以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。以下で説明する実施形態の構成要素は、適宜組み合わせることができる。また、一部の構成要素を用いない場合もある。また、以下で説明する実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部の位置関係について説明する。水平面内の一方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と直交する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと直交する方向をZ軸方向とする。また、X軸、Y軸、及びZ軸まわりの回転(傾斜)方向をそれぞれ、θX、θY、及びθZ方向とする。本実施形態において、タイヤ1の回転軸とY軸とが平行である。Y軸方向は、車幅方向又はタイヤ1の幅方向である。タイヤ1(タイヤ1の回転軸)の回転方向(θY方向に相当)を、周方向と称してもよい。X軸方向及びZ軸方向は、回転軸に対する放射方向である。回転軸に対する放射方向を、径方向と称してもよい。タイヤ1が転動(走行)する路面は、XY平面とほぼ平行である。
<第1実施形態>
第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るタイヤ1の一例を示す断面図である。図1は、タイヤ1の回転軸を通る子午断面を示す。タイヤ1は、カーカス2と、ベルト層3と、ベルトカバー4と、ビードコア5と、トレッドゴム6と、サイドウォールゴム7とを備えている。カーカス2、ベルト層3、及びベルトカバー4のそれぞれは、コードを含む。コードは、補強材である。コードを、ワイヤと称してもよい。カーカス2、ベルト層3、及びベルトカバー4などのコードを含む層をそれぞれ、コード層と称してもよいし、補強材層と称してもよい。
カーカス2は、タイヤ1の骨格を形成する強度部材である。カーカス2は、コードを含む。カーカス2のコードを、カーカスコードと称してもよい。カーカス2は、コードを含むコード層である。カーカス2は、タイヤ1に空気が充填されたときの圧力容器として機能する。カーカス2は、ビードコア5に支持される。ビードコア5は、Y軸方向に関してカーカス2の一側及び他側のそれぞれに配置される。カーカス2は、ビードコア5において折り返される。カーカス2は、有機繊維のカーカスコードと、そのカーカスコードを覆うゴムとを含む。コードを覆うゴムを、コートゴムと称してもよいし、トッピングゴムと称してもよい。なお、カーカス2は、ポリエステルのコードを含んでもよいし、ナイロンのコードを含んでもよいし、アラミドのコードを含んでもよいし、レーヨンのコードを含んでもよい。
ベルト層3は、タイヤ1の形状を保持する強度部材である。ベルト層3は、コードを含む。ベルト層3のコードを、ベルトコードと称してもよい。ベルト層3は、コードを含むコード層(補強材層)である。ベルト層3は、カーカス2とトレッドゴム6との間に配置される。ベルト層3は、例えばスチールなどの金属繊維のベルトコードと、そのベルトコードを覆うゴムとを含む。なお、ベルト層3は、有機繊維のコードを含んでもよい。本実施形態において、ベルト層3は、第1ベルトプライ3Aと、第2ベルトプライ3Bとを含む。第1ベルトプライ3Aと第2ベルトプライ3Bとは、第1ベルトプライ3Aのコードと第2ベルトプライ3Bのコードとが交差するように積層される。
ベルトカバー4は、ベルト層3を保護し、補強する強度部材である。ベルトカバー4は、コードを含む。ベルトカバー4のコードを、カバーコードと称してもよい。ベルトカバー4は、コードを含むコード層である。ベルトカバー4は、タイヤ1の回転軸に対してベルト層3の外側(接地面側)に配置される。ベルトカバー4は、例えばスチールなどの金属繊維のカバーコードと、そのカバーコードを覆うゴムとを含む。なお、ベルトカバー4は、有機繊維のコードを含んでもよい。
ビードコア5は、カーカス2の両端を固定する強度部材である。ビードコア5は、タイヤ1をリムに固定させる。ビードコア5は、スチールワイヤの束である。なお、ビードコア5が、炭素鋼の束でもよい。
トレッドゴム6は、カーカス2を保護する。トレッドゴム6は、路面(地面)と接触する接地面(トレッド部)10と、第1溝21及び第2溝22とを有する。接地面10は、第1溝21及び第2溝22の周囲の少なくとも一部に配置される。第1溝21の内面及び第2溝22の内面は、路面と接触しない。第1溝21及び第2溝22のそれぞれは、非接地部である。雨天時など、タイヤ1が濡れた路面を転がる際、第1溝21及び第2溝22は、タイヤ1と路面との間から水を排除可能である。
サイドウォールゴム7は、カーカス2を保護する。サイドウォールゴム7は、Y軸方向に関してトレッドゴム6の一側及び他側のそれぞれに配置される。サイドウォールゴム7は、サイドウォール部71を有する。
図2は、本実施形態に係るタイヤ1の特性のシミュレーション及び評価を行う処理装置50の一例を示す図である。処理装置50は、コンピュータを含む。本実施形態においては、処理装置50を用いて、タイヤ1の特性のシミュレーション及び評価が行われる。本実施形態において、タイヤ1の特性は、タイヤ1の摩耗特性を含む。処理装置50は、入力されたデータを使って、タイヤ1の摩耗(摩耗特性)を予測し、評価する。処理装置50を、摩耗予測装置50と称してもよいし、評価装置50と称してもよい。
本実施形態において、処理装置50は、処理部50pと、記憶部50mと、入出力部59とを含む。処理部50pと記憶部50mとは、入出力部59を介して接続される。
処理部50pは、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)のようなメモリとを含む。処理部50pは、タイヤ1の摩耗を予測する。その予測結果から、タイヤ1の性能が評価される。処理部50pは、入出力部59と接続される。処理部50pは、入出力部59を介して、データを通信可能である。
記憶部50mは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、不揮発性のメモリ、ハードディスク装置のような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等のストレージ装置の少なくとも一つを含む。
記憶部50mの記憶情報は、タイヤ1の接地面10に関する情報を含む。タイヤ1の接地面10に関する情報は、接地面10の形状、接地面10の面積、接地長、及び接地幅の少なくとも一つを含む。
また、記憶部50mの記憶情報は、タイヤ1の走行条件を含む。タイヤ1の走行を、タイヤ1の転動、と称してもよい。本実施形態において、タイヤ1の走行条件は、タイヤ1の走行時においてタイヤ1に発生する力に関する情報を含む。タイヤ1の走行条件は、駆動、制動、及び旋回の少なくとも一つを含む。タイヤ1の旋回は、右旋回及び左旋回の一方又は両方を含む。走行時においてタイヤ1に発生する力は、駆動力、制動力、及び旋回力の少なくとも一つを含む。また、タイヤ1に発生する力は、前後力及び横力の一方又は両方を含む。また、第2情報は、タイヤ1の加速度、タイヤ1に対する荷重、及びタイヤ1と地面との間の摩擦力などの各種の条件を含む。
記憶部50mには、タイヤ1の摩耗を予測するためのコンピュータプログラムが記憶されている。コンピュータプログラムは、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法を処理装置50に実行させることができる。なお、コンピュータプログラムを、タイヤ1の摩耗予測用コンピュータプログラムと称してもよい。処理部50pは、記憶部50mの記憶情報及びコンピュータプログラムに基づいて、タイヤ1の特性(摩耗特性)を予測可能である。
なお、処理部50pの機能を実現するためのコンピュータプログラムが、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録され、この記録媒体に記録されたコンピュータプログラムがコンピュータに読み込まれることによって、コンピュータが、摩耗予測を実行してもよい。
入出力部59は、端末装置60と接続される。端末装置60は、入力装置61及び出力装置62と接続される。入力装置61は、キーボード、マウス、及びマイクの少なくとも一つを含む。出力装置62は、ディスプレイなどの表示装置、及びプリンタの少なくとも一つを含む。入力装置61から入力された情報が、端末装置60及び入出力部59を介して、処理部50p及び記憶部50mの少なくとも一方に送られてもよい。処理部50pは、入力装置61からの情報に基づいて、摩耗予測を実行可能である。記憶部50mは、入力装置61からの情報を記憶可能である。
処理部50pからのデータは、入出力部59及び端末装置60を介して、出力装置62に送られる。出力装置62は、そのデータを出力可能である。出力装置62が表示装置を含む場合、その表示装置は、処理部50pからのデータを表示可能である。
なお、本実施形態において、記憶部50mは、処理部50pに内蔵されていてもよい。なお、記憶部50mが、評価装置50とは別の装置(例えばデータベースサーバ)に含まれていてもよい。なお、端末装置60が、有線及び無線の少なくとも一方の方法で処理装置50にアクセスしてもよい。
次に、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の一例について説明する。図3は、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の処理手順を示すフローチャートである。図3に示すように、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法は、タイヤ1に作用する初期荷重を設定する手順(ステップSA1)と、初期荷重が作用するときのタイヤ1の接地面10の摩擦エネルギーを取得する手順(ステップSA2)と、摩擦エネルギーに関する第1の荷重補正関数を設定する手順(ステップSA3)と、摩擦エネルギーに関する第2の荷重補正関数を設定する手順(ステップSA4)と、タイヤ1が装着される車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重を設定する手順(ステップSA5)と、ステップSA5で設定した車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSA3で設定した第1の荷重補正関数とに基づいて、摩擦エネルギーを補正して、第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める手順(ステップSA6)と、タイヤ1が装着される車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重を設定する手順(ステップSA7)と、ステップSA7で設定した車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSA4で設定した第2の荷重補正関数とに基づいて、ステップSA6で求めた第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める手順(ステップSA8)と、ステップSA8で求めた第2の荷重補正摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗を予測する手順(ステップSA9)と、を含む。
なお、以下で説明する処理は、専ら、処理装置50が実施する。
まず、タイヤ1に作用する初期荷重が設定される(ステップSA1)。初期荷重は、タイヤ1が走行していない状態でタイヤ1に作用する荷重を含む。次に、路面を走行時に初期荷重が作用するときのタイヤ1の接地面10の摩擦エネルギーが取得される(ステップSA2)。
初期荷重が作用するときの摩擦エネルギーは、実測データから取得されてもよいし、FEMシミュレーション等によるシミュレーションデータ(予測データ)から取得されてもよい。あるいは、タイヤ1に作用する初期荷重とタイヤ1の接地特性値との関係、及びタイヤ1に作用する初期荷重とタイヤ1のスティフネス特性値との関係から、初期荷重が作用するときの摩擦エネルギーが推定されてもよい。タイヤ1の接地特性値は、タイヤ1の接地面積、タイヤ1の接地長、及びタイヤ1の接地幅の少なくとも一つを含む。タイヤ1のスティフネス特性値は、コーナリングスティフネス、及び制駆動スティフネスの少なくとも一方を含む。
次に、第1の荷重補正関数及び第2の荷重補正関数が設定される(ステップSA3、ステップSA4)。
第1の荷重補正関数とは、摩擦エネルギーの荷重依存性を考慮し、車両が静止時の荷重において補正した摩擦エネルギー(第1の荷重補正摩擦エネルギー)を求めるための関数である。第2の荷重補正関数とは、摩擦エネルギーの荷重依存性を考慮し、車両が走行時の荷重において補正した摩擦エネルギー(第2の荷重補正摩擦エネルギー)を求めるための関数である。摩擦エネルギーは、タイヤ1に作用する荷重の関数であり、タイヤ1に作用する荷重に応じて変化する数値である。タイヤ1に作用する荷重は、タイヤ1が装着される車両の負荷条件及び走行条件に応じて変化する。
車両が静止時の荷重、車両が走行時の荷重のそれぞれを適切に考慮することによって、 少ない初期荷重条件にて摩擦エネルギーを取得しながら、精度良くタイヤ摩耗性能を予測することができる。車両が走行時の荷重は、制駆動及び旋回によって変化する。その荷重の影響を適切に考慮することによって、精度良くタイヤ摩耗性能を予測することができる。
第1の荷重補正関数は、荷重の変化に比例してタイヤ1に作用する横力及び前後力が変化する条件に関する関数である。第2の荷重補正関数は、荷重の変化にかかわらず前後力及び横力が一定である条件に関する関数である。
タイヤ1に作用する荷重の変化に比例してタイヤ1に作用する横力及び前後力が変化する条件(第1条件)とは、例えば、タイヤ1が装着される車両の重量(車重)の変化により、横力及び前後力が変化する条件を含む。荷重の変化にかかわらずタイヤ1に作用する横力及び前後力が一定である条件(第2条件)とは、例えば、車両の旋回及び加減速により、タイヤ1に作用する荷重が変化する条件を含む。すなわち、車重が変化すると、車両が所定の旋回及び加減速をする際にタイヤ1に作用する横力及び前後力は変化する。車重が変化せずに、車両が所定の旋回及び加減速をする際には、タイヤ1に作用する荷重は変化するが、車両の旋回及び加減速によっては、横力及び前後力は変化しない可能性が高い。第1条件と第2条件とでは、タイヤ1に作用する荷重と摩擦エネルギーとの関係の傾向が異なる。
