JP4431233B2 - ハニカム構造体およびその調製方法、ならびにその構造体を用いたフィルムおよび細胞培養基材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は医療や農業分野で近年研究が盛んな細胞工学や組織工学においてもっとも基礎となる細胞培養の基礎及び応用に関わる物である。すなわち、細胞を培養するに当たっての基材及び/又は細胞が3次元組織体を形成するときの足場を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
細胞と材料との相互作用において、細胞は材料表面の化学的な性質のみならず微細な形状によっても影響を受けることが知られている。そこで組織工学などの観点から細胞の機能制御を目指すとき、細胞と接触する材料表面の化学的性質と微細な構造の双方の加工が重要となる。表面の微細加工法としては表面加工技術としては半導体産業等に利用されているマイクロパターン技術を利用した細胞接着面のサイズコントロール、培養基板への微小溝構造の導入、マイクロスフィアによる微細凹凸の作製が行われ、表面微細構造が細胞の成長等に大きく影響を及ぼすことが知られている。
【0003】
これらのマイクロパターン技術を使った表面設定は、非常に高度な技術が必要であり、大量生産が出来ない、高コストになる、などの多くの問題を抱えているのが現状である。全く別の表面パターニング技術としては特殊な構造を有するポリマーの希薄溶液を高湿度下でキャストすることでμmスケールのハニカム構造を有するフィルムが得られることが知られている。本方法はパターニングするに当たっての経済性に優れることが特徴である。
【0004】
具体的には、サイエンス、1999年、283巻、ページ373には親水性ブロックと疎水性のブロックからなるロッド-コイルジブロックポリマーであるポリフェニルキノリン-ブロック-ポリスチレンを使いう例が、又、ネイチャー、1994年、369巻、ページ387にはポリスチレンと剛直なブロックであるポリパラフェニレンとからなるジブロックポリマーを使った例が開示されている。このように、従来の技術では自己凝集力の強い部分と柔軟性を発現する部分とを併せ持つ特殊なポリマーを利用し、これらのポリマーを疎水性有機溶媒に溶解し、これをキャストする事でハニカム構造体を調製していた。一方、本発明者らはシン ソリッド フィルムズ 1998年327-329巻、ページ854、スープラモレキュラーサイエンス 1998年 第5巻、ページ331、及びモレキュラー クリスタル リキッド クリスタル 1998年、第322巻 ページ305に親水性のアクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基或いはカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、或いはヘパリンやデキストラン硫酸などのアニオン性多糖と4級の長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックスが同様な方法でハニカム構造を有する薄膜を与えることを報告している。
【0005】
しかしながらこれらのポリマーでは、得られるハニカム構造体の自己自立性に劣ったり、経時的にハニカム構造が崩壊するなどの欠点を有するため、細胞培養用基材として十分な機能を提供するものでなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
細胞工学、組織工学等において細胞培養を行う時、細胞の足場となる基材が必要であり、前述の如く細胞と材料との相互作用において細胞は最良表面の化学的な性質のみならず微細な形状によっても影響を受けることが知られている。細胞の機能制御を目指すとき、細胞と接触する材料表面の化学的性質と細胞の微細な構造の双方の設計が重要となる。ハニカム構造を有する多孔性フィルムではハニカムパターンが細胞接着面を提供し、多孔質構造が細胞の支持基板へのアクセス、栄養の供給ルートとなることが示されている。
【0007】
このハニカム構造フィルムをベースに細胞を組織化すれば、その1つの利用方法として人工臓器が考えられる。しかし人工臓器等にしたときには体内に埋め込むことが必須となる為、この基材は長期的には生体内へ吸収されることが望ましい。これまでのハニカム構造を与える材料で細胞培養に要する時間は安定に構造を維持し、それ以上では分解するような生分解性材料から作られたものはない。言い換えれば、ハニカム構造体と細胞工学、細胞培養技術を組み合わせ人工臓器等の医療用途へ展開するに当たっては生分解性材料を使うことが必須である。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上述の課題、問題点を考慮し、鋭意検討した結果、生分解性高分子と両親媒性ポリマーとを適当な割合で組み合わせることで、経済的な調製が可能であり,自立性が有り、構造的にも安定なハニカム構造体を与えることを見出した。
