塗布し、マススペクトル測定を上記条件で実施した。得られたマススペクトルにおいて、塩素化オキシチタニウムフタロシアニンの分子イオンに相当するm/z:610及び無置換のオキシチタニウムフタロシアニンの分子イオンに相当するm/z:576のイオンクロマトから得られるピークの面積の比(「610」ピークの面積/「576」ピークの面積)をスペクトル強度比として算出した。
3.測定結果
上記の「1.試料の調製」及び「2.測定」の操作を合成例1,7,8で得られたオキシチタニウムフタロシアニンそれぞれについて行なったところ、結果は以下のとおりであった。
合成例1:スペクトル強度比=0.058
合成例7:スペクトル強度比=0.054
合成例8:スペクトル強度比=0.001(検出下限以下)
合成例8で合成したオキシチタニウムフタロシアニンの測定結果(スペクトル強度比=0.001)は、測定装置の検出下限であり、また、合成例8においては原料としてCl置換体が生成するための塩素源が存在しないことから、Cl置換体は存在していないものと推測される。
II.フタロシアニン組成物の製造
以下に説明する製造方法によって、本発明の実施例としてのフタロシアニン組成物46種(製造例1〜46)と、比較例としてのフタロシアニン組成物11種(比較製造例1〜11)とを製造した。なお、以下の製造方法の説明で用いた合成例番号A,B、各処理時間L,M,N、重量部W,X,Y、及び容量Z、並びに、各製造時に得られた粉末X線回折図の番号は、製造例については表3及び表4、比較製造例について表5中に示した。なお、表3〜5中において、THFはテトラヒドロフランを表し、NMPはN−メチルピロリドンを表し、MEKはメチルエチルケトンを表し、DMFはジメチルホルムアミドを表す。
合成例Aで得られたフタロシアニン結晶(製造例1〜46では、無置換フタロシアニン結晶)W部と、合成例Bで得られたフタロシアニン結晶(製造例1〜46では、置換フタロシアニン結晶)X部とを、φ0.4〜0.6mmガラスビーズY部と共にポリビン中に充填し、染料分散試験器(ペイントシェーカー)でL時間摩砕処理した(機械的微細化工程)。得られたガラスビーズ及びフタロシアニン組成物の混合物を、室温下、溶媒C(ZmL)中でφ0.4〜0.6mmガラスビーズと共にM時間攪拌した。攪拌後、組成物をガラスビーズから分離し、さらに組成物を有機溶剤中でN時間攪拌後、濾別し、乾燥することにより目的であるフタロシアニン組成物を得た。また、得られたフタロシアニン組成物それぞれについて、X線回折スペクトルを測定した(図9〜図65参照)。X線回折スペクトルの測定条件は、以下のとおりである。
粉体X線回折装置 : PANalytical PW1700
X線管球 : Cu
走査軸 : θ/2θ
測定範囲 : 3.0°〜40.0°
走査速度 : 3.0°/分
III.電子写真感光体特性評価
<実施例1>
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(厚み75μm)の表面にアルミニウム蒸着膜(厚み70nm)を形成した導電性支持体を用い、その支持体の蒸着層上に、以下の下引き層用分散液をバーコーターにより、乾燥後の膜厚が1.25μmとなるように塗布し、乾燥させ下引き層を形成した。
平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機((株)カワタ社製「SMG300」)に投入し、回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1−プロパノールの混合溶媒中でボールミルにより分散させることにより、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε−カプロラクタム[下記式(A)で表わされる化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表わされる化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表わされる化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表わされる化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表わされる化合物]の組成モル比率が、75%/9.5%/3%/9.5%/3%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行なうことにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの重量比が7/1/2で、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の下引き層用分散液とした。
別に、製造例1で得た電荷発生物質としてのフタロシアニン組成物4部に、4−メチル−4−メトキシ−ペンタノン−2を30部と、1,2−ジメトキシエタン270部とを加え、サンドグラインドミルで2時間粉砕し、微粒子化処理を行なった。その後、バインダー樹脂としてのポリビニルブチラール(電気化学工業社製「デンカブチラール #6000C」)1部及び、フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイト社製「PKHH」)の1部を加えて、さらに1時間サンドグラインドミルで粉砕し、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を、前記導電性支持体上の下引き層上に、バーコーターにより、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように塗布し、乾燥させて電荷発生層を形成した。
