JP2009057822A - 作業車両用エンジンのパワー出力の制御方法及び制御装置 - Google Patents

作業車両用エンジンのパワー出力の制御方法及び制御装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 エンジン制御装置40が、建設機械などの作業車両の作業の状態を検出して自動的にエンジンのパワー出力能力を制御する。
【解決手段】 アームの油圧シリンダ13の油圧検出器45、アームやバケットの操作指令の検出器32,33、変速機23のシフト操作検出器31、車体の傾斜角検出器46、走行加速度検出器47、アクセル開度検出器48からの検出信号に基づいて、掘削又は登坂走行が行われているか判定される。判定の結果、掘削又は登坂走行が行われている時は高パワー出力能力で、それ以外の時は低パワー出力能力で、エンジンが運転される。
【選択図】 図1

Description

本発明は、作業車両用エンジンのパワー出力を制御するための方法及び装置に関する。
従来から、建設機械等の作業車両において、作業の負荷に応じて、エンジンのパワー出力性能を切り替える技術が知られている(例えば特許文献1および2)。これらの技術によれば、作業車両は、高パワー出力まで得ることの可能な重作業モードと、より低いパワー出力までしか得られない軽作業モードを備えている。
運転者は、切替スイッチを操作することによって、これらのモードを手動で選択する。即ち、これから行なう作業が重作業であると判断すれば重作業モードを、軽作業であると判断すれば軽作業モードを、それぞれ選択する。
このとき、エンジンを制御するコントローラは、切替スイッチからの指示に基づいて、エンジンのパワー出力能力を制御する。即ち、軽作業モードにおいては、例えば燃料供給量を制限することで、エンジンのパワー出力範囲を、定格パワー出力より低い所定の値以下に制限する。これに対し、重作業モードにおいては、エンジンのパワー出力が定格パワー出力又は最大パワー出力まで到達できるよう、上記のような制限を加えない。
これにより、軽作業時には、低く狭いパワー出力範囲が使用されるので、消費エネルギーが小さくなり燃費が低減する。そして、重作業時には、エンジンのパワー出力に制限が加わらないから、作業を円滑に行うために充分なパワー出力を得ることが可能である。
特開平08−218442号公報 特開平11−293710号公報
或る種の作業車両は、重作業のみ又は軽作業のみを連続的に行なうのではなく、一連の作業工程の中で、重作業と軽作業とを交互に行なうことが多い。例えば、ホイールローダでの典型的な掘削積込作業の場合、車両が作業対象物にアプローチし(軽作業)、作業対象物を掘削してバケットに積み込み(重作業)、作業対象物をダンプトラック等の運搬車両上にダンプする(軽作業)などの工程が逐次に行われる。
この種の作業車両又は作業工程において、従来技術の利点を最大限に享受するには、重作業と軽作業が切り替わるたびに、運転者が切替スイッチを操作しなければならない。しかし、作業工程中に頻繁にスイッチ操作を行なうのは非常に面倒である。その結果、常に切替スイッチを重作業モードに固定して作業を行なう場合が多く、燃費の低減が期待できない。他方、燃費を重視して、切替スイッチを軽作業モードに固定して作業を行なった場合には、掘削等の重作業時に充分なパワー出力が得られず、作業能率が低下するおそれがある。
本発明の目的は、建設機械などの作業車両において、作業の状態に応じて自動的にエンジンのパワー出力能力を制御することにある。
本発明に従えば、エンジンからのパワー出力を消費する1又は複数の作業負荷の状態に関する1又は複数の変数値が検出され、検出された変数値に基づいて、エンジンのパワー出力能力が制御される。その結果、作業の状態に応じて自動的にエンジンのパワー出力能力を制御することができる。
本発明に従う、作業車両用エンジンのパワー出力を制御する装置は、エンジンからのパワー出力を消費する、前記作業車両に備えられる作業機及び/又は走行装置を含む1又は複数の作業負荷の状態を表す1又は複数の変数値を検出する1又は複数の検出装置と、前記1又は複数の検出装置により検出された、前記1又は複数の変数値に基づいて、前記エンジンの出力可能な最高のパワー出力であるパワー出力能力を制御するコントローラとを備える。前記1又は複数の検出装置は、前記作業機を動かすための1又は複数の油圧シリンダの油圧を検出する油圧検出装置、前記作業機に対して行われる操作を検出する作業機操作検出装置、及び前記走行装置に含まれる変速機の操作又は選択されている速度段を検出する変速機操作検出装置を含む。前記コントローラが、前記1又は複数の油圧シリンダの油圧と、前記作業機に対して行われる操作の種類と、前記変速機の操作又は選択されている速度段とに基づいて、掘削工程を含む所定の異なる種類の工程のうちのどれが行われているか否かを判定し、判定結果に応じて前記パワー出力能力を制御する。
前記コントローラは、判定された工程に応じて上限出力トルクカーブが異なるように、前記パワー出力能力を制御する、ように構成されてよい。
上記作業負荷には、例えばアームやバケットのような作業機が含まれ得る。作業機の状態に関する変数値として、例えば、上記作業機を動かすための油圧シリンダの油圧、上記作業機に対して行われる操作の種類、又は、上記作業機の位置又は姿勢などが採用し得る。
或いは、上記作業負荷には、例えば車輪や変速機などからなる走行装置が含まれ得る。走行装置の状態に関する変数値として、例えば、変速機に対して行われるシフト操作の種類又は選択される速度段、車体の前後方向(つまり走行方向)における傾斜角、走行速度、又はアクセルペダルの開度に応じた走行加速度などが採用し得る。
一つの制御例として、作業機又は走行装置の状態に関する特定の変数値の検出結果に基づいて、掘削が行われているか否かを判定することができる。この判定結果に応じて、掘削が行われていないと判定された場合における上限出力トルクカーブが、掘削が行われていると判定された場合における上限出力トルクカーブよりも低くなるように、パワー出力能力の制御を行なうことができる。
別の制御例として、走行装置の状態に関する特定の変数値の検出結果に基づいて、登坂走行が行われているか否かを判定することができる。その判定結果に応じて、登坂走行が行われていないと判定された場合における上限出力トルクカーブが、登坂走行が行われていると判定された場合における上限出力トルクカーブよりも低くなるように、パワー出力能力を制御することができる。
また別の制御例として、作業機及び走行装置の状態に関する特定の変数値の検出結果に基づいて、掘削が行われているか否かの判定と、登坂走行が行われているか否かの判定とを並行的に行うことができる。そして、掘削と登坂走行のいずれもが行われていないと判定された場合における上限出力トルクカーブが、掘削と登坂走行の少なくとも一方が行われていると判定された場合における上限出力トルクカーブよりも低くなるように、パワー出力能力を制御することができる。
