以下、本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下の実施形態に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤ1の回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面(タイヤ赤道線)CLに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから離れる側をいう。タイヤ赤道面CLとは、空気入りタイヤ1の回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面CLから最も離れている部分間の距離である。タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面CL上にあって空気入りタイヤ1のタイヤ周方向に沿う線をいう。本実施の形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「CL」を付す。また、本実施形態では、空気入りタイヤを長距離輸送用のトラック、バスなどのステア軸に装着される重荷重用ラジアルタイヤとした場合について説明する。
図1に示すように、空気入りタイヤ1は、一対のビードコア11と、一対のビードフィラー12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16とを備える。一対のビードコア11は、環状構造を有し、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12は、ローアーフィラーおよびアッパーフィラーから成り、一対のビードコア11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。カーカス層13は、単層構造を有し、左右のビードコア11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。ベルト層14は、積層された高角度ベルト141と、一対の交差ベルト142、143と、ベルトカバー144と、周方向補強層145とから成り、カーカス層13のタイヤ径方向外周に配置される。
ここで、高角度ベルト141は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で40[deg]以上60[deg]以下のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有する。また、高角度ベルト141は、カーカス層13のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
一対の交差ベルト142、143は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上30[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト142、143は、相互に異符号のベルト角度を有し、ベルトコードの繊維方向を相互に交差させて積層される(クロスプライ構造)。ここでは、タイヤ径方向内側に位置する交差ベルト142を内径側交差ベルトと呼び、タイヤ径方向外側に位置する交差ベルト143を外径側交差ベルトと呼ぶ。なお、3枚以上の交差ベルトが積層されて配置されても良い(図示省略)。また、一対の交差ベルト142、143は、高角度ベルト141のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
ベルトカバー144は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で10[deg]以上45[deg]以下のベルト角度を有する。また、ベルトカバー144は、交差ベルト142、143のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。なお、この実施の形態では、ベルトカバー144が、外径側交差ベルト143と同一のベルト角度を有し、また、ベルト層14の最外層に配置されている。なお、ベルト層は、さらに、交差ベルト間あるいは交差ベルトよりもタイヤ径方向内側に周方向補強層を設けてもよい。周方向補強層は、スチール製のワイヤから成り、少なくとも1本のワイヤをタイヤ周方向に対して±5[deg]の範囲内で傾斜させつつ螺旋状に巻き廻わして構成される。