別に、下記構造式(13)で示される、特開2002−80432号公報中の実施例1に基づいて合成された化合物50重量部を電荷輸送物質として用い、また、下記構造式(14)に示す2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位51モル%と、構造式(15)に示す1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位49モル%とからなり、p−t−ブチルフェノールに由来する末端構造を有するポリカーボネート樹脂100重量部をバインダー樹脂として用い、また、シリコーンオイル0.03重量部をレベリング剤として用い、これら電荷輸送物質、バインダー樹脂及びレベリング剤をテトラヒドロフラン/トルエン(重量比8/2)混合溶媒640重量部に溶解させて電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を、フィルムアプリケーターにより、前記電荷発生層上に乾燥後の膜厚が25μmとなるように塗布し、乾燥させて電荷輸送層を形成して、積層型の電子写真感光体を作製した。
得られた感光体電子写真特性を、感光体評価装置(シンシアー55、ジェンテック社製)を用いて、スタティック方式で測定した。
まず、暗所でスコロトロン帯電器により、電子写真感光体の表面電位が約−700Vになるように放電中の帯電器の下を、一定速度(125mm/sec)で電子写真感光体を通過させて帯電させ、その帯電圧を測定し、初期帯電圧V0(−V)を求めた。その後、2.5秒間放置したときの電位低下DD(V)を測定した。次に、強度0.1μW/cm2の780nm単色光を照射し、感光体表面電位が、−550Vから−275Vになるまでに要した半減露光エネルギーE1/2(μJ/cm2)と、照射10秒後の残留電位Vr(−V)とを求めた。その結果を表6に示した。
<実施例2〜46>
電荷発生物質として、製造例1で得たフタロシアニン組成物の代わりに製造例2〜46それぞれで得たフタロシアニン組成物を用いたほかは、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製し、初期帯電圧V0(−V)、電位低下DD(V)、半減露光エネルギーE1/2(μJ/cm2)及び残留電位Vr(−V)を求めた。結果を表6〜12に示す。
<比較例1〜11>
電荷発生物質として、製造例1で得たフタロシアニン組成物の代わりに比較製造例1〜11それぞれで得たフタロシアニン組成物を用いたほかは、実施例1と同様にして、電子写真感光体を作製し、初期帯電圧V0(−V)、電位低下DD(V)、半減露光エネルギーE1/2(μJ/cm2)及び残留電位Vr(−V)を求めた。結果を表6〜12に示す。
表6は、α型又はβ型のチタニルフタロシアニン(合成例1,7)とテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニン(合成例5)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表7は、α型チタニルフタロシアニン(合成例1)とテトラフルオロクロロインジウムフタロシアニン(合成例6)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表8は、クロロガリウムフタロシアニン(合成例2)とテトラフロオロオキシチタニ
ウムフタロシアニン(合成例4)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表9は、クロロガリウムフタロシアニン(合成例2)とテトラフルオロクロロインジウムフタロシアニン(合成例6)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表10は、クロロインジウムフタロシアニン(合成例3)と、テトラフルオロオキシチタニ
ウムフタロシアニン(合成例4)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表11は、クロロガリウムフタロシアニン(合成例2)とテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニン(合成例5)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表12は、クロロインジウムフタロシアニン(合成例3)とテトラフルオロクロロインジウムフタロシアニン(合成例6)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表6〜12の結果から分かるように、実施例1〜46のフタロシアニン組成物は、比較例1〜11のフタロシアニン結晶及びフタロシアニン組成物よりも、優れた光減衰特性を有することが明らかとなった。以上から、本発明のフタロシアニン組成物は、電子写真感光体の電荷発生物質として用いた場合に、優れた電子写真感光体特性を発揮することが確認された。
IV.環境依存性評価
<実施例47>
実施例2で得られた電子写真感光体を、温度25℃、湿度50%の環境条件下、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置{「続電子写真技術の基礎と応用」、(電子写真学会編、コロナ社発行、第404−405頁記載)}に装着し、電子写真感光体の初期表面電位が−700Vとなるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光とした光を露光光とし、660nmのLED光を除電光として用いて、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の評価を行なった。その際、表面電位が−350Vとなるのに要する露光光の照射エネルギー(μJ/cm2)を感度(25℃/50%)として測定した。
