JP3853344B2 - タイヤの摩耗予測方法、タイヤの設計方法、タイヤの製造方法、タイヤの摩耗予測システム及びプログラム - Google Patents
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Description
一般に、タイヤのトレッド部材の摩耗特性、例えばトレッド部材の摩耗量は路面に大して部分的に滑るトレッド部材の滑り量と、トレッド部材におけるゴムの耐摩耗物性とによって決定される。
一般に、トレッド部材の使用条件に対する摩耗割合は、大きい順に並べるとコーナリング時、制動時、駆動時となっていることが知られている。
又、摩耗割合が比較的大きい制動時においても、トレッド部材の路面に対する滑り量は、制動時のスリップ率によって一意的に定まるものではなく、トレッド部材の凝着摩擦係数、滑り摩擦係数のみならず、ベルト部分の構造やサイド部分の構造の影響を受けて定まる。
しかし、上述したようにタイヤにおけるトレッド部材の摩耗特性は、トレッド部材のゴム物性のみによって左右されるものではない。摩耗特性は、トレッド部材の凝着摩擦係数、滑り摩擦係数の他に、ベルト部分の構造やサイド部分の構造の影響を受けるものであり、ゴム物性の評価だけではタイヤの摩耗特性を精度よく予測することはできない。又、実車による摩耗試験を行うことで、摩耗特性を精度良く予測することはできるが、試験に時間がかかり過ぎるといった問題があった。
前記タイヤ軸力は、前記タイヤにスリップ角が与えられて、タイヤ回転軸に対して平行な方向に作用する横力であり、この場合、前記特性曲線を取得するステップでは、前記横力の特性曲線の他に、前記横力により生じるセルフアライニングトルクのスリップ角依存性を表す特性曲線を取得することが好ましい。
その際、前記タイヤ力学モデルは、タイヤにスリップ角が与えられたときの横力を算出するとともに、セルフアライニングトルクをタイヤの接地面に作用する横力によって生じる横力トルク成分と、タイヤの接地面に作用する前後力によって生じる前後力トルク成分とに分けてセルフアライニングトルクを算出するモデルであることが好ましい。
又、前記タイヤ力学要素パラメータの値を導出する際、前記横力の特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出される横力の対応する曲線との二乗残差和と、前記セルフアライニングトルクの特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出されるセルフアライニングトルクの対応する曲線との二乗残差和とを、重み付け係数を用いて重み付け加算した値であって、前記重み付け係数として、前記横力および前記セルフアライニングトルクのそれぞれの特性曲線の、スリップ角に依存して変化する値のばらつきの情報から求められる係数を用いた複合二乗残差和の値が、所定値以下となるように、前記タイヤ力学要素パラメータの値を導出することが好ましい。
その際、導出された前記タイヤ力学要素パラメータの値を用いて、所定のスリップ角及び制駆動方向のスリップ率におけるタイヤ滑り量を、前記タイヤ力学モデルに基づいて算出し、算出したタイヤ滑り量を用いて、前記所定のスリップ角及び制駆動方向のスリップ率におけるタイヤのトレッド摩耗特性を予測するステップ、をさらに有することが好ましい。前記タイヤ力学要素パラメータの値を導出する際、前記前後力の特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出される前後力の対応する曲線との二乗残差和と、前記横力の特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出される横力の対応する曲線との二乗残差和と、前記セルフアライニングトルクの特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出されるセルフアライニングトルクの対応する曲線との二乗残差和とを、重み付け係数を用いて重み付け加算した値であって、前記重み付け係数として、前記横力および前記セルフアライニングトルクのそれぞれの特性曲線の、スリップ角に依存して変化する値のばらつきの情報から求められる係数を用いた複合二乗残差和の値が、所定値以下となるように、前記タイヤ力学要素パラメータの値を導出することが好ましい。
