JP4043296B2 - 全固体電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、全固体電池に関し、特にその製造工程が基板を酸化雰囲気中で高温で熱処理する工程を有する薄膜型全固体電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気化学装置には、電池、キャパシタ、エレクトロクロミック素子といったものが含まれるが、これらはイオンを電荷担体とするイオニクス装置である。従来、これらのイオニクス装置では、イオンを移動させる媒体として、水、有機溶媒といった液体が用いられている。
【0003】
イオニクス装置の一例として電池を挙げると、近年の携帯電話をはじめとする機器の小型化・高性能化に伴い、その電源である電池に対する要望が高まり、なかでも高エネルギー密度であるリチウムイオン電池の研究開発・商品化が急速に進んでいる。しかしながら、リチウムイオン電池には、イオンを移動させる媒体として有機溶媒が用いられていることから、少なからず漏液の可能性がある。さらに、有機溶媒は可燃性であるため、漏液した際に引火の恐れもある。これらの信頼性に関わる問題を解決するために、リチウム電池の全固体化の研究が進められている。たとえば高分子固体電解質を用いた全固体電池は、特開2000−251939号公報に、無機固体電解質を用いた全固体電池は、特開昭60―257073号公報や特開平10―247516号公報等に開示がある。
【0004】
近年では、これら全固体電池の薄膜化の検討も多くなされるようになってきているが、その製造法には、スパッタ法、イオンプレーティング法、蒸着法といった真空薄膜プロセスが多く採用されている(米国特許第5338625号、米国特許第5141614号等)。しかしながら、これらに開示された薄膜全固体電池は、特に正極活物質にコバルト酸リチウムを用いた場合には、薄膜形成後、大気中もしくは酸素雰囲気中で熱処理を行い、活物質の結晶性を高める必要があることから、基板として、耐熱性の高い石英、アルミナ、シリコンウェハー、サファイア等が用いられている。しかし、これらの基板は厚く、硬いものである。電池は体積でエネルギー密度が決定されてしまうため、薄膜、小面積の単セルで電池を構成した場合には、基板が電池に占める割合が大きくなり、エネルギー密度を十分に確保することが困難である。
【0005】
このような問題を解決し、高容量化あるいは高電圧化を図るべく、同一基板内に、マスクを用いたパターニングにより、複数の固体電解質電池を形成し、これらを直列または並列に接続することが提案されている(特開昭61−165965号公報)。また、外装体を兼ねる正極集電体と負極集電体を相対向させ、それらの間に正極活物質、固体電解質および負極活物質を配すると共に、該集電体の周縁域を熱接着性樹脂枠体で互いに接着し、該周縁域の外側に該枠体をはみ出させた薄形電池を複数個積層し、前記枠体のはみ出た部分同士を接着して一体化すること(特開平08−064213号公報)が提案されている。
【0006】
また、石英、アルミナ、シリコンウェハー、サファイア等が高価であることから、安価な金属板を基板に用いるために、金属板を酸化チタン、酸化ジルコニウムといった金属酸化物で被覆して、基板を酸素から保護することが提案されている(米国特許第6280875号)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、金属酸化物は、正極活物質の結晶性を高めるために必要な600℃から1000℃といった高温下では、基板を酸素から保護するのに充分な層を形成しない。
【0008】
一般的に金属酸化物は、酸化物イオンを通す性質があり、高温になるほど酸化物イオンを通しやすくなる。例えばZrO2にわずかにY23あるいはCaO、Gd23等を添加した場合に、酸化物イオン導電性は10-3から10-2S/cm程度になる。したがって、高温での正極活物質のアニール時に、基板を保護するために金属酸化物層で基板を被覆した場合であっても、酸素が基板に到達しうる。基板が銅のように酸化されやすい材質である場合には、酸化され脆化し、基板形状が維持できなくなる。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解決するために成されたものであり、正極集電体層、前記正極集電体層と接する正極活物質層、負極集電体層、前記負極集電体層と接する負極活物質層、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在する固体電解質層、前記正極集電体層または前記負極集電体層と接する基板からなる全固体電池であって、前記基板が、金属シートおよび前記金属シートの表面に設けられた被覆層からなり、前記被覆層が、少なくとも一層の金属窒化物層からなる全固体電池に関する。
【0010】
