以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、タイヤの使用条件頻度分布取得方法(以下、単に「取得方法」ということがある。)、及び、タイヤの摩耗量予測方法(以下、単に「予測方法」ということがある。)が実行されるコンピュータ1の一例を示すブロック図である。
本実施形態のコンピュータ1は、入力デバイスとしての入力部2、出力デバイスとしての出力部3、及び、タイヤの物理量等を計算する演算処理装置4を有し、タイヤの使用条件頻度分布取得装置(以下、単に「取得装置」ということがある。)1A、及び、タイヤの摩耗量予測装置(以下、単に「予測装置」ということがある。)1Bとして構成されている。
入力部2は、例えば、キーボード又はマウス等が用いられる。出力部3は、例えば、ディスプレイ装置又はプリンタ等が用いられる。演算処理装置4は、各種の演算を行う演算部(CPU)4A、データやプログラム等が記憶される記憶部4B、及び、作業用メモリ4Cを含んで構成されている。
記憶部4Bは、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。記憶部4Bには、データ部5及びプログラム部6が設けられている。
データ部5は、車両の走行履歴が記憶される走行履歴入力部5aと、タイヤの転がり抵抗が記憶される転がり抵抗入力部5bと、タイヤの使用条件頻度分布を記憶するための使用条件頻度分布入力部5cと、影響因子を記憶するための影響因子入力部5dと、車両の加速度頻度分布を記憶するための加速度頻度分布入力部5eとを含んで構成されている。
さらに、データ部5は、評価対象のタイヤや路面に関する情報(例えば、CADデータ等)が記憶される初期データ部5f、タイヤモデル及び路面モデルが入力されるモデル入力部5g、シミュレーションの境界条件が入力される境界条件入力部5h、及び、演算部4Aが計算した物理量が入力される物理量入力部5iが含まれている。
プログラム部6は、演算部4Aによって実行されるプログラムである。プログラム部6には、タイヤの使用条件頻度分布を取得する使用条件頻度分布取得部6a、影響因子を取得する影響因子取得部6b、及び、車両の加速度頻度分布を取得する加速度頻度分布取得部6cを含んで構成されている。さらに、本実施形態のプログラム部6は、タイヤモデルの摩耗エネルギーを計算する摩耗エネルギー計算部6dと、タイヤの摩耗量を計算する摩耗量計算部6eとを含んで構成されている。
次に、本実施形態の取得方法について説明する。本実施形態の取得方法は、車両に装着されたタイヤの使用条件と、その頻度との関係を示すタイヤの使用条件頻度分布が取得される。タイヤの使用条件頻度分布は、後述の予測方法において、タイヤのトレッド部の摩耗エネルギーの重み付けに用いられる。図2は、車両に作用する加速度及び影響因子を説明する概念図である。
本明細書において、タイヤの使用条件とは、駆動時及び制動時(前後方向)、及び、左旋回時及び右旋回時(左右方向)に、タイヤに作用する力を意味している。このようなタイヤの使用条件は、タイヤが装着される車両の加速度Aと、車両の質量とに基づいて求めることができる。
ところで、走行中の車両11には、タイヤの使用条件に影響する影響因子Rが作用している。影響因子Rの一例としては、転がり抵抗Rrや空気抵抗が含まれる。しかしながら、加速度センサー等で測定された車両の加速度Aは、影響因子Rが考慮されていない。従って、車両の加速度Aと、実際のタイヤに作用する力(使用条件B)とは、乖離している。本実施形態の取得方法では、車両の加速度Aと、車両の質量と、影響因子Rに基づいて、タイヤの使用条件頻度分布を取得している。図3は、取得方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の取得方法では、先ず、図2に示した車両11の加速度頻度分布が取得される(工程S1)。車両の加速度頻度分布は、車両の加速度Aと、その頻度との関係を示すものである。車両の加速度Aは、従来と同様に、予め提供された車両11(図2に示す)の走行履歴を用いて取得される。本実施形態の車両11としては、例えば乗用車である場合が例示されるが、特に限定されるわけではなく、例えば、トラック又はバス等であってもよい。車両11には、例えば、図示しない速度計及び加速度センサーが取り付けられている。