なお、スリップ角をαとするとtanαはスリップ率であるので、本発明における「スリップ率」は制駆動方向のスリップ率の他に、スリップ角αとしたときのtanαも含む。
以降では、スリップ角と制駆動方向のスリップ率を区別して説明する。
このようなタイヤ滑り量を求めるタイヤ力学モデルは下記に詳述する。
装置1は、前後力Fx、横力Fy、セルフアライニングトルク(以降、単にトルクという)Mz等のタイヤ軸力・トルクのデータの入力を受けることによって後述するタイヤ力学モデルに基づいて複数のタイヤ力学要素パラメータ(以降、パラメータという)の値を導出する、あるいは、タイヤ力学モデルにおけるタイヤ力学要素パラメータの値の入力を受けることによって、タイヤ力学モデルを用いて前後力、横力およびトルク等のタイヤ軸力・トルクのデータを算出する装置である。
タイヤ力学モデル演算プログラム12は、タイヤ力学モデルを解析式で表し、タイヤ力学要素パラメータを用いて前後力、横力およびトルク等のタイヤ軸力・トルクを算出するプログラムである。
タイヤ力学モデル演算プログラム14は、与えられたタイヤ力学要素パラメータの値を用いて、所定のスリップ角及び制駆動方向のスリップ率の条件下、前後力、横力およびトルクの対応算出データ(前後力Fx’、横力Fy'およびトルクMz’)を処理結果として、タイヤ力学要素パラメータ導出プログラム14、タイヤ軸力・トルクデータ算出プログラム16に返す演算部である。
タイヤ力学モデルは、図2に示すように、剛体の円筒部材にサイドウォールのばね特性を表す複数のばね要素からなるサイドウォールモデルと、これらのばね要素に接続された弾性リング体からなるベルトモデルと、この弾性リング体の表面に接続されたトレッドモデルを表す弾性要素からなるトレッドモデルとを有して構成されるものである。
(a)タイヤの横方向、前後方向の剪断剛性によって定められる前後剛性・横剛性Kt、
(b)路面とタイヤ間の滑り速度0における滑り摩擦係数μd0、
(c)路面とタイヤ間の凝着摩擦係数μs、
(d)ベルト部材の横方向曲げ係数ε、
(e)タイヤのタイヤ中心軸周りのねじり剛性の逆数であるねじりコンプライアンス(1/Gmz)、
(f)横力発生中の接地面の接地圧力分布を規定する係数n、
(g)接地圧力分布の偏向の程度を表す係数Cq、
(h)接地面におけるタイヤ中心位置の前後方向への移動の程度を示す移動係数Cxc、
(i)横力発生時の実効接地長le、
(j)滑り摩擦係数μdの転動速度依存性係数bv、等である。
なお、線形パラメータとは、式(6)〜(8)において線形の形式で表されている力学要素パラメータをいい、非線形パラメータとは、式(6)〜(8)において非線形の形式で表されている力学要素パラメータをいう。
ここで、関数Dgsp(t;n,q)中の係数nは横力発生中の接地面の接地圧分布を規定するもので、図5(c)に示すように接地圧分布の踏込み端および蹴りだし端付近で角張る(曲率が大きくなる)ように接地圧分布を規定する係数である。また、図5(d)に示すように係数qが0から1になるにしたがって接地圧分布のピーク位置は踏込み端側に移動するように設定されている。このように係数qおよび係数nは、接地圧分布の形状を規定する形状規定係数である。
図6(a)〜(c)に示される最大摩擦曲線は、凝着摩擦係数μsに接地圧分布p(t)を乗算したものである。踏込み端で路面と接地したタイヤのトレッド部材は、蹴りだし端に移動するにつれてスリップ角αによって徐々に路面から横方向の剪断を受け、トレッド部材に横方向剪断力(凝着摩擦力)が発生する。さらに、路面の移動速度とタイヤの転動速度と差によって生じる制駆動方向のスリップ率Sによって、トレッド部材は徐々に路面から前後方向に剪断を受け、トレッド部材に前後方向剪断力(凝着摩擦力)が発生する。タイヤと路面との間に発生する剪断力は、横方向剪断力と前後方向剪断力との合力により表される。
この剪断力の合力は、徐々に大きくなって最大摩擦曲線に達すると、路面に凝着していたタイヤトレッド部材は滑り出し、滑り摩擦係数μdに接地圧分布p(t)を乗算したすべり摩擦曲線に従って滑り摩擦力が発生する。図6(a)では、境界位置(lh/l)より踏込み端側の領域がタイヤトレッド部材が路面に凝着した凝着域となり、蹴りだし側の領域がタイヤトレッド部材が路面に対して滑る滑り域となる。境界位置(lh/l)は、式(4)により定まる。
