JP4160100B2 - タイヤの過渡応答データの算出方法、データ処理方法、タイヤの設計方法及び車両運動予測方法 - Google Patents
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又、前記タイヤ力学モデルを用いて算出される前記出力データは、横力に応じて発生するベルト部の曲げ変形によって修正された横力のデータであることが好ましい。特に、前記横力に応じて発生するベルト部の曲げ変形は、コーナリング中のベルト部の変形応答を規定する1次遅れ応答の応答関数と発生した横力の過去の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を行って表したものであることが好ましい。
演算装置10は、スリップ角やスリップ率が時系列データとして与えられたときの過渡状態にある横力Fy、セルフアライニングトルク(以降、単にトルクという)Mz、前後力Fxの計測データの入力を受けることによって後述するタイヤ力学モデルに基づいてタイヤの過渡応答特性を特徴付ける遅延時定数(過渡応答パラメータ)の値を算出するとともに、この遅延時定数とタイヤ力学モデルを構成するタイヤ力学要素パラメータの各値を用いて、過渡状態の横力Fy、トルクMz、前後力Fxの時系列データを算出する装置である。ここで、過渡応答特性とは、コーナリング中のスリップ角やスリップ率の時間変化に応じて時間変化する横力Fy、トルクMz、前後力Fxの出力特性をいう。また、過渡応答データとは、コーナリング中のスリップ角やスリップ率の時間変化に応じて時間変化する過渡状態の横力Fy、トルクMz、前後力Fxのデータをいう。
(a)タイヤの横方向のせん断剛性によって定められる横剛性Ky0、
(b)路面とタイヤ間の滑り摩擦係数μd、
(c)横剛性Ky0を路面とタイヤ間の凝着摩擦係数μsで除算した横剛性係数(Ky0/μs)、
(d)ベルト部材の横方向曲げ係数ε、
(e)タイヤのタイヤ中心軸周りの捩じり剛性の逆数であるねじりコンプライアンス(1/Gmz)、
(f)横力発生中の接地面の接地圧力分布を規定する係数n、
(g)接地圧力分布の偏向の程度を表す係数Cq、
(h)接地面におけるタイヤ中心位置の前後方向への移動の程度を示す移動係数Cxc、
(i)横力発生時の実効接地長le、
(j)接地面内の前後剛性Ax(前後力トルク成分を定めるパラメータ)、等である。
また、過渡応答特性を特徴付ける過渡応答パラメータは、以下のものが例示される。
(k)トレッド部のせん断変形による変形応答を規定する1次遅れ応答の遅延時定数ts、
(l)サイド部の捩じり変形による変形応答を規定する1次遅れ応答の遅延時定数tr、
(m)ベルト部の曲げ変形による変形応答を規定する1次遅れ応答の遅延時定数td、等である。
処理部16は、後述するシーケンスにしたがってタイヤ力学モデル演算部14に横力およびトルクを演算させることによって、各種パラメータの値を決定し、あるいはタイヤ力学モデルで過渡応答状態にある横力、トルク、前後力のデータを算出する部分である。
なお、コーナリングパラメータ算出部20、制駆動パラメータ算出部22、Fy/Mzパラメータ算出部24、およびFxデータ算出部26、の各機能については、後述する。
図2、図3、図4(a)〜(c)、図5(a)〜(d)および図6(a)〜(c)はタイヤ力学モデルを説明する図である。
まず、コーナリング中の過渡状態の横力及びトルクを算出する場合について説明する。図3に示すように、タイヤの各種ばね要素をまとめることによって構成される各種線形パラメータおよび非線形パラメータからなるタイヤ力学要素パラメータの数値が設定され、入力データとして与えられたスリップ角の時系列データα(t)を用いて、図3中の式(1)〜(8)に従って処理されて式(6),(7)中の時系列データである横力Fy(t)、トルクMz(t)がデータとして算出されるように構成されている。
なお、線形パラメータとは、式(6),(7)において線形の形式で表されているパラメータをいい、非線形パラメータとは、式(6),(7)において陽に又は陰に非線形の形式で表されているパラメータをいう。
図3の式(1)中の[1−exp(−(t−t’)/tr)]は、トルクMz(t)によって生じるサイド部の捩じり変形の1次遅れ応答の応答関数を表す。式(4)中の[1−exp(−(t−t’)/ts)]は、与えられたスリップ角α(t)によって生じるトレッド部のせん断変形の1次遅れ応答の応答関数を表す。式(8)中の[1−exp(−(t−t’)/td)]は、ベルト部の横力によって生じる横曲げ変形の1次遅れ応答の応答関数を表す。
