以下、本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下の実施形態に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
図1は、タイヤの子午断面図である。タイヤ1は、回転軸(Y軸)を中心として回転する環状構造体であり、回転軸の周りに、周方向に向かって同様の形状の子午断面が展開される。図1に示すように、タイヤ1の子午断面には、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4、ビードコア5が現れている。タイヤ1は、母材であるゴムを、補強材であるカーカス2、ベルト3、あるいはベルトカバー4等の補強コードによって補強した複合材料の構造体である。カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4等の、金属繊維や有機繊維等のコード材料で構成される補強コードの層をコード層という。
カーカス2は、タイヤ1に空気を充填した際に圧力容器としての役目を果たす強度メンバーであり、その内圧によって荷重を支え、走行中の動的荷重に耐えるようになっている。ベルト3は、キャップトレッド6とカーカス2との間に配置されたゴム引きコードを束ねた補強コードの層である。ラジアルタイヤにおいて、ベルト3は形状保持及び強度メンバーとして重要な役割を担っている。
ベルト3の踏面G側には、ベルトカバー4が配置されている。ベルトカバー4は、ベルト3の保護層としての役割や、ベルト3の補強層としての役割を持つ。ビードコア5は、内圧によってカーカス2に発生するコード張力を支えているスチールワイヤの束である。ビードコア5は、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4及びトレッドとともに、タイヤ1の強度部材となる。キャップトレッド6の踏面G側には、溝7が形成される。これによって、雨天走行時の排水性を向上させる。また、タイヤ1の側部はサイドウォール8と呼ばれており、ビードコア5とキャップトレッド6との間を接続する。また、キャップトレッド6とサイドウォール8との間はショルダー部Shである。次に、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を実行する装置について説明する。
図2は、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を実行する解析装置を示す説明図である。本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法は、図2に示す解析装置50によって実現できる。解析装置50はコンピュータであり、図2に示すように、処理部52と記憶部54とで構成される。また、この解析装置50には、入出力装置51が電気的に接続されている。入出力装置51は、入力手段53を有している。この入力手段53は、タイヤを構成するゴムの物性値や補強コードの物性値、あるいは接地解析、転動解析、振動解析等に用いる境界条件等を処理部52や記憶部54へ入力する。
入力手段53には、キーボード、マウス等の入力デバイスを使用することができる。記憶部54には、タイヤの解析(接地解析や転動解析、あるいは振動解析等)や本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を含むコンピュータプログラムが格納されている。記憶部54は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、又はフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、コンピュータシステムに既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、接地解析や転動解析、あるいは本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を実現できるものであってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
処理部52は、モデル作成部52aと、解析部52bと、履歴設定部52cと、変位入力設定部52dとを含む。モデル作成部52aは、解析対象のタイヤを、複数の節点を有する複数の要素に分割して、解析に供する応答解析モデルを作成し、記憶部54に保存する。解析部52bは、モデル作成部52aが作成した応答解析モデルを記憶部54から読み出し、所定の条件の下で振動解析を実行する。
振動解析にあたって、解析部52bは、後述するように、変位入力設定部52dによって設定された強制変位の入力を記憶部54から読み出して、前記タイヤの路面との接地領域に相当する前記応答解析モデルの領域(応答解析モデル接地領域)へ与える。より具体的には、解析部52bは、前記応答解析モデル接地領域に存在する複数の節点に、対応する変位の履歴を強制変位として入力する。そして、解析部52bは、前記応答解析モデルに対して振動解析を実行することにより、前記応答解析モデルの動的応答を求める。その後、解析部52bは、得られた応答解析モデルの動的応答を記憶部54の所定領域に保存する。また、モデル作成部52aは、解析対象のタイヤの解析モデルや前記応答解析モデル等を用いて、応答解析モデル接地領域に作用する力の履歴を求め、記憶部54の所定領域に格納する。