すなわち、本発明は以下によって達成される。
【0009】
(1)生分解性ポリマーと両親媒性ポリマーが1:1〜8:1の割合で混合されており、かつ前記両ポリマー併せてのポリマー濃度が0.01〜10wt%である疎水性有機溶媒溶液を、相対湿度50〜95%の大気下で基板上にキャストし、該有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液表面で結露させ、該結露により生じた微小水滴を蒸発させる事で得られるハニカム構造体。
(2)(1)のハニカム構造体からなるフィルム。
(3)前記生分解性ポリマーが脂肪族ポリエステルである(1)のハニカム構造体。
(4)(1)のハニカム構造体からなる細胞培養用基材。
(5)前記ハニカム構造体の直径が0.1〜10μmである(4)記載の細胞培養用基材。
(6)相対湿度50−95%の大気下で、生分解性ポリマーと両親媒性ポリマーが1:1〜8:1の割合で混合されており、かつ前記両ポリマー併せてのポリマー濃度が0.01〜10wt%である疎水性有機溶媒を基板上にキャストし、該有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液表面で結露させることでハニカム構造体を調製する方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明における生分解性ポリマーとしてはポリ乳酸、 ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどの生分解性脂肪族ポリエステル、ポリブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート等の脂肪族ポリカーボネート等が、有機溶媒への溶解性の観点から好ましい。中でも、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンが入手の容易さ、価格等の観点から望ましい。
【0011】
本発明に用いる両親媒性ポリマーとしては細胞培養基材として利用することを考慮すると毒性の無いことが必須であることから、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基或いはカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、或いはヘパリンやデキストラン硫酸,DNAやRNAの核酸などのアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン等の水溶性タンパク質を親水性基とした両親媒性ポリマー等を利用することが望ましい。
【0012】
本発明のハニカム構造体を作製するに当たってはポリマー溶液上に微小な水滴粒子を形成させることが必須である事から、使用する有機溶剤としては非水溶性である事が必要である。これらの例としてはクロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系有機溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン、などの非水溶性ケトン類、二硫化炭素などが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で使用しても、又、これらの溶媒を組み合わせた混合溶媒として使用してもかまわない。これらに溶解する生分解性ポリマーと両親媒性ポリマー両者併せてのポリマー濃度は0.01から10wt%、より好ましくは0.05から5wt%である。ポリマー濃度が0.01wt%より低いと得られるフィルムの力学強度が不足し望ましくない。又、10wt%以上ではポリマー濃度が高くなりすぎ、十分なハニカム構造が得られない。又、生分解性ポリマーと両親媒性ポリマーの組成比は99:1から50:50(wt/wt)である。両親媒性ポリマー比が1以下では均一なハニカム構造が得られなく、又、該比が50以上では得られるハニカム構造体の安定性、特に力学的な安定性にかける為、好ましくない。
【0013】
本発明においては該ポリマー有機溶媒溶液を基板上にキャストしハニカム構造体を調製するわけであるが、該基板としてはガラス、金属、シリコンウェハー、等の無機材料、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、等の耐有機溶剤製に優れた高分子、水、流動パラフィン、液状ポリエーテル等の液体が使用できる。中でも、基材に水を使用した場合、該ハニカム構造体の特徴である自立性を生かすことで、該構造体を単独で容易に基板から取り出すことが出来、好適である。
【0014】
