JP6805533B2 - タイヤのシミュレーション方法 - Google Patents

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Description

本発明は、タイヤのノイズ性能を簡単に評価するのに役立つシミュレーション方法に関する。
近年、タイヤ走行時のノイズ性能を、コンピュータを用いて評価するためのシミュレーション方法が提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。下記特許文献1のシミュレーション方法では、タイヤモデルの周囲に定義された流体モデルを用いた流体シミュレーションを実施することにより、タイヤのノイズに関する物理量が計算されている。
特開2013−216269号公報
一般に、流体シミュレーションでは、複雑な計算条件等が設定されている。このため、流体シミュレーションでは、多くの計算時間を要するため、タイヤのノイズ性能を簡単に評価できないという問題があった。
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、タイヤのノイズ性能を簡単に評価することができるシミュレーション方法を提供することを主たる目的としている。
本発明は、トレッド部に少なくとも1本の溝が設けられたタイヤのノイズ性能を、コンピュータを用いてシミュレーションするための方法であって、前記コンピュータに、前記タイヤを有限個の要素でモデル化して、前記溝が形成されたタイヤモデルを入力する工程、前記コンピュータに、路面を有限個の要素でモデル化した路面モデルを入力する工程、及び前記コンピュータが、前記タイヤモデルを前記路面モデル上で転動させて、ノイズに関する物理量を計算する工程を含み、前記物理量を計算する工程は、前記タイヤモデルの振動を計算する工程と、前記タイヤモデルの前記溝の表面での前記振動に基づいて、前記物理量を計算する工程とを含むことを特徴とする。
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記溝は、前記路面モデルに接地する溝であるのが望ましい。
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記溝は、タイヤ周方向に連続してのびる主溝であるのが望ましい。
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記物理量は、前記主溝の全領域のうち、前記タイヤモデルが前記路面モデルに接地している接地領域を含む領域内において計算されるのが望ましい。
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記物理量は、前記接地領域内の前記主溝のうち、前記タイヤモデルの回転方向先着側の端部において評価されるのが望ましい。
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記物理量は、前記接地領域内の前記主溝のうち、前記タイヤモデルの回転方向後着側の端部において評価されるのが望ましい。
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記溝は、溝底と、前記溝底からタイヤ半径方向外側にのびる一対の溝壁とを含み、前記物理量は、前記一対の溝壁のうち、少なくとも一方の前記溝壁の振動に基づいて計算されるのが望ましい。
本発明に係る前記タイヤのシミュレーション方法において、前記物理量は、前記溝の表面での振動加速度であるのが望ましい。
本発明のタイヤのシミュレーション方法は、コンピュータが、タイヤモデルを路面モデル上で転動させて、ノイズに関する物理量を計算する工程を含んでいる。
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、タイヤの溝の表面での振動がノイズ(気柱共鳴音)を発生させ、かつ、その振動の大きさとノイズの大きさとの間に一定の相関があることを知見した。このような知見に基づいて、本発明の物理量を計算する工程は、タイヤモデルの振動を計算する工程と、タイヤモデルの溝の表面での振動に基づいて、ノイズに関する物理量を計算する工程とを含んでいる。
本発明のタイヤのシミュレーションでは、例えば、流体モデルをタイヤモデルの周囲に設定した流体シミュレーションを行わなくても、タイヤモデルの溝の表面での振動に基づいて、ノイズに関する物理量を計算することができる。従って、本発明のタイヤのシミュレーションでは、タイヤのノイズ性能を簡単に評価することができる。
