JPWO2005087401A1 - 継目無管の穿孔圧延用プラグ、継目無管の製造装置およびこれらを用いた継目無管の製造方法 - Google Patents

継目無管の穿孔圧延用プラグ、継目無管の製造装置およびこれらを用いた継目無管の製造方法 Download PDF

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Abstract

分割されたプラグ前部と同後部を一体のプラグとして保持して使用されるプラグであって、少なくとも前部は低合金鋼からなり、前部および後部の表面に酸化皮膜が形成された継目無管の穿孔圧延用プラグ、および上記プラグを穿孔工具とし、傾斜ロール式穿孔圧延機を用いて、穿孔圧延する継目無管の製造方法である。また、前記前部および後部を一体のプラグとして保持し、かつ両者の一方または双方は着脱可能であって、プラグを保持する芯金が後部を貫通し、前部と連結された継目無管の製造装置、およびこの製造装置を用いて、製造ラインにおいて両者の一方または双方を取り替え可能な継目無管の製造方法である。前部に形成される酸化皮膜の厚さを200μm以上とし、後部に形成される酸化皮膜の厚さよりも厚くするのが望ましい。難加工材の穿孔圧延の場合においても、被れ疵や内面疵をなくし、優れたプラグ寿命およびプラグ原単位を達成できる。

Description

本発明は、継目無管の代表的な製造方法である傾斜ロール式穿孔圧延法に最適な穿孔圧延用プラグ、およびこれを用いた継目無管の製造装置と製造方法に関し、さらに詳しくは、穿孔圧延に際し、優れた耐久性を発揮し、管内面疵の発生を防止できる穿孔圧延用プラグと、プラグ前部または/およびプラグ後部を取り替え可能な分割プラグ、およびこれを用いた製造装置と製造方法に関するものである。
継目無管の代表的な製造方法として用いられる、いわゆるマンネスマン製管法は、所定温度に加熱された中実のビレットを穿孔圧延機(ピアサー)に送給して、その軸心部を穿孔することにより中空素管を製造する。次いで、穿孔された中空素管を5スタンドから8スタンドよりなる延伸圧延機(マンドレミル)に通して肉厚加工を施し、再加熱後、または直接に、ストレッチレデューサ若しくはサイザミルによって形状修正およびサイジングを行って、さらに精整工程を経て、製品となる継目無管を製造する方法である。
穿孔圧延機による圧延では、被圧延材であるビレットがパスラインに沿って圧延方向に移動するように、このパスラインに対して傾斜ロールが対向配置されている。さらに、これらの傾斜ロール間にパスライン上に配された芯金に保持されたプラグを位置させる。
図1は、穿孔圧延に用いられる傾斜ロールの配置を模式的に説明する図である。さらに、図2は、前記図1のA−A矢視で示される傾斜ロールの配置を説明する図である。
図1に示すように、傾斜ロール1は、パスラインX−Xに対してロール軸心線がそれぞれ交叉角γをなすように軸対称に配置されている。さらに、図2に示すように、傾斜ロール1はパスラインX−Xに対して傾斜角βとなるように配置される。一方、図2に示されない他方の傾斜ロール1も、パスラインX−Xを挟んで互いに傾斜角βで逆方向に傾斜させて対向する位置に配置される。
ビレット3に螺進運動を加える傾斜ロール1は、それぞれの駆動装置4に直接連結され、これにより、単独に交叉角γおよび傾斜角βを確保しながらロール軸心線を中心に回転できる。また、対向する傾斜ロール1、1間に位相を90°違えてパスラインX―Xを挟んで対向位置された管材案内ガイドであるディスクロール5が配置される。図2では、ディスクロール5を仮想線の一点鎖線で示す。さらに、プラグ2は、その端部を芯金Mの先端に支持され、パスラインX―X上に穿孔圧延用工具として配置されている。
上記のように構成されたピアサーにおいて、パスラインX−X上を白抜き矢符方向に送給されたビレット3は、傾斜ロールの間隙を通過している間に傾斜ロール1とプラグ2により肉厚加工が施されながら穿孔圧延され、旋回しつつパスラインX−X上を移動し、プラグ2によりその軸心部に孔を空けられて中空素管となる。
図3は、穿孔圧延用工具として採用されるプラグの長手方向の外郭形状を示す図である。通常、プラグ2は、圧延部と、リーリング部および逃げ部から構成されており、圧延部の最先端部が細く尖頭化した砲弾形状になっている。
穿孔圧延用工具のプラグ材質としては、Cr―Ni系の低合金鋼が一般的に用いられる。さらに、プラグは、穿孔圧延中の断熱効果と潤滑効果を得るため、その使用前に酸化雰囲気中で熱処理を施し、その表面に厚さ100〜1000μmの酸化鉄を主成分とする酸化皮膜を形成している。
ところが、穿孔圧延用工具として用いられるプラグ2の圧延部の先端部は、図3に示すように、尖頭化されてその体積は小さく、さらに穿孔圧延にともなう被圧延材の加工発熱によって、急速に温度が上昇する。プラグの母材強度がこの熱負荷耐えられない場合に、プラグの先端部に溶損が発生する。
先端部に溶損が発生したプラグを用いて穿孔圧延を行うと、中空素管に内面疵が発生し、品質上大きな問題となる。また、発生した溶損の程度が大きくなると、穿孔圧延の途中工程で圧延を中断せざるを得ず、生産性が著しく低下することになる。
また、プラグの耐久性に関しては下記のとおりである。すなわち、被圧延材が炭素鋼である場合には、プラグは100パスを超える穿孔圧延に耐えることができる。しかし、被圧延材がステンレス鋼や高合金になると、数パスでプラグを廃却せざるを得なくなる。通常、プラグの寿命がつきたと判断される損傷は、プラグ前部に集中する。寿命に達したプラグは、プラグを保持する芯金に支障が生じない範囲まで改削することによって再生される。そして、改削可能な範囲を超えたプラグは廃却される。
このため、プラグ寿命は、継目無管の製造コストに大きな影響を与える。特に、近年では油井の大深度化や海底油井の開発にともない、穿孔圧延時にプラグの負担が大きくなるステンレス鋼や高合金の需要が増加することにより、継目無管の製造コストに占めるプラグ工具費用の割合が益々高まっている。
このような状況に鑑み、プラグ寿命の延長を図るため、種々の提案がなされている。例えば、特開平7−60314号公報では、プラグ表面に地金との密着性に優れた酸化皮膜を形成させるため、W、Mo、Nb、TiおよびNbなどの元素を添加したCr−Ni系の低合金鋼で構成し、その表面に酸化皮膜を厚く形成したプラグが提案されている。
