本発明の電子写真感光体は、導電性基体と、前記導電性基体上の水素化アモルファスシリコンで構成された光導電層と、前記光導電層上の水素化アモルファスシリコンカーバイトで構成された表面層とを有する負帯電用の電子写真感光体である。
図1は、本発明の負帯電用の電子写真感光体(a−Si感光体)の層構成の例を示す図である。
図1の(a)および(b)に示す電子写真感光体(感光体)100は、導電性基体(基体)102上に下部電荷注入阻止層103と、光導電層104と、表面層105とがこの順に形成されてなるa−Si感光体である。
光導電層104は、水素化アモルファスシリコン(a−Si)で構成された層であり、表面層105は、水素化アモルファスシリコンカーバイド(a−SiC)で構成された層である。
感光体100の表面層105内には、変化領域106が設けられている。a−SiCで構成されている表面層105内に設けられている変化領域106もまた、a−SiCで構成されている。
本発明において、変化領域106とは、ケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)との和に対する炭素原子の原子数(C)の比(C/(Si+C))が、光導電層104側から感光体100の表面側に向かって漸増している領域を指す。図1中の107は、表面層105内の変化領域106よりも感光体の表面側に位置する領域(表面側領域)である。つまり、図1の(a)および(b)に示す感光体100の表面層105内には、変化領域106と表面側領域107とが設けられている。a−SiCで構成されている表面層105内に設けられている表面側領域107もまた、a−SiCで構成されている。
図1の(a)に示す電子写真感光体(感光体)100は、表面層105内の変化領域106内に、上部電荷注入阻止部分108、上部電荷注入阻止部分108よりも感光体100の表面側に位置する表面側部分109、および、上部電荷注入阻止部分108よりも光導電層104側に位置する光導電層側部分110が設けられている。
図1の(b)に示す電子写真感光体(感光体)100は、表面層105内の変化領域106内に、上部電荷注入阻止部分108、および、上部電荷注入阻止部分108よりも感光体100の表面側に位置する表面側部分109が設けられている。
本発明において、上部電荷注入阻止部分108は、変化領域106を構成するa−SiCをベースの材料としたうえで、さらに、電気伝導性を制御するための原子として、第13族原子を含有している部分である。表面側部分109および光導電層側部分110は、a−SiCで構成され、第13族原子を含有しない部分である。
図1の(a)に示す感光体100では、上部電荷注入阻止部分108は、表面層105内の変化領域106内のほぼ中間に設けられている。
図1の(b)に示す感光体100では、上部電荷注入阻止部分108は、表面層105内の変化領域106内の最も光導電層104側に設けられており、上部電荷注入阻止部分108と光導電層104とが接している。
(基体102)
基体102は、その上に光導電層104や表面層105などの各層が形成され、これらを支持するものである。感光体100の表面を負帯電した場合、光導電層104で発生した光キャリアのうちの電子は、基体102側に移動し、正孔は、感光体100の表面に移動する。
本発明に用いられる基体102は、導電性のもの(導電性基体)である。
導電性基体の材料としては、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、鉄、クロム、モリブデン、チタンの金属や、これらの合金を用いることができる。これらの中でも、加工性や製造コストの観点から、アルミニウム(アルミニウム合金)が好ましい。アルミニウム合金としては、例えば、Al−Mg系合金、Al−Mn系合金などが挙げられる。
また、ポリエステル、ポリアミドなどの樹脂製の基体の少なくとも層(堆積膜)を形成する側の表面を導電処理してなる基体を用いることもできる。
また、基体102の厚さは、取り扱いの容易性、機械的強度などの観点から、10μm以上であることが好ましい。
(下部電荷注入阻止層103)
本発明においては、基体102と光導電層104との間に、感光体100の表面が負帯電された際の、基体102側から光導電層104への電荷(正孔)の注入を阻止するため、下部電荷注入阻止層103を設けることが好ましい。
下部電荷注入阻止層103はa−Siで構成されていることが好ましい。また、ベースの材料となっているa−Siに炭素原子、窒素原子および酸素原子のうち少なくとも1種の原子をさらに含有させることにより、基体102から光導電層104への電荷(正孔)の注入を阻止する能力を向上させることができ、また、基体102と下部電荷注入阻止層103との密着性を向上させることができる。
下部電荷注入阻止層103に含有される炭素原子(C)、窒素原子(N)および酸素原子(O)のうち少なくとも1種の原子は、下部電荷注入阻止層103中にまんべんなく均一に分布した状態で含有されていてもよい。また、層の厚さ方向には均一に含有されてはいるが、不均一に分布する状態で含有している部分があってもよい。いずれの場合においても、電子写真特性の均一化を図る観点から、基体104の表面に対して平行な面方向には均一に分布する状態で、炭素原子、窒素原子および酸素原子のうち少なくとも1種の原子が下部電荷注入阻止層103に含有されることが好ましい。
また、本発明においては、必要に応じて、下部電荷注入阻止層103に電気伝導性を制御するための原子を含有させてもよい。
下部電荷注入阻止層103に含有させる電気伝導性を制御するための原子は、下部電荷注入阻止層103中にまんべんなく均一に分布した状態で含有されていてもよい。また、下部電荷注入阻止層103の厚さ方向に不均一に分布した状態で含有されていてもよい。下部電荷注入阻止層103内において、電気伝導性を制御するための原子の分布が不均一な場合、基体102側に多く分布するように含有させることが好ましい。いずれの場合においても、電子写真特性の均一化を図る観点から、基体102の表面に対して平行な面方向には均一に分布する状態で、電気伝導性を制御するための原子が下部電荷注入阻止層103に含有されることが好ましい。
下部電荷注入阻止層103に含有させる電気伝導性を制御するための原子としては、周期表第15族に属する原子(以下「第15族原子」とも表記する。)を用いることができ、第15族原子としては、例えば、窒素原子(N)、リン原子(P)、ヒ素原子(As)、アンチモン原子(Sb)、ビスマス原子(Bi)などが挙げられる。
下部電荷注入阻止層103の厚さは、電子写真特性、経済性などの観点から、0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜5μmであることがより好ましく、0.5〜3μmであることがより好ましい。下部電荷注入阻止層103の厚さが厚いほど、基体102から光導電層104への電荷(正孔)の注入を阻止する能力が高まる。また、下部電荷注入阻止層103の厚さが薄いほど、下部電荷注入阻止層103を形成する時間を短くすることができる。
(光導電層104)
a−Siで構成された光導電層104は、画像露光光や前露光光が入射した場合、光導電性により、光キャリアが発生する層である。
光導電層104を構成するa−Siは、その骨格を形成する原子であるケイ素原子の未結合手を補償する原子として水素原子が用いられているアモルファス材料であるが、ケイ素原子の未結合手を補償するための原子としてハロゲン原子を併用してもよい。
光導電層104におけるケイ素原子の原子数(Si)と水素原子の原子数(C)とハロゲン原子の原子数(X)の和に対する水素原子の原子数(C)とハロゲン原子の原子数(X)の比((H+X)/(Si+H+X))は、0.10以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましい。一方、0.30以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましい。
また、本発明においては、必要に応じて、光導電層104に電気伝導性を制御するための原子を含有させてもよい。
光導電層104に含有させる電気伝導性を制御するための原子は、光導電層104中にまんべんなく均一に分布した状態で含有されていてもよい。また、光導電層104の厚さ方向に不均一に分布した状態で含有されていてもよい。いずれの場合においても、電子写真特性の均一化を図る観点から、基体102の表面に対して平行な面方向には均一に分布する状態で、電気伝導性を制御するための原子が光導電層104に含有されることが好ましい。
光導電層104に含有させる電気伝導性を制御するための原子としては、光導電層104にP型電気伝導性を与える第13族原子、または、光導電層104にN型電気伝導性を与える第15族原子を用いることができる。
第13族原子としては、例えば、ホウ素原子(B)、アルミニウム原子(Al)、ガリウム原子(Ga)、インジウム原子(In)、タリウム原子(Tl)などが挙げられる。これらの中でも、ホウ素原子、アルミニウム原子、ガリウム原子が好ましい。
第15族原子としては、具体的には、リン原子(P)、ヒ素原子(As)、アンチモン原子(Sb)、ビスマス原子(Bi)などが挙げられる。これらの中でも、リン原子、ヒ素原子が好ましい。
光導電層104に含有させる電気伝導性を制御するための原子の含有量は、ケイ素原子に対して1×10−2原子ppm以上であることが好ましく、5×10−2原子ppm以上であることがより好ましく、1×10−1原子ppm以上であることがより好ましい。一方、1×104原子ppm以下であることが好ましく、5×103原子ppm以下であることがより好ましく、1×103原子ppm以下であることがより好ましい。
本発明において、光導電層104の厚さは、電子写真特性、経済性などの観点から、15μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。一方、60μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがより好ましい。光導電層104の厚さが薄いほど、帯電部材への通過電流量が低減し、劣化が抑制される。また、光導電層104の厚さを厚くしようとすると、a−Siの異常成長部位が大きくなりやすい(具体的には、水平方向で50〜150μm、高さ方向で5〜20μm)。
また、光導電層104は、単一の層で構成されてもよいし、複数の層(例えば、電荷発生層と電荷輸送層)で構成されてもよい。
(表面層105内の表面側領域107)
本発明においては、電気的特性、光学的特性、光導電的特性、使用環境特性、経時的安定性などのために、表面層105内には、変化領域106よりも感光体100の表面側に位置する表面側領域107をさらに設けることが好ましい。
表面側領域107に含有させる炭素原子は、表面側領域107中にまんべんなく均一に分布した状態で含有させてもよいし、表面側領域107の厚さ方向に不均一に分布した状態で含有させてもよい。表面側領域107の厚さ方向に不均一に炭素原子を分布させる場合は、基体102側に炭素原子が少なくなるように分布させることが好ましい。炭素原子を表面側領域107中にまんべんなく均一に分布させる場合も、表面側領域107の厚さ方向に不均一に分布させる場合も、特性の均一化の観点から、基体102の表面に対して平行な方向には均一に炭素原子を分布させることが好ましい。
表面側領域107において、ケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)の和に対する炭素原子の原子数(C)の比(C/(Si+C))は、a−Si感光体の電気的特性、光学的特性、光導電的特性、使用環境特性、経時的安定性などの観点から、0.50を超え0.98以下の範囲にあることが好ましい。
表面側領域107は、上述のとおり、a−SiCで構成されている。a−SiCは、その骨格を形成する原子であるケイ素原子および炭素原子の未結合手を補償する原子として水素原子が用いられているアモルファス材料であるが、ケイ素原子および炭素原子の未結合手を補償するための原子としてハロゲン原子を併用してもよい。
表面側領域107を構成するa−SiC中の水素原子の含有量は、該a−SiCを構成する原子の総量に対して30〜70原子%であることが好ましく、35〜65原子%であることがより好ましく、40〜60原子%であることがより好ましい。また、ケイ素原子および炭素原子の未結合手を補償する原子としてハロゲン原子を併用する場合、表面側領域107を構成するa−SiC中のハロゲン原子の含有量は、該a−SiCを構成する原子の総量に対して0.01〜15原子%であることが好ましく、0.1〜10原子%であることがより好ましく、0.6〜4原子%であることがより好ましい。
表面層105内の表面側領域107の厚さは、電子写真特性や経済性などの観点から、0.1〜4μmであることが好ましく、0.15〜3μmであることがより好ましく、0.2〜2μmであることがより好ましい。表面側領域107の厚さが厚いほど、使用中に感光体100の表面が摩耗しても表面層105または表面層105内の表面側領域107が失われにくくなる。また、表面側領域107の厚さが薄いほど、残留電位の増加が生じにくい。
(表面層105内の変化領域106)
変化領域106は、上述のとおり、a−SiCで構成されている。a−SiCは、その骨格を形成する原子であるケイ素原子および炭素原子の未結合手を補償する原子として水素原子が用いられているアモルファス材料であるが、ケイ素原子および炭素原子の未結合手を補償するための原子としてハロゲン原子を併用してもよい。a−SiC中の水素原子の含有量およびハロゲン原子の含有量の好適範囲は、上記表面側領域107の場合と同様である。
また、変化領域106においては、ケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)の和に対する炭素原子の原子数(C)の比(C/(Si+C))が、光導電層104側から感光体100の表面側に向かって漸増している。
