以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。本発明は、空気入りタイヤの摩耗の評価に限られず、タイヤ全般の摩耗の評価に適用できる。
(実施形態1)
図1は、タイヤの回転軸を通る子午断面を示す断面図である。タイヤ1の子午断面には、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4、ビードコア5が現れている。タイヤ1は、母材であるゴムを、強化材であるカーカス2、ベルト3、あるいはベルトカバー4等の補強コードによって補強した複合材料の構造体である。ここで、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4等の、金属繊維や有機繊維等のコード材料で構成される層を、コード層という。
カーカス2は、タイヤ1に空気を充填した際に圧力容器としての役目を果たす強度メンバーであり、その内圧によって荷重を支え、走行中の動的荷重に耐えるようになっている。ベルト3は、キャップトレッドとカーカス2との間に配置されたゴム引きコードを束ねた補強コードの層である。なお、バイアスタイヤの場合にはブレーカと呼ぶ。ラジアルタイヤにおいて、ベルト3は形状保持及び強度メンバーとして重要な役割を担っている。
ベルト3の接地面側には、ベルトカバー4が配置されている。ベルトカバー4は、例えば有機繊維材料を層状に配置したものであり、ベルト3の保護層としての役割や、ベルト3の補強層としての役割を持つ。ビードコア5は、内圧によってカーカス2に発生するコード張力を支えているスチールワイヤの束である。ビードコア5は、カーカス2、ベルト3、ベルトカバー4及びトレッドとともに、タイヤ1の強度部材となる。
キャップトレッド6の接地面9側には、溝7が形成される。これによって、雨天走行時の排水性を向上させる。また、タイヤ1の側部はサイドウォール8と呼ばれており、ビードコア5とキャップトレッド6との間を接続する。また、キャップトレッド6とサイドウォール8との間はショルダー部Shである。次に、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法を実行する装置について説明する。
図2は、実施形態1に係るタイヤモデル作成装置の構成を示す説明図である。図2に示すタイヤモデル作成装置50が、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法を実行し、本実施形態に係るタイヤモデルを作成する。タイヤモデル作成装置50は、処理部50pと記憶部50mとを備えて構成される。処理部50pと記憶部50mとは、入出力部(I/O)59を介して接続してある。
処理部50pは、モデル作成部51と、転動解析部52と、摩擦エネルギー取得部53と、モデル変更部54と、制御条件判定部55とを含んで構成される。これらが本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法を実行する。モデル作成部51と、転動解析部52と、摩擦エネルギー取得部53と、モデル変更部54と、制御条件判定部55とは入出力部59に接続されており、相互にデータをやり取りできるように構成されている。
また、入出力部59には、端末装置60が接続されており、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法を実行するために必要なデータ、例えば、タイヤ1を構成するゴムの物性値や繊維材料の物性値、あるいは転動解析における境界条件や走行条件等を、端末装置60に接続された入力装置61によってタイヤモデル作成装置50へ与える。また、タイヤモデル作成装置50からタイヤモデル作成データを受け取り、端末装置60に接続された表示装置62に、タイヤモデルを表示する。さらに、入出力部59には、ネットワーク63を介して、各種データサーバー641、642等が接続されている。そして、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法を実行するにあたっては、処理部50pが各種データサーバー641、642等内に格納されている各種データベースを利用できるように構成されている。
記憶部50mには、後述する本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法の処理手順を含むコンピュータプログラムや、各種データサーバー641、642等から取得した、材料物性等のデータが格納されている。なお、材料物性等のデータは、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法を実行する際に用いる。ここで、記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成できる。また、処理部50pは、メモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成できる。また、記憶部50mは、処理部50pに内蔵されるものであっても、他の装置(例えばデータベースサーバ)内にあってもよい。このように、上記タイヤモデル作成装置50は、通信により端末装置60から処理部50pや記憶部50mにアクセスするものであってもよい。
上記コンピュータプログラムは、処理部50pが備えるモデル作成部51やモデル変更部54等へすでに記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法の処理手順を実現できるものであってもよい。また、このタイヤモデル作成装置50は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、処理部50pが備えるモデル作成部51、転動解析部52、摩擦エネルギー取得部53、モデル変更部54及び制御条件判定部55の機能を実現するものであってもよい。次に、このタイヤモデル作成装置50を用いて、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法を実現する手順を説明する。
図3は、実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法の手順を示すフローチャートである。図4は、タイヤモデルの全体を示す斜視図である。図5は、図4に示すタイヤモデルの子午断面を示す断面図である。図6−1は、転動解析の状態を示す模式図である。図6−2は、タイヤモデルの接地面における要素及び節点を示す模式図である。図7、図8は、実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法の説明図である。
本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法は、現時点における単位面積あたりの摩擦エネルギーに基づいて摩耗量を求め、これに基づいてタイヤモデルを変更する第1摩耗進行手順と、現時点における単位面積あたりの摩擦エネルギー及び現時点よりも過去における単位面積あたりの摩擦エネルギーから得られる摩擦エネルギーに基づいて摩耗量を求め、これに基づいてタイヤモデルを変更する第2摩耗進行手順と、を含む。
本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法を実行するにあたり、ステップS101において、まず、タイヤモデル作成装置50が備える処理部50pのモデル作成部51は、摩耗を評価するタイヤから、このタイヤの解析モデルであるタイヤモデル10を作成する。また、モデル作成部51は、タイヤモデル10が接地する路面の解析モデルである路面モデル20を作成する。ステップS101は、モデル作成手順である。
