JP3719026B2 - 磁気記録媒体とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気的に情報の記録/再生が可能な磁気記録媒体に関し、さらに具体的には、情報の記録/再生のために用いられるデータ情報および補助情報を記録する磁気記録媒体と、その製造方法とに関する。
【0002】
【従来の技術】
情報化社会の進展とともに、コンピュータの外部記憶装置としての磁気ディスク装置(以降HDDと記す)の重要度はますます高まり、その記録密度は年々著しい向上が図られている。さらに軽薄短小化の流れから、小型化と合わせての大容量化が求められており、これは磁気ディスク媒体の小径化と面記録密度の向上によって達成されるものである。
【0003】
面記録密度は、磁気ディスクの円周方向の線記録密度と半径方向のトラック密度とからなっており、これらのいずれか、もしくは両方を向上させることによって、高い面記録密度を得ることができる。
【0004】
本発明はこのうち、主にトラック密度の向上に寄与する技術に関するものである。
【0005】
一般に、磁気記録媒体には、最初に補助情報が書き込まれる。補助情報とは、磁気ヘッドをトラック上に位置決めするためのサーボ情報(これをトラッキングサーボ情報と呼ぶ)、情報の記録位置を管理するためのアドレス情報、アドレス情報読み出しのためのPLLロック情報などのような、磁気記録媒体にデータを記録/再生する際に必要な情報のことである。
【0006】
磁気記録媒体のトラック密度を高めるためにはトラックピッチを狭めることが必要となるが、磁気ヘッドによる書き込みによってトラックを規定する現状の技術では困難な点がある。
【0007】
すなわち、表面に連続した記録層を有する磁気記録媒体を使用すると、磁気ヘッドの側面から生じる漏れ磁場によってトラックとトラックの間の部分(ガードバンドと呼ぶ)に余計な記録がなされてしまうために、これが媒体ノイズの原因の一つとなっている。
【0008】
したがって、トラック幅の減少にともない、記録データを再生する際の対雑音比(以降S/Nと呼ぶ)の確保が困難になるという問題が生じてくる。同様なことは、磁気ヘッドの位置を制御するトラッキングサーボ情報の記録においても生じており、高精度なサーボ信号を得ることは、トラック幅が減少するにしたがって困難になってくる。
【0009】
トラック幅が減少した際のS/Nを確保するために、あらかじめディスク基板の表面に物理的な凹凸を形成し、これをサーボ信号やトラック位置の規定に用いる技術が提案されている(例えば特開平3−252922)。
【0010】
この技術に開示されているように、磁気記録媒体には、従来は磁気ヘッドをトラッキング(記録トラックに正確に追従するように制御すること)するための位置信号が書き込まれたサーボマークが形成されていた。
【0011】
このサーボマークは、サーボライタによって書き込まれるものであるが、高記録密度化にともなう記録トラック幅の狭小化が進むにしたがって、サーボマークには高い位置精度が必要となるために、サーボライタとHDDの機構部との間に高い位置精度を持たせることが必要となっていた。
【0012】
しかし、これには、高い技術的精度が要求されるので、装置が高価になるという問題があった。そこで、サーボマークをプリフォームすることによって位置信号の位置精度を高める方法が提案され、その実現方法としては、例えば特開昭62−256225号公報や特開平1−23418号公報のように、磁性層をエッチングして形成する方法や、例えば特開平8−17155号のように、磁気ディスク基板に凹凸を設けることによってサーボマークを形成する方法などが開示されている。
【0013】
図2に、サーボマークを形成した際に磁性層の磁化状態と、磁気記録媒体を回転させて磁気ヘッドで読み出したサーボ信号の一例として位相サーボパターンを示す。
【0014】
さらに図3に示すように、記録トラックを同心円状の凸部とし、記録トラック同士を分離するためのガードバンドを同心円状の凹部とすることで、高いS/Nが実現された書き込み/読み出しを行うことができ、高トラックピッチのトラッキング動作が可能となった。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような方法では、磁気記録媒体の表面に高低差が数十〜数百nmに達する凹凸が残ることになる。
【0016】
従来のHDDにおいては、記録信号の高密度化を達成するために磁気記録媒体の表面を平滑にすることで磁気ヘッドの浮上安定性を実現していた。
【0017】
一方では、記録信号の高密度化に伴って、磁気ヘッドの浮上量の低下も併せて必要となってきている。今後浮上量が30nm以下になっていくことを考えると、磁気記録媒体の表面に凹凸を残すことは磁気ヘッドの浮上安定性に問題が生じてくることが懸念される。