図6(b)は、スリップ角αが図6(a)に示すスリップ角αよりも大きくなった状態を示している。境界位置(lh/l)は図6(a)に比べて踏込み端側に移動している。さらに、スリップ角αが大きくなると、図6(c)に示すように接地面の踏込み端の位置からすべり摩擦が発生する状態となる。
同様に、前後方向剪断力についても、凝着域および滑り域の前後方向摩擦力、すなわち前後力成分をタイヤ幅方向に沿って積分することによって前後力Fx’を算出することができる。
式(6)〜(8)では、上述の凝着域および滑り域に分けて、実効スリップ角αeを用いて前後力Fx’、横力Fy’およびトルクMz’を算出する。
なお、滑り摩擦係数μdは、式(5)に示すように、滑り速度依存性を有するように規定されている。
式(7)では2つの項(2つの横力成分)の和によって横力Fy’を算出する。第1項は積分範囲が0〜(lh/l)の積分であって、凝着域に発生する凝着横力成分を表す。第2項は積分範囲が(lh/l)〜1の積分であってすべり域に発生する滑り横力成分を表す。
第2項のすべり横力成分はすべり域における横力であり、式(7)では、実効スリップ角αeによって生じる接地圧分布p(t)の形状を関数Dgsp(t;n,q)で表してすべり横力成分を算出する。
なお、本実施形態では、横剛性及び前後剛性を同じ値Ktとしたタイヤ力学モデルであるが、本発明では、トレッド部材に設けられるトレッドパターンによって横剛性及び前後剛性は異なるものとして、異なるパラメータとして設定してもよい。この場合、横剛性をKtとし、前後剛性をKxとした場合、式(6)中の第1項に含まれるKtをKxとし、式(8)中の第3項に含まれるKtをKxとして、別々の非線形パラメータとして定めるとよい。
又、滑り域における滑り摩擦係数μdについても、トレッドパターンによって横方向と前後方向で異なるパラメータとして扱ってもよい。
図4(a)は、スリップ角αが付与された際、スリップ角αによって生じるトルクによってスリップ角αを減ずるようにタイヤ自身に作用し、実効スリップ角αeとなっている状態を示している。図4(b)は、この実効スリップ角αeによって生じる横方向変位とベルトの横曲げ変形によって生じる横方向変位の関係を示している。図4(c)はタイヤの接地面が横力によって横方向に移動することによって生じる、前後力分布がトルクMz'に寄与するメカニズムを示している。図4(c)中、Mz1およびMz2は凝着横力成分によるトルク成分および滑り横力成分によるトルク成分を、Mz3は接地面に作用する前後力によるトルク成分を示している。
具体的には、図8に示すように、一定の負荷荷重において制駆動方向のスリップ率を種々変えた条件の下、スリップ角を0〜20度変化させて前後力Fx、横力FyおよびトルクMzの特性曲線を取得する(ステップS202)。
次に、非線形パラメータである横方向曲げ係数ε、ねじりコンプライアンス(1/Gmz)、係数n、前後剛性・横剛性と凝着摩擦係数との比Kt/μs、の比係数Cq、移動係数Cxc等を所定の値に初期設定する(ステップS204)。
こうして初期設定された非線形パラメータの値および正規方程式を用いて算出された線形パラメータの値および前後力Fx、横力FyおよびトルクMzの特性曲線のデータをタイヤ力学モデル演算プログラム12に付与する。この付与によって図7のブロック図の流れに従って制駆動方向のスリップ率Sにおけるスリップ角αにおける前後力Fx’、横力Fy’およびトルクMz’が算出される。
gx=1/σx 2
gy=1/σy 2
gm=1/σm 2
すなわち、複合二乗残差和Qcは特性曲線の値のばらつきの情報である分散の逆数を重み付け係数とし、前後力、横力およびトルクのそれぞれの二乗残差和を重み付け加算したたものである。
複合二乗残差和は、所定値以下となって収束しているか否かを判別する(ステップS210)。
収束していないと判別すると、ステップS204で初期設定された非線形パラメータの調整を行う(ステップS212)。この非線形パラメータの調整は、例えばNewton-Raphson法に従って行なわれる。
以上が、タイヤ力学要素パラメータ導出プログラム14の行なう、タイヤ力学モデルを用いた制駆動方向のスリップ率S,スリップ角αにおける線形パラメータおよび非線形パラメータの導出の流れである。
タイヤ軸力・トルクデータ算出プログラム16は、まず、導出された線形パラメータおよび非線形パラメータをメモリ4から読み出して設定する(ステップS400)。
さらに、負荷荷重Fzにおける前後力Fx、横力FyおよびトルクMzを初期設定する(ステップS402)。
