JP5402840B2 - 脂環式エポキシ樹脂、その製造方法、その組成物、エポキシ樹脂硬化体、およびその用途 - Google Patents

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Description

本発明は脂環式エポキシ樹脂に関する。詳しくは、本発明は、芳香族エポキシ樹脂を核水素化することにより、光学用材料やコーティング材料等の原料として好適な、常温で固体の脂環式エポキシ樹脂を製造する方法とその脂環式エポキシ樹脂に関する。
また、本発明は、この脂環式エポキシ樹脂にエポキシ樹脂用硬化剤が配合されたエポキシ樹脂組成物と、このエポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化体と、このエポキシ樹脂組成物を用いた発光素子用封止材等の電気・電子材料用封止材に関するものであり、特に、無色透明で、耐クラック性、耐光性に優れた硬化体を提供することができるため、コーティング材料、光硬化性材料およびLED(発光ダイオード)、CCDのような光半導体関連の電気・電子用封止材料等に使用でき、とりわけ短波長の光を発するLEDの封止材として有用なエポキシ樹脂組成物と、このエポキシ樹脂組成物を硬化させてなるエポキシ樹脂硬化体と、このエポキシ樹脂組成物を用いた発光素子用封止材等の電気・電子材料用封止材に関する。
エポキシ樹脂は、耐熱性、接着性、耐水性、機械的強度、電気特性などに優れていることから、接着剤、塗料、土木建築用材料、電気・電子部品の絶縁材料など、様々な分野で使用されている。これらの用途に用いられるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールまたはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂が一般的であり、更に種々のフェノール性化合物から得られる芳香族エポキシ樹脂が用途に応じて用いられている。
また、脂環式エポキシ樹脂も、炭素−炭素二重結合をエポキシ化する方法、多価の脂環式アルコールをエピハロヒドリンと反応させる方法、芳香族エポキシ樹脂の芳香環を水素化(以下、「核水素化」と略する場合がある。)する方法などで製造され、用いられている。
脂環式エポキシ樹脂のうち、特に芳香族エポキシ樹脂を核水素化して得られる水素化エポキシ樹脂は、硬化物の耐光性、透明性やカチオン硬化性に優れていること、塩素化合物等の不純物が少ないこと等から、封止材料、光学材料、コーティング材料、接着剤等への用途が期待されており、例えば発光ダイオード等の発光材料の封止などに有用である。
芳香族エポキシ樹脂を核水素化して対応する水素化エポキシ樹脂を製造する方法としては従来から種々提案されている。例えば、活性炭などの不活性担体にロジウムまたはルテニウムを担持した水素化触媒の存在下で水素化する方法(特許文献1参照。)、ルテニウムおよび電気陰性度の高い金属を担持した触媒を用いて水素化する方法(特許文献2参照。)、比表面積が5〜600m/gの範囲にある炭素質担体にロジウムまたはルテニウムを担持した触媒を用いて水素化する方法(特許文献3参照。)などが挙げられ、水素化率が高く且つエポキシ基の損失が少ない(即ち、水素化反応中の分解の少ない)、低塩素含量のエポキシ樹脂が提案されている(特許文献4参照。)。また、不純物が少なく光線透過率に優れた水素化エポキシ樹脂に関しての提案もなされている(特許文献5参照。)。
しかし、これらは汎用的のビスフェノールA型やビスフェノールF型の低分子量エポキシ樹脂の水素化に関するものが多く、得られる水素化エポキシ樹脂は常温で液状であり、主に組成物として液状封止、注型等に用いられている。
一方、分子量が高い芳香族エポキシ樹脂は常温で固形であり、これを核水素化すると常温で固形の水素化エポキシ樹脂が得られる。高分子量芳香族エポキシ樹脂の水素化については複数の文献で例示されているが(特許文献1、2、6参照。)、高分子量の芳香族エポキシ樹脂の水素化は、低分子量芳香族エポキシ樹脂に比べて反応性が低く、水素化が難しい。このため、従来法においては、水素化反応中の分解を抑制するために高圧、低温、低濃度で反応することが必要であり、また、触媒をエポキシ樹脂に対して多量に用い、長時間反応しないと水素化することができず、触媒費が高価になり、また生産性も低下して経済的にも不満足であった。
しかも、高分子量芳香族エポキシ樹脂の核水素化では、得られる水素化エポキシ樹脂についても、水素化率、エポキシ基の保持率、色相等の一般的物性として良好な物性のものを得ることが難しく、従来法では、水素化率が80〜96%の例示がある(特許文献1、2、6参照。)が、エポキシ当量が500以上の高分子量の芳香族エポキシ樹脂を95%以上の高い水素化率で反応させた例はない。更に、得られた水素化エポキシ樹脂の外観や性状に関しては十分な記載がなく、残存触媒等によりエポキシ樹脂が着色している場合が多く、透明性が要求される用途には適さないという不具合もあった。
また、近年、種々の表示板、画像読み取り用光源、交通信号、大型ディスプレイ用ユニット等に実用化されている光半導体(LED)等の発光装置は、大部分樹脂封止によって製造されている。ここに使用されている封止用の樹脂は、上記の芳香族エポキシ樹脂と、硬化剤として脂環式酸無水物を含有するものが一般的である。しかし、このLED素子を封止した樹脂硬化物は、冷熱サイクルによりクラックを生じやすく、厳しい条件で使用するには問題がある。
また、今日のLEDの飛躍的な進歩により、LED素子の高出力化および短波長化が急速に展開され、特に窒化物半導体を用いたLEDは、短波長でかつ高出力な発光が可能となることから、その実用化が進められている。しかしながら、窒化物半導体を用いたLED素子を、上述の芳香族エポキシ樹脂で封止すると、芳香環が短波長の光を吸収することにより、経時的に封止した樹脂の劣化が起こり、黄変により発光輝度が顕著に低下するという問題が発生する。
そこで、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートで代表される、環状オレフィンを酸化して得られる脂環式エポキシ樹脂を用いて封止したLEDが提案されている(特許文献7、8参照。)。しかし、この脂環式エポキシ樹脂の硬化物は非常に脆く、冷熱サイクルによって亀裂破壊を生じ易く、耐湿性も極端に悪いため、長期信頼性が要求される用途には不向きであった。
そこで、液状の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主体とし、脂環式エポキシ樹脂およびリン系酸化防止剤を配合し、無水メチルヘキサヒドロフタル酸硬化剤を用いて封止したLEDが提案されている(特許文献9参照。)。しかし、このエポキシ樹脂硬化物は無色透明性に優れるが、未だ脆く、耐クラック性が特に要求されるLED素子を封止する用途には不十分である。
ところで、LEDを効率良く連続的に封止する方法として、低圧トランスファー成形機を使用してLEDを封止する方法がある。この方法では、固形のLED用封止材を用いるため、液状LED封止材を用いる方法に比べて、高い生産性でLEDを大量に封止することが可能である。更に、高分子量のエポキシ樹脂を使用するため、得られるエポキシ硬化物は非常に強靭となり、耐クラック性が大きく向上する。通常、この固形LED封止材用のエポキシ樹脂は、高分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂と硬化剤として酸無水物化合物および硬化促進剤を用い、混練機により連続的に混練することにより製造されている。
しかし、前述したように芳香族エポキシ樹脂は、芳香環が短波長の光を吸収して劣化するため、光安定性に優れる高分子の脂環式エポキシ樹脂が強く望まれていた。このため、高分子量芳香族エポキシ樹脂の核水素化を行って高分子量の脂環式エポキシ樹脂を得ることが考えられるが、前述の通り、高分子量の芳香族エポキシ樹脂の核水素化は非常に難しく、得られる核脂環式エポキシ樹脂についても、核水素化率、エポキシ基の保持率、色相等の良好な性能を有するものが得られていないのが現状である。加えて、このような着色エポキシ樹脂では、透明性が要求される発光素子の封止用途への使用は不適当であった。
米国特許第3,336,241号公報 特開平10−204002号公報 特開平11−217379号公報 特開平11−199645号公報 特開2003−81957号公報 EP−545154 A1号公報 特開平9−213997号公報 特開2000−196151号公報 特開2003−12896号公報
従って、本発明が解決しようとする課題は、芳香族エポキシ樹脂を核水素化して得られる水素化エポキシ樹脂であって、核水素化率が高く、透明性に優れ、光学材料やコーティング材料等に適する、常温で固体の脂環式エポキシ樹脂を製造する方法とその脂環式エポキシ樹脂を提供することにある。