【0018】
そこで発明者らは、凹凸の存在する磁気記録媒体を用いた際の磁気ヘッドの浮上特性に関して鋭意調査を試みた。すなわち、平滑な表面を有する磁気記録媒体と凹凸を有する磁気記録媒体とで、磁気ヘッドの浮上特性の経時変化に違いがあるか否かを、凹部の深さをパラメータとして調査したところ、図4、5に示したような結果が得られた。
【0019】
図4は磁気記録媒体の表面が平滑な場合の磁気ヘッドの浮上特性の経時変化を示したものであり、図5は同心円状の凹部(以降、グルーブと呼ぶ)を有する磁気記録媒体での磁気ヘッドの浮上特性の経時変化を示したものである。
【0020】
ここで、浮上特性の評価は磁気ヘッドにアコースティックエミッション(AE)素子を取り付け、磁気ヘッドと媒体面との接触を検出する方法でおこなった。その構成を図6に示す。
【0021】
磁気記録媒体には、グルーブを3.0μmピッチで形成し、グルーブの幅は0.3μm一定とし、グルーブの深さをパラメータとしたものを用いた。この際の磁気ヘッドの連続浮上は、周速12m/sの条件でおこない、そのときの磁気ヘッドの浮上量は25nmである。
【0022】
なお、現在実用化されている浮上量50nmの磁気ヘッドを用いる場合には、平滑な表面を有する磁気記録媒体、グルーブを有する磁気記録媒体ともに1000時間の連続浮上に耐えることを確認してある。
【0023】
従来のHDDに用いていた磁気記録媒体の耐久性の評価では、1000時間の連続浮上に耐えるものは磁気ヘッドの浮上姿勢が安定なために、実用上問題がないことが判明している。
【0024】
それに対しこの調査では、平滑な表面を有する磁気記録媒体では1000時間の連続浮上をおこなっても顕著な接触は発生しなかったが、グルーブを有する磁気記録媒体では、グルーブの深さが浅いほど耐久性はあるものの、すべて4時間以内でAE素子の出力が増加し、しかもその後30分以内でクラッシュが発生した。
【0025】
そこで図5に示した磁気記録媒体を用い、ヘッド浮上量をパラメータとして磁気ヘッドの連続浮上試験を行ったところ、表1に示す結果が得られた。
【表1】
【0026】
このように、磁気記録媒体の表面にグルーブが存在する場合には浮上量が小さくなるにしたがって磁気ヘッドの安定な浮上を確保するのが困難であることが明らかになった。
【0027】
そこで、本発明では磁気的に情報の記録/再生が可能な磁気記録媒体に関し、記録情報の品質を損なうことなく磁気ヘッドの安定な浮上を確保する手法と、高トラック密度の磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【0028】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、課題を解決するために鋭意検討を行った結果、上記の課題は、磁気記録を担う磁性層からなる一トラック部と隣接する他のトラック部との間に凹部を有し、該トラック部を覆いかつ該凹部を埋めるように連続的かつ平滑に形成された第一の非磁性膜を有する磁気記録媒体とすることによって解決される。
【0029】
すなわち、上記本発明の磁気記録媒体とすることによって磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。
【0030】
さらに前記の課題は、磁気記録を担う磁性層からなる一トラック部と隣接する他のトラック部との間に凹部を有する磁気記録媒体の製造方法であって、該トラック部を覆いかつ該凹部を埋めるように第一の非磁性膜を形成する工程と、該第一の非磁性膜の表面が連続的かつ平滑になるように該第一の非磁性膜の表面を研磨する工程とを有する磁気記録媒体の製造方法とすることによって解決される。
【0031】
すなわち、上記本発明の磁気記録媒体の製造方法とすることによって磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。
【0032】
また、前記の課題は、磁気記録を担う磁性層からなるトラック部の一部に第一の凹部を有し、隣り合う二つの該トラック部の間に第二の凹部を有し、該トラック部を覆いかつ該第一の凹部および該第二の凹部を埋めるように連続的かつ平滑に形成された第一の非磁性膜を有する磁気記録媒体とすることによって解決される。
【0033】
すなわち、上記本発明の磁気記録媒体とすることによって磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。
【0034】
さらに前記の課題は、前記第一の非磁性膜がカーボンからなる磁気記録媒体とすることによって解決される。
【0035】
