以下、本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下の実施形態に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。本実施形態において、タイヤは空気入りタイヤを例として説明するが、本実施形態の適用対象はタイヤ全般であり、空気入りタイヤに限定されるものではない。
以下の説明において、タイヤ赤道面とは空気入りタイヤのタイヤ回転軸に直交するとともに、空気入りタイヤのタイヤ幅の中心を通る平面を意味する。タイヤ幅方向(幅方向)とはタイヤ回転軸と平行な方向を意味し、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面に向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面から離れる側を意味する。タイヤ径方向(径方向)とは空気入りタイヤ回転軸と直交する方向を意味し、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向においてタイヤ回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とは、タイヤ径方向においてタイヤ回転軸から離れる側を意味する。タイヤ周方向(周方向)とはタイヤ回転軸を中心軸とする周方向を意味する。以下、空気入りタイヤは、必要に応じてタイヤという。
図1は、タイヤの子午断面図である。図1に示すように、タイヤ1の子午断面には、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4及びビードコア5が現れている。タイヤ1のタイヤ径方向外側(路面との接地面側)には、キャップトレッド6が配置されている。タイヤ1は、母材であるゴムを、補強材であるカーカス2、ベルト3、あるいはベルトカバー4等の補強コードによって補強した複合材料の構造体である。カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4等の、金属繊維や有機繊維等のコード材料で構成される補強コードの層をコード層という。
カーカス2は、タイヤ1に気体(例えば、空気)を充填した際に圧力容器としての役目を果たす強度メンバーであり、タイヤ1の内部に充填される気体の圧力(内圧)によって荷重を支え、走行中の動的荷重に耐えるようになっている。ベルト3は、キャップトレッド6とカーカス2との間に配置されたゴム引きコードを束ねた補強コードの層である。なお、バイアスタイヤの場合にはブレーカと呼ぶ。ラジアルタイヤにおいて、ベルト3は形状保持及び強度メンバーとして重要な役割を担っている。
ベルト3の踏面G側には、ベルトカバー4が配置されている。ベルトカバー4は、例えば有機繊維材料を層状に配置したものであり、ベルト3の保護層としての役割や、ベルト3の補強層としての役割を持つ。ビードコア5は、内圧によってカーカス2に発生するコード張力を支えているスチールワイヤの束である。ビードコア5は、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4及びトレッドとともに、タイヤ1の強度部材となる。タイヤ1の側部はサイドウォール8と呼ばれており、ビードコア5とキャップトレッド6との間を接続する。また、キャップトレッド6とサイドウォール8との間はショルダー部Shである。
図1に示すように、キャップトレッド6の踏面G側(トレッド面)には、タイヤ周方向に延在する4本の主溝7a、7b、7c、7dが形成される。これによって、雨天走行時の排水性を向上させる。また、4本の主溝7a、7b、7c、7dが形成されることで、キャップトレッド6は、主溝7aよりのタイヤ幅方向外側の陸部11aと、主溝7aと主溝7bとの間の陸部11bと、主溝7bと主溝7cとの間の陸部11cと、主溝7cと主溝7dとの間の陸部11dと、主溝7dよりのタイヤ幅方向外側の陸部11eとを有する。陸部11cは、タイヤ赤道面Cを通る位置に形成されている。このため、タイヤ1は、タイヤ周方向に均一な形状、すなわち、タイヤ周方向の何れの断面での形状も同一の形状となっている。次に、本実施形態に係るシミュレーション方法を実行する装置について説明する。