この後、スリップ角依存性を表す特性曲線を算出する場合、設定されたスリップ角α=Δαとともに線形パラメータおよび非線形パラメータおよび初期設定された前後力Fx、横力FyおよびトルクMzをタイヤ力学モデル演算プログラム12に付与する。タイヤ力学モデル演算プログラム12では、付与された線形パラメータおよび非線形パラメータと、初期設定された前後力Fx、横力FyおよびトルクMzが用いられて式(6)〜(8)に従って前後力Fx’、横力Fy'、トルクMz’が算出される(ステップS404)。
次に、算出された複合二乗残差和が所定値以下となって収束しているか否かを判別する(ステップS408)。
収束していないと判別すると、先に設定された前後力Fx、横力FyおよびトルクMzの設定値を調整する(ステップS410)。この調整された前後力Fx、横力FyおよびトルクMzと線形パラメータおよび非線形パラメータとが再度タイヤ力学モデル演算プログラム12に付与される。
こうして、複合二乗残差和が所定値以下となって収束するまで、前後力Fx、横力FyおよびトルクMzの設定値を調整する。この設定値の調整は、例えば上述したNewton-Raphson法に従って行なわれる。こうして、前後力Fx’、横力Fy'、トルクMz'を決定する(ステップS412)。
スリップ角αが所定のスリップ角以下であると判別した場合、スリップ角αの条件が変更される(α→α+Δα)(ステップS414)。そして、変更されたスリップ角αにおける前後力Fx、横力Fy、トルクMzの初期値が設定され(ステップS402)、前後力Fx’、横力Fy'およびトルクMz’が算出され(ステップS404)、複合二乗残差和が算出され(ステップS406)、この複合二乗残差和の収束が判別される(ステップS408)。
こうして、スリップ角αが所定スリップ角となるまで繰り返し変更される(ステップS416)。このスリップ角の変更の度に前後力Fx’、横力Fy’およびトルクMz’を算出し、収束する前後力Fx’、横力Fy’およびトルクMz’を決定する。決定された前後力Fx’、横力Fy’およびトルクMz’はメモリ4に記憶される。
このようにして、スリップ角αに依存する前後力、横力およびトルクの特性曲線を求める。
図10に示すように、凝着域と滑り域との境界位置(lh/l)における変形量であるl・[S2+{tan(αe) −(ε・l) ・Fy・(1−lh/l)}2](1/2)がタイヤ滑り量となる。算出されたタイヤ滑り量はメモリ4に記憶される。
トレッドゴム部材の摩耗特性は、予め新JIS K6264で規定される試験法にて求められるゴム部材の物性データをデータベースとして保有しており、この物性データと所定の横力発生時のタイヤの滑り量とを乗算した結果をタイヤの摩耗特性として予測する部分である。
ゴム部材の物性データとして、例えばリング状試験片をDIN摩耗試験法によって摩耗量を測定して得られる単位走行距離当たりの摩耗量を求める。このゴム物性としての摩耗量は、予め基準ゴム部材を定め、この基準ゴム部材の摩耗量を基準として指数として表すこともできる。
ゴム部材のゴム物性データとして、この他に破断伸びEbや破断強度Tbや破断エネルギーEb×Tbを用いることもできる。この場合、基準ゴム部材の値を基準値として指数を用いることが好ましい。
このようにして算出された摩耗特性の予測結果としての数値或いは指数が、出力装置7に画面表示、或いはプリント出力される。
装置1は、以上のように構成される。
このようなプログラムは、タイヤに制駆動方向のスリップ率を与えたときのタイヤ回転軸に作用するタイヤ軸力及びセルフアライニングトルクの、制駆動方向のスリップ率に対して変化する特性曲線を取得し、コンピュータのメモリ4に記憶させる手順と、
メモリ4に記憶された特性曲線から、複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルに基づいて、この特性曲線を定めるタイヤ力学要素パラメータの値を、コンピュータの演算ユニットに導出させる手順と、
導出されたタイヤ力学要素パラメータの値をタイヤ力学モデルに与えて、タイヤと接地面の間に形成される凝着域と滑り域を前記演算手段に求めさせ、この滑り域からタイヤ滑り量をコンピュータの演算ユニットに求めさせる手順と、
このタイヤ滑り量を、トレッドゴム部材の摩耗特性データと共に用いて、制駆動方向のスリップ率が与えられたときのタイヤのトレッド摩耗 特性を、コンピュータの演算ユニットに評価させる手順と、を有するとよい。
