JP2019135967A - 培養細胞の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】浮遊性細胞を高密度に培養し、培養終了後に不要になった培養液成分を除去(洗浄)し、増殖した細胞を高率に回収できる培養細胞の製造方法を提供することを課題とする。【解決手段】本発明は、選択透過性膜により内部が第1室および第2室に区画された細胞培養容器を用いて浮遊性細胞を培養し、洗浄し、回収する培養細胞の製造方法であって、(1)前記第1室に前記浮遊性細胞を含む細胞懸濁液を充填した後、前記第2室に細胞培養液を流動して前記第1室に導入した前記浮遊性細胞を培養する工程、(2)培養を停止した後、前記第1室に細胞洗浄液を導入するとともにろ過をかけて前記浮遊性細胞を洗浄する工程、(3)洗浄した前記浮遊性細胞を前記細胞洗浄液とともに前記細胞培養容器から回収する工程、を含む、培養細胞の製造方法である。【選択図】なし

Description

本発明は、選択透過性膜を含む細胞培養容器を用いてリンパ球等の浮遊性細胞を培養し、洗浄し、回収することが可能な培養細胞の製造方法に関する。
外科手術、化学療法、放射線療法に次ぐ第4のがんの治療法として、がん免疫療法が近年注目を集めている。がん免疫療法は、本来ヒトが持っている免疫の力を利用した、がんに対する治療法の総称であるが、その一つに免疫細胞療法がある。これは、がん患者の血液中のリンパ球や、リンパ球にがん細胞の抗原を提示する樹状細胞といった免疫系細胞を体外に取り出し、培養・強化した後に体の中に戻し、免疫力を高めることによりがんを治療しようとする方法である。近年、免疫チェックポイント阻害剤が登場したことにより、改めてがんに対する免疫細胞療法の重要性が高まってきたといえる。
現在、免疫細胞療法に用いる細胞、例えばTリンパ球の培養は、フラスコやフラスコを模した培養バッグで行われている。フラスコや培養バッグを用いる細胞培養は、操作が単純、簡便であるという反面、面積や容積を大きくする必要があり、多くの培養スペースが必要であり、また、自動培養装置などにおいては装置が大型化するといった問題がある。
また、培養した細胞を免疫細胞治療に用いる場合は、患者体内に静脈点滴で戻すため、培養液成分を可能な限り除去する必要がある。即ち、細胞培養終了後は細胞を多量の培養液とともに回収し、遠心分離用容器に分注して遠心分離により培養液を除去し、生理食塩液等を加えて細胞を再懸濁するといった操作を複数回繰り返すことにより培養液を除去する必要がある。
特許文献1、2には、中空糸膜を用いて細胞の懸濁液を濃縮する機構が示されており、こういった装置を利用することにより培養液を除去することが可能である。しかしながら従来、細胞の培養、洗浄、回収の工程は、それぞれ別工程になっているため、工程移送時の作業の煩雑さや回収率の低下、コンタミの問題があった。
特開2012−210187号公報 特開2016−116465号公報
本発明は、浮遊性細胞を高密度に培養し、培養終了後に不要になった培養液成分を除去(洗浄)し、増殖した細胞を高率に回収できる培養細胞の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1.選択透過性膜により内部が第1室および第2室に区画された細胞培養容器を用いて浮遊性細胞を培養し、洗浄し、回収する培養細胞の製造方法であって、
(1)前記第1室に前記浮遊性細胞を含む細胞懸濁液を充填した後、前記第2室に細胞培養液を流動して前記第1室に導入した前記浮遊性細胞を培養する工程、
(2)培養を停止した後、前記第1室に細胞洗浄液を導入するとともにろ過をかけて前記浮遊性細胞を洗浄する工程、
(3)洗浄した前記浮遊性細胞を前記細胞洗浄液とともに前記細胞培養容器から回収する工程、
を含む、培養細胞の製造方法。
2.前記浮遊性細胞は、遺伝子改変された細胞である、1に記載の培養細胞の製造方法。