本発明者の知見によれば、第1条件においては、荷重が大きくなると、摩擦エネルギーも大きくなり、荷重が小さくなると、摩擦エネルギーも小さくなる傾向であることが判明している。一方、第2条件においては、荷重が大きくなると、摩擦エネルギーが小さくなり、荷重が小さくなると、摩擦エネルギーが大きくなることが判明している。そのため、想定される条件(第1条件及び第2条件のどちらか)に合わせて荷重補正関数が設定されることが好ましい。
また、荷重補正関数は、旋回条件における荷重補正関数と、制駆動条件(制動条件及び駆動条件)における荷重補正関数との少なくとも一方を含む。
本発明者の知見によれば、旋回条件と制駆動条件とでは、摩擦エネルギーの荷重依存性が異なることが判明している。これは、旋回スティフネスの荷重依存性と制駆動スティフネスの荷重依存性とが異なるためであると考えられる。そのため、摩擦エネルギーの荷重依存性は、旋回条件と制駆動条件とで異なる。したがって、旋回条件における荷重補正関数と制駆動条件における荷重補正関数を別々に設定して、それぞれ荷重補正を行うことで、より精度良く摩耗性能を予測することができる。なお、荷重補正関数として、旋回条件と制駆動条件の平均的傾向を再現する補正式を採用してもよい。
本実施形態において、摩擦エネルギーを補正するための関数(荷重補正関数)が設定され、その荷重補正関数に基づいて荷重補正摩擦エネルギーが決定される。荷重補正関数は、1次関数でもよいし2次以上6次以下の関数でもよいし、冪関数でもよいし、指数関数でもよいし、これらの関数を組み合わせた関数でもよい。これらの例に限られず、任意の関数を用いることができる。1次関数の一例を(1A)式に、4次関数の例を(1B)式に、冪関数の一例を(1C)式に示す。
(1A)式から(1C)式において、定数a、定数b、定数c、定数d、定数nは、例えば、実験(予備実験)により事前に求められてもよいし、シミュレーションにより事前に求められてもよい。実験で求める場合、実際にタイヤ1に荷重が作用された状態でそのタイヤ1を走行(転動)させ、そのときの摩擦エネルギーを所定の計測装置で計測することにより、(1A)式から(1C)式に示した関数を設定してもよい。シミュレーションで求める場合、所定の荷重条件及び走行条件に基づいて摩擦エネルギーを求めて、上述の(1A)式から(1C)式に示した関数を設定してもよい。その荷重と摩擦エネルギーとの複数の関係を求めることによって、定数a、定数b、定数c、定数d、定数nを求めることができる。求めた関係、定数a、定数b、定数c、定数d、定数n、及び上述の(1A)式から(1C)式などに関する情報は、記憶部50mに記憶される。
なお、車両の違い、グレードの違い、及び積載量の違いなどによって車重が変化する場合、荷重に比例して前後力及び横力が変化する条件に関する荷重補正関数を用いることが好ましい。
車両が走行時の旋回及び加減速によってタイヤ荷重が変化する場合、前後力及び横力が一定の条件に関する荷重補正関数を用いることが好ましい。
第1の荷重補正関数に冪関数を使用する場合、冪係数nは、0.5以上2.0以下が好ましく、0.7以上1.4以下がより好ましい。
第2の荷重補正関数に冪関数を使用する場合、冪係数nは、−1.5以上−0.2以下が好ましく、−1.3以上−0.6以下がより好ましい。
タイヤ1に作用する荷重の影響をそれぞれ適切に考慮することによって、精度良くタイヤ摩耗性能を予測することができる。
次に、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重が設定される(ステップSA5)。車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重は、実測データから取得されてもよいし、車両諸元データに基づいて設定しても良い。
なお、初期荷重と、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重とが実質的にほぼ同じ場合、第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める手順は省略してもよい。
次に、処理装置50は、ステップSA5で設定した静止時においてタイヤ1に作用する荷重と、ステップSA3で設定した第1の荷重補正関数とに基づいて、ステップSA2で取得した摩擦エネルギーを補正して、接地面10における第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSA6)。摩擦エネルギーは、タイヤ1に作用する荷重の関数であり、タイヤ1に作用する荷重に応じて変化する数値である。タイヤ1に作用する荷重は、タイヤ1が装着される車両の重量(車重)に応じて変化する。処理装置50は、静止時においてタイヤ1に作用する荷重が想定され、その想定された荷重と、ステップSA3で設定した第1の荷重補正関数とに基づいて、ステップSA2で取得した摩擦エネルギーを補正して、第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める。
次に、車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重が設定される(ステップSA7)。車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重は、制駆動及び旋回のそれぞれの条件における実測データから取得されてもよいし、実測値から回帰した近似式より求めても良い。あるいは、動的な車両運動シミュレーションから求めてもよいし、車両諸元から解析的に求めた推定式から推定してもよい。
次に、処理装置50は、走行時においてタイヤ1に作用する荷重と、ステップSA4で設定した第2の荷重補正関数とに基づいて、ステップSA6で求めた第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、接地面10における第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSA8)。摩擦エネルギーは、タイヤ1に作用する荷重の関数であり、タイヤ1に作用する荷重に応じて変化する数値である。タイヤ1に作用する荷重は、タイヤ1が装着される車両の走行条件に応じて変化する。処理装置50は、走行時においてタイヤ1に作用する荷重が想定され、その想定された荷重と、ステップSA4で設定した第2の荷重補正関数とに基づいて、ステップSA6で求めた第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める。
第2の荷重補正摩擦エネルギーの算出が行われた後、処理装置50は、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗を予測する(ステップSA9)。摩擦エネルギー(第2の荷重補正摩擦エネルギー)とタイヤ1の摩耗(摩耗量)との間には相関関係(例えば比例関係)がある。そのため、処理装置50は、ステップSA8で求めた、接地面10についての第2の荷重補正摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗(摩耗量)を予測することができる。
本実施形態において、処理装置50は、トレッドゴム6の材料特性(耐摩耗物性)を考慮して、タイヤ1の摩耗(摩耗量)を予測してもよい。換言すれば、処理装置50は、ステップSA8で求めた第2の荷重補正摩擦エネルギーとトレッドゴム6の材料特性とに基づいて、タイヤ1の摩耗(摩耗量)を予測してもよい。例えば、タイヤ1のトレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量と、ステップSA8で求めた第2の荷重補正摩擦エネルギーとに基づいて、トレッドゴム6の摩耗量を求め、その求めたトレッドゴム6の摩耗量に基づいて、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗を予測してもよい。これにより、トレッドゴム6の耐摩耗物性を考慮した摩耗予測が可能となる。以下で説明する実施形態においても同様である。
上述したように、本実施形態において、荷重補正関数は、タイヤ1に作用する荷重の変化に比例してタイヤ1に作用する横力及び前後力が変化する条件(第1条件)に関する第1の荷重補正関数、及びタイヤ1に作用する荷重の変化にかかわらずタイヤ1に作用する横力及び前後力が一定である条件(第2条件)に関する第2の荷重補正関数を含む。第1条件の一例として、タイヤ1が装着される車両の重量(車重)が変化することにより、横力及び前後力が変化する例が挙げられる。第2条件の一例として、車両の旋回及び加減速により、タイヤ1に作用する荷重が変化する例が挙げられる。第1条件の場合の摩耗予測には、荷重に比例して横力や前後力が変化するときの荷重補正関数を用いるのが好ましい。第2条件の場合の摩耗予測には、横力や前後力が一定のときの荷重補正関数を用いるのが好ましい。
本実施形態において、処理装置50は、第1の荷重補正関数に基づいて、ステップSA2で取得した摩擦エネルギーを補正して、第1の荷重補正摩擦エネルギーを求めた後、第2の荷重補正関数に基づいて、第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める。ステップSA9において、処理装置50は、第2の荷重補正摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗を予測する。第1の荷重補正関数及び第2の荷重補正関数の両方の荷重補正関数を使うことにより、処理装置50は、車重が変化する(車両が異なる)場合、かつ、車両の旋回や加減速に伴ってタイヤ1に作用する荷重が変化する場合の摩耗特性を精度良く予測することができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、初期荷重が作用するときの摩擦エネルギーを取得し、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重と第1の荷重補正関数とに基づいて摩擦エネルギーを補正して第1の荷重補正摩擦エネルギーを求め、車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重と第2の荷重補正関数とに基づいて第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して第2の荷重補正摩擦エネルギーを求めることにより、労力の増大を抑制しつつ、タイヤ1の摩耗(摩耗量)を予測することができる。タイヤ1の摩耗と摩擦エネルギーとの間には相関関係がある。摩擦エネルギーが大きいとタイヤ1の摩耗が大きくなり、摩擦エネルギーが小さいとタイヤ1の摩耗が小さくなる。初期荷重が作用するときの摩擦エネルギーを実測又はシミュレーション等により取得し、その取得した摩擦エネルギーを第1の荷重補正関数及び第2の荷重補正関数を使って補正して第2の荷重補正摩擦エネルギーを求めることにより、車両の負荷条件及び走行条件によって変化するタイヤ1に作用する荷重の影響、及び摩擦エネルギーの荷重依存性を考慮しつつ、少ない初期荷重条件でタイヤ1の摩耗を予測することができる。これにより、労力の増大を抑制しつつ、タイヤ1の摩耗を高精度に予測することができる。
また、本実施形態によれば、荷重と摩擦エネルギーとの関係を予め求めて、摩擦エネルギーに関する荷重補正関数(荷重補正式)を設定し、初期荷重における摩擦エネルギーを、車両静止時及び車両走行時の荷重に基づいて補正し、荷重補正した摩擦エネルギー(第2の荷重補正摩擦エネルギー)を用いてタイヤ1の耐摩耗性を予測する。このように、本実施形態によれば、摩擦エネルギーの荷重依存性を考慮し、静止時及び走行時においてタイヤ1に作用する荷重に基づいて、摩擦エネルギーを補正するようにしたので、摩耗予測精度が向上する。
<第2実施形態>
第2実施形態について説明する。図4は、本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態においては、タイヤ1に作用する初期荷重が設定される。そして、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、その初期荷重が作用するときの、駆動時の摩擦エネルギーEd、制動時の摩擦エネルギーEb、右旋回時の摩擦エネルギーEcr、及び左旋回時の摩擦エネルギーEclのそれぞれが取得される。
また、本実施形態においては、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重と第1の荷重補正関数とに基づいて、駆動時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEd’、制動時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEb’、右旋回時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEcr’、及び左旋回時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEcl’のそれぞれが求められる。
また、本実施形態においては、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、駆動時においてタイヤ1に作用する平均荷重、制動時においてタイヤ1に作用する平均荷重、右旋回時においてタイヤ1に作用する平均荷重、及び左旋回時においてタイヤ1に作用する平均荷重が求められる。
また、本実施形態においては、駆動時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEd’、制動時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEb’、右旋回時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEcr’、及び左旋回時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEcl’のそれぞれが、平均荷重と第2の荷重補正関数とに基づいて補正され、駆動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEd”、制動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEb”、右旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcr”、及び左旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcl”のそれぞれが求められる。