ここで、関数Dgsp(x;n,q)中の係数nは横力発生中の接地面の接地圧分布を規定するもので、図5(c)に示すように接地圧分布の踏込み端および蹴りだし端付近で角張る(曲率が大きくなる)ように接地圧分布を規定する係数である。また、図5(d)に示すように係数qが0から1になるにしたがって接地圧分布のピーク位置は踏込み端側に移動するように設定されている。このように係数qおよび係数nは、接地圧分布の形状を規定する形状規定係数である。
図6(a)〜(c)に示される最大摩擦曲線は、凝着摩擦係数μsに接地圧分布p(x)を乗算したものである。踏込み端で路面と接地したタイヤトレッド部材は、蹴りだし端に移動するにつれて変形スリップ角αf(t)によって徐々に路面からせん断を受け、タイヤトレッド部材にせん断力(凝着摩擦力)が発生する。このせん断力は、徐々に大きくなって最大摩擦曲線に達すると、路面に凝着していたタイヤトレッド部材は滑り出し、滑り摩擦係数μdに接地圧分布p(x)を乗算した滑り摩擦曲線に従って滑り摩擦力が発生する。図6(a)では、境界位置(lh/l)より踏込み端側の領域がタイヤトレッド部材が路面に凝着した凝着域となり、蹴りだし側の領域がタイヤトレッド部材が路面に対して滑るタイヤ滑り域となる。図6(b)は、変形スリップ角αf(t)が図6(a)に示す変形スリップ角αf(t)よりも大きくなった状態を示している。境界位置(lh/l)は図6(a)に比べて踏込み端側に移動している。さらに、変形スリップ角αf(t)が大きくなると、図6(c)に示すように接地面の踏込み端の位置から滑り摩擦が発生する状態となる。
式(6)および(7)では、上述の凝着域および滑り域に分けて、変形スリップ角αf(t)を用いて横力Fy(t)およびトルクMz(t)を算出する。
なお、タイヤ力学モデル演算部14は、上記式(1)〜(8)に従って、横力Fy(t)、トルクMz(t)の時系列データを、t=0から微小時間Δtずつ時間を増加して逐次算出するので、時間tの時間ステップにおいて式(8)で求まるFye(t)は、次の時間ステップ、すなわち時間(t+Δt)における式(5),(6)中のFye(t)に用いられる。同様に、時間tにおいて式(7)で求まるMz(t)は、次の時間ステップ(時間t+Δt)における式(1),(2),(3)中のMz(t)に用いられる。
図4(a)は、スリップ角α(t)の時系列データが付与された際、スリップ角α(t)が、スリップ角α(t)によって生じるトルクによってスリップ角α(t)を減ずるようにタイヤ自身に作用し、かつ、1次遅れ変形による過渡状態の変形スリップ角αf(t)になっている状態を示している。図4(b)は、この変形スリップ角αf(t)によって生じる横方向変位とベルトの横曲げ変形によって生じる横方向変位の関係を示している。図4(c)はタイヤの接地面が横力によって横方向に移動することによって生じる前後力分布がトルクMz(t)に寄与するメカニズムを示している。図4(c)中、Mz1およびMz2は凝着横力成分によるトルク成分および滑り横力成分によるトルク成分を、Mz3は接地面に作用する前後力によるトルク成分を示している。
一般に、タイヤの過渡応答性に関わる遅延時定数をtxとしたとき、遅延時定数をtxは、走行速度Vに対する依存性を考慮して緩和長σxの形で扱われることが多い。緩和長σxとは、「スリップ角等のステップ入力に対して、タイヤが定常的な横力を出力するようになるのに必要な走行距離」のことであり、走行速度Vでの過渡応答の遅延時定数txは、下記式のように表される。
tx = σx(緩和長)/V(走行速度)
上述の遅延時定数ts,tr,tdに関しても、それぞれ緩和長σs,σd,σrが定義される。緩和長と距離周波数sv=s/Vを用いると、図7のブロック図中の伝達関数は、速度依存性を排除した以下の形式で表すことができる。
また、本実施形態では、トレッド部のせん断変形、ベルト部の横曲げ変形及びサイド部の捩じり変形のそれぞれを1次遅れ応答として用いるが、本発明では、少なくともトレッド部のせん断変形を1次遅れ応答として用いればよい。トレッド部のせん断変形における遅延時定数は、ベルト部の横曲げ変形及びサイド部の捩じり変形の遅延時定数に比べて長く、タイヤのコーナリング過渡応答の主要因となっているからである。
なお、タイヤ力学モデルにおいて用いる力学要素パラメータを含む線形、非線形のパラメータの値は、予めメモリ21に記憶される。これらのパラメータの値は、例えば特開2005−88832号公報に示されるパラメータの数値の導出方法を用いて求められる。
また、図9(a),(b)は、図8(a)〜(c)の計測データをスリップ角α(t)を横軸に採って表したグラフである。タイヤ力学モデルでは、トレッド部のせん断変形における遅延時定数tsのみを過渡応答として用い(ts=0.03秒)、ベルト部の横曲げ変形及びサイド部の捩じり変形の遅延時定数は用いなかった。これに対応するタイヤ力学モデルを用いて算出された横力Fy(t)及びトルクMz(t)のグラフは、図9(c),(d)である。
