JP4933116B2 - タイヤからの放射騒音シミュレーション方法 - Google Patents

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Description

本発明は、タイヤ転動時に発生する放射騒音をシミュレートするシミュレーション方法、及びそのためのプログラムに関し、特には、タイヤボディ振動音に基づく放射騒音をシミュレートする方法に関するものである。
最近、環境問題への注目度が高くなるにつれ、車両から発生する放射騒音(車外騒音)低減の取り組みが進み、タイヤから放射される騒音の低減が急務となっている。かかるタイヤ転動時の放射騒音に関連する騒音源としては、タイヤ溝や路面空隙によるポンピング音や、タイヤ空洞の共鳴音、タイヤ表面に配されるパターンと路面間で発生するインパクト音やすべり音、路面の凹凸によってタイヤが振動励起されタイヤ表面が振動することによって発生するボディ振動音などがある。
これらのタイヤからの放射騒音のうち、ボディ振動音は一般に500Hz以下の音であり、タイヤ放射騒音の主要因の1つである。
従来、かかるタイヤボディ振動音に基づく騒音性能を改善するために、簡易計算式を用いて発生する騒音の周波数帯を予測したり、実験的アプローチによって得られた推定式を用いて騒音のレベル予測を実施している。
なお、タイヤからの放射騒音を予測・評価する技術としては、下記特許文献1〜3に開示のものがあり、また、有限要素法を用いたタイヤ性能のシミュレーション方法としては、下記特許文献4,5に開示のものが知られているが、タイヤボディ振動音を精度良くシミュレートする方法は知られていなかった。
国際公開WO97/14946号公報 特開2002−90264号公報 特開2003−136926号公報 特開平11−153520号公報 特開2004−345497号公報
上記従来技術においては、タイヤの放射騒音の周波数やレベルに関して簡易予測にとどまっており、予測精度において問題がある。例えば、タイヤは路面との接地端部からホーン形状(ラッパの形状)を有しており、このことが放射騒音特性に影響を及ぼすが、机上の簡易計算ではこの点まで考慮できていないという問題がある。
本発明は、以上に鑑みてなされたものであり、タイヤ放射騒音の主要因の1つであるタイヤボディ振動音を精度良く予測することができるシミュレーション方法、及びそのためのプログラムを提供することを目的とする。
本発明に係るタイヤからの放射騒音シミュレーション方法は、タイヤボディ振動音による放射騒音をシミュレートする方法であって、次のステップを含むものである。
(a)タイヤの有限要素モデルを用いた固有値解析により該タイヤの振動特性情報を取得するステップ、
(b)前記振動特性情報を付与した有限要素モデルに対し、タイヤ進行方向前方側における接地端近傍の節点に路面入力を与えて、振動応答解析を実施することで各節点の振動応答を求めるステップ、及び、
(c)タイヤ前後方向に距離をおいて所定の高さにマイクがあると仮定して、タイヤの境界要素モデルを、仮想路面に対する接地部を含むその前後近傍領域と前記マイク側のタイヤ部分とについて作成し、該タイヤの境界要素モデルにおける各要素に前記振動応答より得られる振動速度を入力情報として付与して、境界要素法の数値計算により前記マイク位置でのタイヤからの放射騒音を求めるステップ。
本発明はまた、タイヤボディ振動音による放射騒音をシミュレートするシミュレーション方法を実行するためのプログラムを提供するものであり、該プログラムは上記各ステップをコンピュータに実行させるためのものである。
本発明はまた、上記シミュレーション方法を用いてタイヤを設計し、製造することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法を提供するものである。
上記本発明では、前記ステップ(b)において所定周波数毎に振動応答を求め、前記ステップ(c)において前記周波数毎に境界要素法による数値計算を実施してもよく、その場合、例えば500Hz以下の範囲において所定周波数毎に上記解析を実施すればよい。
本発明によれば、有限要素モデルを接地させた上で路面入力を与えて振動応答解析を実施し、それにより得られる振動速度を境界要素法による解析の入力情報として用いることにより、予測精度の優れた騒音シミュレーションが可能となる。すなわち、本発明では、路面入力付与時のタイヤ表面の振動に着目し、これをボディ振動音の音源として境界要素法によるシミュレーションを行うことにより、優れた精度でボディ振動音を予測することができる。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかるタイヤボディ振動音シミュレーション方法の流れを示すフローチャートであり、コンピュータを用いて実施することができる。このシミュレーション方法は、有限要素法(FEM)の解析によって得られたタイヤ表面の振動応答情報を境界要素法(BEM)による解析モデルの入力情報として用いて、放射騒音のシミュレーションを行うものであり、FEMとBEMを組みあわせたシミュレーション方法である。
