JP5636776B2 - タイヤ形状予測法、タイヤ形状予測装置、およびプログラム - Google Patents

タイヤ形状予測法、タイヤ形状予測装置、およびプログラム Download PDF

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Description

本発明は、タイヤのトレッド部のクラウン形状を予測するタイヤ形状予測法、タイヤ形状予測装置、およびプログラムに関する。
タイヤの摩耗特性は、タイヤの使用寿命に大きな影響を与える重要な要素である。従来より、タイヤの摩耗特性の改善のために、室内実験によりタイヤのトレッド部の表面が路面から受ける摩擦エネルギを計測して摩耗を定性的に予測するアプローチが行われてきた。あるいは、コンピュータを用いてタイヤモデルを路面モデル上で転動させてトレッド部が受ける摩擦エネルギを計算することによりトレッド部の摩耗を定量的に予測するアプローチが行われてきた。
例えば、摩耗特性をより精度良く解析するタイヤのシミュレーション方法が知られている(特許文献1)。
当該文献1のシミュレーション方法では、タイヤを有限個の要素に分割してトレッドパターン部を有するタイヤモデルを設定するモデル設定ステップと、予め定めた境界条件に基づいてタイヤモデルを仮想路面で転動させるシミュレーションを行ってタイヤモデルの摩耗特性を取得する摩耗シミュレーションステップと、前記摩耗特性に基づいて前記トレッドパターン部のトレッド面を凹ませてタイヤモデルを摩耗状態に修正するモデル修正ステップとを含み、かつ、前記修正されたタイヤモデルを用いてさらに前記摩耗シミュレーションステップが行われる。
特開2005−271661号公報
上記シミュレーション方法は、例えば摩耗前の新品時のトレッド部のクラウン形状からトレッド部が摩耗したクラウン形状を予測できる。しかし、トレッド部が理想的に摩耗するために、新品時のトレッド部のクラウン形状をどのように定めればよいかを知ることは難しい。摩耗前の新品時のトレッド部のクラウン形状を試行的に種々作成して、その中から理想に近い形態で摩耗するようなクラウン形状を探し出すことはできるが、この方法は膨大な試行と処理時間と煩雑な作業を要する。
そこで、本発明は、タイヤのトレッド部のクラウン形状を予測する際、従来とは別の方式により、効率よく摩耗前のトレッド部のクラウン形状を予測することができる、タイヤ形状予測法、タイヤ形状予測装置、および、プログラムを提供することを目的とする。
本発明の一態様は、タイヤのトレッド部のクラウン形状を予測するタイヤ形状予測方法であって、
タイヤのトレッド部の摩耗したクラウン形状を再現したタイヤの摩耗モデルを、タイヤモデルとして作成するステップAと、
作成したタイヤモデルが、路面を再現した路面モデル上を転がるときに、前記タイヤモデルが前記路面モデルから受ける摩擦エネルギを算出するステップBと、
前記摩擦エネルギに基づいて、前記トレッド部の摩耗量を算出するステップCと、
前記摩擦エネルギの算出に用いた前記タイヤモデルのトレッド部のクラウン形状に前記摩耗量の厚さを付加して摩耗前のトレッド部のクラウン形状を予測するステップDと、を有する。
その際、前記トレッド部の前記摩耗量は所定範囲内に含まれるように定められ、
前記ステップDでは、予測された前記摩耗前のトレッド部のクラウン形状を用いて摩耗前のタイヤモデルがさらに作成され、作成された前記摩耗前のタイヤモデルは、前記ステップBにおける摩擦エネルギの算出に用いるタイヤモデルとして用いられることにより、ステップB〜Dを繰り返し行うステップEを有する、ことが好ましい。
前記ステップBにおいて前記摩擦エネルギの算出を行う際、前記タイヤモデルを用いてコーナリング特性あるいは制駆動特性を計算することにより走行条件を定め、前記走行条件を前記タイヤモデルに与えて前記摩擦エネルギを算出する、ことが好ましい。
また、前記ステップCにおいて、前記摩耗量は、前記摩擦エネルギに定数を乗算することにより算出される、ことが好ましい。
前記ステップDにおいて、タイヤ幅方向における位置が異なる複数の点における摩耗量が求められ、摩耗量を求めた前記複数の点を用いて少なくとも2つ以上の代表点が定められ、定められた前記代表点から、前記摩耗量に基づいて摩耗前代表点の位置が予測され、予測された少なくとも2つ以上の摩耗前代表点を用いて前記トレッド部の摩耗前のクラウン形状が作成される、ことが好ましい。