3.前記浮遊性細胞は、リンパ球である、1または2に記載の培養細胞の製造方法。
4.前記選択透過性膜は、前記第1室側の表面の平均孔径が100nm以上1000nm以下である、1〜3のいずれかに記載の培養細胞の製造方法。
5.前記選択透過性膜は、最大孔径が2000nm未満である、1〜4のいずれかに記載の培養細胞の製造方法。
6.前記選択透過性膜は、中空糸型選択透過性膜である、1〜5のいずれかに記載の培養細胞の製造方法。
7.前記選択透過性膜は、内径が100μm以上1500μm以下である、1〜6のいずれかに記載の培養細胞の製造方法。
本発明により、1つの細胞培養容器を用いて浮遊性細胞の培養、洗浄、回収までを一気通貫に実施することができるため、高額になりがちなリンパ球等の浮遊性細胞の培養細胞の製造コストを抑えることが可能となる。
本発明に用いるプレート型選択透過性膜を収納した細胞培養容器の一例を示す模式図である。 本発明に用いる中空糸型選択透過性膜を収納した細胞培養容器の一例を示す模式図である。 本発明に用いる装置構成の一例を示す模式図である。
(選択透過性膜)
本発明において、選択透過性膜は、浮遊性細胞を通過せず、培養液成分や細胞の代謝物(老廃物)を透過できるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、セルロースアセテートや再生セルロースなどのセルロース系素材や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、フッ素系樹脂、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等の合成系素材からなるものが利用できる。また、これらの誘導体が主成分であっても良い。また、選択透過性膜はこれらの素材に化学的に修飾を加えたものであっても良く、例えば、親水化処理されたものでもよい。親水化処理することにより、培養細胞への培養液等の液体成分の供給が容易になる。選択透過性膜を親水化処理する方法としては、例えば、選択透過性膜をポリビニルピロリドンやエチレン−ビニルアルコール共重合体等の親水性高分子や、グリセリン、エタノールで処理する方法が挙げられる。
本発明において、選択透過性膜は、プレート(平膜)型の形状でもよいし、中空糸型の形状でもよいが、浮遊性細胞の培養を行う第1室に面する側(有細胞側)の表面の平均孔径は100nm以上1000nm以下であることが好ましい。より好ましくは、500nm以下である。なお、中空糸型の場合、中空糸の内側(中空部側)を第1室としても、中空糸の外側を第1室としてもよい。第1室に面する側の表面の平均孔径を前記範囲とすることによって、膜表面の孔(穴)への浮遊性細胞の落ち込みを抑制することができる。
本発明において、選択透過性膜は、第1室側(有細胞側)から第2室側(無細胞側)に向かって細孔径が小さくなる傾斜構造であることが好ましい。このような傾斜構造をとることによって、細胞の洗浄工程において培養液成分や細胞代謝物を除去しやすくなる。すなわち、洗浄工程において、培養液成分や細胞代謝物は、膜の孔径よりも小さく洗浄によってその大部分は膜を透過するが、中には膜を透過しないものもあり、第1室側から第2室側に向かってろ過をかけた際に膜内(細孔内)に入り込みトラップされやすくなるため(深層ろ過)、洗浄性を高めることができる。逆に、第1室側(有細胞側)から第2室側(無細胞側)に向かって細孔径が大きくなる傾斜構造の膜を用いると、膜表面に培養液成分や細胞代謝物(老廃物)が溜まることがあり、細胞に再付着することになる。なお、第1室から第2室に向かってろ過をかける際には、第1室側を加圧してもよいし、第2室側を減圧してもよい。
