以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)では、コンピュータを用いて、タイヤの摩耗状態が計算される。
図1は、タイヤのシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んでいる。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。したがって、コンピュータ1は、タイヤのトレッド部の摩耗状態を計算するシミュレーション装置として構成される。
図2は、タイヤの一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とを含んで構成されている。
トレッド部2aには、タイヤ周方向に連続してのびる主溝9が設けられている。これにより、トレッド部2aは、主溝9で区分された複数の陸部10が設けられている。また、各陸部10には、主溝9、9の間、又は、主溝9とトレッド接地端2tとの間をタイヤ軸方向にのびる横溝(図示省略)が設けられている。
本明細書において、「トレッド接地端2t」とは、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した状態のタイヤ2に、正規荷重を負荷してキャンバー角0度にて平坦面に接地させたときのトレッド接地面のタイヤ軸方向の最外端とする。
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" とする。
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば"最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とするが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
カーカス6は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aを含んで構成されている。カーカスプライ6Aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含んでいる。本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム8が配されている。カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75~90度の角度で配列されたカーカスコードを有している。
ベルト層7は、ベルトコードを、タイヤ周方向に対して例えば10~35度の角度で傾けて配列した内、外2枚のベルトプライ7A、7Bを含んで構成されている。これらのベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わされている。
図3は、タイヤのシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、タイヤ2を有限個の要素で離散化したタイヤモデルが入力される(工程S1)。図4は、タイヤモデル11及び路面モデル21の一例を示す斜視図である。図5は、タイヤモデル11の一例を示す断面図である。なお、図4では、タイヤモデル11の主溝モデル12(図5に示す)、横溝モデル(図示省略)、及び、メッシュ(即ち、要素F(i))を省略して表示している。
図5に示されるように、工程S1では、タイヤ2(図2に示す)に関する情報に基づいて、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化している。これにより、タイヤモデル11が設定される。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法を適宜採用することができるが、本実施形態では有限要素法が採用されている。要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素又は6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。
本実施形態の要素F(i)は、複数個の節点15と、節点15、15間を連結する辺16とを有している。辺16は、直線状にのびている。このような各要素F(i)には、要素番号、節点15の番号、節点15の座標値及び材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。
タイヤモデル11のトレッド部11aには、主溝9(図2に示す)が再現された主溝モデル12と、陸部10(図2に示す)が再現された陸部モデル13と、横溝(図示省略)が再現された横溝モデル(図示省略)とが設定されている。主溝モデル12及び横溝モデルには、溝底12bと、溝底12bからトレッド接地面14にのびる溝壁12sとが設けられている。主溝モデル12及び横溝モデルについては、計算時間の短縮など必要に応じて省略されてもよい。