本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。 本実施形態のシミュレーション方法でノイズ性能が評価されるタイヤの断面図である。 本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。 本実施形態のタイヤモデル及び路面モデルの斜視図である。 本実施形態のタイヤモデルの断面図である。 本実施形態のシミュレーション工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。 図5に示したタイヤモデル及び路面モデルの部分断面図である。 図7のA−A断面図である。 タイヤモデルの主溝の接地領域で計算された単位時間あたりの振動加速度を示すグラフである。
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法(以下、単に「シミュレーション方法」ということがある。)は、タイヤのノイズ性能を、コンピュータを用いて評価するためのものである。
図1は、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んでいる。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態のシミュレーション方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
図2は、本実施形態のシミュレーション方法でノイズ性能が評価されるタイヤの断面図である。タイヤ2は、例えば、乗用車用タイヤとして構成されている。本実施形態のタイヤ2は、図2に示されるように、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7と、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に配されるバンド層9とが設けられている。
トレッド部2aには、路面(図示省略)に接地するトレッド接地面11と、トレッド接地面11から半径方向内側に凹む複数本の溝12とが設けられている。
溝12は、トレッド部2aに少なくとも1本設けられている。本実施形態の溝12は、タイヤ周方向に連続してのびる主溝12Aと、主溝12Aに交わる向きにのびる横溝(図示省略)とを含んでいる。このような主溝12Aにより、トレッド部2aには、タイヤ周方向にのびる陸部13が設けられている。また、主溝12A及び横溝(図示省略)には、溝底12aと、溝底12aからタイヤ半径方向外側にのびる一対の溝壁12b、12bとを含んでいる。
カーカス6は、少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成されている。カーカスプライ6Aは、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至る本体部6aと、この本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含んでいる。
カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム8が配されている。また、カーカスプライ6Aは、例えば、タイヤ赤道Cに対して80度〜90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)が、互いに交差する向きに重ねられている。
ベルト層7は、内、外2枚のベルトプライ7A、7Bによって構成される。2枚のベルトプライ7A、7Bは、ベルトコード(図示省略)が、タイヤ周方向に対して、例えば10〜35度の角度で傾けて配列されている。このようなベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わされている。
バンド層9は、例えば、有機繊維コードからなるバンドコード(図示省略)を、タイヤ周方向に対して5度以下の角度で配列した1枚のバンドプライ9Aによって構成されている。このバンドプライ9Aは、例えば、ベルト層7の全巾を覆うフルバンドプライとして形成されている。
次に、本実施形態のシミュレーション方法について説明する。図3は、本実施形態のシミュレーション方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態のシミュレーション方法では、先ず、コンピュータ1に、タイヤ2を有限個の要素F(i)でモデル化したタイヤモデル20を入力する(工程S1)。図4は、本実施形態のタイヤモデル及び路面モデルの斜視図である。図5は、本実施形態のタイヤモデルの断面図である。