本発明において、選択透過性膜は、最大孔径が2000nm未満であることが好ましい。最大孔径を2000nm未満とすることにより、培養液成分や細胞代謝物(老廃物)を効率的に膜透過(捕捉)させ、浮遊性細胞を高純度に洗浄することができる。このとき、培養液成分や細胞代謝物(老廃物)を効率的に膜透過させるためには、選択透過性膜の平均孔径が10nm以上であることが好ましい。平均孔径を10nm以上とすることにより、培養液に含まれるγ−グロブリン(分子量:約15万、直径約8.4nm)等の巨大溶質も膜を透過させることができる。選択透過性膜の最大孔径は、より好ましくは、15nm以上150nm以下である。
本発明において、選択透過性膜として、中空糸型選択透過性膜を用いる場合、中空糸型選択透過性膜の内径は、100μm以上1500μm以下であることが好ましい。より好ましくは、150μm以上1300μm以下である。中空糸型選択透過性膜の内径を前記範囲とすることにより、浮遊性細胞の培養空間を広く確保することができるため、浮遊性細胞同士の接触や膜表面との接触を低減することができ、細胞へのダメージを抑えることができる。中空糸型選択透過性膜の内径を大きくしすぎると、単位容積あたりの膜面積を稼げなくなるためコンパクト性を損なう問題が生ずる。
本発明において、選択透過性膜の膜厚は、10μm以上100μm以下であることが好ましい。より好ましくは、50μm以上250μm以下である。選択透過性膜の膜厚を前記範囲とすることにより、膜内濃度分極を小さく抑えることができるため選択透過性膜を介して細胞液成分や細胞代謝物(老廃物)の物質交換を効率的に行うことができる。
本発明において、選択透過性膜の透水性は特に限定されないが、第1室側と第2室側との物質交換性を高めたり、洗浄工程におけるろ過圧力を低くするためには、透水性の高い膜を用いるのが好ましく、37℃における純水の透水性が10〜3000mL/m/hr/mmHgであることが好ましい。より好ましくは、500〜2000mL/m/hr/mmHgである。そのためには、空隙率が30〜75%の選択透過性膜を用いるのが好ましい。
(細胞培養容器)
本発明において、細胞培養容器は、選択透過性膜により内部が第1室および第2室に区画された構成のものであればよく、例えば、図1に示すようなプレート型選択透過性膜1により容器2の内部空間が仕切られており、一方の空間が第1室3を構成し、他方の空間が第2室4を構成しているものが挙げられる。また、図2に示すような容器2に数十本〜数万本の中空糸型選択透過性膜1を収納し、中空糸型選択透過性膜1の両端を接着樹脂で容器2に固定した構成のものが挙げられる。この場合、中空糸型選択透過性膜1の内部空間(中空部)を第1室とし、外部空間を第2室としてもよいし、逆に外部空間を第1室とし、内部空間(中空部)を第2室としてもよい。なお、図1、図2において、細胞培養容器は、第1室および第2室にそれぞれ連通する導入口5a、6aおよび排出口5b、6bを供えている。
(細胞培養装置)
図3は、本発明に用いる細胞培養装置の一例を示している。図3には、図1に示すプレート型選択透過性膜を収納した細胞培養容器を例示している。細胞培養容器の第1室に連通する導入口5aには、導入口40から浮遊性細胞を含む細胞懸濁液を送液するための流路および細胞洗浄液容器7から細胞洗浄液を送液するための流路が接続されている。また、細胞懸濁液と細胞洗浄液の流路を切替えられるように流路の途中にバルブ20が設けられている。また、前記細胞培養容器の第1室に連通する排出口5bには、培養後の細胞回収液を排出するための流路が接続されており、流路の途中には流量調整用のバルブ21および送液ポンプ31、細胞回収容器10または排出口50への流路を切替えるためのバルブ22が設けられている。一方、細胞培養容器の第2室に連通する導入口6aには、培養液貯留容器8から培養液を第2室に送液するための流路が接続されている。また、第2室に連通する排出口6bには、細胞培養液または細胞洗浄液を排出するための流路が接続されており、流路の途中には送液ポンプ30が設けられており、排出された培養液または洗浄液を回収するための回収容器9に接続されている。なお、図3において、図2に示す中空糸型選択透過性膜を収納した細胞培養容器を用いた場合にも、同様の装置構成にて本発明を実施することができる。