また、発明は、高分子量エポキシ樹脂を核水素化する際の水素化率、色相の問題点を解決し、無色透明性、耐クラック性、耐光性、耐熱性に優れた硬化体を与えることができ、特に短波長の光を発するLEDの封止材として有用な固形水素化エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物と、このエポキシ樹脂組成物を硬化してなるエポキシ樹脂硬化体、およびこのエポキシ樹脂組成物を用いた発光素子用封止材等の電気・電子材料用封止材を提供することを目的とする。
本発明は複数の関連する一群の発明からなり、各発明の要旨は次の通りである。
本発明の第1の要旨は、エポキシ当量が500〜10,000で、アルカリ金属元素および周期律表第15族元素の合計含有量が10ppm以下のビスフェノール型エポキシ樹脂である芳香族エポキシ樹脂を核水素化することにより、以下の(a)〜(d)の規定を満足する脂環式エポキシ樹脂を製造することを特徴とする脂環式エポキシ樹脂の製造方法。に存する。
(a)エポキシ当量が500〜10,000である。
(b)核水素化率が96%以上である。
(c)JIS−K−7234の環球法における軟化温度が40〜200℃である。
(d)波長400nmで測定した光線透過率が90%以上である。
本発明の第2の要旨は、上記の脂環式エポキシ樹脂の製造方法で製造された脂環式エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを含み、エポキシ樹脂硬化剤の配合量が脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して0.01〜200質量部であることを特徴とする脂環式エポキシ樹脂組成物に存する。
本発明の第3の要旨は、上記の脂環式エポキシ樹脂組成物を硬化させて成ることを特徴とするエポキシ樹脂硬化体に存する。
本発明の第4の要旨は、上記の脂環式エポキシ樹脂の製造方法で製造された脂環式エポキシ樹脂または脂環式エポキシ樹脂組成物を含むことを特徴とする電気・電子材料用封止材に存する。
本発明の第5の要旨は、上記の封止材を使用したことを特徴とする半導体発光装置に存する。
本発明によれば、核水素化率が高く、透明性に優れた常温で固体の脂環式エポキシ樹脂を製造することができる。特に、特定の水素化触媒を用いることにより、このような脂環式エポキシ樹脂を少ない触媒使用量で安価にかつ効率的に製造することができ、工業的に極めて有利である。
また、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物は無色透明性に優れ、耐クラック性が非常に優れるため、冷熱サイクル試験でのクラックが発生しにくい。また、耐光性、耐熱性も優れるため、特に、短波長の光を放出するIII族窒化物系化合物半導体を用いたLEDを封止するトランスファー成形用のLED封止材用エポキシ樹脂組成物として有利に使用できる。
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[脂環式エポキシ樹脂およびその製造方法]
先ず、説明の便宜上、本発明の脂環式エポキシ樹脂の製造方法について説明する。
本発明の脂環式エポキシ樹脂の製造方法は、エポキシ当量が500〜10,000で、アルカリ金属元素および周期律表第15族元素の合計含有量が10ppm以下である芳香族エポキシ樹脂を核水素化することを特徴とする。
上記特定のエポキシ当量であり、かつ、アルカリ金属元素および周期律表第15族元素(以下これらを「特定不純物元素」と称す場合がある。)の合計含有量が制限された芳香族エポキシ樹脂を核水素化原料とすることにより、高い水素化率で核水素化を円滑に進行させることができる。このような芳香族エポキシ樹脂を高い水素化率で核水素化することにより、常温で固体の、透明性に優れた脂環式エポキシ樹脂を得ることができる。
本発明において、特定不純物元素のアルカリ金属元素はより具体的にはリチウム、ナトリウムおよびカリウムよりなる群から選ばれる元素であり、周期律表第15族の元素は窒素および/またはリンである。
また、核水素化は、白金族元素を含有する触媒の存在下に行うことが好ましく、この白金族元素を含有する触媒としては、白金族元素化合物を担体に担持させた触媒前駆体を還元して得られたものが特に好ましい。そして、この触媒前駆体を還元する際には芳香族エポキシ樹脂を共存させて、触媒前駆体の還元と芳香族エポキシ樹脂の核水素化反応とを同じ反応系内で並行して行うことが好ましい。このような触媒の使用量は、芳香族エポキシ樹脂に対する白金族元素換算の割合で0.001〜0.5重量%であることが好ましい。
このように、特定の触媒を特定量使用することにより、水素化率の高い、高透明性の固形脂環式エポキシ樹脂を、少ない触媒使用量で高効率に製造することができる。
本発明の脂環式エポキシ樹脂の製造方法は、好ましくは、水素化触媒の存在下に芳香族エポキシ樹脂の芳香環を水素化する核水素化反応工程と、反応混合物から水素化エポキシ樹脂を取り出す精製工程とからなる。
(核水素化に供される芳香族エポキシ樹脂)
本発明で使用される芳香族エポキシ樹脂は、エポキシ当量が500〜10,000で、特定不純物元素、即ち、アルカリ金属元素および周期律表第15族元素の合計含有量が10ppm以下の、通常は常温で固体の芳香族エポキシ樹脂である。
核水素化に供する芳香族エポキシ樹脂のエポキシ当量が低く、500未満であると得られる水素化エポキシ樹脂が液状となったり、軟化点が低くべたつきがひどい半固体状となり、逆にエポキシ当量が高く、10,000を超えると水素化率が低下するため好ましくない。
また、本発明に係る芳香族エポキシ樹脂は、アルカリ金属元素および周期律表第15族元素の合計含有量が10ppm以下である。このように、芳香族エポキシ樹脂中の特定不純物元素の含有量を制限する理由は次の通りである。
即ち、一般に高分子量の芳香族エポキシ樹脂を製造する方法としては、次の(1)または(2)の方法が行われており、工業的に両法とも採用されている。
(1)ビスフェノール化合物とエピハロヒドリンをアルカリ化合物の存在下で縮合反応する製造法(1段法)において、ビスフェノール化合物に対するエピハロヒドリンの使用量を少なくして高分子量化する方法。
(2)1段法により製造した低分子量エポキシ樹脂とビスフェノール化合物を、塩基性触媒の存在下で反応させて高分子量化する方法(2段法)。
1段法において使用されるアルカリ化合物は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基性化合物であり、通常、水酸化ナトリウム水溶液がエポキシ基に対し当量以上使用されている。1段法の場合は、アルカリ化合物はエピハロヒドリンの反応量に対して当量以上用いるが、副生するハロゲン化アルカリを濾過分離したり、また必要に応じて水洗等の方法で塩類を除去する。
一方、2段法において、エポキシ基とフェノール性水酸基の付加反応を促進する塩基性触媒としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の第4級アンモニウム塩類、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン類、テトラエチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムアイオダイド等の第4級ホスホニウム塩類、水酸化リチウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基性化合物が用いられ、原料エポキシ樹脂に対して数百ppm程度が使用されている。2段法で得られるエポキシ樹脂の場合は、付加反応の促進触媒として使用する塩基性触媒を分離しないで製品とすることが一般的に行われているが、これはエポキシ樹脂の製造を簡便にするため、また他の用途では残存する塩基性触媒はさほど問題にならないためである。
しかし、本発明者等は、上記1段法または2段法で得られたエポキシ当量500〜10,000の芳香族エポキシ樹脂を原料として核水素化反応を行った場合、少量のアルカリ金属元素または周期表第15族元素を含む化合物、特に塩基性物質が核水素化触媒を被毒し、水素化反応が抑制され、反応が停止するために、エポキシ樹脂の水素化率が向上しないことを見出した。これに対して、例えば、上記高分子量芳香族エポキシ樹脂の合成反応終了後、生成物を精製し、アルカリ金属元素および周期表第15属元素の合計含有量が10ppm以下の芳香族エポキシ樹脂を得、この特定不純物元素含有量を低減した芳香族エポキシ樹脂を核水素化することにより、水素化率が高い固形水素化エポキシ樹脂が得られる。
このように、アルカリ金属元素および周期律表第15族元素の合計含有量が10ppm以下の芳香族エポキシ樹脂を得る方法としては特に制限はないが、例えば、1段法または2段法で得られた反応生成物を純水等で1または2回以上洗浄して精製する方法、2段法においては、更に1段法で得られた反応生成物を純水等で1または2回以上洗浄して精製した後、更に高分子量化し、その反応生成物を再度純水等で1または2回以上洗浄して精製する方法が挙げられる。また、純水で洗浄するに先立ち、適当な有機溶媒に芳香族エポキシ樹脂を溶解し、その後有機溶媒を留去する溶媒洗浄を行っても良い。この場合、用いる有機溶媒としては、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン等が挙げられる。その他、活性炭等の吸着剤を用い吸着処理するといった方法によってもこれらの特定不純物元素含有量を低減することができる。
