JP3902975B2 - 負帯電用電子写真感光体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はアルミニウム又はアルミニウム合金基体上に機能性膜が形成された負帯電用電子写真感光体に関する。
【0002】
【従来の技術】
像形成分野において、光受容部材における光受容層を形成する光導電材料としては、高感度で、SN比〔光電流(Ip)/暗電流(Id)〕が高く、照射する電磁波のスペクトル特性に適合した吸収スペクトルを有すること、光応答性が早く、所望の暗抵抗値を有すること、使用時において人体に対して無害であること等の特性が要求される。特に、事務機としてオフィスで使用される電子写真装置内に組み込まれる電子写真感光体の場合には、上記の使用時における無公害性は重要な点である。
【0003】
この様な点に優れた性質を示す光導電材料にアモルファスシリコン(a−Siとも表記する)があり、電子写真感光体の光受容部材として注目されている。
【0004】
このような光受容部材は、一般的には、導電性支持体を50℃〜350℃に加熱し、支持体上に真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、熱CVD法、光CVD法、プラズマCVD法等の成膜法によりa−Siからなる光導電層を形成する。なかでもプラズマCVD法、すなわち、原料ガスを高周波あるいはマイクロ波グロー放電によって分解し、支持体上にa−Si堆積膜を形成する方法が好適なものとして実用に付されている。
【0005】
例えば、特開昭57−115556号公報には、a−Si堆積膜で構成された光導電層を有する光導電部材の、暗抵抗値、光感度、光応答性等の電気的、光学的、光導電的特性及び耐湿性等の使用環境特性、さらには経時安定性について改善を図るため、シリコン原子を母体としたアモルファス材料で構成された光導電層上に、シリコン原子および炭素原子を含む非光導電性のアモルファス材料で構成された表面障壁層を設ける技術が記載されている。
【0006】
また、特開平6−83090号公報には、高湿時でも十分な帯電を行うために、光導電層上にドーピングしたa−Siからなる電荷トラップ層および電荷注入阻止層を設けて接触帯電する負帯電用電子写真感光体が記載されている。
【0007】
更に、特開平6−242623号公報には負帯電用電子写真用感光体の光導電層と表面層の間に非晶質珪素を主体とし、かつ50ppm未満のホウ素を含有するか、または伝導性を支配する元素を含まない正孔捕獲層を設けて優れた電子写真特性が得られる技術が記載されている。
【0008】
加えて、特開平11−194515号公報には、導電性基体と機能性膜との間に珪酸塩被膜を形成することで、帯電性に優れ、均一で高品位な画像を与える電子写真感光体が得られる技術が記載されている。
【0009】
以上の様な技術により、電子写真感光体の電気的、光学的、光導電的特性および使用環境特性が向上し、それに伴って画像品質も向上してきた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
近年、コンピュータの普及とオフィスのネットワーク化が進んだことにより、電子写真装置も従来のアナログ複写機としてだけでなく、ファクシミリやプリンターの役目を担うためにデジタル化することが求められるようになり、更にはデジタル化された情報のフルカラー出力のためのデジタルフルカラー複写機が要求されている。
【0011】
これらの要求に対して、従来の正帯電用電子写真感光体をデジタルカラー複写機に搭載した場合、以下の様な問題が懸念される。
【0012】
まず、デジタルフルカラー複写機で使用されるカラー複写機用トナーは、負極性トナーが一般的に使用されおり、負極性トナーと正帯電用電子写真感光体を組み合わせた潜像形成は、非画像部(背景部)を露光するバックグラウンド露光法となるため、高画質化を達成することが困難な場合がある。
【0013】
また、デジタルフルカラー複写機では、主に文字のみの画像を形成する白黒複写機とは異なり、全面写真等の画像を形成することが主目的となる。このため、感光体の微小な電位むらが画質に敏感に影響を及ぼすため、その制御が困難な場合がある。
【0014】
例えば、ゴーストに代表される光メモリーが、その原因の一つに挙げられるが、従来の正帯電用電子写真感光体では、光メモリーをフルカラー複写機に求められるレベルまで低減することは困難な場合がある。そのため、ゴーストレス画像を達成できるような電子写真感光体が切望されてきた。しかし、従来の正帯電用電子写真感光体では、光メモリーの更なる低減を達成するには多大な努力が必要である。また、従来の負帯電用電子写真感光体においても、更なる光メモリーの低減に対して改善の余地が残されているのが現状である。
【0015】
更に、デジタルフルカラー複写機では、プロセス条件の1つとして、電子写真感光体の周囲に複数の現像器を設ける場合や、大型の現像手段を用いるため、帯電器から現像器までの距離が離れやすい構成になる場合がある。そのため、帯電器から現像器までの電位低下を補償するために、正帯電用電子写真感光体はもとより負帯電用電子写真感光体についても帯電電位をこれまで以上に高くすることが必要になり、更には光感度も高感度にする必要がある。
【0016】
なお、デジタルフルカラー複写プロセスに対応可能な高帯電能を実現するためには、光導電層を厚くすることによりある程度対応は可能であるが、その反面、堆積膜形成中の欠陥の発生確率が増え、画像欠陥が発生するといった、技術面、コスト面でも問題があり、難しい状況にある。
【0017】
また、デジタル複写機の潜像形成は、いわゆる「ドット」による潜像形成となる。このため、ハーフトーン画像などで、従来のアナログ複写機では問題にならなかったレベルの画像流れであっても、ガザつきとして現れることがあり、画像流れに関しては、アナログ複写機に比べより一層の低減が不可欠となる。
【0018】
すなわち、従来の感光体では色地の原稿からコントラストの強い画像を得ようとして露光量を上げた時に、強露光の照射により大量の光キャリアが生成され、この光キャリアが動きやすい部分へと集中して流れ込む現象が生じる。この現象のために、文字部分がぼやけてしまう強露光時の画像流れ、いわゆるEV流れに関して、従来にも増して対策が必要となりつつある。
【0019】
以上の様な状況に鑑み、本発明の主たる目的は、安定性と耐久性に優れたa−Si感光体において、帯電能および感度の向上と、光メモリーの低減と、画像流れの低減とを高次元で実現し画像品位を飛躍的に向上できる、シリコン原子を母体とした非単結晶材料で構成されたデジタル系複写機に搭載するための負帯電用電子写真感光体を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金基体上に、少なくとも、皮膜および光受容層がこの順に積層されてなる負帯電用電子写真感光体であって、該皮膜は、0.5nm以上15nm以下の膜厚であり、アルミニウム、シリコン及び酸素から主になり、1原子部のアルミニウムに対し0.1原子部以上1原子部以下のシリコンと1原子部以上5原子部以下の酸素と、アルミニウムに対して1原子ppm以上10原子%以下の窒素とを含んでなり、該光受容層は、少なくとも、窒素および酸素を含みシリコンを母体とし不純物がドープされていない非単結晶シリコン膜からなる下部電荷注入阻止層と、シリコンを母体とする非単結晶シリコン膜からなる光導電層と、炭素および第13族原子を含みシリコンを母体とする非単結晶シリコン膜からなる上部電荷注入阻止層と、炭素を含みシリコンを母体とする非単結晶シリコン膜からなる表面保護層とがこの順に積層されてなることを特徴とする負帯電用電子写真感光体が提供される。
【0021】
なお、皮膜はインヒビターを含んだ水を用いて形成でき、インヒビターとして珪酸塩を用いた場合、皮膜を珪酸塩皮膜とも記載する。また、非単結晶シリコンとは、多結晶シリコン及び非晶質シリコン(a−Si)等を言い、電子写真感光体の光受容層はアモルファスシリコンより作製されることが一般的である。
【0022】
本発明者らは、アルミニウム又はアルミニウム合金(これらをアルミニウム系材料とも表記する)基体上に形成した珪酸塩皮膜上に下部電荷注入阻止層、光導電層、上部電荷注入阻止層および表面保護層の構成を最適化した負帯電用電子写真感光体特性に対して、種々の条件に渡って検討した。その結果、電子写真感光体の帯電極性を負帯電にし、光キャリアをホールから電子に変更することでモビリティを改善することができ、光メモリー、特にゴーストを顕著に低減できることを見出した。