図10に示すように、タイヤの各種ばね要素をまとめることによって構成される各種線形パラメータおよび非線形パラメータからなるタイヤ力学要素パラメータの値が設定され、入力データとして与えられたスリップ率の時系列データS(t)を用いて、図10中の式(10)〜(14)に従って処理されて式(14)中の時系列データである前後力Fx(t)が算出されるように構成されている。
前後力の時系列データは、t=0から微小時間Δtずつ時間を増加して逐次算出される。ここで、式(11)中の[1−exp(−(t−t’)/t s )]は、与えられたスリップ率S(t)によって生じるトレッド部のせん断変形の1次遅れ応答を表す応答関数を表す。
なお、図10中の線形パラメータとは、式(14)において線形の形式で表されているパラメータをいい、非線形パラメータとは、式(14)において非線形の形式で陽に又は陰に表されているパラメータをいう。
すなわち、上記1次遅れ応答は、トレッド部の前後方向のせん断変形の1次遅れによるものであり、このときの変形応答を規定する1次遅れ応答の応答関数とスリップ率S(t)の過去の時系列データの時間変化量とを畳み込み積分した結果を変形スリップ率Sf(t)とする。この変形スリップ率Sf(t)がベルト部に作用する。
ここで、関数Dgsp(x;n,q)中の係数nは横力発生中の接地面の接地圧分布を規定するもので、図5(c)に示すように接地圧分布の踏込み端および蹴りだし端付近で角張る(曲率が大きくなる)ように接地圧分布を規定する係数である。また、図5(d)に示すように係数qが0から1になるにしたがって接地圧分布のピーク位置は踏込み端側に移動するように設定されている。このように係数qおよび係数nは、接地圧分布の形状を規定する形状規定係数である。
図11(a),(b)は、タイヤに発生する前後力について説明する図である。
図11(a)に示されるように、まず、接地面前端で路面と接したトレッド部はトレッド回転速度Vt で接地面後方に移動するが、制動時にタイヤと接触する路面は、トレッド回転速度Vtよりも速いタイヤの走行速度Vpで後方に移動する。トレッド回転速度Vt は、タイヤ走行速度Vpよりも速度が遅いので、この速度差Vp −Vt によって、トレッド部は接地面前端から後方に向かうに従って走行方向後方にせん断力を受ける。このせん断力がトレッドと地面間の凝着力より小さい場合は、トレッドと地面との相対的移動は発生せず、凝着摩擦の状態となっているが、せん断力が最大凝着摩擦力を越えると、トレッド部は地面に対して相対的に移動を開始し滑り摩擦状態となる。制動力は、接地面に発生するこの凝着域の摩擦力と滑り域の摩擦力が合計された摩擦力によって表される。また、この合計した全制動力をタイヤの負荷荷重で除算することによって、制動力係数μが求められる。
上記最大凝着摩擦力は、凝着摩擦と滑り摩擦の境界を規定し、μ−S曲線を特徴付ける重要な要因となるものであり、図11(b)に示すように、タイヤの回転方向(制駆動力を受ける方向)における接地圧の分布である接地圧分布p(x)と凝着摩擦係数μs の積によって概略表すことができる。接地圧分布p(x)は、図5(b)に示す接地圧分布p(x)と同じものである。
式(14)では、上述の凝着域および滑り域に分けて、変形スリップ率Sf(t)を用いて前後力Fx(t)を算出する。
式(13)は、滑り摩擦係数μdを定義するものであり、走行速度Vpに依存するように規定されている。
式(14)では、前後力Fx(t)が凝着摩擦力と滑り摩擦力の和によって表されている。
なお、タイヤ力学モデルにおいて用いる力学要素パラメータを含む線形、非線形のパラメータの値は、予めメモリ21に記憶される。これらのパラメータの値は、例えば特開2003−57134号公報に示されるパラメータの数値の導出方法を用いて求められる。
図12(a)は、タイヤ力学モデルに与えるスリップ率S(t)を示している。スリップ率S(t)は、0.5Hzの正弦波によるものと、2Hzの正弦波によるものの2種類を示している。図12(b)は、0.5Hzの正弦波によるスリップ率S(t)の1.5周期分の前後力Fx(t)を荷重Fz(=3.9kN)で除算したときの軌跡を表すグラフである。図12(b)には、対比のために定常状態における前後力Fxを同時に表している。これより、0.5Hzのスリップ率S(t)では、前後力Fx(t)は定常状態の前後力Fxから変化することがわかる。図12(c)は、2Hzの正弦波によるスリップ率S(t)の1.5周期分の前後力Fx(t)を荷重Fz(=3.9kN)で除算したときの軌跡を表すグラフである。図12(c)には、対比のために定常状態における前後力Fxを同時に表している。これより、2Hzのスリップ率S(t)では、前後力Fx(t)は定常状態の前後力Fxから変化し、0.5Hzのスリップ率S(t)の時の前後力に比べてその変化は大きくなっている。このように、上記タイヤ力学モデルにおいて、スリップ率S(t)の変動する周波数に応じて前後力Fx(t)も変化することがわかる。なお、タイヤ力学モデルの各力学要素パラメータの各値は、特開2003−57134号公報に示されるパラメータの数値の導出方法を用いた。
