JP3724405B2 - コモンモードチョークコイル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願発明は、コイル部品に関し、詳しくは、コモンモードチョークコイルに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のコイル部品として、例えば、図7(a),(b)に示すようなコイル部品(従来技術1)がある(特開平8−203737号)。このコイル部品は、面実装型で、高周波対応のコイル部品であり、積層体51を構成する絶縁体中に、絶縁層を介して対向するように配置された2つのスパイラルコイル52,53を、磁性体基板54,55で挟持するとともに、2つのスパイラルコイル52,53と導通する外部電極(図7(b)では、一方のスパイラルコイル52と導通する外部電極56,57のみを示している)を配設した構造を有しており、小型、低背で、フェライト素体中にコイルを形成した積層型のものに比べてコイルの高周波特性が良好で、磁性体基板の比透磁率のばらつきのインダクタンスへの影響を抑制することが可能であるとともに、コモンモードチョークコイルにおいては良好なコイル間の結合が得られるというような特徴を有している。
【0003】
また、特開平11−54326号には、図8に示すように、下側の磁性体基板54上に、2つのスパイラルコイル52,53が内部に配設された環状の積層体(積層領域)51を形成するとともに、比透磁率が1より大きな接着層(磁性層)58を介して上側に磁性体基板55を配設した構造を有するコイル部品(従来技術2)が開示されている。
【0004】
このコイル部品においては、下側の磁性体基板54上に形成された積層体51の周囲が比透磁率が1より大きな接着層(磁性層)58により覆われていることから、スパイラルコイル52,53で発生した磁力線が、図8に示すような閉磁路を形成し、また、コイルパターンの積層領域を取り囲む部分を除く絶縁層及び接着層58に比透磁率が1より大きな材料が使用されていることから、2つのスパイラルコイル52,53の電磁結合度が向上するとともに、大きなインダクタンスが得られるという特徴を有している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開平8−203737号に開示された従来技術1のコイル部品においては、対応できるインダクタンスの範囲が限られ、小型化を損なうことなく十分に大きなインダクタンスを得ることができないという問題点がある。
【0006】
一方、特開平11−54326号に開示された従来技術2のコイル部品においては、下側の磁性体基板54上に形成された積層体51の周囲を覆うように比透磁率が1より大きな接着層58を配設し、得られるインダクタンスの向上を図っているが、比透磁率が1より大きな接着層58を得ようとすると、接着材料に磁性体を添加したものを用いることが必要となり、さらに大きな効果を得るには多量の磁性体を添加することが必要となる。しかし、接着力を確保しながら十分に大きな透磁率を確保することには限界が有り、それを超えて磁性体の添加量を増加させると接着力が低下して、製品の信頼性が低下するという問題点がある。
また、比透磁率が1より大きな接着層中にコイルの積層領域を配設しているので、磁性層の比透磁率が大きくなると、それに比例してインダクタンスも大きくなることから、磁性層の比透磁率のばらつきのインダクタンスへの影響が大きいという問題点がある。
【0007】
本願発明は、上記問題点を解決するものであり、小型化を妨げることなく大きなインピーダンスを得ることが可能で、信頼性の高いコモンモードチョークコイルを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本願発明(請求項1)のコモンモードチョークコイルは、
第1の磁性体基板と、
絶縁層とコイルパターンを積み重ねることにより形成され、絶縁体中に、絶縁層を介して互いに対向するように2つ以上のスパイラル形状のコイルが配設され、かつ、各コイルの主要部が、絶縁層を介して互いに重なり合うように配設された構造を有する積層体であって、前記第1の磁性体基板上に配設され、少なくとも前記コイルの内周側の略中央部には、上面側から前記第1の磁性体基板にまで到達する少なくとも1つの凹部が配設された積層体と、
前記積層体の上面を覆う磁性層であって、一部が前記積層体に配設された凹部に入り込み、少なくとも1つの凹部において第1の磁性体基板と接するように配設された磁性層と、
前記磁性層上に配設された非磁性で、厚みが1〜5μ m の接着層と、
前記第1の磁性体基板との間に前記積層体を挟持する第2の磁性体基板であって、前記接着層上に配設され、前記接着層を介して前記磁性層に接合された第2の磁性体基板と
を具備することを特徴としている。
【0009】
