以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。また、以下で説明する実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部の位置関係について説明する。水平面内の一方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向をZ軸方向とする。また、X軸、Y軸、及びZ軸まわりの回転(傾斜)方向をそれぞれ、θX、θY、及びθZ方向とする。本実施形態において、タイヤ1の回転軸とY軸とが平行である。Y軸方向は、車幅方向又はタイヤ1の幅方向である。タイヤ1(タイヤ1の回転軸)の回転方向(θY方向に相当)を、周方向と称してもよい。X軸方向及びZ軸方向は、回転軸に対する放射方向である。回転軸に対する放射方向を、径方向と称してもよい。タイヤ1が転動(走行)する路面は、XY平面とほぼ平行である。
<第1実施形態>
第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るタイヤ1の一例を示す断面図である。図1は、タイヤ1の回転軸を通る子午断面を示す。タイヤ1は、カーカス2と、ベルト層3と、ベルトカバー4と、ビードコア5と、トレッドゴム6と、サイドウォールゴム7とを備えている。カーカス2、ベルト層3、及びベルトカバー4のそれぞれは、コードを含む。コードは、補強材である。コードを、ワイヤと称してもよい。カーカス2、ベルト層3、及びベルトカバー4などのコード(補強材)を含む層(部分)をそれぞれ、コード層と称してもよいし、補強材層と称してもよい。
カーカス2は、タイヤ1の骨格を形成する部材(強度部材)である。カーカス2は、コード(補強材)を含む。カーカス2のコードを、カーカスコードと称してもよい。カーカス2は、コードを含むコード層(補強材層)である。カーカス2は、タイヤ1に空気が充填されたときの圧力容器として機能する。カーカス2は、ビードコア5に支持される。ビードコア5は、Y軸方向に関してカーカス2の一側及び他側のそれぞれに配置される。カーカス2は、ビードコア5において折り返される。カーカス2は、有機繊維のコード(カーカスコード)と、そのコードを覆うゴムとを含む。コードを覆うゴムを、コートゴムと称してもよいし、トッピングゴムと称してもよい。なお、カーカス2は、ポリエステルのコードを含んでもよいし、ナイロンのコードを含んでもよいし、アラミドのコードを含んでもよいし、レーヨンのコードを含んでもよい。
ベルト層3は、タイヤ1の形状を保持する部材(強度部材)である。ベルト層3は、コード(補強材)を含む。ベルト層3のコードを、ベルトコードと称してもよい。ベルト層3は、コードを含むコード層(補強材層)である。ベルト層3は、カーカス2とトレッドゴム6との間に配置される。ベルト層3は、例えばスチールなどの金属繊維のコード(ベルトコード)と、そのコードを覆うゴム(コートゴム、トッピングゴム)とを含む。なお、ベルト層3は、有機繊維のコードを含んでもよい。本実施形態において、ベルト層3は、第1ベルトプライ3Aと、第2ベルトプライ3Bとを含む。第1ベルトプライ3Aと第2ベルトプライ3Bとは、第1ベルトプライ3Aのコードと第2ベルトプライ3Bのコードとが交差するように積層される。
ベルトカバー4は、ベルト層3を保護し、補強する部材(強度部材)である。ベルトカバー4は、コード(補強材)を含む。ベルトカバー4のコードを、カバーコードと称してもよい。ベルトカバー4は、コードを含むコード層(補強材層)である。ベルトカバー4は、タイヤ1の回転軸に対してベルト層3の外側(接地面側)に配置される。ベルトカバー4は、例えばスチールなどの金属繊維のコード(カバーコード)と、そのコードを覆うゴム(コートゴム、トッピングゴム)とを含む。なお、ベルトカバー4は、有機繊維のコードを含んでもよい。
ビードコア5は、カーカス2の両端を固定する部材(強度部材)である。ビードコア5は、タイヤ1をリムに固定させる。ビードコア5は、スチールワイヤの束である。なお、ビードコア5が、炭素鋼の束でもよい。
トレッドゴム6は、カーカス2を保護する。トレッドゴム6は、路面(地面)と接触する接地面(トレッド部)10と、第1溝21及び第2溝22とを有する。接地面10は、第1溝21及び第2溝22の周囲の少なくとも一部に配置される。第1溝21の内面及び第2溝22の内面は、路面(地面)と接触しない。第1溝21及び第2溝22のそれぞれは、非接地部である。雨天時など、タイヤ1が濡れた路面を転がる際、第1溝21及び第2溝22は、タイヤ1と路面との間から水を排除可能である。
サイドウォールゴム7は、カーカス2を保護する。サイドウォールゴム7は、Y軸方向に関してトレッドゴム6の一側及び他側のそれぞれに配置される。サイドウォールゴム7は、サイドウォール部71を有する。
図2は、本実施形態に係るタイヤ1の特性(性能、挙動)のシミュレーション(コンピュータ解析)、及び評価を行う処理装置50の一例を示す図である。処理装置50は、コンピュータ(コンピュータシステム)を含む。本実施形態においては、コンピュータを含む処理装置50を用いて、タイヤ1の特性(性能、挙動)のシミュレーション、及び評価が行われる。本実施形態において、コンピュータを含む処理装置50は、入力された情報(パラメータなど)を使って、タイヤ1の摩耗(摩耗特性)を予測し、評価する。
処理装置50は、評価対象であるタイヤ1の解析モデル(タイヤモデル)を作成可能である。すなわち、処理装置50は、コンピュータが解析可能な解析モデルを作成可能である。本実施形態においては、処理装置50は、解析モデルとして、路面に対するタイヤ1の接地面10の近似モデルを作成可能である。
処理装置50は、作成された解析モデルからタイヤ1の特性をシミュレーション(解析)可能である。処理装置50は、作成された解析モデルからタイヤ1の摩耗(摩耗特性)を予測可能であり、その予測結果からタイヤ1の摩耗特性を評価可能である。本実施形態において、処理装置50を、モデル作成装置50と称してもよいし、シミュレーション装置50と称してもよいし、解析装置50と称してもよいし、評価装置50と称してもよいし、摩耗予測装置50と称してもよい。
本実施形態において、処理装置50は、処理部50pと、記憶部50mと、入出力部59とを含む。処理部50pと記憶部50mとは、入出力部59を介して接続される。
処理部50pは、CPU(Central Processing Unit:中央演算装置)と、RAM(Random Access Memory)等のメモリとを含む。処理部50pは、タイヤ1の解析モデル(接地面10の近似モデル)を作成可能なモデル作成部51と、タイヤ1の特性のシミュレーション(解析)、及びシミュレーション結果(解析結果)の評価を実行可能な解析部52とを含む。モデル作成部51及び解析部52はそれぞれ、入出力部59と接続される。モデル作成部51及び解析部52は、入出力部59を介して、相互にデータを通信可能である。
モデル作成部51は、タイヤ1の解析モデルを作成可能である。モデル作成部51は、タイヤ1の接地面10の近似モデルを作成可能である。モデル作成部51は、路面に対するタイヤ1の接地面10について、予め指定された所定形状を使って近似モデルを作成可能である。解析部52は、本実施形態に係る手順に従って、モデル作成部51で作成された近似モデル(解析モデル)からタイヤ1の摩耗をシミュレーション(予測)する。解析部52による解析結果から、タイヤ1の性能が評価される。
記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、不揮発性のメモリ、ハードディスク装置等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等のストレージ装置の少なくとも一つを含む。
記憶部50mには、解析モデル(近似モデル)の作成のための第1情報、及びシミュレーション(解析、予測)のための第2情報の少なくとも一部が記憶されている。
解析モデルの作成のための第1情報は、接地面10の近似モデルを作成するために予め指定された所定形状に関する情報を含む。所定形状は、多角形、円形、長円形、及び楕円形の少なくとも一つでもよい。所定形状は、矩形、台形、六角形、及び八角形の少なくとも一つでもよい。所定形状は、上述の多角形の一部を切り取った形状でもよいし、円形の一部を切り取った形状でもよいし、長円形の一部を切り取った形状でもよいし、楕円形の一部を切り取った形状でもよい。所定形状は、上述の各形状を組み合わせたものでもよい。所定形状の領域は、閉じた領域である。また、第1情報は、タイヤ1の接地面10に関する情報を含む。タイヤ1の接地面10に関する情報は、接地面10の形状、接地面10の面積、接地長、及び接地幅の少なくとも一つを含む。なお、所定形状に関する情報及びタイヤ1の接地面10に関する情報が、第2情報に含まれてもよい。
シミュレーションのための第2情報は、例えば境界条件に関する情報を含む。境界条件は、解析モデルのシミュレーション(解析)において必要な条件であり、解析モデルに付与される各種の条件を含む。境界条件は、例えば、タイヤ1の走行条件を含む。本実施形態において、第2情報は、タイヤ1の走行条件、タイヤ1の走行(転動)時においてタイヤ1に発生する力、及びタイヤ1のスティフネス(剛性)に関する情報を含む。タイヤ1の走行条件は、駆動、制動、及び旋回(右旋回及び左旋回の一方又は両方)の少なくとも一つを含む。走行(転動)時においてタイヤ1に発生する力は、駆動力、制動力、及び旋回力(右旋回力及び左旋回力の一方又は両方)の少なくとも一つを含む。また、タイヤ1に発生する力は、前後力及び横力の一方又は両方を含む。タイヤ1のスティフネスは、駆動スティフネス、制動スティフネス、及び旋回スティフネスの少なくとも一つを含む。また、第2情報は、タイヤ1の加速度、タイヤ1に対する荷重、及びタイヤ1と地面との間の摩擦力などの各種の条件を含む。
記憶部50mには、解析モデル(近似モデル)を作成するための第1プログラム(第1コンピュータプログラム)が記憶されている。記憶部50mには、タイヤ1の特性をシミュレーション(解析)するための第2プログラム(第2コンピュータプログラム)が記憶されている。第2プログラムは、タイヤ1の摩耗を予測するプログラムを含む。記憶部50mには、タイヤ1の特性を評価するための第3プログラム(第3コンピュータプログラム)が記憶されている。第1プログラムは、本実施形態に係る近似モデル作成方法を処理装置(コンピュータ)50に実行させることができる。第2プログラムは、本実施形態に係るシミュレーション方法(タイヤ1の摩耗予測方法)を処理装置(コンピュータ)50に実行させることができる。第3プログラムは、本実施形態に係る評価方法を処理装置(コンピュータ)50に実行させることができる。なお、第1プログラムを、解析モデル作成用プログラムと称してもよい。第2プログラムを、シミュレーション用プログラムと称してもよいし、解析用プログラムと称してもよいし、タイヤ1の摩耗予測用プログラムと称してもよい。第3プログラムを、評価用プログラムと称してもよい。なお、1つのプログラムが、解析モデルの作成、シミュレーション(摩耗予測)、及び評価を処理装置(コンピュータ)50に実行させてもよい。
モデル作成部51は、解析モデルを作成するための第1情報、及び第1プログラムに基づいて、タイヤ1の解析モデル(接地面10の近似モデル)を作成可能である。解析部52は、シミュレーション(解析)のための第2情報、及び第2プログラムに基づいて、タイヤ1の特性(摩耗)のシミュレーション(解析、予測)を実行可能である。解析部52は、第3プログラムに基づいて、タイヤ1の評価を実行可能である。例えば、解析部52がタイヤ1のシミュレーションを実行する際、解析部52が有するメモリに、第2プログラム及び第2情報(タイヤ1の諸条件、境界条件等)が読み込まれる。解析部52は、その第2プログラム及び第2情報に基づいて、演算処理を行う。解析部52による演算途中の数値は適宜、解析部52が有するメモリ及び記憶部50mの少なくとも一方に格納される。格納された数値は適宜、解析部52が有するメモリ及び記憶部50mの少なくとも一方から取り出され、解析部52は、その取り出された数値を用いて演算処理を行う。
入出力部59は、端末装置60と接続される。端末装置60は、入力装置61及び出力装置62と接続される。入力装置61は、キーボード、マウス、及びマイクの少なくとも一つを含む。出力装置62は、ディスプレイなどの表示装置、及びプリンタの少なくとも一つを含む。
解析モデルの作成のための第1情報、及びシミュレーション(解析、予測)のための第2情報の少なくとも一方が、入力装置61から入力されてもよい。本実施形態に係る解析モデル作成方法を実行可能な第1プログラム、シミュレーション方法(摩耗予測方法)を実行可能な第2プログラム、及び評価方法を実行可能な第3プログラムの少なくとも一つが、入力装置61から入力されてもよい。なお、解析モデルの作成、シミュレーション(摩耗予測)、及び評価を処理装置(コンピュータ)50に実行させることができる1つのプログラムが、入力装置61から入力されてもよい。