図5に示されるように、工程S1では、図2に示したタイヤ2に関する情報(例えば、タイヤ2の輪郭データ等)に基づいて、有限個の要素F(i)(i=1、2、…)で離散化している。本実施形態では、図3に示したトレッドゴムを含むゴム部材2G、カーカスプライ6A、各ベルトプライ7A、7B、及び、バンドプライ9A等の各タイヤ構成部材が、要素F(i)で離散化されている。これにより、タイヤ2をモデル化したタイヤモデル20が設定される。
要素F(i)は、数値解析法により取り扱い可能なものである。数値解析法としては、例えば有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用できるが、本実施形態では有限要素法が採用される。
要素F(i)としては、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられるのが望ましい。各要素F(i)は、複数個の節点21が設けられる。このような各要素F(i)には、要素番号、節点21の番号、節点21の座標値及び材料特性(例えば密度、ヤング率及び/又は減衰係数等)などの数値データが定義される。
タイヤモデル20のトレッド部20aには、図2に示したタイヤ2の溝12の輪郭に基づいて設定された少なくとも1本、本実施形態では複数本の溝26が設けられている。本実施形態の溝26は、後述する路面モデル28(図4に示す)に接地する溝であり、図2に示した主溝12Aに基づいて設定された主溝26Aと、横溝12Bに基づいて設定された横溝(図示省略)とが含まれる。主溝26A及び横溝は、図2に示したタイヤ2の主溝12A及び横溝と同様に、溝底26aと、一対の溝壁26b、26bとを含んでいる。また、トレッド部20aには、主溝26Aによって区分された陸部27が設定される。タイヤモデル20は、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1に、路面(図示省略)を有限個の要素でモデル化した路面モデル28を入力する(工程S2)。図4に示されるように、路面モデル28としてモデル化される路面としては、円筒状に形成されたドラム試験機(図示省略)の外周面である場合が例示されるが、平坦な路面でもよい。工程S2では、路面に関する情報に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)で離散化する。これにより、工程S2では、円筒状の路面モデル28が設定される。
本実施形態の路面モデル28の外面は、平滑なスムース路面として設定されている。なお、路面モデル28の外面は、例えば、走行騒音試験に用いられる路面(ISO路面)や、アスファルト路面に基づいて、凹凸(図示省略)が設定されてもよい。
要素G(i)は、変形不能に設定された剛平面要素として設定される。この要素G(i)には、複数の節点29が設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点29の座標値等の数値データが定義される。路面モデル28は、コンピュータ1に記憶される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、後述するシミュレーション工程S4に先立ち、コンピュータ1に、タイヤモデル20を路面モデル28に転動させるための境界条件を入力する(工程S3)。
本実施形態の工程S3では、先ず、タイヤモデル20を路面モデル28に接触させるための境界条件として、例えば、タイヤモデル20と路面モデル28との間の接触条件、タイヤモデル20の内圧条件、リム条件、荷重条件、キャンバー角、又は、タイヤモデル20と路面モデル28との間の摩擦係数等が入力される。
内圧条件としては、適宜設定することができる。本実施形態の内圧条件としては、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定める空気圧が設定される。荷重条件としては、適宜設定することができる。本実施形態の荷重条件は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定める荷重が設定される。
さらに、工程S3では、タイヤモデル20を路面モデル28に転動させるための境界条件として、例えば、タイヤモデル20のスリップ角、走行速度V、走行速度Vに対応するタイヤモデル20の角速度Va、走行速度Vに対応する路面モデル28の並進速度Vb、又は、タイヤモデル20と路面モデル28との間の動摩擦係数等が入力される。これらの境界情報は、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、タイヤモデル20を路面モデル28上で転動させて、ノイズに関する物理量を計算する(シミュレーション工程S4)。