(培養の対象となる細胞)
本発明において、培養の対象となる細胞としては、特に限定されるものではないが、浮遊性/非接着性の動物細胞が好適である。細胞の由来も特に限定されず、ヒト、ブタ、イヌ、マウス等のいずれの動物由来のものも使用できる。また、浮遊性の動物細胞は、初代培養細胞及び株化細胞の双方を対象とすることができる。また、血液幹細胞などの幹細胞、前駆細胞、あるいは血球系のTリンパ球やナチュラルキラー細胞などでもよい。また、これらの細胞は、培養前に外来遺伝子が導入された細胞であってもよいし、抗体やリガンドなどの刺激因子などで予め刺激、加工された細胞であっても良い。
以下、本実施形態の培養細胞の製造方法の各工程について、図3を参照して説明する。
(浮遊性細胞の培養工程)
浮遊性細胞を培養する工程は、細胞培養容器の第1室に充填した浮遊性細胞を含む細胞懸濁液と第2室を流動する細胞培養液とを選択透過性膜を介して接触させることで、拡散現象を利用して細胞培養液から培養液成分を第1室(有細胞側)に移動(膜透過)させ、また培養に伴う細胞代謝物(老廃物)を第2室(無細胞側)に移動(膜透過)させることにより培養環境を整えながら細胞を培養する工程である。
図3を参照して、バルブ21を閉の状態にして導入口40より浮遊性細胞を懸濁した細胞懸濁液を送液し第1室3に細胞懸濁液を充填する。細胞懸濁液が充填された後、バルブ20を閉の状態とする。第1室に細胞懸濁液を充填すると同時または前後においてポンプ30を起動して培養液貯留容器8から第2室を経由して回収容器9に向かって培養液を送液する。このとき、培養液の流量は、細胞増殖度合いや環境に応じて調整することが好ましい。また、少なくとも細胞培養容器、培養液貯留容器およびそれらを繋ぐ流路は、温度およびCO濃度の制御機構を備えたインキュベータ内に設置することが好ましい。
本発明において、細胞懸濁液は、浮遊性細胞を1×10〜1×10個/mLになるように細胞培養液に懸濁したものを指す。
本発明において、細胞培養液は、ヒトリンパ球用無血清培養液(株式会社細胞科学研究所)などが使用できる。
(浮遊性細胞の洗浄工程)
浮遊性細胞の洗浄工程は、培養を終了した後の浮遊性細胞を第1室に保持した状態で細胞洗浄液により洗浄する工程である。
図3を参照して、培養を終了した後、バルブ23を閉止し、次に細胞洗浄液容器7から細胞洗浄液を細胞培養容器の第1室3に送液できるようにバルブ20を操作し、ポンプ30を起動する。選択透過性膜1は、培養液成分や細胞代謝物(老廃物)は透過するが、細胞は透過しない孔径を有するため、前記培養液成分や代謝物(老廃物)は洗浄液とともに膜を透過して(ろ過されて)回収容器9に回収される。なお、ろ過圧力が高すぎると、細胞にダメージを与えることになるので、ポンプ出力は適宜調整する必要がある。
本発明において、細胞洗浄液としては、生理食塩水やリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いるのが好ましい。
(浮遊性細胞の回収工程)
浮遊性細胞の回収工程は、洗浄を終了した培養細胞を洗浄液や培養液とともに第1室より排出し、細胞回収容器10に回収する工程である。
図3を参照して、浮遊性細胞の洗浄が終了した後、細胞培養容器の第1室より浮遊性細胞を細胞回収容器10に回収するためにバルブ21および22を操作して流路を連通させる。その後、ポンプ31を起動することにより、浮遊性細胞を含む洗浄液を回収容器10に回収することができる。
以下、本発明の有効性について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(膜断面構造の分析)