入力装置61から入力された情報(プログラム)が、端末装置60及び入出力部59を介して、処理部50p及び記憶部50mの少なくとも一方に送られてもよい。処理部50pは、入力装置61からの情報に基づいて、解析モデルの作成、シミュレーション、解析、及び評価の少なくとも一つを実行可能である。記憶部50mは、入力装置61からの情報を記憶可能である。
なお、本実施形態において、プログラムは、単一に構成されるものに限られない。本実施形態において、プログラムの機能は、コンピュータシステムに既に記憶されているプログラムとともに達成されてもよい。コンピュータシステムに既に記憶されているプログラムとは、例えばOS(Operating System)に代表される別個のプログラムを含む。
なお、処理部50pの機能(解析モデル作成機能、シミュレーション機能、及び評価機能の少なくとも一つ)を実現するためのプログラム(第1、第2、第3プログラムの少なくとも一つ)が、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、この記録媒体に記録されたプログラムがコンピュータシステムに読み込まれることによって、コンピュータシステムが、解析モデルの作成、シミュレーション(解析、予測)、及び評価の少なくとも一つを実行してもよい。なお、コンピュータシステムは、処理装置50を含み、上述のOSや周辺機器などのハードウェアを含む。
なお、処理部50pは、記憶部50mからの情報(プログラム)と、入力装置61からの情報(プログラム)との両方を用いて、解析モデル(近似モデル)の作成、シミュレーション(解析、予測)、及び評価の少なくとも一つを実行してもよい。なお、処理部50pは、記憶部50mからの情報(プログラム)と、入力装置61からの情報(プログラム)と、記録媒体からの情報(プログラム)との少なくとも2つを用いて、解析モデルの作成、シミュレーション(解析、予測)、及び評価の少なくとも一つを実行してもよい。
モデル作成部51で作成された解析モデル(近似モデル)、及び解析部52の解析結果(予測結果)の少なくとも一方を含む処理部50pからのデータは、入出力部59及び端末装置60を介して、出力装置62に送られる。出力装置62は、そのデータを出力可能である。出力装置62が表示装置を含む場合、その表示装置は、処理部50pからのデータを表示可能である。
なお、本実施形態において、記憶部50mは、処理部50pに内蔵されていてもよい。なお、記憶部50mが、評価装置50とは別の装置(例えばデータベースサーバ)に含まれていてもよい。なお、端末装置60が、有線及び無線の少なくとも一方の方法で処理装置50にアクセスしてもよい。
次に、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の一例について説明する。図3は、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の処理手順を示すフローチャートである。図3に示すように、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法は、コンピュータで解析可能なタイヤ1の接地面10の近似モデルを作成する手順(ステップSA1)と、タイヤ1の特性に関するパラメータを決定するための関数を設定する手順(ステップSA2)と、タイヤ1に作用する荷重を設定する手順(ステップSA3)と、パラメータを決定する手順(ステップSA4)と、タイヤ1のせん断応力に関する近似関数を設定する手順(ステップSA5)と、タイヤ1のすべり量に関する近似関数を設定する手順(ステップSA6)と、タイヤ1の平均せん断応力を算出する手順(ステップSA7)と、タイヤ1のすべり量を算出する手順(ステップSA8)と、タイヤ1の摩擦エネルギーを算出する手順(ステップSA9)と、タイヤ1の摩耗を予測する手順(ステップSA11)と、を含む。
図4は、路面に対するタイヤ1の接地面10の一例を示す図である。図4に示すように、タイヤ1は、路面と接触する接地面(トレッド部)10と、第1溝21及び第2溝22とを有する。本実施形態において、接地面10は、センター領域11と、Y軸方向(タイヤ1の幅方向、タイヤ1の回転軸と平行な方向)に関してセンター領域11の一側(+Y側)及び他側(−Y側)のそれぞれに配置されるショルダー領域12とを含む。
第1溝21は、タイヤ1の周方向に形成される。第2溝22の少なくとも一部は、タイヤ1の幅方向に形成される。第1溝21を、主溝21と称してもよい。第2溝22を、ラグ溝22と称してもよい。図4に示す例においては、タイヤ1は、4つ(4本)の第1溝21を有する。接地面10は、Y軸方向に配置される5つの領域101、領域102、領域103、領域104、及び領域105を含む。領域101と領域102との間、領域102と領域103との間、領域103と領域104との間、及び領域104と領域105との間のそれぞれに、第1溝21が配置される。すなわち、4つの第1溝21により、接地面10は、Y軸方向に関して5つの領域101、領域102、領域103、領域104、及び領域105に分割される。Y軸方向に配置される5つの領域101、領域102、領域103、領域104、領域105のうち、領域101は、最も−Y側に配置され、領域102は、領域101に次いで−Y側に配置され、領域103は、領域102に次いで−Y側に配置され、領域104は、領域103に次いで−Y側に配置され、領域105は、最も+Y側に配置される。センター領域11は、領域102、領域103、及び領域104を含む。ショルダー領域12は、領域101及び領域105を含む。第2溝22は、領域101、領域102、領域103、領域104、及び領域105のそれぞれに配置される。
モデル作成部51は、図4に示す接地面10の近似モデル30を作成する(ステップSA1)。近似モデル30の作成のための第1情報が、モデル作成部51に入力される。第1情報は、接地面10の近似モデル30を作成するための所定形状に関する情報を含む。所定形状は、近似モデル30を作成するために予め指定された形状である。所定形状に関する情報が、モデル作成部51に入力される。
所定形状は、多角形、円形、長円形、及び楕円形の少なくとも一つでもよい。所定形状は、矩形、台形、六角形、及び八角形の少なくとも一つでもよい。所定形状は、上述の多角形の一部を切り取った形状でもよいし、円形の一部を切り取った形状でもよいし、長円形の一部を切り取った形状でもよいし、楕円形の一部を切り取った形状でもよい。所定形状は、上述の各形状を組み合わせたものでもよい。所定形状の領域は、閉じた領域である。本実施形態においては、所定形状として、矩形(長方形)を用いる。
図5は、矩形(長方形)を使って作成された接地面10の近似モデル30の一例を示す図である。本実施形態において、モデル作成部51は、接地面10のセンター領域11及びショルダー領域12のそれぞれについて近似モデル30を作成する。近似モデル30は、センター領域11をモデル化したセンターモデル領域31と、ショルダー領域12をモデル化したショルダーモデル領域32とを含む。
本実施形態において、センターモデル領域31は、1つの矩形により規定される。換言すれば、センターモデル領域31は、第1溝21を考慮せずにモデル化されている。センターモデル領域31は、第1溝21を接地領域として作成される。すなわち、近似モデル30において、第1溝21は、路面に接触する接地部として扱われる。換言すれば、センターモデル領域31は、タイヤ1の領域102、領域103、領域104、及びそれらに隣り合う第1溝21のそれぞれを接地領域としてモデル化したものである。図5に示す例においては、演算の労力が抑制され、タイヤ1の摩耗を簡単に求めることができる。
図5に示すように、Y軸方向に関するセンターモデル領域31の寸法は、Wcである。X軸方向に関するセンターモデル領域31の寸法は、Lcである。Y軸方向に関するショルダーモデル領域32の寸法は、Wsである。X軸方向に関するショルダーモデル領域32の寸法は、Lsである。寸法Lc及び寸法Lsは、タイヤ1の接地長(進行方向に関する接地面10の寸法)に相当する。
次に、解析部52は、せん断応力に関する近似関数に含まれるパラメータ、及びすべり量に関する近似関数に含まれるパラメータを決定する。これらのパラメータは、タイヤ1の特性に関するパラメータであり、タイヤ1に作用する荷重の関数である。すなわち、パラメータは、タイヤ1に作用する荷重に応じて変化する数値である。タイヤ1に作用する荷重は、タイヤ1が装着される車両の走行条件に応じて変化する。
パラメータは、タイヤの接地長(平均接地長)、接地幅、接地面積、旋回スティフネス、及び制駆動スティフネスの少なくとも一つを含む。車両の走行条件が変化して、タイヤ1に作用する荷重が変化することにより、接地長が変化したり、接地幅が変化したり、接地面積が変化したり、旋回スティフネスが変化したり、制駆動スティフネスが変化したりする。
本実施形態において、パラメータを決定するための関数が設定され、その関数に基づいてパラメータが決定される(ステップSA2)。パラメータを決定するための関数は、1次関数でもよいし2次以上6次以下の関数でもよいし、冪関数でもよいし、指数関数でもよいし、三角関数でもよいし、これらの関数を組み合わせた関数でもよい。これらの例に限られず、任意の関数を用いることができる。1次関数の一例を(1A)式に、4次関数の例を(1B)式に、冪関数の一例を(1C)式に、指数関数の例を(1D)式に、三角関数と冪関数とを組み合わせた例を(1E)式に示す。
(1A)式から(1E)式において、定数a、定数b、定数c、定数dは、例えば、実験(予備実験)により事前に求められてもよいし、シミュレーションにより事前に求められてもよい。実験で求める場合、実際にタイヤ1に荷重が作用された状態でそのタイヤ1を走行(転動)させ、そのときのパラメータ(接地長、接地幅、接地面積、旋回スティフネス、及び制駆動スティフネスの少なくとも一つ)を所定の計測装置で計測することにより、(1A)式から(1E)式に示した関数を設定してもよい。シミュレーションで求める場合、所定の荷重条件及び走行条件に基づいて、上述の(1A)式から(1E)式に示した関数を設定してもよい。その荷重とパラメータとの複数の関係を求めることによって、定数a、定数b、定数c、定数dを求めることができる。求めた関係、定数a、定数b、定数c、定数d、及び上述の(1A)式から(1E)式などに関する情報は、記憶部50mに記憶される。
次に、タイヤ1に作用させる荷重Fzが設定される(ステップSA3)。設定される荷重Fzは、走行時においてタイヤ1に作用する荷重Fzである。走行時においてタイヤ1に作用する荷重Fzが想定され、その想定された荷重Fzが設定される。その設定された荷重Fzが、記憶部50mに記憶されている上述の関数((1A)式から(1E)式など)に入力される。解析部52は、走行時においてタイヤ1に作用する荷重Fzと、記憶部50mに記憶されている関数とに基づいて、パラメータを決定する(ステップSA4)。
次に、解析部52は、せん断応力に関する近似関数を設定する(ステップSA5)。解析部52は、接地面10の粘着域及びすべり域におけるせん断応力分布の近似関数を設定する。解析部52は、センターモデル領域31及びショルダーモデル領域32のそれぞれに関して、せん断応力分布の近似関数を設定する。
図6は、接地面10に形成される粘着域及びすべり域の概念図である。図6において、横軸は、車両の進行方向(X軸方向)を示す。縦軸は、せん断応力τを示す。図6中、ラインL1は、タイヤ1(トレッドゴム6)が有する最大摩擦曲線であり、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩擦係数と接地圧分布との積である。
踏み込み端(接地始め)x0点において、タイヤ1のトレッドゴム6は、路面と接触し始める。トレッドゴム6は、x0点の直前まで路面と接触しない。そのため、x0点において、トレッドゴム6は、路面と密接に接触する。x0点以降、トレッドゴム6(接地面10)は、路面に引きずられて撓む。すなわち、トレッドゴム6は、踏み込み端x0点から蹴りだし端(接地終わり)x2点までの移動において、徐々に路面からせん断を受ける。これにより、トレッドゴム6にせん断力が発生する。トレッドゴム6が撓むことで、トレッドゴム6と路面との密着が保たれる。このように、撓むことによって路面と密着するトレッドゴム6の接地面10の一部の領域を、粘着域という。
せん断応力τが徐々に大きくなり、最大摩擦曲線L1に到達したx1点において、路面に密着していたトレッドゴム6の接地面10は、路面に対してすべり出す。すなわち、せん断力が最大摩擦曲線L1に到達すると、接地面10は路面についていくことができず、撓んでいたトレッドゴム6の接地面10は、X1点の近傍において、その撓みが戻るように変形(復元)し始め、接地面10が路面に対してすべる。このように、路面に対してすべるトレッドゴム6の接地面10の一部の領域を、すべり域という。
図7は、1次関数(1次式)で近似したせん断応力(せん断応力分布)の概念図である。図6及び図7に示すように、進行方向(X軸方向)についてのせん断応力τは、1次関数で近似することができる。すなわち、粘着域のせん断応力(せん断応力分布)に関する近似関数τ(x)は、図6のラインL2で示すように、1次関数で表すことができる。すべり域のせん断応力(せん断応力分布)に関する近似関数τ(x)は、図6のラインL3で示すように、1次関数で表すことができる。換言すれば、x0点からx1点までにおいて、x0点からの距離xとせん断応力τとは比例し、x1点からx2点までにおいて、X1点からの距離xとせん断応力τとは比例する。