また、本実施形態においては、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、駆動時に関する重み係数Cd、制動時に関する重み係数Cb、右旋回時に関する重み係数Ccr、及び左旋回時に関する重み係数Cclが設定される。
また、駆動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEd”、制動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEb”、右旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcr”、及び左旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcl”のそれぞれが、設定された重み係数で補正される。
重み係数で補正することは、駆動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEd”に重み係数Cdを乗じること、制動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEb”に重み係数Cbを乗じること、右旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcr”に重み係数Ccrを乗じること、及び左旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcl”に重み係数Cclを乗じることを含む。
また、本実施形態においては、重み係数Cdで補正された駆動時の補正摩擦エネルギーと、重み係数Cbで補正された制動時の補正摩擦エネルギーと、重み係数Ccrで補正された右旋回時の補正摩擦エネルギーと、重み係数Cclで補正された左旋回時の補正摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)Eaが求められ、その平均摩擦エネルギーEaに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される。
本実施形態においては、タイヤ1に作用する初期荷重が設定される(ステップSB1)。初期荷重は、タイヤ1が走行していない状態でタイヤ1に作用する荷重を含む。
上述の実施形態に従って、初期荷重が作用するときのタイヤ1の接地面10の摩擦エネルギーが取得される(ステップSB2)。駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、初期荷重が作用するときの、駆動時の摩擦エネルギーEd、制動時の摩擦エネルギーEb、右旋回時の摩擦エネルギーEcr、及び左旋回時の摩擦エネルギーEclのそれぞれが取得される。
全条件(駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されたか否かが判断される(ステップSB3)。ステップSB3において、全条件(駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されていないと判断された場合(Noの場合)、全条件についての摩擦エネルギーが取得されるまで、摩擦エネルギーの取得が行われる。
ステップSB3において、全条件(駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されたと判断された場合(Yesの場合)、上述の実施形態に従って、第1の荷重補正関数が設定される(ステップSB4)。また、上述の実施形態に従って、第2の荷重補正関数が設定される(ステップSB5)。
次に、上述の実施形態に従って、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重が設定される(ステップSB6)。処理装置50は、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重と第1の荷重補正関数とに基づいて、ステップSB2で取得した摩擦エネルギーを補正して、第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSB7)。車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重と第1の荷重補正関数とに基づいて、駆動時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEd’、制動時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEb’、右旋回時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEcr’、及び左旋回時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEcl’のそれぞれが求められる。
次に、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時のそれぞれにおいてタイヤ1に作用する平均荷重が設定される(ステップSB8)。駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時のそれぞれにおいてタイヤ1に作用する平均荷重が想定され、その想定された平均荷重が設定される。
次に、処理装置50は、ステップSB8で設定した平均荷重とステップSB5で設定した第2の荷重補正関数とに基づいて第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時それぞれの第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSB9)。
駆動時にタイヤ1に作用する平均荷重と第2の荷重補正関数とに基づいて、駆動時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEd’が補正されることによって、駆動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEd”が算出される。制動時にタイヤ1に作用する平均荷重と第2の荷重補正関数とに基づいて、制動時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEb’が補正されることによって、制動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEb”が算出される。右旋回時にタイヤ1に作用する平均荷重と第2の荷重補正関数とに基づいて、右旋回時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEcr’が補正されることによって、右旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcr”が算出される。左旋回時にタイヤ1に作用する平均荷重と第2の荷重補正関数とに基づいて、左旋回時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEcl’が補正されることによって、左旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcl”が算出される。
次に、処理装置50は、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時のそれぞれに関して重み係数を設定する(ステップSB10)。駆動時に関する重み係数Cd、制動時に関する重み係数Cb、右旋回時に関する重み係数Ccr、及び左旋回時に関する重み係数Cclが設定される。
次に、ステップSB9で求められた、駆動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEd”、制動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEb”、右旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcr”、及び左旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcl”のそれぞれが、設定された重み係数で補正される。
処理装置50は、駆動時に関する重み係数Cdで駆動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEd”を補正して、駆動時の補正摩擦エネルギーを求める。処理装置50は、制動時に関する重み係数Cbで制動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEb”を補正して、制動時の補正摩擦エネルギーを求める。処理装置50は、右旋回時に関する重み係数Ccrで右旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcr”を補正して、右旋回時の補正摩擦エネルギーを求める。処理装置50は、左旋回時に関する重み係数Cclで左旋回時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEcl”を補正して、左旋回時の補正摩擦エネルギーを求める(ステップSB11)。
全条件(駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての補正摩擦エネルギーが取得されたか否かが判断される(ステップSB12)。ステップSB12において、全条件(駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての補正摩擦エネルギーが取得されていないと判断された場合(Noの場合)、ステップSB7に戻り、全条件についての補正摩擦エネルギーが取得されるまで、補正摩擦エネルギーの取得が行われる。
ステップSB12において、全条件(駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての補正摩擦エネルギーが取得されたと判断された場合(Yesの場合)、処理装置50は、重み係数で補正された駆動時の補正摩擦エネルギーと制動時の補正摩擦エネルギーと右旋回時の補正摩擦エネルギーと左旋回時の補正摩擦エネルギーとの平均摩擦エネルギーEaを求める(ステップSB13)。
すなわち、処理装置50は、(2)式に示す演算を行う。
本実施形態においては、平均摩擦エネルギーEaに基づいて、タイヤ1の摩耗の予測が行われる(ステップSB14)。
以上説明したように、本実施形態によれば、それぞれの走行条件(駆動、制動、右旋回、及び左旋回)に関して重み係数を設定することにより、走行条件の影響を考慮した精度良いタイヤ1の摩耗予測が可能である。
すなわち、タイヤ1に作用する荷重は、駆動時と制動時とで異なるとともに、右旋回時と左旋回時とでも異なる。そこで、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時それぞれについて荷重を考慮した荷重補正摩擦エネルギーを求め、さらに設定した重み係数で荷重補正摩擦エネルギーを補正した補正摩擦エネルギー求めることで、精度良い予測を簡便に行うことが可能になる。
なお、重み係数は、車両のトーインと駆動力配分、制動力配分、及び旋回と駆動と制動とに伴うタイヤ1に対する横力及び前後力の変化を考慮して設定されてもよい。
なお、初期荷重におけるタイヤ1の自由転動時の摩擦エネルギーEf、自由転動時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEf’、及び自由転動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーEf”を求めるとともに、重み係数Cfを設定し、駆動時の補正摩擦エネルギーCdEd”と、制動時の補正摩擦エネルギーCbEb”と、右旋回時の補正摩擦エネルギーCcrEcr”と、左旋回時の補正摩擦エネルギーCclEcl”と、自由転動時の補正摩擦エネルギーCcfEcf”との平均値(平均摩擦エネルギー)Eaを求め、その平均摩擦エネルギーEaに基づいて、タイヤ1の摩耗を予測してもよい。すなわち、処理装置50は、(3)式に示す演算を行ってもよい。
なお、車両静止時にタイヤ1に作用する荷重と、一定速度の直進走行時にタイヤ1に作用する荷重とが実質的にほぼ同じ場合、自由転動時の第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める手順は省略して、自由転動時の第1の荷重補正摩擦エネルギーEf’を使用して平均摩擦エネルギーEaを求めてもよい。すなわち、処理装置50は、(4)式に示す演算を行ってもよい。
なお、自由転動時の摩擦エネルギーEfは、例えば実験(予備実験)により事前に求められてもよいし、シミュレーションにより事前に求められてもよい。実験(予備実験)は、実際のタイヤを転動させ、所定の計測装置によりその実際のタイヤを計測することを含む。シミュレーションは、所定の走行条件(転動条件)に基づいて、摩擦エネルギーを予測することを含む。なお、自由転動時の摩擦エネルギーEfは、データベースに格納されている複数のデータ(評価対象のタイヤ1に類似したタイヤに関するデータなど)を統計演算し、その統計により予測されたデータであってもよい。
<第3実施形態>
第3実施形態について説明する。図5は、本実施形態に係る摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。上述の実施形態に従って、タイヤ1に作用する初期荷重が設定される(ステップSC1)。
処理装置50は、自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、自由転動時、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時のそれぞれにおいて初期荷重が作用するタイヤ1の摩擦エネルギーを取得する(ステップSC2)。
