JP4792049B2 - タイヤのノイズ性能のシミュレーション方法及びタイヤの製造方法 - Google Patents

タイヤのノイズ性能のシミュレーション方法及びタイヤの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、精度良くタイヤのノイズ性能を評価するのに役立つシミュレーション方法及びタイヤの製造方法に関する。
従来、タイヤの開発は、試作品を作り、それを実験し、実験結果から改良品をさらに試作するという繰り返し作業で行われていた。この方法では、試作品の製造や実験に多くの費用と時間を要するという問題がある。かかる問題を克服するために、近年では有限要素法などの数値解析手法を用いたコンピューターシミューションにより、タイヤを試作しなくてもある程度の性能を予測・解析する方法が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
しかしながら、上述のコンピュータシミュレーションでは、主として走行時にタイヤに作用する前後力、上下力及び横力といった力の他、ひずみ等の変形量の解析が殆どであり、ノイズ性能については具体的に述べられていない。
特開2002−7489号公報
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、トレッド溝を具えたトレッドモデル部を有するタイヤモデルで転動シミュレーションを行ない、トレッド溝を含めたトレッドモデル部の変形状態などを求め、このトレッドモデル部の表面座標値を用いてトレッドモデル部周辺の音空間領域を定め、該音空間領域を用いて空力シミュレーションを行うことを基本として、タイヤ走行時に生じるノイズを精度良く評価することが可能なタイヤのノイズ性能のシミュレーション方法及びそれを用いたタイヤの製造方法を提供することを主たる目的としている。
本発明のうち請求項1記載の発明は、タイヤのノイズ性能をコンピュータを用いてシミュレーションするための方法であって、少なくとも1本のトレッド溝を具えたトレッドモデル部を有するタイヤモデルを有限個の要素を用いて設定するステップと、有限個の要素を用いて路面モデルを設定するステップと、前記トレッド溝が前記路面モデルと接地して転動する溝接地転動区間を少なくとも含んで前記タイヤモデルを前記路面モデル上で転動させる転動シミュレーションを行うステップと、前記溝接地転動区間における前記トレッドモデル部の表面座標値を時系列的に取得するステップと、前記取得されたトレッドモデル部の表面座標値に基づいて形状が変化する前記トレッドモデル部の周辺の音空間領域を設定し、かつ、該音空間領域で空力シミュレーションを行うステップとを含むとともに、前記音空間領域は、前記トレッド溝の内部空間に相当する溝内領域と、それ以外の主領域とからなり、かつ前記溝内領域は、前記主領域よりも小さく要素分割されることを特徴とする。
また請求項記載の発明は、前記空力シミュレーションは、前記主領域の位置を固定し、かつ、前記溝内領域を前記主領域に沿ってタイヤ周方向に移動させることにより前記音空間領域を変形させる処理を含む請求項1記載のタイヤのノイズ性能のシミュレーション方法である。
また請求項記載の発明は、前記溝内領域及び主領域をともに変形可能に定義して前記空力シミュレーションを行う第1のシミュレーション段階と、前記溝内領域のみを変形可能に定義して前記空力シミュレーションを行う第2のシミュレーション段階と、前記第1のシミュレーションで得られたノイズ性能から第2のシミュレーションで得られたノイズ性能を減算することにより、インパクトノイズ性能を計算する段階とをさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤのノイズ性能のシミュレーション方法である。
また請求項記載の発明は、前記トレッド溝は、タイヤ周方向に対して傾斜してのびる横溝を含む請求項1乃至のいずれかに記載のタイヤのシミュレーション方法である。
また請求項記載の発明は、前記トレッド溝は、タイヤ周方向に沿ってのびる縦溝を含むとともに、前記音空間領域は、前記縦溝の内部空間に相当する溝内領域を含み、かつ、前記空力シミュレーションでは、少なくとも前記溝内領域に走行速度に相当する風を吹き付ける条件が定義される請求項1乃至のいずれかに記載のタイヤのノイズ性能のシミュレーション方法である。
また請求項記載の発明は、タイヤの製造方法であって、請求項1乃至のいずれかに記載されたシミュレーション方法を実行する段階と、前記シミュレーション方法で用いられたタイヤモデルのトレッドモデル部に基づいてトレッドパターンを設計する段階と、前記トレッドパターンを有するタイヤを加硫成形する段階とを含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法である。