本実施形態において、解析部52は、センターモデル領域31及びショルダーモデル領域32のそれぞれについて、せん断応力分布の近似関数を設定する。本実施形態において、解析部52は、センターモデル領域31及びショルダーモデル領域32のそれぞれにおけるせん断応力分布を1次関数で近似する。
(2)式は、旋回時のセンター領域11におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式である。(3)式は、制駆動時(駆動時及び制動時)のセンター領域11におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式である。(4)式は、旋回時のショルダー領域12におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式である。(5)式は、制駆動時のショルダー領域12におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式である。
なお、旋回時のセンター領域11におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式は、(6)式でもよい。制駆動時のセンター領域11におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式は、(7)式でもよい。旋回時のショルダー領域12におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式は、(8)式でもよい。制駆動時のショルダー領域12におけるすべり域の平均せん断応力を求めるための近似式は、(9)式でもよい。
上述の(2)式から(9)式において、平均接地長、接地幅、及び接地面積が、ステップSA4において決定されたパラメータである。すなわち、(2)式から(9)式に含まれる平均接地長、接地幅、及び接地面積が、走行時においてタイヤ1に作用する荷重の関数であり、その荷重に応じて変化する。ステップSA4において決定されたパラメータを含む(2)式から(9)式に基づいて、すべり域の平均せん断応力が求められる。
次に、解析部52は、すべり量に関する近似関数を設定する(ステップSA6)。解析部52は、路面に対する接地面10のすべり量の近似関数を設定する。解析部52は、路面に対するすべり域におけるすべり量の近似関数を設定する。解析部52は、センターモデル領域31及びショルダーモデル領域32のそれぞれに関して、すべり量の近似関数を設定する。
すべり量の近似関数は、パラメータにタイヤ1のスティフネス(剛性)を含む。本実施形態において、すべり量の近似関数は、タイヤ1の駆動時におけるすべり量の近似関数、制動時におけるすべり量の近似関数、及び旋回時におけるすべり量の近似関数を含む。タイヤ1のスティフネスは、旋回スティフネス(横剛性)、及び制駆動スティフネス(前後剛性)を含む。
図8は、スリップ角αを有するタイヤ1の接地面10を上から見た図である。X軸がタイヤ1の進行方向である。タイヤ1(ホイール)の中心線は、X軸に対してαだけ傾斜する。タイヤ1は、進行方向(X軸)に対してαの向きに傾斜して、全体としてはX軸の向きに転動する。スリップ角αを有するタイヤ1(接地面10)において、粘着域とすべり域とが形成される。
図9は、路面の移動速度VRとタイヤ1の転動速度(トレッドベース速度)VBとの差によって、タイヤ1(接地面10)の制駆動方向(前後方向)に粘着域とすべり域とが形成される例を示す。
(10)式は、旋回時のセンター領域11におけるすべり域のすべり量を求めるための近似式である。(11)式は、制駆動時のセンター領域11におけるすべり域のすべり量を求めるための近似式である。(12)式は、旋回時のショルダー領域12におけるすべり域のすべり量を求めるための近似式である。(13)式は、制駆動時のショルダー領域12におけるすべり域のすべり量を求めるための近似式である。
上述の(10)式から(13)式において、接地長及びスティフネスが、ステップSA4において決定されたパラメータである。すなわち、(10)式から(13)式に含まれる接地長及びスティフネスが、走行時においてタイヤ1に作用する荷重の関数であり、その荷重に応じて変化する。ステップSA4において決定されたパラメータを含む(10)式から(13)式に基づいて、すべり域のすべり量が求められる。
上述の(2)式から(13)式に示すように、平均せん断応力及びすべり量は、タイヤ1に作用する力(前後力Fx、横力Fy)の関数である。
なお、サイドウォール部71(サイドウォールゴム7)のスティフネス、あるいは旋回時におけるサイドウォール部71の変形が、旋回時におけるすべり量に影響を与える可能性がある。そのため、サイドウォール部71のスティフネスを考慮した補正係数Rsを設定して、その補正係数Rsを用いて、以下の(14)式のようにすべり量を補正してもよい。なお、補正係数Rsは、例えば実験により事前に求められてもよいし、シミュレーションにより事前に求められてもよい。
せん断応力分布の近似関数の設定、及びすべり量の近似関数の設定が行われた後、センターモデル領域31及びショルダーモデル領域32のそれぞれに関して、すべり域の平均せん断応力の算出(ステップSA7)、すべり域のすべり量の算出(ステップSA8)、及び摩擦エネルギーの算出(ステップSA9)が行われる。
センターモデル領域31についての平均せん断応力の算出、すべり量の算出、及び摩擦エネルギーの算出の手順(ステップSA7、ステップSA8、ステップSA9)について説明する。解析部52は、上述の(2)式、(3)式、(6)式、及び(7)式に基づいて、センターモデル領域31のすべり域の平均せん断応力を求める(ステップSA7)。例えば、入力装置61から解析部52に対して、センターモデル領域31の接地長(平均接地長)Lc、ショルダーモデル領域32の接地長(平均接地長)Ls、センターモデル領域31の接地幅Wc、ショルダーモデル領域32の接地幅Ws、センターモデル領域31の接地面積Ac、及びショルダーモデル領域32の接地面積Asなどに関するデータが入力される。これにより、(2)式、(3)式、(6)式、及び(7)式などに基づいて、センターモデル領域31のすべり域の平均せん断応力が解析部52により算出される。
また、解析部52は、(10)式、及び(11)式に基づいて、センターモデル領域31のすべり域のすべり量を求める(ステップSA8)。例えば、入力装置61から解析部52に対して、センターモデル領域31の接地長(平均接地長)Lc、旋回スティフネスKy、及び制駆動スティフネスKxなどに関するデータが入力される。これにより、(10)式、及び(11)式などに基づいて、センターモデル領域31のすべり域のすべり量が解析部52により算出される。
次に、解析部52は、センターモデル領域31のすべり域における摩擦エネルギーを算出する(ステップSA9)。摩擦エネルギーは、せん断力(せん断応力)とすべり量との積で定義される。したがって、解析部52は、ステップSA7で求めた平均せん断応力(せん断力)と、ステップSA8で求めたすべり量とに基づいて、センターモデル領域31のすべり域における摩擦エネルギーを算出可能である。以上により、センターモデル領域31のすべり域における摩擦エネルギーが求められる。
次に、近似モデル30のセンターモデル領域31、及びショルダーモデル領域32の全ての領域についての摩擦エネルギーの算出が終了したかどうかが判断される(ステップSA10)。
解析部52は、センターモデル領域31のすべり域における摩擦エネルギーの算出後、ショルダーモデル領域32についての算出の手順(ステップSA7、ステップSA8、ステップSA9)を開始する。解析部52は、上述の(4)式、(5)式、(8)式、及び(9)式に基づいて、ショルダーモデル領域32のすべり域における平均せん断応力を求める(ステップSA7)。例えば、入力装置61から解析部52に対して、パラメータが入力されることにより、(4)式、(5)式、(8)式、及び(9)式などに基づいて、ショルダーモデル領域32のすべり域の平均せん断応力が解析部52により算出される。
また、解析部52は、(12)式、及び(13)式に基づいて、ショルダーモデル領域32のすべり域のすべり量を求める(ステップSA8)。例えば、入力装置61から解析部52に対して、パラメータが入力されることにより、(12)式、及び(13)式などに基づいて、ショルダーモデル領域32のすべり域のすべり量が解析部52により算出される。
また、(14)式に基づいてすべり域のすべり量を算出する場合、入力装置61から解析部52に対して、パラメータとして、サイドウォール剛性の補正係数Rsに関するデータが入力される。
次に、解析部52は、ショルダーモデル領域32のすべり域における摩擦エネルギーを算出する(ステップSA9)。摩擦エネルギーは、せん断力(せん断応力)とすべり量との積で定義される。したがって、解析部52は、ステップSA7で求めた平均せん断応力(せん断力)と、ステップSA8で求めたすべり量とに基づいて、ショルダーモデル領域32のすべり域における摩擦エネルギーを算出可能である。以上により、ショルダーモデル領域32についての摩擦エネルギーが求められる。
次に、近似モデル30のセンターモデル領域31、及びショルダーモデル領域32の全ての領域についての摩擦エネルギーの算出が終了したかどうかが判断される(ステップSA10)。
センターモデル領域31、及びショルダーモデル領域32それぞれについての摩擦エネルギーの算出が行われた後、解析部52は、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗を予測する(ステップSA11)。摩擦エネルギーとタイヤ1の摩耗(摩耗量)との間には相関関係(例えば比例関係)がある。そのため、解析部52は、ステップSA9で求めた、センターモデル領域31、及びショルダーモデル領域32それぞれについての摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗(摩耗量)を予測することができる。
本実施形態において、解析部52は、トレッドゴム6の材料特性(耐摩耗物性)を考慮して、タイヤ1の摩耗(摩耗量)を予測してもよい。換言すれば、解析部52は、ステップSA9で求めた摩擦エネルギーとトレッドゴム6の材料特性とに基づいて、タイヤ1の摩耗(摩耗量)を予測してもよい。例えば、タイヤ1のトレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量と、ステップSA9で求めた摩擦エネルギーとに基づいて、トレッドゴム6の摩耗量を求め、その求めたトレッドゴム6の摩耗量に基づいて、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗を予測してもよい。これにより、トレッドゴム6の耐摩耗物性を考慮した摩耗予測が可能となる。以下で説明する実施形態においても同様である。
以上説明したように、本実施形態によれば、タイヤ1の接地面10について近似モデル30を作成するとともに、接地面10のすべり域におけるせん断応力分布に関する近似関数、及びすべり域におけるすべり量に関する近似関数を設定し、せん断応力分布に関する近似関数に基づいてすべり域の平均せん断応力を求めるとともに、すべり量に関する近似関数に基づいてすべり量を求めることにより、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗(摩耗量)を簡単に予測することができる。上述のように、タイヤ1の摩耗量と摩擦エネルギーとの間には相関関係がある。すなわち、摩擦エネルギーが大きいとタイヤ1の摩耗が大きくなり、摩擦エネルギーが小さいとタイヤ1の摩耗が小さくなる。また、摩擦エネルギーとタイヤ1の摩耗量との間にはほぼ比例関係が成立する。そのため、摩擦エネルギーを求めることによって、タイヤ1の摩耗を予測することができる。摩擦エネルギーは、タイヤ1に作用するせん断力(せん断応力)とすべり量との積で定義される(摩擦エネルギー=せん断力×すべり量)。そのため、せん断応力及びすべり量を簡単に求めることができれば、摩擦エネルギーを簡単に求めることができる。本実施形態によれば、タイヤ1の接地面10について、指定された所定形状を使ってモデル化された近似モデル30が作成される。近似モデル30における摩擦エネルギーは、せん断応力に関する近似関数とすべり量に関する近似関数とを使って簡単に求めることができる。すなわち、せん断応力に関する近似関数及びすべり量に関する近似関数に対して、タイヤ1の特性に関するパラメータを入力するだけで、平均せん断応力及びすべり量を簡単に求めることができる。その結果、摩擦エネルギーを簡単に求めることができる。
また、本実施形態によれば、パラメータの荷重依存性を考慮し、走行時においてタイヤ1に作用する荷重に基づいて、タイヤ1の特性に関するパラメータを決定することにより、摩耗予測精度が向上する。
