JP2004003435A - 内燃機関用燃料噴射弁およびその製造方法 - Google Patents

内燃機関用燃料噴射弁およびその製造方法 Download PDF

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Hidemi Mori
森 英視
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Abstract

【課題】ノズルボディは燃焼室の熱で焼き戻しされてしまう。ノズルボディを高速度工具鋼で形成すると、材料費が高く加工性も悪いために大幅なコスト上昇を招く。また、機械構造用肌焼鋼の表層部を浸炭処理で硬化しても、排ガス規制による高燃焼温度化によって焼き戻しされ、表層部の硬さが低下する。
【解決手段】ノズルボディ1を機械構造用肌焼鋼(あるいはSiを添加した機械構造用肌焼鋼)で形成し、その表面に浸炭浸窒処理(あるいは高濃度浸炭浸窒処理)を施し、ノズルボディ1の表層部に炭素、窒素(および炭化物)を高濃度で含有させる。ノズルボディ1が高温に晒されても、表層部の硬さ低下が抑えられ、シート面4の耐摩耗性が向上する。また、ノズルボディ1を形成する機械構造用肌焼鋼(あるいはSiを添加した機械構造用肌焼鋼)は、材料費が安価で、且つ加工性も容易であり、浸炭浸窒処理(あるいは高濃度浸炭浸窒処理)を施しても、コスト上昇が抑えられる。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関用燃料噴射弁およびその製造方法に関するものであり、特に内燃機関の燃焼室内に直接燃料を噴射する直噴式の燃料噴射弁に用いて好適な技術である。
【0002】
【従来の技術】
例えばディーゼルエンジン等、内燃機関の燃焼室に直接燃料を噴射するタイプの燃料噴射弁のノズルボディは、一般に機械構造用肌焼鋼によって形成されており、燃焼室の熱を受けて焼き戻しされてしまう。このようにノズルボディが焼き戻しされてしまうと、ノズルボディの硬さも低下し、ニードルが着座するシート面の耐摩耗性が低下する懸念がある。
【0003】
高温環境下における硬さの低下抑制のために、軟化抵抗の高い材料(例えば高速度工具鋼等)の使用が考えられる。しかし、このような材料は材料費自体が高価であり、また加工性も悪いために大幅なコスト上昇を余儀なくされる。
この問題点に着目し、機械構造用肌焼鋼よりなるノズルボディに浸炭処理を施して、ノズルボディの表層部を硬化する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
米国特許第4801095号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
燃料噴射弁のノズルボディは、近年の排ガス規制の動向に伴い、噴射圧力の上昇および燃費向上の観点から非常に高い温度(例えば300℃)に晒される傾向にある。このように非常に高い温度に晒されると、浸炭処理を施したノズルボディでも焼き戻しされて表層部の硬さが低下してしまい、ニードルが着座するシート面の耐摩耗性が低下する問題が生じる。
【0006】
【発明の目的】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、コスト上昇を抑え、且つノズルボディが非常に高い温度に晒されてもニードルが着座するシート面の耐摩耗性の低下を抑えることのできる内燃機関用燃料噴射弁およびその製造方法の提供にある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
〔請求項1の手段〕
ノズルボディが機械構造用肌焼鋼によって形成されるとともに、少なくともニードルが着座するシート面の表層部は内層部に比べ炭素および窒素が高濃度に含有される。これにより、ノズルボディが非常に高い温度に晒されても、炭素および窒素が高濃度に含有された表層部の硬さ低下が抑えられ、少なくともシート面の耐摩耗性の低下が抑えられる。