本実施形態において、タイヤモデル10及び路面モデル20とは、有限要素法や有限差分法等の数値解析手法を用いて、転動解析や変形解析等を行うために用いるモデルで、コンピュータで解析可能なモデルであり、数学的モデルや数学的離散化モデルを含む。本実施形態では、タイヤモデルを作成する際の転動シミュレーション等に用いる解析手法として、有限要素法(Finite Element Method:FEM)を使用する。なお、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法に適用できる解析手法は有限要素法に限られず、境界要素法(Boundary Element Method:BEM)、有限差分法(Finite Differences Method:FDM)等も使用できる。また、境界条件等によって最も適当な解析手法を選択し、又は複数の解析手法を組み合わせて使用することもできる。なお、有限要素法は、構造解析に適した解析手法なので、特にタイヤのような構造体に対して好適に適用できる。
ステップS101において、モデル作成部51は、タイヤを複数の節点で構成される有限個の要素に分割して、図4、図5に示すタイヤモデル10を作成する。本実施形態では、タイヤモデル10を用いて転動解析を実行するので、タイヤモデル10は、図5に示すような三次元形状とする。なお、図5は、タイヤモデル10の回転軸(Y軸)を含む平面でタイヤモデル10を切った場合の断面(子午断面)である。路面モデル20はタイヤモデル10と同様に作成してもよいし、弾性体として解析モデル化してもよいし、さらには剛体として解析モデル化してもよい。また、路面モデル20は、三次元離散化モデルでもよいし、サーフェスとして解析モデル化してもよい。
タイヤモデル10や路面モデル20を構成する要素には、例えば2次元平面では四辺形要素、三次元体では四面体ソリッド要素、五面体ソリッド要素、六面体ソリッド要素等のソリッド要素や三角形シェル要素、四角形シェル要素等のシェル要素、面要素等、コンピュータで用い得る要素とすることが望ましい。このようにして分割された要素は、解析の過程においては、三次元モデルでは三次元座標を用いて、2次元モデルでは2次元座標を用いて逐一特定される。
図5、図6−1に示すように、モデル作成部51は、解析に用いる手法(本実施形態では有限要素法)に基づき、性能(本実施形態では耐摩耗性能や耐偏摩耗性能等)を評価するタイヤを有限個の要素10E1、10E2、・・・10En等に分割して、タイヤモデル10を作成する。なお、1〜nは要素の番号であり、個別の要素を示す場合を除いて番号は省略し、単に要素10Eという。
それぞれの要素10E等は、複数の節点11Nによって構成される。ここで、節点11Nのうち11NS1〜11NSnで表されるものは、タイヤモデル10の表面を構成する節点であり、表面節点という。タイヤモデル10の接地面9に存在する表面節点11NS1〜11NSnのうちいくつかは、路面モデル20と接する。すなわち、これらは路面モデル20に接地する。なお、1〜nは表面節点の番号であり、個別の表面節点を示す場合を除いて番号は省略し、単に表面節点11NSという。
本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法では、タイヤの摩耗に関する性能を評価するため、ステップS101以後のステップでタイヤモデル10を摩耗させる。このため、タイヤモデル10の接地面9側における、路面モデル20と接する表面節点11NS1〜11NSnを、単位面積あたりの摩擦エネルギーに基づいて変更して、ステップS101で作成したタイヤモデル10の形状を摩耗に応じて変更していく。これにより、摩耗したタイヤモデルを作成して、タイヤの摩耗に関する性能を評価する。
タイヤモデル10及び路面モデル20を作成したら、ステップS102へ進む。ここで、ステップS102から後述するステップS105は、現時点における単位面積あたりの摩擦エネルギーに基づいてタイヤの摩耗量を求め、これに基づいてタイヤモデルを変更する第1摩耗進行手順である。図7では、走行時間tが0〜t1までのSSで示す部分が、第1摩耗進行手順である。なお、第1摩耗進行手順は、ステップS102からステップS105の他にも、処理手順を含んでいてもよい。
ステップS102は、第1摩耗進行手順の第1転動解析手順である。ステップS102において、タイヤモデル作成装置50が備える処理部50pの転動解析部52は、ステップS101で作成されたタイヤモデル10の転動解析を実行する。このため、タイヤの代表的な使用条件が設定される。ここで、タイヤの使用条件とは、タイヤが装着される車両、積載条件、装着位置、走行モード、使用時間等をいい、摩擦に関する性能を評価する対象であるタイヤが経験すると想定される使用条件である。
実際の摩耗状況を考慮すると、代表的な使用条件は、少なくとも4条件とすることが好ましい。このように代表的な使用条件を設定すれば、実際の使用条件を反映したタイヤモデル10を作成して、摩耗に関する性能を適切に評価できる。例えば、作成しようとするタイヤモデル10が駆動輪に装着されていると仮定した場合、駆動条件、制動条件、左旋回条件及び右旋回条件を設定する。摩耗に関する性能を評価するタイヤモデル10が従動輪に装着されていたと仮定した場合、自由転動条件、制動条件、左旋回条件及び右旋回条件を設定する。
駆動条件を規定する駆動力、制動条件を規定する制動力及び旋回条件を規定する旋回力は、それぞれ最低1条件を設定し、必要に応じて2条件以上を設定する。また、タイヤモデル10のキャンバー角及びタイヤモデル10の転動速度は最低1条件とし、必要に応じて2条件以上とする。このようにすれば、高い解析精度が要求される条件を細かく設定し、解析精度に対する寄与が低い条件は大まかに設定できるので、転動解析の精度を維持しつつ転動解析の処理速度を向上させることができる。
さらに、タイヤモデル10に負荷する荷重は、すべての代表的な使用条件において一定としてもよい。また、タイヤモデル10に負荷する前記荷重に対しては、駆動加速度、制動加速度及び旋回加速度に応じた車両の荷重変動量に相当する補正を加えることが好ましい。このようにすることで、実際の転動状況をより正確に再現できるので、摩耗状況の再現精度が向上する。
タイヤの代表的な使用条件を設定したら、図2に示す端末装置60からタイヤモデル作成装置50の転動解析部52へ、設定した使用条件を入力する。そして、この使用条件の下で、転動解析部52はタイヤの転動解析を実行する。転動解析を実行するにあたっては、図6−1に示すように、作成したタイヤモデル10を、モデル作成部51が別個に作成したホイールモデル25のリム、又はモデル作成部51が別個に作成したリムモデルに装着する。あるいはタイヤモデル10のリム部の境界条件を、リム装着に相当する境界条件に設定する。
そして、図6−1に示すように、転動解析部52は、設定した代表的な使用条件に基づき、タイヤモデル10に所定の荷重FRを負荷して路面モデル20に押し付ける。なお、路面モデル20は、モデル作成部51により、代表的な使用条件が設定される。例えば、路面がアスファルト舗装路である場合や、ウェット条件である場合、あるいは非舗装路面である場合等の使用条件が設定される。なお、モデル作成部51が路面モデル20を作成する際に、これらの使用条件を設定して路面モデル20を作成してもよい。
次に、ステップS103に進む。ステップS103は、第1摩耗進行手順の第1摩擦エネルギー取得手順である。ステップS103において、タイヤモデル作成装置50の処理部50pが備える摩擦エネルギー取得部53は、転動解析の結果から、単位面積当たりの摩擦エネルギー(以下、必要に応じて単位摩擦エネルギーという)Eを取得する。
この手順において、摩擦エネルギー取得部53は、タイヤモデル10が転動を開始し、タイヤに作用する力(例えば、コーナーリングフォースや前後力)が略定常状態となった後の転動解析結果から単位摩擦エネルギーEを取得する処理を開始する。転動解析の結果から単位摩擦エネルギーEを直接取得できない場合、摩擦エネルギー取得部53は、タイヤモデル10と路面モデル20とのすべり量及びタイヤモデル10の接触せん断応力を転動解析の結果を取得、あるいは計算し、すべり量とせん断応力との積から単位摩擦エネルギーEを計算する。なお、単位摩擦エネルギーEは、図4、図5に示すタイヤモデル10を構成するそれぞれの要素10E1〜10Enのうち、接地するものについて求められる。要素10Eが接地しているか否かは、当該要素10Eを構成する表面節点11NSが路面モデル20へ接地しているか否かで判定する。