変化領域106においては、光導電層104側で、感光体100の表面側よりも、上記比(C/(Si+C))を小さくしている。これは、a−Siで構成されている光導電層104の変化領域106側の部位の屈折率と、変化領域106の光導電層104側の部位の屈折率との差をなくす、または、できるだけ小さくするためである。光導電層104と表面層105内の変化領域106とが接している場合、上記2つの屈折率の差をなくす、または、できるだけ小さくすることにより、光導電層104と表面層105(表面層105内の変化領域106)との境界部(界面)での反射光の量を小さくすることができる。
a−SiCの屈折率は、その中のケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)の和に対する炭素原子の原子数(C)の比(C/(Si+C))と相関があり、上記比(C/(Si+C))が大きくなるにつれて、a−SiCの屈折率は小さくなる傾向がある。また、一般的に、a−SiCの屈折率は、a−Siの屈折率よりも小さい。したがって、a−SiCの上記比(C/(Si+C))が小さくなるほど、その屈折率は、a−Siの屈折率に近づいていく。よって、変化領域106における上記比(C/(Si+C))の最小値は、0.0以上0.1以下の範囲とするのが好ましい。
一方、変化領域106においては、感光体100の表面側で、光導電層104側よりも、上記比(C/(Si+C))を大きくしている。これは、表面側領域107の上記比(C/(Si+C))が大きい場合に、変化領域106の表面側領域107側の部位の屈折率と、表面側領域107の変化領域106側の部位の屈折率との差をなくす、または、できるだけ小さくするためである。上記2つの屈折率の差をなくす、または、できるだけ小さくすることにより、表面層105内の表面側領域107と変化領域106との境界部での反射光の量を小さくすることができる。よって、変化領域106における上記比(C/(Si+C))の最大値は、0.25以上0.50以下の範囲とするのが好ましく、0.30以上0.50以下の範囲とするのがより好ましい。一方、変化領域106は、上述のように、a−SiCで構成されているから、変化領域106における上記比(C/(Si+C))の最小値は、0.00より大きい。
また、表面層105内の変化領域106は、上述のように、上記比(C/(Si+C))が光導電層104側から感光体100の表面側に向かって漸増している領域である。上述のように、上記比(C/(Si+C))が大きくなるにつれて、a−SiCの屈折率は小さくなる傾向があるが、変化領域106においては、上記比(C/(Si+C))を光導電層104側から感光体100の表面側に向かって漸増させているため、変化領域106内における反射光の量は小さくすることができる。
図2は、変化領域106における炭素原子の分布の例を示す図である。
図2(a)〜(d)には、上記比(C/(Si+C))の漸増のさせ方が示されている。図2に示す例は、図1に示す例と同じく、表面層105内に変化領域106および表面側領域107を設けた例であり、表面側領域107の表面が感光体100の表面となっており、変化領域106は光導電層104に接している。図2中、横軸は、表面側領域107と変化領域106との境界部から変化領域106と光導電層104との境界部(界面)までの距離を示す。図2中、横軸の左側が、変化領域106の表面側領域107側であり、右側が、変化領域106の光導電層104側である。図2中、縦軸は、上記比(C/(Si+C))を示す。図2中、縦軸の線が、表面側領域107と変化領域106との境界部に相当し、右側の破線が、変化領域106と光導電層104との境界部(界面)に相当する。
変化領域106における上記比(C/(Si+C))は、図2(a)に示すように、変化領域106と光導電層104との境界部(界面)から表面側領域107と変化領域106との境界部まで直線的に漸増させてもよいし、図2(b)および(c)に示すように、変化領域106と光導電層104との境界部(界面)から表面側領域107と変化領域106との境界部まで曲線的に漸増させてもよい。また、図2(d)に示すように、変化領域106における上記比(C/(Si+C))の変化領域106と光導電層104との境界部(界面)から表面側領域107と変化領域106との境界部までの漸増は、曲線的な漸増と直線的な漸増を混合させた漸増であってもよい。
表面層105内の表面側領域107の表面が、感光体100の表面である場合、a−SiCで構成された表面側領域107の屈折率と大気の屈折率との間には差があるため、表面側領域107の表面では反射光が生じる。
そのような感光体100を電子写真装置に搭載し、画像出力を繰り返した場合、転写材(紙など)、トナー、接触部材(クリーニングブレードなど)などとの摺擦により、表面層105内の表面側領域107の表面は次第に削られ、表面側領域107の厚さが変化する。
また、部分的に摺擦状況が異なる場合、表面側領域107の厚さが場所によって異なってくる場合がある。
表面層105内の表面側領域107と変化領域106との境界部、光導電層104と変化領域106との境界部(界面)、または、変化領域106内において反射光が生じると、表面側領域107の表面で生じる反射光と干渉を起こしてしまう。
このとき、表面側領域107の厚さが場所によって異なっていると、上記干渉にムラが生じるため、感光体100の表面における反射光の量にムラが生じる。その結果、感光体100の光感度が感光体100の表面の場所によって異なってくる、すなわち、光感度のムラが生じる場合がある。
本発明のa−Si感光体(感光体100)では、表面層105内の表面側領域107と変化領域106の境界部で生じる反射光の量や、表面層105内の変化領域106と光導電層104との境界部(界面)で生じる反射光の量や、変化領域106内における反射光の量を低減させることができる。各反射光の量を低減することにより、上記感光体の光感度のムラを低減することができる。
変化領域106の厚さは、0.3〜2.0μmであることが好ましく、0.4〜1.5μmであることがより好ましく、0.5〜1.0μmであることがより好ましい。変化領域106の厚さが厚いほど、変化領域106内における反射光、表面層105内の表面側領域107と変化領域106との境界部で生じる反射光、表面層105内の変化領域106と光導電層104との境界部(界面)で生じる反射光の量を低減させやすい。また、変化領域106の厚さが薄いほど、変化領域106を形成する時間が短くなり、感光体100の製造コストを抑えやすい。
(変化領域106内の上部電荷注入阻止部分108)
本発明においては、感光体100の表面から光導電層104への電荷(負電荷)の注入を阻止する部分として、表面層105内の変化領域内106に上部電荷注入阻止部分108が設けられる。a−SiCで構成された変化領域106内に設けられる上部電荷注入阻止部分108もまた、a−SiCで構成される。
a−SiCは、その骨格を形成する原子であるケイ素原子および炭素原子の未結合手を補償する原子として水素原子が用いられているアモルファス材料であるが、ケイ素原子および炭素原子の未結合手を補償するための原子としてハロゲン原子を併用してもよい。a−SiC中の水素原子の含有量およびハロゲン原子の含有量の好適範囲は、上記表面側領域107の場合と同様である。
上部電荷注入阻止部分108には、電気伝導性を制御するための原子として第13族原子をさらに含有される。上部電荷注入阻止部分108における第13族原子の含有量は、感光体100の表面から光導電層104への電荷(負電荷)の注入を阻止する能力の観点から、上部電荷注入阻止部分108のa−SiC中のケイ素原子に対して、0.1〜3000原子ppmであることが好ましい。第13族原子の含有量が多いほど、P型電気伝導性が高まり、感光体100の表面から光導電層104への電荷(負電荷)の注入を阻止する能力が高まる。また、第13族原子の含有量が少ないほど、上部電荷注入阻止部分108の厚さ方向の正孔の移動度が小さくなるため、出力画像のボケが生じにくくなる。
上部電荷注入阻止部分108の厚さは、電子写真特性の観点から、0.01〜0.3μmであることが好ましく、0.03〜0.15μmであることがより好ましく、0.05〜0.1μmであることがより好ましい。上部電荷注入阻止部分108の厚さが厚いほど、感光体100の表面から光導電層104への電荷(負電荷)の注入を阻止する能力が高まる。また、上部電荷注入阻止部分108の厚さが薄いほど、出力画像のボケが生じにくくなる。
上部電荷注入阻止部分108に含有させる第13族原子としては、例えば、ホウ素原子(B)、アルミニウム原子(Al)、ガリウム原子(Ga)、インジウム原子(In)、タリウム原子(Tl)などが挙げられる。これらの中でも、ホウ素原子(B)が好ましい。
上部電荷注入阻止部分108は、変化領域106内のどの位置に設けられていてもよい。例えば、変化領域106と光導電層104との境界部(界面)に接して設けられてもよいし、変化領域106の途中に設けられてもよいし、表面層側領域107と変化領域106との境界部に接して設けられてもよい。その中でも、上部電荷注入阻止部分108は、変化領域106内の上記比(C/(Si+C))が0.00を超え0.30以下の部分に設けられていることが好ましい。変化領域106内の上部電荷注入阻止部分108を設ける部分の上記比(C/(Si+C))が小さいほど、第13族原子を含有させる(ドーピングする)効率が向上し、上部電荷注入阻止部分108の、感光体100の表面から光導電層104への電荷(負電荷)の注入を阻止する能力が高まる。
さらに、本発明では、上部電荷注入阻止部分108の、感光体100の表面から光導電層104への電荷(負電荷)の注入を阻止する能力をより高めるため、表面側部分109と上部電荷注入阻止部分108との境界部における第13族原子の分布を急峻にする必要がある。
以下に、第13族原子を含有しない表面側部分109と第13族原子を含有する上部電荷注入阻止部分108との境界部における第13族原子の分布について説明する((A1)、(A2)、(A3)、(A4)、(A5)および(A6))。
まず、SIMS分析により、基準イオン強度f(DS)を求め、それを用いて急峻性ΔZを求める((A1)、(A2)、(A3)および(A4))。
図3は、変化領域106における、SIMS分析により得られる、第13族原子のイオン強度f(D)の分布(デプスプロファイル)、イオン強度f(D)の一階微分f’(D)およびイオン強度f(D)の二階微分f”(D)の例を示す図である。
図3の上段、中段および下段の各グラフにおいて、横軸は、感光体100の表面からの距離Dを示し、横軸の左側が感光体100の表面側(表面側領域107側)であり、横軸の右側が光導電層104側である。図3の上段のグラフにおいて、縦軸は、第13族原子のイオン強度f(D)を示す。図3の中段のグラフにおいて、縦軸は、f(D)の一階微分f’(D)を示す。図3の下段のグラフにおいて、縦軸は、f(D)の二階微分f”(D)を示す。
図3に示す例においては、Dが増加していくと、つまり、感光体100の表面側から光導電層104側に向かうと、第13族原子のイオン強度f(D)は、次のような分布をとる。
図3に示す例では、第13族原子のイオン強度f(D)が0(検出限界以下を含む)から徐々に増加し(図3の上段のグラフ中の領域(I))、ある箇所から第13族原子のイオン強度f(D)は急激に増加する(同領域(II))。その後、ある箇所から第13族原子のイオン強度f(D)の増加の程度が緩やかに変化する(同領域(III)〜(IV))。そして、ある箇所において第13族原子のイオン強度f(D)は最大値f(DMAX)に到達し、その後、緩やかに減少する(同領域(V))。その後、ある箇所から第13族原子のイオン強度f(D)は急激に減少する(同領域(VI))。その後、ある箇所から第13族原子のイオン強度f(D)の増加の程度が緩やかに変化し、0になる(同領域(VII))。
第13族原子の分布の急峻性としては、イオン強度f(D)が急激に増加し、その後に増加の程度が緩やかになるところが、重要な箇所となる。特に、上部電荷注入阻止部分(第13族原子を含有する部分)104の表面側領域107(感光体100の表面)に近いところが、つまり、図3の上段のグラフにおいては、領域(I)から領域(III)までの部分が重要となる。
一般に、ある関数の二階微分が正なら当該関数は下に凸であり、二階微分が負なら上に凸である。よって、第13族原子のイオン強度f(D)の二階微分f”(D)を図3の下段のグラフのように描いた場合、f”(D)=0からf”(D)<0となる箇所が存在する。(図3の下段のグラフ中のD1およびD3)
つまり、f”(D)<0である近傍(図3の下段のグラフ中の領域(III)および(V))に、第13族原子のイオン強度f(D)が上に凸になる部分が存在し、第13族原子の分布の増加の程度が変化する部分が存在する。
さらに、f”(D)<0の後、第13族原子のイオン強度f(D)にピークがある場合、または、第13族原子のイオン強度f(D)が一定に変化もしくは緩やかに変化する場合、f”(D)は、少なくとも一度は、f”(D)=0を通過する。
よって、f”(D)=0からf”(D)<0となり、その後、f”(D)<0からf”(D)=0を通過する部分(図3の下段のグラフ中のD1からD2まで、および、D3からD4まで)のどこかに、第13族原子の分布の増加率が変化する部分が存在する。
本発明においては、D1からD2までの中間点((D1+D2)/2)、D3からD4までの中間点((D3+D4)/2)を変化点と定義する。
ただし、図3に示す例のように、変化点が複数存在する場合がある。この場合、表面側領域107(感光体100の表面)に近いほう((図3中の(D1+D2)/2)が重要となる。
本発明においては、感光体100の表面(表面側領域107)から見て最初にf”(D)=0からf”(D)<0なる箇所の感光体100の表面からの距離をDAと定義する。そして、その後、f”(D)<0からf”(D)=0になる箇所の感光体100の表面からの距離をDBと定義する。図3に示す例の場合は、D1がDAとなり、D2がDBとなる。そして、変化点(DA+DB)/2(図3に示す例では(D1+D2)/2)のイオン強度f((DA+DB)/2)(図3に示す例ではf((D1+D2)/2))を第13族原子の基準イオン強度f(DS)と定義する。DSは、第13族原子の基準イオン強度f(DS)となる位置の感光体100の表面からの距離である。
