本発明は、導電性粒子成分、エポキシ樹脂成分、及びエポキシ樹脂硬化性成分を含んでなる導電性接合材料、それを用いて電気電子回路を形成する方法、及びその電気電子回路を具備する電気電子機器に関する。
電気電子回路を形成する技術分野において、電気電子部品(以下、単に「電子部品」とも称する)を基板に実装する用途及び基板上に配線を形成する用途に、導電性接合材料、即ち導電性接着剤が広く用いられている。このような電気電子部品の実装の分野において用いられる導電性接着剤は、基本的に、バインダーとしての樹脂組成物中に金属粒子などの導電性粒子を分散させた組成を有している。樹脂組成物がペースト状の形態を有する導電性接着剤は、導電性ペーストとも称される。
この樹脂組成物中には、特定の条件、例えば一定の温度条件に付されることによって、樹脂組成物を硬化させる硬化剤成分が含まれている。従って、導電性接着剤が一定の温度条件に付されると、樹脂組成物が硬化しながら収縮するため、樹脂組成物全体の体積が減少する。その結果、樹脂組成物中に分散されていた導電性粒子が相互に接触するようになり、硬化した導電性接着剤の中に導電性の経路(導電路)を形成することができる。
このような導電性接着剤の例として、樹脂組成物としてのエポキシ樹脂、該エポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤、及び電性粒子として銀又はニッケルなどの金属粒子を含む系の接着剤組成物がある。このような系の接着剤組成物は、一般に120℃以上に加熱することにより硬化する。
近年、電子部品の高機能化が図られたことに伴って、耐熱性レベルのより低い電子部品が多く用いられるようになっており、従ってより低温で硬化する導電性接着剤(実装用接合材料)が求められている。更に、上述のような一液型の接着剤組成物については、作業現場での操作性を考慮して、接着剤組成物の状態で数日〜数週間の期間の保存安定性も求められている。
導電性ペーストの低温硬化を指向して、従来から接着剤として知られている1液タイプの低温硬化性エポキシ樹脂組成物を導電性ペーストに利用することが検討されている。例えば、エポキシ樹脂、硬化剤としてのチオール化合物及び固体分散型潜在性硬化促進剤を含む樹脂組成物が接着剤として知られている(特許文献1)。更に保存安定性の向上を目的として、この組成に加えてホウ酸エステル化合物を更に含む導電性ペーストが提案されている(特許文献2)。
特開平06−211969号公報
特開2000−230112号公報
このような技術的背景に基づいて、この出願の1つの発明は、比較的低温で硬化させることができ、かつ、高い保存安定性を有する実装用接着剤を提供すること、およびそのような実装用接着剤を用いた回路基板の製造方法を提供すること、並びにそのような回路基板を備える電気電子機器を提供することを目的とする。
また、この出願のもう1つの発明は、ホウ酸エステル化合物のような追加の成分を含まずに高い保存安定性を有し、かつ、所望の場合に硬化し、好ましくは速やかに低温硬化する導電性ペーストを提供すること、及びそのような導電性ペーストを用いて配線基板および電子部品実装体を製造する方法を提供することを目的とする。
エポキシ樹脂の硬化剤としてチオール基(−SH)を有する化合物が用いられる場合には、作業の現場において、その化合物からチオール基に由来する特有の不快臭が発生して、作業者は不快感を感じるため、安全衛生上好ましくない。更に、未硬化のエポキシ樹脂は一般に透明であって、硬化するとその色調が変化するが、導電性ペーストに含まれる導電性フィラー(導電性粒子)は通常不透明であるため、硬化の完了を樹脂の色調の変化に基づいて目視または検査器により確認することは容易ではない。
そこで、この出願の更にもう1つの発明は、エポキシ樹脂系の導電性接着剤に関して、不快な臭気の発生を防止又は低減して、硬化の完了をより容易に確認することのできる導電性ペーストを提供すること、及びそのような導電性ペーストを用いて配線基板および電子部品実装体を製造する方法を提供することを目的とする。
この出願は、第1の発明として、導電性粒子成分、エポキシ樹脂成分、及びエポキシ樹脂硬化性成分を含んでなる導電性接合材料であって、エポキシ樹脂硬化性成分が鎖状又は環状の含硫黄化合物を含むことを特徴とする発明を提供する。含硫黄化合物は、チオール基(−SH)を有する化合物であることが好ましい。
この出願の第1の発明は、1つの要旨によれば、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂を硬化させるための潜在性硬化剤および導電性粒子を含む実装用接合剤であって、含硫黄化合物をエポキシ樹脂100重量部に対して約1〜100重量部で更に含む実装用接合剤(または導電性接着剤)が提供される。
第1の発明の実装用接合剤によれば、含硫黄化合物にはSH基が含まれているので、SH基に由来する−S−が求核置換反応によりエポキシ基のC+にアタックして開環させ、これにより硬化を開始させることができる。
これに対して、他の改質剤、例えばシラン系、チタネート系およびアルミニウム系カップリング剤(または表面処理剤)などは硬化を開始させることはできない。エポキシ樹脂および潜在性硬化剤を含み、標準硬化条件が120℃にて10分間である導電性接着剤にこのようなカップリング剤を添加すると、接着強度の改善がみられるものの、硬化特性に対してはほとんど影響を与えないか、むしろ、より高い温度である130℃にて10分間の加熱を要するようになる。
第1の発明の実装用接合剤によれば、上記のような含硫黄化合物が適当な量で含まれているので比較的低温で、例えば約70〜110℃で10分間加熱することによりエポキシ樹脂硬化性成分を活性化させ、エポキシ樹脂成分を硬化させることができる。よって、本発明の実装用接合剤を用いれば、耐熱温度が120℃より低い電子部品であっても特別な処置および/または装置を要することなく熱損傷を回避して基板に実装することが可能となる。更に、このような本発明の実装用接合剤は保存安定性に優れ、回路基板を連続的に(または同条件で)製造するのに適するという利点がある。
含硫黄化合物の量はエポキシ樹脂100重量部に対して約1〜100重量部とする。この改質剤の量がエポキシ樹脂100重量部に対して約1重量部より少ないと硬化温度を十分に低下させることができず、他方、約100重量部より多いと十分な保存安定性が得られない。
1つの態様において第1の発明の実装用接合剤は増粘剤を更に含む。このように増粘剤を添加して実装用接合剤の粘度を調節することによって、転写、スクリーン印刷、ディスペンスなどの種々の方法に応じて実装用接合剤を基板の所定の領域に適切に供給することができる。
第1の発明のもう1つの要旨によれば、第1の発明の実装用接合剤を用いて電子部品が実装された回路基板を含む電気電子機器が提供される。
この回路基板は、例えば、第1の発明の実装用接合剤を基板の所定の領域(一般的には電極またはランド)に供給し、電子部品を(より詳細にはその電極を)実装用接合剤と接触させて基板上に配置し、実装用接合剤を70〜110℃で加熱してエポキシ樹脂を硬化させ、これにより電子部品を基板の電極に機械的および電気的に接合する(即ち、実装する)ことをこの順序で含む方法によって製造することができる。
この出願は、第2の発明として、導電性粒子成分が金属粒子であって、含硫黄化合物が金属粒子の表面に配位してなる請求項1記載の導電性接合材料であって、所定の条件に付することによって前記チオール化合物が金属粒子から脱離してエポキシ樹脂硬化性成分となることを特徴とする導電性接合材料の発明を提供する。
この第2の発明は、1つの態様において、導電性粒子成分が金、銀および銅からなる群から選択される金属粒子から成ることを特徴とする。
この第2の発明は、1つの態様において、所定の条件に付することが、紫外線照射、電子線照射及び加熱のいずれかの操作に付することであることを特徴とする。これらのいずれかに操作によって、エポキシ樹脂硬化性成分を活性化させることができる。
この第2の発明は、もう1つの態様において、金属粒子が1nm〜100μmの平均粒径を有することを特徴とする。
この第2の発明は、もう1つの態様において、金属粒子が1〜100nmの平均粒径を有することを特徴とする。
回路形成用または配線層間用の導電性ペーストとして、ナノサイズ(ナノメートル(nm)のオーダーの寸法)の金属粒子(金属ナノ粒子とも言う)を液体中で分散させたものが知られている。金属ナノ粒子は、粒径のより大きな金属粒子に比べて活性が高く、常温で容易に凝集するため、保存安定性に関して問題がある。これを解決するため、金属ナノ粒子に配位結合する分散剤を添加して金属ナノ粒子を保護および安定化し、その後、分散剤を加熱により金属ナノ粒子から除去して酸無水物等の物質で捕捉することも知られている(例えば、特開2002−299833号公報)。
本発明者らは金属粒子に対する含硫黄化合物の配位状態の制御という点に着目し、更なる鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。
第2の発明の第1の要旨によれば、金属粒子と、含硫黄化合物と、樹脂とを含む導電性ペーストにおいて、含硫黄化合物はその末端基にて金属粒子の表面に配位しており、末端基が金属粒子の表面から脱離して樹脂の硬化剤として機能することを特徴とする導電性ペーストが提供される。
第2の発明の上記導電性ペーストによれば、含硫黄化合物は、その末端基にて金属粒子表面に配位でき(以下、本明細書においてこのような含硫黄化合物を配位性含硫黄化合物とも言うものとする)、配位している状態では硬化剤として機能せず、金属粒子表面から脱離した状態で硬化剤として機能する。要するに、この配位性含硫黄化合物は一種の潜在性硬化剤であり、硬化をもたらす末端基を配位結合によりキャップすることによって硬化反応を防止でき、また、配位結合を切断して末端基をフリーにすることによって硬化反応を起こさせるものである。このような本発明の導電性ペーストによれば、含硫黄化合物が配位している間は高い保存安定性を示し、所望の場合に配位状態を解除することにより硬化を開始させることが可能となる。特に、脱離した状態にて低温速硬化性の硬化剤として機能する配位性含硫黄化合物を用いれば、保存安定性が高く、かつ、所望の場合に速やかに低温硬化させることが可能となる。
尚、第2の発明において「硬化剤として機能する」とは樹脂の硬化反応を起こさせることを意味し、例えば、樹脂同士の結合反応を促進するものであっても、樹脂との結合反応によって樹脂間を架橋するものであってもよい。
配位性含硫黄化合物の末端基は、通常の状態において金属に配位し、所望の場合に配位状態を解除できることを要する。そのような末端基は孤立電子対を有する配位原子を含むものであればよく、外的作用、例えば紫外線および電子線などの照射ならびに加熱などによって配位原子と金属との間の配位結合を切断することが可能である。紫外線または電子線の照射量ならびに加熱の温度および時間は適当に選択してよい。加えて、配位性含硫黄化合物の末端基は樹脂の硬化反応に寄与し、硬化剤として機能し得ることを要するが、これは用いる樹脂および硬化方法との組合せにより様々であり得る。配位性含硫黄化合物は、脱離した状態で直ちに硬化剤として機能してもよく、あるいは、何らかの作用、例えば加熱などによって硬化剤として機能してもよい。
配位性含硫黄化合物の末端基は、例えばチオール基であってよい。チオール基は孤立電子対を有する硫黄原子を含むため金属に配位できると共に、樹脂の硬化、特にエポキシ樹脂の低温速硬化に寄与するものである。そのような配位性含硫黄化合物の例にはアルカンチオール化合物、具体的には1−デカンチオールおよび1−ヘキサンチオールなどのモノチオール化合物、ならびに1,10−デカンジチオール、1,8−オクタジチオールおよび1,6−ヘキサンジチオールなどのポリチオール化合物などが挙げられるが、チオール末端基を有する他のモノまたはポリチオール化合物を用いることももちろん可能である。尚、硬化時間は一般的にモノチオール化合物よりもポリチオール化合物を用いたほうがより短い。
エポキシ樹脂には未硬化のエポキシ樹脂、即ち1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂状物質を使用できる。例えばグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型および脂環型などの既知のエポキシ樹脂を使用できる。また、そのようなエポキシ樹脂の前駆体を使用してもよい。
しかし、第2の発明はこれに限定されず、第2の発明の概念を逸脱しない限り、任意の適切な配位性含硫黄化合物および樹脂を使用してよい。例えば、配位性含硫黄化合物の末端基はアミノ基であってもよい。
金属粒子は、金、銀および銅からなる群から選択される金属材料から成るものであってよい。本発明を限定するものではないが、上述したチオール基の硫黄原子は、このような金属材料から成る金属粒子の表面に良好に配位し得、これに対して、例えばニッケルから成る金属粒子の表面に実質的に配位しない。
第2の発明の1つの態様において、金属粒子は例えば約1nm〜100μm、好ましくは約1〜100nmの平均粒径を有する。平均粒径が約1nm〜100μmの金属粒子を用いた導電性ペーストは、印刷法に適用した場合に良好な印刷性を示し、また、樹脂を硬化させた場合に導電性材料として十分に低い抵抗を実現できる。平均粒径が約1〜100nmのナノサイズの金属粒子を用いた導電性ペーストは、比較的低温で金属粒子を焼結させることが可能であるので、一層低い抵抗を、温度変化による硬化樹脂の体積変化に対して安定に実現できる上、保存の際は、配位性含硫黄化合物により金属ナノ粒子が保護および安定化されるので、金属ナノ粒子の凝集の問題を回避し、分散性および保存安定性を確保できる。
第2の発明の1つの態様において、2種以上の金属粒子が導電性ペーストに含まれ、配位性含硫黄化合物はその末端基にて少なくとも1種の金属粒子の表面に配位する。これら金属粒子は異なる粒径を有していてよく、例えば金属ナノ粒子とより大きな粒径を有する金属粒子とを用いることが好ましい。粒径の相違する金属粒子を用いることによって金属粒子による充填密度を向上させつつ、金属ナノ粒子のみを用いる場合よりも印刷性を向上させ、および高価な金属ナノ粒子の量を相対的に減らせることによりコストを下げることができる。
第2の発明の導電性ペーストにおいて、金属粒子、配位性含硫黄化合物および樹脂の割合は、配位性含硫黄化合物が樹脂の硬化剤として機能し、樹脂が硬化により収縮した場合に金属粒子同士が接触または接近して十分な導電性を示すように選択される。
また、第2の発明の導電性ペーストは金属粒子、配位性含硫黄化合物および樹脂に加えて、任意の他の成分を含んでいてよく、これら成分の割合もまた導電性ペーストの使用目的などに応じて適宜選択され得るであろう。
第2の発明の導電性ペーストは任意の適当な方法により製造できるが、配位性含硫黄化合物が金属粒子表面に配位する前に樹脂に対する硬化剤として機能しないように(即ち、硬化が起こらないように)、金属粒子および配位性含硫黄化合物などの構成成分(但し、少なくとも樹脂は除く)を調製し、その後、この調製物に樹脂を含む残りの構成成分を添加して製造することが好ましい。調製に用いる金属粒子は、その表面に配位性含硫黄化合物が配位し得るように、化学的に活性であること、換言すれば、酸化膜等で被覆されずに露出していることが好ましい。
以上のような第2の発明の導電性ペーストは製造上の管理および取り扱いが容易であり、様々な用途に利用できる。例えば、配線基板の配線形成用材料、多層基板(本発明において両面基板を含む)の配線層間導通用材料、および電子部品実装体の実装用接合材料などとして使用できる。
第2の発明の第2の要旨によれば、基板上に配線を有する配線基板の製造方法であって、
第2の発明の導電性ペーストを配線に対応するパターンで基板に供給し、
導電性ペーストを紫外線照射、電子線照射および加熱のいずれかの操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子の表面から脱離させ、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む製造方法が提供される。
このような製造方法は、従来の導電性ペーストを用いる製造方法に比べて、導電性ペーストの管理および取り扱いが極めて簡単であり、比較的低温で実施できるという利点がある。この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いれば、低くて安定な配線抵抗を有する配線基板を提供することができる。
第2の発明の第3の要旨によれば、基板上に配線を有する配線基板の製造方法であって、
第2の発明の導電性ペーストを紫外線照射、電子線照射および加熱のいずれかの操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させ、
導電性ペーストを配線に対応するパターンで基板に供給し、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む製造方法も提供される。
このような製造方法は、従来の導電性ペーストを用いる製造方法に比べて、導電性ペーストの管理および取り扱いが簡単であり、比較的低温で、好ましくは基板および場合により基板上に存在し得る他の部材の加熱を最小限にして実施できるという利点がある。この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いれば、低くて安定な配線抵抗を有する配線基板を提供することができる。
第2の発明の第4の要旨によれば、複数の配線層が基板を挟んで多層化され、少なくとも2つの配線層が基板を貫通する孔を通じて電気接続された多層基板の製造方法であって、
本発明の導電性ペーストを紫外線照射、電子線照射および加熱のいずれかの操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させ、
導電性ペーストを基板の孔に充填し、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む製造方法が提供される。
このような製造方法は、上記第3の要旨による製造方法と同様の利点がある。この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いた場合、低くて安定な接続抵抗を有する配線層間導通部を備える多層基板を提供することができる。
また、多層基板は、
導電性ペーストを基板の孔に充填し、
本発明の導電性ペーストを加熱操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させ、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む方法によっても製造することができる。
第2の発明の第5の要旨によれば、電子部品が配線基板に実装された電子部品実装体の製造方法であって、
第2の発明の導電性ペーストを配線基板の所定の領域に供給し、
導電性ペーストを紫外線照射、電子線照射および加熱のいずれかの操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させ、
電子部品を導電性ペーストと接触するようにして配線基板上に配置し、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む製造方法が提供される。
このような製造方法は、上記第2の要旨による製造方法と同様の利点がある。この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いれば、低くて安定な接続抵抗を有する実装接合部を備える電子部品実装体を提供することができる。
また、第2の発明の第6の要旨によれば、電子部品が配線基板に実装された電子部品実装体の製造方法であって、
第2の発明の導電性ペーストを紫外線照射、電子線照射および加熱のいずれかの操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させ、
導電性ペーストを配線基板の所定の領域に供給し、
電子部品を導電性ペーストと接触するようにして配線基板上に配置し、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む製造方法も提供される。
このような製造方法は、上記第3の要旨による製造方法と同様の利点がある。この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いれば、低くて安定な接続抵抗を有する実装接合部を備える電子部品実装体を提供することができる。
この出願の第3の発明は、上記第1又は2の発明について、香料を更に含むことを特徴とする。
上記第3の発明の導電性接合材料は、導電性粒子成分が金属粒子であり、香料が還元性を有する物質であることを特徴とする。
建築分野において使用されるエポキシ樹脂を主剤に含む「二液型」のシーリング剤または接着剤では、チオール基(またはメルカプト基)を有する化合物の臭気の問題への対処が検討されている。例えば、バニリン、レモン油および/またはエステル系溶剤を添加してチオール基の臭気をマスキングすること(例えば、特開平04−23882号公報を参照)や、臭気成分である低分子量メルカプタンを含水ケイ酸マグネシウム鉱物であるセピオライトで吸着すること(例えば、特開平10−60097号公報を参照)が提案されている。