図2は、本実施形態に係る解析・評価装置を示す説明図である。解析・評価装置50はコンピュータである。解析・評価装置50は、シミュレーション装置であり、本実施形態に係るシミュレーション方法を実現する装置である。図2に示すように、解析・評価装置50は、処理部52と記憶部54とを有する。この解析・評価装置50は、入出力装置51が電気的に接続されており、ここに備えられた入力手段53を介して、解析モデルの作成に必要な情報、あるいは接地解析や流体解析における境界条件等が処理部52や記憶部54へ入力される。また、解析・評価装置50は、入出力装置51の表示手段55に算出結果、入力結果等、種々の情報を表示させる。解析モデル(シミュレーションモデルに相当する)とは、コンピュータを用いて数値解析可能なモデルであり、数学的モデルや数学的離散化モデルを含む。
入力手段53には、キーボード、マウス等の入力デバイスを使用することができる。記憶部54には、タイヤの変形解析や本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を含むコンピュータプログラムが格納されている。ここで、記憶部54は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、又はフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
また、上記コンピュータプログラムは、コンピュータシステムにすでに記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、種々のタイヤのシミュレーション方法を実現できるものであってもよい。また、処理部52の機能を実現するためのコンピュータプログラムをコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより構造物の変形解析や本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を実行してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
処理部52は、タイヤモデル作成部52aと、変形解析部52bと、解析結果抽出部52cと、流体解析モデル作成部52dと、境界条件設定部52eと、流体解析部52fと、評価部52gとを含む。タイヤモデル作成部(変形解析モデル作成部)52aは、変形解析に供する変形解析モデル(タイヤモデルを含むタイヤの変形解析に必要な各モデル)を作成して、記憶部54に格納する。本実施形態のタイヤモデル作成部52aは、変形解析モデルとして、タイヤモデルと路面モデルとホイールモデルとで構成されるモデルを作成する。また、タイヤモデル作成部52aは、変形解析に必要な境界条件も設定する。これらの解析モデル及び境界条件は、解析・評価装置50の使用者によって入力手段53から入力された情報に基づいて作成され、設定される。
変形解析部52bは、タイヤモデル作成部52aが作成したタイヤモデルを含む変形解析モデルを記憶部54から読み出し、設定された条件で変形解析を実行する。本実施形態の変形解析部52bは、変形解析として、タイヤモデルを路面モデルに接触させることでタイヤモデルに生じる変形を解析する接地解析を実行する。接地解析は、転動解析、静的解析等、種々の解析で実行することができる。
解析結果抽出部52cは、変形解析部52bが変形解析することによって得られたタイヤ形状から対応点(対応する節点)を抽出する。そして、解析結果抽出部52cは、対応点の位置、回転角の情報等を用いて、タイヤの各対応点の速度情報を抽出する。
流体解析モデル作成部52dは、変形解析部52bで変形解析することによって得られたタイヤ形状から対応点(対応する節点)を抽出する。ここで、流体解析モデル作成部52dは、タイヤモデルの表面の対応点(対応する節点)を選択して抽出する。また、流体解析モデル作成部52dは、変形解析部52bで解析したタイヤ形状を用いて、流体解析モデルを作成する。流体解析モデル作成部52dは、流体解析モデルとして、タイヤモデルの周囲の空間に流体メッシュを作成した解析モデル(空間モデル)を作成する。
境界条件設定部52eは、解析結果抽出部52cで抽出したタイヤモデルの表面の速度情報に基づいて、流体解析モデルのタイヤモデルの表面の境界条件(タイヤモデルの表面における速度の境界条件)を設定する。また、境界条件設定52eは、流体解析部52fが実行する解析(流体解析や音響解析)に用いる条件、例えば流体解析モデルを構成する各モデルの境界条件、収束条件等を設定する。なお、流体解析部52fが実行する解析(流体解析や音響解析)に用いる条件も、前記使用者が入力手段53から入力した数値等に基づいて作成、設定される。
流体解析部52fは、流体解析モデル作成部52dが作成した空間モデルを、境界条件設定部52eで設定された条件で流体解析する。
