以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤの性能の評価方法(以下、単に「評価方法」ということがある。)では、タイヤの性能のうち、少なくともコーナリング性能が評価される。なお、評価方法では、コーナリング性能以外に、例えば、直進走行性能などの性能が合わせて評価されてもよい。図1は、タイヤの性能の評価方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。
本実施形態のコンピュータ1は、例えば、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、評価方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。したがって、コンピュータ1は、タイヤの性能を評価するためのシミュレーション装置として構成される。
図2は、評価対象のタイヤ2のトレッド部3の一例を示す展開図である。本実施形態のタイヤ2は、例えば、不整地走行用のものが例示されているが、特に限定されるわけではない。タイヤ2は、例えば、乗用車用、トラックやバスなどの重荷重用、建設車両用、及び、農業機械用として用いられるものでもよい。
本実施形態のトレッド部3は、一対のショルダー陸部4、4と、クラウン陸部5とに区分されている。ショルダー陸部4は、ショルダー主溝6のタイヤ軸方向外側にそれぞれ設けられている。一方、クラウン陸部5は、一対のショルダー主溝6、6の間に設けられている。
ショルダー陸部4には、ショルダー横溝7が、タイヤ周方向に隔設されている。これにより、ショルダー陸部4には、ショルダー横溝7によって区分された複数のショルダーブロック8が設けられる。一方、クラウン陸部5には、一対のショルダー主溝6、6の間を連通するクラウン横溝9が、タイヤ周方向に隔設されている。これにより、クラウン陸部5には、クラウン横溝9によって区分された複数のクラウンブロック10が設けられている。
本実施形態のタイヤ2は、不整地における軟弱路面での走行性能を発揮するために、トレッド部3のランド比が小さく設定されている。ここで、「ランド比」とは、ブロック(本例では、ショルダーブロック8及びクラウンブロック10)の踏面の合計面積Sbと、溝底面を全て埋めた仮想接地面の全面積Saとの比Sb/Saとして定義される。
ところで、タイヤ2は、スリップ角やタイヤ軸方向(横方向)の外力が作用していない直進走行条件下で走行していても、タイヤ軸方向への力(横力)を発生させる場合がある。このような場合、直進走行条件下においてタイヤ軸方向への力を発生させている要因が、旋回走行条件下でのタイヤ軸方向の力に影響を及ぼす。ここで、「影響を及ぼす」とは、上記の要因の影響を受けて、旋回走行条件下でのタイヤ軸方向の力が、本来の力よりも大きくなったり、又は、小さくなったりすることを意味している。
上記の要因としては、例えば、ブロック(本例では、ショルダーブロック8及びクラウンブロック10)や、溝(本例では、ショルダー主溝6、ショルダー横溝7及びクラウン横溝9)等で構成されるトレッドパターンが考えられる。このようなトレッドパターンに起因するタイヤ軸方向の力は、とりわけ、軟弱路面を走行中に大きく沈み込むタイヤ2において大きくなる傾向がある。なお、上記の要因は、トレッドパターンのみならず、例えば、タイヤ2の内部の構造(図示しないベルトコードの角度など)も考えられる。
例えば、コーナリング性能に差の無いと考えられる同一トレッドパターンを有するタイヤについて、旋回走行条件下でのタイヤ軸方向の力が測定された場合、装着条件等の違いによって、それらのタイヤ軸方向の力が互いに異なって測定される場合がある。したがって、単に旋回走行条件下でタイヤ軸方向の力を測定(シミュレーション)しても、コーナリング性能を正確に評価することは困難である。
次に、本実施形態の評価方法の一例が説明される。図3は、タイヤ性能の評価方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態の評価方法では、先ず、タイヤ2(図2に示す)をモデリングしたタイヤモデルが、コンピュータ1に入力される(工程S1)。図4は、タイヤモデル11及び路面モデル12の一例を示す斜視図である。図5は、タイヤモデル11の一例を示す断面図である。図4では、図5に示したタイヤモデル11のトレッドパターン、及び、要素F(i)が省略されている。