周方向補強層145は、スチール製のワイヤから成り、少なくとも1本のワイヤをタイヤ周方向に対して±5[deg]の範囲内で傾斜させつつ螺旋状に巻き廻わして構成される。また、周方向補強層145は、一対の交差ベルト142、143の間に挟み込まれて配置される。また、周方向補強層145は、一対の交差ベルト142、143の左右のエッジ部よりもタイヤ幅方向内側に配置される。具体的には、ワイヤが内径側交差ベルト142の外周に螺旋状に巻き廻されて、周方向補強層145が形成される。この周方向補強層145がタイヤ周方向の剛性を補強することにより、タイヤの耐久性能が向上する。
なお、ベルト層14は、エッジカバーを有しても良い(図示省略)。一般に、エッジカバーは、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対して±5[deg]の範囲内のベルト角度を有する。また、エッジカバーは、外径側交差ベルト143(あるいは内径側交差ベルト142)の左右のエッジ部のタイヤ径方向外側にそれぞれ配置される。これらのエッジカバーがタガ効果を発揮することにより、トレッド部センター領域とショルダ領域との径成長差が緩和されて、タイヤの耐偏摩耗性能が向上する。
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部33を構成する。一対のサイドウォールゴム16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。なお、この実施の形態では、空気入りタイヤ1がタイヤ赤道面CLを中心とした左右対称な構造を有している。
また、空気入りタイヤ1は、図1に示すように、トレッド部33にタイヤ周方向に延在する複数の周方向主溝、具体的には、1本の周方向主溝21と、2本の周方向主溝22と、2本の周方向主溝23と、が形成されている。本実施形態の空気入りタイヤ1は、タイヤ赤道面CLからタイヤ幅方向の外側に向かって、周方向主溝21、周方向主溝22、周方向主溝23の順で形成されている。なお、周方向主溝21は、タイヤ赤道面CL上に形成されている。また、トレッド部33は、トレッドゴム15が、周方向主溝21、22、23に区画され、複数の陸部、具体的には2つの陸部41と、2つの陸部42と、2つの陸部43とに分割された形状となる。2つの陸部41は、周方向主溝21と周方向主溝22とで挟まれた領域である。2つの陸部42は、それぞれ周方向主溝22と周方向主溝23とで挟まれた領域である。2つの陸部43は、周方向主溝23よりもタイヤ幅方向外側の領域である。陸部43は、タイヤ幅方向外側の端部が、トレッド部33の路面と接地する領域のタイヤ幅方向の端部がある。ここで、本実施形態の空気入りタイヤ1のトレッド部33は、タイヤ赤道面CLを対象面として左右対称である。次に、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を実行する装置について説明する。
図2は、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を実行する解析装置を示す説明図である。本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法は、図2に示す解析装置50によって実現できる。解析装置50はコンピュータであり、図2に示すように、処理部52と記憶部54とで構成される。また、この解析装置50には、入出力装置51が電気的に接続されている。入出力装置51は、入力手段53を有している。この入力手段53は、タイヤを構成するゴムの物性値や補強コードの物性値、あるいは接地解析、転動解析等の変形解析に用いる境界条件等を処理部52や記憶部54へ入力する。
入力手段53には、キーボード、マウス等の入力デバイスを使用することができる。記憶部54には、タイヤの解析(接地解析や転動解析、あるいは振動解析等)や本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を含むコンピュータプログラムが格納されている。記憶部54は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、又はフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD−ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。
上記コンピュータプログラムは、コンピュータシステムに既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、接地解析や転動解析、あるいは本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を実現できるものであってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器などのハードウェアを含むものとする。