このような「二液型」の接着剤と比較すれば、「一液型」の導電性ペーストは使用に際し混合作業を要しない分、臭気の問題は若干緩和されものの、解決されるわけではない。
発明者らは、臭気のマスキングという点に着目し、更なる鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。
第3の発明の1つの要旨においては、導電性フィラー、樹脂、および樹脂を硬化させるための硬化剤を含み、更に香料を含む導電性ペーストが提供される。
このような第3の発明の導電性ペーストは香料が添加されているので、導電性ペーストに含まれる樹脂および/または硬化剤が臭気を放つものであっても、香料の芳香により臭気をマスキングできる。これにより、作業者に不快感を与えることが低減され、好ましくは作業者に快い感覚を与えることが可能となる。
加えて、第3の発明の導電性ペーストによれば、樹脂が未硬化の状態では香料の芳香が発散されるが、硬化後は香料が硬化物内に封入されて、発散される芳香が弱くなるかまたはほとんど感じられなくなる。これにより、導電性フィラーが不透明であっても、硬化の完了を導電性ペーストの匂いの有無(またはその強さの程度)に基づいてヒトの嗅覚または検査器により確認することが可能となる。
第3の発明において香料(又は香気成分)とは、一般的に認識されているように、芳香を有し(または香気を放ち)、ヒトの嗅覚を刺激して快感を与えるものを意味する。香料は芳香または香気を発する成分、即ち香気成分に加えて他の成分を含んでいてよく、天然香料および合成香料のいずれであっても、また、天然香料および合成香料からなる群から選択される2種以上の香料を混合した調合香料であってもよい。
天然香料は一般的に動植物体から抽出した芳香油(精油)から成り、動物性天然香料の例には麝香(ムスク)、霊猫香(シベット)、海狸香(カストリウム)および竜涎香(アンバーグリス)などが含まれ、これら香料の香気成分はそれぞれムスコン、シベトン、カストリンおよびアンブレインである。植物性天然香料は主として植物の花、果実、樹皮または葉などから得られる芳香油から成り、その例にはアニス油、オレンジ油、カシア油、クローブ油、サンダルウッド油、シトロネラ油、しょう脳油、スペアミント油、ゼラニウム油、テレピン油、パイン油、薄荷油、プチグレン油、ベルガモット油、ボアドロース油、ユーカリ油、ライム油、ラベンダー油、レモンクラス油およびレモン油などが含まれ、そのような香料の香気成分としてはアネトール、オイゲノール、カヂネン、カルボン、クマリン、ゲラニオール、酢酸エステル(例えば酢酸シンナミル、酢酸リナニル、酢酸メンチル)、サフロール、サリチル酸メチル、サンタロール、シトラール、シトロネラール、シネオール、カンファー、シンナミックアルデヒド、ターピネオール、デシルアルデヒド、バニリン、α,β−ピネン、ミルセン、メントール、メントン、リナロールおよびリモネンなどが挙げられる。
他方、合成香料の例にはヨノン(またはイオノン)、ヒドロキシントロネラール、ヘリオトロピン、β−ナフトールメチルエーテル、γ−ウンデカラクトン、γ−ノナラクトン、メチルフェニルグリシフド酸エチル、マルトール、シクロテン、エチルマルトール、バニリンおよびエチルバニリン(またはブルボナール)などが含まれ、これらを単独で、または2種以上含む混合物として用いてよい。
第3の発明の導電性ペーストの1つの態様において、樹脂はエポキシ樹脂であり、硬化剤はチオール基を有する化合物である。このような導電性ペーストは比較的低温で速やかに硬化するという利点がある上、チオール基を有する化合物が発する独特のひどい臭気を香料の芳香によりマスキングできる。従って、このような導電性ペーストは不快な匂いが特に問題とされるような電気電子機器、例えば携帯型機器、食品の加工(調理)または保存に使用される機器ならびに美容健康に関連する機器などの人間の生活環境において使用され得るような機器にも利用することができる。
第3の発明の導電性ペーストの好ましい態様において、導電性フィラーは金属粒子であり、香料は還元性を有する成分(以下、単に還元性成分と言う)を含んで成る。金属粒子は空気などにより酸化され、また、チオール基を有する化合物により硫化されることがあり、このような場合、導電性ペーストから得られる導電性の硬化物の体積抵抗率は金属粒子表面に酸化物および/または硫化物が形成されていない場合に比べて高くなる。これに対して、第3の発明のこの態様のように還元性成分を含んで成る香料を添加することによって、金属粒子の酸化および/または硫化を防止でき、よって、これに起因する硬化物の体積抵抗率の上昇を回避できる。尚、第3の発明に使用される「金属粒子」は単体金属から成る粒子であっても、合金、例えばはんだ材料、好ましくは鉛フリーはんだ材料から成る粒子であってもよい。
しかしながら第3の発明はこれに限定されず、導電性フィラーは金属粒子だけでなく、カーボン、導電性ポリマーなどの粉体または粒状物などであってもよい。また、樹脂はエポキシ樹脂の他、フェノール樹脂などであってよく、硬化剤は用いる樹脂に応じて、チオール系化合物以外にも、例えばアミン系化合物、フェノール系化合物などを適宜選択できるであろう。また、第3の発明の導電性ペーストは導電性フィラー、樹脂、硬化剤および香料に加えて、任意の他の成分を含んでいてよい。
第3の発明の導電性ペーストにおいて、導電性フィラー、樹脂、硬化剤、香料および場合により添加される追加成分の割合は、樹脂が硬化により収縮した場合に導電性フィラー同士が接触または接近して十分な導電性を示すように選択される。特に、香料の割合は、マスキングしたい臭気を発する成分の種類および臭気の強さ、ならびに香料の芳香の種類および強さなどに応じて選択できるであろう。
本発明の導電性ペーストは任意の適当な方法により、例えば構成成分を単に混合または混練することによって製造できる。
以上のような第3の発明の導電性ペーストは様々な用途、例えば電子部品実装体の実装用接合材料、配線基板の配線形成用材料および多層基板の配線層間導通用材料などに利用できる。
第3の発明のもう1つの要旨においては、導電性ペーストから、これに含まれる樹脂を硬化させることによって得られる導電性の硬化物を基板に有する電気電子機器の製造方法であって、
(a)上述した第3の発明の導電性ペーストを基板の所定の領域に供給し、
(b)導電性ペーストの樹脂を硬化剤によって硬化させ、
(c)硬化が完了したことを確認するために、導電性ペーストの匂いの有無を判定する
ことを上記の順序で含む製造方法が提供される。
このような第3の発明の製造方法によれば、導電性ペーストの匂いが有れば硬化が完了しておらず、導電性ペーストの匂いが無くなれば硬化が完了しているとみなしてよいので、硬化の完了を樹脂の色調の変化によって確認するよりも容易に確認でき、よって、品質信頼性の高い電気電子機器の製造方法を確立できる。
上記工程(c)において導電性ペーストの匂いが有ると判定した場合には、硬化が完了していないので、導電性ペーストの匂いが無くなるまで工程(b)および(c)を繰り返すことが好ましい。
第3の発明のもう1つの要旨によれば、第3の発明の導電性ペーストから、これに含まれる樹脂を硬化させることにより得られる導電性の硬化物を含む電気電子機器が提供される。このような機器は高い品質信頼性を有するという利点がある。第3の発明の電気電子機器には、例えば導電性の硬化物によって電子部品が配線基板に実装された電子部品実装体が含まれるが、これに限定されず、導電性の硬化物が配線として機能する配線基板や、複数の配線層が基板を挟んで多層化され、少なくとも2つの配線層が基板を貫通する孔に充填された導電性の硬化物によって電気接続された多層基板なども含まれ得る。
この出願の第1の発明によれば、実装用接合剤中にエポキシ樹脂の硬化を開始させ得る含硫黄化合物、特にSH基を有する改質剤が適当な量で含まれることにより、比較的低温で硬化可能であり、高い保存安定性を有する実装用接合剤が提供される。更に、本発明によれば、そのような実装用接合剤を用いた回路基板の製造方法ならびに回路基板を備える電気電子機器もまた提供される。
この出願の第2の発明によれば、末端基にて金属粒子の表面に配位結合しており、末端基が金属粒子の表面から脱離して樹脂の硬化剤として機能する配位性含硫黄化合物が導電性ペーストに含まれているので、この含硫黄化合物の配位結合状態を制御することによって、保存時には高い安定性を示し、所望の場合にのみ硬化させることができる。特に、脱離した状態にて低温速硬化性の硬化剤として機能する配位性含硫黄化合物を用いれば、高い保存安定性を有し、かつ低温で速やかに硬化する導電性ペーストが実現される。
更に、第2の発明によれば、上記のような導電性ペーストを用いる配線基板、多層基板および電子部品実装体を製造する方法もまた提供される。このような製造方法は、導電性ペーストの取り扱いが容易であるという利点がある。また、このような製造方法によって得られた配線基板、多層基板および電子部品実装体は、それぞれ配線抵抗、配線層間導通部の接続抵抗および実装接合部の接続抵抗を低くできるという利点がある。
この出願の第3の発明によれば、香料が添加されているので、不快な臭気が低減され、硬化の完了をより容易に確認することが可能となる。特に、エポキシ樹脂と、その硬化剤としてチオール基を有する化合物とを用いれば、比較的低温で硬化が可能な一液型の導電性ペーストにおいて、チオール基を有する化合物の独特のひどい臭気を香料の芳香でマスキングでき、例えば携帯型機器、食品の加工または保存機器ならびに美容健康機器などを含む広範な用途に使用することが可能となる。
また、この出願の電気電子機器の製造方法の発明によれば、第3の発明の導電性ペーストを用いることによって、その匂いの有無により硬化の完了を容易に確認することができるので、品質信頼性の高い電気電子機器を製造することが可能となる。
第2の発明に関する実施形態3における導電性ペーストの模式図である。
第2の発明に関する実施形態4における回路基板の製造方法を示す模式的な断面工程図である。
第2の発明に関する実施形態5における回路基板の製造方法を示す模式的な断面工程図である。
第2の発明に関する実施形態6における多層回路基板の製造方法を示す模式的な断面工程図である。
第2の発明に関する実施形態7における電子部品実装体の製造方法を示す模式的な断面工程図である。
第2の発明に関する実施形態8における電子部品実装体の製造方法を示す模式的な断面工程図である。
符号の説明
1:第1の金属粒子、2:含硫黄化合物、3:金属配位化合物、4:樹脂、5:第2の金属粒子、6、6’:基板、7:導電性ペースト、7’:導電性の硬化物、8:マスク、9:スキージ、10:紫外線または電子線、11:孔、12a、12b:配線層、13:配線基板、14:電子部品。
実施形態1(第1の発明)
本実施形態は実装用接合剤(または導電性接着剤)に関する。
本実施形態の実装用接合剤は、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂を硬化させるための潜在性硬化剤、導電性粒子および含硫黄化合物を含む1液型の組成物である。また第1の発明に必須ではないが、実装用接合剤は他の成分、例えば増粘剤などの添加剤を更に含んでいてよい。
含硫黄化合物はエポキシ樹脂100重量部あたり約1〜100重量部、好ましくは約2〜80重量部で含まれる。他の成分については特に限定されるものではないが、例えば潜在性硬化剤は約0.1〜30重量部、導電性粒子は約100〜1000重量部、および場合により増粘剤は約0.5〜25重量部(いずれもエポキシ樹脂100重量部あたり)で含まれ得る。
エポキシ樹脂には未硬化のエポキシ樹脂、即ち1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂状物質を使用できる。例えばグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型および脂環型などの既知のエポキシ樹脂を使用できる。また、そのようなエポキシ樹脂の前駆体を使用してもよい。
エポキシ樹脂を硬化させるための潜在性硬化剤は、エポキシ樹脂および硬化剤を含む1液型組成物において常温(例えば約15〜30℃)でその特性を長期間変えることなく安定に保存可能で、所定の温度に加熱された場合に速やかにエポキシ樹脂を硬化させる機能を有する硬化剤である。第1の発明に利用可能な潜在性硬化剤の例には、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド、アミンイミド、第三アミン塩、イミダゾール塩、ルイス酸およびブレンステッド酸塩などが挙げられ、好ましくはアミン骨格を分子中に有する潜在性硬化剤である。(例えば新保正樹編、「エポキシ樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、p225−230を参照のこと。)
導電性粒子はそれ自身が導電性を有するものであればよく、例えば金、銀、銅、ニッケル、銀―パラジウム合金およびはんだ合金などの金属から成る粒子、またはカーボンなどの他の導電性物質から成る粒子を使用できる。導電性粒子の寸法および形状は特に限定されるものではないが、例えば約0.1〜50μmの数平均粒径を有する粒子であってよい。
第1の発明において改質剤とはエポキシ樹脂および導電性粒子の少なくとも一方に作用してその性質を改変し、例えば接着強度の向上などをもたらすものを意味する。第1の発明に使用可能な改質剤はそのような機能を有し、かつ、1つまたは2つ以上のSH基を分子内に有するものである。そのようなSH基を有する改質剤である含硫黄化合物は、潜在性硬化剤による硬化温度を低下させるものである。
含硫黄化合物の例には、メルカプトプロピオン酸誘導体(例えば3−メルカプトプロピオン酸、メカプトプロピオン酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸トリデシル、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネートおよびペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなど)、チオグリコール酸誘導体(例えばチオグリコール酸、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸モノエタノールアミン、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸メトキシブチル、エチレングリコールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレートおよびペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレートなど)およびチオール(チオリンゴ酸、ステアリルメルカプタン、2−メルカプトエチルオクタン酸エステル、4−メルカプトピリジン、2−メルカプトプロピオン酸など)などが含まれる。
あるいは、含硫黄化合物として、SH基を有しないが、−S−を生じ得る他の含硫黄化合物、例えばチイランおよび環状または直鎖状チイラン誘導体(例えばチイランの塩および錯体など)を使用しても第1の発明と同様の効果を奏し得る。
増粘剤には一般的な無機質増粘剤(またはチキソ剤)などを使用できる。また、その他の任意の添加剤、例えば硬化促進剤、充填剤、顔料、染料、可撓性付与剤および分散剤なども適宜添加され得る。
このような本実施形態の実装用接合材料は各構成成分を適当に混合または混練することにより調製され得る。
本実施形態の実装用接合剤は導電性接着剤として理解され、そのままでは導電性を示さないが、加熱によってエポキシ樹脂が硬化収縮し、導電性粒子同士が接触または接近して導電性を示すようになる。本実施形態の実装用接合剤はエポキシ樹脂の硬化を開始させ得る含硫黄化合物を適当な量で含むので、比較的低温、具体的には約70〜110℃で硬化可能であり、かつ、比較的長期、少なくとも7日以上に亘って安定に保存可能である。
実施形態2(第1の発明)
本実施形態は回路基板の製造方法およびそのような回路基板が組み込まれた電気電子機器に関する。
まず、例えば実施形態1にて上述したような第1の発明の実装用接合剤を基板の電極(またはランド)に供給する。接合剤の供給は転写、スクリーン印刷、ディスペンスなどの種々の方法により実施してよい。この基板は、当該技術分野で一般的に知られているような、絶縁性基板に配線が電極と一体的に形成されたものを用い得る。
次に、この基板上に電子部品を、電子部品の電極が基板の電極上に供給した実装用接合剤と接触するように位置合わせして配置する。
そして、得られた基板をリフロー炉に通すなどして加熱し、実装用接合剤を70〜110℃の温度条件下にて適当な時間、例えば約0.5〜10分間維持する。これにより、エポキシ樹脂が十分に硬化して基板の電極と電子部品の電極とを接着し、また、エポキシ樹脂が硬化収縮することにより導電性粒子同士が接触または接近して導電性を示すようになる。この結果、硬化後の接合剤によって電子部品が基板の電極に機械的および電気的に接合される。
本実施形態に用いる電子部品は加熱温度よりも高い耐熱温度を有するものであればよい。120℃より低い耐熱温度を有する電子部品であっても、その耐熱温度が加熱温度より高ければ使用することができる。加熱温度は、十分な硬化が得られるように電子部品の耐熱温度を考慮して約70〜110℃の範囲内で適当に設定してよい。
以上により、電子部品が実装された回路基板が製造される。
このような回路基板は任意の電気電子機器に組み込んで使用することができる。そのような電気電子機器には以下のものが含まれる:
・ビデオカメラ、ポ−タブルCD、ポータブルMD、ポータブルDVD、携帯電話およびノート型パソコンなど持ち運び可能な電気電子機器;
・ステレオ、デスクトップ型パソコン、テレビ電話、DVDプレーヤー、CDプレーヤー、DVDレコーダー、CDレコーダーおよびテレビなどの通常静置して使用される電気電子機器;
・炊飯機器、電子レンジ、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、エアコン、照明器具、インターホン、防犯カメラ、監視カメラ、ガス漏れ検知器および洗浄機能付き便座などの家庭などで使用される電気電子機器;および
・カーステレオ、カーナビゲーション、カーエアコン、カーセンサー、エンジンコントローラー、車載カメラ、自動ブレーキ安全制御システム(ABS)およびヘッドライトなどの自動四輪車、自動二輪車およびその他の車両で使用される電気電子機器。
(第2の発明)
以下、第2の発明の種々の実施形態について、図1〜6を参照して、より詳細に説明する。第2の発明に関するの実施形態において、同様の部材には同じ符号を付すものとし、特定の部材に関する実施形態における説明は、特に断らない限り、他の実施形態においても同様に当て嵌まるものとする。
実施形態3(第2の発明)
本実施形態は第2の発明の1つの態様における導電性ペーストおよびその製造方法ならびに使用方法に関する。
図1(a)に示すように、本実施形態の導電性ペースト7は第1の金属粒子1、配位性含硫黄化合物2および絶縁性の樹脂4を含んで成り、配位性含硫黄化合物2がその末端基にて第1の金属粒子1の表面に配位して金属配位化合物3を形成している。
第1の金属粒子1の表面に配位する配位性含硫黄化合物2の末端基は、例えばチオール基であってよく、その硫黄原子が配位原子となる。樹脂4は、例えばエポキシ樹脂であってよい。チオール基はエポキシ樹脂の硬化に関与するので、配位性含硫黄化合物2は、その末端基が金属粒子1の表面から脱離した状態で樹脂4の硬化剤として機能する。
第1の金属粒子1は、例えば金、銀または銅から成っていてよい。このような金属材料に対して配位性含硫黄化合物2のチオール基(より詳細には硫黄原子)は良好に配位し得る。金属粒子1の平均粒径は、例えば約1nm〜100μmであってよく、好ましくは約1〜100nmである。第1の金属粒子1がナノサイズであっても、配位性含硫黄化合物2が配位することによって樹脂4にて安定に分散できる。尚、図中には樹脂4をいくつかのみ代表的に記載しているが、実際には、樹脂4は図示するよりも多く存在して分散媒となっている。
本実施形態の導電性ペースト7は、図1(a)に示すように、第2の金属粒子5を更に含んでいてよい。第2の金属粒子5は、例えば金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、インジウム、およびケイ素などから成っていてよく、配位性含硫黄化合物2が配位しても、配位しなくてもよい。第2の金属粒子5の平均粒径は、例えば約0.1〜100μmであってよく、特に0.1〜20μmである。しかしながら、第2の発明はこれに限定されず、第2の金属粒子5を含んでいなくてもよい。
尚、本明細書を通じて「平均粒径」とは粒子の集合体の数平均の粒径を意味し、レーザ回折散乱法により、例えばマイクロトラック粒子径分布測定装置9320 HRA(日機装株式会社製)を用いて測定できる。
本実施形態の導電性ペースト7における第1の金属粒子1、配位性含硫黄化合物2、樹脂4、および存在する場合には第2の金属粒子5の割合は、例えばそれぞれ約100重量部、約60〜95重量部、約30〜2重量部、約30〜2重量部である。しかし、第2の発明はこれに限定されず、適宜選択され得るであろう。
また、本実施形態の導電性ペースト7は、必要に応じて他の成分、例えば硬化促進剤、充填剤、希釈剤、溶剤、顔料、可撓性付与剤および分散剤などを適当な量で更に含んでいてよい。