前記被覆層は、金属窒化物層に加え、さらに金属酸化物層を少なくとも一層含むことができる。
前記被覆層は、金属窒化物層に加え、さらに金属オキシニトリド化物層を少なくとも一層含むことができる。
前記被覆層は、金属窒化物層に加え、さらに金属酸化物層および金属オキシニトリド化物層をそれぞれ少なくとも一層ずつ含むことができる。
【0011】
前記金属窒化物層は、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素および窒化ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。
前記金属酸化物層は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。
【0012】
前記金属オキシニトリド化物層は、オキシニトリドアルミニウム、オキシニトリドケイ素およびオキシニトリドジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種からなることが好ましい。
前記金属シートは、銅、ニッケル、鉄、銅合金、ニッケル合金、鉄合金またはステンレス鋼からなることが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明は、基板の保護のために、酸化物イオン導電性がなく、高温安定性に優れる金属窒化物層を少なくとも一層含む被覆層を、基板表面に設けた点に主要な特徴を有する。この金属窒化物層によって、被覆層の酸素透過が抑制され、基板の酸化による脆化を防ぐことができる。
【0014】
被覆層を設ける基板には、金属シートが用いられる。金属シートには金属箔と金属板とが含まれる。金属シートの厚さは、0.5〜300μmであることが好ましい。金属シートには、銅、ニッケル、鉄、これらを主体とする合金、ステンレス鋼等が好ましく用いられる。エネルギー密度を高める観点からは基板は薄い方が好ましく、特に銅箔、ステンレス鋼箔が好ましく用いられる。
【0015】
金属窒化物層を形成する金属窒化物としては、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、窒化タンタル、窒化バナジウム等が好ましく用いられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらは、金属窒化物層において部分的に他の元素と化合物や合金を形成していてもよい。これらのうちでは、特に高温での安定性に優れることから、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素および窒化ジルコニウムが好ましい。
【0016】
金属窒化物層の厚さは、0.1〜5μmである。金属窒化物層が薄過ぎると、基板の酸化による脆化を十分に防ぐことができず、厚すぎると、電池のエネルギー密度が小さくなる。
【0017】
前記被覆層は、金属窒化物層単独からなる場合でも、基板の酸化による脆化を防ぐことができるが、金属酸化物層および金属オキシニトリド化物層より選ばれる少なくとも1種と組み合わせて用いることが好ましい。
金属窒化物層に加えて前記被覆層に金属酸化物層を含ませることにより、被覆層の絶縁性を高める効果がある。また、金属窒化物層に加えて前記被覆層に金属オキシニトリド化物層を含ませることにより、耐ガス透過性および耐水蒸気透過性を高める効果がある。
【0018】
金属酸化物層を形成する金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化セリウム、酸化コバルト、酸化クロム、酸化銅、酸化鉄、酸化ガリウム、酸化ハフニウム、酸化ホロニウム、酸化インジウム、酸化ランタン、酸化ニオブ、酸化スズ、酸化タリウム、酸化タングステン等が好ましく用いられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらは、金属酸化物層において部分的に他の元素と化合物や合金を形成していてもよい。これらのうちでは、特に高温での安定性に優れ、電子伝導性を有さないことから、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムが好ましい。
【0019】
金属酸化物層の厚さは、0.1〜5μmであることが好ましい。金属酸化物層が薄過ぎると、被覆層の絶縁性を高める効果が小さくなり、厚すぎると、電池のエネルギー密度が小さくなる。
【0020】
金属オキシニトリド化物層を形成する金属オキシニトリド化物としては、オキシニトリドアルミニウム、オキシニトリドケイ素、オキシニトリドジルコニウム等が好ましく用いられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらは、金属オキシニトリド化物層において部分的に他の元素と化合物や合金を形成していてもよい。