本発明の別の一態様は、タイヤのトレッド部のクラウン形状を予測するタイヤ形状予測装置であって、
タイヤのトレッド部の摩耗したクラウン形状を再現したタイヤの摩耗モデルを、タイヤモデルとして作成する第1モデル作成部と、
作成したタイヤモデルが、路面を再現した路面モデル上を転がるときに、前記タイヤモデルが前記路面モデルから受ける摩擦エネルギを算出するエネルギ算出部と、
前記摩擦エネルギに基づいて、前記トレッド部の摩耗量を算出する摩耗量算出部と、
前記摩擦エネルギの算出に用いたタイヤモデルのトレッド部のクラウン形状に前記摩耗量の厚さを付加して摩耗前のトレッド部のクラウン形状を予測する形状予測部と、を有する。
本発明のさらに別の一態様は、タイヤのトレッド部のクラウン形状を、コンピュータに予測させるプログラムであって、
タイヤのトレッド部の摩耗したクラウン形状を再現したタイヤの摩耗モデルをタイヤモデルとして、コンピュータが作成する手順Aと、
前記タイヤモデルが、路面を再現した路面モデル上を転がるときに、前記タイヤモデルが前記路面モデルから受ける摩擦エネルギをコンピュータが算出する手順Bと、
前記摩擦エネルギに基づいて、前記トレッド部の摩耗量をコンピュータが算出する手順Cと、
前記摩擦エネルギの算出に用いた前記タイヤモデルのトレッド部のクラウン形状に前記摩耗量の厚さを付加して摩耗前のトレッド部のクラウン形状をコンピュータが予測する手順Dと、を有する。
上記タイヤ形状予測法、タイヤ形状予測装置、および、プログラムは、効率よく摩耗前のトレッド部のクラウン形状を予測することができる。例えば、上記タイヤ形状予測法、タイヤ形状予測装置、および、プログラムは、理想的に摩耗したトレッド部のクラウン形状を用いて、摩耗が理想的な形態で進むトレッド部の新品時のクラウン形状を予測することができる。
本発明の実施形態であるタイヤ形状予測装置の構成を示す構成図である。 図1に示すタイヤ形状予測装置で作成される、摩耗したクラウン形状を有するタイヤモデルの一例の図である。 図1に示すタイヤ形状予測装置で行われる、摩耗量に相当するトレッドゴムのトレッド部への付加を説明する図である。 (a),(b)は、図1に示すタイヤ形状予測装置で作成される摩耗前のタイヤモデルの要素を説明する図である。 図1に示すタイヤ形状予測装置で作成される新品時のクラウン形状の一例と摩耗したクラウン形状の一例を示す図である。 本発明の実施形態であるタイヤ形状予測方法のフローの一例のフローチャートである。 図6に示すフローで用いる節点面積を説明する図である。 図6に示すフローで用いる摩耗前代表点を説明する図である。
以下、本発明のタイヤ形状予測法、タイヤ形状予測装置、およびプログラムについて詳細に説明する。
(タイヤ形状予測装置)
図1は、本実施形態の予測装置10の構成を示す構成図である。
予測装置10は、摩耗したタイヤのトレッド部のクラウン形状から摩耗前のトレッド部のクラウン形状を予測する。予測装置10は、トレッド部が摩耗したタイヤのクラウン形状を再現したタイヤモデルを、別途作成された路面モデル上に転動させる。さらに、予測装置10は、転動するタイヤモデルが路面モデルから受ける摩擦エネルギを用いて、トレッド部がこの摩耗形態にいたる摩耗前のクラウン形状を予測する。
予測装置10がクラウン形状を予測するタイヤは、例えば乗用車用タイヤあるいは重荷重用(バス、トラック用)タイヤ等が含まれ、タイヤサイズに限定されない。
予測装置10は、CPU12、バス14、メモリ16、および、入出力インターフェース部18を主に有するコンピュータを含む。予測装置10は、入出力インターフェース部18を通して、マウスやキーボード等の入力操作系20と、ディスプレイやプリンタ等の出力装置22と接続されている。予測装置10は、メモリ16に記憶されたプログラムを呼び出して、プログラムを実行することにより、第1モデル作成部24、摩擦エネルギ算出部26、摩耗量算出部28、形状予測部30、第2モデル作成部32、設定部34が形成されて、処理モジュール群36が形成される。