この特定不純物元素としてのアルカリ金属元素はリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)であり、周期律表第15族の元素は窒素(N)、リン(P)である。本発明においては、これら元素の個々の含有量が5ppm以下であり、合計含有量(即ち、Li、Na、K、N、Pの合計の含有量)が10ppm以下、特に7ppm以下、とりわけ5ppm以下の芳香族エポキシ樹脂を原料に用いると、水素化率が確実に向上するため好ましい。
芳香族エポキシ樹脂中のアルカリ金属元素やリンの分析は、ICP発光分析、ICP−MS分析等によって、また窒素の分析は全窒素分析計等、従来公知の方法により行えばよい。
なお、本発明で用いる芳香族エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール型エポキシ樹脂、4,4’−ビフェノール型エポキシ樹脂のようなビスフェノール型エポキシ樹脂や、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの芳香族エポキシ樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
これらの中で、芳香族エポキシ樹脂としては、高い水素化率の脂環式エポキシ樹脂が得られることから、エポキシ当量が600〜6,000の、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく、中でもこれらの芳香族エポキシ樹脂としては、1段法で製造したものが本発明の効果が著しいので好ましい。
(核水素化触媒)
<触媒成分>
本発明で使用される核水素化触媒は、白金族元素を含有する触媒が好ましく、その白金族元素としては具体的にはルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金が挙げられる。より好ましくはロジウム(Rh)またはルテニウム(Ru)触媒であり、最も好ましくはロジウム触媒である。
これらの触媒は、バルクの形態で使用することもできるが、通常は高活性であることから白金族元素(白金族金属)またはその化合物を担体に担持した担持型触媒であることが好ましい。
<担体>
担体としては、炭素系担体やアルミナ、シリカ、ゼオライトなどの無機酸化物等が挙げられるが、特に炭素系担体が好ましい。担体の形状としては、粉末、成型品等があるが、粉末触媒がより好ましく、その粒径は通常1〜1000μm、特に5〜500μmであることが好ましい。
炭素系担体の具体的例としては、活性炭、グラファイト、カーボンブラック等が挙げられる。その中でもグラファイトが好適であり、高表面積グラファイト(high surface area graphite)と呼ばれるグラファイトが特に好ましい。高表面積グラファイト担体の比表面積は通常5〜2000m/gであり、好ましくは50〜600m/gである。
<白金族金属化合物>
水素化触媒に使用する白金族金属化合物としては、白金族金属の無機塩、有機酸塩、配位化合物、白金族金属を含む有機金属化合物等が挙げられ、特に入手容易の観点から白金族金属の無機塩および有機酸塩が好ましい。具体例として、白金族金属としてロジウムを使用する場合、ロジウムを含有する化合物としては、塩化ロジウム、硝酸ロジウム、硫酸ロジウム、酢酸ロジウム、ロジウムアセチルアセトナート、テトラロジウムドデカカルボニル等などが挙げられるが、特に塩化ロジウム、硝酸ロジウム、酢酸ロジウムが好ましい。
<担持量>
担体に担持する際の白金族金属の担持量は、使用する化合物、担体の種類、担持方法などにより異なるが、通常は金属換算で担体に対し0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜20重量%、更に好ましくは1〜10重量%の範囲である。
<担持法>
上記の白金族金属を含有する化合物を担体に担持させる方法としては、通常用いられている各種の担持方法を選択することができ、具体的には、“触媒調製化学”(講談社サイエンティフィク:1982年)p.49に記載されている、含浸法やイオン交換法等の手法が挙げられる。
担持法の一例を挙げると、白金族金属化合物を、これを溶解可能な溶媒、例えば水、アルコール、炭化水素等に溶解して溶液とし、この溶液中に担体を含浸させる。更に必要であれば、担体への金属化合物の固定をより強固なものにするために、苛性ソーダやアンモニア等の無機塩基性化合物、含窒素有機化合物等を用いて、pH値を適当な値に調整して固定化しても良い。この場合は、白金族化合物は、水酸化物や酸化物の状態で担体に担持されると考えられている。
含浸後は、溶媒を濾過または蒸発により留去して分離し、固定化に使用した無機塩基性化合物等を溶媒を用いて洗浄した後、必要に応じて乾燥を行い、白金族金属化合物を担体に担持させた触媒を得ることができる。
本発明においては、このようにして得られた担持触媒をそのまま核水素化反応に供しても良いし、あるいはこの触媒を以下に説明する還元処理を行った後に反応に供しても良い。なお、未還元の状態で反応に供した触媒も実質的には、水素化反応条件下で触媒が還元された後に触媒活性が発現するものと考えられる。
<水素化触媒の還元>
触媒を還元する方法としては、例えばホルマリン、ギ酸、ヒドラジンまたはメタノールなどの還元剤を用いて液相還元する方法、同じくスラリー状態で水素ガスと接触させて液相中で還元する方法、或いは、触媒を気相中でメタノールガスまたは水素ガスに接触させて還元する方法などを挙げることができる。例えば、ホルマリン等で液相還元する方法については、特開平11−217379号公報に示された方法などを用いることができる。
このようにして還元された水素化触媒は、通常還元に使用した還元剤などの不純物を洗浄して除いた後、必要に応じて乾燥して、核水素化反応に供することができる。白金族金属化合物が担持された触媒を適当な溶媒に懸濁させて水素ガスで液相中で還元する場合には、還元処理を行った後、触媒を単離せずにそのまま芳香族エポキシ樹脂を溶解させて水素化反応を行うことができる。
<特に好ましい水素化触媒>
特に本発明において好ましい水素化触媒の調製法としては、ロジウム化合物の水溶液に炭素系担体を含浸させ、更にアルカリ化合物を添加してロジウム化合物を炭素系担体に担持させ、担持触媒を固液分離し、水洗で不純物を除去し、必要に応じて乾燥する方法を挙げることができる。
この触媒は、還元せずに核水素化反応にそのまま使用すると、核水素化反応系中(液相中での水素ガス存在下)でロジウム化合物が活性な状態に還元され、高い活性を発現し、より少ない触媒使用量で効果的に水素化反応を進行させることができる。
(核水素化反応)
核水素化反応は、芳香族エポキシ樹脂を反応溶媒および前述の核水素化触媒の存在下、水素によって行われる。
核水素化触媒の使用量は、反応温度や反応圧力等の諸条件に応じて実用的な反応速度が得られる範囲内で適宜選択すれば良い。触媒使用量が多い場合、反応を低温、低圧力、短時間で行うことができるが、触媒費用が多くかかることから不経済となる。また、触媒使用量が少なすぎる場合、反応速度が遅くなり、反応を通常の時間内に進行させることが困難となる。より好ましい触媒使用量としては、芳香族エポキシ樹脂100重量部に対して、活性金属(白金族元素)換算で0.001〜0.5重量部、好ましくは0.002〜0.2重量部、より好ましくは0.003〜0.1重量部である。従って、触媒として例えば活性金属を5重量%担持した担持触媒を用いる場合、担体も含む触媒の使用量としては芳香族エポキシ樹脂100重量部に対して0.02〜10重量部、好ましくは0.04〜4重量部、より好ましくは0.06〜2重量部となる。
核水素化反応の反応溶媒としては、核水素化に対して安定で、触媒に対し被毒性のないエーテル系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、パラフィン系溶媒などが挙げられる。具体的には、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等の鎖状または環状のエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、エチレングリコールメチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類等が好適に使用される。これらの溶媒は、単独使用の他、2種以上を併用することもできる。これらの中では、エーテル系溶媒またはエステル系溶媒が好ましく、特にエステル系溶媒が好ましい。
エステル系溶媒としては、取り扱い性の面から、常圧下での沸点が50〜180℃の範囲にある脂肪酸エステルが好ましく、特に酢酸エステルとプロピオン酸エステルが好ましい。具体的には、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチルが好ましく、特に酢酸エチルが好適である。