処理部52は、モデル作成部52aと、条件設定部52bと、解析部52cと、評価値算出部52dと、判定部52eと、を含む。モデル作成部52aは、解析対象のタイヤを、複数の節点を有する複数の要素に分割して、解析に供するタイヤモデルを作成し、記憶部54に保存する。モデル作成部52aは、タイヤモデルに加え、解析する条件、モデルに基づいて決定される種々の部材をモデル化する。モデル作成部52aは、例えば、解析対象のタイヤのモデル(タイヤモデル)に加え、タイヤと接触するリムのモデル(リムモデル)、タイヤに嵌め込むホイールのモデル(ホイールモデル)、タイヤが接触する路面のモデル(路面モデル)等を作成する。これによりモデル作成部52aは、少なくともタイヤモデルを含む解析モデルを作成する。
条件設定部52bは、モデル作成部52aで作成した解析モデルの解析を実行するための各種条件を設定する。各種条件としては、解析時に解析結果に条件を変更する設計変数と、条件を変更しない固定値とがある。設計変数としては、タイヤモデルのベルト層を構成するベルトの枚数、ベルトの配置位置、タイヤモデルのトレッド部のゴムまたはコートゴムのヤング率や幅、ベルトのワイヤの角度、エンドや剛性、カーカス層の形状や寸法の少なくとも1つを含む。また、設計変数や固定値としては、上記に加え、タイヤモデルを構成する各部の物性値や、解析モデルのタイヤモデル以外のモデルの各種形状、物性値が含まれる。条件設定部52bは、入力手段53で入力を検出した操作や記憶部54に記憶されている情報に基づいて各種条件(設計変数、固定値)を決定する。また、条件設定部52bは、実行する解析処理の内容、解析の収束条件等の解析条件も設定する。また、条件設定部52bは、解析条件として、タイヤモデルの表面(プロファイル)をタイヤ幅方向において、複数に分割した領域も設定する。なお、プロファイルを複数の領域に分割した各領域の情報は、評価値算出部52dで評価値を算出する際に用いられる。
解析部52cは、モデル作成部52aが作成した解析モデルを記憶部54から読み出し、所定の条件の下で変形解析を実行する。なお、変形解析としては、作成したタイヤモデルが変形する種々の要因の変形解析が対象となる。具体的には、解析部52cは、タイヤを路面に接触させることで発生する変形を解析したり、タイヤをインフレートさせることで発生する変形を解析したり、タイヤをホイールに装着させることで発生する変形を解析したり、経時変化によりタイヤに生じる変形を解析したりする。経時変化によりタイヤに生じる変形としては、設定した距離の走行により生じるタイヤの変形つまり走行成長により生じるタイヤの変形、経年劣化による変形および走行状態とすることにより生じるタイヤの変形等がある。ここで、解析部52cは、後述する実施形態でタイヤをリムに組み込むことで生じる変形、タイヤをインフレートすること、つまりタイヤに所定の内圧を充填することで生じる変形、タイヤを走行成長させることで生じる変形を計算する。
評価値算出部52dは、解析部52cで変形解析した解析モデルのタイヤモデルに基づいてタイヤモデルの表面の成長量を算出し、算出した成長量から評価値を算出する。評価値算出部52dは、変形解析前のタイヤモデルと変形解析後のタイヤモデルとを比較して成長量を算出する。具体的には、評価値算出部52dは、変形解析前のタイヤモデルの任意の要素と変形解析後のタイヤモデルの当該任意の要素と同一の要素との距離、つまり座標差を算出し、当該座標差を成長量として算出する。また、評価値算出部52dは、タイヤ表面(タイヤのプロファイル)の各要素を対象として成長量また評価値を算出する。次に、評価値算出部52dは、評価値として、算出した成長量の平均と分散を算出する。ここで、評価値算出部52dは、タイヤモデルを複数の領域に分割しており、算出した成長量の平均と分散を当該分割された領域毎に算出する。評価値算出部52dは、領域毎に成長量の平均と分散を算出したら、当該領域毎の成長量の平均と分散に基づいて、当該領域毎の成長量の平均と分散の平均と分散、つまりタイヤ全体の平均と分散を算出する。
判定部52eは、評価値算出部52dで算出されたタイヤ全体の平均と分散とに基づいて、タイヤの性能を評価する。また、判定部52eは、算出された評価値が条件設定部52bで設定された収束条件を満足するかを判定する。判定部52eは、算出された評価値が条件設定部52bで設定された収束条件を満足していないと判定した場合、条件設定部52bで設計変数を変更させ、再度評価値の算出を実行させる。また、判定部52eは、算出された評価値が条件設定部52bで設定された収束条件を満足していると判定した場合、当該評価値を算出した際の設計変数を算出結果として算出する。