すなわち、初期荷重が作用するときの、自由転動時の摩擦エネルギーEf、駆動時の摩擦エネルギーEd、制動時の摩擦エネルギーEb、右旋回時の摩擦エネルギーEcr、及び左旋回時の摩擦エネルギーEclのそれぞれが取得される。上述の実施形態と同様、摩擦エネルギーは、実測データに基づいて取得されてもよいし、シミュレーションデータに基づいて取得されてもよい。
全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されたか否かが判断される(ステップSC3)。ステップSC3において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されていないと判断された場合(Noの場合)、全条件についての摩擦エネルギーが取得されるまで、摩擦エネルギーの取得が行われる。
ステップSC3において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されたと判断された場合(Yesの場合)、摩擦エネルギー近似関数が設定される(ステップSC4)。
図6は、前後力と取得した摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図7は、横力と取得した摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図6に示すグラフにおいて、横軸は前後力、縦軸は摩擦エネルギーである。図7に示すグラフにおいて、横軸は横力、縦軸は摩擦エネルギーである。
図6及び図7に示すように、自由転動、駆動、制動、旋回(右旋回及び左旋回)それぞれのタイヤ1の走行条件(転動条件)について、所定の初期荷重条件における摩擦エネルギーが取得される。図6及び図7に示すデータは、摩擦エネルギーの実測データの一例を示す。なお、図6及び図7に示すデータが、摩擦エネルギーのシミュレーションデータでもよい。
図6及び図7に示したデータに基づいて、摩擦エネルギー近似関数が設定される。例えば、最小二乗法のような手法を用いて、図6及び図7に示したデータがフィッティングされ、摩擦エネルギー近似関数が設定されてもよい。
図8は、図6に示したデータに基づいて設定された摩擦エネルギー近似関数である。図9は、図7に示したデータに基づいて設定された摩擦エネルギー近似関数である。図8に示すグラフにおいて、横軸は前後力、縦軸は摩擦エネルギーである。図9に示すグラフにおいて、横軸は横力、縦軸は摩擦エネルギーである。
図8に示すように、摩擦エネルギーは、前後力の関数として表すことができる。図9に示すように、摩擦エネルギーは、横力の関数として表すことができる。図8及び図9に示すように、横力及び前後力が大きくなると、摩擦エネルギーも大きくなり、横力及び前後力が小さくなると、摩擦エネルギーも小さくなる。
摩擦エネルギーを取得する自由転動条件は、駆動力、制動力、横力を(概ね)ゼロとする。駆動、制動、旋回のタイヤ1の転動条件は、それぞれ少なくとも1水準以上とする。複数水準とすると、摩擦エネルギー近似関数の近似精度が向上するが、摩擦エネルギー取得に要する手間と時間が増加するため、実用上はそれぞれ1〜2水準とすることが好ましい。旋回のタイヤ転動条件は、右旋回と左旋回のいずれか一方の条件のみでも良いが、右旋回と左旋回の条件をそれぞれ1水準以上とすることが好ましい。
図6及び図8に示す前後力の例は、駆動、制動それぞれ2水準の例を示す。図7及び図9に示す横力の例は、右旋回、左旋回それぞれ2水準の例を示す。
次に、上述の実施形態に従って、第1の荷重補正関数が設定される(ステップSC5)。また、上述の実施形態に従って、第2の荷重補正関数が設定される(ステップSC6)。
次に、前後力頻度分布及び横力頻度分布が設定される(ステップSC7)。図10は、制駆動時においてタイヤ1に作用する前後力と、その前後力が作用する頻度との関係の一例を示す。図11は、旋回時においてタイヤ1に作用する横力と、その横力が作用する頻度との関係の一例を示す。図10において、横軸は前後力、縦軸は頻度である。図11において、横軸は横力、縦軸は頻度である。
以下の説明においては、前後力とその前後力が作用する頻度との関係を適宜、前後力頻度分布(又は前後力頻度)、と称し、横力とその横力が作用する頻度との関係を適宜、横力頻度分布(又は横力頻度)、と称する。
すなわち、前後力頻度分布とは、自由転動、駆動、制動、及び旋回(右旋回及び左旋回)を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する前後力とその前後力が作用する頻度との関係を示す。横力頻度分布とは、自由転動、駆動、制動、及び旋回(右旋回及び左旋回)を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する横力とその横力が作用する頻度との関係を示す。
図10に示すように、一般に、制駆動時においてタイヤ1に作用する前後力は、−0.5kN以上+0.5kN以下の範囲内である可能性が高い。図11に示すように、一般に、旋回時においてタイヤ1に作用する横力は、−0.5kN以上+0.5kN以下の範囲内である可能性が高い。なお、図10及び図11に示す前後力頻度分布及び横力頻度分布は一例である。前後力頻度分布及び横力頻度分布は、タイヤ1(車両)の走行条件によって変化する。
次に、前後力とタイヤ1に作用する荷重との関係、及び横力とタイヤ1に作用する荷重との関係が対応付けられる(ステップSC8)。図12は、タイヤ1に作用する前後力と荷重との関係を示す図である。図13は、タイヤ1に作用する横力と荷重との関係を示す図である。図12及び図13に示すように、タイヤ1に作用する荷重は、タイヤ1に作用する前後力及び横力の関数として表すことができる。
本実施形態においては、前後力頻度分布に基づいて、前後力の各水準に対応する荷重が設定されるとともに、横力頻度分布に基づいて、横力の各水準に対応する荷重が設定される。
タイヤ1に作用する荷重は、旋回及び制駆動それぞれの所定の条件において実測されてもよいし、実測値から回帰した近似式より求められてもよいし、動的な車両運動シミュレーションから求められてもよいし、車両諸元から解析的に求めた推定式から推定されてもよい。処理装置50は、これらの関係を用いて、前後力及び横力の頻度分布の各水準について、タイヤ1に作用する荷重を対応付ける。
次に、上述の実施形態に従って、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重が設定される(ステップSC9)。
次に、処理装置50は、摩擦エネルギー近似関数と前後力及び横力とに基づいて、頻度分布のそれぞれの水準において、前後力及び横力に対応付けた摩擦エネルギーを求める(ステップSC10)。すなわち、前後力頻度分布及び横力頻度分布の各水準について、ステップSC4で設定した摩擦エネルギー近似関数を使って、摩擦エネルギーが求められる。
図14は、タイヤ1に作用する前後力と摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図15は、タイヤ1に作用する横力と摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図14及び図15に示すように、摩擦エネルギーは、タイヤ1に作用する前後力及び横力の関数として表すことができる。
次に、処理装置50は、ステップSC9で設定した車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSC5で設定した第1の荷重補正関数とに基づいて、ステップSC10で求めた摩擦エネルギーを補正して、前後力及び横力に対応付けた第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSC11)。
図16は、タイヤ1に作用する前後力と第1の荷重補正摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図17は、タイヤ1に作用する横力と第1の荷重補正摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図16及び図17に示すように、第1の荷重補正摩擦エネルギーは、タイヤ1に作用する前後力及び横力の関数として表すことができる。
また、処理装置50は、車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSC6で設定した第2の荷重補正関数とに基づいて、ステップSC11で求めた第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、前後力及び横力に対応付けた第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSC12)。車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重は、ステップSC8で設定した前後力の各水準に対応する荷重及び横力の各水準に対応する荷重である。
図18は、タイヤ1に作用する前後力と第2の荷重補正摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図19は、タイヤ1に作用する横力と第2の荷重補正摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図18及び図19に示すように、第2の荷重補正摩擦エネルギーは、タイヤ1に作用する前後力及び横力の関数として表すことができる。
処理装置50は、頻度分布のそれぞれの水準において、前後力及び横力に対応付けた摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める。
頻度分布の全水準についての摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたか否かが判断される(ステップSC13)。ステップSC13において、全水準についての摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、全水準についての摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されるまで、摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーの算出が行われる。
ステップSC13において、全水準についての摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時それぞれの頻度平均摩擦エネルギーが求められる(ステップSC14)。
本実施形態においては、値が異なる複数の前後力及び横力のそれぞれに関して、第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積が求められる。図20は、図10に示した前後力の頻度と、図18に示した第2の荷重補正摩擦エネルギーとの積を示す。図21は、図11に示した横力の頻度と、図19に示した第2の荷重補正摩擦エネルギーとの積を示す。図20において、横軸は前後力、縦軸は摩擦エネルギーと頻度との積である。図21において、横軸は横力、縦軸は摩擦エネルギーと頻度との積である。
本実施形態においては、図20及び図21に示した前後力及び横力と第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値から頻度平均摩擦エネルギーが求められ、その頻度平均摩擦エネルギーに基づいてタイヤ1の摩耗が予測される。頻度平均摩擦エネルギーとは、値が異なるn数の前後力(又は横力)のそれぞれに関して第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積を求めた場合、それらn数の第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積の総和(積算値)を、頻度の総和で除した(割った)値をいう。
本実施形態においては、例えば、駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが順次求められる。
すなわち、駆動時における前後力と、駆動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。制動時における前後力と、制動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、制動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。旋回時における横力と、旋回時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。
全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギー(駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギー)の算出が終了したか否かが判断される(ステップSC15)。ステップSC15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、ステップSC10に戻り、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されるまで、同様の処理が実行される。
ステップSC15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと、制動時の頻度平均摩擦エネルギーと、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)が求められる(ステップSC16)。その平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される(ステップSC17)。
以上説明したように、本実施形態によれば、走行時の前後力頻度分布及び横力頻度分布を考慮することで、タイヤ1の摩耗予測の精度をより向上することができる。
本実施形態によれば、タイヤ1に作用する前後力及び横力の頻度分布に基づいて、各水準における荷重を考慮して荷重補正摩擦エネルギーを求めるため、走行条件による荷重の変化を詳細に扱うことができる。これにより、タイヤ1の摩耗予測精度をより向上することができる。