積層体のコイルパターンが配設されていない部分に、上面側から第1の磁性体基板にまで到達する少なくとも1つの凹部を設けるとともに、積層体上に磁性層を形成し、磁性層の一部を、積層体に形成された凹部に入り込ませるようにしているので、製品の大型化を招くことなく、大きなインピーダンスを得ることが可能になるとともに、磁性層と第2の磁性体基板の間に配設された非磁性の接着層により良好な接着性が確保されるとともに、ごく僅かな厚みではあるが磁性層と第2の磁性体基板の間に非磁性のギャップ部が形成されるため、磁性層に接して第2の磁性体基板を配設した場合に比べて、さらに高周波領域にまでフラットなインダクタンス特性を得ることが可能になる。
【0010】
なお、磁性体の比透磁率のばらつきは、通常±30%以下に抑えることは困難であり、完全な閉磁路構造の場合、その影響が電気的特性のばらつきに大きく影響するが、本願発明のコモンモードチョークコイルにおいては、磁性体基板及び磁性層の比透磁率のばらつきによるインダクタンス値及びインピーダンス値の変動を抑制して、特性のばらつきの少ない高精度のコモンモードチョークコイルを得ることが可能になる。
【0011】
また、積層体内に絶縁層を介して互いに対向するように2つ以上のコイルが配設され、かつ、各コイルの主要部(例えば、コイルの端子電極との接続部を除いた部分など)が、絶縁層を介して互いに重なり合うように配設された構造を有しているので、磁性体基板及び磁性層に磁束を集中させることが可能になるとともに、対向するコイルにおいて発生する共通磁束を強めることが可能になるため、従来のコモンモードチョークコイルに比べて、コイル間の結合度を大きくすることが可能になる。したがって、電気的特性としてディファレンシャルモードのインピーダンスを低く抑えることが可能になり、伝送される信号波形に及ぼす影響を低減することが可能になる。
【0012】
また、本願発明のコモンモードチョークコイルにおいては、コイルをスパイラル形状のものとし、かつ、積層体の上面側から、第1の磁性体基板にまで到達する凹部を、スパイラル形状のコイルの内周側の略中央部に配設するようにしているので、磁性体が配設されたコイルの略中央部を通ってコイルの外周側に至り、再びコイルの内周側に戻る閉磁路が確実に形成される。したがって、本願発明のコモンモードチョークコイルにおいては、コイルの結合度を向上させることが可能になるとともに、大きなインピーダンスを得ることが可能になる。
【0013】
なお、コイルパターン及び/又は絶縁層を、フォトリソグラフィー工法により形成するようにした場合、微細、高精度で、薄型のコイルを形成することが可能になり、効率よくインダクタンス及びインピーダンスを取得することが可能な小型高性能のコモンモードチョークコイルを得ることが可能になる。
【0014】
また、本願発明のコモンモードチョークコイルにおいては、接着層の厚みを1〜5μ m の範囲としているが、これは、接着層の厚みが1μ m 未満になると、大きなインダクタンスを得ることはできるが、積層体及び磁性層の高さのばらつきを吸収することが困難で、接着不良が生じるおそれがあるばかりでなく、膜厚の変動による特性のばらつきへの影響が大きくなり、また、接着層の膜厚を5μ m より大きくすると、接着力は大きくなるが、インダクタンスが低下し、本願発明の構造により得られる効果が不十分になることによる。
【0015】
また、請求項2のコモンモードチョークコイルは、前記第1及び第2の磁性体基板間に配設された磁性層が、比透磁率2〜7のものであることを特徴としている。
【0016】
第1及び第2の磁性体基板間に配設される磁性層に、比透磁率2〜7のものを用いることにより、効率よく大きなインダクタンス及びインピーダンスを取得することが可能になる。
なお、比透磁率が2〜7の磁性層を用いることが好ましいのは、磁性層の比透磁率が2未満の場合、所望のインダクタンスを得ることが困難になるとともに、比透磁率のばらつきによるインダクタンスの変動が大きくなり、また、磁性層の比透磁率が7より大きい場合、インダクタンス増大の効果は得られるが、磁性体(磁性粉)の配合割合(例えば、樹脂への磁性体の添加割合)を著しく大きくすることが必要になり、密着力などの磁性層(膜)として必要な特性を確保することが困難になるためである。
【0017】
また、請求項3のコモンモードチョークコイルは、前記第1及び第2の磁性体基板間の距離が70μm以下であることを特徴としている。
【0018】
本願発明のコモンモードチョークコイルにおいては、第1及び第2の磁性体基板間の距離を70μm以下とすることが望ましいが、これは、第1及び第2の磁性体基板間の距離が70μmを超えると、所望のインダクタンスを得ることが困難になることによる。
【0019】