なお、モデル作成部52aと条件設定部52bと解析部52cと、評価値算出部52dと判定部52eとは、解析モデルや条件や解析結果を算出、決定したら、決定した各結果を記憶部54の所定領域に格納する。また、各部は、記憶部54に格納された各結果を用いて、解析、作成を実行する。
処理部52は、例えば、メモリおよびCPU(Central Processing Unit)により構成されている。解析時においては、モデル作成部52aが作成した解析モデルや入力データ等に基づいて、処理部52が前記プログラムを処理部52に組み込まれたメモリに読み込んで演算する。その際に処理部52は、記憶部54へ演算途中の数値を適宜格納し、また記憶部54へ格納した数値を取り出して演算を進める。なお、この処理部52は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアによって、その機能を実現するものであってもよい。
表示手段55は、例えば、液晶表示装置等の表示用デバイスである。記憶部54は、他の装置(例えばデータベースサーバ)内にあってもよい。例えば、解析装置50は、入出力装置51を備えた端末装置から通信により処理部52や記憶部54にアクセスするものであってもよい。次に、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法を説明する。なお、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法は、上述した解析装置50により実現できる。
次に、図3から図7を用いて本実施形態のシミュレーション方法についてより詳細に説明する。図3は、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法の手順を示すフローチャートである。図4は、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法の手順を模式的に示す説明図である。図5は、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法の手順を模式的に示す説明図である。図6は、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法の手順を模式的に示す説明図である。図7は、本実施形態に係るタイヤのシミュレーション方法の手順を模式的に示す説明図である。なお、図3から図7に示すシミュレーション方法は、上述した処理部52の各部で処理を実行することで実現される。また、処理部52は、記憶部54に記憶されたプログラムや条件、入力手段53で検出した入力を用いて各処理を実行する。また、図4および図5は、タイヤモデルの断面の半分のみ、つまりタイヤ赤道面よりも一方の端部側のみを示しているが反対側も同様である。
まず、図2に示す解析装置50の処理部52は、ステップS12として、モデル作成部52aにより解析モデルを作成する。モデル作成部52aは、作成した解析モデルを記憶部54の所定領域に保存する。具体的には、解析対象であるタイヤのモデルを含む解析モデルを作成する。ここで、解析モデルは、有限要素法(Finite Element Method:FEM)や有限差分法(Finite Differences Method:FDM)等の数値解析手法を用いてコンピュータが変形解析および剛性解析を実行するために用いるモデルであって、コンピュータで解析可能である。解析モデルは、数学的モデルや数学的離散化モデルを含む。
ここで、ステップS12で作成される解析モデルのうちタイヤモデルは、図4に示すタイヤモデル60である。なお、図4に示すようにタイヤモデル60は、外周面がプロファイル(タイヤ表面)62となる。タイヤモデル60は、プロファイルを構成するタイヤ外側の領域にタイヤトレッド部が形成されている。上述したように、タイヤトレッド部は、走行時に路面と接触する面であり、本実施形態では、主溝が形成されている。また、タイヤモデル60は、上述した空気入りタイヤ1と同様の構成であり、タイヤ内部にカーカス部やベルト層等を備えている。なお、本実施形態の処理部52は、解析モデルとしてリムのモデルと路面のモデルを作成する。本実施形態の処理部52は、解析モデルの解析に有限要素法を使用するので、解析モデルは、有限要素法に基づいて作成される。
本実施形態に係る解析に適用できる解析手法は有限要素法に限られず、有限差分法や境界要素法(Boundary Element Method:BEM)等の解析手法も使用できる。また、境界条件等によって最も適当な解析手法を選択し、又は複数の解析手法を組み合わせて使用することもできる。なお、有限要素法は、構造解析に適した解析手法なので、特にタイヤのような構造体に対して好適である。
