JP2010049241A - 電子写真感光体および電子写真装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐高湿流れ性と耐摩耗性に優れた電子写真感光体、および、該電子写真感光体を有する電子写真装置を提供する。
【解決手段】光導電層と、該光導電層上の水素化アモルファスシリコンカーバイトで構成された表面層とを有する電子写真感光体において、該表面層におけるケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)との和に対する炭素原子の原子数(C)の比(C/(Si+C))が0.61以上0.75以下であり、該表面層におけるケイ素原子の原子密度と炭素原子の原子密度との和が6.60×1022原子/cm以上であることを特徴とする。
【選択図】図5

Description

本発明は、水素化アモルファスシリコンカーバイトで構成された表面層を有する電子写真感光体および該電子写真感光体を有する電子写真装置に関する。なお、水素化アモルファスシリコンカーバイトを、以下「a−SiC」とも表記する。また、水素化アモルファスシリコンカーバイトで構成された表面層を、以下「a−SiC表面層」とも表記する。
各種電子写真感光体の中でも、金属などの基体上にアモルファス材料で構成された光導電層(感光層)を形成したアモルファスシリコン電子写真感光体は広く知られている。なお、アモルファスシリコン電子写真感光体を、以下「a−Si感光体」とも表記する。
a−Si感光体の構成の一例として、基体上に光導電層を形成し、光導電層上にa−SiC表面層を形成した構成が挙げられる。a−SiC表面層は耐摩耗性に優れていることから、主にプロセススピードの速い電子写真装置で用いられてきている。
しかしながら、従来のa−SiC表面層は、絶対湿度の高い環境下で使用した場合に、文字がぼけたり、文字が印字されずに白抜けが生じたりする場合があった。これらの現象を、以下「高湿流れ」とも表記する。
高湿流れとは、絶対湿度の高い環境下に設置された電子写真装置を用いて画像を出力し、しばらく時間をあけた後、再び画像を出力すると、出力画像において、文字がぼけたり、文字が印字されずに白抜けが生じたりするという画像不良のことである。
高湿流れは、電子写真感光体の表面に水分が吸着することによって表面の抵抗が低下し、電荷が横流れを起こすために発生すると考えられている。そのため、電子写真装置が設置されている環境の絶対湿度が高い場合や、a−Si感光体の近傍に設ける感光体ヒーターを使用しない場合に、より発生しやすくなる。
高湿流れの発生を抑えるための技術として、特許文献1には、表面層を構成する各原子の原子密度を特定の値よりも小さくし、a−SiC表面層を比較的粗な膜構造とすることで、クリーニングプロセスにおいて削れやすくする技術が開示されている。a−SiC表面層を削れやすくすることで、a−SiC表面層の表面の酸化層とともに表面に吸着した帯電生成物や水分を除去しやすくなるため、高湿流れの抑制が可能となる。
特許第3124841号公報
近年、市場では、電子写真装置の高速化およびカラー化が進み、従来に比べ、電子写真感光体がさらに摩耗しやすい電子写真プロセスへと変化してきている。一方、市場では、高速化およびカラー化に伴い、高画質な画像を安定して出力可能な電子写真装置も求められている。これらの市場要求に対し、良好な耐摩耗性を維持しつつ、高湿流れを改善した電子写真感光体が必要となっている。
この点、特許文献1に開示された技術を用いる場合、電子写真感光体の表面をある程度のスピードで削る必要があるため、特に高速な電子写真プロセスでは、耐久性を損ないやすくなる。
具体的にいえば、特許文献1に開示された技術では、電子写真感光体の表面に形成された酸化層や、酸化層に吸着した帯電生成物や水分など(吸着物質)を取り除くため、一定の摩耗のしやすさを電子写真感光体の表面に持たせる必要があった。
また、このような摩耗しやすい表面層では、圧傷が発生することにより、電子写真感光体の寿命が制限される場合もあった。圧傷とは、電子写真感光体に機械的なストレスが加わることにより、画像上に黒スジや白スジなどの傷様の画像欠陥を起こす現象のことである。圧傷は、高精細な電子写真プロセスにおいてハーフトーン画像を出力した際に特に目立ちやすく、画像品質を低下させるとともに、電子写真感光体の寿命を短くする原因となっている。
すなわち、従来の電子写真感光体および電子写真装置では、良好な耐摩耗性を維持しつつ、高湿流れを改善することは困難であった。
本発明の目的は、耐高湿流れ性(高湿流れ抑制効果)と耐摩耗性に優れた電子写真感光体、および、該電子写真感光体を有する電子写真装置を提供することにある。
本発明は、光導電層と、該光導電層上の水素化アモルファスシリコンカーバイトで構成された表面層とを有する電子写真感光体において、該表面層におけるケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)との和に対する炭素原子の原子数(C)の比(C/(Si+C))が0.61以上0.75以下であり、該表面層におけるケイ素原子の原子密度と炭素原子の原子密度との和が6.60×1022原子/cm以上であることを特徴とする電子写真感光体である。
本発明によれば、耐高湿流れ性と耐摩耗性に優れた電子写真感光体、および、該電子写真感光体を有する電子写真装置を提供することができる。
(a)は帯電器下流れの現象を説明するための模式的な説明図であり、(b)は耐久流れの現象を説明するための模式的な説明図である。 本発明の電子写真感光体の作製に用いられるプラズマCVD装置の一例の模式図である。 (a)は本発明に好適に用いることが可能なスコロトロン帯電器の模式的な概略図であり、(b)は本発明に好適に用いることが可能なコロトロン帯電器の模式的な概略図である。 実施例で用いた電子写真装置の概略断面図である。 (a)および(b)は本発明の電子写真感光体の層構成の一例を模式的に示した図である。
本発明者らは、耐高湿流れ性と耐摩耗性に優れた電子写真感光体を実現するために鋭意検討を行った。検討の結果、高湿流れには、大別すると、以下の2つの現象が存在することを見出した。
A;絶対湿度の高い環境下で画像を出力し、そのまま一晩放置した後、翌朝画像を出力した場合、画像の一部に画像濃度低下が発生する現象。この画像濃度低下は、放置時に電子写真感光体と帯電器が対面していた領域で発生する。このような現象を、以下「帯電器下流れ」とも表記する。
B;Aと同様に翌朝画像を出力した場合、帯電器下流れが発生するとともに、放置時に帯電器に対面していなかった領域においても画像濃度低下が発生する現象。この現象は、多量の画像出力をした(長期間画像出力をし続けた)際に発生する場合があり、画像上で局所的に発生する帯電器下流れとは異なり、画像全面で発生する。このような現象を、以下「耐久流れ」とも表記する。
これらの2つの現象から、高湿流れは、帯電器下流れと耐久流れとからなる複合的な現象であることがわかった。
本発明者らは、上記2つの現象が生じるメカニズムを下記のように推察した。図1(a)および(b)を用いて、推察したメカニズムを説明する。
図1(a)は、Aの現象を説明するための模式的な説明図であり、電子写真感光体の表面に吸着した吸着物質の吸着量と高湿流れ発生の関係を示したものである。帯電生成物や水分などの吸着物質の吸着量が高湿流れ発生の閾値を超えると、画像上に高湿流れが発生する。
まず、画像出力前の初期の段階では、電子写真感光体の表面の吸着物質は少ない。次に、画像出力を繰り返し行った画像出力後の状態を考える。この状態では主に帯電の影響により、電子写真感光体の表面層が酸化され、電子写真感光体の表面には極性基が生成されることになる。この極性基が生成されることの高湿流れに対する影響は、次の2とおりの作用が考えられる。
まず、第1に、極性基それ自体が水分の吸着量を増大させることにより、電子写真感光体の表面の低抵抗化を起こしやすくする作用である。
第2に、極性基が生成されることにより、電子写真感光体の表面を帯電生成物が吸着しやすい表面へと変化させる作用である。帯電生成物は水分を吸着することで、電子写真感光体の表面の低抵抗化をより促進すると考えられている。
これら2つの相乗的な作用により、帯電生成物や水分などの吸着物質が増加し、高湿流れが発生しやすい状況を作り出すものと考えられる。
次に、この状態で、電子写真感光体を電子写真装置内に放置した場合を考える。放置時に帯電器に対面している領域では、帯電器周辺に多量の帯電生成物が存在していることに加え、酸化により帯電生成物が吸着しやすくなっているため、電子写真感光体の表面には大量の帯電生成物が吸着することになる。その結果、帯電生成物や水分などの吸着物質の吸着量が閾値を超えてしまい、高湿流れが発生すると考えられる。一方、放置時に帯電器に対面していない領域では、酸化によって帯電生成物や水分の吸着性が増大しているものの、付着すべき帯電生成物の存在量が少ないため、吸着物質の吸着量が閾値を超えるまでには至らない。
以上の結果、帯電器下流れが発生すると考えられる。
図1(b)は、Bの現象を説明するための模式的な説明図であり、図1(a)と同様に電子写真感光体の表面に吸着した吸着物質の吸着量と高湿流れ発生の関係を示したものである。図1(a)との相違は、図1(a)に示した場合よりも長期にわたって画像形成を繰り返した状況を示している点である。a−SiC表面層の表面は、長期間にわたり繰り返し行われてきた帯電の影響により、図1(a)の場合に比べて酸化がさらに進行し、帯電生成物や水分の吸着性がさらに増加する。そのため、帯電生成物が多量に存在する放置時に帯電器に対面する部分はもとより、もともと帯電生成物の少ない放置時に帯電器に対面していない部分であっても、主として水分の吸着量の増加により、吸着物質の吸着量が閾値を超えてしまうことになる。結果として、放置時に帯電器に対面していない領域でも高湿流れが発生すると考えられる。
以上のように、高湿流れには、帯電器下流れと耐久流れの2つの要素があることが明らかとなったが、上述のように、その原因は、どちらも帯電生成物や水分の吸着量の増大であるということができる。よって、帯電器下流れおよび耐久流れを両方とも抑制するためには、吸着物質の吸着性を左右するa−SiC表面層の酸化を抑制することが極めて重要であることがわかった。
a−SiC表面層の酸化を抑制することにより、帯電生成物や水分などの吸着量の抑制が可能となる。このため、a−SiC表面層の表面の酸化層や吸着物質を除去するために摩耗量を増加させる必要がなくなり、電子写真感光体の良好な耐摩耗性を維持することができる。
そこで、本発明者らは、a−SiC表面層の帯電による酸化を抑制することにより、従来に比べて吸着物質の付着を低減しつつ、耐摩耗性に優れたa−SiC表面層を形成することができると考え、鋭意検討を行った。その結果、a−SiC表面層を構成するケイ素原子の原子数と炭素原子の原子数との和に対する炭素原子の原子数の比を特定の範囲内にしたうえで、ケイ素原子の原子密度と炭素原子の原子密度との和を特定の値より大きくすることにより、上述の課題に対して大きな効果があることを見出し、本発明を完成させるに至った。

本発明の電子写真感光体は、上述のとおり、
光導電層と、該光導電層上の水素化アモルファスシリコンカーバイトで構成された表面層(a−SiC表面層)とを有し、
a−SiC表面層におけるケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)との和(Si+C)に対する炭素原子の原子数(C)の比(C/(Si+C))が0.61以上0.75以下であること、および、
a−SiC表面層におけるケイ素原子の原子密度と炭素原子の原子密度との和が6.60×1022原子/cm以上であること
を特徴としている。なお、ケイ素原子の原子数と炭素原子の原子数との和に対する炭素原子の原子数の比を、以下「C/(Si+C)」とも表記する。また、ケイ素原子の原子密度を、以下「Si原子密度」とも表記する。また、炭素原子の原子密度を、以下「C原子密度」とも表記する。また、ケイ素原子の原子密度と炭素原子の原子密度との和を、以下「Si+C原子密度」とも表記する。
(表面層)
a−SiC表面層におけるSi+C原子密度を6.60×1022原子/cm以上にすることにより、耐高湿流れ性および耐摩耗性が大きく向上する。この理由を、以下に示す。
すなわち、a−SiCの酸化反応は、a−SiCの炭素原子の酸化および脱離によりケイ素原子と炭素原子との結合が切断され、新たに生成したケイ素原子のダングリングボンドに酸化物質が反応することによって生じる。この点、本発明によれば、a−SiC表面層におけるSi+C原子密度を大きくすることにより、ケイ素原子と炭素原子との結合を切断されにくくすることが可能になる。また、Si+C原子密度が大きくなることにより、a−SiC表面層における空間率が低減するため、炭素原子と酸化物質との反応確率が低減する。電子写真プロセスにおいては、帯電工程により生成したイオン種と炭素原子との反応により、炭素原子の酸化および脱離が生じると考えられる。よって、炭素原子の酸化を抑制することにより、ケイ素原子の酸化も抑制される。
本発明によれば、a−SiC表面層の構成原子間の距離が短縮され、空間率が低減されるため、a−SiC表面層の表面の酸化が抑制され、a−SiC表面層の表面での極性基の生成が抑制されると考えられる。この結果、高湿流れの抑制が可能となる。
また、a−SiC表面層の構成原子の結合力が高くなるため、a−SiC表面層の硬度は高くなり、その結果、電子写真感光体の耐摩耗性も向上すると考えられる。
以上の観点から、a−SiC表面層におけるSi+C原子密度は高い方が好ましく、6.81×1022原子/cm以上にすることで、耐高湿流れ性と耐摩耗性がより向上する。なお、a−SiCにおいては、最も高密度化した状態であるSiC結晶の13.0×1022原子/cmという原子密度が、Si+C原子密度の上限となる。
また、a−SiC表面層におけるSi+C原子密度を上記範囲にしたうえで、さらに、a−SiC表面層におけるC/(Si+C)を0.61以上0.75以下にすることが、優れた電子写真感光体特性を得るうえで必要である。
a−SiC表面層において、C/(Si+C)を0.61よりも小さくすると、特に、原子密度の高いa−SiCを作製した場合、a−SiCの抵抗が低下する場合がある。このような場合、静電潜像形成時にキャリアが表面層中で横流れを生じやすくなる。そのため、静電潜像として孤立ドットを形成した場合に、表面層中でのキャリアの横流れにより孤立ドットが小さくなる。その結果、出力された画像において、特に、低濃度側での画像濃度が低下してしまうために、階調性の低下を生じる場合がある。このような理由により、本発明のような原子密度の高いa−SiC表面層においては、C/(Si+C)を0.61以上にする必要がある。