また、請求項4のコモンモードチョークコイルは、平面的にみた場合における、前記積層体の前記凹部が配設された領域に略対応する前記磁性層と前記接着層の間の領域に、空隙が配設されており、かつ、前記第1の磁性体基板の上面から前記接着層の下面(前記空隙が形成されていない領域の磁性層の上面)までの距離をAとした場合に、空隙の深さBが、0.2A〜0.6Aの範囲にあることを特徴としている。
【0020】
上述のように、磁性層と接着層の間に空隙を設けることにより、積層体の周囲に占める磁性層の割合が減少し、磁性層の比透磁率のばらつきや、積層体の凹部への磁性層の充填状態のばらつきによるインダクタンス値のばらつきが小さくなり、所望のインダクタンス、インピーダンスを精度よく実現することが可能になる。
すなわち、上述のように磁性層と接着層の間に空隙を設けるようにした場合、磁性層を設けてインダクタンス値の増大を図りつつ、磁性層の比透磁率のばらつきや、積層体の凹部への磁性層の充填状態のばらつきのインダクタンス値への影響を空隙により抑制することが可能になり、所望のインダクタンス及びインピーダンスを精度よく確保することができるようになる。
【0021】
また、第1の磁性体基板の上面から接着層の下面(空隙が形成されていない領域の磁性層の上面)までの距離をAとした場合に、空隙の深さBを、0.2A〜0.6Aの範囲とすることにより、インダクタンスの変化率を緩やかにして、ばらつきを低減することが可能になる。
なお、空隙の深さBを、0.2A〜0.6Aの範囲とするのが好ましいのは、空隙の深さBを、0.2A未満とすると、加工のばらつきによるインダクタンスのばらつきが大きくなり、また、空隙の深さBを0.6Aよりも大きくすると、本願発明の構造による効率の良いインダクタンスの取得が困難となることによる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本願発明の実施の形態を示して、その特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0023】
[実施形態1]
図1は本願発明の一実施形態にかかるコモンモードチョークコイルを示す断面図であり、図2はその要部構成を示す分解斜視図である。
【0024】
このコモンモードチョークコイルは、図1,2に示すように、第1の磁性体基板1と、第1の磁性体基板1上に配設された、絶縁体11中に2つのスパイラル形のコイル12,13が絶縁層により電気的に絶縁された状態で配設された積層体10と、積層体10の上面を覆う磁性層20と、磁性層20上に配設された非磁性の接着層30と、接着層30を介して磁性層20に接合され、接着層30及び磁性層20を介して、第1の磁性体基板1との間に積層体10を挟持する第2の磁性体基板2とを備えている。
【0025】
また、このコモンモードチョークコイルは、互いに対向する端面に配設された、コイル12,13の両端側の引出し電極17a,17b,18a,18b(図2)と導通する端子電極(外部電極)3を備えている。なお、図2においては、手前側の端面に形成された端子電極3のみを示している。
【0026】
第1の磁性体基板1上に配設された積層体10は、絶縁層11aとコイルパターン12a,12b,及び13a,13bを積み重ねることにより形成されており、絶縁体11中に、2つコイルパターン12a,12bからなるスパイラル形のコイル12と、2つのコイルパターン13a,13bからなるスパイラル形のコイル13が配設されている。また、積層体10のコイルパターン12a,12b,及び13a,13bが配設されていない絶縁体部分(この実施形態1では、コイル12,13の内周側の略中央部に、上面側から第1の磁性体基板1にまで達する凹部(磁路形成用の穴)14が形成されているとともに、コイル12,13の外周側の両端部にも上面側から第1の磁性体基板1にまで達する凹部(磁路形成用の穴)15,15が配設されている。これにより、図1に示すような閉磁路Mが形成される。
【0027】
また、コイル12を構成する2層のコイルパターン12a,12bは、端子電極3との接続部を除いて、絶縁層11aを介して互いに重なり合うよう略同一のパターンを有しているとともに、コイル13を構成する2層のコイルパターン13a,13bも、端子電極3との接続部を除いて、絶縁層11aを介して互いに重なり合うような略同一のパターンを有しており、さらに、コイルパターン12a,12bと、コイルパターン13a,13bも絶縁層11aを介して互いに重なり合うような略同一のパターンを有している。そして、コイルパターン12a,12bが、所定の位置に配設されたビアホール16aを介して接続されることにより、2層のコイルパターン12a,12bが近接して並列接続された構造を有するコイル12が形成され、コイルパターン13a,13bが、所定の位置に配設されたビアホール16bを介して接続されることにより、2層のコイルパターン13a,13bが近接して並列接続された構造を有するコイル13が形成されている。
【0028】