また、上述のパラメータを入力して摩擦エネルギーが求められるため、摩耗に対する各パラメータの影響を調査することができる。例えば、摩耗がせん断応力に起因するのか、すべり量に起因するのかを判断することができる。例えば摩耗がせん断応力に起因すると判断された場合、接地面10の形状(接地長、接地幅)を改善したり、接地面10の面積を改善したりする処置を行うことができる。摩耗がすべり量に起因すると判断された場合、平均接地長を改善したり、スティフネス(旋回スティフネス、制駆動スティフネス)を改善したりする処置を行うことができる。
また、本実施形態においては、タイヤ1の接地面10が第1溝21を境界としてセンター領域11とショルダー領域12とに分割され、近似モデル30は、センターモデル領域31とショルダーモデル領域32とに分割される。本実施形態においては、それら複数の領域(センターモデル領域31及びショルダーモデル領域32)ごとに、平均せん断応力、すべり量、及び摩擦エネルギーのそれぞれを簡単に求めることができ、領域ごとの摩耗(摩耗量)を簡単に予測することができる。
また、本実施形態においては、近似モデル30に使われる所定形状は、矩形(矩形領域)である。そのため、近似関数を簡単に得ることができ、演算の負担が低減され、簡単に摩擦エネルギーを求めることができる。
また、本実施形態においては、せん断応力分布の近似関数を1次関数とした。せん断応力分布の近似関数を1次関数とすることで、実用的な予測精度を確保しつつ、より簡単にタイヤ1の摩耗を予測することができる。
なお、本実施形態において、せん断応力分布の近似関数は、1次関数でもよいし、2次関数でもよいし、3次関数でもよいし、4次関数でもよいし、5次関数でもよいし、6次関数でもよい。また、せん断応力分布の近似関数が指数関数を含んでもよい。例えば、すべり域のせん断応力分布を、図6に示したラインL3に相当する1次関数で近似してもよいし、最大摩擦曲線L1に相当する関数で近似してもよい。また、せん断応力分布の近似関数は、1次〜6次関数、及び指数関数に限られず、任意の関数としてよい。以下の実施形態においても同様である。
<第2実施形態>
第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略又は省略する。
図10は、図4に示した接地面10の近似モデル30Bの一例を示す図である。図10に示すように、近似モデル30Bは、センター領域11をモデル化したセンターモデル領域31Bと、ショルダー領域12をモデル化したショルダーモデル領域32Bとを含む。本実施形態において、センターモデル領域31B及びショルダーモデル領域32Bは、複数の領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305を含む。領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305は、Y軸方向に配置される。領域301は、接地面10の領域101をモデル化した領域(接地領域)である。領域302は、接地面10の領域102をモデル化した領域(接地領域)である。領域303は、接地面10の領域103をモデル化した領域(接地領域)である。領域304は、接地面10の領域104をモデル化した領域(接地領域)である。領域305は、接地面10の領域105をモデル化した領域(接地領域)である。領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305のそれぞれは、矩形(所定形状)により規定される。すなわち、本実施形態において、モデル作成部51は、接地面10の領域101を矩形の領域(接地領域)301で近似し、領域102を矩形の領域(接地領域)302で近似し、領域103を矩形の領域(接地領域)303で近似し、領域104を矩形の領域(接地領域)304で近似し、領域105を矩形の領域(接地領域)305で近似する。
本実施形態において、モデル作成部51は、路面に接触しない非接地部である第1溝21を考慮して近似モデル30Bを作成する。モデル作成部51は、第1溝21を領域211で近似する。領域211は、第1溝21をモデル化した領域である。領域211は、路面に接触しない非接地領域である。近似モデル30Bは、第1溝21を領域(非接地領域)211として作成される。近似モデル30Bにおいて、領域211は、非接地領域(非接地部)として扱われる。
領域301と領域302との間、領域302と領域303との間、領域303と領域304との間、及び領域304と領域305との間のそれぞれに、領域211が配置される。すなわち、4つの領域211により、近似モデル30Bは、Y軸方向に関して5つの領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305に分割される。Y軸方向に配置される5つの領域301、領域302、領域303、領域304、領域305のうち、領域301は、最も−Y側に配置され、領域302は、領域301に次いで−Y側に配置され、領域303は、領域302に次いで−Y側に配置され、領域304は、領域303に次いで−Y側に配置され、領域305は、最も+Y側に配置される。センターモデル領域31Bは、領域302、領域303、及び領域304を含む。ショルダーモデル領域32Bは、領域301及び領域305を含む。
領域301の面積(大きさ)は、領域101の面積(大きさ)に対応するように定められる。領域302の面積(大きさ)は、領域102の面積(大きさ)に対応するように定められる。領域303の面積(大きさ)は、領域103の面積(大きさ)に対応するように定められる。領域304の面積(大きさ)は、領域104の面積(大きさ)に対応するように定められる。領域305の面積(大きさ)は、領域105の面積(大きさ)に対応するように定められる。本実施形態においては、領域101の面積及び領域105の面積は、領域102の面積、領域103の面積、及び領域104の面積よりも小さい。領域101の面積と領域105の面積とは、ほぼ等しい。領域102の面積と領域103の面積と領域104の面積とは、ほぼ等しい。領域301の面積及び領域305の面積は、領域302の面積、領域303の面積、及び領域304の面積よりも小さい。領域301の面積と領域305の面積とは、ほぼ等しい。領域302の面積と領域303の面積と領域304の面積とは、ほぼ等しい。
図10に示すように、Y軸方向に関する領域302の寸法、領域303の寸法、及び領域304の寸法は、Wcである。X軸方向に関する領域302の寸法、領域303の寸法、及び領域304の寸法は、Lcである。Y軸方向に関する領域301の寸法、及び領域305の寸法は、Wsである。X軸方向に関する領域301の寸法、及び領域305の寸法は、Lsである。寸法Lc及び寸法Lsは、タイヤ1の接地長(進行方向に関する接地面10の寸法)に相当する。
図10に示す例では、領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305ごとに、平均せん断応力、すべり量、及び摩擦エネルギーのそれぞれが算出される。
図11は、図4に示した接地面10の近似モデル30Cの一例を示す図である。図11に示すように、近似モデル30Cは、センター領域11をモデル化したセンターモデル領域31Cと、ショルダー領域12をモデル化したショルダーモデル領域32Cとを含む。本実施形態において、ショルダーモデル領域32Cは、複数の領域(接地領域)に分割されている。図11に示す例では、センターモデル領域31Cに対して−Y側のショルダーモデル領域32Cは、領域301iと領域301oとに分割されている。センターモデル領域31Cに対して+Y側のショルダーモデル領域32Cは、領域305iと領域305oとに分割されている。Y軸方向(タイヤ1の幅方向)に関して、領域301iは、領域301oよりもタイヤ1の中心側に配置され、領域305iは、領域305oよりもタイヤ1の中心側に配置される。領域301o及び領域305oの接地長(平均接地長)LSoは、領域301i及び領域305iの接地長(平均接地長)LSiよりも短い。領域301oの幅は、領域301iの幅よりも長くてもよいし、短くてもよいし、等しくてもよい。領域305oの幅は、領域305iの幅よりも長くてもよいし、短くてもよいし、等しくてもよい。図11に示す例によれば、ショルダーモデル領域32Cは、接地面10のショルダー領域12の形状により近い。そのため、ショルダー領域12における摩擦エネルギー(摩耗量)をより精確に予測することができる。
図12は、図4に示した接地面10の近似モデル30Dの一例を示す図である。図12に示すように、近似モデル30Dは、1つの矩形(矩形の接地領域)により規定されている。すなわち、近似モデル30Dにおいて、接地面10の領域101、領域102、領域103、領域104、領域105、及び第1溝21の両方が、1つの矩形により規定された接地領域としてモデル化されている。図12に示す例によれば、1つの矩形で接地面10がモデル化されるため、演算の労力がより低減され、タイヤ1の摩耗を簡単に求めることができる。
図13は、図4に示した接地面10の近似モデル30Eの一例を示す図である。図13に示すように、近似モデル30Eは、1つの八角形(八角形の接地領域)により規定されている。すなわち、近似モデル30Eにおいて、接地面10の領域101、領域102、領域103、領域104、領域105、及び第1溝21の両方が、1つの八角形により規定された接地領域としてモデル化されている。図13に示すように、近似モデル30Eに使用される所定形状は、八角形でもよい。近似モデル30Eに使用される所定形状は、接地面10の形状(外形)に合わせて適宜選択可能である。図13に示す例においても、1つの八角形(八角形の接地領域)で接地面10がモデル化されるため、演算の労力がより低減され、タイヤ1の摩耗を簡単に求めることができる。また、八角形の接地領域は、実際の接地面10の外形により近い形状であるため、摩擦エネルギー(摩耗量)をより精確に予測することができる。
図14は、図4に示した接地面10の近似モデル30Fの一例を示す図である。図14に示すように、近似モデル30Fは、センター領域11をモデル化したセンターモデル領域31Fと、ショルダー領域12をモデル化したショルダーモデル領域32Fとを含む。本実施形態において、センターモデル領域31Fは、1つの矩形(矩形の接地領域)により規定される。ショルダーモデル領域32Fのそれぞれは、台形(台形の接地領域)により規定される。ショルダーモデル領域32Fは、センターモデル領域31Fに隣接する辺H1と、タイヤ1の中心に対して辺H1よりも外側に配置される辺H2とを含む。辺H1及び辺H2は、X軸方向に長い。X軸方向に関して、辺H2は辺H1よりも短い。図14に示す例によれば、近似モデル30Fのショルダーモデル領域(台形の接地領域)32Fは、接地面10のショルダー領域12の形状により近いモデルである。そのため、ショルダー領域12における摩擦エネルギー(摩耗量)をより精確に予測することができる。
<第3実施形態>
第3実施形態について説明する。図15は、本実施形態に係る近似モデル30Gの一例を示す図である。近似モデル30Gは、図4に示した接地面10の近似モデルである。本実施形態は、図10などを参照して説明した上述の実施形態の変形例である。
近似モデル30Gにおいては、第2溝22が考慮される。第1溝21と同様、第2溝22は、路面に接触しない非接地部である。上述の各実施形態においては、近似モデル(30など)において、第2溝22は考慮されず、接地領域(接地部)として扱われていた。本実施形態においては、近似モデル30Gにおいて第2溝22が考慮され、第2溝22が路面に接触しない非接地領域(非接地部)として扱われる。すなわち、近似モデル30Gは、第2溝22を非接地領域として作成される。本実施形態においては、近似モデル30Gの作成において、第2溝22に基づいて、近似モデル30Gの接地領域の面積が補正される。
図15において、近似モデル30Gは、センター領域11がモデル化されたセンターモデル領域31Gと、ショルダー領域12がモデル化されたショルダーモデル領域32Gとを含む。センターモデル領域31Gとショルダーモデル領域32Gとは、領域(非接地領域)211を境界として分割される。センターモデル領域31Gは、領域302G、領域303G、及び領域304Gに分割される。領域302Gと領域303Gと領域304Gとは、領域(非接地領域)211を境界として分割される。すなわち、近似モデル30Gにおいては、第1溝21が考慮されており、第1溝21が非接地部として扱われる。
接地面10の領域101、領域102、領域103、領域104、及び領域105のそれぞれは、第2溝(非接地部)22を含む。本実施形態においては、近似モデル30Gにおいて、第2溝22が接地部として扱われずに非接地部として扱われるように、領域301G、領域302G、領域303G、領域304G、及び領域305Gそれぞれの面積が補正される。例えば、近似モデル30Gにおいては、図10を参照して説明した近似モデル30Bの幅Wcよりも小さい幅Wc’に補正される。また、近似モデル30Gにおいては、図10を参照して説明した近似モデル30Bの幅Wsよりも小さい幅Ws’に補正される。なお、図10を参照して説明した近似モデル30Bの幅Ws及び幅Wcの総和は、接地面10全体の幅から第1溝21の幅を除した寸法である。図15に示す領域301G、領域302G、領域303G、領域304G、及び領域305Gの幅の総和は、接地面10全体の幅から第1溝21の幅を減じた寸法よりも小さい。