しかし、このようなプラグを用いて穿孔圧延を行うと、プラグの酸化皮膜が部分的に脱落して、プラグの表面性状が悪化する。この性状の悪化したプラグを用いて穿孔圧延すると、プラグの表面性状が被圧延材の内面にプリントされ、圧延後の素管内面の表面性状を悪化させる。さらに、この素管を後続するミルで仕上げ圧延を行うと、最終仕上げ後の管の内表面に米粒状の被れ疵が多発することになる。
また、特開平10−249412号公報において、プラグのリーリング部の酸化皮膜の厚さを圧延部のそれより薄くした穿孔圧延用プラグが提案されている。
上記公報にて提案されたプラグは、まず、プラグ表面に均一な厚い皮膜を形成し、その後、機械的にリーリング部の皮膜を研磨して皮膜厚さを薄くすることによって製造される。このリーリング部の皮膜を研磨する際に、その研磨量を厳しく管理しなければならない。
しかし、皮膜形成前のプラグの形状は、真円でないことが多いため、プラグの円周方向に皮膜厚さを厳しく調整することは困難であり、皮膜厚さが必要な厚さ以下となるプラグ部位では、損傷を発生することになる。
さらに、特開2002−113507号公報では、外表面にTi含有量が7〜45質量%で、所定の圧縮変形抵抗を有するニオブ基合金からなる被覆層を備える圧延用プラグが提案されている。また、特開平6−328105号公報では、肉盛溶接によりMo、NiおよびCrからなる被覆層を形成する圧延用工具が提案されている。さらに、特開平2−63604号公報には、被圧延材との接触部分がMo基合金の粉末を成形した多孔質の分散層とこれより低融点の連続相から構成されるプラグが開示されている。
しかしながら、上述の3つの文献にて提案されたプラグを採用すれば、後述するとおり、その単価は、前述のCr−Ni系の低合金鋼に比べて高くなり、継目無管の製造コストに占めるプラグ工具費用の割合が一層増加することになる。
前記の背景技術の説明から理解されるとおり、一体型プラグ表面に酸化皮膜を形成する方法のみでは、充分な効果を発揮することができないため、新たな改善が必要になる。
一方、最近では、従来の一体型プラグに替えて、プラグの前部と後部とを分割した、分割プラグに関する提案が多くなされるようになっている。
例えば、特開平10−180315号公報では、プラグ前部がセラミックからなる分割プラグが提案されている。しかし、セラミックは高温下での圧縮強度が大きく耐摩耗性も高いが、耐衝撃性に劣るため、過酷な条件である穿孔圧延では、プラグの尖端部から破壊するおそれがある。
また、特開昭63−203205号公報では、プラグ前部に高温強度の高いMo合金を接合したプラグが提案されており、さらに、特開平10−156410号公報では、その前部をNb合金で構成し、その表面に珪化物を有するプラグが提案されている。しかし、本発明者らの検討によれば、分割プラグの前部にMo合金やNb合金等の高合金を使用すれば、摩擦係数が大きいことから、穿孔効率が大幅に低下する。このため、被圧延材が傾斜ロールに噛み込んでからプラグ先端に到達するまでの回転鍛造回数が多くなり、マンネスマン破壊により内面疵を発生し易くなることが明らかになった。
さらに、セラミック、Mo合金およびNb合金は、前述のCr−Ni系の低合金鋼に比べ単価が10倍以上高い。このため、前述の特開2002−113507号公報、特開平6−328105号公報および特開平2−63604号公報にて提案されたプラグ、ならびに特開平10−180315号公報および特開昭63−203205号公報にて提案された分割プラグのいずれを採用したとしても、製管スケジュールに応じた寸法と種類のプラグを準備しなければならないことを考慮すると、莫大な費用を要することになる。
次に、「分割プラグ」の機構の面から検討してみる。従来から、プラグをプラグ前部とプラグ後部とに分割して個別に製造し、その後、プラグ前部とプラグ後部とを結合して一体化させたプラグ(以下、「従来型の分割プラグ」と記す)が提案されている。これは、プラグ前部に発生する溶損がプラグ寿命を決定する要因になることから、プラグ前部のみを高強度材にすれば、プラグ寿命を延長できるとする発想に基づくものである。
ところが、本発明者らの検討によれば、従来型の分割プラグでは、いずれも前部の取り付け方法に問題があり、さらに実用化が困難なものもある。以下に、このことを例示しながら説明する。
特許第2581154号公報(特開平1−289504号公報)には、前部がNb合金であるプラグが提案されており、前部と後部を接合する手段として、焼き嵌め、圧入、圧接等の方法があるとされている。また、特開昭62−207503号公報には、前部にMo合金を取り付けたプラグが開示されており、その接合は螺合式の外焼き嵌め方式や接着方式などが採用できるとされている。さらに、特開昭60−137511号公報では、接合部は、焼き嵌めまたは接着剤によることが記載されている。
一方、特開昭58−167004号公報では、前部が軸心線方向に複数に分割され、各分割部分が軸心線回りに回転可能なベアリングにより保持されたプラグが提案されている。提案されたプラグは、前部がベアリングにより回転可能となるが、その回転構造から、前部の着脱は容易に行えるものではない。
また、実開昭63−95604号公報には、前部を高融点および高温強度を有する耐熱合金によって構成し、後部をスケール生成の容易な合金鋼によって形成したプラグが開示されており、前部と後部の接合は螺合方式であることが示されている。
そして、特開2000−167606号公報では、抜け止め作用をなす異径部を有する保持材を用いて前部と後部を接続するプラグが提案されている。しかし、前記特開昭58−167004号公報に開示されたプラグと同様に、前部は回転可能であるものの、その着脱は容易ではない。
上述したとおり、従来型の分割プラグは、プラグ前部とプラグ後部とを互いに固定している形式と回転可能にしている形式との2種類に大別できる。プラグ前部が固定されている形式では、穿孔圧延中に負荷される捩りによって接合部が破損し易い。一方、プラグ前部が回転可能な形式では、接合構造が煩雑となり、穿孔圧延中に破損し易くなる。
