JP5566348B2 - 複合多孔膜とその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ミクロンサイズの対象物である、各種細菌類、酵母類、細胞等を効果的かつ効率的に分離することができ、しかも使用上における取り扱いや、種々のフィルター形態への加工を容易とする充分な膜強度を有する複合多孔膜に関する。
また、本発明は、血液濾過膜、及び全血又は輸血用血液製剤に代表される血球浮遊液から白血球を除去するに際し、血球浮遊液ロス量の少ない白血球除去浮遊液の製造方法、及び白血球除去フィルター装置に関する。
更に、本発明は、培養液中にて2種類以上の異なる細胞群を共培養する際に、異なる細胞群が互いに混じり合うことなく分離された状態を維持しながら、しかも異なる細胞間の効果的な接触を可能とする細胞培養用隔膜及び複合多孔膜を用いた細胞培養方法に関する。
細胞を扱う医療領域、バイオプロセス領域、再生医療領域などにおいては、効果的かつ効率的な細胞分離技術の開発が重要である。従来、主流であった遠心分離技術に加え、近年では細胞分離の効率化(濾過作業時間の短縮と低コスト化)を目指した分離用膜材料の開発や、抗体で修飾した磁気ビーズを用いる精密な細胞分離技術の開発などが精力的に行われている。中でも膜材料による細胞分離は、効率的な細胞分離技術として、医療領域やバイオプロセス領域で広く応用検討が進められている。
例えば医薬品製造分野では、動物細胞を利用してエリスロポエチン、ヒト成長ホルモン、ヒトインシュリン、インターフェロン等の高付加価値医薬製品を製造するようなバイオプロセスの開発が盛んに進められている。また、例えば浮遊細胞培養法によるバイオプロセスにおいては、培養槽にて大量培養された細胞と、有用成分を含む培地を分離する「細胞分離プロセス」、更に分離された培地に含まれる有用成分を単離する「精製プロセス」においても種々の膜材料が使用されている。バイオプロセスにおけるこのような細胞分離プロセス及び精製プロセスに掛かるコストは、トータルの医薬品製造コストにおいて大きなウェイトを占めるため、効率の良い細胞分離及び精製プロセスの開発が重要であり、具体的には細胞、細胞由来成分、培養液由来成分等による目詰まりを全プロセスに渡って効率よく回避しうるフィルター構造及び濾過システム設計が強く望まれている。
フィルターによる上記プロセス、すなわち細胞分離プロセスから有用成分の精製プロセスにおいて、目詰まりをできるだけ抑え、医薬品の製造コストパフォーマンスを向上させるには、まず培地からの細胞分離を初期の段階で如何に効果的(細胞濃縮率の向上)かつ効率的(濾過時間の短縮)に行うかが重要である。このような目的のためには、適切なプレフィルターの使用が有効であることが知られており、細胞分離に適した孔径、高い孔径均一性(孔径均一性の高い膜材料には目詰まりの原因となりやすい小孔径部が存在しない)、及び高い開孔率を有するメッシュ類がプレフィルターとして使用されることが多い。従って細胞分離においても、細胞を効率よく捕捉、分離しうる孔径と孔径均一性、及び迅速な濾過を可能とする高開孔率を有するフィルターが、好ましいと言える。
ところが、細胞(一般的に数ミクロンから数十ミクロンのサイズを有する)を分離又は除去するフィルターを考えた場合、濾過時における細胞の変形も考慮すると主に数ミクロンの孔径とその孔径均一性、更に高い開孔率を有するプレフィルターの使用が望ましい。しかし、例えば一般にプレフィルターとしてよく使用される高分子繊維系メッシュフィルターの孔径は、一辺20μm弱の正方形孔のものがもっとも小さいレベルのものであるため、細胞分離用フィルターとして用いた場合、細胞の抜けが多く効果的なフィルター(又はプレフィルター)として機能しないケースが多い。
一方、金属メッシュフィルターや特殊製法による高分子繊維系メッシュフィルターには孔径が数μmのものも存在するが、このような場合には金属繊維や高分子繊維の直径を極端に小さくすることができないため、結果的に開孔率が著しく低下してしまっているのが普通である。また、透水性が低くフィルターの目詰まりも容易に起こってしまうため、これも効果的な細胞分離又は除去用のフィルターにはなり得ない。
メッシュフィルターではない形状のものとして、ポリカーボネート等の薄膜に電子線やイオンビームを照射後、エッチング工程を経て製造される「エッチング膜」が広く知られている。エッチング膜は均一な孔径の円筒状孔群を有し、孔サイズの均一性も非常に高いが、製造プロセス上、数%の開孔率しか得られない(開孔率を上げようとすれば孔径均一性が失われる)。またエッチング膜を分離膜として用いる場合、強度保持のため膜厚は最低でも10μmが必要であるが(通常は15〜20μm)、孔径に比べて孔長が大きくなってしまうため濾過抵抗が大きくなり、濾過効率が十分であるとは言えない。また、このような製法による円筒状の孔は直孔型であり多くは独立で存在するため、膜内部で孔が互いに連結する(膜内部で孔同士が連通する)ことは極めて少なく、これも濾過効率が低い要因となる。
特許文献1では、微孔性の多孔層(A)と直孔型の孔を有する多孔層(B)とが積層構造で存在する多孔性高分子膜が開示されており、多孔層(A)が機械的強度を担う結果、多孔層(B)であるエッチング膜を極めて薄く(10μm以下)することが可能であることが述べられている。しかし、多孔層(B)の開孔率、孔構造、及び膜の内部構造は従来のエッチング膜と同様であるため、濾過効率はまだ充分とは言えず、これも効率的な細胞等の分離フィルターにはなり得ない。
また特許文献2には、マスクを介して高分子膜に可視ないし遠紫外域の光を照射し、高分子膜の光照射領域を除去することで、孔径のコントロールされた多孔膜を製造する方法が開示されており、更にそのような多孔膜を不織布や合成紙といった基材上(支持体)に製膜する(複合化する)方法も開示されている。この方法により得られる基材と一体化された多孔膜は、特許文献1に開示された多孔性高分子膜と構造は似ているものの、孔形成の領域をマスクで制御できるため、開孔率を比較的高くすることが可能となり濾過効率も若干良くなることが期待される。しかし、光照射で孔を形成している以上、孔構造及び膜の内部膜構造がエッチング膜と同様であることには変わりがない。また、この複合化方法は、基材上に高分子溶液をゴムローラによって回転塗布しこれを乾燥させて多孔膜を形成させるものであるので、薄膜化が困難である上、支持体基材中へ高分子溶液が入り込みやすく多孔膜の薄膜化・膜厚均一化が困難で、複合膜の構造は不均質なものになり易い。特に、この現象は、濾過抵抗の低い又は細胞が容易に移動可能な、大きな平均気孔径を有する支持多孔体基板上に製膜する場合は顕著になる。よって、この技術により得られる膜材料も効率的な細胞等の分離フィルターにはなり得ない。
すなわち、数μm(例えば1〜5μm程度)の孔径を有する孔群を、高い孔径均一性かつ高開孔率にて有するフィルター材料であり、その孔が膜厚方向に短く(膜厚が薄く)、膜内部にて互いに連結しているような構造をもつフィルター材料であって、しかも機械的強度に優れるものであれば、効果的かつ効率的な細胞等の分離用フィルター(又はプレフィルター)として有用となる。
最近、非特許文献1及び2において、高分子溶液からの溶媒揮発過程において潜熱が奪われることにより高分子溶液上に凝縮生成する微小水滴が鋳型となり、最終的に数μmオーダーの孔直径の貫通孔を、高い孔径均一性及び高い開孔率にて有するハニカム構造多孔薄膜が、種々の素材を用いて作成できることが示されている。この薄膜は、厚みが貫通孔の直径とほぼ同様の薄さであり、しかも隣接する孔が膜内部でも連結することで膜平面方向に連通した構造をとることができる。このような構造を有するハニカム構造多孔薄膜は、効果的かつ効率的な細胞分離用フィルター(又はプレフィルター)としての展開が期待される。
このようなハニカム構造多孔薄膜は、有機高分子化合物の疎水性有機溶媒溶液を平滑な固体基板上(例えばガラス、シリコンウエハー、金属板、高分子固体ゲル等)にキャストして、相対湿度が40〜95%のような高湿度空気を吹き付けることでハニカム構造体を基板上に形成させ、それを剥がし取ることにより得られる。しかし、得られるハニカム構造多孔薄膜の強度は一般に非常に低いため、固体基板上からの剥離はゆっくりと注意深く行わなければ膜破れが生じてしまう。従って、多くの場合エタノール等に薄膜を予め湿潤させて剥離性を向上させておく必要がある。すなわち、上記のような平滑固体基板を用いる生産プロセスは煩雑かつ生産安定性に乏しく、当然ながら成膜プロセスの連続化又は高生産性を実現するプロセス化が非常に困難となることが予想される。また平滑固体基板を用いる場合、鋳型となる水滴と該固体基板との親和性が不十分であればハニカム構造多孔薄膜の貫通性が不十分になるケースが多く、貫通孔の形成が不十分であればフィルター材料としての機能を発揮することはできない。
特許文献3には、疎水性有機溶媒溶液を水面上に流延して同様にハニカム構造を形成させ、これを5mmφのフレームですくい取ってハニカム構造多孔薄膜を得る方法が示されている。このような水基板による成膜では貫通孔の形成は容易となる傾向が見られるものの、水面上への溶液の均一な流延が難しいため成膜の大面積化が困難である。また、素材によっては溶媒の除去過程において膜の収縮による皺発生が起こる。従って、この方法でも高生産性を実現するプロセス化は非常に困難であることが予想される。
更に上記のような方法により得られるハニカム構造多孔薄膜材料は、膜強度が極めて低い。従って、それ単独でバイオプロセス領域や医療領域における細胞分離用フィルターとして用いようとすれば、膜破れが高い頻度で起こってしまうことが予想される上、平膜以外の形態、例えばロール状、プリーツ状、円筒状、袋状のような形態に加工して使用することも困難である。すなわち、このような薄膜材料はそのままでは実用的なフィルター材料にはなり得ず、実用的な機械的強度付与が必須である。
数μmの孔直径を有する孔群を高い孔径均一性かつ高開孔率にて有し、しかも濾過効率に極めて優れた膜構造を有しており、更に実用的な機械的強度に優れた膜材料は、効果的かつ効率的な細胞等の分離用フィルター(又はプレフィルター)として有用となる。そのような膜材料は、特に血液濾過分野における血球細胞の分離用途、具体的には全血からの血漿分離や各種血液製剤からの白血球除去用途において有用となる。
近年、医療分野において、輸血療法が適用された患者の身体的な負担を軽減するために、全血や輸血用血液製剤(赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤等)に代表される血球浮遊液から白血球を高度に除去することの重要性がますます高まってきている。
白血球を除去する方法として、不織布のような繊維状濾材や三次元網状に連通孔を有する多孔質体をフィルター濾材として血球浮遊液を濾過するフィルター法がある。このフィルター法は、白血球除去能が高いこと、操作が簡便であること、コストパフォーマンスに優れていること、などの利点を有するため、現在医療現場において広く実施されている。この用途に使用されるフィルターは「白血球除去フィルター」として知られている。
代表的な白血球除去フィルターとしては、特許文献4又は特許文献5に開示されているようなポリエステル等の極細繊維からなる不織布をフィルター濾材とするもの、及び特許文献6に開示されているようなポリウレタン等からなる三次元網目状に連通孔を有する多孔質体をフィルター濾材とするものが挙げられる。それらを用いることにより白血球除去能が99.99%以上に達することが開示されている。
白血球除去フィルターを用いて血球浮遊液の濾過を行う場合、濾過終了後のフィルター濾材に血球浮遊液が残存してしまうため、貴重な血球浮遊液(特に高価な血液製剤)のロスとなってしまう。従って多量の血液製剤を扱うユーザー側のコストパフォーマンス向上のためには、白血球除去フィルターの白血球除去性能(99.99%以上)を保ちつつも、その上で、フィルター濾材容積を減らして血球浮遊液ロスを低減できるような製品開発
のニーズが非常に高くなっているのが現状である。
既述の特許文献4には、濾材である不織布表面に非イオン性親水基と塩基性含窒素官能基を含有するコーティング剤(例えば2−ヒドロキシエチルメタクリレートと2−(N,N−ジエチルアミノ)エチルメタクリレートの共重合体)をコーティングした後、このコーティング不織布を複数枚重ね合わせて構成された白血球除去フィルターが開示されている。この場合、白血球除去(捕捉)は吸着メカニズムによってなされるとされており、塩基性含窒素官能基は白血球の選択的吸着効果を担い、非イオン性親水基は各種血球成分の非選択的吸着の抑制効果を担うとされている。
このような白血球除去フィルターにおいて、白血球除去能を維持したまま濾材容積を減らすためには、コーティング不織布の単位体積当たりの白血球除去能を上昇させる目的で、白血球選択親和性官能基である塩基性含窒素官能基の含有量を高めればよいと考えられる。しかし実際には、塩基性含窒素官能基の増量によって白血球だけでなく他の血球成分(赤血球や血小板)の吸着能も上昇するため(非選択的吸着)、逆に白血球の選択捕捉性は低下する上、ひどい場合には多量の血球成分の吸着によるフィルター閉塞も起こってしまう。そのため、塩基性含窒素官能基の増量も効果的とは言えない。
一方、特許文献7には、孔径が3〜10μmのエッチング膜を用いて血液中の白血球を除去する方法が開示されている。また、特許文献8には、非特許文献1及び2に記載されたハニカム構造多孔薄膜を濾材として、人血液の濾過を行ったところ優れた白血球の選択的除去能が得られたことが記載されている。これらの結果は、数μmオーダーの均一な孔径を有する新規な多孔薄膜材料を用いることにより、人血液中の白血球(直径約15μm)、赤血球(直径約7μm)、及び血小板(約3μm)から白血球のみをサイズ効果によって選択的に捕捉しうることを示す興味深い結果である。このような濾材は、新しい血液細胞分離フィルター材料としても注目される。
但し、このようなエッチング膜やハニカム構造多孔薄膜を白血球除去フィルターの濾材として用いる場合、多孔薄膜表面における表面的な白血球捕捉にとどまるため、例えば450cmの人全血に含まれる白血球をフィルターが閉塞することなく全て捕捉するには極めて大面積の多孔薄膜が必要となる。その結果、フィルターサイズが従来よりも著しく大きくならざるを得ないため、1)医療現場における作業性が著しく低下する、2)フィルターホルダー(又はフィルターハウジング)が著しく大きくなるため生産コストが大幅に上昇する、3)大面積の多孔薄膜の成膜は力学強度的にも製品管理(主にピンホールや孔径均一性の管理)が非常に困難であり、このままでは、実用的な技術であるとは言い難い。
以上、説明したように、白血球除去フィルターにおいて、白血球除去能は維持しながら、フィルター濾材中に残存する血球浮遊液量を大幅に減らすためには、根本的に濾材容積の大幅な削減が必要である。それを実現するためには、少ない濾材で高い白血球除去能を発揮させる白血球除去技術の開発が必須である。しかし、従来検討されてきたように、各血球成分とフィルター濾材表面との微妙な化学的相互作用のバランスの設計や官能基の最適化だけでそれを達成することは困難であった。
また、医療領域及びバイオプロセス領域では、各種の有用な細胞を効果的に増殖させる細胞培養を目指し、培養液組成の探索、効果的な細胞増殖用足場の設計等に関する様々な技術開発がなされている。
特に近年では、各種臓器に分化する潜在能力を有する幹細胞を扱う再生医療が注目され、血管、心筋、膵臓等のいくつかの種類の臓器再生技術が臨床応用の段階に入っている。このような再生医療を更に発展させるためには、種々の基礎及び臨床実験を行うための大量の幹細胞が必要であるため、現在では幹細胞ソースからの幹細胞採取技術の開発に加え、採取した幹細胞を未分化のまま効果的に体外増殖するための培養技術の開発が注目されている。