反応溶媒の使用量は、原料の芳香族エポキシ樹脂に対する重量比として、通常0.1〜20、好ましくは0.5〜10である。反応溶媒の量が余りにも少ない場合は、一般に原料の芳香族エポキシ樹脂の粘度が高いため、水素の拡散が悪くなり、反応速度の低下や、核水素化反応の選択性が低下する。反応溶媒が多過ぎると反応容器が大型化し、生成物の回収の点でも不利である。特に、分子量が大きく溶融粘度が高い芳香族エポキシ樹脂を原料とする場合は、溶媒量を多く必要とするが、反応溶媒の量が余りにも多い場合は、生産性が低下し経済的に不利になる。
反応温度は、通常30〜150℃、好ましくは50〜130℃である。反応温度が低すぎる場合、反応速度が低下し反応を完結するために多量の核水素化触媒および長時間を必要とする。反応温度が高すぎる場合、エポキシ基の核水素化分解などの副反応が増加し、製品の品質が低下する。反応圧力は、通常1〜30MPa、好ましくは2〜15MPaである。反応圧力が低すぎる場合、反応速度が低下し反応を完結するために多量の核水素化触媒および長時間を必要とする。反応圧力が高すぎる場合、必要な設備が大掛かりとなり、経済的に不利となる。
反応方式としては、液相懸濁反応または固定床反応が可能であるが、特に液相懸濁反応が好ましい。水素は、流通方式で導入しても良く、消費分だけ導入しても良い。また、水素は、液中に導入して分散させても良く、気相から攪拌などの手段で液中に巻き込んで吸収させても良い。
核水素化反応の終点は、水素吸収のモニターまたはサンプリングによる分析で判断することができる。
(後処理方法)
反応終了後、反応混合物から触媒を濾過・遠心分離などの操作で分離し、その後、蒸留によって反応溶媒を留去して、目的生成物を得る。
しかし、核水素化反応終了後、反応混合物から単に触媒を分離しただけでは、触媒からの活性金属の溶出等により得られる脂環式エポキシ樹脂が着色し、光線透過率が低下するため、溶媒を留去する前に、吸着剤による処理を行うのが好ましい。この場合、核水素化反応後、核水素化触媒を分離した後に吸着処理を行うこともできるが、核水素化触媒を分離せず、反応液に吸着剤を入れて混合し、触媒と吸着剤とを同時に固液分離する方法であっても良い。この方法であれば、より簡便であり、また、濾過速度を速くする効果も得られ、有利である。
上記の吸着剤としては、活性炭、活性白土、イオン交換樹脂、合成吸着剤、酸化マグネシウム等の固体塩基性化合物などが挙げられ、これらの中では酸化マグネシウムを含有する化合物および活性炭が好ましく、特に好ましくは酸化マグネシウムである。
上記の吸着処理は、粉末吸着剤による回分接触処理、吸着剤充填層への流通処理の何れの方式で行っても良い。粉末吸着剤としては平均粒径が1〜1000μmの吸着剤が好適に使用され、粒状吸着剤としては平均粒径が1〜10mmの吸着剤が好適に使用される。
吸着剤の使用量は、反応条件や吸着剤の種類によっても異なるが、処理対象液に含まれるエポキシ樹脂に対し、通常0.01〜100重量%、好ましくは0.1〜20重量%、更に好ましくは0.2〜10重量%である。吸着剤の使用量が0.01重量%未満では吸着剤の使用効果が十分に発揮されず、100重量%を超える場合は製品の損失が増加する。
吸着処理の温度は、通常0〜100℃、好ましくは10〜80℃である。また、吸着処理の状態は、作業性、回収率、吸着効率などの面から、溶媒を含む状態が好ましい。溶媒の種類は、エポキシ樹脂が溶解するものであれば良く、特に制限されないが、吸着による精製工程は、通常、反応液を濃縮する前に行われるため、反応溶媒がそのまま好適に使用される。溶媒の含有量は処理対象液中の濃度として、通常5〜80重量%、より好ましくは10〜50重量%である。溶媒の量が余りにも少ない場合は、処理対象液の粘度が高くなり、吸着効率が低下する。
このようにして後処理を行った後、触媒や吸着剤を分離したエポキシ樹脂溶液から、溶媒を通常50〜220℃、好ましくは70〜180℃の条件で留去し、その後冷却固化して、無色透明の脂環式エポキシ樹脂を得る。
次に、本発明の脂環式エポキシ樹脂、すなわち、固形脂環式エポキシ樹脂(水素化エポキシ樹脂)について説明する。本発明の脂環式エポキシ樹脂は、以下の(a)〜(d)の規定を満足することを特徴とする。
(a)エポキシ当量が500〜10,000である。
(b)核水素化率が96%以上である。
(c)JIS−K−7234の環球法における軟化温度(以下、単に「軟化温度」と称す。)が40〜200℃である。
(d)波長400nmで測定した光線透過率が90%以上である。
本発明の脂環式エポキシ樹脂のエポキシ当量は、500以上、中でも550以上、特に600以上であることが好ましく、10000以下、中でも6000以下、特に3000以下であることが好ましい。なお、本発明の脂環式エポキシ樹脂が、前述のような、芳香族エポキシ樹脂の核水素化により得られる脂環式エポキシ樹脂である場合、そのエポキシ当量は、原料となる芳香族エポキシ樹脂のエポキシ当量、および核水素化時に副反応として起こるエポキシ基の分解率によって決まる。
エポキシ基の分解率はエポキシ基が水酸基などの他の官能基に分解された割合であり、芳香環のみが水素化された場合の理論エポキシ当量と製品の実際のエポキシ当量から計算で求めることができる。得られる脂環式エポキシ樹脂のエポキシ基の分解率は50%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下、特に好ましくは20%以下である。エポキシ基の分解率が大きい場合は、この脂環式エポキシ樹脂を用いた硬化物の耐熱性が低下する傾向にある。
本発明の脂環式エポキシ樹脂の核水素化率は、96%以上であるが、特に光に対する安定性が必要な場合は98%以上であることが好ましい。水素化率の上限は100%である。この核水素化率が96%未満であると、本発明のエポキシ樹脂組成物を窒化物半導体のLEDの封止に用いた場合、短波長の光を吸収し経時的に樹脂の劣化が起こり、黄変により発光輝度が顕著に低下するため好ましくない。
また、本発明の脂環式エポキシ樹脂の軟化温度は、低すぎると、べたつき易く、また融着し易くなり、取扱性が低下する場合がある。逆に高すぎても、溶融し硬化剤等との混合時に高温を要するので、作業性や経済性等が低下する場合がある。よって軟化温度は50〜150℃、特に60〜140℃であることが好ましい。より高い軟化温度の脂環式エポキシ樹脂は、エポキシ当量の大きい高分子量の芳香族エポキシ樹脂を原料として製造することができる。
また、本発明の脂環式エポキシ樹脂の色相は、光線透過率で表され、水素化エポキシ樹脂100質量部を酢酸エチル等の有機溶媒200質量部で溶解させた溶液を、セル長1cmの石英セルを用い、波長400nmで分光光度計により測定した光線透過率(以下、単に「光線透過率」と称す。)が90%以上である。この光線透過率が90%未満であるとエポキシ樹脂の色相が悪くなるため、その硬化物も無色透明のものが得られず、光学用材料として用いることができず好ましくない。
上記の光線透過率測定に用いることができる有機溶媒としては、実質的に測定波長の光を吸収せず、且つ、脂環式エポキシ樹脂が溶解するものであれば良く、酢酸エチル以外のものでも使用可能であり、例えば、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒も使用可能である。
本発明の脂環式エポキシ樹脂としては、中でも近紫外領域の光を用いた光線透過率が高いことが好ましく、具体的には波長340nmの光線透過率が80%以上、中でも85%以上、特に90%以上であることが好ましい。
また、本発明の脂環式エポキシ樹脂中の、アルカリ金属元素および周期律表第15族元素の合計含有量は、10ppm以下であることが好ましく、このような脂環式エポキシ樹脂は、塩基性物質を実質的に含まず、例えば電気・電子材料として使用する際に不純物が少なく有利である。
また、本発明の脂環式エポキシ樹脂は、例えば前述のような、芳香族エポキシ樹脂の核水素化により得られる脂環式エポキシ樹脂である場合には、原料の芳香族エポキシ樹脂に比較して溶融粘度が低下し、流動性が向上する。例えば150℃における溶融粘度で比較した場合、脂環式エポキシ樹脂の粘度は原料芳香族エポキシ樹脂の溶融粘度に対し通常70%以下である。
本発明の脂環式エポキシ樹脂は、常温で固体のものであり、透明性に優れ、各種光学用材料やコーティング材料等の原料として有用である。本発明の脂環式エポキシ樹脂は、例えば、前述の本発明の方法によって製造される。中でも、エポキシ当量が500〜10,000で、アルカリ金属元素および周期律表第15族元素の合計含有量が10ppm以下の芳香族エポキシ樹脂を核水素化して得られる脂環式エポキシ樹脂であることが好ましい。更には、原料である芳香族エポキシ樹脂が、エポキシ当量が600〜6,000の、ビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂であることが好ましい。
[脂環式エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化体および脂環式エポキシ樹脂組成物の用途]
本発明の脂環式エポキシ樹脂組成物は、上記の脂環式エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを含むことを特徴とする。