なお、走行時の前後力頻度分布及び横力頻度分布は、車両のトーインと駆動力配分、制動力配分、及び旋回と駆動と制動とに伴うタイヤに対する前後力及び横力の変化を考慮して設定するのがよい。
<第4実施形態>
第4実施形態について説明する。図22は、本実施形態に係る摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態は、上述の第3実施形態の変形例である。上述の第3実施形態においては、初期荷重条件における摩擦エネルギーを取得して摩擦エネルギー近似関数を設定し、摩擦エネルギー近似関数から求めた摩擦エネルギーに対して第1の荷重補正関数を使って補正(第1の荷重補正)する例について説明した。
本実施形態においては、初期荷重条件における摩擦エネルギーを取得して、取得した摩擦エネルギーに対して第1の荷重補正関数を使って補正(第1の荷重補正)を行う。その後、第1の荷重補正を行った摩擦エネルギーから摩擦エネルギー近似関数(第1の荷重補正摩擦エネルギー関数)を設定し、第1の荷重補正摩擦エネルギー関数から第1の荷重補正摩擦エネルギーを算出する。
図22に示すように、上述の実施形態に従って、タイヤ1に作用する初期荷重が設定される(ステップSD1)。
次に、上述の実施形態に従って、第1の荷重補正関数が設定される(ステップSD2)。
次に、上述の実施形態に従って、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重が設定される(ステップSD3)。
処理装置50は、自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、自由転動時、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時のそれぞれにおいて初期荷重が作用するタイヤ1の摩擦エネルギーを取得する(ステップSD4)。
すなわち、初期荷重が作用するときの、自由転動時の摩擦エネルギーEf、駆動時の摩擦エネルギーEd、制動時の摩擦エネルギーEb、右旋回時の摩擦エネルギーEcr、及び左旋回時の摩擦エネルギーEclのそれぞれが取得される。上述の実施形態と同様、摩擦エネルギーは、実測データに基づいて取得されてもよいし、シミュレーションデータに基づいて取得されてもよい。
次に、処理装置50は、ステップSD3で設定された車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSD2で設定した第1の荷重補正関数とに基づいて、ステップSD4で取得した摩擦エネルギーを補正して、第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSD5)。
全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての第1の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたか否かが判断される(ステップSD6)。ステップSD6において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての第1の荷重補正摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、全条件についての第1の荷重補正摩擦エネルギーが算出されるまで、第1の荷重補正摩擦エネルギーの算出が行われる。
ステップSD6において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての第1の荷重補正摩擦エネルギーが取得されたと判断された場合(Yesの場合)、第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数が設定される(ステップSD7)。
第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数とは、第1の荷重補正摩擦エネルギーのデータを使って導出される近似関数をいう。
次に、上述の実施形態に従って、第2の荷重補正関数が設定される(ステップSD8)。
次に、前後力頻度分布及び横力頻度分布が設定される(ステップSD9)。前後力頻度分布とは、自由転動、駆動、制動、及び旋回(右旋回及び左旋回)を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する前後力とその前後力が作用する頻度との関係を示す。横力頻度分布とは、自由転動、駆動、制動、及び旋回(右旋回及び左旋回)を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する横力とその横力が作用する頻度との関係を示す。
次に、前後力とタイヤ1に作用する荷重との関係、及び横力とタイヤ1に作用する荷重との関係が対応付けられる(ステップSD10)。
タイヤ1に作用する荷重は、タイヤ1に作用する前後力及び横力の関数として表すことができる。本実施形態においては、前後力頻度分布に基づいて、前後力の各水準に対応する荷重が設定されるとともに、横力頻度分布に基づいて、横力の各水準に対応する荷重が設定される。
次に、処理装置50は、ステップSD7で設定した第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数と前後力及び横力とに基づいて、頻度分布のそれぞれの水準において、前後力及び横力に対応付けた第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSD11)。すなわち、前後力頻度分布及び横力頻度分布の各水準について、ステップSD7で設定した第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数を使って、第1の荷重補正摩擦エネルギーが求められる。
次に、処理装置50は、車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSD8で設定した第2の荷重補正関数とに基づいて、ステップSD11で求めた第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、前後力及び横力に対応付けた第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSD12)。車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重は、ステップSD10で設定した前後力の各水準に対応する荷重及び横力の各水準に対応する荷重である。
処理装置50は、頻度分布のそれぞれの水準において、前後力及び横力に対応付けた第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める。
頻度分布の全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたか否かが判断される(ステップSD13)。ステップSD13において、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されるまで、第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーの算出が行われる。
ステップSD13において、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時それぞれの頻度平均摩擦エネルギーが求められる(ステップSD14)。
駆動時における前後力と、駆動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。制動時における前後力と、制動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、制動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。旋回時における横力と、旋回時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。
全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギー(駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギー)の算出が終了したか否かが判断される(ステップSD15)。ステップSD15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、ステップSD11に戻り、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されるまで、同様の処理が実行される。
ステップSD15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと、制動時の頻度平均摩擦エネルギーと、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)が求められる(ステップSD16)。その平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される(ステップSD17)。
以上説明したように、本実施形態によれば、走行時の横力頻度分布及び前後力頻度分布を考慮することで、タイヤ1の摩耗予測の精度をより向上することができる。
<第5実施形態>
第5実施形態について説明する。図23は、本実施形態に係る摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態は、上述の第3実施形態及び第4実施形態の変形例である。
本実施形態においては、初期荷重条件にて摩擦エネルギーを取得して摩擦エネルギー近似関数を設定し、摩擦エネルギー近似関数に対して第1の荷重補正を行い、第1の荷重補正摩擦エネルギー関数を設定する。その後、第1の荷重補正摩擦エネルギー関数から第1の荷重補正摩擦エネルギーを算出する。
図23に示すように、まず、タイヤ1に作用する初期荷重が設定される(ステップSE1)。
処理装置50は、自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、自由転動時、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時のそれぞれにおいて初期荷重が作用するタイヤ1の摩擦エネルギーを取得する(ステップSE2)。
すなわち、初期荷重が作用するときの、自由転動時の摩擦エネルギーEf、駆動時の摩擦エネルギーEd、制動時の摩擦エネルギーEb、右旋回時の摩擦エネルギーEcr、及び左旋回時の摩擦エネルギーEclのそれぞれが取得される。上述の実施形態と同様、摩擦エネルギーは、実測データに基づいて取得されてもよいし、シミュレーションデータに基づいて取得されてもよい。
全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されたか否かが判断される(ステップSE3)。ステップSE3において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されていないと判断された場合(Noの場合)、全条件についての摩擦エネルギーが取得されるまで、摩擦エネルギーの取得が行われる。
ステップSE3において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されたと判断された場合(Yesの場合)、ステップSE2で取得した摩擦エネルギーに基づいて、摩擦エネルギー近似関数が設定される(ステップSE4)。図6、図7、図8、及び図9を参照して説明したように、取得した摩擦エネルギーデータに基づいて、摩擦エネルギー近似関数が設定される。
次に、上述の実施形態に従って、第1の荷重補正関数が設定される(ステップSE5)。
次に、上述の実施形態に従って、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重が設定される(ステップSE6)。
処理装置50は、ステップSE6で設定した車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSE5で設定した第1の荷重補正関数とに基づいて、ステップSE4で設定した摩擦エネルギー近似関数を補正して、第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数を求める(ステップSE7)。
次に、上述の実施形態に従って、第2の荷重補正関数が設定される(ステップSE8)。
次に、タイヤ1の走行条件に基づいて、タイヤ1に作用する前後力頻度分布及び横力頻度分布が求められる(ステップSE9)。
次に、前後力とタイヤ1に作用する荷重との関係、及び横力とタイヤ1に作用する荷重との関係が対応付けられる(ステップSE10)。
本実施形態においては、前後力頻度分布に基づいて、前後力の各水準に対応する荷重が設定されるとともに、横力頻度分布に基づいて、横力の各水準に対応する荷重が設定される。
次に、処理装置50は、第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数と前後力及び横力とに基づいて、頻度分布のそれぞれの水準において、前後力及び横力に対応付けた第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSE11)。すなわち、前後力頻度分布及び横力頻度分布の各水準について、ステップSE7で設定した第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数を使って、第1の荷重補正摩擦エネルギーが求められる。第1の荷重補正摩擦エネルギーは、前後力及び横力に対応付けられている。
また、処理装置50は、車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSE8で設定した第2の荷重補正関数とに基づいて、ステップSE11で求めた第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、前後力及び横力に対応付けた第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSE12)。車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重は、ステップSE10で設定した前後力の各水準に対応する荷重及び横力の各水準に対応する荷重である。