以上説明したように、本実施形態によれば、第1溝21のみならず、第2溝22も非接地部として扱うことによって、実際の接地面10の面積と、近似モデル30Gにおける接地領域の面積(領域301G、領域302G、領域303G、領域304G、及び領域305Gの面積の総和)とがより一致される。したがって、タイヤ1の摩耗の予測をより精度良く行うことができる。
図16は、図4に示した接地面10の近似モデル30Hの一例を示す図である。図16に示すように、近似モデル30Hは、センター領域11がモデル化されたセンターモデル領域31Hと、ショルダー領域12がモデル化されたショルダーモデル領域32Hとを含む。近似モデル30Hは、第1溝21及び第2溝22のそれぞれを非接地領域として作成される。センターモデル領域31Hとショルダーモデル領域32Hとは、領域(非接地領域)211を境界として分割される。センターモデル領域31Hは、領域302H、領域303H、及び領域304Hに分割される。領域302Hと領域303Hと領域304Hとは、領域(非接地領域)211を境界として分割される。
近似モデル30Hにおいて、第2溝22が接地部として扱われずに非接地部として扱われるように、領域301H、領域302H、領域303H、領域304H、及び領域305Hそれぞれの面積が補正される。図16に示す例においては、領域302H及び領域304Hの接地長L2ndが、図10を参照して説明した近似モデル30Bの接地長Lcよりも短くなるように補正される。なお、領域302H及び領域304Hの幅W2ndは、図10を参照して説明した近似モデル30Bの幅Wcと等しくてもよいし、幅Wcよりも小さくてもよいし、幅Wcよりも大きくてもよい。このように、Y軸方向に関する接地領域の寸法(幅)のみならず、X軸方向に関する接地領域の寸法(接地長)を調整することによって、近似モデル30Hの面積が補正されてもよい。なお、図16に示す例において、領域302H及び領域304Hのみならず、領域301H、領域303H、及び領域305Hの少なくとも一つの接地長が補正されてもよい。もちろん、接地領域の幅及び接地長の両方が補正されることにより、接地領域の面積が補正されてもよい。
<第4実施形態>
第4実施形態について説明する。図17は、本実施形態に係る近似モデル30Iの一例を示す図である。近似モデル30Iは、図4に示した接地面10の近似モデルである。本実施形態は、図10などを参照して説明した上述の実施形態の変形例である。
図17において、近似モデル30Iは、センター領域11がモデル化されたセンターモデル領域31Iと、ショルダー領域12がモデル化されたショルダーモデル領域32Iとを含む。センターモデル領域31Iは、図10を参照して説明した領域302と領域303と領域304とが結合された結合接地領域である。領域302の接地長(Y軸方向に関する寸法)と、領域303の接地長と、領域304の接地長とは等しい。センターモデル領域31Iは、これら接地長が等しい領域302と領域303と領域304とが結合されることによって形成される。センターモデル領域31Iは、矩形により規定された接地領域である。
図10を参照して説明した近似モデル30Bは、それぞれ矩形により規定された5つの領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305を含む。本実施形態に係る近似モデル30Iは、3つの領域32I、領域32I、及び領域31Iを含む。本実施形態においては、3つの領域302と領域303と領域304が結合されたセンターモデル領域31Iと、2つのショルダーモデル領域32Iとのそれぞれに関して、平均せん断応力、すべり量、及び摩擦エネルギーが求められる。接地長が等しい領域302と領域303と領域304とが結合されることによって、等価な摩擦エネルギーをより簡単に求めることができる。
図18は、本実施形態に係る近似モデル30Jの一例を示す図である。図18に示す近似モデル30Jは、図17に示した近似モデル30Iの変形例である。図18において、近似モデル30Jは、センターモデル領域31Jとショルダーモデル領域32Jとを含む。センターモデル領域31Jは、接地長が等しい領域302と領域303と領域304とが結合されることによって形成される結合接地領域である。センターモデル領域31Jは、矩形により規定された接地領域である。
図18に示す例において、ショルダーモデル領域32Jは、接地長が等しい領域301と領域305とが結合されることによって形成される結合接地領域である。ショルダーモデル領域32Jは、矩形により規定された接地領域である。本実施形態に係る近似モデル30Jは、矩形により規定された2つの領域(センターモデル領域31J及びショルダーモデル領域32J)を含む。本実施形態においては、3つの領域(領域302、領域303、及び領域304)が結合されたセンターモデル領域31Jと、2つの領域(領域301及び領域305)が結合されたショルダーモデル領域32Jのそれぞれに関して、平均せん断応力、すべり量、及び摩擦エネルギーが求められる。図18に示す例においても、等価な摩擦エネルギーを簡単に求めることができる。
<第5実施形態>
第5実施形態について説明する。図19は、本実施形態に係るタイヤ1Kの接地面10Kの一例を示す図である。図19に示す例において、接地面10Kは、センター領域11Kとショルダー領域12Kとを含む。第1溝21は2つ(2本)設けられる。センター領域11Kとショルダー領域12Kとは、第1溝21を境界として分割される。センター領域11K及びショルダー領域12Kのそれぞれに第2溝22が設けられる。
図20は、図19に示した接地面10Kの近似モデル30Kの一例を示す図である。図20に示すように、接地面10Kの近似モデル30Kが、六角形により規定される接地領域を含んでもよい。本実施形態において、近似モデル30Kは、1つの六角形により規定される。このように、近似モデル30Kに使用される所定形状は、接地面10Kの形状(外形)に合わせて適宜選択可能である。図20に示す例においても、六角形により規定される1つの接地領域で接地面10Kがモデル化されるため、演算の労力が低減され、タイヤ1Kの摩耗を簡単に求めることができる。
図21は、図19に示した接地面10Kの近似モデル30Lの一例を示す図である。図21に示すように、接地面10Kの近似モデル30Lが、それぞれが矩形で規定される複数の接地領域を含んでもよい。近似モデル30Lは、センター領域11Kがモデル化されたセンターモデル領域31Lと、ショルダー領域12Kがモデル化されたショルダーモデル領域32Lとを含む。近似モデル30Lにおいて、第1溝21は路面と接触しない非接地部として扱われる。近似モデル30Lは、第1溝21を非接地領域として作成される。センターモデル領域31Lとショルダーモデル領域32Lとは、領域(非接地領域)211を境界として分割される。センターモデル領域31Lは、それぞれが矩形により規定された3つの領域302L、領域303L、及び領域304Lを含む。図21に示すように、接地面10Kについて、それぞれが矩形により規定された5つの領域301L、領域302L、領域303L、領域304L、及び領域305Lで近似モデル30Lを作成することもできる。
図22は、本実施形態に係るタイヤ1Mの接地面10Mの一例を示す図である。図22に示す例において、接地面10Mは、センター領域11Mとショルダー領域12Mとを含む。第1溝21は6つ(6本)設けられる。センター領域11Mとショルダー領域12Mとは、第1溝21を境界として分割される。センター領域11M及びショルダー領域12Mのそれぞれに第2溝22が設けられる。
図23は、図22に示した接地面10Mの近似モデル30Mの一例を示す図である。図23に示すように、接地面10Mの近似モデル30Mの外形が、曲線を含んでもよい。図23に示す例において、近似モデル30Mは、楕円の一部を直線で切り取った形状である。本実施形態において、近似モデル30Mは、1つの所定形状により規定された接地領域である。このように、近似モデル30Mに使用される所定形状は、接地面10Mの形状(外形)に合わせて適宜選択可能である。図23に示す例においても、所定形状により規定された1つの接地領域で接地面10Mがモデル化されるため、演算の労力が低減され、タイヤ1Mの摩耗を簡単に求めることができる。
図24は、図22に示した接地面10Mの近似モデル30Nの一例を示す図である。図24に示すように、接地面10Mの近似モデル30Nが、矩形により規定される複数の接地領域を含んでもよい。近似モデル30Nは、センター領域31Nがモデル化されたセンターモデル領域31Nと、ショルダー領域12Mがモデル化されたショルダーモデル領域32Nとを含む。近似モデル30Nにおいて、6本の第1溝21のうち、センター領域11Mとショルダー領域32Nとを隔てる2本の第1溝21が、路面と接触しない非接地部として扱われる。センター領域11Mに設けられる2本の第1溝21は、路面と接触する接地部として扱われる。ショルダー領域12Mに設けられる第1溝21も、路面と接触する接地部として扱われる。本実施形態においては、センターモデル領域11Mとショルダーモデル領域32Nとが、領域211を境界として分割される。センターモデル領域31Nは、矩形により規定された1つの接地領域で形成される。2つのショルダーモデル領域32Nはそれぞれ、矩形により規定された2つの接地領域を含む。センターモデル領域31Nに対して−Y側のショルダーモデル領域32Nは、面積(大きさ)が異なる領域301iと領域301oとを含む。センターモデル領域31Nに対して+Y側のショルダーモデル領域32Nは、面積(大きさ)が異なる領域305iと領域305oとを含む。図24に示す例のように、接地面10Mについて、矩形で規定された複数の接地領域で近似モデル30Nを作成することもできる。
なお、上述の各実施形態において、接地面10の近似モデル30を所定形状により規定される複数の接地領域で作成する場合、第1溝21(領域211)を境界として分割することとした。複数の接地領域は、第1溝21(領域211)によって隔てられてもよいし、隔てられなくてもよい。例えば、接地面10の領域101を所定形状により規定された1つの領域で近似してもよいし、複数の領域を使って近似モデルを作成してもよい。
<第6実施形態>
第6実施形態について説明する。図25は、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態においては、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、駆動時においてタイヤ1に作用する平均荷重、制動時においてタイヤ1に作用する平均荷重、右旋回時においてタイヤ1に作用する平均荷重、及び左旋回時においてタイヤ1に作用する平均荷重が求められる。
また、本実施形態においては、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、駆動時に関する重み係数、制動時に関する重み係数、右旋回時に関する重み係数、及び左旋回時に関する重み係数が設定される。
また、上述の実施形態に従って求められる駆動時の摩擦エネルギー、制動時の摩擦エネルギー、右旋回時の摩擦エネルギー、及び左旋回時の摩擦エネルギーのそれぞれが、設定された重み係数で補正される。
重み係数で補正することは、駆動時の摩擦エネルギーに重み係数を乗じること、制動時の摩擦エネルギーに重み係数を乗じること、右旋回時の摩擦エネルギーに重み係数を乗じること、及び左旋回時の摩擦エネルギーに重み係数を乗じることを含む。
また、本実施形態においては、重み係数で補正された駆動時の摩擦エネルギーと、重み係数で補正された制動時の摩擦エネルギーと、重み係数で補正された右旋回時の摩擦エネルギーと、重み係数で補正された左旋回時の摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)が求められ、その平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される。
本実施形態においては、例えば、駆動時の摩擦エネルギーEd、制動時の摩擦エネルギーEb、右旋回時の摩擦エネルギーEcr、及び左旋回時の摩擦エネルギーEclが順次求められる。まず、処理装置50は、駆動時の摩擦エネルギーEdを求める。上述の実施形態に従って、接地面10の近似モデル30が作成された後(ステップSB1)、パラメータの関数が設定される(ステップSB2)。
本実施形態においては、タイヤ1に作用させる平均荷重が設定される(ステップSB3)。設定される平均荷重は、駆動時においてタイヤ1に作用する平均荷重である。駆動時においてタイヤ1に作用する平均荷重が想定され、その想定された平均荷重が設定される。その設定された平均荷重が、上述の実施形態に従って、(1)式に示したような関数に入力され、パラメータが決定される(ステップSB4)。
その後、上述の実施形態に従って、駆動時におけるすべり域のせん断応力分布に関する近似関数が設定され(ステップSB5)、駆動時におけるすべり域のすべり量に関する近似関数が設定される(ステップSB6)。