モデル作成部52aは、例えば、解析対象のタイヤのCAD(Computer Aided Design)用のデータから、解析モデルを作成する。有限要素法に基づいて解析モデルが作成される場合、モデル作成部52aは、CAD用データによって特定されるタイヤを、複数かつ有限個の要素に分割して、解析モデルを作成する。本実施形態では、解析モデルのタイヤモデルを、それぞれ3次元形状の解析モデルとして作成する。
解析モデルが有する要素は、例えば、3次元の解析モデルでは四面体ソリッド要素、五面体ソリッド要素、六面体ソリッド要素等のソリッド要素や三角形シェル要素、四角形シェル要素等のシェル要素、面要素等、コンピュータで取り扱い得る要素とすることが望ましい。このようにして分割された要素は、解析の過程においては、3次元の解析モデルでは3次元座標や円筒座標を用いて逐一特定される。
解析装置50の処理部52は、ステップS12で解析モデルを作成したら、ステップS14として、条件設定部52bにより設計変数、解析条件を設定する。つまり、条件設定部52bは、解析モデルの解析に必要な各種条件を設定する。ここで、設計変数としては、タイヤの各部材の構成、形状、配置位置、物性等を用いることができるが、タイヤモデルのベルトの枚数、ベルトの配置位置、前記タイヤモデルのトレッド部のゴムまたはコートゴムのヤング率や幅、ベルトのワイヤの角度、エンドや剛性、カーカス層の形状や寸法の少なくとも1つを含むことが好ましい。上記構成を設計変数として用いることで、より好適に解析を実行することができる。本実施形態の条件設定部52bは、解析条件として、タイヤモデルをリム組みした場合に生じる変形の解析、リム組みしたタイヤモデルをインフレートさせた場合に生じる変形の解析、インフレートさせたタイヤモデルを走行成長させた場合の変形の解析を行うことを設定する。また、条件設定部52bは、解析条件として、タイヤの表面のプロファイルを複数の領域に分割する条件を設定する。このように、条件設定部52bは、タイヤの表面のプロファイルを複数の領域に分割した、各領域の範囲の情報を作成する。条件設定部52bは、設定した各種条件の情報を記憶部54に記憶させる。
解析装置50の処理部52は、ステップS14で設計変数、解析条件を設定したら、ステップS16として、解析部52cによりリム組みしたモデルの計算を実行する。つまり、解析部52cは、タイヤモデルをリムモデルに組み込んだモデルの変形解析を実行する。変形解析とは、タイヤモデルとリムモデルとの動的、又は静的な接触状態において、少なくともタイヤモデルの変形やひずみ、あるいは応力の状態を解析するものである。このように、解析部52cは、タイヤモデルをリムモデルに組み込んだ場合に、タイヤモデルの生じる変形を計算する。
解析装置50の処理部52は、ステップS16でリム組みしたモデルの変形計算を行ったら、ステップS18として解析部52cによりインフレート計算を行う。つまり、解析部52は、リムモデルに組み込んだタイヤモデルをインフレートした場合にタイヤモデルに生じる変形の解析を実行する。ここで、解析部52cは、タイヤモデルのリムクッション部がリムモデルに接触する空気圧を充填した条件で、タイヤモデルをリムモデルに装着した状態の変形計算を実行することが好ましい。ここで、タイヤモデルのリムクッション部がリムモデルに接触する空気圧としては、所定内圧の5%以上30%以下を用いることが好ましく、10%を用いることがより好ましい。なお、所定内圧とは、後述するインフレート時に充填する空気圧である。
解析装置50の処理部52は、ステップS18でインフレート時の変形計算を行ったら、ステップS20として解析部52cにより走行成長計算を行う。つまり、解析部52cは、インフレートしたタイヤモデルを有する解析モデルを所定の条件で走行させた場合にタイヤモデルに生じる変形の解析を実行する。なお、所定の条件としては、走行距離、走行時の荷重、走行速度、走行時の路面の状態等がある。解析部52cは、ステップS16からステップS20の処理を行い、タイヤの変形を算出することで所定の条件で走行した後のタイヤモデルの形状を算出することができる。本実施形態では、図4に示すタイヤモデル70の形状となる。なお、タイヤモデル70は、内部構成は、タイヤモデル60と同様の構成であり、タイヤ外側の表面がプロファイル72となる。タイヤモデル70は、上記変形を加味した形状となるため、プロファイル72がプロファイル62とは異なる形状となる。