【0021】
金属オキシニトリド化物層の厚さは、0.1〜5μmであることが好ましい。金属オキシニトリド化物層が薄過ぎると、耐ガス透過性および耐水蒸気透過性を高める効果の向上が小さくなり、厚すぎると、電池のエネルギー密度が小さくなる。
【0022】
被覆層となるこれらの層は、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法、熱蒸着法、ゾル−ゲル法、めっき法等で作製することが可能である。これらの作製方法の詳細は当業者に公知である。
【0023】
基板上に金属窒化物層を含む2層からなる被覆層を形成する場合、始めに基板上に金属窒化物層を設け、その金属窒化物層上に金属酸化物層もしくは金属オキシニトリド化物層を設けることが、基板に酸素が到達するのを抑止する効果が高い点で好ましい。
【0024】
基板上に金属窒化物層を含む3層以上からなる被覆層を形成する場合、少なくとも1層の金属窒化物層があれば、基板の酸化による脆化を抑止することが可能であるが、連続させずに金属窒化物層を複数層設けることが好ましい。この場合も、始めに基板上に金属窒化物層を設けることが好ましい。
【0025】
次に、本発明にかかる全固体電池の一例である全固体リチウム電池の製造法について図1〜4を参照しながら説明する。図1は、本発明に用いる基板の一例の縦断面図であり、図2は、本発明に用いる基板の他の一例の縦断面図である。図3(a)は、本発明にかかる全固体リチウム電池の単電池の上面図であり、図3(b)は、そのI−I線断面図である。図4は、前記単電池を複数積層して形成された積層型全固体リチウム電池の縦断面図である。
【0026】
(i)基板調製
金属窒化物層2は、図1に示すように、金属シート1の表裏全面に形成することが好ましい。絶縁性をより高める必要がある場合には、金属窒化物層2の上に、さらに金属酸化物層3を形成する。後工程における熱処理時間が長い場合や、熱処理雰囲気の酸素濃度が高い場合には、図2に示すように、層3の上に、さらに第2の金属窒化物層4、第2の金属酸化物層5を順に繰り返し形成することが好ましい。なお、金属酸化物層に替えて、金属オキシニトリド化物層を形成することも可能であるし、金属窒化物層上に金属酸化物層と金属オキシニトリド化物層を任意の順に形成することも可能である。
【0027】
(ii)正極集電体層の形成
上記で作製した基板上に、正極集電体層6を形成する。正極集電体層は、図3(a)、(b)に示すように基板の縁部まで引き出して、正極端子接続部6aを設けておく。正極集電体層に用いる材料としては、金、白金、チタン、クロム、コバルト、銅、鉄、アルミニウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウム−酸化スズ(ITO)等、電子伝導性を有するものを用いることができる。後工程における熱処理時間が長い場合や、熱処理雰囲気の酸素濃度が高い場合には、特に金、白金、酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウム−酸化スズを用いることが好ましい。
正極集電体の厚さは、一般に0.1〜5μmであるが、これに限定されるわけではない。
【0028】
(iii)正極活物質層の形成
正極集電体層6の上には、正極活物質層7を形成する。正極活物質層に用いる材料としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、あるいはこれらの化合物の遷移金属を他の元素でわずかに置換したもの、リン酸鉄リチウム、リン酸コバルトリチウム、酸化バナジウム等を用いることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、特にコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、あるいはこれらの化合物の遷移金属を他の元素でわずかに置換したものを用いることが好ましい。また、優れた電気化学特性を得るためには、正極活物質層を形成した後、酸素を含む雰囲気中で600〜1000℃で0.5〜24時間、正極活物質層をアニールして、その結晶性を高めることが求められる。
正極活物質層の厚さは、一般に0.1〜5μmであるが、これに限定されるわけではない。
【0029】
(iv)固体電解質層の形成
正極活物質層7上には、固体電解質層8を形成する。固体電解質層に用いる材料としては、Li3.3PO3.80.22に代表されるLi3PO4に窒素をドープしたもの、Li3PO4−Li4SiO4、Li2O−SiO2、Li2O−P25、Li2O−B23、Li2O−GeO2、Li2S−SiS2、Li2S−P25、Li2S−B23、Li2S−GeS2等が用いられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらにLiI等のハロゲン化リチウム、Li3PO4、LiPO3、Li4SiO4、Li2SiO3、LiBO2等のリチウム酸素酸塩等を添加したものを用いることもできる。反応面積を拡大するために、固体電解質層8は、正極活物質層7を完全に被覆するように形成することが好ましい。