変化領域106のうち、感光体100の表面からの距離がDSである箇所から表面側領域107側の部分は、第13族原子の分布が比較的急激に変化する部分ということである。
図4は、変化領域106における、SIMS分析により得られる、第13族原子のイオン強度f(D)の分布(デプスプロファイル)、イオン強度f(D)の一階微分f’(D)およびイオン強度f(D)の二階微分f”(D)の別の例を示す図である。
図4の上段、中段および下段の各グラフにおいても、横軸は、感光体100の表面からの距離Dを示し、横軸の左側が感光体100の表面側(表面側領域107側)であり、横軸の右側が光導電層104側である。
図4の上段のグラフにおいて、縦軸は、第13族原子のイオン強度f(D)を示す。
図4の中段のグラフにおいて、縦軸は、f(D)の一階微分f’(D)を示す。
図4の下段のグラフにおいて、縦軸は、f(D)の二階微分f”(D)を示す。
図4に示す例においては、Dが増加していくと、つまり、感光体100の表面側から光導電層104の方向に向かうと、第13族原子のイオン強度f(D)は、次のような分布をとる。
図4に示す例では、第13族原子のイオン強度f(D)は、0(検出限界以下を含む)から徐々に増加し(図4の上段のグラフ中の領域(I))、その後、ある箇所から第13族原子のイオン強度f(D)の増加の程度が緩やかに変化する(同領域(II))。その後、しばらく第13族原子のイオン強度f(D)が一定となる(同領域(III))。その後、ある箇所から再度第13族原子のイオン強度f(D)が徐々に増加し(同領域(IV))、ある箇所から第13族原子のイオン強度f(D)は急激に増加する(同領域(V))。その後、ある箇所から第13族原子のイオン強度f(D)の増加の程度が緩やかに変化し、そして、ある箇所において第13族原子のイオン強度f(D)は最大値f(DMAX)に到達し、その後、緩やかに減少する(同領域(VI))。その後、ある箇所から第13族原子のイオン強度f(D)は急激に減少する(同領域(VII))。その後、ある箇所から第13族原子のイオン強度f(D)の増加の程度が緩やかに変化し、0になる(同領域(VIII))。
図4の下段のグラフの場合、f”(D)=0からf”(D)<0となる箇所はD1およびD3であり、f”(D)<0からf”(D)=0となる箇所はD2およびD4である。
上述の図3の例における理由と同じ理由から、図4の上段のグラフにおいては、領域(I)の部分ならびに領域(IV)から領域(V)の部分が重要と一応考えられる。
しかしながら、領域(I)の部分は、a−Si感光体の負帯電時の帯電能に及ぼす影響は小さい。
この理由は、以下のように考えられる。
上述のように、上部電荷注入阻止部分108には、電荷(負電荷)が感光体の表面から光導電層に注入するのを阻止するために、第13族原子を含有させ、P型電気伝導性を有させている。そのため、上部電荷注入阻止部分108は、第13族原子はある程度の量を含有している必要がある。必要となる含有量は、第13族原子のイオン強度f(D)の最大値であるf(DMAX)がおよその基準の値となる。よって、f(DMAX)に比べて第13族原子の含有量が極めて少ない部分において、イオン強度f(D)が急激に増加し、その後に増加の程度が緩やかになるところがあっても、a−Si感光体の負帯電時の帯電能に及ぼす影響は小さい。
したがって、基準イオン強度f(DS)は、上述の条件(図3の例において説明した条件)にのみによって定義されるのではなく、f(DMAX)との関係も定義の必要条件となる。
本発明者らの検討の結果、f(DMAX)の50%未満の部分において、イオン強度f(D)が急激に増加し、その後に増加の程度が緩やかになるところがあっても、a−Si感光体の負帯電時の帯電能に及ぼす影響は小さいことがわかった。
よって、図4に示す例の場合は、D3がDAとなり、D4がDBとなる。そして、変化点(D3+D4)/2のイオン強度f((D3+D4)/2))が第13族原子の基準イオン強度f(DS)となる。
以上をまとめると、基準イオン強度f(DS)は、以下のように定義される。
デプスプロファイル(変化領域106における、SIMS分析により得られる、第13族原子のイオン強度f(D)の分布)において、感光体100の表面からの距離をDとし、距離Dにおける第13族原子のイオン強度を距離Dの関数f(D)で表し、f(D)の最大値をf(DMAX)で表し、f(D)の二階微分をf”(D)で表し、光導電層に向かってDを増加させていき、f”(D)=0からf”(D)<0になる箇所の該電子写真感光体の表面からの距離をDAとし、その後にf”(D)<0からf”(D)=0になる箇所の該電子写真感光体の表面からの距離をDBとする。そして、f((DA+DB)/2)≧f(DMAX)×0.5を満たす距離Dのうち、前記上部電荷注入阻止部分を電子写真感光体の表面から見て最初の距離をDSとし、距離DSにおける第13族原子のイオン強度f(D)を基準イオン強度f(DS)とする。したがって、図3に示す例においては、D1がDAとなり、D2がDBとなる。そして、図4に示す例においては、D3がDAとなり、D4がDBとなる。図4に示す例においては、f((D1+D2)/2)≧f(DMAX)×0.5を満たさないため、D1はDAとならず、D2はDBとならない。
次に、SIMS分析により、基準イオン強度f(DS)を用いて、急峻性ΔZを求める。
図5は、変化領域106における、SIMS分析により得られる、第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)の例を示す図である。
図5のグラフにおいて、横軸は、感光体100の表面からの距離Dを示し、横軸の左側が感光体100の表面側(表面側領域107側)であり、横軸の右側が光導電層104側である。また、図5のグラフにおいて、縦軸は、第13族原子のイオン強度f(D)を示す。図5の第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)は、図3の上段の第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)と同一である。
図5中、f(DMAX)は、上述のとおり、第13族原子のイオン強度f(D)の最大値である。DMAXは、第13族原子のイオン強度f(DMAX)となる位置の感光体100の表面からの距離である。
また、図5中、f(D84)は、基準イオン強度f(DS)を100%としたときの、84%のイオン強度である。つまり、f(D84)=f(DS)×0.84である。D84は、第13族原子のイオン強度がf(D84)となる位置の感光体100の表面からの距離である。また、f(D16)は、基準イオン強度f(DS)を100%としたときの、16%のイオン強度である。つまり、f(D16)=f(DS)×0.16である。D16は、第13族原子のイオン強度がf(D16)となる位置の感光体100の表面からの距離である。
ΔZは、評価対象のa−Si感光体における第13族原子の分布の急峻性を示す指標であり、第13族原子のイオン強度f(D)がf(D16)からf(D84)となる深さ方向(厚さ方向)の距離である。つまり、ΔZ=|D84−D16|である。
一方、SIMS分析により、基準積層膜Aにおける急峻性ΔZ0を求める((A5)および(A6))。
本発明においては、基準積層膜Aにおける急峻性ΔZ0を求める際のSIMS分析の測定条件は、上述の感光体100に対して行うSIMS分析の測定条件と同一にすることが必須である。すなわち、急峻性ΔZを求める際と急峻性ΔZ0を求める際とで、測定条件を固定する必要がある。
これは、同一の測定条件でSIMS分析を行わないと、例えば、同じ試料に対して複数回のSIMS分析を行った場合であっても、得られる結果(第13族原子のイオン強度のデプスプロファイル)が変化する場合があるためである。そのため、後述するように、感光体に係る急峻性ΔZと基準積層膜Aに係る急峻性ΔZ0とを比較しても、第13族原子の分布の急峻性、ひいては、a−Si感光体の負帯電時の帯電能を正確に評価できなくなるおそれがあるためである。
まず、上述のとおり、感光体100の変化領域106内の上部電荷注入阻止部分108に対応する組成を有する膜(膜A1)と、変化領域106内の表面側部分109に対応する組成を有する膜(膜A2)とをこの順に積層してなる基準積層膜Aを作製する。膜A1は、第13族原子を均一に含有している。膜A2は、第13族原子を含有していない。
基準積層膜Aの作製の際には、理論上、第13族原子を含有しない膜A2と第13族原子を含有する膜A1との境界部(界面)において第13族原子の分布が急峻になるよう、作製方法に留意する。
図6は、基準積層膜Aにおける、SIMS分析により得られる、第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)の例を示す図である。
図6のグラフにおいて、横軸は、基準積層膜Aの表面(膜A2の表面)からの距離DSを示し、横軸の左側が第13族原子を含有していない膜A2側であり、横軸の右側が第13族原子を含有している膜A1側である。また、図6のグラフにおいて、縦軸は、第13族原子のイオン強度fS(DS)を示す。図6に示す例の基準積層膜Aは、変化領域106における第13族原子のイオン強度f(D)の分布が図3で示す分布になっている感光体100に対応する基準積層膜Aである。
変化領域106における第13族原子のイオン強度f(D)の分布が図3で示す分布になっている感光体100に対応する基準積層膜Aの膜A1は、基準イオン強度f(DS)と同等の基準イオン強度fS(DSS)となるよう、第13族原子を含有している。つまり、f(DS)=fS(DSS)となる。
その他は、上述の図3と同様であり、図6中、fS(DS84)は、基準イオン強度fS(DSS)を100%としたときの、84%となるイオン強度である。つまり、fS(DS84)=fS(DSS)×0.84である。DS84は、第13族原子のイオン強度がfS(DS84)となる位置の基準積層膜Aの表面からの距離である。また、fS(DS16)は、基準イオン強度fS(DSS)を100%としたときの、16%となるイオン強度である。つまり、fS(DS16)=fS(DSS)×0.16である。DS16は、第13族原子のイオン強度がfS(DS16)となる位置の基準積層膜Aの表面からの距離である。
ΔZ0は、基準積層膜Aにおける第13族原子の分布の急峻性を示す指標であり、第13族原子のイオン強度fS(DS)がf(DS16)からf(DS84)となる深さ方向(厚さ方向)の距離である。つまり、ΔZ0=|DS84−DS16|である。
また、評価対象のa−Si感光体におけるf(DS)を100%としたときの、50%となるイオン強度をf(D50)(不図示)とする。そして、第13族原子のイオン強度がf(D50)となる位置の感光体100の表面からの距離をD50(不図示)とする。
上述のとおり、基準積層膜Aの膜A1は、評価対象のa−Si感光体の変化領域内の上部電荷注入阻止部分に対応する組成を有する膜である。
また、上述のとおり、a−Si感光体の負帯電時の帯電能を向上させるには、第13族原子の分布の急峻性を特定の範囲に制御する(できるだけ急峻になるように制御する)ことが重要である。そのためには、感光体の表面層内の変化領域内の表面側部分と上部電荷注入阻止部分との境界部における第13族原子の分布を正確に評価することが必要である。そのためには、基準積層膜Aの膜A1および膜A2の組成は、それぞれ、評価対象のa−Si感光体の表面層内の変化領域内の上部電荷注入阻止部分および表面側部分の組成と同等とするべきであると考えられる。
評価対象のa−Si感光体の表面層内の変化領域内の上部電荷注入阻止部分および表面側部分のケイ素原子、炭素原子、水素原子および第13族原子の含有量は、SIMS分析により、求めることができる。
しかしながら、評価対象のa−Si感光体の表面層は、ケイ素原子、炭素原子および水素原子を母材(主たる構成原子)とするa−SiCで構成されている。そのため、ケイ素原子、炭素原子および水素原子の含有量を求める定量分析は、マトリックス効果が顕著に表れるので、相対感度係数(RSF:Relative Sensitive Factor)を計算して求める方法では、正確な含有量を求めることが困難なことが多い。このような場合、SIMS分析においては、一次イオンにCs+を用い、目的の原子(Xとする。)と結合した分子イオンCsX+を、二次イオンとして検出することにより、ケイ素原子、炭素原子および水素原子の含有量を正確に求めることが可能である。
本発明の感光体の上部電荷注入阻止部分108のベースの材料となっているa−SiCの場合、RBS法およびHFS法で、ケイ素原子、炭素原子および水素原子の含有量(濃度:原子%)を求めたa−SiCの標準試料を数種類用いる。そして、それぞれのSIMS分析の測定条件で検量線を求め、ケイ素原子、炭素原子および水素原子の含有量を求めることが可能である。
具体的には、まず、水素原子/ケイ素原子の比率を、Cs+のNegativeの測定より求める。そして、炭素原子/ケイ素原子の比率を、Cs+のPositiveの測定より求める。それにより、最終的に、ケイ素原子、炭素原子および水素原子の含有量を求めることが可能である。
SIMS分析によって得られる第13族原子のイオン強度は、感光体100の表面からの距離によって変わるが、本発明者らがSIMS分析の結果を検討した結果、第13族原子の基準イオン強度f(DS)が半分になる位置を基準積層膜Aの膜A1と膜A2との界面と定義すれば、評価対象のa−Si感光体の負帯電時の帯電能との対応が良好となることがわかった。
以上をまとめると、基準積層膜Aの膜A1および膜A2は、評価対象のa−Si感光体の表面からの距離がD50である位置でのケイ素原子、炭素原子および水素原子の含有量と同じ含有量でケイ素原子、炭素原子および水素原子を含有する層である。さらに、基準積層膜Aの膜A1は、基準イオン強度f(DS)と同等の基準イオン強度fS(DSS)となるよう、第13族原子をさらに含有している。
これにより、基準積層膜Aは、評価対象のa−Si感光体におけるSIMS分析の測定結果を相対的に比較し、該a−Si感光体の表面層内の変化領域内の表面側部分と上部電荷注入阻止部分との境界部における第13族原子の分布の正確に急峻性を評価するのに適したものになっている。