湿潤状態の選択透過性膜をエタノールで脱水処理し、エポキシ溶液で樹脂包埋した。ミクロトームで膜断面試料を作製し、日立製S−4800走査型電子顕微鏡を用いて加速電圧20kVでEDSによるライン分析を行った。得られたチャートより膜断面の疎密の程度を解析した。例えば、ポリスルホンやポリエーテルスルホン膜の場合は、S原子について分析を行えばよい。
(選択透過性膜の径および厚みの測定)
選択透過性膜の形状評価は以下の方法で行った。3mmφの穴を開けた2mm厚のSUS板の穴に、適量の選択透過性膜を詰め、カミソリ刃でカットして断面を露出させた後、Nikon製の顕微鏡(ECLIPSE LV100)およびNikon製の画像処理装置(DIGITAL SIGHT DS−U2)およびCCDカメラ(DS−Ri1)を用いて、断面の形状を撮影し、画像解析ソフト(NIS Element D3.00 SP6)の計算機能により、選択透過性膜の外径、内径および厚みを算出した。
(透水性の測定)
細胞培養容器の導入口5a、6aおよび排出口5b、6bに流路を接続し、細胞培養容器への純水の流入圧と細胞培養容器からの純水の流出圧を測定できるようにした。次に、細胞培養容器の第1室および第2室の両方に純水を満たした。導入口5aから純水を細胞培養容器に導入し、5bに接続した流路(圧力測定点よりも下流)および6aに接続した流路を鉗子で封じて流れを止め、細胞培養容器の5aから入った純水を全量ろ過するようにした。37℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、37℃恒温槽で保温した細胞培養容器へ純水を送り、6bから流出したろ液量をメスシリンダーで測定した。膜間圧力差(TMP)は、TMP=(Pi+Po)/2とした。ここで、Piは細胞培養容器の入口側圧力、Poは細胞培養容器の出口側圧力である。TMPを4点変化させ、ろ過流量を測定し、それらの関係の傾きから透水性[mL/hr/mmHg]を算出した。このときTMPとろ過流量の相関係数は0.999以上でなくてはならないとした。選択透過性膜の透水性(UFR(H))は膜面積(A)と細胞培養容器の透水性(UFR(D))から算出した。
UFR(H)=UFR(D)/A
ここでUFR(H)は選択透過性膜の透水性(mL/m/hr/mmHg)、UFR(D)は細胞培養容器の透水性(ml/hr/mmHg)、Aは細胞培養容器内の選択透過性膜の膜面積(m)である。
(選択透過性膜表面の平均孔径)
選択透過性膜の表面の平均孔径は、以下のようにして測定した。走査型電子顕微鏡を用いて選択透過性膜の表面を極力多数の細孔の形状が明確に確認できる程度の倍率で撮影した。なお、孔径が100nm〜1μm程度であれば、3000倍程度の倍率の電子顕微鏡画像を用いるのが適当である。次に、電子顕微鏡画像のコピーの上に透明シートを重ね、黒いペン等を用いて細孔部分を塗り潰し、透明シートを白紙にコピーした。その後、画像解析ソフトWinRoof(三谷商事株式会社)を利用して任意に選んだ細孔100個の孔径を求め、その相加平均値を出すことで平均孔径を算出した。
(選択透過性膜の最大孔径)
選択透過性膜の最大孔径の測定は、Porous Materials社製 パームポロメーター(PPM、CFP−1200AEX)装置を用いて行った。試験タイプは、Capillary Flow PorometoryのWet Up/Dry Upとし、試液としてGalWick(表面張力15.7dyne/cm)を使用した。下記に記した測定パラメーターを装置付属の測定用ソフトに入力後、予めGalWickに5分間浸漬させてよく馴染ませた試料をサンプルホルダーにセットし、さらに該ホルダーを装置にセットした。測定はまずWet下で実施し、その後に続けてDry下での測定を実施した。
<細孔直径分布測定試験の自動試験パラメーター値>
最小圧力;0(KPA)、最大圧力;300(KPA)