これにより各コイル12及び13のコイルラインの断面積が2倍になり導体抵抗を低下させることが可能になる。さらに、上下2層のコイルパターン12a,12b、及び13a,13bの形状をほぼ同一とし重ね合わせることで、最上面の絶縁層高さがほぼ均一となり、第1及び第2の磁性体基板1,2の接着の際に、段差が無く、良好な接着を行うことが可能になる。
【0029】
また、上下2層のコイルライン(コイルパターン)12a,12b,及び13a,13bが近接配置されているため、上下2層のコイルライン12a,12b,及び13a,13bが確実に結合し、インダクタンスの低下が抑制される。なお、上下2層のコイルパターン12a,12b、及び13a,13bの間の絶縁層11aの厚み、及びコイル12,13間の絶縁層11aの厚みは、1〜3μmとすることが望ましい。
また、各層間に配設される絶縁層11aの枚数に制約はなく、図2に示すように1枚としてもよく、複数枚としてもよい。また、各絶縁層11aの厚みは、異なっていてもよく、同一であってもよい。
また、コイル12,13を構成するコイルパターンは、2層以上のパターンで構成してもよく、また、1層のパターンで構成してもよい。
【0030】
また、この実施形態1のコモンモードチョークコイルにおいて、積層体10の上面を覆う磁性層20は、その一部が積層体10に配設された凹部14,15に入り込み、第1の磁性体基板1と接している。この実施形態1においては、良好な磁路を形成するために、スパイラル形のコイル12,13の内周側及び外周側の両方に磁路形成用の穴(凹部)14,15を設け、各凹部14,15に磁性層20の一部を入り込ませるようにしているが、コイル12,13の内周側にのみ磁路形成用の穴(14)を形成することによっても、実用上問題のない程度の良好な磁路を形成することが可能である。
【0031】
なお、この実施形態1では、磁性層20として、フェライト微粉60〜70vol%とポリイミド樹脂30〜40vol%を配合した磁性材料が用いられている。磁性材料として、ポリイミド樹脂とフェライト微粉を配合した材料を用いることにより、耐熱性に優れ、かつ、絶縁層11aとの密着性の良好な磁性層20を形成することができる。
また、この実施形態1では、接着層30を、磁性層20と第2の磁性体基板2の対向面の略全面に設けるようにしているが、接着層30を、磁性層20と第2の磁性体基板2の対向面の全面に設けるのではなく、部分的に設ける(例えば、第2の磁性体基板2の周縁部に対応する領域のみに設けたり、斑点状に設けたりする)ことも可能である。
また、添加するフェライト微粉としては、積層体10に損傷を与えないように、できるだけ微細なものを用いることが好ましく、最大粒径が3μm以下のものを用いることが望ましい。なお、磁性材料を構成する樹脂材料としては、ポリイミド樹脂に限らず、その他の種々の樹脂材料を用いることが可能であり、さらには、ガラスなどを用いることも可能である。
【0032】
また、磁性層20上に配設された非磁性の接着層30は、磁性層20と第2の磁性体板2を接着する機能を果たすとともに、磁性層20と第2の磁性体基板2の間に配設された非磁性のギャップ部としての機能を果たすように構成されており、磁性層20に接して第2の磁性体基板2を配設した場合に比べて、さらに高周波領域にまでフラットなインダクタンス特性が得られるように構成されている。なお、この実施形態1では、接着層30に、熱可塑性のポリイミド樹脂が用いられている。
【0033】
また、上記の第1の磁性体基板1及び第2の磁性体基板2は、内部に2つのコイル12,13が配設された積層体10及び磁性層20を挟持する機能を果たすものであり、この実施形態1では、第1及び第2の磁性体基板1,2として、高周波特性の良好なフェライト基板が用いられている。また、磁性体基板1,2としては、フォトリソグラフィー工法により、その上に絶縁層11a、コイルパターン12a,12b,13a,13bなどを形成する際に支障がないように、表面粗さRaが0.5μm以下になるように研磨されたものを用いることが望ましい。
【0034】
また、コイルパターン12a,12b,13a,13b、及び引出し電極17a,17b,18a,18bの構成材料(電極材料)としては、導電性に優れたAg、Pd、Cu、Alなどの金属あるいはこれらの合金を用いることが望ましい。なお、この実施形態1では、Ag電極を使用している。
【0035】
また、絶縁層11aとしては、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂などの種々の樹脂材料、あるいはSiO2などのガラス、ガラスセラミクスなどを用いることが可能である。また、フォトリソグラフィー工法を用いる場合には、各材料として感光性機能を付加した材料が用いられる。また、絶縁層11aの構成材料としては、その目的により複数材料を組み合わせたものを使用してもよい。なお、この実施形態1では、絶縁層11aを構成する絶縁材料として、感光性ポリイミド樹脂を使用している。