例えば、表面節点11NSと路面モデル20との垂直接触力が0を超える場合には、当該表面節点11NSは接地すると判定される。そして、摩擦エネルギー取得部53は、接地している表面節点が分担する面積(以下節点面積)Aを算出する。節点面積Aは、路面モデル20と接地している要素10Eの一つの表面節点11NSが分担する要素10Eの接地面積である。
例えば、図6−2に示す例においては、4個の要素10E1、10E2、10E3、10E4が図4〜図6−1に示す路面モデル20に接地している。そして、それぞれの要素10E1、10E2、10E3、10E4の接地面形状は正方形であり、またそれぞれの接地面積はAnで等しいとする。この場合、要素10E1を構成する表面節点11NS1の節点面積AはAn/4であり、要素10E1、10E2に共通する表面節点11NS2の節点面積AはAn/2である。また、4個の要素10E1、10E2、10E3、10E4に共通する表面節点11NS5の節点面積AはAnである。摩擦エネルギー取得部53は、接地しているそれぞれの表面節点11NSの属性(共通する要素を有するか、共通する要素はいくつか等)に基づき、節点面積Aを求める。
次に、摩擦エネルギー取得部53は、路面モデル20と平行な接触力の成分からせん断接触力Fsを算出し、また、接地している表面節点と路面モデル20とのすべり量Lを算出する。すべり量Lは、路面モデル20に対して接地している表面節点が変位した量であり、例えば、直前の第1摩耗進行手順において接地している表面節点の路面モデル20に対する座標と、現在の第1摩耗進行手順において接地している前記表面節点の路面モデル20に対する座標との差で求める。
なお、すべり量Lは、タイヤモデル10の速度から求めてもよい。この場合、タイヤモデル10の接地面9において路面モデル20と接地している表面節点11NSの速度と、路面モデル20の速度とを取得して相対速度(すべり速度)を算出し、すべり速度と単位時間との積からすべり量を算出する。
せん断接触力Fs、すべり量L及び節点面積Aから、摩擦エネルギー取得部53は、式(1)に基づいて単位摩擦エネルギーEを算出する。この値を、当該節点が接地を開始してから現時点までにおける単位摩擦エネルギーの積算値に追加する。
E=Fs×L/A・・・(1)
路面と平行な接触力の成分からせん断接触力Fsを算出する方法は、転動解析結果からせん断接触力Fsを直接取得できない場合に有効である。せん断接触力Fs及びすべり量Lが時間履歴の離散情報として得られる場合、摩擦エネルギー取得部53は、それぞれの第1摩耗進行手順における単位摩擦エネルギーを取得又は計算し、タイヤモデル10の接地面9が接地を開始してから接地を終了するまで時間積分して、単位面積当たりの摩擦エネルギーを得る。また、すべり量L、せん断接触力Fs及び単位摩擦エネルギーは、それぞれタイヤモデル10の前後方向とタイヤモデル10の横方向とに分けて求め、その後、両者の和を求めることが好ましい。上記手法により、摩擦エネルギー取得部53は、路面モデル20と接地しているすべての表面節点11NSの単位摩擦エネルギーを求める。
ステップS103で摩擦エネルギー取得部53が接地しているすべての表面節点11NSの単位摩擦エネルギーを取得したら、ステップS104へ進む。ステップS104は、第1摩耗進行手順の第1モデル変更手順である。ステップS104において、タイヤモデル作成装置50の処理部50pが備えるモデル変更部54は、取得された単位摩擦エネルギーに基づいて求められた摩耗量で、タイヤモデル10を変更する。より具体的には、例えば、表面節点11NSの座標を変更する。例えば、表面節点11NSの現時点における座標を、取得された単位摩擦エネルギーに基づいて求められた摩耗量分小さい座標に設定する。
本実施形態では、第1摩耗進行手順において、取得された単位摩擦エネルギーに基づいて求められた摩耗量D1ijを、式(2)で求める。
D1ij=Eij/Ea×αij×sdi・・・(2)
iは処理数であり、第1摩耗進行手順及び後述する第2摩耗進行手順の処理数である。iは、タイヤモデル10の作成時(タイヤの新品時に相当)は0であり、第1摩耗進行手順や第2摩耗進行手順を1回実行すると、これらの手順が1回処理されたと計数され、処理数iは1加算される。jは表面節点番号である。i、jはいずれも整数である。D1ijは、各処理におけるそれぞれの表面節点の摩耗量である。Eijは、各処理におけるそれぞれの表面節点の単位摩擦エネルギーである。Eaは、基準とする表面節点の単位摩擦エネルギー(基準単位摩擦エネルギー)であり、処理毎に設定される。なお、基準とする表面節点は、処理毎に変更してもよい。
sdiは、第1摩耗進行手順において基準となる摩耗量(第1基準摩耗量)であり、任意に設定される。本実施形態において、第1基準摩耗量sdiは、例えば、D1ijが0.005mm〜0.1mmとなるように任意に設定されるが、これに限定されるものではない。なお、第1基準摩耗量sdiを小さくすれば、精度よく摩耗を再現できる。また、第1基準摩耗量sdiを大きくすれば、計算が少なくて済むので、計算時間を短縮できる。さらに、第1基準摩耗量sdiは、摩耗に関する性能を評価する対象のタイヤの使用条件(例えば、温度、湿度、シビアリティ、路面の摩擦係数等)や、前記タイヤの走行時間等によって適宜変更できる。
αijは、各表面節点の材料(例えば、キャップトレッドを形成するゴム)の摩耗指数(材料摩耗指数)であり、摩耗寿命と関係するパラメータである。材料摩耗指数αijは、タイヤのキャップトレッドに2種類以上のゴムを用いる場合や、途中で新品時とは異なるゴムがタイヤの接地面に露出することを考慮して設けられるものである。例えば、キャップトレッドを構成するゴムの摩耗寿命を考慮せず、摩耗の形態のみを対象とする場合においては、2種類以上のゴムが接地しているときには接地しているゴム同士の違いを考慮して材料摩耗指数αijが設定される。また、この場合、1種類のゴムが接地しているときには材料摩耗指数αij=1に設定される。
式(2)から分かるように、本実施形態では、第1摩耗進行手順における各表面節点の摩耗量を、各表面節点の単位摩擦エネルギーEijと基準となる表面節点の基準単位摩擦エネルギーEaとの比に比例させて設定する。基準単位摩擦エネルギーEaの基準とする表面節点は、タイヤの摩耗を評価するにあたって注目したい箇所がある場合は該当する箇所の表面節点とし、摩耗を精度よく予測したい場合には単位摩擦エネルギーが最も高い表面節点とする。また、計算時間を短縮してハードウェア資源に対する負荷を低減したい場合には、単位摩擦エネルギーが最も低い表面節点や、摩擦エネルギーが発生している箇所の表面節点を、基準単位摩擦エネルギーEaの表面節点とする。このように、基準単位摩擦エネルギーEaの基準とする表面節点は、評価したい箇所や計算の効率等に応じて適宜変更できる。
表面節点11NSの摩耗量D1ijが、その表面節点11NSが構成する要素10Eの厚さ(タイヤモデル10の径方向における寸法)を超えない場合、例えば、タイヤモデル10の径方向に対する複数の節点位置の比率を略一定に保って、各要素10Eの節点位置を変更してもよい。また、表面節点11NSのみ、タイヤモデル10の径方向の寸法を減少させるように座標を変更し、表面節点11NS以外の節点の座標は変更しないようにしてもよい。
表面節点11NSの摩耗量D1ijが、その表面節点11NSが構成する要素10Eの厚さ(タイヤモデル10の径方向における寸法)を超える場合、例えば、タイヤモデル10の径方向に対する複数の節点位置の比率を略一定に保って、各要素10Eの節点位置を変更してもよい。また、タイヤモデル10の径方向における寸法が0以下になった要素10Eは削除して、前記寸法が0以下になった要素の次にタイヤモデル10の表面に露出する節点を新たな表面節点11NSとしてもよい。
ステップS104でタイヤモデル10を変更するにあたっては、最も単位摩擦エネルギーEが大きい表面節点11NSの摩耗量D1ijを、タイヤモデル10の主溝深さの5%以下とすることが好ましく、より好ましくは1%以下である。しかし、最も単位摩擦エネルギーEが大きい表面節点11NSの摩耗量D1ijは、タイヤモデル10の主溝深さの0.1%以上とする。