また、材料費が安価で、加工性に優れた機械構造用肌焼鋼によってノズルボディが形成され、且つ浸炭浸窒処理によって表層部に炭素および窒素を高濃度に含有させることによって、ノズルボディのコスト上昇を小さく抑えることができる。
つまり、請求項1の手段を採用することにより、ノズルボディのコスト上昇を抑え、且つノズルボディが非常に高い温度に晒されてもシート面の耐摩耗性が低下する不具合が抑えられる。
【0008】
〔請求項2の手段〕
炭素の含有量を表面から0.05mm内部において0.6重量%以上で、且つ窒素の含有量を表面から0.05mm内部において0.4重量%以上とすることにより、ノズルボディが非常に高い温度に晒されても、炭素および窒素が高濃度に含有された表層部の硬さ低下が抑えられる。
また、炭素の含有量を表面から0.05mm内部において1.0重量%以下で、且つ窒素の含有量を表面から0.05mm内部において0.9重量%以下とすることにより、ノズルボディの靱性が保たれてノズルボディが外力によって割れる不具合が抑えられる。
【0009】
〔請求項3の手段〕
材料費が安価で、加工性に優れた機械構造用肌焼鋼によってノズルボディを形成し、その後、少なくともニードルが着座するシート面に浸炭浸窒処理を施すことにより、ノズルボディのコスト上昇を抑え、且つノズルボディが非常に高い温度に晒されてもシート面の耐摩耗性が低下する不具合が抑えられる。
【0010】
〔請求項4の手段〕
ノズルボディが機械構造用肌焼鋼によって形成されるとともに、少なくともニードルが着座するシート面の表層部は内層部に比べ炭素、窒素および炭化物が高濃度に含有されることにより、ノズルボディが非常に高い温度に晒されても、炭素、窒素および炭化物が高濃度に含有された表層部の硬さ低下が抑えられ、少なくともシート面の耐摩耗性の低下が抑えられる。
また、材料費が安価で、加工性に優れた機械構造用肌焼鋼によってノズルボディが形成され、且つ高濃度浸炭浸窒処理によって表層部に炭素、窒素および炭化物を高濃度に含有させることによって、ノズルボディのコスト上昇を小さく抑えることができる。
つまり、請求項4の手段を採用することにより、ノズルボディのコスト上昇を抑え、且つノズルボディが非常に高い温度に晒されてもシート面の耐摩耗性が低下する不具合が抑えられる。
【0011】
〔請求項5の手段〕
炭素の含有量を表面から0.05mm内部において0.6重量%以上で、窒素の含有量を表面から0.05mm内部において0.4重量%以上で、さらに炭化物の含有量を表面から0.025〜0.075mm内部において15面積%以上とすることにより、ノズルボディが非常に高い温度に晒されても、炭素、窒素および炭化物が高濃度に含有された表層部の硬さ低下が抑えられる。
また、炭素の含有量を表面から0.05mm内部において1.0重量%以下で、且つ窒素の含有量を表面から0.05mm内部において0.9重量%以下とすることにより、ノズルボディの靱性が保たれてノズルボディが外力によって割れる不具合が抑えられる。
【0012】
〔請求項6の手段〕
材料費が安価で、加工性に優れた機械構造用肌焼鋼によってノズルボディを形成し、その後、少なくともニードルが着座するシート面に高濃度浸炭浸窒処理を施すことにより、ノズルボディのコスト上昇を抑え、且つノズルボディが非常に高い温度に晒されてもシート面の耐摩耗性が低下する不具合が抑えられる。
【0013】
〔請求項7の手段〕
Siが添加された機械構造用肌焼鋼によってノズルボディが形成されるとともに、少なくともニードルが着座するシート面の表層部は内層部に比べ炭素および窒素が高濃度に含有されることにより、ノズルボディの機械的強度が高まるとともに、ノズルボディが非常に高い温度に晒されても、炭素および窒素が高濃度に含有された表層部の硬さ低下が抑えられ、少なくともシート面の耐摩耗性の低下が抑えられる。
また、材料費が安価で、加工性に優れたSiが添加された機械構造用肌焼鋼によってノズルボディが形成され、且つ浸炭浸窒処理によって表層部に炭素および窒素を高濃度に含有させることによって、ノズルボディのコスト上昇を小さく抑えることができる。