タイヤ走行時のノイズには、トレッド溝が路面と接地ないし離間するときに生じる溝内空気の圧力変動や、トレッド溝が路面に接触したときのトレッド部の表面振動などが大きく影響する。そこで、本発明のタイヤのノイズ性能のシミュレーション方法では、トレッド溝を有するトレッドモデル部を具えたタイヤモデルを用い、該トレッド溝が路面モデルと接地して転動する溝接地転動区間を少なくとも含んで転動シミュレーションが行われる。そして、この転動シミュレーションの結果から、トレッドモデル部の表面座標値を時系列的に取得し、この座標値を用いてトレッドモデル部周辺の音空間領域を定め、該音空間領域を用いて空力シミュレーションが行われる。これにより、トレッド溝の接地及び開放に伴う変形や、トレッド溝の路面への接触時のトレッド部の表面の変形などを、空力シミュレーションの音空間領域の変形として取り込むことができる。従って、タイヤ走行時に生じるノイズを精度良く計算ないし評価することが可能になる。
以下、本発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。
本実施形態のシミュレーション方法は、例えば、図1に示されるようなコンピュータ装置1を用いて行われる。該コンピュータ装置1は、本体1aと、入力手段としてのキーボード1b及びマウス1cと、出力手段としてのモニタ装置1dとから構成される。本体1aには、CPU、ROM、作業用メモリー及び磁気ディスクなどの大容量の記憶装置が内蔵(いずれも図示せず)されるとともに、CD−ROMのようなドライブ装置1a1、1a2を適宜具えている。そして、前記記憶装置には後述する方法を実行するための処理手順(プログラム)が記憶される。
図2には、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順を含むフローチャートが示される。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、図3に示されるようなタイヤモデル2が設定される(ステップS1)。図3には、タイヤモデル2の一例が3次元上に視覚化して示される。
本実施形態のタイヤモデル2は、解析しようとするタイヤ(実存するか否かは問わない)が、数値解析が可能な有限個の小さな要素2a、2b、2c…に分割されて表現(離散化)されたものである。言い換えると、タイヤモデル2は、有限個の小さな要素2a、2b、2c…の集合体である。各要素2a、2b、2c…は、例えば2次元平面としての三角形ないし四角形の膜要素、3次元要素としての4ないし6面体ソリッド要素などが用いられる。
数値解析が可能とは、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法といった数値解析法によりモデルの変形計算が可能なことを意味する。このために、各要素2a、2b、2c…には、それぞれ節点の座標値、要素形状及び該要素が表している材料の物性値(例えば密度、弾性率又は減衰係数)などが適宜定義される。このようなタイヤモデル2の実体は、コンピュータ装置1にて取り扱い可能な数値データである。
また、本実施形態のタイヤモデル2は、トレッド部を有限個の要素で分割したリング状のトレッドモデル部2Aと、このトレッドモデル部2Aのタイヤ半径方向内側部分をなすトロイド状のボディモデル部2B(右側の拡大図ではグレー色を付した部分)とから構成される。ボディモデル部2Bは、本実施形態では、一対のサイドウォール部及び一対のビード部を含む。また、タイヤモデル2の内部には、カーカスやベルト層といった繊維補強材に見立てた要素を含むことが望ましい。これによって、トレッドモデル部2Aの変形挙動がより一層実物と近くなり、精度の良いシミュレーションを行うことができる。さらに、より詳細な変形挙動を得るために、トレッドモデル部2Aは、ボディモデル部2Bよりも細かく要素分割されることが望ましい。なお、本実施形態のタイヤモデル2は、環状に連続してモデル化されているが、必要な転動量が得られる場合には、例えばタイヤ周方向の一部についてのみモデル化されたものでも良い。
前記トレッドモデル部2Aには、少なくとも1本のトレッド溝Tが設けられる。この実施形態では、前記トレッド溝Tは、タイヤ軸方向と平行にのびる1本の横溝3からなる。ただし、トレッド溝Tは、このような態様に限定されるものではなく、その本数やタイヤ周方向に対する角度などは適宜変更することができる。