これによって、過度の摩耗量が設定されることによる摩耗の再現精度の低下を抑制して、摩耗したタイヤモデル10を精度よく作成できる。第1基準摩耗量sdiは、式(2)で表される摩耗量D1ijが、タイヤモデル10の主溝深さの5%あるいは1%等を超えないように設定される。上述した手法によりステップS104でタイヤモデルを変更したらステップS105へ進む。
ステップS105において、タイヤモデル作成装置50の処理部50pが備える制御条件判定部55は、所定の第1摩耗進行手順の終了条件を満たすか否かを判定する。第1摩耗進行手順は、所定の第1摩耗進行手順の終了条件を満たすまで、ステップS102〜ステップS104を実行するものであるため、前記終了条件を満たすか否かがステップS105で判定される。
本実施形態において、所定の第1摩耗進行手順の終了条件は、例えば、次のように設定される。ステップS102〜ステップS104を実行した回数(第1摩耗進行手順実行数)Nrが、予め定めた実行数閾値Nc以上か、又はΔE/ΔE0が0.7以上1.3以下の範囲にあるかのいずれか一方を満たす場合に、第1摩耗進行手順が終了する。ここで、実行数閾値Nrを多くすると、評価に供する摩耗後のタイヤモデル10が得られるまでの時間が増加する。このため、実行数閾値Nrは1以上10以下が好ましく、3以上6以下がより好ましい。これによって、評価に供する摩耗後のタイヤモデル10が得られるまでの時間の増加を抑制できる。
また、ΔE0は、新品時における単位摩擦エネルギーE0と、第1摩耗進行手順を一回終了したときにおけるタイヤモデル10全体の単位摩擦エネルギーE1との差である(ΔE0=E1−E0)。また、ΔEは、現時点におけるタイヤモデル10全体の単位摩擦エネルギーEnと、一回前の第1摩耗進行手順が終了したときにおけるタイヤモデル10の全体の単位摩擦エネルギーEn−1との差である(ΔE=En−En−1)。ΔE/ΔE0(摩擦エネルギー差比率)を0.7以上1.3以下とすることにより、それぞれの第1摩耗進行手順毎における単位摩擦エネルギーの変化の傾向が安定したと判断できる。これによって、単位摩擦エネルギーのばらつきが抑制されるので、次に説明する第2摩耗進行手順に移行しても、摩耗したタイヤモデル10を精度よく作成できる。
ステップS105でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部55が、Nr<Ncかつ0.7>ΔE/ΔE0、又はNr<NcかつΔE/ΔE0>1.3のいずれかを満たすと判定した場合、第2摩耗進行手順に移行できない。この場合、ステップS102〜ステップS104が繰り返される。
ステップS105でYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部55が、Nr≧Nc又は0.7≦ΔE/ΔE0≦1.3であると判定した場合、第2摩耗進行手順に移行する。次に、第2摩耗進行手順を説明する。第2摩耗進行手順は、図7のSAで示す期間(t=t1以降)に実行されるものである。第2摩耗進行手順は、ステップS106〜ステップS108である。なお、第2摩耗進行手順は、ステップS106〜ステップS108以外の処理手順を含んでいてもよい。
ステップS106は、第2摩耗進行手順の第2転動解析手順である。ステップS106において、転動解析部52は、まず、第1摩耗進行手順で作成されたタイヤモデル10の転動解析を実行し、一度第2摩耗進行手順を実行した後は、第2摩耗進行手順を実行して作成されたタイヤモデル10に対して、第2摩耗進行手順を実行する。すなわち、第2摩耗進行手順の第2転動解析手順は、少なくとも第1摩耗進行手順で作成されたタイヤモデル10に対して実行される。
ステップS106では、タイヤモデル10に対して転動解析を実行するため、タイヤの代表的な使用条件が設定される。ここで、タイヤの使用条件とは、タイヤが装着される車両、積載条件、装着位置、走行モード、使用時間等をいい、摩擦に関する性能を評価する対象であるタイヤが経験すると想定される使用条件である。次に、ステップS107に進み、摩擦エネルギー取得部53は、転動解析の結果から、単位面積当たりの摩擦エネルギー(以下、必要に応じて単位摩擦エネルギーという)Eを取得する。ステップS107は、第2摩耗進行手順の第2摩擦エネルギー取得手順であり、単位摩擦エネルギーEの求め方については上述したステップS103(第1摩擦エネルギー取得手順)と同様なので、説明を省略する。
ステップS107で単位摩擦エネルギーEが取得されたら、ステップS108へ進む。ステップS108は、第2摩耗進行手順の第2モデル変更手順に相当する。ステップS108において、モデル変更部54は、現時点、又は現時点以前における複数のタイヤモデル10の単位摩擦エネルギーに基づいて得られる摩耗量で、第2摩耗進行手順の第2摩擦エネルギー取得手順、すなわちステップS107が終了した後のタイヤモデル10を変更する。
この場合、例えば、第2モデル変更手順では、現時点、すなわち、実行中(処理中)の第2摩耗進行手順におけるタイヤモデル10の第2摩擦エネルギー取得手順(ステップS107)での単位摩擦エネルギーE_r(n、j)、及び現時点よりも前の処理で得られたタイヤモデル10の単位摩擦エネルギーE_r(n−1、j)、E_r(n−2、j)・・・E_r(n−k、j)に基づいて、摩耗量が求められる。そして、得られた摩耗量分、タイヤモデル10を摩耗させ、タイヤモデル10が変更される。なお、jは節点番号、nは現時点を表す処理数、kは1以上の整数である。
本実施形態においては、現時点におけるタイヤモデル10の単位摩擦エネルギーE_r(n、j)、及び現時点よりも前の処理で得られたタイヤモデル10の単位摩擦エネルギーE_r(n−1、j)、E_r(n−2、j)・・・E_r(n−k、j)を近似して得られる摩擦エネルギー関数f_E(i、j)を求め、これに基づいて得られる単位摩擦エネルギー(修正摩擦エネルギー)を用いて摩耗量D2ijを求める。ここで、iは処理数であり、jは節点番号である。このように、摩擦エネルギー関数f_E(i、j)は、それぞれの節点に対して求められる。また、kは現時点よりも前の処理を示すための番号(整数)であり、k=1であれば、現時点よりも1回前の処理を表し、k=3であれば、現時点よりも3回前の処理を表す。摩擦エネルギー関数f_E(i、j)は、図7に示すように、現時点の単位摩擦エネルギーE_r(n、j)、及び現時点よりも前の単位摩擦エネルギーE_r(n−1、j)、E_r(n−2、j)・・・E_r(n−k、j)を、例えば一次近似したり、多項式近似したりして求める。
ここで、あまり過去の単位摩擦エネルギーまで参照すると、摩擦エネルギーの傾向の変化が緩慢となり、現時点における摩擦エネルギーを正確に表現できないおそれがあり、特に、何らかの原因で摩擦エネルギーが急激に変化する場合には、この影響が大きくなる。このため、現時点よりも前の単位摩擦エネルギーは、1回前〜10回前の処理におけるものを用いることが好ましく(k=1〜10)、2回前〜6回前の処理におけるものを用いることがより好ましい(k=2〜6)。
例えば、図7に示す、節点番号jの表面節点の現時点(t=tn)における摩擦エネルギー関数f_E(i、j)は、現時点、及び現時点よりも3回前の処理におけるそれぞれのタイヤモデル10の単位摩擦エネルギーE_r(n−1、j)、E_r(n−2、j)、E_r(n−3、j)を一次近似して求めたものである。現時点よりも3回前の処理まで含める場合には、前記一次近似の際にさらにE_r(n−4、j)を加え、現時点よりも2回前の処理までとする場合には、前記一次近似の際からE_r(n−3、j)を除く。このようにして求めた摩擦エネルギー関数f_E(i、j)から現時点、すなわちt=tnにおける処理での単位摩擦エネルギーは、f_E(n、j)で求めることができる。
第2摩耗進行手順での摩耗量D2ijは、上述した摩擦エネルギー関数f_E(i、j)を用いて、式(3)で求められる。なお、第2摩耗進行手順での摩耗量D2ijは、第1摩耗進行手順での摩耗量D1ijよりも大きい。
D2ij=f_E(i、j)/f_E(i、jb)×αij×pdi・・・(3)
