以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある)は、タイヤの振動性能を、コンピュータ1を用いて評価するための方法である。本実施形態のシミュレーション方法では、路面から隆起する突起を乗り越えたタイヤの振動性能が評価される。
図1は、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んでいる。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。従って、コンピュータ1は、タイヤの振動性能を計算するシミュレーション装置として構成される。
図2は、本実施形態のシミュレーション方法で振動性能が評価されるタイヤ、及び、タイヤが走行する路面を示す側面図である。図3は、図2のタイヤの断面図である。タイヤ2は、例えば、乗用車用タイヤとして構成されている。本実施形態のタイヤ2は、図3に示されるように、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7と、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に配されるバンド層9とが設けられている。
トレッド部2aには、路面16に接地するトレッド接地面11と、トレッド接地面11から半径方向内側に凹む複数本の溝12が設けられている。本実施形態の溝12は、タイヤ周方向にのびる主溝12Aと、主溝12Aに交わる向きにのびる横溝(図示省略)とを含んで構成されている。主溝12A及び横溝には、溝底12aと、溝底12aのタイヤ軸方向両端からトレッド接地面11へのびる一対の溝壁12b、12bとが設けられている。さらに、トレッド部2aは、主溝12Aによって区分された陸部13が設けられている。
カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成されている。カーカスプライ6Aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含んでいる。
カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム8が配されている。また、カーカスプライ6Aは、例えば、タイヤ赤道Cに対して80度〜90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)が、互いに交差する向きに重ねられている。
ベルト層7は、内、外2枚のベルトプライ7A、7Bから構成される。2枚のベルトプライ7A、7Bは、ベルトコード(図示省略)が、タイヤ周方向に対して、例えば10〜35度の角度で傾けて配列されている。このようなベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わされている。
バンド層9は、例えば、有機繊維コードからなるバンドコード(図示省略)を、タイヤ周方向に対して5度以下の角度で配列した1枚のバンドプライ9Aによって構成される。このバンドプライ9Aは、例えば、ベルト層7の全巾を覆うフルバンドプライとして構成されている。
図2に示されるように、路面16は、円筒状のドラム16Aの外周面16oに形成されている。このドラム16Aは、例えば、その回転中心軸をなす支軸16sを有している。支軸16sは、床面に固着された一対の支柱17、17に跨って枢支されている。このようなドラム16Aは、図示されない駆動器によって回転駆動される。また、ドラム16Aは、図示されないブレーキ装置によって制動される。
路面16は、一定の半径を有し、凹凸(後述する突起18を除く)のないスムースな路面として形成されている。本実施形態の路面16は、例えば、外径R1が1200mm〜1800mm程度であり、ドラム軸方向の幅が500〜2000mm程度である。
路面16には、路面16から半径方向外側に隆起した少なくとも1つ、本実施形態では1つの突起18が設けられている。このような突起18は、ドラム16Aを転動するタイヤ2に、一定の周期で振動を与えることができるため、タイヤ2の振動性能を評価するのに用いることができる。
本実施形態の突起18は、路面16の全幅の少なくとも一部の幅を有していればよく、路面16の全幅に亘って設けられていてもよい。本実施形態の突起18は、断面円弧状に滑らかに隆起しているが、このような形状に限定されるわけではない。突起18は、例えば、路面16の半径方向外側に凸となる断面鋭角状に隆起するものでもよい。
次に、本実施形態のシミュレーション方法について説明する。図4は、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、タイヤ2を有限個の要素F(i)でモデル化したタイヤモデル20を入力する(タイヤモデル入力工程S1)。図5は、本実施形態のタイヤモデル及び路面モデルの側面図である。図6は、本実施形態のタイヤモデルの断面図である。