本発明は、上述した従来の一体型プラグおよび分割プラグが有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、下記の2点である。すなわち、その第1は、ステンレス鋼や高合金を穿孔圧延する場合であっても、プラグ表面の酸化皮膜に起因する米粒状の被れ疵をなくし、同時に被圧延材の噛み込みによる回転鍛造効果(マンネスマン破壊)による内面疵の発生を防止するとともに、プラグ寿命の延長および優れたプラグ原単位を達成することができる継目無管の穿孔圧延用プラグ、およびこのプラグを用いた継目無管の製造方法を提供することである。
また、その第2は、プラグ前部とプラグ後部とに分割されたプラグであっても、操業中の継目無管の製造ラインにおいて、分割したプラグの接合に不具合を生ずることなく、プラグ前部または/およびプラグ後部を取り替え可能とすることにより、プラグ寿命の延長および優れたプラグ原単位を達成することができる継目無管の製造装置、およびこれを用いた製造方法を提供することである。
そこで、上記の第1の目的を達成するために、主として、(A)分割プラグにおける酸化皮膜厚さの適正化の面から、そして、第2の目的を達成するために、主として、(B)分割プラグの構造の適正化の面から、それぞれ検討を進めた。
(A)分割プラグにおける酸化皮膜厚さの適正化
従来の分割プラグは、プラグの前部に発生する溶損がプラグ寿命を決定する要因になることから、前部のみを高強度材にすれば、プラグ寿命を延長できるとする発想に基づくものでしかない。
そこで、本発明者らは、従来、検討されていなかった、分割プラグにおける前部の機能および後部の機能、さらに酸化皮膜の作用に着目し、プラグの部位毎に材質や酸化皮膜の厚さを変化させ、プラグ寿命や内面疵の発生状況について検討を行った。
その結果、プラグ表面に適正な厚さの酸化皮膜を形成することによって、分割プラグの前部と後部の機能を有効に発揮できることを見出した。なお、「プラグ前部」とは、その長手方向の範囲を限定するものではないが、望ましくは、プラグ先端からリーリング開始点までの範囲内の部分をいう。
上記の検討は、前記図1で示した傾斜穿孔機と同様の構造のモデル圧延機を用いた実験により行った。図4は、上記の検討に用いた分割プラグの構成を示す長さ方向の正面断面図である。使用した分割プラグ2は、前部21と後部22とを接合して構成しており、全体として砲弾形状を示している。
上記実験で用いた前部21の材質は、(1)SiCセラミックおよびSiNセラミック、(2)Mo合金(Mo−0.5%Ti−0.08%Zr)、(3)Nb合金(Nb−10%W−2.5%Zr)、ならびに(4)Cr−Ni系低合金鋼とした。
準備したCr−Ni系低合金鋼は、A鋼種およびB鋼種の2種類とし、それらの化学成分を表1に示す。さらに、上記実験で用いた後部22の材質も、A鋼種およびB鋼種の2種類のCr−Ni系低合金鋼を用いた。
Figure 2005087401
Cr−Ni系低合金鋼で構成するプラグ2は、酸化性雰囲気の加熱炉に投入して熱処理を施し、前部の表面に厚さが150μm、350μm、400μmおよび500μmの酸化被膜を形成させ、後部の表面には厚さが200μmの酸化被膜を形成させた。
いずれの分割プラグ2も前部21と後部22との接合は、ねじ方式を用い、プラグの後部22の最大径Pdが54mmとなるように製作した。供試材としてSUS316の材質を用い、外径70mm×長さ500mmのビレットを準備し、加熱温度1260℃で加熱し、準備した分割プラグを用いて穿孔圧延を行い、外径74mmの素管を得た。
穿孔圧延の条件は、傾斜ロール径Dを400mm、交叉角γを15°および傾斜角βを10°とした。穿孔圧延した後に、プラグ寿命、穿孔効率(スリップ率)および内面疵を調査した。この圧延実験で用いたプラグの条件および圧延後の調査結果を表2に示す。
Figure 2005087401
表2に示す低合金鋼製プラグの寿命は、再熱処理によるスケール付けで再生使用することを考慮して評価した。すなわち、再熱処理で再生使用し、最終的にプラグ前部に焼き付きや溶損が発生し、またはプラグ表面が損傷し、被圧延材の内面にプラグ疵がプリントされ、これ以上使用できないと判断されるときの穿孔本数をプラグ寿命とした。
表2に示す穿孔効率ηは、下記(1)式で表される。
η = Vf/Vr×100(%) ・・・・ (1)
ただし、Vr = π・D・N/60×sinβ
ここで、Vf:出口材料速度(m/s)
Vr:ロールゴージ部でのロール周速の軸方向成分(m/s)
D:ロールゴージ径(m)
N:ロール回転数(rpm)
β:傾斜角(°)
内面疵の発生は、穿孔効率ηの低下に起因するものであり、噛み込んでからプラグ前までの回転鍛造効果(マンネスマン破壊)により、被圧延材の内部にもみ割れが生じ、これが穿孔圧延後に内面疵として残存することによる。例えば、プラグの摩擦係数が大きくなり、ビレットがロールに噛み込まれてプラグ先端に到達するまで、ビレットの回転鍛造回数が大きくなると、回転鍛造効果(マンネスマン破壊)が大きくなり、内面疵を発生し易くなる。
上記表2に示す結果から、分割プラグの前部にMo合金やNb合金等の高合金を使用すれば、プラグ寿命を大幅に延長することができる。しかし、摩擦係数が大きくなるため、穿孔効率が大幅に低下する。このため、ビレットがロールに噛み込まれてからプラグ先端に到達するまでの回転鍛造回数が多くなり、内面疵を発生し易くなることがわかる。
このことは、特に、連続鋳造丸鋳片などでビレットの中心部に偏析やポロシティなど変形能が悪く、欠陥のある材料を穿孔する場合に、顕著に現れる。
一方、分割プラグの前部にセラミックを使用する場合は、耐衝撃性に劣るため、穿孔圧延時にプラグの尖端部から破損したため、穿孔圧延後に調査を行うことができなかった。
さらに、同表に示す結果から、Cr−Ni系の低合金鋼製プラグであっても、表面に酸化皮膜を形成することによって、穿孔圧延中の断熱効果と潤滑効果を確保することができるので、穿孔効率の低下を回避して、回転鍛造効果を抑制することで内面疵の発生を抑制できることがわかる。
換言すれば、表2に示す分割プラグにおいて、Cr−Ni系の低合金製プラグの前部に形成される酸化皮膜を厚くすれば、プラグ寿命は大幅に延長できる。これと同時に、穿孔効率もMo合金やNb合金に比べ大幅に向上できることから、回転鍛造効果を抑制して、内面疵の発生を防止できる。