処理装置50は、頻度分布のそれぞれの水準において、前後力及び横力に対応付けた摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める。
頻度分布の全水準についての摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたか否かが判断される(ステップSE13)。ステップSE13において、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されるまで、第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーの算出が行われる。
ステップSE13において、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時それぞれの頻度平均摩擦エネルギーが求められる(ステップSE14)。
駆動時における前後力と、駆動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。制動時における前後力と、制動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、制動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。旋回時における横力と、旋回時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。
全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギー(駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギー)の算出が終了したか否かが判断される(ステップSE15)。ステップSE15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、ステップSE11に戻り、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されるまで、同様の処理が実行される。
ステップSE15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと、制動時の頻度平均摩擦エネルギーと、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)が求められる(ステップSE16)。その平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される(ステップSE17)。
以上説明したように、本実施形態においても、走行時の横力頻度分布及び前後力頻度分布を考慮することで、タイヤ1の摩耗予測の精度をより向上することができる。
<第6実施形態>
第6実施形態について説明する。タイヤ1が装着される車両の走行状態を表す指標として、前後加速度及び横加速度がある。本実施形態においては、前後加速度頻度分布及び横加速度頻度分布に、タイヤ1に作用する横力、前後力、及び荷重を対応付ける。
図24は、本実施形態に係る摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。上述の実施形態に従って、タイヤ1に作用する初期荷重が設定される(ステップSF1)。
処理装置50は、自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、自由転動時、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時のそれぞれにおいて初期荷重が作用するタイヤ1の摩擦エネルギーを取得する(ステップSF2)。
すなわち、初期荷重が作用するときの、自由転動時の摩擦エネルギーEf、駆動時の摩擦エネルギーEd、制動時の摩擦エネルギーEb、右旋回時の摩擦エネルギーEcr、及び左旋回時の摩擦エネルギーEclのそれぞれが取得される。上述の実施形態と同様、摩擦エネルギーは、実測データに基づいて取得されてもよいし、シミュレーションデータに基づいて取得されてもよい。
全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されたか否かが判断される(ステップSF3)。ステップSF3において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されていないと判断された場合(Noの場合)、全条件についての摩擦エネルギーが取得されるまで、摩擦エネルギーの取得が行われる。
ステップSF3において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されたと判断された場合(Yesの場合)、摩擦エネルギー近似関数が設定される(ステップSF4)。
図6及び図7に示したように、自由転動、駆動、制動、旋回(右旋回及び左旋回)それぞれのタイヤ1の走行条件(転動条件)について、所定の初期荷重条件における摩擦エネルギーが取得される。図6に示した実測データに基づいて、図8に示したような摩擦エネルギー近似関数が設定される。図7に示した実測データに基づいて、図9に示したような摩擦エネルギー近似関数が設定される。
次に、上述の実施形態に従って、第1の荷重補正関数が設定される(ステップSF5)。また、上述の実施形態に従って、第2の荷重補正関数が設定される(ステップSF6)。
次に、タイヤ1が装着される車両の前後加速度頻度分布及び横加速度頻度分布が設定される(ステップSF7)。
図25は、制駆動時における車両の前後加速度と、その前後加速度で加速される頻度との関係の一例を示す。図26は、旋回時における車両の横加速度と、その横加速度で加速される頻度との関係の一例を示す。図25において、横軸は前後加速度、縦軸は頻度である。図26において、横軸は横加速度、縦軸は頻度である。
以下の説明においては、前後加速度とその前後加速度で加速される頻度との関係を適宜、前後加速度頻度分布(又は前後加速度頻度)、と称し、横加速度とその横加速度で加速される頻度との関係を適宜、横加速度頻度分布(又は横加速度頻度)、と称する。また、前後加速度頻度分布及び横加速度頻度分布を合わせて適宜、加速度頻度分布(又は加速度頻度)、と称する。
図25に示すように、一般に、制駆動時における車両の前後加速度は、−0.1G以上+0.1G以下の範囲内である可能性が高い。図26に示すように、一般に、旋回時における車両の横加速度は、−0.1G以上+0.1G以下の範囲内である可能性が高い。なお、図25及び図26に示す前後加速度頻度分布及び横加速度頻度分布は一例である。加速度頻度分布(前後加速度頻度分布及び横加速度頻度分布)は、車両(タイヤ1)の走行条件によって変化する。
次に、前後加速度(制駆動加速度)及び横加速度(旋回加速度)とタイヤ1に作用する前後力、横力、及び荷重との関係が対応付けられる(ステップSF8)。
図27は、車両に作用する前後加速度とタイヤ1に作用する前後力との関係を示す図である。図28は、車両に作用する横加速度とタイヤ1に作用する横力との関係を示す図である。図27及び図28に示すように、タイヤ1に作用する前後力及び横力は、車両に作用する前後加速度及び横加速度の関数として表すことができる。
図29は、車両に作用する前後加速度とタイヤ1に作用する荷重との関係を示す図である。図30は、車両に作用する横加速度とタイヤ1に作用する荷重との関係を示す図である。図29及び図30に示すように、タイヤ1に作用する荷重は、車両に作用する前後加速度及び横加速度の関数として表すことができる。
本実施形態においては、前後加速度頻度分布に基づいて、前後加速度の各水準に対応する荷重が設定されるとともに、横加速度頻度分布に基づいて、横加速度の各水準に対応する荷重が設定される。
タイヤ1に作用する荷重は、制駆動及び旋回それぞれの所定の条件において実測されてもよいし、実測値から回帰した近似式より求められてもよいし、動的な車両運動シミュレーションから求められてもよいし、車両諸元から解析的に求めた推定式から推定されてもよい。処理装置50は、これらの関係を用いて、前後力及び横力の頻度分布の各水準について、タイヤに作用する荷重を対応付ける。
次に、上述の実施形態に従って、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重が設定される(ステップSF9)。
次に、処理装置50は、摩擦エネルギー近似関数と前後加速度及び横加速度とに基づいて、頻度分布のそれぞれの水準において、前後加速度及び横加速度に対応付けた摩擦エネルギーを求める(ステップSF10)。すなわち、処理装置50は、前後加速度頻度分布及び横加速度頻度分布の各水準について、ステップSF4で設定した摩擦エネルギー近似関数を使って、摩擦エネルギーを求める。具体的には、処理装置50は、ステップSF4で設定した摩擦エネルギー近似関数と、前後加速度及び横加速度と、ステップSF8で設定した前後加速度に対応する前後力と、ステップSF8で設定した横加速度に対応する横力とに基づいて、摩擦エネルギーを求める。
図31は、車両に作用する前後加速度とタイヤ1の摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図32は、車両に作用する横加速度とタイヤ1の摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図31及び図32に示すように、タイヤ1の摩擦エネルギーは、車両に作用する前後加速度及び横加速度の関数として表すことができる。
次に、処理装置50は、ステップSF9で設定した車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSF5で設定した第1の荷重補正関数とに基づいて、ステップSF10で求めた摩擦エネルギーを補正して、前後加速度及び横加速度に対応付けた第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSF11)。
図33は、タイヤ1が装着される車両に作用する前後加速度とタイヤ1の第1の荷重補正摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図34は、車両に作用する横加速度とタイヤ1の第1の荷重補正摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図33及び図34に示すように、タイヤ1の第1の荷重補正摩擦エネルギーは、車両に作用する前後加速度及び横加速度の関数として表すことができる。
また、処理装置50は、車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSF6で設定した第2の荷重補正関数とに基づいて、ステップSF11で求めた第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、前後加速度及び横加速度に対応付けた第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSF12)。車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重は、ステップSF8で設定した前後加速度の各水準に対応する荷重及び横加速度の各水準に対応する荷重である。
図35は、タイヤ1が装着される車両に作用する前後加速度とタイヤ1の第2の荷重補正摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図36は、車両に作用する横加速度とタイヤ1の第2の荷重補正摩擦エネルギーとの関係を示す図である。図35及び図36に示すように、タイヤ1の第2の荷重補正摩擦エネルギーは、車両に作用する前後加速度及び横加速度の関数として表すことができる。
処理装置50は、頻度分布のそれぞれの水準において、前後加速度及び横加速度に対応付けた摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める。
頻度分布の全水準についての摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたか否かが判断される(ステップSF13)。ステップSF13において、全水準についての摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、全水準についての摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されるまで、摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーの算出が行われる。
ステップSF13において、全水準についての摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時それぞれの頻度平均摩擦エネルギーが求められる(ステップSF14)。
本実施形態においては、値が異なる複数の前後加速度及び横加速度の加速度それぞれに関して、第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積が求められる。図37は、図25に示した前後加速度の頻度と、図35に示した第2の荷重補正摩擦エネルギーとの積を示す。図38は、図26に示した横加速度の頻度と、図36に示した第2の荷重補正摩擦エネルギーとの積を示す。図37において、横軸は前後加速度、縦軸は摩擦エネルギーと頻度との積である。図38において、横軸は横加速度、縦軸は摩擦エネルギーと頻度との積である。
本実施形態においては、図37及び図38に示した前後加速度及び横加速度と第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値から頻度平均摩擦エネルギーが求められ、その頻度平均摩擦エネルギーに基づいてタイヤ1の摩耗が予測される。頻度平均摩擦エネルギーとは、値が異なるn数の前後加速度(又は横加速度)のそれぞれに関して第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積を求めた場合、それらn数の第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積の総和(積算値)を、頻度の総和で除した(割った)値をいう。