また別の制御例として、作業機及び走行装置の状態に関する特定の変数値の検出結果に基づいて、異なる種類の工程のうちのどれが行われているか否かを判定することができる。そして、判定された工程に応じて上限出力トルクカーブが異なるように、エンジンのパワー出力能力を制御することができる。
また更に別の制御例として、作業機又は走行装置の状態に関する特定の変数値の検出結果に基づいて、作業機又は走行装置といった作業負荷が要求するパワー出力の大きさの程度を判定することができる。そして、その判定結果に応じて前記パワー出力能力を段階的に又は連続的に制御することができる。
好適な実施形態では、作業機を動かす油圧シリンダの圧力の検出値に基づいて、掘削工程が行われているか否かが判定される。作業機の油圧シリンダ圧力は、掘削工程の開始と終了に敏感に応答して変化するので、掘削工程の判定の確実性が高い。そして、掘削工程が行われている時には、高いエンジンが元来持つフルのパワー出力能力が発揮できる高出力モードでエンジンが運転される。一方、掘削工程以外の時には、高出力モードより低くパワー出力能力を制限した低出力モードでエンジンが運転される。低出力モードでは、その上限出力トルクカーブが、高出力モードの上限出力トルクカーブに所定の1未満の係数を乗じたものになるように制限される。
好適な実施形態では、また、走行中の車体の傾斜角、又はアクセルペダル開度に応じた走行加速度の検出結果に基づいて、登坂走行中か否かが判定される。そして、掘削工程だけでなく、登坂走行が行われているときにも、上記の高出力モードでエンジンが運転される。
以下に本発明に従う作業車両のエンジンの制御装置と制御方法について、図面を参照して幾つかの実施形態を詳述する。
以下の開示では、作業車両としてホイールローダを例にとり、ホイールローダのエンジンのパワー出力を制御するための本発明の実施形態が説明される。しかし、ホイールローダは本発明の説明のための例示であり、それ以外の種々の作業車両のエンジンパワー出力制御にも本発明が適用可能である。
図1は、作業車両の一例であるホイールローダ1の側面図である。
図1に示すように、ホイールローダ1は、運転室2、エンジンルーム3及び後輪4,4を有する後部車体5と、前輪6,6を有する前部フレーム7とを有する。前部フレーム7には、作業機10が取付けられている。
作業機10において、リフトアーム11が、その基端部を揺動自在にして、前部フレーム7に取付けられている。前部フレーム7とリフトアーム11とは一対のリフトシリンダ13,13により連結され、リフトシリンダ13,13が伸縮することにより、リフトアーム11が揺動する。リフトアーム11の先端部には、バケット12が揺動自在に取付けられている。
チルトアーム14が、そのほぼ中央部にて、回動自在にリフトアーム11に支持されている。チルトアーム14の一端部と前部フレーム7とは、チルトシリンダ15により連結され、チルトアーム14の他端部とバケット12とは、チルトロッド16により連結されている。チルトシリンダ15が伸縮するとバケット12が揺動する。
後部車体5には、ホイールローダ1を走行させるための走行装置20と、走行装置20にパワー出力を供給するエンジン21とが搭載されている。走行装置20は、トルクコンバータ22、前後進切り替え及び複数段の変速段切り替えが可能な変速機23、分配機24、並びに、後輪4及び前輪6を駆動する減速機25,25等から構成されている。エンジン21のパワー出力はトルクコンバータ22及び変速機23を順に通じて分配機24に伝達され、そこから後輪4と前輪6に分配される。
後部車体5には、また、上述したリフトシリンダ13及びチルトシリンダ15に圧油を供給する可変容量型油圧ポンプ26も搭載されている。可変容量型油圧ポンプ26は、上述したエンジン21からのパワー出力の一部を使って駆動される。
運転室2内には、運転者により操作される変速機シフトレバー、アクセルペダル、ブレーキペダル、ならびにリフトシリンダ13及びチルトシリンダ15を操作するレバー等を含む運転操作装置30が設けられている。運転者は、運転操作装置30を操作することにより、ホイールローダ1の前後進の切り替え、走行速度の調節(加速と減速)及び作業機10(リフトシリンダ13及びチルトシリンダ15)の操作を行うことができる。
さらに、後部車体5には、運転操作装置30からの操作信号に応答してリフトシリンダ13及びチルトシリンダ15の駆動を制御したり、本発明の原理に従ってエンジン21のパワー出力能力を制御したりするためのエンジン制御装置(図1では図示省略)が搭載されている。このエンジン制御装置の詳細については後に説明する。
このようなホイールローダ1において、エンジン21のパワー出力を消費する負荷コンポーネントには、作業負荷と寄生負荷がある。作業負荷とは、車両の外部環境に直接働きかける作業(土や岩の掘削や持ち上げ、車両自体の移動など)を行うために、エンジン21からのパワー出力を要求するコンポーネントである。作業負荷には、例えば上述した作業機械10、可変容量型油圧ポンプ26、及び走行装置20が含まれる。これに対し、寄生負荷とは、作業ではなく車両内部の動作のために、エンジン21からのパワー出力を要求するコンポーネントである。寄生負荷には、例えばエンジン冷却装置や空調装置やバッテリ充電装置などが含まれるが、いずれも図1では図示省力されている。
上述したエンジン制御装置は、作業負荷(例えば作業機械10、可変容量型油圧ポンプ26、及び走行装置20)の状態(以下、作業状態という)を検出し、作業状態の検出結果から、作業負荷が要求するパワー出力の程度を推測してエンジン21のパワー出力能力を制御する機能を有する。一連の複数の工程から構成される作業を行うとき、作業負荷が要求するパワー出力の程度は工程によって異なることが多い。例えば、一連の工程中、特定の工程では比較的に高いパワー出力が要求されるが、他の工程では比較的に低いパワー出力で足りるということがある。以下では、ホイールローダ1が使われる典型的な作業種類である掘削積込作業を例にとり、エンジン制御装置によるパワー出力制御について具体的に説明する。
図2は、ホイールローダ1の掘削積込作業を構成する一連の工程の例を示す。
ホイールローダ1は、次のような複数の工程を順次に行うことを繰り返して、作業対象物を掘削し、ダンプトラック等の運搬機械に作業対象物を積み込んでいる。
前進工程(図2A): 運転者はリフトシリンダ13及びチルトシリンダ15を操作して、作業機10をリフトアーム11が低い位置にありバケット12が水平を向いた掘削姿勢にして、車両を作業対象物に向けて前進させる。
掘削工程(図2B、図2C): 運転者は車両を更に前進させバケット12の刃先を作業対象物に突っ込み(図2B:突込みサブ工程)、そして、チルトシリンダ15を操作してバケット12をチルトバックさせ、バケット12内に作業対象物を掬い込む(図2C:掬込みサブ工程)。掬込みサブ工程は、作業対象物の種類によって、バケット12を1回チルトバックさせるだけで完了する場合もあるし、或いは、バケット12をチルトバックさせ、中立にし、再びチルトバックさせるという動作を繰り返す場合もある。