要素F(i)の節点15は、後述の図8(a)に示されるように、第1節点17と、隣接節点18とを含んでいる。第1節点17は、節点15のうち、タイヤモデル11のトレッド接地面14を構成する節点である。隣接節点18は、第1節点17と辺16を介して隣接する節点である。なお、隣接節点18には、第1節点17とトレッド接地面14を構成する辺16を介して隣り合う他の第1節点17も含まれる。これらの隣接節点18のうち、トレッド接地面14よりも内側に位置し、かつ、第1節点17と辺16を介して隣り合う節点を、第2節点19として特定される。
図5に示されるように、トレッド接地面14は、タイヤモデル11(トレッド部11a)の外面のうち、後述の路面モデル21(図4に示す)に接地する部分である。このため、トレッド接地面14には、後述の摩耗状態の計算によって、路面モデル21と接地すれば、溝壁12s、溝底12b、溝底が隆起したタイバー(図示省略)、及び、トレッド接地端11tからタイヤ半径方向の内方にのびるバットレス面11uが含まれてもよい。タイヤモデル11は、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1に、路面(図示省略)をモデル化した路面モデル21(図4に示す)が入力される(工程S2)。
工程S2では、図4に示されるように、路面(図示省略)に関する情報に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化している。これにより、工程S2では、路面モデル21が設定される。
要素G(i)は、変形不能に設定された剛平面要素からなる。この要素G(i)には、複数の節点22と、節点22、22間を連結する辺23とが設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点22の座標値等の数値データが定義される。
本実施形態では、路面モデル21として、平滑な表面を有するものが例示されたが、必要に応じて、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設けられても良い。路面モデル21は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、路面モデル21を転動するタイヤモデル11を計算する(前処理工程S3)。図6は、前処理工程S3の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の前処理工程S3では、先ず、図4及び図5に示されるように、タイヤモデル11を路面モデル21に接地させるための境界条件が定義される(工程S31)。境界条件としては、例えば、タイヤモデル11の内圧条件、負荷荷重条件L、キャンバー角、及び、タイヤモデル11と路面モデル21との摩擦係数等が設定される。さらに、境界条件としては、走行速度Vに対応する角速度V1、並進速度V2及び旋回角度(図示省略)が設定される。なお、並進速度V2は、タイヤモデル11が路面モデル21に接地している面での速度である。これらの条件は、コンピュータ1(図1に示す)に入力される。
次に、本実施形態の前処理工程S3では、図5に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル11が計算される(工程S32)。工程S32では、先ず、タイヤ2のリム26(図2に示す)がモデル化されたリムモデル27によって、タイヤモデル11のビード部11c、11cが拘束される。さらに、タイヤモデル11は、内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて変形計算される。これにより、内圧充填後のタイヤモデル11が計算される。内圧は、例えば、タイヤ2(図2に示す)が基づいている規格を含む規格体系において、各規格が定めている空気圧が設定されるのが望ましい。
タイヤモデル11の変形計算は、各要素F(i)の形状及び材料特性などに基づいて、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス及び減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらを微小時間(単位時間T(x)(x=0、1、…))毎にタイヤモデル11の変形計算を行う。このようなタイヤモデル11の変形計算(後述するタイヤモデル11の転動計算を含む)は、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間T(x)については、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