本実施形態においては、例えば、駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが順次求められる。
すなわち、駆動時における前後加速度と、駆動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。制動時における前後加速度と、制動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、制動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。旋回時における横加速度と、旋回時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。
全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギー(駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギー)の算出が終了したか否かが判断される(ステップSF15)。ステップSF15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、ステップSF10に戻り、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されるまで、同様の処理が実行される。
ステップSF15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと、制動時の頻度平均摩擦エネルギーと、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)が求められる(ステップSF16)。その平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される(ステップSF17)。
以上説明したように、本実施形態によれば、走行時の前後加速度頻度分布及び横加速度頻度分布を考慮することで、タイヤ1の摩耗予測の精度をより向上することができる。
なお、前後加速度及び横加速度に対応付ける前後力及び横力は、車両のトーインと駆動力配分、制動力配分、及び旋回と駆動と制動とに伴うタイヤに対する前後力及び横力の変化を考慮して設定するのがよい。
<第7実施形態>
第7実施形態について説明する。図39は、本実施形態に係る摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態は、上述の第6実施形態の変形例である。上述の第6実施形態においては、初期荷重条件における摩擦エネルギーを取得して摩擦エネルギー近似関数を設定し、摩擦エネルギー近似関数から求めた摩擦エネルギーに対して第1の荷重補正関数を使って補正(第1の荷重補正)する例について説明した。
本実施形態においては、初期荷重条件における摩擦エネルギーを取得して、取得した摩擦エネルギーに対して第1の荷重補正関数を使って補正(第1の荷重補正)を行う。その後、第1の荷重補正を行った摩擦エネルギーから摩擦エネルギー近似関数(第1の荷重補正摩擦エネルギー関数)を設定し、第1の荷重補正摩擦エネルギー関数から第1の荷重補正摩擦エネルギーを算出する。
図39に示すように、上述の実施形態に従って、タイヤ1に作用する初期荷重が設定される(ステップSG1)。
次に、上述の実施形態に従って、第1の荷重補正関数が設定される(ステップSG2)。
次に、上述の実施形態に従って、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重が設定される(ステップSG3)。
処理装置50は、自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、自由転動時、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時のそれぞれにおいて初期荷重が作用するタイヤ1の摩擦エネルギーを取得する(ステップSG4)。
すなわち、初期荷重が作用するときの、自由転動時の摩擦エネルギーEf、駆動時の摩擦エネルギーEd、制動時の摩擦エネルギーEb、右旋回時の摩擦エネルギーEcr、及び左旋回時の摩擦エネルギーEclのそれぞれが取得される。上述の実施形態と同様、摩擦エネルギーは、実測データに基づいて取得されてもよいし、シミュレーションデータに基づいて取得されてもよい。
次に、処理装置50は、ステップSG3で設定された車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSG2で設定した第1の荷重補正関数とに基づいて、ステップSG4で取得した摩擦エネルギーを補正して、第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSG5)。
全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての第1の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたか否かが判断される(ステップSG6)。ステップSG6において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての第1の荷重補正摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、全条件についての第1の荷重補正摩擦エネルギーが算出されるまで、第1の荷重補正摩擦エネルギーの算出が行われる。
ステップSG6において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての第1の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数が設定される(ステップSG7)。
第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数とは、第1の荷重補正摩擦エネルギーのデータを使って導出される近似関数をいう。
次に、上述の実施形態に従って、第2の荷重補正関数が設定される(ステップSG8)。
次に、上述の実施形態に従って、前後加速度頻度分布及び横加速度頻度分布が設定される(ステップSG9)。前後加速度頻度分布とは、自由転動、駆動、制動、及び旋回(右旋回及び左旋回)を含むタイヤ1が装着される車両の走行条件に基づいて、車両に作用する前後加速度とその前後加速度が作用する頻度との関係を示す。横加速度頻度分布とは、自由転動、駆動、制動、及び旋回(右旋回及び左旋回)を含むタイヤ1が装着される車両の走行条件に基づいて、車両に作用する横加速度とその横加速度が作用する頻度との関係を示す。
次に、前後加速度とタイヤ1に作用する前後力、横力、及び荷重との関係、及び横加速度とタイヤ1に作用する前後力、横力、及び荷重との関係が対応付けられる(ステップSG10)。
タイヤ1に作用する荷重は、車両に作用する前後加速度及び横加速度の関数として表すことができる。本実施形態においては、前後加速度頻度分布に基づいて、前後加速度の各水準に対応する荷重が設定されるとともに、横加速度頻度分布に基づいて、横加速度の各水準に対応する荷重が設定される。
次に、処理装置50は、ステップSG7で設定した第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数と前後加速度及び横加速度とに基づいて、頻度分布のそれぞれの水準において、前後加速度及び横加速度に対応付けた第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSG11)。すなわち、前後加速度頻度分布及び横加速度頻度分布の各水準について、ステップSG7で設定した第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数を使って、第1の荷重補正摩擦エネルギーが求められる。具体的には、処理装置50は、ステップSG7で設定した第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数と、前後加速度及び横加速度と、ステップSG10で設定した前後加速度に対応する前後力と、ステップSG10で設定した横加速度に対応する横力とに基づいて、第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める。
次に、処理装置50は、車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSG8で設定した第2の荷重補正関数とに基づいて、ステップSG11で求めた第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、前後加速度及び横加速度に対応付けた第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSG12)。車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重は、ステップSG10で設定した前後加速度の各水準に対応する荷重及び横加速度の各水準に対応する荷重である。
処理装置50は、頻度分布のそれぞれの水準において、前後加速度及び横加速度に対応付けた第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める。
頻度分布の全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたか否かが判断される(ステップSG13)。ステップSG13において、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されるまで、第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーの算出が行われる。
ステップSG13において、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時それぞれの頻度平均摩擦エネルギーが求められる(ステップSG14)。
駆動時における前後加速度と、駆動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。制動時における前後加速度と、制動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、制動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。旋回時における横加速度と、旋回時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。
全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギー(駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギー)の算出が終了したか否かが判断される(ステップSG15)。ステップSG15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、ステップSG11に戻り、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されるまで、同様の処理が実行される。
ステップSG15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと、制動時の頻度平均摩擦エネルギーと、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)が求められる(ステップSG16)。その平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される(ステップSG17)。
以上説明したように、本実施形態においても、走行時の横加速度頻度分布及び前後加速度頻度分布を考慮することで、タイヤ1の摩耗予測の精度をより向上することができる。
<第8実施形態>
第8実施形態について説明する。図40は、本実施形態に係る摩耗予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態は、上述の第6実施形態及び第7実施形態の変形例である。
本実施形態においては、初期荷重条件にて摩擦エネルギーを取得して摩擦エネルギー近似関数を設定し、摩擦エネルギー近似関数に対して第1の荷重補正を行い、第1の荷重補正摩擦エネルギー関数を設定する。その後、第1の荷重補正摩擦エネルギー関数から第1の荷重補正摩擦エネルギーを算出する。
図40に示すように、まず、タイヤ1に作用する初期荷重が設定される(ステップSH1)。
処理装置50は、自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回を含むタイヤ1の走行条件に基づいて、自由転動時、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時のそれぞれにおいて初期荷重が作用するタイヤ1の摩擦エネルギーを取得する(ステップSH2)。
すなわち、初期荷重が作用するときの、自由転動時の摩擦エネルギーEf、駆動時の摩擦エネルギーEd、制動時の摩擦エネルギーEb、右旋回時の摩擦エネルギーEcr、及び左旋回時の摩擦エネルギーEclのそれぞれが取得される。上述の実施形態と同様、摩擦エネルギーは、実測データに基づいて取得されてもよいし、シミュレーションデータに基づいて取得されてもよい。
全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されたか否かが判断される(ステップSH3)。ステップSH3において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されていないと判断された場合(Noの場合)、全条件についての摩擦エネルギーが取得されるまで、摩擦エネルギーの取得が行われる。
ステップSH3において、全条件(自由転動、駆動、制動、右旋回、及び左旋回)についての摩擦エネルギーが取得されたと判断された場合(Yesの場合)、ステップSH2で取得した摩擦エネルギーに基づいて、摩擦エネルギー近似関数が設定される(ステップSH4)。図6、図7、図8、及び図9を参照して説明したように、取得した摩擦エネルギーデータ(例えば実測データ)に基づいて、摩擦エネルギー近似関数が設定される。