さらに、上述のように、基準積層膜Aにおいては、理論上、第13族原子を含有しない膜A2と第13族原子を含有する膜A1との境界部(界面)における第13族原子の分布が急峻になっている必要があり、基準積層膜Aの作製においては、その点を留意する必要がある。
本発明者らの検討の結果、例えば、以下のように基準積層膜Aを作製すれば、第13族原子を含有しない膜A2と第13族原子を含有する膜A1との境界部(界面)における第13族原子の分布が十分に急峻になる(膜A2側から膜A1側に向かって第13族原子が急激に増加する)ことがわかった。
まず、反応容器内において、膜A1を形成する。
その後、反応容器内への膜A1形成用の原料ガス(ケイ素原子供給用の原料ガス、炭素原子供給用の原料ガス、第13族原子供給用の原料ガス(必要に応じて、水素原子供給用の原料ガスなど))の導入および/または該原料ガスを分解するためのエネルギーの導入を停止する。高周波プラズマCVD法や高周波スパッタリング法によって基準積層膜Aを作製する場合、反応容器内への高周波電力の導入を停止することで、膜A1の形成が停止する。また、このとき、膜A1形成用の原料ガスを停止させたうえ、反応容器内に第13族原子供給用の原料ガスが残留しないよう、反応容器内から第13族原子供給用の原料ガスを排気することが好ましい。
その後、膜A1上に第13族原子を含有しない膜A2を形成する。反応容器内に第13族原子供給用の原料ガスは供給しない。
このようにすることで、第13族原子の分布が急峻な基準積層膜Aを作製することができる。
このように作製された基準積層膜AのΔZ0および評価対象のa−Si感光体のΔZを同一の測定条件のSIMS分析によって得て、ΔZ0およびΔZを比較する(ΔZ/ΔZ0の値を確認する)。本発明においては、これを「第13族原子の分布の急峻性の評価方法A」とも呼ぶ。
本発明においては、ΔZ/ΔZ0が1.0以上3.0以下(1.0≦ΔZ/ΔZ0≦3.0)である。理論上、ΔZ/ΔZ0の最小値は1.0となる。ΔZ/ΔZ0が3.0を超えるということは、a−Si感光体の表面層内の変化領域内の表面側部分と上部電荷注入阻止部分との境界部において、第13族原子が十分に急峻に変化していない(該境界部において、表面側部分側から上部電荷注入阻止部分側に向かって第13族原子が急激ではなく徐々に増加している)ことを意味する。すると、感光体の表面から光導電層への電荷(電子)の注入を十分に阻止できないことになる。
また、本発明において、例えば、図1の(a)に示すように、変化領域106内に光導電層側部分110、上部電荷注入阻止部分108および表面側部分109が存在する場合、a−Si感光体の負帯電時の帯電能の観点から、光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部における第13族原子の分布も急峻である(上部電荷注入阻止部分108側から光導電層側部分110側に向かって第13族原子が急激に減少する)ことが好ましい。
また、例えば、図1の(b)に示すように、変化領域106内に上部電荷注入阻止部分108および表面側部分109が存在し、光導電層側部分110が存在しない場合、換言すれば、上部電荷注入阻止部分108が表面層105内の最も光導電層104側の部分である場合、a−Si感光体の負帯電時の帯電能の観点から、光導電層104と上部電荷注入阻止部分108との境界部における第13族原子の分布も急峻である(表面層105内の変化領域106側から光導電層104側に向かって第13族原子が急激に減少する)ことが好ましい。
どちらの場合も、具体的には、後述のようにして求められるΔYおよびΔY0に関して、ΔY/ΔY0が1.0以上3.0以下(1.0≦ΔY/ΔY0≦3.0)であることが好ましい。理論上、ΔY/ΔY0の最小値は1.0となる。ΔY/ΔY0が3.0を超えるということは、a−Si感光体の光導電層もしくは表面層内の変化領域内の光導電層側部分と表面層内の変化領域内の上部電荷注入阻止部分との境界部において、第13族原子が十分に急峻に変化していない(該境界部において、上部電荷注入阻止部分側から光導電層側部分側もしくは光導電層側に向かって第13族原子が急激ではなく徐々に減少している。)ことを意味する。本発明においては、これを「第13族原子の分布の急峻性の評価方法B」とも呼ぶ。
上述の光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部における第13族原子の分布も急峻であることが好ましい理由に関して、本発明者らは、以下のように推測している。
本発明において、感光体100の表面層105内の変化領域106は、ケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)との和に対する炭素原子の原子数(C)の比(C/(Si+C))が光導電層104側から感光体100の表面側(表面側領域107側)に向かって漸増している領域である。光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部は、炭素原子の含有量が比較的少なくなっており、組成がa−Siに比較的近くなっている。そのため、該境界部は、a−Siで構成された光導電層104のように、画像露光光や前露光光が入射した場合、光導電性により、光キャリアが発生しやすい。感光体100の表面を負帯電した場合、画像露光光や前露光光の入射により発生した光キャリアのうちの電子は、本来、基体102側に移動する。このとき、該境界部に第13族原子が存在していると、電子の走行性が低下するため、第13族原子の量が多い場合、該境界部から基体102側まで移動しきれず、該境界部(界面)または該境界部(界面)と基体102との間に電子が残留しやすくなると考えられる。そのような状況のまま、次の感光体100の表面が負帯電されると、負帯電により形成される電界により、上記のように残留していた電子が基体102側に向かって移動することで、感光体100の表面電位の低下が引き起こされると考えられる。
本発明者らの検討によれば、光導電層104もしくは光導電層側部分110と表面層105との境界部における第13族原子の分布の急峻性は、上述の急峻性の評価の方法と同様の方法によって、正確に評価することが可能であることがわかった。
以下に、光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部における第13族原子の分布について説明する((B1)、(B2)、(B3)、(B4)、(B5)および(B6))。
まず、SIMS分析により、基準イオン強度g(ES)を求め、それを用いて急峻性ΔYを求める((B1)、(B2)、(B3)および(B4))。
図9は、変化領域106における、SIMS分析により得られる、第13族原子のイオン強度g(E)の分布(デプスプロファイル)、イオン強度g(E)の一階微分g’(E)およびイオン強度g(E)の二階微分g”(E)の例を示す図である。図9の第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)等は、図3の第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)等と同一であるが、説明の便宜上、記号を変えている。
図9の上段、中段および下段の各グラフにおいて、横軸は、光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部からの距離Eを示し、横軸の左側が感光体100の表面側(表面側領域107側)であり、横軸の右側が光導電層104側である。図9の上段のグラフにおいて、縦軸は、第13族原子のイオン強度g(E)を示す。図9の中段のグラフにおいて、縦軸は、g(E)の一階微分g’(E)を示す。図9の下段のグラフにおいて、縦軸は、g(E)の二階微分g”(E)を示す。
図9に示す例においては、Eが増加していくと、つまり、光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部側から感光体100の表面側に向かうと、第13族原子のイオン強度g(E)は、次のような分布をとる。
図9に示す例では、第13族原子のイオン強度g(E)が0(検出限界以下を含む)から徐々に増加し(図9の上段のグラフ中の領域(VII))、ある箇所から第13族原子のイオン強度g(E)は急激に増加する(同領域(VI))。その後、ある箇所から第13族原子のイオン強度g(E)の増加の程度が緩やかに変化する(同領域(V))。そして、ある箇所において第13族原子のイオン強度g(E)は最大値g(EMAX)(図3中のg(DMAX)と同じ。)に到達し、その後、緩やかに減少する(同領域(IV)〜(III))。その後、ある箇所から第13族原子のイオン強度g(E)は急激に減少する(同領域(II))。その後、ある箇所から第13族原子のイオン強度g(E)の増加の程度が緩やかに変化し、0になる(同領域(I))。
第13族原子の分布の急峻性としては、イオン強度g(E)が急激に増加し、その後に増加の程度が緩やかになるところが、重要な箇所となる。特に、上部電荷注入阻止部分(第13族原子を含有する部分)108の、光導電層104もしくは光導電層側部分110に近いところが、つまり、図9の上段のグラフにおいては、領域(VII)から領域(V)の最大値g(EMAX)に到達するまで部分が重要となる。
上述のように、ある関数の二階微分が正なら当該関数は下に凸であり、二階微分が負なら上に凸である。よって、第13族原子のイオン強度g(E)の二階微分g”(E)を図3の下段のグラフのように描いた場合、g”(E)=0からg”(E)<0となる箇所が存在する。(図9の下段のグラフ中のE1およびE3)
つまり、g”(E)<0である近傍(図9の下段のグラフ中の領域(V)および(III))に、第13族原子のイオン強度g(E)が上に凸になる部分が存在し、第13族原子の分布の増加の程度が変化する部分が存在する。
さらに、g”(E)<0の後、第13族原子のイオン強度g(E)にピークがある場合、または、第13族原子のイオン強度g(E)が一定に変化もしくは緩やかに変化する場合、g”(E)は、少なくとも一度は、g”(E)=0を通過する。
よって、g”(E)=0からg”(E)<0となり、その後、g”(E)<0からg”(E)=0を通過する部分(図9の下段のグラフ中のE1からE2まで、および、E3からE4まで)のどこかに、第13族原子の分布の増加率が変化する部分が存在する。
上記と同様に、E1からE2までの中間点((E1+E2)/2)、E3からE4までの中間点((D3+D4)/2)を変化点と定義する。
ただし、図9に示す例のように、変化点が複数存在する場合がある。この場合、光導電層104もしくは光導電層側部分110に近いほう((図9中の(E1+E2)/2)が重要となる。
本発明においては、光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部から見て最初にg”(E)=0からg”(E)<0なる箇所の該境界部からの距離をEAと定義する。そして、その後、g”(E)<0からg”(E)=0になる箇所の、光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部からの距離をEBと定義する。図9に示す例の場合は、E1がEAとなり、E2がEBとなる。そして、変化点(EA+EB)/2(図9に示す例では(E1+E2)/2)のイオン強度g((EA+EB)/2)(図9に示す例ではg((E1+E2)/2))を第13族原子の基準イオン強度g(ES)と定義する。ESは、第13族原子の基準イオン強度g(ES)となる位置の、光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部からの距離である。
変化領域106のうち、光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部からの距離がESである箇所から光導電層104側もしくは光導電層側部分110側の部分は、第13族原子の分布が比較的急激に変化する部分ということである。
また、上記基準イオン強度f(DS)と同様に、基準イオン強度g(ES)もまた、上述の条件(図9の例において説明した条件)にのみによって定義されるのではなく、g(EMAX)との関係も定義の必要条件となる。
つまり、基準イオン強度g(ES)は、以下のように定義される。
デプスプロファイル(変化領域106における、SIMS分析により得られる、第13族原子のイオン強度g(E)の分布)において、光導電層もしくは光導電層側部分と上部電荷注入阻止部分との境界部(界面)からの距離をEとし、距離Eにおける第13族原子のイオン強度を距離Eの関数g(E)で表し、g(E)の最大値をg(EMAX)で表し、g(E)の二階微分をg”(E)で表し、電子写真感光体の表面に向かってEを増加させていき、g”(E)=0からg”(E)<0になる箇所の光導電層もしくは光導電層側部分と上部電荷注入阻止部分との境界部からの距離をEAとし、その後にg”(E)<0からg”(E)=0になる箇所の光導電層もしくは光導電層側部分と上部電荷注入阻止部分との境界部からの距離をEBとする。そして、g((EA+EB)/2)≧g(EMAX)×0.5を満たす距離Eのうち、前記上部電荷注入阻止部分を光導電層もしくは光導電層側部分と上部電荷注入阻止部分との境界部から見て最初の距離をESとし、距離ESにおける第13族原子のイオン強度g(E)を基準イオン強度g(ES)とする。
次に、SIMS分析により、基準イオン強度g(E)を用いて、急峻性ΔYを求める。
図10は、変化領域106における、SIMS分析により得られる、第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)の例を示す図である。図10の第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)等は、図5の第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)等と同一であるが、説明の便宜上、記号を変えている。