車両11の走行履歴は、例えば、高速道路、山岳路、及び、一般道を含む経路に、車両11を走行させることによって取得される。この取得された走行履歴は、本実施形態の取得方法が実施される前に、走行履歴入力部5a(図1に示す)に入力されている。
工程S1では、先ず、走行履歴入力部5a(図1に示す)に予め入力されている走行履歴が、作業用メモリ4C(図1に示す)に入力される。さらに、図1に示したプログラム部6の加速度頻度分布取得部6cが、作業用メモリ4Cに入力される。そして、加速度頻度分布取得部6cが、演算部4A(図1に示す)によって実行される。
本実施形態の工程S1では、先ず、車両11(図2に示す)の走行履歴を用いて、車両11の前後方向(駆動及び制動)の加速度A、及び、左右方向(右旋回及び左旋回)の加速度Aの双方が、予め定められた距離間隔(例えば、5~15m)毎に取得されている。なお、工程S1では、取得すべき車両の使用条件頻度分布(加速度頻度分布)に応じて、前後方向の加速度A、又は、左右方向の加速度Aの一方のみが取得されていてもよい。また、前後方向の加速度A及び左右方向の加速度Aは、予め定められた時間間隔(例えば、0.1~1.0秒)毎に取得されてもよい。そして、本実施形態の工程S1では、車両の加速度(前後方向(駆動及び制動)の加速度、及び、左右方向(右旋回及び左旋回)の加速度)Aを用いて、車両の加速度と、その頻度との関係を示す車両の加速度頻度分布が取得される。
図4は、車両の加速度頻度分布の一例を示すグラフである。図4のグラフにおいて、車両の加速度の頻度の大きさは、色付けの濃淡で示されており、色が濃いほど、頻度が大きいことを示している。車両の前後方向の加速度Aを示す縦軸において、0よりも上へ向かうほど、前方向(駆動時)の加速度が大きいことを示しており、0よりも下に向かうほど、後方向(制動時)の加速度Aが大きいことを示している。また、車両の左右方向の加速度Aを示す横軸において、0よりも右に向かうほど、右方向(右旋回時)の加速度が大きいことを示しており、0よりも左に向かうほど、左方向(左旋回時)の加速度Aが大きいことを示している。車両の加速度頻度分布は、加速度頻度分布入力部5eに記憶される。
次に、本実施形態の取得方法では、図2に示した車両11の影響因子Rを取得する(工程S2)。影響因子Rは、車両11に装着されたタイヤ12の転がり抵抗Rrを少なくとも含んでいる。
転がり抵抗Rrは、走行速度に比例して大きくなる空気抵抗とは異なり、空気抵抗が大きい高速走行時だけでなく、空気抵抗が小さい低速走行時においても、車両11に大きく作用している。即ち、転がり抵抗Rrは、空気抵抗と比べて、速度依存性が小さい。また、転がり抵抗Rrは、前後方向の加速度Aがゼロとなる定速走行時を含め、走行中の車両11(タイヤ12)に、常に作用している。
転がり抵抗Rrの測定は、従来と同様の手順で実施される。例えば、転がり抵抗試験機を用い、予め定められた測定条件(例えば、室温、荷重、内圧、リム、速度、及び、アライメント(トー角、キャンバー角))において、タイヤの転がり抵抗(単位:N)が測定される。
測定条件は、車両11に装着されるタイヤ12の種類に応じて、適宜設定される。速度については、転がり抵抗Rrが一定の速度で測定されれば、特に限定されない。本実施形態の速度は、例えば、20~120km/hに設定される。測定された転がり抵抗は、本実施形態の取得方法が実施される前に、転がり抵抗入力部5b(図1に示す)に予め入力されている。
工程S2では、図1に示した転がり抵抗入力部5bに記憶されている転がり抵抗Rrが、作業用メモリ4Cに入力される。また、工程S2では、図1に示したプログラム部6の影響因子取得部6bが、作業用メモリ4Cに入力される。そして、影響因子取得部6bが、演算部4A(図1に示す)によって実行される。