ここで、jbは、基準表面節点の節点番号、αijは上述した材料摩耗指数である。f_E(i、j)は、各処理におけるそれぞれの表面節点の単位摩擦エネルギーであり、上述した摩擦エネルギー関数f_E(i、j)から求められる。f_E(i、jb)は、基準とする表面節点の単位摩擦エネルギー(基準単位摩擦エネルギー)であり、処理毎に設定される。なお、基準とする表面節点は、処理毎に変更してもよい。
基準単位摩擦エネルギーf_E(i、jb)の表面節点は、例えば、評価したい箇所や計算の効率等に応じて適宜変更できる。この点は、上述した第1摩耗進行手順における基準単位摩擦エネルギーE_aと同様である。pdiは、第2摩耗進行手順において基準となる摩耗量(第2基準摩耗量)であり、上述した第1基準摩耗量sdiよりも大きい値で任意に設定される。例えば、本実施形態において、第2基準摩耗量pdiは、D2ijが0.05mm〜0.5mmとなるように任意に設定されるが、これに限定されるものではない。
なお、第2基準摩耗量pdiを小さくすれば、精度よく摩耗を再現できる。また、第2基準摩耗量pdiを大きくすれば、計算が少なくて済むので、計算時間を短縮できる。さらに、第2基準摩耗量pdiは、摩耗に関する性能を評価する対象のタイヤの使用条件(例えば、温度、湿度、シビアリティ、路面の摩擦係数等)や、前記タイヤの走行時間等によって適宜変更できる。
モデル変更部54は、取得された単位摩擦エネルギーに基づいて求められた摩耗量D2ijで、タイヤモデル10を変更する。より具体的には、表面節点11NSの現時点における座標を、取得された単位摩擦エネルギーに基づいて求められた摩耗量分小さい座標に設定する。この手法は、第1摩耗進行手順で説明した手法と同様である。
第2摩耗進行手順での摩耗量D2ijは、すべての第2摩耗進行手順の処理期間(処理数)における少なくとも50%以上の割合で、第1摩耗進行手順の摩耗量D1ijの1.5倍以上とすることが好ましく、より好ましくは5倍以上であるが、10倍は超えない(すなわち10倍以下)。なお、第2摩耗進行手順での摩耗量D2ijは、第1摩耗進行手順の摩耗量D1ijの1.0倍以上とする。これによって、短時間で摩耗したタイヤモデル10を作成できる。
ここで、上述した第1摩耗進行手順の摩耗量D1ijは、最も単位摩擦エネルギーEが大きい表面節点11NSの摩耗量D1ijを、タイヤモデル10の主溝深さの0.1%以上5%以下とする。なお、第2摩耗進行手順での摩耗量D2ijを第1摩耗進行手順の摩耗量D1ijの1.5倍以上とする場合、すべての第1摩耗進行手順の処理手順(処理数)において最大の摩耗量D1ij_maxを基準とする。
また、第2摩耗進行手順の処理において、単位摩擦エネルギーが急激に変化する場合や、注目している摩耗状態(例えばステップ摩耗やヒールアンドトゥ摩耗等)が発生した処理では、第2摩耗進行手順での摩耗量D2ijを第1摩耗進行手順における摩耗量D1ijの1.5倍未満とする。これによって、摩耗させたタイヤモデル10の作成精度を向上させることができる。
第2摩耗進行手順での摩耗量D2ijを第1摩耗進行手順における摩耗量D1ijの1.5倍以上とする場合、現時点におけるタイヤモデル10の単位摩擦エネルギーE_r(n、j)、及び現時点よりも前の処理で得られたタイヤモデル10の単位摩擦エネルギーE_r(n−1、j)、E_r(n−2、j)・・・E_r(n−k、j)に基づいて、摩耗量D2ijが求められる。すなわち、第2摩耗進行手順での摩耗量D2ijを第1摩耗進行手順における摩耗量D1ijの1.5倍以上とする場合には、上述した摩擦エネルギー関数f_E(i、j)を用いて式(3)で求められる摩耗量D2ijを用いる。
一方、第2摩耗進行手順での摩耗量D2ijを第1摩耗進行手順における摩耗量D1ijの1.5倍未満とする場合、実際のタイヤモデルの単位摩擦エネルギーE_r(i、j)を用いて式(2)で求められる摩耗量D1ijを用いる。摩耗量が小さい場合(第2摩耗進行手順での摩耗量D2ijを第1摩耗進行手順での摩耗量D1ijの1.5倍未満とする場合)は、タイヤモデル10から求める単位摩擦エネルギーは変化しにくいので、現時点以前におけるタイヤモデル10の単位摩擦エネルギーを考慮しなくとも、精度よく摩耗したタイヤモデル10を作成できるからである。
また、第2摩耗進行手順の処理間において、摩擦エネルギーに急激な変化がある場合、摩擦エネルギー関数f_E(i、j)を用いる手法では、摩擦エネルギーの傾向の変化が緩慢となる結果、現時点における単位摩擦エネルギーの精度が低下することがある。図8に示す例においては、t=tnが現時点における処理を示す。図8中の直線は、現時点及び現時点よりも3回前の処理におけるタイヤモデル10から求めた単位摩擦エネルギーE_r(n−1、j)、E_r(n−2、j)、E_r(n−3、j)を一次近似して求めた摩擦エネルギー関数f_E(i、j)である。
図8に示す例において、現時点よりも前におけるタイヤモデル10から求めた単位摩擦エネルギーE_r(n−3、j)、E_r(n−2、j)、E_r(n−1、j)が上昇傾向を示している。一方、現時点におけるタイヤモデル10から求めた単位摩擦エネルギーE_r(i、j)、及び現時点よりも後におけるタイヤモデル10から求めた単位摩擦エネルギーE_r(i+1、j)、E_r(i+2、j)は、下降傾向を示している。
図8に示す例では、現時点(t=tn)におけるタイヤモデル10は、摩擦エネルギー関数f_E(i、j)から求めた単位摩擦エネルギーf_E(n、j)の方が、タイヤモデル10から求めた単位摩擦エネルギーE_r(n、j)よりも大きくなっており、タイヤモデル10の実際の単位摩擦エネルギーの変化とは異なる。これは、摩擦エネルギー関数f_E(i、j)は、現在及び過去の複数の情報に基づいて求められるので、摩擦エネルギーの傾向の変化が緩慢となる結果、実際の単位摩擦エネルギーを表現できないことによる。これによって、摩擦エネルギー関数f_E(i、j)から求めた単位摩擦エネルギーf_E(n、j)を用いると、現時点における単位摩擦エネルギーの精度が低下する。
したがって、第2摩耗進行手順において、摩擦エネルギーに急激な変化がある場合には、摩擦エネルギー関数f_E(i、j)から求めた単位摩擦エネルギーf_E(n、j)の代わりに、タイヤモデル10から求めた単位摩擦エネルギーE_r(n、j)を用いて摩擦量を求める。これによって、現時点における単位摩擦エネルギーを精度よく求めることができるので、摩耗したタイヤモデル10を精度よく作成できる。この場合、第2摩耗進行手順での摩耗量D2ijを第1摩耗進行手順における摩耗量D1ijの1.5倍未満とする。これによて、摩耗量が大きすぎることによる摩耗したタイヤモデル10の作成精度の低下を抑制する。
第2摩耗進行手順において摩擦量を求める場合、摩擦エネルギー関数f_E(i、j)から求めた単位摩擦エネルギーf_E(n、j)を用いるか、タイヤモデル10から求めた単位摩擦エネルギーE_r(n、j)を用いるかは、例えば次のように判定する。図8の現時点(t=tn)において、摩擦エネルギー関数f_E(i、j)から単位摩擦エネルギーf_E(n、j)を求めるとともに、タイヤモデル10から単位摩擦エネルギーE_r(n、j)を求める。そして、両者の差の絶対値(単位摩擦エネルギー差分)ΔEn(=|f_E(n、j)−E_r(n、j)|)が、予め定めた所定の閾値(判定閾値)ΔEnc以上である場合には、摩擦エネルギー関数f_E(i、j)から求めた単位摩擦エネルギーf_E(n、j)は、実際の単位摩擦エネルギーを表現していないと判定する。この場合には、第2摩耗進行手順においては、タイヤモデル10から求めた単位摩擦エネルギーE_r(n、j)を用いて摩擦量を求める。なお、図8は、単位摩擦エネルギーが上昇から下降に転じる例を説明したが、下降から上昇に転じる場合も上昇から下降に転じる例と同様に処理する。
このように、第2摩耗進行手順では、現時点におけるタイヤモデル10から求めた単位摩擦エネルギーE_r(i、j)、又は現時点以前における複数のタイヤモデル10からに基づいて求めた単位摩擦エネルギーf_E(i、j)のいずれか一方に基づいて、摩耗量を求める。第2摩耗進行手順のステップS108でタイヤモデル10を変更したら、ステップS109へ進む。