例えば、造血幹細胞を移植する再生医療は、従来から骨髄移植に代表される急性骨髄性白血病治療や再生不良性貧血治療においてその有効性が注目されてきた。最近では最重症の末梢動脈閉塞性疾患(バージャー病、閉塞性動脈硬化症、糖尿病性壊疽等)に対する血管新生治療においても再生医療の有効性が注目されており、造血幹細胞移植による血管新生療法は医学会において認知された治療法になりつつある。したがって、上記疾患を含めた各種疾患への造血幹細胞移植治療を今後更に幅広く展開して行くためには、研究及び臨床応用のための十分な量の造血幹細胞を確保するための技術開発が必要である。
造血幹細胞を採取するためのソースとしては、現在では骨髄、末梢血及び臍帯血が代表的である。造血幹細胞の採取時のドナーに対する非侵襲性及びのドナーの拘束時間短縮の観点から、最近では臍帯血由来の造血幹細胞移植例が急激に伸びている。例えば、2003年4月には臍帯血移植の月間件数(47件)が、骨髄移植件数の46件をはじめて上回った。
しかし、臍帯血をソースとする造血幹細胞採取の欠点は、一人のドナーからの採取量が少ないことであり、臍帯血由来の造血幹細胞移植は、身体の小さい小児患者への適用が主体となっているのが現状である。したがって、一人のドナーの臍帯血から採取された造血幹細胞を、体外にて未分化のまま効果的に増殖することができれば、成人患者への移植も無理なく行えるようになるため、非常に画期的な技術になると言える。
すなわち、造血幹細胞移植治療には、一人のドナーに由来する造血幹細胞をより多く採取して移植することが重要であるため、臍帯血由来の造血幹細胞だけでなく、末梢血及び骨髄由来のものも含め、造血幹細胞を効果的に増殖させようとする研究が盛んに行われている。
最近、ある種のサイトカインの存在下、臍帯血由来の造血幹細胞をマウス骨髄由来ストローマ細胞と共培養すると、未分化のCD34陽性細胞の増殖が顕著に促進されたことが報告されている(非特許文献3)。この場合、造血幹細胞とマウス骨髄由来ストローマ細胞は、ある種の高分子隔膜材料で分離された状態で共培養されているが、造血幹細胞は高分子隔膜材料の孔を介し、ストローマ細胞から伸びた絨毛と接触することによって未分化のまま効果的に増殖すると述べられている。このように隔膜材料で分離した状態で造血幹細胞を異なる細胞と共培養し、隔膜の孔を介した細胞間接触によって造血幹細胞を増殖するような培養技術が発展すれば、増殖後の造血幹細胞の分離採取も容易となる。従って、このような共培養は非常に実用的な造血幹細胞の体外増殖法となる可能性がある。
上記のように、ある種の有用細胞を異なる細胞との共培養によって増殖させ、しかも増殖後に有用細胞を容易に、かつ、効率良く回収するためには、多数の孔を有する隔膜材料の使用が有効である。このような用途に使用される隔膜材料に要求される性能としては、
(1)細胞自体の隔膜間移動が起こらない範囲においてできるだけ大きな孔を有することにより、細胞間接触のみを効果的に行えること、
(2)効果的な細胞間接触を行うため隔膜の開孔率が高いこと、
(3)同じく効果的な細胞間接触を行うため隔膜の膜厚が小さいこと、
(4)増殖後の有用細胞回収作業等を容易にする高い膜強度を有すること、
(5)効果的な細胞培養に適した種々の膜形態に加工できること、
等が挙げられる。
まず、上記の条件(1)を満たすためには、孔径均一性が高い膜材料を選択し、そのような孔径が均一な膜材料から細胞自体の隔膜間移動が起こらない範囲において、できるだけ大きな平均孔径を有するものを隔膜として用いることが好ましい。
そのような孔径均一性の高い膜材料としては、細胞の分離又は除去フィルターのところで述べたように、例えば、高分子繊維系メッシュ、金属メッシュ、エッチング膜、微小液滴を鋳型として製膜される特殊な多孔性薄膜が挙げられる。
一般的な高分子繊維系メッシュは孔径が大きく、細胞培養用隔膜として用いる場合、一般的な細胞では孔を介した細胞移動が起こる。特に、直径が7μm前後であるとされる造
血幹細胞の培養用隔膜には使用することはできない。
また金属メッシュや特殊製法による高分子繊維系メッシュには孔径が10μm未満のものも存在するが、開孔率が著しく低下しているのが普通であるので、上記の条件(2)を満足できず、隔膜として使用できても効果的な細胞間接触を行うことができず、細胞共培養用隔膜としては実用的とは言えない。
エッチング膜は、非特許文献3においても隔膜として使用されているが、低開孔率であり、メッシュと同様に上記の条件(2)を満足できず、やはり実用的な細胞共培養用隔膜にはなり得ない。特許文献2の支持体と複合化された膜は、条件(2)も多少満たされるがいまだ不充分である。また、前述したように、支持体上に高分子溶液をゴムローラによって回転塗布するので、薄膜化が困難である上、支持体基材中へ高分子溶液が入り込みやすく多孔膜の薄膜化・膜厚均一化は困難である。そのため複合膜の構造は不均質なものになり易い。よって、多孔膜を均一な薄膜として得ることが難しいので、上記の条件(3)を満たすことができず、この技術にて得られる膜材料も効率的な細胞培養隔膜にはなり得ない。
微小水滴を鋳型とする特殊な多孔性薄膜は、上記の条件(1)〜(3)を満たすため効果的な細胞培養用の隔膜材料として使用できる可能性がある。しかし、膜厚が数ミクロンであるため、強度が非常に低く、膜の破損が容易に起こる。したがって、大量の細胞の培養を目指して大きな膜面積で使用したり、また大量の細胞増殖や、目的細胞の分離採取に適した種々の形状(袋状やロール状等)に加工して使用するといったことも困難であるため、上記の条件(4)及び(5)を満たさず、このままでは実用的な細胞培養用隔膜にはなり得ない。
特開平2−180625号公報 特開昭56−135525号公報 特開2001−157574号公報 国際公開第87/05812号パンフレット 米国特許第5,298,165号 特開平5−34337号公報 特開昭54−46811号公報 特開2003−149096号公報
Polymer Preprints,Japan Vol.50 ,No.12(2001),2804ページ. Polymer Preprints,Japan Vol.51 ,No.5(2002),961ページ. 最新医学、58巻、1号(2003)、63ページ.
本発明の課題は、ミクロンサイズの対象物(例えば培養細胞や血液細胞類)の精密なサイズ分離が効果的かつ効率的に実施可能であり、しかも充分な力学的強度を有することで使用上の取り扱いが容易であり、種々の膜形態への加工も可能となる、膜材料を提供することである。また、このような膜材料を濾材として用いることで、高い白血球除去能を維持したまま濾材容積の大幅な低減を図り、濾過操作後の血球浮遊液のロス量を著しく低減し得る、白血球除去血球浮遊液の製造方法、及び白血球除去フィルター装置を提供することにある。
また、本発明の課題は、このような膜材料を、細胞培養液中にて2種以上の異なる細胞
群を共培養する際の細胞培養隔膜として用いることで、異なる細胞群が互いに混じり合うことなく分離された状態を維持しながら、しかも分離された異なる細胞同士の細胞間接触を効果的に可能とする、細胞培養方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成させるに至った。
本発明者らは従来の技術で述べた不織布を用いる白血球除去フィルターに関して、不織布の枚数と白血球除去能の関係を検討した結果、不織布が少ない範囲内では白血球除去能は不織布の枚数増加に伴って増加するが、ある程度不織布枚数が多くなってくるとその効果は次第に小さくなってくることを見出した。そこで、白血球を選択的に捕捉し得るサイズの孔群を高いサイズ均一性にて有し、しかも実用的な機械的強度を有する本発明の複合多孔膜と、不織布や三次元網状に連通孔を有する多孔質体とを特定の条件で組み合わせて使用すると、高い白血球除去能を維持したまま大幅な濾材容積の低減化を実現できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)有機高分子化合物を含んでなる少なくとも一枚の多孔膜と、これに隣接する少なくとも一枚の支持多孔膜とを含んでなる複合多孔膜であって、多孔膜に隣接する支持多孔膜の面の少なくとも一部において、多孔膜を構成する有機高分子化合物が支持多孔膜中に侵入しており、多孔膜の膜平面を顕微鏡写真により観察した場合の、多孔膜の開孔率は15〜80%、平均孔直径D(μm)は0.1≦D≦20、孔直径の標準偏差σd(μm)は0≦σd/D≦0.5であって、多孔膜が有する孔の貫通孔の割合が30%以上であり、かつ、膜断面を顕微鏡写真にて観察した場合の多孔膜の平均膜厚T(μm)が0.5≦T≦20、かつ0.05≦T/D≦2であり、多孔膜の有する孔が、多孔膜内部にて隣接する孔が連通している構造であって、また、支持多孔膜が1〜100μmの平均気孔径の連通孔を有する不織布である複合多孔膜。
(2)多孔膜が支持多孔膜上に有機高分子化合物の溶液をキャストすることにより得られた膜である上記(1)に記載の複合多孔膜。
(3)前記支持多孔膜の不織布を形成する繊維の径が0.1〜50μmであり、かつその目付が10〜200g/mである上記(1)又は(2)に記載の複合多孔膜。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の複合多孔膜を含んでなる血液濾過膜。(5)細胞培養液中で、互いに異なる細胞群を相互に接触可能な状態で仕切って、細胞を共培養するために用いられる、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の複合多孔膜を含んでなる細胞培養用隔膜。
(6)上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の複合多孔膜の製造方法であって、有機高分子化合物の疎水性有機溶媒溶液と相溶しない液体を支持多孔膜に保持させ、支持多孔膜上に、有機高分子化合物の疎水性有機溶媒溶液をキャストし、次いで、膜近傍の相対湿度が20〜100%の環境下で疎水性有機溶媒を蒸発させて該有機高分子化合物を主成分として含んでなる多孔膜を支持多孔膜上に成膜する工程を含む、上記製造方法。
(7)有機高分子化合物の疎水性有機溶媒溶液と相溶しない液体が水である上記(6)に記載の方法。
(8)細胞培養液中に上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の複合多孔膜を配置して、少なくとも2つの培養領域を設け、少なくとも2つの隣接する培養領域に、互いに異なる細胞群をそれぞれ導入して細胞を共培養することを含む細胞培養方法。
(9)上記(5)に記載の細胞培養用隔膜を含んでなり、細胞培養液中で互いに異なる細胞群を相互に接触可能な状態で仕切って、細胞を共培養することを特徴とする細胞共培養装置。
(10)上記(5)に記載の細胞培養用隔膜の多孔膜面を筒状体の1つの端面に接着したカップ型培養容器と、該カップ型培養容器を内部に静置可能な状態で収納できる培養液浸漬用容器と、を備えることを特徴とする上記(9)に記載の細胞共培養装置。
本発明の複合多孔膜は多孔膜と支持多孔膜を含んでなる。サイズ分離を支配する多孔膜はミクロンオーダーの孔径と高い孔径均一性、及び高い開孔率を有する。多孔膜の膜厚は薄くて均一性が高く、多孔膜の内部は濾過抵抗が低い構造である。その上、支持多孔膜が充分な機械的強度を付与するため、本発明の複合多孔膜は使用上の取り扱いが容易であり、種々の膜形態への加工が可能である。その結果、本発明の複合多孔膜を用いることで各種細胞などの精密なサイズ濾過が、効果的かつ効率的に可能となる。また、本複合多孔膜を用いる白血球除去フィルター装置では、高い白血球除去能を維持したまま濾材容積の大幅な低減を図ることができるので、濾材容積に起因する血球浮遊液(全血、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤など)の濾過時におけるロス量を大幅に低減することが可能となり、医療現場における血液製剤等にかかるコストパフォーマンスが大幅に向上する。
また、本発明の複合多孔膜を細胞培養用隔膜として用いることで、細胞培養液中の異なる細胞群が互いに混じり合うことなく分離された状態を維持しながらも、薄い均質な多孔膜を介した効果的な異なる細胞同士の細胞間接触を可能とする。したがって、異なる細胞との接触による目的細胞の効果的な増殖(例えば、分化を抑制した状態での増殖)が可能である。しかも、支持多孔膜によって充分な力学的強度も付与されているため、実用的な細胞増殖に適した大面積での使用や種々の膜形態へ加工が容易となり、その結果、多量の目的とする細胞の増殖と、その増殖後の分離操作が容易である。
実施例1で得られた複合多孔膜の、多孔膜側表面の走査型電子顕微鏡写真(1000倍)である。 実施例1で得られた複合多孔膜の、多孔膜側表面の走査型電子顕微鏡写真(3000倍)である。 実施例1で得られた複合多孔膜の、断面の走査型電子顕微鏡写真(3000倍)である。 内部にて膨らんだ球状貫通孔を有する多孔膜断面の概念図である。 一体型白血球除去フィルター装置の概念図である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の複合多孔膜は、有機高分子化合物を含んでなる少なくとも1枚の多孔膜と、これに隣接する少なくとも一枚の支持多孔膜とを含んでなる。
複合多孔膜は、多孔膜と支持多孔膜が隣接、かつ、接着した構造(多孔膜が支持多孔膜に侵入した構造)を有していればよい。例えば、多孔膜1枚と支持多孔膜1枚が複合化された2層構造(すなわち、「多孔膜/支持多孔膜」の構造)、支持多孔膜の両面が多孔膜である3層サンドイッチ構造(「多孔膜/支持多孔膜/多孔膜」の構造)、多孔膜の両面が支持多孔膜である3層サンドイッチ構造(「支持多孔膜/多孔膜/支持多孔膜」の構造)、支持多孔膜の片面に2層の多孔膜が存在する3層構造(「多孔膜/多孔膜/支持多孔膜」構造)、等の構造が挙げられる。多孔膜1枚と支持多孔膜1枚が複合化された2層構造(すなわち、「多孔膜/支持多孔膜」の構造)は製造が簡単であり、好ましい。
まず、複合多孔膜の有機高分子化合物を含んでなる多孔膜(支持膜ではない方)について説明する。
多孔膜が有する孔を、多孔膜平面に対して垂直な方向から見た時の孔の形状は、特に外力(例えば、複合多孔膜自体を一軸方向に引っ張る)を加えない限り円形である。孔の形状は疎水性有機溶媒溶液の組成や製造条件(例えばガスの吹き付けの強さ等)によって若干変形して楕円状になったりすることもある。本発明における円形とは、完全な真円の他に、このような楕円状も含む。
多孔膜の膜平面を顕微鏡写真により観察した場合の、多孔膜の開孔率は10〜90%、平均孔直径D(μm)は0.1≦D≦50、孔直径の標準偏差σd(μm)は0≦σd/D≦0.6であって、多孔膜が有する孔の貫通孔の割合が30%以上であり、かつ、膜断面を顕微鏡写真にて観察した場合の、多孔膜の平均膜厚T(μm)が0.05≦T/D≦2である。多孔膜の有する孔は、多孔膜内部にて隣接する孔が連通している構造をとる。逆に、開孔率、D、σd、貫通孔の割合、T、膜内部構造を、実験的に規定できないものは、本発明の多孔膜の範囲外である。例えば、支持多孔膜として好ましく使用される不織布や、主に相分離法にて得られる3次元網状に連通孔を有する多孔質体は、実施例に記載の方法ではこれらを規定することが困難であるので、本発明にいう多孔膜とは明らかに異なる。
多孔膜の膜平面の開孔率は10〜90%であり、好ましくは15〜80%、より好ましくは20〜70%、最も好ましくは25〜60%である。開孔率が10%未満であると、濾過速度が遅くなったり、隔てられた異なる細胞間の接触効率が低くなったりする。また、90%を超えると、多孔膜の強度が著しく低下するため、膜の破損などの原因となる。