本実施形態において、駆動時の摩擦エネルギーEdについての重み係数Cdが設定される(ステップSB7)。
処理装置50は、上述の実施形態に従って、すべり域の平均せん断応力を算出し(ステップSB8)、すべり域のすべり量を算出し(ステップSB9)、それら平均せん断応力とすべり量とに基づいて、駆動時の摩擦エネルギーEdを求める(ステップSB10)。そして、摩擦エネルギーEdと重み係数Cdとの積である補正摩擦エネルギー(CdEd)が求められる(ステップSB11)。
近似モデル30が複数の接地領域(例えば、領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305など)を含む場合、その全部の接地領域についての摩擦エネルギーEdが算出されるまで、上述の処理が繰り返される(ステップSB12)。
近似モデル30についての駆動時の補正摩擦エネルギーCdEdが求められた後、制動時の補正摩擦エネルギーCbEbが求められる。制動時の補正摩擦エネルギーCbEbを求める手順において、制動時の摩擦エネルギーEbについての重み係数Cbが設定される(ステップSB4)。処理装置50は、駆動時の補正摩擦エネルギーCdEdを求めた手順と同様の手順(ステップSB1〜ステップSB12)で、近似モデル30についての制動時の補正摩擦エネルギーCbEbを求める。
近似モデル30についての制動時の補正摩擦エネルギーCbEbが求められた後、右旋回時の補正摩擦エネルギーCcrEcrが求められる。右旋回時の補正摩擦エネルギーCcrEcrを求める手順において、右旋回時の摩擦エネルギーEcrについての重み係数Ccrが設定される(ステップSB4)。処理装置50は、駆動時の補正摩擦エネルギーCdEd及び制動時の補正摩擦エネルギーCbEbを求めた手順と同様の手順(ステップSB1〜ステップSB12)で、近似モデル30についての右旋回時の補正摩擦エネルギーCcrEcrを求める。
近似モデル30についての右旋回時の補正摩擦エネルギーCcrEcrが求められた後、左旋回時の補正摩擦エネルギーCclEclが求められる。左旋回時の補正摩擦エネルギーCclEclを求める手順において、左旋回時の摩擦エネルギーEclについての重み係数Cclが設定される(ステップSB4)。処理装置50は、駆動時の補正摩擦エネルギーCdEd、制動時の補正摩擦エネルギーCbEb、及び右旋回時の補正摩擦エネルギーCcrEcrを求めた手順と同様の手順(ステップSB1〜ステップSB12)で、近似モデル30についての左旋回時の補正摩擦エネルギーCclEclを求める。
全ての走行条件における補正摩擦エネルギー(駆動時の補正摩擦エネルギーCdEd、制動時の補正摩擦エネルギーCbEb、右旋回時の補正摩擦エネルギーCcrEcr、及び左旋回時の補正摩擦エネルギーCclEcl)の算出が終了した後(ステップSB13)、平均摩擦エネルギーEaが算出される(ステップSB14)。
処理装置50は、重み係数Cdで補正された駆動時の補正摩擦エネルギーCdEdと、重み係数Cbで補正された制動時の補正摩擦エネルギーCbEbと、重み係数Ccrで補正された右旋回時の補正摩擦エネルギーCcrEcrと、重み係数Cclで補正された左旋回時の補正摩擦エネルギーCclEclとの平均値(平均摩擦エネルギー)を求める。すなわち、解析部52は、(15)式に示す演算を行う。
本実施形態においては、平均摩擦エネルギーEaに基づいて、タイヤ1の摩耗の予測が行われる(ステップSB15)。
以上説明したように、本実施形態によれば、それぞれの走行条件(駆動、制動、右旋回、及び左旋回)に関して重み係数を設定することにより、走行条件の影響を考慮した精度良いタイヤ1の摩耗予測が可能である。
すなわち、タイヤ1に作用する荷重は、駆動時と制動時とで異なるとともに、右旋回時と左旋回時とでも異なる。そこで、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時それぞれについて荷重を考慮して摩擦エネルギーを求め、設定した重み係数にて補正摩擦エネルギーを求めることで、精度良い予測を簡便に行うことが可能になる。
なお、重み係数は、車両のトーインと駆動力配分、制動力配分、及び旋回と駆動と制動とに伴うタイヤ1に対する荷重の変化を考慮して設定されてもよい。
なお、タイヤ1の自由転動時の摩擦エネルギーEfを求めるとともに、重み係数Cfを設定し、重み係数Cdで補正された駆動時の摩擦エネルギーCdEdと、重み係数Cbで補正された制動時の摩擦エネルギーCbEbと、重み係数Ccrで補正された右旋回時の摩擦エネルギーCcrEcrと、重み係数Cclで補正された左旋回時の摩擦エネルギーCclEclと、重み係数Cfで補正された自由転動時の摩擦エネルギーCfEfとの平均値(平均摩擦エネルギー)を求め、その平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗を予測してもよい。すなわち、解析部52は、(16)式に示す演算を行ってもよい。
なお、自由転動時の摩擦エネルギーEfは、例えば実験(予備実験)により事前に求められてもよいし、シミュレーションにより事前に求められてもよい。実験(予備実験)は、実際のタイヤを転動させ、所定の計測装置によりその実際のタイヤを計測することを含む。シミュレーションは、所定の転動条件(走行条件)に基づいて、上述のパラメータを予測することを含む。なお、上述のパラメータが、データベースに格納されている複数のデータ(評価対象のタイヤ1に類似したタイヤに関するデータなど)を統計演算し、その統計により予測されたデータであってもよい。
<第7実施形態>
第7実施形態について説明する。図26は、タイヤ1に作用する横力と荷重との関係を示す図である。図27は、タイヤ1に作用する前後力と荷重との関係を示す図である。図26及び図27に示すように、タイヤ1に作用する荷重は、タイヤ1に作用する横力及び前後力の関数として表すことができる。
図28は、旋回時においてタイヤ1に作用する横力と、その横力が作用する頻度との関係の一例を示す。図29は、制駆動時においてタイヤ1に作用する前後力と、その前後力が作用する頻度との関係の一例を示す。図28において、横軸は横力、縦軸は頻度である。図29において、横軸は前後力、縦軸は頻度である。
以下の説明においては、横力とその横力が作用する頻度との関係を適宜、横力頻度分布(又は横力頻度)、と称し、前後力とその前後力が作用する頻度との関係を適宜、前後力頻度分布(又は前後力頻度)、と称する。図28に示すように、一般に、旋回時においてタイヤ1に作用する横力は、−0.5kN以上+0.5kN以下の範囲内である可能性が高い。図29に示すように、一般に、制駆動時においてタイヤ1に作用する前後力は、−0.5kN以上+0.5kN以下の範囲内である可能性が高い。なお、図28及び図29に示す横力頻度分布及び前後力頻度分布は一例である。横力頻度分布及び前後力頻度分布は、タイヤ1(車両)の走行条件によって変化する。
図30は、横力と摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図31は、前後力と摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図30及び図31に示すように、摩擦エネルギーは、横力の関数として表すことができ、前後力の関数として表すことができる。図30に示すグラフにおいて、横軸は横力、縦軸は摩擦エネルギーである。図31に示すグラフにおいて、横軸は前後力、縦軸は摩擦エネルギーである。
図30及び図31に示すように、横力及び前後力が大きくなると、摩擦エネルギーも大きくなり、横力及び前後力が小さくなると、摩擦エネルギーも小さくなる。
本実施形態においては、駆動、制動、及び旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する前後力とその前後力が作用する頻度との関係を示す前後力頻度分布を求める手順と、駆動、制動、及び旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する横力とその横力が作用する頻度との関係を示す横力頻度分布を求める手順と、タイヤ1に作用する前後力と荷重との関係を対応付ける手順と、タイヤ1に作用する横力と荷重との関係を対応付ける手順と、その荷重に基づいてパラメータを決定して摩擦エネルギーを求める手順と、駆動時における前後力及び横力と、駆動時における摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順と、制動時における前後力及び横力と、摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、制動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順と、旋回時における前後力及び横力と、摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順と、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと制動時の頻度平均摩擦エネルギーと旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)を求める手順と、求めた平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗を予測する手順と、が実行される。
本実施形態においては、値が異なる複数の前後力及び横力のそれぞれに関して、摩擦エネルギーと頻度との積が求められる。図32は、図28に示した横力の頻度と、図30に示した摩擦エネルギーとの積を示す。図33は、図29に示した前後力の頻度と、図31に示した摩擦エネルギーとの積を示す。図32において、横軸は横力、縦軸は摩擦エネルギーと頻度との積である。図33において、横軸は前後力、縦軸は摩擦エネルギーと頻度との積である。
本実施形態においては、図32及び図33に示した横力及び前後力と摩擦エネルギーと頻度との積算値から頻度平均摩擦エネルギーが求められ、その頻度平均摩擦エネルギーに基づいてタイヤ1の摩耗が予測される。頻度平均摩擦エネルギーとは、値が異なるn数の横力(又は前後力)のそれぞれに関して摩擦エネルギーと頻度との積を求めた場合、それらn数の摩擦エネルギーと頻度との積の総和(積算値)を、nで除した(割った)値をいう。
本実施形態においては、例えば、駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが順次求められる。それら駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと制動時の頻度平均摩擦エネルギーと旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)が求められ、その平均摩擦エネルギーに基づいてタイヤ1の摩耗が予測される。
図34は、本実施形態に係る摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。まず、処理装置50は、駆動時の摩擦エネルギーを求める。上述の実施形態に従って、接地面10の近似モデル30が作成された後(ステップSC1)、パラメータの関数の設定が行われる(ステップSC2)。
次に、図28及び図29を参照して説明したような、横力頻度分布及び前後力頻度分布が設定される(ステップSC3)。次に、横力と荷重との関係、及び前後力と荷重との関係が対応付けられる(ステップSC4)。本実施形態においては、横力頻度分布に基づいて、その頻度に応じた横力に対応する荷重が設定されるとともに、前後力頻度分布に基づいて、その頻度に応じた前後力に対応する荷重が設定される。
次に、上述の実施形態に従って、ステップSC4で設定された荷重に基づいて、パラメータが決定され(ステップSC5)、駆動時のすべり域のせん断応力分布に関する近似関数が設定され(ステップSC6)、駆動時のすべり域のすべり量に関する近似関数が設定される(ステップSC7)。
処理装置50は、上述の実施形態に従って、すべり域の平均せん断応力を算出し(ステップSC8)、すべり域のすべり量を算出し(ステップSC9)、それら平均せん断応力とすべり量とに基づいて、駆動時の摩擦エネルギーを求める(ステップSC10)。近似モデル30が複数の接地領域(例えば、領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305など)を含む場合、その全部の接地領域についての摩擦エネルギーが算出されるまで、上述の処理が繰り返される(ステップSC11)。
近似モデル30についての駆動時の摩擦エネルギーが求められた後、制動時の摩擦エネルギーが求められる。処理装置50は、駆動時の摩擦エネルギーを求めた手順と同様の手順(ステップSC1〜ステップSC11)で、近似モデル30についての制動時の摩擦エネルギーを求める。制動時の摩擦エネルギーを求める手順において、制動時の摩擦エネルギーについての前後力頻度分布が設定される(ステップSC3)。