(i)バブルポイント試験/インテグリティ試験;10bublflow(cc/m)、50F/PT(old bubltime)、0minbppres(KPA)、0minbppres(KPA)、1.0zerotime(sec)
(ii)モータバルブ制御;10v2incr(cts*3)
(iii)レギュレータ制御;1preginc、2pulse delay
(iv)Lohmの校正;1378.9466maxpres(KPA)、0.2pulsewidth(sec)
(v)データ確定ルーチン;30mineqtime(sec)、10presslew(cts*3)、50flowslew(cts*3)、20eqiter(0.1sec)、20aveiter(0.1sec)、0.69maxpdif(KPA)、50maxfdif(cc/m)
[実施例1]
(選択透過性膜の作製)
ポリエーテルスルホン(BASF社製、6020P)16.5質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製、コリドンK−90)8.0質量%、溶媒としてジメチルアセトアミド(DMAc)70.5質量%、非溶媒としてRO水5.0質量%を60℃で混練、溶解し、紡糸原液を作製した。得られた紡糸原液を50質量%のDMAc水溶液とともに二重管ノズルより吐出し、70℃の30質量%DMAc水溶液中で凝固させ、水洗浴を通過させた後に綛に捲き上げた。得られた中空糸型選択透過性膜160本の束を長さ40cmに切断し、ガーゼを巻いた後、熱風乾燥機にて60℃で18時間乾燥させた。
得られた中空糸型選択透過性膜の内径は250μm、外径は400μmであった。また、内表面の平均孔径は240nm、膜の最大孔径は85nmであり、膜の断面において内表面側(第1室側)から外表面側(第2室側)に向かって細孔径が小さくなる傾斜構造を有していた。
(細胞培養容器の作製)
試験用の細胞培養容器を以下のように作製した。内径11mm、長さ254mmの円筒状のポリカーボネート製の容器(ケース)内に、前記中空糸型選択透過性膜160本を収納した後、中空糸型選択透過性膜の中空部を閉塞しないようにポリウレタン系ポッティング剤で両末端をケースに固定し、図2に示すような形状の細胞培養容器を作製した。得られた細胞培養容器を用いて37℃純水で測定した選択透過性膜の透水性は970mL/m/hr/mmHgであった。
(リンパ球の分離)
ヒト血液をヘパリンを含んだチューブに採取し、これを等量のPBSと混和して調製した血液溶液を15mL遠心チューブに3mL分注した。次に、この分注した血液溶液の上に、液面が乱れないように注意しながら密度勾配分離媒体(Lympholyte(登録商標)、コスモバイオ、型番:CL5010)6mLを静かに重層した。これを800×gで20分間、遠心分離を行って出来たリンパ球層を採取し、PBSに懸濁した。再度、800×gで20分間の遠心分離を行い、リンパ球のペレットを得た。上記操作を繰り返し、約2.0×10個のリンパ球を得た。
(細胞培養実験)
細胞培養実験は、図3に示す細胞培養装置において、細胞培養容器を図2に示すものに置き換えて行った。なお、細胞培養容器において、中空糸型選択透過性膜の内腔側(中空部)を第1室とし、外腔側を第2室とした。前記得られたリンパ球をヒトリンパ球用無血清培養液(株式会社細胞科学研究所、コード:1020P10)100mLに懸濁した細胞懸濁液を細胞培養装置の導入口40より送液し、中空糸型選択透過性膜の中空部(第1室)に充填した。充填後、バルブ20および21を閉止し、ポンプ30を起動して中空糸型選択透過性膜の外腔側(第2室)に前記同様の培養液を流しながらCOインキュベーター内で37℃、4日間培養を行った。培養液の流量は0.5mL/minとした。
(培養液の除去)