また、C/(Si+C)を0.75より大きくすると、特に、原子密度の高いa−SiCを作製した場合、a−SiC表面層での光吸収が急激に増加する場合がある。このような場合、静電潜像形成時に必要となる画像露光光の光量が多くなり、感度が極端に低下してしまう。また、a−SiC表面層の摩耗量に対する感度変動が大きくなることから、電子写真感光体に削れムラが生じた場合に、画像濃度ムラが生じる場合がある。このような理由により、本発明のような原子密度の高いa−SiC表面層においては、C/(Si+C)を0.75以下にする必要がある。
以上の理由により、好ましい電子写真感光体特性を維持しつつ、a−SiC表面層の耐酸化性を向上させて高湿流れを抑制するためには、a−SiC表面層におけるSi+C原子密度を6.60×1022原子/cm以上にし、かつ、a−SiC表面層におけるC/(Si+C)を0.61以上0.75以下にする必要がある。
また、本発明においては、a−SiC表面層におけるケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)と水素原子の原子数(H)との和(Si+C+H)に対する水素原子の原子数(H)の比(H/(Si+C+H))を0.30以上0.45以下にすることが好ましい。これにより、電子写真感光体特性がさらに良好で、耐高湿流れ性および耐摩耗性にさらに優れた電子写真感光体が得られる。なお、ケイ素原子の原子数と炭素原子の原子数と水素原子の原子数との和に対する水素原子の原子数の比を、以下「H/(Si+C+H)」とも表記する。
原子密度の高いa−SiC表面層においては、光学的バンドギャップが狭くなり、光吸収が増加することにより感度が低下する場合がある。しかしながら、a−SiC表面層におけるH/(Si+C+H)を0.30以上含有させることで、光学的バンドギャップが広がり、感度の向上を図ることができる。
一方、a−SiC表面層におけるH/(Si+C+H)を0.45より多くすると、a−SiC表面層中には、メチル基のような水素原子の多い終端基が増加する傾向が見られる。メチル基のような複数の水素原子を有する終端基がa−SiC表面層中に多く存在すると、a−SiCの構造中に大きな空間を形成するとともに、周囲に存在する原子間の結合にひずみを生じさせる。このような構造上弱い部分は、酸化に対して弱い部分となってしまうと考えられる。また、水素原子をa−SiC表面層中に多量に含有させると、a−SiC表面層の骨格原子であるケイ素原子と炭素原子とのネットワーク化の促進が図りづらくなる。
このような理由により、H/(Si+C+H)を0.45以下にすることで、a−SiC表面層における骨格原子であるケイ素原子と炭素原子のネットワーク化の促進および原子間の結合に生じていたひずみの低減が可能となると考えられる。その結果、a−SiC表面層の耐酸化性がさらに向上し、電子写真感光体の耐摩耗性がさらに向上する。
また、本発明においては、a−SiC表面層のラマンスペクトルにおける1480cm−1のピーク強度(I)に対する1390cm−1のピーク強度(I)の比(I/I)を0.20以上0.70以下にすることが好ましい。なお、ラマンスペクトルにおける1480cm−1のピーク強度に対する1390cm−1のピーク強度の比を、以下「I/I」とも表記する。
まず、a−SiC表面層のラマンスペクトルについて、ダイヤモンドライクカーボンと比較しながら説明する。なお、ダイヤモンドライクカーボンを、以下「DLC」とも表記する。
sp構造とsp構造から形成されているDLCのラマンスペクトルは、1540cm−1付近に主ピークを持ち、1390cm−1付近にショルダーバンドを有する非対称なラマンスペクトルが観察される。RF−CVD法で形成されたa−SiC表面層では、1480cm−1付近に主ピークを持ち、1390cm−1付近にショルダーバンドを有するDLCに類似したラマンスペクトルが観察される。a−SiC表面層の主ピークがDLCよりも低波数側にシフトしているのは、a−SiC表面層にはケイ素原子が含まれているためである。このことから、RF−CVD法で形成されたa−SiC表面層は、DLCに非常に近い構造を有する材料であることがわかる。
一般的に、DLCのラマンスペクトルにおいて、高波数バンドのピーク強度に対する低波数バンドのピーク強度の比が小さいほど、DLCのsp性が高い傾向があることが知られている。よって、a−SiC表面層においても、DLCと非常に近い構造であることから、高波数バンドのピーク強度に対する低波数バンドのピーク強度の比が小さいほど、sp性が高い傾向を示すと考えられる。
本発明の原子密度の高いa−SiC表面層において、a−SiC表面層におけるI/Iを0.70以下にすることにより、耐高湿流れ性および耐摩耗性をさらに向上させることができる。
この理由としては、sp性が向上すると、spの2次元のネットワーク数が減少し、spの3次元ネットワークが増加するため、骨格原子の結合数が増加し、強固な構造体が形成可能になるためだと考えている。
そのため、a−SiC表面層におけるI/Iは小さい方がより好ましいが、量産レベルで形成されるa−SiC表面層では、完全にsp構造を取り除くことはできない。そのため、本発明においては、a−SiC表面層におけるI/Iの下限値を、本実施例において耐高湿流れ性および耐摩耗性の向上が確認された0.2としている。
また、本発明においては、クリーニングブレードによる電子写真感光体の表面のクリーニング性の観点から、原子間力顕微鏡(AFM)により電子写真感光体の表面を10μm×10μmの範囲で測定したときに得られる微視的形状から求められる表面粗さRaは、10nm以上80nm以下であることが好ましく、10nm以上50nm以下であることがより好ましい。なお、表面粗さRaを、以下単に「Ra」とも表記する。
また、上記と同様のクリーニング性の観点から、AFMにより電子写真感光体の表面を10μm×10μmの範囲で測定したときに得られる微視的形状から求められる平均傾斜Δaは、0.10以上0.40以下あることが好ましい。なお、平均傾斜Δaを、以下単に「Δa」とも表記する。
本発明において、上記a−SiC表面層の形成方法は、上記規定を満足する層を形成できるものであればいずれの方法であってもよい。具体的には、プラズマCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。これらの中でも、原料供給の容易さなどの点で、プラズマCVD法が好ましい。
a−SiC表面層の形成方法としてプラズマCVD法を選択した場合、a−SiC表面層の形成方法は以下のとおりである。
すなわち、ケイ素原子供給用の原料ガスおよび炭素原子供給用の原料ガスを、内部を減圧にしうる反応容器内に所望のガス状態で導入し、該反応容器内にグロー放電を生起させる。これによって、該反応容器内に導入した原料ガスを分解し、あらかじめ所定の位置に設置された基体上にa−SiCで構成された層を形成すればよい。
ケイ素原子供給用の原料ガスとしては、たとえば、シラン(SiH)、ジシラン(Si)などのシラン類が好適に使用できる。また、炭素原子供給用の原料ガスとしては、たとえば、メタン(CH)、アセチレン(C)などのガスが好適に使用できる。また、主にH/(Si+C+H)を調整するためとして、水素(H)を、上記の原料ガスとともに使用してもよい。
本発明のa−SiC表面層を形成する場合においては、反応容器に供給するガス流量を少なく、高周波電力を高く、または、基体の温度を高くすることにより、Si+C原子密度が高くなる傾向がある。実際は、これらの条件を適宜組み合わせて設定すればよい。
(光導電層)
本発明において、光導電層は、電子写真特性上の性能を満足できる光導電特性を有するものであればいずれのものであってもよいが、耐久性、安定性の観点から、水素化アモルファスシリコンで構成された光導電層が好ましい。なお、水素化アモルファスシリコンを、以下「a−Si」とも表記する。
本発明において、光導電層としてa−Siで構成された光導電層を用いる場合は、a−Si中の未結合手を補償するため、水素原子に加えて、ハロゲン原子を含有させることができる。
水素原子(H)およびハロゲン原子(X)の含有量の合計(H+X)は、ケイ素原子(Si)と水素原子(H)とハロゲン原子(X)との和(Si+H+X)に対して10原子%以上であることが好ましく、15原子%以上であることがより好ましい。一方、30原子%以下であることが好ましく、25原子%以下であることがより好ましい。
本発明において、光導電層には必要に応じて伝導性を制御するための原子を含有させることが好ましい。伝導性を制御するための原子は、光導電層中にまんべんなく均一に分布した状態で含有されていてもよいし、また、膜厚方向には不均一な分布状態で含有している部分があってもよい。
伝導性を制御するための原子としては、半導体分野における、いわゆる不純物を挙げることができる。すなわち、p型伝導性を与える周期表13族に属する原子またはn型伝導性を与える周期表15族に属する原子を用いることができる。周期表13族に属する原子の中でも、ホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましい。周期表15族に属する原子の中でも、リン原子、ヒ素原子が好ましい。
光導電層に含有される伝導性を制御するための原子の含有量は、ケイ素原子(Si)に対して1×10−2原子ppm以上であることが好ましく、5×10−2原子ppm以上であることがより好ましく、1×10−1原子ppm以上であることがより一層好ましい。一方、1×10原子ppm以下であることが好ましく、5×10原子ppm以下であることがより好ましく、1×10原子ppm以下であることがより一層好ましい。
本発明において、光導電層の膜厚は、所望の電子写真特性が得られること、経済的効果などの点から、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。一方、60μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがより一層好ましい。光導電層の膜厚が15μm未満であると、帯電部材への通過電流量が増大し、劣化が早まりやすい傾向がある。光導電層の膜厚が60μmを超えると、a−Siの異常成長部位が大きくなることがあり、具体的には、水平方向で50〜150μm、高さ方向で5〜20μmとなり、表面を摺擦する部材へのダメージが無視できなくなる場合や、画像欠陥となる場合がある。
なお、光導電層は、単一の層で構成されてもよいし、複数の層(たとえば、電荷発生層と電荷輸送層)で構成されてもよい。
a−Siで構成された光導電層の形成方法としては、たとえば、プラズマCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。これらの中でも、原料供給の容易さなどの点で、プラズマCVD法が好ましい。
以下、光導電層の形成方法について、プラズマCVD法を例にとって説明する。
光導電層を形成するには、ケイ素原子供給用の原料ガスおよび水素原子供給用の原料ガスを、内部を減圧にしうる反応容器内に所望のガス状態で導入し、該反応容器内にグロー放電を生起させる。これによって、該反応容器内に導入した原料ガスを分解し、あらかじめ所定の位置に設置された基体上にa−Siで構成された層を形成すればよい。
本発明において、ケイ素原子供給用の原料ガスとしては、たとえば、シラン(SiH)、ジシラン(Si)などのシラン類が好適に使用できる。また、水素原子供給用の原料ガスとしては、上記シラン類に加えて、たとえば、水素(H)も好適に使用できる。
また、上述のハロゲン原子、伝導性を制御するための原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子など光導電層を含有させる場合には、それぞれの原子を含むガス状または容易にガス化しうる物質を材料として適宜使用すればよい。
(基体)
基体は、導電性を有し、表面に形成される光導電層および表面層を保持しうるものであれば特に限定されず、いずれのものであってもよい。基体の材質としては、たとえば、アルミニウム、鉄などの金属や、これらの合金などが挙げられる。なお、導電性を有する基体(導電性の基体)を、以下「導電性基体」とも表記する。
(中間層)
本発明においては、光導電層と本発明のa−SiC表面層との間に中間層を設けることが好ましい。また、該中間層におけるC/(Si+C)を0.61以上0.75以下にし、該中間層におけるSi+C原子密度を5.50×1022原子/cm以上6.45×1022原子/cm以下にすることが好ましい。また、該中間層の膜厚は150nm以上であることが好ましい。
図5(a)は、本発明の電子写真感光体の層構成の一例を模式的に示した図である。図5(a)中、電子写真感光体10は、たとえばアルミニウムなどの円筒状で導電性の基体14と、基体14の表面に順次形成された光導電層13、中間層12および表面層11とを有している。
以下、上記中間層について詳細に説明する。
上記中間層は、本発明のa−SiC表面層と組み合わせることで、光導電層を機械的なストレスから保護し、圧傷を抑制する効果が得られる。
圧傷の原因は、使用中に電子写真装置内に何らかの理由で硬度の高い異物が噛み込まれで、電子写真感光体の表面に機械的なストレスを与えることにより発生すると考えられる。ただし、必ずしも電子写真感光体の表面の傷を伴うものではない。また、一度圧傷が発生した電子写真感光体を、たとえば200℃で1時間加熱することで、該圧傷が消失する場合も見られる。このため、電子写真感光体の表面そのものではなく、表面層を介して光導電層に過度のストレスが加わったために圧傷は発生するものと考えられる。このような圧傷は、高硬度の表面層を形成することにより発生を抑えることはできるが、光導電層へのストレスを抑制するためには、最低限度の膜厚が必要とされている。
電子写真感光体の表面層は、長期に渡る使用により次第に摩耗していくので、電子写真感光体の設定寿命終了後にも、上記の最低限度の膜厚を維持している必要がある。
また、本発明のa−SiC表面層はSi+C原子密度を向上させたことにより、耐酸化性(耐高湿流れ性)および耐摩耗性を向上させたものであるが、上述のように光透過性はやや低い傾向にある。
そこで、光導電層と本発明のa−SiC表面層との間に中間層を設け、該中間層をSi+C原子密度が本発明のa−SiC表面層よりも低い、比較的光透過性に優れた膜とし、その膜厚を上記の最低限度の膜厚にすることにより、電子写真感光体の感度を向上させることができる。
