JP4641836B2 - タイヤを含めた車両の設計方法 - Google Patents
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Description
特に車両の走行シミュレーションを行う際、タイヤは、路面から受ける力を車両に伝達する唯一の構成部品であり、車両の性能に大きな影響を与える部品である。このため、タイヤの発生力は正確に定める必要がある。
このタイヤの発生力として、タイヤのコーナリング中に発生する横力とセルフアライニングトルクのスリップ角依存性を表す特性曲線を、下記式(9)の基本式で代表される「Magic Formula」で近似することが提案されている。
Y(x)=Dsin[Ctan−1{Bx−E(Bx−tan−1(Bx))}] (9)
「Magic Formula」は、式(9)内の各パラメータB〜Eの値を決定することによってタイヤ特性を表す非線形近似式を用いた非解析モデルである。
この「Magic Formula」のパラメータB〜Eの値を用いて、車両の走行シミュレーションを行うことが一般的に行われている。
まず、車両の開発初期段階において、所望の車両諸元(ホイールベースや重心高さや車両の前後輪の重量配分等)を設定して車両モデルを生成するとともに、同時にタイヤの「Magic Formula」のパラメータB〜Eの値を設定して車両モデルに与える。次に、車両の走行シミュレーションのための走行条件を設定し、この走行条件に応じて車両の走行シミュレーションを行う。走行条件は、評価する性能に応じて異なっており、例えば性能評価が耐久性評価の場合には車両の走行速度、路面の粗さ等のプロファイルデータが走行条件として設定される。緊急回避性能評価の場合には車両の走行速度や操舵角等のデータ、実際の路面のプロファイルデータ等が走行条件として設定される。
一方、車両モデルは、例えばADAMS(米国MDI社製)をはじめとする機構解析ソフトウェアで用いられる機構解析モデルや、CarSim(Mechanical Simulation Corporation製)やさらにはMatLab(The MathWorks, Inc.製)等の制御設計用ソフトウェアを組み合わせた車両運動解析ソフトウェアにおいて用いられる解析モデルが挙げられる。
自動車製作業者は、この決定に従って構成部品の詳細設計に移行する。自ら設計できないタイヤの場合、決定されたタイヤの要求特性、すなわち「Magic Formula」のパラメータB〜Eの値がタイヤ製造業者への要求項目の1つとして提示され、タイヤの納品を発注する。
タイヤ製造業者は、上記「Magic Formula」のパラメータB〜Eの値を実現するタイヤの構造設計及びタイヤの材料設計を行い、提示された要求項目に合うようにタイヤの試作を繰り返す。
具体的には、タイヤを設計値に基づいて有限要素でモデル化して、タイヤの走行シミュレーションを行い、このシミュレーションにより、タイヤ特性データを獲得し、このタイヤ特性データを用いて車両の走行シミュレーションを行う。この方法では、タイヤを有限要素で細かくモデル化するため、修正の対象となる部分が極めて多数あり、どこを修正すればよいか不明な場合が多く、熟練した設計者に頼らざるを得ない。又タイヤの走行シミュレーション及び車両の走行シミュレーションを多数繰り返す必要があり、満足な性能を実現する設計値を効率よく見出すことは難しい。
しかし、タイヤに発生する横力及び前後力は構造力学の点から見て独立なメカニズムにより発生する力ではなく、密接に関連した力であるため、上記タイヤの要求特性は、実際のタイヤでは実現できないものである場合も多い。
また、前記特性曲線が、タイヤ軸に発生する横力及びセルフアライニングトルクのスリップ角依存性を表す特性曲線である場合、前記タイヤ力学モデルは、前記横力を算出するとともに、前記セルフアライニングトルクを、タイヤの接地面に作用する前記横力によって生じる横力トルク成分と、前記タイヤの接地面に作用する前後力によって生じる前後力トルク成分とに分けて算出するモデルであることが好ましい。