タイヤモデル入力工程S1では、図2及び図3に示したタイヤ2に関する情報(例えば、タイヤ2の輪郭データ等)に基づいて、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化している。本実施形態では、図3に示したトレッドゴムを含むゴム部材2G、カーカスプライ6A、各ベルトプライ7A、7B、及び、バンドプライ9A等の各タイヤ構成部材が、有限個の要素F(i)で離散化されている。これにより、タイヤ2をモデル化したタイヤモデル20が設定される。タイヤモデル20は、コンピュータ1に入力される。
要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用される。
要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。各要素F(i)は、複数個の節点21が設けられる。このような各要素F(i)には、要素番号、節点21の番号、節点21の座標値及び材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。
タイヤモデル20のトレッド部20aには、図3に示したタイヤ2の溝12に基づいて設定された少なくとも1本、本実施形態では複数本の溝26が設けられている。本実施形態のタイヤモデル20の溝26は、図2に示したタイヤ2の主溝12Aに基づいて設定された主溝26Aのみが設定されており、横溝(図示省略)は設定されていない。主溝26Aは、図2に示したタイヤ2の主溝12Aと同様に、溝底26aと、一対の溝壁26b、26bとを含んでいる。さらに、タイヤモデル20のトレッド部20aには、主溝26Aによって区分された陸部27が設けられている。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1に、スムースな路面16(図2に示す)を有限個の要素でモデル化した路面モデル28を入力する(路面モデル入力工程S2)。図7は、路面モデル28及び突起モデル31の斜視図である。
路面モデル入力工程S2では、突起18を除いた路面16(図2に示す)に関する情報(例えば、路面16の輪郭データ等)に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化する。これにより、路面モデル入力工程S2では、図5及び図7に示されるように、凹凸を有しないスムースな表面28oを有する円筒状の路面モデル28が設定される。
要素G(i)は、変形不能に設定された剛平面要素として定義されている。この要素G(i)には、複数の節点29が設けられる。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点29の座標値等の数値データが定義される。なお、実際の路面16(図2に示す)のスムースな外周面16oを表現するために、路面モデル28の周方向の分割数は、大きいほどよい。路面モデル28は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1に、路面モデル28とは別に、少なくとも一つの突起を有限個の要素G(i)でモデル化した突起モデル31を入力する(突起モデル入力工程S3)。突起モデル入力工程S3では、突起18(図2に示す)に関する情報(例えば、突起18の輪郭データ等)に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化する。これにより、突起モデル入力工程S3では、路面モデル28とは独立した突起モデル31が設定される。
突起モデル31の要素G(i)は、路面モデル28の要素G(i)と同様に、剛表面要素として定義される。本実施形態の突起モデル31は、突起18(図2に示す)に基づいて断面円弧状に形成されているが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、多角柱、円錐又は多角錐であってもよい。なお、後述のシミュレーション工程S5での計算安定性を高めるために、本実施形態のように、円弧状に形成されるのが望ましい。さらに、突起モデル31の周方向の分割数は、大きいほどよい。突起モデル31は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、後述するシミュレーション工程S5に先立ち、コンピュータ1に、タイヤモデル20を路面モデル28に転動させるための境界条件を入力する(境界条件入力工程S4)。図8は、本実施形態の境界条件入力工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の境界条件入力工程S4では、先ず、コンピュータ1に、図5に示したタイヤモデル20を路面モデル28に接触させるための境界条件を入力する(工程S41)。工程S41では、先ず、タイヤモデル20と路面モデル28との間の接触条件、及び、タイヤモデル20と突起モデル31との間の接触条件を入力する。さらに、工程S41では、従来のシミュレーション方法と同様に、例えば、タイヤモデル20の内圧条件、リム条件、荷重条件、キャンバー角、又は、タイヤモデル20と路面モデル28との間の静摩擦係数等を入力する。