すなわち、第一の非磁性膜がカーボンからなる磁気記録媒体とすることによって磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。
【0036】
また前記の課題は、第一の非磁性膜は最表面にテクスチャが施されている磁気記録媒体とすることによって解決される。
【0037】
すなわち、第一の非磁性膜は最表面にテクスチャが施されている磁気記録媒体とすることによって磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。
【0038】
ここでいうテクスチャとは、吸着現象が発生することを防止するために設けた微細な凹凸のことである。
【0039】
なお、本発明でいう表面粗さは、とくに断らない限りはJIS B 0601−1982で定義されている中心線平均あらさのことである。
【0040】
さらに前記の課題は次の手段で解決される。すなわち、第一の非磁性膜は表面粗さが0.5〜3nmである磁気記録媒体とすることによって解決される。
【0041】
すなわち、第一の非磁性膜は表面粗さが0.5〜3nmである磁気記録媒体とすることによって磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。
【0042】
また前記の課題は、磁気記録を担う磁性層からなる一トラック部と隣接する他のトラック部との間に凹部を有する磁気記録媒体の製造方法であって、該トラック部を覆いかつ該凹部を埋めるように第一の非磁性膜を形成し、次いで、該第一の非磁性膜が少なくとも全面に残って表面が連続的かつ平滑になるように該第一の非磁性膜の表面を研磨する磁気記録媒体の製造方法とすることによって解決される。
【0043】
すなわち、上記本発明の磁気記録媒体の製造方法とすることによって磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。
【0044】
さらに前記の課題は、磁気記録を担う磁性層からなる一トラック部と隣接する他のトラック部との間に凹部を有し、該トラック部および該凹部の表面に第一の非磁性膜を、該第一の非磁性膜の上に該凹部を埋める該第一の非磁性膜に比して硬度の低い第二の非磁性膜を、該第二の非磁性膜の表面に第三の非磁性膜を有する磁気記録媒体とすることによって解決される。
【0045】
すなわち、上記本発明の磁気記録媒体とすることによって磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。
【0046】
また前記の課題は、磁気記録を担う磁性層からなる一トラック部と隣接する他のトラック部との間に凹部を有する磁気記録媒体の製造方法であって、該トラック部および該凹部の表面に第一の非磁性膜を形成し、次いで、該第一の非磁性膜の上に該凹部を埋めるように該第一の非磁性膜に比して硬度の低い第二の非磁性膜を形成し、次いで、該第一の非磁性膜が表出するまで該第二の非磁性膜の表面を研磨し、次いで、表出した該第一の非磁性膜および該第二の非磁性膜の表面に第三の非磁性膜を形成する磁気記録媒体の製造方法とすることによって解決される。
【0047】
すなわち、上記本発明の磁気記録媒体の製造方法とすることによって磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。
【0048】
第一の非磁性膜と第二の非磁性膜のCMP加工時の研磨速度が大きく異なるため、CMP工程の終点管理が容易になるという効果がある。第三の非磁性膜の材料は第一の非磁性膜と同じ材料であっても良い。
【0049】
また前記の課題は次の手段で解決される。すなわち、前記第三の非磁性膜は最表面にテクスチャが施されている磁気記録媒体として構成される。
【0050】
すなわち、前記第三の非磁性膜は最表面にテクスチャが施されている磁気記録媒体とすることによって磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。
【0051】
さらに前記の課題は次の手段で解決される。すなわち、前記第三の非磁性膜は表面粗さが0.5〜3nmである磁気記録媒体として構成される。
【0052】
すなわち、前記第三の非磁性膜は表面粗さが0.5〜3nmである磁気記録媒体とすることによって磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。
【0053】
【発明の実施の形態】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
図1は、本発明による磁気記録媒体の断面の一部を示す構成図であり、この磁気記録媒体に用いたディスク基板の断面図の一部を示す図1(a)と、このディスク基板上に磁性層および第一の非磁性膜を形成した後の断面の一部を示す図1(b)と、完成した磁気記録媒体の断面の一部を示す図1(c)を表している。
