JP2005061610A - 歯車 - Google Patents

Abstract

【課題】従来の歯車にあっては、相手歯車との摺動接触部分である歯面における摩擦の低減を図るためにさらなる改善が要望されていた。
【解決手段】歯面の少なくとも一部に硬質炭素被膜を形成した歯車とすること、さらに特定成分を含有する潤滑剤と組み合わせることにより、歯面の大幅な摩擦の低減を実現して、動力伝達効率に優れたものとした。また、遊星歯車機構や減速機構のように歯車の噛み合わせ部分が多い機構に好適であり、動力伝達効率を高める効果をより発揮し得るものとなる。

Description

本発明は、各種の動力伝達機構を構成する歯車に係り、とくに、伝達効率の向上を図った歯車に関するものである。

一般に、歯車は、様々な動力伝達機構に用いられており、その代表例として自動車の変速機を構成する歯車には、浸炭鋼、浸炭窒化鋼及びクロムモリブデン鋼等の材料から成るものが用いられている。

ところで、上記したような自動車の変速機を構成する歯車には、自動車の高出力化や燃費の向上を図るうえで、歯車同士の噛み合い面で生じる摩擦をより低減することが求められており、とくに、遊星歯車機構や減速機構においては、歯車の噛み合わせ箇所が多いことから、これらの機構の動力伝達効率を改善するために、歯車同士の噛み合い面における摩擦の低減が強く求められていた。

本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、歯面における摩擦を低減して、動力伝達効率に優れた歯車を提供することを目的としている。

本発明の歯車は、歯面の少なくとも一部に硬質炭素被膜を形成したことを特徴としており、これにより歯面の摩擦の大幅な低減を実現し、動力伝達効率に優れた歯車とすることができる。さらに、潤滑剤として特定の成分を含有したものを用いると、その効果をより大きなものにすることができる。

本発明の歯車によれば、歯面の少なくとも一部に硬質炭素被膜を形成したことにより、歯面の摩擦の大幅な低減を実現することができ、さらに潤滑剤として特定の成分を含有するものを用いるとその効果がより一層高められ、これにより動力伝達効率に優れた歯車とすることができる。とくに、潤滑剤（潤滑油）の選定が任意である場合には、アルコール類を潤滑剤の主成分とすることにより、大幅な伝達効率の向上を実現することができる。また、当該歯車は、遊星歯車機構や減速機構のように歯車の噛み合わせ部分が多い機構に好適であって、動力伝達効率を高める効果をより発揮し得るものとなる。

歯車は、他の歯車と噛み合せて回転する際に歯面同士が摺動接触するので、その歯面の摩擦を低減することが歯車の動力伝達効率を向上させるうえで望ましい。そこで、本発明の歯車は、歯面の少なくとも一部に硬質炭素被膜を形成したものとしている。この硬質炭素被膜は、アモルファス状の炭素又は水素化炭素から成る膜であって、ａ−Ｃ：Ｈ（アモルファスカーボン又は水素化アモルファスカーボン）、ｉ−Ｃ（アイカーボン）、及びＤＬＣ（ダイヤモンドライクカーボン）などとも呼ばれている被膜である。

硬質炭素被膜は、乾燥条件（無潤滑条件）で摺動させると、低い摩擦係数を示すことが知られている。その原理は完全に解明されていないが、硬質炭素被膜自身が有する固体潤滑性能と、低ヤング率や高硬度などの物性が摩擦係数の低減に寄与していると推測できる。

一方、硬質炭素被膜を潤滑剤中で用いる場合は、上記の乾燥条件下での摺動とは条件が異なるために、得られる摩擦係数も異なってくる。通常の硬質炭素被膜は、炭素と不可避不純物、又は炭素と水素と不可避不純物から成り、その表面の反応性が低く、これが低摩擦性や低摩耗性とも関連しているが、潤滑剤中の基油や添加剤との相互作用が弱いために、潤滑剤中であっても乾燥条件下に比べて摩擦係数の低減効果が小さめになる。