本実施形態の導電性ペースト7は、まず、表面が露出した第1の金属粒子1および配位性含硫黄化合物2を混合して金属配位化合物3を形成させ、その後、この混合物に樹脂4を添加混合することによって製造できる。第2の金属粒子5(および場合により他の成分)は、第1の金属粒子1および配位性含硫黄化合物2と一緒に混合しても、その混合物に樹脂4と一緒に添加混合してもよい。
次に、この導電性ペースト7の使用方法について説明する。
導電性ペースト7に紫外線および電子線などの照射ならびに加熱などの外的作用を施すと、第1の金属粒子1と含硫黄化合物2の末端基との間の配位結合が切断される。これにより、金属配位化合物3は分解し、図1(b)に示すように含硫黄化合物2は金属粒子1の表面から脱離する。紫外線または電子線の照射を適用する場合、照射量は適宜設定でき、導電性ペースト7および基板6の温度上昇はごくわずかである。加熱による場合は、特に限定されるものではないが、例えば約60〜120℃で約5〜60分間維持することにより実施してよい。
脱離した含硫黄化合物2は樹脂4の硬化剤として機能でき、例えば加熱によって、または付加的な操作を要することなく、図1(c)に示すように樹脂4を硬化させる。樹脂4の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましい。樹脂4がエポキシ樹脂であり、含硫黄化合物2の末端基がチオール基である場合、例えば約80〜120℃で約5〜60分間維持することにより硬化する。あるいは、紫外線および電子線などの照射によって硬化するものであってもよい。
樹脂4を硬化させるために加熱などの操作を実施する場合、この操作と含硫黄化合物2の脱離のための操作とは別々の条件で実施され得るが、適当であれば一体的または連続的に実施してもよい。
上記の結果、樹脂4が硬化収縮し、その収縮力により第1の金属粒子1および第2の金属粒子5は接触または近接して、全体として導電性を示す硬化物7’を形成する。
特に、第1の金属粒子1の平均粒径が約1〜100nmである場合、含硫黄化合物2の脱離および/または樹脂4の硬化の際に、例えば約25〜110℃で約2〜30分間加熱することにより、第1の金属粒子1同士が焼結する。従って、これにより得られる導電性の硬化物7’は非常に低い抵抗値を示す。また、第1の金属粒子1同士が焼結されているので、硬化した樹脂4が温度変化により体積変化しても、硬化物7’の抵抗値は実質的に影響を受けない。
以上、本実施形態の導電性ペーストによれば、保存時には高い安定性を確保し、所望の場合にのみ硬化させることが可能となる。また、本実施形態の導電性ペーストは、比較的低温で使用して導電性の硬化物を形成することができる。更に、導電性ペーストにナノサイズの金属粒子を用いてこれを焼結させることにより、得られる導電性硬化物の抵抗をより低く、かつ安定化することができる。
実施形態4(第2の発明)
本実施形態は第2の発明の1つの態様における配線基板の製造方法に関する。
まず、図2(a)に示すような絶縁性の基板(または基材)6を用意する。この基板6にはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、ポリイミド、熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性樹脂、アラミド不織布、ガラス織布、ガラス不織布などから成るものを用い得るが、これに限定されるものではない。
次に、図2(b)に示すように、例えば第1の実施形態にて上述した導電性ペースト7を配線に対応するパターンで基板6に供給する。供給方法には、スクリーン印刷、インクジェット、ディスペンサー、含浸、スピンコートなどの種々の方法を適用できる。図2(b)にはスクリーン印刷法による場合を例示的に示しており、スキージ9をマスク8に対して押し付けながら移動させることにより、マスク8に所定のパターンで設けられた開口部を通じて導電性ペースト7を基板6の上に印刷する。印刷後、マスク8は基板6から除去する。
その後、図2(c)に示すように基板6上の導電性ペースト7に紫外線または電子線10を照射し、あるいは導電性ペースト7を基板6と共に加熱する。これにより、導電性ペースト7において金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物はその表面から脱離する。
そして、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させ、図2(d)に示す導電性の硬化物7’を得る。樹脂の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましく、例えば加熱などの操作を要するものであっても、または付加的な操作を要することなく脱離後直ちに起こるものであってもよい。
以上のようにして、基板6上に導電性の硬化物7’が配線として形成された配線基板を製造することができる。
本実施形態の配線基板の製造方法によれば、第2の発明の導電性ペーストを配線形成用材料に用いているので保存安定性に優れ、製造上の管理が容易である。また、導電性ペーストを基板上に供給した後に含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させているので、供給する前またはその間に樹脂が硬化し始めることがなく、供給時の導電性ペーストの取り扱いに格別の注意を要しない。更に、比較的低温で配線基板を製造することができる。加えて、この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いた場合には、低くて安定な配線抵抗を有する配線基板を提供することができる。
実施形態5(第2の発明)
本実施形態は第2の発明のもう1つの態様における配線基板の製造方法に関する。本実施形態は実施形態4を改変したものであり、以下、実施形態4と相違する点を中心に説明するものとする。
まず、図3(a)に示すような絶縁性の基板(または基材)6を用意する。
別途、図3(b)に示すように、例えば第1の実施形態にて上述した導電性ペースト7に紫外線または電子線10を照射し、あるいは導電性ペースト7を加熱して、導電性ペースト7において金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物をその表面から脱離させる。
次に、図3(c)に示すように、この導電性ペースト7を配線に対応するパターンで基板6に供給する。本実施形態においては、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させた後、供給が完了するまでの間に導電性ペースト7が実質的に硬化しないことが望ましい。
そして、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させて、図3(d)に示す導電性の硬化物7’を得る。樹脂の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましく、導電性ペースト7を基板6と共に加熱することによって起こるものであってよい。
以上のようにして、基板6上に導電性の硬化物7’が配線として形成された配線基板を製造することができる。
本実施形態の配線基板の製造方法によれば、第2の発明の導電性ペーストを配線形成用材料に用いているので保存安定性に優れ、製造上の管理が容易である。また、導電性ペーストを基板上に供給する前に含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させているので、脱離のために基板が紫外線、電子線または熱に曝されることがなく、基板および場合により基板上に存在し得る他の部材の加熱を極力抑えて、比較的低温で配線基板を製造することができる。加えて、この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いた場合には、低くて安定な配線抵抗を有する配線基板を提供することができる。
実施形態6(第2の発明)
本実施形態は第2の発明の1つの態様における多層基板、より詳細には両面基板の製造方法に関する。
まず、図4(a)に示すような、任意の適当な位置に貫通孔11が設けられた基板6’を用意する。この基板6’は実施形態4にて上述したのと同様の基板6に、例えばドリルおよびパンチャーなどを用いる機械加工またはレーザーなどを用いる熱加工により孔11を形成して得られ得る。
別途、図4(b)に示すように、例えば第1の実施形態にて上述した導電性ペースト7に紫外線または電子線10を照射し、あるいは導電性ペースト7を加熱して、導電性ペースト7において金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物をその表面から脱離させる。
次に、図4(c)に示すように、この導電性ペースト7を基板6’の孔11に充填する。充填方法には、スクリーン印刷、インクジェット、ディスペンサー、含浸、スピンコートなど種々の方法を適用でき、図4(c)にはスクリーン印刷法による場合を例示的に示している。本実施形態においても、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させた後、充填が完了するまでの間に導電性ペースト7が実質的に硬化しないことが望ましい。
そして、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させて、導電性の硬化物7’を得る。樹脂の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましく、導電性ペースト7を基板6’と共に加熱することによって起こるものであってよい。
次に、図4(e)に示すように、配線層12aおよび12bを基板6’の上面および下面に形成する。これら配線層12aおよび12bは孔11を通じて、孔11を充たす導電性の硬化物7’によって電気接続されている。配線層は、例えば第2または第3の実施形態にて上述した方法と同様にして形成してよく、あるいは既知の配線層(または回路)の形成方法を適用してもよい。
以上のようにして、基板6上に導電性の硬化物7’が配線層12aおよび12bの間の導通部を構成する多層基板を製造することができる。
本実施形態の多層基板の製造方法によれば、第2の発明の導電性ペーストを配線層間導通用材料に用いているので保存安定性に優れ、製造上の管理が容易である。また、導電性ペーストを基板の孔に充填する前に含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させているので、脱離のために基板が紫外線、電子線または熱に曝されることがなく、基板および場合により基板上に存在し得る他の部材の加熱を極力抑えて、比較的低温で多層基板を製造することができる。加えて、この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いて焼結させた場合には、低くて安定な接続抵抗を有する配線層間導通部を備える多層基板を提供することができる。
尚、本実施形態においては2つの配線層が1つの基板を挟んで多層化された多層基板、より詳細には両面基板について説明したが、本実施形態において説明したのと同様の方法を利用して、より多くの配線層が、隣接する2つの配線層間に1つの基板を挟んで多層化された多層基板を製造することもできる。また、本実施形態においては、導電性ペースト7を基板6’の孔11に充填した後に配線層12aおよび12bを形成するものとしたが、配線層を形成した後に導電性ペースト7を充填することもできる。
また、本実施形態においては導電性ペーストに紫外線または電子線を照射し、あるいは導電性ペーストを加熱し、その後、このように処理した導電性ペーストを予め形成した基板の孔に充填するものとしたが、加熱による場合には、未処理の導電性ペーストを基板の孔に充填し、その後、導電性ペーストを基板と共に加熱し、これにより、金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物を脱離させ、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させるようにしてもよい。
実施形態7(第2の発明)
本実施形態は第2の発明の1つの態様における電子部品実装体の製造方法に関する。
まず、図5(a)に示すような配線基板13を用意する(配線層は図示せず)。配線基板13は、例えば第2または第3の実施形態により製造されたものであってよく、あるいは既知の製造方法により得られる配線基板または市販で入手できるものを用い得る。
次に、図5(b)に示すように、例えば第1の実施形態にて上述した導電性ペースト7を配線基板13の所定の領域、例えば配線層と電気接続されたランド(図示せず)に供給する。供給方法には、実施形態4と同様の方法を適用でき、図5(b)にはスクリーン印刷法による場合を例示的に示している。
その後、図5(c)に示すように配線基板13上の導電性ペースト7に紫外線または電子線10を照射し、あるいは導電性ペースト7を配線基板13と共に加熱する。これにより、導電性ペースト7にて、金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物をその表面から脱離させる。
次に、電子部品14をこの導電性ペースト7と接触するように、配線基板13に対して位置合わせして配置する。
そして、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させ、図5(d)に示す導電性の硬化物7’を得る。樹脂の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましく、例えば加熱などの操作を要するものであっても、または付加的な操作を要することなく脱離後直ちに起こるものであってもよい。
この結果、配線基板13と電子部品14との間に位置する導電性の硬化物7’によって、電子部品14は配線基板13に機械的および電気的に接合され、実装される。
以上のようにして、導電性の硬化物7’が電子部品14を配線基板13に実装する接合部を構成する電子部品実装体を製造することができる。
本実施形態の電子部品実装体の製造方法によれば、第2の発明の導電性ペーストを実装用接合材料に用いているので保存安定性に優れ、製造上の管理が容易である。また、導電性ペーストを配線基板上に供給した後に含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させているので、供給する前またはその間に樹脂が硬化し始めることがなく、供給時の導電性ペーストの取り扱いに格別の注意を要しない。更に、比較的低温で配線基板を製造することができる。加えて、この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いて焼結させた場合には、低くて安定な接続抵抗を有する実装接合部を備える電子部品実装体を提供することができる。
実施形態8(第2の発明)
本実施形態は第2の発明のもう1つの態様における電子部品実装体の製造方法に関する。本実施形態は実施形態7を改変したものであり、以下、実施形態7と相違する点を中心に説明するものとする。
まず、図6(a)に示すような配線基板13を用意する。
別途、図6(b)に示すように、例えば第1の実施形態にて上述した導電性ペースト7に紫外線または電子線10を照射し、あるいは導電性ペースト7を加熱して、導電性ペースト7にて、金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物をその表面から脱離させる。
次に、図6(c)および(d)に示すように、この導電性ペースト7を配線基板13の所定の領域、例えば配線層と電気接続されたランド(図示せず)に供給する。本実施形態においては、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させた後、供給が完了するまでの間に導電性ペースト7が実質的に硬化しないことが望ましい。
次に、電子部品14をこの導電性ペースト7と接触するように、配線基板13に対して位置合わせして配置する。
そして、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させ、図6(e)に示す導電性の硬化物7’を得る。樹脂の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましく、導電性ペースト7を配線基板13および電子部品14と共に加熱することによって起こるものであってよい。
この結果、配線基板13と電子部品14との間に位置する導電性の硬化物7’によって、電子部品14は配線基板13に機械的および電気的に接合され、実装される。
以上のようにして、導電性の硬化物7’が電子部品14を配線基板13に実装する接合部を構成する電子部品実装体を製造することができる。
本実施形態の電子部品実装体の製造方法によれば、第2の発明の導電性ペーストを実装用接合材料に用いているので保存安定性に優れ、製造上の管理が容易である。また、導電性ペーストを配線基板上に供給する前に含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させているので、脱離のために配線基板が紫外線、電子線または熱に曝されることがなく、配線基板および場合により配線基板上に存在し得る他の部材の加熱を極力抑えて、比較的低温で電子部品実装体を製造することができる。加えて、この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いて焼結させた場合には、低くて安定な接続抵抗を有する実装接合部を備える電子部品実装体を提供することができる。
(第3の発明)
実施形態9(第3の発明)
本実施形態は第3の発明の1つの態様における導電性ペーストに関する。
本実施形態の導電性ペーストは、導電性フィラーである金属粒子と、エポキシ樹脂と、チオール基を有する化合物から成る硬化剤と、香料とにより構成される。
金属粒子は、例えば金、銀、銅およびニッケルなどの金属またはそれらを2種以上含んで成る合金または混合物から成る粒子、あるいはスズ系合金または混合物(例えばはんだ材料、具体的にはSnBi系およびこれにInを添加したものや、SnAg系、SnCu系およびSnAgCu系ならびにこれらにBiおよび/またはInを添化したものなどから成る粒子であってよい。金属粒子の数平均粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば約1〜50μm、好ましくは約2〜20μmである。
また、エポキシ樹脂には、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂またはそれらを変性させたものなどを用いてよい。
チオール基を有する化合物はエポキシ樹脂の硬化剤として機能し、特に低温速硬化を可能にするので好ましい。このような化合物の例には、チオグリコール酸およびその誘導体、メルカプトプロピオン酸およびその誘導体、チオリンゴ酸、メルカプトピリジン、ステアリルメルカプタンならびにメルカプトエチルオクタン酸エステルなどが含まれる。
香料には、例えばテルペン系化合物ならびにその誘導体(より詳細にはリモネン、リナロールおよびシトラールなど)を香気成分として有する植物性天然香料、または、例えばヨノン(またはイオノン)、ヒドロキシシトロネラール、マルトール、バニリンおよびエチルバニリン(またはブルボナール)などの合成香料を用いてよい。
特に、本実施形態のようにチオール基を有する化合物を用いる場合、その独特のひどい臭気をマスキングすることが可能な程度に強い芳香を放つ香料を用いることが好ましい。そのような香料としては天然香料よりも合成香料または調合香料が好ましく、例えばエチルバニリンなどを使用できる。
また、金属粒子が例えば銀などの硫化され易い金属から成る場合、または例えば銅などの酸化され易い金属から成る場合、金属粒子表面の硫化または酸化、ひいては導電性ペーストの硬化物の体積抵抗率の上昇を低減し、好ましくはこれを防止し得る程度の還元力を有する香料(あるいは金属粒子を構成する金属よりも硫化または酸化され易い香料)を用いることが好ましい。そのような香料としては、例えばケイ皮酸などのカルボキシル基を有する香料、また例えばバニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、アニスアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒド、ケイ皮アルデヒド、シトラール、シトロネラール、デシルアルデヒドおよびヒドロキシシトロネラールなどのアルデヒド基を有する香料などが挙げられる。香料は任意の形態であってよく、例えば上記の例においてバニリン、エチルバニリンおよびヘリオトロピンは一般的に粉体であり、アニスアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒド、ケイ皮アルデヒド、シトラール、シトロネラール、デシルアルデヒドおよびヒドロキシシトロネラールは一般的に液体である。
本実施形態の導電性ペーストにおける各成分の割合は、例えばエポキシ樹脂を約100重量部、金属粒子を約25〜600重量部、硬化剤を約1〜100重量部、香料を約1〜100重量部としてよい。しかし、第3の発明はこれに限定されず、適宜選択され得るであろう。