履歴設定部52cは、前記応答解析モデルの前記応答解析モデル接地領域に作用する力の履歴を設定し、記憶部54の所定領域に格納する。また、履歴設定部52cは、記憶部54から読み出した前記力の履歴に基づいて、前記応答解析モデル接地領域における前記応答解析モデルの変位の履歴を求め、記憶部54の所定領域に格納する。変位入力設定部52dは、記憶部54から読み出した前記変位の履歴に基づいて、前記応答解析モデルへ入力される強制変位の入力を設定して記憶部54の所定領域へ格納する。前記強制変位の入力は、例えば、前記変位の履歴自体であってもよいし、前記変位の履歴を周波数に変換した値であってもよい。
処理部52は、例えば、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されている。解析時においては、モデル作成部52aが作成した解析モデルや入力データ等に基づいて、処理部52が前記プログラムを処理部52に組み込まれたメモリに読み込んで演算する。その際に処理部52は、記憶部54へ演算途中の数値を適宜格納し、また記憶部54へ格納した数値を取り出して演算を進める。なお、この処理部52は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアによって、その機能を実現するものであってもよい。
表示手段55は、例えば、液晶表示装置等の表示用デバイスである。記憶部54は、他の装置(例えばデータベースサーバ)内にあってもよい。例えば、解析装置50は、入出力装置51を備えた端末装置から通信により処理部52や記憶部54にアクセスするものであってもよい。次に、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を説明する。なお、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法は、上述した解析装置50により実現できる。
図3は、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法の手順を示すフローチャートである。図4は、応答解析モデルの一例を示す部分斜視図である。本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を実行するにあたり、ステップS101において、図2に示す解析装置50のモデル作成部52aは、解析対象であるタイヤのモデル(解析モデル)を作成する(モデル作成手順)。解析モデルは、有限要素法(Finite Element Method:FEM)や有限差分法(Finite Differences Method:FDM)等の数値解析手法を用いてコンピュータが振動解析や接地解析を実行するために用いるモデルであって、コンピュータで解析可能である。解析モデルは、数学的モデルや数学的離散化モデルを含む。ステップS101で作成される解析モデルは、図4に示す応答解析モデル10である。応答解析モデル10は、後述するステップS105において振動解析されて動的応答等が求められる。本実施形態では、応答解析モデル10の解析に有限要素法を使用するので、応答解析モデル10は、有限要素法に基づいて作成される。
本実施形態に係る解析に適用できる解析手法は有限要素法に限られず、有限差分法や境界要素法(Boundary Element Method:BEM)等の解析手法も使用できる。また、境界条件等によって最も適当な解析手法を選択し、又は複数の解析手法を組み合わせて使用することもできる。なお、有限要素法は、構造解析に適した解析手法なので、特にタイヤのような構造体に対して好適である。
モデル作成部52aは、例えば、解析対象のタイヤのCAD(Computer Aided Design)用のデータから、応答解析モデル10を作成する。有限要素法に基づいて応答解析モデル10が作成される場合、モデル作成部52aは、前記CAD用データによって特定されるタイヤを、複数かつ有限個の要素11に分割して、図4に示すような応答解析モデル10を作成する。本実施形態では、応答解析モデル10は、それぞれ図4に示すような3次元形状の解析モデルとなる。
応答解析モデル10が有する要素11は、例えば、3次元の解析モデルでは四面体ソリッド要素、五面体ソリッド要素、六面体ソリッド要素等のソリッド要素や三角形シェル要素、四角形シェル要素等のシェル要素、面要素等、コンピュータで取り扱い得る要素とすることが望ましい。このようにして分割された要素は、解析の過程においては、3次元の解析モデルでは3次元座標や円筒座標を用いて逐一特定される。応答解析モデル10が作成されたら、処理部52は、ステップS102の処理を実行する。
図5は、応答解析モデルが路面モデルに接地している状態を示す模式図である。図6は、応答解析モデル接地領域の平面図である。図6は、応答解析モデル接地領域12を、応答解析モデル10の径方向外側から見た状態を示している。図7は、突起を有する路面モデル上を応答解析モデル接地領域が移動する状態を示す概念図である。図8は、応答解析モデル接地領域の力の履歴の説明図である。図9は、力の方向の一例を示す図である。
ステップS102において、図2に示す解析装置50の履歴設定部52cは、図5、図6に示す応答解析モデル10の応答解析モデル接地領域12において、応答解析モデル10に作用する力の履歴を設定する(力履歴設定手順)。すなわち、履歴設定部52cは、応答解析モデル接地領域12に作用する力の履歴を設定し、記憶部54の所定領域に格納する。応答解析モデル接地領域12は、上述した通り、解析対象であるタイヤの路面との接地領域に相当する応答解析モデル10の領域である。応答解析モデル接地領域12は、例えば、図5に示すように、応答解析モデル10が路面の解析モデル(路面モデル)30に接地したと仮定した場合において、応答解析モデル10と路面モデル30とが接触している領域のうち、応答解析モデル10側の領域とすることができる。