本実施形態の工程S2では、転がり抵抗Rrが、影響因子Rとして特定される。特定された影響因子は、影響因子入力部5d(図1に示す)に入力される。
次に、本実施形態の取得方法では、タイヤの使用条件頻度分布を取得する(工程S3)。工程S3では、車両の加速度頻度分布(図4に示す)に含まれる車両の加速度Aと、車両の質量と、影響因子R(本実施形態では、転がり抵抗Rr)とに基づいて、タイヤの使用条件頻度分布が取得される。
工程S3では、先ず、図1に示した加速度頻度分布入力部5eに記憶されている車両の加速度頻度分布、及び、図1に示した影響因子入力部5dに記憶されている影響因子Rが、作業用メモリ4Cに入力される。次に、使用条件頻度分布取得工程S3では、図1に示したプログラム部6の使用条件頻度分布取得部6aが、作業用メモリ4Cに入力される。そして、使用条件頻度分布取得工程S3では、使用条件頻度分布取得部6aが、演算部4A(図1に示す)によって実行される。
本実施形態の工程S3では、先ず、車両の加速度頻度分布(図4に示す)の各頻度の加速度に、車両の質量がそれぞれ乗じられる。そして、車両の前後方向の加速度Aに車両の質量を乗じた値(前後方向でタイヤに作用する力)に、影響因子R(本実施形態では、転がり抵抗Rr)が加算される。なお、車両の左右方向の加速度Aに車両の質量を乗じた値(左右方向の力)については、転がり抵抗Rrを無視することができる。そして、車両の加速度Aに車両の質量を乗じた値(即ち、影響因子Rが考慮された前後方向の力、及び、左右方向の力)を、駆動輪の本数でそれぞれ除することで、タイヤの使用条件(前後方向、及び、左右方向)がそれぞれ求められる。これにより、タイヤの使用条件頻度分布が取得されている。図5は、タイヤの使用条件頻度分布の一例を示すグラフである。
このように、タイヤの使用条件頻度分布に含まれるタイヤの使用条件は、車両の加速度A、車両の質量、及び、転がり抵抗Rrを少なくとも含む影響因子Rを考慮して求められているため、空気抵抗のみが考慮される場合に比べて、実際にタイヤ12に作用する力に近似する。従って、タイヤの使用条件頻度分布は、後述の予測方法で用いられることで、タイヤ12の摩耗量を高い精度で求めるのに役立つ。
本実施形態の取得方法は、車両の加速度頻度分布の各頻度を維持したまま、タイヤの使用条件を求めることができる。これにより、図5に示されるように、本実施形態の取得方法は、車両の加速度頻度分布に含まれる各頻度の加速度Aに車両の質量を乗じた値(即ち、図5に示される「タイヤの前後方向の使用条件」と、「影響因子(転がり抵抗)を考慮する前のタイヤの左右方向の使用条件(2点鎖線)」とで表された頻度分布の値)を、影響因子Rに基づいて一括で変換(シフト)することで、タイヤ12の使用条件をそれぞれ求めることができる。従って、本実施形態の取得方法(取得装置)は、タイヤの使用条件頻度分布を簡単に取得することができる。タイヤの使用条件頻度分布は、使用条件頻度分布入力部5c(図1に示す)に記憶される。
図2に示した車両11において、影響因子Rには、転がり抵抗Rrの他に、空気抵抗(図示省略)、及び、車両11の構成部材同士の摩擦抵抗(図示省略)等を含んでいる。発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、走行中の車両11に作用する全ての影響因子Rに対して、転がり抵抗Rrの割合は、25%~70%であることを知見した。
このような知見に基づいて、影響因子を取得する工程S2(図3に示す)では、転がり抵抗Rrを1.5~3.5倍した値を、影響因子Rとして特定されるのが望ましい。これにより、本実施形態の取得方法(取得装置)では、転がり抵抗Rrだけでなく、空気抵抗(図示省略)、及び、車両11の構成部材同士の摩擦抵抗(図示省略)等を含む全ての影響因子Rを考慮したタイヤの使用条件頻度分布を取得することができる。従って、本実施形態の取得方法(取得装置)は、タイヤ12の摩耗量を、より精度よく予測することができるタイヤの使用条件頻度分布を取得することができる。また、本実施形態では、空気抵抗、及び、車両11の構成部材同士の摩擦抵抗を測定しなくても、これらの影響因子Rを考慮することができるため、計算時間及び計算コストの増大を防ぐことができる。