コーナリングパラメータ算出部20は、与えられたスリップ角α(t)の時系列データと遅延時定数ts,tr,tdの初期設定された値をタイヤ力学モデル演算部14に供給する。タイヤ力学モデル演算部14では、供給されたスリップ角α(t)と遅延時定数ts,tr,tdの初期設定された値とメモリ21から呼び出された各パラメータの値とを用いて、図3に示す式(1)〜(8)に従って横力Fy(t)及びトルクMz(t)の時系列データを算出し、この時系列データがコーナリングパラメータ算出部20に戻される。コーナリングパラメータ算出部20は、タイヤ力学モデル演算部14で算出された横力Fy(t)、トルクMz(t)の時系列データが、別途実測しメモリ21に記憶された横力Fy(t)、トルクMz(t)の計測データと比較され、すなわち、算出された横力Fy(t)、トルクMz(t)と実測した横力Fy(t)、トルクMz(t)の二乗残差和が求められ、この二乗残差和が所定値より小さくない場合、遅延時定数ts,tr,tdの初期設定値を修正し、再度、修正した値とスリップ角α(t)がタイヤ力学モデル演算部14に供給されて、横力Fy(t)、トルクMz(t)の算出が繰り返される。こうして、二乗残差和が所定値より小さくなり、かつ最小になるまで、遅延時定数ts,tr,tdの値が修正される。そして、二乗残差和が最小になったときの遅延時定数の値を、1次遅れ応答を定める遅延時定数の値として決定する。
このようにしてコーナリングパラメータ算出部20は、遅延時定数の値を決定する。
上記遅延時定数の値のために算出される二乗残差和は、横力Fy(t)のみを用いて算出してもよいし、トルクMz(t)のみを用いて算出してもよいし、横力Fy(t)及びトルクMz(t)を用いて算出してもよい。
このようにして制駆動パラメータ算出部22は遅延時定数の値を決定する。
Fxデータ算出部26は、スリップ率S(t)の時系列データをタイヤ力学モデル演算部14に供給することで、タイヤ力学モデル演算部14に、メモリ21に記憶されている各パラメータの値と遅延時定数tsの値とを用いて、前後力Fx(t)を算出させ、このデータを制駆動中の過渡状態の前後力Fx(t)の時系列データとする部分である。
以上の説明が、演算装置10の構成の説明である。
タイヤ力学モデル演算部14では、さらに、これらのパラメータの値を、供給されたスリップ角α(t)(スリップ率S(t))とともに用いて、式(1)〜(8)(式(10)〜(14))に従って、横力Fy(t)及びトルクMz(t)(前後力Fx(t))の時系列データが算出される(ステップS30)。タイヤ力学モデル演算部14にて算出された横力Fy(t)及びトルクMz(t)(前後力Fx(t))の時系列データは、Fy/Mzデータ算出部24(Fxデータ算出部26)に戻されて、コーナリング(制駆動)中の時系列データとされる。
設定されたスリップ角α(t)(スリップ率S(t))の時系列データは、図示されないタイヤ動特性試験機に供給されて、供給されたスリップ角α(t)(スリップ率S(t))の時系列データに基づいてタイヤが試験される。これにより、タイヤの実測が行われ、過渡状態の横力Fy(t)及びトルクMz(t)(前後力Fx(t))の計測データが取得される(ステップS120)。取得された計測データは演算装置10に供給されてメモリ21に記憶される。
次に、コーナリングパラメータ算出部20(制駆動パラメータ算出部22)にて、タイヤの1次遅れ応答の応答関数を規定する遅延時定数tr,ts,td(遅延時定数ts)が所定の値、例えば0.02秒に初期設定される(ステップS140)。なお、図15では、遅延時定数を緩和時定数と記している。
この後、コーナリングパラメータ算出部20(制駆動パラメータ算出部22)にて設定された遅延時定数tr,ts,td(遅延時定数ts)の初期設定値と、設定されたスリップ角α(t)(スリップ率S(t))の時系列データがタイヤ力学モデル演算部14に供給される。
上記判定の結果、否定される場合、遅延時定数tr,ts,td(遅延時定数ts)の設定値は、修正される(ステップS180)。判定の結果、肯定される場合、遅延時定数の設定値が、1次遅れ応答を表す応答関数の遅延時定数として決定される(ステップS190)。二乗残差和の最小化の方法は、特に限定されないが、例えば、Newton-Raphson法の非線形最小二乗回帰アルゴリズムを用いて行うことができる。