後進・ブーム上昇工程(図2D): バケット12に作業対象物をすくい込んだ後、運転者は、車両を後進させつつ、リフトシリンダ13を伸張させてリフトアーム11を上昇させる。
前進・ブーム上昇工程(図2E): 運転者は車両を前進させてダンプトラックに接近しつつ、バケット12の高さが積込高さになるまで、リフトシリンダ13をさらに伸張させてリフトアーム11を上昇させる。
排土工程(図2F): 運転者は所定位置でバケット12をダンプして作業対象物をダンプトラックの荷台上に積み込む。この工程は、その前の前進・ブーム上昇工程から連続的に前進しつつ行われることも多い。
後進・ブーム下げ工程(図2G): 運転者は車両を後進させながらリフトアーム11を下げ、バケット12を掘削姿勢に戻す。
以上が、掘削積込作業の1サイクルをなす典型的な工程である。
さらに、図2Hには、車両が単純に走行する単純走行工程が示されている。この工程では、運転者はリフトアーム11を低い位置にして、車両を前進させる。バケット12に荷を積んで荷を運搬する場合もあるし、荷を積まずに走行する場合もある。
これら6種類の工程で必要とされるエンジン21のパワー出力は、工程ごとに異なる。特に、掘削工程(図2B、図2C)では、他の工程のどれよりも、大きなパワー出力が必要とされる。そこで、現在行われている工程を判別して、それに必要なパワー出力を出力できるように、エンジン21のパワー出力能力の制御が行うことが望ましい。その場合、上記の6種類の工程を、掘削工程とそれ以外の工程という2つの種類に大分類して、エンジン21のパワー出力能力を2段階で制御することが可能である。或いは、上記の6種類の工程を3種類以上に分類して、エンジン21のパワー出力能力を3段階以上で制御してもよい。或いは、工程を判別するというより、むしろ、作業負荷が要求するパワー出力の程度を判別して、それに応じてエンジン21のパワー出力能力を段階的又は連続的に変化させるようにしてもよい。
ここで、エンジン21のパワー出力能力とは、最高でどの程度のパワー出力を出力することが可能かというエンジン21の能力又はキャパシティである。エンジン21のパワー出力能力の制御は、典型的には、例えば、エンジン21への燃料噴射量の上限値を制御するという方法で行うことができる。例えば、燃料噴射量の上限値をより大きく設定すれば、パワー出力能力はより高くなるし、燃料噴射量の上限値をより小さく設定すれば、パワー出力能力はより低くなる。エンジン21が回転数に応じて出力できる上限出力トルクを示したトルクカーブを用いて、パワー出力能力を表現することができる。上限出力トルクカーブがより高ければ、パワー出力能力がより高いということになる。
図3は、エンジン21のパワー出力能力の制御を行なうエンジン制御装置40の一例を示す系統図である。
図3において、コントローラ50は、例えばプログラムメモリやワークメモリとして使用される記憶装置、プログラムを実行するCPUを有するコンピュータにより実現されることができる。コントローラ50は、図示しない燃料噴射ポンプからエンジン21へ供給される燃料噴射量を調節してエンジン21のパワー出力を制御するガバナ27と接続されている。コントローラ50からガバナ27に指令を出力して燃料噴射量を変化させることにより、エンジン21のパワー出力を変更することができるようになっている。エンジン21は、作業負荷の一つである可変容量型油圧ポンプ26を駆動する。
可変容量型油圧ポンプ26には、容量制御装置41が接続されている。コントローラ50から容量制御装置4に指令を出力して、可変容量型油圧ポンプ26の容量を変更することができるようになっている。可変容量型油圧ポンプ26の吐出回路42上には、作業負荷の一つであるチルトシリンダ15に接続するチルト操作弁43と、同じく作業負荷の一つであるリフトシリンダ13に接続するリフト操作弁44とが設けられている。
リフトシリンダ13のボトム側には、ボトム圧検出器45が設けられている。(ここで、シリンダの「ボトム側」とは、その側の油圧が高くなるとシリンダが伸長する側のことをいう。「ボトム側」とは反対の側は、「ヘッド側」又は「ロッド側」と呼ばれる。)ボトム圧検出器45は、例えば圧力スイッチである。ボトム圧検出器45から出力されるボトム圧の検出信号は、コントローラ50に入力される。
またコントローラ50は、運転操作装置30に含まれる変速機シフトレバーの位置を検出するシフト位置検出装置31と接続され、シフト位置検出装置31からのシフト位置の検出信号を入力し、作業負荷の一つである走行装置20の変速機23のシフト操作(又はソフト操作により選択された速度段)を検出する。変速機23が例えば前進4速度段(F1〜F4)および後進2速度段(R1、R2)を有する変速機23の場合、シフト位置検出信号に基づいて、コントローラ50は、シフト操作によりF1〜F4、R1、R2のうちのどの速度段を選択されたかを検出する。
コントローラ50は、また、運転操作装置30に含まれるリフトシリンダ操作レバー(リフトアーム操作レバー)の位置(つまり、運転者からのアーム操作指示)を検出するアーム操作指示検出装置32と接続され、アーム操作指示検出装置32からの操作指示検出信号を入力する。コントローラ50は、この操作指示検出信号に基づいて、リフト操作弁44を制御して、リフトアーム11を操作する。また、コントローラ50は、アーム操作指示検出装置32からの検出信号またはリフト操作弁44への操作信号に基づいて、リフトアーム11に対して現在行われている操作の種類(例えば、上げる、中立、下げる、フロート)を検出する。
コントローラ50は、また、運転操作装置30に含まれるチルトシリンダ操作レバー(バケット操作レバー)の位置(つまり、運転者からのバケット操作指示)を検出するバケット操作指示検出装置33と接続され、バケット操作指示検出装置33からの操作指示検出信号を入力する。コントローラ50は、バケット操作指示検出信号に基づいて、チルト操作弁43を制御することにより、バケット12を操作する。また、コントローラ50は、バケット操作指示検出装置33からの操作指示検出信号またはチルト操作弁43への操作信号に基づいて、バケット12に対して現在行われている操作の種類(例えば、チルトバック、中立、ダンプ)を検出する。
コントローラ50は、さらに、車両の走行速度を検出する速度メータ34に接続され、速度メータ34から走行速度の検出信号を入力する。
コントローラ50は、検出された変速機23のシフト操作(選択された速度段)、リフトシリンダ13のボトム圧、リフトアーム11の操作、バケット11の操作、および車両の走行速度などの、作業負荷の各種状態を示す各種変数値のうちの1又はそれ以上の変数値に基づいて、本発明の原理に従い、エンジン21のパワー出力能力を制御する。以下、この制御の手順について説明する。
図4に、エンジン21の出力能力の制御手順の一例の概略をフローチャートで示す。