つまり、請求項7の手段を採用することにより、ノズルボディのコスト上昇を抑え、ノズルボディの機械的強度が優れ、さらにノズルボディが非常に高い温度に晒されてもシート面の耐摩耗性が低下する不具合が抑えられる。
【0014】
〔請求項8の手段〕
炭素の含有量を表面から0.05mm内部において0.6重量%以上で、且つ窒素の含有量を表面から0.05mm内部において0.4重量%以上とすることにより、ノズルボディが非常に高い温度に晒されても、炭素および窒素が高濃度に含有された表層部の硬さ低下が抑えられる。
また、炭素の含有量を表面から0.05mm内部において1.0重量%以下で、且つ窒素の含有量を表面から0.05mm内部において0.9重量%以下とすることにより、ノズルボディの靱性が保たれてノズルボディが外力によって割れる不具合が抑えられる。
【0015】
〔請求項9の手段〕
材料費が安価で、加工性に優れたSiを添加した機械構造用肌焼鋼によってノズルボディを形成し、その後、少なくともニードルが着座するシート面に浸炭浸窒処理を施すことにより、ノズルボディのコスト上昇を抑え、ノズルボディの機械的強度が優れ、さらにノズルボディが非常に高い温度に晒されてもシート面の耐摩耗性が低下する不具合が抑えられる。
【0016】
〔請求項10の手段〕
Siが添加された機械構造用肌焼鋼によってノズルボディが形成されるとともに、少なくともニードルが着座するシート面の表層部は内層部に比べ炭素、窒素および炭化物が高濃度に含有されることにより、ノズルボディの機械的強度が高まるとともに、ノズルボディが非常に高い温度に晒されても、炭素、窒素および炭化物が高濃度に含有された表層部の硬さ低下が抑えられ、少なくともシート面の耐摩耗性の低下が抑えられる。
また、材料費が安価で、加工性に優れたSiが添加された機械構造用肌焼鋼によってノズルボディが形成され、且つ高濃度浸炭浸窒処理によって表層部に炭素、窒素および炭化物を高濃度に含有させることによって、ノズルボディのコスト上昇を小さく抑えることができる。
つまり、請求項10の手段を採用することにより、ノズルボディのコスト上昇を抑え、ノズルボディの機械的強度が優れ、さらにノズルボディが非常に高い温度に晒されてもシート面の耐摩耗性が低下する不具合が抑えられる。
【0017】
〔請求項11の手段〕
炭素の含有量を表面から0.05mm内部において0.6重量%以上で、窒素の含有量を表面から0.05mm内部において0.4重量%以上で、さらに炭化物の含有量を表面から0.025〜0.075mm内部において15面積%以上とすることにより、ノズルボディが非常に高い温度に晒されても、炭素、窒素および炭化物が高濃度に含有された表層部の硬さ低下が抑えられる。
また、炭素の含有量を表面から0.05mm内部において1.0重量%以下で、且つ窒素の含有量を表面から0.05mm内部において0.9重量%以下とすることにより、ノズルボディの靱性が保たれてノズルボディが外力によって割れる不具合が抑えられる。
【0018】
〔請求項12の手段〕
材料費が安価で、加工性に優れたSiを添加した機械構造用肌焼鋼によってノズルボディを形成し、その後、少なくともニードルが着座するシート面に高濃度浸炭浸窒処理を施すことにより、ノズルボディのコスト上昇を抑え、ノズルボディの機械的強度が優れ、さらにノズルボディが非常に高い温度に晒されてもシート面の耐摩耗性が低下する不具合が抑えられる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を、第1〜第7実施例を用いて説明する。
燃料噴射弁は、自身に供給される高圧燃料を噴射する噴射ノズルを備える。
この噴射ノズルは、図1に示されるように、ノズルボディ1とニードル2とによって構成される。
【0020】
ノズルボディ1は、ニードル2を嵌挿するガイド孔3を有する。このガイド孔3の下端部には、円錐状のシート面4が形成されており、更にシート面4の下流側(図1下側)にはサック室5が凹設されている。そして、このサック室5の内周面には、複数の噴孔6が開口している。