本発明は、潤滑剤中でも低い摩擦係数を示す硬質炭素被膜、及び適切な潤滑剤及びその添加剤成分について検討を加えることで完成するに至ったものであり、まず、歯車の歯面に硬質炭素被膜を形成する。この場合、歯面の全面に被膜を形成してもよいし、歯面の一部だけに被膜を形成してもよい。一般に、歯先に比べて歯元には被膜を形成しくにいが、無理に形成しなくても形成した面積に応じて摩擦低減の効果を得ることができる。また、使用中に被膜の一部が摩耗したとしても、残存している被膜の大きさに応じて上記効果を得ることができる。

歯車は、言うまでもなく二つ以上を噛み合せて使用するが、この際、全ての歯車の歯面に硬質炭素被膜を形成してもよいし、一部の歯車の歯面にのみ硬質炭素被膜を形成してもよい。このような硬質炭素被膜の形成範囲は、コストや製造の容易さと、得られる効果の大きさとを適宜勘案して決めればよい。

歯車の母材（基材）には、鉄基合金全般を用いることができるが、歯車に必要な衝撃強度及び曲げ疲労強度を確保するためには、浸炭鋼やクロムモリブデン鋼を用いるのが好ましく、成膜時の準高温による母材の軟化を抑制するには、浸炭窒化した鋼を用いることも好ましい。また、母材と硬質炭素被膜の間には応力低減や密着力向上などを目的として適宜の中間層を設けてもよい。この中間層の構成については公知の手段を適宜用いることができる。

硬質炭素被膜は、化学気相合成（ＣＶＤ）や物理気相合成（ＰＶＤ）などの方法で形成することができる。一般に、化学気相合成で被膜形成をすると、被膜中には原料有機化合物に由来する水素が含まれ、その含有量は典型的には１５〜４０原子％である。一方、物理気相合成では、水素を含むようにも含まないようにも被膜形成することができる。この物理気相合成には各種の方法があるが、本発明の歯車に関しては、母材に対する被膜の密着力の観点などから、アークイオンプレーティング法やスパッタリング法などが好ましい。

本発明の歯車では、硬質炭素被膜中の水素量が少ないほど摩擦が低減されて動力伝達効率に優れたものとなることから、被膜中の水素量を１原子％以下としており、好ましくは被膜中の水素量を０．３原子％以下としている。したがって、成膜は物理気相合成によることが好ましい。なお、被膜中の水素量は、二次イオン質量分析（ＳＩＭＳ）やラザフォード後方散乱（ＲＢＳ）などの方法で測定することができる。

また、本発明の歯車は、潤滑剤中でとくに優れた特性を示す。この場合、潤滑剤としては、鉱油又は合成油を基油とする適宜のものを用いることができ、一例として、ギヤ油のほか、自動車用エンジン油、タービン油及びスピンドル油などを挙げることができる。さらに、潤滑剤の基油としてポリアルファオレフィンを用いた場合には、摩擦低減効果がより大きく得られる。その理由としては、歯車の歯面に形成した硬質炭素皮膜に対して、ポリアルファオレフィン油が付着し易い性質を有していることが挙げられる。

さらに、潤滑剤に添加剤として水酸基を有する化合物を加えることも、摩擦低減効果をより大きくするために好ましい。これは、添加剤が、水酸基を足がかりに硬質炭素被膜に吸着されるためと推測される。また、添加剤の一分子中に含まれる水酸基は、その数が多い方がより強固に吸着できる点で好ましい。ただし、分子内の水酸基の数をあまり多くすると、親水性が優って基油と分離することがあるため、添加剤の分子構造はこの点を勘案して設計する。また、水酸基の数は同じであっても、なるべくそれらが近い位置にある構造の分子が好ましい。そのような分子の例としては、第二級及び第三級のアルコールを挙げることができる。

添加剤の添加量は、使用条件に応じて適宜加減することができるが、好ましい添加量は潤滑剤の総量に占める割合で０．５〜８質量％の範囲である。この添加剤の添加量は、少なすぎると摩擦低減効果が小さくなる。多すぎると基油との分離を生じることがある。

このような添加剤としては、エステル、その中でもグリセリンのモノエステルを用いることが好適である。グリセリンモノエステルを構成する脂肪酸は、炭素数で８以上、できれば１２以上のものが好ましい。これは、脂肪酸部分が小さいと、硬質炭素被膜の表面に添加剤の吸着に由来して形成される膜が薄くなり、摩擦低減効果が小さくなるためである。なお、コスト的には不利にもなるが、グリセリン以外の多価アルコールの脂肪酸エステルも用いることができる。