評価部52gは、流体解析部52fが解析した結果に基づいて、タイヤの性能を評価する。評価対象としては、タイヤの周囲における空気の流れ、タイヤの空気抵抗、タイヤの音響特性、タイヤのノイズ等がある。
処理部52は、例えば、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されている。接地解析時、流体解析時においては、タイヤモデル作成部52a及び流体解析モデル作成部52dが作成した解析モデルや入力データ等に基づいて、処理部52が前記コンピュータプログラムを処理部52に組み込まれたメモリに読み込んで演算する。その際に処理部52は、演算途中の数値を記憶部54に適宜格納し、また記憶部54へ格納した数値を取り出して演算を進める。なお、この処理部52は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアによって、その機能を実現するものであってもよい。
表示手段55には、液晶表示装置等を使用することができる。また、シミュレーションの結果やシミュレーションの条件等は、必要に応じて設けられた印刷機により、紙等の被記録媒体に出力することもできるので、表示手段55として印刷機を用いてもよい。記憶部54は、他の装置(例えばデータベースサーバ)内にあってもよい。例えば、解析・評価装置50は、入出力装置51を備えた端末装置から通信により処理部52や記憶部54にアクセスするものであってもよい。次に、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を説明する。なお、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法は、上述した解析・評価装置50により実現できる。
図3は、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法の手順を示すフローチャートである。図4は、タイヤモデルの一例を示す斜視図である。図5は、タイヤモデルの一例を示す部分斜視図である。図6は、流体解析モデルの一例を示す斜視図である。図7は、流体解析モデルの解析結果の一例を示す説明図である。
本実施形態に係るシミュレーション方法を実行するにあたり、ステップS12で、図2に示す解析・評価装置50のタイヤモデル作成部52aは、変形解析モデル60を作成する(変形解析モデル作成ステップ)。図4に示すように、変形解析モデル60は、タイヤモデル62とホイールモデル64と路面モデル66とで構成される。タイヤモデル62は、評価対象のタイヤに基づいて作成される。ホイールモデル64は、タイヤモデル62に装着される。路面モデル66は、後述する接地解析でタイヤモデル62が接地する。これらは、いずれも解析モデルである。なお、タイヤモデル作成部52aは、解析に用いる境界条件も設定する。
本実施形態で用いるタイヤモデル62は、図1に示すタイヤと同様の形状であり、タイヤ周方向に均一な形状である。タイヤモデル62は、タイヤ周方向に延在する主溝63が4本形成されている。周方向に均一な形状とは、周方向に向かい、タイヤモデル62のいずれの子午断面も同一の形状であることをいう。
タイヤモデル62は、有限要素法や有限差分法等の数値解析手法を用いて接地解析を行うために用いるモデルである。例えば、本実施形態では、タイヤモデル62の接地解析に有限要素法(Finite Element Method:FEM)を使用するので、タイヤモデル62は、有限要素法に基づいて作成される。なお、本実施形態に係る接地解析に適用できる解析手法は有限要素法に限られず、有限差分法(Finite Differences Method:FDM)や境界要素法(Boundary Element Method:BEM)等も使用できる。また、境界条件等によって最も適当な解析手法を選択し、又は複数の解析手法を組み合わせて使用することもできる。なお、有限要素法は、構造解析に適した解析手法なので、特にタイヤのような構造体に対して好適に適用できる。
タイヤモデル作成部52aは、ステップS12において、環状構造体であるタイヤ(評価対象のタイヤ)を、複数かつ有限個の要素に分割して、タイヤモデル62を作成する。複数の要素は、それぞれ複数の節点を有する。タイヤモデル作成部52aは、例えば、評価対象のタイヤのCADデータを複数かつ有限個の要素に分割してタイヤモデル62を作成する。本実施形態において、タイヤモデル62は3次元形状の解析モデルとなる。