図4に示される制御では、上記の作業状態を示す特定の変数値に基づいて、現在行われている工程が、特に高いパワー出力が要求される所定の工程(例えば掘削工程)であるか否かが判断される。その判断結果に応じて、エンジンのパワー出力能力を制御するモードとして、予め用意された「低出力モード」と「高出力モード」の2種類の制御モードのうちのいずれか一方が選択される。この2種類の制御モードの具体的意味については後に説明する。
図4に示すように、ステップS11で、コントローラ50は、まずエンジン21の始動と同時にガバナ27に指令を出力し、エンジン21を低出力モードで運転させる。低出力モードでは、コントローラ50は、ガバナ27に指令して、例えば図示しない燃料噴射ポンプの噴射量(mg/ストローク)の可変範囲の上限値を所定の低い値に制限するなどの方法で、エンジン21のパワー出力能力を高出力モードよりも低く制限する。
そしてステップS12で、コントローラ50は、後述する掘削開始判定を行って、ホイールローダ1が掘削工程中(前述した図2Aから図2B)であるか否かを判定する。ステップS12の結果、掘削作業中でなければ、制御はステップS11に戻る。
ステップS12の結果、掘削作業中であればステップS13に進み、コントローラ50は、ガバナ27に指令を出力し、エンジン21を高出力モードで運転する。高出力モードでは、コントローラ50は、燃料噴射ポンプの噴射量に対する上述の制限を解除することで、噴射量の可変範囲の上限値を低出力モードよりも高くするなどして、エンジン21のパワー出力能力を低出力モードよりも高くする(例えば、エンジン21が本来的にもつ最大のパワー出力を発揮できるようにする)。
そしてステップS14においてコントローラ50は、後述する掘削終了判定を行って、ホイールローダ1の掘削工程が終了したか否かを判定する。ステップS14の結果、掘削工程が終了していなければ、ステップS13に戻る。また、ステップS14の結果、掘削工程が終了していれば、ステップS11に戻って、エンジン21を再び低出力モードで運転する。
以下、図4に示したフローチャートのそれぞれのステップについて、詳細に説明する。
まず、ステップS11とS14に示した、エンジン21の高出力モードと低出力モードとについて説明する。図5に、高出力モードと低出力モードでのエンジン21のパワー出力能力を示すトルクカーブの一例を示す。図4において、横軸がエンジン21の回転数であり、縦軸が出力トルクである。また、曲線29が、トルクコンバータ22のマッチングカーブである。
図5において、実線28Aが、エンジン21のパワー出力能力に制限を加えず高パワー出力が得られるようにした高出力モードでのエンジン21の上限出力トルクのカーブを示し、これは例えばエンジン21の定格又は最大のパワー出力に相当する。エンジン21の出力トルクは、運転者のアクセルペダル操作による燃料噴射量の調節によって可変であるが、その可変範囲は、上限出力トルクカーブ28A以下の範囲である。
一方、破線28Bは、高出力モードよりも低いパワー出力能力しか得られないようにした低出力モードでのエンジン21の上限出力トルクのカーブを示す。低出力モードでの上限出力トルクカーブ28Bは、高出力モードでの上限出力トルクカーブ28Aの係数α倍(α<1)(例えば80%)になるように制限される。低出力モードでは、エンジン出力の可変範囲は、上限出力トルクカーブ28B以下の低い範囲に制限される。その反面、燃料の節約ができるという利点がある。コントローラ50は、ガバナ27を制御して、燃料噴射量に制限を加える(例えば、燃料噴射量の上限値を高出力モードのときのそれより低くする)などの方法により、低出力モードを実行する。
また、図6に、別の制御例にかかるエンジン21のパワー出力性能を示すトルクカーブを示す。図6において、破線28Cが低出力モードでの上限出力トルクカーブを示し、これは、上述の図5に示す低出力モードでの上限出力トルクカーブ28Bより更に低く制限された出力トルク可変範囲を意味する。このように、エンジンのパワー出力性能を制限する場合に、具体的にどのようなトルクカーブを採用するかについては、様々なバリエーションがある。図5と図6に示した低出力モードでの上限出力トルクカーブ28Bと28Cのうちの一方だけを採用しても良いし、或いは、状態に応じて上限出力トルクカーブ28Bと28Cを使い分けても良い。
図7は、ホイールローダ1が、バケット12で作業対象物を掘削している状態を示す側面図である。
図7に示すように、掘削工程では、車両が矢印Aの方向に前進してバケット12の刃先を作業対象物Zに突っ込み、そして、バケット12をチルトバックさせる。この動作中、バケット12には、矢印B及び矢印Cの方向に力が加わる。その結果、リフトシリンダ13及びチルトシリンダ15のボトム側(その側の油圧が高くなるとシリンダが伸長する側)には、高い油圧が発生する。また作業姿勢によっては、バケット12には矢印Dの方向の力が加わり、この場合には、チルトシリンダ15のヘッド側(ロッド側)に高い油圧が発生する。
これらの油圧の大きさは、掘削工程時と他の工程時とでは明らかに異なる。従って、これらの油圧の少なくとも一つの大きさから、掘削工程が行われている否かを判定することができる。例えば、リフトシリンダ13のボトム側の油圧(以下、リフトシリンダ13のボトム圧と言う)を、予め定めた基準値と比較することで、掘削工程中であるか否かを判定することができる。あるいは、チルトシリンダ15のボトム側の油圧(以下、チルトシリンダ15のボトム圧と言う)を、予め定めた基準値と比較することで、掘削工程中であるか否かを判定することもできる。
図8は、ホイールローダ1の掘削積込作業時の図2Aから図2Gに示した各工程における、リフトシリンダ13のボトム圧の変化の一例を示すグラフである。図8において縦軸はリフトシリンダ13のボトム圧を示し、横軸は時間を示す。
図8に示すように、リフトシリンダ13のボトム圧は前進工程(図2A)ではかなり低く、掘削工程(図2B、C)が開始すると急峻に大幅に上昇し、掘削工程(図2B、C)の全区間にわたり継続してかなり高く、掘削工程が終了すると急激に大幅に低下する。今、一つの基準値として図8に示すような圧力Pを設定した場合、リフトシリンダ13のボトム圧は、前進工程では全区間にわたり基準値Pより低く、掘削工程では全区間にわたり基準値Pより大幅に高く、その差は明瞭である。
また、後進・ブーム上昇工程(図2D)、前進・ブーム上昇工程(図2E)、及び排土工程(図2F)の前半では、リフトシリンダ13のボトム圧は基準値Pより高く、その後は基準値Pより低くなる。前進工程の時間は、通常数秒間(例えば5秒)程度ある。従って、リフトシリンダ13のボトム圧が、所定の時間(例えば1秒)にわたって所定の圧力Pより低く、その後、上昇して基準値Pを超えた時点を検出すると、その時点が、掘削工程の開始時点であると検知できる。
以下、図9に示したフローチャートを用いて、掘削工程の開始時点を検知する制御について具体的に説明する。