4日間培養後、培養液灌流を停止し、バルブ20を切替えて細胞洗浄液としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて細胞を洗浄した。
(細胞回収)
培養した細胞を洗浄した後、ポンプ30を停止し、バルブ21、22を切替えて、ポンプ31を起動し、培養した細胞を細胞洗浄液とともに細胞回収容器10に回収した。回収した細胞について、細胞数を計測した。
(細胞回収数の測定)
細胞培養容器からの細胞を含む回収液は、遠心分離操作により最終的に10mlの培養液に懸濁した。この懸濁液とトリパンブルー染色液を1:1で混和した液を血球計算盤に添加し、以下の手順により顕微鏡下で細胞数(個)および細胞生存率(%)の計測を行った。
(1)血球計算盤およびカバーガラスの表面を70%イソプロパノールで洗浄し、余分なイソプロパノールをふき取り風乾した。
(2)Reagent grade waterでカバーガラスの側面を濡らし、血球計算盤に貼りつけた。
(3)細胞懸濁液をパスツールピペット等でよく撹拌後、すぐに血球計算盤に流し込み、溝の上まで満たした。
(4)1〜3の操作を別の血球計算盤を使用して行った(2回測定し平均をとる)。
(5)顕微鏡に血球計算盤を置き、グリッドラインに焦点を合わせた(10×対物レンズ)。
(6)カウンターを用いて1mmエリアの細胞数を速やかに計測した。
※誤差が生じやすいので正確に数えるためには少なくとも100〜500細胞を計測する。
計算法:
C=N×10
C:1mL当たりの細胞数
N:計測した細胞数の平均
10:1mmに対する容量の変換値
全体の数=C×V
V=細胞を懸濁した液体の容量
[実施例2]
(選択透過性膜の作製)
ポリエーテルスルホン(BASF社製、6020P)15.0質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製、コリドンK−90)9.0質量%、溶媒としてジメチルアセトアミド(DMAc)71.0質量%、非溶媒としてRO水5.0質量%を60℃で混練、溶解し、紡糸原液を作製した。得られた紡糸原液を50質量%のDMAc水溶液とともに二重管ノズルより吐出し、70℃の30質量%DMAc水溶液中で凝固させ、水洗浴を通過させた後に綛に捲き上げた。得られた中空糸型選択透過性膜160本の束を長さ40cmに切断し、ガーゼを巻いた後、熱風乾燥機にて60℃で18時間乾燥させた。
得られた中空糸型選択透過性膜の内径は250μm、外径は400μmであった。また、内表面の平均孔径は470nm、膜の最大孔径は130nmであり、膜の断面において内表面側から外表面側に向かって細孔径が小さくなる傾斜構造を有していた。また、得られた選択透過性膜の透水性は1840mL/m/hr/mmHgであった。
得られた中空糸型選択透過性膜を用いて、実施例1と同様の実験を行った。
[実施例3]
(選択透過性膜の作製)
ポリエーテルスルホン(BASF社製、6020P)18.0質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製、コリドンK−90)7.0質量%、溶媒としてジメチルアセトアミド(DMAc)70.0質量%、非溶媒としてRO水5.0質量%を60℃で混練、溶解し、紡糸原液を作製した。得られた紡糸原液を50質量%のDMAc水溶液とともに二重管ノズルより吐出し、70℃の30質量%DMAc水溶液中で凝固させ、水洗浴を通過させた後に綛に捲き上げた。得られた中空糸型選択透過性膜160本の束を長さ40cmに切断し、ガーゼを巻いた後、熱風乾燥機にて60℃で18時間乾燥させた。
得られた中空糸型選択透過性膜の内径は250μm、外径は400μmであった。また、内表面の平均孔径は126nm、膜の最大孔径は17nmであり、膜の断面において内表面側から外表面側に向かって細孔径が小さくなる傾斜構造を有していた。また、得られた選択透過性膜の透水性は510mL/m/hr/mmHgであった。