しかし、試験No.8で示すように、前部に形成される酸化皮膜の厚さが比較的薄くなると、潤滑性能が低下し、内面疵が発生する場合がある。したがって、分割プラグの前部に形成する酸化皮膜の厚さは、適正に管理するのが望ましい。
(B)分割プラグの構造の適正化
本発明者らは従来型の分割プラグについて、その構造面から、種々の検討を加えた。その結果、従来型の分割プラグの場合、プラグの前部または後部を取り替えることが極めて困難であることが判明した。
すなわち、従来型の分割プラグでは、プラグ前部のみを高強度の材質にするため、まずプラグ前部とプラグ後部とを分割して製造し、その後、プラグ前部とプラグ後部とを焼き嵌め、圧入、圧接等の接合手段を用いて組み立てられる。したがって、プラグ前部とプラグ後部とが剛体接合され、操業中の継目無管の製造ラインにおいては、実質的に一体型プラグと同様の構造になっており、プラグ取り替えのタイミングや方法、および寿命管理方法は一体型プラグのそれらと変わらないのが実態である。
そこで、本発明者らは、操業中の継目無管の製造ラインでプラグ前部または/およびプラグ後部を取り替えることが可能になれば、プラグ前部またはプラグ後部の耐久性を個別に管理でき、プラグ原単位を低減できることに着目した。例えば、溶損を発生したプラグ前部を取り替えたとしても、プラグ後部はそのまま使用可能であり、結果として、トータルのプラグ原単位を低減することができる。
そのためのプラグの構造としては、プラグを保持する芯金がプラグ後部を貫通して、プラグ前部と連結されている構造であって、分割されたプラグ前部およびプラグ後部を一体のプラグとして保持でき、しかも、プラグ前部または/およびプラグ後部を容易に着脱可能な構造とすればよい。
本発明は、上記(A)および(B)において得られた知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記の(1)〜(4)の継目無管の穿孔圧延用プラグ、(6)〜(9)の継目無管の製造装置ならびに(5)および(10)の継目無管の製造方法にある。
(1)分割されたプラグ前部とプラグ後部を一体のプラグとして保持して使用されるプラグにおいて、少なくとも前記プラグ前部は低合金鋼からなり、前記プラグ前部およびプラグ後部の表面には酸化皮膜が形成されていることを特徴とする継目無管の穿孔圧延用プラグである。
(2)前記プラグ前部に形成される酸化皮膜の厚さは、200μm以上であることが望ましい。
(3)前記(1)または(2)に記載のプラグ前部に形成される酸化皮膜の厚さは、前記プラグ後部に形成される酸化皮膜の厚さよりも厚いことが望ましい。
(4)前記(1)または(2)に記載のプラグ前部の1100℃における引張強度は、50MPa以上であることが望ましい。
(5)前記(1)〜(4)に記載のプラグを穿孔圧延用工具とし、傾斜ロール式穿孔圧延機を用いて、所定の温度に加熱された中実のビレットを中空素管に穿孔圧延することを特徴とする継目無管の製造方法である。
(6)分割されたプラグ前部およびプラグ後部を一体のプラグとして保持し、かつ前記プラグ前部または/およびプラグ後部を着脱可能とする継目無管の製造装置であって、前記プラグを保持する芯金は前記プラグ後部を貫通し、前記プラグ前部と連結されていることを特徴とする継目無管の製造装置である。
(7)前記(6)記載の継目無管の製造装置において、プラグ前部に形成される酸化皮膜の厚さは、200μm以上であることが望ましい。
(8)前記(6)または(7)に記載の継目無管の製造装置において、プラグ前部のスケール厚さは、前記プラグ後部のスケール厚さよりも厚いことが望ましい。
(9)前記(6)〜(8)に記載の継目無管の製造装置において、プラグ前部の1100℃における引張強度は、50MPa以上であることが望ましい。
(10)前記(6)〜(9)に記載の製造装置を用いて、製造ラインにおいて前記プラグ前部または/およびプラグ後部を取り替えることを特徴とする継目無管の製造方法である。
本発明の製造方法において、「傾斜ロール式穿孔圧延機」を用いることとしているのは、代表的なマンネスマン製管法に用いられる圧延機であり、圧延後の素管品質に優れるとともに、生産性を一段と向上させることができることによる。
「製造ラインにおいて・・・取り替える」とは、継目無管の穿孔圧延に際し、プラグを支持する芯金を循環使用(バーサーキュレーション)する場合に、プラグの取り替えを芯金の循環ライン上で実施することをいう。また、芯金の循環使用を想定しない場合であっても、プラグの取り替えを製管設備の停機をともなうことなく行うか、または製管操業中に実施することを意味する。
図1は、穿孔圧延に用いられるコーン形状の傾斜ロールの配置を模式的に説明する図である。
図2は、前記図1のA−A矢視で示されるコーン形状の傾斜ロールの配置を説明する図である。
図3は、穿孔圧延用工具として採用されるプラグの長手方向の外郭形状を示す図である。
図4は、本発明で採用した分割プラグの構成を示す長さ方向の正面断面図である。
図5は、実施例で用いた分割プラグの構成を示す長さ方向の正面断面図である。
図6は、本発明の製造装置が採用したプラグ支持部の構造例を示す図であり、同図(a)は芯金が一体のプラグとして支持している状態を示しており、同図(b)は芯金がプラグの支持を解除した状態を示している。
図7は、ビレットを穿孔圧延するため対向配置された一対の穿孔ロールとプラグの配置を説明する図である。
図8は、実施例に用いたプラグ支持の装置構成を説明する図であり、同図(a)は本発明例を示し、同図(b)および同図(c)は比較例を示す。
図9は、実施例に用いたプラグの構成を説明する図であり、同図(a)は本発明例を示し、同図(b)は比較例を示す。
前記発明のうち、主として前記(1)〜(5)に示される酸化皮膜を備えた分割プラグに関する発明を発明Aとし、また、主として前記(6)〜(10)に示される分割プラグの構造を有する継目無管の製造装置に関する発明を発明Bとして、それぞれの発明を実施するための最良の形態について下記に説明する。
1.発明Aを実施するための形態
(1)発明Aの最良の形態
発明Aの穿孔圧延用プラグは、前記図4に示すように、分割された前部21と後部22を接合して使用される分割プラグ2であって、少なくとも前部21は低合金鋼からなり、前部21および後部22の表面には酸化皮膜が形成されていることを特徴としている。