ところで、従来、ノイズに関する物理量は、タイヤモデル20の周囲に流体モデル(図示省略)を定義して、流体シミュレーションを実施することで計算されていた。流体シミュレーションでは、複雑な計算条件等が設定されるため、非常に多くの計算時間を要する。従って、従来のシミュレーション方法では、タイヤのノイズ性能を簡単に評価できない。
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、タイヤ2の溝12の表面12s(図2に示す)での振動がスピーカーとして、ノイズ(気柱共鳴音)を発生させていることを知見した。より詳しくは、溝12(図2に示す)の表面12sでの振動が、溝12の内部を流れる空気を振動させることによって、気柱共鳴音を生じさせている。さらに、発明者らは、その振動の大きさとノイズの大きさとの間に、一定の相関があることを知見した。即ち、溝12の表面12sでの振動加速度の全振幅(peak to peak)が大きくなるほど、気柱共鳴音が大きくなる。
このような知見に基づいて、本実施形態のシミュレーション工程S4では、タイヤ2の溝12の表面12sでの振動加速度を、ノイズ性能を評価するための新たな物理量として定義し、図5に示したタイヤモデル20の溝26の表面26sでの振動に基づいて、表面26sでの振動加速度(ノイズに関する物理量)を計算している。図6は、本実施形態のシミュレーション工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
本実施形態のシミュレーション工程S4では、タイヤモデル20を路面モデル28上で転動させるのに先立ち、図5に示されるように、コンピュータ1が、内圧充填後のタイヤモデル20を計算する(工程S41)。工程S41では、先ず、タイヤ2のリム14(図2に示す)をモデル化したリムモデル32によって、タイヤモデル20のビード部20c、20cが拘束される。
リムモデル32は、例えば、図2に示したリム14に関する情報(例えば、リム14の輪郭データ等)に基づいて、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素(図示省略)で離散化されることによって設定される。リムモデル32を構成する要素は、例えば、変形不能に設定された剛平面要素(図示省略)として定義されるのが望ましい。
さらに、工程S41では、境界条件として設定された内圧条件に相当する等分布荷重wに基づいて、タイヤモデル20の変形が計算される。これにより、工程S41では、内圧充填後のタイヤモデル20が計算される。
タイヤモデル20の変形計算は、各要素F(i)の形状及び材料特性などをもとに、各要素F(i)の質量マトリックス、剛性マトリックス及び減衰マトリックスがそれぞれ作成される。さらに、これらの各マトリックスが組み合わされて、全体の系のマトリックスが作成される。そして、コンピュータ1が、前記各種の条件を当てはめて運動方程式を作成し、これらを微小時間(単位時間Tx(x=0、1、…))ごとにタイヤモデル20の変形計算を行う。このようなタイヤモデル20の変形計算は、例えば、Dassault Systems社製のAbaqus、LSTC社製のLS-DYNA、又は、MSC社製のNASTRANなどの市販の有限要素解析アプリケーションソフトを用いて計算できる。なお、単位時間Txについては、求められるシミュレーション精度によって、適宜設定することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション工程S4では、コンピュータ1が、荷重条件が定義されたタイヤモデル20を計算する(工程S42)。工程S42では、先ず、図4に示されるように、内圧充填後のタイヤモデル20と路面モデル28との接触が設定される。次に、工程S42では、タイヤモデル20の回転軸20sに、境界条件として設定された荷重条件Tが設定される。これにより、工程S42では、荷重条件Tが負荷されて変形したタイヤモデル20が計算される。
次に、本実施形態のシミュレーション工程S4では、コンピュータ1が、予め定められた走行速度Vに基づいて、路面モデル28上を転動するタイヤモデル20を計算する(工程S43)。工程S43では、境界条件として設定された角速度Vaが、タイヤモデル20の回転軸20sに定義される。さらに、境界条件として設定された並進速度Vbが、路面モデル28に定義される。これにより、工程S43では、路面モデル28上を、走行速度Vで転動するタイヤモデル20を、単位時間Tx毎に計算することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション工程S4は、コンピュータ1が、タイヤモデル20の振動を計算する(工程S44)。工程S44では、路面モデル28を転動するタイヤモデル20の変形が、単位時間Tx毎に計算される。このようなタイヤモデル20の変形計算により、タイヤモデル20を構成する各要素F(i)の節点21の振動が計算されうる。なお、振動の計算は、前述した有限要素解析アプリケーションソフトを用いることによって容易に計算される。タイヤモデル20の各要素F(i)の振動データは、コンピュータ1に入力される。