また、前記タイヤ特性修正ステップにおいて、前記タイヤ力学要素パラメータの値を導出する際、前記横力の特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出される横力の対応する曲線との二乗残差和と、前記セルフアライニングトルクの特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出されるセルフアライニングトルクの対応する曲線との二乗残差和とを、重み付け係数を用いて重み付け加算した値であって、前記重み付け係数として、前記近似式パラメータの値により算出される前記横力および前記セルフアライニングトルクのそれぞれの特性曲線の、前記スリップ角に依存して変化する値のばらつきの情報から求められる係数を用いた複合二乗残差和の値が、所定値以下となるように、タイヤのコーナリング中の特性を表す前記複数のタイヤ力学要素パラメータの値を導出することが好ましい。
また、前記タイヤ特性修正ステップにおいて、前記特性曲線から、前記タイヤ力学モデルに基づいて、前記複数のタイヤ力学要素パラメータの値を導出する際、前記セルフアライニングトルクにより発生するタイヤの捩じり変形によって、付与されるスリップ角が修正された実効スリップ角を用いて前記複数のタイヤ力学要素パラメータの値を導出することが好ましい。
また、前記コンピュータは、前記車両諸元修正ステップにおいて、前記車両モデルが目標性能を満足するまで、又は前記車両諸元の情報が修正できなくなるまで、前記車両諸元の情報の修正、修正された前記車両諸元の情報を用いた前記モデル作成ステップによる前記新たな車両モデルの生成、前記新たな車両モデルを用いた前記性能評価ステップによる前記走行シミュレーション及び前記車両の性能評価を繰り返し、前記車両モデルが目標性能を満足する場合には、前記タイヤ特性決定ステップを行い、前記車両諸元の情報が修正できなくなった場合には、前記タイヤ特性修正ステップを行うことが好ましい。
また、前記コンピュータは、前記タイヤ特性修正ステップにおいて、前記近似式パラメータの値を修正して、修正された前記近似式パラメータの値を用いた前記性能評価ステップによる前記走行シミュレーション及び前記車両の性能評価を行い、前記車両モデルが目標性能を満足する場合には、前記タイヤ特性決定ステップを行い、前記車両モデルが目標性能を満足しない場合には、前記車両諸元修正ステップにおいて、前記車両モデルが目標性能を満足するまで、又は前記車両諸元の情報が修正できなくなるまで、前記車両諸元の情報の修正、修正された前記車両諸元の情報を用いた前記モデル作成ステップによる前記新たな車両モデルの生成、前記新たな車両モデルを用いた前記性能評価ステップによる前記走行シミュレーション及び前記車両の性能評価を繰り返し、前記車両モデルが目標性能を満足する場合には、前記タイヤ特性決定ステップを行い、前記車両諸元の情報が修正できなくなった場合には、再び、前記近似式パラメータの値を修正して、前記車両モデルが目標性能を満足するまで、修正された前記近似式パラメータの値を用いた前記性能評価ステップ、又は、該性能評価ステップ及び前記車両諸元修正ステップにおける前記車両諸元の情報の修正、修正された前記車両諸元の情報を用いた前記モデル作成ステップ及び前記性能評価ステップを繰り返すことが好ましい。
さらに、前記コンピュータが、前記性能評価ステップを行う前に、前記特性曲線を前記非線形近似式で近似したときの、該非線形近似式を規定する前記近似式パラメータの値を設定するステップを有することが好ましい。
さらに、タイヤ特性は、車両の性能に大きな影響を与えるものである。このため、タイヤ特性を修正するタイヤ特性修正ステップは、車両諸元の情報を修正して走行シミュレーション及び車両の性能評価を行う車両諸元修正ステップを少なくとも1回行った後に行うので、車両諸元では目標性能の達成できない部分をタイヤ特性で効率よく達成させることができ、タイヤを含めた車両の設計を効率よく行うことができる。
装置1は、車両諸元のデータ(ホイールベース、重心高さ、車両の総重量、車両の前後輪の重量配分等)と車両の構成部品であるタイヤのコーナリング特性の情報をから、所望の性能を有する車両を実現する車両諸元及びタイヤの要求特性を決定する装置である。
ここで、コーナリングの特性曲線とは横力、トルクのスリップ角依存性を表す曲線である。
なお、「Magic Formula」のパラメータB〜Eは、横力及びセルフアライニングトルクの特性曲線を上記式(9)に示される非線形近似式で近似したときの、非線形近似式を規定する近似式パラメータである。