第1モデル作成部24は、複数の要素によりタイヤを再現したタイヤモデルと、タイヤが接地する路面を再現した路面モデルとを、設定された条件に基づいて作成する。作成されるタイヤモデルは、図2に示すような3次元形状をなした有限要素法に基づいたタイヤモデルTMである。図2は、乗用車用タイヤを再現したタイヤモデルの一例を示している。タイヤモデルTMは、タイヤのトレッド部の摩耗したクラウン形状を再現したタイヤの摩耗モデルであり、以降で説明するように摩耗前のタイヤモデルを作成するための初期モデルとして扱われる。
図2に示される路面モデルRMは、図2に示すような剛体平面モデルあるいは、複数の要素で構成された有限要素モデルである。路面モデルの路面表面は、例えば凹凸形状を成してもよく、路面上に水や雪の層を再現してもよい。
摩擦エネルギ算出部26は、作成されたタイヤモデルTMが路面モデルRMを走行する転動シミュレーションを行う。
具体的には、摩擦エネルギ算出部26は、作成されたタイヤモデルTMに空気圧充填処理を施し、この処理後のタイヤモデルTMを路面モデルRMに接地させる接地処理を行う。この処理後、摩擦エネルギ算出部26は、タイヤモデルTMに転動処理を施す。空気圧充填処理、接地処理および転動処理は、予め設定されたシミュレーション条件に基づいて行われる。転動処理における走行条件は、一定の走行速度のスリップ角0およびスリップ率0の転動状態、コーナリング状態、制動状態、あるいは駆動状態を再現する条件を含む。具体的には、転動処理において、コーナリング状態、制動状態、あるいは駆動状態が再現される場合、摩擦エネルギ算出部26は、摩擦エネルギを算出するための走行条件を定めるために、タイヤモデルTMのコーナリング特性あるいは制駆動特性を算出する。摩擦エネルギ算出部26は、算出したコーナリング特性あるいは制駆動特性を用いて走行条件を定めて、この条件で転動シミュレーションを行うことにより、摩擦エネルギを算出する。
このときのコーナリング特性あるいは制駆動特性は、摩擦エネルギを算出するための転動処理とは別のプレ転動処理を行うことにより得られる。コーナリング特性は、例えばスリップ角を与えたときのコーナリングパワー(スリップ角1度における横力)を含み、制駆動特性は制駆動スティフネス(スリップ率0.1における制駆動力)を含む。摩擦エネルギ算出部26は、コーナリングパワーあるいは制駆動スティフネスをプレ転動処理によって算出する。さらに、摩擦エネルギ算出部26は、摩擦エネルギを算出するために、後続して行う転動処理において横力あるいは制駆動力が所定の値になるように、算出したコーナリングパワーあるいは制駆動スティフネススを用いてリップ角あるいはスリップ率等を走行条件として定める。
摩擦エネルギ算出部26は、転動状態のタイヤモデルTMの節点が路面モデルRMと接触するとき、この節点に作用するせん断力と、タイヤモデルTMの節点が路面モデルRMに対して相対的に滑るすべり量(相対変位)と、を算出し、算出したせん断力とすべり量を乗算し、この乗算結果を節点毎に算出する。さらに、摩擦エネルギ取得部26は、節点毎の乗算結果を後述する節点面積(図7参照)で除算することにより、各節点の単位摩擦エネルギを算出する。このように、摩擦エネルギ取得部26は、タイヤモデルTMの転動シミュレーションを行うことにより、単位摩擦エネルギを取得する。
摩耗量算出部28は、単位摩擦エネルギに基づいて、節点における摩耗量を求める。
具体的には、メモリ16に記憶されている基準摩耗量および基準単位摩擦エネルギ、摩耗指数を用いて、各節点における摩耗量(トレッド部の厚さの減少量)を求める。摩耗量は、下記式(1)を用いて単位摩擦エネルギが算出された節点毎に求められる。すなわち、摩耗量は、摩擦エネルギに定数を乗算することにより算出される。
(摩耗量)=(単位摩擦エネルギ)/(基準単位摩擦エネルギ)
×(基準摩耗量)×(摩耗指数) ・・・・・・・・・(1)
上記式の右辺における基準単位摩擦エネルギおよび基準摩耗量は予め与えられる。基準摩耗量は、基準とするトレッドゴム種のゴム部材が基準単位摩擦エネルギを受けたときの摩耗量であり、タイヤが、所定の走行距離を走行する間に基準単位摩擦エネルギを受けたときに生じる摩耗量である。基準摩耗量は走行距離に応じて変化する。例えば、算出される摩耗量が所定範囲内に入るように、例えば0.005mm〜0.1mmとなるように上記走行距離が定められて、基準摩耗量が設定される。なお、基準摩耗量を小さくすれば精度良く摩耗形態を再現できる。また、基準摩耗量を大きくすれば後述する転動シミュレーションの計算の繰り返し回数が少なくて済むので、計算時間を短縮することができる。基準摩耗量は、タイヤの摩耗を評価するために設定されるタイヤの走行条件、例えば、温度、湿度、シビアリティ、タイヤの走行距離、スリップ角、スリップ率等によって変化する量である。したがって、基準摩耗量は、温度、湿度、シビアリティ、タイヤの走行距離、スリップ率、スリップ角等に応じて値が定められている。