次に、本実施形態の予測方法について説明する。本実施形態の予測方法は、取得方法で取得されたタイヤの使用条件頻度分布(図5に示す)を用いて、図2に示したタイヤ12のトレッド部の摩耗量が予測される。図6は、予測方法で摩耗量が予測されるタイヤ12の一例を示す断面図である。
本実施形態のタイヤ12は、例えば乗用車用タイヤである場合が例示されるが、特に限定されるわけではなく、例えば、トラック又はバスに用いられる重荷重用タイヤであってもよい。本実施形態のタイヤ12は、従来のタイヤと同様に、トレッド部12aからサイドウォール部12bを経てビード部12cのビードコア13に至るカーカス14と、このカーカス14のタイヤ半径方向外側かつトレッド部12aの内部に配されるベルト層15とが設けられている。
トレッド部12aには、タイヤ周方向に連続してのびる周方向溝16(センター主溝16A、ショルダー主溝16B)が設けられる。これにより、トレッド部12aは、周方向溝16で区分された複数の縦陸部17が設けられる。本実施形態の縦陸部17は、センター縦陸部17A、ミドル縦陸部17B及びショルダー縦陸部17Cを含んでいる。各縦陸部17A~17Cには、周方向溝16と交差する向きにのびる横溝(図示省略)等が、タイヤ周方向に隔設されてもよい。図7は、予測方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の予測方法は、図6に示したトレッド部12aの予め定められた評価対象位置18において、摩耗エネルギーを計算する(摩耗エネルギー計算工程S4)。
本実施形態の摩耗エネルギー計算工程S4では、車両11(図2に示す)の前後方向(駆動及び制動)の摩耗エネルギー、及び、左右方向(右旋回及び左旋回)の摩耗エネルギーの双方が取得される。なお、摩耗量を予測すべき走行条件に応じて、車両の前後方向の摩耗エネルギー、又は、左右方向の摩耗エネルギーの一方のみが取得されてもよい。
本実施形態において、前後方向(駆動及び制動)の摩耗エネルギー、及び、左右方向(右旋回及び左旋回)の摩耗エネルギーは、単位距離当たりの摩耗エネルギーとしてそれぞれ取得される。単位距離としては、工程S1で加速度が取得される距離間隔に設定されるのが望ましい。これらの摩耗エネルギーは、コンピュータを用いたタイヤのシミュレーションによって計算される。
評価対象位置18としては、適宜設定することができる。本実施形態の評価対象位置18は、トレッド部12aの各縦陸部17として設定される。なお、評価対象位置18は、センター主溝16Aの溝縁、ショルダー主溝16Bの溝縁、及び、ショルダーラグ溝(図示省略)の溝縁でもよい。
本実施形態の摩耗エネルギー計算工程S4では、初期データ部5f(図1に示す)に記憶されている評価対象のタイヤ12(図6に示す)や路面20(図2に示す)に関する情報(例えば、CADデータ等)が、作業用メモリ4C(図1に示す)に読み込まれる。また、境界条件入力部5h(図1に示す)に記載されているシミュレーションの境界条件が、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、図1に示したプログラム部6の摩耗エネルギー計算部6dが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、摩耗エネルギー計算部6dが、演算部4A(図1に示す)によって実行される。図8は、摩耗エネルギー計算工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の摩耗エネルギー計算工程S4では、先ず、コンピュータ1に、図6に示したタイヤ12をモデル化したタイヤモデルが設定される(工程S41)。図9は、タイヤモデル21の一例を示す断面図である。