ここで、一般に、潤滑剤には、鉱油や合成油などの基油に適宜の添加剤を加えたものが用いられる。一方、歯車を使用する条件や環境によっては、一般的な潤滑剤に代えて、以下に述べるような水酸基含有化合物を主成分とした潤滑剤を用いることもでき、この場合には大幅な伝導効率向上の効果を得ることができる。

水酸基含有化合物としては、アルコール類が適しており、その中でもとくにグリセリンを用いた場合に摩擦低減効果が大きい。また、グリセリンのほか、エチレングリコール中で摺動する場合にもこれに次ぐ摩擦低減効果が得られる。なお、潤滑剤の全体を水酸基含有化合物で構成する必要はなく、必要に応じて摩耗防止、錆防止、粘度調整及び酸化防止などの目的で各種の既知の添加剤を加えても良い。これらの添加剤が潤滑剤総量に占める割合は、通常は１５質量％以下とする。

さらに、本発明の歯車は、例えば遊星歯車機構や減速機構のように、歯車の噛み合せ箇所の多い機構に用いると、動力伝達効率を高める効果がより発揮されることとなる。減速機構に遊星歯車機構を用いると、比較的小さな構造で大きな減速比が得られるが、減速比を大きくすると動力伝達効率が急激に低下する。そこで、減速機構としての遊星歯車機構のサンギア、プラネタリギア及びリングギアの少なくとも一つのギアに、本発明の歯車を用いることにより、減速機構における動力伝達効率の低下を抑制することができる。

以下、本発明の実施例を比較例と併せて説明する。なお、本発明の歯車は、特許請求の範囲に記載した構成を満たすものであれば良く、以下の実施例に限定されるものではない。

（実施例１及び比較例１）
素材としてＪＩＳ ＳＣＭ４２０Ｈを選択し、この素材を以下に示す歯車形状に加工し、浸炭焼入れ・焼き戻し処理を行った。
＜歯車諸元＞
平歯車
モジュール：４ ｍｍ
歯数 ：６０（相手４０）
歯幅 ：１０ｍｍ

上記の歯車には、表面の仕上げを行った後に脱脂処理を施し、次に、真空装置に収めてアークイオンプレーティング（ＡＩＰ）法により歯面に硬質炭素被膜を形成した（実施例１）。被膜は歯面の全体に形成した。以下の実施例においても特に断らない限り歯面の全体に被膜を形成している。被膜の厚さは歯の中央部で１．２μｍであり、二次イオン質量分析（ＳＩＭＳ）による被膜中の水素量測定の結果は０．１原子％であった。歯面は軽く研磨してドロップレットなどを落として平滑にした。研磨後の歯部の表面粗さを測定したところ、Ｒａ０．０４μｍであった。

相手歯車（駆動歯車）は、歯面に硬質炭素被膜を形成していないものとした。相手歯車の歯部の表面粗さはＲａ０．１７μｍであった。なお、以下の実施例及び比較例では、とくに断らない限り、歯部の表面粗さは、硬質炭素被膜が有りのものでＲａ０．０２〜０．０６μｍ程度に仕上げてあり、硬質炭素被膜が無いものでＲａ０．１〜０，３μｍ程度に仕上げてある。硬質炭素被膜が有りの場合には、成膜後に研磨して表面の平滑度を大幅に上げるのは難しいため、成膜前に充分な研磨を行った。

動力伝達効率の測定には動力循環式歯車試験機を用いた。この場合、駆動歯車及び軸受の損失と、被試験歯車の損失を分離して求めるには、駆動歯車の設計を工夫したり軸受の損失を別途測定したりといった行為が必要である。しかし、損失の分離を行わなくても、全損失を求めてその大小で硬質炭素被膜の効果を判定することは可能であるので、ここでは全損失の大小すなわち全体としての伝達効率だけを測定した。

すなわち、動力循環式歯車試験機において、上記の歯車及び相手歯車をポリアルファオレフィン（ＰＡＯ）油中に全体が浸るようにすると共に、両歯車を噛み合せて毎分６０００回（駆動歯車基準）の回転速度で回転させながら全損失の測定を行った。

一方、比較例１として、上記実施例１と同形状及び同材質であると共に、硬質炭素被膜を形成していない歯車を製作し、これを実施例１の歯車と同様の条件で全損失の測定を行った。