次に、図4に示されるように、有限個の要素を用いて路面モデル4が設定される(ステップS2)。本実施形態の路面モデル4は、円筒状の平滑な表面を有するものとして設定される。本実施形態では、シミュレーション結果の検証のために、実際のタイヤのノイズ性能評価がドラム試験機で行われる。これとの整合性をとるために、シミュレーションの路面も、曲率を有するものとした。該路面モデル4は、例えば1ないし複数個の剛表面要素を接続することで容易に設定できる。また、本実施形態の路面モデル4は、表面が平坦であるが、必要に応じてアスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり及び/又は轍等の実走行路面に良く見られる凹凸などが設けられても良い。
次に、前記タイヤモデル2を前記路面モデル4上で転動させるための各種の境界条件が設定され(ステップS3)、その後、転動シミュレーションが行われる(ステップS4)。
設定される境界条件としては、例えばタイヤモデル2のリム組み条件、内圧条件、タイヤモデル2の回転軸に作用する垂直荷重、スリップ角、キャンバー角、転動速度、タイヤモデル2と路面モデル4との間の摩擦係数及びタイヤモデル2の変形計算の初期時間増分などが挙げられる。
また、転動シミュレーションは、図5に示されるように、トレッドモデル部2Aの横溝3が路面モデル2と接地して転動する溝接地転動区間を少なくとも含むように、タイヤモデル2を路面モデル4上で転動させる。本実施形態では、タイヤモデル2の横溝3が路面モデル4と接地を開始する前(図5のa)から、溝接地転動区間(図5のb〜c)を経て、完全に離間するまで(図5のd)の区間a〜dで行われる。このような転動区間は、溝接地転動区間を含んでいれば任意に定められる。
前記転動シミュレーションは、例えばタイヤモデル2を、その回転軸O(図5に示す)の回りに回転自在に定義しかつ該タイヤモデル2に接触している路面モデル4を移動させることによりタイヤモデル2を転動させる方法、又は、路面モデル4を固定しその上にタイヤモデル2に回転速度及び並進速度を与えて転動させる方法のいずれでも良い。
また、転動シミュレーションでは、タイヤモデル2の変形計算が行われる。該変形計算は、各要素の形状及び材料特性などをもとに、各要素の質量マトリックス、剛性マトリックス及び減衰マトリックスがそれぞれ作成され、これらの各マトリックスを組み合わせて全体の系のマトリックスが作成される。そして、前記各種の条件を当てはめて運動方程式が作成され、これらを微小な時間増分Δtきざみで前記コンピュータ装置1にて逐次計算・記憶される。これにより、転動するタイヤモデル2の変形挙動、とりわけトレッドモデル部2Aの横溝3の変形状態やこの溝以外のトレッド表面の変形状態が時系列的にを詳細に計算することができる。
上述の転動シミュレーションは、例えば有限要素法を用いたエンジニアリング系の解析アプリケーションソフトウエア(例えば米国リバモア・ソフトウェア・テクノロジー社で開発・改良されたLS−DYNA等)を用いて行うことができる。そして、このような転動シミュレーションの結果から、少なくとも前記溝接地転動区間b〜cを含むトレッドモデル部2Aの三次元の表面座標値が時系列的に取得される(ステップS5)。なお、この表面座標値は、横溝3を含むトレッドモデル部2Aの表面座標値を含むものであれば足りるが、タイヤモデル2の全表面データとして取り込まれても良いのは言うまでもない。
次に、音空間領域5が設定され(ステップS6)、かつ、該音空間領域5で空力シミュレーションが行われる(ステップS7)。
空力シミュレーションは、流体シミュレーションの一種であり、構造解析である転動シミュレーションとは別に行われる。該流体シミュレーションでは、解析対象となる流体が流れる音空間領域が先ず定められる。また、音空間領域は、要素分割されることによって離散化され、各要素には、流体(空気)の流速や圧力といったノイズ性能に影響を与える物理量が割り当てられる。そして、それぞれの要素ごとに、力の釣り合いや質量の保存を考慮し計算が行われる。流体(本実施形態では空気)の運動は、例えばナビエ・ストークスの式によって表される。このナビエ・ストークスの式は、例えばコンピュータ装置1で計算可能な近似式に変換して計算されることにより、流体の運動、即ち各要素での圧力及び速度などが計算される。離散化の手法としては、有限差分法、有限体積法又は有限要素法などが挙げられる。また、このような空力シミュレーションは、CD-adapco社製のSTAR-CD又はANSYS社のFLUNETなどの市販の流体解析用のアプリケーションソフトを用いて計算できる。
前記音空間領域5は、空力シミュレーションにおいて、タイヤモデル2の周囲で空気が流れかつ音が発生する空間を定める。本実施形態の音空間領域5は、前記ステップS5で得られたトレッドモデル部2Aの表面座標値及び路面モデル4の表面座標値に基づいて設定される。このため、音空間領域5は、前記表面座標値の時系列の変化とともに形状が変わる。換言すれば、転動シミュレーションのトレッドモデル部2Aの形状変化が音空間領域5に反映される。