その後、環境条件を温度5℃、湿度10%に変更し、再度上記測定方法と同様の測定を行なうことにより、環境条件変更後の感度(5℃/10%)を得た。そして、感光体使用環境における感度変動率(%)を、下記数式(8)で算出した。感度(25℃/50%)、環境条件変更後の感度(5℃/10%)、及び、感度変動率(%)の値を表13に示す。
数式(8):
感度変動率(%)=感度(25℃/50%)/感度(5℃/10%)×100
<実施例48〜58>
実施例2で得た電子写真感光体の代わりに、実施例6、10、11、12、16、23、37、40、41、43及び45でそれぞれ得た電子写真感光体を用いたほかは、実施例47と同様にして感度(25℃/50%)、環境条件変更後の感度(5℃/10%)、及び感度変動率(%)の値を測定した。結果を表13〜20に示す。
<比較例12〜18>
実施例2で得た電子写真感光体の代わりに、比較例3、4、7、8、9、10及び11でそれぞれ得た電子写真感光体を用いたほかは、実施例47と同様にして感度(25℃/50%)、環境条件変更後の感度(5℃/10%)、及び感度変動率(%)の値を測定した。結果を表13〜20に示す。
表13は、α型チタニルフタロシアニン(合成例1)とテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニン(合成例5)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表14は、β型チタニルフタロシアニン(合成例7)とテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニン(合成例5)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例の結果を示すものである。
表15は、α型チタニルフタロシアニン(合成例1)とテトラフルオロクロロインジウムフタロシアニン(合成例6)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表16は、クロロガリウムフタロシアニン(合成例2)とテトラフロオロオキシチタニ
ウムフタロシアニン(合成例4)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表17は、クロロガリウムフタロシアニン(合成例2)とテトラフルオロクロロインジウムフタロシアニン(合成例6)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表18は、クロロインジウムフタロシアニン(合成例3)と、テトラフルオロオキシチタニ
ウムフタロシアニン(合成例4)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表19は、クロロガリウムフタロシアニン(合成例2)とテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニン(合成例5)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表20は、クロロインジウムフタロシアニン(合成例3)とテトラフルオロクロロインジウムフタロシアニン(合成例6)とを含有する電子写真感光体を作製した実施例と、それに対応する比較例の結果を示すものである。
表13〜20の結果から、実施例2、6、10、11、12、16、23、37、40、41、43及び45で作製した電子写真感光体が、比較例4、7、8、9、10及び11で作製した電子写真感光体よりも、使用環境の変動に対して非常に安定した感度を示すことが明らかとなった。したがって、本発明のフタロシアニン組成物が従来のフタロシアニン組成物よりも環境依存性が小さいことが確認された。
以上、上述した実施例の結果から、その本発明のフタロシアニン組成物は優れた光減衰特性を有し、これらフタロシアニン組成物を用いた電子写真感光体は環境依存特性が優れていることが明らかとなった。
なお、本発明のフタロシアニン組成物は、環境に対して負荷をかけることなく供給できることもその利点のうちの一つである。
V.画像評価
<実施例59>
実施例7で得られた電荷発生層用塗布液を、表面を陽極酸化し、封孔処理を施した直径3.0cm、長さ28.5cm、肉厚1.0mmのアルミニウム製シリンダーに、浸漬塗布し、その乾燥後の膜厚が0.4g/m2(約0.4μm)となるように電荷発生層を設けた。そして、実施例1中で得られた電荷輸送層用塗布液を前記電荷発生層上に浸漬塗布し、乾燥後の膜厚が26μmになるように電荷輸送層を設けることにより、ドラム状の電子写真感光体を作製した。
<比較例19>
実施例1中のフタロシアニン組成物の代わりに、図66で示されるCuKα特性X線(波長1.541Å)に対するブラッグ角(2θ±0.2°)27.2°に主たる回折ピークを有するオキシチタニウムフタロシアニンを用いて、実施例1中に記載の電荷発生層用塗布液の作製方法と同様に操作を行なうことにより、電荷発生層用塗布液を作製した。この塗布液と比較例1で得られた電荷発生層用塗布液とを等量で混合し、表面を陽極酸化し、封孔処理を施した直径3.0cm、長さ28.5cm、肉厚1.0mmのアルミニウム製シリンダーに、浸漬塗布し、その乾燥後の膜厚が0.4g/m2(約0.4μm)となるように電荷発生層を設けた。そして、実施例1中で得られた電荷輸送層用塗布液を前記電荷発生層上に浸漬塗布し、乾燥後の膜厚が26μmになるように電荷輸送層を設けることにより、ドラム状の電子写真感光体を作製した。