ニードル2は、自身の先端部(図1下側)に円錐角が異なる第1円錐面7と第2円錐面8とが設けられ、その第1円錐面7と第2円錐面8とが交わる境界線(稜線)にシート部9が形成されている。このシート部9は、閉弁時にシート面4に着座して、噴孔6に通じる燃料経路を遮断する。
【0021】
ここで、本発明が適用される燃料噴射弁は、内燃機関(例えばディーゼルエンジン等)の燃焼室内に直接燃料を噴射する直噴式など、ノズルボディ1が高温下に晒されるタイプに適用して好適なものである。
【0022】
ノズルボディ1の材料組成および熱処理を次の表1を参照して説明する。
【表1】
Figure 2004003435
【0023】
上記表1に示す比較例は、従来技術によって形成したノズルボディ1である。即ち比較例のノズルボディ1は、機械構造用肌焼鋼(表1中の材料組成参照)より形成されたノズルボディ1の全面に、浸炭処理を施してノズルボディ1の表層部を炭素によって硬化したものである。この比較例では ノズルボディ1の表層部の炭素の含有量は、表面から0.05mm内部において0.8重量%に調整している。
【0024】
なお、浸炭処理とは、容器内にノズルボディ1を配置し、その容器内に浸炭性ガス(メタン、エタン、プロパン等の炭素系ガス)を封入し、さらに容器内を高温(例えば900℃)高圧に上昇させることでノズルボディ1の表層部の金属組成内に炭素を浸透させ、高温に上昇したノズルボディ1を油で急冷することで金属組成内に炭素を定着させる処理である。この処理によって、ノズルボディ1の表層部は、その内層部に比べ炭素の含有濃度が高くなる。
そして、容器内に充填する浸炭性ガスの濃度や、処理回数、温度等によって浸炭される炭素量、即ちノズルボディ1の表層部が含有する炭素の濃度が調整される。
【0025】
比較例のノズルボディ1は、機械構造用肌焼鋼の表層部を炭素によって硬化したものであるが、図2中の破線に示すように、高温下に所定時間晒して焼き戻しを行うと、焼き戻し温度が上昇するにつれて、表層部の硬さが大幅に低下してしまう。つまり、噴射圧力の上昇および燃費向上のために、ノズルボディ1が非常に高い温度(例えば300℃)に晒されると、表層部を炭素によって硬化したノズルボディ1であっても焼き戻しされて表層部の硬さが低下し、ニードル2が着座するシート面4の耐摩耗性が低下する不具合がある。
【0026】
上記の不具合を解決する例を第1〜第7実施例を用いて説明する。
なお、第1〜第4実施例は、請求項1〜3を適用した例であり、第5実施例は請求項4〜6を適用した例であり、第6実施例は請求項7〜9を適用した例であり、第7実施例は請求項10〜12を適用した例である。
【0027】
ここで、第1〜第4実施例は、機械構造用肌焼鋼(表1中の材料組成参照)によってノズルボディ1を形成し(第1行程に相当する)、ニードル2が着座するシート面4を含むノズルボディ1の全表面に浸炭浸窒処理を施して(第2行程に相当する)、ノズルボディ1の全表層部に、炭素および窒素を高濃度に含有させた例である。即ち、機械構造用肌焼鋼によって形成されたノズルボディ1の全表層部は、その内層部に比べ炭素および窒素を高濃度に含有するものである。
【0028】
第5実施例は、機械構造用肌焼鋼(表1中の材料組成参照)によってノズルボディ1を形成し(第1行程に相当する)、ニードル2が着座するシート面4を含むノズルボディ1の全表面に高濃度浸炭浸窒処理を施して(第2行程に相当する)、ノズルボディ1の全表層部に炭素、窒素および炭化物を高濃度に含有させた例である。即ち、機械構造用肌焼鋼によって形成されたノズルボディ1の全表層部は、その内層部に比べ炭素、窒素および炭化物を高濃度に含有するものである。
【0029】
第6実施例は、Siが添加された機械構造用肌焼鋼(表1中の材料組成参照)によってノズルボディ1を形成し(第1行程に相当する)、ニードル2が着座するシート面4を含むノズルボディ1の全表面に浸炭浸窒処理を施して(第2行程に相当する)、ノズルボディ1の全表層部に炭素および窒素を高濃度に含有させた例である。即ち、Siが添加された機械構造用肌焼鋼によって形成されたノズルボディ1の全表層部は、その内層部に比べ炭素および窒素を高濃度に含有するものである。