図6には、音空間領域5の一例を示す。同図(a)は、音空間領域5の正面図、同図(b)はその側面図である。この実施形態では、先ず、路面モデル4の表面座標値に基づいて設定された路面表面形状4Pと、タイヤモデル2の転動シミュレーションから得られたタイヤ表面形状2Pとが設定される。
次に、路面表面形状4Pの上に、タイヤ表面形状2Pのタイヤ軸方向の幅TWよりも広い幅Wと、タイヤ表面形状2Pの転動に要する前後方向の長さLと、任意の高さhとを有する直方体領域Vが、タイヤ表面形状2Pと交差するように設定される。この直方体領域Vの各面は、音空間領域5の外端を規定する境界面として作用する。これにより、空力シミュレーションの計算領域が制限され、計算時間を減らすのに役立つ。ただし、音空間領域5の境界の形状は、このような直方体領域の態様に限定されるものではない。
また、直方体領域Vは、小さい有限個の要素(本実施形態では三次元の六面体要素)に分割される。この例においては、タイヤ表面形状2Pが転動するので、直方体空間Vの各要素の節点は移動させる必要がない。また、各要素の節点に流体の物理量が割り当てられかつ計算される。
また、音空間領域5は、空気を含む流体が流れる空間であるため、該空気は、タイヤ表面形状2Pをタイヤ内部側に超えたり、路面表面形状4Pを路面内部側に超えたりすることはない。従って、音空間領域5は、前記タイヤ表面形状2P及び路面表面形状4Pをともに境界面(壁)として持つ領域として定められる。従って、図6の実施形態では、直方体領域Vからタイヤ表面形状2Pを差し引くことにより、音空間領域5が決定される。このために、前記直方体空間Vにおけるタイヤ表面形状2Pの位置が常に計算される。なお、トレッド溝Tの溝内空間に相当する部分を除いて、タイヤ表面形状2Pと路面表面形状4Pとが接触する部分は空気が流れないので、音空間領域5は形成されないのは言うまでもない。
図7(a)、(b)には、音空間領域5の他の実施形態を示す。この実施形態の音空間領域5は、タイヤ表面形状2Pと路面表面形状4Pとを用いて、それらに挟まれる任意の周方向長さを有する空間として定義される。また、音空間領域5は、トレッドモデル部2Aの横溝3の内部空間に相当する溝内領域5aと、それ以外の主領域5bとに分けて要素分割されている。このような音空間領域5は、空力シミュレーションにおいて、主領域5bの位置が固定される一方、図7(a)に仮想線で示されるように、溝内領域5aを主領域5bに沿ってタイヤ周方向に移動させることによりタイヤの転動状態を再現できる。このような音空間領域5は、前記の実施形態に比べて小型化でき、計算時間を短縮しうる点で望ましい。
また、溝内領域5aが上述のように主領域5b上を移動することによって、両領域5a、5bの境界での要素の節点が相対移動する。これは、要素の体積の変動及び/又は空気圧力の変動を発生させる。従って、このような音空間領域5においても、実際のタイヤにおいて横溝の移動が空気の振動を発生させ、この振動がタイヤトレッド表面の周囲の空気圧力変動を発生させるという現象を等しく再現できる。なお、図7の実施形態の音空間領域5では、タイヤ表面形状2Pのタイヤ軸方向の幅TWとほぼ等しい幅で形成されているが、例えば図8に示されるように、主領域5bは、タイヤ表面形状2Pのタイヤ軸方向の幅TWよりも大きい幅でかつタイヤ表面形状2Pの両側に拡げられたものでも良い。
また、図7又は図8の音空間領域5を用いた空力シミュレーションでは、溝内領域5aと主領域5bとの境界面では、各領域5a、5bの空気挙動を整合させるための補完計算が行われる。図9には、音空間領域5の側面視を簡略化して示す。図9(a)から(b)のように、主領域5bの要素BC上を、溝内領域5aの要素Aがスライドする場合、図9(b)の位置における要素Aの圧力は、要素B及びCの各圧力と、要素Aと要素Bとの接触面積、及び要素Aと要素Cとの接触面積に基づいて計算することができる。
また、各実施形態の音空間領域5の外周面には、例えば空気の流入・流出に関する境界条件などが適宜設定される。ただし、上述のように、タイヤ表面形状2P及び路面表面形状4Pに相当する面は、いずれも空気が通過できない壁として定義される。