図6に示すように、応答解析モデル接地領域12は、接地境界13によって接地領域と非接地領域とに区画される。応答解析モデル接地領域12は、接地境界13の内側に、応答解析モデル10の表面に存在する複数の節点N1、N2、N3、N4、・・Nnを有する。ステップS102では、応答解析モデル接地領域12が有するそれぞれの節点N1、N2、N3、N4、・・Nnに対して、力の履歴が設定される。次に、力の履歴について説明する。
一般に、タイヤが路面上を転動する場合、タイヤが有するトレッドパターンや路面の凹凸(突起を含む)に起因した力、あるいは操舵等の車両に起因した力が、タイヤの接地領域に作用する。解析装置50が、応答解析モデル10を用いてタイヤが路面上で転動した場合における動的応答を求める場合、タイヤの接地領域に作用する力を何らかの形で応答解析モデル接地領域12に与える必要がある。このため、ステップS102においては、応答解析モデル接地領域12に作用する力の履歴が設定される。
図5、図6に示す応答解析モデル10が、矢印R方向に転動しながら、突起のある路面モデル上を転動する場合を考える。この場合、図7に示すように、応答解析モデル接地領域12は、応答解析モデル10の転動にともなって、路面モデル30の表面を転動方向の接線方向かつ路面モデル30の表面と平行な方向(図7の矢印R1で示す方向)に移動する。この過程で、応答解析モデル接地領域12は、路面モデル30の表面の突起31を乗り越える。応答解析モデル接地領域12は、突起31から力を受けるので、応答解析モデル接地領域12に含まれる節点N1、N2、N3、N4は、図8に示すように、時間t(又は中心角度θ)に応じて順に突起31に起因する入力F1を受ける。
節点N1、N2、N3、N4は、応答解析モデル接地領域12内、かつ応答解析モデル10の周方向において、同一位置に存在する節点である。図8のθ1は、応答解析モデル10の転動方向における接地境界13の位置(中心角)である。Δθは、図5に示すように、応答解析モデル10の周方向における応答解析モデル接地領域12の範囲を、応答解析モデル10の回転軸(Y軸)を中心とした中心角で表したときの値である。図5に示すΔtは、応答解析モデル10の周方向における応答解析モデル接地領域12の範囲を、応答解析モデル10が転動するのに要する時間である。応答解析モデル10が転動する際の角速度をωとすると、Δt=Δθ/ωとなる。
力の履歴は、応答解析モデル接地領域12に含まれるそれぞれの節点N1、N2、N3、N4、・・Nnが受ける力の時間に対する変化の履歴である。複数の節点で構成される要素がソリッド要素である場合、ソリッド要素は並進3自由度を有する。この場合、力の履歴は、それぞれの節点N1、N2、N3、N4、・・Nnについて並進3方向の成分、すなわち、図9に示すように、Fx、Fy、Fzの3成分に対して設定される。Fxは周方向の力の成分であり、Fyは回転軸と平行な方向の力の成分であり、Fzは径方向の力の成分である。
力の履歴は、実験によって得てもよいし、タイヤモデルを用いたコンピュータシミュレーションによって求めてもよい。実験によって力の履歴を得る場合、タイヤの路面との接地面における力の履歴は、解析対象であるタイヤを準静的に転動させて取得することが好ましい。準静的とは、質量による慣性力の影響を受けない程度の低い回転角速度でタイヤを転動させることをいう。例えば、後述するステップS105で動的応答を求めるにあたって、応答解析モデル10への入力の変動周波数が、解析対象であるタイヤの固有振動数の1/4以下となるような条件を満たすように、タイヤの回転角速度を設定することが好ましい。例えば、タイヤのトレッドパターンが、同じトレッドパターンのセクションを周方向に向かってm個連結して得られる場合、回転角速度ωは次のように設定される。すなわち、ω≦2×f0×π/mとなる。ここで、f0は、解析対象であるタイヤの固有振動数である。
コンピュータシミュレーションによって力の履歴を求める場合、必ずしも応答解析モデル10を用いる必要はなく、力の履歴を求める解析に適したタイヤモデルを用いることができる。例えば、力の履歴を求めるためのコンピュータシミュレーションで用いるタイヤモデルとしては、機構解析用の弾性リングモデルや、有限要素法に基づいて詳細なトレッドパターンも含めてタイヤをモデル化したタイヤモデル等がある。次に、有限要素法に基づくタイヤモデルを用いたコンピュータシミュレーションによって力の履歴を求める手法の一例を説明する。
図10は、力の履歴を求める際に用いるタイヤモデルの一例を示す一部斜視図である。図11は、路面モデルの一例を示す斜視図である。図12は、接地転動解析を示す説明図であり、図13は、タイヤモデルに静荷重を与えて接地解析をする状態の説明図である。力の履歴を求めるにあたって、まずコンピュータシミュレーションに用いるタイヤモデル(解析モデル)が作成される。例えば、図2に示す解析装置50のモデル作成部52aは、タイヤモデル及びタイヤモデルが接地する路面の解析モデルを作成する。