工程S1では、タイヤ2(図2に示す)に関する情報に基づいて、タイヤ2が数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化されている。これにより、工程S1では、タイヤモデル11が設定(モデリング)される。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法を適宜採用することができるが、本実施形態では有限要素法が採用されている。
要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素又は6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。これらの各要素F(i)には、要素番号、節点21の番号、節点21の座標値、及び、材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。なお、後述の路面モデルが軟弱路面として定義される場合には、タイヤモデル11が、外力が与えられても変形しない剛体として定義されてもよい。この場合、タイヤモデル11は、内圧充填後のタイヤの形状に基づいてモデリングされるのが望ましい。このようなタイヤモデル11は、後述の変形計算を必要としないため、計算時間を短縮するのに役立つ。
タイヤモデル11のトレッドパターンは、図2に示したタイヤ2のトレッドパターンに基づいて設定される。本実施形態のタイヤモデル11のトレッド部13には、タイヤ2のトレッド部3(図2に示す)と同様に、一対のショルダー陸部14、14、クラウン陸部15、及び、一対のショルダー主溝16、16が設けられている。
ショルダー陸部14には、ショルダー横溝(図示省略)によって区分された複数のショルダーブロック18が設けられる。一方、クラウン陸部15には、クラウン横溝(図示省略)によって区分された複数のクラウンブロック20が設けられている。なお、工程S1では、計算時間の短縮などの必要に応じて、陸部や主溝等の一部が省略されてもよい。タイヤモデル11は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の評価方法では、路面をモデリングした路面モデルが、コンピュータに入力される(工程S2)。図4に示されるように、本実施形態の路面モデル12は、軟弱路面(図示省略)をモデリングした軟弱路面モデル12Aとして定義されているが、このような態様に限定されない。路面モデル12は、例えば、アスファルト路面(図示省略)をモデリングしたものでもよい。軟弱路面には、例えば、雪路面、砂路面及び泥路面などが含まれる。本実施形態の軟弱路面は、十分な泥厚さを有する泥路面である場合が例示される。
本実施形態の軟弱路面モデル12Aの要素には、有限体積法にて取り扱い可能なオイラー要素が用いられる。軟弱路面モデル12Aは、平面剛要素22の上の空間に定義された格子状の要素(メッシュ)G(i)(i=1、2、…)と、要素G(i)に定義された泥充填物23とを含んで構成されている。各要素G(i)において、泥充填物23の有無は、自由界面の流れの計算で用いられるVOF(Volume of Fluid)法に基づいて計算される。
VOF法は、二流体の界面の移動が直接計算されるのではなく、各要素(「セル」ということもある。)の体積中の流体の充填率(体積分率)が定義されて、自由界面が表現されるものである。なお、VOFが1の場合、要素G(i)に泥(泥充填物)が詰まっていることを示している。VOFが0より大かつ1未満である場合、要素G(i)の一部に泥が詰まっていることを示している。VOFが0の場合、要素G(i)に泥が詰まっていないことを示している。
軟弱路面モデル12Aには、タイヤモデル11と接触しかつタイヤモデル11を転動させるのに、必要かつ十分な幅及び長さが与えられる。本実施形態のタイヤモデル11の転動は、後述の第1工程S5及び第2工程S6での解析結果(本例では、タイヤモデル11のコーナリング性能に関する物理量)を得るために必要な回転量が設定される。なお、タイヤモデル11の回転量は、1回転よりも小さくてもよい。