作業開始後、ステップS101で、コントローラ50は、ボトム圧検出器45の検出結果に基づき、リフトシリンダ13のボトム圧が基準値P以下か否かを判定する。ステップS101の結果がNOの場合には、制御はステップS101の前に戻る。ステップS101の結果がYESの場合には、制御はステップS102に進み、コントローラ50は時間計測を開始する。
ステップS103でコントローラ50は、リフトシリンダ13のボトム圧が基準値P以下である状態が、所定時間(例えば1秒)以上続いたか否かを判定する。ステップS103の結果がNOの場合には、制御はステップS103の前に戻る。ステップS103の結果がYESの場合には、制御はステップS104に進み、コントローラ50はリフトシリンダ13のボトム圧が基準値Pを越えたか否かを判定する。ステップS104の結果がNOの場合には、制御はステップS104の前に戻る。ステップS104の結果がYESの場合には、制御はステップS105に進み、コントローラ50は掘削工程の開始と判定する。
次に、図4のステップS14に示した、掘削工程が終了したか否かを判定する掘削終了判定の制御について説明する。
図2に示した掘削積込作業の各工程で車両の移動方向及び図8に示した各工程でのリフトシリンダ13のボトム圧の変化に基づいて、掘削工程が終了したことは、次のような判定条件A1、A2及びA3を用いて判定することができる。
判定条件A1:掘削工程が開始した後、変速機23が前進から、中立又は後進へ切り替えられる。
判定条件A2:掘削工程が開始した後、リフトシリンダ13のボトム圧が基準値Pよりも下がり、その後、所定の時間(例えば1秒)にわたって、基準値Pより低い状態を保つ。
ところで、図9に示した掘削開始判定の制御の中のステップS105において掘削工程の開始と一旦判定した場合であっても、実は掘削工程でなかったという場合がある。例えば、車両が作業対象物Zに衝突してすぐに下がるなどして、リフトシリンダ13のボトム圧が基準値Pを一瞬だけ越えたような場合、或いは、前進中に路面の凹凸で作業機10にショックが瞬間的に発生した場合などが、これに相当する。このような場合には、掘削工程がまだ実際に開始されてないから、エンジン21を高出力モードから低出力モードに戻す必要がある。この制御を行うために、掘削工程の開始と判断された後、リフトシリンダ13のボトム圧が基準値Pを越えている継続時間を測定し、この継続時間が所定の時間長を越えない場合には、掘削工程が終了した(まだ開始してない)と判断する。これを、判定条件A3と呼ぶ。
本実施形態においては、上記の判定条件A1〜A3のうちいずれか1つでも満たした場合に、掘削作業が終了したと判断する。
以下、図10に示したフローチャートを用いて、掘削工程の終了を検知する制御について具体的に説明する。
まず、判定条件A1について説明する。ステップS109でコントローラ50は、シフト位置検出装置31(図3)からの検出信号を入力し、変速機23が中立または後進位置にあるか否かを判定する。ステップS109の結果がNOの場合には、制御はステップS109の前に戻る。ステップS109の結果がYESの場合には、制御はステップS110に進み、コントローラ50は掘削工程が終了したと判断する。
次に、判定条件A2について説明する。ステップS114でコントローラ50は、リフトシリンダ13のボトム圧が基準値Pより下がったか否かを判定する。ステップS114の結果がNOの場合には、制御はステップS114の前に戻る。ステップS114の結果がYESの場合には、制御はステップS115に進み、コントローラ50は時間計測を開始する。
ステップS116でコントローラ50は、計測している時間、すなわちリフトシリンダ13のボトム圧が基準値Pより低い状態が継続する時間が、予め定めた第2設定時間(例えば0.5秒)以上続いたか否かを判定する。ステップS116の結果がNOの場合には、制御はステップS116の前に戻る。ステップS116の結果がYESの場合には、制御はステップS110に進み、コントローラ50は掘削工程が終了したと判断する。
次に、判定条件A3について説明する。ステップS112でコントローラ50は、時間計測を開始する。ステップS113でコントローラ50は、計測している時間、すなわちリフトシリンダ13のボトム圧が基準値Pより高い状態が継続している時間が、予め定めた第1設定時間(例えば1秒)を越えたか否かを判定する。ステップS113の結果がYESの場合には、制御はステップS112の前に戻る。ステップS113の結果がNOの場合には、コントローラ50はステップS110に進み、掘削作業終了と判断する。
なお、変形例として、判定条件A1及びA2の判定を行う前に、判定条件A3の判定を行い、判定条件A3のステップS113の結果がYESである場合に判定条件A1及びA2の判定を行うようにしてもよい。或いは、別の変形例として、判定条件A3の判定を、図9に示した掘削開始判定のステップS105の直後に行い、図10に示した掘削終了判定の制御では、判定条件A3の判定を省略してもよい。
以上説明したように、コントローラ50は、リフトシリンダ13のボトム圧の状態に主に基づいて、現在の工程が掘削工程であるか否かを判断し、掘削工程中はエンジン21のパワー出力能力を高出力モードに制御し、掘削工程以外の時には、エンジン21のパワー出力能力を低出力モードに制御する。これにより、重作業時には高いパワー出力能力で、その他の軽作業時には低いパワー出力能力で、それぞれの作業を行なえるので、作業に必要なだけのパワー出力を得ることができ、しかも無駄に大きなエネルギーを消費することが防止されるので、燃費が低減される。また、掘削工程中はエンジン21のパワー出力能力が自動的に増加するため、運転者に快適な操作感を与えることができる。
また、リフトシリンダ13のボトム圧が、所定時間にわたって基準値P以下であった後に基準値Pを越えた時に、掘削工程が開始したと判断される。これにより、後進・ブーム上昇工程、前進・ブーム上昇工程又は排土工程のときに掘削工程の開始を誤検出するおそれが低減される。また、リフトシリンダ13のボトム圧が瞬間的又は一時的に基準値P以上になったに過ぎない場合には、直ちに掘削工程の開始の判定が取り消される。そのため、例えば掘削作業中と誤判定してエンジン21を高出力モードで運転したとしても、短時間で誤判定であることを判断でき、燃費の低下を防止できる。
また、掘削工程の開始が判定された後、変速機23が中立または後進位置にシフトしたときに、掘削工程の終了と判断される。また、掘削工程の開始が判定された後、リフトシリンダ13のボトム圧が基準値P以下になり、その状態が予め定めた第2設定時間を越えたときにも、掘削工程の終了と判断される。それにより、掘削工程の終了時点の検出精度が高い。
ところで、上述した制御では、掘削工程であるか否かの判断に、リフトシリンダ13のボトム圧を用いている。しかしながら、これに代えてまたは併用して、チルトシリンダ15のボトム圧を用いてもよい。例えばチルトシリンダ15のボトム圧が、所定時間にわたって所定値以下の状態であった後にその所定値を越えた時に、掘削工程が開始されたと判断することができる。また、バケット12が作業対象物に突っ込んで上記ボトム圧が基準値P以上に上昇した時にエンジンのパワー出力能力を高出力モードに切換えるので、その後のバケットチルト操作を開始する時点では、既に高出力モードになっていて、エンジンのパワー出力の上昇に遅れが生じない。