固体電解質層の厚さは、一般に0.1〜3μmであるが、これに限定されるわけではない。
【0030】
(v)負極活物質層の形成
負極活物質層9は、固体電解質層8を介して正極活物質層7に対峙するように形成する。負極活物質層9は、上面から見た場合に、正極活物質層7より大きく、固体電解質層8よりも小さくすることが、負極活物質層上の電流密度を低減させることになり、負極活物質層上へのリチウムデンドライトの発生が抑制され、短絡を防ぐことができる点で好ましい。
負極活物質層に用いる材料としては、金属リチウム、グラファイト、炭素材料、チタン酸リチウム、硫化チタン、Li2.6Co0.4Nに代表されるリチウム窒化物、Li4.4Si、リチウムを容易に吸蔵・放出する合金等を用いることができる。
負極活物質層の厚さは、一般に0.1〜5μmであるが、これに限定されるわけではない。
【0031】
(vi)負極集電体層の形成
負極活物質層9の上には、負極集電体層10を形成する。負極集電体層は、図3(a)に示すように基板の正極端子接続部6aとは反対方向の縁部まで引き出して、負極端子接続部10aを設けておく。負極集電体層に用いる材料としては、金、白金、チタン、クロム、コバルト、酸化インジウム、酸化スズ、ITO等を用いることができる。後工程における熱処理時間が長い場合や、熱処理雰囲気の酸素濃度が高い場合には、特に金、白金、酸化インジウム、酸化スズ、ITOを用いることが好ましい。
負極集電体の厚さは、一般に0.1〜5μmであるが、これに限定されるわけではない。
【0032】
(vii)保護層の形成
負極集電体を形成後、各層からなる単電池を保護する目的で、保護層11を設けることが好ましい。保護層には、樹脂、ガラス等の電子伝導性のない絶縁体材料を特に限定なく適用可能である。
【0033】
正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層および保護層は、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法、熱蒸着法、ゾル−ゲル法、めっき法等により、基板上に形成することができるが、これらの方法に限定されるわけではない。被膜形成が可能な方法であれば、どのような方法を用いてもよい。
なお、ここでは基板上に正極集電体層、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層、負極集電体層の順序で形成する場合を説明したが、これとは逆に基板上に負極集電体層、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層、正極集電体層の順序で形成することもできる。
【0034】
このようにして得られた単電池を図4のように複数個積み重ね、全体を樹脂、ガラス、セラミクス等の絶縁性材料からなる封止材12で封止すれば、高容量または高電圧の積層型全固体リチウム電池が得られる。また、封止材で全体を被覆された全固体リチウム電池の側面を研磨して、正極集電体層から引き出された正極端子接続部6aと負極集電体層から引き出された負極端子接続部10aを、前記側面から露出させ、その露出部に白金などの膜を形成すれば、それぞれ正極端子13および負極端子14が得られる。
【0035】
封止材に用いられる樹脂としては、半導体装置に一般的に用いられるエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラキシリレン、液晶ポリマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの樹脂の誘導体や、これらの樹脂とフィラーとの混合物からなる樹脂組成物を用いることもできる。
樹脂で封止する方法としては、射出成型法、トランスファー成型法、ディップ法等が挙げられる。
【0036】
封止材に用いられるガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、鉛ソーダガラス、鉛カリガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、タングステン用ガラス、モリブデン用ガラス、コバール(商品名:ウエスティングハウス社製)用ガラス(日本電気硝子(株)製)、ウランガラス、テレックス(旭テクノグラス(株)製)、バイコール(コーニング社製)、石英ガラス等の封着用ガラスを用いることができる。電極端子材料の熱膨張係数とほぼ等しい熱膨張係数を有するガラス材料を選択して用いることが好ましい。