【0036】
また、コイルパターンなどを構成する電極材料と、絶縁層を構成する絶縁材料の組合せは、加工性・密着性などを考慮して選択することが望ましい。
【0037】
次に、上述のように構成されたコモンモードチョークコイルの製造方法について説明する。
なお、以下では、1つのコモンモードチョークコイルを製造する場合を例にとって説明するが、通常は、マザー基板上に多数個分の素子を形成した後、所定の位置で切断して、個々のコモンモードチョークコイルに分割することにより、多数個のコモンモードチョークコイルを同時に製造する方法が適用される。
【0038】
(1)まず、第1の磁性体基板1上に所望のコイル(回路)12,13が得られるように絶縁層11a及びスパイラル形状のコイルパターン12a,12b,13a,13b、引出し電極17a,17b,18a,18bなどからなる電極層を積層することにより積層体10を形成する。
なお、各絶縁層11aには、第1の磁性体基板1と、後の工程で形成される磁性層20とを接続して磁路を形成するための磁路形成用の穴(凹部)14,15を、フォトリソグラフィー工法により形成しておく。
また、所定の絶縁層11aには、コイル12を構成する2層のコイルパターン12a,12bを形成するとともに、コイル13を構成する2層のコイルパターン13a,13bを電気的接続するためのビアホール16a,16bを形成しておく。なお、この実施形態1では、図2の下から2層目及び4層目の絶縁層11aに上下のコイルパターン12a,13aを接続するためのビアホール16a,16bを形成している。
上述のように、2層のコイルパターン12a,12b,及び13a,13bをビアホール16a,16bを介して電気的接続することにより形成されたコイル12,13の外周側の一端は引出し電極17a,18aに接続され、積層体10の互いに対向する一端面に引き出されるとともに、スパイラル形のコイル12,13の内周側の略中央に位置する他端は、絶縁層11aのビアホール16a,16bを介して上層のコイルパターン12b及び13bから引き出した引出し電極17b及び18bに接続され、積層体10の互いに対向する一端面に引き出される。
【0039】
(2)次に、積層体10の上面に、磁性層20を形成するための磁性材料(ポリイミド樹脂にフェライト微粉を添加してなる、比透磁率が2〜7の範囲の材料)を印刷工法により塗布し、積層体10の上面を覆うとともに、磁性層20の一部を積層体10に配設された凹部14,15に充填する。なお、磁性材料の凹部14,15への充填は、印刷と乾燥を2〜4回程度繰り返すことにより確実に行うことができる。これにより、積層体10が、第1の磁性体基板1と磁性層20により覆われ、かつ、凹部14,15に入り込んだ磁性層20が、第1の磁性体基板1と接続した構造が形成される。
なお、磁性層20を印刷工法によって塗布することにより、磁路形成用の穴(凹部)14,15に、確実に磁性層20の一部(磁性材料)を充填することができる。
【0040】
(3)上述のようにして磁性層20を形成した後、第2の磁性体基板2の表面(接合後に下面となる面)に、精度よく所望の塗膜厚を得ることが可能なスピンコート工法により、厚み2〜3μm、ばらつき±1μmの条件で、接着材(熱可塑性のポリイミド樹脂)を塗布して接着層30を形成する。そして、この接着層30を介して、磁性層20の上面に第2の磁性体基板2を接合する。これにより、積層体10が、接着層30及び磁性層20を介して、第1及び第2の磁性体基板1,2によって挟持された構造を有する接合構造体が形成される。
なお、この実施形態1では、第2の磁性体基板2を接着層30を介して磁性層20に接合した後、不活性ガス雰囲気もしくは真空中にて加熱、加圧し、冷却後、圧力を解除することにより、第2の磁性体基板2を接着層30を介して磁性層20に固着させた。
また、第2の磁性体基板2を磁性層20に接合するにあたっては、第2の磁性体基板2の表面(接合後に下面となる面)と磁性層20の表面の両方に接着材を塗布するように構成することも可能である。
【0041】
なお、マザー基板から、多数個の素子に分割する、いわゆる多数個取りの製造方法の場合には、この時点で、ダイシングなどの方法により、接合構造体を所定の位置で切断して、個々の素子に分割する。
【0042】
(4)次いで、コイル12,13から引き出された引出し電極17a,17b,18a,18bと導通する端子電極(外部電極)3(図2)を素子の端面に形成することにより、図1,2に示すようなコモンモードチョークコイルが形成される。
【0043】