タイヤモデル62が有する要素は、例えば、3次元体では四面体ソリッド要素、五面体ソリッド要素、六面体ソリッド要素等のソリッド要素や三角形シェル要素、四角形シェル要素等のシェル要素、面要素等、コンピュータで取り扱い得る要素とすることが望ましい。このようにして分割された要素は、解析の過程においては、3次元モデルでは3次元座標や円筒座標を用いて逐一特定される。ホイールモデル64は、タイヤモデル62と同様に作成されてもよいし、剛体モデルとして作成されてもよい。また、路面モデル66も、タイヤモデル62と同様に作成されてもよいし、サーフェスモデルとして作成されてもよい。
処理部52は、ステップS12で変形解析モデル60を作成したら、これらを記憶部54に格納し、ステップS14へ進む。ステップS14において、解析・評価装置50の処理部52が備える変形解析部52bは、ステップS12で作成された変形解析モデルの変形解析、具体的にはタイヤモデルの接地解析を実行する(接地解析ステップ、変形解析ステップ)。
接地解析は、設定されている解析条件に基づいて実行される。接地解析とは、タイヤモデル62と平面又は曲面との動的又は静的な接触状態において、少なくともタイヤモデル62の変形やひずみの状態を解析するものである。本実施形態では、タイヤモデル62を接地対象(本実施形態では路面モデル66)に接触させた状態でタイヤモデル62の回転軸から荷重を与えて、タイヤモデル62の変形やひずみの状態が解析される。解析条件は、例えば、図2に示す入出力装置51の入力手段53を介して解析・評価装置50に入力されて、記憶部54に格納される。変形解析部52bは、解析条件が設定されたら、タイヤモデル62を路面モデル66に接触させるとともに、タイヤモデル62に荷重を負荷して接地解析を実行し、タイヤモデル62が有する節点の変位を求める。そして、変形解析部52bは、求めた変位を記憶部54に格納する。なお、図4に示すタイヤモデル62は、サイズ225/50R18で内圧230kPaとし、接地荷重4.5kN、転動速度20km/h、陽解法によるFEM転動解析で解析した場合の変形状態を示している。処理部52は、ステップS14で変形解析(接地解析)を実行したらステップS15に進む。
ステップS15において、解析・評価装置50の処理部52が備える解析結果抽出部52cは、タイヤモデル62の変形解析の結果に基づいて移動速度を抽出する(解析結果抽出ステップ)。本実施形態では、ステップS14の変形解析で実施した転動解析の条件に基づいて、タイヤ表面の移動速度を抽出する。より具体的には、図5に示すようにタイヤモデル62を要素70に分割するメッシュ(分割線)の節点71における速度ベクトル72を抽出する。本実施形態の速度ベクトル72は、変形解析時の転動速度と回転中心からの距離とで算出される当該節点71の速度である。処理部52は、ステップS15で速度情報を抽出したらステップS16に進む。
ステップS16において、解析・評価装置50の処理部52が備える流体解析モデル作成部52dは、タイヤモデル62の変形解析の結果を用いて流体解析モデルを作成する(流体解析モデル作成ステップ)。流体解析モデル80は、図6に示すように、タイヤモデル62aと、タイヤモデル62aに装着されたホイールモデル64と、タイヤモデル62aと接触する路面モデル66と、タイヤモデル62aの周囲の空間である第1領域82と、第1領域82の周囲の空間である第2領域84と、を有する。
タイヤモデル62aは、ステップS14で算出したタイヤモデル62の解析結果に基づいた表面形状のモデルである。なお、タイヤモデル62aは、解析結果のタイヤモデル62をそのまま用いてもよいが、解析結果のタイヤモデル62の表面の要素のみを取り出したモデルとすることが好ましい。タイヤモデル62aを解析結果のタイヤモデル62の表面の要素のみとすることで、タイヤモデル62の解析対象の要素のみを選択的に取り出すことができ、解析時の計算量を低減することができる。ホイールモデル64と路面モデル66とは、上述した変形解析モデル60のホイールモデル64と路面モデル66と同様のモデルである。なお、ホイールモデル64および路面モデル66も、タイヤモデル62aと同様に表面の要素のみで構成したモデルとしてもよい。
第1領域82は、タイヤモデル62aの周囲の空間であり、メッシュで分割されている。第1領域82は、メッシュで分割されることで多数の要素に分割される。第2領域84は、第1領域82の周囲の空間であり、メッシュで分割されている。第2領域84は、メッシュで分割されることで多数の要素に分割される。なお、第2領域84は、第1領域82よりも間隔の大きいメッシュで分割されており、1つの要素が第1領域82の要素よりも大きい。このように、流体解析モデル80は、第1領域82を第2領域84よりも細かいメッシュで分割し1つの要素をより小さくすることで、つまり、第1領域82を第2領域84よりも単位領域当たりの節点の数が多い構成とすることで、タイヤモデル62aの周囲をより詳細に解析することができる。