次に、本実施形態の前処理工程S3では、荷重負荷後のタイヤモデル11が計算される(工程S33)。工程S33では、図4に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル11と、路面モデル21との接触が計算される。次に、工程S33では、負荷荷重条件L、キャンバー角(図示省略)及び摩擦係数に基づいて、タイヤモデル11の変形が計算される。これにより、工程S33では、路面モデル21に接地した荷重負荷後のタイヤモデル11が計算される。
次に、本実施形態の前処理工程S3では、路面モデル21を転動するタイヤモデル11が計算される(工程S34)。工程S34では、先ず、図4に示されるように、角速度V1がタイヤモデル11に設定される。さらに、路面モデル21には、並進速度V2が設定される。これにより、工程S34では、路面モデル21の上を転動しているタイヤモデル11を計算することができる。
タイヤモデル11の転動条件としては、例えば、タイヤ2(図2に示す)の走行状態に応じて、自由転動、制動、駆動及び旋回など適宜設定することができる。これらの転動条件は、タイヤモデル11に角速度V1及びスリップ角(図示省略)が適宜定義されることで、容易に設定することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、トレッド接地面14の摩耗に関連付けられた物理量を計算する(工程S4)。工程S4では、タイヤモデル11の節点15のうち、トレッド接地面14を構成する第1節点17(図5に示す)について、摩耗に関連付けられた物理量(以下、単に「物理量」ということがある。)が計算される。
本実施形態の工程S4で計算される物理量は、第1節点17での摩耗エネルギーである。本実施形態の工程S4では、図4に示されるように、路面モデル21を転動するタイヤ2に基づいて、第1節点17(図5に示す)の摩耗エネルギーEが計算される。なお、摩耗に関連付けられた物理量としては、摩耗エネルギーEに限定されるわけではなく、例えば、せん断力やすべり量が単独で用いられてもよい。
工程S4では、第1節点17(図5に示す)の摩耗エネルギーEを計算するために、路面モデル21に接地している第1節点17(図5に示す)において、せん断力P及びすべり量Qが計算される。せん断力Pは、タイヤ軸方向xのせん断力Px、及び、タイヤ周方向yのせん断力Pyを含んでいる。すべり量Qは、せん断力Pxに対応するタイヤ軸方向xのすべり量Qx、及び、せん断力Pyに対応するタイヤ周方向yのすべり量Qyが含まれる。これらの各第1節点17のせん断力Px、Py及びすべり量Qx、Qyは、シミュレーションの単位時間T(x)毎に計算される。
そして、各第1節点17のせん断力Px(i)、Py(i)と、該せん断力Px(i)、Py(i)に対応するすべり量Qx(i)、Qy(i)とが乗じられ、その乗じた値が各第1節点17の接地入から接地出まで積算される。これにより、単位時間T(x)での各第1節点17の摩耗エネルギーEが計算される。各第1節点17の摩耗エネルギーEは、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法は、コンピュータ1が、タイヤモデル11の摩耗状態を計算する(摩耗計算工程S5)。本実施形態の摩耗計算工程S5では、後述の図8(a)に示されるように、タイヤモデル11の節点15のうち、第1節点17を第2節点19側に移動させて、タイヤモデル11(トレッド部11a)の摩耗状態を計算している。
図7は、摩耗計算工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。図8は、摩耗計算工程に関し、(a)は、第1節点17が移動する前の状態の一例を説明する図、(b)は、第1節点17が移動した後の状態の一例を説明する図である。なお、図8(a)では、一つの第1節点17の移動量Mのみを示している。図8(b)では、(a)に示した第1節点17を含む全ての第1節点17を移動した後の状態を示している。
本実施形態の摩耗計算工程S5では、先ず、図8(a)に示されるように、第1節点17の移動予定位置20が決定される(工程S51)。移動予定位置20は、第1節点17を第2節点19側に移動させるのに先立ち、予め定められたルールに基づいて決定される第1節点17の移動先である。ルールについては、後述する。
工程S51では、先ず、各第1節点17の摩耗エネルギー(摩耗に関連付けられた物理量)Eに基づいて、各第1節点17の移動量Mが計算される。本実施形態の移動量Mは、第1節点17と第2節点19とを連結する辺16に沿った移動量として定義される。