また、本実施形態の導電性ペーストは、必要に応じて他の成分、例えば硬化促進剤、充填剤、希釈剤、溶剤、顔料、可撓性付与剤および分散剤などを適当な量で更に含んでいてよい。
このような本実施形態の導電性ペーストは任意の適当な方法により製造できるが、例えば、市販により入手可能な金属粒子、エポキシ樹脂、硬化剤、香料および場合により含まれる追加成分を単に混合または混練することによって得ることができる。
本実施形態の導電性ペーストは、加熱によって、または常温にて、チオール基を有する化合物が硬化剤として作用してエポキシ樹脂が硬化し、その硬化収縮力によって金属粒子同士が接触または接近する。硬化が十分に進んだ後に得られた硬化物は導電性を示し、匂いがしなくなる。
以上、本実施形態の導電性ペーストによれば、チオール基を有する化合物の独特の臭気が香料の芳香によりマスキングされるので、不快な臭気が効果的に低減されると共に、香料の芳香により快い感覚を与えることができる。また、本実施形態の導電性ペーストは、硬化が完了した状態では匂いが無くなるので、匂いの有無によって硬化の完了を容易に確認することができる。本実施形態の導電性ペーストは、チオール基を有する化合物の独特のひどい臭気のために従来は使用が許容されなかった携帯型機器、食品の加工または保存機器ならびに美容健康機器などを含む広範な用途に使用することが可能となる。
実施形態10(第3の発明)
本実施形態は第3の発明の1つの態様における電子部品実装体を含む電気電子機器の製造方法に関する。
まず、絶縁性の材料(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、ポリイミド、エポキシ樹脂、アラミド不織布、ガラス織布、ガラス不織布など)から成る基板の少なくとも一方の面に、導電性材料(例えば銅、金、導電性ペーストの硬化物)から成る配線が形成された配線基板を用意する。配線基板は既知の製造方法により得られるものまたは市販で入手できるものを用いてよい。
次に、例えば実施形態9にて上述した導電性ペーストを配線基板の所定の領域、より詳細には電極(例えばランド)にスクリーン印刷法により供給する。具体的には、所定のパターンで設けられた開口部を有するマスクを配線基板の上に配置し、マスクに対してスキージを押し付けながら移動させて、導電性ペーストをマスクの開口部を通じて基板上に印刷する。導電性ペーストの厚さが均一になるように印刷するためには、マスクはメタルマスク(または金属製)であること、スキージはフッ素樹脂で出来ていることが好ましい。印刷後、マスクは配線基板から除去する。尚、スクリーン印刷法に代えて、他の方法、例えばインクジェット、ディスペンサー、含浸、スピンコートなどにより、導電性ペーストを配線基板の所定の領域に供給してもよい。
その後、電子部品の電極(例えばリード)が印刷された導電性ペーストと接触するように、電子部品を配線基板に対して位置合わせして装着する。装着の仕方は、電子部品の種類によって異なり得るが、一般的には、後の加熱工程にて導電性ペーストの粘度が低下して電子部品の接合部を十分に覆うことができるので、導電性ペーストの上に電子部品を配置するだけでよい。もちろん、電子部品と導電性ペーストとを相対的に押し付けて、互いに十分に密着させてもよい。
そして、これにより得られた基板を加熱すると、導電性ペーストにおいてはチオール基を有する化合物を硬化剤として作用させてエポキシ樹脂が熱硬化する。加熱は、用いる硬化剤によっても異なり得るが、例えば約70〜200℃、好ましくは約70〜120℃の温度で約1.5〜15分間に亘って実施される。
加熱終了後、導電性ペースト(または少なくとも部分的に硬化した硬化物)の匂いの有無を検査により判定する。この検査は、正常な嗅覚を有する作業者が実施しても、あるいは匂いを感知できる検査器を用いて実施してもよい。導電性ペーストの匂いが実質的にしない場合は、硬化によって匂いの成分が硬化物内に封じ込めらており、硬化が完了したことが確認できる。
しかし、導電性ペーストの匂いがする場合(導電性ペーストの匂いが加熱前より低減されていても、依然として匂いがする場合を含む)は、匂いの成分がまだ十分に封じ込められていないことから、硬化が不十分であると考えられ、硬化の完了を確認できない。よってこの場合には、加熱およびその後の検査を、匂いがしなくなって、硬化の完了を確認できるまで繰り返す。
このように、導電性ペーストの樹脂の硬化の完了を導電性ペーストの匂いの有無に基づいて確認できる。
樹脂の硬化の完了が確認されると、導電性ペーストは導電性の硬化物となり、この導電性の硬化物によって電子部品が配線基板に機械的および電気的に接合され、実装される。
以上のようにして得られる電子部品実装体は様々な電気電子機器に組み込まれ得る。本実施形態により製造される電気電子機器には、例えば、携帯電話およびヘッドホンステレオなどの携帯型機器、炊飯器、電子レンジおよび冷蔵庫などの食品の加工または保存機器、ならびに体脂肪計、肌水分計、電動歯ブラシおよび電動シェーバーなどの美容健康機器なども含まれる。
本実施形態の電気電子機器の製造方法によれば、導電性ペーストの樹脂の硬化の完了を匂いによって容易に確認できるので、低コストおよび高精度の検査が可能になる。本実施形態の製造方法により得られる電子部品実装体、ひいてはこれを備える電気電子機器は高い品質信頼性を有する。
以下、この出願の第1〜第3の各発明の実装用接合材料およびそれを用いて作製される回路基板を組み込んだ電気電子機器について実施例および比較例を通じてより詳細に説明する。
(第1の発明)
1.実装用接合剤
まず、第1の発明の実施例として、以下に示すエポキシ樹脂、潜在性硬化剤、無機質増粘剤、導電性粒子および改質剤Aをロール式撹拌機にて分散・混練し、更に、減圧(10mmHg以下)操作に付して脱泡させることによって、実装用接合剤(実施例1〜3)を調製した。各成分の混合割合は表1に示す通りとした。
・エポキシ樹脂:1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(旭電化工業株式会社製、商品名 ACRエポキシ)
・潜在性硬化剤:2−メチルイミダゾールアジン(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名 エピキュア M12AZ)
・無機質増粘剤:アエロジル(日本アエロジル株式会社製、商品名 AEROSIL(登録商標)200)
・導電性粒子:平均粒径約6μmの銀粉末(三井金属鉱業株式会社製)
・改質剤A:含硫黄化合物であるトリメチロールプロパントリスチオプロピオネート(液体)
また、比較例として、改質剤の種類または混合量を表1に示すように変更したこと以外は上記実施例と同様にして実装用接合剤を調製した(比較例1〜5)。
・改質剤B:シラン系カップリング剤(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製、ビニルトリメトキシシラン)
・改質剤C:チタネート系カップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社製、商品名 プレーンアクト KR TTS)
上記で得られた実施例1〜3および比較例1〜5の実装用接合剤の特性を評価すべく、以下のようにして硬化温度および保存安定日数を求めた。
1)硬化温度
未硬化の実装用接合剤のサンプルを8つ準備し、表面に銅メッキを施したガラスエポキシ基板上に直接印刷し(印刷された接合剤は縦横それぞれ約1mm、高さ約0.1mmの直方体形状を有する)、それぞれ60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃および130℃の温度にて10分間加熱した後、室温(約25℃)にて自然冷却させた。尚、印刷に変えて、同程度の精度が得られる転写を利用してもよい。得られたサンプルを示差熱分析装置に入れて等速昇温(10℃/分)法で加熱し、所定温度での加熱後の状態から完全に硬化した状態となるまでに使用された熱量Q1を測定した。
未硬化の実装用接合剤のもう1つのサンプルを示差熱分析装置に入れて等速昇温(10℃/分)法で加熱し、未硬化の状態から完全に硬化した状態となるまでに使用された熱量Q0を予め測定しておき、上記の所定温度での加熱による硬化率R(%)をそれぞれ以下の式(1)により算出した。
硬化率Rが90%以上となる温度条件のうち最低の温度を硬化温度とした。尚、発明者らのこれまでの豊富な知見から、90%以上の硬化率が得られれば長期に亘って良好な電気的および機械的な接合信頼性を示すことがわかっている。
2)保存安定日数
実装用接合剤のサンプルを調製した直後にその粘度η0を測定し、約25℃で静置しながら定期的に粘度η1を測定した。粘度測定はE型粘度計を用いて実施した。そして、η1≧2×η0となるまでに要した日数を保存安定日数とした。尚、発明者らの経験より、7日以上の保存安定日数が得られれば実用上問題ないことがわかっている。
これらの特性を評価した結果を表2に示す。
表2から理解されるように、実施例1〜3の実装用接合剤はいずれも硬化温度が低く、実用に適した保存安定性を示した。これに対して、比較例1〜4の実装用接合剤では実施例1〜3の実装用接合剤よりも硬化温度が高く、比較例5の実装用接合剤では十分な保存安定性が得られなかった。
2.回路基板の作製およびこれを組み込んだ電気電子機器の動作
上記で得られた実施例1〜3および比較例1〜3の実装用接合剤を用いて回路基板を作製し、この回路基板を組み込んだ電気電子機器の動作を確認した。
まず、リフロー炉で加熱した場合の最高温度を把握するため、実施例1〜3および比較例1〜3の実装用接合剤の各硬化温度(表1)および加熱時間10分の条件に設定したリフロー炉に温度センサを設けた基板を通して、基板が曝される温度を経時的に測定した。これにより得られる温度プロファイルの最高温度をリフローピーク温度として表3に示す。
次に、実施例1〜3および比較例1〜3の実装用接合剤をそれぞれ基板の電極上に印刷または転写により供給し、電子部品の電極が接合剤と接触するようにして電子部品を基板に位置合わせして配置し、実装用接合剤の各硬化温度および加熱時間10分の条件に設定したリフロー炉に通して電子部品を基板に実装して回路基板を作製した。電子部品には耐熱温度90℃のコネクタ(ポリエチレン成形品)を用いた。
上記で作製した回路基板を組み込んで、電気電子機器としてコンパクトディスクプレーヤを組み立てた。これにより得られた電気電子機器が正常に動作するか、しないかを確認した。結果を表3に示す。
表3から理解されるように、実施例1〜3の実装用接合剤を用いて製造した回路基板を組み込んだ電気電子機器は、回路基板を製造する際のリフローピーク温度が電子部品の耐熱温度よりも低く、電子部品の熱損傷が起こらないため正常に動作することができた。これに対して、比較例1〜3の実装用接合剤を用いて製造した回路基板を組み込んだ電気電子機器は、リフローピーク温度が電子部品の耐熱温度よりも高く、熱損傷を生じたために動作しなかったと考えられる。
(第2の発明)
実施例4
100重量部の酸化銀および1重量部の1,10−デカンジチオールを100重量部のエタノールに添加し、これに超音波(22.9kHz、100W)を2時間加えて、酸化銀から銀ナノ粒子(平均粒径 約8nm)を形成し、これにより、銀粒子(本実施例では銀ナノ粒子)の分散液を調製した。そして、得られた分散液に、分散液中の銀粒子100重量部あたり、100重量部の別の銀粒子(平均粒径 約5μm)および20重量部のビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名「エピコート871」、ジャパンエポキシレジン株式会社製)を添加し、三本ロール機を用いて混練して、導電性ペーストを得た。
実施例5
100重量部の銀粒子(平均粒径約10μm)および1重量部の1,10−デカンジチオールを100重量部のエタノールに添加し、これにより、銀粒子の分散液を調製した。そして、得られた分散液に、分散液中の銀粒子100重量部あたり、100重量部の別の銀粒子(平均粒径 約5μm)および20重量部のビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名「エピコート871」、ジャパンエポキシレジン株式会社製)を添加し、三本ロール機を用いて混練して、導電性ペーストを得た。
実施例6
実施例4において、チオール末端基を有する含硫黄化合物としての1,10−デカンジチオールに代えて、アミノ末端基を有する含硫黄化合物として1,10−ジアミノデカンを用いたこと以外は実施例4と同様にして、導電性ペーストを得た。
比較例6
100重量部のニッケル粒子(平均粒径 約5μm)および1重量部の1,10−デカンジチオールを100重量部のエタノールに添加し、これにより、ニッケル粒子の分散液を調製した。そして、得られた分散液に、分散液中の銀粒子100重量部あたり10重量部のビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名「エピコート871」、ジャパンエポキシレジン株式会社製)を添加し、三本ロール機を用いて混練して、導電性ペーストを得た。
これら実施例4〜6および比較例6により得られた導電性ペーストを評価するため、保存安定性および比抵抗についての試験を以下の方法で行った。
・保存安定性(またはライフ):導電性ペーストを25℃に設定した恒温槽内にて空気雰囲気中で保存し、導電性ペーストの流動性がなくなるまで、具体的にはE型粘度計による測定粘度が約50Pa・s以上となるまでの時間を1ヶ月に亘って調べた。
・比抵抗:導電性ペーストをPET(ポリエチレンテレフタレート)製フィルムの上に厚さ50μm、幅3mm、長さ150mmの領域に亘って塗布し、これに紫外線を積算光量で5000mJ照射し、その後、所定温度にて30分間加熱して硬化させた後、硬化物の体積抵抗率をJIS K6911に従って測定し、この測定値から比抵抗を求めた。
結果を表4に示す。
実施例4〜6の導電性ペーストは保存安定性試験の実施期間(1ヶ月)内で流動性を失わず、高い保存安定性を示した(表4)。これは、含硫黄化合物がそのチオール末端基またはアミノ末端基にて銀粒子表面に配位して金属配位化合物を形成することにより、チオール基またはアミノ基がキャップされ、その結果、エポキシ樹脂と反応せず、硬化が起こらなかったためであると考えられる。
また、実施例4〜6の導電性ペーストにおいては保存安定性試験の実施後においても銀粒子が安定に分散し、銀粒子が凝集していないことが目視により確認された。特に、実施例4の導電性ペーストはナノサイズの銀粒子を含むものであるが、凝集しやすいナノ粒子であっても、上記のように金属配位化合物を形成することにより、樹脂中で安定に存在できるようになったものと考えられる。
更に、実施例4〜6の導電性ペーストは比抵抗試験において導電性材料として満足できる十分に低い抵抗を示した(表4)。これら導電性ペーストでは、比抵抗試験における紫外線照射およびその後の加熱によって、チオール末端基またはアミノ末端基を有する含硫黄化合物が銀粒子から脱離し、脱離した含硫黄化合物がエポキシ樹脂の硬化剤として機能して樹脂を硬化させ、樹脂の硬化収縮力により銀粒子同士が互いに接触または接近したためであると考えられる。
特に、実施例4の導電性ペーストは実施例5の導電性ペーストと比較して非常に低い抵抗を示した。これは、比抵抗試験における加熱により銀ナノ粒子が低温焼結したためであると考えられる。
尚、実施例6の導電性ペーストは実施例4および5の導電性ペーストとは異なり、加熱温度を120℃とした場合には比抵抗の値を測定できず、導電性を示さなかった。この条件では、アミノ末端基を有する含硫黄化合物は銀粒子から脱離せず、エポキシ樹脂の硬化剤として機能しなかっためであると考えられる。加熱温度をより高く、例えば表4に示すように200℃とすると十分に低い抵抗を示すことが確認された。
他方、比較例4の導電性ペーストは加熱温度を120℃とした場合でも比抵抗を測定でき、導電性材料として許容される程度に低い値を示した。これは、比抵抗試験における紫外線照射および加熱により、含硫黄化合物がエポキシ樹脂の硬化剤として機能して樹脂を硬化させ、樹脂の硬化収縮力によりニッケル粒子同士が互いに接触または接近したためであると考えられる。
しかしながら、比較例4の導電性ペーストの保存安定性は2時間しか持続せず、非常に短かった。これは、ニッケル粒子を用いているために、含硫黄化合物のチオール末端基がニッケル粒子表面に配位せずにフリーで存在し、その結果、保存の間にエポキシ樹脂と反応し、硬化が起こったためであると考えられる。
(第3の発明)
第3の発明の導電性ペーストの実施例および比較例として、表5に示す構成成分を表6に示す割合で混合して種々の導電性ペーストを調製した。これら実施例および比較例において、樹脂および導電性フィラーは同様のものを用い、樹脂にはビスフェノールA型エポキシ樹脂を、導電性フィラーには平均粒径が2〜15μmの銀粒子(商品名「シルコート」、福田金属箔粉工業株式会社製)を用いた。硬化剤にはイミダゾール系硬化剤(商品名「キュアゾール(登録商標)」四国化成製)またはポリメルカプタン系硬化剤(メルカプトプロピオン酸)を用いた。実施例においては香料としてリモネン、エチルバニリンまたはケイ皮酸を用い、他方、比較例においては香料を添加しなかった。
実施例7および8ならびに比較例7および8について、正常な嗅覚を有する被験者100名が導電性ペーストに鼻を近づけてその匂いを嗅いで不快に感じるかどうか試験した。ここで、臭気不快指数を以下の式(2)のように定義する。
結果を表7に示す。
表7より、実施例7および8と、香料を添加しなかったこと以外はこれらと同条件とした比較例7および8とをそれぞれ比較すると、実施例7のほうが比較例7より、そして、実施例8のほうが比較例8よりも臭気不快指数が低く、不快な臭気が低減されていることが確認できた。
また、実施例9および比較例8ならびに参考として比較例7について、導電性ペーストを温度100℃にて10分間加熱して硬化させた後、硬化物の体積抵抗率をJIS−K 6911に従って測定した。結果を表8に示す。
表8より、実施例9と、香料を添加しなかったこと以外は同条件とした比較例8とを比較すると、実施例9のほうが比較例8よりも体積抵抗率が低くなっており、より良好な導電性を示すことが確認できた。これは、実施例9で香料に用いたケイ皮酸が還元性を有することから、チオール基(−SH)を有する化合物を硬化剤に用いても、導電性フィラーに用いた銀粒子の硫化が効果的に抑制されたためであると考えられる。
また表8より、香料を用いない場合はチオール基を有する化合物を硬化剤に用いた比較例8はチオール基を有さない化合物を硬化剤に用いた比較例7と比べて体積抵抗率が高くなった。これは、還元性を有する化合物が存在しないと、チオール基が導電性フィラーの金属を硫化して硫化物を生じたためであると考えられる。
また、実施例8および比較例8について、導電性ペーストを用いて得られる導電性の硬化物によって電子部品を配線基板に実装する電子部品実装体の製造プロセスにおいて、硬化完了の検査の容易さについて評価した。実施例8では、導電性ペーストの匂いがしている間は硬化が完了しておらず、匂いがしなくなったら硬化が十分に進行して完了したものとして判断できる。よって、実施例8は検査が容易であり、○評価とした。これに対して、比較例8では樹脂の色調の変化を目視で確認するか、あるいは接続強度または接続抵抗を測定する以外に方法はなく、前者の場合は導電性フィラーの色が影響するため確認が困難であり、後者の場合は機器測定を要する。よって、比較例8は実施例8のものより検査が困難であり、△評価とした。結果を表9に示す。
また、チオール基(−SH)を有する化合物を硬化剤に用いたこれら導電性ペーストの適用可能機器率を調べた。ここで、適用可能機器率を以下の式(3)のように定義する。
尚、電気電子機器の総数および導電性ペーストの使用が許容される電気電子機器の数は概略的なものである。結果を表9に併せて示す。
表9からわかるように、実施例8では比較例8に比べて検査が容易であり、適用可能機器率も大幅に向上する。
この出願の第1〜第3のいずれかの発明の導電性接合材料を用いて形成される回路基板は任意の電気電子機器に組み込んで使用することができる。そのような電気電子機器には以下のものが含まれる:
・ビデオカメラ、ポ−タブルCD、ポータブルMD、ポータブルDVD、携帯電話およびノート型パソコンなど持ち運び可能な電気電子機器;
・ステレオ、デスクトップ型パソコン、テレビ電話、DVDプレーヤー、CDプレーヤー、DVDレコーダー、CDレコーダーおよびテレビなどの通常静置して使用される電気電子機器;
・炊飯機器、電子レンジ、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、エアコン、照明器具、インターホン、防犯カメラ、監視カメラ、ガス漏れ検知器および洗浄機能付き便座などの家庭などで使用される電気電子機器;および
・カーステレオ、カーナビゲーション、カーエアコン、カーセンサー、エンジンコントローラー、車載カメラ、自動ブレーキ安全制御システム(ABS)およびヘッドライトなどの自動四輪車、自動二輪車およびその他の車両で使用される電気電子機器。
第1及び第2の発明の導電性接合材料は、電気/電子回路形成技術の分野において、配線基板の配線形成用材料、多層基板の配線層間導通用材料、および電子部品実装体の実装用接合材料などに広く利用できる。