近似モデル30についての制動時の摩擦エネルギーが求められた後、旋回時の摩擦エネルギーが求められる。処理装置50は、駆動時の摩擦エネルギー及び制動時の摩擦エネルギーを求めた手順と同様の手順(ステップSC1〜ステップSC11)で、近似モデル30についての旋回時の摩擦エネルギーを求める。旋回時の摩擦エネルギーを求める手順において、旋回時の摩擦エネルギーについての横力頻度分布が設定される(ステップSC3)。
全ての走行条件の摩擦エネルギー(駆動時の摩擦エネルギー、制動時の摩擦エネルギー、及び旋回時の摩擦エネルギー)の算出が終了した後(ステップSC12)、横力と摩擦エネルギーとの関係を示す摩擦エネルギー関数の設定、及び前後力と摩擦エネルギーとの関係を示す摩擦エネルギー関数の設定が行われる(ステップSC13)。
まず、処理装置50は、駆動時の摩擦エネルギーを前後力の関数として設定する。すなわち、駆動時の摩擦エネルギーに関して、図31を参照して説明したような、前後力と駆動時の摩擦エネルギーとの関係が設定される。換言すれば、駆動時におけるタイヤ1に作用する前後力と摩擦エネルギーとの関係を示す第1の摩擦エネルギー関数が設定される。
次に、値が異なる複数の前後力(前後力レベル)のそれぞれに関して、駆動時の摩擦エネルギーと前後力の頻度との積が求められる。すなわち、図33を参照して説明したような、値が異なる複数の前後力(前後力レベル)のそれぞれに対応した、摩擦エネルギーと頻度との積が求められる。処理装置50は、駆動時における前後力と、摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める(ステップSC14)。値が異なるn数の駆動時における前後力のそれぞれに関して摩擦エネルギーと頻度との積を求めた場合、それらn数の摩擦エネルギーと頻度との積の総和(積算値)がnで除される(割られる)ことにより、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。
駆動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められた後、制動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。処理装置50は、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーを求めた手順と同様の手順(ステップSC13、ステップSC14)で、制動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める。制動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順において、制動時におけるタイヤ1の加速度と摩擦エネルギーとの関係を示す第2の摩擦エネルギー関数が設定される。また、制動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順において、制動時の摩擦エネルギーと加速度の頻度との積が求められる。
制動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められた後、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。処理装置50は、駆動時の頻度平均摩擦エネルギー及び制動時の頻度平均摩擦エネルギーを求めた手順と同様の手順(ステップSC13、ステップSC14)で、旋回時の横力の頻度平均摩擦エネルギーを求める。旋回時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順において、旋回時におけるタイヤ1の加速度と摩擦エネルギーとの関係を示す第3の摩擦エネルギー関数が設定される。また、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順において、旋回時の摩擦エネルギーと横力の頻度との積が求められる。
全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギー(駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギー)の算出が終了した後(ステップSC15)、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと、制動時の頻度平均摩擦エネルギーと、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)が求められる(ステップSC16)。その平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される(ステップSC17)。
以上説明したように、本実施形態によれば、走行時の横力頻度分布及び前後力頻度分布を考慮することで、タイヤ1の摩耗予測の精度をより向上することができる。
なお、摩擦エネルギーの横力及び前後力についての関数(摩擦エネルギー関数)は、車両のトーインと駆動力配分、制動力配分、及び旋回と駆動と制動とに伴うタイヤ1に対する荷重の変化を考慮して補正された、補正摩擦エネルギー関数としてもよい。
<第8実施形態>
第8実施形態について説明する。タイヤ1が装着される車両の走行状態を表す指標として、制駆動加速度(前後加速度)及び旋回加速度(横加速度)がある。本実施形態においては、制駆動及び旋回の加速度頻度分布に、横力、前後力、及び荷重を対応付けて、対応付けた荷重からパラメータを決定する。
図35は、車両に作用する旋回加速度(横加速度)と横力との関係を示す図である。図36は、車両に作用する制駆動加速度(前後加速度)と前後力との関係を示す図である。図35及び図36に示すように、タイヤ1に作用する横力及び前後力は、車両に作用する旋回加速度及び制駆動加速度の関数として表すことができる。
図37は、タイヤ1に作用する荷重と車両に作用する旋回加速度(横加速度)との関係を示す図である。図38は、タイヤ1に作用する荷重と車両に作用する制駆動加速度(前後加速度)との関係を示す図である。図37及び図38に示すように、タイヤ1に作用する荷重は、車両に作用する旋回加速度及び制駆動加速度の関数として表すことができる。
図39は、旋回時における車両の旋回加速度(横加速度)と、その旋回加速度で加速される頻度との関係の一例を示す。図40は、制駆動時における車両の制駆動加速度(前後加速度)と、その制駆動加速度で加速される頻度との関係の一例を示す。図39において、横軸は旋回加速度、縦軸は頻度である。図40において、横軸は制駆動加速度、縦軸は頻度である。
以下の説明においては、旋回加速度とその旋回加速度で加速される頻度との関係を適宜、旋回加速度頻度分布(又は旋回加速度頻度)、と称し、制駆動加速度とその制駆動加速度で加速される頻度との関係を適宜、制駆動加速度頻度分布(又は制駆動加速度頻度)、と称する。また、旋回加速度頻度分布及び制駆動加速度頻度分布を合わせて適宜、加速度頻度分布(又は加速度頻度)、と称する。
図39に示すように、一般に、旋回時における車両の旋回加速度は、−0.1G以上+0.1G以下の範囲内である可能性が高い。図40に示すように、一般に、制駆動時における車両の制駆動加速度は、−0.1G以上+0.1G以下の範囲内である可能性が高い。なお、図39及び図40に示す旋回加速度頻度分布及び制駆動加速度頻度分布は一例である。加速度頻度分布(旋回加速度頻度分布及び制駆動加速度頻度分布)は、タイヤ1(車両)の走行条件によって変化する。
図41は、旋回加速度と摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図42は、制駆動加速度と摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図41及び図42に示すように、摩擦エネルギーは、旋回加速度の関数として表すことができ、制駆動加速度の関数として表すことができる。図41に示すグラフにおいて、横軸は旋回加速度、縦軸は摩擦エネルギーである。図42に示すグラフにおいて、横軸は制駆動加速度、縦軸は摩擦エネルギーである。
図41及び図42に示すように、旋回加速度及び制駆動加速度が大きくなると、摩擦エネルギーも大きくなり、旋回加速度及び制駆動加速度が小さくなると、摩擦エネルギーも小さくなる。
本実施形態においては、タイヤ1が装着される車両の走行条件に基づいて、車両に作用する制駆動加速度(前後加速度)とその制駆動加速度で加速する頻度との関係を示す制駆動加速度頻度分布を求める手順と、タイヤ1が装着される車両の走行条件に基づいて、車両に作用する旋回加速度(横加速度)とその旋回加速度で加速する頻度との関係を示す旋回加速度頻度分布を求める手順と、車両に作用する制駆動加速度及び旋回加速度と、タイヤ1に作用する前後力、横力、及び荷重との関係を対応付ける手順と、その荷重に基づいてパラメータを決定して摩擦エネルギーを求める手順と、駆動時における駆動加速度(前加速度)と、駆動時における摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順と、制動時における制動加速度(後加速度)と、制動時における摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、制動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順と、旋回時における旋回加速度(横加速度)と、旋回時における摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順と、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと制動時の頻度平均摩擦エネルギーと旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)を求める手順と、求めた平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗を予測する手順と、が実行される。
本実施形態においては、値が異なる複数の制駆動加速度及び旋回加速度のそれぞれに関して、摩擦エネルギーと頻度との積が求められる。図43は、図39に示した旋回加速度の頻度と、図41に示した摩擦エネルギーとの積を示す。図44は、図40に示した制駆動加速度の頻度と、図42に示した摩擦エネルギーとの積を示す。図43において、横軸は旋回加速度、縦軸は摩擦エネルギーと頻度との積である。図44において、横軸は制駆動加速度、縦軸は摩擦エネルギーと頻度との積である。
本実施形態においては、図43及び図44に示した旋回加速度及び制駆動加速度と摩擦エネルギーと頻度との積算値から頻度平均摩擦エネルギーが求められ、その頻度平均摩擦エネルギーに基づいてタイヤ1の摩耗が予測される。頻度平均摩擦エネルギーとは、値が異なるn数の旋回加速度(又は制駆動加速度)のそれぞれに関して摩擦エネルギーと頻度との積を求めた場合、それらn数の摩擦エネルギーと頻度との積の総和(積算値)を、nで除した(割った)値をいう。
本実施形態においては、例えば、駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが順次求められる。それら駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと制動時の頻度平均摩擦エネルギーと旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)が求められ、その平均摩擦エネルギーに基づいてタイヤ1の摩耗が予測される。
図45は、本実施形態に係る摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。まず、処理装置50は、駆動時の摩擦エネルギーを求める。上述の実施形態に従って、接地面10の近似モデル30が作成された後(ステップSD1)、パラメータの関数の設定が行われる(ステップSD2)。
次に、図39及び図40を参照して説明したような、旋回加速度頻度分布及び制駆動加速度頻度分布が設定される(ステップSD3)。次に、旋回加速度と、タイヤ1に作用する横力、及び荷重との関係が対応付けられるとともに、制駆動加速度と、タイヤ1に作用する前後力、及び荷重との関係が対応付けられる(ステップSD4)。本実施形態においては、旋回加速度頻度分布に基づいて、その頻度に応じた旋回加速度に対応する荷重が設定されるとともに、制駆動加速度頻度分布に基づいて、その頻度に応じた制駆動加速度に対応する荷重が設定される。
次に、上述の実施形態に従って、ステップSD4で設定された荷重に基づいて、パラメータが決定され(ステップSD5)、駆動時のすべり域のせん断応力分布に関する近似関数が設定され(ステップSD6)、駆動時のすべり域のすべり量に関する近似関数が設定される(ステップSD7)。
処理装置50は、上述の実施形態に従って、すべり域の平均せん断応力を算出し(ステップSD8)、すべり域のすべり量を算出し(ステップSD9)、それら平均せん断応力とすべり量とに基づいて、駆動時の摩擦エネルギーを求める(ステップSD10)。近似モデル30が複数の接地領域(例えば、領域301、領域302、領域303、領域304、及び領域305など)を含む場合、その全部の接地領域についての摩擦エネルギーが算出されるまで、上述の処理が繰り返される(ステップSD11)。