摩耗指数は、路面と接触するトレッドゴムの、基準とするトレッドゴム種に対する指数である。摩耗し易いトレッドゴムほど摩耗指数は大きくなる。この摩耗指数は、例えば、トレッドゴムの最表面に位置し、新品タイヤにおいて路面と接触する表面ゴム層と、摩耗が進展して、はじめて路面と接触を開始する内側ゴム層とが設けられているとき、タイヤの摩耗に伴って摩耗指数が変化することになる。
基準単位摩擦エネルギと基準摩耗量は、基準とするトレッドゴムを供えたタイヤを、室内試験機を用いて走行させて、走行距離毎の摩耗量を計測するとともに、このタイヤの転動シミュレーションにより単位摩擦エネルギを算出することにより、得られる。
形状予測部30は、摩擦エネルギの算出に用いたタイヤモデルTMのトレッド部のクラウン形状に摩耗量の厚さを付加して摩耗前のトレッド部のクラウン形状を予測する。
形状予測部30は、図3に示すように、各節点における摩耗量から補間によりタイヤ断面方向における位置が異なる複数の点における摩耗量を求め、この摩耗量を求めた点を用いて少なくとも2つ以上の代表点A1〜A5を定める。上記複数の点は、例えば、タイヤ幅方向(図3中の左右方向)において一定の間隔毎に定めたトレッド部表面の点である。
さらに、形状予測部30は、定めた代表点A1〜A5から、代表点A1〜A5における摩耗量の厚さに基づいて摩耗前代表点A1’〜A5’の位置を予測し、予測した摩耗前代表点A1’〜A5’を用いて、ベジェ曲線等の曲線を用いてトレッド部の摩耗前のクラウン形状を予測する。より詳細には、形状予測部30は、代表点A1〜A5の摩耗量のほかに、摩耗したクラウン形状におけるタイヤ周方向溝のエッジ部の点B1、B2における摩耗量も求め、この摩耗量を用いてエッジ部の摩耗前の点B1’、B2’を予測する。形状予測部30は、点B1’、B2’を、摩耗前代表点A1’〜A5’とともに用いて摩耗前のクラウン形状を予測する。
第2モデル作成部32は、予測したトレッド部の摩耗前のクラウン形状を有する摩耗前のタイヤモデルを作成する。第2モデル作成部32は、摩耗前のクラウン形状を有するタイヤモデルを作成する際、図4(a)に示すように、タイヤモデルのトレッド部における表面に位置する節点P11,P12を移動することにより、トレッド部の厚さを厚くする。あるいは、第2モデル作成部32は、図4(b)に示すように、節点P11〜P14に対して、タイヤモデルのトレッド部における表面に位置する節点P21,P22を新設することにより、トレッド部の厚さを厚くする。このように、節点P11,P12を移動するか、節点P21,P22を新設するかは、摩耗したタイヤモデルにおける節点P11〜P14で作成される要素の形状に依存する。節点P11〜P14で作成される要素が矩形形状である場合、この矩形形状が節点P11,P12の移動によって、アスペクト比(矩形形状の縦横比)が所定値を越す場合、第2モデル作成部32は、図4(b)に示すように、節点P11,P12の位置は維持したまま、節点P21,P22を新設する。アスペクト比が上記所定値を越えない場合、図4(a)に示すように、第2モデル作成部32は、節点P11,P12を移動する。アスペクト比(矩形形状の縦横比)が所定値を越す場合、節点P21,P22を新設して新たな要素を設けるのは、節点P11〜P14のアスペクト比を制限して精度の高い転動シミュレーションを維持するためである。
これにより、摩耗前のクラウン形状を有するタイヤモデルが作成される。
タイヤ走行および時間の経過に伴ってゴム部材が劣化するので、第2モデル作成部32が摩耗前のクラウン形状を有するタイヤモデルを作成する場合、このタイヤモデルに付与する材料定数の値を変更してもよい。本実施形態では、摩耗前のクラウン形状を有するタイヤモデルが作成されるので、例えば、ゴム部材の材料定数の値は新品時の材料定数の値に近づく。このように、材料定数の値を変更することにより、より現実に近い摩耗前のクラウン形状を有するタイヤを再現することができる。