また、上述した制御では、掘削工程であるか否かの判断材料として、リフトシリンダ13またはチルトシリンダ15の油圧のような、作業機のアクチュエータに加わる力を用いている。しかし、これとは別の因子を判断材料に用いることもできる。
ここで、そのような他の因子を用いた制御の変形例の一つを説明する。すなわち、掘削開始判定では、次の判定条件B1、B2及びB3が用いられる。
判定条件B1:変速機23が、前進第1又は第2速度段(F1又はF2)位置にある。
判定条件B2:作業機10が、掘削位置にある。
判定条件B3:車両走行速度が、設定速度以下である。
これら判定条件B1〜B3のうち、少なくとも1つの判定条件が充足された時に、作業車両は掘削工程中であると判断される。
ここで、上記判定条件B2の掘削位置について説明する。図11に、掘削位置における作業機10の側面図を示す。
図11に示すように、前部フレーム7には、リフトアーム11の基端部がアームピン73により揺動自在に取付けられ、前部フレーム7とリフトアーム11とはリフトシリンダ13,13により連結されている。リフトシリンダ13,13が伸縮するとリフトアーム11はアームピン73を中心として揺動する。リフトアーム11の先端部には、バケット12がバケットピン76により揺動自在に取付けられ、前部フレーム7とバケット12とは、チルトシリンダ15及びリンク装置78を介して連結されている。チルトシリンダ15が伸縮すると、バケット12はバケットピン76を中心として揺動する。
コントローラ50は、例えば、アームピン73とバケットピン76とを結ぶ線Y−Y(つまり、リフトアーム11の姿勢又は位置を示す線)を基準線として定め、アームピン73を通る水平線に対する基準線の下方への伏角が所定値以上である場合、作業機10が掘削位置にあると判断することができる。コントローラ50が、このような作業機10の姿勢又は位置を把握するための方法としては、例えば、リフトシリンダ13,13に取り付けたストロークセンサ(図示せず)により検出されるリフトシリンダ13,13のストロークを用いて計算する方法、リフトシリンダ13,13に取り付けた角度センサ(図示せず)により検出されるリフトシリンダ13,13の仰角を用いて計算する方法、あるいは、コントローラ50からリフト操作弁44に出力した操作指令に基づいて計算する方法などが採用し得る。
次に、掘削工程以外の特定の作業状況においてより高いパワー出力を得られるようにした制御の変形例を説明する。この変形例にかかる制御は、上述した掘削工程時に高出力モードを選択する上述の制御と併用することも、あるいは、それに代えて採用することもできる。
ここでは、傾斜地において、ホイールローダ1が登坂走行を行なう場合に高出力モードを選択する制御例を説明する。
ホイールローダ1は、所定以上の傾斜角を有する斜面において登坂走行を行なう際には、低出力モードで出力できる上限出力トルクよりも高い出力トルクが欲しいことがある。従って本実施形態においては、登坂走行を行なっているか否かを判定し、登坂走行を行なっている場合には、そうでない場合よりも高いパワー出力が得られるようにしている。
前述した図3を再び参照して、ホイールローダ1の車体には、車体の前後方向における傾斜角を測定する傾斜角検出器46と、アクセルペダル49の開度を測定するアクセル開度検出器48と、車両の加速度を測定する加速度検出器47とが設けられており、それぞれコントローラ50に接続されている。コントローラ50は、これらのセンサ46〜48の出力に基づき、車両の傾斜角、アクセルペダルの開度、及び加速度を検出する。加速度についは、加速度検出器47を用いる代わりに、速度メータ34により検出された速度から計算してもよい。コントローラ50は、車両が一定以上の傾斜角で傾いていて、かつ走行している場合、登坂走行中と判定する。また、コントローラ50は、アクセルペダルが一定以上開いているにも拘らず、所定以上の加速度が得られない場合も、登坂走行中と判定する。あるいは、アクセルペダルと加速度のみから、登坂走行中か否かを判断してもよい。
図12に、この変形例にかかるエンジン21の制御手順をフローチャートで示す。
ステップS21でコントローラ50は、エンジン21の始動と同時にガバナ27に指令を出力し、例えば燃料噴射ポンプの噴射量を絞るなどのパワー出力制限を行って、エンジン21を低出力モードで運転させる。そしてステップS22でコントローラ50は、前述の掘削開始判定を行って、ホイールローダ1が掘削工程中か否かを判定する。ステップS22の結果、掘削工程中と判定されなければ、制御はステップS21に戻る。ステップS22の結果、掘削工程中と判定されれば、制御はステップS23に進み、コントローラ50は、ガバナ27に指令を出力し、燃料噴射ポンプの噴射量を上記制限のない状態に戻して、エンジン21が高パワー出力能力を発揮することのできる高出力モードで運転させる。
高出力モードの運転に入った後、ステップS24においてコントローラ50は、前述の掘削終了判定を行って、ホイールローダ1の掘削工程が終了したか否かを判定する。ステップS24の結果、掘削工程の終了が判定されなければ、制御はステップS23に戻る。また、ステップS24の結果、掘削工程の終了が判定されれば、制御はステップS21に戻って、エンジン21を低出力モードで運転させる。
またステップS22と並列に、コントローラ50はステップS25で、前述の登坂走行判定を行って、ホイールローダ1が登坂走行中か否かを判定する。ステップS25の結果、登坂走行中と判定されなければ、制御はステップS21に戻る。ステップS25の結果、登坂走行中と判定されれば、制御はステップS26に進み、コントローラ50は、ガバナ27に指令を出力し、燃料噴射ポンプの噴射量を上記制限のない状態に戻して、エンジン21が高パワー出力能力を発揮できる高出力モードで運転させる。
高出力モードの運転に入った後、ステップS27においてコントローラ50は、前述の登坂走行判定を行って、ホイールローダ1が登坂走行しているか否かを判定する。ステップS27の結果、登坂走行していると判定されれば、制御はステップS26に戻る。また、ステップS27の結果、登坂走行していると判定されなければ、制御はステップS21に戻って、コントローラ50は、エンジン21を低出力モードで運転させる。
ところで、上記の制御においては、掘削作業時にも登坂走行にも、エンジン21が同様の高出力モードで運転されるが、制御はこれに限られるものではない。例えば、登坂走行時においては、エンジン21を低出力モードと高出力モードとの中間のパワー出力能力をもった中間出力モードで運転するようにしてもよい。或いは、登坂時の負荷の大きさを検出して、その負荷の大きさに応じてエンジン21のパワー出力能力を多段階又は連続的に変更してもよい。いずれにせよ、上記のような制御により、掘削工程時だけでなく、登坂走行にも十分なパワー出力を得られるので、スムーズな運転が可能である。