工程S41では、タイヤ12(図6に示す)に関する情報に基づいて、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化している。これにより、タイヤ12がモデル化されたタイヤモデル21が設定される。タイヤモデル21のトレッド部21aには、周方向溝16(図6に示す)を再現した周方向溝モデル22と、評価対象位置18である縦陸部17(図6に示す)を再現した縦陸部モデル23とが設定されている。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用されている。
要素G(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。各要素G(i)には、複数個の節点25が設けられる。このような各要素G(i)には、要素番号、節点25の番号、節点25の座標値及び材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。タイヤモデル21は、モデル入力部5g(図1に示す)に記憶される。
次に、本実施形態の摩耗エネルギー計算工程S4では、コンピュータ1に、路面20(図2に示す)をモデル化した路面モデルが設定される(工程S42)。図10は、タイヤモデル21及び路面モデル26の一例を示す斜視図である。
工程S42では、路面20(図2に示す)に関する情報に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素H(i)(i=1、2、…)で離散化する。これにより、工程S42では、路面20(図2に示す)をモデル化した路面モデル26が設定される。要素H(i)は、変形不能に設定された剛平面要素からなる。この要素H(i)には、複数の節点28が設けられる。さらに、要素H(i)は、要素番号や、節点28の座標値等の数値データが定義される。
本実施形態では、路面モデル26として、平滑な表面を有するものが例示されたが、必要に応じて、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設けられても良い。路面モデル26は、モデル入力部5g(図1に示す)に記憶される。
次に、本実施形態の摩耗エネルギー計算工程S4では、タイヤモデル21に境界条件が定義される(工程S43)。図9及び図10に示されるように、境界条件としては、例えば、タイヤモデル21の内圧条件、負荷荷重条件L、キャンバー角、及び、タイヤモデル21と路面モデル26との間の摩擦係数等が設定される。さらに、境界条件としては、タイヤモデル21のトルクTL、横力(図示省略)、及び、タイヤモデル21の走行速度Vに対応する路面モデル26の並進速度V2が設定される。
前後方向の摩耗エネルギーを計算する後述の工程S45において、トルクTLには、タイヤ12(図2に示す)の駆動時及び制動時に対応するトルクが設定され、横力(図示省略)には、ゼロが設定される。また、左右方向の摩耗エネルギーを計算する後述の工程S46において、横力(図示省略)には、タイヤ12の旋回時に対応する横力が設定され、トルクTLには、ゼロが設定される。
次に、本実施形態の摩耗エネルギー計算工程S4では、内圧及び荷重を定義したタイヤモデル21が計算される(工程S44)。工程S44では、図9に示されるように、タイヤ12のリム19(図6に示す)がモデル化されたリムモデル29によって、タイヤモデル21のビード部21c、21cが拘束され、内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいてタイヤモデル21の変形が計算される。これにより、工程S44では、内圧充填後のタイヤモデル21が計算される。
さらに、工程S44では、図10に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル21と、路面モデル26との接触が計算される。次に、工程S44では、負荷荷重条件L、キャンバー角(図示省略)、及び、摩擦係数に基づいて、タイヤモデル21の変形が計算される。これにより、工程S44では、路面モデル26に接地したタイヤモデル21が計算される。