ステップS109において、制御条件判定部55は、第2摩耗進行手順の所定の終了条件を満たすか否かを判定する。例えば、ステップS108で変更したタイヤモデル10、すなわち摩耗させたタイヤモデル10の摩耗量が、所定の目標摩耗量に到達していることを所定の終了条件とすることができる。これは、本実施形態における終了条件であるが、前記所定の終了条件はこれに限定されるものではない。例えば、摩耗させたタイヤモデル10に発生する特定の摩耗形態(例えばステップ摩耗)が所定量に到達したことを前記所定の終了条件とすることもできる。さらに、所定の走行時間が経過したことを前記所定の終了条件とすることもできる。このように、前記所定の終了条件は、評価の目的等に応じて適宜変更できる。
ステップS109においてNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部55が、摩耗させたタイヤモデル10の摩耗量は、所定の目標摩耗量に到達していないと判定した場合、タイヤモデル作成装置50は、一連の第2摩耗進行手順を実行した後におけるタイヤモデル10、すなわち、一連の第2摩耗進行手順で作成されたタイヤモデル10に対して、第2摩耗進行手順を実行する。すなわち、タイヤモデル作成装置50は、第2摩耗進行手順の所定の終了条件を満たすまで、第2摩耗進行手順を繰り返す。
ステップS109においてYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部55が、摩耗させたタイヤモデル10の摩耗量は、所定の目標摩耗量に到達していると判定した場合、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法が終了する。この時点において、第2摩耗進行手順によって得られるタイヤモデル10、すなわち、ステップS101で作成したタイヤモデル10を摩耗させたタイヤモデル10(摩耗タイヤモデル)を用いて、タイヤの摩耗に関する性能が評価される。例えば、摩耗タイヤモデルを用いて、摩耗寿命を予測したり、経年変化をシミュレーションしたり、摩耗したタイヤの騒音や振動、あるいは雨天走行性能や雪上走行性能等を評価したりする。
上述した第1摩耗進行手順及び第2摩耗進行手順においては、タイヤモデル10の少なくとも一つの材料物性値を、ステップS101で作成したタイヤモデル10、すなわち新品時のタイヤモデル10とは異ならせてもよい。このようにすることで、材料物性の経時変化を考慮することができ、摩耗したタイヤモデル10の作成精度が向上する。材料物性は、例えば、その変化を関数で与えたり、走行時間に応じて材料物性を段階的に変更したりすることで変更できる。なお、第1摩耗進行手順でタイヤモデル10の少なくとも一つの材料物性値を変更する場合、2回目の第1摩耗進行手順の処理以降で変更することが好ましい。
(評価例)
図9は、実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法及び比較例のタイヤモデル作成方法の評価結果を示す図表である。図10−1は、実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法によって作成した摩耗後のタイヤモデルの接地面側を示す模式図である。図10−2、図10−3は、比較例のタイヤモデルの作成方法によって作成した摩耗後のタイヤモデルの接地面側を示す模式図である。
評価に用いたタイヤモデルは、サイズが195/65R15 91Vのタイヤを解析モデル化して作成した。評価においては、タイヤモデルとは別個に作成した、リムサイズが15×6.5jのホイールモデルのリムに前記タイヤモデルを嵌合させて、摩耗したタイヤモデルを作成した。評価条件は、荷重が40kN、速度が90km/h、空気圧が230kPa、キャンバー角度が−0.4度(ネガティブキャンバー)であり、コーナーリングフォースが0.4kNに保たれるように、前記タイヤモデルのスリップ角度を制御した。また、それぞれの処理における各表面節点の単位摩擦エネルギーは、それぞれの処理において、最も単位摩擦エネルギーが高い表面節点を基準節点として、他の表面節点の単位摩擦エネルギーを求めた。
図9の比較例1は、タイヤモデルから求めた単位摩擦エネルギーに基づいて摩耗量を決定するものであり、1回の処理あたりの摩耗量が最大でも0.01mmとなるように設定したものである。比較例2は、タイヤモデルの作成時間を短くするため、1回の処理あたりの摩耗量を比較例2の50倍である0.5mmとしたものである。
図9及び図10−1〜図10−3からわかるように、本実施形態での総処理数、すなわち、第1摩耗進行手順(SS)の処理数と第2摩耗進行手順(SA)の処理数との和は54であり、比較例2と略同じである。しかし、本実施形態によるタイヤモデル10の接地面9の摩耗形態は、実際の摩耗形態をよく再現できることが確認されている比較例1のタイヤモデル10aの接地面9aの摩耗形態と同等である。そして、本実施形態によるタイヤモデル10の表面9の摩耗形態は、比較例2のタイヤモデル10bの接地面9bの摩耗形態よりも実際の摩耗形態をよく再現できている。このように、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法は、実際の摩耗形態をよく再現できる比較例1に対して同等の摩耗形態であり、かつ目標とする摩耗形態を達成するまでの処理時間は約1/16で済む。
以上、本実施形態では、現時点におけるタイヤモデルの単位摩擦エネルギーに基づいて摩耗量を求め、これに基づいてタイヤモデルを変更する第1摩耗進行手順と、現時点におけるタイヤモデルの単位摩擦エネルギー及び現時点よりも過去におけるタイヤモデルの単位摩擦エネルギーから得られる摩擦エネルギーに基づいて摩耗量を求め、これに基づいてタイヤモデルを変更する第2摩耗進行手順と、を含む。
第1摩耗進行手順は摩耗の初期段階を想定しているが、この段階では、単位摩擦エネルギーが振動することが考えられるので、1回あたりの第1摩耗進行手順における摩耗量を小さくして、作成される摩耗したタイヤモデルの精度を確保する。そして、1回あたりの第1摩耗進行手順における摩耗量を小さくする処理を、単位摩擦エネルギーの変化の傾向が安定するまで繰り返すことにより、単位摩擦エネルギーの変化の傾向を知ることができる。
単位摩擦エネルギーの変化の傾向が安定し、単位摩擦エネルギーの振動が少なくなった後は、第2摩耗進行手順において、単位摩擦エネルギーの変化の履歴を考慮してタイヤモデルを変更する。すなわち、現時点以前のタイヤモデルの単位摩擦エネルギーに基づいて摩耗量を求め、タイヤモデルを変更する。このように、単位摩擦エネルギーの変化の履歴を考慮して摩耗量を求めるので、単位摩擦エネルギーの振動を抑制できる。これによって、第2摩耗進行手順においては、第1摩耗進行手順よりも大きな摩耗量でタイヤモデルを変更し、摩耗を加速しても、摩耗したタイヤモデルの作成精度の精度を確保できる。
これによって、本実施形態では、上述した第1摩耗進行手順及び第2摩耗進行手順を用いることにより、目標とする摩耗形態を達成するまでの処理時間を短縮できるとともに、摩耗したタイヤモデルの作成精度を確保して、実際の摩耗形態をよく再現できる。以下の実施形態でも、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法と同様の構成を備えるものは、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法と同様の作用、効果を奏する。
(実施形態2)
本実施形態は、実施形態1と略同様の構成であるが、次の点が異なる。すなわち、前記第2摩耗進行手順の実行中、前記タイヤモデルの表面が新たに路面モデルと接触した場合には、現時点におけるタイヤモデルの単位摩擦エネルギーに基づいて求められた摩耗量に基づいてタイヤモデルを変更する第3摩耗進行手順へ移行する。そして、前記第3摩耗進行手順が所定の終了条件を満たした場合には、前記第3摩耗進行手順が終了した後における前記タイヤモデルを、現時点以前における複数の前記タイヤモデルの単位面積あたりの摩擦エネルギーに基づいて得られる摩耗量に基づいて変更する。他の構成は実施形態1と同様である。