処理部52は、ステップS16で流体解析モデル80を作成したらステップS18に進む。ステップS18において、解析・評価装置50の処理部52が備える境界条件設定部52eは、タイヤ表面の要素に速度境界条件を設定する(境界条件設定ステップ)。具体的には、境界条件設定部52eは、解析結果抽出部52cで抽出したタイヤモデル62の表面の各節点71での速度ベクトル72の条件をタイヤモデル62aの表面の要素の各節点の速度の境界条件として設定する。つまりタイヤモデル62aの表面の空気の流速の速度が速度ベクトル72と同じとなる境界条件を設定する。
処理部52は、ステップS18で速度境界条件を設定したらステップS20に進む。ステップS20において、解析・評価装置50の処理部52が備える境界条件設定部52eは、速度境界条件以外の各種境界条件を設定する(境界条件設定ステップ)。具体的には、境界条件設定部52eは、流体解析モデル80を構成する各モデルの境界条件、収束条件等、流体解析に用いる各種条件を設定する。境界条件としては、例えば、路面に付与する速度境界や、タイヤモデルの前方のモデルおよび後方のモデルの少なくとも一方の境界に付与する主流速度等がある。なお、ステップS20で設定する各種境界条件は、使用者が入力手段53から入力した数値等に基づいて作成、設定される。
処理部52は、ステップS20で境界条件を設定したら、ステップS22に進む。解析・評価装置50の処理部52が備える流体解析部52fは、ステップS22として、流体解析を行う。具体的には、ステップS20で作成した流体解析用モデルと各種の評価条件とに基づいて、評価対象のタイヤの周囲に存在する領域を流れる流体について解析する。なお、流体解析としては、空気の流れの解析や、空気抵抗の解析や、音の反響の解析や、気柱共鳴音などの流体騒音の解析がある。流体解析としては、タイヤ外部の空気の流れの解析に限定されず、液体(水など)の流れの解析もある。また、流体解析の方法としては、ナビエ・ストークス方程式を解く方法や格子ボルツマン法による方法がある。流体解析部52fで流体解析を実施することで、図7の解析画像90に示すようにタイヤモデル62aの周囲の空気の流速や、タイヤ表面の圧力の分布を解析することができる。なお解析画像90は、タイヤ表面の圧力コンターと、タイヤの周りの空間の速度コンターを示す画像である。
処理部52は、ステップS22で流体解析が終了したら、ステップS24に進む。解析・評価装置50の処理部52が備える評価部52gは、ステップS24として、ステップS22の解析結果を評価する。具体的には、評価部52gは、流体解析の結果が条件に一致しているか、許容値を満たしているか否かを判定し、評価対象のタイヤの性能を評価する。評価部52gは、評価対象のタイヤの評価結果を数値で算出したり、合格、不合格等の評価で算出したりすることができる。処理部52は、評価対象のタイヤを評価したら、本処理を終了する。
このように、本実施形態のシミュレーション方法は、流体解析時にタイヤ表面にタイヤ表面の移動速度(回転速度)をタイヤ表面の境界条件(タイヤ表面を流れる空気の境界条件)として設定することで、周方向の形状が同一のタイヤモデルを含む流体解析をより簡単かつ少ない計算量で実行することができる。また、流体解析においてタイヤを転動させずに回転状態のタイヤを解析できるため、流体解析のコストを低減することができる。つまり、本実施形態のシミュレーション方法は、タイヤの転動状態で発生するタイヤの変化をタイヤ表面の流体の速度の境界条件として付与することで、タイヤの転動により変化する複数の状態のモデルについてそれぞれ流体解析を実行せずに、タイヤの転動状態での流体解析を行うことができる。これにより、タイヤが転動状態の場合の流体解析を簡単かつ少ない処理時間で実行することができる。
また、本実施形態のシミュレーション方法は、シミュレーションでタイヤ周りの流体の挙動を解析できることで、実験を実施することなくタイヤ周りの流体の挙動を解析することができる。また、設備や実モデルが必要ないため低コストで解析を実行することができる。