本実施形態では、図1に示すように、まず、ステップA1において、有限要素法による解析の前準備として、タイヤを有限個の多数の要素に分割したタイヤ有限要素モデル(タイヤFEMモデル)を作成する。ここで、有限要素法とは、構造物の物性を調査するために、構造物を有限要素(Finite Element)に分割し、それぞれ要素で記述される運動方程式を微積分演算により求める手法である。
詳細には、自然平衡状態のタイヤ形状を基準形状とし、この基準形状をFEMによりモデル化して、メッシュ分割によって複数の有限要素に分割されたタイヤFEMモデルを作成する。かかる要素としては、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、6面体ソリッド要素などが挙げられ、これらの要素は3次元座標(例えば、タイヤ進行方向をx軸、タイヤ幅方向をy軸、上下方向をz軸とするx−y−z座標)を用いて逐一特定される。
次いで、ステップA2において、上記タイヤFEMモデルを接地させた状態で有限要素法による固有値解析を実施して、振動特性情報を取得する。かかるFEM固有値解析は、例えば、ABAQUS Inc.社の「ABAQUS」、エムエスシーソフトウエア(株)の「MARC」、ANSYS Inc.社の「ANSYS」などの市販のFEM解析用ソフトウエアを用いて行うことができる。
詳細には、まず、上記タイヤFEMモデルを仮想リムに装着するとともに、境界条件の設定を行う。境界条件としては、タイヤの内圧、仮想リムの軸に付与する荷重、タイヤFEMモデルと仮想路面との摩擦係数などが挙げられる。これらはキーボードなどの入力手段を用いて入力する。次いで、上記タイヤFEMモデルを用いて有限要素法による固有値解析を実施して、固有振動数や、固有モードを算出する。
その後、ステップA3において、上記で得られた振動特性情報を付与した接地状態のタイヤFEMモデルを用いて振動応答解析を実施する。振動応答解析では、上記FEMモデルの接地端部の節点に路面入力を与えて、応答計算により各節点の振動応答を求める。
具体的には、図2,3に示すように、タイヤFEMモデル10を接地させた上で、接地端近傍の節点に、路面突起に相当する入力を与える。かかる路面入力を付与する節点は、接地領域におけるタイヤ進行方向前方側の接地ラインに最も近い各節点であり、図2、3のFEMモデルの場合、27節点である。なお、路面入力は、接地端部の要素に対して付与してもよく、即ち、要素を構成する各節点に与えることもできる。
上記路面入力は、タイヤ形状の楕円近似モデルとヘルツ(Herz)の接触理論を用いて定められる。詳細には、ISO10844規定の路面に対し、路面に凹凸があることを前提とし、タイヤの接触面積は20%であると考えて、路面形状を近似するとともに、タイヤ形状の楕円近似モデル(例えば、SAE Vol.21, No.7, p26-29, 1997, T. Fujikawa, H. Koike, "Tire Vibration Caused by Road Roughness"参照)を用いて、下記ヘルツの接触理論式から変位δと加振力Fを算出し、入力変動に注目して、評価対象タイヤの入力差分を求めることで、路面入力が得られる。図2,3の実施形態の場合、約23Nであった。
(式中、Eはタイヤトレッド部の等価剛性、rは路面突起半径を表す。)
上記路面入力を与えると、タイヤのボディ全体が各周波数でいろいろな振動挙動を示すので、かかる振動挙動をFEMによる振動応答解析により求める。かかる振動応答解析も、上記した市販のFEM解析用ソフトウエアを用いて行うことができる。本実施形態では、500Hzまでの各周波数(例えば、40〜500Hzの範囲について20Hz毎)での、タイヤFEMモデルの各節点の振動応答、特には表面変位応答を算出する。
図4,5は、振動応答解析により得られた各振動モードのある時刻におけるタイヤFEMモデル形状を示す図であり、図4は120Hzの振動モードでの形状、図5は240Hzの振動モードでの形状をそれぞれ示している。なお、両図は、振動挙動を誇張するために振幅を拡大して示している。