(エポキシ樹脂用硬化剤)
本発明で用いるエポキシ樹脂用硬化剤としては、一般のエポキシ樹脂用硬化剤が用いられ、例えば次のようなものが挙げられる。
(i)アミン類;ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、m−キシリレンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラスピロ[5,5]ウンデカン等の脂肪族および脂環族アミン類、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミン類、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ−(5,4,0)−ウンデセン−7,1,5−アザビシクロ−(4,3,0)−ノネン−7等の3級アミン類およびその塩類。
(ii)酸無水物類;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の芳香族酸無水物類、無水テトラヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、無水ドデセニルコハク酸、無水トリアルキルテトラヒドロフタル酸等の環状脂肪族酸無水物類。
(iii)多価フェノール類;カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビフェノール、フェノールノボラック類、クレゾールノボラック類、ビスフェノールA等の2価フェノールのノボラック化物類、トリスヒドロキシフェニルメタン類、アラルキルポリフェノール類、ジシクロペンタジエンポリフェノール類等。
(iv)その他;アミンのBF3錯体化合物、脂肪族スルホニウム塩、芳香族スルホニウム塩、ヨードニウム塩およびホスホニウム塩等のブレンステッド酸塩類、ジシアンジアミド類、アジピン酸ジヒドラジッドおよびフタル酸ジヒドラジッド等の有機酸ヒドラジッド類、レゾール類、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、トリメリット酸およびカルボキシル基含有ポリエステル等のポリカルボン酸類等ある。
これらのエポキシ樹脂用硬化剤は、単独で使用しても良いが、2種以上を併用して使用することも可能である。
エポキシ樹脂用硬化剤の配合量は、用いるエポキシ樹脂用硬化剤の種類によっても異なるが、通常、水素化エポキシ樹脂100質量部に対して0.01〜200質量部、好ましくは0.1〜100質量部の範囲内である。
(酸無水物化合物またはカチオン重合開始剤)
本発明のエポキシ樹脂組成物を、特に発光素子の封止材用として用いる場合、得られるエポキシ樹脂組成物の耐光性の点で、エポキシ樹脂用硬化剤としては、酸無水物化合物またはカチオン重合開始剤を用いることが好ましく、酸無水物化合物しては、例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の芳香族酸無水物類、無水テトラヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸、無水メチルエンドエチレンテトラヒドロフタル酸、無水トリアルキルテトラヒドロフタル酸等の環状脂肪族酸無水物が挙げられる。これらの中で、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルヘキサヒドロフタル酸等の水素化された環状脂肪族酸無水物を使用するのが、本発明組成物の耐光性が向上する点で特に好ましい。
また、酸無水物化合物を用いる場合、その硬化を促進する目的で、硬化促進剤を配合することができる。この硬化促進剤の例としては、3級アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン化合物類またはこれらの塩類、オクチル酸亜鉛、オクチル酸スズ等の金属石鹸類が挙げられる。
エポキシ樹脂用硬化剤としての酸無水物化合物の使用割合は、本発明の脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して5〜200質量部、特に10〜100質量部の範囲内であることが好ましく、上記硬化促進剤を配合する場合、その使用割合は脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部とすることが好ましい。
また、カチオン重合開始剤としては、活性エネルギー線によりカチオン種またはルイス酸を発生する、活性エネルギー線カチオン重合開始剤、または熱によりカチオン種またはルイス酸を発生する熱カチオン重合開始剤を用いることができる。
活性エネルギー線カチオン重合開始剤としては、米国特許第3379653号に記載されたような金属フルオロ硼素錯塩および三弗化硼素錯化合物;米国特許第3586616号に記載されたようなビス(ペルフルオルアルキルスルホニル)メタン金属塩;米国特許第3708296号に記載されたようなアリールジアゾニウム化合物;米国特許第4058400号に記載されたようなVIa族元素の芳香族オニウム塩;米国特許第4069055号に記載されたようなVa族元素の芳香族オニウム塩;米国特許第4068091号に記載されたようなIIIa〜Va族元素のジカルボニルキレート;米国特許第4139655号に記載されたようなチオピリリウム塩;米国特許第4161478号に記載されたようなMF6−陰イオン(ここでMは燐、アンチモンおよび砒素から選択される)の形のVIb元素;米国特許第4231951号に記載されたようなアリールスルホニウム錯塩;米国特許第4256828号に記載されたような芳香族ヨードニウム錯塩および芳香族スルホニウム錯塩;W.R.Wattらによって「ジャーナル・オブ・ポリマー・サイエンス(Journal of Polymer Science)、ポリマー・ケミストリー(Polymer Chemistry)版」、第22巻、1789頁(1984年)に記載されたようなビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド−ビス−ヘキサフルオロ金属塩(例えば燐酸塩、砒酸塩、アンチモン酸塩等)の1種または2種以上が挙げられる。その他、鉄化合物の混合配位子金属塩およびシラノール−アルミニウム錯体も使用することが可能である。
好ましい活性エネルギー線カチオン重合開始剤には、アリールスルホニウム錯塩、ハロゲン含有錯イオンの芳香族スルホニウムまたはヨードニウム塩並びにII族、V族およびVI族元素の芳香族オニウム塩が包含される。これらの塩のいくつかは、「FX−512」(3M社)、「UVR−6990」および「UVR−6974」{ユニオン・カーバイド(Union Carbide)社}、「UVE−1014」および「UVE−1016」{ジェネラル・エレクトリック(General Electric)社}、「KI−85」{デグッサ(Degussa)社}、「SP−150」および「SP−170」(旭電化社)並びに「サンエイドSI−60L」、「サンエイドSI−80L」および「サンエイドSI−100L」(三新化学工業社)として商品として入手できる。
熱カチオン重合開始剤としては、トリフル酸(Triflic acid)塩、三弗化硼素エーテル錯化合物、三弗化硼素等のようなカチオン系またはプロトン酸触媒が挙げられ、好ましい熱カチオン重合開始剤としては、トリフル酸塩であり、例としては、3M社から「FC−520」として入手できるトリフル酸ジエチルアンモニウム、トリフル酸トリエチルアンモニウム、トリフル酸ジイソプロピルアンモニウム、トリフル酸エチルジイソプロピルアンモニウム等(これらの多くはR.R.Almによって1980年10月発行のモダン・コーティングス(Modern Coatings)に記載されている)がある。また、活性エネルギー線カチオン重合開始剤としても用いられる芳香族オニウム塩のうち、熱によりカチオン種を発生するものがあり、これらも熱カチオン重合開始剤として用いることができる。例としては、「サンエイドSI−60L」、「サンエイドSI−80L」および「サンエイドSI−100L」(三新化学工業社)がある。
これらの活性エネルギー線および熱カチオン重合開始剤の中で、オニウム塩が、取り扱い性および潜在性と硬化性のバランスに優れるという点で好ましく、その中で、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩およびホスホニウム塩が取り扱い性および潜在性のバランスに優れるという点で特に好ましい。
カチオン重合開始剤の使用量は、本発明の脂環式エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは0.01〜15重量部、より好ましくは0.05〜5重量部である。
いずれのエポキシ樹脂用硬化剤を用いた場合でも、その使用量がその好適範囲を外れると、エポキシ樹脂硬化物の耐熱性および耐湿性のバランスが悪くなるため好ましくない。
(酸化防止剤)
本発明のエポキシ樹脂組成物、特に発光素子封止材用エポキシ樹脂組成物には酸化防止剤を配合して、加熱時の酸化劣化を防止することが、着色の少ない硬化物を得る上で好ましい。