まず、タイヤ力学要素パラメータ導出プログラム8では、メモリ4に記憶されている特性曲線の計測データが呼び出されて、制駆動方向のスリップ率を種種変えた条件の下、スリップ角を0〜20度に変化させたときの特性曲線が取得される(ステップS300)。特性曲線は、例えばFLAT TRAC-I,FLAT TRAC-II,FLAT TRAC-III(MTS社製商品名)等の室内試験機を用いて計測データが取得される。
次に、導出されたタイヤ力学要素パラメータを用いて、タイヤ軸力・トルクデータ算出プログラム16において、所定の制駆動方向のスリップ率Sにおける特性曲線が算出されるとともに、所定の横力発生時のタイヤ滑り量が算出される(ステップS304)。タイヤ滑り量は、境界位置(lh/l) における変形量であるl・[S2+{tan(αe) −(ε・l) ・Fy・(1−lh/l)}2](1/2)である。
ゴム物性データは、例えばゴム部材の室内摩耗試験結果のデータであり、又破断エネルギー(Eb×Tb)が所定の基準ゴム部材を基準とした指数で表したものである。
こうして、タイヤ滑り量、ゴム物性データおよび接地幅を乗算した結果が出力装置7に出力される。
図12は、このようなタイヤ設計の流れを示すフローチャートである。
まず、タイヤ力学要素パラメータの値が設定される(ステップS320)。
この設定されたタイヤ力学要素パラメータの値を用いてタイヤ軸力・トルクデータ算出プログラム16において、所定の制駆動方向のスリップ率S、スリップ角における、タイヤ軸力、トルクの値が算出されるとともに、所定のタイヤ軸力(横力)発生時のタイヤ滑り量が算出される(ステップS322)。このタイヤ滑り量を用いて、上述したステップS306のように摩耗特性の予測が行われる(ステップS324)。予測された摩耗特性が予め定められた目標を達成するか、否かが判別される(ステップS326)。判別の結果、目標を達成しない場合、タイヤ力学要素パラメータが修正される(ステップS328)。修正されたタイヤ力学要素パラメータは、ステップS322に戻され、再度タイヤ滑り量が算出される。こうして、ステップS326において、目標を達成するまで繰り返しタイヤ力学要素パラメータが修正される。修正の方法は特に限定されないが、例えば予め定められた変化幅を用いて段階的に修正する。
最後に、目標を達成するタイヤ力学要素パラメータの値は、タイヤ設計仕様特性として決定され(ステップS330)、この特性に基づいて、タイヤ形状を含めたタイヤの構造設計及びゴム部材の配合設計を含めた材料設計が行われる。
こうして設計されたタイヤは、タイヤ設計仕様特性を満足するように製造される。
図13は、このときのタイヤ力学モデルを説明する図である。
図13に示すタイヤ力学モデルを表す式(11)〜(16)は、図3に示す力学モデルのうち、式(1)〜(8)に対して制駆動方向のスリップ率S=0とすることにより得られる式と対比して、式(2),(3)中のFxをMzとしたことと、式(8)中の第3、第4項が異なること以外は同じである。
ここで、図13中の式(16)におけるAxは、接地面内の前後剛性Axであり、接地面が横方向に移動することによりトルクMz'に影響を与える線形パラメータである。
また、図14は、スリップ角αが付与されタイヤ力学モデルに基づいて横力Fy'およびトルクMz'が算出されるまでの処理ブロック図である。図14からわかるように、タイヤ力学モデルは、横力Fy'およびトルクMz'の算出の際、ベルトの横曲げ変形、接地圧分布の形状変化およびタイヤの捩じり変形がフィードバックされて式(15),(16)において算出される。なお、横力Fy'およびトルクMz'を算出する際に用いるベルトの横曲げ変形、接地圧分布の形状変化およびタイヤの捩じり変形には、付与される横力FyおよびトルクMzが用いられる。
この場合、複合二乗残差和Qcは、下記式(17)に従って算出される。この場合、式(17)中のNは付与されるスリップ角αの条件設定数である。また、このときの重み付け係数gy,gmは、N個のスリップ角の条件における横力Fy,トルクMzの分散から求められたものである。
図15は、このときのタイヤ力学モデルを説明する図である。
図15に示すタイヤ力学モデルを表す式(21)〜(24)は、図3に示す力学モデルのうち、式(1)〜(8)に対してスリップ角α=0とすることにより得られる式と同じである。