路面モデル12(軟弱路面モデル12A)は、例えば、特許文献(特開2017-126272号公報)の記載に基づいて、適宜設定されうる。路面モデル12は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
次に、本実施形態の評価方法では、図4に示した路面モデル12(本例では、軟弱路面モデル12A)上でタイヤモデル11を転動させるための境界条件が、コンピュータ1(図1に示す)に入力される(工程S3)。境界条件には、タイヤモデル11と路面モデル12との間の摩擦係数、粘着力、及び、粘着摩擦力が含まれる。さらに、境界条件には、リム、内圧、タイヤモデル11に負荷される軸荷重、タイヤモデル11や路面モデル12の変形計算時の初期の時間増分、並びに、タイヤモデル11及び路面モデル12の初期位置などの条件が含まれる。なお、タイヤモデル11が剛体として定義される場合には、内圧の条件が省略されてもよい。さらに、境界条件には、路面モデル12上でタイヤモデル11を転動させるための回転速度(周速度)Va及び並進速度Vbが含まれる。これらの境界条件は、例えば、特許文献(特開2017-126272号公報)の記載に基づいて適宜設定されうる。
さらに、本実施形態の境界条件には、タイヤモデル11の直進走行条件、及び、旋回走行条件が含まれる。直進走行条件及び旋回走行条件は、適宜設定されうる。図6(a)及び(b)は、旋回走行条件が定義されたタイヤモデル11の一例を示す平面図である。図6(a)には、旋回走行条件として、タイヤ軸方向の荷重(外力)F1が定義されたタイヤモデル11が示されている。一方、図6(b)には、旋回走行条件として、スリップ角θ1が定義されたタイヤモデル11が示されている。
直進走行条件は、タイヤモデル11を路面モデル12(本例では、軟弱路面モデル12A)上で直進走行させるための条件である。本実施形態の直進走行条件は、タイヤ軸方向の荷重(外力)F1(図6(a)に示す)、及び、スリップ角θ1(図6(b)に示す)がそれぞれ零に設定される。このような直進走行条件は、走行中のタイヤモデル11に作用する横力(タイヤ軸方向の力)Lを考慮せずに設定されている。このため、直進走行条件下で転動中のタイヤモデル11に横力Lが発生した場合、タイヤモデル11において、後述のコーナリング性能に関する物理量(例えば、タイヤモデル11のタイヤ軸方向の移動量M1)が計算される。
旋回走行条件は、タイヤモデル11を路面モデル12(本例では、軟弱路面モデル12A)上で旋回走行させるための条件である。本実施形態の旋回走行条件は、タイヤ軸方向の荷重(外力)F1(図6(a)に示す)、及び、スリップ角θ1(図6(b)に示す)の少なくとも1つが、零よりも大に設定される。本実施形態の工程S3では、旋回走行条件として、図6(a)に示されるように、タイヤ軸方向の荷重(外力)F1が零よりも大に設定され、かつ、スリップ角θ1が零に設定されている。
さらに、本実施形態の境界条件には、転動中のタイヤモデル11について、タイヤ軸方向への変位可能な条件が含まれる。この条件は、転動中のタイヤモデル11にタイヤ軸方向への力(横力)Lが作用した際に、タイヤモデル11のタイヤ軸方向(図6(a)において、x軸方向)への移動(旋回を含む)を許容するものである。境界条件は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の評価方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、内圧充填後のタイヤモデル11(図5に示す)を計算する(工程S4)。工程S4では、工程S3で入力されたリム及び内圧を含む境界条件に基づいて、内圧充填後のタイヤモデル11が計算される。なお、タイヤモデル11が剛体として定義される場合には、工程S4の手順が省略される。