すなわち、分割プラグの前部を低合金鋼で構成し、前部および後部の表面には酸化皮膜を形成することにより、穿孔圧延での酸化皮膜が発揮する断熱効果と潤滑性能を最大限に利用し、必要なプラグ寿命およびプラグ原単位を確保するとともに、品質の優れた素管を高い生産性で製造することができる。
具体的には、プラグ表面に形成された酸化皮膜の断熱効果を利用し、特に、前部の温度上昇を抑えることにより、有効に溶損の発生を抑制するとともに、プラグ全体の変形を防止することができる。さらに、酸化皮膜の潤滑性能を利用することにより、ビレットがロールに噛み込まれた後の穿孔効率の低下を回避し、回転鍛造効果(マンネスマン破壊)を抑制することにより内面疵の発生を防止できる。
これにより、材料単価の低廉な低合金鋼製のプラグであっても、所期のプラグ寿命を達成するだけでなく、Mo合金やNb合金に比べ、穿孔効率を大幅に向上させることができ、素管に発生する内面疵を防止できる。
本発明が対象とする低合金鋼は、その表面に密着性のよい酸化皮膜を形成するのが望ましいことから、3%Cr−1%Ni鋼などが例示されるが、これに限定されない。例えば、分割プラグの前部と後部の材質が質量割合でCr:0.2〜5.0%または/およびNi:0.2〜7.0%を含有する低合金鋼であってもよいが、プラグ後部ではその表面に所定の酸化皮膜が形成される限りにおいて、CrおよびNiを含有せず、その他の合金成分を含有する低合金鋼であってもよい。
本発明の穿孔圧延用プラグは、前部の材質を低合金鋼に限定するものであり、後部については限定していない。したがって、後部の表面に所定の酸化皮膜が形成される限りにおいて、穿孔圧延条件に応じて、後部の材質を選択することができる。
プラグ表面の酸化皮膜は、酸化性雰囲気の加熱炉に投入して熱処理を施すことにより形成することができる。このとき、熱処理の条件によって形成できる酸化皮膜の厚さを調整できるので、分割プラグを採用する場合には、前部および後部に個別に熱処理を施すことにより、それぞれ所定の厚さで均一に皮膜を形成できる。
前述のとおり、プラグ前部の表面に形成された酸化皮膜は、穿孔圧延において断熱効果と潤滑性能を発揮できるので、低廉なプラグであっても高寿命化が可能となる。しかし、酸化皮膜の厚さが薄すぎると、所期の潤滑性能が発揮されない場合があるので、前部に形成される酸化皮膜の厚さは200μm以上にすることが望ましい。
一方、プラグの後部の酸化皮膜が厚いままで穿孔圧延を行うと、酸化皮膜の部分的な脱落が起こり、プラグの表面性状が悪化し、それにより圧延後の素管内面の表面性状を悪化させ、さらに、最終仕上げ後の管の内表面に米粒状の被れ疵が多発することになる。
このため、本発明の穿孔圧延用プラグは、前部に形成される酸化皮膜の厚さを後部に形成される酸化皮膜の厚さよりも厚くするのが望ましい。これにより、プラグの寿命を低下させることなく、仕上げ圧延後に発生する米粒状の被れ疵を抑制できるからである。
従来の一体型プラグでは、プラグ全表面に厚めに形成した酸化皮膜を後部のみ薄くするために、多大な研磨作業を必要としていた。これに対して、本発明では、分割プラグを採用しているので、前部および後部に別個に均一な酸化皮膜を形成でき、効率的にプラグ表面に酸化皮膜を形成できる。
本発明で採用する分割プラグにおいては、前部および後部の接合方法は限定されるものではなく、慣用される方法を用いることができる。例えば、焼き嵌め、圧入、圧接、接着のいずれの方式でもよく、さらに螺合による接合であってもよい。
本発明の穿孔圧延用プラグを採用すれば、分割プラグの前部の機能および後部の機能に応じ、それぞれの材質を選択でき、適宜、組み合わせることができる。さらに、酸化皮膜の熱処理の条件を調整することにより、機能に応じた皮膜厚さを均一に形成することができる。これらのことから、分割プラグにおける各部の材質設計上の自由度が格段に広がることになる。
上述のとおり、本発明の穿孔圧延用プラグによれば、分割プラグの前部および後部のそれぞれの表面毎に、適切で均一な厚みの酸化皮膜を形成できる。したがって、前部に発生する溶損を抑制し、圧延後の素管内表面の性状の悪化を抑制することができ、その結果、仕上げ圧延後において、米粒状の被れ疵の発生を抑制できる。さらに、穿孔圧延時において、穿孔効率の低下を回避し、回転鍛造効果(マンネスマン破壊)を抑制することで内面疵の発生を防止できる。
それと同時に、本発明の穿孔圧延用プラグを穿孔圧延用工具に用いれば、プラグ寿命の大幅な向上とともに、品質に優れた素管を高い効率のもとに製造することができる。
さらに、本発明の穿孔圧延用プラグの前部は、低合金鋼を対象とするため、大気中の鋳造で製造することが可能であり、プラグを廃却する場合であっても、材料コストを低く抑えることができる。また、廃却部位も専ら体積の小さい前部のみに限定されるので、プラグ原単位を著しく向上させることができる。
(2)発明Aに関する実施例
発明Aの効果を確認するため、発明Aの穿孔圧延用プラグを用いて穿孔圧延試験を行った。前記図1で示した傾斜穿孔圧延機を用いて、交叉角γを10°および傾斜角βを10°として試験した。
図5は、実施例で用いた分割プラグの構成を示す長さ方向の正面断面図である。分割プラグの前部21と後部22は、表3に化学成分を示したC〜E鋼種の3種の材質を組み合わせて構成した。
Figure 2005087401
さらに、プラグ表面に形成する酸化皮膜の厚さを150〜500μmの範囲で変えるため、前部および後部を別個に、酸化性雰囲気の加熱炉に投入して熱処理を施した。具体的には、水蒸気濃度が14体積%以上の酸化性雰囲気の加熱炉に挿入し、980〜1100℃の範囲で6時間均熱保持した後、50℃/hrの冷却速度で800℃まで徐冷する熱処理を施した。したがって、酸化皮膜の厚さの調整は、加熱温度を変更して行った。
図5に示すように、酸化皮膜を形成した前部21と後部22とをねじ方式で接合し、プラグ前部長さがプラグ全長の24%となる砲弾形状の分割プラグを製作した。
供試材は材質がSUS304のステンレス鋼とし、外径187mm×長さ1500mmのビレットを1250℃に加熱し、後述する表4に示す各種の分割プラグを用いて穿孔圧延を行い、外径196mmの素管を得た。そして、まず、プラグ寿命を調査した。
引き続き、マンドレルミルで延伸圧延した後、レデューサで外径73mm×肉厚6.2mmの管に仕上げた。その後、管の内面疵の発生率を調査した。