車両走行シミュレーションプログラム10は、車両諸元のデータに従って車両モデルを作成し、操作入力系5から与えられた走行シミュレーション条件、あるいは、メモリ4に記憶された走行条件を呼び出し、生成された車両モデルに設定されたパラメータB〜Eの値を付与して、車両の走行シミュレーションを行う部分である。
走行シミュレーション条件は、車両の走行速度、操舵角、路面のプロファイル形状等であり、評価しようとする性能に応じて異なる走行シミュレーション条件が設定される。
走行シミュレーションは、機構解析ソフトウェアADAMSにて行われる。また、運動解析ソフトウェアCarSimや制御系設計ソフトウェアMatLabにて走行シミュレーションの演算が行われてもよい。
一方、横力及びセルフアライニングトルクのスリップ角依存性の特性曲線が「Magic Formula」データ・パラメータ算出プログラム11に与えられた場合、この特性曲線から、パラメータB〜Eの値を求める。パラメータB〜Eの値の求め方は特に限定されないが、例えば式(9)はパラメータB〜Eに対して非線形であるため、Newton-Raphson法に従って行なわれることが好ましい。
タイヤ力学モデルプログラム群12については、以降で詳述する。
(a)タイヤの横方向の剪断剛性によって定められる横剛性Ky0、
(b)路面とタイヤ間のすべり摩擦係数μd、
(c)横剛性Ky0を路面とタイヤ間の凝着摩擦係数μsで除算した横剛性係数(Ky0/μs)、
(d)ベルト部材の横方向曲げ係数ε、
(e)タイヤのタイヤ中心軸周りのねじり剛性の逆数であるねじりコンプライアンス(1/Gmz)、
(f)横力発生中の接地面の接地圧力分布を規定する係数n、
(g)接地圧力分布の偏向の程度を表す係数Cq、
(h)接地面におけるタイヤ中心位置の前後方向への移動の程度を示す移動係数Cxc、
(i)横力発生時の実効接地長le、
(j)接地面内の前後剛性Ax(前後力トルク成分を定めるパラメータ)、等である。
なお、CP/SATPパラメータ算出プログラム20、Fy/Mzパラメータ算出プログラム22、CP/SATPデータ算出プログラム24およびFy/Mzデータ算出プログラム26、の機能については、後述する。
図2、図3、図4(a)〜(c)、図5(a)〜(d)および図6(a)〜(c)はタイヤ力学モデルを説明する図である。
なお、線形パラメータとは、式(5),(6)において線形の形式で表されている力学要素パラメータをいい、非線形パラメータとは、式(5),(6)において非線形の形式で表されている力学要素パラメータをいう。
ここで、関数Dgsp(t;n,q)中の係数nは横力発生中の接地面の接地圧分布を規定するもので、図5(c)に示すように接地圧分布の踏込み端および蹴りだし端付近で角張る(曲率が大きくなる)ように接地圧分布を規定する係数である。また、図5(d)に示すように係数qが0から1になるにしたがって接地圧分布のピーク位置は踏込み端側に移動するように設定されている。このように係数qおよび係数nは、接地圧分布の形状を規定する形状規定係数である。
図6(a)〜(c)に示される最大摩擦曲線は、凝着摩擦係数μsに接地圧分布p(t)を乗算したものである。踏込み端で路面と接地したタイヤトレッド部材は、蹴りだし端に移動するにつれてスリップ角αによって徐々に路面から剪断を受け、タイヤとレッド部材に剪断力(凝着摩擦力)が発生する。この剪断力は、徐々に大きくなって最大摩擦曲線に達すると、路面に凝着していたタイヤトレッド部材はすべり出し、すべり摩擦係数μdに接地圧分布p(t)を乗算したすべり摩擦曲線に従ってすべり摩擦力が発生する。図6(a)では、境界位置(lh/l)より踏込み端側の領域がタイヤトレッド部材が路面に凝着した凝着域となり、蹴りだし側の領域がタイヤトレッド部材が路面に対して滑るタイヤすべり域となる。図6(b)は、スリップ角αが図6(a)に示すスリップ角αよりも大きくなった状態を示している。境界位置(lh/l)は図6(a)に比べて踏込み端側に移動している。さらに、スリップ角αが大きくなると、図6(c)に示すように接地面の踏込み端の位置からすべり摩擦が発生する状態となる。
式(5)および(6)では、上述の凝着域およびすべり域に分けて、実効スリップ角αeを用いて横力Fy’およびトルクMz’を算出する。