このように、スリップ角(スリップ率)の時系列データを測定条件としてタイヤに与えてタイヤのコーナリング(制駆動)中の過渡状態の計測データを予め取得し、一方、遅延時定数を初期設定した後、タイヤ力学モデルを用いて横力Fy(t)及びトルクMz(t)(前後力Fx(t))を算出する計算を行う。そして、先のタイヤの計測データと算出した時系列データの二乗残差和を求め、二乗残差和が最小になるまで、遅延時定数の値を修正して上記計算を繰り返し行い、二乗残差和が最小になるときの遅延時定数の設定値を、1次遅れ応答を定める遅延時定数の値として決定する。このとき、タイヤ力学モデルにおいて用いる線形パラメータの値及び遅延時定数を除く非線形パラメータの値は、定常状態の横力Fy及びトルクMz(前後力Fx)を用いて算出されたものであり、定常状態におけるタイヤ力学要素パラメータの値を用いて過渡応答における遅延時定数を決定することができるので、効率のよい遅延時定数の決定が可能になる。
以下の説明は、タイヤ力学モデルにスリップ角の時系列データを与えたときのコーナリング中の過渡応答データについて説明するが、スリップ率の時系列データを与えたときの制駆動中の過渡応答についても同様に説明できる。以降では、コーナリング中の過渡応答について主に説明し、制駆動中の過渡応答については()で記載する。すなわち、以下で説明するデータ処理方法は、複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルにおけるコーナリング(制駆動)中の過渡応答を規定するトレッド部の変形応答を1次遅れ応答とし、この1次遅れ応答を定める過渡応答パラメータの値を算出する。
次に、設定したスリップ角α(t)(スリップ率S(t))の時系列データを測定条件としてタイヤに与えてタイヤのコーナリング(制駆動)中の過渡応答データを実測し、そのときの横力Fy(t)又はトルクMz(t)(前後力Fx(t))の計測データを予め取得する(ステップS220)。例えば、図17(b)に示すような実測の横力Fy(t)の計測データが取得される。このタイヤの実測は、タイヤサイズ205/55R16 89Vのタイヤで、荷重3.9(kN)、走行速度80(km/時)の測定条件で行ったものである。
この算出した変形スリップ角α’(t)(変形スリップ率S’(t))の過渡応答の時系列データの値は、コーナリングパラメータ算出部20(制駆動パラメータ算出部22)に戻されて、過渡応答の時系列データの値とし、変形スリップ角α’(t)(変形スリップ率S’(t))の過渡応答の時系列データの値と、ステップS120で取得した実測の横力Fy(t)又はトルクMz(t)(前後力Fx(t))の値とで表される特性曲線が作成される。特性曲線は、横軸にスリップ角(スリップ率)を採り、縦軸に横力又はトルク(前後力)をとったときの曲線をいう。図17(c)に示すグラフは、図17(b)に示す実測の横力Fy(t)の計測データの値と、スリップ角の過渡応答の時系列データの値とを用いて作成される特性曲線である。ここで、式(20)中のCは、上述のタイヤ全体における1次遅れの変形応答の遅延時定数t1である。
次に、算出された二乗残差和が所定値より小さく、かつ最小になるか否かを判定し(ステップS270)、算出された二乗残差和が最小でない場合、設定した遅延時定数t1の値を修正して1次遅れの応答関数を修正し(ステップS280)、ステップS250,260を繰り返し行う。そして、二乗残差和が最小になるときの遅延時定数t1の値を、1次遅れ応答を定める遅延時定数t1の値として決定する(ステップS290)。
このようにして、残差二乗和が最小になる遅延時定数を探索して決定することができる。
図18は、図13に示す方法とは異なるタイヤの過渡応答データの算出方法の流れを示すフローチャートである。すなわち、図18は、複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルに基づいて、スリップ角(スリップ率)を時系列データとして与えたときのコーナリング(制駆動)中のタイヤの過渡応答データを算出する流れを示すフローチャートである。
上記過渡応答を算出する方法では、過渡状態の横力、トルク(前後力)の値は、実際に与えられたスリップ角(スリップ率)ではなく、トレッド部の1次遅れの変形により修正される変形スリップ角(変形スリップ率)に基づくものと考えられるからである。この方法を用いることで、定常状態の横力、トルク(前後力)のデータと、変形スリップ角(変形スリップ率)とを用いて、簡易的かつ短時間に横力、トルク(前後力)の過渡状態の時系列データを算出することができる。