また、中間層におけるSi+C原子密度を、本発明のa−SiC表面層におけるSi+C原子密度よりも小さくすることで、a−SiC表面層が受ける機械的なストレスを中間層により効果的に緩和できると推測される。そのため、中間層を設けない場合に比べて、より効果的に圧傷を抑制することができる。
以上の効果を得るためには、中間層は原子密度とSi+C原子密度を本発明のa−SiC表面層よりも低くする必要があるが、Si+C原子密度があまり低くなると、中間層の圧傷抑制能が損なわれてくる。これは、中間層が効果的にストレスを緩和するには、表面層におけるSi+C原子密度とのバランスにおいて最適な範囲があるためと考えられる。そのため、本発明においては、中間層におけるSi+C原子密度の下限値を、圧傷抑制の効果が確認された5.50×1022原子/cmとしている。
また、中間層におけるC/(Si+C)の効果は、本発明のa−SiC表面層における効果とほぼ同じである。すなわち、C/(Si+C)が小さくなると、中間層の抵抗が下がりやすくなり、ドット再現性の低下による濃度低下が起こりやすい。また、C/(Si+C)がある程度より大きくなると光透過性が低減し、Si+C原子密度を小さくすることによる感度向上の効果が小さくなる。したがって、中間層におけるC/(Si+C)は0.61以上0.75以下にすることが好ましい。
また、中間層は上述のように圧傷抑制のため、最低限の膜厚が必要であるが、本発明では、上記中間層の膜厚を150nm以上にすることで明らかな圧傷抑制効果を得ることができた。なお、上記中間層の膜厚は、圧傷抑制効果を得るための上限値はないが、中間層が厚ければそれだけ光透過性が損なわれる結果となる。具体的には、150nmの膜厚で、使用する電子写真プロセスにあわせて決定すればよいが、おおよそ700nm以下にすることが好ましい。
なお、本発明者の検討によれば、中間層の光透過性に対する影響はC/(Si+C)およびSi+C原子密度が支配的であり、H/(Si+C+H)の依存性はあまり見られなかった。これは、原子密度が表面層よりも低下していることにより、光透過性における水素原子の原子密度の依存性が低下したためと考えられる。なお、水素原子の原子密度を、以下「H原子密度」とも表記する。
以上のように、本発明のa−SiC表面層と上記中間層との組み合わせにより、耐高湿流れ性および耐摩耗性を向上させるとともに、圧傷を効果的に抑制し、さらには感度の改善を得られるものである。
一方、上記中間層には、本発明のa−SiC表面層のような耐高湿流れ性および耐摩耗性の向上効果は求められない。そのため、電子写真感光体の設定寿命経過時点において、本発明のa−SiC表面層が上記中間層上に残ることを想定する必要がある。一方、本発明のa−SiC表面層の膜厚は、上述のような圧傷抑制効果を考慮する必要はないため、使用する電子写真プロセスにもよるが、100nm以上あれば十分と推測される。
上記中間層を形成する方法としては、上述の表面層を形成する場合と同様の方法を採用することができる。そして、反応容器に供給するガス量、高周波電力、反応容器内の圧力、基体の温度などの条件を、必要に応じて表面層と異なる条件にすることで、形成される中間層の原子密度を調整すればよい。
(電荷注入阻止層)
本発明においては、基体と光導電層との間に基体側からの電荷の注入を阻止する働きを有する電荷注入阻止層を設けることが好ましい。すなわち、電荷注入阻止層は、電子写真感光体の表面が一定極性の帯電処理を受けた際、基体から光導電層への電荷の注入を阻止する機能を有する層である。このような機能を付与するために、電荷注入阻止層は、光導電層を構成する材料をベースとしたうえで、伝導性を制御するための原子を光導電層に比べて比較的多く含有させる。
伝導性を制御するために電荷注入阻止層に含有させる原子は、電荷注入阻止層中にまんべんなく均一に分布した状態で含有されていてもよいし、また、膜厚方向には不均一な分布状態で含有している部分があってもよい。分布濃度が不均一な場合には、基体側に多く分布するように含有させるのが好適である。いずれの場合においても、伝導性を制御するための原子が基体の表面に対して平行面内方向に均一な分布で電荷注入阻止層に含有されることが、特性の均一化を図る上からも好ましい。
伝導性を制御するために電荷注入阻止層に含有させる原子としては、帯電極性に応じて周期表13族または15族に属する原子を用いることができる。
さらに、電荷注入阻止層には、炭素原子、窒素原子および酸素原子のうち少なくとも1種の原子を含有させることにより、電荷注入阻止層を基体との間の密着性を向上させることができる。
電荷注入阻止層に含有される炭素原子、窒素原子および酸素原子のうち少なくとも1種の原子は、電荷注入阻止層中にまんべんなく均一に分布した状態で含有されていてもよいし、また、膜厚方向には均一に含有されてはいるが、不均一に分布する状態で含有している部分があってもよい。いずれの場合にも、伝導性を制御するための原子が基体の表面に対して平行面内方向に均一な分布で電荷注入阻止層に含有されることが、特性の均一化を図る上からも好ましい。
電荷注入阻止層の膜厚は、所望の電子写真特性が得られること、経済的効果などの点から、0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることがより好ましく、0.5〜3μmであることがより一層好ましい。膜厚を0.1μm以上にすることにより、基体からの電荷の注入阻止能を十分に有することができ、好ましい帯電能を得ることができる。一方、5μm以下にすることにより、電荷注入阻止層形成時間の延長による製造コストの増加を防ぐことができる。
また、本発明においては、光導電層と本発明のa−Si表面層との間に電荷注入阻止層を設けてもよい。
なお、光導電層の下に設けた電荷注入阻止層を、以下「下部電荷注入阻止層」とも表記する。また、光導電層の上に設けた電荷注入阻止層を、以下「上部電荷注入阻止層」とも表記する。
本発明において、上部電荷注入阻止層を光導電層上に設ける場合は、上記中間層は上部電荷注入阻止層と本発明のa−Si表面層との間に設けることが好ましい。
図5(b)に、下部電荷注入阻止層を形成した場合の電子写真感光体の層構成を模式的に示す。図5(b)において、電子写真感光体10は、基体14と、基体14上に順次形成された下部電荷注入阻止層15、光導電層13、中間層12および表面層11とを有している。
また、上記各層の間では、それぞれの組成を連続的につなぐ、いわゆる変化層を必要に応じて設けることもできる。
<本発明の電子写真感光体を製造するための製造装置および製造方法>
図2は、本発明のa−Si感光体を作製するための高周波電源を用いたRFプラズマCVD法による電子写真感光体の堆積装置の一例を模式的に示した図である。
この堆積装置は、大別すると、反応容器3110を有する堆積装置3100、原料ガス供給装置3200、および、反応容器3110内を減圧する為の排気装置(図示せず)から構成されている。
堆積装置3100中の反応容器3110内にはアースに接続された基体3112、基体加熱用ヒーター3113、および、原料ガス導入管3114が設置されている。さらにカソード電極3111には高周波マッチングボックス3115を介して高周波電源3120が接続されている。
原料ガス供給装置3200は、原料ガスボンベ3221〜3225、バルブ3231〜3235、圧力調整器3261〜3265、流入バルブ3241〜3245、流出バルブ3251〜3255およびマスフローコントローラ3211〜3215から構成されている。各原料ガスを封入したガスのボンベは補助バルブ3260を介して反応容器3110内の原料ガス導入管3114に接続されている。3116はガス配管であり、3117はリークバルブであり、3121は絶縁材料である。
次に、この装置を使った堆積膜の形成方法について説明する。まず、あらかじめ脱脂洗浄した基体3112を反応容器3110に受け台3123を介して設置する。次に、排気装置(図示せず)を運転し、反応容器3110内を排気する。真空計3119の表示を見ながら、反応容器3110内の圧力がたとえば1Pa以下の所定の圧力になったところで、基体加熱用ヒーター3113に電力を供給し、基体3112をたとえば50〜350℃の所定の温度に加熱する。このとき、ガス供給装置3200より、Ar、Heなどの不活性ガスを反応容器3110に供給して、不活性ガス雰囲気中で加熱を行うこともできる。
次に、ガス供給装置3200より堆積膜形成に用いるガスを反応容器3110に供給する。すなわち、必要に応じてバルブ3231〜3235、流入バルブ3241〜3245、流出バルブ3251〜3255を開き、マスフローコントローラ3211〜3215に流量設定を行う。各マスフローコントローラの流量が安定したところで、真空計3119の表示を見ながらメインバルブ3118を操作し、反応容器3110内の圧力が所望の圧力になるように調整する。所望の圧力が得られたところで高周波電源3120より高周波電力を印加すると同時に高周波マッチングボックス3115を操作し、反応容器3110内にプラズマ放電を生起する。その後、速やかに高周波電力を所望の電力に調整し、堆積膜の形成を行う。
所定の堆積膜の形成が終わったところで、高周波電力の印加を停止し、バルブ3231〜3235、流入バルブ3241〜3245、流出バルブ3251〜3255、および、補助バルブ3260を閉じ、原料ガスの供給を終える。同時に、メインバルブ3118を全開にし、反応容器3110内を1Pa以下の圧力まで排気する。
以上で、堆積膜の形成を終えるが、複数の堆積膜を形成する場合、再び上記の手順を繰り返してそれぞれの層を形成すればよい。原料ガス流量や、圧力などを光導電層形成用の条件に一定の時間で変化させて、接合領域の形成を行うこともできる。
すべての堆積膜形成が終わったのち、メインバルブ3118を閉じ、反応容器3110内に不活性ガスを導入し大気圧に戻した後、基体3112を取り出す。
本発明の電子写真感光体は、従来の電子写真感光体の表面層に比べてa−SiCを構成しているSi+C原子密度を上げて、原子密度の高い膜構造の表面層を形成している。上述したように、本発明の原子密度の高いa−SiC表面層を形成する場合には、反応容器に供給するガス量が少ない方が好ましく、高周波電力は高い方が好ましく、反応容器内の圧力が高い方が好ましく、さらに、基体の温度が高い方が好ましい。
まず、反応容器内に供給するガス量を減らし、かつ、高周波電力を上げることにより、ガスの分解を促進させることができる。これにより、ケイ素原子供給用のガスよりも分解しにくい炭素原子供給用のガスを効率良く分解することができる。その結果、水素原子の少ない活性種が生成され、基体上に形成した堆積膜中の水素原子が減少するため、原子密度の高いa−SiC表面層が形成可能となる。
また、反応容器内の圧力を高めることで、反応容器内に供給された原料ガスの滞留時間が長くなる、また、原料ガスの分解により生じた水素原子により弱結合水素の引き抜き反応が生じる。その結果、ケイ素原子と炭素原子のネットワーク化が促進されると考えられる。
さらに、基体の温度を上げることにより、基体に到達した活性種の表面移動距離が長くなり、より安定した結合をつくることができる。その結果、a−SiC表面層として、より構造的に安定した配置に各原子が結合できると考えられる。
<本発明の電子写真感光体を用いた電子写真装置>
図4を用いてa−Si感光体を用いた電子写真装置による画像形成方法を説明する。
まず、電子写真感光体6001を回転させ、電子写真感光体6001の表面を主帯電器6002により均一に帯電させる。その後、静電潜像形成手段(画像露光手段)6006により電子写真感光体6001の表面に画像露光光を照射し、電子写真感光体6001の表面に静電潜像を形成した後、現像器6012より供給されるトナーを用いて現像を行う。この結果、電子写真感光体6001の表面にトナー像が形成される。そして、このトナー像を転写帯電器6004により転写材6010に転写し、電子写真感光体6001から分離帯電器6005により転写材6010を分離して、定着手段(不図示)によりトナー像を転写材に定着させる。
一方、トナー像が転写された電子写真感光体6001の表面に残留するトナーをクリーナー6009により除去し、その後、電子写真感光体6001の表面を露光することにより電子写真感光体6001中の静電潜像時の残キャリアを除電する。この一連のプロセスを繰り返すことで連続して画像形成が行われる。6003は除電器であり、6007はマグネットローラーであり、6008はクリーニングブレードであり、6011は搬送手段であり、
本発明の電子写真感光体を搭載する電子写真装置に関しては特に制限はなく、たとえば図4に示す従来の電子写真装置であっても、耐高湿流れ性および耐摩耗性において、従来の電子写真感光体よりも優れた効果が得られる。
ただし、絶対湿度の非常に高い環境においては、主に「帯電器下流れ」による高湿流れが発生する場合もある。
このような状況下では、本発明の電子写真感光体を用いた電子写真装置において、電子写真感光体に対向する帯電器の開口部を遮蔽可能な遮蔽部材を設けることにより、高湿流れ抑制に関してさらに大きな効果が得られる。
このような構成とすることで、帯電器下流れの一因である帯電生成物が多量に発生した場合でも、電子写真プロセス終了時に帯電器と電子写真感光体の間に遮蔽部材を入れることで、帯電生成物の電子写真感光体の表面への付着を抑制することができる。
この結果、本発明のa−SiC表面層の表面での酸化抑制による吸着性の低下に加え、吸着物質の低減も可能となるため、帯電生成物の生成が多い電子写真プロセスにおいても、高湿流れ抑制に関してさらに大きな効果が得られる。
電子写真感光体に対向する帯電器の開口部を遮蔽する方法、遮蔽部材を有する帯電器および遮蔽部材の構成に関しては、電子写真プロセス終了時に遮蔽し、開始時に帯電器の開口部が開口可能であれば従来公知の方法および構成でよい。従来公知の遮蔽部材の一例としては、特開平10−104911号公報に記載されているものが挙げられる。
電子写真感光体に対向する帯電器の開口部を遮蔽する遮蔽部材の一例として、コロナ帯電器に遮蔽部材を設けた構成の帯電手段を用いて説明する。
図3は、遮蔽部材の一例を示した模式的な概略図である。
図3(a)に示したコロナ帯電手段は、スコロトロン帯電器4102と遮蔽部材4103より構成される。スコロトロン帯電器4102は帯電線4102a、ハウジング4102b、グリッド線4102cから形成され、電子写真感光体4101に対向して配置される。スコロトロン帯電器4102の開口部に、遮蔽部材4103が配置される。遮蔽部材4103は、コロナ放電がオンのときには、コロナ放電に影響を与えない退避位置まで、移動手段(不図示)によって移動可能な構成になっている。