【0023】
また、炭素および第13族原子を含むシリコンを母体とする非単結晶炭化シリコン膜からなる上部電荷注入阻止層により、帯電能および感度を向上させると共に、強露光の照射により大量の光キャリアが生成され、この光キャリアが動きやすい部分へと集中して流れ込む現象のために、文字部分がぼやけてしまう強露光時の画像流れ、いわゆるEV流れを抑制できることを見出した。
【0024】
更に、デジタルフルカラー複写機に限らず、従来のデジタル複写機においても帯電方式の主流であるコロナ帯電方式で負帯電を行った場合、正帯電に比べて発生するオゾン生成物が多量に生成するため、画像流れの問題があることから、帯電能をこれまで以上に向上させ、オゾンの生成量を抑制する必要があった。
【0025】
そこで、本発明者らは、負帯電電子写真感光体における帯電能についても鋭意検討を行った結果、アルミニウム系材料基体上に形成した珪酸塩皮膜と、窒素および酸素を含有した下部電荷注入阻止層とを組み合わせることで、堆積膜を形成する際に良好な界面を形成することができ、ホールを効果的に阻止し、かつ電子はスムーズに通過させるため、阻止能を飛躍的に向上することから帯電能に顕著な向上が得られ、特に負帯電電子写真感光体に対して、光感度の向上、光メモリーの低減および帯電能の向上を高次元で両立可能であることを見出した。
【0026】
加えて、珪酸塩皮膜および下部電荷注入阻止層が形成する界面改質効果によって、従来の感光体における第13族および第15族の不純物を下部電荷注入阻止層に添加させることなく阻止能を充分保つことから、光メモリー、特にゴーストが飛躍的に低減できる効果が得られた。
【0027】
以上の様な、負帯電の層構成と珪酸塩皮膜との相乗効果により、負帯電用電子写真感光体において、帯電能および感度の向上と、光メモリーの低減と、画像流れの低減とを高次元で実現でき、画像品位を飛躍的に向上できる。
【0028】
なお、本発明の負帯電用電子写真感光体は、デジタルフルカラー複写機に搭載した場合に特に顕著な効果が得られるが、デジタルモノクロ複写機に搭載しても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0030】
図1には、本発明の電子写真感光体の好適な層構成の一例を示した。この場合、円筒状のアルミニウム系材料基体101の上に光受容層103が設けられており、円筒状アルミニウム系材料基体101と、光受容層103の間に珪酸塩皮膜102が形成されている。光受容層103は、基体側から順に、下部電荷注入阻止層104、光導電層105、上部電荷注入阻止層106、表面保護層107から構成されている。
【0031】
<基体>
基体は一般的に円筒状であり、Alや、Cr、Mo、Au、In、Nb、Te、V、Ti、Pt、Pb及びFe等から選ばれる1種以上の金属およびAlからなる合金などのアルミニウム系材料より作製される。
【0032】
円筒状基体の表面は旋盤等により処理され、基体に堆積膜を成膜する成膜工程に先立ち基体表面を脱脂洗浄する。その課程において、以下に説明する珪酸塩皮膜を形成する。
【0033】
円筒状基体の表面は、例えば、以下の手順によって、鏡面加工がなされる。即ち、精密切削用のエアダンパー付旋盤(PNEUMO PRECLSION社製)に、ダイヤモンドバイト(商品名:ミラクルバイト、東京ダイヤモンド製)を、シリンダー中心角に対して5°のすくい角を得るようにセットする。次に、この旋盤の回転フランジに、基体を真空チャックし、付設したノズルから白燈油噴霧、同じく付設した真空ノズルから切り粉の吸引を併用しつつ、周速1000m/min、送り速度0.01mm/Rの条件で所望の外径となるように鏡面切削を施す。
【0034】
<珪酸塩皮膜>
珪酸塩皮膜は、珪酸塩を腐食防止剤(インヒビター)として溶解させた水系洗剤を用いて形成されるアルミニウム、シリコン及び酸素を主構成元素とする(Al−Si−Oとも表記する)皮膜である。珪酸塩皮膜を基体表面に形成する事により、基体表面の欠陥が減少し、その上に光受容層を形成する事により、画像欠陥が無く、帯電性及び光感度等の電子写真特性の向上を果たす負帯電用電子写真感光体の形成が可能となる。
【0035】
アルミニウム系材料基体は、例えば、旋盤等によって表面を切削されたアルミニウム系材料基体に堆積膜を形成する前に、基体表面を脱脂洗浄する脱脂洗浄工程、珪酸塩皮膜を形成する珪酸塩皮膜形成工程、基板表面をリンスするリンス工程、そして基板表面を乾燥する乾燥工程の順で処理する。珪酸塩皮膜形成工程では、界面活性剤を有する水系洗浄剤を取り入れることにより基体上の油脂およびハロゲン化物等の残留物の除去を行い、更に、珪酸塩を加えることでアルミニウム基体表面に形成される。また、一度皮膜が基板上に形成された後ならばリンス工程及び乾燥工程において純水を用いることができる。
【0036】
珪酸塩皮膜の形成は、基体表面を切削後の脱脂洗浄工程において、脱脂洗浄槽の界面活性剤を含む水系洗浄剤に珪酸塩を含有させる方法や、珪酸塩を脱脂洗浄工程にもちいず、リンス工程において珪酸塩を用いる方法や、あるいは珪酸塩を脱脂洗浄工程に用いずにリンス工程及び乾燥工程に用いる方法、もしくは全ての工程に珪酸塩を用いる方法があるが、いずれの方法でも好ましい。
【0037】
また、珪酸塩としては、珪酸カリウム、珪酸ナトリウム等が挙げられ、いずれを使用してもよいが珪酸カリウムが特に好ましい。
【0038】
更に、珪酸塩の濃度は、0.1質量%以上、2質量%以下が、基体上にシミが発生しない範囲であり好ましい。
【0039】
アルミニウム系材料基体上に形成される皮膜の膜厚としては、皮膜の十分な効果を確保する観点から、0.5nm以上とされ、1nm以上がより好ましく、1.5nm以上が更に好ましい。一方、基体の十分な導電性を確保する観点から、15nm以下とされ、13nm以下がより好ましく、12nm以下が更に好ましい。
【0040】
アルミニウム系材料基体上に形成される、アルミニウム、シリコン及び酸素から主になる(Al−Si−O)膜の組成比としては、Si及びOの含有量を適正な範囲内とすることにより、皮膜としての十分な性能と適度な導電性とを実現できる。また、堆積膜との界面構成にも寄与すると考えられ、帯電特性などの向上に寄与していると思われる。
【0041】
この様な観点から、Alを1原子部とした際に、Siは0.1原子部以上とされ、0.15原子部以上がより好ましく、0.2原子部以上が更に好ましい。また、1原子部以下とされ、0.8原子部以下がより好ましく、0.6原子部以下が更に好ましい。一方、Alを1原子部とした際に、Oは1原子部以上とされ、1.5原子部以上がより好ましく、2原子部以上が更に好ましい。また、5原子部以下とされ、4原子部以下がより好ましく、3.5原子部以下が更に好ましい。
【0042】
また、珪酸塩皮膜には、窒素が含有されてもよい。窒素は、堆積膜との密着性や応力の緩和に寄与すると考えられ、堆積膜の密着性が向上する。また、Si及びOと同様に、堆積膜との界面構成にも寄与すると考えられ、帯電特性特の向上に寄与していると思われる。この様な観点から、窒素の含有量は、アルミニウムに対して1原子ppm以上が好ましく、100原子ppm以上がより好ましく、一方、10原子%以下が好ましく、1原子%以下がより好ましい。
【0043】
以下、切削が終了した円筒状基体に珪酸塩皮膜を形成する手順を示す。図3には、基体表面に珪酸塩皮膜層を形成し、かつ、基体表面を洗浄する洗浄装置を示した。
【0044】
洗浄装置は、処理部302と基体搬送機構303よりなっている。処理部302は、基体投入台311、脱脂洗浄槽321、珪酸塩皮膜形成槽331、リンス槽341、乾燥槽351、基体搬出台361よりなっている。各槽とも液の温度を一定に保つための温度調節装置(図示せず)が付いている。搬送機構303は、搬送レール375と搬送アーム371よりなり、搬送アーム371は、レール375上を移動する移動機構372、基体301を保持するチャッキング機構373及びチャッキング機構373を上下させるためのエアーシリンダー374よりなっている。
【0045】
投入台上311に置かれた基体301は、搬送機構303により脱脂洗浄槽321に搬送される。脱脂洗浄槽321中には界面活性剤を含む水系洗浄剤が入っており、中で基体301を超音波洗浄して表面に付着している塵および油脂等を洗浄する。
【0046】