本実施形態において、モデル作成部52aは、解析対象のタイヤに基づき、図10に示すタイヤモデル20、及び図11に示す路面モデル41を作成し、記憶部54の所定の領域に保存する。路面モデル41は、例えば、解析対象のタイヤが接地する路面を解析モデルとしたものであり、平面の解析モデルのような2次元の解析モデル(サーフェス)で構成されてもよい。2次元の解析モデルを構成する要素は、例えば、三辺形要素、四辺形要素がある。2次元の解析モデルを構成する要素は、解析の過程においては2次元座標を用いて逐一特定される。タイヤモデル20は、路面モデル41の表面41Pに接地する。タイヤモデル20及び路面モデル41は、いずれもコンピュータで解析可能な解析モデルである。
タイヤモデル20及び路面モデル41が作成されたら、図2に示す解析装置50の解析部52bは、記憶部54からタイヤモデル20及び路面モデル41を読み出す。そして、解析部52bは、タイヤモデル20に対して接地解析を実行し、解析結果(各節点の座標や物理量等)を記憶部54の所定領域に保存する。接地解析とは、タイヤモデル20と平面あるいは曲面との動的、又は静的な接触状態において、少なくともタイヤモデル20の変形やひずみ、あるいは応力の状態を解析するものである。本実施形態では、図12、図13に示すように、タイヤモデル20を接地対象(この例では路面モデル41)に接触させた状態で、タイヤモデル20の変形やひずみ、あるいは応力の状態を解析する。接地解析は、荷重Pや内圧をタイヤモデル20に負荷した状態で解析してもよい。
図12は、タイヤモデル20と路面モデル41との動的な接触状態を解析する例を示している。この例は、タイヤモデル20を路面モデル41の表面41Pに接地させ、かつタイヤモデル20の回転軸(Y軸)に荷重Pを負荷し、タイヤモデル20を回転軸(Y軸)周りに回転角速度ωで転動させる接地転動解析を示している。接地転動解析には、動的転動解析や定常輸送解析等が含まれる。図13に示す例は、タイヤモデル20の回転軸(Y軸)に荷重(静荷重)Pを与えてタイヤモデル20を路面モデル41の表面41Pに接地させて、タイヤモデル20の静的な接地解析を実行する例を示している。
接地解析を実行するにあたっては、解析条件(タイヤモデル20の回転角速度ωやタイヤモデル20に負荷する荷重P等)が設定される。解析条件は、例えば、図2に示す解析装置50の入力手段53を介して入力されて、記憶部54へ一時的に保存される。解析条件が設定されたら、解析部52bは、記憶部54から解析条件を取得しながら、タイヤモデル20の接地解析を実行する。接地解析が終了したら、解析部52bは、解析結果を記憶部54の所定領域に格納する。解析結果は、タイヤモデル20の路面モデル41との接地部分42においてタイヤモデル20に作用する力の時間に対する変化の履歴(力の時刻歴)を少なくとも含む。前記力は、圧力であってもよい。この場合、圧力に面積を乗ずることにより圧力を力に変換する。
上述したステップS102において、履歴設定部52cは、記憶部54に格納された解析結果から、前記力の時刻歴を読み出す。そして、履歴設定部52cは、読み出した前記力の時刻歴を、応答解析モデル接地領域12において、応答解析モデル10に作用する力の履歴として設定する。接地転動解析により前記力の時刻歴を求める場合、タイヤモデル20の接地部分42に存在するそれぞれの節点に作用する力の時間に対する変化が前記力の時刻歴となる。
タイヤモデル20の静的な接地解析を実行して前記力の時刻歴を求める場合、接地部分42に存在するそれぞれの節点(表面節点という)が有する力の時刻歴そのものを求めることはできない。この場合、静的な接地解析によって表面節点の力を求め、タイヤモデル20の周方向において同じ位置に存在するそれぞれの表面節点が受ける力を、接地部分42の周方向に向かって配列する。そして、このように配列された力を、前記力の時刻歴と見なして取り扱う。
接地解析において、解析部52bは、接地部分42に作用する力の時刻歴を、タイヤモデル20を準静的に転動させて取得することが好ましい。準静的とは、上述したように、質量による慣性力の影響を受けない程度の低い回転角速度でタイヤモデル20を転動させることをいう。例えば、タイヤモデル20のトレッドパターンが同じトレッドパターンのセクションを周方向に向かってm個連結して得られる場合、接地解析における回転角速度ωは、ω≦2×f0×π/mとなるように設定される(f0は、解析対象であるタイヤの固有振動数)。なお、コンピュータシミュレーションを用いる場合は、いわゆる静解析を実行してもよい。
図14は、タイヤモデルの踏面を示す平面図である。実験やコンピュータシミュレーションによって求められる力の履歴は、複数の力を組み合わせてもよい。例えば、接地解析に用いるタイヤモデル20の踏面は、実際のタイヤと同様に、タイヤモデル20の幅方向両側に存在するショルダー部Shと、両方のショルダー部Shの間に散在するセンター部Cとを有する。この場合、ステップS102において設定される力の履歴は、センター部Cにおける力の履歴と、ショルダー部Shにおける力の履歴とを組み合わせてもよい。すなわち、センター部Cにおける力の履歴と、ショルダー部Shにおける力の履歴とを別々に求め、得られた結果を組み合わせてステップS102において設定される力の履歴としてもよい。このようにすることで、例えば、センター部Cのトレッドパターンのみを変化させて評価したい場合には、センター部Cのみの力の履歴を求めて、ショルダー部Shの力の履歴と組み合わせればよいので、効率的に評価できる。