平均孔直径D(μm)の値は、0.1≦D≦50、好ましくは0.1≦D≦20、より好ましくは0.5≦D≦20、最も好ましくは0.8≦D≦10である。Dが50μmを超えると、一般的なミクロンサイズの細胞等の分離が困難となるし、異なる細胞を効果的に隔てることが難しい場合もある。Dが0.1μmより小さいと孔が小さすぎて短い濾過時間での効率的な細胞分離が行われにくいし、隔てられた異なる細胞間の接触効率が低くなる場合がある。
孔直径の標準偏差σd(μm)は、0≦σd/D≦0.6であり、好ましくは、0≦σd/D≦0.5、より好ましくは0≦σd/D≦0.4、最も好ましくは0≦σd/D≦0.3である。σd/Dが0.6を超えると、孔直径の大きさの分布が広くなり、分離対象物質の効率的な分離、更には精密なサイズ分離性能が不十分となる。
本発明の複合多孔膜は、多孔膜に隣接する支持多孔膜面の少なくとも一部において、多孔膜を構成する有機高分子化合物が支持多孔膜中に侵入していることを特徴とする。例えば、複合多孔膜を構成する支持多孔膜が不織布の場合、複合多孔膜における多孔膜の表面を電子顕微鏡で観察すると、多孔膜が不織布の一部の面(繊維部分や繊維交絡部分)に侵入した結果、孔形状が乱れたり、孔が多孔膜の裏面(支持多孔膜側)において閉塞したりしている状態(非貫通構造)を観察することができる。
すなわち本発明の複合多孔膜においては、多孔膜を構成する有機高分子化合物が支持多孔膜の一部に侵入しているため、その侵入部分において、支持多孔膜の一部(例えば不織布の場合、それを構成する繊維)が多孔膜の孔貫通性を低下させ孔が閉塞してしまう結果(その状態は図1及び2にて観察される)、多孔膜が有する孔の全てが貫通した状態となることは極めて稀である。
本発明の複合多孔膜においては、多孔膜が有する貫通孔の割合は30%以上であり、好ましくは40%以上であり、より好ましくは50%以上、最も好ましくは60%以上である。貫通孔の割合が30%未満であると、濾過速度や隔てられた異なる細胞間の接触効率が低下するだけでなく、本来貫通孔を通過するサイズの対象物が、貫通していない孔に入り込んだまま捕捉された状態になるため、サイズ分離効果が低下する。なお多孔膜の貫通孔の割合は、成膜条件(例えばキャストする疎水性有機溶媒溶液の濃度やキャスト量、溶媒の種類等)によっても影響を受ける。
本発明において、多孔膜の「貫通孔」とは、多孔膜のある任意の孔Pに注目した場合、多孔膜の膜平面の電子顕微鏡写真から実測される孔Pの面積(例えば孔形が円形であればその孔直径Dから計算される(D/2)πの値)をS(P)とすれば、その孔Pを通して反対側の支持多孔膜の構造が観察できる領域(いわゆる貫通領域)の面積がS(P)の70%以上であるものをいう。
本発明において「貫通孔の割合」とは、多孔膜の膜平面の電子顕微鏡写真から観察され
る孔のうち貫通孔の割合をいう。例えば、「孔の貫通率が50%」とは、10個の孔があれば、その中の5個が「貫通孔」であることを意味する。
多孔膜の平均膜厚T(μm)は、複合多孔膜の断面を顕微鏡(主に電子顕微鏡)により観察した場合に測定することが可能であり、その値は、0.05≦T/D≦2である。好ましくは0.1≦T≦50であり、より好ましくは0.1≦T≦20、さらに好ましくは0.5≦T≦20、最も好ましくは0.8≦T≦10である。Tが0.1未満であると多孔膜の強度が小さくなり、濾過時における膜破れの原因となり易い。また、Tが50を超えると隔てられた異なる細胞間の接触が困難になったり、また膜厚は平均孔直径Dと相関するため、必然的に孔径も大きくなり、一般的なミクロンサイズの細胞等の分離が困難となる。
膜厚の標準偏差σt(μm)は、0≦σt/T≦0.5であり、好ましくは、0≦σt/T≦0.4、より好ましくは0≦σt/T≦0.3である。σt/Tが0.5を超えると、膜厚の分布が広くなり、部分的に隔てられた異なる細胞間の接触が困難になり効果的な接触が難しい場合がある。
多孔膜の有する孔は膜内部にて隣接する孔が連通していることが特徴である。例えば多孔膜断面の構造は、図4のような内部球状構造(内部に膨らんだ構造)であることが好ましく、その結果隣接する孔は連通しているため(球状貫通孔1)、エッチング膜のような独立した円筒状構造と比較すると多孔膜内部における流体の濾過抵抗は著しく小さくなり、高い濾過効率を得ることが可能となる。また、支持多孔膜と複合化した際に、支持多孔膜の一部が孔の貫通性を阻害するような場合でも、膜平面方向に連通しているので、支持多孔膜により貫通性を阻害されたような孔でも濾過に寄与することが可能である。なお多孔膜の有する孔の全てが、隣接する孔と膜内部にて連通している必要はないが、連通部が多いほど流体の濾過抵抗が小さくなるので好ましく、その連通した構造は膜厚と同様に、複合多孔膜の断面を顕微鏡(主に電子顕微鏡)により観察することが可能である。
このような膜構造の製造方法は特に限定されるものではないが、後述するような、水滴を鋳型とした製膜方法で作られる多孔膜内部では、隣接する孔が連通している部分が多く見られるので、この製膜技術を本発明の複合多孔膜の製造に好ましく用いることができる。
多孔膜を形成する有機高分子化合物としては、用いる疎水性有機溶媒に溶解するものであれば制限されない。例えば、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酢酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペートなどのポリエステル類、ポリウレタン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリビニルアセタール類、ポリアミド類、ポリスチレン類、ポリスルホン類、セルロース誘導体、ポリフェニレンエーテル類、ポリカーボネート類などの単独素材、これらから選ばれる2種以上のポリマーアロイやブレンド物、又は上記ポリマーを形成するモノマーの共重合体などが挙げられるが、上記の例に限定されるものではない。
次に、支持多孔膜について説明する。
支持多孔膜は、複合多孔膜を濾過膜として用いる場合は濾過速度を損なうことなく、多孔膜を支持・補強し、複合多孔膜に充分な力学的強度を付与する機能を有するので、平均気孔径が大きいほうが好ましい。また、細胞培養用隔膜として用いる場合は、支持多孔膜は力学的強度と、場合によっては培養細胞の足場としての機能を有し、しかも多孔膜を介した細胞間接触を可能とするため、細胞が支持多孔膜内を移動できる孔サイズを有することが好ましい。したがって支持多孔膜は、平均気孔径0.5D(μm)以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは1〜100μmの連通孔を有する。平均気孔径が0.5D(μm)未満であると、効率のよい濾過速度が得られにくい場合や、細胞が移動しにくくなり、多孔膜を介した効果的な細胞間接触が困難になる場合がある。平均気孔径が、100μmを超えると、接着性が低くなり部分的に多孔膜を支持する強度が弱くなる場合がある。
「平均気孔径」は、パームポロメーター(Porous Materials,Inc
.製)を用い、ASTM−F316−86に記載されているバブルポイント法に準じて測定される値である。
連通孔とは、支持多孔膜の一方の膜面から反対側の膜面にかけて連通した孔のことであって、その連通孔を通して液体やガスが通過するとこができるのであれば、その孔の膜表面の形状や膜内部の構造はどのようなものであってもよい。
複合多孔膜を構成する支持多孔膜の膜厚は、大きすぎると種々のフィルター形態への加工性が低下し、しかも濾過速度が著しく低下する場合や細胞の移動性が低下する場合もあるので、膜厚は好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下、最も好ましくは1mm以下である。支持多孔膜が薄すぎると、支持層としての役割を果たせなくなる場合があるので、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、最も好ましくは10μm以上である。
支持多孔膜の具体例としては、天然繊維、合成高分子繊維、再生高分子繊維、ガラス繊維に代表される無機繊維、有機/無機複合繊維などから得られる不織布や、有機高分子素材を、熱溶融した状態、溶媒によって溶解した溶液状態、可塑剤を用いて可塑化した状態等から、発泡法、相分離法(熱誘起相分離法や湿式相分離法)、延伸法、焼結法等によって得られる三次元網状連通孔を有する多孔質体(多孔質膜)が挙げられる。また同様に天然繊維、合成高分子繊維、再生高分子繊維、ガラス繊維、有機/無機複合繊維などから得られる織布や編布、更に有機素材、無機素材、金属素材、それらのハイブリッド素材からなる各種メッシュ類などが挙げられる。
支持多孔膜に用いられる有機高分子素材としては、例えばポリアルキレンテレフタレート類、ポリカーボネート類、ポリウレタン類、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリスチレン、ポリスルホン類、セルロース及びセルロース誘導体類、ポリフェニレンエーテル類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等、及びこれらを構成するモノマーの共重合体、更には上記高分子の1種又は2種以上のアロイ、ブレンド等が挙げられるが、本発明の支持多孔膜の素材は上記の例に限定されるものではない。
支持多孔膜として好ましいものとして不織布、織布、メッシュ類が挙げられる。それを構成する繊維自体を形成する有機高分子素材としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル等が挙げられ、そのうちポリエチレンテレフタレートは特に好ましい。
支持多孔膜にて特に積極的に分離性能を発現させない場合には、濾過対象液の濾過効率を上げるために、濾過抵抗の少ない粗大な連通孔と適度な強度を有する支持多孔膜が好ましい。具体的には、有機高分子繊維より得られる不織布、織布、メッシュフィルター類が挙げられ、不織布が好ましい。
支持多孔膜として不織布を用いる場合の不織布繊維径は、太過ぎると多孔膜の孔の貫通性を阻害する場合や、多孔膜との接着面の凹凸が大きくなることにより多孔膜の平滑性や厚み均一性を阻害する場合がある。逆に細過ぎると多孔膜と接着する部分が少なくなり多孔膜の支持・補強が充分にできなかったり、支持多孔膜自体の強度低下により複合多孔膜として充分な強度を達成できない場合がある。従って、不織布の繊維径は、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは0.1〜30μm、更に好ましくは0.5〜15μm、最も好ましくは0.5〜5μmである。
また、不織布の目付量は、多すぎると多孔膜の貫通性を阻害する場合や、濾過速度が低下する場合、細胞の移動が困難な場合がある。少なすぎると多孔膜の支持・補強が充分にできない場合や、複合多孔膜として充分な強度を達成できない場合がある。従って、不織布の目付量は、例えば、厚みが200μmの不織布の場合、好ましくは10〜200g/m、より好ましくは15〜150g/m、更に好ましくは20〜100g/mである。
支持多孔膜に積極的な分離性能を発現させる場合、例えば、濾過対象液がまず支持多孔膜内を流れ、引き続き多孔膜によって分離されるような濾過システムに適用する場合、支持多孔膜によって多孔膜で分離されるサイズより大きな粒子を分離又は吸着させるというプレフィルター効果を支持多孔膜に発現させることにより、多孔膜の目詰まりを防止したり、分離効率を上げたりすることが可能となる。
本発明の複合多孔膜は、多孔膜と支持多孔膜とが複合化されているものであり、多孔膜に隣接する支持多孔膜面の少なくとも一部において、多孔膜を構成する有機高分子化合物が支持多孔膜中に侵入することによって、両者が接着した構造が存在する。この構造の存在は、多孔膜の電子顕微鏡観察によって確認することができ、この構造の存在によって多孔膜と支持多孔膜の高い接着性が発現する。
また複合多孔膜は、支持多孔膜の両側面が多孔膜によって挟まれた構造であってもよく、その場合それぞれの多孔膜の平均孔直径や開孔率等、又は多孔膜を構成する物質等は同一であっても、異なっていてもよい。
本発明の複合多孔膜の膜厚は、厚すぎると種々の形態への加工特性が低下し、濾過速度が低下する可能性もあるため、その膜厚は5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、1mm以下が最も好ましい。一方、薄すぎると取り扱い性や加工性が低下するので、その膜厚は1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が最も好ましい。
本発明の複合多孔膜は加工に対して充分な強度を有するので、その平膜形状のものを中空糸状、袋状、プリーツ状、その他の種々の形態に加工することができえる。例えば、同じ大きさの四角形状に切断した2枚の複合多孔膜を、内側を支持多孔膜(例えば不織布)にして重ね合わせて3辺をヒートシールして封じれば、内側に不織布が存在し、その全周囲を多孔膜が覆った袋状シートを得ることができる。また、扇形に切断した1枚の複合多孔膜を丸めて2つの弦の部分をヒートシールすればロート構造(円錐構造)のものが得られる。長方形の複合多孔膜を丸めて相対する2辺をヒートシールすれば、筒状(中空糸状)のものが得られ、様々な用途に利用することが可能となる。
また、複合多孔膜は、他の部材と一体化した状態に加工することもできる。例えば、ガラス製やプラスチック製のチューブの端面に、接着剤を用いた接着や溶融接着により、複合多孔膜とチューブを一体化させることができる。チューブの1つの端面に複合多孔膜を接着させるとカップ型容器にできるし、両端に接着させて閉じた容器を作ることもできる。
複合多孔膜は単独(1枚)で使用してもよく、複数枚重ね合わせて種々の層構造を構築して使用してもよい。更に複合多孔膜の1枚以上とそれを構成する支持多孔膜単体の1枚以上とを重ね合わせる(組み合わせる)ことで様々な性能の膜材料を提供することも可能となる。
次に、本願発明の複合多孔膜の製造方法について説明する。
多孔膜と支持多孔膜の複合化方法として、1)多孔膜と支持多孔膜を別途準備し、それぞれを接着する方法、2)支持多孔膜上に多孔膜を形成して、接着と膜形成を同時に行う方法等がある。2)の方法で製造された複合多孔膜は、強度や透過速度を低下させることなく、簡便に複合化された膜を製造することが可能である。
本発明の複合多孔膜の製造方法は、(a)有機高分子化合物の疎水性有機溶媒溶液と相溶しない液体を支持多孔膜に保持させ、(b)支持多孔膜上に、有機高分子化合物の疎水性有機溶媒溶液をキャストし、次いで(c)液面近傍の相対湿度が20〜100%の環境下で疎水性有機溶媒を蒸発させて有機高分子化合物を主成分として含んでなる多孔膜を支持多孔膜上に成膜するという3つのプロセスからなる。
本発明に用いる「有機高分子化合物の疎水性有機溶媒溶液」とは、支持多孔膜上に成膜する多孔膜の主成分となる有機高分子化合物を疎水性有機溶媒に溶解させた溶液である。
その溶液濃度は0.01〜30wt%が好ましく、0.03〜15wt%がより好ましく、0.04〜5wt%が最も好ましい。濃度が0.01wt%未満であると多孔膜の孔規則性が低下する場合があり、また膜強度が低下する場合もある。一方、濃度が30wt%を超えると、規則的なハニカム構造を形成しにくくなる場合がある上、貫通孔を形成するためには「有機高分子化合物の疎水性有機溶媒溶液」の支持多孔膜上へのキャスト量を著しく少なくして膜厚を小さくしなくてはならないので、製膜技術上の困難度が極めて高くなるため好ましくない。