（実施例２及び比較例２）
素材としてＪＩＳ ＳＣＭ４４０Ｈを選択し、この素材を以下に示す歯車形状に加工し、浸炭焼入れ・焼き戻し処理を行った。
＜歯車諸元＞
平歯車
モジュール：２ ｍｍ
歯数 ：６０（相手２０）
歯幅 ：３ｍｍ

続いて、上記の歯車を脱脂処理して真空装置に収め、アークイオンプレーティング法により歯車の歯面に硬質炭素被膜を形成した（実施例２）。被膜の厚さは歯の中央部で１．４μｍであり、二次イオン質量分析（ＳＩＭＳ）による被膜中の水素量測定の結果は０．１原子％であった。歯面は軽く研磨してドロップレットなどを落として平滑にした。相手歯車（駆動歯車）は、歯面に硬質炭素被膜を形成していないものとした。

そして、動力循環式歯車試験機において、上記の歯車及び相手歯車をポリアルファオレフィン（ＰＡＯ）油中に全体が浸るようにすると共に、両歯車を噛み合せて毎分６０００回（駆動歯車基準）の回転速度で回転させながら全損失の測定を行った。実験に用いたポリアルファオレフィンの動粘度は、１００℃において４．０ｃＳｔである。以下の実施例及び比較例では、いずれも同種のポリアルファオレフィンを用いて評価している。

一方、比較例２として、上記実施例２と同形状及び同材質であると共に、硬質炭素被膜を形成していない歯車を製作し、これを実施例２の歯車と同様の条件で全損失の測定を行った。

（実施例３及び比較例３）
素材としてＪＩＳ ＳＣＭ４２０Ｈを選択して、この素材を以下に示す歯車形状に加工し、浸炭焼入れ・焼き戻し処理した後に仕上げ加工を行った。
＜歯車諸元＞
平歯車
モジュール：６ ｍｍ
歯数 ：１２０（相手４０）
歯幅 ：１２ｍｍ

続いて、上記の歯車を脱脂処理して真空装置に収め、アークイオンプレーティング法により歯車の歯面に硬質炭素被膜を形成した（実施例３）。この被膜の厚さは歯の中央部で０．９μｍであり、二次イオン質量分析（ＳＩＭＳ）による被膜中の水素量測定の結果は０．２原子％であった。歯面は軽く研磨してドロップレットなどを落として平滑にした。相手歯車（駆動歯車）は、歯面に硬質炭素被膜を形成していないものとした。

そして、動力循環式歯車試験機において、上記の歯車及び相手歯車をポリアルファオレフィン（ＰＡＯ）油中に全体が浸るようにすると共に、両歯車を噛み合せて毎分９０００回（駆動歯車基準）の回転速度で回転させながら全損失の測定を行った。

一方、比較例３として、上記実施例３と同形状及び同材質であると共に、硬質炭素被膜を形成していない歯車を製作し、これを実施例３の歯車と同様の条件で全損失の測定を行った。

（実施例４及び比較例４）
素材としてＪＩＳ ＳＣＭ４２０Ｈを選択し、この素材を以下に示す歯車形状に加工し、浸炭焼入れ・焼き戻し処理した後に仕上げ加工を行った。
＜歯車諸元＞
平歯車
モジュール：６ ｍｍ
歯数 ：１２０（相手４０）
歯幅 ：１２ｍｍ

続いて、上記の歯車を脱脂処理して真空装置に収め、マグネトロンスパッタ法により歯車の歯面に硬質炭素被膜を形成した（実施例４）。被膜の厚さは歯の中央部で１．３μｍであり、二次イオン質量分析（ＳＩＭＳ）による被膜中の水素量測定の結果は０．１原子％であった。歯面は軽く研磨して平滑にした。相手歯車（駆動歯車）は、歯面に硬質炭素被膜を形成していないものとした。

そして、動力循環式歯車試験機において、上記の歯車及び相手歯車をポリアルファオレフィン（ＰＡＯ）油中に全体が浸るようにすると共に、両歯車を噛み合せて毎分９０００回（駆動歯車基準）の回転速度で回転させながら全損失の測定を行った。