第2項のすべり横力成分はすべり域における横力であり、式(5)では、実効スリップ角αeによって生じる接地圧分布p(t)の形状を関数Dgsp(t;n,q)で表してすべり横力成分を算出する。
図4(a)は、スリップ角αが付与された際、スリップ角αによって生じるトルクによってスリップ角αを減ずるようにタイヤ自身に作用し、実効スリップ角αeとなっている状態を示している。図4(b)は、この実効スリップ角αeによって生じる横方向変位とベルトの横曲げ変形によって生じる横方向変位の関係を示している。図4(c)はタイヤの接地面が横力によって横方向に移動することによって生じる前後力分布がトルクMz'に寄与するメカニズムを示している。図4(c)中、Mz1およびMz2は凝着横力成分によるトルク成分およびすべり横力成分によるトルク成分を、Mz3は接地面に作用する前後力によるトルク成分を示している。
CP/SATPパラメータ算出プログラム20は、「Magic Formula」の設定された、或いは修正されたパラメータB〜Eの値を用いて求められ、CP/SATPパラメータ算出プログラム20に供給された、スリップ角α=1度における横力FyおよびトルクMzと、横力Fy’およびトルクMz’との誤差が所定値以下となるように、すなわち、タイヤ力学モデルにおいて横力およびトルクが力の釣り合い状態になるように、上述の線形パラメータおよび非線形パラメータを導出するプログラムである。
具体的には、スリップ角α=1度における横力FyおよびトルクMzのデータと、負荷荷重Fz、負荷荷重Fzにおける非転動状態におけるタイヤの接地長lおよび接地幅wのデータを予め取得する(ステップS100)。これらのデータは、メモリ4に記憶されているデータでありメモリ4から呼び出される。あるいは、入力操作系5から指示入力されたものであってもよい。
さらに、横方向曲げ係数ε、ねじりコンプライアンス(1/Gmz)を所定の値に初期設定する(ステップS102)。
Ky0 ∝ w・l2/2
Ax ∝ Fz・l/2
gf=1/σf 2
gm=1/σm 2
すなわち、複合二乗残差和Qcは計測データのばらつきの情報である分散の逆数を重み付け係数とし、横力およびトルクのそれぞれの二乗残差和を重み付け加算したものである。
ここで、複合二乗残差和を用いるのは、非線形パラメータの算出において複数の荷重条件の横力Fy’とトルクMz’とを、対応する横力FyとトルクMzとに最適に一致させるためである。
収束していないと判別されると、先に設定された横方向曲げ係数ε、ねじりコンプライアンス(1/Gmz)の非線形パラメータの調整を行う(ステップS110)。この非線形パラメータの調整は、例えばNewton-Raphson法に従って行なわれる。具体的には、複合二乗残差和を非線形パラメータに関して2次の偏微分を行なうことにより、行列と非線形パラメータの調整量とを関係付けた方程式を求め、この方程式を上記調整量に関して解くことにより、非線形パラメータの調整量を算出する。この算出方法については、本願出願人により出願された特願2001−242059号の公開公報(特開2003−57134号公報)に詳細に記載されている。
複合二乗残差和が所定値以下になると、線形最小二乗回帰で算出された横剛性Ky0、前後剛性Axおよび非線形パラメータである横方向曲げ係数ε、ねじりコンプライアンス(1/Gmz)をパラメータとして決定する(ステップS112)。決定されたパラメータはメモリ20に記憶される。
以上が、CP/SATPパラメータ算出プログラム20が行なう、タイヤ力学モデルを用いたスリップ角α=1度における線形パラメータおよび非線形パラメータの算出の流れである。
具体的には、図9に示すように、一定の負荷荷重においてスリップ角を種々変化させて
「Magic Formula」のパラメータB〜Eの値から算出した横力FyおよびトルクMzの特性曲線を取得する(ステップS200)。
さらに、上記CP/SATPパラメータ算出プログラム20において求められ、メモリ4に記憶された横方向曲げ係数ε、ねじりコンプライアンス(1/Gmz)を読み取って力学要素パラメータを設定する(ステップS202)。
さらに、残りの非線形パラメータである係数n、横剛性係数(Ky0/μs)、係数Cq、移動係数Cxcを所定の値に初期設定する(ステップS204)。