図16(a)は、制駆動方向のスリップ率S、転動速度Vが付与されタイヤ力学モデルに基づいて前後力Fx'が算出されるまでの処理ブロック図である。図16(a)からわかるように、タイヤ力学モデルは、前後力Fx'の算出の際、接地圧分布の形状変化がフィードバックされて式(24)において算出される。
図16(b)は、このときの接地面内における凝着域及び滑り域を説明する図である。
図16(b)では、踏み込み端から5cmの位置がlhに対応し、この位置におけるトレッド部材の前後方向の、路面に対する変位量が滑り量とされる。
この場合、収束しているか否かの判別に用いる複合二乗残差和Qcは、特性曲線における前後力Fxの値と、タイヤ力学モデルを用いて算出された前後力Fx’の値との二乗残差和である。
図17(a)は、与えられた横力の特性曲線を表した図であり、図17(b)は、この特性曲線から導出されたタイヤ力学要素パラメータの値を用いて算出された横力の算出データを示した図である。図17(c)は、導出されたタイヤ力学要素パラメータの値を用いて算出されるタイヤ滑り量を示している。
図17(b)に示すように、横力の算出データは、図17(a)に示す特性曲線を忠実に再現しており、タイヤ力学要素パラメータの値が精度高く導出されたことを意味し、また、タイヤ力学モデルが特性曲線を忠実に再現できるモデルであることがわかる。
このようなタイヤ滑り量のうち、所定の横力におけるタイヤ滑り量を代表値として、上述したように、トレッド部材のゴム物性データとタイヤの接地幅とを乗算して、タイヤの摩耗特性を予測する。具体的には、ゴム物性データとして所定の摩耗試験法によって摩耗量を測定して得られる単位走行距離当たりの摩耗量の場合、摩耗特性の値が大きいほど、摩耗特性は劣っているものと判断される。
図18(a)は、与えられた前後力の特性曲線を表した図であり、図18(b)は、この特性曲線から導出されたタイヤ力学要素パラメータの値を用いて算出された前後力の算出データを示した図である。
図18(b)に示すように、前後力の算出データは、図18(a)に示す特性曲線を忠実に再現しており、タイヤ力学要素パラメータの値が精度高く導出されたことを意味し、また、タイヤ力学モデルが特性曲線を忠実に再現できるモデルであることがわかる。
タイヤ滑り量は、このようなタイヤ力学モデルと、このモデルを構成するタイヤ力学要素パラメータを用いて算出される。
図20(b),(c)は、室内試験で計測される横力及びトルクのスリップ角依存性の特性曲線を示す図であり、導出されたタイヤ力学要素パラメータの値を用いて特性曲線の対応する横力及びトルクを算出して●、▲、■でプロットしている。横力、トルクの特性曲線のいずれにおいても、●、▲、■でプロットは特性曲線上に乗っており、精度よくタイヤ力学要素パラメータの値が導出されていることがわかる。
この導出されたパラメータの値を用いて算出されるタイヤ滑り量は、図20(d)に示すように、タイヤAはタイヤB,Cに比べて極めて小さく、滑り量の小さい順番は、タイヤA、タイヤB、タイヤCの順になっている。したがって、このタイヤ滑り量と上述した破断エネルギーEb×Tbの指数とを乗算した結果は、タイヤA(摩耗特性:優)>タイヤB>タイヤC(摩耗特性:劣)となる。これがタイヤ摩耗特性の予測である。この予測結果は、ゴム部材のゴム物性データでは説明のできない上述の摩耗寿命の順を説明することができる。
2 CPU
3 バス
4 メモリ
5 入力操作系
6 インターフェース
7 出力装置
8 プログラム群
10 統合・管理プログラム
12 タイヤ力学モデル演算プログラム
14 タイヤ力学要素パラメータ導出プログラム
16 タイヤ軸力・トルク算出プログラム
18 滑り量算出プログラム
20 摩耗特性予測プログラム
Claims (18)
- タイヤにスリップ率が与えられて接地面に滑り域を形成するときのタイヤ滑り量を求めることにより、タイヤの摩耗特性を予測するタイヤの摩耗予測方法であって、
タイヤにスリップ率を与えたときのタイヤ回転軸に作用するタイヤ軸力の、前記スリップ率に対して変化する特性曲線を取得するステップと、
前記特性曲線から、複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルに基づいて、前記特性曲線を定めるタイヤ力学要素パラメータの値を導出するステップと、
前記タイヤ力学要素パラメータの値を前記タイヤ力学モデルに与えて、タイヤの接地面に形成される凝着域と滑り域を求め、この滑り域からタイヤ滑り量を求めるステップと、