脱脂洗浄工程を終了した基体301は、次に珪酸塩皮膜形成工程に至る。搬送機構303により珪酸塩皮膜形成槽331へ運ばれ、珪酸塩皮膜の形成が行われる。珪酸塩皮膜形成槽331中には、珪酸塩を添加した界面活性剤を含む水系洗浄剤が入っており中で更に基体301を超音波洗浄して表面に付着している塵および油脂等を洗浄しつつ、基体301表面には珪酸塩皮膜が形成される。
【0047】
更に、珪酸塩皮膜工程において、例えばアミノアルコール、ベンゾトリアゾール等を導入し、窒素原子を含有させることも有効である。
【0048】
珪酸塩皮膜形成工程を終了した基体301は、次にリンス工程に至る。搬送機構303によりリンス槽341へ運ばれ、25℃の温度に保たれた純水等により更にすすぎ洗浄が行われる。純水等は工業用導電率計(商品名:α900R/C、堀場製作所製)により一定にその純度が制御されている。リンス工程を終了した基体301は、次に、乾燥工程に至る。基体301は搬送機構303により温純水等による乾燥槽351へ移動され、60℃の温度に保たれた温純水等にて昇降装置(図示せず)により引き上げ乾燥が行われる。温純水等は工業用導電率計(商品名:α900R/C、堀場製作所製)により一定にその精度が制御される。
【0049】
乾燥工程の終了した基体301は、搬送機構303により搬出台361に運ばれ図3に示す洗浄装置から搬出される。
【0050】
<下部電荷注入阻止層>
光導電層の下層には、基体側からの電荷の注入を阻止する働きのある下部電荷注入阻止層を設ける。下部電荷注入阻止層は、光受容層が一定極性の帯電処理をその自由表面に受けた際、基体側より光導電層側に電荷が注入されるのを阻止する機能を有し、逆の極性の帯電処理を受けた際にはそのような機能は発揮されない。
【0051】
ここで、下部電荷注入阻止層は、第13族原子および第15族原子などの不純物がドープされず、真性の非単結晶シリコン膜、より好ましくは真性アモルファスシリコン膜を母体として作製する。この場合、皮膜が形成されたアルミニウム系基体と下部電荷注入阻止層との密着性および界面構成がより改良され、電子写真特性が向上する。
【0052】
また、下部電荷注入阻止層は、少なくとも窒素と酸素とを含有した非単結晶シリコン膜からなるが、水素および/またはハロゲンと、窒素と、酸素とを含有したa−Siから構成することが好ましい。この様な構成を採用することで、下部電荷注入阻止層および円筒状基体の間の密着性を向上でき、優れた阻止能を実現できる。
【0053】
下部電荷注入阻止層に含有される窒素および酸素は、層中に万偏なく均一に分布されても良いし、あるいは層厚方向には万偏なく含有されてはいるが、不均一に分布する状態で含有している部分があってもよい。分布濃度が不均一な場合には、基体側に多く分布するように含有させるのが好適である。
【0054】
しかしながら、いずれの場合にも基体表面と平行面内方向においては、均一な分布で万偏なく含有させることが、面内方向における特性の均一化を図る点からも必要である。
【0055】
窒素および酸素は下部電荷注入阻止層の全域に含有され、必要に応じて炭素を全域に含有させる場合もある。これらの原子のうち添加されるものの総量は得られる電子写真感光体の特性より決定されるが、シリコン原子に対して0.1原子%以上が好ましく、1原子%以上がより好ましく、5原子%以上が更に好ましい。また、40原子%以下が好ましく、30原子%以下がより好ましく、20原子%以下が更に好ましい。
【0056】
窒素および酸素の和がシリコンに対して0.1原子%以上であれば、帯電能を向上でき、下部電荷注入阻止層および基体の密着性を向上できるため、膜剥れを抑制できる。加えて、40原子%以下であれば、下部電荷注入阻止層の過度な電気抵抗を実現でき、残電を低減できる。
【0057】
また、水素およびハロゲンは、下部電荷注入阻止層内に存在する未結合手を補償し膜質を向上する。これらの原子のうち添加されるものの総量は、シリコンに対して1原子%以上が好ましく、5原子%以上がより好ましく、10原子%以上が更に好ましい。また、50原子%以下が好ましく、40原子%以下がより好ましく、30原子%以下が更に好ましい。
【0058】
下部電荷注入阻止層の層厚は、所望の電子写真特性および経済的効果等の観点から、0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましい。また、5μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましく、3μm以下が更に好ましい。層厚が0.1μm以上であれば基体からの電荷の注入を十分阻止でき、5μm以下であれば電子写真特性を低下させることなく作製時間を短縮でき製造コストを低減できる。
【0059】
下部電荷注入阻止層は真空堆積法により作製でき、所望の特性を有する下部電荷注入阻止層を形成するためには、Si供給用のガスと希釈ガスとの混合比、反応容器内のガス圧、放電電力ならびに基体の温度を適宜設定することが必要である。
【0060】
希釈ガスであるH2及び/又はHeの流量は、層設計にしたがって適宜最適範囲が選択されるが、Si供給用ガスに対しH2及び/又はHeを、通常の場合0.3〜20倍、好ましくは0.5〜15倍、最適には1〜10倍の範囲に制御することが望ましい。
【0061】
また、反応容器内のガス圧も同様に層設計にしたがって適宜最適範囲が選択されるが、通常の場合1.0×10-2〜1.0×103Pa、好ましくは5.0×10-2〜5.0×102Pa、最適には1.0×10-1〜1.0×102Paとするのが好ましい。
【0062】
更に、放電電力もまた同様に層設計にしたがって適宜最適範囲が選択されるが、Si供給用のガスの流量に対する放電電力の比を、通常の場合0.5〜8、好ましくは0.8〜7、最適には1〜6の範囲に設定することが望ましい。
【0063】
加えて、基体の温度は、層設計にしたがって適宜最適範囲が選択されるが、通常の場合、好ましくは200〜350℃、より好ましくは230〜330℃、最適には250〜310℃とするのが望ましい。
【0064】
下部電荷注入阻止層を形成するための希釈ガスの混合比、ガス圧、放電電力、支持体温度の望ましい数値範囲として前記した範囲が挙げられるが、これらの層作製ファクターは通常は独立的に別々に決められるものではなく、所望の特性を有する表面層を形成すべく相互的且つ有機的関連性に基づいて各層作製ファクターの最適値を決めるのが望ましい。
【0065】
なお、アルミニウム系基体上に形成した珪酸塩皮膜と、窒素および酸素を含有した下部電荷注入阻止層とを組み合わせることで、ホールの電荷阻止能を飛躍的に向上することから特に負帯電用電子写真感光体において帯電性に顕著な向上が得られる。
【0066】
<光導電層>
光導電層は真空堆積膜形成方法によって、所望特性が得られるように適宜成膜パラメーターの数値条件が設定されて作製される。具体的には、例えばグロー放電法(低周波CVD法、高周波CVD法またはマイクロ波CVD法等の交流放電CVD法、あるいは直流放電CVD法等)、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、光CVD法、熱CVD法などの数々の薄膜堆積法によって形成することができる。これらの薄膜堆積法は、製造条件、設備資本投資下の負荷程度、製造規模、作製される光受容部材に所望される特性等の要因によって適宜選択されて採用されるが、所望の特性を有する光受容部材を製造するに当たっての条件の制御が比較的容易であることからグロー放電法、特にRF帯の電源周波数を用いた高周波グロー放電法が好適である。
【0067】
グロー放電法によって光導電層を形成するには、基本的にはシリコン原子(Si)を供給し得るSi供給用の原料ガスと、水素原子(H)を供給し得るH供給用の原料ガス及び/又はハロゲン原子(X)を供給し得るX供給用の原料ガスを、内部が減圧にし得る反応容器内に所望のガス状態で導入して、反応容器内にグロー放電を生起させ、あらかじめ所定の位置に設置されてある所定の基体上に、水素および/またはハロゲン原子が含有されたアモルファスシリコン(a−Si:H,X)からなる層を形成すればよい。
【0068】
光導電層には、水素および/またはハロゲン原子が含有されることが好ましいが、これらの原子はシリコン原子の未結合手を補償し、層品質の向上、特に光導電性及び電荷保持特性を向上させる。これらの原子のうち添加されるものの総量は、シリコン原子と添加される原子との総量に対して10〜40原子%が好ましい。
【0069】