また、トレッドパターンなしのタイヤモデルを突起のある路面モデルに接地させて接地解析することによって得られる力の履歴と、トレッドパターンありのタイヤモデルを突起のない路面モデルに接地させて接地解析することによって得られる力の履歴とを組み合わせて、ステップS102において設定される力の履歴としてもよい。このようにすることで、トレッドパターンを変化させて突起のある路面を転動させる評価をしたい場合には、トレッドパターンなしのタイヤモデルを突起のある路面モデルに接地させて接地解析することによって得られた力の履歴に、異なるトレッドパターンから得られた力の履歴と組み合わせて、ステップS102において設定される力の履歴とすればよい。したがって、すべてのトレッドパターンに対して突起のある路面モデルを転動させる必要はなくなるので、トレッドパターンの影響を効率的に評価できる。なお、タイヤモデル20や実験によって得られた力を速度や加速度に変換し、時間に対するこれらの変化を、ステップS102において設定される力の履歴の代わりに用いてもよい。ステップS102で力の履歴が設定されたら、ステップS103に進む。
図15−1は、変位の履歴の一例を示す模式図である。ステップS103においては、ステップS102で設定された力の履歴に基づいて、応答解析モデル接地領域12における応答解析モデル10の変位の履歴が求められる(変位履歴設定手順)。履歴設定部52cは、記憶部54から力の履歴を読み出し、変位の履歴を求める。変位は、応答解析モデル10に対して力を付与する計算を実行することにより求められる。したがって、履歴設定部52cは、設定された力の履歴のそれぞれの時刻における力を応答解析モデル10に対して付与する計算を実行することにより、それぞれの時刻における変位を求め、図15−1に示すような変位の履歴とする。図15−1の横軸は時間(t)を示し、縦軸は変位の振幅(u)を示す。すなわち、変位の履歴とは、応答解析モデル接地領域12における応答解析モデル10の変位の時間に対する変化の履歴である。
履歴設定部52cは、求めた変位を記憶部54の所定領域に格納する。変位の履歴は、応答解析モデル接地領域12に存在するすべての節点に対して、それぞれの力の成分に対して設定される。時間に対する速度又は加速度の変化を力の履歴の代わりに用いる場合、速度を時間で一回積分した値又は加速度を時間で二回積分した値が変位となる。したがって、変位の履歴はこのようにして求めた変位を用いて求められる。ステップS103において変位の履歴が求められたら、ステップS104へ進む。
ステップS104において、図2に示す解析装置50の変位入力設定部52dは、ステップS103で求められた変位の履歴(又はステップS102で求められた力の履歴)に基づいて、応答解析モデル10の応答解析モデル接地領域12へ入力される強制変位の入力(強制変位入力)を設定する(強制変位入力設定手順)。変位入力設定部52dは、例えば、ステップS103において履歴設定部52cが求めた変位の履歴を、そのまま強制変位入力として設定し、記憶部54の所定領域に格納する。このように、ステップS104においては、変位の履歴を直接応答解析モデル接地領域12へ入力される強制変位入力としてもよい。しかし、この他にも、変位の履歴の振幅や時間軸を変更したり、変位の履歴の時間軸を周波数軸へ変換したり、変位の履歴に対してフィルター処理を施したりする加工を施した後の変位の履歴が強制変位入力として設定され、応答解析モデル接地領域12へ与えられてもよい。
図15−2は、変位の履歴を加工して強制変位入力とする一例を示す模式図である。図15−2に示す例は、変位の履歴の時間軸をフーリエ変換によって周波数軸に変換したものである。図15−2の横軸は周波数(f)を示し、縦軸はフーリエ変換後における変位の履歴の振幅(u)を示す。ステップS104において設定される強制変位入力は、このように、変位の履歴の時間軸を周波数軸へ変換したものとしてもよい。また、変位入力設定部52dは、ステップS103で得られた変位の履歴にフィルター処理を施した情報を、強制変位入力として設定して、応答解析モデル接地領域12へ与えてもよい。例えば、変位入力設定部52dは、変位の履歴にローパスフィルタ処理を施すことにより、所定の周波数よりも高い成分を取り除いた後の変位の履歴を強制変位入力として設定して、応答解析モデル接地領域12へ与えることができる。一般に、タイヤの応答解析においては、高い周波数の振動は問題とならず、比較的低い周波数の振動を対象とする。このため、上述したような手法により、ステップS105においては、評価に必要な周波数成分についてのみ動的応答を求めることができるので、動的応答を求める際の計算量を低減することができる。このため、評価の効率が向上する。
また、変位の履歴の時間軸を、ステップS105で動的応答を求める際における転動の条件に応じて変更してもよい。例えば、動的応答を求める際における転動の条件として、回転角速度がω1で応答解析モデル10が転動している場合を考える。ステップS102で力の履歴を設定した際におけるタイヤやタイヤモデル20の回転角速度がω0である場合、変位入力設定部52dは、ω0/ω1を変位の履歴の時間に乗ずることにより時間軸を変更する。また、変位入力設定部52dは、ステップS105で動的応答を求める際の条件に応じて、変位の履歴の振幅(u)の大きさを変更してもよい。このため、動的応答を求める際の条件が変化した場合であっても、簡単に対応できるので、評価の効率が向上する。
ステップS104においては、変位の履歴を、ステップS105において動的応答を求める際に設定される転動速度での変動に変換して用いることが好ましい。転動速度での変動に変換するにあたっては、応答解析モデル10の回転又は路面モデル30(図7参照)の移動を基準にして変換すればよい。例えば、動的応答を求める際に、応答解析モデル10が回転角速度ω1で転動する状態を模擬するとし、また、ステップS102で力の履歴を設定した際におけるタイヤやタイヤモデル20の回転角速度がω0であるとする。この場合、変位の履歴の1周期にω0/ω1を乗ずることにより、変位の履歴は、動的応答を求める際に設定される転動速度での変動に変換される。