【0055】
1は凹部が設けられたディスク基板を示す。本発明でいうディスク基板は、基本的には非磁性材料であればよいが、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、セラミックス、樹脂などを用いることができる。さらにディスク基板の表面に、アルマイト層、金属めっきなどの表面被覆層を設けることによって平滑性や耐蝕性を与えてもよい。
【0056】
まず、凹部が設けられたディスク基板1に磁性層3を形成し、その磁性層3の上部に第一の非磁性膜4を形成する。
【0057】
続いて、一定厚さの第一の非磁性膜を残して表面を除去し、第一の非磁性膜の表面を平滑にして工程が完了する。
【0058】
〔実施例1〕
外径3.5インチのガラス製のディスク基板を用い、このディスク基板に直接エッチング法で同心円状のグルーブを形成した。このとき、トラック部に相当する平坦な表面の幅は2.7μm、グルーブの幅は0.3μm、深さは50nmとした。
【0059】
続いて、このグルーブを形成したディスク基板に、下地層としてCr(クロム)(例えば厚さ20nm)、磁性層としてCoCrPtTa(コバルト、クロム、プラチナ、タンタル)合金(例えば厚さ20nm)、さらに第一の非磁性膜としてCr(クロム)(例えば厚さ10nm)、第二の非磁性膜としてSiO2 (例えば厚さ80nm)を順次形成した。
【0060】
さらに続けて、凹凸をもつ第二の非磁性膜の表面を、Crが表出するまで研磨した。
【0061】
研磨法としては化学機械研磨法すなわち chemical mechanical polish (以降CMPと呼ぶ)を用いた。
【0062】
このCMP加工法は、近年LSIの製造に際し、ウェハの表面を平滑にする技術として注目されており、最大表面粗さ0.3nmRmax程度の平滑面が得られるようになってきている。すなわち、一般に行われている機械的研磨ではなく、ケミカルな作用との複合によるものである。
【0063】
この加工におよぼすケミカル要因としては(1)研磨剤の化学成分、(2)砥粒と被研磨材の摩擦による発生熱量などがあり、メカニカル要因としては(1)砥粒の粒径・硬さ・粘度、(2)研磨クロスの硬さ・形状、(3)加工圧力などがあげられる。
【0064】
したがって、これらの要因をコントロールすることによって任意の研磨速度を得ることができるので、例えば2成分系の被研磨材の場合には、両者の研磨速度比を2桁以上異ならせることも可能であり、一方の成分が研磨に際してのストッパ層となり得るものである。
【0065】
この実施例1でのCMP研磨条件を以下に示す。
【0066】
研磨剤: KOH添加コロイダルシリカスラリー(粒径:約20μm)を純水で10倍に希釈したもの。
【0067】
ポリシャ: ポリウレタン研磨布。
【0068】
荷重: 2.6kgf
定盤回転数: 50rpm
ここで下地層を形成した理由は次の理由による。すなわち、現状のHDDで用いられている磁気記録媒体では、高保磁力や低ノイズ化といった媒体の高性能化や、磁性層と基板との密着性を確保するといった目的のために、通常は磁性層の下に1層もしくはそれ以上の層数を有する反強磁性も含む非磁性の下地層を積層するのが一般的であるからである。
【0069】
磁性層の上に非磁性膜を形成することは、現状の方式で用いられる磁気記録媒体を実用化するための主要技術としてすでに定着している。
【0070】
この非磁性膜を設ける目的は、HDDの回転開始時における磁気ヘッドの摺動を安定にし、かつ容易に浮上させる技術として摩擦抵抗の少ない材料を介在させることにある。
【0071】
本実施例の磁気記録媒体の、半径方向の断面構造の模式図を図9(a)に示す。
【0072】
図9(a)の構成にした磁気記録媒体の表面を第一の非磁性膜が表出するまでCMPで研磨した。
【0073】
表面平坦化法としては、平滑性のよい表面にできる方法であればCMPに限定するものではない。
【0074】
その後、平滑な第一の非磁性膜の上に、第三の非磁性膜としてa−C(アモルファスカーボン)(厚さ10nm)を形成した。このときの第三の非磁性膜の表面粗さは0.83nmであった。
【0075】
図9において、符号1はガラス製のディスク基板を、2は下地層を、3は磁性層を、4は第一の非磁性膜を、5は第二の非磁性膜を、6は第三の非磁性膜を示す。
【0076】
ディスク基板としてポリカーボネイト基板、アモルファスポリオレフィン基板、ポリメチルメタクリレート基板をそれぞれ用いた以外は全て実施例1と同じ条件で行ったときの第三の非磁性膜の表面粗さは、ポリカーボネイト基板を用いたときは0.91nm、アモルファスポリオレフィン基板を用いたときは0.88nm、ポリメチルメタクリレート基板を用いたときは0.9nmであった。