ここで、流体解析モデル80に用いるタイヤモデル62aは、タイヤ内空間(空気が充填される空間)が閉じられている形状とすることが好ましい。タイヤモデル62aの内部の空間がタイヤモデル62aの外部と繋がっていない状態とすることで、タイヤモデル62aの周囲の流体解析をより高い精度で実行することができる。また、流体解析モデルは、本実施形態のようにホイールモデルを含んでも良い。また、本実施形態では、タイヤモデル62aとホイールモデル64とを組み合わせたが、ホイールモデル64を用いずに、流体解析モデル80の作成時(流体解析モデルのメッシュの作成時)にホイール形状を加えてもよい。
ここで、解析・評価装置50および解析・評価装置50で実行するシミュレーション方法は、本実施形態のように、変形解析としてタイヤを転動させた解析(転動解析)を実行することが好ましい。転動解析で解析したタイヤの表面形状を流体解析モデルのタイヤモデルの表面形状とすることが好ましく、転動解析のタイヤ表面の速度をタイヤモデルの表面の速度境界条件とすることが好ましい。このように、変形解析として転動解析を実行し、その解析結果に基づいてタイヤ表面の形状とタイヤ表面の速度境界条件を算出することで、転動中のタイヤの変形形状と転動速度を考慮したタイヤ周りの流体解析を簡単かつ短時間で実行することができる。具体的には、変形解析モデルと流体解析モデルとで、タイヤモデルのメッシュを共通化することができるため、流体解析モデルの作成時にタイヤモデルを再度作成する必要がなくなり、解析を低コストで実行することができる。また、転動状態のタイヤ表面の速度を流体解析時の境界条件とすることで、転動状態のタイヤの流体解析をより高い精度実行することができる。
なお、タイヤを転動させた解析、つまりタイヤの転動解析は、メッシュが移動するラグランジュ的解析、メッシュは移動させずに転動状態を解析するオイラー的解析方法等、種々の解析方法で実行することができる。また、転動解析時の転動状態は、定常、非定常のいずれの場合でも解析を行うことができる。
ここで、解析・評価装置50および解析・評価装置50で実行するシミュレーション方法は、流体解析モデル作成ステップにおいてタイヤ形状抽出ステップで抽出した前記タイヤモデルのメッシュの節点間の座標を補間して補間節点を作成し、境界条件設定ステップにおいて解析結果抽出ステップで抽出した速度情報に基づいて補間節点に速度情報を境界条件として設定することが好ましい。つまり、解析・評価装置50および解析・評価装置50で実行するシミュレーション方法は、流体解析モデルのタイヤモデルを変形解析モデルのタイヤモデルよりもメッシュが細かいモデル、つまり節点が多いモデルすることが好ましく、その際は、変形解析モデルのタイヤモデルの解析結果に対して補間処理を行い、補間節点と補間速度ベクトルを作成することが好ましい。
図8は、流体解析モデルのタイヤモデルの一例を示す説明図である。図9は、流体解析モデルのタイヤモデルの一例を示す説明図である。図8に示すタイヤモデル100は、メッシュにより径方向と周方向とに分割されている。なお、本実施形態では、タイヤモデル100を径方向に分割するメッシュ(正確には径方向に延在する分割線)を径方向メッシュ101とする。タイヤモデル100は、メッシュにより径方向と周方向に分割されることで、複数の要素102に分割されている。
解析・評価装置50および解析・評価装置50で実行するシミュレーション方法は、図8に示すタイヤモデル100のメッシュで変形解析を実行する。つまり、解析・評価装置50の処理部52は、図9のステップS1に示すように、メッシュの交点の節点106が一定の間隔で形成されている状態でタイヤモデル100の変形解析を実行する。処理部52は、タイヤモデル100の変形解析を行った後、タイヤモデル100に基づいて流体解析モデルを作成する場合、ステップS2に示すように、タイヤモデル100の径方向メッシュ101と径方向メッシュ101との間を径方向補間メッシュ112で補間する。なお、ステップS2では、径方向メッシュ101と径方向メッシュ101との間に4本の径方向補間メッシュ112を設け、径方向メッシュ101と径方向メッシュ101との間の要素を5つに分割する。なお、径方向補間メッシュ112と周方向に延在するメッシュ(正確には周方向に延在する分割線)との交点は、補間節点114となる。したがって、ステップS2のタイヤモデル100は、節点106と節点106との間を5分割し、4つの補間節点114が設けられる。また、補間節点114にも速度ベクトルの境界条件を設定する。なお、節点と節点との間を補間する方法、要素を複数に分割する方法としては、線形補間、多項式補間、スプライン補間等を用いることができる。処理部52は、ステップS2に示すように、径方向補間メッシュ112で補間して補間節点114を設けたタイヤモデル100を用いて流体解析を実行する。