各第1節点17の移動量Mは、第1節点17の摩耗エネルギーEが、摩耗係数Kで乗じられることによって計算される。摩耗係数Kは、図2に示したタイヤ2のトレッドゴム2gの単位摩耗エネルギー当たりの摩耗量を示す係数である。摩耗係数Kは、例えば、タイヤ2を用いた実車試験等に基づいて予め設定される。したがって、移動量Mは、第1節点17に対応するタイヤ2のトレッド部2a(図2に示す)の各位置での摩耗量として計算される。移動量Mは、コンピュータ1に記憶される。
次に、工程S51では、予め定めれたルールに基づいて、第1節点17の移動予定位置20が探索される。ルールでは、第1節点17と隣接する複数の隣接節点18のうち、予め定められた条件に適合する一つの隣接節点18を第2節点19として特定し、特定された第2節点19と第1節点17とを連結する辺16の上、又は、第2節点19よりも内側の節点15と第2節点19とを連結する辺16の上において、移動予定位置20を決定する。
第2節点19を特定するための条件については、適宜設定することができる。本実施形態の条件は、隣接節点18がトレッド接地面14を構成しないというものである。
図8(a)に示した第1節点17には、第1節点17と辺16を介して隣接する隣接節点18が二つ存在する。これらの隣接節点18のうち、ルールの条件(即ち、隣接節点18がトレッド接地面14を構成しない)に適合する隣接節点18は、一つのみである。このような場合、工程S51では、ルールの条件に適合する一つの隣接節点18を第2節点19として特定し、第1節点17と第2節点19とを連結する辺16の上、又は、第2節点19よりも内側の節点15と第2節点19とを連結する辺16の上の位置に、第1節点17の移動予定位置20が決定される。
本実施形態の工程S51では、上記の辺16に沿って、第1節点17から第2節点19側に向かって、第1節点17の摩耗エネルギーEから計算された移動量Mを離間させた位置が、第1節点17の移動予定位置20として決定される。このような移動予定位置20に第1節点17を移動させることにより、第1節点17をタイヤ半径方向内側に移動させることができるため、タイヤモデル11の摩耗状態を計算することができる。決定された移動予定位置20は、コンピュータ1に記憶される。
ルールには、互いに異なる複数の条件が組み合わされてもよい。上述の条件と組み合わされる他の条件としては、例えば、隣接節点18がタイヤ半径方向の最も内側に位置するというものである。このような条件が組み合わされることにより、例えば、トレッド接地面14を構成しない複数の隣接節点18が存在する場合(図示省略)でも、それらの隣接節点18のうち、タイヤ半径方向の最も内側に位置する一つの隣接節点18を、第2節点19として特定することができる。
次に、本実施形態の摩耗計算工程S5では、移動予定位置20が第2節点19よりもトレッド接地面14側に位置するか否かが判断される(工程S52)。
工程S52において、移動予定位置20が第2節点19よりもトレッド接地面14側に位置すると判断された場合(工程S52において、「Y」)、工程S53が実施される。一方、工程S52において、移動予定位置20が第2節点19よりも内側(即ち、第2節点19よりも内側の節点15と第2節点19とを連結する辺16の上)に位置すると判断された場合(工程S52において、「N」)、工程S54及び工程S55が実施される。
次に、工程S53では、移動予定位置20と第2節点19との間の距離D1が予め定められた閾値Uよりも大きいか否かが判断される。本実施形態において、距離D1及び閾値Uは、第1節点17と第2節点19とを連結する辺16に沿って測定されているが、例えば、タイヤ半径方向に沿って測定されてもよい。
工程S53において、距離D1が閾値Uよりも大きいと判断された場合(工程S53において、「Y」)、図8(b)に示されるように、第1節点17を移動予定位置20に移動させる(工程S56)。移動した第1節点17は、コンピュータ1に記憶される。
図9は、摩耗計算工程に関し、(a)は、第1節点17が移動する前の状態の他の例を説明する図、(b)は、第1節点17が移動した後の状態の他の例を説明する図である。なお、図9(a)では、一つの第1節点17の移動量Mのみを示している。図9(b)では、(a)に示した第1節点17を含む全ての第1節点17を移動した後の状態を示している。
図9(a)に示されるように、工程S53において、距離D1が閾値U以下であると判断された場合(工程S53において、「N」)、工程S54及び工程S55が実施される。
図9(b)に示されるように、工程S54では、第1節点17を削除し、かつ、第2節点19を移動予定位置20(図9(a)に示す)に移動させて、移動した第2節点19を新たな第1節点17として定義している。新たに定義された第1節点17は、コンピュータ1に記憶される。