【0030】
第7実施例は、Siが添加された機械構造用肌焼鋼(表1中の材料組成参照)によってノズルボディ1を形成し(第1行程に相当する)、ニードル2が着座するシート面4を含むノズルボディ1の全表面に高濃度浸炭浸窒処理を施して(第2行程に相当する)、ノズルボディ1の全表層部に炭素、窒素および炭化物を高濃度に含有させた例である。即ち、Siが添加された機械構造用肌焼鋼によって形成されたノズルボディ1の全表層部は、その内層部に比べ炭素、窒素および炭化物を高濃度に含有するものである。
【0031】
ここで、ノズルボディ1の表層部に浸炭された炭素の含有量は、表面から0.05mm内部において0.6〜1.0重量%の範囲内が望ましい。第1〜第7実施例では表面から0.05mm内部において0.8重量%の例を示す。
また、ノズルボディ1の表層部に浸窒された窒素の含有量は、表面から0.05mm内部において0.4〜0.9重量%の範囲内が望ましい。なお、第1〜第4実施例は、表層部の窒素の含有量を0.4〜0.9重量%の範囲で変えたものである。
さらに、ノズルボディ1の表層部に形成された炭化物の含有量は、表面から0.025〜0.075mm内部において15面積%以上であることが望ましい。第5、第7実施例では表面から0.025〜0.075mm内部において17面積%の例を示す。
【0032】
浸炭浸窒処理の一例を示す。まず、容器内にノズルボディ1を配置し、その容器内に浸炭性ガスとアンモニアを封入し、容器内を高温(例えば900℃)高圧に上昇させる。これによって、ノズルボディ1の表層部の金属組成内に炭素と窒素が浸透する。次に、上記で高温に上昇したノズルボディ1を油で急冷する。これによって、金属組成内に浸透した炭素および窒素を定着させる。この処理によって、ノズルボディ1の表層部は、その内層部に比べ炭素および窒素の含有濃度が高くなる。
容器内に充填する浸炭性ガスおよびアンモニアの濃度や、処理回数、温度や圧力等によって炭素量および窒素量が調整できる。
また、高濃度浸炭浸窒処理は、上述した浸炭浸窒処理における浸炭性ガスの濃度を高め、金属表面に炭化物(Fe3 C)を形成する処理である。
【0033】
第1〜第4実施例における焼き戻し温度と硬さ変化との関係を、図2のグラフに示す。この図2に示すように、第1〜第4実施例のノズルボディ1は、破線で示す比較例に比べて明らかなように、高い温度で焼き戻しされても表面硬さが低下する不具合が抑えられる。
また、図2の各実施例のグラフから読み取れるように、表層部の窒素量を増すことにより、高温(図中では350〜400℃)で焼き戻しされた時の硬さ低下を小さく抑えることができる。
【0034】
第5実施例における焼き戻し温度と硬さ変化との関係を、図3のグラフに示す。この図3に示すように、第5実施例のノズルボディ1は、ノズルボディ1の表層部に炭化物を形成したことにより表面硬度が高まり、低温(図中200℃)で焼き戻ししても高い硬度を得ることができる。なお、図3中の破線は比較例の実験データを示すものである。
【0035】
第6実施例における焼き戻し温度と硬さ変化との関係を、図4のグラフに示す。この図4に示すように、第6実施例のノズルボディ1は、特に300℃付近で焼き戻しされた時の表面硬さの低下を抑えることができる。なお、図4中の破線は比較例の実験データを示すものである。
【0036】
第7実施例における焼き戻し温度と硬さ変化との関係を、図5のグラフに示す。この図5に示すように、第7実施例のノズルボディ1は、高い温度で焼き戻しされても表層部の硬度低下が極めて小さく抑えられる。なお、図5中の破線は比較例の実験データを示すものである。
【0037】
(実施例の効果)
図2〜図5のグラフからも明らかなように、比較品(従来技術)に比較して、高温下に晒されて焼き戻しされてもノズルボディ1の表層部の硬さ低下が抑えられる。
つまり、近年の排ガス規制の動向に伴い、噴射圧力の上昇および燃費向上のためにノズルボディ1が非常に高い温度(例えば300℃以上)に晒されても、ノズルボディ1の表層部の硬さ低下が抑えられる。