このように、処理部52は、流体解析時は、変形解析時のタイヤモデルに補間処理を行ったモデルを用いることで、より高い精度で流体解析を行うことができる。また、一般的に変形解析モデル(構造解析に用いるモデル)のメッシュは流体解析モデルのメッシュに対して粗い。そのため、変形解析モデルの表面メッシュで流体解析モデルを作成すると、流体解析の精度が落ちてしまう。これに対して、上述したように流体解析の際に節点間に補間節点を設けて補間することにより、変形解析時にタイヤモデルの要素を必要以上に分割しなくても、流体解析モデルのメッシュを流体解析に適したメッシュとすることができる。以上より、変形解析時にタイヤモデルの要素を必要以上に分割する必要がなくなるため、変形解析の計算量が増加することも抑制できる。
また、処理部52は、解析結果抽出ステップにおいて、変形解析ステップのタイヤモデルの解析結果を用いて演算で算出した値を、速度情報(速度ベクトル、速度境界条件)として抽出することが好ましい。これにより、流体解析モデルに与える速度境界条件(速度ベクトル)を容易に算出することができる。また、タイヤの変形解析の節点座標から転動時のタイヤ表面の速度ベクトルが算出できる。
また、上記実施形態では、転動状態のタイヤの表面の速度をそのまま速度ベクトルとして抽出したが演算で算出する方法はこれに限定されず、タイヤの転動状態から得られた速度ベクトルに定数を掛けるようにしてもよい。これにより、タイヤの転動解析とは異なる速度における流体解析を行うことができる。つまり、演算で速度ベクトルを加工することで、1つの変形解析の結果を用いて、種々の速度条件での流体解析を実行することができる。
図10は、流体解析モデルのタイヤモデルの一例を示す説明図である。例えば、処理部52は、図10に示すように、周方向に隣接する一方の節点から回転中心(タイヤ中心)cまでの距離をr1とし、周方向に隣接する一方の節点から回転中心cまでの距離をr2とし、タイヤの転動角度をωとしたとき、回転速度ベクトルvを下記(式1)で算出できる。なお、下記(式1)の回転半径rは、下記(式2)で算出できる。
このように(式1)と(式2)とを用いて回転速度ベクトルvを算出することで、タイヤの転動角度ωを種々の値とすることで、種々の条件での流体解析を実行することができる。なお、演算方法は、上記実施形態に限定されず、種々の演算方法を用いることができる。
また、本実施形態では、いずれもシミュレーションモデルを作成した後、流体解析シミュレーションを行ったが、本実施形態はこれに限定されず、作成したシミュレーションモデルを他のシミュレーションに用いてもよい。また、流体解析は、他の装置で行うようにしてもよい。また、本実施形態では、解析結果の評価を行ったが、評価部による評価は行わなくてもよい。
なお、ステップS16でタイヤモデル62aの周囲に作成する第1領域82、第2領域84のメッシュは、実行する流体解析によって種々のメッシュとすることができる。具体的には、差分法に用いるメッシュを作成することも、有限要素法に用いるメッシュを作成することもできる。なお、本実施形態では、メッシュを作成したが、タイヤ周辺の流体解析に用いるモデルを作成することができれば、メッシュに限定されない。すなわち、タイヤモデル62aの周囲を要素分割しない空間モデルを用いて流体解析が実行されてもよい。また、流体解析用モデルは差分法を対象とした構造格子(直交格子)で構成されていてもよいし、有限体積法や有限要素法を対象とした非構造格子で構成されていてもよい。
本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法は、ステップS12の接地解析において、タイヤモデル62にホイールモデル64を装着したが、ホイールモデル64が装着されないタイヤモデル62を路面モデル66に接地させて、接地解析を実行してもよい。また、ホイールモデル64は、ステップS22の流体解析時に、タイヤモデル62の内部の領域と、タイヤモデル62の外部の領域とを区画できればよいので、上述したものに限定されるものではない。なお、ホイールモデル64は、必要に応じて形状を設定すればよく、実際のホイールを忠実に再現した詳細な形状とすることもできる。
図11および図12は、それぞれ流体解析モデルの他の例を示す説明図である。上述した実施形態では、タイヤモデル62a、ホイールモデル64及び路面モデル66の周囲に存在する空間の流体解析を行ったが、タイヤモデル62aの周囲に存在する空間に、他の物体の解析モデルを設けるようにしてもよい。例えば、解析対象のタイヤが装着される車両又は当該車両の一部を解析モデル化し、当該解析モデルとタイヤモデルとに接した領域を含む領域を、複数の要素に分割して流体解析モデル(空間モデル)を作成してもよい。また、その流体解析モデルを用いて流体解析を実行してもよい。