次に、工程S55では、削除した第1節点17と連結していた辺16(図9(a)に示す)を削除して、新たに定義された第1節点17と、削除された辺16と連結していた他の第1節点17との間に、新たな辺16が定義されるのが望ましい(工程S57)。これにより、工程S55では、トレッド接地面14を構成する新たな辺16を有する要素F(i)を再定義することができる。新たな辺16は、コンピュータ1に記憶される。
このように、本実施形態のシミュレーション方法では、工程S56後の第1節点17と第2節点19との間の距離D1(図8(b)に示す)、及び、工程S54後の新たに定義された第1節点17とその第1節点17と辺16を介して隣り合う第2節点19との距離D2(図9(b)に示す)を、閾値U(図8(a)及び図9(a)に示す)よりも大きくすることができる。これにより、本実施形態のシミュレーション方法は、第1節点17(図8(b)に示す)、及び、新たに定義された第1節点17(図9(b)に示す)を含む要素F(i)の厚さ(即ち、距離D1及びD2)が小さく定義されるのを防ぐことができる。
なお、要素F(i)の厚さが小さく定義されると、要素潰れの発生や、要素F(i)のアスペクト比の増大を招き、要素F(i)の物理量(例えば、摩耗エネルギーなど)の計算精度が低下する傾向がある。本実施形態のシミュレーション方法は、厚さが小さく定義された要素F(i)が定義されるのを防ぐことができるため、要素F(i)で計算される物理量(例えば、応力、歪及び摩耗エネルギーなど)の計算精度を高めることができる。
さらに、本実施形態のシミュレーション方法では、移動量M(移動予定位置20)を維持したまま、第1節点17を移動予定位置20に移動、又は、移動予定位置20に移動した第2節点19を新たな第1節点17として定義することができるため、例えば、厚さが小さく定義された要素F(i)を単に削除する場合に比べて、移動量M(移動予定位置20)を、タイヤモデル11の摩耗状態に確実に反映することができる。したがって、本実施形態のシミュレーション方法は、タイヤの摩耗状態を高い精度でシミュレーションすることができる。
閾値Uについては、適宜設定することができる。なお、閾値Uが小さいと、要素F(i)の厚さが小さく定義されるおそれがある。逆に、閾値Uが大きいと、第2節点19から新たに定義された第1節点17(図9(b)に示す)を含む要素F(i)の厚さ(距離D2)が大きくなり、計算精度が低下するおそれがある。このような観点より、閾値Uは、0.1~0.3mmに設定されるのが望ましい。
図10は、摩耗計算工程に関し、(a)は、第1節点17が移動する前の状態のさらに他の例を説明する図、(b)は、第1節点17が移動した後の状態のさらに他の例を説明する図である。なお、図10(a)では、一つの第1節点17の移動量Mのみを示している。図10(b)では、(a)に示した第1節点17を含む全ての第1節点17を移動した後の状態を示している。
図10(a)に示されるように、工程S52において、移動予定位置20が第2節点19よりも内側に位置すると判断された場合(工程S52で、「N」)に、工程S54及び工程S55が実施される。工程S54では、図10(b)に示されるように、第1節点17を削除し、かつ、第2節点19を移動予定位置20に移動させて、移動した第2節点19を新たな第1節点17として定義する。これにより、摩耗計算工程S5では、移動予定位置20が第2節点19よりも内側に位置するような大きな摩耗状態を計算することができる。新たに定義された第1節点17は、コンピュータ1に記憶される。
工程S55では、削除した第1節点17と連結していた辺16(図10(a)に示す)を削除して、新たに定義された第1節点17と、削除された辺16と連結していた他の第1節点17との間に、新たな辺16が定義される。これにより、工程S55では、トレッド接地面14を構成する新たな辺16を有する要素F(i)を再定義することができる。新たな辺16は、コンピュータ1に記憶される。
なお、工程S51において、単位時間T(x)ごとの移動量Mが小さく計算される(即ち、移動予定位置20が第2節点19よりも内側に位置しない)場合には、移動予定位置20が第2節点19よりもトレッド接地面14側に位置するか否かを判断する工程S52を省略することができる。
次に、本実施形態の摩耗計算工程S5では、全ての第1節点17について、第1節点17を移動予定位置20に移動、又は、第1節点17を削除して、移動予定位置20に移動した第2節点19を新たな第1節点17として定義されたか否かが判断される(工程S57)。工程S57での判断が肯定される場合(工程S57において、「Y」)には、摩耗計算工程S5の一連の処理が終了し、次の工程S6(図3に示す)が実施される。