上述のように構成されたコモンモードチョークコイルは、第1の磁性体基板1上に、フォトリソグラフィー工法により形成された、微細、高精度で、薄型のコイル回路(積層体)10の周囲を、その上面側及び上記凹部14,15に配設された磁性層20により覆い、かつ、磁性層20上に接着層30を介して第2の磁性体基板2を配設することにより、閉磁路M(図1)を形成するようにしているので、回路の磁気抵抗を低下させて、効率よくインダクタンス及びインピーダンスを取得することが可能になり、製品の小型化を図ることが可能になる。
【0044】
また、この実施形態1のコモンモードチョークコイルにおいては、第1及び第2の磁性体基板1,2及び磁性層に磁束が集中し、対向するコイル12,13の発生する共通磁束が強まるため、従来のコモンモードチョークコイルに比べて、コイル間の結合度を向上させることが可能になる。そして、その結果、電気的特性として、ディファレンシャルモードのインピーダンスを低く抑えることが可能になり、伝送する信号波形に及ぼす影響を低減することが可能になる。
【0045】
そして、この実施形態1のコモンモードチョークコイルでは、磁性層20とその上面側に配設される第2の磁性体基板2の間に非磁性の接着層30を設けるようにしているので、良好な接着性が確保されるとともに、ごく僅かではあるが非磁性のギャップ部が形成されることから、磁性体材料本来の周波数特性に比べ、高周波領域までフラットなインダクタンス特性を得ることが可能になる。さらに、第1及び第2の磁性体基板1,2、及び磁性層20の比透磁率のばらつきによるインダクタンス値、及びインピーダンス値の変動が抑制され、さらに良好な特性を得ることが可能になる。
【0046】
なお、図3に、接着層の膜厚とインダクタンスの変化率の関係を示す。なお、図3のインダクタンスの変化率は、接着層を設けていない場合(接着層の厚み=0)を基準とした値である。
接着層の膜厚が1μm未満の場合、膜厚によるインダクタンス値の変化率が大きくなるため、接着層の膜厚は1μm以上であることが望ましい。また、接着層の膜厚が1μm未満になると、第2の磁性体基板の磁性層への接着力が不十分になるので、接着力の見地からも接着層の膜厚は1μm以上であることが望ましい。
また、接着層の膜厚とインダクタンス値の関係を調べたところ、接着層の膜厚が5μmより大きくなると、十分な接着力を得ることはできるものの、インダクタンス値が低下するので望ましくない。
【0047】
また、図4に磁性層の比透磁率とインダクタンスの変化率の関係を示す。図4に示すように、磁性層の比透磁率が2未満の場合、インダクタンスの変化率が大きくなることから、磁性層の比透磁率は2以上であることが望ましい。また、磁性層の比透磁率が7より大きくなると、インダクタンスは大きくなるが、磁性体(磁性粉)の配合割合(例えば、磁性体の樹脂への添加割合)を著しく大きくすることが必要になり、密着力などの磁性層(膜)の特性が低下するため、好ましくない。
【0048】
なお、この実施形態1の構造のコモンモードチョークコイルにおいては、図7(a),(b)に示すような構造の従来のコモンモードチョークコイル(従来技術1)に比べて、同一形状(平面形状1.6mm×1.6mmサイズ)で、約1.6倍のインダクタンスを取得できることが確認されている(ただし、磁性層の比透磁率=5の場合)。
【0049】
[実施形態2]
図5は、本願発明の他の実施形態(実施形態2)にかかるコモンモードチョークコイルを示す断面図である。
【0050】
この実施形態2のコモンモードチョークコイルにおいては、積層体10を平面的にみた場合における、積層体10の上面側から第1の磁性体基板1にまで到達する凹部14,15が配設された領域の、磁性層20と接着層30の間に空隙40が配設されている。
なお、この実施形態2のコモンモードチョークコイルの基本的構成は、上述の実施形態1のコモンモードチョークコイルの場合と同様であることから、重複を避けるため、ここではその説明を省略する。また、図5のコモンモードチョークコイルにおいて、図1及び2と同一符号を付した部分は、同一又は相当する部分を示している。
【0051】
このコモンモードチョークコイルにおいては、磁性層20と接着層30の間に空隙40を設けるようにしているので、積層体10の周囲に占める磁性層20の割合が減少し、磁性層20の比透磁率のばらつきや、積層体10の凹部14への磁性層20の充填状態のばらつきによるインダクタンスのばらつきが小さくなり、所望のインダクタンス、インピーダンスを精度よく実現することができる。
なお、この実施形態2のコモンモードチョークコイルは、上記実施形態1のコモンモードチョークコイルの場合と同様の方法により製造することが可能である。
この実施形態2でも、接着層30を、磁性層20と第2の磁性体基板2の対向面の略全面に設けるようにしているが、接着層30を、磁性層20と第2の磁性体基板2の対向面の略全面に設けるのではなく、例えば、磁性層20と第2の磁性体基板2の間の、空隙40の設けられていない領域に設けたり、空隙40の内周面にのみ設けたりすることも可能である。また、接着層30を、第2の磁性体基板2の周縁部に対応する領域のみに設けたり、あるいは斑点状に設けたりすることも可能である。