こうして初期設定された非線形パラメータおよび正規方程式を用いて算出された線形パラメータおよび横力FyおよびトルクMzの特性曲線のデータをタイヤ力学モデル演算プログラム14に付与する。この付与によって図7のブロック図の流れに従って各スリップ角αにおける横力Fy’およびトルクMz’が算出される。
複合二乗残差和は、所定値以下となって収束しているか否かを判別する(ステップS210)。
収束していないと判別すると、ステップS204で初期設定された非線形パラメータの調整を行う(ステップS212)。この非線形パラメータの調整は、例えばNewton-Raphson法に従って行なわれる。
以上が、Fy/Mzパラメータ算出プログラム22の行なう、タイヤ力学モデルを用いた各スリップ角αにおける線形パラメータおよび非線形パラメータの算出の流れである。
図10は、CP/SATPデータ算出プログラム24において行なわれる処理の流れを示している。
さらに、負荷荷重Fzにおける横力FyおよびトルクMzを初期設定する(ステップS302)。
この後、スリップ角α=1度および初期設定された横力FyおよびトルクMzとともに線形パラメータおよび非線形パラメータをタイヤ力学モデル演算プログラム14に付与する。タイヤ力学モデル演算プログラム14では、付与された線形パラメータおよび非線形パラメータと、初期設定された横力FyおよびトルクMzが用いられて図3中の式(5)、(6)に従って横力Fy'、トルクMz’が算出される(ステップS304)。
収束していないと判別すると、先に設定された横力FyおよびトルクMzの設定値が調整される(ステップS310)。調整された横力FyおよびトルクMzは、線形パラメータおよび非線形パラメータとともに再度タイヤ力学モデル演算プログラム14に付与される。
こうして、複合二乗残差和が所定値以下となって収束するまで横力FyおよびトルクMzの設定値を調整する。この設定値の調整は、例えば上述したNewton-Raphson法に従って行なわれる。こうして、収束した横力Fy'およびトルクMz'を決定する(ステップS312)。
こうして、負荷荷重Fzが所定荷重となるまで繰り返し変更される(ステップS316)。負荷荷重Fzの変更の度に横力Fy’およびトルクMz’を算出し、収束する横力Fy’およびトルクMz’を決定する。決定された横力Fy’およびトルクMz’はメモリ20に記憶される。
このようにして、スリップ角α=1度における横力およびトルクであるCPおよびSATPの負荷荷重Fzに依存する曲線を求める。
図11は、Fy/Mzデータ算出プログラム26において行なわれる処理の流れを示している。
Fy/Mzデータ算出プログラム26は、まず、Fy/Mzパラメータ算出プログラム22で算出された線形パラメータおよび非線形パラメータをメモリ4から読み出して設定する(ステップS400)。
さらに、負荷荷重Fzにおける横力FyおよびトルクMzを初期設定する(ステップS402)。
この後、設定されたスリップ角α=Δαとともに線形パラメータおよび非線形パラメータおよび初期設定された横力FyおよびトルクMzをタイヤ力学モデル演算プログラム14に付与する。タイヤ力学モデル14では、付与された線形パラメータおよび非線形パラメータと、初期設定された横力FyおよびトルクMzが用いられて式(5)、(6)に従って横力Fy'、トルクMz’が算出される(ステップS404)。
次に、算出された複合二乗残差和が所定値以下となって収束しているか否かを判別する(ステップS408)。
収束していないと判別すると、先に設定された横力FyおよびトルクMzの設定値を調整する(ステップS410)。この調整された横力FyおよびトルクMzと線形パラメータおよび非線形パラメータとが再度タイヤ力学モデル演算プログラム14に付与される。
こうして、複合二乗残差和が所定値以下となって収束するまで、横力FyおよびトルクMzの設定値を調整する。この設定値の調整は、例えば上述したNewton-Raphson法に従って行なわれる。こうして、横力Fy'、トルクMz'を決定する(ステップS412)。
スリップ角αが所定のスリップ角以下であると判別した場合、スリップ角αの条件が変更される(α→α+Δα)(ステップS414)。そして、変更されたスリップ角αにおける横力Fy、トルクMzの初期値が設定され(ステップS402)、横力Fy'およびトルクMz’が算出され(ステップS404)、複合二乗残差和が算出され(ステップS406)、この複合二乗残差和の収束が判別される(ステップS408)。