解析装置50の処理部52は、ステップS20で走行成長計算を行ったら、ステップS22として、成長量の算出を行う。評価値算出部52dは、変形解析前のタイヤモデルの任意の要素と変形解析後のタイヤモデルの当該任意の要素と同一の要素との距離、つまり座標差を算出し、当該座標差を成長量として算出する。本実施形態の評価値算出部52dは、解析前のタイヤモデル60の節点64の座標と解析後のタイヤモデル70の節点74の座標と差を成長量として算出する。図4に示すタイヤモデル60のA1の節点64は、タイヤモデル70のB1の節点74と同一の節点であり、A1の節点64とB1の節点74との座標差、が当該位置での成長量となる。評価値算出部52dは、A2の節点64とB2の節点74、A3の節点64とB3の節点74、A4の節点64とB4の節点74等、タイヤモデル60の節点64と対応するタイヤモデル70の節点74との座標差を算出することで、タイヤモデルのプロファイルの各位置における成長量を算出する。
解析装置50の処理部52は、ステップS22で成長量の計算を行ったら、ステップS24として、評価値算出部52dにより領域毎の平均および分散を算出する。つまり、評価値算出部52dは、複数に分割されたそれぞれの領域について、領域内にある節点64、74の成長量の平均と分散を算出する。
ここで、本実施形態のタイヤモデル60のプロファイル62は、図5に示すように、タイヤ幅方向において、中央(タイヤ赤道面)側のセンター領域80と端部側のショルダ領域82の2つの領域に分割されている。さらに、センター領域80は、より中央側の第1領域84と、端部(ショルダ)側の第2領域86とに分割されている。このように、本実施形態のタイヤモデル60のプロファイル62は、タイヤ幅方向において、タイヤ赤道面よりも一方の端部側が第1領域84と第2領域86と、ショルダ領域82の3つの領域に分割されている。評価値算出部52dは、a1、a2、a3からanの節点74の成長量の平均と分散を第1領域84の平均および分散として算出する。評価値算出部52dは、b1、b2、b3からbnの節点74の成長量の平均と分散を第2領域86の平均および分散として算出する。評価値算出部52dは、c1、c2、c3からcnの節点74の成長量の平均と分散をショルダ領域82の平均および分散として算出する。
解析装置50の処理部52は、ステップS24で領域毎の平均および分散を算出したら、ステップS26として、評価値算出部52dにより領域毎の平均および分散の、平均および分散を算出する。つまり、領域毎の平均および分散に基づいて、領域を1つの単位としたタイヤ全体の成長量の平均と分散を算出する。つまり、上述した第1領域84、第2領域86およびショルダ領域82のそれぞれを1つの単位として、平均と分散を算出する。つまり、評価値算出部52dは、第1領域84、第2領域86およびショルダ領域82のそれぞれの節点の数に関係なく1つの領域を同じ比率として平均と分散を算出する。評価値算出部52dは、算出した平均と分散を評価値とする。
解析装置50の処理部52は、ステップS26で評価値算出部52dにより領域毎の平均および分散の、平均および分散を算出したら、ステップS28として判定部52eにより収束条件を満たすかを判定する。つまり、判定部52eは、ステップS26で算出した評価値が収束条件を満たすかを判定する。
解析装置50の処理部52は、ステップS28で収束条件を満たさない(No)と判定したら、ステップS30として条件設定部52bにより設計変数を変更し、ステップS16に進む。つまり、処理部52は、収束条件を満たさないと判定したら、設計変数を変更して、ステップS16からステップS26の処理を再び行い、評価値を算出する。
解析装置50の処理部52は、ステップS28で収束条件を満たす(Yes)と判定したら、ステップS32として、収束条件を満たす設計変数の値で設計変数を確定し、本処理を終了する。つまり、処理部52は、収束条件を満たす設計変数を解析結果として抽出し本処理を終了する。処理部52は、解析結果を表示部55に表示させることが好ましい。
解析装置50は、本実施形態のシミュレーション方法によりタイヤのプロファイル(基本的にはプロファイルのトレッド領域)を複数の領域に分割し、領域毎に平均と分散を算出することで、タイヤのプロファイルの成長量の評価をより適切かつ高精度に行うことができる。解析装置50は、タイヤのプロファイルの成長量の評価をより適切かつ高精度に行うことができることで、タイヤの評価をより高い精度で実行することができ、より高い精度で解析を実行することができる。これにより、例えば、本実施形態のように重荷重用の空気入りタイヤの解析を実行する場合、簡便な方法で重荷重用の空気入りタイヤの径成長を小さくかつ均一にさせる構造を算出することが可能となる。また、解析装置50は、プロファイルの全域の成長量の平均値と分散を評価値とすることで、プロファイルの成長量と成長の均一性を解析し、評価対象とすることができる。