工程S4では、先ず、図5に示されるように、タイヤモデル11のビード部24、24を拘束するように、リムモデル25のタイヤモデル11への嵌合が計算される。リムモデル25は、図2示したタイヤ2がリム組みされるリム(図示省略)をモデル化したものである。さらに、工程S4では、内圧(内圧条件)に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル11の変形が計算される。これにより、工程S4では、内圧充填後のタイヤモデル11が計算される。内圧充填後のタイヤモデル11は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
タイヤモデル11の変形計算は、各要素の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス及び減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらを単位時間T(x)(x=0、1、…)ごと(例えば、1μ秒毎)にタイヤモデル11の変形計算を行う。このような変形計算には、例えば、LSTC社製のLS-DYNA、Abaqus、ANSYS又はDytranなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられる。
次に、本実施形態の評価方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、図4に示されるように、直進走行条件下で転動中のタイヤモデル11のコーナリング性能に関する物理量Q1を計算する(第1工程S5)。本実施形態の第1工程S5では、先ず、コンピュータ1が、直進走行条件下において、タイヤモデル11を、路面モデル12(本例では、軟弱路面モデル12A)上で転動させる。本実施形態の第1工程S5において、コンピュータ1は、予め定められた回転速度Vaで、タイヤモデル11を転動させている。
本実施形態の第1工程S5では、先ず、タイヤモデル(本例では、内圧充填後のタイヤモデル)11に、直進走行条件(本例では、図6(a)に示したタイヤ軸方向の荷重(外力)F1、及び、図6(b)に示したスリップ角θ1がそれぞれ零)が定義される。そして、直進走行条件が定義されたタイヤモデル11が、軟弱路面モデル12Aと接触しかつ転動する様子が、シミュレーションの単位時間(微小な時間増分)毎に計算される。
本実施形態の第1工程S5では、転動中のタイヤモデル11に、タイヤ軸方向(図4において、x軸方向)への変位可能な条件が定義されている。このため、第1工程S5では、直線走行条件下で転動中のタイヤモデル11に、タイヤ軸方向の力(横力)L(図示省略)が作用した場合、タイヤモデル11のタイヤ軸方向の移動が計算される。
本実施形態の第1工程S5では、タイヤモデル11の転動開始から、予め定められた終了時間が経過するまで、タイヤモデル11及び路面モデル12(軟弱路面モデル12A)の変形計算(転動計算)が行われる。終了時間については、例えば、所望の計算結果(本例では、コーナリング性能に関する物理量Q1)が得られるように、適宜設定されうる。第1工程S5での一連の処理には、例えば、上記した市販の有限要素解析アプリケーションソフトが用いられる。これらのタイヤモデル11及び軟弱路面モデル12Aの変形計算は、例えば、特許文献(特開2017-126272号公報)の記載に基づいて、適宜実施されうる。
本実施形態の第1工程S5では、直進走行条件下で転動中のタイヤモデル11について、コーナリング性能に関する物理量(以下、単に「物理量」ということがある。)Q1が計算される。この物理量Q1は、コーナリング性能の評価に用いられる物理量であれば、適宜設定されうる。本実施形態の物理量Q1は、タイヤモデル11のタイヤ軸方向への移動量M1が含まれる。
図7は、タイヤモデル11のタイヤ軸方向への移動量と、時間との関係の一例を示すグラフである。図7では、タイヤモデル11の転動開始時のタイヤ軸方向の位置を基準として(移動量が0cm)、タイヤモデル11を旋回させる方向への移動量が正の値として示されている。このような移動量M1は、旋回走行時において、その値が大きいほど、コーナリング性能が優れていると評価されうる。
本実施形態の第1工程S5において、コーナリング性能に関する物理量Q1(移動量M)は、タイヤモデル11の転動開始から終了時間が経過するまでに、シミュレーションの単位時間(微小な時間増分)毎に計算される。