図11に示す流体解析モデル210は、仮想的な境界である半球領域220で区画されるタイヤ周辺空間222内にフェンダーモデル(タイヤハウスモデル)224と、タイヤモデル262と、ホイールモデル264と、路面モデル266と、が設けられている。なお、タイヤモデル262と路面モデル266とは、流体解析モデル80のタイヤモデル62aと路面モデル66と同様の構成である。また、ホイールモデル264は、タイヤモデル262の内周に沿って配置されたリング形状である。
フェンダーモデル224は、タイヤの近傍に配置されたフェンダーの形状をモデル化したものであり、タイヤモデル262の近傍に配置されている。フェンダーモデル224とタイヤモデル262とは、実際のタイヤとフェンダーとの関係に対応する位置にそれぞれ配置されている。フェンダーモデル224は、表面に境界としての対象物表面領域を設けている。流体解析モデル210は、半球領域220の領域内のタイヤ周辺空間222、つまり、フェンダーモデル224、タイヤモデル262、ホイールモデル264、路面モデル266が配置されていない領域を、複数の要素に分割することで流体が流れる空間を解析可能とする。
このように、処理部52は、フェンダーモデル224を含む流体解析モデル210で流体解析を行うことで、タイヤ周辺空間222内に、タイヤの近傍に存在する部材を解析モデル化して配置したモデルで流体解析を行うことができる。これにより、評価対象のタイヤの周囲における空気の流れや音の解析をより実際の状態に近い条件で解析することができる。特に、本実施形態のようにフェンダーを設けることで、フェンダー部近傍(またタイヤハウス内)におけるタイヤ周りの流れの解析が可能になり、より高い精度で車両の空力特性が算出できる。なお、流体解析モデルは、フェンダーのモデルに限定されず、タイヤの周囲に配置される各種部材のモデルを設けることができる。例えば、フェンダーモデル224に加えて車軸の解析モデルやサスペンションアームの解析モデル等を追加してもよい。
また、流体解析モデルは、車両(車両全体)を含むモデルとしてもよい。図12に示す流体解析モデル310は、仮想的な境界である半球領域320で区画されるタイヤ周辺空間322内に車両モデル324と、タイヤモデル362と、ホイールモデル364と、路面モデル366と、が設けられている。なお、タイヤモデル362とホイールモデル364と路面モデル366とは、流体解析モデル80のタイヤモデル62aとホイールモデル64と路面モデル66と同様の構成である。
車両モデル324は、タイヤが装着される対象の車両の全体構造をモデル化したものであり、タイヤモデル362の近傍に配置されている。つまり、車両モデル324はタイヤモデル362がホイールモデル364を介して連結されている。なお、車両モデル324は、タイヤモデル362に最も近い領域がフェンダーモデル326となる。流体解析モデル310は、半球領域320の領域内のタイヤ周辺空間322、つまり、車両モデル324、タイヤモデル362、ホイールモデル364、路面モデル366が配置されていない領域を、複数の要素に分割することで流体が流れる空間を解析可能とする。
このように、処理部52は、車両モデル324を含む流体解析モデル310で流体解析を行うことで、タイヤ周辺空間322内に、タイヤが装着される対象の車両を解析モデル化して配置したモデルで流体解析を行うことができる。つまり車両全体での流体解析を実行できる。これにより、車両全体での空力特性が算出できる。また、タイヤと車両との空力的相互作用が考慮できるために、車両に対するタイヤの空力的影響が算出できる。
また、流体解析モデル310は、車両モデル324に対して、タイヤモデル362を所定角度傾斜させた状態で装着してもよい。つまり、車両モデルに対するタイヤモデルの姿勢角(キャンバー・トゥ)を調整可能としてもよい。また、流体解析時の流体の主流の向き(例えば空気が流れる向き)は、車両の向きに対して傾斜していてもよい。つまり、車両の前方以外から主流が流れている条件で流体解析することもできる。これにより、カーブを走行している際や、横風に吹かれている状態での流体解析も実行できる。
また、処理部は、タイヤモデルを転動状態とし、かつ、主流速度を0に設定して流体解析を行うことができる。これにより、例えば実験機等で、路面が回転して走行試験を行っている状態の流体解析も実行することができる。これにより、試験結果と解析結果との対比を行うこともできる。