すなわち、上述のタイヤの過渡応答データの算出方法を用いて、タイヤの過渡応答データ(横力、トルク、前後力のデータ)を出力し、このときの出力データが、設定された目標条件を達成しないとき、例えば目標とするデータに許容誤差内で一致しないとき、線形パラメータの値及び遅延時定数を含む非線形パラメータの値を定めるタイヤ構成部材の種類を変更する。こうして、変更したタイヤ構成部材の種類に応じて線形パラメータの値及び遅延時定数を含む非線形パラメータの値を変更して、タイヤの過渡応答データを繰り返し算出し出力する。出力データが目標条件を達成するとき、このときのタイヤ構成部材の種類を目標タイヤ構成部材として決定する。これにより、所望の目標条件を達成するタイヤを設計することができる。
また、同様に、スリップ角及びスリップ率を同時に与えたときの横力、トルク及び前後力の時系列データを同時に算出することもできる。
また、上記データ処理方法では、タイヤの過渡状態における計測データを用いて、コーナリング時における1次遅れの遅延時定数、又は制駆動時における1次遅れの遅延時定数の値を決定するが、決定する対象を拡げて、図3や図10に示される線形パラメータ又は非線形パラメータの一部の値を上記遅延時定数とともに決定してもよい。
12 データ入力部
14 タイヤ力学モデル演算部
16 処理部
18 出力部
20 コーナリングパラメータ算出部
21 メモリ
22 制駆動パラメータ算出部
24 Fy/Mzデータ算出部
26 Fxデータ算出部
Claims (14)
- 複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルに基づいて、スリップ角を時系列データとして与えたときのコーナリング中のタイヤの過渡応答データを算出するタイヤの過渡応答データの算出方法であって、
前記タイヤ力学モデルを構成する前記タイヤ力学要素パラメータの値を取得し、
コーナリング中のトレッド部の変形応答を規定する1次遅れ応答の応答関数とタイヤ力学モデルに与えたスリップ角の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を行って、タイヤ力学モデルのトレッド部における路面に対するスリップ角の過渡応答の時系列データを算出し、
前記スリップ角の過渡応答の時系列データに基づいて前記タイヤ力学モデルで算出される横力及びセルフアライニングトルクの少なくとも一方の出力データを、コーナリング中の過渡応答データとして算出することを特徴とするタイヤの過渡応答データの算出方法。 - 前記タイヤ力学モデルに与える前記スリップ角の時系列データは、セルフアライニングトルクに応じて発生するタイヤの捩じり変形によって修正され、この修正された時系列データを前記スリップ角の過渡応答の時系列データを算出するときに用いる請求項1に記載のタイヤの過渡応答データの算出方法。
- 前記セルフアライニングトルクに応じて発生するタイヤの捩じり変形は、コーナリング中のサイド部の変形応答を規定する1次遅れ応答の応答関数と前記セルフアラニングトルクの過去の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を、前記タイヤ力学モデルにおける捩じり剛性の値で除算して表したものである請求項2に記載のタイヤの過渡応答データの算出方法。
- 前記タイヤ力学モデルを用いて算出される前記出力データは、横力に応じて発生するベルト部の横曲げ変形によって修正された横力のデータである請求項1〜3のいずれか1項に記載のタイヤの過渡応答データの算出方法。
- 前記横力に応じて発生するベルト部の横曲げ変形は、コーナリング中のベルト部の変形応答を規定する1次遅れ応答の応答関数と発生した横力の過去の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を行って表したものである請求項4に記載のタイヤの過渡応答データの算出方法。
- 複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルに基づいて、スリップ角を時系列データとして与えたときのコーナリング中のタイヤの過渡応答データを算出するタイヤの過渡応答データの算出方法であって、
少なくとも0度と所定の角度との間の範囲を含んで変化するスリップ角の時系列データを、定常状態のスリップ角としてタイヤに与えて、タイヤの実測により、定常状態における横力及びセルフアライニングトルクの値を予め取得しておき、
コーナリング中のトレッド部の変形応答を規定する1次遅れ応答の応答関数と前記タイヤに与えたスリップ角の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を行って、タイヤ力学モデルにおける路面に対するトレッド部におけるスリップ角の過渡応答の時系列データを算出し、