一方、比較例４として、上記実施例４と同形状及び同材質であると共に、硬質炭素被膜を形成していない歯車を製作し、これを実施例４の歯車と同様の条件で全損失の測定を行った。

（実施例５及び比較例５）
素材としてＪＩＳ ＳＣＭ４４０Ｈを選択し、この素地を以下に示す歯車形状に加工し、焼入れ・焼き戻し処理した後に仕上げ加工を行った。
＜歯車諸元＞
平歯車
モジュール：２ ｍｍ
歯数 ：６０（相手２０）
歯幅 ：３ｍｍ

続いて、上記の歯車を脱脂処理して真空装置に収め、プラズマＣＶＤ法により歯車の歯面に硬質炭素被膜を形成した（実施例５）。ＣＶＤの原料ガスにはシクロヘキサンを用いた。被膜の厚さは歯の中央部で３．０μｍであり、二次イオン質量分析（ＳＩＭＳ）による被膜中の水素量測定の結果は２５原子％であった。歯面は軽く研磨した。相手歯車（駆動歯車）は、歯面に硬質炭素被膜を形成していないものとした。

そして、動力循環式歯車試験機において、上記の歯車及び相手歯車をポリアルファオレフィン（ＰＡＯ）油中に全体が浸るようにすると共に、両歯車を噛み合せて毎分６０００回（駆動歯車基準）の回転速度で回転させながら全損失の測定を行った。

一方、比較例５として、上記実施例５と同形状及び同材質であると共に、硬質炭素被膜を形成していない歯車を製作し、これを実施例５の歯車と同様の条件で全損失の測定を行った。

（実施例６及び比較例６）
素材としてＪＩＳ ＳＣＭ４２０Ｈを選択し、この素材を以下に示す歯車形状に加工し、浸炭焼入れ・焼き戻し処理を行った。
＜歯車諸元＞
はすば歯車
相当平歯車モジュール：４ ｍｍ
歯数 ：６０（相手６０）
歯幅 ：２０ｍｍ
ねじれ角 ：１２°

続いて、上記の歯車には、表面の仕上げを行った後に脱脂処理を施し、真空装置に収めてアークイオンプレーティング法により歯面に硬質炭素被膜を形成した（実施例６）。被膜の厚さは歯の中央部で１．０μｍであり、二次イオン質量分析（ＳＩＭＳ）による被膜中の水素量測定の結果は０．１原子％であった。歯面は軽く研磨してドロップレットなどを落として平滑にした。相手歯車（駆動歯車）は、歯面に硬質炭素被膜を形成していないものとした。

そして、動力循環式歯車試験機において、上記の歯車及び相手歯車をポリアルファオレフィン（ＰＡＯ）油中に全体が浸るようにすると共に、両歯車を噛み合せて毎分６０００回（駆動歯車基準）の回転速度で回転させながら全損失の測定を行った。

一方、比較例６として、上記実施例６と同形状及び同材質であると共に、硬質炭素被膜を形成していない歯車を製作し、これを実施例６の歯車と同様の条件で全損失の測定を行った。

（実施例７及び比較例７）
素材としてＪＩＳ ＳＣＭ４４０Ｈを選択し、この素材を以下に示す歯車形状に加工し、焼入れ・焼き戻し処理した後に仕上げ加工を行った。
＜歯車諸元＞
平歯車
モジュール：２ ｍｍ
歯数 ：６０（相手２０）
歯幅 ：３ｍｍ

続いて、上記の歯車を脱脂処理して真空装置に収め、アークイオンプレーティング法により歯車の歯面に硬質炭素被膜を形成した（実施例７）。被膜の厚さは歯の中央部で１．１μｍであり、二次イオン質量分析（ＳＩＭＳ）による被膜中の水素量測定の結果は０．１原子％であった。歯面は軽く研磨してドロップレットなどを落として平滑にした。また、この実施例７では、相手歯車（駆動歯車）の歯面にも同様の硬質炭素被膜を形成した。相手歯車側の硬質炭素被膜の厚さは１．０μｍであり、被膜中の水素量は０．１原子％であった。

そして、動力循環式歯車試験機において、上記の歯車及び相手歯車をポリアルファオレフィン（ＰＡＯ）油中に全体が浸るようにすると共に、両歯車を噛み合せて毎分６０００回（駆動歯車基準）の回転速度で回転させながら全損失の測定を行った。