また、空力シミュレーションでは、ノイズ性能を評価するために、例えば、予め設定された1ないし複数の観測点における空気の圧力変動などが計算される。観測点は、タイヤモデル2の接地端付近やタイヤの側方など任意の位置に設定できる。ただし、観測点の位置がタイヤモデル2から離れ過ぎると、そこまで音空間領域5を拡げて設定しかつ計算しなければならず計算工数が増大するおそれがある。逆に、観測点の位置がタイヤモデル2に近すぎると、その部分の局部的な圧力変動のみが評価され、実際のノイズ性能が正しく評価できないおそれがある。このような観点より、観測点は、パターンノイズの発生要因となる接地端近くに設定されるのが望ましい。また、接地端は、タイヤの踏み込み側と蹴り出し側との2カ所があるが、観測点は、例えば踏み込み側の接地端の幅中心から水平前方に100〜500mmかつ高さ10〜50mmの位置又は蹴り出し側の接地端の幅中心から水平後方に100〜500mmかつ高さ10〜50mmの位置に設けられるのが望ましい。
また、タイヤのノイズに関しては、その発生メカニズムで考えると、ポンピングノイズ、インパクトノイズ及びレゾナンスノイズに大別される。ポンピングノイズは、タイヤの縦溝及び横溝が路面と接地及び解放される際に、それらの構内で生じる空気の流動及び圧力変動に起因して発生するノイズである。また、インパクトノイズは、例えばタイヤの溝(主として横溝)が路面と接地したときにタイヤを加振させそれが周囲の空気を振動させて発生するノイズである。
本実施形態の空力シミュレーションで用いられる音空間領域5は、横溝3の接地及び解放に伴う変形と、トレッドモデル部2Aを含むタイヤモデル2の表面形状の変動(振動)などが取り込まれる。従って、空力シミュレーションでは、上記ポンピングノイズ及びインパクトノイズの双方を含んだノイズ性能を評価できる(このようなシミュレーションを「第1のシミュレーション」と呼ぶことがある。)。
また、上述の通り、インパクトノイズは、タイヤの溝(主として横溝)が路面と接地したときにタイヤ表面を加振させそれが周囲の空気を振動させて発生するノイズである。このため、転動シミュレーションから得られるタイヤモデル2の表面座標値のうち、トレッドモデル部2Aのトレッド溝の変形挙動に関する座標値のみを利用して音空間領域5を定めて空力シミュレーションを行うことにより、溝内空気の圧力変動で生じるポンピングノイズ性能のみを評価することが可能である(このようなシミュレーションを、「第2のシミュレーションと呼ぶことがある。」)。具体的には、図7ないし8に示した音空間領域5において、主領域5bの形状は変化しないものとして固定し、その上に変形する溝内領域5aを座標値に基づいて変形させつつタイヤ周方向にスライドさせることで行うことができる。
そして、ポンピングノイズ成分及びインパクトノイズ成分の双方を含む第1のシミュレーションで計算されたノイズ性能から、ポンピングノイズ成分のみを含む第2のシミュレーションで計算された同種のノイズ性能を減算することにより、インパクトノイズ性能のみの値を定量的に計算することができる。実際のタイヤを用いたノイズ測定実験では、タイヤの転動により発生するノイズを、インパクトノイズ成分及びポンピングノイズ成分に分離することはきわめて困難であるが、本実施形態を採用することにより、ノイズを各成分に分けて取得することができる、これは、ノイズの発生原因の究明をより進歩させ、静粛性に優れたトレッドパターンの開発・設計に大いに役立つ。
また、レゾナンスノイズは、トレッド部に設けられたタイヤ周方向にのびる縦溝が路面と接地した際に、該路面との間で気柱管を構成し、その中を空気が流れることにより、笛と同様のメカニズムで発生するノイズである。実際の車での走行状態を考えると、タイヤの接地部は、周りの大気に対して走行速度で移動していることになるため、空力シミュレーションでレゾナンスノイズを計算するためには、タイヤモデル2の前方から走行速度に相当する速度を持った空気の流れである風を定義することが有効である。
従って、レゾナンスノイズを考慮した空力シミュレーションは、図10に示されるように、トレッド溝Tとしてタイヤ周方向に沿ってのびる縦溝8を具えたトレッドモデル部2Aを有するタイヤモデル2で転動シミュレーションを行い、前記空力シミュレーションでは、音空間領域5の縦溝8に相当する溝内領域に走行速度に相当する風の条件を定義することで行うことができる。
音空間領域5については、評価しようとするノイズの周波数に応じた圧力変動を十分に表現できる大きさの要素サイズを設定することが必要である。例えば、音速を約300m/s、評価したい周波数の最大値を3000Hzとすると、当該ノイズの波長は約100mmとなる。従って、この波長の圧力変動を詳しく表現するためには、その半波長を少なくとも10個以上の要素で構成することが望ましいので、一辺が5mm以下の要素サイズとするのが望ましい。また、前記溝内領域5aは、好ましくは0.1〜2mm程度の要素サイズが望ましい。さらに、図7(a)に示されるように、音空間領域5の側面視において、タイヤモデル2の接地面のタイヤ周方向の前後の縁部付近の要素は、厚さが小さいくさび状をなす。このような空間を十分に表現して解析するために、高さ方向のメッシュサイズは、好ましくは0.01〜0.1mmが望ましい。