このような構成のコロナ帯電手段は、プリントジョブが終了すると、遮蔽部材4103が退避位置から閉塞位置へ移動して、スコロトロン帯電器4102の開口部を閉じる。これにより、スコロトロン帯電器4102中に浮遊している帯電生成物は、遮蔽部材表面に吸着するため、電子写真感光体の表面への吸着を抑制することができる。図3(a)に示したようなスコロトロン式のコロナ帯電器は、たとえば、主帯電器として好適に用いられる。
また、図3(b)に示したコロナ帯電手段は、コロトロン帯電器4202と遮蔽部材4203より構成される。コロトロン帯電器4202は帯電線4202a、ハウジング4202bから形成され、電子写真感光体4201に対向して配置される。コロトロン帯電器4202の開口部に、遮蔽部材4203が配置される。帯電方式がスコロトロン式からコロトロン式に変わった点以外は、図3(a)と同様の構成である。図3(b)に示したようなコロトロン式のコロナ帯電器は、たとえば、転写帯電器として好適に用いられる。
また、遮蔽部材の材質に関しても特に制限はなく、電子写真感光体に対向する帯電器の開口部を遮蔽できれば、どのような材質であってもよい。
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
<実施例1>
図2に示す、周波数としてRF帯の高周波電源を用いたプラズマ処理装置を用いて、円筒状基体(直径80mm、長さ358mm、厚さ3mmの鏡面加工を施した円筒状のアルミニウム製の導電性基体)上に下記表1に示す条件でプラス帯電用a−Si感光体を作製した。なお、実施例1〜6、比較例1〜7は、カソード電極3111として、内径258mmのカソード電極を用いた。また、電荷注入阻止層、光導電層、表面層を順次形成し、表面層形成時の高周波電力、SiH流量およびCH流量を下記表2に示す条件とした。また、電子写真感光体の作製本数は、各成膜条件(層形成条件)で2本ずつ作製した。
Figure 2010049241
表1中、「電荷注入阻止層」は下部電荷注入阻止層である。
Figure 2010049241
実施例1で作製した各成膜条件2本ずつの電子写真感光体について後述の条件にて表面粗さ測定を行いRaおよびΔaを算出した。その後、各成膜条件の1本の電子写真感光体を用いて、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度およびsp性を、後述の分析方法により求めた。そして、各成膜条件の残りの1本の電子写真感光体により、後述の評価条件にて高湿流れ1、耐摩耗性、階調性および感度の評価を行った。それらの結果を、表5に示す。
<比較例1>
実施例1と同様に図2に示す周波数としてRF帯の高周波電源を用いたプラズマ処理装置を用いて、円筒状基体上に上記表1に示す条件でプラス帯電用a−Si感光体を2本作製した。ただし、表面層形成時の高周波電力、SiH流量およびCH流量を下記表3に示す条件とした。
Figure 2010049241
比較例1で作製した電子写真感光体について、実施例1と同様に、表面粗さを算出した後、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度およびsp性を求めた。また、実施例1と同様に、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性、感度を評価した。それらの結果を、表5に示す。
<比較例2>
図2に示す周波数としてRF帯の高周波電源を用いたプラズマ処理装置を用いて、円筒状基体上に下記表4に示す条件でプラス帯電用a−Si感光体を2本作製した。
Figure 2010049241
表4中、「電荷注入阻止層」は下部電荷注入阻止層である。
比較例2で作製した電子写真感光体について、実施例1と同様に、表面粗さを算出した後、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度およびsp性を求めた。また、実施例1と同様に、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性、感度を評価した。それらの結果を、表5に示す。なお、比較例1で作製した電子写真感光体の成膜条件No.を6とした。
(C/(Si+C)の測定、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)の測定)
まず、表1の電荷注入阻止層および光導電層のみを形成したリファレンス電子写真感光体を作製し、任意の周方向における長手方向の中央部を15mm四方の正方形で切り出し、リファレンス試料を作製した。
次に、電荷注入阻止層、光導電層および表面層を形成した電子写真感光体を同様に切り出し、測定用試料を作製した。
リファレンス試料と測定用試料を分光エリプソメトリー(J.A.Woollam社製:高速分光エリプソメトリー M−2000)により測定し、表面層の膜厚を求めた。
分光エリプソメトリーの具体的な測定条件は、入射角:60°、65°、70°、測定波長:195nmから700nm、ビーム径:1mm×2mmである。
まず、リファレンス試料を分光エリプソメトリーにより各入射角で波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係を求めた。
次に、リファレンス試料の測定結果をリファレンスとして、測定用試料をリファレンス試料と同様に分光エリプソメトリーにより各入射角で波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係を求めた。
さらに、電荷注入阻止層および光導電層、表面層を順次形成し、最表面に表面層と空気層が共存する粗さ層を有する層構成を計算モデルとして用いて、解析ソフトにより粗さ層の表面層と空気層の体積比を変化させて、各入射角における波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係を計算により求めた。そして、各入射角における上記計算により求めた波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係と測定用試料を測定して求めた波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係の平均二乗誤差が最小となるときの計算モデルを選択した。この選択した計算モデルにより表面層の膜厚を算出し、得られた値を表面層の膜厚とした。なお、解析ソフトはJ.A.Woollam社製のWVASE32を用いた。また、粗さ層の表面層と空気層の体積比に関しては、表面層:空気層を10:0から1:9まで粗さ層における空気層の比率を1ずつ変化させて計算をした。本実施例の各成膜条件で作製されたプラス帯電用a−Si感光体においては、粗さ層の表面層と空気層の体積比が8:2のときに計算によって求められた波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係と測定して求められた波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係の平均二乗誤差が最小となった。
分光エリプソメトリーによる測定が終了した後、上記測定用試料をRBS(ラザフォード後方散乱法)(日新ハイボルテージ(株)製:後方散乱測定装置 AN−2500)により、RBSの測定面積における表面層中のケイ素原子および炭素原子の原子数を測定した。測定したケイ素原子および炭素原子の原子数から、C/(Si+C)を求めた。次に、RBSの測定面積から求めたケイ素原子および炭素原子に対し、分光エリプソメトリーにより求めた表面層の膜厚を用いて、Si原子密度、C原子密度およびSi+C原子密度を求めた。
RBSと同時に、上記測定用試料をHFS(水素前方散乱法)(日新ハイボルテージ(株)製:後方散乱測定装置 AN−2500)により、HFSの測定面積における表面層中の水素原子の原子数を測定した。HFSの測定面積から求めた水素原子の原子数と、RBSの測定面積から求めたケイ素原子の原子数および炭素原子の原子数により、H/(Si+C+H)を求めた。
次に、HFS測定面積から求めた水素原子数に対し、分光エリプソメトリーにより求めた表面層の膜厚を用いて、H原子密度を求めた。
RBSおよびHFSの具体的な測定条件は、入射イオン:4He、入射エネルギー:2.3MeV、入射角:75°、試料電流:35nA、入射ビーム経:1mmである。また、RBSの検出器は、散乱角:160°、アパーチャ径:8mm、HFSの検出器は、反跳角:30°、アパーチャ径:8mm+Slitで測定を行った。
(高湿流れ評価1)
高湿流れ評価1は、耐久流れを評価する方法である。高湿流れ評価1によって評価される耐久流れを、「高湿流れ1」とも表記する。
高湿流れ評価1で使用した電子写真装置は、図4に示す構成の電子写真装置を準備した。より具体的には、キヤノン(株)製のデジタル電子写真装置「iR−5065」(商品名)である。
上記電子写真装置に作製した電子写真感光体を設置し、温度25℃、相対湿度75%(容積絶対湿度17.3g/cm)の高湿環境下で連続通紙試験前のA3文字チャート(4pt、印字率4%)の画像を出力した。このとき、感光体ヒーターをONにする条件で実施した。
連続通紙試験前の画像出力後、連続通紙試験を実施した。連続通紙試験時は、電子写真装置を稼働して連続通紙試験を実施している間および電子写真装置を停止している間を通じて常に感光体ヒーターをOFFにする条件で実施した。
具体的には、印字率1%のA4テストパターンを用いて、1日当たり2.5万枚の連続通紙試験を10日間実施して25万枚まで行った。連続通紙試験終了後、温度25℃、相対湿度75%の環境下で15時間放置した。
15時間後、感光体ヒーターをOFFのまま立ち上げ、A3文字チャート(4pt、印字率4%)の画像を出力した。連続通紙試験前に出力した画像と、連続通紙試験後に出力した画像を、それぞれキヤノン(株)製のデジタル電子写真装置「iRC−5870」(商品名)を用いて、モノクロ300dpiの2値の条件でPDFファイルに電子化した。電子化した画像をAdobe製の画像編集ソフト「Adobe Photoshop」(商品名)を用いて、電子写真感光体1周分の画像領域(251.3mm×273mm)の黒比率を測定した。次に、連続通紙耐久前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率の比率を求め、耐久流れの評価を行った。
高湿流れが発生した場合、画像全体で文字がぼける、または、文字が印字されずに白抜けするため、連続通紙試験前の正常な画像と比較した場合、出力された画像における黒比率が低下する。よって、連続通紙試験前の正常な画像に対する連続通紙試験後に出力された画像の黒比率の比率が100%に近いほど高湿流れが良好となる。なお、高湿流れ評価1に対して、D以上で本発明の効果が得られていると判断した。
A‥連続通紙試験前の画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が95%以上105%以下。
B‥連続通紙試験前の画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が90%以上95%未満。
C‥連続通紙試験前の画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が85%以上90%未満。
D‥連続通紙試験前の画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が80%以上85%未満。
E‥連続通紙試験前の画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が70%以上80%未満。
F‥連続通紙試験前の画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が70%未満。
(耐摩耗性評価)
耐摩耗性の評価方法は、作製直後の電子写真感光体の表面層の膜厚を電子写真感光体の任意の周方向で長手方向9点(電子写真感光体の長手方向中央を基準として、0mm、±50mm、±90mm、±130mm、±150mm)、および、上記任意の周方向から180°回転させた位置での長手方向9点、合計18点を測定し、その18点の平均値により算出した。
測定方法は、2mmのスポット径で電子写真感光体の表面に垂直に光を照射し、分光計(大塚電子製:MCPD−2000)を用いて、反射光の分光測定を行った。得られた反射波形をもとに表面層の膜厚を算出した。このとき、波長範囲を500nmから750nm、光導電層の屈折率は3.30とし、表面層の屈折率は上述したSi+C原子密度測定の際に行った分光エリプソメトリーの測定より求まる値を用いた。
膜厚測定後、高湿流れ1評価と同様に、キヤノン(株)製のデジタル電子写真装置「iR−5065」(商品名)に作製した電子写真感光体を設置し、温度25℃、相対湿度75%の高湿環境下で高湿流れ評価1と同様の条件により連続通紙試験を実施した。25万枚連続通紙試験が終了した後、電子写真感光体を電子写真装置から取り出し、作製直後と同じ位置で膜厚を測定し、作製直後と同様に連続通紙試験した後の表面層の膜厚を算出した。そして、作製直後および連続通紙試験後で得られた表面層の平均膜厚から差分を求め、25万枚での摩耗量を算出した。そして、比較例2で作製した成膜条件No.6の電子写真感光体の作製直後および連続通紙試験後で得られた表面層の平均膜厚の差分に対する各電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分の比率を求め、相対評価を行った。なお、耐摩耗性評価に対して、D以上で本発明の効果が得られていると判断した。
A‥比較例2で作製した成膜条件No.6の電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分に対する各成膜条件にて作製された電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分の比率が60%以下。
B‥比較例2で作製した成膜条件No.6の電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分に対する各成膜条件にて作製された電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分の比率が60%より大きく70%以下。