【0052】
磁性層20と接着層30の間に空隙40が確保されるようにするための方法としては、例えば、積層体10の上面から磁性層20を形成するための磁性材料を印刷工法により塗布する際に、積層体10に配設された凹部14に磁性材料が完全に充填されずに、磁性材料が塗布される他の領域よりも塗布表面が低くなる(くぼんだ状態になる)ように塗布しておき、表面(下面)に接着層30を形成した第2の磁性体基板2を、接着層30を介して、磁性層20の上面に接合する方法などが例示される。
【0053】
なお、磁性層20と接着層30の間の空隙の深さとインダクタンスの変化率の関係を図6に示す。
ただし、図6では、磁性層20の厚み(第1の磁性体基板1の上面から接着層30の下面(すなわち、空隙40が形成されていない領域の磁性層20の上面)までの距離)Aに対する空隙40の深さBの比率(B/A)とインダクタンスの変化率との関係を示している。
【0054】
図6に示すように、磁性層20の厚みAに対する空隙40の深さBの比率(B/A)が0.2未満になると、インダクタンスの変化率が大きくなり、好ましくないことがわかる。
なお、磁性層20の厚みAに対する空隙40の深さBの比率(B/A)を0.6よりも大きくすると、本願発明の構造による効率の良いインダクタンスの取得が困難となる。
したがって、磁性層20の厚みAに対する空隙40の深さBの比率(B/A)は0.2〜0.6の範囲とすることが望ましい。
【0055】
本願発明は、さらにその他の点においても上記実施形態1,2に限定されるものではなく、第1及び第2の磁性体基板の構成材料や具体的な形状、絶縁層の構成材料や厚み、コイルパターンの具体的な形状や構成材料、コイルパターン及び絶縁層の積層数、コイルの引き出し位置、磁性層の構成材料、積層体及び積層体に形成された凹部の具体的な形状、配設位置、配設数、非磁性の接着層の構成材料や厚みなどに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【0056】
【発明の効果】
上述のように、本願発明(請求項1)のコモンモードチョークコイルは、積層体のコイルパターンが配設されていない部分に、上面側から第1の磁性体基板にまで到達する少なくとも1つの凹部を設けるとともに、積層体上に磁性層を形成し、磁性層の一部を、積層体に形成された凹部に入り込ませるようにしているので、製品の大型化を招くことなく、大きなインピーダンスを得ることが可能になるとともに、磁性層と第2の磁性体基板の間に配設された非磁性の接着層により良好な接着性が確保されるとともに、ごく僅かな厚みではあるが磁性層と第2の磁性体基板の間に非磁性のギャップ部が形成されるため、磁性層に接して第2の磁性体基板を配設した場合に比べて、さらに高周波領域にまでフラットなインダクタンス特性を得ることができる。
【0057】
また、積層体内に絶縁層を介して互いに対向するように2つ以上のコイルが配設され、かつ、各コイルの主要部(例えば、コイルの端子電極との接続部を除いた部分など)が、絶縁層を介して互いに重なり合うように配設された構造を有しているので、磁性体基板及び磁性層に磁束を集中させることが可能になるとともに、対向するコイルにおいて発生する共通磁束を強めることが可能になるため、従来のコモンモードチョークコイルに比べて、コイル間の結合度を大きくすることが可能になる。したがって、電気的特性としてディファレンシャルモードのインピーダンスを低く抑えることが可能になり、伝送される信号波形に及ぼす影響を低減することができるようになる。
【0058】
また、コイルをスパイラル形状のものとし、かつ、積層体の上面側から、第1の磁性体基板にまで到達する凹部を、スパイラル形状のコイルの内周側の略中央部に配設するようにしているので、磁性体が配設されたコイルの略中央部を通ってコイルの外周側に至り、再びコイルの内周側に戻る閉磁路が確実に形成される。したがって、本願発明のコモンモードチョークコイルにおいては、コイルの結合度を向上させることが可能になるとともに、大きなインピーダンスを得ることができるようになる。
【0059】
また、接着層の厚みを1〜5μ m としているので、十分なインダクタンスを確保することが可能で、しかも十分な信頼性を備えたコモンモードチョークコイルを得ることが可能になる。
【0060】
また、請求項2のコモンモードチョークコイルのように、第1及び第2の磁性体基板間に配設される磁性層に、比透磁率2〜7のものを用いるようにした場合、効率よく大きなインダクタンス及びインピーダンスを取得することが可能になる。
【0061】
また、請求項3のコモンモードチョークコイルのように、第1の磁性体基板と第2の磁性体基板の間の距離を70μm以下とすることにより、十分なインダクタンスを有するコモンモードチョークコイルを得ることが可能になる。