また、封止材に用いられるセラミクスとしては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素等の金属酸化物や、窒化ホウ素等の金属窒化物を用いることができる。
【0037】
ガラスやセラミックスで封止する方法としては、ディップ法、スパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法、熱蒸着法、ゾルーゲル法、めっき法等を採用することができるが、これらの方法に限定されるわけではない。また、これらの手法により得られた被膜の態様は、結晶質、非晶質を問わない。
【0038】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
《実施例1》
厚さ10μm×幅15mm×長さ25mmの銅箔の表裏全面に、RFマグネトロンスパッタ法で、厚さ2μmの窒化チタン層を金属窒化物層として製膜し、その上にさらに、厚さ2μmのSiO2層を金属酸化物層として同様の方法で製膜した。その結果、窒化チタン層およびSiO2層からなる被覆層を有する基板が得られた。
【0039】
次いで、SiO2層の上に、RFマグネトロンスパッタ法で、厚さ0.5μm×幅12mm×長さ20mmの白金層を、正極集電体層としてDCマグネトロンスパッタ法で製膜した。正極集電体層は、図3(a)に示したように基板の縁部まで引き出して、正極端子接続部を設けた。
正極集電体層上に、RFマグネトロンスパッタ法で、厚さ1μm×幅10mm×長さ10mmのコバルト酸リチウム層を、正極活物質層として製膜した。正極活物質層を製膜後、正極活物質であるコバルト酸リチウムの結晶性を高めるために、800℃で大気雰囲気下、5時間アニールを行った。
【0040】
アニール後の正極活物質層の上に、RFマグネトロンスパッタ法で、厚さ1μm×幅14mm×長さ14mmのリチウムイオン導電性固体電解質層を製膜した。ここで、リチウムイオン導電性固体電解質層は、固体電解質ガラス粉末(0.63Li2S−0.36SiS2−0.01Li3PO4)を加圧成型したものをターゲットに用いて製膜した。なお、前記化学式において、化合物にかかる係数(0.63、0.36および0.01)は、前記固体電解質ガラス粉末に含まれる化合物のモル比を示す。
【0041】
さらに、製膜後の固体電解質層の上に、抵抗加熱蒸着法で、厚さ3μm×幅11mm×長さ11mmの金属リチウム層を、負極活物質層として製膜した。
次に、金属リチウム層を完全に覆うように、厚さ0.5μm×幅12mm×長さ20mmの白金層を、負極集電体層として、正極集電体層の正極端子接続部とオーバーラップしないようにDCマグネトロンスパッタ法で製膜した。負極集電体層は、図3(a)に示したように基板の正極端子接続部とは反対方向の縁部まで引き出して、負極端子接続部を設けた。以上により、全固体リチウム電池の発電要素部が得られた。
【0042】
負極集電体層上から発電要素部の上面全面に、正極端子接続部と負極端子接続部を除いて、厚さ3μmのアルミナをRFマグネトロンスパッタ法で製膜し、厚さ27μmの全固体リチウム電池の単電池を完成した。
【0043】
この全固体リチウム電池を1μAで4.3Vまで定電流で充電した後、1μAで3Vまで放電した場合の放電容量は76μAh、平均作動電圧は3.9Vであった。このことから、本実施例の全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は29mWh/ccであることがわかった。
【0044】
《比較例1》
厚さ10μm×幅15mm×長さ25mmの銅箔上に、窒化チタン層およびSiO2層からなる被覆層を設けることなく、RFマグネトロンスパッタ法で、直接銅箔上に厚さ1μm×幅10mm×長さ10mmのコバルト酸リチウム層を、正極活物質層として製膜した。正極活物質層を製膜後、正極活物質であるコバルト酸リチウムの結晶性を高めるために、800℃で大気雰囲気下、5時間アニールを行った。
アニールに用いた管状炉から正極活物質層を製膜した銅箔を取り出したところ、銅箔が脆化しており、その後の固体電解質層形成以降の工程に供することはできなかった。
【0045】
《比較例2》
銅箔の代わりに、厚さ10μm×幅15mm×長さ25mmのステンレス鋼箔を用い、比較例1と同様に、RFマグネトロンスパッタ法で、直接ステンレス鋼箔上に厚さ1μm×幅10mm×長さ10mmのコバルト酸リチウム層を、正極活物質層として製膜した。正極活物質層を製膜後、正極活物質であるコバルト酸リチウムの結晶性を高めるために、800℃で大気雰囲気下、5時間アニールを行った。
アニールに用いた管状炉から正極活物質層を製膜したステンレス鋼箔を取り出したところ、ステンレス鋼箔が脆化しており、その後の固体電解質層形成以降の工程に供することはできなかった。
【0046】
《比較例3》