作成された摩耗前のタイヤモデルは、摩擦エネルギ算出部26、摩耗量算出部28、形状予測部30、および、第2モデル作成部32による各処理に再度用いられる。
設定部34は、ディスプレイに表示された入力設定画面をオペレータが見ながら、マウスやキーボード等の入力操作系20を用いてなされた条件の入力に応じて、種々の条件を設定する。設定される条件は、例えば、タイヤモデルTMや路面モデルRMの作成のためのモデル設定条件、タイヤの転動シミュレーションのための走行条件、基準摩耗量の設定、基準単位摩擦エネルギ、摩耗指数等を含む。設定された条件は、メモリ16に記憶され、第1モデル作成部24、摩擦エネルギ算出部26、摩耗量算出部28、形状予測部30、および第2モデル作成部32等から適宜呼び出される。
このようにして、第2モデル作成部32にて、徐々にクラウン形状が新品時に近づく摩耗前のタイヤモデルが作成される。トレッド部の厚さの最大値が所定値を超えたとき、繰り返し行われる転動シミュレーションおよびタイヤモデルの作成は終了する。このときの最後に得られた摩耗前のタイヤモデルは新品時のタイヤを再現する。図5は、図2に示した摩耗したクラウン形状から、予測装置10を用いて作成した新品時のクラウン形状の例を示す。図5では、周方向溝が省略されて示されている。
このように、予測装置10は、算出された摩擦エネルギから摩耗前のトレッド部のクラウン形状を予測することができる。したがって、予測装置10は、効率よく摩耗前のトレッド部のクラウン形状を予測することができる。例えば、予測装置10は、理想的に摩耗したトレッド部のクラウン形状を用いることにより、摩耗が理想的な形態で進むトレッド部の新品時のクラウン形状を予測することができる。
なお、予測装置10は、タイヤ摩耗の予測をコンピュータに実行させるプログラムを備える。プログラムは、
トレッド部の摩耗したクラウン形状を再現したタイヤモデルTMを、コンピュータがタイヤモデルとして作成する手順Aと、
タイヤモデルTMが、路面を再現した路面モデル上を転がるときに、タイヤモデルTMが路面モデルから受ける摩擦エネルギをコンピュータが算出する手順Bと、
摩擦エネルギに基づいて、トレッド部の摩耗量をコンピュータが算出する手順Cと、
摩擦エネルギの算出に用いたタイヤモデルTMのトレッド部のクラウン形状に摩耗量の厚さを付加して摩耗前のトレッド部のクラウン形状をコンピュータが予測する手順Dと、を有する。
更に、予測されたトレッド部の摩耗前のクラウン形状を用いて摩耗前のタイヤモデルが作成され、作成されたタイヤモデルが、手順Bにて用いる上記タイヤモデルとして再度用いられる。
(タイヤ形状予測方法のフロー)
図6は、タイヤのクラウン形状の予測方法のフローを示す図である。
まず、設定部34は、オペレータからの入力を受け、この入力に基づいて、タイヤモデルの作成条件やタイヤの転動シミュレーションの走行条件等を含んだ各種条件を設定する。設定された条件はメモリ16に記憶される。
次に、第1モデル作成部24は、メモリ16から呼び出されたモデルの作成条件に応じて、摩耗したクラウン形状を有するタイヤモデルTMおよび路面モデルRMを作成する(ステップS10)。タイヤモデルTMは、例えば3次元有限要素モデルであり、各要素に材料定数が付与されている。タイヤモデルTMは例えば、理想的に摩耗したトレッド部のクラウン形状を再現したタイヤモデルである。理想的に摩耗したトレッド部のクラウン形状のデータは予めメモリ16に記録されている。第1モデル作成部24は、メモリ16に記憶されているデータを呼び出して、タイヤモデルTMを作成する。
路面モデルRMは、剛体モデル、あるいは有限要素により作られた有限要素モデルである。この有限要素モデルには材料定数が付与されている。また、路面モデルRMの表面に水膜や雪の層を再現したモデルが設けられてもよい。
次に、摩擦エネルギ算出部26は、タイヤモデルTMに対して走行条件を設定して、タイヤの転動シミュレーションを実行し、タイヤモデルTMが路面モデルRMから受ける摩擦エネルギを算出する(ステップS12)。
走行条件は、空気圧、負荷荷重、転動速度、横力、キャンバ角、制駆動力を含む。これらの条件は、予めメモリ16に記憶されており、摩擦エネルギ取得部26から呼び出されて設定される。