「疎水性有機溶媒」とは、水と任意の割合で相溶しない(均一化しない)有機溶媒であって、多孔膜を形成する有機高分子化合物を溶解する溶媒であれば限定されない。ただし、相対湿度20〜100%において溶媒を蒸発させるので、蒸発除去が比較的容易にできる揮発性が高い疎水性溶媒が好ましい。このような溶媒として、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等の塩化物又はフッ化物といったハロゲン系有機溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、メチルイソブチルケトン等の非水溶性ケトン系溶媒等の1種又は2種以上の混合物が挙げられる。中でもクロロホルム、ジクロロメタン、トルエンが好ましく、特にクロロホルムやジクロロメタンは溶解できる有機高分子化合物の種類が多く、蒸発除去もさせやすいのでより好ましい。但しクロロホルム、ジクロロメタンを用いる場合、その比重が、孔の鋳型となる微小水滴(比重1)の比重よりもかなり大きいため多孔膜が貫通しにくいことがある。その場合には、溶媒蒸発の過程において溶液比重を調整し得る異なる溶媒、例えばトルエン等を予めクロロホルムに1〜20wt%加えておくと貫通孔の形成に効果的である。
本発明によると、まず、(a)有機高分子化合物の疎水性有機溶媒溶液と相溶しない液体を支持多孔膜に保持させる。疎水性有機溶媒溶液を支持多孔膜上にキャストする場合、疎水性有機溶媒溶液が支持多孔膜の孔内に入り込んで孔を閉塞させることがないようにする必要がある。これを達成する方法として、疎水性有機溶媒溶液と相溶しない液体を予め支持多孔膜に保持させて、支持多孔膜が有する内部孔を該液体で満たしておく。特に、本発明において支持多孔膜として好ましい粗大な連通孔を有する支持多孔膜(例えば不織布や織布)を用いる場合は、支持多孔膜にキャストする疎水性有機溶媒溶液が容易に染み込むため、この方法が有効である。該疎水性有機溶媒溶液が支持多孔膜の内部に進入することが妨げられるので、該溶液を支持多孔膜上に薄く平滑にキャストすることができる。その結果、多孔膜を薄く均質に平滑に支持多孔膜上に形成することができ、最終的に有機高分子化合物が支持多孔膜を閉塞させることがない。
「疎水性有機溶媒溶液と相溶しない液体」(以下、「相溶しない液体」とも言う)とは、該溶液と任意の量にて混ぜ合わせても均質な溶液にならず、かつ、多孔膜の主成分となる有機高分子化合物をほとんど溶解しない液体のことをいう。相溶しない液体は、用いられる疎水性有機溶媒の種類に応じて選択されるので限定されるものではないが、多孔膜を成膜後、乾燥や洗浄によって容易に支持多孔膜内部から除去できるものが好ましい。
鋳型となる水滴との親和性が高ければ多孔膜が貫通孔を形成しやすいので、例えば水や、塩化ナトリウム等の各種塩類を含む水溶液、ポリエチレングリコール等の水溶性液状ポリマー、又はそれらの水溶液等が、上記相溶しない液体として好ましい。
工業的に取り扱うには単純な組成のものが好ましく、水がとりわけ好ましい。なお相溶しない液体は、有機高分子化合物を溶解しないことが要求されるものの、疎水性有機溶媒溶液と該液体が成膜時に接したときに、疎水性有機溶媒溶液中の有機高分子化合物が該液体に実質上殆ど移動することがなければ、該液体は、有機高分子化合物をわずかに溶解するものであってもよい。
疎水性有機溶媒溶液と相溶しない液体を支持多孔膜に保持させる方法としては、支持多孔膜を予めこの液体に充分浸漬して、これを取り出して用いてもよく(この浸漬時に超音波照射を施せば支持多孔膜内部に更に効果的に該液体を保持させることができる)、疎水
性有機溶媒溶液をキャストする前に支持多孔膜に直接該液体を垂らして染み込ませてもよく、該液体を噴霧状にて充分に吹き付けて保持させてもよい。
次に(b)支持多孔膜上に、有機高分子化合物の疎水性有機溶媒溶液をキャストする。キャストする方法は、支持多孔膜上に均一かつ、完全に溶液が流延される方法であればよく、限定されない。溶液の粘度が低い場合には、そのまま支持多孔膜上に流し込む。粘度が高い場合には、ブレードコーター等を用いて均一に流延する。
本発明において用いられる疎水性有機溶媒溶液に溶解する物質であれば、多孔膜の成膜安定性向上、強度向上、表面改質(例えば親水性付与)、靭性付与などの目的で、その他の添加剤を加えても構わない。例えば、Mater.Sci.Eng.,C8−9巻,495ページ(1999年)に記載されたビスヘキサデシルアンモニウムブロミドをはじめとする両親媒性化合物の1種又は2種以上を加えると、多孔膜の成膜安定性、孔サイズや孔形状均一性が高くなるので好ましく、特に下記構造式(I)のポリアクリルアミド系両親媒性化合物は好ましい両親媒性化合物として挙げられる。
上記両親媒性化合物を疎水性有機溶媒溶液に加える場合、有機高分子化合物と両親媒性化合物の組成比(有機高分子化合物/両親媒性化合物(wt/wt))は限定されないが、好ましくは99/1〜50/50(wt/wt)の範囲内である。99/1よりも両親媒性化合物が少ないと均一な多孔膜が形成されにくくなり、50/50よりも両親媒性化合物が多いと多孔膜の力学強度が低下し膜破れを起こしやすくなる。
続いて、(c)支持多孔膜上にキャストした疎水性有機溶媒溶液に、液面近傍の相対湿度が20〜100%の環境下で疎水性有機溶媒を蒸発させ、その過程でハニカム状の孔構造を有する多孔膜を形成させる。
疎水性有機溶媒を蒸発させる方法としては、液面近傍(成膜中の液面から垂直方向に約2cm離れた位置)の相対湿度が20〜100%に設定されているならばどのような方法を用いてもよく、例えば、成膜周辺環境の温度を上昇させる方法、成膜環境の気圧を適度に低下する方法、適当なガスを液面に緩やかに吹き付ける方法などが挙げられる。中でもガスを液面に吹き付ける方法は、多孔膜の鋳型となる微小な水滴の形成が容易であるし、
湿度調整も容易で、装置も簡便となるので好ましい方法である。
ガスを液面に吹き付けて有機溶媒を蒸発させる場合、使用されるガスは、疎水性有機溶媒溶液に吹き付けることにより疎水性有機溶媒を効果的に蒸発させることができるのであれば、どのようなガスを用いてもよい。ただし、成膜の過程において、多孔膜、支持多孔膜及び疎水性有機溶媒溶液に対して化学的に不活性であるものが好ましい。具体的なガスとしては空気、窒素、酸素、ヘリウム、アルゴン等やそれらの混合ガスが挙げられ、コストパフォーマンスを考慮すれば空気が好ましい。
ガスを疎水性有機溶媒溶液に吹き付ける方法としては、供給ガス側にポンプを設置して適当なノズルからガスを供給して吹き付ける方法、逆に密閉タイプの恒温恒室ボックス等を用いる場合には、ボックス内を減圧して外部から該ガスを吸入し、適当なノズルを経由して疎水性有機溶媒溶液に吹き付ける方法などが用いられる。
ガスを吹き付ける等して、疎水性有機溶媒を蒸発させる際には、膜近傍の相対湿度が20〜100%の環境下で行うが、好ましくは30〜90%、より好ましくは35〜80%である。相対湿度が20%未満の場合、孔を形成するための鋳型となる水滴の成長が不十分になるため、ハニカム状の均一な孔構造が形成されにくくなり、また孔の貫通性も悪くなる。
「膜近傍の相対湿度が20〜100%の環境下」とは、恒温恒湿ボックス内等の成膜環境全体の相対湿度を調整することにより設定してもよい。ガスを吹き付ける方法の場合には、吹き付けるガスの相対湿度を調整することによって設定することができる。
疎水性有機溶媒が蒸発し、その過程で溶液表面に形成される微小水滴が鋳型となって、均一な孔構造を有する多孔膜が支持多孔膜上に形成される。孔が形成された後、支持多孔膜に保持させた液体は、そのまま乾燥除去するか、一旦アルコールなどに浸漬して液体を置換した後、乾燥除去する。
本発明の製造方法において用いられる支持多孔膜や得られる複合多孔膜には、透水性向上、選択的官能基の導入による分離性能向上、生体物質等の付着性の抑制などといった製造プロセス上又は使用上の種々の要請に応じて、様々な表面改質を施すことができる。
特に本発明において好ましく使用される複合多孔膜の製造方法、すなわち支持多孔膜に水を保持させて多孔膜を成膜する製造方法の場合、支持多孔膜の疎水性が強いと支持多孔膜内部に均一に水を保持させることができず、多孔膜を形成させるための疎水性有機溶媒溶液が支持多孔膜内部に染み込み、そのため、該疎水性有機溶媒溶液を支持多孔膜上に平滑に保持し難くなり、所望の形態の複合多孔膜製造が困難になる場合がある。この場合には、支持多孔膜表面に親水化処理を施し、保水性を上げることが好ましい。
上記のような製造上の理由に基づき、予め支持多孔膜に親水化処理を施す場合、又は得られる複合多孔膜の実使用上における性能向上(透水性向上、血液適合性向上、タンパク非吸着性向上など)のため親水化処理を施す場合には、必要に応じて適当な親水性官能基を膜表面に導入することが好ましい。
また、例えば、複合多孔膜を血液濾過膜や白血球除去フィルターの濾材として使用する場合、性能向上のために、血球成分の非選択的な吸着を抑制する目的の親水性官能基と、白血球への選択的な親和性を発現させる目的の塩基性含窒素官能基を、バランスよく導入することは効果的である。
「親水性官能基」とは、水分子と親和性を有する官能基を意味し、公知の種々の親水性官能基がこれにあてはまる。具体的には、アルコール性水酸基、フェノール性水酸基、カルボキシル基、スルホン基、カルボニル基、エステル基、エーテル基、アミド基、N−一置換アミド基、N,N−二置換アミド基といった比較的親水性が高いことで知られる官能基群が挙げられる。これらの1種又は2種以上を組み合わせて導入することが好ましい。特に、アルコール性水酸基、カルボニル基、エステル基、エーテル基、アミド基、N,N−二置換アミド基といった非イオン性親水性官能基の1種又は2種以上を組み合わせて用
いることが好ましい。
白血球への選択的な親和性を発現させる目的で導入される「塩基性含窒素官能基」は、例えば、脂肪族1級アミノ基、脂肪族2級アミノ基、脂肪族3級アミノ基、ピリジル基、ビピリジル基、イミダゾール基等の含窒素芳香族基が挙げられ、それらの1種又は2種以上を組み合わせて導入することが好ましい。脂肪族1級アミノ基(−NH)、脂肪族2級アミノ基、脂肪族3級アミノ基は、芳香族アミノ基と比べて疎水性が低いため、白血球の選択的親和性を実現するには特に好ましい。具体的に脂肪族2級アミノ基とは、−NHRの構造を有し、Rは特に限定されずどのような構造であってもよいが、例えばメチル基、エチル基、プロピル基といった直鎖状アルキル基、イソプロピル基、のような分岐状アルキル基が挙げられる。これらのアルキル基の炭素数や構造は特に限定されず、また有する水素の1個又は2個以上が水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基を有するような任意の官能基によって置換されていてもよい。また、脂肪族3級アミノ基とは、−NRの構造を有するが、RとRもRと同様の種々の構造をとり得るし、RとRは互いに同一構造であっても異なっていてもよい。
中でも脂肪族3級アミノ基が好ましい構造であり、脂肪族3級アミノ基を有する官能基が白血球選択的親和性官能基として有効である。具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジエタノールアミノ基、2−ジメチルアミノエチル基、3−ジメチルアミノプロピル基、2−ジエチルアミノエチル基、3−ジエチルアミノプロピル基などが挙げられる。
親水性官能基や塩基性含窒素官能基などの官能基を膜表面に導入する具体的な方法としては、(a)膜基材表面に元来存在する官能基に高分子反応によって目的の官能基等を導入する方法、(b)膜基材の表面に電子線やγ線を照射してラジカルを発生させ、これに目的の官能基を有するモノマーを作用させてグラフト重合する方法、(c)膜基材表面に必要な開始剤基を導入した後、必要に応じて触媒等を加えて行う種々のリビング重合法(例えばリビングラジカル重合法やリビングアニオン重合法)にて目的の官能基を有するモノマーをグラフト重合する方法、(d)膜基材表面に含浸法やスプレー法を用いて目的の官能基を有するポリマーをコーティングする方法等が挙げられる。特に(d)のコーティング法は、コーティング用ポリマーの合成反応時において導入したい官能基の種類や量、重合連鎖分布等も容易に設計できるし、更にコーティングプロセス自体も簡便で、生産性も高くなるので好ましい。
コーティング法で、支持多孔膜や複合多孔膜に親水性官能基を導入する場合、そのコーティング用ポリマーの合成において用いられる親水性官能基含有モノマーの種類は特に制限されるものではないが、特に非イオン性親水性官能基を有するものが好ましい。このような化合物として、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレートや2−ヒドロキシプロピルメタクリレートのようなアルコール性水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、N−一置換(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミドなどのN,N−二置換(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、−CHCHO−の繰り返し単位数1〜100のポリオキシエチレン基を有するアルコキシポリエチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。
コーティング用ポリマーの親水性が高すぎる場合には、実際の使用における濾液や細胞培養液へのコーティング剤の溶出が問題になるケースが多いので(特に医療用途においては低溶出性が重要)、溶出性を抑制するためなどの目的にて、その他の疎水性モノマー類を適量共重合させてコーティング用ポリマーを合成するのが好ましい。
また、コーティング法で、支持多孔膜や複合多孔膜に塩基性含窒素官能基を導入する場合、そのコーティング用ポリマーの合成において用いられる塩基性含窒素官能基含有モノマーの種類は特に制限されるものではないが、特に脂肪族3級アミノ基を有するものが好ましい。このような化合物として、例えば、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メ
タ)アクリレート、2−(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2−(エチルメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2−(ジエタノールアミノ)エチルエチル(メタ)アクリレート、2−(ジメチルアミノ)プロピルエチル(メタ)アクリレート、3−(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、3−(ジエチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、2−(ジエタノールアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、3−(ジエタノールアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
本発明の製造方法で用いる支持多孔膜、又は得られる複合多孔膜を表面修飾する方法としてコーティング法を用いる場合には、予めコーティング用ポリマーを合成しておき、これを適当な溶媒に溶解してコーティング溶液を調製する。