図10のグラフにおいて、横軸は、光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部(界面)からの距離Eを示し、横軸の左側が感光体100の表面側(表面側領域107側)であり、横軸の右側が光導電層104側もしくは光導電層側部分110側である。また、図10のグラフにおいて、縦軸は、第13族原子のイオン強度g(E)を示す。図10の第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)は、図9の上段の第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)と同一である。
図10中、g(EMAX)は、上述のとおり、第13族原子のイオン強度g(E)の最大値である。EMAXは、第13族原子のイオン強度g(EMAX)となる位置の、光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部からの距離である。
また、図10中、g(E84)は、基準イオン強度g(ES)を100%としたときの、84%のイオン強度である。つまり、g(E84)=g(ES)×0.84である。E84は、第13族原子のイオン強度がg(E84)となる位置の、光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部からの距離である。また、g(E16)は、基準イオン強度g(ES)を100%としたときの、16%のイオン強度である。つまり、g(E16)=g(ES)×0.16である。E16は、第13族原子のイオン強度がg(E16)となる位置の、光導電層104もしくは光導電層側部分110と上部電荷注入阻止部分108との境界部からの距離である。
ΔYは、ΔZと同様に、評価対象のa−Si感光体における第13族原子の分布の急峻性を示す指標であり、第13族原子のイオン強度g(E)がg(E16)からg(E84)となる深さ方向(厚さ方向)の距離である。つまり、ΔY=|E84−E16|である。
一方、SIMS分析により、基準積層膜Bにおける急峻性ΔY0を求める((B5)および(B6))。
基準積層膜Bの場合も、基準積層膜Aの場合と同様に、急峻性ΔYを求める際と急峻性ΔY0を求める際とで、測定条件を固定する必要がある。
まず、上述のとおり、光導電層104もしくは光導電層側部分110に対応する組成を有する膜(膜B1)と、上部電荷注入阻止部分108に対応する組成を有する膜(膜B2)とをこの順に積層してなる基準積層膜Bを作製する。膜B1は、第13族原子を含有していない。膜B2は、第13族原子を均一に含有している。
基準積層膜Bの作製の際には、理論上、第13族原子を含有しない膜B1と第13族原子を含有する膜B2との境界部(界面)において第13族原子の分布が急峻になるよう、作製方法に留意する。
図11は、基準積層膜Bにおける、SIMS分析により得られる、第13族原子のイオン強度の分布(デプスプロファイル)の例を示す図である。
図11のグラフにおいて、横軸は、基準積層膜Bの裏面(膜B1の表面)からの距離ESを示し、横軸の左側が第13族原子を含有している膜B2側であり、横軸の右側が第13族原子を含有していない膜B1側である。また、図11のグラフにおいて、縦軸は、第13族原子のイオン強度gS(ES)を示す。図11に示す例の基準積層膜Bは、変化領域106における第13族原子のイオン強度g(E)の分布が図9で示す分布になっている感光体100に対応する基準積層膜Bである。
変化領域106における第13族原子のイオン強度g(E)の分布が図9で示す分布になっている感光体100に対応する基準積層膜Bの膜B2は、基準イオン強度g(ES)と同等の基準イオン強度gS(ESS)となるよう、第13族原子を含有している。つまり、g(ES)=gS(ESS)となる。
その他は、上述の図9と同様であり、図11中、gS(ES84)は、基準イオン強度gS(ESS)を100%としたときの、84%となるイオン強度である。つまり、gS(ES84)=gS(ESS)×0.84である。ES84は、第13族原子のイオン強度がgS(ES84)となる位置の基準積層膜Bの表面からの距離である。また、gS(ES16)は、基準イオン強度gS(ESS)を100%としたときの、16%となるイオン強度である。つまり、gS(ES16)=gS(ESS)×0.16である。ES16は、第13族原子のイオン強度がgS(ES16)となる位置の基準積層膜Bの表面からの距離である。
ΔY0は、基準積層膜Bにおける第13族原子の分布の急峻性を示す指標であり、第13族原子のイオン強度gS(ES)がg(ES16)からg(ES84)となる深さ方向(厚さ方向)の距離である。つまり、ΔY0=|ES84−ES16|である。
また、評価対象のa−Si感光体におけるg(ES)を100%としたときの、50%となるイオン強度をg(E50)(不図示)とする。そして、第13族原子のイオン強度がg(E50)となる位置の感光体100の表面からの距離をE50(不図示)とする。
上述のとおり、基準積層膜Bの膜B2は、評価対象のa−Si感光体の変化領域内の上部電荷注入阻止部分に対応する組成を有する膜である。
上述のとおり、a−Si感光体の負帯電時の帯電能を向上させるには、第13族原子の分布の急峻性を特定の範囲に制御する(できるだけ急峻になるように制御する)ことが重要である。そのためには、感光体の光導電層もしくは光導電層側部分と上部電荷注入阻止部分との境界部(界面)における第13族原子の分布を正確に評価することが必要であり、そのためには、基準積層膜Bの膜B1および膜B2の組成は、それぞれ、評価対象のa−Si感光体の光導電層もしくは光導電層側部分の組成および上部電荷注入阻止部分の組成と同等とするべきであると考えられるが、基準積層膜Aの場合と同様に、基準積層膜Bの膜B1および膜B2の組成は、以下のようにする。
すなわち、基準積層膜Bの膜B1および膜B2は、評価対象のa−Si感光体の光導電層もしくは光導電層側部分と表面層との境界部(界面)からの距離がE50である位置でのケイ素原子、炭素原子および水素原子の含有量と同じ含有量でケイ素原子、炭素原子および水素原子を含有する層である。さらに、基準積層膜Bの膜B1は、基準イオン強度g(ES)と同等の基準イオン強度gS(ESS)となるよう、第13族原子をさらに含有している。
これにより、基準積層膜Bは、評価対象のa−Si感光体におけるSIMS分析の測定結果を相対的に比較し、該a−Si感光体の光導電層もしくは光導電層側部分と上部電荷注入阻止部分との境界部(界面)における第13族原子の分布の正確に急峻性を評価するのに適したものになっている。
さらに、上述のように、基準積層膜Bにおいては、理論上、第13族原子を含有する膜A2と第13族原子を含有しない膜A1との境界部(界面)における第13族原子の分布が急峻になっている必要があり、基準積層膜Bの作製においても、基準積層膜Aの作製の際と同様に、その点を留意する必要がある。
そのような基準積層膜Bは、上述の基準積層膜Aの作製方法と同様にして、作製することができる。
(表面層105の形成方法)
本発明のa−Si感光体の表面層の形成方法は、上記条件を満足する層を形成できる方法であれば、いずれの方法でも採用することができる。
表面層の形成方法としては、例えば、プラズマCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。これらの中でも、原料供給の容易性などの観点から、プラズマCVD法が好ましい。
表面層の形成方法としてプラズマCVD法を選択した場合、表面層の形成方法は、例えば、以下のとおりである。
ケイ素原子供給用の原料ガスおよび炭素原子供給用の原料ガスを、内部を減圧しうる反応容器内に所望のガス状態で導入し、該反応容器内にグロー放電を生起させる。これによって、該反応容器内に導入した原料ガスを分解し、該反応容器内の所定の位置に設置された基体上(導電性基体上)にa−SiCで構成された表面層を形成すればよい。
ケイ素原子供給用の原料ガスとしては、例えば、シラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)などのシラン類が挙げられる。また、炭素原子供給用の原料ガスとしては、例えば、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)などの炭化水素が挙げられる。
また、ケイ素原子の原子数(Si)と炭素原子の原子数(C)と水素原子の原子数(H)の和に対する水素原子の原子数(H)の比(H/(Si+C+H))を調整するために、水素(H2)を上記の原料ガスとともに使用してもよい。
第13族原子供給用の原料ガスとしては、例えば、ジボラン(B2H6)、三フッ化ホウ素(BF3)などが挙げられる。
(光導電層104の形成方法)
本発明のa−Si感光体の光導電層の形成方法としては、例えば、プラズマCVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などが挙げられる。これらの中でも、原料供給の容易性などの観点から、プラズマCVD法が好ましい。
光導電層の形成方法としてプラズマCVD法を選択した場合、光導電層の形成方法は、例えば、以下のとおりである。
ケイ素原子供給用の原料ガスを、内部を減圧しうる反応容器内に所望のガス状態で導入し、該反応容器内にグロー放電を生起させる。これによって、該反応容器内に導入した原料ガスを分解し、該反応容器内の所定の位置に設置された基体上にa−Siで構成された光導電層を形成すればよい。
ケイ素原子供給用の原料ガスとしては、例えば、シラン(SiH4)、ジシラン(Si2H6)などのシラン類が挙げられる。
また、ケイ素原子の原子数(Si)と水素原子の原子数(H)の和に対する水素原子の原子数(H)の比(H/(Si+H))を調整するために、水素(H2)を上記の原料ガスとともに使用してもよい。
また、ハロゲン原子、電気伝導性を制御するための原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子などを光導電層104に含有させる場合には、それぞれの原子を含むガス状または容易にガス化しうる物質を原料として適宜使用すればよい。
(本発明の電子写真感光体(a−Si感光体)の製造方法)
図7は、本発明の負帯電用の電子写真感光体(a−Si感光体)の製造に用いることのできる堆積膜形成装置の例を示す図である。図7に示す堆積膜形成装置は、高周波電源を用いたRFプラズマCVD法によって堆積膜を形成するための装置である。
図7に示す堆積膜形成装置7000は、大別すると、減圧可能な反応容器7110を有する堆積装置7100、原料ガス供給装置7200、および、反応容器7110内を減圧するための排気装置(不図示)から構成されている。
堆積装置7100中の反応容器7110内には、アースに接続された基体7112、基体加熱用ヒーター7113、および、原料ガス導入管7114が設置されている。また、カソード電極7111には、高周波マッチングボックス7115を介して高周波電源7120が接続されている。
原料ガス供給装置7200は、SiH4,H2,CH4,NO,B2H6などの原料ガス用の原料ガスボンベ7221〜7225が設けられている。
また、堆積装置7100は、バルブ7231〜7235、圧力調整器7261〜7265、流入バルブ7241〜7245、流出バルブ7251〜7255およびマスフローコントローラー7211〜7215を有している。
各原料ガスを封入したガスのボンベは、補助バルブ7260を介して反応容器7110内の原料ガス導入管7114に接続されている。
次に、この堆積膜形成装置7000を使った堆積膜の形成方法について説明する。
まず、あらかじめ脱脂洗浄した基体7112を反応容器7110に受け台7123を介して設置する。次に、排気装置(不図示)を運転し、反応容器7110内を排気する。真空計7119の表示を見ながら、反応容器7110内の圧力が所定の圧力(例えば1Pa以下)になったところで、基体加熱用ヒーター7113に電力を供給し、基体7112を所定の温度(例えば50〜350℃)に加熱する。このとき、ガス供給装置7200より、Ar、Heなどの不活性ガスを反応容器7110内に供給して、不活性ガス雰囲気中で加熱を行うこともできる。
次に、ガス供給装置7200から堆積膜形成に用いる原料ガスを反応容器7110内に供給する。すなわち、必要に応じて、バルブ7231〜7235、流入バルブ7241〜7245、流出バルブ7251〜7255を開き、マスフローコントローラー7211〜7215に流量設定を行う。各マスフローコントローラーの流量が安定したところで、真空計7119の表示を見ながらメインバルブ7118を操作し、反応容器7110内の圧力が所定の圧力になるように調整する。所定の圧力が得られたところで高周波電源7120から高周波電力を反応容器7110内に導入するとともに、高周波マッチングボックス7115を操作し、反応容器7110内にプラズマ放電を生起させる。それにより、反応容器7110内に供給された原料ガスが励起する。その後、速やかに高周波電力を所定の電力になるように調整し、堆積膜の形成を行う。
所定の堆積膜の形成が終わったところで、反応容器7110内への高周波電力の導入を停止し、バルブ7231〜7235、流入バルブ7241〜7245、流出バルブ7251〜7255、および、補助バルブ7260を閉じ、反応容器7110内への原料ガスの供給を終える。それとともに、メインバルブ7118を全開にし、反応容器7110内の圧力が所定の圧力(例えば1Pa以下)になるまで、反応容器7110内を排気する。
以上で堆積膜の形成を終えるが、複数の堆積膜を形成する場合、再び上記の手順を繰り返してそれぞれの層を形成すればよい。原料ガスの流量や、反応容器内の圧力などを変化させて、各層間の接合領域の形成を行うこともできる。
すべての堆積膜形成が終わった後、メインバルブ7118を閉じ、反応容器7110内に不活性ガスを導入し、反応容器7110内の圧力を大気圧にした後、基体7112を反応容器7110から取り出す。
(電子写真装置)
次に、本発明の電子写真感光体(a−Si感光体)を有する電子写真装置について説明する。
図8は、本発明の負帯電用の電子写真感光体(a−Si感光体)を有する電子写真装置の例を示す図である。