次に、エンジンのパワー出力能力の制御のさらに別の変形例について説明する。
この変形例にかかる制御では、コントローラ50は、ホイールローダ1の作業負荷の状態の検出結果に基づいて、図2Aから図2Hに示した工程のうちのどれが現在行われているかを判定し、その判定結果に基づいて、エンジン21のパワー出力能力を制御する。
図13は、この制御における工程の判定方法と判定結果に応じたエンジンのパワー出力能力の制御方法をテーブルで示す。
図13に示したテーブルにおいて、一番上の「作業工程」の行には、図2Aから図2Hに示した作業工程の名称が示されている。その下の「速度段」、「作業機操作」及び「作業機シリンダ圧力」の行には、コントローラ50が現在の工程がどの工程であるかを判定するために使用する、各種の判断条件が示されている。
すなわち、「速度段」の行には、変速機23の速度段についての判定条件が丸印で示されている。ここでは、変速機23が前進4速度段F1〜F4及び後進2速度段R1、R2を有する場合を想定している。また、「作業機操作」の行には、作業機10に対する運転者の操作についての判定条件が丸印で示されている。すなわち、「アーム」の行にはリフトアーム11に対する操作に関する判定条件が、「バケット」の行にはバケット12に対する操作に関する判定条件が示されている。また、「作業機シリンダ圧力」の行には、作業機10のシリンダの現在の油圧、例えばリフトシリンダ11のボトム圧、についての判定条件が示されている。ここで、リフトシリンダボトム圧に関して、図8に示すように、前述の基準値Pの他に、その基準値Pより高い3つの基準値A,B,Cが予め設定され、これら基準値A,B,C,Pにより複数の圧力範囲(例えば、基準値P未満の範囲、基準値AからCの範囲、基準値BからPの範囲、基準値C未満の範囲)が定義され、これらの圧力範囲が上記判断条件として設定されている。
以上のような各工程ごとの「速度段」、「アーム」、「バケット」「作業機シリンダ圧力」の判定条件の組み合わせを用いることにより、コントローラ50は、現在行われている工程がどの工程なのかを判別することになる。
「エンジン出力モード」の行には、上記判別の結果として、コントローラ50が「高出力モード」と「低出力モード」のいずれを選択するが示されている。その下の「出力トルク変化」の行には、このようなエンジンパワー出力制御の結果として、エンジン21の出力トルクが具体的にどのように変化するかの例が示されている。
図13に示した制御を行う場合のコントローラ50の具体的動作を以下に説明する。
コントローラ50は、図13に示した各工程に対応する「速度段」、「アーム」、「バケット」及び「作業機シリンダ圧力」の判定条件の組み合わせを予め記憶している。コントローラ50は、図3に示したシフト位置検出装置31からの信号に基づいて変速機23の現在選択されている速度段(F1〜F4、R1又はR2)を把握し、アーム操作指示検出装置32からの信号に基づいてリフトアーム11に対する現在の操作の種類(例えば、フロート、下げる、中立又は上げる)を把握し、また、バケット操作指示検出装置33からの信号に基づいてバケット12に対する現在の操作の種類(例えば、ダンプする、中立又はチルトする)を把握する。さらに、コントローラ50は、図3に示したボトム圧検出器45からの信号に基づいて、リフトシリンダ11の現在のボトム圧を把握する。
そして、コントローラ50は、把握された現在の速度段、アーム操作種類、バケット操作種類及びリフトシリンダボトム圧力の組み合わせ(つまり現在の作業状態)を、予め記憶してある各工程に対応する「速度段」、「アーム」、「バケット」及び「作業機シリンダ圧力」の判定条件の組み合わせと対照するというマッチング処理を行なう。マッチング処理の結果として、コントローラ50は、現在の作業状態に最も良くマッチする判定条件の組み合わせに対応する工程がどれであるか判定する。
ここで、図13に示す各工程に対応する判定条件の組み合わせは、具体的には次のとおりである。
前進工程(図2A): 速度段がF1で、アーム操作とバケット操作が共に中立で、作業機シリンダ圧力が基準値P未満である。速度段については、単純に現在の速度段がF1又はF2ということだけでなく、速度段がF2からF1に切り替わったというシフトダウンも判定条件として採用し得る(まずF2で発進してからF1にシフトダウンして前進することが多いため)。また、直前に判定された工程が後進・ブーム下げ工程であったという、判定の履歴も追加の判定条件として採用し得る。
掘削工程(突込みサブ工程)(図2B): 速度段がF1又はF2で、リフトアーム操作とバケット操作が共に中立で、作業機シリンダ圧力が基準値AからCの範囲である。また、直前に判定された工程が前進工程であったという、判定の履歴も追加の判定条件として採用し得る。
掘削工程(掬込みサブ工程)(図2C): 速度段がF1又はF2で、リフトアーム操作が上げるか又は中立で、バケット操作がチルトで、作業機シリンダ圧力が基準値AからCの範囲である。バケット操作については、さらに、チルトと中立が交互に繰り返される場合も含むような判定条件を追加してもよい(作業対象物の種類によっては、バケット12をチルトバックさせ、中立にし、再びチルトバックさせるという動作を繰り返す場合があるから)。また、直前に判定された工程が掘削の突込みサブ工程であったという、判定の履歴も追加の判定条件として採用し得る。
後進・ブーム上げ工程(図2D): 速度段がR1又はR2で、リフトアーム操作が上げるで、バケット操作が中立で、作業機シリンダ圧力が基準値BからPの範囲である。また、直前に判定された工程が掘削の掬込みサブ工程であったという、判定の履歴も追加の判定条件として採用し得る。
前進・ブーム上昇工程(図2E): 速度段がF1又はF2で、リフトアーム操作が上げるか又は中立で、バケット操作が中立で、作業機シリンダ圧力が基準値BからPの範囲である。また、直前に判定された工程が後進・ブーム上げ工程であったという、判定の履歴も追加の判定条件として採用し得る。
排土工程(図2F): 速度段がF1又はF2で、リフトアーム操作が上げるか又は中立で、バケット操作がダンプで、作業機シリンダ圧力が基準値BからPの範囲である。また、直前に判定された工程が前進・ブーム上昇工程であったという、判定の履歴も追加の判定条件として採用し得る。
後進・ブーム下げ工程(図2G): 速度段がR1又はR2で、リフトアーム操作がフロート又は下げるで、バケット操作がチルトで、作業機シリンダ圧力が基準値P未満の範囲である。また、直前に判定された工程が排土工程であったという、判定の履歴も追加の判定条件として採用し得る。
単純走行工程(図2H): 速度段がF1、F2、F3又はF4で、リフトアーム操作とバケット操作が中立で、作業機シリンダ圧力が基準値C未満の範囲である。