<ドラム評価>
前記実施例59及び比較実施例20で得られた各電子写真感光体を、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置(「続電子写真技術の基礎と応用」 電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)に装着し、以下の手順に従って、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の評価を行なった。
温度25℃、湿度50%の環境試験室内で、感光体の初期表面電位が−700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを照射して、表面電位が−350Vとなる時の照射エネルギー(半減露光エネルギー)を感度(E1/2;単位「μJ/cm2」)としてそれぞれ測定した。また、1.2μJ/cm2で露光したときの、100ミリ秒後の露光後表面電位(Vl;単位「−V」)をそれぞれ測定した。
測定結果を、表21に示す。
表21に示す評価結果から、実施例59、比較例19ともに同等の電子写真感光体特性を有することが分かる。
<画像評価結果>
実施例59及び比較実施例29で得られた各電子写真感光体を、市販の4サイクル型カラーレーザープリンター(セイコーエプソン社製 LP2000C)のドラムカートリッジに装着して、マゼンタトナーを用いて、電子写真感光体の1回転目が文字パターン、電子写真感光体の2回転目以降がハーフトーンとなるように構成されたメモリー評価用画像を形成し画像評価を行なった。
その結果、実施例59で作製した電子写真感光体を用いた場合は、メモリーの無い良好な画像が得られたが、比較例19で作製した電子写真感光体を用いた場合、画像欠陥としてポジメモリーとして現れた。
上記画像評価結果から、本発明のフタロシアニン組成物を用いることにより、メモリー現象が発生することない良好な画像の得られるカートリッジ、画像形成装置が提供可能であることが明らかとなった。
[本発明のフッ素置換ガリウムフタロシアニン化合物に対応した実施例]
<製造例47>
4−フルオロフタロニトリル16部、3塩化ガリウム5部、およびα−クロロナフタレン95.5部を混合し、窒素雰囲気下、200℃で15時間反応させた。反応後、析出した固体を濾別し、該固体を室温条件でN−メチルピロリドン46.5部と混合して濾別するという洗浄工程を2回繰り返した。その後、同様の洗浄工程において混合する溶媒を、メタノール35.6部、水45部、メタノール35.6部の順に変更して洗浄し、乾燥したところ、図67に示す粉末X線スペクトルを示す化合物を得た。
なお、粉末X線回折は、以下の条件で行なった。
・粉末X線回折装置:PANalytical PW1700
・X線管球:Cu
・管電圧:40kV
・管電流:30mA
・走査軸:θ/2θ
・測定範囲(2θ):3.0°〜40.0°
・測定モード:Continuous
・読み込み幅:0.05°
・走査速度:3.0°/min
・DS:1°
・SS:1°
・RS:0.20mm
得られた化合物の質量分析(DCI法)から得られた結果は、分子イオンピーク(マイナスイオン)が688ならびに690であり、Ga同位体パターンからも得られた化合物はテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニンであることが分かった。なお、質量スペクトル測定は、以下の条件で行なった。
測定方法:MALDI−TOF−MS測定
装置:Applied Biosystems製 Voyger Elite−DE
測定条件
検出イオン:ネガティブ
測定モード:リフレクターモード
加圧電圧:20kV
マトリックス:無し
得られた化合物のIRスペクトルを図68に示す。
<製造例48>
製造例47において得られたテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニン5部と、直径約1mmの球形ガラスビーズ150部との混合物を、容積250mlのポリエチレン瓶の中に、空間の占める容積が約半分となるように充填し、塗料分散試験器(ペイントシェーカー)により20時間振盪処理し、無定形化した。処理後、ビーズと固体を分離した。固体はメタノール中で30分攪拌後、濾別、乾燥し、図69に示す粉末X線スペクトルを示すテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニンを得た。
<製造例49>
特開平2−308863公報の実施例1において、[I.チタニルフタロシアニンの製造]の項に記載された方法に準拠して製造したα型オキシチタニウムフタロシアニン8部、製造例47で得られたテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニン2部、および直径約1mmのガラスビーズ400部の混合物を、容積250mlのポリエチレン瓶の中に、空間の占める容積が約半分となるように充填し、塗料分散試験器(ペイントシェーカー)によりにより20時間振盪処理し、無定形化した。処理後、得られたフタロシアニン組成物10部に対してメチルエチルケトン80.5部を混合し、4時間攪拌した後にビーズを分離、更にフタロシアニン組成物を濾過し、乾燥して、図70に示す粉末X線スペクトルを示すフタロシアニン組成物を得た。