支持多孔膜又は複合多孔膜にコーティングする方法としては、コーティング溶液にコーティング対象となる支持多孔膜又は複合多孔膜(コーティング対象膜)を浸漬する方法、コーティング対象膜を適当なフィルターホルダーにセットして、これにコーティング溶液を通過させる方法、コーティング対象膜に該溶液をスプレー法にて吹き付ける方法などが挙げられるが、簡易的に均一性の高いコーティングを行うためには浸漬法が好ましい。
コーティング用ポリマーは、適当な溶媒に溶解後、コーティングによって支持多孔膜又は複合多孔膜の少なくとも表面部分に必要とする量の親水性官能基又は塩基性含窒素官能基を導入できるのであれば、その種類や組成は限定されるものではない。コーティング用ポリマーとしては、既述の親水性官能基含有モノマーの1種又は2種以上を重合して得られるポリマーと塩基性含窒素官能基含有モノマーの1種又は2種以上を重合して得られるポリマーのブレンド物であってもよいし、又は親水性官能基含有モノマーの1種又は2種以上と塩基性含窒素官能基含有モノマーの1種又は2種以上を共重合して得られる、コポリマーであってもよい。コーティング用ポリマーがコポリマーの場合、ランダムコポリマーでも、ブロックコポリマーであってもよい。
コーティング用ポリマーの分子量は、重量平均分子量(Mw)が好ましくは1.0×10〜2.0×10、より好ましくは5.0×10〜1.5×10、最も好ましくは1.0×10〜1.0×10である。Mwが1.0×10未満の場合、分子鎖の絡み合い効果が小さくなるため多孔膜表面部分への固定化が不充分となり使用時のコーティング用ポリマーが溶出する場合がある。Mwが2.0×10を超えると、溶媒への溶解性が低下して溶液の均一性が低下することがあり、また溶液粘度が高くなりすぎて膜材料表面への均一なコーティングができなくなる場合がある。ここでのMwとは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC,標準ポリスチレン換算)にて得られる値である。
コーティング用ポリマーを溶解する溶媒としては、支持多孔膜や複合多孔膜、特に複合多孔膜を構成する多孔膜を著しく膨潤させたり、溶解させたりしないもの、しかもコーティング用ポリマーを充分に溶解するもの、更にその溶媒を最終的に多孔膜より除去できるものであれば限定されず、コーティング用ポリマーの種類に対応して様々な溶媒を使用することができる。例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリンなどの脂肪族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジメチルスルホキシドなどの含硫黄系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類などの1種又は2種以上を混合したものが挙げられる。なかでもアルコール類は適度な乾燥速度、取り扱いの容易さ、親水性官能基を有するポリマーとの親和性が高いといった点から好ましく、特に人体への毒性も少ないエタノールは実用上非常に好ましい。必要であれば、溶媒の親疎水性の微調整を行う目的等で、水を適量混合してもよい。
本発明の製造方法で用いる支持多孔膜、又は得られる複合多孔膜を表面修飾する方法と
してコーティング法を用いる場合には、予めコーティング用ポリマーを合成しておき、これを適当な溶媒に溶解してコーティング溶液を調製する。
支持多孔膜に予めコーティングにより親水性官能基又は塩基性含窒素官能基を導入する場合、コーティング溶液のポリマー濃度は0.01〜50wt%が好ましく、0.1〜30wt%がより好ましく、0.5〜20wt%が最も好ましい。コーティング溶液濃度が0.01wt%未満であるとコーティングが不十分となり支持多孔膜の膜表面が部分的に露出しやすい。また50wt%を超えると溶液粘度が高くなるため、支持多孔膜への均一なコーティングが困難になったり、支持多孔膜の孔が閉塞しやすくなったりする。
得られる複合多孔膜にコーティングにより親水性官能基又は塩基性含窒素官能基を導入する場合には、コーティング溶液のポリマー濃度は0.01〜10wt%が好ましく、0.05〜5wt%がより好ましく、0.1〜1wt%が最も好ましい。コーティング溶液濃度が0.01wt%未満であるとコーティングが不十分となり、多孔膜の表面が部分的に露出しやすくなる。コーティング溶液濃度が10wt%を超えると溶液粘度が高くなるため多孔膜への均一なコーティングが困難になり、更に多孔膜の孔も閉塞しやすくなる。
コーティングのプロセスとしては、予め適切な濃度に調製したコーティング用ポリマー溶液に、支持多孔膜や複合多孔膜を一定時間浸漬した後、取り出し、ニップロール等で絞る、又は空気や窒素ガス等を吹き付けて余分のコーティング用ポリマー溶液を除去する方法が好ましく用いられる。連続プロセス及びバッチプロセスのいずれも採用することができる。
支持多孔膜又は複合多孔膜のコーティング用ポリマー溶液への浸漬時間は、0.5〜60秒が好ましく、1〜30秒がより好ましく、2〜10秒が最も好ましい。浸漬時間が0.5秒未満であると、コーティングが不均一かつ不充分になる場合があり、60秒を超えてもコーティング量は殆んど増加しない。また多孔膜の種類によっては、それ自体の膨潤等が起こるケースも現れてくる場合がある。
本発明の製造方法によれば、多孔膜が支持多孔膜表面にて形成される過程において、多孔膜が支持多孔膜の微細な表面凹凸(支持多孔膜が不織布やメッシュのような繊維状媒体の場合には繊維交絡部)に侵入するため、支持多孔膜と多孔膜との強固な接着状態を実現することが可能となる。これに対し、従来のように一旦ガラスのような固体基板上にて多孔膜を成膜して、それを剥がして、単に支持多孔膜に重ね合わせただけでは、多孔膜と支持多孔膜は接着されていないので、例えば、引っ張ることによって両者にずれが生じて簡単に多孔膜に破損が発生する。
本発明の製造方法によって得られる複合多孔膜は、多孔膜を含めた複合多孔膜の強度が極めて高いので、使用の際の取り扱いが非常に容易である。またロール状、円筒状、プリーツ状等の種々の形態に加工して使用することも容易になる。
続いて、本発明の白血球除去フィルター装置について説明する。
本発明の白血球除去フィルター装置は、処理血液浮遊液の入口側にある第1フィルターと出口側にある第2フィルターを有するフィルター装置である。「処理血液浮遊液」とは、フィルターで濾過する前の血球浮遊液をいう。
第1フィルターは、白血球除去能が処理血液浮遊液450cmあたり、1.0〜3.5であり、好ましくは1.3〜3.3、より好ましくは1.5〜3.0である。
第1フィルターの「白血球除去能」は、第1フィルターに450cmの処理血球浮遊液を通過させた時に得られる濾過前後の血球浮遊液中の白血球濃度から下記式(1)により求められる。
白血球除去能=−log(濾過後の血球浮遊液の白血球濃度/濾過前の血球浮遊液の白血球濃度)・・・(1)
第1フィルターの白血球除去能が1.0未満だと、複合多孔膜からなる第2フィルターが多量の白血球によって閉塞してしまう場合がある。又は第2フィルターでの閉塞を避けようとすれば、極めて大面積の第2フィルターが必要となるため、白血球除去フィルター
の製品サイズが従来のレベルよりも著しく大きいものとなってしまい、医療現場においては扱い難くなる。一方、白血球除去能が3.5を超える場合は、その分第1フィルターの濾材容積がどうしても大きくなってしまい、本発明の効果である、「濾材容積削減による血球浮遊液ロス量低減効果」が小さくなってしまう。
用いる処理血球浮遊液の量は、少なすぎると、一定の処理血球浮遊液量に対する濾過後のフィルター内残存血球浮遊液量(すなわち血球浮遊液ロス量)の割合が多くなり、濾過効率が悪いので、15cm以上が好ましい。用いる処理血球浮遊液の量が多すぎると、複合多孔膜からなる第2フィルターが多量の白血球で閉塞してしまう場合や、更に多いと、白血球のみならず多量の血球成分の存在により、第1フィルターの濾過速度が著しく低下や閉塞を起こす場合もあるので、2000cm以下が好ましい。処理血球浮遊液量は、より好ましくは50〜1500cmが、更に好ましくは100〜1000cm、最も好ましくは200〜600cmである。
第1フィルターは、白血球除去能が1.0〜3.5であればどのような構造のものでもよい。具体的な例としては、前述した複合多孔膜の支持多孔膜の具体例として挙げたような、天然繊維、合成高分子繊維、再生高分子繊維、ガラス繊維に代表される無機繊維、有機/無機複合繊維などより得られる不織布や、有機高分子素材を、熱溶融した状態、溶媒によって溶解した溶液状態、可塑剤を用いて可塑化した状態等から、発泡法、相分離法(熱誘起相分離法や湿式相分離法)、延伸法、焼結法等によって得られる三次元網状連通孔を有する多孔質体(多孔質膜)が挙げられる。また同様に天然繊維、合成高分子繊維、再生高分子繊維、ガラス繊維、有機/無機複合繊維などより得られる織布や編布、更に有機素材、無機素材、金属素材、それらのハイブリッド素材からなる各種メッシュ類などが挙げられる
これらの中で有機高分子繊維により得られる不織布や、比較的均一な三次元連通孔が形成しやすい相分離法によって得られる多孔質体は好ましい。
不織布の繊維自体を形成する有機高分子の素材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、セルロース誘導体、ポリアミド、ポリアクリロニトリルなどが挙げられ、中でもポリエチレンテレフタレートは特に好ましい。
また、不織布を構成する繊維は極細繊維が好ましく、強度及び白血球捕捉性の点から、繊維径は好ましくは0.3〜3μm、より好ましくは0.5〜2μm、最も好ましくは0.5〜1.5μmである。
不織布の平均気孔径は、白血球の目詰まりや圧力損失の増大などの点から、2μm以上が好ましく、白血球捕捉性の点から30μm以下であることが好ましい。より好ましくは2〜20μm、最も好ましくは2〜10μmである。
不織布をフィルター濾材として用いる場合には、白血球除去能向上や目詰まり防止のために平均繊維径や平均気孔径、目付け量等が異なる2種類以上の不織布を組み合わせてもよいし、不織布以外の三次元網状に連通孔を有する多孔質体と不織布とをそれぞれ1種類以上組み合わせてもよい。
白血球除去フィルター装置用のフィルターホルダー内にフィルター濾材を充填するときの充填密度は、白血球除去能の点から0.1g/cm以上が好ましく、血球の目詰まりや圧力損失の増大等の点からは0.5g/cm以下が好ましい。より好ましくは0.1〜0.3g/cm、最も好ましくは0.15〜0.25g/cmである。
該フィルター濾材の形態、又はそれら1個(1枚)若しくは複数個(複数枚)を組み合わせて構成される第1フィルターの形態は、血液が濾過できるのであれば平膜状(平板状)、円筒形状(中空糸状)、袋状などどのような形態でもよいが、平膜状の形態が扱いやすいので好ましい。その場合、1枚又は複数枚重ね合わせて第1フィルターを構成することが好ましい。複数枚重ね合わせる場合には、それぞれのフィルター濾材は、素材、ミクロ構造、平均気孔径、気孔径分布、膜厚などが同じであってもよいし、これらの要素の幾つか、又は全てが異なっていてもよい。またフィルター濾材1個(1枚)において、ミク
ロ構造、平均気孔径、気孔径分布等が均質であってもよいし、傾斜構造のような不均質構造であってもよい。
第1フィルターのサイズは、処理血球浮遊液450cmあたり1.0〜3.5であれば、どのような大きさであってもよいが、あまり大き過ぎると医療現場における作業性が低下するし、フィルターのホルダーサイズが大きくなると生産者側の大幅なコスト上昇につながるので、実用的な値として、有効面積が4〜300cmであることが好ましく、10〜250cmであることがより好ましく、10〜200cmであることが最も好ましい。
第1フィルターの有効面積とは、フィルター把持部(フィルターホルダーへの固定部)を除き、実際に血球浮遊液が通過するフィルター部の平面的な面積を言うのであって、膜内部の内部孔表面まで含んだものを意味するのではない。
フィルター濾材は、コーティング法などによる新たな官能基の導入やその固定化(使用時におけるコーティング材の溶出を極力抑えるため)を十分なものにするためなどの目的で、表面を酸、アルカリなどの適当な薬品による処理や、プラズマや電子線などによる処理を行ってもよい。
第1フィルターとして、有機高分子繊維から得られる不織布や、相分離法によって得られる三次元網状に連通孔を有する多孔質材等を用いる場合に、そのままでは処理血液浮遊液450cmあたり1.0〜3.5の白血球除去能を達することができない時には、フィルター濾材の血球浮遊液に接触し得る表面部分を化学修飾等によって改質するのが好ましい。親水性官能基及び塩基性含窒素官能基をバランスよく付与する公知の方法は特に効果的である。
「フィルター濾材の血球浮遊液に接触しうる表面部分」とは、例えば平膜の場合にはその表裏のみを意味するのではなく、平膜内部に存在する微細孔内部の表面をも含むものである。例えばフィルター濾材が不織布の場合は、それを構成する繊維の全表面(繊維交絡部は除く)がフィルター濾材の表面部分である。
フィルター濾材の少なくとも表面部分に親水性官能基又は塩基性含窒素官能基を導入する方法は特に限定されない。フィルター濾材の細孔を著しく閉塞させたりすることがない方法、また本来のフィルター濾材表面が血球成分の非選択的吸着性を発現する場合にはその表面が露出することなく必要な官能基を均一に導入できる方法であれば、特に限定されない。例としては、本発明の複合多孔膜やそれを構成する支持多孔膜を表面改質する方法で述べたような方法が挙げられ、特にコーティング法が好ましい。
また、血球浮遊液に接触しうるフィルターの表面部分が、血球に対して悪影響を与えない素材からなることが好ましい。「血球に対して悪影響を与えない素材」とは、濾過時における血球と素材の接触によって、濾過後に回収された血球成分(主に赤血球や血小板、その他少量の白血球)が本来有する性能を著しく損なうようなダメージを与えることのないような素材、又は血球成分を必要以上に活性化してしまうことのないような素材を意味する。このような素材としては、親水性官能基を有する高分子素材が適当であり、親水性官能基としては既述の親水性官能基群から選ばれる1種又は2種以上を挙げることができる。
そのような親水性官能基を、第1フィルターに用いる濾材を構成する素材が本来有していればよいが、濾材が親水性官能基を全く含有しない場合や含有していても非常に少量であって血球に対して悪影響を与える可能性のある場合には、少なくとも血球浮遊液に接触しうる表面部分に対して、既に説明した幾つかの表面改質方法から適切なものを選択して、必要に応じて親水性官能基を導入することが好ましい。この場合も、コーティング法が好ましく、同様な方法で親水性官能機を導入することができる。
次に、本発明の白血球除去フィルター装置の第2フィルターについて説明する。
第2フィルターは、既述した本発明の複合多孔膜の1枚又は2枚以上から構成される。
第2フィルターの形態は、血液が濾過できるのであれば平膜状や円筒形状などどのような形態でもよいが、平膜状の形態が扱い易く好ましい。また、複合多孔膜を複数枚用いる場合、それぞれの複合多孔膜を構成する多孔膜の素材、開孔率、平均孔直径、孔直径の標準偏差、厚み、膜内部の構造などが、全く同じであってもよいし、これらの幾つか、又は全てが互いに異なっていてもよい。また、複合多孔膜を構成する支持多孔膜においても、素材、平均気孔径などが、全く同じであってもよいし、これらの幾つか、又は全てが互いに異なっていてもよい。
血球浮遊液に接触し得る第2フィルターの表面部分も、第1フィルターと同様に血球成分に対して悪影響を与えない素材、又は血球成分との親和性が低く、血球成分の非選択的な粘着(血球粘着により、複合多孔膜が閉塞する可能性がある)が起こりにくい素材からなることが好ましい。このような素材としては、第1フィルターの説明において示したように、親水性の高い高分子素材が適当であることが知られているので、既述の親水性官能基群から選ばれる1種又は2種以上を複合多孔膜の少なくとも表面部分に有していることが好ましい。