【0062】
また、請求項4のコモンモードチョークコイルのように、磁性層と接着層の間の所定の領域に空隙を設けるようにした場合、積層体の周囲に占める磁性層の割合が減少し、磁性層の比透磁率のばらつきや、積層体の凹部への磁性層の充填状態のばらつきによるインダクタンス値のばらつきが小さくなり、所望のインダクタンス、インピーダンスを精度よく実現することができる。
すなわち、上述のように磁性層と接着層の間の所定の領域に空隙を設けるようにした場合、磁性層を設けてインダクタンス値の増大を図りつつ、磁性層の比透磁率のばらつきや、積層体の凹部への磁性層の充填状態のばらつきのインダクタンス値への影響を空隙により抑制することが可能になり、所望のインダクタンス及びインピーダンスを精度よく確保することができる。
【0063】
また、第1の磁性体基板と磁性層の上面との距離をAとした場合に、上記空隙の深さBを、0.2A〜0.6Aの範囲とすることにより、インダクタンスの変化率を緩やかにして、ばらつきを低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本願発明の一実施形態(実施形態1)にかかるコモンモードチョークコイルを示す断面図である。
【図2】 本願発明の一実施形態(実施形態1)にかかるコモンモードチョークコイルの要部構成を示す分解斜視図である。
【図3】 本願発明の一実施形態(実施形態1)にかかるコモンモードチョークコイルにおける接着層の膜厚とインダクタンスの変化率の関係を示す図である。
【図4】 本願発明の一実施形態(実施形態1)にかかるコモンモードチョークコイルにおける磁性層の比透磁率とインダクタンスの変化率の関係を示す図である。
【図5】 本願発明の他の実施形態(実施形態2)にかかるコモンモードチョークコイルを示す断面図である。
【図6】 本願発明の他の実施形態(実施形態2)にかかるコモンモードチョークコイルにおける磁性層と接着層の間の空隙の深さとインダクタンスの変化率の関係を示す図である。
【図7】 従来のコイル部品(コモンモードチョークコイル)を示す図であり、(a)は要部構成を示す分解斜視図、(b)は断面図である。
【図8】 従来の他のコイル部品(コモンモードチョークコイル)の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
1 第1の磁性体基板
2 第2の磁性体基板
3 端子電極(外部電極)
10 積層体
11 絶縁体
11a 絶縁層
12,13 コイル
12a,12b,13a,13b コイルパターン
14,15 凹部
16a,16b ビアホール
17a,17b,18a,18b 引出し電極
20 磁性層
30 接着層
40 空隙
A 磁性層の厚み
B 空隙の深さ
M 閉磁路
Claims (4)
- 第1の磁性体基板と、
絶縁層とコイルパターンを積み重ねることにより形成され、絶縁体中に、絶縁層を介して互いに対向するように2つ以上のスパイラル形状のコイルが配設され、かつ、各コイルの主要部が、絶縁層を介して互いに重なり合うように配設された構造を有する積層体であって、前記第1の磁性体基板上に配設され、少なくとも前記コイルの内周側の略中央部には、上面側から前記第1の磁性体基板にまで到達する少なくとも1つの凹部が配設された積層体と、
前記積層体の上面を覆う磁性層であって、一部が前記積層体に配設された凹部に入り込み、少なくとも1つの凹部において第1の磁性体基板と接するように配設された磁性層と、
前記磁性層上に配設された非磁性で、厚みが1〜5μ m の接着層と、
前記第1の磁性体基板との間に前記積層体を挟持する第2の磁性体基板であって、前記接着層上に配設され、前記接着層を介して前記磁性層に接合された第2の磁性体基板と
を具備することを特徴とするコモンモードチョークコイル。 - 前記第1及び第2の磁性体基板間に配設された磁性層が、比透磁率2〜7のものであることを特徴とする請求項1記載のコモンモードチョークコイル。
- 前記第1及び第2の磁性体基板間の距離が70μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のコモンモードチョークコイル。
- 平面的にみた場合における、前記積層体の前記凹部が配設された領域に略対応する前記磁性層と前記接着層の間の領域に、空隙が配設されており、かつ、前記第1の磁性体基板の上面から前記接着層の下面(前記空隙が形成されていない領域の磁性層の上面)までの距離をAとした場合に、空隙の深さBが、0.2A〜0.6Aの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコモンモードチョークコイル。
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