また、タイヤモデル2の転勤シミュレーションからトレッドモデル部2Aの時系列の表面座標値が取得されるが、その時間間隔(即ち、表面座標値が変形する最小の時間間隔)は、空力シミュレーションの時間間隔に合わせることが望ましい。例えば、空力シミュレーションにおいて、評価(表現)したいノイズの周波数の最大値を3000Hzとした場合、その1振動の周期は1/3000秒である。この振動を、例えば10分割で捉えるためには1/30000秒の時間間隔が必要になり、この時間間隔でトレッドモデル部2Aの表面座標値が取得される。なお、ノイズ性能の評価には、少なくとも1000Hzまでの空気振動を捉えることが重要であるため、前記トレッドモデル部2Aの表面形状の時間間隔は、1/10000秒以下で設定されるのが望ましい。なお、転動シミュレーションは、空力シミュレーションの前記時間間隔よりも小さい時間増分で行われる。
また、タイヤ表面形状を利用して空力シミュレーションを実施することは、タイヤモデル2の表面が空気の流れを解析する音空間領域の境界面として定義されることを意味する。しかし、本実施形態では、空気からタイヤモデル2ヘ付与される力の影響は考慮していない。このような力は、非常に小さくかつこれによるタイヤの変形も十分に小さく計算上無視しても差し支えないためである。ただし、例えばタイヤモデル2の転動シミュレーションの構造解析と、空力シミュレーションの流体解析とを同時に実施し、転動シミュレーション(構造解析)から空力シミュレーション側へ音空間領域の境界面を与える一方、空力シミュレーション(流体解析)から転動シミュレーション側へ力を与えるいわゆる連成を微小時間刻みで行うことにより、空気によるタイヤへの外力を考慮することも勿論可能である。
次に、前記空力シミュレーションを終えると、ノイズ性能に関する各種の物理量、例えば観測点における空気圧力の変化、流速、任意の時刻における音空間領域5の各部の空気圧力分布などが出力され(ステップS8)、これに基づいて、ノイズ性能が評価される(ステップS9)。そして、ノイズ性能が許容範囲内であれば(ステップS9でY)、上記タイヤモデル2に基づいてトレッドパターンが設計され、かつ、該トレッドパターンを有するタイヤを加硫成形することが行われる(ステップS10)。これにより、ノイズ性能に優れたタイヤを比較的短時間でかつ低コストで製造することができる。なお、シミュレーション結果のノイズ性能が許容範囲内ではない場合(ステップS9でN)、トレッド溝Tの仕様などを変更して新たなタイヤモデル2が設定され(ステップS1)、ノイズ性能が許容範囲内になるまで同様のシミュレーションが繰り返される。
以上本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記の態様に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形しうるのは言うまでもない。
[ポンピングノイズ・インパクトノイズの実施例]
図3に示したように、トレッド部に1本の横溝のみが設けられたタイヤモデルを使用し、図2に示した処理手順に従い本実施形態のノイズ性能のシミュレーションが行われた。タイヤモデルの仕様は次の通りである。
タイヤサイズ:195/60R15
横溝の溝幅:5mm
横溝の深さ:7mm
また、タイヤモデルは、トレッド部の変形形状をより詳細に捉えるために、次のようにボディモデル部よりもトレッドモデル部がより細かく要素分割されている。
タイヤモデルの全要素数:約10万個
トレッドモデル部のタイヤ周方向分割数:300
ボディモデル部のタイヤ周方向分割数:60
さらに、転動シミュレーションの条件は、次の通りである。
タイヤモデルの変形計算の時間間隔(初期値):1×10−6
路面の仕様:周長10mの円筒ドラム
荷重:4kN
走行速度:40km/h
また、空力シミュレーションでは、前記転動シミュレーションの結果から、溝接地転動区間についてタイヤ接地表面及び横溝の変形を含むトレッドモデル部の表面座標値が1/100000秒の時間間隔で取得された。また、音空間領域は、図7に示したように、主領域を固定し、その上に溝内領域を周方向にスライドさせるタイプが用いられた。さらに、ノイズ性能の評価値は、観測点における空気の圧力とした。また、観測点は、蹴り出し側の接地端の幅中心から水平後方に240mmかつ路面から25mmの高さに設定された。