Si供給用ガスとなり得る物質としては、SiH4、Si2H6、Si3H8、Si4H10等のガス状態の、またはガス化し得る水素化珪素(シラン類)が有効に使用されるものとして挙げられ、更に層作製時の取り扱い易さ、Si供給効率の良さ等の点でSiH4、Si2H6が好ましいものとして挙げられる。
【0070】
そして、形成される光導電層中に水素原子を構造的に導入し、水素原子の導入割合の制御をいっそう容易にし、所望の膜特性を実現するために、これらのガスに、更にH2、He及び水素原子を含む珪素化合物のガスの1種以上を所定量混合して層形成する。また、各ガスは単独種のみでなく所定の混合比で複数種混合しても差し支えない。
【0071】
ハロゲン原子供給用の原料ガスとして有効なのは、たとえばハロゲンガス、ハロゲン化物、ハロゲンをふくむハロゲン間化合物、ハロゲンで置換されたシラン誘導体等のガス状のまたはガス化し得るハロゲン化合物が好ましく挙げられる。また、さらにはシリコン原子とハロゲン原子とを構成要素とするガス状の又はガス化し得る、ハロゲン原子を含む水素化珪素化合物も有効なものとして挙げることができる。特に好適に使用し得るハロゲン化合物としては、具体的には弗素ガス(F2)、BrF、ClF、ClF3、BrF3、BrF5、IF3、IF7等のハロゲン間化合物を挙げることができる。ハロゲン原子を含む珪素化合物、いわゆるハロゲン原子で置換されたシラン誘導体としては、具体的には、たとえばSiF4、Si2F6等の弗化珪素が好ましいものとして挙げることができる。
【0072】
光導電層中に含有される水素および/またはハロゲン原子の量を制御するには、例えば基体の温度、水素および/またはハロゲン原子を含有させるために使用される原料物質の反応容器内へ導入する量、放電電力等を制御すればよい。
【0073】
なお、光導電層に伝導性を制御する原子を導入することもできる。伝導性を制御する原子としては、半導体分野における、いわゆる不純物を挙げることができ、p型伝導特性を与える周期律表第13族に属する原子(第13族原子とも略記する)を用いることができる。
【0074】
第13族原子としては、具体的には、硼素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)等があり、特にB、Al、Gaが好適である。
【0075】
伝導性を制御する原子、たとえば、第13族原子を構造的に導入するには、層形成の際に、第13族原子導入用の原料物質をガス状態で反応容器中に、光導電層を形成するための他のガスとともに導入してやればよい。第13族原子導入用の原料物質となり得るものとしては、常温常圧でガス状のまたは、少なくとも層形成条件下で容易にガス化し得るものが採用されるのが望ましい。
【0076】
そのような第13族原子導入用の原料物質として具体的には、硼素原子導入用としては、B2H6、B4H10、B5H9、B5H11、B6H10、B6H12、B6H14等の水素化硼素、BF3、BCl3、BBr3等のハロゲン化硼素等が挙げられる。この他、AlCl3、GaCl3、Ga(CH3)3、InCl3、TlCl3等も挙げることができる。
【0077】
また、これらの伝導性を制御する原子導入用の原料物質を必要に応じてH2及び/又はHeにより希釈して使用してもよい。
【0078】
更に、光導電層に炭素、酸素および窒素の1種以上の原子を含有させることも有効である。これらの原子のうち添加されるものの総量は、シリコン原子と添加される原子との総量に対して好ましくは1×10-5〜10原子%、より好ましくは1×10-4〜8原子%、最適には1×10-3〜5原子%が望ましい。
【0079】
光導電層の層厚は、所望の電子写真特性および経済的効果等の観点から決定され、好ましくは20〜50μm、より好ましくは23〜45μm、最適には25〜40μmとされるのが望ましい。層厚が20μm以上であれば十分な帯電能や感度等を確保でき、50μm以下であれば電子写真特性を低下させることなく作製時間を短縮でき製造コストを低減できる。
【0080】
所望の膜特性を有する光導電層を形成するには、Si供給用のガスと希釈ガスとの混合比、反応容器内のガス圧、放電電力ならびに基体温度を適宜設定することが必要である。
【0081】
反応容器内のガス圧も同様に層設計にしたがって適宜最適範囲が選択されるが、通常の場合1.0×10-2〜1.0×103Pa、好ましくは5.0×10-2〜5.0×102Pa、最適には1.0×10-1〜1.0×102Paとするのが好ましい。
【0082】
また、放電電力もまた同様に層設計にしたがって適宜最適範囲が選択されるが、Si供給用のガスの流量に対する放電電力の比を、最適には0.3〜8、好ましくは0.8〜7、最適には1〜6の範囲に設定することが望ましい。
【0083】
更に、基体の温度は、層設計にしたがって適宜最適範囲が選択されるが、通常の場合、好ましくは200〜350℃、より好ましくは230〜330℃、最適には250〜310℃とするのが望ましい。
【0084】
なお、光導電層を形成するための支持体温度、ガス圧の望ましい数値範囲として前記した範囲が挙げられるが、条件は通常は独立的に別々に決められるものではなく、所望の特性を有する光受容部材を形成すべく相互的且つ有機的関連性に基づいて最適値を決めるのが望ましい。
【0085】
<上部電荷注入阻止層>
光導電層および表面保護層の間には、上部電荷注入阻止層が真空堆積膜形成方法などによって、所望特性が得られるように適宜成膜パラメーターの数値条件が設定され作製される。
【0086】
上部電荷注入阻止層は、上部からの電荷の注入を阻止し、帯電能を向上させると共に、強露光の照射により大量の光キャリアが生成され、この光キャリアが動きやすい部分へと集中して流れ込む現象から、文字部分がぼやけてしまう強露光時の画像流れ、いわゆるEV流れを阻止する役割も果たしている。
【0087】
従来の感光体のように高抵抗の表面層で上部阻止能を持たせる場合、光照射で生成した帯電極性と逆極性のキャリアが表面層に溜まることがあり、このキャリアが横流れしてEV流れを発生させることがあった。
【0088】
これに対し、上部電荷注入阻止層に炭素およびシリコンを母体とする非単結晶シリコン膜に第13族原子を所望の量含有させることで、帯電極性と逆極性のキャリアを通過させつつ横流れしない最適な抵抗値を調整できる。このため、EV流れに関して格段の改善が見られる。
【0089】
上部電荷注入阻止層の母体としては、a−Si系の材料であればいずれの材質でも使用できるが、例えば、水素(H)及び/又はハロゲン(X)を含有し、更に炭素原子を含有するa−Si(a−SiC:H,Xとも記載する)が好ましい。
【0090】
上部電荷注入阻止層に含有される炭素の量は、シリコン及び炭素の和に対して10原子%以上70原子%以下の範囲であり、表面保護層における炭素の含有量よりも少ないことが好ましい。
【0091】
炭素の含有量がシリコン及び炭素の和に対して10原子%以上であれば、光導電層と良好な界面が形成され、電荷注入を阻止する能力が向上する。また、シリコン及び炭素の和に対して70原子%以下であれば、電荷注入の阻止能を損なうことなく適正な電気抵抗を実現でき電荷の横流れを抑制できEV流れを抑制できる。
【0092】
また、上部電荷注入阻止層における炭素の含有量を表面保護層における炭素の含有量よりも少なくすることにより、上部電荷注入阻止層および表面保護層の界面での電荷の滞在が抑制され、残留電位の原因を低減できる。この結果、溜まった電荷の横流れが抑制され、画像流れ等の弊害が抑制される。
【0093】
更に、上部電荷注入阻止層には伝導性を制御する原子を含有させることが好ましく、第13族原子を含有させる。
【0094】
上部電荷注入阻止層における第13族原子の含有量は、EV流れ防止能力、電荷注入の阻止能力や画像品質から総合的に判断して決定される。通常は、シリコンに対して10原子ppm以上が好ましく、50原子ppm以上がより好ましく、100原子ppm以上が更に好ましい。また、10000原子ppm以下が好ましく、5000原子ppmがより好ましく、3000原子ppm以下が更に好ましい。
【0095】
第13族原子の含有量がシリコンに対して10原子ppm以上であれば、表面からの電荷注入を十分阻止することができ、また、EV流れも抑制できる。また、10000原子ppm以下であれば、電荷注入阻止能力を損なうことなくEV流れを抑制できる。
【0096】