次いで、ステップA4において、境界要素法による解析の前準備として、タイヤ表面及びこれが接地する仮想路面を多数の要素に分割したタイヤ境界要素モデル(タイヤBEMモデル)を作成する。ここで、境界要素法(Boundary Element Method)とは、基本式として境界積分方程式を選び、これを積分領域の要素分割を介して数値解析する計算機解法であり、有限要素法が未知数を対象領域全体にとるのに対し、境界要素法では境界上にのみ未知数をとるものである。
図6は、タイヤBEMモデル20の一例を示した図である。タイヤBEMモデル20は、この実施形態では、上記タイヤFEMモデル10のタイヤ外面(即ち、境界面)に相当する各要素と同じ要素を持つように設定される。なお、節点の位置の変更を伴わない限り、タイヤBEMモデル20の方が要素分割を荒くすることもできる。また、タイヤBEMモデル20とともに、これが接地する仮想路面についてもBEMモデル22が作成される。
タイヤBEMモデル20は、タイヤ全体で作成してもよいが、本実施形態では、計算工数を考慮して、部分的に作成している。詳細には、タイヤボディ振動音の測定は、図7に示すように、タイヤから所定距離において所定高さの位置にマイク24があると仮定してなされるため、タイヤBEMモデル20は、仮想路面22に対する接地部を含むその前後近傍領域と、マイク24側のタイヤ部分とについて作成する。該マイク24側のタイヤ部分は、図7の例では、マイク24からタイヤBEMモデル20の外周面に接線Tを引いたとき、その接点よりもマイク24側の部分とされている。
次いで、ステップA5において、上記BEMモデル20,22を用いて境界要素法により、放射騒音(タイヤボディ振動音)のシミュレーションを実施して、タイヤから放射されるボディ振動音を求める。かかるBEMによる音響解析は、例えば、LMS International社の「SYSNOISE」、ESI社の「RAYON」などの市販のソフトウエアを用いて行うことができる。
本実施形態では、上記BEM解析における音源の入力情報として、上記ステップA3で求めた振動応答情報より得られるタイヤ表面の各要素の振動速度を用いる点を特徴としており、該振動速度をタイヤBEMモデル20における各要素に付与して、BEMによるエネルギー計算をすることにより、所定位置(即ち、マイク24)での音のレベルを算出することができる。本シミュレーションでは、タイヤBEMモデル20の全ての要素が振動速度を持っており、これら全ての要素に対応する振動速度が付与される。
詳細には、各周波数毎に、タイヤFEMモデルとタイヤBEMモデルとの互いの節点座標関係より、FEMモデルについての振動応答情報をBEMモデルに変換する。その際、BEMモデルでは各要素の法線方向の振動成分のみに変換して、各要素の表面振動速度を格納する。例として、図8は120Hzの振動モードでのBEM解析モデルを示す図である。このようにしてタイヤBEMモデルの各要素に振動速度を付与してから、BEMによる音響解析を実施する。これにより各周波数でのボディ振動音が算出される。
以上より、タイヤボディ振動音について、過大な計算コストをかけることなく、各周波数での騒音レベルを精度良く予測することができ、これにより、ボディ振動音の発生周波数も精度良く予測できる。
以上説明したシミュレーション方法は、パソコンなどのコンピュータを用いて実現することができる。通常は、上記シミュレーション方法の各ステップを実行させるためのシミュレーションプログラムがコンピュータのハードディスクに保存されており、プログラムを実行する場合に適宜RAMに読み込まれ、キーボードなどの入力手段から入力された種々のデータを用いて、CPUにより演算を行い、モニターなどの表示手段により結果が表示される。
上記プログラムは、機能としては、タイヤのFEMモデルを作成するFEMモデル作成部と、FEMによる固有値解析を実施する固有値解析部と、路面入力を与えて振動応答解析を実施する振動応答解析部と、タイヤボディ振動音シミュレートのためのBEMモデルを作成するBEMモデル作成部と、BEM解析を行ってタイヤボディ振動音を求めるBEM解析部との各機能を実現させるものである。なお、かかるシミュレーションプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体(CD−ROM、DVD等)に記録されていてもよい。
上記シミュレーション方法は、タイヤの設計に用いることができ、所定の設計値に基づいてモデル化したタイヤに対して、上記シミュレーション方法により騒音評価を行い、得られた結果が目標性能を達成しているか否かを判定して、達成していない場合に、上記設計値を変更し、目標性能を達成するまで上記シミュレーション方法を繰り返すことで、目標性能を満足する設計値を得ることができる。そして、この設計方法によって得られた設計値に基づいてタイヤを製造することで、タイヤボディ振動音の低減された空気入りタイヤを低コストに設計し、製造することができる。