タイヤモデルTMの転動シミュレーションでは、タイヤモデルTMに対して空気圧充填処理、接地処理、および転動処理が実行される。
空気圧充填処理では、タイヤモデルTMのタイヤ空洞領域に面する内周面の各節点に、設定された圧力に相当する力が与えられる。
接地処理では、タイヤモデルTMが路面モデルRMに、所定の刻み幅で近づけられて、路面モデルRMとの間での接触の有無が判定される。さらに、接触するときの路面モデルRMからタイヤモデルTMの各節点が受ける力が算出され、この算出した力の合計値が設定された負荷荷重になるまで、タイヤモデルTMが路面モデルRMに近づけられる。
転動処理では、タイヤモデルTMに転動速度0から設定された転動速度まで徐々に速度が付与されることで、設定された転動速度で転動するタイヤモデルTMを作成する。このとき、タイヤモデルTMの各節点に、所定の時間刻み幅と転動速度とによって定まる変位を強制的に与えて回転させることで、路面モデルRMを転がる転動状態が再現される。この転動処理では、タイヤモデルTMの各節点に路面モデルRMとの間の摩擦係数が与えられ、タイヤモデルTMの路面モデルRMに対する粘着、滑りの状態が再現される。
上記転動処理では、コーナリング状態あるいは制駆動状態を再現する場合、スリップ角あるいはスリップ率が走行条件として定められる。具体的には、プレ転動処理として、スリップ角1度あるいはスリップ率0.1が付与されてタイヤモデルTMが転動され、コーナリング特性(コーナリングパワー)あるいは制駆動特性(制駆動スティフネス)が算出される。このコーナリング特性あるいは制駆動特性を用いて、横力あるいは制駆動力が所定の値になるようにスリップ角あるいはスリップ率が定められる。このスリップ角およびスリップ率は、後続する摩擦エネルギを算出するときの転動処理の走行条件として定められる。このように、スリップ角およびスリップ率を定めるのは、トレッド部の厚さが変化することにより、一定のスリップ角およびスリップ率では横力や制駆動力が変化するからである。実際、タイヤが車両に装着されて使用されるとき、横力あるいは制駆動力が所定の値を発揮されるようにハンドル操舵およびブレーキ操作を行う。
勿論、スリップ角およびスリップ率を固定にした走行条件を用いて、後続する転動処理を行ってもよい。
次に、設定された走行条件下の摩擦エネルギを算出するために、定めたスリップ角あるいはスリップ率を用いた転動処理が行われる。
こうして、転動シミュレーションが行われ、タイヤモデルTMが路面モデルRMから受ける各種力や変位の結果はメモリ16に記憶される。
さらに、摩擦エネルギ算出部26は、転動処理の結果をメモリ16から呼び出して摩擦エネルギを算出する。
まず、摩擦エネルギ算出部26は、タイヤモデルTMのトレッドゴムの表面に位置する各節点の中から、路面モデルRMと接触して接触力を受ける節点を見出し、この節点について、路面モデルRMから受けるせん断力を含む接触力を取得する。さらに、摩擦エネルギ算出部26は、上記節点における、路面モデルRMに対する相対変位であるすべり量を取得する。摩擦エネルギ算出部26は、取得したせん断力とすべり量を乗算し、乗算結果を節点の節点面積で除算することにより、各節点における単位摩擦エネルギを算出する。ここで、節点面積とは、以下のように定まる面積である。タイヤモデルTMが、例えば、図7に示すように、節点F1,F2,F4,F5を持つ要素X1と、節点F4,F5,F7,F8を持つ要素X2と、節点F5,F6,F8,F9を持つ要素X3と、節点F2,F3,F5,F6を持つ要素X4と、を有する場合を考える。この場合、節点面積は、節点F5を共有して節点とする要素X1〜X4の表面の面積を路面モデルRMと接触する節点の数で除算した値を、合計したものをいう。節点F5は要素X1〜X4で共有されるので、節点F5の節点面積の値は、図7中の要素X1の面積を節点の数4で除算した値と、図7中の要素X2の面積を節点の数4で除算した値と、図7中の要素X3の面積を節点の数4で除算した値と、図7中の要素X4の面積を節点の数4で除算した値とを合計した値となる。すなわち、節点面積の値は、図7中の斜線の面積をいう。