こうして、スリップ角αが所定スリップ角となるまで繰り返し変更される(ステップS416)。このスリップ角の変更の度に横力Fy’およびトルクMz’を算出し、収束する横力Fy’およびトルクMz’を決定する。決定された横力Fy’およびトルクMz’はメモリ4に記憶される。
このようにして、スリップ角αに依存する横力およびトルクの特性曲線を求める。
以上が、装置1の構成についての説明である。
まず、設定プログラム9において、車両諸元のデータ及びタイヤの「Magic Formula」のパラメータB〜Eの値が設定される(ステップS600,602)。これらの設定は、メモリ4から所定のデータを呼び出して設定してもよいし、入力操作系5によって指示入力されたものであってもよい。
次に、車両走行シミュレーションプログラム10にて、設定された車両諸元のデータに基づいて車両モデルが生成される。例えば機構解析モデルによる車両モデルが生成される(ステップS604)。さらに、走行シミュレーション条件が設定される(ステップS606)。走行シミュレーション条件は、評価しようとする性能に応じて異なるものが設定される。例えば性能評価が耐久性評価の場合には車両の走行速度、路面の粗さ等のプロファイルデータが走行条件として設定される。緊急回避性能評価の場合には車両の走行速度や操舵角等のデータ、実際の路面のプロファイルデータ等が走行条件として設定される。
さらに、走行シミュレーション条件の下、設定された「Magic Formula」のパラメータB〜Eの値から横力及びトルクを算出しながら車両モデルを用いて走行シミュレーションが行われる(ステップS608)。
走行シミュレーション結果は、メモリ4に記憶される。
なお、性能評価データが目標値を満足せず、さらに車両諸元のデータがこれ以上修正不可能な場合、例えば車両のホイールベースが規制された長さを超える等の場合、車両諸元のデータに替わり「Magic Formula」のパラメータB〜Eの値の修正が行われる(ステップS618)。パラメータB〜Eの値の修正方法は、特に限定されず、例えば予め定められた幅でパラメータB〜Eの値を順次変えていく。
このように、タイヤ特性を修正処理は、車両諸元のデータを修正して走行シミュレーション及び車両の性能評価を行う処理を少なくとも1回行った後に行うので、車両諸元では目標性能の達成できない部分をタイヤ特性で効率よく達成させることができ、タイヤを含めた車両の設計を効率よく行うことができる。
ステップS612における判別で肯定されると、車両諸元のデータは決定され、さらに「Magic Formula」のパラメータB〜Eの値及びタイヤの力学要素パラメータの値がタイヤの要求特性として決定される(ステップS622)。
こうして決定された車両諸元のデータに基づいて、サスペンション等の構成部品の詳細設計が行われるとともに、タイヤは、決定された力学要素パラメータがタイヤの要求特性として提示されて、タイヤ製造業者にタイヤの発注がなされる(ステップS624)。
図13(a),(b)から明らかなように、複合二乗残差和を用いて算出した特性曲線l1,l3は、複合二乗残差和を用いずに算出した特性曲線l2,l4に比べて極めて良好に計測値に対応していることがわかる。
図14(a),(b)から明らかなように、本発明のタイヤ力学モデルを用いて算出した特性曲線l1,l2は、公知のFialaモデルを用いて算出した特性曲線l5,l6に比べて極めて良好に計測値に対応していることがわかる。
図16(a)では、特性曲線l8を、上記式(5)における第1項の凝着横力成分(点線)と第2項のすべり横力成分(一点鎖線)に分けて表示している。図16(b)では、上記式(6)における第1項および第2項の横力(凝着横力成分+すべり横力成分)によって生じる横力トルク成分と、前後力によって生じる前後力トルク成分とに分けて表示している。このように、本発明では、横力およびトルクの特性曲線を分解して表すことができ、タイヤのコーナリング特性を詳細に分析することが可能となる。
図16(c)は、上記Fy/Mzパラメータ算出プログラム22でパラメータを算出した時の関数Dgsp(t;n,q)によって表される接地圧分布の様子を示す図である。発生するセルフアライニングトルクMzが大きくなるほど、接地圧のピークは踏込み端側に偏り、接地面は蹴り出し側に移動することがわかる。