この場合、使用できる酸化防止剤としては、フェノール系、硫黄系、リン系酸化防止剤が挙げられ、本発明の脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して通常0.005〜5質量部、好ましくは0.01〜1質量部配合される。
使用できる酸化防止剤の具体例としては、以下のようなものが挙げられる。
[フェノール系酸化防止剤]
モノフェノール類;2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−t−ブチル−p−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等。
ビスフェノール類;2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等。
高分子型フェノール類;1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、ビス[3,3’−ビス−(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド]グリコールエステル、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−S−トリアジンー2,4,6−(1H,3H,5H)トリオン、トコフェノール等。
[硫黄系酸化防止剤]
ジラウリル−3,3'−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリルル−3,3’−チオジプロピオネート等。
[リン系酸化防止剤]
ホスファイト類;トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビ(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビ(2,4−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、ビス[2−t−ブチル−6−メチル−4−{2−(オクタデシルオキシカルボニル)エチル}フェニル]ヒドロゲンホスファイト等。
オキサホスファフェナントレンオキサイド類;9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等。
これらの酸化防止剤はそれぞれ単独で使用できるが、フェノール系/硫黄系、またはフェノール系/リン系のように2種以上を組み合わせて使用することが特に好ましい。
(任意成分)
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて次のような成分を添加配合することができる。
(1)その他のエポキシ樹脂;例えば3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート等の脂環式エポキシ樹脂、「EHPE3150」(ダイセル化学社商品名)等の固形脂環式エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート等の多官能複素環エポキシ樹脂。
(2)粉末状の補強剤や充填剤;例えば酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物、微粉末シリカ、溶融シリカ、結晶シリカなどのケイ素化合物、ガラスビーズ等の透明フィラー、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、その他、カオリン、マイカ、石英粉末、グラファイト、二硫化モリブデン等。
上記(1),(2)の成分は、本発明のエポキシ樹脂組成物の透明性を損なわない範囲で配合され、本発明の脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して、各々、100質量部以下、例えば10〜100質量部が適当である。
(3)着色剤または顔料;例えば二酸化チタン、モリブデン赤、紺青、群青、カドミウム黄、カドミウム赤および有機色素等。
(4)難燃剤;例えば三酸化アンチモン、ブロム化合物およびリン化合物等。
(5)紫外線吸収剤、イオン吸着体、カップリング剤、離型剤等の添加剤。
上記(3)〜(5)の成分を配合する場合、本発明の脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して、各々、30質量部以下、例えば0.01〜30質量部配合される。
更に、本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ硬化物の性質を改善する目的で種々の硬化性モノマー、オリゴマーおよびエポキシ樹脂以外の合成樹脂を配合することができる。例えば、ジオールまたはトリオール類、ビニルエーテル類、オキセタン化合物、フッ素樹脂、アクリル樹脂、シリコ−ン樹脂等の1種または2種以上の組み合わせを挙げることができる。これらの化合物および樹脂類の配合割合は、本発明のエポキシ樹脂組成物の本来の性質を損なわない範囲の量、例えば本発明の脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して、50質量部以下が好ましい。
(エポキシ樹脂硬化体)
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させる方法は特に限定するものではないが、エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂用硬化剤、必要に応じて配合されるその他の成分を混合した後、光および熱等により硬化反応を行って、エポキシ樹脂硬化体を得ることができる。本発明のエポキシ樹脂硬化体は強靭な性能を有しており、加水分解性塩素および塩基性化合物等の不純物の含有量が少ないため、特に電気・電子部品用の封止材料、例えば、絶縁材料等として好適に使用できるが、とりわけ、本発明のエポキシ樹脂硬化体は、透明性、耐光性に優れることから、以下の発光素子の封止用として好適である。
(発光素子および半導体発光装置)
本発明のエポキシ樹脂組成物は、特に耐光性に優れるため、ピーク波長が350〜550nmの比較的短い波長の光を発光する発光素子の封止に有効であり、優れた半導体発光装置を提供することが出来る。
このような発光素子としては有機金属気相成長法(MOCVD法)、分子線結晶成長法(MBE法)、ハライド系気相成長法(HVPE法)により形成されたIII族窒化物系化合物半導体を用いたものが挙げられ、一般式としてAlXGaYIn1-X-YN(0≦X≦1,0≦Y≦1,0≦X+Y≦1)で表され、AlX、GaNおよびInNのいわゆる2元系、AlXGa1-XN、AlXIn1-XNおよびGaXIn1-XN(以上において0≦X≦1)のいわゆる3元系を包含する。半導体の構造としては、MIS接合、PIN接合やpn接合などを有するホモ構造、ヘテロ構造あるいはダブルヘテロ構造のものが挙げられる。半導体層の材料やその混晶度によって発光波長を種々選択することができる。また、半導体活性層を量子効果が生ずる薄膜に形成させた単一量子井戸構造や多重量子井戸構造とすることもできる。
(固形封止材の製造方法)
本発明のエポキシ樹脂組成物を用いた発光素子用封止材は、常温で固体であるのが好ましく、その製造方法としては、前記の固形水素化エポキシ樹脂、エポキシ樹脂用硬化剤および任意成分をミキサー、ブレンダー、ロール等を用いて加熱溶融しながら均一に混合、ないしは水素化エポキシ樹脂とエポキシ樹脂用硬化剤の予備反応を行いながら、40〜150℃、好ましくは50〜130℃の範囲の軟化温度に調整し、冷却固化した後粉砕して粉末状の発光素子用封止材を得る方法が挙げられる。また、更に必要に応じて得られた粉末状物をタブレット状に打錠することもできる。
この封止材の軟化温度が40℃未満であると、この封止材を固体として扱えず、トランスファー成形が不可能となる。このため、必要に応じて水素化エポキシ樹脂とエポキシ樹脂用硬化剤との予備反応を行い、封止材の軟化温度を40℃以上に上げることが好ましい。また、軟化温度が150℃を超えると溶融温度が高くなりすぎ、トランスファー成形が困難になるため好ましくない。
(発光素子の封止方法)
発光素子を本発明の発光素子用封止材で封止するには、公知の低圧トランスファー成形機を用いる方法が好ましく、100〜200℃、0.1〜20分間の成形条件で発光素子を封止することが好ましい。更に成形後、より封止材性能の向上を図るために、70〜170℃の温度、0.1〜10時間の範囲で後硬化を行うことが好ましい。
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例中で使用した分析方法および物性測定方法は次の通りである。
(1)脂環式エポキシ樹脂の芳香環の水素化率
酢酸エチルに溶解した試料を使用し、波長275nmでの吸光度を測定し、原料の芳香族エポキシ樹脂の吸光度と比較して算出した。酢酸エチルによる希釈倍率は水素化率に応じ10〜1000倍とした。
(2)エポキシ当量