厚さ10μm×幅15mm×長さ25mmの銅箔上に、窒化チタン層を設けることなく、厚さ2μmのSiO2層のみを設けた。そして、SiO2層上に厚さ1μm×幅10mm×長さ10mmのコバルト酸リチウム層を、正極活物質層として製膜した。正極活物質層を製膜後、正極活物質であるコバルト酸リチウムの結晶性を高めるために、800℃で大気雰囲気下、5時間アニールを行った。
アニールに用いた管状炉から、正極活物質層を製膜したSiO2層で被覆された銅箔を取り出したところ、銅箔が脆化しており、その後の固体電解質層形成以降の工程に供することはできなかった。
【0047】
《比較例4》
窒化チタン層およびSiO2層からなる被覆層を有する銅箔基板の代わりに、厚さ0.3mm×幅15mm×長さ25mmのシリコンウェハーを基板として用いたこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、317μmであった。
この全固体リチウム電池を1μAで4.3Vまで定電流で充電した後、1μAで3Vまで放電した場合の放電容量は76μAh、平均作動電圧は3.9Vであった。このことから、本実施例の全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は2.5mWh/ccであることがわかった。
【0048】
《実施例2》
被覆層において、厚さ2μmの窒化チタン層の代わりに、厚さ2μmの窒化アルミニウム層を形成し、厚さ2μmのSiO2層の代わりに、厚さ2μmの酸化チタン層を形成したこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、27μmであり、実施例1と同様に求めた全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は29mWh/ccであった。
【0049】
《実施例3》
被覆層において、厚さ2μmの窒化チタン層の代わりに、厚さ2μmの窒化ケイ素層を形成し、厚さ2μmのSiO2層の代わりに、厚さ2μmの酸化アルミニウム層を形成したこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、27μmであり、実施例1と同様に求めた全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は29mWh/ccであった。
【0050】
《実施例4》
被覆層において、厚さ2μmの窒化チタン層の代わりに、厚さ2μmの窒化ジルコニウム層を形成し、厚さ2μmのSiO2層の代わりに、厚さ2μmの酸化ベリリウム層を形成したこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、27μmであり、実施例1と同様に求めた全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は29mWh/ccであった。
【0051】
《実施例5》
被覆層において、厚さ2μmの窒化チタン層の代わりに、厚さ2μmの窒化ホウ素層を形成し、厚さ2μmのSiO2層の代わりに、厚さ2μmの酸化ジルコニウム層を形成したこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、27μmであり、実施例1と同様に求めた全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は29mWh/ccであった。
【0052】
《実施例6》
銅箔の代わりに、厚さ10μm×幅15mm×長さ25mmのステンレス鋼箔を用い、被覆層において、厚さ2μmの窒化チタン層の代わりに、厚さ2μmの窒化アルミニウム層を形成し、厚さ2μmのSiO2層の代わりに、厚さ1μmのオキシニトリドアルミニウム層を形成し、さらにオキシニトリドアルミニウム層の上に、厚さ2μmの酸化アルミニウム層を形成したこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、29μmであり、実施例1と同様に求めた全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は27mWh/ccであった。
【0053】
《実施例7》
銅箔の代わりに、厚さ10μm×幅15mm×長さ25mmのステンレス鋼箔を用い、被覆層において、厚さ2μmのSiO2層の代わりに、厚さ2μmの酸化ジルコニウム層を形成したこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、27μmであり、実施例1と同様に求めた全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は29mWh/ccであった。
【0054】
《実施例8》