【0077】
〔実施例2〕
第一の非磁性膜をa−C(例えば厚さ10nm)、第二の非磁性膜をCr( 例えば厚さ80nm)とし、ディスク基板をガラスとしたもの、およびディスク基板をポリカーボネイトとしたものが本実施例であり、その他の条件は全て実施例1と同じである。
【0078】
この磁気記録媒体の表面を第一の非磁性膜が表出するまでCMPで研磨した。
【0079】
なお、本発明で行う平坦化法としては、現在半導体、とくにLSIの加工で注目をあびているCMPを採用することで、磁気ヘッドの安定浮上性および磁気記録媒体の記録特性に何ら悪影響をおよぼすことなく実現できるが、CMPに限定されるものではなく、逆スパッタ法なども有効な手法のひとつであり、種々の変更が可能である。
【0080】
その後、平滑な第一の非磁性膜の上に、第三の非磁性膜としてa−C(厚さ10nm)を形成した。
【0081】
〔実施例3〕
磁気記録媒体の第一の非磁性膜の表面を平滑にすることによって浮上耐久試験に耐えることが図4から明らかになったが、HDDの使用条件には連続浮上ばかりでなく、装置を停止する場合もある。
【0082】
装置が停止しているときには、磁気ヘッドは磁気記録媒体と接触しており、スピンドルが回転を始めると、磁気ヘッドは空気流によって浮上するという、いわゆるcontact start and stop(以降、CSSと呼ぶ)方式が採用されているので、回転開始時の摺動を安定にし、かつ容易に浮上させるために、磁気記録媒体の表面には摩擦抵抗の少ない材料を介在させることが必要である。
【0083】
そこで発明者らは、CSSに耐える磁気記録媒体の表面粗さの効果について検討を行った。図8(a)にはCSS試験におよぼす非磁性膜の表面粗さの影響を、図8(b)には浮上耐久試験におよぼす非磁性膜の表面粗さの影響を示す。
【0084】
このように、浮上耐久試験に対しては非磁性膜の表面粗さが小さいほど効果があるが、CSS試験に対しては限界があり、0.5nmより大きいことが必要であることが明らかとなった。
【0085】
一方、浮上耐久試験に対する非磁性膜の表面粗さには上限があり、3nm以下であることが必要である。したがって、磁気ヘッドの浮上安定性を確保するためには、非磁性膜の表面粗さが0.5〜3nmであることが望ましい。
【0086】
〔比較例1、2〕
図7は、第一の非磁性膜の構成材料の効果について検討した結果を示すものである。図7(b)は第一の非磁性膜の構成材料としてAl2 O3 、SiO2 を用いた場合の磁気ヘッドの浮上特性の経時変化を示したものであり、図7(a)は第一の非磁性膜の構成材料としてアモルファスカーボン(以降、a−Cと呼ぶ)、ダイヤモンド状カーボン(以降、DLCと呼ぶ)を用いた場合の磁気ヘッドの浮上特性の経時変化を示したものである。
【0087】
表面に凹凸を有する磁気記録媒体は、図5に示したように、浮上耐久試験として浮上量25nmの磁気ヘッドを浮上させると数時間でクラッシュしたが、凹部を埋めるように連続的かつ平滑に形成する第一の非磁性膜の材料としてa−C、DLCとしたものは、1000時間の浮上耐久試験に耐えたという事実に基づく。 一方、Al2 O3 、SiO2 を用いたものは、100〜200時間でクラッシュが発生した。
【0088】
すなわち、表面に凹凸を有する磁気記録媒体は、図5に示したように、浮上耐久試験として浮上量25nmのヘッドを浮上させると数時間でクラッシュしたが、凹部を埋めるように連続的かつ平滑に形成する第一の非磁性膜の材料としてa−C、DLCを用いた表面の平滑な磁気記録媒体は図7(a)に示すように、1000時間の浮上耐久試験に十分耐えることができた。
【0089】
なお、第一の非磁性膜の構成材料としてAl2 O3 、SiO2 を用いた磁気ヘッドの浮上特性の経時変化をみた結果を、実施例1〜3,従来例1〜4とともに比較例1および比較例2とし、表2の中に示す。
【表2】
【0090】
〔従来例1〜4〕
従来から実用化されている磁気記録媒体の構成での磁気ヘッドの浮上特性の経時変化について、従来例1〜4として比較・検討した。
【0091】
ここではディスク基板としてガラスまたはポリカーボネイトを用い、その上に下地層としてCr(クロム)(厚さ20nm)、磁性層としてCoCrPtTa(コバルト、クロム、プラチナ、タンタル)合金(厚さ20nm)、第一の非磁性膜としてa−C(アモルファスカーボン)(厚さ20nm)で形成した表面が平滑な磁気記録媒体の断面の一部を示す構成図およびグルーブを有する磁気記録媒体の断面の一部を示す構成図を図10に示す。
【0092】
以上の実施例1〜3、比較例1〜2および従来例1〜4により得られた磁気記録媒体について、ヘッド浮上特性の経時変化を調べた。表2は得られた結果を耐久した時間で表示したものである。