第1工程S5では、物理量Q1として、例えば、各単位時間で計算されたタイヤ軸方向の移動量M1が取得されてもよいし、複数の単位時間で計算されたタイヤ軸方向の移動量M1の合計値(即ち、終了時間時でのタイヤモデル11の移動量)が取得されてもよい。本実施形態の第1工程S5では、転動開始から終了時間までにおいて、単位時間で計算されたタイヤ軸方向の移動量M1が、物理量Q1としてそれぞれ取得される。
図7に示されるように、直進走行条件下での物理量Q1(移動量M1)は、タイヤモデル11に作用するタイヤ軸方向の力(横力)L(図示省略)によって、タイヤ軸方向に移動していることを示している。物理量Q1は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
次に、本実施形態の評価方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、旋回走行条件下で転動中のタイヤモデル11のコーナリング性能に関する物理量Q2を計算する(第2工程S6)。本実施形態の第2工程S6では、先ず、第1工程S5と同様に、直進走行条件下で、路面モデル12(本例では、軟弱路面モデル12A)上を転動するタイヤモデル11が、シミュレーションの単位時間(微小な時間増分)毎に計算される。第2工程S6において、タイヤモデル11は、第1工程S5と同様に、予め定められた回転速度(本例では、第1工程S5と同一の回転速度)Vaで転動している。
次に、第2工程S6では、直進走行中のタイヤモデル11に、旋回走行条件(本例では、図6(a)に示されるように、タイヤ軸方向の荷重(外力)F1が零よりも大、かつ、スリップ角θ1が零)が定義される。これにより、第2工程S6では、旋回走行条件下で、路面モデル12(本例では、軟弱路面モデル12A)上を転動するタイヤモデル11が、シミュレーションの単位時間(微小な時間増分)毎に計算される。
本実施形態の第2工程S6では、転動中のタイヤモデル11に、タイヤ軸方向への変位可能な条件が定義される。このため、第2工程S6では、旋回走行条件下で、転動中のタイヤモデル11に作用するタイヤ軸方向の力(横力)L(図6(a)に示す)に応じて、タイヤモデル11のタイヤ軸方向(本例では、x軸方向)の移動が計算される。
本実施形態の第2工程S6では、タイヤモデル11の転動開始から、予め定められた終了時間が経過するまで、タイヤモデル11及び路面モデル12(軟弱路面モデル12A)の変形計算(転動計算)が行われる。終了時間は、第1工程S5と同様の観点に基づいて適宜設定される。第2工程S6での一連の処理は、第1工程S5と同様に実施されうる。
本実施形態の第2工程S6では、旋回走行条件下で転動中のタイヤモデル11について、コーナリング性能に関する物理量Q2が計算される。本実施形態の物理量Q2は、図7に示されるように、第1工程S5での直進走行条件下での物理量Q1と同様に、タイヤモデル11のタイヤ軸方向への移動量M2が含まれる
本実施形態の第2工程S6において、コーナリング性能に関する物理量Q2(移動量M2)は、タイヤモデル11の転動開始から終了時間が経過するまでに、シミュレーションの単位時間(微小な時間増分)毎に計算される。
第2工程S6では、物理量Q2として、例えば、各単位時間で計算されたタイヤ軸方向の移動量M2が取得されてもよいし、複数の単位時間で計算されたタイヤ軸方向の移動量M2の合計値(即ち、終了時間時でのタイヤモデル11の移動量)が取得されてもよい。本実施形態の第2工程S6では、転動開始から終了時間までにおいて、単位時間ごとに計算されたタイヤ軸方向の移動量M2が、物理量Q2として取得される。
旋回走行条件下での物理量Q2(移動量M2)は、タイヤモデル11に作用するタイヤ軸方向の力(横力)L(図6(a)に示す)によって、タイヤ軸方向の一方側に移動していることを示している。この物理量Q2(移動量M2)は、直進走行条件下でタイヤ軸方向への力を発生させる要因の影響を受けて、タイヤ軸方向の移動量M2(物理量Q2)が僅かに増減している。物理量Q2は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態の評価方法では、コンピュータ1が、第1工程S5及び第2工程S6でそれぞれ得られた物理量Q1、Q2の差を計算する(工程S7)。本実施形態では、図7に示した第2工程S6で計算された旋回走行条件下での物理量Q2(移動量M2)から、第1工程S5で計算された直進走行条件下での物理量Q1(移動量M1)が減じられることで、これらの物理量の差が計算される。なお、工程S7では、物理量Q1から物理量Q2が減じられてもよいし、それらの差の絶対値が計算されてもよい。