得られた中空糸型選択透過性膜を用いて、実施例1と同様の実験を行った。
[実施例4]
内径を180μm、外径を320μmとした以外は実施例1と同様にして選択透過性中空糸膜を作製し、実施例1と同様の実験を行った。
[実施例5]
内径を1250μm、外径を1750μmとした以外は実施例1と同様にして選択透過性中空糸膜を作製し、実施例1と同様の実験を行った。なお、内径30mmのケースを用いた。
[比較例1]
T−225フラスコ(細胞培養面積225cm)5本に、ヒトリンパ球を0.6×10個ずつ播種(計3.0×10個)し、実施例1と同様にヒトリンパ球用無血清培養液(株式会社細胞科学研究所、コード:1020P10)を用いて、COインキュベーター内にて37℃、4日間培養した。培養終了後、培養液とともにすべてのフラスコから細胞を回収した。回収した細胞は、50mL遠心チューブに分注し、1000rpmで10分間遠心分離した後、上清の培養液を吸引除去し、細胞を20mLのPBSに懸濁した。この操作を計4回繰り返し、最終的に10mLのPBSに懸濁し、細胞数および細胞生存率を測定した。
実施例1および比較例1の同じ実験をそれぞれ8回繰り返し、回収された細胞数および細胞生存率を求めた(表1)。この結果、実施例は、回収細胞数および細胞生存率のいずれにおいても良好な結果であった。一方、比較例では、回収細胞数および細胞生存率のいずれにおいても実施例より低い結果となった。また、実験間の誤差が大きくなっており再現性に問題があることがわかった。このことから、本発明では浮遊細胞を高密度で効率よく培養できるだけでなく、細胞にダメージを与えず、細胞回収のロスも少ない培養細胞の製造方法を提供できるといえる。
本発明により、浮遊性細胞の培養、洗浄、回収までを一気通貫に実施することができるため、高額になりがちな浮遊性細胞の培養細胞の製造コストを抑えることが可能となる。
1 選択透過性膜
2 容器(ケース)
3 第1室
4 第2室
5a、6a、40 導入口
5b、6b、50 排出口
7 細胞洗浄液容器
8 培養液貯留容器
9 回収容器
10 細胞回収容器
20、21、22、23 バルブ
30、21 送液ポンプ

Claims (7)

  1. 選択透過性膜により内部が第1室および第2室に区画された細胞培養容器を用いて浮遊性細胞を培養し、洗浄し、回収する培養細胞の製造方法であって、
    (1)前記第1室に前記浮遊性細胞を含む細胞懸濁液を充填した後、前記第2室に細胞培養液を流動して前記第1室に導入した前記浮遊性細胞を培養する工程、
    (2)培養を停止した後、前記第1室に細胞洗浄液を導入するとともにろ過をかけて前記浮遊性細胞を洗浄する工程、
    (3)洗浄した前記浮遊性細胞を前記細胞洗浄液とともに前記細胞培養容器から回収する工程、
    を含む、培養細胞の製造方法。
  2. 前記浮遊性細胞は、遺伝子改変された細胞である、請求項1に記載の培養細胞の製造方法。
  3. 前記浮遊性細胞は、リンパ球である、請求項1または2に記載の培養細胞の製造方法。
  4. 前記選択透過性膜は、前記第1室側の表面の平均孔径が100nm以上1000nm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の培養細胞の製造方法。
  5. 前記選択透過性膜は、最大孔径が2000nm未満である、請求項1〜4のいずれかに記載の培養細胞の製造方法。
  6. 前記選択透過性膜は、中空糸型選択透過性膜である、請求項1〜5のいずれかに記載の培養細胞の製造方法。
  7. 前記選択透過性膜は、内径が100μm以上1500μm以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の培養細胞の製造方法。
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