親水性官能基を、複合多孔膜を形成する素材が本来有していれば問題ないが、複合多孔膜が、少なくともその表面部分に親水性官能基を全く含有していない場合や、含有していても非常に少量であって血球に対して悪影響を与える可能性のある場合には、既に述べたように、コーティング等によって表面改質を行った後、第2フィルターとして用いることが好ましい。
コーティング法にて複合多孔膜の少なくとも表面部分に導入されるコーティングポリマーは、親水性官能基を有するモノマー種から選ばれる1種又は2種以上を重合(共重合)して得られるものが好ましい。塩基性含窒素官能基も、血球成分の非選択的吸着を起こさない範囲、又は血球成分に悪影響を与えない範囲であれば複合多孔膜のコーティング用ポリマーに含まれていてもよい。その導入には既述の塩基性含窒素官能基を有するモノマー種の1種又は2種以上を用いることが好ましい。第1フィルターに用いるコーティング用ポリマーをそのまま第2フィルターのコーティング用ポリマーとして用いることは、フィルター装置生産者側の生産性向上、及びコスト低下において有利であり、更に好ましい。
第2フィルターの有効面積は、第2フィルターにおける孔数、白血球による目詰まり、及び血球浮遊液を処理量の点から、4cm以上である。フィルター装置サイズ、及び医療現場における操作性の点から300cm以下である。好ましくは、10〜200cmであり、10〜150cmがより好ましく、10〜100cmが最も好ましい。
第2フィルターの有効面積とは、フィルター把持部(フィルターホルダーへの固定部)を除き、実際に血球浮遊液が通過するフィルター部の平面的な面積を言うのであって、複合多孔膜内部の内部孔表面まで含んだものを意味するのではない。
本発明の白血球除去フィルター装置は、血球浮遊液の入口側にある第1フィルターと出口側にある第2フィルターを有するフィルター装置である。基本的には第1フィルターを通過して流出した全血球浮遊液が引き続いて第2フィルターにて濾過されるように構成されていればどのような構成でもよい。第2フィルターを血球浮遊液入口側に設置してしまうと、多量の白血球によって複合多孔膜が閉塞を起こしてしまう場合がある。
第1フィルターと第2フィルターをそれぞれ異なる1つのフィルターホルダーに充填し、両ホルダーをチューブ等で連結して使用することも可能である(分割型)。この場合、本発明の両者のフィルターをそれぞれ独立した任意の形態やサイズに設定することができるという特徴を有する。例えば、第2フィルターの有効面積を第1フィルターの2倍に設定すれば、第2フィルターの目詰まりが起こりにくくなるため、第1フィルターの濾材容量をより小さくすることが可能となる。
第1フィルターと第2フィルターを1つのフィルターホルダーに充填して使用することも可能である(一体型)。一体型の場合には、フィルターホルダーが1つでよいため、生産コスト的にも好ましい。またフィルターホルダーの形状を種々工夫することで、上記分
割型と同様な効果を持たせることも可能である。
実用的には、平膜型の第1フィルター(例えば不織布を複数枚重ね合わせたもの)と、同サイズの複合多孔膜を1枚又は2枚以上重ね合わせて構成した第2フィルターとを重ね合わせ、簡単な形状のフィルターホルダー内に充填する一体型構成が医療現場の操作性においても生産コスト的にも好適である。
図5は、一体型の白血球除去フィルター装置の基本構成を示す概念図である。この白血球除去フィルター装置は、基本的に第1フィルター(2)、第2フィルター(3)、フィルターホルダー(4)、血球浮遊液入口(5)、及び濾過された血球浮遊液の出口(6)からなる。この概念図では第1フィルターと第2フィルターは図面でわかりやすくするために便宜的に距離をおいて配置されているが、実際は重ねて(接して)フィルターホルダー内に充填されていると考えてよい。また図5のフィルターホルダー内には、図による表現のために、便宜上濾材の存在しない多くの空間が存在するが、このような空間は血球浮遊液ロスにつながるので、実際は存在しない。
また、第2フィルターである複合多孔膜が、1枚の多孔膜と1枚の支持多孔膜からなる場合、多孔膜面が血球浮遊液入口側になるように第2フィルター(複合多孔膜)をフィルターホルダー中に配置することが好ましい。支持多孔膜面が血球浮遊液入口側になるように配置すると、濾過抵抗が大きくなり、濾過効率が著しく低下することがある。
本発明の白血球除去フィルター装置の白血球除去能は、処理血球浮遊液450cmあたり4.0以上が好ましく、4.5以上がより好ましく、5.0以上が最も好ましい。白血球除去能が4.0未満であると、輸血時における残存白血球による副作用が起こる確率が高くなる。白血球除去フィルター装置の濾材容積削減効果を顕著なものにするためには、白血球除去能は8.0以下であることが好ましい。
白血球除去フィルター装置の濾材容積V(第1フィルターと第2フィルターを合わせた濾材容積)は、2〜18cmであり、2〜15cmが好ましく、3〜12cmがより好ましく、3〜10cmが最も好ましい。濾材容積が2cm未満であると第1フィルターの白血球除去能が不充分になる。濾材容積が18cmを超えると濾材削減効果が小さくなり、その結果、血球浮遊液ロス量の削減効果も小さくなる。
濾材容積V(cm)とは、濾材が有する空隙容積をいう。Vは血球浮遊液又はそれに代わる液体、例えば生理食塩水などを、濾材を充填したフィルターホルダー中に満たし、フィルターホルダー内を満たした液体容積(cm)を実測して得ることができる。
本発明の白血球除去フィルター装置において、第2フィルターとして用いる複合多孔膜の支持多孔膜が第1フィルターと同じ素材であって、また複合多孔膜の多孔膜の使用量が第1フィルターと比較して実質的に無視できる場合、Vは下記式(2)にて計算した値を用いることができる。
V=Wf[(1/d)−(1/ρ)]・・・(2)
ここで、d(g/cm)はフィルターホルダー内へ充填する第1フィルターと第2フィルターの全濾材の充填密度を、Wf(g)は充填する第1フィルターと第2フィルターの重量を、またρ(g/cm)は第1フィルターと第2フィルター(複合多孔膜)の支持多孔膜を形成する素材の密度を意味する。例えば、第1フィルターと支持多孔膜がポリエチレンテレフタレート製不織布であればρは約1.3である。
本発明の細胞培養隔膜について説明する。
本発明の細胞培養用隔膜は、細胞培養液中で、互いに異なる細胞群を相互に接触可能な状態で仕切って、細胞を共培養するために用いられるものであって、本発明の複合多孔膜を用いた細胞培養用隔膜である。
本発明において、「細胞の共培養」とは、単に2種類以上の細胞群を培養液中で同時に増殖させるだけでなく、互いに異なる細胞群が相互に接触することによって、少なくとも1種類の細胞の増殖及び/又は分化を促進する場合、少なくとも1種類の細胞の分化を抑制しつつ増殖させる場合等も含むものとする。
本発明の細胞培養用隔膜を用いて細胞培養を行うには、本発明の細胞培養用隔膜を細胞培養液中に配置する。隔膜の枚数及び形態に依存して、本発明の隔膜によって隔てられた培養領域が少なくとも2つ得られる。その少なくとも2つの隣接する培養領域において、互いに異なる種類の細胞群を共培養する。例えば、同じ大きさの四角形に切断した2枚の細胞培養用隔膜を、内側を支持多孔膜(例えば、不織布)にして重ね合わせて3辺をヒートシールして得られる袋状の隔膜シートを細胞培養液中に1枚配置すれば(袋の開口部は液面より上に出すか、封じておく)、袋状隔膜シートの内部と外部(袋の内部と外部)に多孔膜にて隔てられた2つの隣接する培養領域が得られるので、内部と外部の2つの培養領域にて細胞を共培養することができる。同様に2枚の袋状隔膜シートを培養液中に配置すれば、多孔膜にて隔てられた培養領域が3つ得られ、3枚装入すれば4つの培養領域が得られる。また、例えば、細胞培養隔膜をガラス製チューブの1つの端面に接着させて一体化したカップ型容器を、培養プレートのウエル内に置くと、ウエル内にカップ内外の2つの培養領域が得られる。
すなわち、多孔膜に隔てられた少なくとも2つの隣接する培養領域において異なる細胞群を共培養し、しかも支持多孔膜の平均気孔径と多孔膜の平均孔径を培養する細胞サイズに合わせて調整することによって、効果的な細胞間接触を可能とする細胞共培養を行うことができる。
本発明の細胞培養用隔膜は、所望の形態に加工できるので、増殖後の目的とする細胞の分離・回収が非常に容易である。例えば、既述の袋状隔膜シートを用いる共培養では、目的細胞が袋状シートの外部で増殖された場合、培養液から袋状隔膜シートを取り出すだけで目的細胞を容易に分離・回収できる。また例えば、既述のカップ型培養器を用いる共培養では、目的細胞がカップ内で増殖した場合も容易に分離・回収できる。(当然、必要に応じてピペッティングや遠心分離操作が必要となる。)
本発明の細胞培養方法によると、細胞培養液中において、少なくとも2種類の細胞群が相互に接触可能な状態で仕切られて共培養される。共培養される細胞群の組み合わせは限定されないが、互いに異なる細胞同士が接触することによって、少なくとも1種の細胞の増殖や分化に影響を与える細胞群の組み合わせが好ましい。特に、互いに接触することによって、少なくとも1種の細胞の増殖及び/又は分化を促進したり、分化を抑制しつつ増殖のみを促進するような細胞群の組み合わせが好ましい。
そのような細胞群の組み合わせとして、例えば、細胞間接触によって造血幹細胞が、未分化の状態で増殖のみが優先的に促進されると言われる「造血幹細胞群とマウス骨髄由来ストローマ細胞群」の組み合わせ、「造血幹細胞群とヒト血管内皮細胞群」の組み合わせ等が挙げられる。なお、細胞間接触によって増殖させる目的細胞群としては、種々の再生医療への応用が検討されていること、更に培養血液ビジネスへの展開の可能性も有することから、造血幹細胞群が好ましい例として挙げられる。
本発明の細胞培養用隔膜に対して、複合多孔膜及びその支持多孔膜の製造方法で示したような親水化処理等の表面改質を施してもよい。
細胞培養用隔膜の表面改質を行う方法も限定されないが、複合多孔膜や支持多孔膜の場合と同様にコーティング法が好ましい。細胞培養用隔膜の表面改質も、細胞接着性の抑制や、逆に細胞接着性の付与等を目的として行われる。コーティング法が用いられる場合には、コーティング用ポリマーとして既述の親水性ポリマー、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン等、ゼラチン、レクチン、ポリリジン等の従来公知の生体適合性ポリマーの1種又は2種以上を用いることができる。
本発明で用いられる測定方法は以下の通りである。
(1)複合多孔膜の多孔膜、ハニカム構造多孔薄膜、エッチング膜の平均孔直径D、孔直径の標準偏差σd、開孔率、及び貫通孔の割合
多孔膜の平均孔直径D、孔直径の標準偏差σd、開孔率及び貫通孔の割合は、多孔膜の
膜平面に対する垂直方向からの光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡写真を撮影した上で、得られる平面像(写真)にて観測される多孔膜の孔群(貫通孔と非貫通孔をあわせたもの)を画像解析ソフトImage−Pro Plus(Media Cybernetics社製、Version 4.0 for Windows(登録商標))を用いてピックアップし、これを画像解析することによって測定する。
具体的には、得られた複合多孔膜をその中心付近から1辺6.7cmの正方形サンプルに打ち抜き、その中心(点A)、及び4つの四隅をB’、C’、D’、E’とし、それら4つの点と点Aとの4つの中点をそれぞれB、C、D、Eとする。これら9点の近傍を走査型電子顕微鏡写真(日立製作所製S−3000N)を多孔膜が接着した側の膜面の垂直方向から撮影する(1000〜3000倍)。
こうして得られた9枚の写真を画像解析ソフトに取り込み、各写真において約200個の孔を含んだ画像範囲を無作為に選択して画像のコントラストを解析できるよう充分に調整して暗部領域(孔領域)を自動抽出する。更に抽出された各暗部領域の中から孔部分とは明らかに異なるものを手動削除し、選択した9つの画像範囲に含まれる孔の平均孔直径をそれぞれ計算する。次いで、9つの写真の値を平均化して「平均孔直径D」を算出する。
孔直径の標準偏差σdとは、上記の「平均孔直径D」を規定した9つの画像範囲におけるそれぞれの孔直径の標準偏差を更に平均化した値である。「開孔率」は、同じ画像範囲において得られた9つの開孔率を平均化したものである。
貫通孔の割合は、上記のD、σd及び開孔率を算出したそれぞれの9つの画像領域において、各写真に含まれる全孔数をN1、そのうち貫通している状態の孔数をN2とすると、両者を数えてN2/N1×100(%)の値を計算し、それら9つの平均値として算出する。
ハニカム構造多孔薄膜及びエッチング膜の平均孔直径D、孔直径の標準偏差σd、開孔率についても同様に測定し、算出する。但し、貫通孔については、ハニカム構造多孔薄膜やエッチング膜には支持多孔膜がないので、ハニカム構造多孔薄膜に関しては、孔を通して、走査型顕微鏡用の円盤状試料台又は試料台に接着するために用いたテープが観察できる孔を貫通孔として貫通孔の割合を算出する。また、エッチング膜は膜厚が厚いため、孔を通して接着面の構造を観察することが困難であったため、その製法上、孔はすべて貫通孔であると仮定する。
(2)複合多孔膜の多孔膜、ハニカム構造多孔薄膜、エッチング膜の、平均膜厚T、膜厚の標準偏差σtの測定方法、及び孔の断面構造観察
複合多孔膜を、走査型電子顕微鏡用の円盤状試料台に両面テープ等を用いて緩やかに接着固定して白金蒸着する(蒸着膜厚は約12nmになるように設定)。これを走査型電子顕微鏡(日立製作所製S−3000N)で観察し、膜の真横方向(膜平面方向)から膜断面が写った写真を撮影し、この写真の膜断面から、写真に記載されたスケールをもとに、複合多孔膜及びそれを構成する多孔膜の平均膜厚Tを測定する。
具体的には、上述(1)の平均孔直径Dを算出する際に選んだ、A〜E、B’〜E’の9点近傍の断面を、走査型顕微鏡で観察しながら、その画像におけるスケールを用いて、50μm間隔で膜厚を算出する。9点それぞれにおいて、約100点膜厚を測定する。1つの走査電子顕微鏡用サンプルから100点観察できない場合は、同じ点近傍のサンプルを複数作成し、観測点を増やす。こうして得られた膜厚から、各9点での平均膜厚を計算する。次いで、9点の平均膜厚の値を平均化して、「平均膜厚T」を算出する。
ハニカム構造多孔薄膜及びエッチング膜についても同様に観察する。
断面観察のためのサンプルは、一般的に走査型電子顕微鏡観察の前処理として行われるように、エタノールに浸漬して液体窒素にて凍結後、割断して作成する。
(3)不織布の平均気孔径の測定
平均気孔径は、Automated Perm Porometer(登録商標)(Porous Materials、Inc.社製)を用い、ASTM−F316−86に
記載されているバブルポイント法に準じて評価する。測定には、不織布の孔内部まで充分に濡れる液体を用いる。
(4)接着性試験
複合多孔膜を10mm×10mmの正方形に切り、試験片とする。これを50mlの水を入れた50mlビーカーに投入し、30分浸漬する。その後、長さ25mmの攪拌子(最大直径8mm)を入れ、200rpmの速さで30分攪拌して、支持多孔膜から多孔膜が剥離するか否かを観察し、剥離しなかった場合を〇、剥離した場合を×とした。
(5)簡易引っ張り試験