このタイヤ滑り量を、トレッドゴム部材の摩耗特性データと共に用いて、前記スリップ率が与えられたときのタイヤのトレッド部材の摩耗特性を予測するステップと、を有することを特徴とするタイヤの摩耗予測方法。 - 前記スリップ率は、タイヤにスリップ角が与えられたときのスリップ率及び制駆動方向のスリップ率の少なくとも一方を含む請求項1に記載のタイヤの摩耗予測方法。
- 前記タイヤ軸力は、前記タイヤにスリップ角が与えられて、タイヤ回転軸に対して平行な方向に作用する横力であり、
前記特性曲線を取得するステップでは、前記横力の特性曲線の他に、前記横力により生じるセルフアライニングトルクのスリップ角依存性を表す特性曲線を取得する請求項2に記載のタイヤの摩耗予測方法。 - 前記タイヤ力学モデルは、タイヤにスリップ角が与えられたときの横力を算出するとともに、セルフアライニングトルクをタイヤの接地面に作用する横力によって生じる横力トルク成分と、タイヤの接地面に作用する前後力によって生じる前後力トルク成分とに分けてセルフアライニングトルクを算出するモデルである請求項3に記載のタイヤの摩耗予測方法。
- 前記タイヤ力学要素パラメータの値を導出する際、前記横力の特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出される横力の対応する曲線との二乗残差和と、前記セルフアライニングトルクの特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出されるセルフアライニングトルクの対応する曲線との二乗残差和とを、重み付け係数を用いて重み付け加算した値であって、前記重み付け係数として、前記横力および前記セルフアライニングトルクのそれぞれの特性曲線の、スリップ角に依存して変化する値のばらつきの情報から求められる係数を用いた複合二乗残差和の値が、所定値以下となるように、前記タイヤ力学要素パラメータの値を導出する請求項3又は4に記載のタイヤの摩耗予測方法。
- 前記タイヤに対してスリップ角及び制駆動方向のスリップ率が与えられ、前記タイヤ軸力は、前記タイヤ回転軸に対して平行な方向に作用する横力及び前記タイヤ回転軸に対して直交する方向に作用する前後力であり、
前記特性曲線を取得するステップでは、前記横力のスリップ角依存性の特性曲線のほかに、前記横力により生じるセルフアライニングトルクのスリップ角依存性を表す特性曲線と、前記前後力のスリップ率依存性を表す特性曲線を取得する請求項2に記載のタイヤの摩耗予測方法。 - 導出された前記タイヤ力学要素パラメータの値を用いて、所定のスリップ角及び制駆動方向のスリップ率におけるタイヤ滑り量を、前記タイヤ力学モデルに基づいて算出し、
算出したタイヤ滑り量を用いて、前記所定のスリップ角及び制駆動方向のスリップ率におけるタイヤのトレッド摩耗特性を予測するステップ、をさらに有する請求項6に記載のタイヤの摩耗予測方法。 - 前記タイヤ力学要素パラメータの値を導出する際、前記前後力の特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出される前後力の対応する曲線との二乗残差和と、前記横力の特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出される横力の対応する曲線との二乗残差和と、前記セルフアライニングトルクの特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出されるセルフアライニングトルクの対応する曲線との二乗残差和とを、重み付け係数を用いて重み付け加算した値であって、前記重み付け係数として、前記横力および前記セルフアライニングトルクのそれぞれの特性曲線の、スリップ角に依存して変化する値のばらつきの情報から求められる係数を用いた複合二乗残差和の値が、所定値以下となるように、前記タイヤ力学要素パラメータの値を導出する請求項6又は7に記載のタイヤの摩耗予測方法。
- 前記特性曲線から、前記タイヤ力学モデルに基づいて、前記タイヤ力学要素パラメータの値を導出する際、セルフアライニングトルクにより発生するタイヤの捩じり変形によって、付与されるスリップ角が修正された実効スリップ角を用いてタイヤ力学要素パラメータの値を導出する請求項3〜8のいずれか1項に記載のタイヤの摩耗予測方法。