第3の発明の導電性接合材料は、電気/電子回路形成技術の分野において、例えば電子部品実装体の実装用接合材料として、携帯型機器、食品の加工または保存機器ならびに美容健康機器などを含む広範な用途に使用できる。
本発明は、導電性粒子成分、エポキシ樹脂成分、及びエポキシ樹脂硬化性成分を含んでなる導電性接合材料、それを用いて電気電子回路を形成する方法、及びその電気電子回路を具備する電気電子機器に関する。
電気電子回路を形成する技術分野において、電気電子部品(以下、単に「電子部品」とも称する)を基板に実装する用途及び基板上に配線を形成する用途に、導電性接合材料、即ち導電性接着剤が広く用いられている。このような電気電子部品の実装の分野において用いられる導電性接着剤は、基本的に、バインダーとしての樹脂組成物中に金属粒子などの導電性粒子を分散させた組成を有している。樹脂組成物がペースト状の形態を有する導電性接着剤は、導電性ペーストとも称される。
この樹脂組成物中には、特定の条件、例えば一定の温度条件に付されることによって、樹脂組成物を硬化させる硬化剤成分が含まれている。従って、導電性接着剤が一定の温度条件に付されると、樹脂組成物が硬化しながら収縮するため、樹脂組成物全体の体積が減少する。その結果、樹脂組成物中に分散されていた導電性粒子が相互に接触するようになり、硬化した導電性接着剤の中に導電性の経路(導電路)を形成することができる。
このような導電性接着剤の例として、樹脂組成物としてのエポキシ樹脂、該エポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤、及び電性粒子として銀又はニッケルなどの金属粒子を含む系の接着剤組成物がある。このような系の接着剤組成物は、一般に120℃以上に加熱することにより硬化する。
近年、電子部品の高機能化が図られたことに伴って、耐熱性レベルのより低い電子部品が多く用いられるようになっており、従ってより低温で硬化する導電性接着剤(実装用接合材料)が求められている。更に、上述のような一液型の接着剤組成物については、作業現場での操作性を考慮して、接着剤組成物の状態で数日〜数週間の期間の保存安定性も求められている。
導電性ペーストの低温硬化を指向して、従来から接着剤として知られている1液タイプの低温硬化性エポキシ樹脂組成物を導電性ペーストに利用することが検討されている。例えば、エポキシ樹脂、硬化剤としてのチオール化合物及び固体分散型潜在性硬化促進剤を含む樹脂組成物が接着剤として知られている(特許文献1)。更に保存安定性の向上を目的として、この組成に加えてホウ酸エステル化合物を更に含む導電性ペーストが提案されている(特許文献2)。
特開平06−211969号公報
特開2000−230112号公報
このような技術的背景に基づいて、この出願の1つの発明は、比較的低温で硬化させることができ、かつ、高い保存安定性を有する実装用接着剤を提供すること、およびそのような実装用接着剤を用いた回路基板の製造方法を提供すること、並びにそのような回路基板を備える電気電子機器を提供することを目的とする。
また、この出願のもう1つの発明は、ホウ酸エステル化合物のような追加の成分を含まずに高い保存安定性を有し、かつ、所望の場合に硬化し、好ましくは速やかに低温硬化する導電性ペーストを提供すること、及びそのような導電性ペーストを用いて配線基板および電子部品実装体を製造する方法を提供することを目的とする。
エポキシ樹脂の硬化剤としてチオール基(−SH)を有する化合物が用いられる場合には、作業の現場において、その化合物からチオール基に由来する特有の不快臭が発生して、作業者は不快感を感じるため、安全衛生上好ましくない。更に、未硬化のエポキシ樹脂は一般に透明であって、硬化するとその色調が変化するが、導電性ペーストに含まれる導電性フィラー(導電性粒子)は通常不透明であるため、硬化の完了を樹脂の色調の変化に基づいて目視または検査器により確認することは容易ではない。
そこで、この出願の更にもう1つの発明は、エポキシ樹脂系の導電性接着剤に関して、不快な臭気の発生を防止又は低減して、硬化の完了をより容易に確認することのできる導電性ペーストを提供すること、及びそのような導電性ペーストを用いて配線基板および電子部品実装体を製造する方法を提供することを目的とする。
この出願は、第1の発明として、導電性粒子成分、エポキシ樹脂成分、及びエポキシ樹脂硬化性成分を含んでなる導電性接合材料であって、エポキシ樹脂硬化性成分が鎖状又は環状の含硫黄化合物を含むことを特徴とする発明を提供する。含硫黄化合物は、チオール基(−SH)を有する化合物であることが好ましい。
この出願の第1の発明は、1つの要旨によれば、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂を硬化させるための潜在性硬化剤および導電性粒子を含む実装用接合剤であって、含硫黄化合物をエポキシ樹脂100重量部に対して約1〜100重量部で更に含む実装用接合剤(または導電性接着剤)が提供される。
第1の発明の実装用接合剤によれば、含硫黄化合物にはSH基が含まれているので、SH基に由来する−S−が求核置換反応によりエポキシ基のC+にアタックして開環させ、これにより硬化を開始させることができる。
これに対して、他の改質剤、例えばシラン系、チタネート系およびアルミニウム系カップリング剤(または表面処理剤)などは硬化を開始させることはできない。エポキシ樹脂および潜在性硬化剤を含み、標準硬化条件が120℃にて10分間である導電性接着剤にこのようなカップリング剤を添加すると、接着強度の改善がみられるものの、硬化特性に対してはほとんど影響を与えないか、むしろ、より高い温度である130℃にて10分間の加熱を要するようになる。
第1の発明の実装用接合剤によれば、上記のような含硫黄化合物が適当な量で含まれているので比較的低温で、例えば約70〜110℃で10分間加熱することによりエポキシ樹脂硬化性成分を活性化させ、エポキシ樹脂成分を硬化させることができる。よって、本発明の実装用接合剤を用いれば、耐熱温度が120℃より低い電子部品であっても特別な処置および/または装置を要することなく熱損傷を回避して基板に実装することが可能となる。更に、このような本発明の実装用接合剤は保存安定性に優れ、回路基板を連続的に(または同条件で)製造するのに適するという利点がある。
含硫黄化合物の量はエポキシ樹脂100重量部に対して約1〜100重量部とする。この改質剤の量がエポキシ樹脂100重量部に対して約1重量部より少ないと硬化温度を十分に低下させることができず、他方、約100重量部より多いと十分な保存安定性が得られない。
1つの態様において第1の発明の実装用接合剤は増粘剤を更に含む。このように増粘剤を添加して実装用接合剤の粘度を調節することによって、転写、スクリーン印刷、ディスペンスなどの種々の方法に応じて実装用接合剤を基板の所定の領域に適切に供給することができる。
第1の発明のもう1つの要旨によれば、第1の発明の実装用接合剤を用いて電子部品が実装された回路基板を含む電気電子機器が提供される。
この回路基板は、例えば、第1の発明の実装用接合剤を基板の所定の領域(一般的には電極またはランド)に供給し、電子部品を(より詳細にはその電極を)実装用接合剤と接触させて基板上に配置し、実装用接合剤を70〜110℃で加熱してエポキシ樹脂を硬化させ、これにより電子部品を基板の電極に機械的および電気的に接合する(即ち、実装する)ことをこの順序で含む方法によって製造することができる。
この出願は、第2の発明として、導電性粒子成分が金属粒子であって、含硫黄化合物が金属粒子の表面に配位してなる請求項1記載の導電性接合材料であって、所定の条件に付することによって前記チオール化合物が金属粒子から脱離してエポキシ樹脂硬化性成分となることを特徴とする導電性接合材料の発明を提供する。
この第2の発明は、1つの態様において、導電性粒子成分が金、銀および銅からなる群から選択される金属粒子から成ることを特徴とする。
この第2の発明は、1つの態様において、所定の条件に付することが、紫外線照射、電子線照射及び加熱のいずれかの操作に付することであることを特徴とする。これらのいずれかに操作によって、エポキシ樹脂硬化性成分を活性化させることができる。
この第2の発明は、もう1つの態様において、金属粒子が1nm〜100μmの平均粒径を有することを特徴とする。
この第2の発明は、もう1つの態様において、金属粒子が1〜100nmの平均粒径を有することを特徴とする。
回路形成用または配線層間用の導電性ペーストとして、ナノサイズ(ナノメートル(nm)のオーダーの寸法)の金属粒子(金属ナノ粒子とも言う)を液体中で分散させたものが知られている。金属ナノ粒子は、粒径のより大きな金属粒子に比べて活性が高く、常温で容易に凝集するため、保存安定性に関して問題がある。これを解決するため、金属ナノ粒子に配位結合する分散剤を添加して金属ナノ粒子を保護および安定化し、その後、分散剤を加熱により金属ナノ粒子から除去して酸無水物等の物質で捕捉することも知られている(例えば、特開2002−299833号公報)。
本発明者らは金属粒子に対する含硫黄化合物の配位状態の制御という点に着目し、更なる鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。
第2の発明の第1の要旨によれば、金属粒子と、含硫黄化合物と、樹脂とを含む導電性ペーストにおいて、含硫黄化合物はその末端基にて金属粒子の表面に配位しており、末端基が金属粒子の表面から脱離して樹脂の硬化剤として機能することを特徴とする導電性ペーストが提供される。
第2の発明の上記導電性ペーストによれば、含硫黄化合物は、その末端基にて金属粒子表面に配位でき(以下、本明細書においてこのような含硫黄化合物を配位性含硫黄化合物とも言うものとする)、配位している状態では硬化剤として機能せず、金属粒子表面から脱離した状態で硬化剤として機能する。要するに、この配位性含硫黄化合物は一種の潜在性硬化剤であり、硬化をもたらす末端基を配位結合によりキャップすることによって硬化反応を防止でき、また、配位結合を切断して末端基をフリーにすることによって硬化反応を起こさせるものである。このような本発明の導電性ペーストによれば、含硫黄化合物が配位している間は高い保存安定性を示し、所望の場合に配位状態を解除することにより硬化を開始させることが可能となる。特に、脱離した状態にて低温速硬化性の硬化剤として機能する配位性含硫黄化合物を用いれば、保存安定性が高く、かつ、所望の場合に速やかに低温硬化させることが可能となる。
尚、第2の発明において「硬化剤として機能する」とは樹脂の硬化反応を起こさせることを意味し、例えば、樹脂同士の結合反応を促進するものであっても、樹脂との結合反応によって樹脂間を架橋するものであってもよい。
配位性含硫黄化合物の末端基は、通常の状態において金属に配位し、所望の場合に配位状態を解除できることを要する。そのような末端基は孤立電子対を有する配位原子を含むものであればよく、外的作用、例えば紫外線および電子線などの照射ならびに加熱などによって配位原子と金属との間の配位結合を切断することが可能である。紫外線または電子線の照射量ならびに加熱の温度および時間は適当に選択してよい。加えて、配位性含硫黄化合物の末端基は樹脂の硬化反応に寄与し、硬化剤として機能し得ることを要するが、これは用いる樹脂および硬化方法との組合せにより様々であり得る。配位性含硫黄化合物は、脱離した状態で直ちに硬化剤として機能してもよく、あるいは、何らかの作用、例えば加熱などによって硬化剤として機能してもよい。
配位性含硫黄化合物の末端基は、例えばチオール基であってよい。チオール基は孤立電子対を有する硫黄原子を含むため金属に配位できると共に、樹脂の硬化、特にエポキシ樹脂の低温速硬化に寄与するものである。そのような配位性含硫黄化合物の例にはアルカンチオール化合物、具体的には1−デカンチオールおよび1−ヘキサンチオールなどのモノチオール化合物、ならびに1,10−デカンジチオール、1,8−オクタジチオールおよび1,6−ヘキサンジチオールなどのポリチオール化合物などが挙げられるが、チオール末端基を有する他のモノまたはポリチオール化合物を用いることももちろん可能である。尚、硬化時間は一般的にモノチオール化合物よりもポリチオール化合物を用いたほうがより短い。
エポキシ樹脂には未硬化のエポキシ樹脂、即ち1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂状物質を使用できる。例えばグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型および脂環型などの既知のエポキシ樹脂を使用できる。また、そのようなエポキシ樹脂の前駆体を使用してもよい。
しかし、第2の発明はこれに限定されず、第2の発明の概念を逸脱しない限り、任意の適切な配位性含硫黄化合物および樹脂を使用してよい。例えば、配位性含硫黄化合物の末端基はアミノ基であってもよい。
金属粒子は、金、銀および銅からなる群から選択される金属材料から成るものであってよい。本発明を限定するものではないが、上述したチオール基の硫黄原子は、このような金属材料から成る金属粒子の表面に良好に配位し得、これに対して、例えばニッケルから成る金属粒子の表面に実質的に配位しない。
第2の発明の1つの態様において、金属粒子は例えば約1nm〜100μm、好ましくは約1〜100nmの平均粒径を有する。平均粒径が約1nm〜100μmの金属粒子を用いた導電性ペーストは、印刷法に適用した場合に良好な印刷性を示し、また、樹脂を硬化させた場合に導電性材料として十分に低い抵抗を実現できる。平均粒径が約1〜100nmのナノサイズの金属粒子を用いた導電性ペーストは、比較的低温で金属粒子を焼結させることが可能であるので、一層低い抵抗を、温度変化による硬化樹脂の体積変化に対して安定に実現できる上、保存の際は、配位性含硫黄化合物により金属ナノ粒子が保護および安定化されるので、金属ナノ粒子の凝集の問題を回避し、分散性および保存安定性を確保できる。
第2の発明の1つの態様において、2種以上の金属粒子が導電性ペーストに含まれ、配位性含硫黄化合物はその末端基にて少なくとも1種の金属粒子の表面に配位する。これら金属粒子は異なる粒径を有していてよく、例えば金属ナノ粒子とより大きな粒径を有する金属粒子とを用いることが好ましい。粒径の相違する金属粒子を用いることによって金属粒子による充填密度を向上させつつ、金属ナノ粒子のみを用いる場合よりも印刷性を向上させ、および高価な金属ナノ粒子の量を相対的に減らせることによりコストを下げることができる。
第2の発明の導電性ペーストにおいて、金属粒子、配位性含硫黄化合物および樹脂の割合は、配位性含硫黄化合物が樹脂の硬化剤として機能し、樹脂が硬化により収縮した場合に金属粒子同士が接触または接近して十分な導電性を示すように選択される。
また、第2の発明の導電性ペーストは金属粒子、配位性含硫黄化合物および樹脂に加えて、任意の他の成分を含んでいてよく、これら成分の割合もまた導電性ペーストの使用目的などに応じて適宜選択され得るであろう。
第2の発明の導電性ペーストは任意の適当な方法により製造できるが、配位性含硫黄化合物が金属粒子表面に配位する前に樹脂に対する硬化剤として機能しないように(即ち、硬化が起こらないように)、金属粒子および配位性含硫黄化合物などの構成成分(但し、少なくとも樹脂は除く)を調製し、その後、この調製物に樹脂を含む残りの構成成分を添加して製造することが好ましい。調製に用いる金属粒子は、その表面に配位性含硫黄化合物が配位し得るように、化学的に活性であること、換言すれば、酸化膜等で被覆されずに露出していることが好ましい。
以上のような第2の発明の導電性ペーストは製造上の管理および取り扱いが容易であり、様々な用途に利用できる。例えば、配線基板の配線形成用材料、多層基板(本発明において両面基板を含む)の配線層間導通用材料、および電子部品実装体の実装用接合材料などとして使用できる。
第2の発明の第2の要旨によれば、基板上に配線を有する配線基板の製造方法であって、
第2の発明の導電性ペーストを配線に対応するパターンで基板に供給し、
導電性ペーストを紫外線照射、電子線照射および加熱のいずれかの操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子の表面から脱離させ、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む製造方法が提供される。
このような製造方法は、従来の導電性ペーストを用いる製造方法に比べて、導電性ペーストの管理および取り扱いが極めて簡単であり、比較的低温で実施できるという利点がある。この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いれば、低くて安定な配線抵抗を有する配線基板を提供することができる。
第2の発明の第3の要旨によれば、基板上に配線を有する配線基板の製造方法であって、
第2の発明の導電性ペーストを紫外線照射、電子線照射および加熱のいずれかの操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させ、
導電性ペーストを配線に対応するパターンで基板に供給し、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む製造方法も提供される。
このような製造方法は、従来の導電性ペーストを用いる製造方法に比べて、導電性ペーストの管理および取り扱いが簡単であり、比較的低温で、好ましくは基板および場合により基板上に存在し得る他の部材の加熱を最小限にして実施できるという利点がある。この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いれば、低くて安定な配線抵抗を有する配線基板を提供することができる。
第2の発明の第4の要旨によれば、複数の配線層が基板を挟んで多層化され、少なくとも2つの配線層が基板を貫通する孔を通じて電気接続された多層基板の製造方法であって、
本発明の導電性ペーストを紫外線照射、電子線照射および加熱のいずれかの操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させ、
導電性ペーストを基板の孔に充填し、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む製造方法が提供される。
このような製造方法は、上記第3の要旨による製造方法と同様の利点がある。この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いた場合、低くて安定な接続抵抗を有する配線層間導通部を備える多層基板を提供することができる。
また、多層基板は、
導電性ペーストを基板の孔に充填し、
本発明の導電性ペーストを加熱操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させ、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む方法によっても製造することができる。
第2の発明の第5の要旨によれば、電子部品が配線基板に実装された電子部品実装体の製造方法であって、
第2の発明の導電性ペーストを配線基板の所定の領域に供給し、
導電性ペーストを紫外線照射、電子線照射および加熱のいずれかの操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させ、
電子部品を導電性ペーストと接触するようにして配線基板上に配置し、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む製造方法が提供される。
このような製造方法は、上記第2の要旨による製造方法と同様の利点がある。この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いれば、低くて安定な接続抵抗を有する実装接合部を備える電子部品実装体を提供することができる。
また、第2の発明の第6の要旨によれば、電子部品が配線基板に実装された電子部品実装体の製造方法であって、
第2の発明の導電性ペーストを紫外線照射、電子線照射および加熱のいずれかの操作に付して、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させ、
導電性ペーストを配線基板の所定の領域に供給し、
電子部品を導電性ペーストと接触するようにして配線基板上に配置し、
脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させる
ことを上記の順序で含む製造方法も提供される。
このような製造方法は、上記第3の要旨による製造方法と同様の利点がある。この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いれば、低くて安定な接続抵抗を有する実装接合部を備える電子部品実装体を提供することができる。
この出願の第3の発明は、上記第1又は2の発明について、香料を更に含むことを特徴とする。
上記第3の発明の導電性接合材料は、導電性粒子成分が金属粒子であり、香料が還元性を有する物質であることを特徴とする。
建築分野において使用されるエポキシ樹脂を主剤に含む「二液型」のシーリング剤または接着剤では、チオール基(またはメルカプト基)を有する化合物の臭気の問題への対処が検討されている。例えば、バニリン、レモン油および/またはエステル系溶剤を添加してチオール基の臭気をマスキングすること(例えば、特開平04−23882号公報を参照)や、臭気成分である低分子量メルカプタンを含水ケイ酸マグネシウム鉱物であるセピオライトで吸着すること(例えば、特開平10−60097号公報を参照)が提案されている。