コントローラ50は、以上のような工程ごとの判定条件の組み合わせの中から、現在の作業状態(単なる現在の状態だけでなく、上述したように変速シフト動作や作業機操作の変化や判定の履歴も含み得る)に最も良くマッチしたものを見つけ出すことで、現在の工程がどの工程であるかを判別する。そして、コントローラ50は、判別された工程に対応したエンジン出力モードで、エンジン21を運転する。すなわち、図13に示すように、掘削工程が判別された場合には、コントローラ50は高出力モードでエンジン21を運転する。他方、前進工程、後進・ブーム上げ工程、前進・ブーム上げ工程、掘削工程又は後進・ブーム下げ工程が判別された場合には、コントローラ50は低出力モードでエンジン21を運転する。また、単純走行工程が判別された場合には、コントローラ50は、例えば既に説明したような登坂走行かどうかなどの判定を行うことで、車両にかかる負荷の大きさを判断し、その負荷の大きさに応じて低出力モードか高出力モードを選択する。運転者による変速機操作や作業機操作や作業機のシリンダ油圧などの組み合わせに基づいた判定結果によりエンジンのパワー出力能力が制御されるため、工程の遷移に即応してパワー出力能力を変更することができる。
上記の制御の結果として、図13の一番下の行に示されているように、掘削積込作業では、掘削工程のときには、運転者がアクセルペダルを踏み込めば、エンジン21の出力トルクは、エンジン21が出し得るフルトルクまで上昇する。しかし、掘削工程以外の工程では、運転者がアクセルペダルを最も深く踏み込んでも、エンジン21の出力トルクは、制限された上限トルク、例えばフルトルクの80%までしか上昇しないが、その分だけ燃料が節約される。ところで、このトルク変化カーブにおいて、変速機23の前進と後進の切り替え時に一時的に生じる出力トルクの低下は、運転者がアクセルペダルの踏み込みを一時的に緩めることに因るものである。また、排土工程の後半での出力トルクの低下は、作業対象物がすべてダンプされた後に運転者がアクセルペダルの踏み込みを緩めることに因るものである。
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は本発明の説明のための例示にすぎず、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱することなく、その他の様々な態様でも実施することができる。
例えば、ホイールローダ以外の他の種類の作業車両においても本発明は適用が可能である。そして本発明が適用される作業車両の種類に応じて、作業状態の検出方法も変り得る。例えば、油圧ショベルの場合には、ブームシリンダ、アームシリンダ又はバケットシリンダの油圧を検出することで、油圧ショベルにかかる負荷の大きさを判断するようにしてよい。
上記実施形態では、高出力モードではエンジンパワー出力に制限を加えずに定格又は最大のパワー出力能力が発揮できるようにしているが、制御はこれだけに限定されない。例えば、高出力モードでは最大パワー出力能力よりもわずかに低いパワー出力能力が得られるようにしてもよい。また、トルクカーブの形状が異なる複数のエンジン出力モードを用意して、それらモードを現在の作業状態に応じて適宜に選択するようにしてもよい。
さらには、予め用意された複数のエンジン出力モードを選択する制御に代えて又は併用して、検出された負荷の大きさや作業状況に合うように、コントローラ50が演算によりエンジンのパワー出力能力を連続的につまり無段階で可変制御するようにしてもよい。
ホイールローダの側面図。 ホイールローダの掘削積込作業の工程の一例を示す説明図。 エンジン制御装置の系統図。 エンジンの制御手順の概略を示すフローチャート。 高出力モードと低出力モードでのエンジンのパワー出力能力に相当する上限出力トルクカーブの一例を示すグラフ。 高出力モードと低出力モードでのエンジンのパワー出力能力に相当する上限出力トルクカーブの別の例を示すグラフ。 掘削工程でのホイールローダの作業機の状態を示す側面図。 リフトシリンダのボトム圧の変化を示すグラフ。 掘削工程の開始を判定する制御手順を示すフローチャート。 掘削工程の終了判定する制御手順を示すフローチャート。 作業機の掘削位置を示す側面図。 掘削工程時と登坂走行時に高出力モードを選択する制御手順の概略を示すフローチャート。 現在どの工程が行われているかを判定してエンジンの出力モードを切り替える制御の説明図。
符号の説明
1:ホイールローダ、2:運転室、3:エンジンルーム、4:後輪、5:後部車体、6:前輪、7:前部フレーム、10:作業機、11:リフトアーム、12:バケット、13:リフトシリンダ、14:チルトアーム、15:チルトシリンダ、16:チルトロッド、20:走行装置、21:エンジン、22:トルクコンバータ、23:変速機、24:分配機、25:減速機、26:可変容量型油圧ポンプ、27:ガバナ、28:上限出力トルクカーブ、29:マッチングカーブ、30:運転操作装置、31:シフト位置検出装置、32:アーム操作指示検出装置、33:バケット操作指示検出装置、34:速度メータ、40:エンジン制御装置、41:容量制御装置、42:吐出回路、43:チルト操作弁、44:リフト操作弁、45:ボトム圧検出器、46:傾斜角検出器、47:加速度検出器、48:アクセル開度検出器、49:アクセルペダル、50:コントローラ。

Claims (2)

  1. 作業車両用エンジンのパワー出力を制御する装置(40)において、
    エンジン(21)からのパワー出力を消費する、前記作業車両(1)に備えられる作業機及び/又は走行装置(20)を含む1又は複数の作業負荷の状態を表す1又は複数の変数値を検出する1又は複数の検出装置と、
    前記1又は複数の検出装置により検出された、前記1又は複数の変数値に基づいて、前記エンジン(21)の出力可能な最高のパワー出力であるパワー出力能力を制御するコントローラ(50)と
    を備え、
    前記1又は複数の検出装置が、
    前記作業機(10)を動かすための1又は複数の油圧シリンダ(13又は15)の油圧を検出する油圧検出装置、
    前記作業機(10)に対して行われる操作を検出する作業機操作検出装置(32又は33)、及び
    前記走行装置(10)に含まれる変速機(23)の操作又は選択されている速度段を検出する変速機操作検出装置(31)
    を含み、
    前記コントローラ(50)が、
    前記1又は複数の油圧シリンダ(13又は15)の油圧と、前記作業機(10)に対して行われる操作と、前記変速機(23)の操作又は選択されている速度段とに基づいて、掘削工程を含む所定の異なる種類の工程のうちのどれが行われているかを判定し、判定結果に応じて前記パワー出力能力を制御する
    エンジン制御装置。
  2. 前記コントローラ(50)が、判定された工程に応じて上限出力トルクカーブが異なるように、前記パワー出力能力を制御する請求項1記載のエンジン制御装置。
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