次に、本実施形態のシミュレーション工程S4では、コンピュータ1が、タイヤモデル20の溝26の表面26s(図5に示す)での振動に基づいて、ノイズに関する物理量を計算する(工程S45)。上述したように、本実施形態のノイズに関する物理量は、タイヤモデル20の溝26の表面26sでの振動加速度である。このような振動加速度は、工程S44で計算されたタイヤモデル20の各要素F(i)の振動データ(例えば、振動数、振動変位又は振動速度等)を用いることによって、容易に計算することができる。この振動加速度は、単位時間Tx毎に計算され、コンピュータ1に入力される。
振動加速度(ノイズに関する物理量)の計算位置については、タイヤモデル20の溝26の表面26sであれば、適宜設定することができる。気柱共鳴音は、主として、図2に示したタイヤ2の主溝12A内で発生する。このため、振動加速度は、タイヤモデル20の主溝26Aの振動に基づいて計算されるのが望ましい。図7は、図5に示したタイヤモデル20及び路面モデル28の部分断面図である。
また、発明者らは、図2に示した溝12を構成する溝底12a、及び、溝壁12b、12bのうち、溝壁12b、12bの振動が、気柱共鳴音に大きく影響していることを知見した。このような観点より、振動加速度は、図7に示されるように、溝壁26b、26bの表面26sでの振動に基づいて計算されるのが望ましい。なお、図2に示した各溝壁12b、12bの振動の大きさは、略近似している。このため、振動加速度は、図7に示されるように、一対の溝壁26b、26bのうち、一方の溝壁26bの振動のみで計算されてもよい。これにより、振動加速度の計算対象の要素数が限定されるため、タイヤのノイズ性能を短時間で評価することができる。
また、主溝12Aの溝壁12b(図2に示す)の振動は、溝壁12bの表面12sに対して様々な方向に生じている。これらの振動のうち、気柱共鳴音に大きく影響している振動は、溝壁12bの表面26sに対して直交する方向(図示省略)の振動である。これは、主溝12A内にある空気の粘性が小であり、溝壁12bの表面26sに対して例えば平行方向等(即ち、直交する方向以外)に生じる振動が、気柱共鳴音にほとんど影響しないと考えられるためである。従って、振動加速度は、図7に示されるように、タイヤモデル20の溝壁26bの表面26sに対して直交する方向D1の振動のみに基づいて計算されるのが望ましい。これにより、後述する工程S5において、ノイズ性能を精度よく評価することができる。
図2に示したタイヤ2において、溝壁12bの接地面側は、路面によって拘束されるため、振動が相対的に小さくなる。また、溝壁12bの溝底側は、ベルト層7やバンド層9によって拘束されるため、振動が相対的に小さくなる。このため、溝壁12bのタイヤ半径方向の中央位置17での振動が、相対的に大きくなる。従って、溝壁12bの中央位置17での振動は、タイヤ2の溝壁12bの振動を代表し、気柱共鳴音に最も影響している。従って、振動加速度(ノイズに関する物理量)は、タイヤモデル20の溝壁26bの半径方向の中央位置37での振動に基づいて計算されるのが望ましい。これにより、計算時間を短縮しつつ、後述する工程S5において、ノイズ性能が精度よく評価されうる。なお、タイヤ2の溝壁12bの全体の振動に基づいて、振動加速度が計算されてもよい。
図8は、図7のA−A断面図である。気柱共鳴音は、タイヤ2(図2に示す)が路面(図示省略)に接地した際に、トレッド部2aの主溝12Aと路面(図示省略)とで形成されるトンネル状の空間(気柱管)で共鳴することによって発生する。このため、振動加速度は、図8に示されるように、タイヤモデル20の主溝26Aの全領域のうち、タイヤモデル20が路面モデル28に接地している接地領域33を含む評価対象領域38において計算されるのが望ましい。なお、評価対象領域38については、タイヤモデル20の大きさに基づいて適宜設定することができる。本実施形態の評価対象領域38は、接地領域33の回転方向両端から回転方向外側に、接地領域33の周方向長さの40%〜60%延長させた領域として設定されている。これにより、気柱共鳴音の大きさを、精度よく予測できる。しかも、振動加速度の計算対象が、評価対象領域38に限定されるため、計算時間を短縮することができる。図9は、接地領域33で計算された単位時間あたりの振動加速度を示すグラフである。