<製造例50>
製造例49で用いたα型オキシチタニウムフタロシアニン8部の代わりに、特開平5−098181号公報に記載の合成例、および該公報の実施例1に記載の方法に準拠して製造したクロロガリウムフタロシアニン8部を使用し(但し、合成の際使用する溶媒に、1−クロロナフタレンを用いた。)、塗料分散試験器(ペイントシェーカー)処理後に、メチルエチルケトンの代わりにテトラヒドロフラン89部を使用した以外は、製造例49と同様にして、図71に示す粉末X線スペクトルを示すフタロシアニン組成物を得た。
<比較製造例12>
特開平2−289658号公報中の実施例2に記載の方法に準拠し、比較製造例1で製造したα型オキシチタニウムフタロシアニンを処理することにより、図72に示す粉末X線スペクトルを持つD型オキシチタニウムフタロシアニンを得た。
<実施例60>
製造例47で製造したテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニン4部、4−メチル−4メトキシ−2−ペンタノン30部、および1,2−ジメトキシエタン270部を混合し、サンドグラインダーで2時間分散処理をした後、得られた分散液にポリビニルブチラール1部、およびフェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド社製 PKHH)1部を加え、更にサンドグラインダーで1時間分散処理をすることにより、顔料分散液を得た。
この分散液を、膜厚75μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に厚み70nmのアルミ蒸着層を形成した導電性支持体上に、乾燥後の膜厚が0.4μmになるようにワイヤーバーで塗布した後、乾燥して電荷発生層を形成させた。
この電荷発生層上に、下記に示す特開2002−80432号公報の実施例1に記載の方法により製造された電荷輸送材料50部、下記に示すポリカーボネート樹脂100部、テトラヒドロフラン400部、およびトルエン100部と混合して製造した溶液を、乾燥後の膜厚が20μmとなるように塗布して、電荷輸送層を形成させ、電子写真感光体A1を作製した。
<実施例61>
実施例60で使用したテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニンの代わりに、製造例48で得られたテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニンを使用した以外は、実施例60と同様にして、電子写真感光体A2を作製した。
<実施例62>
実施例60で使用したテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニンの代わりに、製造例49で得られたフタロシアニン組成物を使用した以外は、実施例60と同様にして、電子写真感光体A3を作製した。
<実施例63>
実施例60で使用したテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニンの代わりに、製造例50で得られたフタロシアニン組成物を使用した以外は、実施例60と同様にして、電子写真感光体A4を作製した。
<比較例20>
実施例60で使用したテトラフルオロクロロガリウムフタロシアニンの代わりに比較製造例12で製造したオキシチタニウムフタロシアニンを使用した以外は、実施例60と同様にして、比較感光体B1を作製した。
[感光体評価]
実施例および比較例で製造した感光体の、使用環境変動に対する電気特性の変化を測定した。電子写真学会測定標準に従って作製された電子写真特性評価装置(「続電子写真技術の基礎と応用」 電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)を使用し、上記感光体をアルミニウム製ドラムに貼り付けて円筒状にし、アルミニウム製ドラムと感光体のアルミニウム基体との導通を取った上で、ドラムを一定回転数で回転させ、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性評価試験を行なった。その際、初期表面電位を−700Vとし、露光には780nm、除電には660nmの単色光を用いた。露光後の感光体表面電位の露光光量依存性を示す指標として、表面電位を−350Vとするのに要する露光量(以下、半減露光量、またはE1/2と記載することがある)および、−140V(初期帯電電位の1/5)とするのに要する露光量(E1/5と記す)を測定し、それが環境によってどの程度変わるか、その変動率によって評価した。なお露光から電位測定に要する時間を100msとした。
測定環境は、温度25℃、相対湿度50%(以下、N環境と記載することがある)、および温度5℃、相対湿度10%(以下、L環境と記載することがある)で行なった。N環境の感度に対するL環境の感度(半減露光量)の変動割合をΔE1/2(%)、N環境のE1/5に対するL環境のE1/5の変動割合をΔE1/5(%)とし、表22に示す。変動割合の値が小さいほど、環境によって影響を受けにくく、安定した特性を示すと言える。なお、上記ΔE1/2、ΔE1/5は下記の式により算出される。
ΔE1/2:100×[1−{(L環境のE1/2)/(N環境のE1/2)}]の絶対値
ΔE1/5:100×[1−{(L環境のE1/5)/(N環境のE1/5)}]の絶対値
表22の結果から明らかなように、本発明の電子写真感光体は、使用環境が変化しても電気特性の変動が小さく、電気特性のバランスが良い。したがって、繰り返し使用して周囲の温度や湿度が変動しても、感光体としての特性変動が小さく、電子写真感光体として好適である。