C‥比較例2で作製した成膜条件No.6の電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分に対する各成膜条件にて作製された電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分の比率が70%より大きく80%以下。
D‥比較例2で作製した成膜条件No.6の電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分に対する各成膜条件にて作製された電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分の比率が80%より大きく90%以下。
E‥比較例2で作製した成膜条件No.6の電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分に対する各成膜条件にて作製された電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分の比率が90%より大きく100%未満。
F‥比較例2で作製した成膜条件No.6の電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分に対する各成膜条件にて作製された電子写真感光体の表面層の平均膜厚の差分の比率が100%以上。
(階調性評価)
階調性評価は、キヤノン(株)製のデジタル電子写真装置「iR−5065」(商品名)の改造機を用いた。そして、まず、画像露光光による45度170lpi(1インチあたり170線)の線密度で面積階調ドットスクリーンを用い、面積階調(すなわち画像露光を行うドット部分の面積階調)によって、全階調範囲を17段階に均等配分した階調データを作成した。このとき、最も濃い階調を17、最も薄い階調を0として各階調に番号を割り当て、階調段階とした。
次に、上記の改造した電子写真装置に作製した電子写真感光体を設置し、上記階調データを用いて、テキストモードを用いてA3用紙に出力した。このとき、高湿流れが発生すると画像ボケの評価に影響が出るため、温度22℃、相対湿度50%の環境下で、感光体ヒーターをONにして、電子写真感光体の表面を約40℃に保った条件で画像を出力した。
得られた画像を各階調ごとに反射濃度計(X−Rite Inc製:504 分光濃度計)により画像濃度を測定した。なお、反射濃度測定では各々の階調ごとに3枚の画像を出力し、それらの濃度の平均値を評価値とした。
こうして得られた評価値と階調段階との相関係数を算出し、各階調の反射濃度が完全に直線的に変化する階調表現が得られた場合である相関係数=1.00からの差分を求めた。そして、成膜条件No.2で作製した電子写真感光体の相関係数から算出される差分に対する各成膜条件にて作製された電子写真感光体の相関係数から算出される差分の比を階調性の指標として評価した。この評価において、数値が小さいほど階調性が優れており、直線的に近い階調表現がなされていることを示している。なお、階調性評価に対して、Aで本発明の効果が得られていると判断した。
A‥成膜条件No.2で作製した電子写真感光体の相関係数から算出される相関係数=1.00からの差分に対する各成膜条件にて作製された電子写真感光体から算出される相関係数=1.00からの差分の比が1.80以下。
B‥成膜条件No.2で作製した電子写真感光体の相関係数から算出される相関係数=1.00からの差分に対する各成膜条件にて作製された電子写真感光体から算出される相関係数=1.00からの差分の比が1.80より大きい。
(感度評価)
キヤノン(株)製のデジタル電子写真装置「iR−5065」(商品名)の改造機を用いた。画像露光を切った状態で帯電器のワイヤーおよびグリットに、それぞれ高圧電源を接続し、グリット電位を820Vとし、帯電器のワイヤーへ供給する電流を調整して電子写真感光体の表面電位を400Vとなるように設定した。
次に、先に設定した帯電条件で帯電させた状態で、画像露光を照射し、その照射エネルギーを調整することにより、現像器位置の電位を100Vとした。
感度評価で用いた電子写真装置の画像露光光源は、発振波長が658nmの半導体レーザーである。評価結果は比較例2で作製した成膜条件No.6の電子写真感光体を搭載した場合の照射エネルギーを1.00とした相対比較で示した。なお、感度評価に対して、B以上で本発明の効果が得られていると判断した。
A‥比較例2で作製した成膜条件No.6の電子写真感光体での照射エネルギーに対する照射エネルギーの比が1.10未満。
B‥比較例2で作製した成膜条件No.6の作製した電子写真感光体での照射エネルギーに対する照射エネルギーの比が1.10以上1.15未満。
C‥比較例2で作製した成膜条件No.6の電子写真感光体での照射エネルギーに対する照射エネルギーの比が1.15以上。
(sp性評価)
sp性は、電子写真感光体の任意の周方向における長手方向の中央部を10mm四方の正方形で切り出した試料を、レーザーラマン分光光度計(日本分光(株)製:NRS−2000)により算出した。
具体的な測定条件は、光源:Arレーザー 514.5nm、レーザー強度:20mA、対物レンズ:50倍とし、中心波長を1380cm−1、露光時間30秒、積算5回で3回測定した。また、得られたラマンスペクトルの解析方法を次のとおりである。すなわち、ショルダーラマンバンドのピーク波数を1390cm−1で固定し、主ラマンバンドのピーク波数を1480cm−1に設定して固定せずに、ガウシアン分布を用いてカーブフィッティングを行った。このとき、ベースラインは直線近似とした。カーブフィッティングより得られた主ラマンバンドのピーク強度Iとショルダーラマンバンドのピーク強度IよりI/Iを求め、3回の平均値をsp性の評価に用いた。
(表面粗さの測定)
2本の電子写真感光体において、任意の周方向における長手方向の中央部を原子間力顕微鏡(AFM)(Quesant社製:Q−SCOPE250(Version3.181))により測定し、RaおよびΔaを算出した。得られたRaおよびΔaの平均値をRaおよびΔaの値とした。
具体的には、ヘッド:Tape10、プローブ:NSC16を用い、10μm×10μmの範囲をSCANRATE:4Hz、Integral Gain:600、Proportional Gain:500、Scan Resolution:300の測定条件で、Wavemadeにて測定した。解析ソフト:Quesant社製 Q−SCOPE250により得られたAFM観察像をTilt RemovalのParabolic Line By Lineを用いて、補正を行った。補正したAFM観察像をHistogram AnalysisにてRa、Δaを算出した。ただし、HistogramAnalysisでのRaは、Meas Deviationで表される値を用いた。
実施例1および比較例1、2について、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度、sp性、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性および感度に関する結果を、表5に示す。
Figure 2010049241
表5の結果より、表面層におけるSi+C原子密度を6.60×1022原子/cm以上にすることにより、耐高湿流れ性および耐摩耗性が向上することがわかった。また、Si+C原子密度を6.81×1022原子/cm以上にすることにより、耐高湿流れ性および耐摩耗性がさらに向上することがわかった。
また、感光体ヒーターをなくしても高湿流れが良好となることから、表面層におけるSi+C原子密度を上記範囲にすることで省エネルギー性に対しても良好な電子写真感光体が得られることがわかった。
実施例1および比較例1、2で作製した電子写真感光体の表面粗さは、Raが32nm〜36nm、Δaが0.13〜0.16の範囲であった。
さらに、実施例1の成膜条件No.2で形成された表面層と、比較例2の成膜条件No.6で形成された表面層に関して、X線吸収微細構造スペクトル(XAFS)を測定し、広域X線吸収微細構造(EXAFS)の解析を行った。その結果、Si−K EXAFS振動部より算出した動径分布関数より得られるSi−Cの結合間距離は、実施例1の成膜条件No.2では0.172nm、比較例2の成膜条件No.6では0.184nmであった。これらのことから、a−SiC表面層におけるSi+C原子密度を高くすることにより、Si−C結合の原子間距離が短くなっていることが確認された。
<実施例2>
実施例1と同様に、図2に示す周波数としてRF帯の高周波電源を用いたプラズマ処理装置を用いて、円筒状基体上にプラス帯電用a−Si感光体を作製した。その際、上記表1に示す条件で電荷注入阻止層、光導電層、表面層を順次形成し、表面層形成時の高周波電力、SiHおよびCHの流量を下記表6に示す条件とした。
Figure 2010049241
実施例2で作製した電子写真感光体について、実施例1と同様に、表面粗さを算出した後、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度およびsp性を求めた。また、実施例1と同様に、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性、感度を評価した。それらの結果を、表8に示す。
<比較例3>
実施例2と同様に図2に示す周波数としてRF帯の高周波電源を用いたプラズマ処理装置を用いて、円筒状基体上に上記表1に示す条件でプラス帯電用a−Si感光体を作製した。表面層形成時の高周波電力、SiHおよびCHの流量を下記表7に示す条件とした。
Figure 2010049241
比較例3で作製した電子写真感光体について、実施例1と同様に、表面粗さを算出した後、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度およびsp性を求めた。また、実施例1と同様に、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性、感度を評価した。それらの結果を、表8に示す。
実施例2および比較例3について、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度、sp性、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性および感度に関する結果を、表8に示す。
Figure 2010049241
表8の結果より、表面層におけるSi+C原子密度を6.60×1022原子/cm以上にしたうえでC/(Si+C)を0.61以上にすることで階調性が良好となることがわかった。また、表面層におけるSi+C原子密度を6.60×1022原子/cm以上にしたうえでC/(Si+C)を0.75以下にすることで、光吸収が抑制され、感度が良好となることがわかった。
実施例2および比較例3で作製した電子写真感光体の表面粗さは、Raが32nm〜36nm、Δaが0.13〜0.16の範囲であった。
<実施例3>
実施例1と同様に、図2に示す周波数としてRF帯の高周波電源を用いたプラズマ処理装置を用いて、円筒状基体上にプラス帯電用a−Si感光体を作製した。その際、上記表1に示す条件で電荷注入阻止層、光導電層、表面層を順次形成し、表面層形成時の高周波電力、SiHおよびCHの流量を下記表9に示す条件とした。
Figure 2010049241
実施例3で作製した電子写真感光体について、実施例1と同様に、表面粗さを算出した後、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度およびsp性を求めた。また、実施例1と同様に、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性、感度を評価した。それらの結果を、実施例2の成膜条件No.9と合わせて表10に示す。
Figure 2010049241
表10の結果より、表面層におけるH/(Si+C+H)を0.30以上にすることにより、光吸収が抑制されたため、感度が向上することがわかった。また、表面層におけるH/(Si+C+H)を0.45以下にすることにより、耐高湿流れ性および耐摩耗性がさらに向上することがわかった。
また、感光体ヒーターをなくしても高湿流れが良好となることから、表面層におけるH/(Si+C+H)を上記範囲(0.30以上0.45以下)にすることで、省エネルギー性に対しても良好な電子写真感光体が得られることがわかった。
実施例3で作製した電子写真感光体の表面粗さは、Raが32nm〜36nm、Δaが0.13〜0.16の範囲であった。
<実施例4>
実施例1と同様に、図2に示す周波数としてRF帯の高周波電源を用いたプラズマ処理装置を用いて、円筒状基体上にプラス帯電用a−Si感光体を作製した。その際、上記表1に示す条件で電荷注入阻止層、光導電層、表面層を順次形成し、表面層形成時の高周波電力、SiHおよびCHの流量を下記表11に示す条件とした。
Figure 2010049241
実施例4で作製した電子写真感光体について、実施例1と同様に、表面粗さを算出した後、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度およびsp性を求めた。また、実施例1と同様に、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性、感度を評価した。それらの結果を、実施例1の成膜条件No.4、実施例2の成膜条件No.8、10および実施例4と合わせて表12に示す。
Figure 2010049241
表12の結果より、表面層のsp性を0.70以下にすることにより、耐高湿流れ性および耐摩耗性がさらに向上することがわかった。そして、表面層のsp性が0.20以上で、耐高湿流れ性および耐摩耗性がさらに向上することがわかった。
また、感光体ヒーターをなくしても高湿流れが良好となることから、表面層におけるSi+C原子密度を上記範囲にすることで省エネルギー性に対しても良好な電子写真感光体が得られることがわかった。
<比較例4>
実施例1と同様に、図2に示す周波数としてRF帯の高周波電源を用いたプラズマ処理装置を用いて、円筒状基体上にプラス帯電用a−Si感光体を作製した。その際、上記表1に示す条件で電荷注入阻止層、光導電層、表面層を順次形成し、表面層形成時の高周波電力、SiHおよびCHの流量を下記表13に示す条件とした。
Figure 2010049241
比較例4で作製した電子写真感光体について、実施例1と同様に、表面粗さを算出した後、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度およびsp性を求めた。また、実施例1と同様に、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性、感度を評価した。それらの結果を、実施例1の成膜条件No.4、実施例2の成膜条件No.11、実施例3の成膜条件No.21、22と合わせて表14に示す。