銅箔の代わりに、厚さ10μm×幅15mm×長さ25mmのステンレス鋼箔を用い、被覆層において、厚さ2μmの窒化チタン層の代わりに、厚さ1μmの窒化ケイ素層を形成し、厚さ2μmのSiO2層の代わりに、厚さ1μmのオキシニトリドケイ素層を形成し、さらにオキシニトリドケイ素層の上に、厚さ1μmの酸化ケイ素層を形成したこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、25μmであり、実施例1と同様に求めた全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は32mWh/ccであった。
【0055】
《実施例9》
銅箔の代わりに、厚さ10μm×幅15mm×長さ25mmのステンレス鋼箔を用い、被覆層において、厚さ2μmの窒化チタン層の代わりに、厚さ1μmの窒化ケイ素層を形成し、厚さ2μmのSiO2層の代わりに、厚さ1μmのオキシニトリドケイ素層を形成し、さらにオキシニトリドケイ素層の上に、厚さ1μmの酸化ジルコニウム層を形成したこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、25μmであり、実施例1と同様に求めた全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は32mWh/ccであった。
【0056】
《実施例10》
銅箔の代わりに、厚さ10μm×幅15mm×長さ25mmのステンレス鋼箔を用い、被覆層において、厚さ2μmの窒化チタン層の代わりに、厚さ1μmの窒化ホウ素層を形成し、厚さ2μmのSiO2層の代わりに、厚さ1μmの酸化ベリリウム層を形成し、さらに酸化ベリリウム層の上に、厚さ1μmの窒化ケイ素層を形成し、さらに窒化ケイ素層の上に、厚さ1μmの酸化アルミニウム層を形成したこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、27μmであり、実施例1と同様に求めた全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は29mWh/ccであった。
【0057】
《実施例11》
被覆層において、厚さ2μmの窒化チタン層の代わりに、厚さ2μmの窒化ケイ素層を形成し、厚さ2μmのSiO2層の代わりに、厚さ2μmのオキシニトリドケイ素層を形成したこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、27μmであり、実施例1と同様に求めた全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は29mWh/ccであった。
【0058】
《実施例12》
被覆層において、厚さ2μmの窒化チタン層の代わりに、厚さ2μmの窒化ジルコニウム層を形成し、厚さ2μmのSiO2層の代わりに、厚さ2μmのオキシニトリドジルコニウム層を形成したこと以外、実施例1と同様に、全固体リチウム電池を作製した。得られた全固体リチウム電池の厚さは、27μmであり、実施例1と同様に求めた全固体リチウム電池の体積エネルギー密度は29mWh/ccであった。
【0059】
表1に、基板の構成、ならびに全固体リチウム電池の厚さと体積エネルギー密度をまとめて示す。なお、すべての実施例において、金属リチウム層は抵抗加熱蒸着法、白金層はDCマグネトロンスパッタ法、その他の層はRFマグネトロンスパッタ法により形成した。
【0060】
【表1】
Figure 0004043296
【0061】
《実施例13》
実施例1で作製した全固体リチウム電池と同じ電池を、図4に示したように20セルを積層し、全体を厚さ0.5mmのエポキシ樹脂層で被覆し、正極端子接続部側と負極端子接続部側の側面を研磨して、各接続部を露出させた。各露出面に白金膜をDCマグネトロンスパッタ法でそれぞれ形成し、正極端子および負極端子とした。その結果得られた積層型電池の全体の大きさは16mm×26mm×1.54mmであった。
この電池を10μAで4.3Vまで定電流で充電した後、10μAで3Vまで放電したところ、放電容量は1520μAh、平均作動電圧3.9Vであった。このことから、得られた積層型電池の体積エネルギー密度は9.3mWh/ccであることがわかった。
【0062】
《比較例5》
実施例1で作製した全固体リチウム電池の代わりに、比較例4で作製した全固体リチウム電池を用いたこと以外、実施例11と同様に、積層型電池を作製した。得られた積層型電池の全体の大きさは16mm×26mm×7.34mmであった。
この電池を10μAで4.3Vまで定電流で充電した後、10μAで3Vまで放電したところ、放電容量は1520μAh、平均作動電圧3.9Vであった。このことから、得られた積層型電池の体積エネルギー密度は1.9mWh/ccであることがわかった。
【0063】