複合多孔膜、ハニカム構造多孔薄膜(比較例1)、又はエッチング膜(比較例4)を15×25mmに切り試験片とする。各試験片の両端(短辺部)から5mmのところをそれぞれBINDER CLIPS(登録商標)(LION社製 No.107)ではさみ、片方を固定して膜を垂直につるす。他方のクリップに30g又は50gのおもりをつけて、複合多孔膜、ハニカム構造多孔薄膜、又はエッチング膜が切れるかどうか観察する。50gでも切れなかった場合(引っ張り強度は50g以上)を〇、30gで切れた場合(引っ張り強度は30g未満)を×として評価する。
(6)透水性試験
複合多孔膜を25mmφに打ち抜いたもの(実施例1〜4)、ハニカム構造多孔薄膜と透水性を比較したい複合多孔膜の支持多孔膜(本実施例ではコーティング不織布)とを重ね合わせて同じく25mmφの円形に打ち抜いたもの(比較例1〜2)、エッチング膜(比較例4)の25mmφ円形のものを市販のフィルターホルダー(CORNING社製、Swin−LokTM Filter Holder)にセットし、透水性試験を行う。複合多孔膜、ハニカム構造多孔薄膜と支持多孔膜とを重ね合わせたものの場合、フィルターホルダーの水入口側に多孔膜又はハニカム構造多孔薄膜が位置するようにセットする。
透水性試験は、上記フィルターホルダーの水入口側に50ml用ディスポシリンジ(テルモ社製)を直結して垂直に立て、フィルターサンプルを約1mlのエタノールにて湿らせた後、ディスポシリンジに蒸留水を充填し、蒸留水がシリンジ目盛り60mlから30mlまで自然落下する時間を測定し、フィルター単位面積・単位時間当たりの透水量を算出する。
(7)簡易血球浮遊液透過性試験
複合多孔膜又はエッチング膜(比較例4)を25mmφの円形に打ち抜いたものを市販のフィルターホルダー(CORNING社製、Swin−LokTM Filter Holder)にセットし、血球浮遊液の透過性の試験を行う。複合多孔膜の場合、フィルターホルダーの血球浮遊液入口側に多孔膜が位置するようにセットする。
ここで用いた血球浮遊液は、予めヒト新鮮全血から、コーティング不織布等を用いて白血球を除去し、白血球濃度を1/630に減らしたものである。
上記フィルターホルダーの血球浮遊液の入口側に10ml用ディスポシリンジ(テルモ社製)を直結して垂直に立て、ディスポシリンジの5mlの目盛りまで血球浮遊液を充填し、目盛りが5mlから3mlまで自然落下する時間を測定する。2mlの血球浮遊液透過時間として評価した。
「ヒト新鮮全血」は、採血した血液100cmあたり、抗凝固剤として濾過済みCPD溶液(クエン酸三ナトリウム二水和物26.3g、クエン酸一水和物3.27g、グルコース23.2g、及びリン酸二水素ナトリウム二水和物2.51gを注射用蒸留水1リットルに溶解し、孔径0.2μmのフィルターで濾過した溶液)を14cm加えて混和し、20℃で3時間保存することにより調製する。
(8)白血球除去能の評価
図3に示したような一体型フィルター構成によって評価した。
白血球除去性能は、ヒト新鮮全血450cmをフィルター装置へ、シリンジポンプを
用いて一定流速25cm/分で流し、濾過前及び濾過後に回収された全ての全血から一定量の血液を採取し、白血球濃度を残存白血球測定用試薬システム、LeucoCOUNTTMkit、フローサイトメーターFACS Calibur、及び解析ソフトCELL Quest(以上、BD Bioscience社製、米国)を用いる。
白血球除去能の値は、上記の血液濾過実験を2回行った結果、次式(1)より算出したそれぞれの値の平均値とした。
白血球除去能=−log(濾過後の血球浮遊液の白血球濃度/濾過前の血球浮遊液の白血球濃度)・・・(1)
(9)濾材容積(V)の算出
実施例及び比較例の白血球除去フィルター装置では、第2フィルターとして用いる複合多孔膜の支持多孔膜が第1フィルターと同じ素材を用い、また複合多孔膜の多孔膜の使用量が第1フィルターと比較して実質的に無視できたので、Vは下記式(2)にて計算した。
V=Wf[(1/d)−(1/ρ)]・・・(2)
ここで、d(g/cm)はフィルターホルダー内へ充填する全濾材の充填密度を、Wf(g)は充填する第1フィルターと第2フィルターの重量を、またρ(g/cm)は第1フィルターと第2フィルター(複合多孔膜)の支持多孔膜を形成する素材の密度を意味する。例えば、第1フィルターと支持多孔膜がポリエチレンテレフタレート製不織布であればρは約1.3である。
以下に本発明を、実施例及び比較例に基づき詳細に説明する。ただし、本発明はこれらによってなんら限定されるものではない。
実施例1
1.コーティング不織布反の製造
1−1.コーティング用ポリマーの合成
<2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)/2−(N、N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMAMA)系ランダムコポリマーの合成>
1リットル容量のセパラブルフラスコに126g(0.970mol)の2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、三菱レイヨン社製)、4.72g(0.030mol)の2−(N、N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMAMA、和光純薬社製)、及び460gのエタノールを入れ、窒素バブリングを行って脱酸素したのち、容器内を窒素雰囲気下に保ったまま60℃に昇温した。これに同じく脱酸素した0.822g(5.01mol)のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN、和光純薬社製)を溶解したエタノール溶液(エタノール40.0g)を約1時間かけて滴下した。そのまま60℃で攪拌を継続し、AIBNの滴下開始から225分後にp−メトキシフェノール(和光純薬社製)を加えて重合反応を停止した。得られた反応液にn−ヘキサンを少しずつ加えてポリマーを析出させ、デカンテーションにてポリマーを取り出し、更にエタノールへの溶解とn−ヘキサンによる再沈操作を数回繰り返してポリマーの精製を行った。
精製後のポリマー収率(対モノマー仕込み量)は72wt%であった。GPC測定(標準ポリスチレン換算)により得られたポリマーの数平均分子量はMn=1.2×10、重量平均分子量はMw=4.1×10、Mw/Mn=3.4であった。また重合終了後の反応液のガスクロマトグラフィー(GC)によるモノマー残存量の測定から算出されるポリマー中の共重合組成比はHEMA/DMAMA=97/3(モル比)であった。
1−2.コーティング用ポリマー(HEMA/DMAMA(97/3(モル比))系コポリマー)の不織布へのコーティング
上記1−1.で得られたHEMA/DMAMA(97/3モル比)系コポリマーの1.0wt%エタノール溶液を調製し、これをコーティング溶液とした。用いる不織布として平均繊維径が1.2μm、平均気孔径が6.3μm、目付け量40g/m(不織布1m当たりの繊維重量)、厚み0.2mmのポリエチレンテレフタレート不織布(旭化成(
株)製;マイクロウエブ)を選択した。これをコーティング溶液に浸漬時間が5秒になるように連続的に浸漬した後、ニップロールに挟んで通過させて余分なコーティング溶液を除去し、乾燥してコーティング不織布反を得た。
2.複合多孔膜の製膜
クロロホルムを溶媒として、ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)(和光純薬工業株式会社製、平均分子量約70,000〜100,000)とポリアクリルアミド系両親媒性ポリマー(既述の構造式(1))を溶質とする1g/Lの疎水性有機溶媒溶液を調製した。PCL/ポリアクリルアミド系両親媒性ポリマーは重量比で9/1であった。
化学式(1)のポリアクリルアミド系両親媒性ポリマーは、ユニットmとユニットnのモル比がm/n=4/1のランダムコポリマーである。
ポリアクリルアミド系両親媒性ポリマーは、ドデシルアクリロイルアミド(CH=CH−CONH−C1122−CH)(Aモル)と6−アクリルアミドヘキサン酸(CH=CH−CONH−C10−COOH)(Bモル)をA/B=4/1のモル比にてベンゼン中、AIBNを開始剤とするラジカル重合法により製造した(モノマー濃度6wt%、重合温度60℃)。得られた両親媒性ポリマーの重量平均分子量Mwは2.5×10であった(GPC法、標準ポリスチレン換算)。
6−アクリルアミドヘキサン酸は、塩化アクリロイル(アルドリッチ(株)製)と6−アミノヘキサン酸(アルドリッチ(株)製)を水溶媒中、0℃での脱塩化水素反応して合成した。ドデシルアクリロイルアミドは、塩化アクリロイルとドデシルアミン(アルドリッチ(株)製)をクロロホルム溶媒中、0℃での脱塩化水素反応して合成した。
次に1−2.で準備したコーティング不織布反を一辺16cmの正方形に切り、ビーカー中にて純水に浸漬し、超音波洗浄器で5分間脱気しながら十分に水を保持させた。この水を充分保持した不織布(含水不織布)をビーカーから取り出してガラス板上に置き、更に一辺15cmの正方形を打ち抜いた厚さ1mmの金属枠を、金属枠の打ち抜き部全面から該含水不織布が露出するように不織布上に重ねて配置し、ガラス板、含水不織布、金属枠を重ねた状態にしてクリップで固定した。
この含水不織布が露出した金属枠の打ち抜き部に、準備しておいたPCLとポリアクリルアミド系両親媒性ポリマーを含むクロロホルム溶液を、静かに14cm流し入れ、室温25℃、相対湿度40%の恒温恒湿室中にて、溶液表面に相対湿度60%の空気を6リットル/分で吹き付けクロロホルム除去を行って、含水不織布上にPCLを主成分とする多孔膜を形成させた。続いて金属枠をはずし、室温で不織布を風乾し、複合多孔膜を得た。得られた複合多孔膜の膜厚は約240μmであり、多孔膜の開孔率、D、σd/D、貫通孔の割合、T、σt/Tは表1に示す通りであった。
得られた複合多孔膜の表面を、多孔膜側から撮影した走査型電子顕微鏡写真を図1(1000倍)及び図2(3000倍)に示す。多孔膜の孔を通して支持多孔膜である不織布の構造を観察することができた。また多孔膜表面には、不織布を構成する繊維が多孔膜に侵入し、その結果部分的に孔が閉塞している状態も観察することができた。
また複合多孔膜の断面を撮影した走査型電子顕微鏡写真を図3(3000倍)に示す。孔は多孔膜内で膨らんだ球状貫通孔構造であり、互いに隣接する孔が連通していることを観察できた。
接着試験を行った結果、多孔膜は支持多孔膜から分離することはなかった。
簡易引っ張り試験では、50gでも試験片が切れることはなく、多孔膜に亀裂なども見られなかった。
純水の透水性試験を行ったところ、17.6ml/cm・minであった。
得られた複合多孔膜を1−1.で合成したHEMA/DMAMA(97/3(モル比))系コポリマーの0.1wt%溶液(溶媒はエタノール)に10秒間浸漬してコーティングを施した。浸漬後充分乾燥し、コーティング複合多孔膜を得た。
コーティング複合多孔膜の簡易血球浮遊液透過性試験(2mlの血球浮遊液透過時間)は、30secであり、後の比較例4と比較し、良好な透過速度であった。
実施例2
用いる疎水性有機溶媒溶液の溶媒として、クロロホルムの代わりにジクロロメタンを用いる以外は、実施例1の2.と同様にして複合多孔膜を製造した。
得られた複合多孔膜の多孔膜の開孔率、D、σd/D、貫通孔の割合、T、σt/Tは表1に示した通りであった。
接着試験を行った結果、多孔膜は支持多孔膜から分離することはなかった。
簡易引っ張り試験では、50gでも試験片が切れることはなく、多孔膜に亀裂なども見られなかった。
純水の透水性試験を行ったところ、15.4ml/cm・minであった。
実施例3
用いる疎水性有機溶媒溶液の溶質として、PCLの代わりにポリスルホン(PSU:テイジンアコモエンジニアリングプラスチックス製 UDEL P−3500)を用いる以外は、実施例1の2.と同様にして複合多孔膜を製造した。
得られた複合多孔膜の多孔膜の開孔率、D、σd/D、貫通孔の割合、T、σt/Tは表1に示した通りであった。
接着試験を行った結果、多孔膜は支持多孔膜から分離することはなかった。
簡易引っ張り試験では、50gでも試験片が切れることはなく、多孔膜に亀裂なども見られなかった。
純水の透水性試験を行ったところ、14.2ml/cm・minであった。
実施例4
用いる疎水性有機溶媒溶液の溶質として、PCLの代わりにPSUを用い、ポリマー濃度を4g/L、液量21cmをキャストし、室温28℃、相対湿度43%の恒温恒湿室中にてクロロホルム除去を行う以外は、実施例1の2.と同様にして複合多孔膜を製造した。
得られた複合多孔膜の多孔膜の開孔率、D、σd/D、貫通孔の割合、T、σt/Tは表1に示した通りであった。
接着試験を行った結果、多孔膜は支持多孔膜から分離することはなかった。
簡易引っ張り試験では、50gでも試験片が切れることはなく、多孔膜に亀裂なども見られなかった。
純水の透水性試験を行ったところ、19.6ml/cm・minであった。
比較例1
コーティング不織布は使わずに、直径15cmの円形ガラスシャーレに直接、疎水性有機溶媒溶液を11cm流し入れる以外は、実施例1の2.と同様にしてハニカム構造多孔薄膜を形成させた。シャーレ上の多孔薄膜はエタノールを加えて剥離し、リング状の支持枠に付着固定して取り出した。
得られたハニカム構造多孔薄膜の開孔率、D、σd/D、貫通孔の割合、T、σt/Tは表1に示す通りであった。
純水の透水性試験を行ったところ、18.9ml/cm・minであった。
簡易引っ張り試験では、30gでも試験片が切れ、実用的な強度がないことがわかった。
比較例2
コーティング不織布は使わずに、直径15cmの円形ガラスシャーレに直接、疎水性有機溶媒溶液を11cm流し入れる以外は、実施例4と同様にしてハニカム構造多孔薄膜を製造した。
得られたハニカム構造多孔薄膜の開孔率、D、σd/D、貫通孔の割合、T、σt/Tは表1に示す通りであった。
純水の透水性試験を行ったところ、20.1ml/cm・minであった。
簡易引っ張り試験では、30gでも試験片が切れ、実用的な強度がないことがわかった。
比較例3
コーティング不織布を含水させずに、乾燥状態で用い、疎水性有機溶媒溶液を17mlキャストする以外は、実施例4と同様にして複合多孔膜を製造した。
得られた複合多孔膜の走査型電子顕微鏡写真から、キャスト液由来のPSUが、支持膜内部まで侵入しており、一部支持膜の孔が閉塞している状態が見られた。また、複合多孔膜の空気を吹き付けた面側のPSU部は、ハニカム状の孔群が部分的には見られたが、大部分は不織布が露出していたり、孔が裂けていたり、あるいは、貫通していない孔であり、実施例1〜4でみられたような、孔径均一性の高い平滑な多孔膜は見られず、開孔率、D、σd/D、貫通孔の割合、T、σt/Tを規定することは困難であった。
比較例4
ポリカーボネート(PC)製エッチング膜(MILLIPORE社製、アイソポア メンブレンフィルター)を用いて、純水の透水性試験を行ったところ、12.0ml/cm・minであった。
また、実施例1と同様にHEMA/DMAMA(97/3(モル比))系コポリマーをコーティングし、簡易血球浮遊液透過性試験を行った結果、57秒であった。
簡易引っ張り試験では、50gでも試験片は切れず、亀裂なども見られなかった。
なお、このPC製エッチング膜の開孔率、D、σd/D、T、σt/Tは表1に示した通りであった。貫通孔の割合は、厚みが厚いため膜平面からの観察では確認できないが、製法上ほぼ100%と推測した。また、膜断面の孔形状は円筒状であった。
実施例5
1.白血球除去装置の製造
1−1.第1フィルターの白血球除去能の評価