- 導出される前記タイヤ力学要素パラメータの値は、タイヤのトレッド部材と路面との間の凝着摩擦係数およびすべり摩擦係数と接地圧分布の形状を規定する形状規定係数を含む請求項1〜9のいずれか1項に記載のタイヤの摩耗予測方法。
- 前記凝着摩擦係数、前記すべり摩擦係数および前記形状規定係数は、予め求められた、タイヤの剪断変形に対する剛性パラメータ、タイヤの横曲げ変形に対する剛性パラメータおよびタイヤの捩じり変形に対する剛性パラメータの少なくとも1つを用いて導出する請求項10に記載のタイヤの摩耗予測方法。
- 前記タイヤに対して制駆動方向のスリップ率が与えられ、前記タイヤ軸力は、前記タイヤ回転軸に対して直交する方向に作用する前後力であり、
前記特性曲線を取得するステップでは、前記前後力のスリップ率依存性を表す特性曲線を取得する請求項2に記載のタイヤの摩耗予測方法。 - 請求項1〜12のいずれか1項に記載のタイヤの摩耗予測方法を用いてトレッド部材の摩耗特性を予測するステップと、
トレッド部材の摩耗特性の予測結果が目標を達成しない場合、タイヤ力学要素パラメータの値を修正するステップと、
トレッド部材の摩耗特性の予測結果が目標を達成する場合、設定されたタイヤ力学要素パラメータの値をタイヤ設計仕様特性として決定するステップと、を有することを特徴とするタイヤの設計方法。 - 修正する前記タイヤ力学要素パラメータは、前記タイヤ力学モデルにおける剛性を表す剛性パラメータを含み、前記タイヤ設計仕様特性として決定したタイヤ力学要素パラメータの値に基づいて、タイヤの構造部材の設計を行うステップを、さらに有する請求項13に記載のタイヤの設計方法。
- 修正する前記タイヤ力学要素パラメータは、前記タイヤ力学モデルにおける凝着摩擦係数又は滑り摩擦係数を含み、前記タイヤ設計仕様特性として決定したタイヤ力学要素パラメータの値に基づいて、タイヤのゴム部材の材料設計を行うステップを、さらに有する請求項13又は14に記載のタイヤの設計方法。
- 請求項13〜15のいずれか1項に記載のタイヤの設計方法により定められたタイヤの構成部材又はタイヤのゴム部材を用いて、タイヤを製造することを特徴とするタイヤの製造方法。
- タイヤにスリップ率が与えられて接地面に滑り域を形成するときのタイヤ滑り量を求めることにより、タイヤの摩耗特性を予測するタイヤの摩耗評価予測システムであって、
タイヤにスリップ率を与えたときのタイヤ回転軸に作用するタイヤ軸力の、前記スリップ率に対して変化する特性曲線を取得する手段と、
前記タイヤ軸力の特性曲線から、複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルに基づいて、前記特性曲線を定めるタイヤ力学要素パラメータの値を導出する手段と、
前記タイヤ力学要素パラメータの値を前記タイヤ力学モデルに与えて、タイヤの接地面に形成される凝着域と滑り域を求め、この滑り域からタイヤ滑り量を求める手段と、
このタイヤ滑り量を、トレッドゴム部材の摩耗特性データと共に用いて、前記スリップ率が与えられたときのタイヤのトレッド摩耗特性を予測する手段と、を有することを特徴とするタイヤの摩耗予測システム。 - タイヤにスリップ率が与えられて接地面に滑り域を形成するときのタイヤ滑り量を求めることによりタイヤの摩耗特性を予測させるための、コンピュータが実行可能なプログラムであって、
タイヤにスリップ率を与えたときのタイヤ回転軸に作用するタイヤ軸力の、前記スリップ率に対して変化する特性曲線を取得し、コンピュータのメモリに記憶させる手順と、
前記メモリに記憶された前記タイヤ軸力の特性曲線から、複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルに基づいて、前記特性曲線を定めるタイヤ力学要素パラメータの値を、前記コンピュータの演算手段に導出させる手順と、
導出された前記タイヤ力学要素パラメータの値を前記タイヤ力学モデルに与えて、タイヤの接地面に形成される凝着域と滑り域を前記演算手段に求めさせ、この滑り域からタイヤ滑り量を前記演算手段に求めさせる手順と、
このタイヤ滑り量を、トレッドゴム部材の摩耗特性データと共に用いて、前記スリップ率が与えられたときのタイヤのトレッド摩耗特性を、前記演算手段に予測させる手順と、を有することを特徴とするプログラム。
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