図11は、トラック、バス用タイヤのタイヤモデルに対して実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法を適用した例を示す模式図である。図12は、トラック、バス用タイヤのタイヤモデルに対して実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法を適用した例における摩擦エネルギーと走行時間との関係を示す説明図である。図13−1、図13−2は、乗用車用タイヤのタイヤモデルに対して実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法を適用した例を示す模式図である。図14は、乗用車用タイヤのタイヤモデルに対して実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法を適用した例における摩擦エネルギーと走行時間との関係を示す説明図である。
一般に、トラック、バス用タイヤ(以下TBタイヤという)は、ショルダー部と接地面とが直角に近いため、そのタイヤモデル10は、図11に示すように、摩耗が進行するにしたがってタイヤモデル10と路面モデル20との接地幅(接地端CT間の距離)が広がったとしても、新たに接地する表面節点(接地する節点)は発生しない。その結果、図12に示すように、TBタイヤに対して実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法を適用した場合であっても、実際の単位摩擦エネルギー(図12の実線)と、実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法による単位摩擦エネルギー(図12の塗りつぶした四角形)とは略一致し、摩擦形態を精度よく再現できる。
一方、乗用車用タイヤ(以下PCタイヤという)は、ショルダー部と接地面とがより180度に近いため、そのタイヤモデル10は、図13−1、図13−2に示すように、摩耗が進行するにしたがってタイヤモデル10と路面モデル20との接地幅(接地端CT間の距離)が広がると、新たに接地する表面節点が発生しない。図13−1に示す例では、表面節点11NS1は路面モデル20に接地していない。
しかし、摩耗が進行するにしたがってタイヤモデル10と路面モデル20との接地幅が広がると、図13−2に示すように、表面節点11NS1は路面モデル20へ接地する。その結果、PCタイヤに対して実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法を適用すると、図14に示すように、実際の単位摩擦エネルギー(図14の実線)と、実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法による単位摩擦エネルギー(図14の塗りつぶした四角形)とが異なり、その結果、摩擦形態の再現精度が低下する。なお、図14では、t=t1で、路面モデル20に接地していない表面節点が路面モデル20に接地している。
タイヤモデル10の新たな表面節点が路面モデル20へ接触すると、その表面節点については現時点よりも前においては単位摩擦エネルギーが存在しない。しかし、上述した第2摩耗進行手順では、現時点以前における複数のタイヤモデル10の単位面積あたりの摩擦エネルギーに基づいて得られる摩耗量でタイヤモデル10を変更する。このため、現時点以前における複数のタイヤモデル10の単位面積あたりの摩擦エネルギーに基づいて摩耗量を設定すると、新たに接地した表面節点については摩耗量が過小に設定される。その結果、摩耗したタイヤモデル10の作成精度は、タイヤモデル10から求めた単位摩擦エネルギーに基づいて摩耗量を決定する手法において、1回の処理あたりの摩耗量を微小に設定した場合(例えば、上述した比較例1)よりもわずかに低下する。
これを回避するため、本実施形態では、上述した実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法に加え、第2摩耗進行手順の実行中、タイヤモデル10の表面、すなわち表面節点が新たに路面モデル20と接触した場合には、現時点におけるタイヤモデル10の単位摩擦エネルギーに基づいて求められた摩耗量に基づいてタイヤモデルを変更する第3摩耗進行手順へ移行する。これによって、新たに接地した表面節点の単位摩擦エネルギーの精度が向上するので、摩耗したタイヤモデル10の作成精度の低下を抑制できる。次に、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法の手順を説明する。本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法は、上述した実施形態1のタイヤモデル作成装置50(図2)で実現できる。
図15は、実施形態2に係るタイヤモデルの作成方法の手順を示すフローチャートである。図16は、実施形態2に係るタイヤモデルの作成方法の説明図である。本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法におけるステップS201はモデル作成手順であり、ステップS201〜ステップS205は、第1摩耗進行手順である。ステップS201〜ステップS205は、実施形態1のステップS101〜ステップS105と同様なので、説明を省略する。
本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法におけるステップS206〜ステップS209は、第2摩耗進行手順である。本実施形態に係る第2摩耗進行手順は、実施形態1に係る第2摩耗進行手順に、第3摩耗進行手順へ分岐するか否かの判定手順、すなわちステップS208を設けた点が異なる。このように、第2摩耗進行手順は、第2転動解析手順、第2摩擦エネルギー取得手順及び第2モデル変更手順の他の手順を含んでいてもよい。本実施形態に係る第2摩耗進行手順のステップS206、ステップS207、及びステップS209は、実施形態1に係る第2摩耗進行手順のステップS106、ステップS107、及びステップS108と同様なので、詳細な説明は省略する。
ステップS207で、摩擦エネルギー取得部53が、ステップS106の転動解析の結果から単位摩擦エネルギーEを取得したら、ステップS208へ進む。ステップS208において、制御条件判定部55は、タイヤモデル10の表面節点11NSのうち、新たに路面モデル20に接地、すなわち路面モデル20に接触したものがあるか否かを判定する。本実施形態では、タイヤモデル10の表面節点11NSのうち、新たに単位摩擦エネルギーが発生した表面節点11NSがあるか否かで判定する。これによって、新たに路面モデル20に接地した表面節点11NSを簡易に判定できる。
ステップS208でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部55が、タイヤモデル10の表面節点11NSのうち新たに単位摩擦エネルギーが発生したものはなく、新たに路面モデル20に接地したタイヤモデル10の表面節点11NSはないと判定した場合、ステップS209へ進む。ステップS209以降の手順は、実施形態1で説明した通りなので、説明を省略する。
ステップS208でYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部55が、タイヤモデル10の表面節点11NSのうち新たに単位摩擦エネルギーが発生したものがあり、新たに路面モデル20に接地したタイヤモデル10の表面節点11NSがあると判定した場合、ステップS211へ進む。ステップS211〜ステップS214が第3摩耗進行手順である。また、図16のCBで示す期間(t=t1〜t3までの期間)が第3摩耗進行手順であり、SA1で示す期間(t=t1までの期間)が、第3摩耗進行手順へ移行する直前の第2摩耗進行手順であり、SA2で示す(t=t3以降の期間)が、第3摩耗進行手順を終了した後の第2摩耗進行手順である。
第3摩耗進行手順のステップS211において、モデル変更部54は、第3摩耗進行手順で用いるタイヤモデル10を、新たに路面モデル20に接地したタイヤモデル10の表面節点11NSがあると判定される前のタイヤモデル10に戻す。これは、第3摩耗進行手順で用いるタイヤモデル10を、ステップS211へ移行する前における第2摩耗進行手順で用いていたタイヤモデル10、すなわち、新たに路面モデル20に接地した表面節点11NSがあると判定されたタイヤモデル10よりも前のタイヤモデル10に戻すということである。ここで、ステップS211が、第3摩耗進行手順のモデル戻し手順である。