図8に示す電子写真装置800は、円筒状の電子写真感光体(感光体)801を有している。感光体801の周りには、感光体801の表面を負帯電するための帯電装置(一次帯電装置)802が配置されている。
また、帯電された感光体801の表面に画像露光光803を照射して感光体801の表面に静電潜像を形成するための画像露光装置(不図示)が配置されている。
また、感光体801の表面に形成された静電潜像を現像して感光体801の表面にトナー像を形成するための現像装置として、ブラックトナーを有する第1現像装置804aと、カラートナーを有する第2現像装置804bが配置されている。第2現像装置804bは、イエロートナーを有するイエロー用現像装置とマゼンタトナーを有するマゼンタ用現像装置とシアントナーを有するシアン用現像装置とが内蔵された回転型の現像装置である。
電子写真装置800の現像装置は、第1現像装置804aおよび第2現像装置804bなどからなっている。
また、電子写真装置800には、感光体801の表面に形成されたトナー像を構成しているトナーの電荷を均一にし、安定した転写が行われるようにするための転写前帯電装置805が配置されている。
また、感光体801の表面から中間転写ベルト806の表面にトナー像が転写された後、感光体801の表面をクリーニングするための感光体用のクリーニングブレード807が配置されている。
また、感光体801の表面に前露光光を照射して感光体801の表面の除電を行うための前露光装置808が配置されている。
中間転写ベルト806は、感光体801に当接ニップ部を形成するように配置されており、回転駆動が可能である。
中間転写ベルト806の内側には、感光体801の表面のトナー像を中間転写ベルト806の表面に転写(一次転写)するための一次転写ローラー809が配置されている。
一次転写ローラー809には、感光体801の表面のトナー像を中間転写ベルト806の表面に転写するための一次転写バイアスを一次転写ローラー809に印加するためのバイアス電源(不図示)が接続されている。
また、中間転写ベルト806の周りには、中間転写ベルト806の表面のトナー像を転写材(紙など)812に転写(二次転写)するための二次転写ローラー810が、中間転写ベルト806の表面に接触するように配置されている。
二次転写ローラー810には、中間転写ベルト806の表面のトナー像を転写材812に転写するための二次転写バイアスを二次転写ローラー810に印加するためのバイアス電源(不図示)が接続されている。
また、中間転写ベルト806の表面から転写材812にトナー像が転写された後、中間転写ベルト806の表面をクリーニングするための中間転写ベルト用のクリーニングブレード811が配置されている。
電子写真装置800の転写装置は、中間転写ベルト806、一次転写ローラー809および二次転写ローラー810などからなっている。
また、電子写真装置800は、画像が形成される複数の転写材812を保持する給紙カセット813と、転写材812を給紙カセット813から中間転写ベルト806と二次転写ローラー810との当接ニップ部に搬送する搬送機構とが設けられている。転写材812の搬送経路上には、転写材812に転写されたトナー像を転写材812に定着させるための定着装置814が配置されている。
また、感光体801の内部にはヒーター815が配置されており、感光体801を所定の温度(例えば40〜45℃)に加熱する。
画像露光装置(不図示)としては、例えば、カラー画像の色分解・結像露光光学系や、画像情報の時系列電気デジタル画素信号に対応して変調されたレーザービームを出力するレーザースキャナーによる走査露光光学系などが用いられる。このような光学系により、画像パターンにしたがって、複数行、複数列の画素マトリックスの画素ごとに、光源(例えば、レーザー、LEDなど)から画像露光光(ビーム)を感光体801の表面に照射して、感光体801の表面に静電潜像を形成することができる。
次に、この電子写真装置の動作について説明する。
まず、感光体801が、反時計方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転駆動され、中間転写ベルト806が、時計方向に、感光体801と同じ周速度で回転駆動される。
感光体801の表面は、回転過程において、帯電装置(一次帯電装置)802により負帯電される。
次いで、感光体801の表面には画像露光光803が照射され、これにより、感光体801の表面には、目的のカラー画像の第1の色成分像(例えばマゼンタ成分像)に対応した静電潜像が形成される。
次いで、第1の色成分像が例えばマゼンタ成分像である場合、第2現像装置804bが回転し、マゼンタ用現像装置器が所定の位置にセットされ、マゼンタ成分像に対応した静電潜像がマゼンタトナーにより現像され、感光体801の表面にマゼンタトナー像が形成される。このとき、第1現像装置804aは、作動オフになっていて、感光体801には作用せず、マゼンタトナー像に影響を与えることはない。
一次転写バイアスがバイアス電源(不図示)から一次転写ローラー809に印加され、感光体801と中間転写ベルト805との間に電界が形成される。この電界の作用により、感光体801の表面に形成されたマゼンタトナー像は、感光体801と中間転写ベルト806との当接ニップ部を通過する過程において、中間転写ベルト806の表面(外周面)に転写(一次転写)される。
中間転写ベルト806の表面にマゼンタトナー像を転写し終えた感光体801の表面は、感光体用のクリーニングブレード807によりクリーニングされる。
次に、感光体801の表面に、第1色のトナー像(マゼンタトナー像)の形成と同様に、第2色のトナー像(例えばシアントナー像)が形成され、この第2色のトナー像(シアントナー像)が、第1色のトナー像(マゼンタトナー像)が転写された中間転写ベルト806の表面に重畳して転写(一次転写)される。
中間転写ベルト806の表面に第2色のトナー像(シアントナー像)を転写し終えた感光体801の表面は、感光体用のクリーニングブレード807によりクリーニングされる。
次に、感光体801の表面に、第1色のトナー像(マゼンタトナー像)の形成と同様に、第3色のトナー像(例えばイエロートナー像)が形成され、この第3色のトナー像(イエロートナー像)が、第1色のトナー像(マゼンタトナー像)が転写された中間転写ベルト806の表面に重畳して転写(一次転写)される。
中間転写ベルト806の表面に第3色のトナー像(イエロートナー像)を転写し終えた感光体801の表面は、感光体用のクリーニングブレード807によりクリーニングされる。
次に、感光体801の表面に、第1色のトナー像(マゼンタトナー像)の形成と同様に、第4色のトナー像(例えばブラックトナー像)が形成され、この第4色のトナー像(ブラックトナー像)が、第1色のトナー像(マゼンタトナー像)が転写された中間転写ベルト806の表面に重畳して転写(一次転写)される。
ブラックトナー像の形成の際には、現像装置として、第2現像装置804bの代わりにブラックトナーを有する第1現像装置804aが作動オンになる。そのとき、第2現像装置804bは、作動オフになっていて、感光体801には作用しない。
中間転写ベルト806の表面に第4色のトナー像(ブラックトナー像)を転写し終えた感光体801の表面は、感光体用のクリーニングブレード807によりクリーニングされる。
このようにして、第1色〜第4色のトナー像が中間転写ベルト806の表面に順次重畳して転写(一次転写)され、目的のカラー画像に対応した合成カラートナー像が中間転写ベルト806の表面に形成される。
次に、二次転写ローラー810が中間転写ベルト806に当接されるとともに、給紙カセット813から中間転写ベルト806と二次転写ローラー810との当接ニップ部に所定のタイミングで転写材812が給送される。
二次転写バイアスがバイアス電源(不図示)から二次転写ローラー810に印加され、中間転写ベルト806の表面に形成された合成カラートナー像が転写材812に転写(二次転写)される。
転写材812に合成カラートナー像を転写し終えた中間転写ベルト806の表面は、中間転写ベルト用のクリーニングブレード811によりクリーニングされる。
合成カラートナー像が転写された転写材812は、定着装置814に導かれ、ここでトナー像は転写材812に定着される。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。なお、いずれの例も、反応容器内に導入するSiH4、CH4、B2H6、H2はガス状である。
〈実施例1〉
図7に示す堆積膜形成装置7000を用い、表1に示す条件で、直径84mm、長さ381mm、厚さ3mmのアルミニウム製の円筒状の導電性基体(基体)7112上に図1に示す層を形成して、円筒状の負帯電用の電子写真感光体(a−Si感光体)を製造した。
変化領域106の形成に関しては、以下のように行った。
表1に示すように、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量を100[mL/min(normal)]から90[mL/min(normal)]へと、90[mL/min(normal)]から75[mL/min(normal)]へと、75[mL/min(normal)]から15[mL/min(normal)]へと、連続して変化させた。
それとともに、反応容器7110内へ導入するCH4の流量を25[mL/min(normal)]から55[mL/min(normal)]へと、55[mL/min(normal)]から75[mL/min(normal)]へと、75[mL/min(normal)]から360[mL/min(normal)]へと、連続して変化させた。
そうして、上記比(C/(Si+C))が、図2(a)に示すように直線状に変化している変化領域106を形成した。
変化領域106の光導電層104側の上記比(C/(Si+C))は0.00であり、表面側領域107側の上記比(C/(Si+C))は0.60であった。
変化領域106内の上部電荷注入阻止部分108の形成に関しては、以下のように行った。
変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が90[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が55[mL/min(normal)]になった時点で、B2H6を60秒間かけて反応容器7110内へ導入し、その導入量(流量)はSiH4に対して0ppmから200ppmに増加させた。その後、B2H6の流量をSiH4に対して200ppmを維持して堆積膜を形成した。
その後、変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が75[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が75[mL/min(normal)]になった時点で、高周波電源7120の電源を直ちにOFFにし、反応容器7110内へ導入する高周波電力を停止した。
その後、すべての原料ガスの反応容器7110内への導入を停止し、反応容器7110内をArで5回のパージを行った。
その後、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量を75[mL/min(normal)]に設定し、CH4の流量を75[mL/min(normal)]に設定して、SiH4およびCH4の反応容器7110内への導入を再開し、SiH4およびCH4の流量および内圧(反応容器7110内の圧力)が安定したところで、反応容器7110内への高周波電力の導入を再開し、再び変化領域106の形成を開始した。
製造したa−Si感光体を評価用の電子写真装置(キヤノン(株)社製の複写機(商品名:iRC6800)を負帯電方式に改造した改造機)に設置し、「帯電能」、「光感度」および「急峻性」の評価を以下のように行った。なお、評価用の電子写真装置のプロセススピードを265mm/secに設定した。また、前露光光(LEDからの波長660nmの光)の光量を4μJ/cm2に設定した。
「帯電能」
評価用の電子写真装置の帯電装置(一次帯電装置)の電流値を1000μAに設定し、a−Si感光体を帯電した。表面電位計(TREK社製、商品名:Model555P−4)により、帯電後のa−Si感光体の表面の暗部電位を測定した。暗部電位の測定位置はa−Si感光体の軸方向中央位置とし、周方向の平均値をもって暗部電位とした。この暗部電位を帯電能とした。
「光感度」
a−Si感光体の表面の軸方向中央位置の電位が、表面電位計(TREK社製、商品名:Model555P−4)で測定して−450V(暗部電位)になるように帯電装置(一次帯電装置)の電流値を調整し、a−Si感光体を帯電した。帯電後、a−Si感光体の表面の全面に画像露光光(レーザーからの波長655nmの光)を照射した。その際、レーザーの光量を調整して、a−Si感光体の表面の軸方向中央位置の電位が、上記表面電位計で測定して−50V(明部電位)となるようにした。明部電位の測定位置は円筒状のa−Si感光体の軸方向中央位置とし、周方向の平均値をもって明部電位とした。このときに照射したレーザーの光量を光感度とした。
「急峻性」
製造したa−Si感光体の表面の軸方向中央位置に関して、SIMS分析を行った。SIMS分析は、上部電荷注入阻止部分108および上部電荷注入阻止部分108を含む変化領域106に対して実施した。SIMS分析には、CAMECA製のIMS−4F(商品名)を使用し、SIMS分析の測定条件は表2に示す条件とした。SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、f(DS)およびΔZを求めた。
さらに、第13族原子のイオン強度がf(D50)となる位置における水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成を求めたところ、水素原子=32.2原子%、炭素原子=11.4原子%、ケイ素原子=56.3原子%であった。
次に、a−Si感光体の製造時と同様に、図7に示す堆積膜形成装置7000を用い、表3に示す条件で、直径84mm、長さ381mm、肉厚3mmのアルミニウム製の円筒状の導電性基体(基体)7112の表面に基準積層膜A(膜A1と膜A2)を作製した。