伝導性を制御する原子としては、半導体分野における、いわゆる不純物を挙げることができる。このうち、第13族原子は、p型伝導特性を与える不純物である。具体的には、第13族原子として、硼素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)等がある。特にB、Al、Gaが好適である。
【0097】
第13族原子を構造的に導入するには、層形成の際に、第13族原子導入用の原料物質をガス状態で反応容器中に、上部電荷注入阻止層を形成するための他のガスとともに導入してやればよい。第13族原子導入用の原料物質となり得るものとしては、常温常圧でガス状のまたは、少なくとも層形成条件下で容易にガス化し得るものが望ましい。そのような第13族原子導入用の原料物質としては、具体的には、硼素原子導入用として、B2H6、B4H10、B5H9、B5H11、B6H10、B6H12、B6H14等の水素化硼素、BF3、BCl3、BBr3等のハロゲン化硼素等が挙げられる。この他、AlCl3、GaCl3、Ga(CH3)3、InCl3、TlCl3等も挙げることができる。
【0098】
また、第13族原子導入用の原料物質を、必要に応じてH2、He、Ar、Ne等のガスにより希釈して使用してもよい。
【0099】
上部電荷注入阻止層は、その要求される特性が所望通りに与えられるように注意深く形成される。即ち、Si及びCを含有し、必要に応じてH及び/又はXが添加された物質は、その形成条件によって構造的には多結晶や微結晶のような結晶性からアモルファスまでの形態(総称して非単結晶)をとり、電気物性的には導電性から半導体性、絶縁性までの間の性質を、又、光導電的性質から非光導電的性質までの間の性質を各々示すので、本発明においては、目的に応じた所望の特性を有する化合物が形成される様に、所望に従ってその形成条件の選択が厳密になされる。
【0100】
所定の特性を有する上部電荷注入阻止層を形成するには、基体の温度、反応容器内のガス圧、放電パワーを特性にしたがって、適宜設定する必要がある。
【0101】
基体の温度は、層設計にしたがって適宜最適範囲が選択されるが、通常の場合、好ましくは200〜350℃、より好ましくは230〜330℃、最適には250〜310℃とするのが望ましい。
【0102】
反応容器内のガス圧も同様に層設計にしたがって適宜最適範囲が選択されるが、通常の場合、好ましくは1×10-2〜2×103Pa、より好ましくは5×10-2〜5×102Pa、最適には1×10-1〜2×102Paとする。
【0103】
放電パワーもまた同様に、層設計にしたがって適宜最適範囲が選択されるが、Si供給用のガスの流量に対する放電電力の比を、通常の場合0.5〜10、好ましくは0.8〜8、最適には1〜6の範囲に設定する。
【0104】
上部電荷注入阻止層を形成するための基体温度、ガス圧、放電パワーの望ましい数値範囲として前記した範囲が挙げられるが、それら条件は通常は独立的に別々に決められるものではなく、所望の特性を有する光受容部材を形成すべく相互的且つ有機的関連性に基づいて最適値を決めるのが望ましい。
【0105】
なお、上部電荷注入阻止層の層厚は、光導電層および表面保護層の層厚や、求められる電子写真特性などによって総合的に判断して決定される。表面からの電荷注入の阻止能力を十分発揮し、かつ画像品質に影響を与えない観点から、通常は0.01μm〜0.5μmで設計する。
【0106】
<表面保護層>
上部電荷注入阻止層上には、炭素を含むアモルファスシリコン(a−SiC)系の表面保護層が形成される。表面保護層は自由表面を有し、主に耐湿性、連続繰り返し使用特性、電気的耐圧性、使用環境特性、耐久性を向上するために設けられる。
【0107】
表面保護層は、a−SiC系の材料であればいずれの材質でも可能であるが、例えば、水素(H)及び/又はハロゲン(X)を含有するa−SiC(a−SiC:H,Xとも表記する)が好ましい。
【0108】
表面保護層は真空堆積膜形成方法によって、所望の特性が得られるように適宜成膜パラメーターの数値条件が設定されて作製される。具体的には、例えばグロー放電法(低周波CVD法、高周波CVD法またはマイクロ波CVD法等の交流放電CVD法、あるいは直流放電CVD法等)、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、光CVD法、熱CVD法などの数々の薄膜堆積法によって形成することができる。これらの薄膜堆積法は、製造条件、設備資本投資下の負荷程度、製造規模、作製される電子写真用光受容部材に所望される特性等の要因によって適宜選択されて採用されるが、光受容部材の生産性から光導電層と同等の堆積法によることが好ましい。
【0109】
例えば、グロー放電法によってa−SiC:H,Xよりなる表面保護層を形成するには、基本的にはシリコン原子(Si)を供給し得るSi供給用の原料ガスと、炭素原子(C)を供給し得るC供給用の原料ガスと、水素原子(H)を供給し得るH供給用の原料ガスと、ハロゲン原子(X)を供給し得るX供給用の原料ガスとを、内部を減圧にし得る反応容器内に所望のガス状態で導入して、反応容器内にグロー放電を生起させ、あらかじめ所定の位置に設置された光導電層を形成した基体上にa−SiC:H,Xからなる層を形成すればよい。
【0110】
表面保護層の材質としてのa−SiC中の炭素含有量は、シリコン及び炭素の和に対して40原子%以上90原子%以下が好ましい。
【0111】
また、表面保護層中の水素およびハロゲンは、シリコンなどの構成原子の未結合手を補償し、層品質の向上、特に光導電性特性および電荷保持特性を向上させる。この様な観点から、水素の含有量は、構成原子の総量に対して好ましくは30〜70原子%、より好ましくは35〜65原子%、更に好ましくは40〜60原子%である。また、ハロゲンとして例えば弗素の含有量は、通常0.01〜15原子%、好適には0.1〜10原子%、最適には0.6〜4原子%である。
【0112】
また、表面保護層の層厚は、好ましくは0.01〜3μm、より好ましくは0.05〜2μm、特に好ましくは0.1〜1μmである。層厚が0.01μm以上であれば、表面保護層の十分な耐久性を確保でき、3μm以下であれば、残留電位の増加が抑制され十分な電子写真特性を実現できる。
【0113】
図2には、表面保護層207上に最表面層として非単結晶炭素膜208が形成された層構成の一例を示した。具体的には、a−SiC:H,X表面保護層207の上に、炭素原子を主として水素(H)及び/又はハロゲン(X)を含有するアモルファスカーボン(a−C:H,X)層208を最表面に積層させる。
【0114】
この場合、円筒状アルミ基体201の上に光受容層203が設けられており、円筒状アルミ基体201及び光受容層203の間に珪酸塩皮膜202が形成されている。光受容層203は、基体側から順に、下部電荷注入阻止層204、光導電層205、上部電荷注入阻止層206が形成され、a−SiC:H,X表面保護層207の上に、a−C:H,X最表面層208が積層されている。
【0115】
ここで、最表面層は、表面保護層と同様の方法で形成される。
【0116】
例えば、グロー放電法によってa−C:H,Xよりなる最表面層を形成するには、基本的には、炭素原子(C)を供給し得るC供給用の原料ガスと、水素原子(H)を供給し得るH供給用の原料ガスと、ハロゲン原子(X)を供給し得るX供給用の原料ガスとを、内部を減圧にし得る反応容器内に所望のガス状態で導入して、反応容器内にグロー放電を生起させ、あらかじめ所定の位置に設置された光導電層および表面保護層を形成した基体上にa−C:H,Xからなる層を形成すればよい。
【0117】
最表面層としてa−C:H,Xを用いた電子写真感光体は、表面硬度に優れ、耐久性に優れ、長時間の使用においても高画質を維持する。また、コロナ放電によって発生するオゾンが表面に付着しにくく、電子写真装置内で感光体を加熱することなく画像流れが発生しない良好な画像を提供することが可能となる。特に、負帯電の現像プロセスにおいては、コロナ帯電時に生成されるオゾン生成物の量は、正帯電の現像プロセスの約10倍であることが我々の実験により確認されている。このため、最表面層としてa−C:H,Xを用いることは、特に効果的である。
【0118】
更に、長時間の使用による堆積膜の歪等によって発生する堆積膜の剥れや、コロナの暴露による堆積膜の生じる微小なクラックの発生も抑えられる。こうした不具合の抑制は、基体および光受容層の間の設けた珪酸塩皮膜と組み合わせる事によって得られた副次的な効果であることを本発明者らは見出した。
【0119】