JIS−K7236−1995に準拠し、酢酸と臭化セチルトリメチルアンモニウムの存在下、過塩素酸で滴定し、発生する臭化水素をエポキシ基に付加させ、終点を電位差で判定した。
(3)エポキシ基の分解率
下記の方法で計算した。
(i) ビスフェノールA型エポキシ樹脂の場合、分子式を下記式の通りとして、平均分子量を340+284nとする。
Figure 0005402840
(ii) 原料エポキシ樹脂のエポキシ当量WRから下記式によりnを求める。
WR=(340+284n)/2
よって、n=(2×WR−340)/284
(iii) エポキシ基が分解しないで理想的に水素化された場合の分子式を下記式のようにおき、nから理想的エポキシ当量WCを計算する。
WC=(352+296n)/2
Figure 0005402840
(iv) 実際に得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量WPと理想値WCから、下記式により分解率を算出する。
分解率(%)=(1−WC/WP)×100
(4)光線透過率
エポキシ樹脂を、2倍重量の酢酸エチルに溶解し、溶液の光線透過率を島津製作所製分光光度計「UV−2400PC」にて、1cmセルを使用して400nmおよび340nmの波長の光の光線透過率を、酢酸エチルをブランクとして測定した。
(5)軟化温度
環球法(JIS−K7234−1986)にて測定した。
(6)溶融粘度
ICI粘度計(コーンプレート型回転粘度計)を用いて、150℃での溶融粘度を測定した。
(7)ガラス転移温度Tg(℃)
TMA法(昇温速度5℃/分)による。
(8)耐熱衝撃性(クラック抵抗)
オリファントワッシャーを埋め込んだエポキシ樹脂硬化物3個を、下記表1に示す170℃〜−75℃のサイクルで熱衝撃試験を行い、硬化物にクラックが入ったところで止め、クラックが生じたサイクルの“クラック抵抗”を平均した値で示した。
Figure 0005402840
(9)耐紫外線性
メタリングウェザーメーター(スガ試験機社製)を使用して照射強度0.4kW/m、ブラックパネル温度63℃で紫外線を72時間照射した後の硬化物のYI値(Yellowness Index)を測定した。
(10)耐熱劣化性
150℃で72時間加熱後のエポキシ樹脂硬化物のYI値(Yellowness Index)を測定した。
(11)吸湿率(%)
厚さ3mm、直径50mmの円盤状エポキシ樹脂硬化物の121℃、24時間放置後の吸湿率を測定した。
[製造例1:核水素化触媒の調製]
40重量%塩化ロジウム(NEケムキャット製)625mgを水20gに溶解させ、得られた塩化ロジウム水溶液中に市販のグラファイト(TIMCAL製「HSAG100」、比表面積130m/g)4.75gを加え、グラファイトに塩化ロジウム水溶液を含浸させた。28重量%のアンモニア水0.78gを水6mlに溶かした水溶液を加え、室温で固定化処理を行った。得られた固体生成物を濾別後、イオン交換水で十分に洗浄し、50℃で乾燥することにより、ロジウムが5重量%担持された未還元型ロジウム/グラファイト触媒を得た。
[実施例1〜5および比較例1〜4:脂環式エポキシ樹脂関係]
実施例1:
1L容量の誘導攪拌式オートクレーブ内に、ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1002」、エポキシ当量;642、Li,Na,K,N,Pの各元素の含有量はいずれも1ppm以下であり、合計の含有量は5ppm以下、400nmの光線透過率:96%、340nmの光線透過率:69%、溶融粘度:1400mPa・s、1段法製造品)200g、酢酸エチル200g、水素化触媒として製造例1で得られた未還元型5重量%ロジウム/グラファイト触媒0.4g(対エポキシ樹脂0.2重量%、ロジウムとして対エポキシ樹脂0.01重量%)を仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した後、水素置換した。その後、110℃にて、8MPaの水素圧力で6時間核水素化反応を行った(蓄圧器により水素の吸収を監視し、水素吸収がほぼ停止したところで反応を終了した。)。
反応終了後、反応液に酢酸エチルを添加して希釈し、酸化マグネシウム(協和化学社製「キョーワマグ150」)4gを添加し、室温で30分攪拌混合後濾過した。濾過終了後、反応液中の酢酸エチルを蒸留回収し、160℃、圧力100MPaで溶媒を除去し、液を抜き出し後冷却し、無色透明の水素化エポキシ樹脂(脂環式エポキシ樹脂)を得た。
得られた脂環式エポキシ樹脂は無色透明の固体であり、核水素化率は99.4%、エポキシ当量は719、エポキシ基の分解率は7%、400nmの光線透過率は99%、340nmの光線透過率は96%、軟化温度は71℃、溶融粘度は860mPa・sであった。
実施例2:
ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1003」エポキシ当量:741、Li,Na,K,N,Pの各元素の含有量はいずれも1ppm以下であり、合計の含有量は5ppm以下、400nmの光線透過率:96%、340nmの光線透過率:65%、溶融粘度:2700mPa・s、1段法製造品)200g、酢酸エチル200g、水素化触媒として製造例1で得られた未還元型5重量%ロジウム/グラファイト触媒1g(対エポキシ樹脂0.5重量%、ロジウムとして対エポキシ樹脂0.025重量%)を仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した後、水素置換した。その後、110℃にて、8MPaの水素圧力で1.8時間、核水素化反応を行った後、実施例1と同様の後処理操作を実施し、水素化エポキシ樹脂(脂環式エポキシ樹脂)を得た。
得られた脂環式エポキシ樹脂は無色透明の固体であり、核水素化率は99.8%、エポキシ当量は909、エポキシ基の分解率は15%、400nmの光線透過率は99%、340nmの光線透過率は96%、軟化温度は72℃、溶融粘度は1540mPa・sであった。
実施例3:
ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1004AF」エポキシ当量:919、Li,Na,K,N,Pの各元素の含有量はいずれも1ppm以下であり、合計の含有量は5ppm以下、400nmの光線透過率:95%、340nmの光線透過率:66%、溶融粘度:6900mPa・s、1段法製造品)200g、酢酸エチル200g、水素化触媒として製造例1で製造された未還元型5重量%ロジウム/グラファイト触媒1g(対エポキシ樹脂0.5重量%、ロジウムとして対エポキシ樹脂0.025重量%)を仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した後、水素置換した。その後、110℃にて、8MPaの水素圧力で2時間、核水素化反応を行った後、実施例1と同様の後処理操作を実施し、水素化エポキシ樹脂(脂環式エポキシ樹脂)を得た。
得られた脂環式エポキシ樹脂は無色透明の固体であり、核水素化率は99.9%、エポキシ当量は1184、エポキシ基の分解率は19%、400nmの光線透過率は99%、340nmの光線透過率は96%、軟化温度は85℃、溶融粘度は3200mPa・sであった。
実施例4:
ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1007」エポキシ当量:2015、Li,Na,K,N,Pの各元素の含有量はいずれも1ppm以下であり、合計の含有量は5ppm以下、400nmの光線透過率:90%、340nmの光線透過率:65%、溶融粘度:40000mPa・s、1段法製造品)100g、酢酸エチル300g、水素化触媒として製造例1で製造された未還元型5重量%ロジウム/グラファイト触媒2g(対エポキシ樹脂2重量%、ロジウムとして対エポキシ樹脂0.1重量%)を仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した後、水素置換した。その後、110℃にて、8MPaの水素圧力で1時間、核水素化反応を行った。次いで、吸着剤としてMgO(富田製薬社製「AD100P」)を用いた以外は、実施例1と同様の後処理操作を実施し、水素化エポキシ樹脂(脂環式エポキシ樹脂)を得た。
得られた脂環式エポキシ樹脂は無色透明の固体であり、核水素化率は99.2%、エポキシ当量は2199、エポキシ基の分解率は5%、400nmの光線透過率は92%、340nmの光線透過率は85%、軟化温度は101℃、溶融粘度は14700mPa・sであった。
実施例5:
ビスフェノールF型固形エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート4004P」)300gをメチルイソブチルケトン1200gに溶解した後、70〜80℃の温度で、純水500gを用いて3回洗浄を行った。その後、メチルイソブチルケトンを留去することにより得られたエポキシ樹脂200g(エポキシ当量:878、Li,Na,K,N,Pの各元素の含有量はいずれも1ppm以下であり、合計の含有量は5ppm以下)、酢酸エチル200g、水素化触媒として製造例1で得られた未還元型5重量%ロジウム/グラファイト触媒1g(対エポキシ樹脂2重量%、ロジウムとして対エポキシ樹脂0.1重量%)を仕込み、オートクレーブ内を窒素置換した後、水素置換した。その後、110℃にて、8MPaの水素圧力で2時間、核水素化反応を行った後、実施例1と同様の後処理操作を実施し、水素化エポキシ樹脂(脂環式エポキシ樹脂)を得た。