タイヤモデル21の変形計算は、図9に示した各要素G(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素G(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス、及び、減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらを微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとにタイヤモデル21の変形計算を行う。このようなタイヤモデル21の変形計算(後述する転動計算を含む)は、例えば、LSTC社製の LS-DYNA などの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算されうる。なお、単位時間Txについては、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定されうる。
次に、本実施形態の摩耗エネルギー計算工程S4では、トレッド部の前後方向(駆動時及び制動時(前後G付加条件))の摩耗エネルギーが計算される(工程S45)。
工程S45では、先ず、各縦陸部モデル23について、駆動時の1回転当たりの摩耗エネルギーが計算される。工程S45では、図10に示されるように、並進速度V2が路面モデル26に設定される。さらに、駆動時のトルクTLがタイヤモデル21に設定される。これにより、駆動時のタイヤモデル21が計算される。そして、工程S45では、各縦陸部モデル23の接地面23sを構成する各節点25(図9に示す)が、路面モデル26に接地している間、各節点25において、せん断力及びすべり量が計算される。せん断力Pには、タイヤ軸方向のせん断力Px及びタイヤ周方向のせん断力Pyが含まれる。また、すべり量Qには、前記せん断力Px、Pyに対応する、タイヤ軸方向のすべり量Qx及びタイヤ周方向のすべり量Qyが含まれる。
駆動時のタイヤモデル21の転動計算は、転動開始から、予め定められた転動終了まで、シミュレーションの単位時間Tx毎に計算される。これにより、工程S45では、縦陸部モデル23の接地面23sを構成する各節点25のせん断力Px、Py及びすべり量Qx、Qyが、転動開始から転動終了まで単位時間Tx刻みで複数回計算される。
各縦陸部モデル23において、各節点25のせん断力Px(i)、Py(i)と、該せん断力Px(i)、Py(i)に対応するすべり量Qx(i)、Qy(i)とを乗じた値が、各縦陸部モデル23の接地入りから接地端までの要素G(i)を対象に積算される。そして、各縦陸部モデル23の前記積算値が、各縦陸部モデル23の接地面積で除されることにより、1回転あたりの平均摩耗エネルギーが、縦陸部モデル23毎に計算される。さらに、1回転あたりの平均摩耗エネルギーが、タイヤ周長で除されることにより、駆動時の単位距離当たりの摩耗エネルギーが、縦陸部モデル23毎に計算される。駆動時の単位距離当たりの摩耗エネルギーは、物理量入力部5i(図1に示す)に記憶される。
次に、工程S45では、各縦陸部モデル23について、制動時の単位距離当たりの摩耗エネルギーが計算される。工程S45では、並進速度V2が路面モデル26に設定される。さらに、制動時のトルクTLがタイヤモデル21に設定される。これにより、制動時のタイヤモデル21が計算される。そして、上記した駆動時の単位距離当たりの摩耗エネルギーを求める手順と同様に、制動時の単位距離当たりの摩耗エネルギーが、縦陸部モデル23毎に計算される。制動時の単位距離当たりの摩耗エネルギーは、物理量入力部5i(図1に示す)に記憶される。
次に、本実施形態の摩耗エネルギー計算工程S4では、トレッド部の左右方向(右旋回及び左旋回)の摩耗エネルギーが計算される(工程S46)。