他方、工程S57での判断が否定される場合(工程S57において、「N」)には、他の第1節点17を選択して(工程S58)、工程S51~工程S57が再度実施される。これにより、摩耗計算工程S5では、全ての第1節点17について、第1節点17を移動予定位置20に移動、又は、第1節点17を削除して、移動予定位置20に移動した第2節点19を新たな第1節点17として定義することができる。したがって、本実施形態の摩耗計算工程S5では、タイヤモデル11(トレッド部11a)の摩耗状態を計算することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、予め定められた終了条件を満足したか否かが判断される(工程S6)。終了条件については、適宜設定することができ、例えば、計算終了時間や、タイヤモデル11(トレッド部11a)の摩耗量などを設定することができる。
工程S6において、終了条件を満足したと判断された場合(工程S6で、「Y」)、次の工程S7が実施される。他方、工程S6において、終了条件を満たしていないと判断された場合(工程S6で、「N」)、摩耗したタイヤモデル11に基づいて、単位時間T(x)を一つ進めて(工程S8)、工程S4~工程S6が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法(シミュレーション装置1A(図1に示す))では、終了条件を満たすまで継続して転動したタイヤモデル11(トレッド部11a)の摩耗状態を、擬似的に計算することができる。
次に、工程S7では、コンピュータ1が、トレッド部11aの摩耗状態が良好か否かを評価する。摩耗状態が良好か否かの評価基準については、例えば、タイヤモデル11(トレッド部11a)の摩耗量の大きさや、所定の摩耗量に達するまでの計算ステップ(摩耗の進展ステップ)数等に基づいて、適宜設定することができる。本実施形態の工程S7では、例えば、陸部モデル13(図5に示す)でタイヤ周方向に隔設されたブロックモデル(図示省略)の偏摩耗(ヒールアンドトゥ摩耗)等の大きさに基づいて、摩耗状態が、良好か否かが評価される。
本実施形態の工程S7では、先ず、摩耗後のタイヤモデル11について、ブロックモデル(図示省略)の先着側の外径と、後着側の外径との差(ヒールアンドトゥ摩耗)が計算される。工程S7では、先着側の外径と後着側の外径との差が、予め定められた範囲内である場合に、摩耗状態が良好であると判断している。
工程S7において、トレッド部11aの摩耗状態が良好であると判断された場合(工程S7において、「Y」)、図2に示したタイヤ2の設計図(CADデータ)に基づいて、タイヤ2が製造される(工程S9)。他方、工程S7において、トレッド部11aの摩耗状態が良好でないと判断された場合(工程S7において、「N」)、タイヤ2(図2に示す)が再設計され(工程S10)、工程S1~工程S7が再度実施される。これにより、本実施形態のシミュレーション方法では、トレッド部2aの摩耗状態が良好なタイヤ2を確実に設計及び製造することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図3に示した処理手順に従って、タイヤモデルの摩耗状態が計算された(実施例及び比較例)。
実施例では、図7に示した処理手順に従って、第1節点の移動予定位置が第2節点よりもトレッド接地面側に位置し、かつ、距離が閾値以下である場合に、第1節点を削除し、かつ、第2節点を移動予定位置に移動して、移動した第2節点を新たな第1節点として定義する工程が実施された。
一方、比較例では、第1節点の移動予定位置が第2節点よりもトレッド接地面側に位置し、かつ、距離が閾値以下である場合でも、第1節点を移動予定位置に移動させる工程が実施された。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:215/55R17
リムサイズ:17×7J
内圧:230kPa
荷重:3.51kN
閾値U:0.2mm
テストの結果、実施例では、図9(b)に示されるように、第1節点を含む要素の厚さ(新たに定義された第1節点とその第1節点と辺を介して隣り合う第2節点19との距離D2)が閾値U(図9(a)に示す)以下に小さく定義されるのを防ぐことができ、要素の物理量の計算精度を高めることができた。
図11は、比較例の第1節点が移動した後の状態の一例を説明する図である。比較例では、第1節点を含む要素の厚さ(第1節点と第2節点との間の距離D3)が閾値U(図9(a)に示す)以下に小さく定義され、実施例に比べて、要素の物理量の計算精度を高めることができなかった。
さらに、実施例のシミュレーション後の摩耗状態は、比較例に比べて、シミュレーションと同一の条件で走行させた実際のタイヤの摩耗状態に近似した。したがって、実施例は、タイヤの摩耗状態を高い精度でシミュレーションすることができた。