図2に示したタイヤ2の主溝12Aの振動(振動加速度)は、タイヤ2が接地する際に路面(図示省略)から受ける加振によって大きくなる。従って、タイヤモデル20の振動加速度(ノイズに関する物理量)は、後述するノイズ性能が良好か否かを判断工程S5において、図8に示されるように、接地領域33内の主溝26Aのうち、タイヤモデル20の回転方向先着側の端部34のみにおいて評価されてもよい。図9に示されるように、回転方向先着側の端部34での振動加速度は、接地領域33の回転方向中央部での振動加速度よりも大きくなっている。しかも、回転方向先着側の端部34での振動加速度は、単位時間の振動加速度の全振幅(peak to peak)Taを示している。従って、回転方向先着側の端部34側での振動加速度の大きさが評価されることにより、気柱共鳴音の大きさをより精度よく予測できる。しかも、振動加速度の評価対象が、タイヤモデル20の回転方向先着側の端部34に限定されるため、評価時間を短縮することができる。
また、図2に示したタイヤ2の主溝12Aの振動(振動加速度)は、タイヤ2が離面(即ち、路面(図示省略)から離れる)する際に、接地時に圧縮変形していたトレッド部2aの形状の復元によって大きくなる。従って、タイヤモデル20の振動加速度(ノイズに関する物理量)は、後述するノイズ性能が良好か否かを判断工程S5において、図8に示されるように、接地領域33内の主溝26Aのうち、タイヤモデル20の回転方向後着側の端部35のみにおいて評価されてもよい。図9に示されるように、回転方向後着側の端部35での振動加速度は、接地領域33内の回転方向中央部での振動加速度よりも大きくなっている。従って、回転方向後着側の端部35側での振動加速度の大きさが評価されることにより、気柱共鳴音の大きさをより精度よく予測できる。しかも、振動加速度の評価対象が、タイヤモデル20の回転方向後着側の端部35に限定されるため、評価時間を短縮することができる。
振動加速度(ノイズに関する物理量)は、後述するノイズ性能が良好か否かを判断工程S5において、接地領域33内の主溝26Aのうち、タイヤモデル20の回転方向先着側の端部34、及び、回転方向後着側の端部35の双方において評価されるのが望ましい。これにより、振動加速度が大きくなる接地領域33のタイヤ周方向の両端部34、35において、振動加速度の大きさを評価できるため、気柱共鳴音の大きさをより精度よく予測できる。しかも、振動加速度の評価対象が、タイヤモデル20の回転方向先着側の端部34、及び、回転方向後着側の端部35に限定されるため、評価時間を短縮することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション工程S4では、コンピュータ1が、予め定められた転動終了時間が経過したか否かを判断する(工程S46)。転動終了時間については、例えば、評価されるタイヤ2のノイズ性能等に基づいて、適宜設定される。工程S46において、転動終了時間が経過したと判断された場合(工程S46において、「Y」)、次の工程S5が実施される。他方、転動終了時間が経過していないと判断された場合(工程S46において、「N」)、単位時間Txを一つ進めて(工程S47)、工程S44〜工程S46が再度実施される。これにより、シミュレーション工程S4では、タイヤモデル20が路面モデル28を転動してから転動終了時間が経過するまで、ノイズに関する物理量を計算することができる。
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1が、ノイズに関する物理量に基づいて、タイヤ2のノイズ性能が良好か否かを判断する(工程S5)。工程S5では、単位時間毎に計算された振動加速度の全振幅(peak to peak)Ta(図9に示す)を、振動加速度が計算された時間(単位時間の合計値)で平均した値が、予め定められた許容値以下であるか否かで判断される。なお、許容値については、タイヤ2に求められるノイズ性能に応じて、適宜設定される。
工程S5において、タイヤモデル20のノイズ性能が良好であると判断された場合(工程S5で、「Y」)、タイヤモデル20に基づいて、タイヤ2が製造される(工程S6)。他方、タイヤモデル20のノイズ性能が良好でないと判断された場合(工程S5で、「N」)、タイヤ2の設計因子が変更され(工程S7)、工程S1〜工程S5が再度実施される。これにより、本発明では、ノイズ性能が優れるタイヤ2を確実に設計することができる。
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