以上のようなシミュレーションにより、タイヤモデルのポンピングノイズ及びインパクトノイズについての性能を評価することができる(第1のシミュレーション)。なお、前記タイヤモデルには、縦溝が設けられていないので、実質的なレゾナンスノイズは発生しない。図11には、前記溝接地転動区間a−dを含むシミュレーションの結果として、縦軸に観測点の空気圧力を、横軸に時間(秒)を設定したグラフを示す。また、実際のタイヤを用いてシミュレーションと同様のノイズ評価を行った結果を細線で示す。時間軸において、時刻0.000の時点は、横溝の蹴り出し直前の状態を示している(つまり、横溝が路面を通過した後のタイヤ後方の空気圧力を示している。)。図11の結果より、シミュレーションと実測とが非常に高い相関を持っていることが確認できる。
また、図12には、前記溝接地転動区間a−dの横溝内の圧力を示す。横溝が接地している間は、横溝内に周期的な圧力変動が観測される。この現象は、例えばJARI発行の"Research Journa1"、Vo1.21、No.7「タイヤ/路面騒音の発生に関する検討」小池博、藤川達夫著にも記されている。このデータから理解されるように、トレッド溝内部の圧力変動は、空気の挙動をシミュレーションしなければ解明することができず、単に溝の断面積変化の情報などから単純に計算できるものではない。
また、上記シミュレーションでは、ポンピングノイズとインパクトノイズの双方を含むノイズ性能が得られているが、タイヤ接地表面を変形しないように固定し横溝の変形のみを考慮した第2のシミュレーションを行うことにより、横溝内部の圧力変動に起因するポンピングノイズのみを評価できる。そして、前記第1のシミュレーション結果から第2のシミュレーション結果を減算することにより、前記タイヤモデルのインパクトノイズのみを分離して抽出した。
図13には、ポンピングノイズ及びインパクトノイズを含むノイズ、ポンピングノイズのみ、インパクトノイズのみの結果をそれぞれ示す。この結果は、ポンピングノイズは、横溝の通過の瞬間に発生する刺激的な圧力変動音であることを示す。これに対して、インパクトノイズは、横溝の溝通過発生するうねりのような圧力変動音であることが分かる。
[レゾナンスノイズの実施例]
次に、レゾナンスノイズのシミュレーションが行われた。このシミュレーションでは、図10に示したように、トレッド部に1本の縦溝のみが設けられたタイヤモデルを使用し、図2に示した処理手順に従い本実施形態のノイズ性能のシミュレーションが行われた。タイヤモデルの仕様は次の通りである。
タイヤサイズ:195/60R15
縦溝の溝幅:5mm
縦溝の深さ:7mm
また、タイヤモデルのボディモデル部及びトレッドモデル部の分割数などは、前記実施例と同一である。
さらに、転動シミュレーションの条件は、次の通りである。
タイヤモデルの変形計算の時間間隔(初期値):1×10−6
路面の仕様:平坦路
荷重:4kN
走行速度:80km/h

これまで行われてきた風洞実験や計算理論に基づけば、上述の縦溝を有する空気入りタイヤでは、概ね約800Hzのレゾナンスノイズが発生することが分かっている。従って、この実施例では、シミュレーションによって約800Hzのレゾナンスノイズが再現されるか否かを検証した。
また、空力シミュレーションでは、前記転動シミュレーションの結果から、溝接地転動区間についてタイヤ接地表面及び横溝の変形を含むトレッドモデル部の表面座標値が1/100000秒の時間間隔で取得された。また、音空間領域は、図7に示したように、主領域5bを固定し、その上に溝内領域を周方向にスライドさせるタイプが用いられた。さらに、評価値は、観測点における空気の圧力とした。また、観測点は、接地端の幅中心から水平後方240mmかつ路面から高さ25mmの位置に設定された。
また、前記ポンピングノイズ及びインパクトノイズの実施例の場合と同様、タイヤモデルを用いて転動シミュレーションを行い、溝及びトレッド表面の変形形状を表す表面座標値を取得し、それに基づいて空力シミュレーションの音空間領域を定め、これを要素分割して空力シミュレーションが行われた。また、空力シミュレーションでは、タイヤモデルの前方側から該タイヤモデルに衝突するように走行速度80km/hに相当する風が定義された。
図14には、レゾナンスノイズのシミュレーションモデルの全体概観図を参考までに示す。図において、外枠が音空間領域を示し、その左方に見える筒状のものは、風向きを示す矢印である。また、図15にはシミュレーションの結果として音空間領域の圧力等高線図を示す。図15において、色が濃い部分ほど空気圧力が高いことを示す。図15では、図において左方から走行速度に相当する風が吹き付けられているため、タイヤモデル(白抜き部分)の左側に高い圧力が分布していることが分かる。また、タイヤモデルの後方(右側)下部の観測点では、縦溝を通過した空気の圧力変動が観測されている。
また、図16には、前記観測点における圧力変動を周波数分析した結果を示す。図から明らかなように、800Hz付近に明瞭なピークPが観測される。即ち、本実施形態のシミュレーションでは、レゾナンスノイズを明瞭に表現していることが確認できる。