算出した前記スリップ角の過渡応答の時系列データの値に対応する前記定常状態の横力又はセルフアライニングトルクの値を求めることにより、過渡状態の横力又はセルフアライニングトルクの時系列データを、コーナリング中の過渡応答データとして算出することを特徴とするタイヤの過渡応答データの算出方法。 - 複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルにおけるコーナリング中の過渡応答を規定するトレッド部の変形応答を1次遅れ応答とし、この1次遅れ応答を定める過渡応答パラメータの値を算出するデータ処理方法であって、
スリップ角の時系列データを測定条件としてタイヤに与えてタイヤのコーナリング中の過渡応答の計測データを予め取得しておき、
前記過渡応答パラメータの値を初期設定して、前記1次遅れ応答の応答関数を定め、
定めた前記1次遅れ応答の応答関数と、前記タイヤに測定条件として与えたスリップ角の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を行って、前記タイヤ力学モデルのトレッド部における路面に対するスリップ角の過渡応答の時系列データを求め、この求めた前記スリップ角の過渡応答の時系列データに基づいて前記タイヤ力学モデルから横力又はセルアライニングトルクの値を算出して、コーナリング中の過渡状態の横力又はセルフアライニングトルクの時系列データを算出する再現計算を行い、
算出された横力又はセルフアライニングトルクの時系列データと、前記タイヤの計測データとの二乗残差和を求め、この二乗残差和が最小になるまで、設定した前記過渡応答パラメータの値を修正して前記再現計算を繰り返し行い、前記二乗残差和が最小になるときの前記過渡応答パラメータの値を、前記1次遅れ応答を定める過渡応答パラメータの値として決定することを特徴とするデータ処理方法。 - 過渡応答パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルにおけるコーナリング中の過渡応答を規定するトレッド部の変形応答を1次遅れ応答とし、この1次遅れ応答を定める過渡応答パラメータの値を算出するデータ処理方法であって、
少なくとも0度と所定の角度との間の範囲を含んでスリップ角が往復して変化するスリップ角の時系列データを測定条件としてタイヤに与えてタイヤのコーナリング中の過渡応答の計測データを予め取得しておき、
前記過渡応答パラメータの値を初期設定して、前記1次遅れ応答の応答関数を定め、
前記1次遅れの応答関数と前記タイヤに測定条件として与えた前記スリップ角の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を行って、タイヤ力学モデルにおける路面に対するトレッド部におけるスリップ角の過渡応答の時系列データを求め、この求めた前記スリップ角の過渡応答の時系列データの値に対する前記横力又はセルフアライニングトルクの値を表す特性曲線を曲線関数を用いて滑らかな1つの曲線に最小二乗回帰させて、そのときの最小二乗回帰した最小二乗回帰曲線と特性曲線との二乗残差和を求める回帰計算を行い、
算出された前記二乗残差和が最小になるまで、設定した前記過渡応答パラメータの値を修正して前記回帰計算を繰り返し行い、前記二乗残差和が最小になるときの前記過渡応答パラメータの値を、前記1次遅れ応答を定める過渡応答パラメータの値として決定することを特徴とするデータ処理方法。 - 複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルに基づいて、タイヤ前後方向にスリップ率を時系列データとして与えたときの制駆動中のタイヤの過渡応答データを算出するタイヤの過渡応答データの算出方法であって、
前記タイヤ力学モデルを構成する前記タイヤ力学要素パラメータの値を取得し、
制駆動中のトレッド部の変形応答を規定する1次遅れ応答の応答関数とタイヤ力学モデルに与えたスリップ率の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を行って、タイヤ力学モデルのトレッド部における路面に対するスリップ率の過渡応答の時系列データを算出し、
前記スリップ率の過渡応答の時系列データに基づいて前記タイヤ力学モデルで算出される前後力の出力データを、前記制駆動中の過渡応答データとして算出することを特徴とするタイヤの過渡応答データの算出方法。 - 複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルに基づいて、タイヤ前後方向のスリップ率を時系列データとして与えたときの制駆動中のタイヤの過渡応答データを算出するタイヤの過渡応答データの算出方法であって、