主溝の仕様が異なる3つのタイヤTa〜Tcが製造された(実験例)。そして、タイヤTa〜Tcについて、下記の条件に基づいて、直径1.7mのドラム試験機上を走行させ、600〜1000Hzの音圧が測定された。そして、タイヤTb、Tcの音圧について、タイヤTaの音圧との差分が計算された。評価は、差分が小さいほど、タイヤTaよりも気柱共鳴音が小さく、ノイズ性能に優れていることを示している。
タイヤ:
タイヤサイズ:235/45R18 94Y
リムサイズ:8.0J×18
タイヤTa:平滑な溝底を有する主溝
タイヤTb:タイヤTaの主溝と同一形状を有し、溝底にタイヤ周方向に連続してのびる縦サイプが設けられた主溝
タイヤTc:タイヤTaの主溝と異なる形状を有し、平滑な溝底を有する主溝
内圧:1.795kgf/cm2
縦荷重:469.07kgf
速度:80km/h
実施例では、実験例のタイヤTa〜Tcに基づいて、主溝の仕様が異なるタイヤモデルMa〜Mcが作成された。実施例では、図3及び図6に示した処理手順に従って、タイヤモデルMa〜Mcについて、ノイズに関する物理量が計算された。シミュレーション工程では、各タイヤモデルMa〜Mcを路面モデル上で転動させて、タイヤモデルMa〜Mcの振動がそれぞれ計算され、タイヤモデルMa〜Mcの溝の表面での振動に基づいて、図9に示されるように、振動加速度が単位時間毎に計算された。さらに、各タイヤモデルMa〜Mcについて、各単位時間の振動加速度の全振幅の平均値が計算された。そして、タイヤモデルMb、Mcの全振幅の平均値について、タイヤモデルMaの全振幅の平均値との差分が計算された。評価は、差分が小さいほど、タイヤモデルMaよりも気柱共鳴音が小さく、ノイズ性能に優れていることを示している。テスト結果を、表1に示す。
Figure 0006805533
テストの結果、実施例のタイヤモデルMa〜Mcのノイズ性能の傾向と、実験例のタイヤTa〜Tcのノイズ性能の傾向とが一致した。従って、実施例のシミュレーション方法は、ノイズ性能を精度よく評価できた。
実施例のシミュレーション方法において、タイヤモデルMa〜Mcのノイズ性能を評価するのに要した作業日数は、一つのタイヤモデル当たり1.5日であった。他方、実験例では、タイヤTa〜Tcのノイズ性能を評価するのに要した作業日数は、一つのタイヤ当たり2週間であった。従って、実施例のシミュレーション方法は、実験例に比べて短時間で評価できるため、タイヤのノイズ性能を簡単に評価することができた。しかも、実施例では、タイヤモデルの周囲に流体モデルを定義した流体シミュレーションが実施されていない。従って、実施例のシミュレーション方法は、従来のシミュレーション方法に比べて、タイヤのノイズ性能を簡単に評価することができた。
S44 タイヤモデルの振動を計算する工程
S45 ノイズに関する物理量を計算する工程

Claims (7)

  1. トレッド部に少なくとも1本の溝が設けられたタイヤのノイズ性能を、コンピュータを用いてシミュレーションするための方法であって、
    前記コンピュータに、前記タイヤを有限個の要素でモデル化して、前記溝が形成されたタイヤモデルを入力する工程、
    前記コンピュータに、路面を有限個の要素でモデル化した路面モデルを入力する工程、及び
    前記コンピュータが、前記タイヤモデルを前記路面モデル上で転動させて、ノイズに関する物理量を計算する工程を含み、
    前記物理量を計算する工程は、前記タイヤモデルの振動を計算する工程と、
    前記振動のうち、前記タイヤモデルの前記溝の表面での振動に基づいて、前記物理量を計算する工程とを含み、
    前記物理量は、前記溝の表面での振動加速度であることを特徴とするタイヤのシミュレーション方法。
  2. 前記溝は、前記路面モデルに接地する溝である請求項1記載のタイヤのシミュレーション方法。
  3. 前記溝は、タイヤ周方向に連続してのびる主溝である請求項2記載のタイヤのシミュレーション方法。
  4. 前記物理量は、前記主溝の全領域のうち、前記タイヤモデルが前記路面モデルに接地している接地領域を含む領域内において計算される請求項3記載のタイヤのシミュレーション方法。
  5. 前記物理量は、前記接地領域内の前記主溝のうち、前記タイヤモデルの回転方向先着側の端部において評価される請求項4記載のタイヤのシミュレーション方法。
  6. 前記物理量は、前記接地領域内の前記主溝のうち、前記タイヤモデルの回転方向後着側の端部において評価される請求項4又は5記載のタイヤのシミュレーション方法。
  7. 前記溝は、溝底と、前記溝底からタイヤ半径方向外側にのびる一対の溝壁とを含み、
    前記物理量は、前記一対の溝壁のうち、少なくとも一方の前記溝壁の振動に基づいて計算される請求項1乃至6のいずれかに記載のタイヤのシミュレーション方法。
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