図8は、旋回走行条件下での物理量Q2から直進走行条件下での物理量Q1を減じた移動量と、時間との関係の一例を示すグラフである。物理量の差(本例では、Q2-Q1)は、上記の要因の影響を受けた旋回走行条件下でのタイヤ軸方向の力(横力L)から、上記の要因による直進走行条件下でのタイヤ軸方向の力(横力)を取り除いたものである。したがって、物理量の差(本例では、Q2-Q1)は、上記の要因の影響を受けていない旋回走行条件下のみに起因する物理量(本実施形態では、タイヤ軸方向の移動量)として特定されうる。
本実施形態の評価方法は、第1工程S5及び第2工程S6において、予め定められた回転速度Va(図4に示す)で、タイヤモデル11を転動させている。このため、第1工程S5及び第2工程S6では、直進走行条件及び旋回走行条件を除いて、同一の走行条件で物理量Q1、Q2が取得される。したがって、工程S7では、物理量Q2から物理量Q1が減じられることにより、旋回走行条件下のみに起因する物理量を精度よく取得することができる。物理量の差は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
次に、本実施形態の評価方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、物理量の差(本例では、Q2-Q1)に基づいて、コーナリング性能を評価する(第3工程S8)。本実施形態の第3工程S8では、図8に示した物理量の差(本例では、Q2-Q1)が、予め定められた目標値に達しているか否かが判断される。目標値は、例えば、タイヤ2(図2に示す)に求められるコーナリング性能に基づいて、適宜設定される。目標値は、単位時間ごとに設定されてもよいし、終了時間で計算された物理量の差(Q2-Q1)のみを対象に設定されてもよい。
第3工程S8において、物理量の差(本例では、Q2-Q1)が目標値に達していると判断された場合(第3工程S8で、「Y」)、コーナリング性能が良好であると判断される。この場合、タイヤ2(図2に示す)の設計因子に基づいて、タイヤ2が製造される(工程S9)。一方、第3工程S8において、物理量の差が目標値に達していないと判断された場合(第3工程S8で、「N」)、タイヤ2に求められるコーナリング性能に達していないと判断される。この場合、タイヤ2の設計因子を変更して(工程S10)、工程S1~第3工程S8が再度実施される。これにより、本実施形態では、コーナリング性能が良好なタイヤ2を、確実に設計及び製造することができる。
本実施形態の第3工程S8では、上記の要因の影響を受けていない旋回走行条件下のみに起因する物理量(本例では、物理量の差(Q2-Q1))に基づいて、コーナリング性能が評価される。これにより、本実施形態の評価方法は、コーナリング性能を精度よく評価することが可能となる。したがって、本実施形態では、コーナリング性能が良好なタイヤ2(図2に示す)を、より確実に設計及び製造することができる。
これまでの実施形態の評価方法では、図7に示されるように、直進走行条件下の物理量Q1、及び、旋回走行条件下の物理量Q2として、タイヤモデル11のタイヤ軸方向への移動量M1、M2がそれぞれ取得されたが、このような態様に限定されない。例えば、物理量Q1、Q2として、タイヤモデル11のタイヤ軸方向への移動速度V1、V2(図示省略)がそれぞれ取得されてもよい。これらの移動速度V1、V2は、例えば、タイヤモデル11の転動開始時のタイヤ軸方向への移動速度を基準として(移動速度が0)、タイヤモデル11を旋回させる方向への移動速度を正の値として示される。このような移動速度V1、V2(例えば、mm/秒)は、旋回走行時において、その値が大きいほど、コーナリング性能が優れていると評価されうる。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の第1工程S5では、直進走行条件下の物理量Q1として、予め定められた一つの単位時間でのタイヤ軸方向の移動速度V1(図示省略)が取得されてもよいし、各単位時間で計算されたタイヤ軸方向の移動速度V1の平均値が取得されてもよい。この実施形態の第1工程S5では、物理量Q1として、移動速度V1の平均値が取得される。また、この実施形態の第2工程S6では、物理量Q1と同様に、旋回走行条件下の物理量Q2として、移動速度V2(図示省略)の平均値が取得される。