次に、上述の実施形態に従って、第1の荷重補正関数が設定される(ステップSH5)。
次に、上述の実施形態に従って、車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重が設定される(ステップSH6)。
処理装置50は、ステップSH6で設定した車両の静止時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSH5で設定した第1の荷重補正関数とに基づいて、ステップSH4で設定した摩擦エネルギー近似関数を補正して、第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数を求める(ステップSH7)。
次に、上述の実施形態に従って、第2の荷重補正関数が設定される(ステップSH8)。
次に、タイヤ1が装着される車両の走行条件に基づいて、車両に作用する前後加速度頻度分布及び横加速度頻度分布が設定される(ステップSH9)。
次に、前後加速度とタイヤ1に作用する前後力、横力、及び荷重との関係、及び横加速度とタイヤ1に作用する前後力、横力、及び荷重との関係が対応付けられる(ステップSH10)。
本実施形態においては、前後加速度頻度分布に基づいて、前後加速度の各水準に対応する荷重が設定されるとともに、横加速度頻度分布に基づいて、横加速度の各水準に対応する荷重が設定される。
次に、処理装置50は、第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数と前後加速度及び横加速度とに基づいて、頻度分布のそれぞれの水準において、前後加速度及び横加速度に対応付けた第1の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSH11)。すなわち、前後加速度頻度分布及び横加速度頻度分布の各水準について、ステップSH7で設定した第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数を使って、第1の荷重補正摩擦エネルギーが求められる。第1の荷重補正摩擦エネルギーは、前後加速度及び横加速度に対応付けられている。具体的には、処理装置50は、ステップSH7で設定した第1の荷重補正摩擦エネルギー近似関数と、前後加速度及び横加速度と、ステップSH10で設定した前後加速度に対応する前後力と、ステップSH10で設定した横加速度に対応する横力とに基づいて、摩擦エネルギーを求める。
また、処理装置50は、車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重と、ステップSH8で設定した第2の荷重補正関数とに基づいて、ステップSH11で求めた第1の荷重補正摩擦エネルギーを補正して、前後加速度及び横加速度に対応付けた第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める(ステップSH12)。車両の走行時にタイヤ1に作用する荷重は、ステップSH10で設定した前後加速度の各水準に対応する荷重及び横加速度の各水準に対応する荷重である。
処理装置50は、頻度分布のそれぞれの水準において、前後加速度及び横加速度に対応付けた摩擦エネルギー、第1の荷重補正摩擦エネルギー、及び第2の荷重補正摩擦エネルギーを求める。
頻度分布の全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたか否かが判断される(ステップSH13)。ステップSH13において、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されるまで、第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーの算出が行われる。
ステップSH13において、全水準についての第1の荷重補正摩擦エネルギー及び第2の荷重補正摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時、制動時、右旋回時、及び左旋回時それぞれの頻度平均摩擦エネルギーが求められる(ステップSH14)。
駆動時における前後加速度と、駆動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。制動時における前後加速度と、制動時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、制動時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。旋回時における横加速度と、旋回時における第2の荷重補正摩擦エネルギーと頻度との積算値とに基づいて、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーが求められる。
全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギー(駆動時の頻度平均摩擦エネルギー、制動時の頻度平均摩擦エネルギー、及び旋回時の頻度平均摩擦エネルギー)の算出が終了したか否かが判断される(ステップSH15)。ステップSH15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されていないと判断された場合(Noの場合)、ステップSH11に戻り、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されるまで、同様の処理が実行される。
ステップSH15において、全ての走行条件における頻度平均摩擦エネルギーが算出されたと判断された場合(Yesの場合)、駆動時の頻度平均摩擦エネルギーと、制動時の頻度平均摩擦エネルギーと、旋回時の頻度平均摩擦エネルギーとの平均値(平均摩擦エネルギー)が求められる(ステップSH16)。その平均摩擦エネルギーに基づいて、タイヤ1の摩耗が予測される(ステップSH17)。
以上説明したように、本実施形態においても、走行時の横加速度頻度分布及び前後加速度頻度分布を考慮することで、タイヤ1の摩耗予測の精度をより向上することができる。
なお、上述の各実施形態において、第1の荷重補正関数及び第2の荷重補正関数はそれぞれ、旋回条件における荷重補正関数と、制動条件及び駆動条件における荷重補正関数とを含む。旋回条件の荷重補正関数、駆動条件の荷重補正関数、及び制動条件の荷重補正関数が、以下の式で表されてもよい。
また、旋回条件の第1の荷重補正関数、駆動条件の第1の荷重補正関数、制動条件の第1の荷重補正関数、自由転動条件の第1の荷重補正関数、旋回条件の第2の荷重補正関数、駆動条件の第2の荷重補正関数、制動条件の第2の荷重補正関数、及び自由転動条件の第2の荷重補正関数が、以下の式で表されてもよい。
旋回スティフネスと制駆動スティフネスの荷重依存性が異なるため、摩擦エネルギーの荷重依存性は、旋回条件と制駆動条件で異なる。旋回条件と制駆動条件の荷重補正関数を別々に設定して、それぞれ荷重補正を行うことで、より精度良く摩耗性能を予測することができる。
第1の荷重補正関数と第2の荷重補正関数とを含む場合、第1の荷重補正関数と第2の荷重補正関数とのそれぞれについて、旋回条件における荷重補正関数と、制動条件と駆動条件における荷重補正関数を設定し、摩擦エネルギーを荷重補正することが好ましい。
<第9実施形態>
第9実施形態について説明する。本実施形態においては、タイヤ1の半径(動的負荷半径)と、トレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量と、求めた摩擦エネルギーとに基づいて、単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量を求める手順と、求めたトレッドゴム6の摩耗量に基づいて、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗を予測する手順と、が実行される。タイヤ1の半径は、タイヤ1が1回転した際に転動した距離を2πで除した転がり半径である。
図41は、半径が大きいタイヤ1Pと半径が小さいタイヤ1Qとが転動している状態を示す模式図である。タイヤ1(トレッドゴム6)は、路面と接触することによって摩耗する。タイヤ1Pとタイヤ1Qとが等しい距離を走行する場合、半径が小さいタイヤ1Qは、半径が大きいタイヤ1Pよりも、より多く転がり、路面と接触する機会が多い。そのため、半径が大きいタイヤ1Pよりも、半径が小さいタイヤ1Qのほうが摩耗しやすい。そこで、タイヤ1の半径と、トレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量と、求めた摩擦エネルギーとに基づいて、単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量を求めることができる。トレッドゴム6の単位摩擦エネルギー当たりの摩耗量は、トレッドゴム6の材料特性(耐摩耗物性)に依存する。求めた単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量に基づいて、タイヤ1(トレッドゴム6)の摩耗が予測される。
本実施形態によれば、トレッドゴム6の耐摩耗物性に加えて、タイヤ1の半径(動的負荷半径)の影響を考慮することで、単位走行距離当たりのタイヤ1の回転数の違いを考慮して、タイヤ1の摩耗をより精度良く予測することができる。
なお、上述の各実施形態において、単位走行距離当たりのトレッドゴム6の摩耗量と有効溝深さとに基づいて、タイヤ1の摩耗寿命を予測してもよい。
<第10実施形態>
第10実施形態について説明する。上述の実施形態において、タイヤ1が装着される車両の右輪及び左輪のそれぞれについてタイヤ1の摩耗を予測する手順と、右輪のタイヤ1の摩耗と左輪のタイヤ1の摩耗との平均摩耗を予測する手順と、を含むようにしてもよい。
本実施形態によれば、走行条件による右輪と左輪の違いと、路面のカントや車両のアライメントによる右輪と左輪の違いに加えて、これらの違いによる右輪と左輪の荷重の違いを考慮し、平均することで、右輪と左輪の違いを考慮した平均的なタイヤ1の摩耗予測が可能になる。
<第11実施形態>
第11実施形態について説明する。上述の各実施形態において、タイヤ1が装着される車両の前輪及び後輪のそれぞれについてタイヤ1の摩耗を予測する手順と、前輪のタイヤ1の摩耗と後輪のタイヤ1の摩耗との平均摩耗、及び前輪のタイヤ1の摩耗と後輪のタイヤ1の摩耗との摩耗比の一方又は両方を予測する手順と、を含むようにしてもよい。
本実施形態によれば、車両や走行条件による前輪と後輪の違いと、これらの違いによる前輪と後輪の荷重の違いを考慮することにより、ローテーション時のタイヤ摩耗、及び前輪と後輪の摩耗比を精度良く予測することができる。
なお、上述の各実施形態において、タイヤ1の摩耗予測は、コンピュータが行うこととした。本実施形態に係るタイヤ1の摩耗予測方法の全部がコンピュータによって行われてもよいし、一部がコンピュータによって行われ、一部が手動で行われてもよいし、全部が手動によって行われてもよい。
<実施例>
次に、本発明に係る実施例について説明する。本発明者は、実際のタイヤについて走行試験を行うとともに、上述の実施形態に従ってタイヤ1の摩耗予測を行い、実際のタイヤ1の摩耗状態と摩耗予測とを比較した。
走行試験は、3台の試験車両にそれぞれ3種類の試験タイヤを装着して、テストコースを8000km走行し、前輪及び後輪のそれぞれについて、主溝の摩耗量から左右輪の平均摩耗量を求めて、前輪と後輪の摩耗量比(=前輪摩耗量/後輪摩耗量)を比較した。
試験車両1として、排気量1.3LのFFハッチバックタイプ、試験車両2として、排気量3.5LのFFミニバンタイプ、試験車両3として、排気量0.66LのFFミニバンタイプを使用した。
試験車両1には、タイヤA、タイヤB、及びタイヤCを装着した。タイヤAは、165/70R14・81S、タイヤBは、175/65R15・84H、タイヤCは、195/50R16・84Vである。
試験車両2には、タイヤD、タイヤE、及びタイヤFを装着した。タイヤDは、215/65R16・98H、タイヤEは、235/50R18・97V、タイヤFは、245/40R20・99Wである。
試験車両3には、タイヤG、タイヤH、及びタイヤIを装着した。タイヤGは、145/80R13・75S、タイヤHは、155/65R13・73S、タイヤIは、155/65R13・73Sである。
図42及び図43に比較結果を示す。図42は、比較例(従来例)を示す。図42において、横軸は、実際のタイヤを使った走行試験から得られた前輪と後輪との摩耗比を示す。縦軸は、車両走行時の加速度に、タイヤに作用する横力及び前後力を対応付けて、加速度頻度分布の各水準にて、「車両静止時」の初期荷重におけるタイヤパラメータから摩擦エネルギーを算出し、頻度平均摩擦エネルギーから前輪と後輪との摩耗比を予測した。
図43は、本発明に係る実施例を示す。図43において、横軸は、実際のタイヤを使った走行試験から得られた前輪と後輪との摩耗比を示す。縦軸は、車両走行時の加速度に、タイヤに作用する横力、前後力、及び荷重を対応付けて、初期荷重にてタイヤパラメータを求めて摩耗エネルギーを算出し、第1及び第2の荷重補正関数にて荷重補正した荷重補正摩擦エネルギーから求めた頻度平均摩擦エネルギーより前輪と後輪との摩耗比を予測した。
図42及び図43において、「○」は、試験車両1のタイヤA、B、Cについての結果を示し、「◇」は、試験車両2のタイヤD、E、Fについての結果を示し、「△」は、試験車両3のタイヤG、H、Iについての結果を示す。
走行試験から得られた前輪と後輪との摩耗比と、摩耗予測方法に基づいて予測した前輪と後輪との摩耗比との差が小さいほど、実際の摩耗試験結果と摩耗予測結果とが一致していることになる。図を分かり易くするために、図42及び図43のグラフにおいてy=xを示すラインを併記した。また、図42及び図43のグラフにおいて、各結果を最小二乗法で1次関数で近似したラインを併記した。「○」、「◇」、「△」のそれぞれがy=xを示すラインの近くに配置されるほど、実際の摩耗試験結果と摩耗予測結果とが一致していることになる。図42に示すように、従来例に係る摩耗予測方法においては、実際の摩耗試験結果と摩耗予測結果とが離れてしまっているが、図43に示すように、本発明に係る摩耗予測方法においては、実際の摩耗試験結果と摩耗予測結果とが一致することが確認できた。