表面保護層の形成において使用されるシリコン(Si)供給用ガスとなり得る物質としては、SiH4、Si2H6、Si3H8、Si4H10等のガス状態の、またはガス化し得る水素化珪素(シラン類)が有効に使用されるものとして挙げられる。特に、層作製時の取り扱い易さ、Si供給効率の良さ等の点で、SiH4、Si2H6が好ましい。また、これらのSi供給用の原料ガスを、必要に応じてH2、He、Ar、Ne等のガスにより希釈して使用してもよい。
【0120】
表面保護層および最表面層の炭素供給用ガスとなり得る物質としては、CH4、C2H2、C2H6、C3H8、C4H10等のガス状態の、またはガス化し得る炭化水素が有効に使用されるものとして挙げられる。特に、層作製時の取り扱い易さ、供給効率の良さ等の点で、CH4、C2H2、C2H6が好ましい。また、これらのC供給用の原料ガスを、必要に応じてH2、He、Ar、Ne等のガスにより希釈して使用してもよい。
【0121】
また、形成される表面保護層中に導入される水素の導入割合の制御をいっそう容易になるように図るために、これらのガスに更に水素ガスまたは水素原子を含む珪素化合物のガスも所望量混合して層形成することが好ましい。各ガスは単独種のみでなく、所定の混合比で複数種混合しても差し支えないものである。
【0122】
ハロゲン供給用の原料ガスとして有効なものとして、例えばハロゲンガス、ハロゲン化物、ハロゲンを含むハロゲン間化合物、ハロゲンで置換されたシラン誘導体等のガス状のまたはガス化し得るハロゲン化合物が、好ましいものとして挙げられる。表面保護層の形成には、シリコン原子とハロゲン原子とを混要素とするガス状のまたはガス化し得る、ハロゲン原子を含む水素化珪素化合物も有効なものとして挙げられる。
【0123】
好適に使用し得るハロゲン化合物としては、具体的には、弗素ガス(F2)、BrF、ClF、ClF3、BrF3、BrF5、IF3、IF7等のハロゲン間化合物を挙げることができる。ハロゲン原子を含む珪素化合物、いわゆるハロゲン原子で置換されたシラン誘導体としては、具体的には、例えばSiF4、Si2F6等の弗化珪素が好ましいものとして挙げることができる。
【0124】
表面保護層および最表面層中に含有される水素および/またはハロゲン原子の量を制御するには、例えば、基体の温度、水素および/またはハロゲン原子を含有させるために使用される原料物質の反応容器内へ導入する量、放電電力等を制御すればよい。
【0125】
次に、光受容層を形成するための装置および膜形成方法について詳述する。
【0126】
図4は電源周波数としてRF帯を用いた高周波プラズマCVD法(以後「RF−PCVD」と略記する)による光受容部材の製造装置の一例を示す模式的な構成図である。図4に示す製造装置の構成は以下の通りである。
【0127】
この装置は大別すると、堆積装置(4100)、原料ガスの供給装置(4200)、反応容器(4111)内を減圧にするための排気装置(図示せず)から構成されている。堆積装置(4100)中の反応容器(4111)内には円筒状基体(4112)、支持体加熱用ヒーター(4113)、原料ガス導入管(4114)が設置され、更に高周波マッチングボックス(4115)が接続されている。
【0128】
原料ガス供給装置(4200)は、SiH4、GeH4、H2、CH4、B2H6、PH3等の原料ガスのボンベ(4221〜4226)とバルブ(4231〜4236、4241〜4246、4251〜4256)及び圧力調整器(4261〜4266)から構成され、各原料ガスのボンベはバルブ(4260)を介して反応容器(4111)内のガス導入管(4114)に接続されている。
【0129】
この装置を用いた堆積膜の形成は、例えば以下のように行うことができる。まず、反応容器(4111)内に円筒状支持体(4112)を設置し、不図示の排気装置(例えば真空ポンプ)により反応容器(4111)内を排気する。続いて、支持体加熱用ヒーター(4113)により円筒状基体(4112)の温度を200℃〜350℃の所定の温度に制御する。
【0130】
堆積膜形成用の原料ガスを反応容器(4111)に流入させるには、ガスボンベのバルブ(4231〜4236)、反応容器のリークバルブ(4117)が閉じられていることを確認し、又、流入バルブ(4241〜4246)、流出バルブ(4251〜4256)、補助バルブ(4260)が開かれていることを確認して、まずメインバルブ(4118)を開いて反応容器(4111)およびガス配管内(4116)を排気する。
【0131】
次に、真空計(4119)の読みが約1×10-2Paになった時点で補助バルブ(4260)、流出バルブ(4251〜4256)を閉じる。
【0132】
その後、ガスボンベ(4221〜4226)より各ガスをバルブ(4231〜4236)を開いて導入し、圧力調整器(4261〜4266)により各ガス圧を19.6N/cm2に調整する。次に、流入バルブ(4241〜4246)を徐々に開けて、各ガスをマスフローコントローラー(4211〜4216)内に導入する。
【0133】
以上のようにして成膜の準備が完了した後、以下の手順で各層の形成を行う。
【0134】
円筒状支持体(4112)が所定の温度になったところで流出バルブ(4251〜4256)のうちの必要なものおよび補助バルブ(4260)を徐々に開き、ガスボンベ(4221〜4226)から所定のガスをガス導入管(4114)を介して反応容器(4111)内に導入する。次にマスフローコントローラー(4211〜4216)によって各原料ガスが所定の流量になるように調整する。その際、反応容器(4111)内の圧力が1.5×102Pa以下の所定の圧力になるように真空計(4119)を見ながらメインバルブ(4118)の開口を調整する。内圧が安定したところで、周波数13.56MHzのRF電源(不図示)を所望の電力に設定して、高周波マッチングボックス(4115)を通じて反応容器(4111)内にRF電力を導入し、グロー放電を生起させる。この放電エネルギーによって反応容器内に導入された原料ガスが分解され、円筒状支持体(4112)上に所定のシリコンを主成分とする堆積膜が形成されるところとなる。所望の膜厚の形成が行われた後、RF電力の供給を止め、流出バルブを閉じて反応容器へのガスの流入を止め、堆積膜の形成を終える。
【0135】
同様の操作を複数回繰り返すことによって、所望の多層構造の光受容層が形成される。
【0136】
この場合、各層間においては、上述したように1つの層の形成が終了した時点で一旦放電を完全に停止し、次層のガスの流量、圧力に設定した後、再度放電を生起して次層の形成を行っても良いし、あるいは、1つの層の形成終了後、一定の時間をかけてガス流量、圧力、高周波電力を次層の設定値に徐々に変化させることにより、複数の層を連続的に形成しても良い。
【0137】
それぞれの層を形成する際には必要なガス以外の流出バルブはすべて閉じられていることは言うまでもなく、また、それぞれのガスが反応容器(4111)内、流出バルブ(4251〜4256)から反応容器(4111)に至る配管内に残留することを避けるために、流出バルブ(4251〜4256)を閉じ、補助バルブ(4260)を開き、さらにメインバルブ(4118)を全開にして系内を一旦高真空に排気する操作を必要に応じて行う。
【0138】
また、膜形成の均一化を図るために、層形成を行っている間は、基体(4112)を駆動装置(不図示)によって所定の速度で回転させることも有効である。
【0139】
さらに、上述のガス種およびバルブ操作は各々の層の作製条件にしたがって変更が加えられることは言うまでもない。
【0140】
上記の方法において堆積膜形成時の支持体温度は、特に200℃以上350℃以下、好ましくは230℃以上330℃以下、より好ましくは250℃以上310℃以下が望ましい。
【0141】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、特に明記しない限り、試薬等は市販の高純度品を使用した。
【0142】
<実施例1>
図4に示すRF−PCVD法による光受容層の製造装置を用い、直径80mmの鏡面加工を施した円筒状アルミニウム基体上に、下部電荷注入阻止層、光導電層、上部電荷注入阻止層、表面保護層の順に各層を表1の条件にて形成し、負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0143】