近似モデル30についての駆動時の摩擦エネルギーが求められた後、制動時の摩擦エネルギーが求められる。処理装置50は、駆動時の摩擦エネルギーを求めた手順と同様の手順(ステップSD1〜ステップSD11)で、近似モデル30についての制動時の摩擦エネルギーを求める。制動時の摩擦エネルギーを求める手順において、制動時の摩擦エネルギーについての旋回加速度頻度分布及び制駆動加速度頻度分布が設定される(ステップSD3)。
近似モデル30についての制動時の摩擦エネルギーが求められた後、旋回時の摩擦エネルギーが求められる。処理装置50は、駆動時の摩擦エネルギー及び制動時の摩擦エネルギーを求めた手順と同様の手順(ステップSD1〜ステップSD11)で、近似モデル30についての旋回時の摩擦エネルギーを求める。旋回時の摩擦エネルギーを求める手順において、旋回時の摩擦エネルギーについての旋回加速度頻度分布が設定される(ステップSD3)。
全ての走行条件の摩擦エネルギー(駆動時の摩擦エネルギー、制動時の摩擦エネルギー、及び旋回時の摩擦エネルギー)の算出が終了した後(ステップSD12)、旋回加速度と摩擦エネルギーとの関係を示す摩擦エネルギー関数の設定、及び制駆動加速度と摩擦エネルギーとの関係を示す摩擦エネルギー関数の設定が行われる(ステップSD13)。
まず、処理装置50は、駆動時の摩擦エネルギーを加速度の関数として設定する。すなわち、駆動時の摩擦エネルギーに関して、図42を参照して説明したような、加速度(制駆動加速度)と駆動時の摩擦エネルギーとの関係が設定される。換言すれば、駆動時における車両の加速度と摩擦エネルギーとの関係を示す第1の摩擦エネルギー関数が設定される。
次に、値が異なる複数の加速度(加速度レベル)のそれぞれに関して、駆動時の摩擦エネルギーと加速度の頻度との積が求められる。すなわち、図44を参照して説明したような、値が異なる複数の加速度(加速度レベル)のそれぞれに対応した、摩擦エネルギーと頻度との積が求められる。処理装置50は、駆動時における加速度と、摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める(ステップSD14)。値が異なるn数の駆動時における加速度のそれぞれに関して摩擦エネルギーと頻度との積を求めた場合、それらn数の摩擦エネルギーと頻度との積の総和(積算値)がnで除される(割られる)ことにより、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。
駆動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められた後、制動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。処理装置50は、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーを求めた手順と同様の手順(ステップSD13、ステップSD14)で、制動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める。制動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順において、制動時における車両の加速度と摩擦エネルギーとの関係を示す第2の摩擦エネルギー関数が設定される。また、制動時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順において、制動時の摩擦エネルギーと加速度の頻度との積が求められる。
制動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められた後、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。処理装置50は、駆動時の頻度平均摩擦エネルギー及び制動時の頻度平均摩擦エネルギーを求めた手順と同様の手順(ステップSD13、ステップSD14)で、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーを求める。旋回時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順において、旋回時における車両の加速度と摩擦エネルギーとの関係を示す第3の摩擦エネルギー関数が設定される。また、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーを求める手順において、旋回時の摩擦エネルギーと加速度の頻度との積が求められる。
全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギー(駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギー)の算出が終了した後(ステップSD15)、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと、制動時の頻度平均摩擦エネルギーと、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)が求められる(ステップSD16)。その平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される(ステップSD17)。
以上説明したように、本実施形態によれば、走行時の制駆動加速度頻度分布及び旋回加速度頻度分布を考慮することで、タイヤ1の摩耗予測の精度をより向上することができる。
なお、摩擦エネルギーの横力及び前後力についての関数(摩擦エネルギー関数)は、車両のトーインと駆動力配分、制動力配分、及び旋回と駆動と制動とに伴うタイヤに対する荷重の変化を考慮して補正された、補正摩擦エネルギー関数としてもよい。
<第9実施形態>
第9実施形態について説明する。本実施形態においては、タイヤ1の半径(動的負荷半径)と、トレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量と、求めた摩擦エネルギーとに基づいて、単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量を求める手順と、求めたトレッドゴム6の摩耗量に基づいて、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗を予測する手順と、が実行される。タイヤ1の半径は、タイヤ1が1回転した際に転動した距離を2πで除した転がり半径である。
図46は、半径が大きいタイヤ1Pと半径が小さいタイヤ1Qとが転動している状態を示す模式図である。タイヤ1(トレッドゴム6)は、路面と接触することによって摩耗する。タイヤ1Pとタイヤ1Qとが等しい距離を走行する場合、半径が小さいタイヤ1Qは、半径が大きいタイヤ1Pよりも、より多く転がり、路面と接触する機会が多い。そのため、半径が大きいタイヤ1Pよりも、半径が小さいタイヤ1Qのほうが摩耗しやすい。そこで、タイヤの半径と、トレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量と、求めた摩擦エネルギーとに基づいて、単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量を求めることができる。トレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量は、トレッドゴム6の材料特性(耐摩耗物性)に依存する。求めた単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量に基づいて、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗が予測される。
本実施形態によれば、トレッドゴム6の耐摩耗物性に加えて、タイヤ1の半径(動的負荷半径)の影響を考慮することで、単位走行距離当たりのタイヤ1の回転数の違いを考慮して、タイヤ1の摩耗をより精度良く予測することができる。
なお、上述の各実施形態において、単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量と有効溝深さとに基づいて、タイヤ1の摩耗寿命を予測してもよい。
<第10実施形態>
第10実施形態について説明する。上述の実施形態において、タイヤ1が装着される車両の右輪及び左輪のそれぞれについてタイヤ1の摩耗を予測する手順と、右輪のタイヤ1の摩耗と左輪のタイヤ1の摩耗との平均摩耗を予測する手順と、を含むようにしてもよい。
本実施形態によれば、走行条件による右輪と左輪の違いと、路面のカントや車両のアライメントによる右輪と左輪の違いに加えて、これらの違いによる右輪と左輪の荷重の違いを考慮し、平均することで、右輪と左輪の違いを考慮した平均的なタイヤの摩耗予測が可能になる。
<第11実施形態>
第11実施形態について説明する。上述の各実施形態において、タイヤ1が装着される車両の前輪及び後輪のそれぞれについてタイヤ1の摩耗を予測する手順と、前輪のタイヤ1の摩耗と後輪のタイヤ1の摩耗との平均摩耗、及び前輪のタイヤ1の摩耗と後輪のタイヤ1の摩耗との摩耗比の一方又は両方を予測する手順と、を含むようにしてもよい。
本実施形態によれば、車両や走行条件による前輪と後輪の違いと、これらの違いによる前輪と後輪の荷重の違いを考慮することにより、ローテーション時のタイヤ摩耗、及び前輪と後輪の摩耗比を精度良く予測することができる。
なお、上述の各実施形態において、タイヤの摩耗予測は、コンピュータが行うこととした。本実施形態に係るタイヤの摩耗予測方法の全部がコンピュータによって行われてもよいし、一部がコンピュータによって行われ、一部が手動で行われてもよいし、全部が手動によって行われてもよい。
<実施例>
次に、本発明に係る実施例について説明する。本発明者は、実際のタイヤについて走行試験を行うとともに、上述の実施形態に従ってタイヤの摩耗予測を行い、実際のタイヤの摩耗状態と摩耗予測とを比較した。
走行試験は、3台の試験車両にそれぞれ3種類の試験タイヤを装着して、テストコースを8000km走行し、前輪及び後輪のそれぞれについて、主溝の摩耗量から左右輪の平均摩耗量を求めて、前輪と後輪の摩耗量比(=前輪摩耗量/後輪摩耗量)を比較した。
試験車両1として、排気量1.3LのFFハッチバックタイプ、試験車両2として、排気量3.5LのFFミニバンタイプ、試験車両3として、排気量0.66LのFFミニバンタイプを使用した。
試験車両1には、タイヤA、タイヤB、及びタイヤCを装着した。タイヤAは、165/70R14・81S、タイヤBは、175/65R15・84H、タイヤCは、195/50R16・84Vである。
試験車両2には、タイヤD、タイヤE、及びタイヤFを装着した。タイヤDは、215/65R16・98H、タイヤEは、235/50R18・97V、タイヤFは、245/40R20・99Wである。
試験車両3には、タイヤG、タイヤH、及びタイヤIを装着した。タイヤGは、145/80R13・75S、タイヤHは、155/65R13・73S、タイヤIは、155/65R13・73Sである。
図47及び図48に比較結果を示す。図47は、比較例(従来例)を示す。図47において、横軸は、実際のタイヤを使った走行試験から得られた前輪と後輪との摩耗量比を示す。縦軸は、車両走行時の加速度に、タイヤに作用する横力,前後力を対応付けて、加速度頻度分布の各水準にて、「車両静止時」の初期荷重におけるタイヤパラメータから摩擦エネルギーを算出し、頻度平均摩擦エネルギーから前輪と後輪との摩耗量比を予測した。
図48は、本発明に係る実施例を示す。図48において、横軸は、実際のタイヤを使った走行試験から得られた前輪と後輪との摩耗量比を示す。縦軸は、車両走行時の加速度に、タイヤに作用する横力,前後力,荷重を対応付けて、加速度頻度分布の各水準の荷重にてタイヤパラメータを求めて摩擦エネルギーを算出し、頻度平均摩擦エネルギーより前輪と後輪との摩耗量比を予測した。
図47及び図48において、黒ぬりの「○」は、試験車両1のタイヤA、B、Cについての結果を示し、黒ぬりの「◇」は、試験車両2のタイヤD、E、Fについての結果を示し、黒ぬりの「△」は、試験車両3のタイヤG、H、Iについての結果を示す。
走行試験から得られた摩耗寿命と、摩耗予測方法に基づいて予測した摩耗寿命との差が小さいほど、実際の摩耗試験結果と摩耗予測結果とが一致していることになる。図を分かり易くするために、図47及び図48のグラフにおいてy=xを示すラインを併記した。また、図47及び図48のグラフにおいて、各結果を最小二乗法で1次関数で近似したラインを併記した。「○」、「◇」、「△」のそれぞれがy=xを示すラインの近くに配置されるほど、実際の摩耗試験結果と摩耗予測結果とが一致していることになる。図47に示すように、従来例に係る摩耗予測方法においては、実際の摩耗試験結果と摩耗予測結果とが離れてしまっているが、図48に示すように、本発明に係る摩耗予測方法においては、実際の摩耗試験結果と摩耗予測結果とが一致することが確認できた。