このように、応答解析を実施する転動の条件、すなわち速度Vや応答解析モデル10の回転角速度ω1に対応するように変位の履歴を変換して用いることが好ましい。このとき、応答解析モデル10が低速(回転角速度がω_L)で転動している場合、変位の履歴は時刻に対してデータを持つ。このため、応答解析モデル10を低速で転動させている場合、時刻暦の変動は、t’=t×ω0/ω1により時間軸を変更することで表現できる。また、周波数軸に変換されたものも、f’=f×ω1/ω0で変換すればよいことになる。
一方、静解析で変位の履歴を取得した場合は時間のスケールを持たないため、応答解析モデル10の回転角θ又は応答解析モデル10と路面モデル30との相対路面移動距離xに対してデータを持つ。静解析で変位の履歴を取得した場合、回転角θに対してはt=θ/ω1、相対路面移動距離xに対しては、t=x/Vで変位の履歴を変換することができる。一旦、ある速度での時刻暦を得ていれば、別の速度の時刻暦へ変位の履歴を変換することは、応答解析モデル10を低速で転動させた場合と同様に行うことができる。
また、この場合のフーリエ変換は、例えば応答解析モデル10の1回転を1次とした次数となるので、n次の次数成分は、f=ω1×n/(2×π)で周波数軸に変換される。この場合も上記と同様にして、変位の履歴を異なる速度へ変換できる。なお、変動がタイヤ1/M周の周期で繰り返される場合(例えばトレッドパターンによる変動の解析で、パターンの配列がそのような規則性を持っている場合)は、その波形をM回繰り返しつなげて応答解析モデル10の1回転分の波形を作成し、上記の変換をしてもよい。また、その周期を基本としてフーリエ変換した次数成分kに対し、f=ω1×n/(2×π)を用いて変位の履歴を周波数軸へ変換してもよい。
動的応答を求める際に用いる応答解析モデル10は、設定された転動速度の効果が考慮されているとより好ましい。転動の効果には、例えば、遠心力、あるいはコリオリ力等に基づく効果が挙げられる。例えば、定常輸送解析を実行することにより、転動の効果を考慮できるソフトウェアもある。上述したようにすると、コンピュータシミュレーションにより入力を得る場合に、計算時間を要する動的な解析を不要とすることができるので、計算時間が少なくて済むという利点がある。また、異なる転動速度で複数の計算を実行する場合でも、単純な換算のみで済むので、計算コストを低減できるという利点がある。
ステップS103において、力の履歴に基づき、応答解析モデル接地領域12における応答解析モデル10の変位の履歴を求めるにあたって、規定の状態で線形化した変換行列を使用することが好ましい。規定の状態とは、応答解析モデル10に空気圧及び予荷重が作用した状態であり、路面モデルからは設定された入力が作用していない状態である。一般に、タイヤは空気圧や予荷重によるたわみに起因する幾何的な非線形の変形や、材料に起因する非線形の変形がある。このため、上述した力の履歴からは、少なくとも予荷重による定常な変形の成分は、予め除去しておくことが好ましい。
一般に、コンピュータシミュレーションにおいて動的な応答を解析するにあたっては、前記規定の状態を中央値とした振動的な応答を取得する。このため、前記規定の状態の付近で、応答解析モデル10の変形を線形化することができる。こうすることで、力の履歴を変位の履歴に変換する際の問題を、計算時間を要する非線形問題から、計算時間が少なくて済む線形問題へと置き換えることができる。その結果、変位の履歴に変換する際の計算時間を短縮することができるので、評価を効率化することができる。
式(1)を{u}について解くことによって、力の履歴を変位の履歴に変換することができる。式(1)の[K]が変換行列であり、{F}が力(ベクトル)を表し、{u}が変位(ベクトル)を表す。変換行列[K]には、応答解析モデル10の剛性行列を使用することが好ましい。変位の履歴への変換において、応答解析モデル10の剛性行列を用いることで、動的応答の解析を実行する際の路面モデルからの入力と、応答解析モデル10の軸反力との整合をとることができる(例えば、低周波の応答で路面モデルからの入力と軸反力とが釣り合う)。式(1)に示すように、解くべき式が単純であるため、変位の履歴を高速で演算することができる。
{F}=[K]{u}・・(1)
力の履歴を変位の履歴に変換するにあたっては、応答解析モデル接地領域12の自由度のみが必要である。このため、グヤンの静縮小によって変換行列[K]の自由度を縮小して変位の履歴への変換に用いるとより好ましい。これによって、変換行列の規模が小さくなるので、さらに高速で演算できる。次に、グヤンの静縮小について簡単に説明する。式(2)は運動方程式である。[M]は質量行列であり、[K]は剛性行列であり、{u}は変位のベクトルであり、{f}は力のベクトルである。式(2)を、保持自由度とそれ以外(外力なし)とに分割すると、変位のベクトル{u}は式(3)のように、力のベクトル{f}は式(4)のように、剛性行列[K]は式(5)のように、質量行列[M]は式(6)のようになる。uαは境界(応答解析モデル接地領域12に相当する)に存在する節点の変位であり、uβは境界以外に存在する節点の変位である。静的な項(剛性行列)のみを考えると、式(2)の運動方程式は式(7)のようになる。これを書き換えると、式(8)のようになる。変換マトリクス[T]を用いて式(8)を記述すると、式(9)のようになる。式(9)から、式(2)に示す運動方程式は、式(10)に示すように書き改められ、保持自由度のみに縮小される。ここで、[M’]は式(11)で、[K’]は式(12)で示すようになる。回転角速度ω=0である場合、式(10)は式(13)に示すようになる。グヤンの静縮小によって運動方程式の自由度を縮小すると、縮小後における運動方程式(式(10))は、動解析においては近似解が得られるが、静的解析(ω=0、すなわち、質量が影響しない場合、式(13))においては厳密解が得られる。