次に、摩耗量算出部28は、メモリ16に記憶された節点毎の単位摩擦エネルギを呼び出して、単位摩擦エネルギを用いて摩耗量を算出する(ステップS14)。算出した摩耗量は、上述の式(1)に沿って算出され、メモリ16に記憶される。
次に、形状予測部30は、摩耗前のクラウン形状を予測し、第2モデル作成部32は、予測された摩耗前のクラウン形状を再現したタイヤモデルを作成する(ステップS16)。
具体的には、形状予測部30は、メモリ16から、節点毎に算出された摩耗量を呼び出し、この摩耗量を用いて、互いに位置が異なるトレッド部の面上の複数の点における単位摩擦エネルギを求める。上記複数の点は、タイヤ幅方向に一定間隔で設けられたトレッド部の表面上の点である。さらに、形状予測部30は、摩耗量を求めた上記点を用いて少なくとも2つ以上の代表点を定め、定めた代表点から、摩耗量の厚さに基づいて摩耗前代表点を定める。形状予測部30は、予測した少なくとも2つ以上の摩耗前代表点を用いて、ベジェ曲線等によりトレッド部の摩耗前のクラウン形状を予測する。
上記代表点と上記摩耗量から摩耗前代表点を定めるとき、形状予測部30は、代表点から摩耗量の分だけ、タイヤ径方向外側に向かって延びた位置に摩耗前代表点を定める。なお、摩耗前代表点の位置は、代表点から上記タイヤ径方向外側に延びる位置であるが、これに限定されない。例えば、摩耗前代表点の位置は、クラウン形状が摩耗したタイヤモデルの代表点における法線方向外側に延びる位置であってもよい。あるいは、タイヤ回転軸上のタイヤ中心位置を中心とした放射方向外側に延びる位置であってもよい。
図8は、摩耗前代表を定める方法の例を示している。図8では、タイヤ幅方向に一定の間隔で並んだ上記複数の点の摩耗量と、摩耗前の位置が示されている。摩耗量は、タイヤ幅方向に沿って分布を持っているが、例えば、定められたタイヤ幅方向の範囲内にある複数の点における摩耗前の位置座標(タイヤ径方向外側に摩耗量分延長した位置座標)のうち、複数の点の摩耗前の位置座標の平均値を持つ点が、図3に示すように代表点A1〜A5とされる。形状予測部30は、この代表点をタイヤ幅方向の定められた範囲毎に求め、これらの代表点のそれぞれにおける摩耗量に応じてタイヤ径方向外側に延長した点を摩耗前代表点X(摩耗前代表点A1’〜A5’)として定める。
なお、代表点は、上記平均値を用いて定めたが、これに限定されない。例えば、代表点は、平均値の代わりに、最大値、最小値、あるいは、中間値(メジアン値)を用いtrもよい。
さらに、形状予測部30は、予測した摩耗前のクラウン形状を用いて摩耗前のタイヤを再現したタイヤモデルを作成する。タイヤモデルの作成の際、第2モデル作成部32は、図4(a)に示すように節点の位置を移動するか、図4(b)に示すように新たな節点を設けるか、を定める。
次に、第2モデル作成部32は、作成された摩耗前のタイヤモデルにおけるトレッド部の厚さ、具体的には、厚さの最大値が所定厚さを越えるか否かを判定する(ステップS18)。判定の結果が肯定である場合、第2モデル作成部32は、ステップS16で作成したタイヤモデルが新品時のタイヤを再現したモデルであるとして、タイヤモデルの予測を終了する。
一方、判定結果が否定である場合、ステップS16にて作成されたタイヤモデルは、ステップS12における処理対象のタイヤモデルとされ、再度、タイヤの転動処理が行われて摩擦エネルギの算出が行われる。このように、ステップS18における判定結果が肯定になるまで、ステップS12〜S16が繰り返し行われる。
なお、ステップS12では、タイヤの転動シミュレーションを行うとき、上述したように、走行条件としてスリップ角、スリップ率を定めるために、コーナリング特性(横力)あるいは制駆動特性(制駆動力)が算出されるが、この算出はステップS12を繰り返す度に常に行われなくてもよい。例えば、数回に1回行われるとよい。
このように、予測装置10およびタイヤ形状予測方法では、摩耗したクラウン形状を有するタイヤを再現したタイヤモデルが用いられて、効率よく摩耗前のクラウン形状を予測することができる。したがって、例えば、理想的にトレッド部が摩耗したクラウン形状を用いて、摩耗が理想的な形態で進む新品時のクラウン形状を予測することができる。
以上、本発明のタイヤ形状予測法、タイヤ形状予測装置、およびプログラムについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
10 予測装置