本発明で、ハニカム構造が形成される機構は次のように考えられる。疎水性有機溶媒が蒸発するとき、潜熱を奪う為に、キャストフィル表面の温度が下がり、微小な水の液滴がポリマー溶液表面に凝集、付着する。ポリマー溶液中の親水性部分の働きによって水と疎水性有機溶媒の間の表面張力が減少し、このため、水微粒子が凝集して1つの塊になろうとするにさいし、安定化される。溶媒が蒸発していくに伴い、ヘキサゴナルの形をした液滴が最密充填した形で並んでいき、最後に、水が飛び、ポリマーが規則正しくハニカム状に並んだ形として残る。従って、該フィルムを調製する環境としては相対湿度が50から95%の範囲にあることが望ましい。50%以下ではキャストフィルム上への結露が不十分になり、又、95%以上では環境のコントロールが難しく好ましくない。このようにしてできるハニカム構造体のひとつひとつ(個々)の大きさは0.1から10μmであり、この範囲の大きさであれば好適に細胞培養用の基材として用いることができる。
【0015】
以下、本発明を実施例を使って詳細に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【0016】
【実施例】
(実施例1−3)
ポリ-L-乳酸(分子量85000〜160000)のクロロフォルム溶液(1.0g/L)と式(I)のCapのベンゼン溶液(1.0g/L)を1:1、4:1、8:1の割合で混合し、ガラス基板上にキャストし室温、湿度80%の条件下に静置し、溶媒を徐々に飛ばすことでハニカム構造体を調製した。こうして得られた構造体の光学顕微鏡写真を図1に示す。これらのフィルムはピンセットで摘み上げることが可能であり、自己支持性を示すことが確認された。
【化1】
【0017】
(実施例4)
シャーレ(内径9.3cm)にMilli-Q水(40ml)を入れ、ポリ-L-乳酸(分子量85000〜160000)のクロロホルム溶液(1.0g/L)と両親媒性ポリマーであるCapのベンゼン溶液(1.0g/L)を8:1(wt%)の割合で混合し、その20μlを水面上に展開し崩壊膜を作製した。その後、さらに10μlの該ポリマー溶液を滴下して液滴を形成させ、それに相対湿度80%の空気を90ml/minの速度で当てる事でハニカム構造体を作製した。該構造体はフレーム(φ=5mm)にすくい取る事ができ、自己支持性が確認できた。
【0018】
(比較例1)
ポリ-L-乳酸(分子量85000〜160000)のクロロフォルム溶液(1.0g/L)のみで、実施例1と同様な操作でハニカム構造の調整を試みた。結果を図2に示すが、得られたフィルムのモルフォロジーは不均質なものであった。
【0019】
(比較例2)
Cap溶液のみを用い実施例1と同時条件でハニカム構造体の調製を試みた。本例では、フィルムが微小水滴が蒸発する間に破れてしまい、また、自己支持性も有していなかった。
【0020】
(試験例1)
実施例1で得られたハニカムフィルムをポリHEMAコートしたガラス板上に設置し、この上で牛大動脈由来血管内皮細胞(ECs)の培養を行った。培養はIMDM培地を用い、CO2インキュベータ内(CO2濃度=5%、温度=37℃、相対湿度=80%)で行った。比較例としてpHEMAコートのガラス板上に直接ECsを播種し同じ条件で培養を行った。前者においては、細胞はよく接着し伸展しており、ハニカム構造体のフィルムが細胞の足場として機能していることがわかった。一方、後者ではECsは全く接着しなかった。
【0021】
【効果】
上述したように、本発明の方法によれば生分解性ポリマーを主成分とした規則正しく配列したハニカム構造体が簡便に調製可能となり、これを用いたフィルムおよび細胞培養基材が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のハニカム構造体を表した顕微鏡写真である。
Claims (6)
- 生分解性ポリマーと両親媒性ポリマーが1:1〜8:1の割合で混合されており、かつ前記両ポリマー併せてのポリマー濃度が0.01〜10wt%である疎水性有機溶媒溶液を、相対湿度50〜95%の大気下で基板上にキャストし、該有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液表面で結露させ、該結露により生じた微小水滴を蒸発させる事で得られるハニカム構造体。
- 請求項1のハニカム構造体からなるフィルム。
- 前記生分解性ポリマーが脂肪族ポリエステルである請求項1のハニカム構造体。
- 請求項1記載のハニカム構造体からなる細胞培養用基材。
- 前記ハニカム構造体の直径が0.1〜10μmである請求項4記載の細胞培養用基材。
- 相対湿度50−95%の大気下で、生分解性ポリマーと両親媒性ポリマーが1:1〜8:1の割合で混合されており、かつ前記両ポリマー併せてのポリマー濃度が0.01〜10wt%である疎水性有機溶媒を基板上にキャストし、該有機溶媒を徐々に蒸散させると同時に該キャスト液表面で結露させることでハニカム構造体を調製する方法。
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