第3摩耗進行手順で用いるタイヤモデル10を戻すにあたっては、第3摩耗進行手順へ移行する直前の第2摩耗進行手順で用いていたタイヤモデル10よりも前のタイヤモデル10であればよい。好ましくは、第3摩耗進行手順へ移行する直前の第2摩耗進行手順で用いていたタイヤモデル10よりも1回前の第2摩耗進行手順で用いていたタイヤモデル10に変更する。このようにすれば、第3摩耗進行手順を実行するにあたって、タイヤモデル10の表面節点11NSが路面モデル20へ接地する過程を確実に模擬できるとともに、過去に遡りすぎることによる過剰な計算を抑制できる。なお、第3摩耗進行手順を実行するため、本実施形態においては、現時点以前の異なる複数のタイヤモデル10及びこれに関する情報を記憶部50mに格納しておく。
ステップS211でタイヤモデル10を変更したら、ステップS212へ進み、転動解析部52は、変更したタイヤモデル10に対して転動解析を実行する。この転動解析は、第3摩耗進行手順における第3転動解析手順であり、実施形態1のステップS102と同様なので、説明を省略する。ステップS212の転動解析が終了したら、ステップS213へ進む。ステップS213は、第3摩耗進行手順の第3摩擦エネルギー取得手順である。
ステップS213において、摩擦エネルギー取得部53は、ステップS212における転動解析の結果から、単位摩擦エネルギーEを取得する。単位摩擦エネルギーEの求め方については上述した第1実施形態のステップS103(第1摩擦エネルギー取得手順)と同様なので、説明を省略する。
次に、ステップS214へ進む。ステップS214は、第3摩耗進行手順の第3モデル変更手順であり、モデル変更部54は、ステップS213で取得された単位摩擦エネルギーに基づいて摩耗量を求め、この摩耗量に基づいてタイヤモデル10を変更する。ステップS214においてタイヤモデル10を変更する手法は、上述した実施形態1のステップS104(第1モデル変更手順)と同様である。
本実施形態では、第3摩耗進行手順で単位摩擦エネルギーに基づいて、式(2)で求められる摩耗量D1ijを用いて、タイヤモデル10を変更する。ここで、式(2)で求められる摩耗量D1ijは、式(3)で求められる第2摩耗進行手順の摩耗量D2ijよりも小さいので、第3摩耗進行手順では、摩耗形態を精度よく求めることができ、その結果、摩耗形態の再現性を確保できる。また、第3摩耗進行手順を複数回繰り返すことにより、単位摩擦エネルギーの変化の傾向を把握できる。
ステップS214でタイヤモデル10が変更されたら、ステップS215へ進む。ステップS215においては、制御条件判定部55が、ステップS214で変更されたタイヤモデル10、すなわち摩耗させたタイヤモデル10の摩耗量が、所定の目標摩耗量に到達しているか否かを判定する。ステップS215でYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部55が、摩耗させたタイヤモデル10の摩耗量が、所定の目標摩耗量に到達していると判定した場合、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法を終了する。
ステップS215でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部55が、摩耗させたタイヤモデル10の摩耗量は、所定の目標摩耗量に到達していないと判定した場合、ステップS216へ進む。ステップS216において、制御条件判定部55は、第3摩耗進行手順の所定の終了条件を満たすか否かを判定する。例えば、1回前の第3摩耗進行手順での単位摩擦エネルギーEn−1に対して、現時点の第3摩耗進行手順での単位摩擦エネルギーEnが、0.5×En−1<En<1.5×En−1である状態が所定の回数得られた場合に、第3摩耗進行手順の所定の終了条件を満たすと判定される。すなわち、第3摩耗進行手順は、少なくとも2回実行され、最大11回実行される。なお、ステップS216で用いる単位摩擦エネルギーEn−1、Enは、例えば、タイヤモデル10すべての単位摩擦エネルギーや、タイヤモデル10の単位摩擦エネルギーの平均値等を用いる。
ここで、0.5×En−1<En<1.5×En−1となる回数を多すると、評価に供する摩耗後のタイヤモデル10が得られるまでの時間が増加する。一方、新たに表面接点11NSがタイヤモデル10へ接地すると、単位摩擦エネルギーが大きく変化するおそれがある。この場合に、0.5×En−1<En<1.5×En−1となる回数が少ないと、単位摩擦エネルギーが安定しないで第2摩耗進行手順へ移行することになり、得られるタイヤモデル10は摩耗形態の再現性が低下するおそれがある。したがって、0.5×En−1<En<1.5×En−1でとなる回数は、1回以上10回以下が好ましく、より好ましくは3回以上6回以下である。これによって、評価に供する摩耗後のタイヤモデル10が得られるまでの時間の増加を抑制しつつ、評価に供するタイヤモデル10の摩耗形態の再現性を確保できる。
ステップS216でNoと判定された場合、すなわち、制御条件判定部55が、第3摩耗進行手順の所定の終了条件は満たさないと判定した場合、ステップS212へ戻り、第3摩耗進行手順の所定の終了条件を満たすまで、ステップS212〜ステップS216を繰り返す。ステップS216でYesと判定された場合、すなわち、制御条件判定部55が、第3摩耗進行手順の所定の終了条件を満たすと判定した場合、ステップS206へ進み、第2摩耗進行手順(図16のSA2)へ移行する。これによって、第3摩耗進行手順は終了する。第2摩耗進行手順では、第3摩耗進行手順が終了した後におけるタイヤモデル10に対してステップS206、すなわち第2転動解析手順が実行される。
(評価例)
図17は、実施形態2に係るタイヤモデルの作成方法及び比較例のタイヤモデル作成方法の評価結果を示す図表である。評価に用いたタイヤモデル及び評価条件は実施形態1の評価例と同様である。図17は、実施形態1に係るタイヤモデルの作成方法によるものと実施形態2に係るタイヤモデルの作成方法によるものを示している。実施形態1、実施形態2に係るタイヤモデルの作成方法では、第1摩耗進行手順(図17のSS)における摩耗量(D1ij)を0.01mm、第2摩耗進行手順(図17のSA)における摩耗量(D2ij)を0.7mmとしている。さらに実施形態2に係るタイヤモデルの作成方法では、第3摩耗進行手順(図17のCB)における摩耗量(D1ij)を0.01mmとしている。
図17からわかるように、実施形態1での総処理数が57であるのに対し、実施形態2の総処理数は69である。しかし、実施形態1の摩耗形態は、実際の摩耗形態をよく再現できることが確認されている比較例1(図9参照)に対してやや劣るのに対し、実施形態2の摩耗形態は、比較例1と同等である。このように、本実施形態に係るタイヤモデルの作成方法は、実際の摩耗形態をよく再現できる比較例1に対して同等の摩耗形態であり、かつ目標とする摩耗形態を達成するまでの処理時間は、比較例1に係るタイヤモデルの作成方法の約1/12で済む。
以上、本実施形態では、第2摩耗進行手順の実行中、タイヤモデルの表面が新たに路面モデルと接触した場合には、現時点におけるタイヤモデルの単位摩擦エネルギーに基づいて求められた摩耗量に基づいてタイヤモデルを変更する第3摩耗進行手順へ移行する。タイヤモデルの単位摩擦エネルギーに基づいて求められた摩耗量は、現時点以前における複数の前記タイヤモデルの単位面積あたりの摩擦エネルギーに基づいて得られる摩耗量よりも小さいので、第3摩耗進行手順によって、タイヤモデルの表面節点が新たに路面モデルに接地した場合においても、摩耗形態を精度よく求めることができる。また、第3摩耗進行手順を複数回繰り返すことにより、単位摩擦エネルギーの変化の傾向を把握できるので、第3摩耗進行手順が終了した後に実行される第2摩耗進行手順においても、摩耗形態を精度よく求めることができ、摩耗形態の再現性を確保できる。