内圧条件としては、例えば、タイヤ2(図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧が設定されるのが望ましい。荷重条件にとしては、例えば、タイヤ2(図2に示す)の規格体系において、各規格がタイヤ2毎に定めている荷重が設定されるのが望ましい。これらの境界条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の境界条件入力工程S4では、コンピュータ1に、タイヤモデル20を路面モデル28に転動させるための境界条件を入力する(工程S42)。工程S42は、従来のシミュレーション方法と同様に、例えば、タイヤモデル20のスリップ角、走行速度V、走行速度Vに対応するタイヤモデル20の第1角速度Va、走行速度Vに対応する路面モデル28の第2角速度Vb、又は、タイヤモデル20と路面モデル28との間の動摩擦係数等を入力する。これらの境界条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の境界条件入力工程S4では、コンピュータ1に、路面モデル28と突起モデル31とが、互いにすり抜け可能な境界条件を入力する(工程S43)。工程S43では、路面モデル28と突起モデル31との間に、互いにすり抜け可能な非接触条件を入力する。なお、後述の有限要素解析アプリケーションソフトにおいて、路面モデル28と突起モデル31との間の接触条件を定義しない限り、路面モデル28と突起モデル31とがすり抜け可能な場合は、工程S43は省略されうる。
これにより、互いに独立してモデル化された突起モデル31及び路面モデル28をすり抜け可能にできるため、例えば、路面モデル28の任意の位置、及び、任意のタイミングで、路面モデル28の表面28oから突起モデル31を隆起させることができる。このような境界条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、タイヤモデル20から振動特性に関する物理量を計算する(シミュレーション工程S5)。図9は、本実施形態のシミュレーション工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態のシミュレーション工程S5は、コンピュータ1が、タイヤモデル20を、路面モデル28上で転動させる(第1転動工程S51)。図10は、本実施形態の第1転動工程S51の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の第1転動工程S51では、先ず、コンピュータ1が、タイヤモデル20の内圧充填後の形状を計算する(工程S511)。工程S511では、先ず、図6に示されるように、タイヤ2のリム14(図3に示す)をモデル化したリムモデル32によって、タイヤモデル20のビード部20c、20cが拘束される。リムモデル32は、例えば、リム14に関する情報(例えば、リム14の輪郭データ等)に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素(図示省略)で離散化されることによって設定される。リムモデル32を構成する要素は、例えば、変形不能に設定された剛平面要素として定義されるのが望ましい。
さらに、工程S511では、タイヤ2(図3に示す)の内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル20の変形が計算される。これにより、工程S511では、内圧充填後のタイヤモデル20が計算される。
タイヤモデル20の変形計算は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス及び減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらを微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとにタイヤモデル20の変形計算を行う。このようなタイヤモデル20の変形計算は、例えば、Dassault Systems社製のAbaqus、LSTC社製のLS-DYNA、又は、MSC社製のNastranなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間Txについては、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
次に、本実施形態の第1転動工程S51では、コンピュータ1が、内圧充填後のタイヤモデル20に、荷重条件を定義する(工程S512)。工程S512では、先ず、図5に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル20と路面モデル28との接触が設定される。なお、この工程S512の時点において、タイヤモデル20と突起モデル31とを接触させていない。工程S512では、タイヤモデル20の回転軸20sに、予め定められた荷重条件Tが設定される。これにより、工程S512では、荷重条件Tが負荷されて変形したタイヤモデル20が計算される。なお、工程S512では、回転軸20sに荷重条件Tを負荷させることなく、例えば、タイヤモデル20の回転軸20sと路面モデル28との距離が調整されることにより、荷重条件が定義されてもよい。