【0093】
この結果から明らかなように、請求項1記載の磁気記録媒体とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が保証できることが明らかになった。
【0094】
さらに、請求項2記載の磁気記録媒体の製造方法とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体の製造方法に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が保証できる磁気記録媒体が得られることが明らかになった。
【0095】
また、請求項3記載の磁気記録媒体とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が保証できることが明らかになった。
【0096】
さらに前記第一の非磁性膜がカーボンからなる磁気記録媒体とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体に比べ磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が保証できることが明らかになった。
【0097】
また、前記第一の非磁性膜は、最表面にテクスチャが施されている磁気記録媒体とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体に比べ磁気ヘッドの安定な浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が保証できることが明らかになった。
【0098】
さらに前記第一の非磁性膜は表面粗さが0.5〜3nmである磁気記録媒体とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が保証できることが明らかになった。
【0099】
また、請求項7記載の磁気記録媒体の製造方法とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体の製造方法に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が保証できることが明らかになった。
【0100】
さらに、請求項8記載の磁気記録媒体とすることによって、従来技術によるグルーブを有する磁気記録媒体に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が保証できることが明らかになった。
【0101】
また、請求項9記載の磁気記録媒体の製造方法とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体の製造方法に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が保証できることが明らかになった。
【0102】
さらに、請求項10記載の磁気記録媒体とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が保証できることが明らかになった。
【0103】
また、請求項11記載の磁気記録媒体とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が保証できることが明らかになった。
【0104】
本発明による磁気記録媒体の製造方法では磁性層および非磁性膜の形成にはスパッタリング法を用いたが、安定した記録特性および安定した機械的性質を有するためには、それらの層を形成するターゲットとして厳重な管理を必要とすることはいうまでもない。
【0105】
また、本発明ではディスク基板の例としてガラス基板、ポリカーボネイト基板、アモルファスポリオレフィン基板、ポリメチルメタクリレート基板を用いたが、これらを用いた場合には安定な表面粗さが得られた。また耐久性の評価にも耐えた。したがって、経時変化がなかったものと考えられる。
【0106】
同様の評価に耐える基板材料であれば各種のプラスチック基板が使用可能であることはいうまでもない。
【0107】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように請求項1に記載の発明によれば、トラック部を覆いかつ凹部を埋めるように連続的かつ平滑に形成された第一の非磁性膜を有する磁気記録媒体とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が得られるという効果がある。
【0108】