以下、図6を用いて本実施形態のシミュレーション方法についてより詳細に説明する。なお、図6に示すグラフは、縦軸をタイヤ径方向における成長量(径成長量)として、タイヤプロファイルの各位置での成長量を模式的に示している。図6は、タイヤプロファイルのケースとして、第1ケース92と、第2ケース94と、第3ケース96との3つのケースを示している。
第1ケース92のセンター領域80の形状は、ショルダ領域82から遠い側の端部の径成長量が11となり、ショルダ領域82に隣接している端部の径成長量が10となり、ショルダ領域82から遠い側の端部からショルダ領域82に隣接している端部に向かって直線状に減少していく形状である。また、第1ケース92のショルダ領域82の形状は、センター領域80に隣接している端部の径成長量が10となり、センター領域80から遠い側の端部の径成長量が11となり、センター領域80に隣接している端部からセンター領域80から遠い側の端部からに向かって直線状に増加していく形状である。
第2ケース94のセンター領域80の形状は、ショルダ領域82から遠い側の端部の径成長量が11となり、ショルダ領域82に隣接している端部の径成長量が10.5となり、ショルダ領域82から遠い側の端部からショルダ領域82に隣接している端部に向かって直線状に減少していく形状である。また、第2ケース94のショルダ領域82の形状は、センター領域80に隣接している端部の径成長量が10.5となり、センター領域80から遠い側の端部の径成長量が10となり、センター領域80に隣接している端部からセンター領域80から遠い側の端部からに向かって直線状に減少していく形状である。
第3ケース96のセンター領域80の形状は、ショルダ領域82から遠い側の端部の径成長量が11となり、ショルダ領域82に隣接している端部の径成長量が10となり、ショルダ領域82から遠い側の端部からショルダ領域82に隣接している端部に向かって直線状に減少していく形状である。また、第2ケース94のショルダ領域82の形状は、センター領域80に隣接している端部の径成長量が10となり、センター領域80から遠い側の端部の径成長量が9となり、センター領域80に隣接している端部からセンター領域80から遠い側の端部からに向かって直線状に減少していく形状である。
このように、第1ケース92と、第2ケース94と、第3ケース96との3つのケースは、いずれもプロファイルの形状が異なる形状となる。3つのケースについて、タイヤのプロファイルを領域に分割せずに、成長量の分散と平均を算出した結果を、表1に示す。また、本実施形態のシミュレーション方法を用いて、タイヤのプロファイルをセンター領域とショルダ領域とに分割した場合の各領域の成長量の分散の算出結果と、領域に基づいて算出したタイヤモデル全体の平均と分散との算出結果を、表2に示す。
プロファイルを領域に分割しない状態で、分散と平均を算出した場合、表1に示すように、プロファイルが異なる、第1ケース92と、第2ケース94と、第3ケース96との分散と平均が同じ値となる。このため数値から判定しようとしても形状の違いを判定することができない。これに対して、本実施形態のシミュレーション方法を用いて解析した場合、表2に示すように、プロファイルの違いに対応した平均と分散の差を検出することができる。これにより、第1ケース92と、第2ケース94と、第3ケース96との3つのケースを区別することができ、平均と分散を評価値とした判定を実行することができる。
ここで、解析装置50は、空気入りタイヤとして、重荷重用タイヤ(例えばバストラック用タイヤ)を用いることが好ましい。扁平形状の重荷重用タイヤは、インフレート時、また、新品の状態から走行に使用された後に、トレッドセンター部に比べショルダ部の成長が大きくなるが、走行成長後の形状が好適に解析できることで、ショルダ偏摩耗を好適に抑制することができるプロファイルを算出することができる。
解析装置50は、タイヤのプロファイルを少なくとも2つの領域に分割すればよい。領域を分割する位置は、目的等によって任意に設定することができる。なお、解析装置50は、タイヤのプロファイルを少なくともセンター領域とショルダ領域とで分割することが好ましい。これにより、タイヤのトレッド部のセンター部とショルダ部との成長量の差を最小に抑制することが可能となる。また、解析装置50は、タイヤのプロファイルを3つ以上に分割することで、より詳細に解析を行うことができる。また、解析装置50は、タイヤのプロファイルを分割する領域の幅を、重要度に応じて調整することで、例えば、重要度の高い部分は、領域の数を多くし、重要度の低い部分は、領域の数を少なくすることで、より詳細に解析を行うことができる。