以上より、本発明によれば、従来よりも薄い基板を用いることができることから、全固体電池中に占める基板の体積を減少させることが可能となり、全固体電池の体積エネルギー密度を格段に向上させることができることが明らかとなった。
【0064】
上記実施例では、正極活物質層にコバルト酸リチウム、負極活物質層に金属リチウム、固体電解質に0.63Li2S−0.36SiS2−0.01Li3PO4を用いた例を挙げたが、本発明の全固体電池がこれらの材料からなるものに限定されないことは明らかである。また、積層型電池における単電池の積層数も、上記実施例に限定されるものではない。製膜方法についても、上記実施例ではRFマグネトロンスパッタ法を採用した場合について説明したが、他のスパッタ法、イオンプレーティング法、CVD法、熱蒸着法、ゾル−ゲル法、めっき法等、いわゆる薄膜形成方法として知られている方法であれば、どの方法を採用してもよく、実施例に記載の方法に限定されるものではない。
【0065】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、薄い基板を用いることができることから、全固体電池中に占める基板の体積を減少させることが可能となり、全固体電池の体積エネルギー密度を格段に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる基板の一例の縦断面図である。
【図2】本発明にかかる基板の他の一例の縦断面図である。
【図3】本発明にかかる全固体リチウム電池の単電池の上面図(a)、そのI−I線断面図(b)である。
【図4】本発明にかかる全固体リチウム電池の単電池を複数積層して形成された積層型全固体リチウム電池の縦断面図である。
【符号の説明】
1 金属シート
2 金属窒化物層
3 金属酸化物層
4 第2の金属窒化物層
5 第2の金属酸化物層
6 正極集電体層
6a 正極端子接続部
7 正極活物質層
8 固体電解質層
9 負極活物質層
10 負極集電体層
10a 負極端子接続部
11 保護層
12 封止材
13 正極端子
14 負極端子

Claims (8)

  1. 正極集電体層、前記正極集電体層と接する正極活物質層、負極集電体層、前記負極集電体層と接する負極活物質層、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在する固体電解質層、ならびに前記正極集電体層または前記負極集電体層と接する基板からなる全固体電池であって、
    前記基板が、金属シートおよび前記金属シートの表面に設けられた被覆層からなり、
    前記被覆層が、少なくとも一層の金属窒化物層からなり、
    前記金属窒化物層の厚さが0.1〜5μmである全固体電池。
  2. 前記被覆層が、さらに、金属酸化物層を少なくとも一層含み、
    前記金属酸化物層の厚さが0.1〜5μmであり、
    前記金属窒化物層の上に前記金属酸化物層が形成されている請求項1記載の全固体電池。
  3. 前記被覆層が、さらに、金属オキシニトリド化物層を少なくとも一層含み、
    前記金属オキシニトリド化物層の厚さが0.1〜5μmであり、
    前記金属窒化物層の上に前記金属オキシニトリド化物層が形成されている請求項1記載の全固体電池。
  4. 前記被覆層が、さらに、金属酸化物層および金属オキシニトリド化物層をそれぞれ少なくとも一層ずつ含み、
    前記金属酸化物層の厚さおよび前記金属オキシニトリド化物層の厚さが、それぞれ0.1〜5μmであり、
    前記金属窒化物層の上に前記金属酸化物層または金属オキシニトリド化物層が形成されている請求項1記載の全固体電池。
  5. 前記金属窒化物層が、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素および窒化ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1〜4のいずれかに記載の全固体電池。
  6. 前記金属酸化物層が、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化アルミニウムおよび酸化ジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる請求項2または4記載の全固体電池。
  7. 前記金属オキシニトリド化物層が、オキシニトリドアルミニウム、オキシニトリドケイ素およびオキシニトリドジルコニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる請求項3または4記載の全固体電池。
  8. 前記金属シートが、銅、ニッケル、鉄、銅合金、ニッケル合金、鉄合金またはステンレス鋼からなる請求項1記載の全固体電池。
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