図16は、応答解析モデルの平面図である。図17は、応答解析モデルの側面図である。変位の履歴を強制変位入力とする場合、変位の履歴は、繰り返しつなげたり、変動のない一定の変位をつなげたりして設定するなどの加工を施してもよい。応答解析モデル10が踏面にトレッドパターンを有する場合、図16に示すように、隣接するラグ溝L2同士で区画される、同じトレッドパターンのセクションSが周方向に繰り返されるように作成されることが多い。すなわち、図17に示すように、セクションSは、回転軸(Y軸)を中心とした中心角度θsの範囲を繰り返しの1単位としている。そして、応答解析モデル10は、一つのセクションSを周方向に向かって2×π/θs個有する。
変位の履歴は、セクションSを一つの単位として、応答解析モデル10の周方向に向かって1周分繰り返しつなげられて、強制入力変位とされてもよい。このようにすることで、変位の履歴を求める前段階において力の履歴を求める際に、タイヤモデルやタイヤの一周分解析をする必要はないので、計算量あるいは実験回数を低減できる。また、強制入力変位は、変位に変動がない、すなわち、一定の変位を有するセクションSが、応答解析モデル10の周方向に向かって1周分繰り返しつなげられるとともに、応答解析モデル接地領域12に相当する部分のセクションSをつなげて構成されてもよい。このようにすることで、タイヤモデルやタイヤの一周分解析をする必要はないので、計算量あるいは実験回数を低減できる。
図18は、応答解析モデル接地領域に強制変位入力を与えて動的応答を求める状態を示す模式図である。ステップS104で強制変位入力が設定されたら、ステップS105へ進む。ステップS105において、解析装置50の解析部52bは、図18に示すように、ステップS104で設定された強制変位入力ucを応答解析モデル接地領域12へ与えて、応答解析モデル10の動的応答を求める(応答演算手順)。動的応答の計算には、時間軸で計算される過渡応答解析や周波数軸で計算される周波数応答解析がある。本実施形態において、動的応答の計算に用いる応答解析モデル10は、詳細な接地解析のモデルに比べて小規模ですむため、計算の効率が向上する。動的応答の計算結果は、さらに音響解析(例えば、タイヤの放射音の解析)等に利用することも可能である。
応答解析モデル接地領域12は、路面モデル30に接地しているので、応答解析モデル接地領域12の動きは路面モデル30に拘束されている。ここで、応答解析モデル10と路面モデル30との間の作用、すなわち、応答解析モデル接地領域12への作用を力で設定すると、応答解析モデル接地領域12が自由に動ける境界条件となる。このようにしないと、応答解析モデル接地領域12に力が入力できないからである。このため、応答解析モデル接地領域12への作用を力で設定すると、応答解析モデル接地領域12が拘束された状態として振舞う実際の応答を再現できない。本実施形態のように、応答解析モデル接地領域12への入力を強制変位入力とすることで、応答解析モデル接地領域12を拘束した境界条件での応答を再現することができる。また、本実施形態では、入力を抽出した後、変位に変換して応答解析モデル接地領域12へ入力できる。すなわち、応答解析モデル接地領域12への入力のみが得られれば、繰り返しの転動計算をすることなしに、効率的に構造を変更した影響を解析することができる。このように、本実施形態は、複数の入力と複数の構造との組合せを解析する際に、解析の効率を向上させることができるという効果が得られる。
ステップS105における解析に用いる応答解析モデル10は、少なくとも強制変位入力を設定する応答解析モデル接地領域12に存在する節点を保持自由度として、拘束モード法によりモーダルモデルに変換した解析モデルを使用することが好ましい。すなわち、応答解析モデル接地領域12に強制変位を付与するにあたっては、拘束モード法(Craig-Bampton法)を使用することが好ましい。拘束モード法は,高次モードの省略により、解くべき未知量を少なくする方法である。このため、応答解析モデル10をモーダルモデルに変換することで動的応答を計算する際の自由度を削減できるため、さらに計算時間が短縮できる。また、応答解析モデル10の回転軸(Y軸)も保持自由度とすると、ホイールの共振を考慮できるため、より好ましい。
(変形例)
本変形例は、図10に示すタイヤモデル20を用いて応答解析モデル接地領域12に作用する力の履歴を求め、タイヤモデル20の接地領域よりも応答解析モデル接地領域12の要素分割が粗い応答解析モデル10に、変位の履歴の形態又は力の履歴の形態で付与するものである。タイヤモデル20ではトレッドパターンが考慮されていることが好ましく、応答解析モデル10ではトレッドパターンの少なくとも一部が省略されていてもよい。このような応答解析モデル10としては、例えば、主溝のみを有するものや、溝自体を有さないものがある。このように、応答解析モデル10のトレッドパターンを省略することにより、応答解析モデル10の規模を低減できるので、計算の効率化を図ることができる。タイヤモデル20では静解析が適当であるため、タイヤモデル20にホイールモデルを組み合わせる場合、ホイールモデルは剛体として解析モデル化することが好ましい。この場合、タイヤモデル20内の空気をモデル化することも不要である。これによって、計算量を低減できるので、タイヤモデル20を用いた接地解析に要する時間を短くできる。