具体的には、膜A1を形成した後、高周波電源7120の電源を直ちにOFFにし、反応容器7110内へ導入する高周波電力を停止した。
その後、すべての原料ガスの反応容器7110内への導入を停止し、反応容器7110内をArで5回のパージを行った。
その後、表3に示すように、膜A2形成用の原料ガスを反応容器7110内に導入し、原料ガスの流量および内圧(反応容器7110内の圧力)が安定したところで、反応容器7110内へ高周波電力を導入し、膜A1上に膜A2を形成した。
作製した基準積層膜Aに対して、上述のa−Si感光体の場合と同様の条件でSIMS分析を行った。
基準積層膜Aにおける水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成を求めたところ、基準積層膜A(膜A1と膜A2)とも、水素原子=33.2原子%、炭素原子=12.4原子%、ケイ素原子=54.3原子%であった。つまり、上記のa−Si感光体において第13族原子のイオン強度がf(D50)となる位置における水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成と同等であった。
そして、SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、fS(DSS)およびΔZ0を求めた。
その結果、ΔZ/ΔZ0=1.0であった。
得られた結果を表4に示す。なお、「帯電能」および「光感度」に関しては、いずれの例も、比較例1の結果を100としたときの、相対評価で行った。
〈実施例2〉
表1に示す条件を表5に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、a−Si感光体を製造した。
ただし、本実施例では、上部電荷注入阻止部分108の形成に関して、以下のように行った。
変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が90[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が55[mL/min(normal)]になった時点で、B2H6を60秒間かけて反応容器7110内へ導入し、その導入量(流量)はSiH4に対して0ppmから200ppmに増加させた。その後、B2H6の流量をSiH4に対して200ppmを維持して堆積膜を形成した。その後、変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が75[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が75[mL/min(normal)]になった時点で、B2H6の流入バルブ7245および流出バルブ7255を直ちに閉じ、反応容器7110内へのB2H6の導入を停止した。
その後、引き続き、変化領域106の形成を行った。
製造したa−Si感光体に関して、実施例1と同様に、「帯電能」および「光感度」の評価を行った。また、「急峻性」に関しては、以下のように行った。
「急峻性」
製造したa−Si感光体の表面の軸方向中央位置に関して、実施例1と同様に、SIMS分析を行った。SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、f(DS)およびΔZを求めた。
さらに、第13族原子のイオン強度がf(D50)となる位置における水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成を求めたところ、水素原子=32.2原子%、炭素原子=11.9原子%、ケイ素原子=55.9原子%であった。
次に、実施例1の手順に倣い、本実施例のa−Si感光体の製造時と同様に、基準積層膜A(膜A1と膜A2)を作製し、a−Si感光体の場合と同様の条件でSIMS分析を行った。
そして、SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、fS(DS)およびΔZ0を求めた。
その結果、ΔZ/ΔZ0=3.0であった。
得られた結果を表4に示す。
〈実施例3〉
表1に示す条件を表6に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、a−Si感光体を製造した。
ただし、本実施例では、上部電荷注入阻止部分108の形成に関して、以下のように行った。
変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が90[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が55[mL/min(normal)]になった時点で、B2H6を60秒間かけて反応容器7110内へ導入し、その導入量(流量)はSiH4に対して0ppmから200ppmに増加させた。その後、B2H6の流量をSiH4に対して200ppmを維持して堆積膜を形成した。その後、変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が75[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が75[mL/min(normal)]になった時点で、B2H6の流入バルブ7245および流出バルブ7255を直ちに閉じ、反応容器7110内へのB2H6の導入を停止した。
反応容器7110内へのB2H6の導入の停止とともに、H2を、B2H6の流量と同等の流量で反応容器7110内へ導入した。
その後、引き続き、変化領域106の形成を行った。
製造したa−Si感光体に関して、実施例1と同様に、「帯電能」および「光感度」の評価を行った。また、「急峻性」に関しては、以下のように行った。
「急峻性」
製造したa−Si感光体の表面の軸方向中央位置に関して、実施例1と同様に、SIMS分析を行った。SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、f(DS)およびΔZを求めた。
さらに、第13族原子のイオン強度がf(D50)となる位置における水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成を求めたところ、水素原子=33.2原子%、炭素原子=11.4原子%、ケイ素原子=56.3原子であった。
次に、実施例1の手順に倣い、本実施例のa−Si感光体の製造時と同様に、基準積層膜A(膜A1と膜A2)を作製し、a−Si感光体の場合と同様の条件でSIMS分析を行った。
そして、SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、fS(DS)およびΔZ0を求めた。
その結果、ΔZ/ΔZ0=1.6であった。
得られた結果を表4に示す。
〈比較例1〉
表1に示す条件を表7に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、a−Si感光体を製造した。
ただし、本比較例では、上部電荷注入阻止部分108の形成に関して、以下のように行った。
変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が90[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が55[mL/min(normal)]になった時点で、B2H6を60秒間かけて反応容器7110内へ導入し、その導入量(流量)はSiH4に対して0ppmから200ppmに増加させた。そして、B2H6の流量をSiH4に対して200ppmを維持して堆積膜を形成した。その後、変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が75[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が75[mL/min(normal)]になった時点で、B2H6の流量を10秒間直線的に減少させて、反応容器7110内へのB2H6の導入を停止した。
その後、引き続き、変化領域106の形成を行った。
製造したa−Si感光体に関して、実施例1と同様に、「帯電能」および「光感度」の評価を行った。また、「急峻性」に関しては、以下のように行った。
「急峻性」
製造したa−Si感光体の表面の軸方向中央位置に関して、実施例1と同様に、SIMS分析を行った。SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、f(DS)およびΔZを求めた。
さらに、第13族原子のイオン強度がf(D50)となる位置における水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成を求めたところ、水素原子=35.0原子%、炭素原子=12.9原子%、ケイ素原子=52.3原子であった。
次に、実施例1の手順に倣い、本比較例のa−Si感光体の製造時と同様に、基準積層膜A(膜A1と膜A2)を作製し、a−Si感光体の場合と同様の条件でSIMS分析を行った。
そして、SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、fS(DS)およびΔZ0を求めた。
その結果、ΔZ/ΔZ0=5.1であった。
得られた結果を表4に示す。
なお、比較例1の帯電能に係る暗部電位は−425Vであり、光感度に係るレーザーの光量は0.45μJ/cm2であった。
〈比較例2〉
表1に示す条件を特開2002−236379号報に記載の実施例1で採用されている条件に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、a−Si感光体を製造した。ただし、基体は、特開2002−236379号報に記載の実施例1で採用されているものではなく、実施例1と同様のものを用いた。
製造したa−Si感光体に関して、本発明の実施例1と同様に、「帯電能」および「光感度」の評価を行った。また、「急峻性」に関しては、以下のように行った。
「急峻性」
製造したa−Si感光体の表面の軸方向中央位置に関して、実施例1と同様に、SIMS分析を行った。SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、f(DS)およびΔZを求めた。
さらに、第13族原子のイオン強度がf(D50)となる位置における水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成を求めたところ、水素原子=40.7原子%、炭素原子=17.6原子%、ケイ素原子=41.6原子%であった。
次に、実施例1の手順に倣い、本比較例のa−Si感光体の製造時と同様に、基準積層膜A(膜A1と膜A2)を作製し、a−Si感光体の場合と同様の条件でSIMS分析を行った。なお、膜A1には、ホウ素原子をケイ素原子に対して3500ppm含有させた。SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、f(DS)およびΔZを求めた。
基準積層膜Aにおける水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成を求めたところ、基準積層膜A(膜A1と膜A2)とも、水素原子=41.0原子%、炭素原子=15.6原子%、ケイ素原子=43.3原子%であった。つまり、上記のa−Si感光体において第13族原子のイオン強度がf(D50)となる位置における水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成と同等であった。
そして、SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、fS(DS)およびΔZ0を求めた。
その結果、ΔZ/ΔZ0=8.5であった。
得られた結果を表4に示す。
表4から明らかなように、表面側部分109と上部電荷注入阻止部分108との境界部における第13族原子の分布の急峻性に関して、下記式(A7)で示される関係を満たすようにすることで、a−Si感光体の帯電能(負帯電時の帯電能)および光感度が向上することがわかった。
1.0≦ΔZ/ΔZ0≦3.0 ・・・ (A7)
a−Si感光体の光感度が向上する理由は、a−Si感光体の帯電能(負帯電時の帯電能)が向上すると、a−Si感光体の表面電位を所定の値にするのに必要な電荷(負電荷)の量が少なくなる。上述の光感度の評価においては、感光体の表面電位が−450V(暗部電位)になるように帯電装置(一次帯電装置)の電流値を調整している。このときの電流値が少なくなり、感光体の表面に供給する電荷(負電荷)の量が少なくても、感光体の表面電位を所定の値にすることができるようになる。
そのため、次に、感光体の表面電位を−50V(明部電位)とするために必要となる光キャリアの生成量も少なくてすむようになる。つまり、照射するレーザーの光量が少なくてすむようになる、つまり、感光体の光感度が向上すると考えられる。
実施例2よりも実施例3のほうが、表面側部分109と上部電荷注入阻止部分108との境界部における第13族原子の分布の急峻性が向上し、a−Si感光体の帯電能および光感度が向上している。
この理由は、以下のように考えられる。
実施例2では、B2H6の流入バルブ7245および流出バルブ7255を直ちに閉じ、反応容器7110内へのB2H6の導入を停止している。その結果、反応容器7110内の圧力に変動が生じる場合がある。その影響で、上記第13族原子の急峻性が低下する場合があると考えられる。
一方、実施例3では、反応容器7110内へのB2H6の導入を停止するとともに、B2H6の流量と同等の流量のH2を反応容器7110内へ導入したため、反応容器7110内の圧力の変動が抑制され、その結果、上記第13族原子の急峻性が向上していると考えられる。
さらに、実施例2および3よりも実施例1のほうが、表面側部分109と上部電荷注入阻止部分108との境界部における第13族原子の分布の急峻性が向上し、a−Si感光体の帯電能および光感度が向上している。
この理由は、以下のように考えられる。
実施例2および実施例3では、B2H6の流入バルブ7245および流出バルブ7255を直ちに閉じ、反応容器7110内へのB2H6の導入を停止している。