次に、本実施形態の第1転動工程S51では、コンピュータ1が、路面モデル28の内側に、突起モデル31を配置させる(工程S513)。工程S513では、路面モデル28の表面28oよりも半径方向内側に、突起モデル31が配置される。これにより、路面モデル28は、凹凸を有しないスムースな表面28oが維持されうる。本実施形態の突起モデル31は、路面モデル28の半径方向において、タイヤモデル20の内側に配置されている。
次に、本実施形態の第1転動工程S51では、コンピュータ1が、予め定められた走行速度Vに基づいて、タイヤモデル20が路面モデル28上を転動する状態を計算する(工程S514)。工程S514では、走行速度Vに対応する第1角速度Vaが、タイヤモデル20の回転軸20sに定義される。さらに、走行速度Vに対応する第2角速度Vbが、路面モデル28の回転軸28sに定義される。これにより、第1転動工程S51では、スムースな路面モデル28上で転動するタイヤモデル20を計算することができる。なお、突起モデル31には、路面モデル28のように角速度が定義されない。このため、突起モデル31は、図2に示した路面16に設けられる突起18とは異なり、路面モデル28とともに回転しない。
本実施形態の第1転動工程S51では、スムースな路面モデル28上で、タイヤモデル20を転動させているため、計算時間(単位時間Tx)の増加とともに、タイヤモデル20の振動を徐々に収束させ、転動状態を安定させることができる。
次に、本実施形態の第1転動工程S51では、タイヤモデル20が予め定められた転動状態になったか否かを判断する(工程S515)。予め定められた転動状態については、評価される振動性能に応じて、適宜設定することができる。本実施形態の工程S515では、タイヤモデル20の転動状態が安定したか否かが判断される。なお、タイヤモデル20の転動状態が安定したか否かは、例えば、路面モデル28がタイヤモデル20から受ける荷重変動(振動)が、荷重条件Tの規定範囲内(例えば、1%〜5%以下)に収まっているか否かによって判断される。
工程S515において、タイヤモデル20が予め定められた転動状態になったと判断された場合(工程S515で、「Y」)、次の突出工程S52が実施される。他方、タイヤモデル20が予め定められた転動状態になっていないと判断された場合、単位時間Txを一つ進めて(工程S516)、工程S514が再度実施される。これにより、第1転動工程S51では、予め定められた転動状態のタイヤモデル20を、確実に計算することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション工程S5では、コンピュータ1が、タイヤモデル20と接触するように、路面モデル28の表面から突起モデル31を突出させる(突出工程S52)。突出工程S52では、第1転動工程S51により、タイヤモデル20が予め定められた転動状態になったときに、路面モデル28の表面28oから突起モデル31を突出させている。図11(a)は、路面モデル28から突出する前の突起モデル31を示す側面図である。図11(b)は、路面モデル28から突出した後の突起モデル31を示す側面図である。
上述したように、路面モデル28と突起モデル31とは、互いに独立して設定されている。また、図11(a)に示されるように、突起モデル31は、路面モデル28の半径方向において、タイヤモデル20の内側に配置されている。さらに、境界条件入力工程S4の工程S43において、路面モデル28と突起モデル31とは、互いにすり抜け可能な境界条件が予め入力されている。これにより、突出工程S52では、突起モデル31を路面モデル28の半径方向外側に移動させることにより、図11(b)に示されるように、突起モデル31を、路面モデル28をすり抜けさせて、路面モデル28の表面28oから突出させることができる。この突起モデル31の突出により、タイヤモデル20は、突起モデル31と接触し、振動が与えられる。
突出工程S52では、突起モデル31がタイヤモデル20に接触した後、突起モデル31を路面モデル28の半径方向内側に移動させる。これにより、振動が与えられたタイヤモデル20は、次の第2転動工程S53において、図5に示されるように、突起モデル31に接触することなく、スムースな路面モデル28上を継続して転動することができる。
突出工程S52では、突起モデル31を路面モデル28から突出させてから、突起モデル31を路面モデル28内に収納させるまでの間、路面モデル28を転動するタイヤモデル20が、単位時間Tx毎に計算される。