応答解析モデル10は、動的応答の計算結果の精度を向上させるために、ホイールモデルと組み合わせる場合には、弾性体としてモデル化されたホイールモデルを用いることが好ましい。この場合、応答解析モデル10内の空気もモデル化することが好ましい。これによって、ホイールや空気の影響(約200Hz以上)を考慮でき、動的応答の計算結果の精度を向上させることができる。応答解析モデル接地領域12の要素の寸法は、タイヤモデル20の接地領域における要素の寸法の2倍以上10倍以下とすることが好ましい。また、応答解析モデル10は、応答解析モデル接地領域12の周方向における分割を、5分割から50分割とすることが好ましい。これによって、応答解析モデル接地領域12の入力の分布を適切に表現しつつ、動的応答における計算時間の増加を抑制できる。次に、応答解析モデル接地領域12に、変位の履歴又は力の履歴を付与する手法を説明する。次の説明では、応答解析モデル接地領域12に変位の履歴を転写するものとする。
図19は、接地解析に用いるタイヤモデルよりも要素分割の粗い応答解析モデルを用いて、タイヤモデルから得られた力を応答解析モデルへ転写する例の模式図である。図19は、接地解析で用いるタイヤモデルの節点25a、25b、25c、25dと、応答解析モデルの節点15との関係を示している。ステップS104において、変位入力設定部52dは、変位の履歴を記憶部54から読み出し、応答解析モデル接地領域12に強制変位入力として付与する。このとき、応答解析モデル接地領域12の要素分割はタイヤモデル20の接地領域における要素分割よりも粗いので、次のような手法によってタイヤモデル20の接地領域における変位の履歴を応答解析モデル接地領域12に付与する。
変位入力設定部52dは、図19に示す応答解析モデル10の所定の節点(第2節点)15の位置情報、及び第2節点15の周りに存在するタイヤモデル20の節点(第1節点)25a、25b、25c、25dの位置情報に基づいて、第2節点15に、第1節点25a、25b、25c、25dの変位の履歴を付与する。このように、第1節点25a、25b、25c、25dと第2節点15との相対位置に関係付けて第1節点25a、25b、25c、25dの変位の履歴を第2節点15に付与することで、タイヤモデル20の変位の履歴の分布を応答解析モデル10に付与することができる。
例えば、変位入力設定部52dは、図19に示す第2節点15の周りに存在する第1節点25a、25b、25c、25dのうち、第2節点15からの距離が所定範囲内にあるものの変位の履歴を加算した値を、第2節点15の変位の履歴とする。また、例えば、変位入力設定部52dは、第2節点15と、第2節点15の周りに存在する第1節点25a、25b、25c、25dとの相対距離の大きさに基づいた重みを第1節点15の変位の履歴に与えるとともに、この重みが与えられた後における変位の履歴を加算した値を、第2節点25a、25b、25c、25dの変位の履歴とすることもできる。これによって、第2節点15が受け持つ領域16(図19参照)に含まれる変位の履歴を、第1節点25a、25b、25c、25dの変位の履歴の総和で代表させることができる。なお、変位の履歴を応答解析モデル接地領域12に付与する手法は一例であり、上記のものに限定されない。
(評価例)
サイズが215/55R17の応答解析モデルを用いて、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を実行した。前記応答解析モデルは、固有振動数の精度を確認済みの解析モデルである。応答解析モデル接地領域に変位を入力することの有用性を確認するために、応答解析モデル接地領域の全域に力で入力を与えた場合の周波数応答と、強制変位で入力を与えた場合との周波数応答とを計算し、ピークから共振周波数を抽出した。そして、周波数応答を求める実験から得た突起応答ピーク周波数と比較した。実験による突起応答ピーク周波数は79Hzであり、力を入力した場合の共振周波数は69Hzであり、強制変位を入力した場合の共振周波数は80Hzである。この結果から、力を応答解析モデル接地領域に入力した場合、実験値よりも低くなるが、強制変位を入力した場合、ほぼ実験値と同じ値が得られることが分かる。
図20は、転動速度と上下軸力との関係を示す図であり、図21は、転動速度と前後軸力との関係を示す図である。図20、図21中の実線Exが実験によるものであり、点線Siが本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法によるものである。上下軸力及び前後軸力の単位はいずれもdBであり、1Nを0dBとした表示である。転動速度の単位はkm/hである。実験の結果は、タイヤを用いて周波数応答解析をして、上下及び前後軸力を転動速度毎に抽出した結果である。本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法の結果は、強制変位を応答解析モデル接地領域に付与して周波数応答解析を実行して、上下及び前後軸力を転動速度毎に抽出した結果である。図20、図21から、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法によれば、実験とほぼ同じ結果が得られることが分かる。