本実施例において、上記の下部電荷注入阻止層の形成前に、円筒状アルミニウム基体表面の切削を行い、切削終了15分後に表2に示す条件により基体表面の脱脂および珪酸塩皮膜形成、リンス及び乾燥を行い、Al−Si−Oからなる珪酸塩皮膜層を形成した。作製した電子写真感光体を二次イオン質量分析法(SIMS)にて測定したところ、形成したAl−Si−O皮膜は、原子組成比が1:0.25:3であった。本実施例では表2に示した条件に加えて、更に皮膜形成工程に、アミノアルコール及びベンゾトリアゾールを導入し窒素原子も含有させた。形成した珪酸塩皮膜は、膜厚が8nmからなり、窒素原子はアルミニウム原子に対して、800原子ppm含有していた。
【0144】
【表1】
【0145】
【表2】
<比較例1>
本比較例では、実施例1と同様に、鏡面加工を施した円筒状アルミニウム基体上に珪酸塩皮膜層を形成した。その後、上部電荷注入阻止層を形成することなく、下部電荷注入阻止層、光導電層、表面保護層の順に各層を表3の条件にて形成し、正帯電用電子写真感光体を作製した。
【0146】
【表3】
<比較例2>
本比較例では、実施例1と同様に、鏡面加工を施した円筒状アルミニウム基体上に珪酸塩皮膜層を形成した。その後、上部電荷注入阻止層を形成することなく、下部電荷注入阻止層、光導電層、表面保護層の順に各層を表4の条件にて形成し、負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0147】
【表4】
以上のように、実施例1、比較例1、比較例2で作製した負帯電用電子写真感光体および正帯電用電子写真感光体を電子写真装置(キヤノン製、商品名:iR6000を評価用改造したもの)にセットして、特性評価を行った。なお、負帯電用電子写真感光体の評価は、負帯電システムに改造を行った同様の装置で評価を行った。
【0148】
評価項目は、「帯電能」、「感度」及び「ゴースト」の3項目を以下のような具体的評価法で行った。
【0149】
(帯電能)
電子写真装置のプロセススピードを265mm/sec、前露光(波長660nmのLED)7Lux・sec、像露光には波長655nmの半導体レーザーをセットした。その後、帯電器の電流値を800μAに設定し、評価用電子写真装置の現像器位置にセットした表面電位計(TREK社製、商品名:Model344)の電位センサーにより光受容部材の表面電位を測定し、それを帯電能とした。
【0150】
(感度)
暗部電位が450Vとなるように帯電条件を設定し、明部電位が50Vになる時の像露光光量を測定し、それを感度とした。
【0151】
(ゴースト)
キヤノン製ゴーストテストチャート(部品番号:FY9−9040)に反射濃度1.1、直径φ5mmの黒丸を貼り付けたものを原稿台の画像先端部に置き、その上にキヤノン製中間調チャート(部品番号:FY9−9042)を重ねて置いた際のコピー画像において、中間調コピー上に認められるゴーストチャートの直径φ5mmの黒丸の反射濃度と中間調部分の反射濃度の差を測定した。従って、数値が小さいほど良好である。
【0152】
以上の評価として、比較例1で得られた値を100として相対比較を行った。評価結果を表5に示す。
【0153】
【表5】
「帯電能」は、数値が大きい程、帯電特性が良好であることを示している。「感度」及び「ゴースト」は数値が小さい程、良好であることを示している。
【0154】
表5の結果から明らかなように、実施例1においては、比較例1に比べて帯電能が向上し、ゴーストの低減が可能となり、画像特性においても良好な画像特性が得られることがわかった。
【0155】
<実施例2>
本実施例では、実施例1と同様に、鏡面加工を施した円筒状アルミニウム基体表面に表2の条件にて珪酸塩皮膜を形成した後、下部電荷注入阻止層、光導電層、上部電荷注入阻止層、表面保護層の順に各層を表6の条件にて形成し、負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0156】
【表6】
なお、実施例2では、上部電荷注入阻止層のホウ素の仕込み量を変化させ、上部電荷注入阻止層のシリコンに対するホウ素原子含有量(原子ppm)を変化させた感光体を作製した。
【0157】
各仕込み量にて作製した感光体をそれぞれ、帯電能およびEV流れについて評価を行った。
【0158】
(帯電能)
実施例1と同様に評価を行った。本実施例では、ホウ素の含有量を1000原子ppmとしたときの感光体を100として、相対比較を行った。数値が大きいほど、良好な結果を示している。
【0159】
(EV流れ)
キヤノン製テストチャート(部品番号:FY9−9058)を用い、適正画像濃度における露光量の1.2倍及び1.5倍の強度の露光にて形成した。強露光時の画像流れについては、画像を目視により限度見本と比較判定し;
1:非常に良好、
2:良好、
3:実用上問題なし、
4:実用上やや難あり
の4段階にランク分けした。また、ランクの判別が困難な場合は、1と2の間の場合はランク1.5の様に記した。
【0160】
【表7】
評価結果を表7に示した。表7に示すように、シリコンに対するホウ素の含有量は、好ましくは10〜10000ppm、より好ましくは50〜5000ppm、最も好ましくは100〜3000ppmの範囲においては、両項目ともに非常に良好な結果が得られた。
【0161】
<実施例3>
本実施例では、実施例1と同様に、鏡面加工を施した円筒状アルミニウム基体表面に表2の条件にて珪酸塩皮膜を形成した後、下部電荷注入阻止層、光導電層、上部電荷注入阻止層、表面保護層の順に各層を表8の条件にて形成し、負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0162】
【表8】
実施例3では、上部電荷注入阻止層を作製する際のCH4流量を変化させ、上部電荷注入阻止層のシリコンおよび炭素の和に対する炭素の含有量(原子%)を変化させた感光体を作製した。
【0163】
各条件にて作製した感光体をそれぞれ、実施例2と同様に帯電能およびEV流れについて評価を行った。
【0164】
【表9】
評価結果を表9に示した。表9に示すように、炭素含有量を所定の範囲内とすれば、両項目ともに良好な結果が得られた。
【0165】
<実施例4>
実施例1と同様に、負帯電用電子写真感光体を作製した。ただし本実施例において、下部電荷注入阻止層を形成する一酸化窒素(NO)ガス流量を変化させて、シリコン原子に対する窒素原子と酸素原子の含有量の和を0.05原子%、0.1原子%、1.2原子%、10原子%、20原子%、40原子%および45原子%に変化させた感光体を作製した。
【0166】
<比較例3>
実施例1と同様に、負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0167】
なお本比較例では、下部電荷注入阻止層の作製時に、原料ガスに一酸化窒素を使用せずに、ヘリウムガス希釈させた酸素(O2)を使用して、電荷注入阻止層内に酸素原子をシリコン原子に対して6原子%含有させた。
【0168】
<比較例4>
実施例1と同様に、負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0169】
なお本比較例では、下部電荷注入阻止層の作製時に、原料ガスに一酸化窒素を使用せずに、アンモニア(NH3)を使用して、電荷注入阻止層内に窒素原子をシリコン原子に対して4原子%含有させた。
【0170】
<比較例5>
実施例1と同様に、負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0171】
なお本比較例では、下部電荷注入阻止層を形成しなかった。
【0172】
以上の様に実施例4、比較例3、比較例4および比較例5で作製した負帯電用電子写真感光体を、実施例1と同様にして「帯電能」、「感度」及び「ゴースト」の3項目について評価した。
【0173】
評価結果を表10に示す。表10においては、比較例5で作製した時の値を100として相対比較を行った。
【0174】
【表10】
表10から明らかなように、実施例4において円筒状アルミニウム基体上に珪酸塩皮膜を形成し、下部電荷注入阻止層にシリコン原子に対する酸素原子および窒素原子の含有量の和が0.1原子%以上40原子%以下の範囲で含有させることで比較例3〜5に比べて帯電能が飛躍的に向上し、感度及びゴーストも良好な結果が得られた。更に、画像特性においても良好な画像特性が得られることがわかった。
【0175】
<実施例5>
本実施例では、実施例1と同様に負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0176】