このような「二液型」の接着剤と比較すれば、「一液型」の導電性ペーストは使用に際し混合作業を要しない分、臭気の問題は若干緩和されものの、解決されるわけではない。
発明者らは、臭気のマスキングという点に着目し、更なる鋭意検討の結果、本発明を完成するに至った。
第3の発明の1つの要旨においては、導電性フィラー、樹脂、および樹脂を硬化させるための硬化剤を含み、更に香料を含む導電性ペーストが提供される。
このような第3の発明の導電性ペーストは香料が添加されているので、導電性ペーストに含まれる樹脂および/または硬化剤が臭気を放つものであっても、香料の芳香により臭気をマスキングできる。これにより、作業者に不快感を与えることが低減され、好ましくは作業者に快い感覚を与えることが可能となる。
加えて、第3の発明の導電性ペーストによれば、樹脂が未硬化の状態では香料の芳香が発散されるが、硬化後は香料が硬化物内に封入されて、発散される芳香が弱くなるかまたはほとんど感じられなくなる。これにより、導電性フィラーが不透明であっても、硬化の完了を導電性ペーストの匂いの有無(またはその強さの程度)に基づいてヒトの嗅覚または検査器により確認することが可能となる。
第3の発明において香料(又は香気成分)とは、一般的に認識されているように、芳香を有し(または香気を放ち)、ヒトの嗅覚を刺激して快感を与えるものを意味する。香料は芳香または香気を発する成分、即ち香気成分に加えて他の成分を含んでいてよく、天然香料および合成香料のいずれであっても、また、天然香料および合成香料からなる群から選択される2種以上の香料を混合した調合香料であってもよい。
天然香料は一般的に動植物体から抽出した芳香油(精油)から成り、動物性天然香料の例には麝香(ムスク)、霊猫香(シベット)、海狸香(カストリウム)および竜涎香(アンバーグリス)などが含まれ、これら香料の香気成分はそれぞれムスコン、シベトン、カストリンおよびアンブレインである。植物性天然香料は主として植物の花、果実、樹皮または葉などから得られる芳香油から成り、その例にはアニス油、オレンジ油、カシア油、クローブ油、サンダルウッド油、シトロネラ油、しょう脳油、スペアミント油、ゼラニウム油、テレピン油、パイン油、薄荷油、プチグレン油、ベルガモット油、ボアドロース油、ユーカリ油、ライム油、ラベンダー油、レモンクラス油およびレモン油などが含まれ、そのような香料の香気成分としてはアネトール、オイゲノール、カヂネン、カルボン、クマリン、ゲラニオール、酢酸エステル(例えば酢酸シンナミル、酢酸リナニル、酢酸メンチル)、サフロール、サリチル酸メチル、サンタロール、シトラール、シトロネラール、シネオール、カンファー、シンナミックアルデヒド、ターピネオール、デシルアルデヒド、バニリン、α,β−ピネン、ミルセン、メントール、メントン、リナロールおよびリモネンなどが挙げられる。
他方、合成香料の例にはヨノン(またはイオノン)、ヒドロキシントロネラール、ヘリオトロピン、β−ナフトールメチルエーテル、γ−ウンデカラクトン、γ−ノナラクトン、メチルフェニルグリシフド酸エチル、マルトール、シクロテン、エチルマルトール、バニリンおよびエチルバニリン(またはブルボナール)などが含まれ、これらを単独で、または2種以上含む混合物として用いてよい。
第3の発明の導電性ペーストの1つの態様において、樹脂はエポキシ樹脂であり、硬化剤はチオール基を有する化合物である。このような導電性ペーストは比較的低温で速やかに硬化するという利点がある上、チオール基を有する化合物が発する独特のひどい臭気を香料の芳香によりマスキングできる。従って、このような導電性ペーストは不快な匂いが特に問題とされるような電気電子機器、例えば携帯型機器、食品の加工(調理)または保存に使用される機器ならびに美容健康に関連する機器などの人間の生活環境において使用され得るような機器にも利用することができる。
第3の発明の導電性ペーストの好ましい態様において、導電性フィラーは金属粒子であり、香料は還元性を有する成分(以下、単に還元性成分と言う)を含んで成る。金属粒子は空気などにより酸化され、また、チオール基を有する化合物により硫化されることがあり、このような場合、導電性ペーストから得られる導電性の硬化物の体積抵抗率は金属粒子表面に酸化物および/または硫化物が形成されていない場合に比べて高くなる。これに対して、第3の発明のこの態様のように還元性成分を含んで成る香料を添加することによって、金属粒子の酸化および/または硫化を防止でき、よって、これに起因する硬化物の体積抵抗率の上昇を回避できる。尚、第3の発明に使用される「金属粒子」は単体金属から成る粒子であっても、合金、例えばはんだ材料、好ましくは鉛フリーはんだ材料から成る粒子であってもよい。
しかしながら第3の発明はこれに限定されず、導電性フィラーは金属粒子だけでなく、カーボン、導電性ポリマーなどの粉体または粒状物などであってもよい。また、樹脂はエポキシ樹脂の他、フェノール樹脂などであってよく、硬化剤は用いる樹脂に応じて、チオール系化合物以外にも、例えばアミン系化合物、フェノール系化合物などを適宜選択できるであろう。また、第3の発明の導電性ペーストは導電性フィラー、樹脂、硬化剤および香料に加えて、任意の他の成分を含んでいてよい。
第3の発明の導電性ペーストにおいて、導電性フィラー、樹脂、硬化剤、香料および場合により添加される追加成分の割合は、樹脂が硬化により収縮した場合に導電性フィラー同士が接触または接近して十分な導電性を示すように選択される。特に、香料の割合は、マスキングしたい臭気を発する成分の種類および臭気の強さ、ならびに香料の芳香の種類および強さなどに応じて選択できるであろう。
本発明の導電性ペーストは任意の適当な方法により、例えば構成成分を単に混合または混練することによって製造できる。
以上のような第3の発明の導電性ペーストは様々な用途、例えば電子部品実装体の実装用接合材料、配線基板の配線形成用材料および多層基板の配線層間導通用材料などに利用できる。
第3の発明のもう1つの要旨においては、導電性ペーストから、これに含まれる樹脂を硬化させることによって得られる導電性の硬化物を基板に有する電気電子機器の製造方法であって、
(a)上述した第3の発明の導電性ペーストを基板の所定の領域に供給し、
(b)導電性ペーストの樹脂を硬化剤によって硬化させ、
(c)硬化が完了したことを確認するために、導電性ペーストの匂いの有無を判定する
ことを上記の順序で含む製造方法が提供される。
このような第3の発明の製造方法によれば、導電性ペーストの匂いが有れば硬化が完了しておらず、導電性ペーストの匂いが無くなれば硬化が完了しているとみなしてよいので、硬化の完了を樹脂の色調の変化によって確認するよりも容易に確認でき、よって、品質信頼性の高い電気電子機器の製造方法を確立できる。
上記工程(c)において導電性ペーストの匂いが有ると判定した場合には、硬化が完了していないので、導電性ペーストの匂いが無くなるまで工程(b)および(c)を繰り返すことが好ましい。
第3の発明のもう1つの要旨によれば、第3の発明の導電性ペーストから、これに含まれる樹脂を硬化させることにより得られる導電性の硬化物を含む電気電子機器が提供される。このような機器は高い品質信頼性を有するという利点がある。第3の発明の電気電子機器には、例えば導電性の硬化物によって電子部品が配線基板に実装された電子部品実装体が含まれるが、これに限定されず、導電性の硬化物が配線として機能する配線基板や、複数の配線層が基板を挟んで多層化され、少なくとも2つの配線層が基板を貫通する孔に充填された導電性の硬化物によって電気接続された多層基板なども含まれ得る。
この出願の第1の発明によれば、実装用接合剤中にエポキシ樹脂の硬化を開始させ得る含硫黄化合物、特にSH基を有する改質剤が適当な量で含まれることにより、比較的低温で硬化可能であり、高い保存安定性を有する実装用接合剤が提供される。更に、本発明によれば、そのような実装用接合剤を用いた回路基板の製造方法ならびに回路基板を備える電気電子機器もまた提供される。
この出願の第2の発明によれば、末端基にて金属粒子の表面に配位結合しており、末端基が金属粒子の表面から脱離して樹脂の硬化剤として機能する配位性含硫黄化合物が導電性ペーストに含まれているので、この含硫黄化合物の配位結合状態を制御することによって、保存時には高い安定性を示し、所望の場合にのみ硬化させることができる。特に、脱離した状態にて低温速硬化性の硬化剤として機能する配位性含硫黄化合物を用いれば、高い保存安定性を有し、かつ低温で速やかに硬化する導電性ペーストが実現される。
更に、第2の発明によれば、上記のような導電性ペーストを用いる配線基板、多層基板および電子部品実装体を製造する方法もまた提供される。このような製造方法は、導電性ペーストの取り扱いが容易であるという利点がある。また、このような製造方法によって得られた配線基板、多層基板および電子部品実装体は、それぞれ配線抵抗、配線層間導通部の接続抵抗および実装接合部の接続抵抗を低くできるという利点がある。
この出願の第3の発明によれば、香料が添加されているので、不快な臭気が低減され、硬化の完了をより容易に確認することが可能となる。特に、エポキシ樹脂と、その硬化剤としてチオール基を有する化合物とを用いれば、比較的低温で硬化が可能な一液型の導電性ペーストにおいて、チオール基を有する化合物の独特のひどい臭気を香料の芳香でマスキングでき、例えば携帯型機器、食品の加工または保存機器ならびに美容健康機器などを含む広範な用途に使用することが可能となる。
また、この出願の電気電子機器の製造方法の発明によれば、第3の発明の導電性ペーストを用いることによって、その匂いの有無により硬化の完了を容易に確認することができるので、品質信頼性の高い電気電子機器を製造することが可能となる。
実施形態1(第1の発明)
本実施形態は実装用接合剤(または導電性接着剤)に関する。
本実施形態の実装用接合剤は、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂を硬化させるための潜在性硬化剤、導電性粒子および含硫黄化合物を含む1液型の組成物である。また第1の発明に必須ではないが、実装用接合剤は他の成分、例えば増粘剤などの添加剤を更に含んでいてよい。
含硫黄化合物はエポキシ樹脂100重量部あたり約1〜100重量部、好ましくは約2〜80重量部で含まれる。他の成分については特に限定されるものではないが、例えば潜在性硬化剤は約0.1〜30重量部、導電性粒子は約100〜1000重量部、および場合により増粘剤は約0.5〜25重量部(いずれもエポキシ樹脂100重量部あたり)で含まれ得る。
エポキシ樹脂には未硬化のエポキシ樹脂、即ち1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂状物質を使用できる。例えばグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型および脂環型などの既知のエポキシ樹脂を使用できる。また、そのようなエポキシ樹脂の前駆体を使用してもよい。
エポキシ樹脂を硬化させるための潜在性硬化剤は、エポキシ樹脂および硬化剤を含む1液型組成物において常温(例えば約15〜30℃)でその特性を長期間変えることなく安定に保存可能で、所定の温度に加熱された場合に速やかにエポキシ樹脂を硬化させる機能を有する硬化剤である。第1の発明に利用可能な潜在性硬化剤の例には、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドラジド、アミンイミド、第三アミン塩、イミダゾール塩、ルイス酸およびブレンステッド酸塩などが挙げられ、好ましくはアミン骨格を分子中に有する潜在性硬化剤である。(例えば新保正樹編、「エポキシ樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、p225−230を参照のこと。)
導電性粒子はそれ自身が導電性を有するものであればよく、例えば金、銀、銅、ニッケル、銀―パラジウム合金およびはんだ合金などの金属から成る粒子、またはカーボンなどの他の導電性物質から成る粒子を使用できる。導電性粒子の寸法および形状は特に限定されるものではないが、例えば約0.1〜50μmの数平均粒径を有する粒子であってよい。
第1の発明において改質剤とはエポキシ樹脂および導電性粒子の少なくとも一方に作用してその性質を改変し、例えば接着強度の向上などをもたらすものを意味する。第1の発明に使用可能な改質剤はそのような機能を有し、かつ、1つまたは2つ以上のSH基を分子内に有するものである。そのようなSH基を有する改質剤である含硫黄化合物は、潜在性硬化剤による硬化温度を低下させるものである。
含硫黄化合物の例には、メルカプトプロピオン酸誘導体(例えば3−メルカプトプロピオン酸、メカプトプロピオン酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸トリデシル、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネートおよびペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネートなど)、チオグリコール酸誘導体(例えばチオグリコール酸、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸モノエタノールアミン、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸メトキシブチル、エチレングリコールビスチオグリコレート、ブタンジオールビスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレートおよびペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレートなど)およびチオール(チオリンゴ酸、ステアリルメルカプタン、2−メルカプトエチルオクタン酸エステル、4−メルカプトピリジン、2−メルカプトプロピオン酸など)などが含まれる。
あるいは、含硫黄化合物として、SH基を有しないが、−S−を生じ得る他の含硫黄化合物、例えばチイランおよび環状または直鎖状チイラン誘導体(例えばチイランの塩および錯体など)を使用しても第1の発明と同様の効果を奏し得る。
増粘剤には一般的な無機質増粘剤(またはチキソ剤)などを使用できる。また、その他の任意の添加剤、例えば硬化促進剤、充填剤、顔料、染料、可撓性付与剤および分散剤なども適宜添加され得る。
このような本実施形態の実装用接合材料は各構成成分を適当に混合または混練することにより調製され得る。
本実施形態の実装用接合剤は導電性接着剤として理解され、そのままでは導電性を示さないが、加熱によってエポキシ樹脂が硬化収縮し、導電性粒子同士が接触または接近して導電性を示すようになる。本実施形態の実装用接合剤はエポキシ樹脂の硬化を開始させ得る含硫黄化合物を適当な量で含むので、比較的低温、具体的には約70〜110℃で硬化可能であり、かつ、比較的長期、少なくとも7日以上に亘って安定に保存可能である。
実施形態2(第1の発明)
本実施形態は回路基板の製造方法およびそのような回路基板が組み込まれた電気電子機器に関する。
まず、例えば実施形態1にて上述したような第1の発明の実装用接合剤を基板の電極(またはランド)に供給する。接合剤の供給は転写、スクリーン印刷、ディスペンスなどの種々の方法により実施してよい。この基板は、当該技術分野で一般的に知られているような、絶縁性基板に配線が電極と一体的に形成されたものを用い得る。
次に、この基板上に電子部品を、電子部品の電極が基板の電極上に供給した実装用接合剤と接触するように位置合わせして配置する。
そして、得られた基板をリフロー炉に通すなどして加熱し、実装用接合剤を70〜110℃の温度条件下にて適当な時間、例えば約0.5〜10分間維持する。これにより、エポキシ樹脂が十分に硬化して基板の電極と電子部品の電極とを接着し、また、エポキシ樹脂が硬化収縮することにより導電性粒子同士が接触または接近して導電性を示すようになる。この結果、硬化後の接合剤によって電子部品が基板の電極に機械的および電気的に接合される。
本実施形態に用いる電子部品は加熱温度よりも高い耐熱温度を有するものであればよい。120℃より低い耐熱温度を有する電子部品であっても、その耐熱温度が加熱温度より高ければ使用することができる。加熱温度は、十分な硬化が得られるように電子部品の耐熱温度を考慮して約70〜110℃の範囲内で適当に設定してよい。
以上により、電子部品が実装された回路基板が製造される。
このような回路基板は任意の電気電子機器に組み込んで使用することができる。そのような電気電子機器には以下のものが含まれる:
・ビデオカメラ、ポ−タブルCD、ポータブルMD、ポータブルDVD、携帯電話およびノート型パソコンなど持ち運び可能な電気電子機器;
・ステレオ、デスクトップ型パソコン、テレビ電話、DVDプレーヤー、CDプレーヤー、DVDレコーダー、CDレコーダーおよびテレビなどの通常静置して使用される電気電子機器;
・炊飯機器、電子レンジ、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、エアコン、照明器具、インターホン、防犯カメラ、監視カメラ、ガス漏れ検知器および洗浄機能付き便座などの家庭などで使用される電気電子機器;および
・カーステレオ、カーナビゲーション、カーエアコン、カーセンサー、エンジンコントローラー、車載カメラ、自動ブレーキ安全制御システム(ABS)およびヘッドライトなどの自動四輪車、自動二輪車およびその他の車両で使用される電気電子機器。
(第2の発明)
以下、第2の発明の種々の実施形態について、図1〜6を参照して、より詳細に説明する。第2の発明に関するの実施形態において、同様の部材には同じ符号を付すものとし、特定の部材に関する実施形態における説明は、特に断らない限り、他の実施形態においても同様に当て嵌まるものとする。
実施形態3(第2の発明)
本実施形態は第2の発明の1つの態様における導電性ペーストおよびその製造方法ならびに使用方法に関する。
図1(a)に示すように、本実施形態の導電性ペースト7は第1の金属粒子1、配位性含硫黄化合物2および絶縁性の樹脂4を含んで成り、配位性含硫黄化合物2がその末端基にて第1の金属粒子1の表面に配位して金属配位化合物3を形成している。
第1の金属粒子1の表面に配位する配位性含硫黄化合物2の末端基は、例えばチオール基であってよく、その硫黄原子が配位原子となる。樹脂4は、例えばエポキシ樹脂であってよい。チオール基はエポキシ樹脂の硬化に関与するので、配位性含硫黄化合物2は、その末端基が金属粒子1の表面から脱離した状態で樹脂4の硬化剤として機能する。
第1の金属粒子1は、例えば金、銀または銅から成っていてよい。このような金属材料に対して配位性含硫黄化合物2のチオール基(より詳細には硫黄原子)は良好に配位し得る。金属粒子1の平均粒径は、例えば約1nm〜100μmであってよく、好ましくは約1〜100nmである。第1の金属粒子1がナノサイズであっても、配位性含硫黄化合物2が配位することによって樹脂4にて安定に分散できる。尚、図中には樹脂4をいくつかのみ代表的に記載しているが、実際には、樹脂4は図示するよりも多く存在して分散媒となっている。
本実施形態の導電性ペースト7は、図1(a)に示すように、第2の金属粒子5を更に含んでいてよい。第2の金属粒子5は、例えば金、銀、銅、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、亜鉛、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、インジウム、およびケイ素などから成っていてよく、配位性含硫黄化合物2が配位しても、配位しなくてもよい。第2の金属粒子5の平均粒径は、例えば約0.1〜100μmであってよく、特に0.1〜20μmである。しかしながら、第2の発明はこれに限定されず、第2の金属粒子5を含んでいなくてもよい。
尚、本明細書を通じて「平均粒径」とは粒子の集合体の数平均の粒径を意味し、レーザ回折散乱法により、例えばマイクロトラック粒子径分布測定装置 9320 HRA(日機装株式会社製)を用いて測定できる。
本実施形態の導電性ペースト7における第1の金属粒子1、配位性含硫黄化合物2、樹脂4、および存在する場合には第2の金属粒子5の割合は、例えばそれぞれ約100重量部、約60〜95重量部、約30〜2重量部、約30〜2重量部である。しかし、第2の発明はこれに限定されず、適宜選択され得るであろう。
また、本実施形態の導電性ペースト7は、必要に応じて他の成分、例えば硬化促進剤、充填剤、希釈剤、溶剤、顔料、可撓性付与剤および分散剤などを適当な量で更に含んでいてよい。
本実施形態の導電性ペースト7は、まず、表面が露出した第1の金属粒子1および配位性含硫黄化合物2を混合して金属配位化合物3を形成させ、その後、この混合物に樹脂4を添加混合することによって製造できる。第2の金属粒子5(および場合により他の成分)は、第1の金属粒子1および配位性含硫黄化合物2と一緒に混合しても、その混合物に樹脂4と一緒に添加混合してもよい。
次に、この導電性ペースト7の使用方法について説明する。