このように、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル20の転動状態が安定した後に、タイヤモデル20に振動を与えることができる。従って、本実施形態のシミュレーション方法は、突起モデル31に起因するタイヤモデル20の振動特性を、正確に評価、及び、分析することができる。しかも、本実施形態のシミュレーション方法では、タイヤモデル20に振動が与えられた後、後述の第2転動工程S53において、突起モデル31に接触することなく、スムースな路面モデル28上を継続して転動することができるため、時間の経過とともに減衰する振動特性を、効果的に分析することができる。
本実施形態の突出工程S52は、図11(a)、(b)に示されるように、タイヤモデル20が路面モデル28に接触している接地領域33の端部33t付近で、突起モデル31をタイヤモデル20側に突出させている。
なお、本実施形態の接地領域33の端部33tは、接地領域33の進行方向前方の端部である。また、端部33t付近とは、端部33tを含み、かつ、端部33tから周方向両側(即ち、進行方向前方側及び後方側)に、接地領域33の周方向長さL1の15%の長さを有する領域内を含むものとする。本実施形態では、端部33tに向かって、突起モデル31の外端31tを突出させている。
このような端部33t付近は、例えば、図2に示した路面16を転動する実際のタイヤ2において、突起18による振動が与えられる部分である。従って、突出工程S52では、転動中のタイヤモデル20のトレッド部20aの陸部27のうち、突起18による振動が与えられる部分に対応する端部33t付近に、インパクトハンマー(図示省略)で加振した状態を計算することができる。なお、転動中の実際のタイヤ2(図2に示す)のトレッド部2aの陸部27にインパクトハンマーで加振することは、非常に困難である。
なお、接地領域33の端部33t付近よりも進行方向前方のトレッド接地面34Aに、突起モデル31を接触させた場合、加振する範囲大きくなり、振動特性を正確に評価及び分析することが難しくなるおそれがある。とりわけ、主溝26A(図6に示す)だけでなく、横溝(図示省略)が設けられたタイヤモデルでは、主溝26Aと横溝とで区分されたブロック(図示省略)の踏面を狙って加振することは困難である。このため、転動中のタイヤモデル20のトレッド部20aの陸部27を、インパクトハンマー(図示省略)で加振した状態を計算することができない。他方、接地領域33の端部33t付近よりも進行方向後方のトレッド接地面34Aに、突起モデル31を接触させた場合、接地時に路面モデル28によって振動が抑えられ、振動特性を正確に評価及び分析することが難しくなるおそれがある。
図12は、突起モデル31の外端31tの位置と時間との関係を示すグラフである。図12において、突起モデル31の外端31tの位置は、路面モデル28の表面28oを基準(高さ0mm)とした路面モデル28の半径方向の高さである。図12のグラフに示されるように、突起モデル31の外端31tは、路面モデル28(高さ0mm)から徐々に突出した後、所定の時間T1の間、予め定められた突出高さH1に維持されている。これにより、突起モデル31は、タイヤモデル20に振動を確実に与えることができる。
突起モデル31の外端31tが突出高さH1に維持される時間T1については、適宜設定することができる。なお、突出高さH1に維持される時間T1が小さいと、タイヤモデル20に、十分な振動を与えられないおそれがある。逆に、突出高さH1に維持される時間T1が大きいと、タイヤモデル20が長時間に亘って変形されるため、インパクトハンマー(図示省略)で加振した状態を再現できないおそれがある。このような観点より、突出高さH1に維持される時間T1は、好ましくは1.0×10−6秒以上が望ましく、また、好ましくは1.0×10−4秒以下が望ましい。
突起モデル31の路面モデル28からの突出高さH1については、評価される振動性能に応じて適宜設定することができる。なお、突出高さH1が小さいと、タイヤモデル20の変形が小さくなり、十分な振動を与えられないおそれがある。逆に、突出高さH1が大きいと、タイヤモデル20の変形が大きくなり、実際のタイヤ2の振動を計算できないおそれがある。このような観点より、突出高さH1は、好ましくは0.1mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上が望ましく、また、好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下が望ましい。
同様の観点より、突起モデル31の幅W3(図7に示す)は、好ましくは0.1mm以上が望ましく、また、好ましくは、タイヤモデル20の幅W1(図6に示す)よりも小であるのが望ましい。なお、本実施形態では、陸部27の幅W2(図7に示す)よりも小に設定されている。これにより、各陸部27に突起モデル31が接触したときのタイヤモデル20の振動特性を、詳細に分析することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション工程S5では、コンピュータ1が、突起モデル31と接触した転動中のタイヤモデル20から振動特性に関する物理量を計算する(第2転動工程S53)。第2転動工程S53では、タイヤモデル20が突起モデル31に接触してから、後述の予め定められた転動終了時間が経過するまで、微小時間(単位時間Tx)刻みで、振動特性に関する物理量が計算される。計算された物理量は、コンピュータ1に記憶される。