Figure 2010049241
表14の結果より、表面層におけるSi+C原子密度を6.60×1022原子/cm以上にし、かつ、C/(Si+C)を0.61以上0.75以下にすることにより、耐高湿流れ性、耐摩耗性、階調性、感度に優れた電子写真感光体が得られることがわかった。
また、H/(Si+C+H)を0.30以上0.45以下にすることにより、さらに耐高湿流れ性、耐摩耗性および感度に優れた電子写真感光体が得られることがわかった。
さらに、sp性を0.20以上0.70以下にすることにより、さらに耐摩耗性に優れた電子写真感光体が得られることがわかった。
実施例4および比較例4で作製した電子写真感光体の表面粗さは、Raが32nm〜36nm、Δaが0.13〜0.16の範囲であった。
<実施例5>
実施例1と同様に、図2に示す周波数としてRF帯の高周波電源を用いたプラズマ処理装置を用いて、円筒状基体上にプラス帯電用a−Si感光体を作製した。その際、上記表1に示す条件で電荷注入阻止層、光導電層、表面層を順次形成し、表面層形成時の高周波電力、SiHおよびCHの流量を下記表15に示す条件とした。
Figure 2010049241
実施例5で作製した電子写真感光体について、実施例1と同様に、表面粗さを算出した後、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度およびsp性を求めた。また、実施例1と同様に、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性、感度を評価した。それらの結果を、表17に示す。
<比較例5>
実施例1と同様に、図2に示す周波数としてRF帯の高周波電源を用いたプラズマ処理装置を用いて、円筒状基体上にプラス帯電用a−Si感光体を作製した。その際、上記表1に示す条件で電荷注入阻止層、光導電層、表面層を順次形成し、表面層形成時の高周波電力、SiHおよびCHの流量を下記表16に示す条件とした。
Figure 2010049241
比較例5で作製した電子写真感光体について、実施例1と同様に、表面粗さを算出した後、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度およびsp性を求めた。また、実施例1と同様に、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性、感度を評価した。それらの結果を、表17に示す。
実施例5および比較例5について、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度、sp性、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性および感度に関する結果を、実施例2の成膜条件No.7、比較例3の成膜条件No.14、実施例3の成膜条件No.17、18、20と合わせて表17に示す。
Figure 2010049241
表17の結果より、表面層におけるSi+C原子密度を6.60×1022原子/cm以上にし、かつ、C/(Si+C)を0.61以上0.75以下にすることで耐高湿流れ性、耐摩耗性、階調性、感度に優れた電子写真感光体が得られることがわかった。
また、H/(Si+C+H)を0.30以上0.45以下にすることにより、さらに耐高湿流れ性、耐摩耗性および感度に優れた電子写真感光体が得られることがわかった。
さらに、sp性を0.20以上0.70以下にすることにより、さらに耐摩耗性に優れた電子写真感光体が得られることがわかった。
実施例5および比較例5で作製した電子写真感光体の表面粗さは、Raが32nm〜36nm、Δaが0.13〜0.16の範囲であった。
<比較例6>
実施例1と同様に、図2に示す周波数としてRF帯の高周波電源を用いたプラズマ処理装置を用いて、円筒状基体上にプラス帯電用a−Si感光体を作製した。その際、上記表1に示す条件で電荷注入阻止層、光導電層、表面層を順次形成し、表面層形成時の高周波電力、SiHおよびCHの流量を下記表18に示す条件とした。
Figure 2010049241
比較例6で作製した電子写真感光体について、実施例1と同様に、表面粗さを算出した後、C/(Si+C)、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、H原子密度およびsp性を求めた。また、実施例1と同様に、高湿流れ1、耐摩耗性、階調性、感度を評価した。それらの結果を、実施例1の成膜条件No.1、実施例2の成膜条件No.10、実施例4の成膜条件No.26、28と合わせて表19に示す。
Figure 2010049241
表19の結果より、表面層におけるSi+C原子密度を6.60×1022原子/cm以上にし、かつ、C/(Si+C)を0.61以上0.75以下にすることで耐高湿流れ性、耐摩耗性、階調性、感度に優れた電子写真感光体が得られることがわかった。
また、H/(Si+C+H)を0.30以上0.45以下にすることにより、さらに耐高湿流れ性、耐摩耗性および感度に優れた電子写真感光体が得られることがわかった。
さらに、sp性を0.20以上0.70以下にすることにより、さらに耐摩耗性に優れた電子写真感光体が得られることがわかった。
比較例6で作製した電子写真感光体の表面粗さは、Raが32nm〜36nm、Δaが0.13〜0.16の範囲であった。
<実施例6>
実施例1の成膜条件No.4で作製した電子写真感光体を用いて、下記に示す高湿流れ評価2および高湿流れ評価3にて、高湿流れの評価を行った。その結果を、表20に示す。
<比較例7>
比較例2の成膜条件No.6で作製した電子写真感光体を用いて、実施例6と同様に高湿流れ評価2および高湿流れ評価3にて、高湿流れの評価を行った。その結果を、表20に示す。
(高湿流れ評価2)
高湿流れ評価2で使用する電子写真装置として、図4に示した構成のキヤノン(株)製の電子写真装置「iR−5065」(商品名)をベースとし、実験用として、主帯電手段用送風ファンを取り除いた電子写真装置を準備した。
上記電子写真装置に作製した電子写真感光体を設置し、温度30℃、相対湿度80%(容積絶対湿度24.3g/cm)の高湿環境下で連続通紙試験前のA3文字チャート(4pt、印字率4%)の画像を出力した。このとき、感光体ヒーターをONにする条件で実施した。
連続通紙試験前の画像出力後、連続通紙試験を実施した。連続通紙試験時は、電子写真装置を稼働して連続通紙試験を実施している間および電子写真装置を停止している間ともに感光体ヒーターをOFFにする連続通紙試験条件で実施した。
具体的には、印字率1%のテストパターンを用いて、1日当たり2.5万枚の連続通紙試験を10日間実施して25万枚までの連続通紙試験を行い、その後、25万枚通紙後のA3文字チャート(4pt、印字率4%)の画像を出力した。出力後、感光体ヒーターをOFFにしたまま電子写真装置の停止し、15時間放置した。
15時間後、感光体ヒーターをOFFとしたまま電子写真装置を立ち上げ、A3文字チャート(4pt、印字率4%)の画像を出力した。連続通紙試験前に出力した画像と、15時間放置後に出力した画像を、それぞれキヤノン(株)製のデジタル電子写真装置「iRC−5870」(商品名)を用いて、モノクロ300dpiの2値の条件でPDFファイルに電子化した。
そして、電子化した画像をAdobe製画像編集ソフト「Adobe Photoshop」(商品名)を用いて、15時間放置後に出力した画像において電子写真感光体が主帯電器6002、転写帯電器6004、分離帯電器6005に対面していた箇所に対応する領域の黒比率を測定した。また、上記帯電器に対面していなかった箇所に対応する領域の黒比率を測定した。同様の黒比率測定を連続通紙試験前に出力した画像においても測定した。そして、各々の領域での連続通紙試験前に出力した画像の黒比率に対する15時間放置後に出力した画像の黒比率の割合を求めることで、高湿流れの評価を行った。
この評価において、連続通紙試験前後での帯電器に対面していた領域の黒比率の割合が帯電器下流れの評価であり、連続通紙試験前後での帯電器に対面していなかった領域の黒比率の割合が耐久流れの評価である。
帯電器下流れおよび耐久流れが発生した場合、画像全体で文字がぼける、または、文字が印字されずに白抜けするため、連続通紙試験前の画像と比較した場合、黒比率が低下する。よって、連続通紙試験前の画像に対する15時間放置後に出力した画像の黒比率の割合が100%に近いほど高湿流れが良好となる。なお、高湿流れ評価2に対して、D以上で本発明の効果が得られていると判断した。
A‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が95%以上105%以下。
B‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が90%以上95%未満。
C‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が85%以上90%未満。
D‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が80%以上85%未満。
E‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が70%以上80%未満。
F‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が70%未満。
(高湿流れ評価3)
高湿流れ評価3で使用した電子写真装置として、図4に示した構成のキヤノン(株)製の電子写真装置「iR−5065」(商品名)をベースとし、実験用として、主帯電手段用送風ファンを取り除いた電子写真装置を準備した。さらに、主帯電器6002を図3(a)に示した構成の帯電手段に改造し、転写帯電器6004、分離帯電器6005を図3(b)に示した構成の帯電手段に改造した。遮蔽部材4103、4203は板厚0.3mmのアルミニウム薄板にて製作した。
上記電子写真装置に作製した電子写真感光体を設置し、温度30℃、相対湿度80%(容積絶対湿度24.3g/cm)の高湿環境下で連続通紙試験前のA3文字チャート(4pt、印字率4%)の画像を出力した。このとき、感光体ヒーターをONにする条件で実施した。
連続通紙試験前の画像出力後、連続通紙試験を実施した。連続通紙試験時は、電子写真装置を稼働して連続通紙試験を実施している間および電子写真装置を停止している間ともに感光体ヒーターをOFFとした。
具体的には、印字率1%のテストパターンを用いて、1日当たり2.5万枚の連続通紙試験を10日間実施して25万枚までの連続通紙試験を行った。連続通紙試験終了後、感光体ヒーターをOFFとしたまま電子写真装置を停止し、主帯電器6002と電子写真感光体6001との間に遮蔽部材4103を挿入した。また、転写帯電器6004、分離帯電器6005と電子写真感光体6001との間に遮蔽部材4203を挿入した。この状態で15時間放置した。
15時間後、感光体ヒーターをOFFのまま電子写真装置を立ち上げ、A3文字チャート(4pt、印字率4%)の画像を出力した。連続通紙試験前に出力した画像と、15時間放置後に出力した画像を、それぞれキヤノン(株)製のデジタル電子写真装置「iRC−5870」(商品名)を用いて、モノクロ300dpiの2値の条件でPDFファイルに電子化した。
そして、電子化した画像をAdobe製画像編集ソフト「Adobe Photoshop」(商品名)を用いて、15時間放置後に出力した画像において電子写真感光体が主帯電器6002、転写帯電器6004、分離帯電器6005に対面していた箇所に対応する領域の黒比率を測定した。また、上記帯電器に対面していなかった箇所に対応する領域の黒比率を測定した。同様の黒比率測定を連続通紙試験前に出力した画像においても測定した。そして、各々の領域での連続通紙試験前に出力した画像の黒比率に対する15時間放置後に出力した画像の黒比率の割合を求めることで、高湿流れの評価を行った。
この評価において、連続通紙試験前後での帯電器に対面していた領域の黒比率の割合が帯電器下流れの評価であり、連続通紙試験前後での帯電器に対面していなかった領域の黒比率の割合が耐久流れの評価である。
帯電器下流れおよび耐久流れが発生した場合、画像全体で文字がぼける、または、文字が印字されずに白抜けするため、連続通紙試験前の画像と比較した場合、黒比率が低下する。よって、連続通紙試験前の画像に対する15時間放置後に出力した画像の黒比率の割合が100%に近いほど高湿流れが良好となる。なお、高湿流れ評価3に対して、D以上で本発明の効果が得られていると判断した。
A‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が95%以上105%以下。
B‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が90%以上95%未満。
C‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が85%以上90%未満。
D‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が80%以上85%未満。
E‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が70%以上80%未満。
F‥連続通紙試験前に出力した画像に対する連続通紙試験後に出力した画像の黒比率が70%未満。
実施例6および比較例7について、高湿流れ2および高湿流れ3に関する評価結果を、表20に示す。
Figure 2010049241
表20の結果より、主帯電手段用送風ファンを取り除き、画像出力後の帯電器と電子写真感光体との間に極端に多量の帯電生成物が存在する状況であっても、本発明のa−SiC表面層においては、帯電器に対面した領域および対面していない領域とも耐高湿流れ性は良好であった。このことから、本発明のa−SiC表面層にすることにより、帯電器下流れおよび耐久流れともに良好に抑えられることがわかった。
また、連続通紙試験終了後に、帯電器と電子写真感光体との間に遮蔽部材を入れることで、電子写真装置停止時に電子写真感光体の表面への帯電生成物の付着が低減するため、帯電器下流れがさらに良好に抑えられることがわかった。
(実施例7)