導電性ペースト7に紫外線および電子線などの照射ならびに加熱などの外的作用を施すと、第1の金属粒子1と含硫黄化合物2の末端基との間の配位結合が切断される。これにより、金属配位化合物3は分解し、図1(b)に示すように含硫黄化合物2は金属粒子1の表面から脱離する。紫外線または電子線の照射を適用する場合、照射量は適宜設定でき、導電性ペースト7および基板6の温度上昇はごくわずかである。加熱による場合は、特に限定されるものではないが、例えば約60〜120℃で約5〜60分間維持することにより実施してよい。
脱離した含硫黄化合物2は樹脂4の硬化剤として機能でき、例えば加熱によって、または付加的な操作を要することなく、図1(c)に示すように樹脂4を硬化させる。樹脂4の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましい。樹脂4がエポキシ樹脂であり、含硫黄化合物2の末端基がチオール基である場合、例えば約80〜120℃で約5〜60分間維持することにより硬化する。あるいは、紫外線および電子線などの照射によって硬化するものであってもよい。
樹脂4を硬化させるために加熱などの操作を実施する場合、この操作と含硫黄化合物2の脱離のための操作とは別々の条件で実施され得るが、適当であれば一体的または連続的に実施してもよい。
上記の結果、樹脂4が硬化収縮し、その収縮力により第1の金属粒子1および第2の金属粒子5は接触または近接して、全体として導電性を示す硬化物7’を形成する。
特に、第1の金属粒子1の平均粒径が約1〜100nmである場合、含硫黄化合物2の脱離および/または樹脂4の硬化の際に、例えば約25〜110℃で約2〜30分間加熱することにより、第1の金属粒子1同士が焼結する。従って、これにより得られる導電性の硬化物7’は非常に低い抵抗値を示す。また、第1の金属粒子1同士が焼結されているので、硬化した樹脂4が温度変化により体積変化しても、硬化物7’の抵抗値は実質的に影響を受けない。
以上、本実施形態の導電性ペーストによれば、保存時には高い安定性を確保し、所望の場合にのみ硬化させることが可能となる。また、本実施形態の導電性ペーストは、比較的低温で使用して導電性の硬化物を形成することができる。更に、導電性ペーストにナノサイズの金属粒子を用いてこれを焼結させることにより、得られる導電性硬化物の抵抗をより低く、かつ安定化することができる。
実施形態4(第2の発明)
本実施形態は第2の発明の1つの態様における配線基板の製造方法に関する。
まず、図2(a)に示すような絶縁性の基板(または基材)6を用意する。この基板6にはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、ポリイミド、熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性樹脂、アラミド不織布、ガラス織布、ガラス不織布などから成るものを用い得るが、これに限定されるものではない。
次に、図2(b)に示すように、例えば第1の実施形態にて上述した導電性ペースト7を配線に対応するパターンで基板6に供給する。供給方法には、スクリーン印刷、インクジェット、ディスペンサー、含浸、スピンコートなどの種々の方法を適用できる。図2(b)にはスクリーン印刷法による場合を例示的に示しており、スキージ9をマスク8に対して押し付けながら移動させることにより、マスク8に所定のパターンで設けられた開口部を通じて導電性ペースト7を基板6の上に印刷する。印刷後、マスク8は基板6から除去する。
その後、図2(c)に示すように基板6上の導電性ペースト7に紫外線または電子線10を照射し、あるいは導電性ペースト7を基板6と共に加熱する。これにより、導電性ペースト7において金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物はその表面から脱離する。
そして、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させ、図2(d)に示す導電性の硬化物7’を得る。樹脂の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましく、例えば加熱などの操作を要するものであっても、または付加的な操作を要することなく脱離後直ちに起こるものであってもよい。
以上のようにして、基板6上に導電性の硬化物7’が配線として形成された配線基板を製造することができる。
本実施形態の配線基板の製造方法によれば、第2の発明の導電性ペーストを配線形成用材料に用いているので保存安定性に優れ、製造上の管理が容易である。また、導電性ペーストを基板上に供給した後に含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させているので、供給する前またはその間に樹脂が硬化し始めることがなく、供給時の導電性ペーストの取り扱いに格別の注意を要しない。更に、比較的低温で配線基板を製造することができる。加えて、この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いた場合には、低くて安定な配線抵抗を有する配線基板を提供することができる。
実施形態5(第2の発明)
本実施形態は第2の発明のもう1つの態様における配線基板の製造方法に関する。本実施形態は実施形態4を改変したものであり、以下、実施形態4と相違する点を中心に説明するものとする。
まず、図3(a)に示すような絶縁性の基板(または基材)6を用意する。
別途、図3(b)に示すように、例えば第1の実施形態にて上述した導電性ペースト7に紫外線または電子線10を照射し、あるいは導電性ペースト7を加熱して、導電性ペースト7において金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物をその表面から脱離させる。
次に、図3(c)に示すように、この導電性ペースト7を配線に対応するパターンで基板6に供給する。本実施形態においては、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させた後、供給が完了するまでの間に導電性ペースト7が実質的に硬化しないことが望ましい。
そして、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させて、図3(d)に示す導電性の硬化物7’を得る。樹脂の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましく、導電性ペースト7を基板6と共に加熱することによって起こるものであってよい。
以上のようにして、基板6上に導電性の硬化物7’が配線として形成された配線基板を製造することができる。
本実施形態の配線基板の製造方法によれば、第2の発明の導電性ペーストを配線形成用材料に用いているので保存安定性に優れ、製造上の管理が容易である。また、導電性ペーストを基板上に供給する前に含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させているので、脱離のために基板が紫外線、電子線または熱に曝されることがなく、基板および場合により基板上に存在し得る他の部材の加熱を極力抑えて、比較的低温で配線基板を製造することができる。加えて、この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いた場合には、低くて安定な配線抵抗を有する配線基板を提供することができる。
実施形態6(第2の発明)
本実施形態は第2の発明の1つの態様における多層基板、より詳細には両面基板の製造方法に関する。
まず、図4(a)に示すような、任意の適当な位置に貫通孔11が設けられた基板6’を用意する。この基板6’は実施形態4にて上述したのと同様の基板6に、例えばドリルおよびパンチャーなどを用いる機械加工またはレーザーなどを用いる熱加工により孔11を形成して得られ得る。
別途、図4(b)に示すように、例えば第1の実施形態にて上述した導電性ペースト7に紫外線または電子線10を照射し、あるいは導電性ペースト7を加熱して、導電性ペースト7において金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物をその表面から脱離させる。
次に、図4(c)に示すように、この導電性ペースト7を基板6’の孔11に充填する。充填方法には、スクリーン印刷、インクジェット、ディスペンサー、含浸、スピンコートなど種々の方法を適用でき、図4(c)にはスクリーン印刷法による場合を例示的に示している。本実施形態においても、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させた後、充填が完了するまでの間に導電性ペースト7が実質的に硬化しないことが望ましい。
そして、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させて、導電性の硬化物7’を得る。樹脂の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましく、導電性ペースト7を基板6’と共に加熱することによって起こるものであってよい。
次に、図4(e)に示すように、配線層12aおよび12bを基板6’の上面および下面に形成する。これら配線層12aおよび12bは孔11を通じて、孔11を充たす導電性の硬化物7’によって電気接続されている。配線層は、例えば第2または第3の実施形態にて上述した方法と同様にして形成してよく、あるいは既知の配線層(または回路)の形成方法を適用してもよい。
以上のようにして、基板6上に導電性の硬化物7’が配線層12aおよび12bの間の導通部を構成する多層基板を製造することができる。
本実施形態の多層基板の製造方法によれば、第2の発明の導電性ペーストを配線層間導通用材料に用いているので保存安定性に優れ、製造上の管理が容易である。また、導電性ペーストを基板の孔に充填する前に含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させているので、脱離のために基板が紫外線、電子線または熱に曝されることがなく、基板および場合により基板上に存在し得る他の部材の加熱を極力抑えて、比較的低温で多層基板を製造することができる。加えて、この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いて焼結させた場合には、低くて安定な接続抵抗を有する配線層間導通部を備える多層基板を提供することができる。
尚、本実施形態においては2つの配線層が1つの基板を挟んで多層化された多層基板、より詳細には両面基板について説明したが、本実施形態において説明したのと同様の方法を利用して、より多くの配線層が、隣接する2つの配線層間に1つの基板を挟んで多層化された多層基板を製造することもできる。また、本実施形態においては、導電性ペースト7を基板6’の孔11に充填した後に配線層12aおよび12bを形成するものとしたが、配線層を形成した後に導電性ペースト7を充填することもできる。
また、本実施形態においては導電性ペーストに紫外線または電子線を照射し、あるいは導電性ペーストを加熱し、その後、このように処理した導電性ペーストを予め形成した基板の孔に充填するものとしたが、加熱による場合には、未処理の導電性ペーストを基板の孔に充填し、その後、導電性ペーストを基板と共に加熱し、これにより、金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物を脱離させ、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させるようにしてもよい。
実施形態7(第2の発明)
本実施形態は第2の発明の1つの態様における電子部品実装体の製造方法に関する。
まず、図5(a)に示すような配線基板13を用意する(配線層は図示せず)。配線基板13は、例えば第2または第3の実施形態により製造されたものであってよく、あるいは既知の製造方法により得られる配線基板または市販で入手できるものを用い得る。
次に、図5(b)に示すように、例えば第1の実施形態にて上述した導電性ペースト7を配線基板13の所定の領域、例えば配線層と電気接続されたランド(図示せず)に供給する。供給方法には、実施形態4と同様の方法を適用でき、図5(b)にはスクリーン印刷法による場合を例示的に示している。
その後、図5(c)に示すように配線基板13上の導電性ペースト7に紫外線または電子線10を照射し、あるいは導電性ペースト7を配線基板13と共に加熱する。これにより、導電性ペースト7にて、金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物をその表面から脱離させる。
次に、電子部品14をこの導電性ペースト7と接触するように、配線基板13に対して位置合わせして配置する。
そして、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させ、図5(d)に示す導電性の硬化物7’を得る。樹脂の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましく、例えば加熱などの操作を要するものであっても、または付加的な操作を要することなく脱離後直ちに起こるものであってもよい。
この結果、配線基板13と電子部品14との間に位置する導電性の硬化物7’によって、電子部品14は配線基板13に機械的および電気的に接合され、実装される。
以上のようにして、導電性の硬化物7’が電子部品14を配線基板13に実装する接合部を構成する電子部品実装体を製造することができる。
本実施形態の電子部品実装体の製造方法によれば、第2の発明の導電性ペーストを実装用接合材料に用いているので保存安定性に優れ、製造上の管理が容易である。また、導電性ペーストを配線基板上に供給した後に含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させているので、供給する前またはその間に樹脂が硬化し始めることがなく、供給時の導電性ペーストの取り扱いに格別の注意を要しない。更に、比較的低温で配線基板を製造することができる。加えて、この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いて焼結させた場合には、低くて安定な接続抵抗を有する実装接合部を備える電子部品実装体を提供することができる。
実施形態8(第2の発明)
本実施形態は第2の発明のもう1つの態様における電子部品実装体の製造方法に関する。本実施形態は実施形態7を改変したものであり、以下、実施形態7と相違する点を中心に説明するものとする。
まず、図6(a)に示すような配線基板13を用意する。
別途、図6(b)に示すように、例えば第1の実施形態にて上述した導電性ペースト7に紫外線または電子線10を照射し、あるいは導電性ペースト7を加熱して、導電性ペースト7にて、金属粒子の表面に配位していた含硫黄化合物をその表面から脱離させる。
次に、図6(c)および(d)に示すように、この導電性ペースト7を配線基板13の所定の領域、例えば配線層と電気接続されたランド(図示せず)に供給する。本実施形態においては、含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させた後、供給が完了するまでの間に導電性ペースト7が実質的に硬化しないことが望ましい。
次に、電子部品14をこの導電性ペースト7と接触するように、配線基板13に対して位置合わせして配置する。
そして、脱離した含硫黄化合物を硬化剤として機能させて樹脂を硬化させ、図6(e)に示す導電性の硬化物7’を得る。樹脂の硬化は比較的低温にて速やかに起こることが好ましく、導電性ペースト7を配線基板13および電子部品14と共に加熱することによって起こるものであってよい。
この結果、配線基板13と電子部品14との間に位置する導電性の硬化物7’によって、電子部品14は配線基板13に機械的および電気的に接合され、実装される。
以上のようにして、導電性の硬化物7’が電子部品14を配線基板13に実装する接合部を構成する電子部品実装体を製造することができる。
本実施形態の電子部品実装体の製造方法によれば、第2の発明の導電性ペーストを実装用接合材料に用いているので保存安定性に優れ、製造上の管理が容易である。また、導電性ペーストを配線基板上に供給する前に含硫黄化合物を金属粒子表面から脱離させているので、脱離のために配線基板が紫外線、電子線または熱に曝されることがなく、配線基板および場合により配線基板上に存在し得る他の部材の加熱を極力抑えて、比較的低温で電子部品実装体を製造することができる。加えて、この製造方法においてナノサイズの金属粒子を含む導電性ペーストを用いて焼結させた場合には、低くて安定な接続抵抗を有する実装接合部を備える電子部品実装体を提供することができる。
(第3の発明)
実施形態9(第3の発明)
本実施形態は第3の発明の1つの態様における導電性ペーストに関する。
本実施形態の導電性ペーストは、導電性フィラーである金属粒子と、エポキシ樹脂と、チオール基を有する化合物から成る硬化剤と、香料とにより構成される。
金属粒子は、例えば金、銀、銅およびニッケルなどの金属またはそれらを2種以上含んで成る合金または混合物から成る粒子、あるいはスズ系合金または混合物(例えばはんだ材料、具体的にはSnBi系およびこれにInを添加したものや、SnAg系、SnCu系およびSnAgCu系ならびにこれらにBiおよび/またはInを添化したものなどから成る粒子であってよい。金属粒子の数平均粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば約1〜50μm、好ましくは約2〜20μmである。
また、エポキシ樹脂には、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂またはそれらを変性させたものなどを用いてよい。
チオール基を有する化合物はエポキシ樹脂の硬化剤として機能し、特に低温速硬化を可能にするので好ましい。このような化合物の例には、チオグリコール酸およびその誘導体、メルカプトプロピオン酸およびその誘導体、チオリンゴ酸、メルカプトピリジン、ステアリルメルカプタンならびにメルカプトエチルオクタン酸エステルなどが含まれる。
香料には、例えばテルペン系化合物ならびにその誘導体(より詳細にはリモネン、リナロールおよびシトラールなど)を香気成分として有する植物性天然香料、または、例えばヨノン(またはイオノン)、ヒドロキシシトロネラール、マルトール、バニリンおよびエチルバニリン(またはブルボナール)などの合成香料を用いてよい。
特に、本実施形態のようにチオール基を有する化合物を用いる場合、その独特のひどい臭気をマスキングすることが可能な程度に強い芳香を放つ香料を用いることが好ましい。そのような香料としては天然香料よりも合成香料または調合香料が好ましく、例えばエチルバニリンなどを使用できる。
また、金属粒子が例えば銀などの硫化され易い金属から成る場合、または例えば銅などの酸化され易い金属から成る場合、金属粒子表面の硫化または酸化、ひいては導電性ペーストの硬化物の体積抵抗率の上昇を低減し、好ましくはこれを防止し得る程度の還元力を有する香料(あるいは金属粒子を構成する金属よりも硫化または酸化され易い香料)を用いることが好ましい。そのような香料としては、例えばケイ皮酸などのカルボキシル基を有する香料、また例えばバニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、アニスアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒド、ケイ皮アルデヒド、シトラール、シトロネラール、デシルアルデヒドおよびヒドロキシシトロネラールなどのアルデヒド基を有する香料などが挙げられる。香料は任意の形態であってよく、例えば上記の例においてバニリン、エチルバニリンおよびヘリオトロピンは一般的に粉体であり、アニスアルデヒド、アミルシンナミックアルデヒド、ケイ皮アルデヒド、シトラール、シトロネラール、デシルアルデヒドおよびヒドロキシシトロネラールは一般的に液体である。
本実施形態の導電性ペーストにおける各成分の割合は、例えばエポキシ樹脂を約100重量部、金属粒子を約25〜600重量部、硬化剤を約1〜100重量部、香料を約1〜100重量部としてよい。しかし、第3の発明はこれに限定されず、適宜選択され得るであろう。
また、本実施形態の導電性ペーストは、必要に応じて他の成分、例えば硬化促進剤、充填剤、希釈剤、溶剤、顔料、可撓性付与剤および分散剤などを適当な量で更に含んでいてよい。
このような本実施形態の導電性ペーストは任意の適当な方法により製造できるが、例えば、市販により入手可能な金属粒子、エポキシ樹脂、硬化剤、香料および場合により含まれる追加成分を単に混合または混練することによって得ることができる。
本実施形態の導電性ペーストは、加熱によって、または常温にて、チオール基を有する化合物が硬化剤として作用してエポキシ樹脂が硬化し、その硬化収縮力によって金属粒子同士が接触または接近する。硬化が十分に進んだ後に得られた硬化物は導電性を示し、匂いがしなくなる。