このように、本発明において用いるタイヤ力学モデルは、横力及びトルクの特性曲線を従来に比べて精度良く再現することができる。
2 CPU
3 バス
4 メモリ
5 入力操作系
6 インターフェース
7 出力装置
8 プログラム群
9 設定プログラム
10 車両走行シミュレーションプログラム
11 「Magic Formula」データ・パラメータ算出プログラム
12 タイヤ力学モデルプログラム群
13 統合・管理プログラム
14 タイヤ力学モデル演算プログラム
20 CP/SATPパラメータ算出プログラム
22 Fy/Mzパラメータ算出プログラム
24 CP/SATPデータ算出プログラム
26 Fy/Mzデータ算出プログラム
Claims (10)
- 路面との間で作用する剪断力に基づいてタイヤ回転軸に作用する力又はトルクのスリップ率依存性を表す特性曲線の情報と車両諸元の情報とを用いてコンピュータによる車両の走行シミュレーションを行うことによって、所望の車両性能を有する車両を設計するタイヤを含めた車両の設計方法であって、
前記コンピュータが、前記車両諸元の情報を用いて車両モデルを作成するモデル作成ステップと、
前記コンピュータが、前記特性曲線を非線形近似式で近似したときに設定された該非線形近似式を規定する近似式パラメータの値を前記モデル作成ステップで作成された前記車両モデルに付与して、所定の走行条件で走行シミュレーションを行い、この走行シミュレーションの結果を用いて前記車両の性能評価を行う性能評価ステップと、
前記コンピュータが、前記性能評価ステップにおける前記性能評価において、前記車両モデルが目標性能を満足しないと判断した場合、前記車両諸元の情報を修正し、修正した前記車両諸元の情報を用いて前記モデル作成ステップを行って新たな車両モデルを生成して、前記性能評価ステップを行い、生成された前記新たな車両モデルに前記近似式パラメータの値を付与して、前記所定の走行条件で前記走行シミュレーションを行い、この走行シミュレーションの結果を用いて前記車両の性能評価を行う車両諸元修正ステップと、
前記コンピュータが、前記車両諸元修正ステップにおいて前記車両諸元の情報を修正しても、前記性能評価ステップにおける前記性能評価において、前記車両モデルが前記目標性能を満足しないと判断した場合、前記近似式パラメータの値を修正して、前記性能評価ステップを行い、修正した前記近似式パラメータの値を前記車両モデルに付与して前記走行シミュレーションを行い、この走行シミュレーションの結果を用いて車両の性能評価を行うとともに、修正した前記近似式パラメータの値によって規定される前記非線形近似式から前記特性曲線を算出し、この特性曲線から、複数のタイヤ力学要素パラメータを用いて構成されるタイヤ力学モデルに基づいて、前記特性曲線を定める前記複数のタイヤ力学要素パラメータの値を導出するタイヤ特性修正ステップと、
前記コンピュータが、前記タイヤ特性修正ステップを行った後、前記性能評価ステップにおける前記性能評価において、前記車両モデルが前記目標性能を満足すると判断した場合、修正された前記近似式パラメータの値及び該近似式パラメータの値に対応して導出された前記複数のタイヤ力学要素パラメータの値をタイヤ要求特性として決定するタイヤ特性決定ステップと、を有し、
前記コンピュータは、前記車両諸元修正ステップを少なくとも1回行った後に、前記タイヤ特性修正ステップを行うことを特徴とするタイヤを含めた車両の設計方法。 - 前記特性曲線は、スリップ角を与えたときの、タイヤ軸に発生する横力及びセルフアライニングトルクのスリップ角依存性を表す曲線である請求項1に記載のタイヤを含めた車両の設計方法。
- 前記タイヤ力学モデルは、前記横力を算出するとともに、前記セルフアライニングトルクを、タイヤの接地面に作用する前記横力によって生じる横力トルク成分と、前記タイヤの接地面に作用する前後力によって生じる前後力トルク成分とに分けて算出するモデルである請求項2に記載のタイヤを含めた車両の設計方法。