本実施形態の振動特性に関する物理量(以下、単に「物理量」ということがある。)としては、評価される振動性能に応じて適宜採用することができる。図13は、図11(b)のA−A断面図である。本実施形態の物理量には、突起モデル31による加振点36でのタイヤ周方向の振動加速度が含まれる。加振点36とは、トレッド接地面34において、突起モデル31が最も深く押圧した部分である。
図14(a)は、加振点での振動加速度と転動時間との関係を示すグラフである。なお、図14(a)では、路面モデル28の表面から突起モデル31を突出させた後から転動終了時間までの振動加速度が示されている。このような加振点36での振動加速度により、タイヤモデル20の構造の差異(例えば、ベルトプライ7A、7B(図3に示す)の剛性、又は、振動吸収材(図示省略)の有無)に起因するタイヤ2の固有振動特性を分析することができる。
さらに、本実施形態の物理量には、図13に示したトレッド部20aの溝26の表面の振動加速度が含まれる。走行中のタイヤ2(図3に示す)は、溝12(図2に示す)の表面の振動によって、溝12の内部を流れる空気を振動させて、気柱共鳴音を生じさせている。溝12の表面の振動加速度が大きくなるほど、気柱共鳴音が大きくなる。従って、トレッド部20aの溝26の表面の振動加速度が計算されることによって、タイヤ2の振動性能に関連するノイズ性能(例えば、気柱共鳴音)の評価に用いることができる。しかも、本実施形態では、従来のシミュレーション方法とは異なり、タイヤモデル20と路面モデル28との間の空間に、例えば、空気の圧力変動を表現できるオイラー要素等を定義することなく、ノイズ性能を評価することができるため、計算時間の増大を防ぐことができる。
本実施形態では、トレッド部20aの溝26の表面の振動加速度として、溝底26aの表面でのタイヤ半径方向の振動加速度(以下、単に「溝底26aの振動加速度」ということがある。)、及び、溝壁26bの表面でのタイヤ軸方向の振動加速度(以下、単に「溝壁26bの振動加速度」ということがある。)が計算される。
図14(b)は、溝底26aの振動加速度と転動時間との関係を示すグラフである。図14(c)は、溝壁26bの振動加速度と転動時間との関係を示すグラフである。なお、図14(b)、(c)では、路面モデル28の表面から突起モデル31を突出させた後から転動終了時間までの振動加速度が示されている。このような溝底26aの振動加速度、及び、溝壁26bの振動加速度により、タイヤモデル20の構造の差異(例えば、ベルトプライ7A、7B(図3に示す)の剛性、又は、振動吸収材(図示省略)の有無)に起因する気柱共鳴音への影響を、詳細に分析することができる。
溝底26aの振動加速度及び溝壁26bの振動加速度の計算位置については、適宜設定することができる。本実施形態の溝底26aの振動加速度は、図13に示されるように、突起モデル31による加振点36のタイヤ軸方向一方側に配置される主溝26Aにおいて、溝底26aのタイヤ軸方向の中心位置37aで測定されている。溝壁26bの振動加速度は、加振点36のタイヤ軸方向一方側に配置される主溝26Aの一対の溝壁26b、26bのうち、加振点36に最も近い溝壁26bのタイヤ半径方向の中央位置37bで測定されている。
本実施形態の物理量は、加振点36でのタイヤ周方向の振動加速度、及び、トレッド部20aの溝26の表面の振動加速度である場合が例示されたが、このような態様に限定されるわけではない。例えば、タイヤモデル20の上下軸力や前後軸力等が含まれてもよい。
次に、本実施形態のシミュレーション工程S5では、コンピュータ1が、予め定められた転動終了時間が経過したか否かを判断する(工程S54)。転動終了時間については、例えば、評価される振動特性等に基づいて、適宜設定される。工程S54において、転動終了時間が経過したと判断された場合(工程S54において、「Y」)、次の評価工程S6が実施される。他方、転動終了時間が経過していないと判断された場合(工程S54において、「N」)、単位時間Txを一つ進めて(工程S55)、第2転動工程S53及び工程S54が再度実施される。これにより、シミュレーション工程S5では、タイヤモデル20が突起モデル31に接触してから転動終了時間が経過するまで、タイヤ2の振動特性に関する物理量を計算することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、振動に関する物理量に基づいて、タイヤ2の振動性能を評価する(評価工程S6)。評価工程S6では、加振点36での振動加速度(図14(a)に示す)、溝底26aの振動加速度(図14(b)に示す)、及び、溝壁26bでの振動加速度(図14(c)に示す)に基づいて、タイヤ2の振動性能が評価される。