以上、本実施形態の導電性ペーストによれば、チオール基を有する化合物の独特の臭気が香料の芳香によりマスキングされるので、不快な臭気が効果的に低減されると共に、香料の芳香により快い感覚を与えることができる。また、本実施形態の導電性ペーストは、硬化が完了した状態では匂いが無くなるので、匂いの有無によって硬化の完了を容易に確認することができる。本実施形態の導電性ペーストは、チオール基を有する化合物の独特のひどい臭気のために従来は使用が許容されなかった携帯型機器、食品の加工または保存機器ならびに美容健康機器などを含む広範な用途に使用することが可能となる。
実施形態10(第3の発明)
本実施形態は第3の発明の1つの態様における電子部品実装体を含む電気電子機器の製造方法に関する。
まず、絶縁性の材料(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネイト、ポリイミド、エポキシ樹脂、アラミド不織布、ガラス織布、ガラス不織布など)から成る基板の少なくとも一方の面に、導電性材料(例えば銅、金、導電性ペーストの硬化物)から成る配線が形成された配線基板を用意する。配線基板は既知の製造方法により得られるものまたは市販で入手できるものを用いてよい。
次に、例えば実施形態9にて上述した導電性ペーストを配線基板の所定の領域、より詳細には電極(例えばランド)にスクリーン印刷法により供給する。具体的には、所定のパターンで設けられた開口部を有するマスクを配線基板の上に配置し、マスクに対してスキージを押し付けながら移動させて、導電性ペーストをマスクの開口部を通じて基板上に印刷する。導電性ペーストの厚さが均一になるように印刷するためには、マスクはメタルマスク(または金属製)であること、スキージはフッ素樹脂で出来ていることが好ましい。印刷後、マスクは配線基板から除去する。尚、スクリーン印刷法に代えて、他の方法、例えばインクジェット、ディスペンサー、含浸、スピンコートなどにより、導電性ペーストを配線基板の所定の領域に供給してもよい。
その後、電子部品の電極(例えばリード)が印刷された導電性ペーストと接触するように、電子部品を配線基板に対して位置合わせして装着する。装着の仕方は、電子部品の種類によって異なり得るが、一般的には、後の加熱工程にて導電性ペーストの粘度が低下して電子部品の接合部を十分に覆うことができるので、導電性ペーストの上に電子部品を配置するだけでよい。もちろん、電子部品と導電性ペーストとを相対的に押し付けて、互いに十分に密着させてもよい。
そして、これにより得られた基板を加熱すると、導電性ペーストにおいてはチオール基を有する化合物を硬化剤として作用させてエポキシ樹脂が熱硬化する。加熱は、用いる硬化剤によっても異なり得るが、例えば約70〜200℃、好ましくは約70〜120℃の温度で約1.5〜15分間に亘って実施される。
加熱終了後、導電性ペースト(または少なくとも部分的に硬化した硬化物)の匂いの有無を検査により判定する。この検査は、正常な嗅覚を有する作業者が実施しても、あるいは匂いを感知できる検査器を用いて実施してもよい。導電性ペーストの匂いが実質的にしない場合は、硬化によって匂いの成分が硬化物内に封じ込めらており、硬化が完了したことが確認できる。
しかし、導電性ペーストの匂いがする場合(導電性ペーストの匂いが加熱前より低減されていても、依然として匂いがする場合を含む)は、匂いの成分がまだ十分に封じ込められていないことから、硬化が不十分であると考えられ、硬化の完了を確認できない。よってこの場合には、加熱およびその後の検査を、匂いがしなくなって、硬化の完了を確認できるまで繰り返す。
このように、導電性ペーストの樹脂の硬化の完了を導電性ペーストの匂いの有無に基づいて確認できる。
樹脂の硬化の完了が確認されると、導電性ペーストは導電性の硬化物となり、この導電性の硬化物によって電子部品が配線基板に機械的および電気的に接合され、実装される。
以上のようにして得られる電子部品実装体は様々な電気電子機器に組み込まれ得る。本実施形態により製造される電気電子機器には、例えば、携帯電話およびヘッドホンステレオなどの携帯型機器、炊飯器、電子レンジおよび冷蔵庫などの食品の加工または保存機器、ならびに体脂肪計、肌水分計、電動歯ブラシおよび電動シェーバーなどの美容健康機器なども含まれる。
本実施形態の電気電子機器の製造方法によれば、導電性ペーストの樹脂の硬化の完了を匂いによって容易に確認できるので、低コストおよび高精度の検査が可能になる。本実施形態の製造方法により得られる電子部品実装体、ひいてはこれを備える電気電子機器は高い品質信頼性を有する。
以下、この出願の第1〜第3の各発明の実装用接合材料およびそれを用いて作製される回路基板を組み込んだ電気電子機器について実施例および比較例を通じてより詳細に説明する。
(第1の発明)
1.実装用接合剤
まず、第1の発明の実施例として、以下に示すエポキシ樹脂、潜在性硬化剤、無機質増粘剤、導電性粒子および改質剤Aをロール式撹拌機にて分散・混練し、更に、減圧(10mmHg以下)操作に付して脱泡させることによって、実装用接合剤(実施例1〜3)を調製した。各成分の混合割合は表1に示す通りとした。
・エポキシ樹脂:1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(旭電化工業株式会社製、商品名 ACRエポキシ)
・潜在性硬化剤:2−メチルイミダゾールアジン(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名 エピキュア M12AZ)
・無機質増粘剤:アエロジル(日本アエロジル株式会社製、商品名 AEROSIL(登録商標) 200)
・導電性粒子:平均粒径約6μmの銀粉末(三井金属鉱業株式会社製)
・改質剤A:含硫黄化合物であるトリメチロールプロパントリスチオプロピオネート(液体)
また、比較例として、改質剤の種類または混合量を表1に示すように変更したこと以外は上記実施例と同様にして実装用接合剤を調製した(比較例1〜5)。
・改質剤B:シラン系カップリング剤(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製、ビニルトリメトキシシラン)
・改質剤C:チタネート系カップリング剤(味の素ファインテクノ株式会社製、商品名 プレーンアクト KR TTS)
上記で得られた実施例1〜3および比較例1〜5の実装用接合剤の特性を評価すべく、以下のようにして硬化温度および保存安定日数を求めた。
1)硬化温度
未硬化の実装用接合剤のサンプルを8つ準備し、表面に銅メッキを施したガラスエポキシ基板上に直接印刷し(印刷された接合剤は縦横それぞれ約1mm、高さ約0.1mmの直方体形状を有する)、それぞれ60℃、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃および130℃の温度にて10分間加熱した後、室温(約25℃)にて自然冷却させた。尚、印刷に変えて、同程度の精度が得られる転写を利用してもよい。得られたサンプルを示差熱分析装置に入れて等速昇温(10℃/分)法で加熱し、所定温度での加熱後の状態から完全に硬化した状態となるまでに使用された熱量Q1を測定した。
未硬化の実装用接合剤のもう1つのサンプルを示差熱分析装置に入れて等速昇温(10℃/分)法で加熱し、未硬化の状態から完全に硬化した状態となるまでに使用された熱量Q0を予め測定しておき、上記の所定温度での加熱による硬化率R(%)をそれぞれ以下の式(1)により算出した。
硬化率Rが90%以上となる温度条件のうち最低の温度を硬化温度とした。尚、発明者らのこれまでの豊富な知見から、90%以上の硬化率が得られれば長期に亘って良好な電気的および機械的な接合信頼性を示すことがわかっている。
2)保存安定日数
実装用接合剤のサンプルを調製した直後にその粘度η0を測定し、約25℃で静置しながら定期的に粘度η1を測定した。粘度測定はE型粘度計を用いて実施した。そして、η1≧2×η0となるまでに要した日数を保存安定日数とした。尚、発明者らの経験より、7日以上の保存安定日数が得られれば実用上問題ないことがわかっている。
これらの特性を評価した結果を表2に示す。
表2から理解されるように、実施例1〜3の実装用接合剤はいずれも硬化温度が低く、実用に適した保存安定性を示した。これに対して、比較例1〜4の実装用接合剤では実施例1〜3の実装用接合剤よりも硬化温度が高く、比較例5の実装用接合剤では十分な保存安定性が得られなかった。
2.回路基板の作製およびこれを組み込んだ電気電子機器の動作
上記で得られた実施例1〜3および比較例1〜3の実装用接合剤を用いて回路基板を作製し、この回路基板を組み込んだ電気電子機器の動作を確認した。
まず、リフロー炉で加熱した場合の最高温度を把握するため、実施例1〜3および比較例1〜3の実装用接合剤の各硬化温度(表1)および加熱時間10分の条件に設定したリフロー炉に温度センサを設けた基板を通して、基板が曝される温度を経時的に測定した。これにより得られる温度プロファイルの最高温度をリフローピーク温度として表3に示す。
次に、実施例1〜3および比較例1〜3の実装用接合剤をそれぞれ基板の電極上に印刷または転写により供給し、電子部品の電極が接合剤と接触するようにして電子部品を基板に位置合わせして配置し、実装用接合剤の各硬化温度および加熱時間10分の条件に設定したリフロー炉に通して電子部品を基板に実装して回路基板を作製した。電子部品には耐熱温度90℃のコネクタ(ポリエチレン成形品)を用いた。
上記で作製した回路基板を組み込んで、電気電子機器としてコンパクトディスクプレーヤを組み立てた。これにより得られた電気電子機器が正常に動作するか、しないかを確認した。結果を表3に示す。
表3から理解されるように、実施例1〜3の実装用接合剤を用いて製造した回路基板を組み込んだ電気電子機器は、回路基板を製造する際のリフローピーク温度が電子部品の耐熱温度よりも低く、電子部品の熱損傷が起こらないため正常に動作することができた。これに対して、比較例1〜3の実装用接合剤を用いて製造した回路基板を組み込んだ電気電子機器は、リフローピーク温度が電子部品の耐熱温度よりも高く、熱損傷を生じたために動作しなかったと考えられる。
(第2の発明)
実施例4
100重量部の酸化銀および1重量部の1,10−デカンジチオールを100重量部のエタノールに添加し、これに超音波(22.9kHz、100W)を2時間加えて、酸化銀から銀ナノ粒子(平均粒径 約8nm)を形成し、これにより、銀粒子(本実施例では銀ナノ粒子)の分散液を調製した。そして、得られた分散液に、分散液中の銀粒子100重量部あたり、100重量部の別の銀粒子(平均粒径 約5μm)および20重量部のビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名「エピコート871」、ジャパンエポキシレジン株式会社製)を添加し、三本ロール機を用いて混練して、導電性ペーストを得た。
実施例5
100重量部の銀粒子(平均粒径 約10μm)および1重量部の1,10−デカンジチオールを100重量部のエタノールに添加し、これにより、銀粒子の分散液を調製した。そして、得られた分散液に、分散液中の銀粒子100重量部あたり、100重量部の別の銀粒子(平均粒径 約5μm)および20重量部のビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名「エピコート871」、ジャパンエポキシレジン株式会社製)を添加し、三本ロール機を用いて混練して、導電性ペーストを得た。
実施例6
実施例4において、チオール末端基を有する含硫黄化合物としての1,10−デカンジチオールに代えて、アミノ末端基を有する含硫黄化合物として1,10−ジアミノデカンを用いたこと以外は実施例4と同様にして、導電性ペーストを得た。
比較例6
100重量部のニッケル粒子(平均粒径 約5μm)および1重量部の1,10−デカンジチオールを100重量部のエタノールに添加し、これにより、ニッケル粒子の分散液を調製した。そして、得られた分散液に、分散液中の銀粒子100重量部あたり10重量部のビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名「エピコート871」、ジャパンエポキシレジン株式会社製)を添加し、三本ロール機を用いて混練して、導電性ペーストを得た。
これら実施例4〜6および比較例6により得られた導電性ペーストを評価するため、保存安定性および比抵抗についての試験を以下の方法で行った。
・保存安定性(またはライフ):導電性ペーストを25℃に設定した恒温槽内にて空気雰囲気中で保存し、導電性ペーストの流動性がなくなるまで、具体的にはE型粘度計による測定粘度が約50Pa・s以上となるまでの時間を1ヶ月に亘って調べた。
・比抵抗:導電性ペーストをPET(ポリエチレンテレフタレート)製フィルムの上に厚さ50μm、幅3mm、長さ150mmの領域に亘って塗布し、これに紫外線を積算光量で5000mJ照射し、その後、所定温度にて30分間加熱して硬化させた後、硬化物の体積抵抗率をJIS K6911に従って測定し、この測定値から比抵抗を求めた。
結果を表4に示す。
実施例4〜6の導電性ペーストは保存安定性試験の実施期間(1ヶ月)内で流動性を失わず、高い保存安定性を示した(表4)。これは、含硫黄化合物がそのチオール末端基またはアミノ末端基にて銀粒子表面に配位して金属配位化合物を形成することにより、チオール基またはアミノ基がキャップされ、その結果、エポキシ樹脂と反応せず、硬化が起こらなかったためであると考えられる。
また、実施例4〜6の導電性ペーストにおいては保存安定性試験の実施後においても銀粒子が安定に分散し、銀粒子が凝集していないことが目視により確認された。特に、実施例4の導電性ペーストはナノサイズの銀粒子を含むものであるが、凝集しやすいナノ粒子であっても、上記のように金属配位化合物を形成することにより、樹脂中で安定に存在できるようになったものと考えられる。
更に、実施例4〜6の導電性ペーストは比抵抗試験において導電性材料として満足できる十分に低い抵抗を示した(表4)。これら導電性ペーストでは、比抵抗試験における紫外線照射およびその後の加熱によって、チオール末端基またはアミノ末端基を有する含硫黄化合物が銀粒子から脱離し、脱離した含硫黄化合物がエポキシ樹脂の硬化剤として機能して樹脂を硬化させ、樹脂の硬化収縮力により銀粒子同士が互いに接触または接近したためであると考えられる。
特に、実施例4の導電性ペーストは実施例5の導電性ペーストと比較して非常に低い抵抗を示した。これは、比抵抗試験における加熱により銀ナノ粒子が低温焼結したためであると考えられる。
尚、実施例6の導電性ペーストは実施例4および5の導電性ペーストとは異なり、加熱温度を120℃とした場合には比抵抗の値を測定できず、導電性を示さなかった。この条件では、アミノ末端基を有する含硫黄化合物は銀粒子から脱離せず、エポキシ樹脂の硬化剤として機能しなかっためであると考えられる。加熱温度をより高く、例えば表4に示すように200℃とすると十分に低い抵抗を示すことが確認された。
他方、比較例4の導電性ペーストは加熱温度を120℃とした場合でも比抵抗を測定でき、導電性材料として許容される程度に低い値を示した。これは、比抵抗試験における紫外線照射および加熱により、含硫黄化合物がエポキシ樹脂の硬化剤として機能して樹脂を硬化させ、樹脂の硬化収縮力によりニッケル粒子同士が互いに接触または接近したためであると考えられる。
しかしながら、比較例4の導電性ペーストの保存安定性は2時間しか持続せず、非常に短かった。これは、ニッケル粒子を用いているために、含硫黄化合物のチオール末端基がニッケル粒子表面に配位せずにフリーで存在し、その結果、保存の間にエポキシ樹脂と反応し、硬化が起こったためであると考えられる。
(第3の発明)
第3の発明の導電性ペーストの実施例および比較例として、表5に示す構成成分を表6に示す割合で混合して種々の導電性ペーストを調製した。これら実施例および比較例において、樹脂および導電性フィラーは同様のものを用い、樹脂にはビスフェノールA型エポキシ樹脂を、導電性フィラーには平均粒径が2〜15μmの銀粒子(商品名「シルコート」、福田金属箔粉工業株式会社製)を用いた。硬化剤にはイミダゾール系硬化剤(商品名「キュアゾール(登録商標)」四国化成製)またはポリメルカプタン系硬化剤(メルカプトプロピオン酸)を用いた。実施例においては香料としてリモネン、エチルバニリンまたはケイ皮酸を用い、他方、比較例においては香料を添加しなかった。
実施例7および8ならびに比較例7および8について、正常な嗅覚を有する被験者100名が導電性ペーストに鼻を近づけてその匂いを嗅いで不快に感じるかどうか試験した。ここで、臭気不快指数を以下の式(2)のように定義する。
結果を表7に示す。
表7より、実施例7および8と、香料を添加しなかったこと以外はこれらと同条件とした比較例7および8とをそれぞれ比較すると、実施例7のほうが比較例7より、そして、実施例8のほうが比較例8よりも臭気不快指数が低く、不快な臭気が低減されていることが確認できた。
また、実施例9および比較例8ならびに参考として比較例7について、導電性ペーストを温度100℃にて10分間加熱して硬化させた後、硬化物の体積抵抗率をJIS−K 6911に従って測定した。結果を表8に示す。
表8より、実施例9と、香料を添加しなかったこと以外は同条件とした比較例8とを比較すると、実施例9のほうが比較例8よりも体積抵抗率が低くなっており、より良好な導電性を示すことが確認できた。これは、実施例9で香料に用いたケイ皮酸が還元性を有することから、チオール基(−SH)を有する化合物を硬化剤に用いても、導電性フィラーに用いた銀粒子の硫化が効果的に抑制されたためであると考えられる。
また表8より、香料を用いない場合はチオール基を有する化合物を硬化剤に用いた比較例8はチオール基を有さない化合物を硬化剤に用いた比較例7と比べて体積抵抗率が高くなった。これは、還元性を有する化合物が存在しないと、チオール基が導電性フィラーの金属を硫化して硫化物を生じたためであると考えられる。
また、実施例8および比較例8について、導電性ペーストを用いて得られる導電性の硬化物によって電子部品を配線基板に実装する電子部品実装体の製造プロセスにおいて、硬化完了の検査の容易さについて評価した。実施例8では、導電性ペーストの匂いがしている間は硬化が完了しておらず、匂いがしなくなったら硬化が十分に進行して完了したものとして判断できる。よって、実施例8は検査が容易であり、○評価とした。これに対して、比較例8では樹脂の色調の変化を目視で確認するか、あるいは接続強度または接続抵抗を測定する以外に方法はなく、前者の場合は導電性フィラーの色が影響するため確認が困難であり、後者の場合は機器測定を要する。よって、比較例8は実施例8のものより検査が困難であり、△評価とした。結果を表9に示す。
また、チオール基(−SH)を有する化合物を硬化剤に用いたこれら導電性ペーストの適用可能機器率を調べた。ここで、適用可能機器率を以下の式(3)のように定義する。
尚、電気電子機器の総数および導電性ペーストの使用が許容される電気電子機器の数は概略的なものである。結果を表9に併せて示す。
表9からわかるように、実施例8では比較例8に比べて検査が容易であり、適用可能機器率も大幅に向上する。
この出願の第1〜第3のいずれかの発明の導電性接合材料を用いて形成される回路基板は任意の電気電子機器に組み込んで使用することができる。そのような電気電子機器には以下のものが含まれる:
・ビデオカメラ、ポ−タブルCD、ポータブルMD、ポータブルDVD、携帯電話およびノート型パソコンなど持ち運び可能な電気電子機器;
・ステレオ、デスクトップ型パソコン、テレビ電話、DVDプレーヤー、CDプレーヤー、DVDレコーダー、CDレコーダーおよびテレビなどの通常静置して使用される電気電子機器;
・炊飯機器、電子レンジ、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、エアコン、照明器具、インターホン、防犯カメラ、監視カメラ、ガス漏れ検知器および洗浄機能付き便座などの家庭などで使用される電気電子機器;および
・カーステレオ、カーナビゲーション、カーエアコン、カーセンサー、エンジンコントローラー、車載カメラ、自動ブレーキ安全制御システム(ABS)およびヘッドライトなどの自動四輪車、自動二輪車およびその他の車両で使用される電気電子機器。
第1及び第2の発明の導電性接合材料は、電気/電子回路形成技術の分野において、配線基板の配線形成用材料、多層基板の配線層間導通用材料、および電子部品実装体の実装用接合材料などに広く利用できる。
第3の発明の導電性接合材料は、電気/電子回路形成技術の分野において、例えば電子部品実装体の実装用接合材料として、携帯型機器、食品の加工または保存機器ならびに美容健康機器などを含む広範な用途に使用できる。
第2の発明に関する実施形態3における導電性ペーストの模式図である。
第2の発明に関する実施形態4における回路基板の製造方法を示す模式的な断面工程図である。
第2の発明に関する実施形態5における回路基板の製造方法を示す模式的な断面工程図である。
第2の発明に関する実施形態6における多層回路基板の製造方法を示す模式的な断面工程図である。
第2の発明に関する実施形態7における電子部品実装体の製造方法を示す模式的な断面工程図である。
第2の発明に関する実施形態8における電子部品実装体の製造方法を示す模式的な断面工程図である。
符号の説明
1:第1の金属粒子、 2:含硫黄化合物、 3:金属配位化合物、 4:樹脂、 5:第2の金属粒子、 6、6’:基板、 7:導電性ペースト、 7’:導電性の硬化物、 8:マスク、 9:スキージ、 10:紫外線または電子線、 11:孔、 12a、12b:配線層、 13:配線基板、 14:電子部品。