上記実施形態に係るシミュレーション方法の効果を示すために、実測値との比較実験を行った。実験では、195/65R15のスムースタイヤについて、上記実施形態に係るシミュレーション方法(実施例)と、実際にタイヤを用いた台上計測(実測値)とを実施した。
実施例において、FEM解析にて付与する境界条件は、タイヤの内圧を200kPa、仮想リムの軸に付与する荷重を3920N、タイヤFEMモデルと仮想路面との摩擦係数μを0.5とした。また、振動応答解析において付与する路面入力は23Nとし、40〜500Hzの範囲について20Hz毎に振動応答を求めた。また、ボディ振動音の計測条件としては、タイヤ速度を60km/hとし、タイヤの進行方向前方に100cmの位置で、路面から高さ25cmに、マイクをおいて計測するものとした。
結果は、図9に示すとおりであり、各周波数において概ね実測値と同様の傾向を示す音圧レベル結果が得られた。また、実測値の3つのピークについて発生周波数を対比したところ、下記表1に示すように、シミュレーションによる本実施形態と実測値とでかなり近い値が得られ、精度の高い予測が可能であった。
本発明は、タイヤの放射騒音の主要因であるタイヤボディ振動音を精度良く予測することができるので、例えば、空気入りタイヤを設計する際に、そのタイヤのボディ振動音をシミュレーションにより予測することができ、タイヤの設計に効果的に利用することができる。
本発明の一実施形態に係るシミュレーション方法の流れを示すフローチャートである。 路面入力の付与地点を示すタイヤFEMモデルの接地状態での斜視図である。 路面入力の付与地点を示すタイヤFEMモデルの接地状態での側面図である。 120Hzの振動モードにおけるタイヤFEMモデル形状を示す図である。 240Hzの振動モードにおけるタイヤFEMモデル形状を示す図である。 BEMモデルの斜視図である。 BEMモデルの側面図である。 120Hzの振動モードでのBEM解析モデルを示す図である。 本実施形態の計算結果と台上計測による実測値とを示すグラフである。
符号の説明
10…タイヤFEMモデル、20…タイヤBEMモデル、22…仮想路面のBEMモデル、24…マイク

Claims (4)

  1. タイヤボディ振動音による放射騒音をシミュレートする方法であって、
    (a)タイヤの有限要素モデルを用いた固有値解析により該タイヤの振動特性情報を取得するステップと、
    (b)前記振動特性情報を付与した有限要素モデルに対し、タイヤ進行方向前方側における接地端近傍の節点に路面入力を与えて、振動応答解析を実施することで各節点の振動応答を求めるステップと、
    (c)タイヤ前後方向に距離をおいて所定の高さにマイクがあると仮定して、タイヤの境界要素モデルを、仮想路面に対する接地部を含むその前後近傍領域と前記マイク側のタイヤ部分とについて作成し、該タイヤの境界要素モデルにおける各要素に前記振動応答より得られる振動速度を入力情報として付与して、境界要素法の数値計算により前記マイク位置でのタイヤからの放射騒音を求めるステップと、
    を含むタイヤからの放射騒音シミュレーション方法。
  2. 前記ステップ(b)において所定周波数毎に前記振動応答を求め、前記ステップ(c)において前記周波数毎に境界要素法による数値計算を実施することを特徴とする請求項1記載のシミュレーション方法。
  3. タイヤボディ振動音による放射騒音をシミュレートするシミュレーション方法を実行するためのプログラムであって、
    (a)タイヤの有限要素モデルを用いた固有値解析により該タイヤの振動特性情報を取得するステップと、
    (b)前記振動特性情報を付与した有限要素モデルに対し、タイヤ進行方向前方側における接地端近傍の節点に路面入力を与えて、振動応答解析を実施することで各節点の振動応答を求めるステップと、
    (c)タイヤ前後方向に距離をおいて所定の高さにマイクがあると仮定して、タイヤの境界要素モデルを、仮想路面に対する接地部を含むその前後近傍領域と前記マイク側のタイヤ部分とについて作成し、該タイヤの境界要素モデルにおける各要素に前記振動応答より得られる振動速度を入力情報として付与して、境界要素法の数値計算により前記マイク位置でのタイヤからの放射騒音を求めるステップと、
    をコンピュータに実行させるためのプログラム。
  4. 請求項1又は2記載のシミュレーション方法を用いてタイヤを設計し、製造することを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
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