導電性の基体14として直径84mm、長さ381mm、肉厚3mmのアルミニウム材料の表面に鏡面加工を施したシリンダーを用い、上記の手順で電子写真感光体を作製した。ただし、実施例7〜13および比較例9〜10は、カソード電極3111として、内径230mmのカソード電極を用いた。また、本実施例では図5(b)に示した、基体14上の下部電荷注入阻止層15、光導電層13、中間層12、表面層11の層構成からなる電子写真感光体10を採用した。各層の形成条件を、表21に示す。
Figure 2010049241
表21中、「電荷注入阻止層」は下部電荷注入阻止層である。
表21において、各層の膜厚はそれぞれ電子写真感光体設計上の設計値を示している。また、表21中の表面層のガス、圧力、および、高周波電力の各条件を、作製した電子写真感光体ごとに表22に示す。
Figure 2010049241
こうして作製した電子写真感光体を、Si+C原子密度、H/(Si+C+H)、C/(Si+C)、I/Iの各項目について、以下の分析方法で測定した。
(Si+C原子密度、H/(Si+C+H))
実施例および比較例で作製した電子写真感光体と同一条件で、基体14上に電荷注入阻止層15のみを形成したもの、電荷注入阻止層15と光導電層13のみを形成したもの、を作製した。これらを長手方向の中央部を15mm角で切り出し、リファレンス試料を作製した。
次に、中間層12の密度測定用として、実施例および比較例と同一の条件で、基体14上に電荷注入阻止層15、光導電層13、中間層12を形成したものを作製し、リファレンス試料と同様に切り出し、中間層測定用試料を作製した。
さらに、実施例および比較例で作製した電子写真感光体をリファレンス試料と同様に切り出し、表面層測定用試料を作製した。
リファレンス試料と中間層測定用試料、表面層測定用試料を分光エリプソメトリー(J.A.Woollam社製:高速分光エリプソメトリー M−2000)により測定し、中間層12および表面層11の膜厚を求めた。分光エリプソメトリーの具体的な測定条件は、上記と同様である。
まず、リファレンス試料を分光エリプソメトリーにより各入射角で波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係を求めた。
次に、リファレンス試料の測定結果をリファレンスとして、各測定用試料をリファレンス試料と同様に分光エリプソメトリーにより各入射角で波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係を求めた。
そして、電荷注入阻止層および光導電層、中間層、表面層を順次形成し、最表面に表面層と空気層の体積比が8:2となる粗さ層を有する層構成を計算モデルとして用いて、解析ソフト:J.A.Woollam Co.,Inc.製 WVASE32により各入射角における波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係を計算により求めた。さらに、この計算により求めた波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係と、測定用試料を測定して求めた波長と振幅比Ψおよび位相差Δの関係の平均二乗誤差が最小となるときの表面層の膜厚を算出し、この値を表面層の膜厚とした。
上記測定用試料をRBS(日新ハイボルテージ(株)製:後方散乱測定装置 AN−2500)により、RBSの測定面積における表面層および中間層のケイ素原子および炭素原子の原子数を測定した。
こうして得られた値を用いてC/(Si+C)を算出した。
また、RBSの測定面積から求めたケイ素原子および炭素原子の原子数に対し、分光エリプソメトリーにより求めた表面層の膜厚を用いて、Si原子密度、C原子密度およびSi+C原子密度を算出した。
RBSと同時に、上記試料を用いて中間層および表面層の、HFSの測定面積における水素原子の原子数をHFS(水素前方散乱法)(日新ハイボルテージ(株)製:後方散乱測定装置 AN−2500)により測定した。
HFSの測定面積における水素原子の原子数に対し、上記エリプソメトリーより求めた膜厚を用いて水素原子の原子密度を求めた。また、RBSの測定面積におけるケイ素原子の原子数および炭素原子の原子数により、HFSの測定面積におけるH/(Si+C+H)を求めた。RBSおよびHFSの具体的な測定条件は、上記と同様である。
なお、中間層12におけるSi+C原子密度、H/(Si+C+H)は作製した電子写真感光体から、表面層11のみを機械的に除去することによっても測定することができるが、今回は上述の中間層測定用試料を用いて測定している。
(I/I
sp性は、電子写真感光体の任意の周方向における長手方向の中央部を10mm四方の正方形で切り出した試料を、レーザーラマン分光光度計(日本分光(株)製:NRS−2000)により測定した。レーザーラマン分光光度計による具体的な測定条件および得られたラマンスペクトルの解析方法は、上記と同様である。
また、各々の電子写真感光体を、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷について、以下の方法で評価した。
(高湿流れ)
キヤノン(株)製のデジタル電子写真装置「iR−5065」(商品名)の改造機を用いた。この電子写真装置は、プロセススピードを500mm/secとし、画像露光光として発振波長635nmのレーザー光源を用い、1200dpiの解像度で画像出力を行うよう改造を行ったものである。
上記電子写真装置に作製した電子写真感光体を設置し、温度22℃、相対湿度50%の環境下で原稿台にA3サイズの全面文字チャート(4pt、印字率4%)の画像を出力した。このとき、感光体ヒーターをONにし、電子写真感光体の表面を約40℃に保った条件で初期の画像を出力した。
その後、連続通紙試験を実施した。具体的には、感光体ヒーターをOFFした条件で、印字率1%のA4テストパターンを用いて、1日当たり2.5万枚の連続通紙試験を累計25万枚まで行った。連続通紙試験終了後、温度25℃、相対湿度75%の環境下で15時間放置した。15時間後、感光体ヒーターをOFFのまま立ち上げ、初期の画像出力に用いたものと同じA3サイズの文字チャートを用い、画像を出力した。
初期に出力した画像と、連続通紙試験後に出力した画像を、それぞれキヤノン(株)製のデジタル電子写真装置「iRC−5870」(商品名)を用いて、モノクロ300dpiの2値の条件でPDFファイルに電子化した。電子化した画像をAdobe Photoshop(Adobe製)を用いて、電子写真感光体1周分の画像領域(251.3mm×273mm)中での黒で表示されるピクセルの比率(以下「黒比率」とも表記する。)を測定した。こうして測定した黒比率を、初期の画像に対する連続通紙試験後の画像の比で評価した。
この評価方法では、数値が大きいほど高湿流れが少ないことを示している。
(耐摩耗性)
耐摩耗性の評価方法は、作製直後の電子写真感光体の表面層の膜厚を電子写真感光体の任意の周方向で長手方向9点(電子写真感光体の長手方向中央を基準として、0mm、±50mm、±90mm、±130mm、±150mm)、および、上記任意の周方向から180°回転させた位置での長手方向9点、合計18点を測定し、その18点の平均値により算出した。
測定方法は、2mmのスポット径で電子写真感光体の表面に垂直に光を照射し、分光計(大塚電子製:MCPD−2000)を用いて、反射光の分光測定を行った。得られた反射波形をもとに表面層の膜厚を算出した。このとき、波長範囲を500nmから750nm、光導電層13の屈折率は3.30とし、中間層12および表面層13の屈折率は、上述した分光エリプソメトリーの測定より求めた値を用いた。
膜厚測定後、上述の実験用に改造した電子写真装置に作製した電子写真感光体を設置し、温度25℃、相対湿度75%の高湿環境下で高湿流れと同様の条件により連続通紙試験を実施した。25万枚連続通紙試験が終了した後、電子写真感光体を電子写真装置から取り出し、作製直後と同じ位置で膜厚を測定し、作製直後と同様に連続通紙試験した後の表面層の膜厚を算出した。そして、作製直後および連続通紙試験後で得られた表面層の平均膜厚から差分を求め、25万枚での摩耗量を算出した。
この評価方法では、数値が小さいほど摩耗量が少ないことを示している。
(画像ボケ)
まず、1200dpiの解像度において、45度170lpi(1インチあたり170線)の線密度で面積階調ドットスクリーンを用い、全階調範囲を17段階に均等配分した階調データを作成した。このとき最も濃い階調を17、最も薄い階調を0として各階調に番号を割り当て、階調段階とした。
次に上述の実験用に改造した電子写真装置に作製した電子写真感光体を設置し、上述の階調データを用いて、テキストモードを用いてA3用紙に出力した。このとき、高湿流れが発生すると画像ボケの評価に影響が出るため、温度22℃、相対湿度50%の環境下で、感光体ヒーターをONにして、電子写真感光体の表面を約40℃に保った条件で画像を出力した。
得られた画像を各階調ごとに反射濃度計(X−Rite Inc製:504 分光濃度計)により画像濃度を測定した。反射濃度測定では各々の階調ごとに3枚の画像を出力し、それらの濃度の平均値を評価値とした。
こうして得られた評価値と階調段階との相関係数を算出し、各階調の反射濃度が完全に直線的に変化する階調表現が得られた場合である相関係数=1.00からの差分を画像ボケとして評価した。
この評価方法では、数値が小さいほど画像ボケが少なく直線に近い階調表現がなされていることを示している。
(感度)
上述の実験用に改造した電子写真装置に作製した電子写真感光体を設置し、画像露光を切った状態で帯電器のワイヤーおよびグリットに、それぞれ高圧電源を接続した。また、グリット電位を820Vとし、帯電器のワイヤーへ供給する電流を調整して電子写真感光体の表面電位を450Vとなるように設定した。
次に、先に設定した帯電条件で帯電させた状態で、画像露光光を照射し、その照射エネルギーを調整することにより、現像器位置での電位を100Vとした。このときの画像露光光の照射エネルギーを感度として評価した。
この評価方法では、数値が少ないほど優れた感度を有することを示している。
(圧傷)
表面性試験装置(HEIDON社製)を用いて、直径0.8mmの曲率を持つダイヤモンド針に一定の荷重を加えて電子写真感光体の表面上に接触させた。この状態でダイヤモンド針を電子写真感光体の母線方向(長手方向)に50mm/分の一定速度で移動させた。移動距離は任意に設定できるが、ここでは10mmとした。
この操作を、電子写真感光体上の針を接触させる部位を変えながら、ダイヤモンド針に加える荷重を50gから5gずつ増やして繰り返した。
こうして表面性試験を行った電子写真感光体の表面を顕微鏡で観察し、引っかき傷の有無を確認した後、上述の電子写真感光体に設置し、ハーフトーンが印刷された原稿を用いて、反射濃度が0.5となる画像を出力した。
以上の手順で出力した画像を目視で観察し、圧傷が画像上で認められる最低の荷重を比較した。
この評価方法では、数値が大きいほど、圧傷が発生しにくいことを示している。
(比較例8)
実施例7と同様にして、表21の条件で電子写真感光体を作製した。本比較例における表面層11の形成時に用いたガス条件、圧力、高周波電力を、表23に示す。
Figure 2010049241
(比較例9)
実施例7と同様にして、表24の条件にしたがって電子写真感光体を作製した。なお、本比較例で作製した電子写真感光体は、成膜条件No.106とした。
Figure 2010049241
表24中、「電荷注入阻止層」は下部電荷注入阻止層である。
こうして作製した電子写真感光体を、実施例7と同様にして評価した。
以上、実施例7および比較例8、9について、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、H原子密度、H/(Si+C+H)、I/Iの分析値と、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の評価結果を、表25に示す。
Figure 2010049241
表25において、各成膜条件の電子写真感光体の中間層12は、いずれも同一条件で作製したものであるため、中間層12におけるSi原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、および、H原子密度、H/(Si+C+H)は1つの中間層密度測定用試料からの値が、すべての電子写真感光体の値を代表している。
また、中間層12の膜厚は各々の試料を用いてエリプソメトリーにより測定された値を用いている。
また、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の各項目は、実施例7の成膜条件No.102の値を基準とした相対評価で示している。
上記の相対評価において、高湿流れは0.60以上であれば、実用上は問題なく、0.95以上では優れた耐高湿流れ性を有するといえる。さらに1.02以上では特に優れた耐高湿流れ性を有するといえる。
また、耐摩耗性については1.90以下であれば実用上問題なく、1.10以下では優れた耐摩耗性を有するといえ、0.90以下では特に優れた耐摩耗性を有するといえる。
また、画像ボケについては、2.30以下では、ほとんどの出力画像上で実用上問題のない階調性が得られ、1.8以下であれば画像上でトーンジャンプが認識できない良好な階調性であるといえる。また、1.50以下では、特に優れた階調表現が可能であるといえるが、1.50を下回る数値のものは実質的に画像で差は認識できず、測定上のばらつきの範囲といえる。
感度については、1.50以下であれば実用上問題なく、1.10以下であれば良好な特性といえる。また、1.05以下では幅広い電子写真プロセスに適用可能な優れた特性であるといえる。
圧傷については、0.50以上であれば実用上問題なく、0.95以上では圧傷が発生する確率が非常に少ない優れた特性であるといえる。
表25の結果から、表面層11におけるSi+C原子密度を6.60×1022原子/cm以上にすることで、耐高湿流れ性、耐摩耗性が向上することがわかる。また、Si+C原子密度を6.81×1022原子/cm以上にすることで、より顕著に耐摩耗性が向上している。
また、比較例8および比較例9の電子写真感光体では、表面層11におけるSi+C原子密度が低下しているために圧傷の評価が低くなっていることがわかる。
(実施例8)
実施例7と同様にして、表21の条件で電子写真感光体を作製した。本実施例で用いたガス、圧力、高周波電力の条件を、表26に示す。
Figure 2010049241
(比較例10)
実施例7と同様にして、表21の条件で電子写真感光体を作製した。本比較例で用いた表面層11形成時のガス条件、圧力、高周波電力を、表27に示す。