この結果、ノズルボディ1が非常に高い温度(例えば300℃以上)に晒されても、ニードル2が着座するシート面4の摩耗、ニードル2が摺接するガイド孔3の摩耗が防がれるとともに、ノズルボディ1の先端の強度低下も防がれる。さらに、ノズルボディ1とノズルホルダ(図示しない)との当接面の強度も高く維持される。
【0038】
また、上述のように、ノズルボディ1が非常に高い温度(例えば300℃以上)に晒されても硬度低下が防がれるが、ノズルボディ1を形成する機械構造用肌焼鋼(あるいはSiを添加した機械構造用肌焼鋼)は、軟化抵抗の高い高速度工具鋼に比較して材料費が安価で、且つ加工性も容易である。
このため、浸炭浸窒処理(あるいは高濃度浸炭浸窒処理)を施したとしても、軟化抵抗の高い高速度工具鋼でノズルボディ1を形成するよりもコストを低く抑えることができる。
つまり、信頼性の高い燃料噴射弁をコスト上昇を抑えて製造することができる。
【0039】
なお、上記実施例で開示した数値は本発明を説明するために用いた一例であって、適宜変更可能であることはいうまでもない。
また、上記実施例では、ノズルボディ1の全表面に浸炭浸窒処理あるいは高濃度浸炭浸窒処理を施した例を示したが、ノズルボディ1の外周を除く部分(つまり、ニードル2が着座するシート面4、ニードル2が摺接するガイド孔3、ノズルホルダが当接する当接面)のみに上記処理を施しても良いし、ニードル2が摺接するガイド孔3の内部のみ(シート面4を含む)に上記処理を施しても良いし、シート面4のみに上記処理を施しても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】噴射ノズルの先端部の拡大断面図である。
【図2】焼き戻し温度と硬さ変化との関係を示すグラフである(第1〜第4実施例)。
【図3】焼き戻し温度と硬さ変化との関係を示すグラフである(第5実施例)。
【図4】焼き戻し温度と硬さ変化との関係を示すグラフである(第6実施例)。
【図5】焼き戻し温度と硬さ変化との関係を示すグラフである(第7実施例)。
【符号の説明】
1 ノズルボディ
2 ニードル
4 シート面
6 噴孔

Claims (12)

  1. 燃料噴射用の噴孔を備えたノズルボディと、このノズルボディ内において変位して前記噴孔を開閉するニードルとを備えた内燃機関用燃料噴射弁であって、
    前記ノズルボディは、機械構造用肌焼鋼によって形成されるとともに、
    少なくとも前記ニードルが着座するシート面の表層部には内層部に比べ炭素および窒素が高濃度に含有されていることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。
  2. 請求項1の内燃機関用燃料噴射弁において、
    前記炭素の含有量は、表面から0.05mm内部において0.6〜1.0重量%の範囲内であり、
    前記窒素の含有量は、表面から0.05mm内部において0.4〜0.9重量%の範囲内であることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。
  3. 内部を変位するニードルによって燃料噴射用の噴孔が開閉されるノズルボディを機械構造用肌焼鋼によって形成する第1行程と、
    この第1行程で形成された前記ノズルボディにおいて、少なくとも前記ニードルが着座するシート面に浸炭浸窒処理を施す第2行程と、
    を備えることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁の製造方法。
  4. 燃料噴射用の噴孔を備えたノズルボディと、このノズルボディ内において変位して前記噴孔を開閉するニードルとを備えた内燃機関用燃料噴射弁であって、
    前記ノズルボディは、機械構造用肌焼鋼によって形成されるとともに、
    少なくとも前記ニードルが着座するシート面の表層部には内層部に比べ炭素、窒素および炭化物が高濃度に含有されていることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。