なお、上記実施形態の解析装置50は、領域毎の平均に基づいてタイヤ全体の成長量の平均と分散を算出し、当該平均と分散を評価値とすることで、解析をより簡単にすることができる。なお、解析装置50は、これに限定されない。領域毎の平均と分散のそれぞれに基づいて、タイヤ全体の成長量の平均と分散を算出してもよい。また、解析装置50は、領域毎の平均に基づいてタイヤ全体の成長量の平均と分散を算出しなくてもよく、領域毎の平均と分散との算出結果を評価値として、当該評価値に基づいて判定を行い、タイヤの設計変数を確定するようにしてもよい。領域毎の平均と分散とをそれぞれ評価することで、処理は複雑になるが詳細に解析することができる。
また、上記実施形態の解析装置50は、成長量を算出する点として節点つまりタイヤモデルの要素を分割するメッシュの分割節点を用いることで、変形解析前と変形解析後の比較を容易にすることができ、成長量を算出しやすくすることができる。なお、解析装置50は、成長量を算出する点として節点以外の点を用いてもよい。例えば、入力手段53に入力された操作に基づいて指定されたプロファイル上の位置を、成長量を算出する点として用いてもよい。また、上記実施形態の解析装置50は、成長量を算出する点としてメッシュの分割節点の全ての節点を用いなくてもよい。例えば、メッシュの分割節点のうち一定間隔の分割節点を抽出して成長量を算出する点としてもよい。
また、上記実施形態の解析装置50は、成長量の算出基準は、タイヤ径方向の距離、タイヤ幅方向の距離、プロファイルの法線方向の距離等、種々の基準を用いることができる。
解析装置50は、走行成長の変形の解析結果に基づいて、分割した領域毎に分散と平均を算出することで、走行後の空気入りタイヤの解析を好適に実行することができ、例えば、走行後において、径成長を小さくかつ均一にさせる構造を効率的に見出すことができる。なお、解析装置50は、走行成長の変形を算出したが、走行成長の変形に変えて経時変化で生じる各種変形を算出してもよい。
解析装置50は、走行成長の変形の解析を行ったが、タイヤのインフレート時の変形解析の結果に基づいて、分割した領域毎に分散と平均を算出するようにしてもよい。このように、解析装置50は、タイヤのインフレート時の変形解析の結果に基づいて、分散と平均を算出し、評価値とすることで、新品の空気入りタイヤの解析を好適に実行することができ、例えば、新品(未使用)の状態でのインフレート時において、径成長が小さく、かつ均一にさせる構造の空気リタイヤを効率的に見出すことができる。
なお、解析装置50は、タイヤのインフレート時の変形解析の結果に基づいて、分割した領域毎に分散と平均を算出し、かつ、走行成長の変形の解析結果に基づいて、分割した領域毎に分散と平均を算出するようにしてもよい。これにより、タイヤのインフレート時の成長量と、走行後の成長量に基づいてタイヤのプロファイル形状を評価することができ、両方が所望の形状となる空気入りタイヤの形状を効率的に見出すことができる。
解析装置50は、設計変数を変更して繰り返し算出される平均と分散の算出結果から近似関数を作成し、近似関数に基づいて予め設定した条件を満足しているかを判定することが好ましい。このように、近似関数を用いて判定を行うことで、最適値の解析結果を算出することができる。近似関数に基づいた予め設定した条件を満足しているかを判定、つまり最適解の探索には、応答曲面法や非線形計画法や遺伝的アルゴリズム(GA)およびニューラルネットワークなどの大域および多目的最適化手法を用いることができる。
解析装置50は、予め設定した条件、つまり収束条件として、算出結果の分散が極小値である場合、算出結果の平均が極小値である場合および算出結果の分散および平均の両方が極小値である場合、のいずれか1つを用いることが好ましい。上記基準のいずれかを用いることで、平均して成長するプロファイル、全体的な成長が小さいプロファイルを好適に算出することができる。
図7は、解析結果の一例を示すグラフである。図7に示す改良案Aは、算出結果の分散が極小値であることを拘束条件とした算出結果であり、図7に示す改良案Bは、算出結果の分散および平均の両方が極小値であることを拘束条件とした算出結果である。また、図7の解析は、設計変数を周方向補強層145の形状、物性値とした。現行品の平均を100、分散を100とした場合、改良案Aは、平均が124、分散が37となり、改良案Bは、平均が90、分散が34となる。このように、解析装置50は、予め設定した条件、つまり収束条件によって、それぞれに目的に適したプロファイルを算出することができる。
解析装置50は、設計変数の変更の際に変更する設計変数の変量を、直交実験、D最適性基準、ラテンハイパーキューブ、区分モンテカルロ法のいずれかに基づいて決定することが好ましい。これにより、設計変数を好適に調整することができ、効率よくかつ高精度に解析を行うことができる。
また、上記実施形態では、タイヤモデルの全体を変形解析の対象としたがこれにも限定されない。解析装置50は、タイヤの一部のみのモデルをタイヤモデルとして用いてもよい。