Figure 2010049241
以上、実施例8および比較例10で作製した電子写真感光体を、実施例7と同様にして評価した。
実施例8および比較例10についてのSi原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、H原子密度、H/(Si+C+H)、I/Iの分析値と、耐高湿流れ性、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の評価結果を、表28に示す。
Figure 2010049241
表28において、各成膜条件の電子写真感光体の中間層12は、いずれも同一条件で作製したものであるため、中間層12におけるSi原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、および、H原子密度、H/(Si+C+H)は1つの中間層密度測定用試料からの値が、すべての電子写真感光体の値を代表している。
また、中間層12の膜厚は各々の試料を用いてエリプソメトリーにより測定された値を用いている。
また、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の各項目は、実施例7の成膜条件No.102の値を基準とした相対評価で示している。
表28の結果から、表面層11におけるC/(Si+C)を0.61以上0.75以下にすることで画像ボケと感度を両立する良好な特性が得られることがわかった。
(実施例9)
実施例7と同様にして、表29の条件で電子写真感光体を作製した。
Figure 2010049241
表29中、「電荷注入阻止層」は下部電荷注入阻止層である。
表29において、各層の膜厚はそれぞれ電子写真感光体設計上の設計値を示している。また、表29中の中間層12形成時のガス条件および高周波電力を作製した電子写真感光体ごとに表30に示す。
Figure 2010049241
(実施例21)
実施例7と同様にして、表29の条件で電子写真感光体を作製した。本実施例で中間層12形成時に用いたガス条件、高周波電力を、表31に示す。
Figure 2010049241
(実施例22)
実施例7と同様にして、表32の条件で電子写真感光体を作製した。本実施例では、中間層12を設けずに、基体14上に下部電荷注入阻止層15、光導電層13、表面層11の層構成からなる電子写真感光体を作製した。なお、本実施例で形成した電子写真感光体を成膜条件No.120とした。
Figure 2010049241
表32中、「電荷注入阻止層」は下部電荷注入阻止層である。
以上、実施例9および実施例21、22で作製した電子写真感光体を、実施例7と同様にして評価した。実施例9および実施例21、22について、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、H原子密度、H/(Si+C+H)、I/Iの分析値と、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の評価結果を、表33に示す。
Figure 2010049241
表33において高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の各項目は、実施例7の成膜条件No.102の値を基準とした相対評価で示している。
表33の結果から、中間層12におけるSi+C原子密度を5.50×1022原子/cm以上、6.45×1022原子/cm以下にすることで、圧傷が良好に抑制される範囲が得られることがわかる。また、Si+C原子密度を6.45×1022原子/cm以下にすることで感度も向上していることがわかる。
特に実施例22の結果と比べると、本発明のように中間層12と表面層11を組み合わせたことで、中間層12を形成せずに、表面層11のみを形成した場合に比べて、同等の膜厚でも耐圧傷、感度いずれも向上していることがわかる。
(実施例10)
実施例7と同様にして、表34の条件で電子写真感光体を作製した。
Figure 2010049241
表34中、「電荷注入阻止層」は下部電荷注入阻止層である。
表34において、各層の膜厚はそれぞれ電子写真感光体設計上の設計値を示している。また、表34中の中間層12形成時のガス条件および高周波電力を作製した電子写真感光体ごとに表35に示す。
Figure 2010049241
(実施例23)
実施例7と同様にして、表34の条件で電子写真感光体を作製した。本実施例で中間層12の形成時に用いたガス条件、高周波電力を、表36に示す。
Figure 2010049241
以上、実施例10および実施例23で作製した電子写真感光体を、実施例7と同様にして評価した。実施例10および実施例23について、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、H原子密度、H/(Si+C+H)、I/Iの分析値と、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の評価結果を、表37に示す。
Figure 2010049241
表37において高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の各項目は、実施例7の成膜条件No.102の値を基準とした相対評価で示している。
表37の結果から、中間層12におけるC/(Si+C)を0.61以上0.75以下にすることで画像ボケと感度を両立する良好な特性が得られることがわかった。
なお、表28の結果と比べて中間層における感度に対するC/(Si+C)の影響が異なっているのは、光導電層13と中間層12との間の界面での画像露光光の反射による影響ではないかと推測している。
(実施例11)
実施例7と同様にして、表38の条件で電子写真感光体を作製した。
Figure 2010049241
表38中、「電荷注入阻止層」は下部電荷注入阻止層である。
表38において、各層の膜厚はそれぞれ電子写真感光体設計上の設計値を示している。本実施例では、中間層12の膜厚を153nmから696nmの範囲で変化させた。
(実施例24)
実施例11と同様にして、表38の条件で電子写真感光体を作製した。本実施例では中間層12の膜厚を98nmおよび135nmとして作製した。
以上、実施例11および実施例24で作製した電子写真感光体を、実施例7と同様にして評価した。実施例11および実施例24について、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、H原子密度、H/(Si+C+H)、I/Iの分析値と、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の評価結果を、表39に示す。
Figure 2010049241
表39において、各成膜条件の電子写真感光体の中間層12は、いずれも同一条件で作製したものであるため、中間層12におけるSi原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、および、H原子密度、H/(Si+C+H)は1つの中間層密度測定用試料からの値が、すべての電子写真感光体の値を代表している。
また、中間層12の膜厚は各々の試料を用いてエリプソメトリーにより測定された値を用いている。
また、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の各項目は、実施例7の成膜条件No.102の値を基準とした相対評価で示している。
以上、表39の結果から、中間層12の膜厚を150nm以上にすることで、圧傷抑制に効果があることがわかった。
また、実施例11では、中間層12の膜厚による感度の変動は小さく、表面保護のために必要な膜厚をすべて表面層11でまかなうよりも、中間層12と表面層11の組み合わせた方が、感度向上に効果的であることが推論される。
(実施例12)
実施例7と同様にして、表40の条件で電子写真感光体を作製した。
Figure 2010049241
表40中、「電荷注入阻止層」は下部電荷注入阻止層である。
表40において、各層の膜厚はそれぞれ電子写真感光体設計上の設計値を示している。また、表40中の表面層11形成時のガス条件および高周波電力を作製した電子写真感光体ごとに表41に示す。
Figure 2010049241
こうして作製した電子写真感光体を、実施例7と同様にして評価した。実施例12について、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、H原子密度、H/(Si+C+H)、I/Iの分析値と、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の評価結果を、表42に示す。
Figure 2010049241
表42において、各成膜条件の電子写真感光体の中間層12は、いずれも同一条件で作製したものであるため、中間層12におけるSi原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、および、H原子密度、H/(Si+C+H)は1つの中間層密度測定用試料からの値が、すべての電子写真感光体の値を代表している。
また、中間層12の膜厚は各々の試料を用いてエリプソメトリーにより測定された値を用いている。
また、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の各項目は、実施例7の成膜条件No.102の値を基準とした相対評価で示している。
また、表41および表42において、水素(H)の流量が増えている成膜条件の方が、H/(Si+C+H)が減少しているのは、水素ラジカルによる脱離効果と推測している。
表42から明らかなように、表面層11のH/(Si+C+H)を0.30以上0.45以下にすることで、耐摩耗性および感度において、特に好適な範囲を両立できることがわかる。
(実施例13)
実施例7と同様にして、表43の条件で電子写真感光体を作製した。
Figure 2010049241
表43中、「電荷注入阻止層」は下部電荷注入阻止層である。
表43において、各層の膜厚はそれぞれ電子写真感光体設計上の設計値を示している。また、表43中の表面層11形成時のガス、圧力、および、高周波電力の各条件を、作製した電子写真感光体ごとに表44に示す。
Figure 2010049241
なお、表44において成膜条件No.137の電子写真感光体のみ、高周波電力として、20kHz、デューティ比50%のパルス発振する電力を用いている。
こうして作製した電子写真感光体を、実施例7と同様にして評価した。実施例13について、Si原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、H原子密度、H/(Si+C+H)、I/Iの分析値と、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の評価結果を、表45に示す。
Figure 2010049241
表45において、各成膜条件の電子写真感光体の中間層12は、いずれも同一条件で作製したものであるため、中間層12におけるSi原子密度、C原子密度、Si+C原子密度、C/(Si+C)、および、H原子密度、H/(Si+C+H)は1つの中間層密度測定用試料からの値が、すべての電子写真感光体の値を代表している。
また、中間層12の膜厚は各々の試料を用いてエリプソメトリーにより測定された値を用いている。
また、高湿流れ、耐摩耗性、画像ボケ、感度、圧傷の各項目は、実施例7の成膜条件No.102の値を基準とした相対評価で示している。
表45から明らかなように、I/Iを0.20以上0.70以下にすることで、耐摩耗性が特に好適になることがわかった。
10 電子写真感光体
11 表面層
12 中間層
13 光導電層
14 基体
15 下部電荷注入阻止層

Claims (9)

  1. 光導電層と、該光導電層上の水素化アモルファスシリコンカーバイトで構成された表面層とを有する電子写真感光体において、
    該表面層におけるケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)との和に対する炭素原子の原子数(C)の比(C/(Si+C))が0.61以上0.75以下であり、
    該表面層におけるケイ素原子の原子密度と炭素原子の原子密度との和が6.60×1022原子/cm以上である
    ことを特徴とする電子写真感光体。
  2. 前記表面層におけるケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)と水素原子の原子数(H)との和に対する水素原子の原子数(H)の比(H/(Si+C+H))が0.30以上0.45以下である請求項1に記載の電子写真感光体。
  3. 前記表面層におけるケイ素原子の原子密度と炭素原子の原子密度との和が6.81×1022原子/cm以上である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
  4. 前記表面層のラマンスペクトルにおける1480cm−1のピーク強度(I)に対する1390cm−1のピーク強度(I)の比(I/I)が0.20以上0.70以下である請求項1〜3のいずれかに記載の電子写真感光体。
  5. 前記光導電層が水素化アモルファスシリコンで構成された層である請求項1〜4のいずれかに記載の電子写真感光体。
  6. 前記電子写真感光体は前記光導電層と前記表面層との間に中間層をさらに有し、
    該中間層におけるケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)との和に対する炭素原子の原子数(C)の比(C/(Si+C))が0.61以上0.75以下であり、
    該中間層におけるケイ素原子の原子密度と炭素原子の原子密度との和が5.50×1022原子/cm以上6.45×1022原子/cm以下である
    請求項1〜5のいずれかに記載の電子写真感光体。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の電子写真感光体と、該電子写真感光体を帯電させるための帯電器とを有する電子写真装置。
  8. 前記帯電器がコロナ帯電器である請求項7に記載の電子写真装置。
  9. 前記帯電器が、前記電子写真感光体に対向する開口部と、該開口部を遮蔽可能な遮蔽部材とを有する請求項7または8に電子写真装置。
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