- 前記タイヤ特性修正ステップにおいて、前記複数のタイヤ力学要素パラメータの値を導出する際、前記横力の特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出される横力の対応する曲線との二乗残差和と、前記セルフアライニングトルクの特性曲線と前記タイヤ力学モデルで算出されるセルフアライニングトルクの対応する曲線との二乗残差和とを、重み付け係数を用いて重み付け加算した値であって、前記重み付け係数として、前記近似式パラメータの値により算出される前記横力および前記セルフアライニングトルクのそれぞれの特性曲線の、前記スリップ角に依存して変化する値のばらつきの情報から求められる係数を用いた複合二乗残差和の値が、所定値以下となるように、タイヤのコーナリング中の特性を表す前記複数のタイヤ力学要素パラメータの値を導出する請求項2又は3に記載のタイヤを含めた車両の設計方法。
- 前記タイヤ特性修正ステップにおいて、前記特性曲線から、前記タイヤ力学モデルに基づいて、前記複数のタイヤ力学要素パラメータの値を導出する際、前記セルフアライニングトルクにより発生するタイヤの捩じり変形によって、付与されるスリップ角が修正された実効スリップ角を用いて前記複数のタイヤ力学要素パラメータの値を導出する請求項2〜4のいずれか1項に記載のタイヤを含めた車両の設計方法。
- 前記タイヤ特性修正ステップにおいて導出される前記複数のタイヤ力学要素パラメータは、タイヤのトレッド部材と路面との間の凝着摩擦係数およびすべり摩擦係数と接地圧分布の形状を規定する形状規定係数を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のタイヤを含めた車両の設計方法。
- 前記タイヤ特性修正ステップにおいて、予め求められた、タイヤの剪断変形に対する剛性パラメータ、タイヤの横曲げ変形に対する剛性パラメータおよびタイヤの捩じり変形に対する剛性パラメータの少なくとも1つを用いて、前記凝着摩擦係数、前記すべり摩擦係数および前記形状規定係数を導出する請求項6に記載のタイヤを含めた車両の設計方法。
- 前記コンピュータは、前記車両諸元修正ステップにおいて、前記車両モデルが目標性能を満足するまで、又は前記車両諸元の情報が修正できなくなるまで、前記車両諸元の情報の修正、修正された前記車両諸元の情報を用いた前記モデル作成ステップによる前記新たな車両モデルの生成、前記新たな車両モデルを用いた前記性能評価ステップによる前記走行シミュレーション及び前記車両の性能評価を繰り返し、
前記車両モデルが目標性能を満足する場合には、前記タイヤ特性決定ステップを行い、
前記車両諸元の情報が修正できなくなった場合には、前記タイヤ特性修正ステップを行う請求項1〜7のいずれか1項に記載のタイヤを含めた車両の設計方法。 - 前記コンピュータは、前記タイヤ特性修正ステップにおいて、
前記近似式パラメータの値を修正して、修正された前記近似式パラメータの値を用いた前記性能評価ステップによる前記走行シミュレーション及び前記車両の性能評価を行い、
前記車両モデルが目標性能を満足する場合には、前記タイヤ特性決定ステップを行い、前記車両モデルが目標性能を満足しない場合には、
前記車両諸元修正ステップにおいて、前記車両モデルが目標性能を満足するまで、又は前記車両諸元の情報が修正できなくなるまで、前記車両諸元の情報の修正、修正された前記車両諸元の情報を用いた前記モデル作成ステップによる前記新たな車両モデルの生成、前記新たな車両モデルを用いた前記性能評価ステップによる前記走行シミュレーション及び前記車両の性能評価を繰り返し、前記車両モデルが目標性能を満足する場合には、前記タイヤ特性決定ステップを行い、前記車両諸元の情報が修正できなくなった場合には、再び、前記近似式パラメータの値を修正して、前記車両モデルが目標性能を満足するまで、修正された前記近似式パラメータの値を用いた前記性能評価ステップ、又は、該性能評価ステップ及び前記車両諸元修正ステップにおける前記車両諸元の情報の修正、修正された前記車両諸元の情報を用いた前記モデル作成ステップ及び前記性能評価ステップを繰り返す請求項1〜8のいずれか1項に記載のタイヤを含めた車両の設計方法。 - さらに、前記コンピュータが、前記性能評価ステップを行う前に、前記特性曲線を前記非線形近似式で近似したときの、該非線形近似式を規定する前記近似式パラメータの値を設定するステップを有する請求項1〜9のいずれか1項に記載のタイヤを含めた車両の設計方法。
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