12 CPU
14 バス
16 メモリ
18 入出力インターフェース部
20 入力操作系
22 出力装置
24 第1モデル作成部
26 摩擦エネルギ算出部
28 摩耗量算出部
30 形状予測部
32 第2モデル作成部
34 設定部
36 処理モジュール群

Claims (7)

  1. タイヤのトレッド部のクラウン形状を予測するタイヤ形状予測方法であって、
    タイヤのトレッド部の摩耗したクラウン形状を再現したタイヤの摩耗モデルを、タイヤモデルとして作成するステップAと、
    作成したタイヤモデルが、路面を再現した路面モデル上を転がるときに、前記タイヤモデルが前記路面モデルから受ける摩擦エネルギを算出するステップBと、
    前記摩擦エネルギに基づいて、前記トレッド部の摩耗量を算出するステップCと、
    前記摩擦エネルギの算出に用いた前記タイヤモデルのトレッド部のクラウン形状に前記摩耗量の厚さを付加して摩耗前のトレッド部のクラウン形状を予測するステップDと、を有することを特徴とするタイヤ形状予測方法。
  2. 前記トレッド部の前記摩耗量は所定範囲内に含まれるように定められ、
    前記ステップDでは、予測された前記摩耗前のトレッド部のクラウン形状を用いて摩耗前のタイヤモデルがさらに作成され、作成された前記摩耗前のタイヤモデルは、前記ステップBにおける摩擦エネルギの算出に用いるタイヤモデルとして用いられることにより、ステップB〜Dを繰り返し行うステップEを有する、請求項1に記載のタイヤ形状予測方法。
  3. 前記ステップBにおいて前記摩擦エネルギの算出を行う際、前記タイヤモデルを用いてコーナリング特性あるいは制駆動特性を計算することにより走行条件を定め、前記走行条件を前記タイヤモデルに与えて前記摩擦エネルギを算出する、請求項1または2に記載のタイヤ形状予測方法。
  4. 前記ステップCにおいて、前記摩耗量は、前記摩擦エネルギに定数を乗算することにより算出される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤ形状予測法。
  5. 前記ステップDにおいて、タイヤ幅方向における位置が異なる複数の点における摩耗量が求められ、摩耗量を求めた前記複数の点を用いて少なくとも2つ以上の代表点が定められ、定められた前記代表点から、前記摩耗量に基づいて摩耗前代表点の位置が予測され、予測された少なくとも2つ以上の摩耗前代表点を用いて前記トレッド部の摩耗前のクラウン形状が作成される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ形状予測法。
  6. タイヤのトレッド部のクラウン形状を予測するタイヤ形状予測装置であって、
    タイヤのトレッド部の摩耗したクラウン形状を再現したタイヤの摩耗モデルを、タイヤモデルとして作成する第1モデル作成部と、
    作成したタイヤモデルが、路面を再現した路面モデル上を転がるときに、前記タイヤモデルが前記路面モデルから受ける摩擦エネルギを算出するエネルギ算出部と、
    前記摩擦エネルギに基づいて、前記トレッド部の摩耗量を算出する摩耗量算出部と、
    前記摩擦エネルギの算出に用いたタイヤモデルのトレッド部のクラウン形状に前記摩耗量の厚さを付加して摩耗前のトレッド部のクラウン形状を予測する形状予測部と、を有することを特徴とするタイヤ形状予測装置。
  7. タイヤのトレッド部のクラウン形状を、コンピュータに予測させるプログラムであって、
    タイヤのトレッド部の摩耗したクラウン形状を再現したタイヤの摩耗モデルをタイヤモデルとして、コンピュータが作成する手順Aと、
    前記タイヤモデルが、路面を再現した路面モデル上を転がるときに、前記タイヤモデルが前記路面モデルから受ける摩擦エネルギをコンピュータが算出する手順Bと、
    前記摩擦エネルギに基づいて、前記トレッド部の摩耗量をコンピュータが算出する手順Cと、
    前記摩擦エネルギの算出に用いた前記タイヤモデルのトレッド部のクラウン形状に前記摩耗量の厚さを付加して摩耗前のトレッド部のクラウン形状をコンピュータが予測する手順Dと、を有することを特徴とするプログラム。
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