一方、比較例７として、上記実施例７と同形状及び同材質であると共に、硬質炭素被膜を形成していない歯車を製作し、これを実施例７の歯車と同様の条件で全損失の測定を行った。

（実施例８及び比較例８）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤として、ポリアルファオレフィンに、エステル成分として脂肪酸モノグリセリド（脂肪酸の主成分はオレイン酸）を全体の３質量％になるように添加して充分に混合したものを用いた。潤滑剤以外は実施例２と同様の方法で評価した。

（実施例９及び比較例９）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤として、ポリアルファオレフィンに、エステル成分として脂肪酸モノグリセリド（脂肪酸の主成分はパルミチン酸）を全体の２質量％になるように添加して充分に混合したものを用いた。潤滑剤以外は実施例２と同様の方法で評価した。

（実施例１０及び比較例１０）
実施例２および比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤として、ポリアルファオレフィンに、エステル成分として脂肪酸モノグリセリド（脂肪酸の主成分はステアリン酸）を全体の７質量％になるように添加して充分に混合した物を用いた。潤滑剤以外は実施例２と同様の方法で評価した。

（実施例１１及び比較例１１）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤として、ポリアルファオレフィンに、エステル成分としてステアリン酸ブチルを全体の２質量％になるように添加して充分に混合したものを用いた。潤滑剤以外は実施例２と同様の方法で評価した。

（実施例１２及び比較例１２）
素材としてＪＩＳ ＳＣＭ４４０Ｈを選択し、この素材を歯車形状に加工し、焼入れ・焼き戻し処理した後に仕上げ加工を行った。そして、歯車を組み合わせて以下の遊星歯車機構（２Ｋ−Ｈ型）を構成した。このとき、サンギアを入力ギアとし、リングギアは固定とし、プラネタリギアのキャリアから出力を取り出すものとした。
＜歯車諸元＞
平歯車
モジュール ：２ ｍｍ
サンギア歯数 ：６０
プラネタリギア歯数：２４
リングギア歯数 ：１４４
プラネタリギア個数：３
歯幅 ：６ｍｍ

これらのギアのうちサンギア及びプラネタリギアを脱脂処理して真空装置に収め、アークイオンプレーティング法により各歯車の歯面に硬質炭素被膜を形成した（実施例１２）。被膜の厚さはサンギアの歯の中央部で１．７μｍであり、二次イオン質量分析（ＳＩＭＳ）による被膜中の水素量測定の結果は０．１原子％であった。歯面は軽く研磨してドロップレットなどを落として平滑にした。リングギアは、歯面に硬質炭素被膜を形成していないものとした。

そして、動力循環式歯車試験機において、上記の各歯車をポリアルファオレフィン（ＰＡＯ）油中に全体が浸るようにすると共に、両歯車を噛み合せて毎分６０００回（サンギア）の回転速度で回転させながら全損失の測定を行った。

一方、比較例１２として、上記実施例１２と同形状及び同材質であると共に、いずれの歯車にも硬質炭素被膜を形成していない遊星歯車機構を構成し、これを実施例１２と同様の条件で全損失の測定を行った。

（実施例１３及び比較例１３）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤として、ギア油（ＪＩＳ工業用ギヤ油２種、粘度分類ＩＳＯ ＶＧ ２２０）を用い、潤滑剤以外は実施例２と同様の方法で評価した。

（実施例１４及び比較例１４）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤として、ギア油（ＪＩＳ工業用ギヤ油２種、粘度分類ＩＳＯ ＶＧ ２２０）に、エステル成分として脂肪酸モノグリセリド（脂肪酸の主成分はステアリン酸）を全体の５質量％になるように添加して充分に混合したものを用いた。潤滑剤を変更した以外は実施例２と同様の方法で評価した。

（実施例１５及び比較例１５）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤として、タービン油（ＪＩＳ工業用タービン油 ＪＩＳ−２２１３Ｋ ２種）に、エステル成分として脂肪酸モノグリセリド（脂肪酸の主成分はステアリン酸）を全体の４質量％になるように添加して充分に混合したものを用いた。潤滑剤を変更した以外は実施例２と同様の方法で評価した。