さらに請求項2に記載の発明によれば、トラック部を覆いかつ凹部を埋めるように第一の非磁性膜を形成する工程と、第一の非磁性膜の表面が連続的に平滑になるように第一の非磁性膜の表面を研磨する工程とを有する磁気記録媒体の製造方法とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体の製造方法に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性をもつ磁気記録媒体が得られるという効果がある。
【0109】
また請求項3に記載の発明によれば、トラック部の一部に第一の凹部を有し、隣り合う二つのトラック部の間に第二の凹部を有し、トラック部を覆いかつ第一の凹部および第二の凹部を埋めるように連続的に平滑に形成された第一の非磁性膜を有する磁気記録媒体とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が得られるという効果がある。
【0110】
さらに請求項7に記載の発明によれば、トラック部を覆いかつ凹部を埋めるように第一の非磁性膜を形成し、次いで、第一の非磁性膜が少なくとも全面に残って表面が連続的に平滑になるように第一の非磁性膜の表面を研磨する磁気記録媒体の製造方法とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体の製造方法に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が得られるという効果がある。
【0111】
また請求項8に記載の発明によれば、一トラック部と隣接する他のトラック部との間に凹部を有し、トラック部および凹部の表面に第一の非磁性膜を、第一の非磁性膜の上に凹部を埋める該第一の非磁性膜に比して硬度の低い第二の非磁性膜を、第二の非磁性膜の表面に第三の非磁性膜を有する磁気記録媒体とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性が得られるという効果がある。
【0112】
さらに請求項9に記載の発明によれば、トラック部および凹部の表面に第一の非磁性膜を形成し、次いで、第一の非磁性膜の上に該凹部を埋めるように第一の非磁性膜に比して硬度の低い第二の非磁性膜を形成し、次いで、第一の非磁性膜が表出するまで第二の非磁性膜の表面を研磨し、次いで、第一の非磁性膜および第二の非磁性膜の表面に第三の非磁性膜を形成する磁気記録媒体の製造方法とすることによって、従来技術によるグルーブの存在する磁気記録媒体の製造方法に比べ、磁気ヘッドの安定な低浮上を確保できる。その結果、クラッシュがない分十分な耐久性をもつ磁気記録媒体が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による磁気記録媒体の断面の一部を示す構成図
【図2】 トラッキングサーボ情報の一例を示す図
【図3】 グルーブによるサイドイレーズの除去効果を示す図
【図4】 表面が平滑な磁気記録媒体での磁気ヘッドの浮上特性の経時変化を示す図
【図5】 グルーブを有する磁気記録媒体での磁気ヘッドの浮上特性の経時変化を示す図
【図6】 浮上特性の評価装置を示す図
【図7】 浮上特性におよぼす非磁性膜の影響を示す図
【図8】 非磁性膜の表面粗さの影響を示す図
【図9】 実施例1〜3の磁気記録媒体の断面の一部を示す構成図
【図10】 従来例1〜4の磁気記録媒体の断面の一部を示す構成図
【符号の説明】
1─デイスク基板、2─下地層、3─磁性層、4─第一の非磁性膜
5─第二の非磁性膜、6─第三の非磁性膜
Claims (5)
- 磁気記録を担う磁性層からなる一トラック部と隣接する他のトラック部との間に凹部を有し、
該トラック部および該凹部の表面に第一の非磁性膜を、
該第一の非磁性膜の上に該凹部を埋める該第一の非磁性膜に比して硬度の低い第二の非磁性膜を、
該第二の非磁性膜の表面に第三の非磁性膜を
有する磁気記録媒体。 - 磁気記録を担う磁性層からなる一トラック部と隣接する他のトラック部との間に凹部を有する磁気記録媒体の製造方法であって、
該トラック部および該凹部の表面に第一の非磁性膜を形成し、
次いで、該第一の非磁性膜の上に該凹部を埋めるように該第一の非磁性膜に比して硬度の低い第二の非磁性膜を形成し、
次いで、該第一の非磁性膜が表出するまで該第二の非磁性膜の表面を研磨し、 次いで、表出した該第一の非磁性膜および該第二の非磁性膜の表面に第三の非磁性膜を形成する
磁気記録媒体の製造方法。 - 前記第三の非磁性膜がカーボンからなる請求項1記載の磁気記録媒体。
- 前記第三の非磁性膜は最表面にテクスチャが施されている請求項1記載の磁気記録媒体。
- 前記第一の非磁性膜は表面粗さが0 . 5〜3nmである請求項1記載の磁気記録媒体。
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