工程S46では、先ず、各縦陸部モデル23について、右旋回時の単位距離当たりの摩耗エネルギーが計算される。工程S46では、並進速度V2が路面モデル26に設定される。さらに、右旋回時の横力(図示省略)がタイヤモデル21に設定される。これにより、右旋回中のタイヤモデル21が計算される。そして、上記した駆動時の単位距離当たりの摩耗エネルギーを求める手順と同様に、右旋回時の単位距離当たりの摩耗エネルギーが、縦陸部モデル23毎に計算される。右旋回時の単位距離当たりの摩耗エネルギーは、物理量入力部5i(図1に示す)に記憶される。
次に、工程S46では、各縦陸部モデル23について、左旋回時の単位距離当たりの摩耗エネルギーが計算される。工程S46では、並進速度V2が路面モデル26に設定される。さらに、左旋回時の横力(図示省略)がタイヤモデル21に設定される。これにより、左旋回中のタイヤモデル21が計算される。そして、上記した駆動時の単位距離当たりの摩耗エネルギーを求める手順と同様に、左旋回時の単位距離当たりの摩耗エネルギーが、縦陸部モデル23毎に計算される。左旋回時の単位距離当たりの摩耗エネルギーは、物理量入力部5i(図1に示す)に記憶される。
次に、本実施形態の予測方法は、図6に示した評価対象位置18(各縦陸部17)の摩耗量を計算する(摩耗量計算工程S5)。本実施形態の評価対象位置18の摩耗量は、評価対象位置18(図10に示した縦陸部モデル23)の摩耗エネルギーを、タイヤの使用条件頻度分布(図5に示す)のタイヤの使用条件及び頻度で重み付けをすることによって計算される。
本実施形態の摩耗量計算工程S5では、使用条件頻度分布入力部5c(図1に示す)に記憶されているタイヤの使用条件頻度分布(図5に示す)が、作業用メモリ4C(図1に示す)に読み込まれる。また、物理量入力部5i(図1に示す)に記憶されている駆動時の単位距離当たりの摩耗エネルギー、制動時の単位距離当たりの摩耗エネルギー、右旋回時の単位距離当たりの摩耗エネルギー、及び、左旋回時の単位距離当たりの摩耗エネルギーが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。さらに、図1に示したプログラム部6の摩耗量計算部6eが、作業用メモリ4Cに読み込まれる。そして、摩耗量計算部6eが、演算部4Aによって実行される。図11は、摩耗量計算工程S5の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の摩耗量計算工程S5では、先ず、各評価対象位置18(図10に示した縦陸部モデル23)において、単位距離当たりの摩耗エネルギーが、タイヤの使用条件頻度分布で重み付けされた推定摩耗エネルギーが計算される(工程S51)。各評価対象位置18の推定摩耗エネルギーEは、適宜求めることができる。推定摩耗エネルギーEは、例えば、タイヤ使用条件頻度分布(図5に示す)上の全ての点(頻度)において、各点の摩耗エネルギーと、その点での頻度とを乗じた値を積算して求められる。各点の摩耗エネルギーは、代表条件の摩耗エネルギーから、近似関数を作成することで求めることができる。代表条件は、適宜定義することができる。代表条件の一例としては、自由転動、駆動(0.2G)、制動(0.2G)、右旋回(0.2G)、及び、左旋回(-0.2G)である。これらの条件で求められた摩耗エネルギーが、各条件に対応する頻度に乗じられる。推定摩耗エネルギーEは、評価対象位置18(図10に示した縦陸部モデル23)毎に計算される。
次に、本実施形態の摩耗量計算工程S5では、各評価対象位置18(図6に示す)において、推定摩耗エネルギーEから摩耗量が計算される(工程S52)。本実施形態では、先ず、各評価対象位置18のゴム材料の摩耗量と、ゴム材料の摩耗エネルギーとの関係を示す摩耗指数が取得される。摩耗指数は、例えば、室内摩耗試験機(ランボーン摩耗試験機等)を用いたゴム材料の摩耗試験によって取得することができる。摩耗指数は、ゴム材料の摩耗エネルギーの増加により、ゴム材料の摩耗量が線形に増加している。