得られた脂環式エポキシ樹脂は無色透明の固体であり、核水素化率は99.8%、エポキシ当量は1022、軟化温度は74℃であった。
比較例1:
ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂としてジャパンエポキシレジン社製「エピコート1004F」(エポキシ当量:933、窒素元素:18ppm含有、2段法製造品)を使用した以外は、実施例3と同様に反応操作を行ったが、反応1時間で全く水素を消費しないので、反応を停止した。
比較例2:
エポキシ樹脂としてジャパンエポキシレジン社製「エピコート1006F」(エポキシ当量:1103、窒素元素:17ppm含有、2段法製造品)を使用した以外は、実施例4と同様に反応操作を行ったが、反応1時間で全く水素を消費しないので、反応を停止した。
比較例3:
エポキシ樹脂としてジャパンエポキシレジン社製「エピコート1006FS」(エポキシ当量:965、ナトリウム元素:20ppm含有、2段法製造品)を使用した以外は、実施例4と同様に反応操作を行ったが、反応1時間で全く水素を消費しないので、反応を停止した。
比較例4:
ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂として、ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1001」(エポキシ当量;465、Li,Na,K,N,Pの各元素の含有量はいずれも1ppm以下であり、合計の含有量は5ppm以下)を使用した以外は、実施例1と同様に核水素化反応および後処理操作を行い、水素化エポキシ樹脂(脂環式エポキシ樹脂)を得た。
得られた脂環式エポキシ樹脂は無色透明の粘稠液体で、核水素化率は99.8%、エポキシ当量は534、光線透過率は99%であった。
以上の結果から、本発明によれば、芳香族エポキシ樹脂を高い核水素化率で核水素化して、常温で固体の、透明性に優れた脂環式エポキシ樹脂を得ることができることが分かる。
[実施例6〜11および比較例5、6:脂環式エポキシ樹脂組成物関係]
実施例6:
実施例1で得られた固形脂環式エポキシ樹脂を100部(以下において、「部」は「質量部」を意味する。)、硬化剤として「リカシッドMH−700」(新日本理化社商品名;無水メチルヘキサヒドロフタル酸)を23部、硬化促進剤として「ヒシコーリンPX−4ET」(日本化学工業社商品名;テトラ−n−ブチルホスホウホニウム−o,o−ジエチルホスホロジチオネート)を1部、酸化防止剤として2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを0.2部とジフェニルイソデシルホスファイトを0.2部配合するために、ミキシングロールを用い、80〜90℃の温度で20分間溶融混合を行いながら予備反応させ半硬化状態(Bステージ)のエポキシ樹脂組成物とした。このエポキシ樹脂組成物の軟化温度(JIS−K−7234の環球法による)およびゲル化時間(鉄板法により150℃で測定)は表2に示す通りであった。得られた溶融エポキシ樹脂組成物はシート状に取り出し、粉砕して成形材料を得た。なお、表2中、エポキシ樹脂Iは本発明に係る脂環式エポキシ樹脂を示し、エポキシ樹脂IIは他のエポキシ樹脂を示す。
上記により得られた成形材料を、低圧トランスファー成形機を用い、金型温度150℃、成形時間180秒で成形して、各試験片を得、更に140℃で3時間ポストキュアーを行い無色透明な硬化物を得た。この硬化物の評価結果を表2に示す。
実施例7〜11、比較例5、6:
エポキシ樹脂およびエポキシ樹脂用硬化剤を表2のように変える以外は、実施例6と同様の操作を行い、表2に示す軟化温度(JIS−K−7234の環球法による)およびゲル化時間(鉄板法により150℃で測定)のエポキシ樹脂組成物を得、このエポキシ樹脂組成物から同様に硬化物を得た(ただし、比較例1はエポキシ樹脂組成物が液体であるため成形、硬化不可能であった)。これらの硬化物の評価結果を表2に示す。
Figure 0005402840
表2より、本発明によれば、無色透明で、耐熱衝撃性、耐光性、耐熱性に優れたエポキシ樹脂硬化体を得ることができることが分かる。

Claims (17)

  1. エポキシ当量が500〜10,000で、アルカリ金属元素および周期律表第15族元素の合計含有量が10ppm以下のビスフェノール型エポキシ樹脂である芳香族エポキシ樹脂を核水素化することにより、以下の(a)〜(d)の規定を満足する脂環式エポキシ樹脂を製造することを特徴とする脂環式エポキシ樹脂の製造方法。
    (a)エポキシ当量が500〜10,000である。
    (b)核水素化率が96%以上である。
    (c)JIS−K−7234の環球法における軟化温度が40〜200℃である。
    (d)波長400nmで測定した光線透過率が90%以上である。
  2. 白金族元素を含有する触媒の存在下に核水素化する請求項1に記載の脂環式エポキシ樹脂の製造方法。
  3. 白金族元素を含有する触媒が、白金族元素化合物を担体に担持させた触媒前駆体を還元して得られたものである請求項に記載の脂環式エポキシ樹脂の製造方法。
  4. 触媒前駆体を還元する際に芳香族エポキシ樹脂を共存させ、触媒前駆体の還元と芳香族エポキシ樹脂の核水素化反応とを同じ反応系内で並行して行う請求項に記載の脂環式エポキシ樹脂の製造方法。
  5. ビスフェノール型エポキシ樹脂がビスフェノール化合物とエピハロヒドリンとを縮合反応させたものである請求項ないしの何れかに記載の脂環式エポキシ樹脂の製造方法。
  6. ビスフェノール型エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール型エポキシ樹脂および4,4’−ビフェノール型エポキシ樹脂から選ばれる1種以上のエポキシ樹脂である請求項ないしの何れかに記載の脂環式エポキシ樹脂の製造方法。
  7. 脂環式エポキシ樹脂(分子内に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(a)と末端カルボキシル基含有ポリエステルオリゴマー(b)と、ポリイソシアネート化合物(c)とを反応させて得られる、水素添加ビスフェノールA系の固形エポキシ樹脂である場合を除く)を製造することを特徴とする請求項1ないしの何れかに記載の脂環式エポキシ樹脂の製造方法。
  8. 脂環式エポキシ樹脂(分子内に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(a)と末端カルボキシル基含有ポリエステルオリゴマー(b)と、ポリイソシアネート化合物(c)とを反応させて得られる、エポキシ当量500乃至1200g/eqの水素添加ビスフェノールA系の固形エポキシ樹脂である場合を除く)を製造することを特徴とする請求項1ないしの何れかに記載の脂環式エポキシ樹脂の製造方法。
  9. 請求項1ないしの何れかに記載の脂環式エポキシ樹脂の製造方法で製造された脂環式エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを含み、エポキシ樹脂硬化剤の配合量が脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して0.01〜200質量部であることを特徴とする脂環式エポキシ樹脂組成物。
  10. エポキシ樹脂硬化剤が酸無水物化合物および/またはカチオン重合開始剤である請求項に記載の脂環式エポキシ樹脂組成物。
  11. フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤およびリン系酸化防止剤から成る群より選ばれる少なくとも1種類の酸化防止剤を、脂環式エポキシ樹脂100質量部に対して0.005〜5質量部含有する請求項または10に記載の脂環式エポキシ樹脂組成物。
  12. 請求項ないし11の何れかに記載の脂環式エポキシ樹脂組成物を硬化させて成ることを特徴とするエポキシ樹脂硬化体。
  13. 請求項1ないしの何れかに記載の脂環式エポキシ樹脂の製造方法で製造された脂環式エポキシ樹脂または請求項ないし11の何れかに記載の脂環式エポキシ樹脂組成物を含むことを特徴とする電気・電子材料用封止材。
  14. 発光素子用封止材である請求項13に記載の電気・電子材料用封止材。
  15. 発光素子の主発光ピーク波長が350〜550nmである請求項14に記載の電気・電子材料用封止材。
  16. 低圧トランスファー成形機を使用したLEDの封止に使用される請求項15に記載の電気・電子材料用封止材。
  17. 請求項13ないし16の何れかに記載の電気・電子材料用封止材を使用したことを特徴とする半導体発光装置。
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