実施例1の1−2.のプロセスにて製造したコーティング不織布反から、フィルターホルダーに充填した時のフィルター有効面積が45cmになるように正方形不織布(フィルターの有効サイズは6.7cm×6.7cm)を16枚切り抜き、その16枚を充填密度が0.23g/cmになるようにフィルターホルダーに充填した。このフィルターにヒト新鮮全血450cmを流す濾過実験を2回行った結果、第1フィルターの白血球除去能の平均値として2.8の値を得た。
1−2.一体型白血球除去フィルター装置の製造とその白血球除去性能の評価
実施例1の1−2.で製造したコーティング不織布反から、任意の位置にて有効フィルターサイズが6.7cm×6.7cmになるような正方形サンプル(フィルター有効面積は45cm)を16枚切り抜き、これらを重ね合わせて第1フィルターとした。
次に実施例1の2にて得られたコーティング複合多孔膜の中心付近にて第1フィルターと同サイズの正方形サンプルを1枚切り抜き、これを第2フィルターとした。(第2フィルターの有効面積は45cm)。第1フィルターと第2フィルターを重ねて、フィルターホルダー中に全濾材を充填密度が0.23g/cmになるように充填して、一体型白血球除去フィルター装置を構成した。第1フィルターが処理血球浮遊液入口側に、第2フィルターの支持多孔膜部が処理血液出口側になるように配置した。
充填密度0.23g/cmの値が、第1フィルターと第2フィルターの支持膜の充填密度に等しいとみなし、Wfを17枚の正方形不織布サンプルの重量として、前記の式(2)にて計算した結果、濾材容積Vは、12cmであった。
この一体型白血球除去フィルター装置に、ヒト新鮮全血450cmを流し、白血球除去性能を測定した。血液濾過実験を2回行った結果、白血球除去能の平均値は4.3であった。
以上の結果を表2に示す。後述の比較例5と比較すると、白血球除去能は同等の値を維持しているにもかかわらず、濾材容積が大幅に低下しており、血球浮遊液ロス量を大幅に削減できる白血球除去フィルター装置が得られたことがわかる。
実施例6
実施例1の2.で得られたコーティング複合多孔膜2枚を第2フィルターとし、実施例1の1−2.にて製造したコーティング不織布を15枚用いて第1フィルターとした以外は、実施例6と同様にして、白血球除去フィルター装置を製造した。
この場合も、全濾材の充填密度は0.23g/cmであったので、濾材容積は(第1フィルター+支持膜2枚)12cmである。
この一体型白血球除去装置に、ヒト新鮮全血450cmを流し、白血球除去能を測定した。血液濾過実験は2回行った結果4.5であった。
これらの結果を表2に示す。
実施例7
実施例2で得られた複合多孔膜を、HEMA/DMAMA(97/3(モル比))系コポリマーの0.1wt%溶液(溶媒はエタノール)に10秒浸漬後取り出して乾燥する方法で、コーティングを施し、コーティング複合多孔膜とした。このコーティング複合多孔膜1枚を第2フィルターとした以外は、実施例6と同様にして、白血球除去フィルター装置を製造した。
この場合も、全濾材の充填密度は0.23g/cmであったので、濾材容積は(第1フィルター+支持膜2枚)12cmである。
この一体型白血球除去装置に、ヒト新鮮全血450cmを流し、白血球除去能を測定した。血液濾過実験は2回行った結果4.5であった。
これらの結果を表2に示す。
比較例5
実施例1の1−2で得られたHEMA/DMAMA(97/3(モル比))系コポリマーをコーティングした不織布から、フィルター有効面積45cmになるように正方形不織布サンプル(有効フィルターサイズは6.7cm×6.7cm)を32枚切り抜き、その32枚をフィルターホルダーに充填して白血球除去フィルター装置を構成した(充填密度は0.23g/cm)。ここでは、複合多孔膜(すなわち第2フィルター)は使用しない。このとき濾材容積は24cmであり、フィルター有効面積は45cmであった。
この白血球除去フィルター装置に、ヒト新鮮全血450cmを流す白血球濾過実験を2回行ったところ、白血球除去能を平均値は、4.2であった。
結果を表2に示す。白血球除去能は高い値であるが、濾材容積が実施例5と比べると2倍である。
比較例6
第1フィルターを構成するコーティング不織布の枚数を3枚にすること、及び第2フィルターを構成するコーティング複合多孔膜の枚数を2枚にすること以外は、実施例5と同様にして、一体型白血球除去装置を製造した。
第1フィルターの白血球除去能は0.5であり、最終的に構成された一体型白血球除去フィルター装置の濾材容積(第1フィルター+複合多孔膜の支持膜)は2cmであった。
この一体型白血球除去フィルター装置に、ヒト新鮮全血450cmを流し、白血球除去性能を測定しようとしたが、濾過途中で目詰まりによるフィルターの閉塞が起こったため、評価することができなかった。
第1フィルターの白血球除去能が不充分であると、フィルター装置の目詰まりが発生し
て好ましくないことがわかった。
実施例8
1.複合多孔膜の加工によるカップ型培養容器の製造
実施例3にて製造した複合多孔膜を13mmφの円形状に切り抜いておき、ポリマー濃度17%のPSUのクロロホルム溶液を接着剤として、ガラス製リング(旭テクノグラス株式会社製、クローニングリング、内径10mm、外径12mm、高さ10mm)の1つの端面に、打ち抜いた円形の複合多孔膜の多孔膜面に対して接着し、カップ型に加工した。このカップ型培養容器を風乾、真空乾燥後、121℃、10分オートクレーブ処理することで滅菌した。
オートクレーブ処理したカップ型培養容器を、0.3%のI型コラーゲン水溶液((株)高研製CELLGENI−PC)に浸漬したのち風乾して、コラーゲンコートしたカップ型培養容器を得た。
2.細胞培養
2−1.細胞の支持多孔膜への導入
内径12mm、外径14mmのシリコンチューブの一端を、異径アダプターを用いて、10ml用ディスポシリンジ(テルモ社製)の口と接続し、もう一端を上記1で作成したコラーゲンコートしたカップ型培養器のガラスリング部に接続した。
細胞培養液(GIBCO社製、D−MEM)にモデル細胞としてヒト子宮頚部腺癌細胞(ATCC番号:CCL−2)が1×10個/100μLとなるように細胞懸濁液を調製した。
カップ型培養容器を複合多孔膜の支持多孔膜が上に来るように置いて、調製した細胞懸濁溶液100μLを支持多孔膜上に滴下し、ディスポシリンジにより吸引し、更に培養液5mlを滴下・吸引し、細胞を導入した。支持多孔膜を上にした状態で、30分無菌状態で放置した。複合多孔膜を通過してシリンジ内に流れてきた回収細胞培養液中の細胞数を血球計算盤(サンリード硝子有限会社製EOSINOPHIL COUNTER)を用いて、位相差光学顕微鏡下でカウントしようとしたが、細胞を確認することはできなかった。
2−2.細胞培養
30分後支持多孔膜を上にしたまま、24ウエルのポリスチレン製培養プレート(BD
Bioscience社製、米国、マルチウエルTMセルカルチャープレート)の、ウエル内におき、膜上部まで培養液に浸漬するように、2mlの培養液を加えた。この培養プレートを5%CO、95%空気の雰囲気下、37℃の保湿インキュベータ内に静置して、2日間培養した。
2日後、カップ型培養器を取り出して、0.05%トリプシン溶液5mlを通液させた後、更に培養液10mlを通液して、支持多孔膜中の細胞を回収した。回収液中の細胞数は血球計算盤を用いて、位相差光学顕微鏡下でカウントした。その結果、細胞数が3倍に増殖していることがわかった。
同様に培養を行ったカップ型培養器をウエルから取り出し、2%グルタルアルデヒド水溶液で細胞を固定してから、複合多孔膜をカップ型培養容器から切り取った。
切り取った複合多孔膜の断面を走査型電子顕微鏡にて観察し、支持多孔膜中の細胞の存在分布を調べた。その結果、多孔膜近傍に細胞が充填されており、また支持多孔膜中の他の部分にも細胞が存在していることが観察できた。
また、比較例7と比べると、増殖した細胞数が多く、支持多孔膜の存在により細胞の足場となる面積が増加したため、効率的に細胞培養可能なことがわかった。
これらのことから、細胞を支持多孔膜の多孔膜近傍まで導入することが可能で、かつ、支持多孔膜中で細胞が増殖可能なことがわかった。即ち、この状態で多孔膜上に細胞を播種すれば、多孔膜を介して異なる細胞が効率的に接触し、かつ支持多孔膜中の細胞により細胞活性が低下することなく、培養できることが期待される。
比較例7
ポリカーボネート(PC)製エッチング膜(MILLIPORE社製、アイソポア メンブレンフィルター)を用いて、実施例8の1.と同様に、カップ型培養器を作成、滅菌、コラーゲンコートを行った。
細胞培養液(GIBCO社製、D−MEM)にモデル細胞としてヒト子宮頚部腺癌細胞(ATCC番号:CCL−2)が1×10個/100μLとなるように細胞懸濁液を調製し、カップ型培養器のエッチング膜側を上側にして、エッチング膜上に細胞懸濁液を100μl滴下し、30分間エッチング膜を上にした状態で無菌状態に置いた。この時、培養液がエッチング膜を通過してカップ内側に流れて膜面が乾き易いので、乾かないように蓋を被せ、必要に応じて上から培養液を少量追加する必要があり、操作性は極めて悪かった。
その後、実施例8の2−2.と同様に2日間培養し、トリプシン溶液を用いて細胞を回収し、細胞数をカウントした。その結果、細胞は2倍に増えていた。
実施例9
実施例8の1.と同様にして製造したコラーゲンコートしたカップ型培養器を実施例8の2−1.と同様にして、ヒト子宮頚部腺癌細胞1×10個/100μlを導入した。
導入30分後、支持多孔膜を下にして、24ウエルのポリスチレン製培養プレートのウエル内にカップ型培養器をおき、1mlの培養液を加えて、インキュベータ内で2日間培養した。
2日後、実施例8と同様に、トリプシン溶液を用いて細胞を回収し、細胞数をカウントした。その結果、細胞数が2.8倍に増殖していることがわかった。
比較例8と比べると、カップ型培養器をひっくり返しても、支持多孔膜が細胞の足場となるので、容易に細胞が脱落することなく、複合多孔膜中に細胞が保持されるため、回収された細胞数が多かった。この結果より、続いて多孔膜上へ第2の細胞を播種することが極めて容易に行えることがわかった。
比較例8
比較例7と同様にポリカーボネート(PC)製エッチング膜(MILLIPORE社製、アイソポア メンブレンフィルター)を用いて、コラーゲンコートしたカップ型培養器を作成し、比較例7と同様の操作で、ヒト子宮頚部癌細胞1×10個/100μlの細胞懸濁液100μlを、カップ型培養器のエッチング膜側を上側にして、エッチング膜上に滴下し、30分間エッチング膜を上にした状態で、膜面が乾かないよう注意しながら、無菌状態に置いた。
滴下30分後、エッチング膜部を下にして、24ウエルのポリスチレン製培養プレートのウエル内におき、1mlの培養液を加えて、インキュベータ内で2日間培養した。
2日後、実施例8と同様に、トリプシン溶液を用いてエッチング膜に接着した細胞を回収し、細胞数をカウントした。その結果、細胞数が0.5倍しか存在しなかった。エッチング膜をウエル内に置いた際、多くの細胞が脱落したと考えられる。
本発明の複合多孔膜は、μmオーダーの孔径サイズと高い均一性、高い開孔率を有し、
また膜内部が濾過効率の高い構造をとり、しかも支持膜によって充分な力学的強度を兼ね備えている。従って、μmオーダーの対象物、例えば、各種細胞、細菌類、酵母類などの濾過(分離、回収)、更にはμmオーダーにおける精密なサイズ分離を必要とする用途において、メインフィルター、プレフィルター、又はファイナルフィルターとして広く使用することが可能である。
具体的には、高付加価値医薬品、食品、栄養剤などを製造するバイオプロセス領域における、バッチ式や循環式での細胞分離フィルターとして効果的に使用することが可能となる。
医療領域においては、全血、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などに対する白血球除去フィルターとして、複合多孔膜単独でも、又は従来のフィルター濾材と組み合わせて使用することも可能である。
単独で用いる場合には、高い強度を有するため、大きな濾過圧をかけても膜破れなどの心配のない薄型の白血球除去フィルターとして使用することができる。
赤血球分離、白血球分離、血小板分離などの各種血液細胞分離フィルターとして、また全血から血漿分離フィルターとして使用することも可能である。
本発明によれば、白血球を除去する際に、高い白血球除去能を維持したまま、濾材容量を大幅に低減することができるので、濾材容積に起因する血球浮遊液(全血、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤等)の濾過時におけるロス量を大幅に低減することが可能となり、医療現場にける血液製剤等にかかるコストパフォーマンスが大幅に向上する、フィルター構成材料の減量によるフィルター生産側のコスト削減ができる、そして薄型製品となるため医療現場における収納スペースの効率化やユーザーの作業性向上が可能になる、といった種々の効果が発現する。
非経口的に電解質溶液、薬剤、栄養剤などを静脈投与する際に、混入異物(細菌や微粒子物質)を除去するためのIVフィルター、末梢血、臍帯血、骨髄を始めとする造血幹細胞ソースからの白血球系細胞回収フィルター、単核球回収フィルター、造血幹細胞回収用フィルター、各種臓器の再生医療分野における細胞分離フィルターとして使用することも可能である。
本発明の細胞培養用隔膜は、目的とする有用な細胞の増殖が異なる細胞との細胞間接触によって制御される場合(例えば、分化を抑制しつつ、増殖される場合)であって、しかも増殖後にはその有用細胞のみを選択的に回収したい場合の細胞培養用隔膜として有効に使用される。特にこの細胞培養用隔膜を用いて、造血幹細胞を未分化のまま大量に増殖できる可能性があるため、再生医療分野や輸血分野(培養血液細胞を用いるクリーンな輸血)において非常に効果的に利用されることが期待される。また、その他、臓器特異的幹細胞の増殖による再生医療・細胞治療分野でも同様に効果的な利用が期待される。
その他、本発明の複合多孔膜は、インクなどの均一分散媒体として孔版印刷におけるマスターなどの電子材料分野に使用することが可能である。

Claims (3)

  1. 細胞培養液中で、互いに異なる細胞群を相互に接触可能な状態で仕切って、細胞を共培養するために用いられる、複合多孔膜を含んでなる細胞共培養用隔膜であって、
    前記複合多孔膜が、有機高分子化合物を含んでなる少なくとも一枚の多孔膜と、これに隣接する少なくとも一枚の支持多孔膜とを含んでなる複合多孔膜であり、
    多孔膜に隣接する支持多孔膜の面の少なくとも一部において、多孔膜を構成する有機高分子化合物が支持多孔膜中に侵入しており、多孔膜の膜平面を顕微鏡写真により観察した場合の、多孔膜の開孔率は15〜80%、平均孔直径D(μm)は0.1≦D≦20、孔直径の標準偏差σd(μm)は0≦σd/D≦0.5であって、多孔膜が有する孔の貫通孔の割合が30%以上であり、かつ、膜断面を顕微鏡写真にて観察した場合の多孔膜の平均膜厚T(μm)が0.5≦T≦20、かつ0.05≦T/D≦2であり、多孔膜の有する孔、多孔膜内部にて隣接する孔が連通している構造であって、
    また、支持多孔膜が1〜100μmの平均気孔径の連通孔を有する不織布であり、その不織布を形成する繊維の径が0.1〜50μmであり、かつその目付が10〜200g/mである複合多孔膜であることを特徴とする細胞共培養用隔膜
  2. 請求項に記載の細胞培養用隔膜を含んでなり、細胞培養液中で互いに異なる細胞群を相互に接触可能な状態で仕切って、細胞を共培養することを特徴とする細胞共培養装置。
  3. 請求項に記載の細胞培養用隔膜の多孔膜面を筒状体の1つの端面に接着したカップ型培養容器と、該カップ型培養容器を内部に静置可能な状態で収納できる培養液浸漬用容器と、を備えることを特徴とする請求項に記載の細胞共培養装置。
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