この実施形態の評価方法では、工程S7において、物理量Q1及びQ2の差(この例では、Q2-Q1)が求められることにより、上記の要因の影響を受けていない旋回走行条件下のみに起因する物理量(この例では、タイヤ軸方向の移動速度)が求められる。そして、第3工程S8では、この旋回走行条件下のみに起因する物理量に基づいて、コーナリング性能を正確に評価することが可能となる。
これまでの実施形態では、直進走行条件下の物理量Q1及び旋回走行条件下の物理量Q2として、タイヤモデル11のタイヤ軸方向への移動量M1、M2(図7に示す)や、移動速度V1、V2(図示省略)が取得されたが、このような態様に限定されない。例えば、物理量Q1、Q2として、タイヤモデル11に作用するタイヤ軸方向の力(横力)L1、L2(例えば、図6(a)に示した横力L)がそれぞれ取得されてもよい。これらのタイヤ軸方向の力L1、L2は、タイヤモデル11を旋回させる方向に作用する力を正の値として示される。このようなタイヤ軸方向の力L1、L2は、旋回走行時において、その値が大きいほど、コーナリング性能が優れていると評価されうる。この実施形態において、これまでの実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略することがある。
この実施形態の第1工程S5では、直進走行条件下の物理量Q1として、予め定められた一つの単位時間で計算されたタイヤ軸方向の力L1(図示省略)が取得されてもよいし、複数の単位時間で計算されたタイヤ軸方向の力L1の合計値が取得されてもよい。この実施形態の第1工程S5では、転動開始から終了時間までにおいて、単位時間ごとに計算されたタイヤ軸方向の力L1の合計値が、物理量Q1として取得される。また、この実施形態の第2工程S6では、物理量Q1と同様に、旋回走行条件下の物理量Q2として、タイヤ軸方向の力L2(図示省略)の合計値が取得される。
この実施形態の評価方法では、工程S7において、物理量Q1、Q2の差(この例では、Q2-Q1)が求められることにより、上記の要因の影響を受けていない旋回走行条件下のみに起因する物理量(この例では、タイヤ軸方向の力)が求められる。そして、第3工程S8では、この旋回走行条件下のみに起因する物理量に基づいて、コーナリング性能を正確に評価することが可能となる。
これまでの実施形態の評価方法では、旋回走行条件として、図6(a)に示されるように、タイヤ軸方向の荷重(外力)F1が零よりも大に設定され、かつ、スリップ角θ1が零に設定される態様が例示されたが、このような態様に限定されない。図6(b)に示されるように、旋回走行条件として、スリップ角θ1が零よりも大に設定され、かつ、タイヤ軸方向の荷重(外力)F1が零に設定されてもよい。このような旋回走行条件は、これまでの旋回走行条件と同様に、転動中のタイヤモデル11のコーナリング性能に関する物理量が取得されうる。なお、旋回走行条件は、タイヤ軸方向の荷重(外力)F1、及び、スリップ角θ1がそれぞれ零よりも大に設定されてもよい。
これまでの実施形態の評価方法では、第1工程S5及び第2工程S6において、転動中のタイヤモデル11に、タイヤ軸方向への変位可能な条件が定義されたが、このような態様に限定されない。第1工程S5及び第2工程S6において、転動中のタイヤモデル11には、タイヤ軸方向への変位不能な条件が定義されてもよい。このような条件下では、転動中のタイヤモデル11にタイヤ軸方向への力(横力)L(図6(b)に示す)が作用しても、タイヤモデル11のタイヤ軸方向(図6(b)において、x軸方向)への移動(旋回を含む)が許容されない。したがって、この実施形態では、直進走行条件下での物理量Q1、及び、旋回走行条件下での物理量Q2として、タイヤモデル11のタイヤ軸方向への移動量M1、M2(図7に示す)及び移動速度V1、V2(図示省略)を取得することができない。このため、この実施形態の物理量Q1、Q2には、タイヤモデル11に作用するタイヤ軸方向の力L1、L2(例えば、図6(a)に示した横力L)が計算される。