なお、本実施例では、珪酸塩皮膜形成工程における処理時間を変化させ、表12に示すように膜厚の異なる珪酸塩皮膜を形成したのち、表1の条件にて負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0177】
<比較例6>
本比較例では、実施例1と同様に鏡面加工を施した円筒状アルミニウム基体表面に表11に示す条件により、インヒビターとして珪酸塩カリウムも用いず、珪酸塩皮膜の形成を行わないで基体表面の脱脂洗浄及びリンス及び乾燥を行った後、表1の条件にて負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0178】
【表11】
以上の様に各条件にて作製した感光体をそれぞれ、実施例1と同様に「帯電能」、「感度」及び「ゴースト」について評価を行った。
【0179】
評価結果を表12に示す。表12においては、比較例6で得られた特性を100として相対比較を行った。「帯電能」は、数値が大きい程、帯電特性が良好であることを示している。「感度」及び「ゴースト」は数値が小さい程、良好であることを示している。
【0180】
【表12】
表12の結果から明らかなように、円筒状基体表面に所定の膜厚の珪酸塩皮膜層を形成することにより、比較例6に比べて帯電能が向上し、ゴーストの低減が可能となり、画像特性においても良好な画像特性が得られることがわかった。
【0181】
<実施例6>
実施例1で作製した感光体をデジタルフルカラー複写機(キヤノン社製、商品名:CLC500を改造したもの)に搭載し、フルカラー画像を形成したところ、非常に良好な画像が得られた。
【0182】
<実施例7>
本実施例では、実施例1と同様に鏡面加工を施した円筒状アルミニウム基体表面に表2の条件にて実施例1と同様に珪酸塩皮膜を形成した後、下部電荷注入阻止層、光導電層、上部電荷注入阻止層、表面保護層の順に各層を表1の条件にて形成し、さらに、表13の条件にて炭素を主として水素(H)を含有するアモルファスカーボン(a−C:H)最表面層を積層し、負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0183】
【表13】
<比較例7>
本比較例では、比較例6と同様の条件にて、珪酸塩皮膜を用いない負帯電用感光体を形成し、さらに、表13の条件にてa−C:H最表面層を積層し、負帯電用電子写真感光体を作製した。
【0184】
実施例7で作製した感光体と、比較例7で作製した感光体、さらに実施例1と同条件にて形成した感光体を以下の評価方法により、密着性の評価を行い、結果を表14に示した。
【0185】
(ヒートショックテスト)
作製した電子写真感光体を温度−50℃に調整された容器の中に12時間放置し、その後直ちに温度80℃、湿度80%に調整された容器の中に2時間放置した。このサイクルを10サイクル繰り返した後、電子写真感光体表面を観察し、以下の基準で評価した;
◎:極めて良好、
○:良好、
△:微小な膜剥れが一部認められる、
×:比較的大きな膜剥れが一部認められる。
【0186】
(端部剥れの観察)
作製した電子写真感光体の端部(上下端から各50mm)の領域を拡大鏡により観察し、以下の基準で評価した;
◎:極めて良好、
○:良好、
△:微小な膜剥れが一部認められる、
×:比較的大きな端部剥れが一部認められる。
【0187】
【表14】
本実施例で作製した感光体では、ヒートショックテスト及び端部剥れの観察ともに良好な結果が得られている。
【0188】
【発明の効果】
本発明によれば、帯電能および感度の向上と光メモリーの低減を高次元で両立し、画像品質を飛躍的に向上させると共に、長時間の使用および厳しい環境下での使用においても画像品質を維持することが可能な、シリコン原子を母体とした非単結晶材料で構成された負帯電用電子写真感光体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電子写真感光体の構造例を説明するための模式的断面図である。
【図2】本発明の電子写真感光体の構造例を説明するための模式的断面図である。
【図3】珪酸塩皮膜を形成する手順を説明するための模式図である。
【図4】光受容層形成装置を説明するための模式的断面図である。
【符号の説明】
101 基体
102 珪酸塩皮膜
103 光受容層
104 下部電荷注入阻止層
105 光導電層
106 上部電荷注入阻止層
107 表面保護層
201 基体
202 珪酸塩皮膜
203 光受容層
204 下部電荷注入阻止層
205 光導電層
206 上部電荷注入阻止層
207 表面保護層
208 非単結晶炭素膜
301 基体
302 処理部
303 基体搬送機構
311 基体投入台
321 脱脂洗浄槽
331 珪酸塩皮膜形成槽
341 リンス槽
351 乾燥槽
361 基体搬出台
371 搬送アーム
372 移動機構
375 搬送レール
373 チャッキング機構
374 エアーシリンダー
4100 堆積装置
4111 反応容器
4112 基体
4113 ヒーター
4114 導入管
4115 マッチングボックス
4116 配管
4117 バルブ
4118 バルブ
4119 真空計
4200 供給装置
4211 マスフローコントローラー
4212 マスフローコントローラー
4213 マスフローコントローラー
4214 マスフローコントローラー
4215 マスフローコントローラー
4216 マスフローコントローラー
4221 ボンベ
4222 ボンベ
4223 ボンベ
4224 ボンベ
4225 ボンベ
4226 ボンベ
4231 バルブ
4232 バルブ
4233 バルブ
4234 バルブ
4235 バルブ
4236 バルブ
4241 バルブ
4242 バルブ
4243 バルブ
4244 バルブ
4245 バルブ
4246 バルブ
4251 バルブ
4252 バルブ
4253 バルブ
4254 バルブ
4255 バルブ
4256 バルブ
4260 バルブ
4261 圧力調整器
4262 圧力調整器
4263 圧力調整器
4264 圧力調整器
4265 圧力調整器
4266 圧力調整器
Claims (7)
- アルミニウム又はアルミニウム合金基体上に、少なくとも、皮膜および光受容層がこの順に積層されてなる負帯電用電子写真感光体であって、
該皮膜は、0.5nm以上15nm以下の膜厚であり、アルミニウム、シリコン及び酸素から主になり、1原子部のアルミニウムに対し0.1原子部以上1原子部以下のシリコンと1原子部以上5原子部以下の酸素と、アルミニウムに対して1原子ppm以上10原子%以下の窒素とを含んでなり、
該光受容層は、少なくとも、窒素および酸素を含みシリコンを母体とし不純物がドープされていない非単結晶シリコン膜からなる下部電荷注入阻止層と、
シリコンを母体とする非単結晶シリコン膜からなる光導電層と、
炭素および第13族原子を含みシリコンを母体とする非単結晶シリコン膜からなる上部電荷注入阻止層と、
炭素を含みシリコンを母体とする非単結晶シリコン膜からなる表面保護層とがこの順に積層されてなることを特徴とする負帯電用電子写真感光体。 - 前記皮膜はインヒビターを含んだ水を用いて形成されることを特徴とする請求項1記載の負帯電用電子写真感光体。
- 前記インヒビターは珪酸塩であることを特徴とする請求項2記載の負帯電用電子写真感光体。
- 前記表面保護層上に、非単結晶炭素膜が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3何れかに記載の負帯電用電子写真感光体。
- 前記上部電荷注入阻止層において、前記第13族原子はホウ素であり、該ホウ素の含有量はシリコンに対して10原子ppm以上10000原子ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至4何れかに記載の負帯電用電子写真感光体。
- 前記上部電荷注入阻止層における炭素の含有量は、シリコン及び炭素の和に対して10原子%以上70原子%以下の範囲であり、前記表面保護層における炭素の含有量よりも少ないことを特徴とする請求項1乃至5何れかに記載の負帯電用電子写真感光体。
- 前記下部電荷注入阻止層が含有する窒素および酸素の総和は、シリコンの0.1原子%以上40原子%以下であることを特徴とする請求項1乃至6何れかに記載の負帯電用電子写真感光体。
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