（実施例１６及び比較例１６）
実施例７及び比較例７の歯車を、条件を変えて評価した（実施例７では双方の歯車に硬質炭素被膜を形成している）。潤滑剤としては、実施例１０及び比較例１０で用いたもの、すなわちポリアルファオレフィンにエステル成分として脂肪酸モノグリセリド（脂肪酸の主成分はステアリン酸）を全体の７質量％になるように添加して充分に混合したものを用いた。評価方法は実施例７及び比較例７と同様である。

（実施例１７及び比較例１７）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤としては、ポリアルファオレフィンに、エステル成分として脂肪酸ジグリセリド（脂肪酸の主成分はステアリン酸）を全体の２質量％になるように添加して充分に混合したものを用いた。評価方法は実施例２及び比較例２と同様である。

（実施例１８及び比較例１８）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤としては、ポリアルファオレフィンに、分子内に水酸基を二つ有するピナコールを全体の０．８質量％になるように添加して充分に混合したものを用いた。評価方法は実施例２及び比較例２と同様である。

（実施例１９及び比較例１９）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤としては、ポリアルファオレフィンに、１，１０−デカンジオールを全体の２質量％になるように添加して充分に混合したものを用いた。評価方法は実施例２及び比較例２と同様である。

（実施例２０及び比較例２０）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤としては、ポリアルファオレフィンに、ドデシルアルコールを全体の２質量％になるように添加して充分に混合したものを用いた。評価方法は実施例２及び比較例２と同様である。

（実施例２１及び比較例２１）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤としてはグリセリンを用いた。また、添加剤はとくに加えなかった。評価方法は実施例２及び比較例２と同様である。

（実施例２２及び比較例２２）
実施例２及び比較例２の歯車を、条件を変えて評価した。潤滑剤としてはエチレングリコールを用いた。また、添加剤はとくに加えなかった。評価方法は実施例２及び比較例２と同様である。

以上の実施例１〜２２及び比較例１〜２２について、各々の歯車の素材、モジュール、歯数、成膜方法、被膜中の水素量及び潤滑剤の種類とともに、動力伝達効率の測定結果を表１に示す。

表１から明らかなように、本発明の各実施例１〜２２の歯車は、その動力伝達効率が、夫々に対応する比較例１〜２２の動力伝達効率よりも優位であることを確認した。とくに、動力伝達効率に優れるものとしては実施例２１が挙げられ、また、これに次いで、他の摺動部位と潤滑剤を兼用する必要があるなど潤滑剤の選定に制限がある場合は実施例１６が好ましく、さらに、コストとのバランスを重視する場合には、実施例８〜１０も次善の例として挙げられる。

Claims (15)

1. 歯面の少なくとも一部に硬質炭素被膜を形成したことを特徴とする歯車。
2. 硬質炭素被膜中の水素量が１原子％以下であることを特徴とする請求項１に記載の歯車。
3. 硬質炭素被膜中の水素量が０．３原子％以下であることを特徴とする請求項２に記載の歯車。
4. 遊星歯車機構を構成する歯車に用いることを特徴とする請求項１〜３のいずれかに記載の歯車。
5. 減速機構を構成する歯車に用いることを特徴とする請求項１〜４のいずれかに記載の歯車。
6. 潤滑剤中で用いることを特徴とする請求項１〜５のいずれかに記載の歯車。
7. 潤滑剤が、ポリアルファオレフィンを基油とするものであることを特徴とする請求項６に記載の歯車。
8. 潤滑剤が、水酸基を有する添加剤を含有していることを特徴とする請求項６又は７に記載の歯車。
9. 潤滑剤中の添加剤が、分子中に水酸基を二つ以上含むものであることを特徴とする請求項８に記載の歯車。
10. 潤滑剤中の添加剤が、エステルであることを特徴とする請求項６〜９のいずれかに記載の歯車。
11. 潤滑剤中の添加剤が、グリセリンのモノエステルであることを特徴とする請求項６〜８のいずれかに記載の歯車。
12. 潤滑剤の主成分が、水酸基含有化合物であることを特徴とする請求項６に記載の歯車。
13. 水酸基含有化合物が、アルコール類であることを特徴とする請求項１２に記載の歯車。
14. アルコール類が、グリセリンであることを特徴とする請求項１３に記載の歯車。
15. アルコール類が、エチレングリコールであることを特徴とする請求項１４に記載の歯車。