この実施形態の旋回走行条件は、図6(b)に示されるように、スリップ角θ1が零よりも大に設定され、かつ、タイヤ軸方向の荷重(外力)F1が零に設定されている。このため、第2工程S6では、旋回走行条件下での物理量Q2(タイヤ軸方向の力L2)として、スリップ角θ1が与えられたタイヤモデル11に生じるタイヤ軸方向の横力(図6(b)に示す)が取得される。なお、旋回走行条件として、図6(a)に示されるように、タイヤ軸方向の荷重(外力)F1が零よりも大に設定され、かつ、スリップ角θ1が零に設定される場合には、物理量Q2として、荷重F1に対するタイヤ軸方向の抗力(図示省略)が取得される。
第1工程S5及び第2工程S6において、直進走行条件下の物理量Q1、及び、旋回走行条件下の物理量Q2は、これまでの実施形態と同様の手順に基づいて、タイヤ軸方向の力L1、L2(例えば、図6(b)に示した横力L)からそれぞれ取得される。そして、この実施形態の評価方法では、旋回走行条件下のみに起因する物理量(この例では、タイヤ軸方向の力)が求められ、コーナリング性能が正確に評価されうる。
この実施形態では、第1工程S5及び第2工程S6において、転動中のタイヤモデル11には、タイヤ軸方向への変位不能な条件が定義されているため、路面モデル12(軟弱路面モデル12A)の幅を小さくすることができる。このため、第1工程S5及び第2工程S6では、計算時間を短縮することが可能となる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
図3に示した処理手順に基づいて、タイヤA及びタイヤBのコーナリング性能が評価された(実施例)。タイヤAのトレッドパターンは、タイヤBのトレッドパターンを反転させたものである。したがって、タイヤA及びタイヤBは、コーナリング性能が同等である。
実施例では、タイヤA及びタイヤBについて、直進走行条件下でのコーナリング性能に関する物理量と、旋回走行条件下でのコーナリング性能に関する物理量とが取得され、物理量の差に基づいて、コーナリング性能が評価された。
比較のために、タイヤA及びタイヤBについて、旋回走行条件下でのコーナリング性能に関する物理量に基づいて、コーナリング性能が評価された(比較例)。共通仕様は、次のとおりである。
タイヤサイズ:16.9-24
荷重:20.67kN
内圧:240kPa
走行速度:5km/h
旋回走行条件:
タイヤ軸方向の荷重:980N
スリップ角:零
軟弱路面:雪路(新雪)
コーナリング性能に関する物理量:タイヤ軸方向の移動量
図7は、タイヤAのタイヤ軸方向への移動量と、時間との関係の一例を示すグラフである。図8は、タイヤAの旋回走行条件下での物理量から直進走行条件下での物理量を減じた移動量と、時間との関係の一例を示すグラフである。図9は、タイヤBのタイヤ軸方向への移動量と、時間との関係の一例を示すグラフである。図10は、タイヤBの旋回走行条件下での物理量から直進走行条件下での物理量を減じた移動量と、時間との関係の一例を示すグラフである。テストの結果が表1に示される。
実施例では、表1に示されるように、タイヤA及びタイヤBの移動量が一致した。さらに、実施例では、図8及び図10に示されるように、タイヤA及びタイヤBについて、移動量と時間との関係が一致した。したがって、実施例は、タイヤA及びタイヤBのコーナリング性能が同等であると評価することができた。
一方、比較例では、表1、図7及び図9に示されるように、タイヤA及びタイヤBの移動量が一致せず、移動量が相対的に大きいタイヤAのコーナリング性能が良好であると評価された。
実施例では、比較例とは異なり、コーナリング性能が同等のタイヤA及びタイヤBについて、コーナリング性能に関する物理量(移動量)を同等の値に計算することができた。実施例は、コーナリング性能を正確に評価することができた。