この実施例で用いたプラグの条件、ならびに穿孔圧延後のプラグ寿命および管の内面疵の発生率を調査した結果を表4に示す。
Figure 2005087401
表4に示す内面疵は、回転鍛造効果に起因する内面疵およびプラグの表面粗さに起因する米粒状の被れ疵の両者を包含するものであり、その発生率は、穿孔圧延を行った100本の管当たりの内面疵を発生した本数比率である。
表4に示すように、本実施例で使用した分割プラグは、いずれも前部は低合金鋼からなり、前部および後部のプラグ表面には酸化皮膜が形成されていることから、全て本発明例の穿孔圧延用プラグである。
本発明例のうちでも、製造No.2〜5に示すように、前部に形成される酸化皮膜の厚さが200μm以上とした穿孔圧延用プラグによれば、仕上げ圧延後に発生する内面疵をなくすことができる。
2.発明Bを実施するための形態
(1)発明Bの最良の形態
発明Bの継目無管の製造装置は、物理的に分離されたプラグ前部およびプラグ後部を一体のプラグとして保持し、かつ前記プラグ前部または/およびプラグ後部を着脱可能とし、前記プラグを保持する芯金は前記プラグ後部を貫通し、前記プラグ前部と連結されていることを特徴としている。
前述のとおり、従来型の分割プラグでは、溶損を発生しやすいプラグ前部を取り替えることや、単独でプラグ後部だけを交換することができない。このため、プラグ前部とプラグ後部とを分割して製造されているが、プラグ取り替えのタイミングや方法、および寿命管理は一体型プラグのそれらと変わらないことになる。
そこで、本発明の継目無管の製造装置では、プラグ前部またはプラグ後部をそれぞれ単独に、またはプラグ前部およびプラグ後部を同時に着脱可能とするため、プラグ前部とプラグ後部とを焼き嵌め、圧入、圧接等の接合手段を用いることなく組み立てられる構造とし、芯金をプラグ後部に貫通させ、プラグ前部と連結させることにする。このとき、分離されたプラグ前部およびプラグ後部は一体のプラグとして保持されるとともに、プラグ前部とプラグ後部が独立して回転できるように構成している。
しかも、上記の構成を採用することによって、従来型の分割プラグのように、プラグ前部とプラグ後部の接合部が破損することを防止できる。さらに、芯金による支持機構も比較的単純な構造でよく、継目無管の製造コストを押し上げる要因にならない。
さらに、本発明の継目無管の製造装置は、操業中の製造ラインにおいてプラグ前部または/およびプラグ後部を取り替え可能にするものであり、プラグの取り替えにともなって製管設備を停機させることもない。
そして、プラグ前部の取り替えに際し、プラグ前部を必ずしも高強度材を選択しなければならないとするものではない。例えば、プラグ前部をCr−Ni系の低合金鋼として、適宜、プラグ前部を取り替えることによって、プラグ費用を低減してもよく、また、プラグ前部を高強度材で構成して、プラグ寿命の延長や製管能率の向上を図るようにしてもよい。
図6は、本発明の製造装置が採用したプラグ支持部の構造例を示す図であり、同図(a)は芯金がプラグ前部およびプラグ後部を一体のプラグとして支持している状態を示しており、同図(b)は芯金がプラグの支持を解除した状態を示している。ただし、図6に示すプラグ支持部の構造は、単にその支持構造を例示したものであり、本発明の装置構造を限定するものではない。
本発明が対象とするプラグ101は、プラグ前部101aおよびプラグ後部101bに物理的に分離されており、穿孔圧延に際しては芯金102によって一体のプラグ101として保持される。さらに、プラグ前部101aおよびプラグ後部101bをそれぞれ回転可能で、かつ着脱可能とするため、芯金102の先端はプラグ後部101bを貫通し、プラグ前部101aと連結するように構成されている。
芯金102の先端は芯金小径部102aと芯金大径部102bの2段構造となっており、芯金大径部102bでプラグ後部101bを貫通し、芯金小径部102aがプラグ前部101aの内周孔105に装着し、回転可能に連結している。さらに、芯金小径部102aには通し孔102cが設けられており、この通し孔102cにはプラグ前部101aが芯金102から離脱するのを防止するため、鋼球104が芯金102の外周面から突出するように収納される。この鋼球104が最も突出した状態になると、芯金の外周面より一部が出現し、プラグ前部101aの内周孔105に設けられた凹部に勘合し、プラグ前部101aは確実に支持される。
芯金102の先端内面には摺動ロッド103が挿入されており、大径平行部103b、テーパー部103tおよびこれに続く小径平行部103aで構成される。図6(a)に示すように、摺動ロッド103が前進限の位置にあるとき、鋼球104は大径平行部103bに押し上げられ、芯金102の外周面より最も突出した状態になる。一方、図6(b)に示すように、摺動ロッド103が後退限の位置になると、鋼球104は小径平行部103aで支持され、芯金102の先端内面に収容される状態になる。
摺動ロッド103の後端にはピストン106が設けられており、芯金の内部に設けられた摺動孔107に内装されている。このピストン106は摺動孔107内でその後方に設けられたスプリング108によって、芯金102の先端方向に押し付けられ、摺動ロッド103は前進限に位置する。
上記のプラグ支持部の構造において、プラグ101を装着、支持する場合には、エアー供給口109から高圧エアーを供給し、ピストン106をスプリング108の押し付け力に抗して後方に移動させ、摺動ロッド103を後退させる。
摺動ロッド103が後退限まで移動すれば、鋼球104が芯金102の先端内面に収容され、プラグ前部101aおよびプラグ後部101bの装着が可能になる。摺動ロッド103が後退限まで移動した場合でも、鋼球104は小径平行部103aで保持され、芯金102の内面に落下することがない。
プラグ前部101aおよびプラグ後部101bが装着されると、高圧エアーの供給が停止され、これにともなって摺動ロッド103が前進限まで移動する。摺動ロッド103の前進にともなって、テーパー部103tによって鋼球104が徐々に押し上げられ、芯金102の外側に押し出される。押し出された鋼球104の一部は、プラグ前部101aの内周孔105に設けられた凹部に勘合される。その後は、摺動ロッド103は前進限に位置し、大径平行部103bに鋼球104が支持された状態でプラグ101は芯金102に支持される。