評価工程S6では、図14(a)に示した加振点36での振動加速度の大きさや振動加速度の減衰率の大きさに基づいて、タイヤ2の固有振動特性が評価される。また、評価工程S6では、図14(b)、(c)に示した溝底26aの振動加速度及び溝壁26bの振動加速度の大きさや、各振動加速度の減衰率の大きさに基づいて、タイヤ2の振動性能に関連するノイズ性能(例えば、気柱共鳴音)が評価される。
評価工程S6において、タイヤモデル20の振動性能が良好であると判断された場合(評価工程S6で、「Y」)、タイヤモデル20に基づいて、タイヤ2が製造される(工程S7)。他方、タイヤモデル20の振動性能が良好でないと判断された場合(評価工程S6で、「N」)、タイヤ2の設計因子が変更され(工程S8)、工程S1〜工程S6が再度実施される。これにより、本発明では、振動性能が優れるタイヤ2を確実に設計することができる。
図5に示されるように、本実施形態の突起モデル31は、路面モデル28とともに回転しない。このため、路面モデル28を転動するタイヤモデル20は、突起モデル31の表面を摺動する。タイヤモデル20と突起モデル31との間に、摩擦係数が定義されている場合、タイヤモデル20と突起モデル31との摩擦が、タイヤモデル20の振動特性に影響が生じるおそれがある。
図15は、本発明の他の実施形態の境界条件入力工程S4の処理手順を示すフローチャートである。この実施形態の境界条件入力工程S4では、シミュレーション工程S5に先立ち、コンピュータ1に、突起モデル31とタイヤモデル20との間の摩擦係数を零に設定する工程S44がさらに含まれる。このように、突起モデル31とタイヤモデル20との間の摩擦係数を零に設定することにより、タイヤモデル20と突起モデル31との摩擦が、タイヤモデル20の振動特性に影響するのを防ぐことができるため、タイヤ2の振動性能を精度よく評価することができる。
本実施形態では、図2に示した円筒状の路面16に基づいて、路面モデル28(図5に示す)設定されたが、このような態様に限定されるわけではない。路面モデル28は、平面状に設定されてもよい。このような路面モデル28には、走行速度Vに対応する並進速度(図示省略)が設定されることにより、タイヤモデル20を路面モデル28上に転動させることができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図3に示した基本構造を有するタイヤTa、及び、図3に示した基本構造を有し、かつ、下記の振動吸収材を有するタイヤTb、Tcが製造された。各タイヤTa、Tb、Tcが下記リムに装着され、下記内圧が充填されて、乗用車(2000cc、FF車)の全輪に装着された。そして、アスファルト路面のテストコースを通過速度80km/hで50mの距離をエンジンオフで惰行走行させるとともに、コースの中間点において走行中心線から横に7.5mを隔てて、かつ路面から高さ1.2mの位置に設置したマイクロホンにより通過騒音の最大レベルdB(A)が測定された(実験例)。評価は、タイヤTaを100とする指数で表示している。数値が小さいほど、タイヤの振動性能(ノイズ性能)が良好であることを示している。
図4、図8及び図9に示した処理手順に従って、タイヤTa、Tb、Tcがそれぞれモデル化したタイヤモデルMa、Mb、Mcが、突起モデルのないスムースな路面モデルに転動された。そして、各タイヤモデルMa、Mb、Mcが予め定められた転動状態になったときに、各タイヤモデルMa、Mb、Mcと接触するように、路面モデルの表面から突起モデルを突出させる突出工程が実施された(実施例)。
比較のために、各タイヤモデルMa、Mb、Mcが、突起モデルが予め設けられた路面モデルに転動され、各タイヤモデルMa、Mb、Mcが突起モデルに周期的に接触された(比較例)。
そして、実施例及び比較例のシミュレーション方法において、各タイヤモデルMa、Mb、Mcの各溝の表面(溝底)の振動加速度の範囲(即ち、最大値と最小値との差)が計算された。評価は、タイヤモデルMaを100とする指数で表示している。数値が小さいほど、振動性能(ノイズ性能)が良好であることを示している。共通仕様は、次のとおりである。テスト結果を、表1に示す。
タイヤサイズ:235/45R18 94Y
リムサイズ:8.0J×18.0
内圧:1.795kgf/cm2
荷重:469.07kgf
タイヤTbの振動吸収材:カーカスプライとインナーライナーゴムとの間に配置
タイヤTcの振動吸収材:バンド層とトレッド接地面との間に配置
テストの結果、実施例のタイヤモデルMa〜Mcのノイズ性能の優劣は、実験例のタイヤTa〜Tcのノイズ性能の優劣と一致した。他方、比較例のタイヤモデルMa〜Mcのノイズ性能の優劣は、実験例のタイヤTa〜Tcのノイズ性能の優劣と部分的に一致しなかった。従って、実施例のシミュレーション方法は、タイヤを実際に製造しなくても、コンピュータを用いて、タイヤの振動性能を正確に評価することができた。