本実施形態のシミュレーション方法の計算に用いられるコンピュータ装置の全体斜視図である。 本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。 タイヤモデルを視覚化した全体斜視図である。 タイヤモデルと路面モデルとを視覚化して接触させた状態を示す部分斜視図である。 タイヤモデルと路面モデルとの接触を視覚化した概略側面図である。 (a)は音空間領域の一実施形態を示す正面図、(b)はその側面図である。 他の実施形態の音空間領域を示し(a)は側面図、(b)はその斜視図である。 他の実施形態の音空間領域を示す斜視図である。 (a)、(b)は音空間領域の溝内領域と主領域との補完計算を説明する線図である。 他の実施形態のタイヤモデルを視覚化した全体斜視図である。 シミュレーションの結果として、観測点における空気圧力と時間との関係を示すグラフである。 シミュレーションの結果として、横溝内における空気圧力と時間との関係を示すグラフである。 シミュレーションの結果として、各ノイズ成分の空気圧力と時間との関係を示すグラフである。 レゾナンスノイズのシミュレーションモデルの全体図である。 シミュレーションの結果として、タイヤモデル周辺の空気圧力の等高線図である。 シミュレーションの結果として、観測点における圧力の周波数分析結果を示すグラフである。
符号の説明
1 コンピュータ装置
2 タイヤモデル
2A トレッドモデル部
2B ボディモデル部
2a、2b、2c… 要素
3 横溝
4 路面モデル
5 音空間領域
5a 溝内領域
5b 主領域
8 縦溝

Claims (6)

  1. タイヤのノイズ性能をコンピュータを用いてシミュレーションするための方法であって、
    少なくとも1本のトレッド溝を具えたトレッドモデル部を有するタイヤモデルを有限個の要素を用いて設定するステップと、
    有限個の要素を用いて路面モデルを設定するステップと、
    前記トレッド溝が前記路面モデルと接地して転動する溝接地転動区間を少なくとも含んで前記タイヤモデルを前記路面モデル上で転動させる転動シミュレーションを行うステップと、
    前記溝接地転動区間における前記トレッドモデル部の表面座標値を時系列的に取得するステップと、
    前記取得されたトレッドモデル部の表面座標値に基づいて形状が変化する前記トレッドモデル部の周辺の音空間領域を設定し、かつ、該音空間領域で空力シミュレーションを行うステップとを含むとともに、
    前記音空間領域は、前記トレッド溝の内部空間に相当する溝内領域と、それ以外の主領域とからなり、かつ
    前記溝内領域は、前記主領域よりも小さく要素分割されることを特徴とするタイヤのノイズ性能のシミュレーション方法。
  2. 前記空力シミュレーションは、前記主領域の位置を固定し、かつ、前記溝内領域を前記主領域に沿ってタイヤ周方向に移動させることにより前記音空間領域を変形させる処理を含む請求項1記載のタイヤのノイズ性能のシミュレーション方法。
  3. 前記溝内領域及び主領域をともに変形可能に定義して前記空力シミュレーションを行う第1のシミュレーション段階と、
    前記溝内領域のみを変形可能に定義して前記空力シミュレーションを行う第2のシミュレーション段階と、
    前記第1のシミュレーションで得られたノイズ性能から第2のシミュレーションで得られたノイズ性能を減算することにより、インパクトノイズ性能を計算する段階とをさらに含むことを特徴とする請求項1又は2記載のタイヤのノイズ性能のシミュレーション方法。
  4. 前記トレッド溝は、タイヤ周方向に対して傾斜してのびる横溝を含む請求項1乃至3のいずれかに記載のタイヤのシミュレーション方法。
  5. 前記トレッド溝は、タイヤ周方向に沿ってのびる縦溝を含むとともに、
    前記音空間領域は、前記縦溝の内部空間に相当する溝内領域を含み、かつ、
    前記空力シミュレーションでは、少なくとも前記溝内領域に走行速度に相当する風を吹き付ける条件が定義される請求項1乃至4のいずれかに記載のタイヤのノイズ性能のシミュレーション方法。
  6. タイヤの製造方法であって、請求項1乃至5のいずれかに記載されたシミュレーション方法を実行する段階と、
    前記シミュレーション方法で用いられたタイヤモデルのトレッドモデル部に基づいてトレッドパターンを設計する段階と、
    前記トレッドパターンを有するタイヤを加硫成形する段階とを含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
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