プラグ101を取り替える場合には、プラグ101を装着、支持する場合と同様に、エアー供給口109から高圧エアーを供給し、ピストン106をスプリング108の押し付け力に抗して後方に移動させ、摺動ロッド103を後退限まで後退させる。これにより、鋼球104が芯金102の先端内面に収容され、プラグ前部101aおよびプラグ後部101bの取り外しが可能になり、適宜、プラグ前部101aまたは/およびプラグ後部101bの着脱が可能になる。
図6に示す構成例では、鋼球104は1個のみ示している。この構成でもプラグ101の装着、支持の目的を十分に達成できるが、さらに円周方向に等間隔に複数個の鋼球を配置するのが望ましい。
前述のとおり、穿孔圧延中の断熱効果と潤滑効果を得るため、プラグ表面に200〜1000μmのスケールを生成させることが望ましい。このとき、プラグ寿命を低下させることなく、穿孔圧延後に発生する素管内面疵を低減するには、プラグ全表面に均一厚さのスケール皮膜を形成させるのではなく、プラグ前部に形成させるスケール皮膜厚さをプラグ後部のそれよりも厚くすることが望ましいことが認識されている。
したがって、本発明の継目無管の製造装置においても、プラグ前部のスケール厚さをプラグ後部のスケールより厚くするのが望ましい。特に、一体型プラグであれば、プラグ全表面に厚めに形成したスケールをプラグ後部のみ研磨し、薄くする作業工数を要していたが、本発明が対象とするプラグであれば、プラグ前部およびプラグ後部に別個にスケールを形成できるので有効である。
ところで、プラグ前部を尖頭化すると、噛み込み性が改善されるが、熱容量の低下をともないプラグ前部が溶損し易くなる。しかし、プラグ前部に所定の高温強度が確保できれば、溶損することなく、効率的な穿孔圧延が可能になる。
具体的には、本発明の継目無管の製造装置では、プラグ前部の1100℃における引張強度を50MPa以上にするのが望ましい。ここで、目標とする温度を1100℃としているのは、穿孔圧延にともなって、プラグ前部が上昇し得る最高温度である。
このとき必要とされる強度を50MPa以上としたのは、一般的にプラグ材料として使用される3%Cr−1%Ni鋼の1100℃における引張強度と比較して、1.2〜2倍以上の強度を有することが必要としたためである。
(2)発明Bに関する実施例
発明Bの効果を確認するため、発明Bの製造装置を用いて穿孔圧延試験を行った。材質は13%Crを含有するマルテンサイトステンレス鋼で外径187mmのビレットを1220℃に加熱し、穿孔圧延に供して外径196mmの素管を得た。
図7は、ビレットを穿孔圧延するため対向配置された一対の穿孔ロールとプラグの配置を説明する図である。穿孔ロール110のゴージ部110aは、穿孔ロール110の入口面と出口面とが交叉する位置であり、一対の穿孔ロール110、110の間隙が最小となる位置である。ゴージ部110aの位置における前記間隙がロール開度Rg(mm)となる。
また、穿孔ロールは傾斜角β(°)をなして配置されている。本実施例では、次の条件で穿孔圧延した。
ロール開度Rg:162mm、 傾斜角β:12°
図8は、実施例に用いたプラグ支持の装置構成を説明する図である。図8(a)は本発明例を示しており、芯金102はプラグ後部101bを貫通して、分離されたプラグ前部101aおよびプラグ後部101bを一体のプラグ101として保持している。プラグ後部101bは、3.0%Cr−1.0%Ni鋼とし、表面に500μmのスケールを生成させた。プラグ前部101aの材質を変化させるとともに、プラグ前部101aの長さを2水準に変えた。なお、内周孔の孔径diも同時に20〜30mmの範囲で変更した。
図8(b)は比較例1を示しており、プラグ前部101aおよびプラグ後部101bは焼き嵌めで接合し、芯金102はプラグ後部101bの内周孔に内装されて、プラグ101全体を支持している。プラグ後部101bは、3.0%Cr−1.0%Ni鋼とし、表面に500μmのスケールを生成させ、プラグ前部101aはNb合金で構成した。
図8(c)は比較例2を示しており、一体型プラグ101が用いられ、芯金102はプラグ後部の内周孔に内装されてプラグ101全体を支持している。プラグ101は3.0%Cr−1.0%Ni鋼とし、表面に500μmのスケールを生成させた。
本実施例では、使用したプラグの外郭寸法はいずれも同じとし、各プラグとも圧延に不具合を発生するまで、最高10パスまで穿孔圧延を行い、プラグの表面状況を観察した。その結果を表5に示す。
Figure 2005087401
表5に示すように、比較例1のNo.106プラグでは、4パスでプラグ前部と後部の接合が外れ、圧延を停止せざるを得ず、プラグ前部を高強度材で構成した分割プラグ本来の性能が発揮されなかった。一方、比較例2のNo.107プラグでは、1パスでプラグ前部に溶損が発生しプラグ寿命を来した。
本発明例のNo.101プラグは、上記No.107プラグと同じ材質であり、同様に、1パスでプラグ前部に溶損が発生したが、プラグ前部のみの取り替えができるので、廃却重量比率は1/4以下となった。
本発明例のNo.102プラグは、プラグ前部のスケールを厚くしているので、上記No.101プラグに比べ寿命は2倍に延びた。スケール形成に際しては、プラグ熱処理の時間を長くするか、または処理温度を数10℃上げれば、No.102プラグ程度の厚スケールを形成することができる。さらに、大量に処理すればプラグ熱処理にともなうコスト増加を吸収できる。このため、本発明例のNo.102プラグの原単位は、No.101プラグの1/2程度、比較例2のNo.107プラグに対しては1/8程度に向上した。
本発明例のNo.103プラグは、プラグ前部に0.5%Cr−1.5%Mo−3.0%W鋼の高強度材を用いることによって、No.101プラグに比べ、プラグ単価は1.5倍程度になるが、プラグ寿命は2倍に向上した。すなわち、プラグ前部に高強度材を用いることによって、プラグ単価が増加しても、取り替えるのはプラグ前部だけであり、さらに、殆ど損傷しないプラグ後部を低価格の材料とすることで、一層プラグ原単位を低減できる。