  5. 請求項4の内燃機関用燃料噴射弁において、
    前記炭素の含有量は、表面から0.05mm内部において0.6〜1.0重量%の範囲内であり、
    前記窒素の含有量は、表面から0.05mm内部において0.4〜0.9重量%の範囲内であり、
    前記炭化物の含有量は、表面から0.025〜0.075mm内部において15面積%以上であることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。
  6. 内部を変位するニードルによって燃料噴射用の噴孔が開閉されるノズルボディを機械構造用肌焼鋼によって形成する第1行程と、
    この第1行程で形成された前記ノズルボディにおいて、少なくとも前記ニードルが着座するシート面に高濃度浸炭浸窒処理を施す第2行程と、
    を備えることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁の製造方法。
  7. 燃料噴射用の噴孔を備えたノズルボディと、このノズルボディ内において変位して前記噴孔を開閉するニードルとを備えた内燃機関用燃料噴射弁であって、
    前記ノズルボディは、Siが添加された機械構造用肌焼鋼によって形成されるとともに、
    少なくとも前記ニードルが着座するシート面の表層部には内層部に比べ炭素および窒素が高濃度に含有されていることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。
  8. 請求項7の内燃機関用燃料噴射弁において、
    前記炭素の含有量は、表面から0.05mm内部において0.6〜1.0重量%の範囲内であり、
    前記窒素の含有量は、表面から0.05mm内部において0.4〜0.9重量%の範囲内であることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。
  9. 内部を変位するニードルによって燃料噴射用の噴孔が開閉されるノズルボディをSiが添加された機械構造用肌焼鋼によって形成する第1行程と、
    この第1行程で形成された前記ノズルボディにおいて、少なくとも前記ニードルが着座するシート面に浸炭浸窒処理を施す第2行程と、
    を備えることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁の製造方法。
  10. 燃料噴射用の噴孔を備えたノズルボディと、このノズルボディ内において変位して前記噴孔を開閉するニードルとを備えた内燃機関用燃料噴射弁であって、
    前記ノズルボディは、Siが添加された機械構造用肌焼鋼によって形成されるとともに、
    少なくとも前記ニードルが着座するシート面の表層部には内層部に比べ炭素、窒素および炭化物が高濃度に含有されていることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。
  11. 請求項10の内燃機関用燃料噴射弁において、
    前記炭素の含有量は、表面から0.05mm内部において0.6〜1.0重量%の範囲内であり、
    前記窒素の含有量は、表面から0.05mm内部において0.4〜0.9重量%の範囲内であり、
    前記炭化物の含有量は、表面から0.025〜0.075mm内部において15面積%以上であることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁。
  12. 内部を変位するニードルによって燃料噴射用の噴孔が開閉されるノズルボディをSiが添加された機械構造用肌焼鋼によって形成する第1行程と、
    この第1行程で形成された前記ノズルボディにおいて、少なくとも前記ニードルが着座するシート面に高濃度浸炭浸窒処理を施す第2行程と、
    を備えることを特徴とする内燃機関用燃料噴射弁の製造方法。
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