少なくとも0度と所定のスリップ率との間の範囲を含んで変化するスリップ率の時系列データを、定常状態のスリップ率として与えたときの定常状態における前後力の値をタイヤの実測により予め取得しておき、
制駆動中のトレッド部の変形応答を規定する1次遅れ応答の応答関数と前記スリップ率の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を行って、タイヤ力学モデルにおける路面に対するトレッド部におけるスリップ率の過渡応答の時系列データを算出し、
算出した前記スリップ率の過渡応答の時系列データの値に対応する前記定常状態の前後力の値を算出することにより、過渡状態の前後力の時系列データを、制駆動中の過渡応答データとして算出することを特徴とするタイヤの過渡応答データの算出方法。 - 過渡応答パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルにおけるタイヤの制駆動中の過渡応答を規定するトレッド部の変形応答を1次遅れ応答とし、この1次遅れ応答を定める過渡応答パラメータの値を算出するデータ処理方法であって、
少なくとも0度と所定のスリップ率との間の範囲を含んでスリップ率が往復して変化するスリップ率の時系列データを測定条件としてタイヤに与えてタイヤの制駆動中の過渡応答の計測データを予め取得しておき、
前記過渡応答パラメータの値を初期設定して、前記1次遅れ応答の応答関数を定め、
前記1次遅れの応答関数と前記タイヤに測定条件として与えた前記スリップ率の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を行って、タイヤ力学モデルにおける路面に対するトレッド部におけるスリップ率の過渡応答の時系列データを求め、この求めた前記スリップ角の過渡応答の時系列データの値に対する前記前後力の値を表す特性曲線を曲線関数を用いて1つの滑らかな曲線に最小二乗回帰させて、そのときの最小二乗回帰した最小二乗回帰曲線と特性曲線との二乗残差和を求める回帰計算を行い、
算出された前記二乗残差和が最小になるまで、設定した前記過渡応答パラメータの値を修正して前記回帰計算を繰り返し行い、前記二乗残差和が最小になるときの前記過渡応答パラメータの値を、前記1次遅れ応答を定める過渡応答パラメータの値として決定することを特徴とするデータ処理方法。 - 複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルにおける制駆動中の過渡応答を規定するトレッド部の変形応答を1次遅れ応答とし、この1次遅れ応答を定める過渡応答パラメータの値を算出するデータ処理方法であって、
タイヤ前後方向のスリップ率の時系列データを測定条件としてタイヤに与えてタイヤの制動駆動中の過渡応答の計測データを予め取得しておき、
前記過渡応答パラメータの値を初期設定して、前記1次遅れ応答の応答関数を定め、
定めた前記1次遅れの応答関数と前記タイヤに測定条件として与えたスリップ率の時系列データの時間変化量との畳み込み積分を行って、タイヤ力学モデルにおける路面に対するトレッド部におけるスリップ率の過渡応答の時系列データを求め、この求めた前記スリップ率の過渡応答の時系列データの値に基づいて前記タイヤ力学モデルから前後力を算出して、制駆動中の過渡状態の前後力の時系列データを算出する再現計算を行い、
算出された前後力の時系列データと、前記タイヤの計測データとの二乗残差和を求め、この二乗残差和が最小になるまで、設定した前記過渡応答パラメータの値を修正して前記再現計算を繰り返し行い、前記二乗残差和が最小になるときの前記過渡応答パラメータの値を、前記1次遅れ応答を定める過渡応答パラメータの値として決定することを特徴とするデータ処理方法。 - 請求項1〜6、請求項9及び請求項10のいずれか1項に記載のタイヤの過渡応答データの算出方法を用いて、タイヤの過渡応答データを算出して出力し、
この出力した過渡応答データが、設定された目標条件を満足するまで、前記タイヤ力学要素パラメータ又は1次遅れ応答を定めるタイヤ構成部材を調整することにより、タイヤ力学要素パラメータの値及び1次遅れ応答を定める過渡応答パラメータの値を修正して、タイヤの過渡応答の出力データを繰り返し算出し、
前記出力データが目標条件を満足するとき、このときのタイヤ構成部材を目標タイヤ構成部材として決定することを特徴とするタイヤの設計方法。 - 請求項1〜6、請求項9及び請求項10のいずれか1項に記載のタイヤの過渡応答データの算出方法を用いて、タイヤの過渡応答データを算出して出力し、
この出力した過渡応答データを車両モデルの車軸部分に与えて、車両モデルによる車両運動を予測する車両運動予測方法。
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