工程S52では、各評価対象位置18(図6に示す)において、ゴム材料の摩耗指数に、縦陸部モデル23の推定摩耗エネルギーEが乗じられることによって、摩耗量が計算される。各評価対象位置18の摩耗量は、物理量入力部5i(図1に示す)に記憶される。
このように、本実施形態の予測方法は、転がり抵抗Rrを含む影響因子R(図2に示す)を考慮したタイヤの使用条件頻度分布(図5に示す)を用いて、タイヤモデル21(図12に示す)の摩耗エネルギーが重み付けされるため、車両の走行履歴、及び、転がり抵抗Rrを含む影響因子R(図2に示す)を考慮した推定摩耗エネルギー、及び、摩耗量を求めることができる。従って、本実施形態では、タイヤ12(図6に示す)の摩耗量を高い精度で予測することができる。従って、本実施形態の予測方法は、摩耗量が予め定められた範囲になるまで、タイヤ12が設計変更されることにより、耐摩耗性能の優れたタイヤ12を効率よく設計するのに役立つ。
次に、本実施形態の予測方法は、評価対象位置の摩耗量が許容範囲内か否かが判断される(工程S6)。許容範囲については、タイヤ12の構造に応じて、適宜設定される。工程S6において、評価対象位置18の摩耗量が許容範囲内であると判断された場合(工程S6で、「Y」)、タイヤ12が製造される(工程S7)。他方、評価対象位置18の摩耗量が許容範囲外であると判断された場合(工程S6で、「N」)、タイヤ12の設計因子が変更され(工程S8)、工程S4~工程S6が再度実施される。これにより、本実施形態の予測方法は、耐摩耗性に優れるタイヤ12を確実に設計することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
トレッドパターン及びタイヤの内部構造が異なる4種類のタイヤが試作された。各タイヤが下記リムにリム組みされ、下記の車両に下記の条件で装着された。そして、車両を一般道及び高速道路で合計約20000km走行させた後に、トレッド部のセンター縦陸部、ミドル縦陸部、及び、ショルダー縦陸部について、各縦陸部の縁部の摩耗量が測定された。摩耗量の測定は、各縦陸部について、タイヤ周方向に略等ピッチに離間する8箇所で行われた。そして、各縦陸部において、8箇所の摩耗量の平均値がそれぞれ求められた(実験例)。
実験例で取得された走行履歴を用いて、車両の前後方向の加速度及び左右方向の加速度と、その頻度との関係を示す車両の加速度頻度分布が取得された(実施例、比較例)。
実施例では、図3及び図4に示した処理手順に従って、車両の加速度、車両の質量、及び、転がり抵抗を含む影響因子に基づいて、車両の使用条件頻度分布が取得された。さらに、図7、図8及び図11に示した処理手順に従って、センター縦陸部、ミドル縦陸部、及び、ショルダー縦陸部の摩耗エネルギーが計算された。そして、各縦陸部の摩耗エネルギーが、実施例の使用条件頻度分布で重み付けされて、各縦陸部の予測摩耗量が計算された。
比較例では、車両の加速度が空気抵抗で補正した加速度頻度分布が取得された。さらに、センター縦陸部、ミドル縦陸部、及び、ショルダー縦陸部の摩耗エネルギーが計算された。そして、各縦陸部の摩耗エネルギーを、比較例の加速度頻度分布で重み付けして、各縦陸部の予測摩耗量が計算された。共通仕様は、次の通りである。
タイヤサイズ:215/60R16
リムサイズ:16×6.5J
内圧:240kPa
荷重:3.92kN
車両:国産FF車
転がり抵抗試験:
温度:20℃、
荷重:26.72kN
速度:80km/h
図12は、実験例の実測摩耗量と実施例の予測摩耗量との関係、及び、実験例の実測摩耗量と比較例の予測摩耗量との関係を示すグラフである。図12は、4種類のタイヤについて、各縦陸部の摩耗量(指数)をそれぞれプロットしたものである。摩耗量の指数は、それぞれの縦陸部の摩耗量の平均値を基準としたものである。図13は、実験例、実施例及び比較例について、4種類のタイヤの各縦陸部の摩耗量(指数)の平均値を示すグラフである。
テストの結果、実施例の予測摩耗量は、比較例の予測摩耗量に比べて、実験例の実測摩耗量に近似させることができた。従って、実施例は、比較例に比べて、タイヤの摩耗量を精度よく予測することができた。