しかしながら、流入バルブ7245から反応容器7110までの配管内および反応容器7110から流出バルブ7255までの配管内には、流入バルブ7245および流出バルブ7255を閉じてもなお、B2H6が残留していると考えられる。その残留しているB2H6は、流入バルブ7245および流出バルブ7255を閉じた後でも、反応容器7110内に流入しうる。その間、高周波電力は供給されているので、堆積膜の形成が継続される。
一方、実施例1では、まず、反応容器7110内へ導入する高周波電力を停止し、その後、すべての原料ガスの反応容器7110内への導入を停止している。その後、反応容器7110内をArで5回のパージを行った後、堆積膜の形成を再開している。つまり、反応容器7110内へ導入する高周波電力を停止することで、堆積膜の形成が停止し、その状態で、原料ガスの入れ替えが行っているので、上記第13族原子の急峻性が向上していると考えられる。
〈実施例4〉
実施例1と同様の手順で、a−Si感光体を製造した。
ただし、本実施例では、上部電荷注入阻止部分108の形成に関して、以下のように行った。
変化領域106内の上部電荷注入阻止部分108を形成する位置を、変化領域106内の上記比(C/(Si+C))が0.00〜0.10である位置、0.10〜0.20である位置、0.20〜0.30である位置、0.25〜0.35である位置、0.30〜0.40である位置と変更して上部電荷注入阻止部分108を形成した。
また、いずれの位置に上部電荷注入阻止部分108を形成する場合おいても、上部電荷注入阻止部分108の形成の終了(B2H6の反応容器7110内への導入の終了)は、上部電荷注入阻止部分108の形成の終了した時点で、実施例1と同様に、高周波電源7120の電源を直ちにOFFにし、反応容器7110内へ導入する高周波電力を停止した。その後、すべての原料ガス(B2H6を含む)の反応容器7110内への導入を停止した。
反応容器7110内へ導入するB2H6の流量は、各条件であらかじめ帯電能が最大となるよう調整し、以下のような流量で実施した。
変化領域106内の上記比(C/(Si+C))が0.00〜0.10である位置に上部電荷注入阻止部分108を形成する場合、SiH4に対して100ppm。
変化領域106内の上記比(C/(Si+C))が0.10〜0.20である位置に上部電荷注入阻止部分108を形成する場合、SiH4に対して200ppm。
変化領域106内の上記比(C/(Si+C))が0.20〜0.30である位置に上部電荷注入阻止部分108を形成する場合、SiH4に対して500ppm。
変化領域106内の上記比(C/(Si+C))が0.25〜35である位置に上部電荷注入阻止部分108を形成する場合、SiH4に対して800ppm。
変化領域106内の上記比(C/(Si+C))が0.30〜40である位置に上部電荷注入阻止部分108を形成する場合、SiH4に対して1000ppm。
その後、反応容器7110内をArで5回のパージを行った。
その後、SiH4の流量を75[mL/min(normal)]に設定し、CH4の流量を75[mL/min(normal)]に設定し、SiH4およびCH4の流量および内圧(反応容器7110内の圧力)が安定したところで、反応容器7110内への高周波電力の導入を再開し、再び変化領域106の形成を開始した。
製造したa−Si感光体のそれぞれに関して、実施例1と同様に、「帯電能」および「光感度」の評価を行った。また、「急峻性」に関しては、以下のように行った。
「急峻性」
製造したa−Si感光体の表面の軸方向中央位置に関して、実施例1と同様に、SIMS分析を行った。SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、f(DS)およびΔZを求めた。
次に、実施例1の手順に倣い、本実施例のa−Si感光体の製造時と同様に、基準積層膜A(膜A1と膜A2)を作製し、a−Si感光体の場合と同様の条件でSIMS分析を行った。
そして、SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、fS(DS)およびΔZ0を求めた。
得られた結果を表8に示す
表8から明らかなように、上部電荷注入阻止部分108を設ける位置は、変化領域106内の上記比(C/(Si+C))が0.00を超え0.30以下の部分に設けるほうが、0.30を超える部分に設けるよりも帯電能(負帯電時の帯電能)が向上することがわかった。
この理由は、以下のように考えられる。
上記比(C/(Si+C))が0.30を超えると、第13族原子を含有させる(ドーピングする)効率が低下する。その結果、上部電荷注入阻止部分108に第13族原子を多く含有させても、上部電荷注入阻止部分108が、感光体100の表面から光導電層104への電荷(負電荷)の注入を効果的に阻止することができなくなる場合がある。そのため、表面側領域107と上部電荷注入阻止部分108との境界部における第13族原子の分布の急峻性を高めても、a−Si感光体の帯電能(負帯電時の帯電能)が顕著に向上しない場合があると考えられる。
また、表8より、様々な上部電荷注入阻止部分108であっても、それぞれに対応する基準積層膜Aを用い、表面側領域107と上部電荷注入阻止部分108との境界部における第13族原子のイオン強度の分布の急峻性を評価し、上記式(A7)で示される関係を満たすようにすることで、a−Si感光体の帯電能(負帯電時の帯電能)が向上することがわかった。
〈実施例5〉
表1に示す条件を表9に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、a−Si感光体を製造した。
ただし、本実施例では、上部電荷注入阻止部分108の形成に関して、以下のように行った。
変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が90[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が55[mL/min(normal)]になった時点で、高周波電源7120の電源を直ちにOFFにし、反応容器7110内へ導入する高周波電力を停止した。
その後、すべての原料ガスの反応容器7110内への導入を停止し、反応容器7110内をArで5回のパージを行った。
その後、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量を90[mL/min(normal)]に設定し、CH4の流量を55[mL/min(normal)]に設定し、B2H6の流量をSiH4に対して200ppmに設定し、SiH4、CH4およびB2H6の流量および内圧(反応容器7110内の圧力)が安定したところで、反応容器7110内への高周波電力の導入を再開し、再び変化領域106の形成を開始した。
その後、B2H6の流量をSiH4に対して200ppmを維持して堆積膜を形成した。
その後、変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が75[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が75[mL/min(normal)]になった時点で、高周波電源7120の電源を直ちにOFFにし、反応容器7110内へ導入する高周波電力を停止した。
その後、すべての原料ガスの反応容器7110内への導入を停止し、反応容器7110内をArで5回のパージを行った。
その後、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量を75[mL/min(normal)]に設定し、CH4の流量を75[mL/min(normal)]に設定し、SiH4およびCH4の流量および内圧(反応容器7110内の圧力)が安定したところで、反応容器7110内への高周波電力の導入を再開し、再び変化領域106の形成を開始した。
製造したa−Si感光体に関して、実施例1と同様に、「帯電能」および「光感度」の評価を行った。また、「急峻性」に関しては、表面層105(内の変化領域106内の上部電荷注入阻止部分108)と光導電層104との境界部(界面)における第13族原子の分布の急峻性ΔYを以下のように評価した。
「急峻性」
製造したa−Si感光体の表面の軸方向中央位置に関して、実施例1と同様に、SIMS分析を行った。SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、g(ES)およびΔYを求めた。
さらに、第13族原子のイオン強度がg(E50)となる位置における水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成を求めたところ、水素原子=19.4原子%、炭素原子=8.6原子%、ケイ素原子=71.9原子%であった。
次に、実施例1の手順に倣い、本実施例のa−Si感光体の製造時と同様に、基準積層膜B(膜B1と膜B2)を作製した。
すなわち、a−Si感光体の製造時と同様に、図7に示す堆積膜形成装置7000を用い、表11に示す条件で、直径84mm、長さ381mm、肉厚3mmのアルミニウム製の円筒状の導電性基体(基体)7112の表面に基準積層膜B(膜B1と膜B2)を作製した。
具体的には、膜B1を形成した後、高周波電源7120の電源を直ちにOFFにし、反応容器7110内へ導入する高周波電力を停止した。
その後、すべての原料ガス反応容器7110内への導入を停止し、反応容器7110内をArで5回のパージを行った。
その後、表11に示すように、膜B2形成用の原料ガスを反応容器7110内に導入し、原料ガスの流量および内圧(反応容器7110内の圧力)が安定したところで、反応容器7110内へ高周波電力を導入し、膜B1上に膜B2を形成した。
作製した基準積層膜Bに対して、上述のa−Si感光体の場合と同様の条件でSIMS分析を行った。
基準積層膜Bにおける水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成を求めたところ、基準積層膜B(膜B1と膜B2)とも、水素原子=19.6原子%、炭素原子=9.0原子%、ケイ素原子=71.4原子%であった。つまり、上記のa−Si感光体において第13族原子のイオン強度がg(E50)となる位置における水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成と同等であった。
そして、SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、gS(ESS)およびΔY0を求めた。
その結果、ΔY/ΔY0=1.0であった。
なお、本実施例に関して、ΔZ/ΔZ0を実施例1に倣って求めたところ、ΔZ/ΔZ0=1.0であった。また、実施例1に関して、ΔY/ΔY0を本実施例に倣って求めたところ、ΔY/ΔY0=9.5であった。
得られた結果を表12に示す。
〈実施例6〉
表1に示す条件を表10に示す条件に変更した以外は、実施例1と同様の手順で、a−Si感光体を製造した。
ただし、本実施例では、上部電荷注入阻止部分108の形成に関して、以下のように行った。
変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が90[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が55[mL/min(normal)]になった時点で、マスフローコントローラーを用いて、反応容器7110内へ導入するB2H6の流量をSiH4に対して200ppmになるように急激に増加させた。
その後、B2H6の流量をSiH4に対して200ppmを維持して堆積膜を形成した。
その後、変化領域106形成時の条件において、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量が75[mL/min(normal)]になり、CH4の流量が75[mL/min(normal)]になった時点で、高周波電源7120の電源を直ちにOFFにし、反応容器7110内へ導入する高周波電力を停止した。
その後、すべての原料ガスの反応容器7110内への導入を停止し、反応容器7110内をArで5回のパージを行った。
その後、反応容器7110内へ導入するSiH4の流量を90[mL/min(normal)]に設定し、CH4の流量を55[mL/min(normal)]に設定し、SiH4およびCH4の流量および内圧(反応容器7110内の圧力)が安定したところで、反応容器7110内への高周波電力の導入を再開し、再び変化領域106の形成を開始した。
製造したa−Si感光体に関して、実施例5と同様に、「帯電能」および「光感度」の評価を行った。また、「急峻性」に関しては、以下のように行った。
「急峻性」
製造したa−Si感光体の表面の軸方向中央位置に関して、実施例5と同様に、SIMS分析を行った。SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、g(ES)およびΔYを求めた。
さらに、第13族原子のイオン強度がg(E50)となる位置における水素原子、炭素原子およびケイ素原子の組成を求めたところ、水素原子=19.4原子%、炭素原子=8.8原子%、ケイ素原子=71.7原子であった。
次に、実施例5の手順に倣い、本実施例のa−Si感光体の製造時と同様に、基準積層膜B(膜B1と膜B2)を作製し、a−Si感光体の場合と同様の条件でSIMS分析を行った。
そして、SIMS分析により得られた、第13族原子のイオン強度のデプスプロファイルから、gS(ESS)およびΔY0を求めた。
その結果、ΔY/ΔY0=2.8であった。
なお、本実施例に関して、ΔZ/ΔZ0を実施例1に倣って求めたところ、ΔZ/ΔZ0=1.0であった。
得られた結果を表12に示す。
表12から明らかなように、表面層105(内の変化領域106内の上部電荷注入阻止部分108)と光導電層104との境界部(界面)における第13族原子の分布の急峻性を下記式(B7)で示される関係を満たすようにすることで、a−Si感光体の帯電能(負帯電時の帯電能)が向上することがわかった。
1.0≦ΔY/ΔY0≦3.0 ・・・ (B7)