本発明例のNo.104プラグでは、上記No.103プラグで溶損箇所がプラグ前部からゴージ部相当位置(すなわち、プラグをミルにセッティングした際にロールゴージ部に相当するプラグ長手方向の位置)に移行しているため、プラグ前部の長さをゴージ部相当位置まで拡大することによってゴージ部相当位置の溶損を抑制し、プラグ寿命をさらに向上した。
本発明例のNo.105プラグでは、上記No.104プラグに比較して、スケールを厚く形成したため、プラグ寿命が向上した。
さらに、発明Bの効果を確認するため、発明Bの製造装置を用いて、別の穿孔圧延試験を行った。材質がSUS304で外径65mmのビレットを1200℃に加熱し、穿孔圧延に供して外径87mmの素管を得た。
本実施例では、以下の条件で穿孔圧延を行った。
ロール開度Rg:57.2mm、 傾斜角β:10°
図9は、実施例に用いたプラグの構成を説明する図である。図9(a)は本発明例を示しており、プラグ前部101aの長さはプラグ全長の24%とし、プラグ後部101bは、3.0%Cr−1.0%Ni鋼として、表面に500μmのスケールを生成させた。図9(b)は、比較例の一体型プラグを示しており、その材質は、3.0%Cr−1.0%Ni鋼とし、表面に500μmのスケールを生成させた。
本実施例では、最高20パスまで穿孔圧延を行い、プラグの表面状況を観察した。その結果を表6に示す。
Figure 2005087401
表6に示すように、プラグ前部101aに比較例のプラグNo.115と同じ材質を用いた本発明例のプラグNo.111の場合、比較例と同じ1パスでプラグ寿命となる溶損が生じた。しかし、プラグNo.111はプラグ前部のみの取り替えができるので、廃却重量の比率は約1/10であった。
本発明例のプラグNo.112は、プラグNo.111よりもスケール厚さを厚くしているため、プラグ寿命は2倍となった。また、プラグNo.113は、プラグNo.111よりも高温強度の高い材質を用いているため、プラグNo.111と同じスケール厚さであっても、プラグ寿命は2倍となった。さらに、プラグNo.113と同じ材質を用い、スケール厚さをプラグNo.113よりも厚くしたプラグNo.114では、プラグNo.113に比較して寿命が1.5倍となった。
本発明の継目無管の穿孔圧延用プラグによれば、ステンレス鋼や高合金を穿孔圧延する場合であっても、プラグ表面の酸化皮膜に起因する米粒状の被れ疵をなくし、被圧延材の穿孔効率を低下させることなく、噛み込みによる回転鍛造効果に起因する内面疵の発生を防止することができる。また、本発明の継目無管の製造装置によれば、操業中の継目無管の製造ラインにおいて、分割プラグの接合に不具合を生ずることなく、プラグ前部または/およびプラグ後部の取り替えを行うことができる。
したがって、本発明を用いることにより、プラグ寿命の延長および優れたプラグ原単位を達成することができ、さらに、プラグ前部の取り替えに際し、プラグ前部の低合金鋼としてプラグ費用を低減すること、および、プラグ前部を高強度材で構成してプラグ寿命の延長や製管能率の向上を図ることも可能である。
しかも、傾斜ロール式穿孔圧延機に適用することによって、品質の優れた素管を効率的に生産することができるので、本発明は、実操業における最適な継目無管の製造用として、広く採用することができる。

Claims (15)

  1. 分割されたプラグ前部とプラグ後部を一体のプラグとして保持して使用されるプラグにおいて、少なくとも前記プラグ前部は低合金鋼からなり、前記プラグ前部およびプラグ後部の表面には酸化皮膜が形成されていることを特徴とする継目無管の穿孔圧延用プラグ。
  2. 前記プラグ前部に形成される酸化皮膜の厚さが200μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の継目無管の穿孔圧延用プラグ。
  3. 前記プラグ前部に形成される酸化皮膜の厚さが前記プラグ後部に形成される酸化皮膜の厚さよりも厚いことを特徴とする請求項1または2に記載の継目無管の穿孔圧延用プラグ。
  4. 前記プラグ前部の1100℃における引張強度が50MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の継目無管の穿孔圧延用プラグ。
  5. 傾斜ロール式穿孔圧延機を用いて、請求項1または2に記載のプラグを穿孔工具とし、所定の温度に加熱された中実のビレットを中空素管に穿孔圧延することを特徴とする継目無管の製造方法。
  6. 傾斜ロール式穿孔圧延機を用いて、請求項3に記載のプラグを穿孔工具とし、所定の温度に加熱された中実のビレットを中空素管に穿孔圧延することを特徴とする継目無管の製造方法。
  7. 分割されたプラグ前部およびプラグ後部を一体のプラグとして保持し、かつ前記プラグ前部または/およびプラグ後部を着脱可能とする継目無管の製造装置であって、前記プラグを保持する芯金は前記プラグ後部を貫通し、前記プラグ前部と連結されていることを特徴とする継目無管の製造装置。
  8. 前記プラグ前部に形成される酸化皮膜の厚さが200μm以上であることを特徴とする請求項7に記載の継目無管の製造装置。
  9. 前記プラグ前部のスケール厚さが前記プラグ後部のスケール厚さよりも厚いことを特徴とする請求項7または8に記載の継目無管の製造装置。
  10. 前記プラグ前部の1100℃における引張強度が50MPa以上であることを特徴とする請求項7または8に記載の継目無管の製造装置。
  11. 前記プラグ前部の1100℃における引張強度が50MPa以上であることを特徴とする請求項9に記載の継目無管の製造装置。
  12. 請求項7または8に記載の製造装置を用いて、製造ラインにおいて前記プラグ前部または/およびプラグ後部を取り替えることを特徴とする継目無管の製造方法。
  13. 請求項9に記載の製造装置を用いて、製造ラインにおいて前記プラグ前部または/およびプラグ後部を取り替えることを特徴とする継目無管の製造方法。
  14. 請求項10に記載の製造装置を用いて、製造ラインにおいて前記プラグ前部または/およびプラグ後部を取り替えることを特徴とする継目無管の製造方法。
  15. 請求項11に記載の製造装置を用いて、製造ラインにおいて前記プラグ前部または/およびプラグ後部を取り替えることを特徴とする継目無管の製造方法。
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