JP5757747B2 - クロロフィル含有野菜の処理方法 - Google Patents
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Description
この問題を軽減するための手段として、フェルラ酸またはそのアルカリ金属塩を有効成分として含有することを特徴とするクロロフィルの分解防止剤が知られている(特許文献1)。この文献には、このクロロフィルの分解防止剤の利用形態として、緑色野菜等に付着させるか混入して、クロロフィルの分解による退色を防止することが記載されている。
従来より、この問題を軽減するための方法が、種々提案されている。例えば、野菜類をカルシウム水溶液中に低温下で浸漬した後、その状態のまま該水溶液の温度を40〜70℃の範囲に上昇させ、一定時間保持することを特徴とする野菜類の軟化防止法が提案されている(特許文献2)。この文献には、野菜類の低温下での浸漬を、望ましくは、0〜15℃で且つ5時間以上行なうこと、および、40〜70℃での保持時間が、好ましくは10〜180分間であることも記載されている。
冷凍野菜の製造時に、野菜に含まれている酵素(特に、酸化酵素)が十分に失活しない場合、この酵素の影響で、冷凍野菜の保存中に、退色や風味の劣化等が生じるおそれがある。この観点から、酵素が十分に失活するまで、加熱によるブランチング処理を行なうことが望ましい。
しかし、ブランチング処理の処理時間を増大させると、野菜の組織が軟化して、歯応えが悪くなり、食感が劣化したり、あるいは、退色を生じさせることがある。
このように、ブランチング処理の処理時間の増大は、野菜に含まれている酵素を十分に失活させて、冷凍野菜の保存中における外観(色調)および風味を良好に維持するという利点を有する反面、ブランチング処理中に、野菜の組織を軟化させて歯応えを悪くしたり、退色を生じさせるという欠点を有している。
[1] (A)クロロフィル含有野菜をフェルラ酸含有水溶液中に浸漬させる工程と、(B)工程(A)の後、上記クロロフィル含有野菜をカルシウム含有水溶液中に浸漬させる工程と、(C)工程(B)の後、上記クロロフィル含有野菜に対して、ブランチング処理を行なう工程、を含むクロロフィル含有野菜の処理方法であって、工程(C)におけるブランチング処理が、90℃以上の温度で加熱することによって行なわれることを特徴とするクロロフィル含有野菜の処理方法。
[2] 工程(C)におけるブランチング処理が、95〜110℃の温度で加熱することによって行なわれる、前記[1]に記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
[3] 工程(C)におけるブランチング処理が、熱湯中に、上記クロロフィル含有野菜を浸漬することによって行なわれる、前記[1]又は[2]に記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
[4] 工程(A)で用いるフェルラ酸含有水溶液が、0.01〜0.1重量%のフェルラ酸またはそのアルカリ金属塩を含み、かつ、40℃以下の液温を有する、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
[5] 工程(B)で用いるカルシウム含有水溶液が、0.5〜5重量%の水溶性カルシウム塩を含み、かつ、45〜65℃の液温を有する、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
[6] 工程(A)における浸漬時間が5〜60分間であり、工程(B)における浸漬時間が5〜50分間であり、工程(C)における処理時間が2〜10分間である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
[7] (D)工程(C)の後、上記クロロフィル含有野菜を凍結させて、冷凍野菜を得る工程、を含む、前記[1]〜[6]のいずれかに記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
[8] 上記クロロフィル含有野菜が、さやいんげん、緑いんげん豆、グリーンピース、枝豆、そら豆、グリーンアスパラガス、ブロッコリー、ホウレンソウ、チンゲン菜、およびピーマンからなる群より選ばれる一種以上である、前記[1]〜[7]のいずれかに記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
また、本発明によれば、ブランチング処理の処理時間を増大させても、野菜の組織の軟化による食感の劣化(例えば、冷凍野菜の解凍後に、歯応えが悪くなること)を抑制することができる。
さらに、本発明によれば、ブランチング処理時における野菜の退色を抑制することができる。例えば、さやいんげん等の緑色野菜の場合、ブランチング処理の処理時間を増大させても、鮮やかな緑色の外観(色調)を維持することができる。
工程(A)は、クロロフィル含有野菜をフェルラ酸含有水溶液中に浸漬させる工程である。
本発明の処理方法の対象であるクロロフィル含有野菜の例としては、さやいんげん、緑いんげん豆、グリーンピース、枝豆、そら豆、グリーンアスパラガス、ブロッコリー、ホウレンソウ、チンゲン菜、ピーマン等が挙げられる。
中でも、本発明の効果(特に、良好な食感の維持)を十分に得る観点から、さやいんげん、グリーンアスパラガス、ブロッコリー、ホウレンソウ、チンゲン菜等が好ましい。これらの野菜を用いると、噛んだときのシャキシャキした歯応えと、歯切れの良さを、本発明の処理方法によらない場合に比べて、特に強く感じることができる。
本明細書中、「さやいんげん」とは、野菜としての「いんげん」のうち、若いときに莢(さや)ごと食されるものを意味する。本発明の処理方法の対象となるさやいんげんの種類としては、特に限定されず、例えば、モロッコいんげん、サーベルいんげん等が挙げられる。
また、本明細書中、「緑いんげん豆」とは、野菜としての「いんげん」のうち、成長した莢の中の緑色の種子をいう。
フェルラ酸は、別名を3−メトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸といい、ケイ皮酸の誘導体である。フェルラ酸は、市販品としては、米ぬか油精製工程で生じる残油から抽出して精製したものを入手することができる。このような市販品として、「サンカノンFRL」(商品名;丸善製薬社製)等が挙げられる。
フェルラ酸のアルカリ金属塩としては、フェルラ酸のモノナトリウム塩、フェルラ酸のモノカリウム塩等が挙げられる。
アルカリ金属塩ではないフェルラ酸は、水にはやや溶けにくいため、酢酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム等の、緩衝作用を有する有機酸塩または無機酸塩と共に用いることが、望ましい。
フェルラ酸含有水溶液の液温は、常温で良く、特に限定されないが、野菜の組織の軟化の防止等の観点から、好ましくは40℃以下、より好ましくは0〜35℃、特に好ましくは5〜30℃である。
フェルラ酸含有水溶液のpHは、通常、4.5〜8である。
工程(B)は、工程(A)の後、クロロフィル含有野菜をカルシウム含有水溶液中に浸漬させる工程である。
本明細書中、「カルシウム含有水溶液」とは、カルシウムイオンを含む水溶液をいう。
本発明で用いられるカルシウム含有水溶液を調製するためのカルシウム化合物の例としては、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等が挙げられる。中でも、塩化カルシウムは、風味への影響が少ないという観点から、好ましい。
カルシウム含有水溶液中のカルシウム化合物の濃度は、好ましくは0.5〜5重量%、より好ましくは1.0〜3.0重量%、さらに好ましくは1.5〜2.5重量%、特に好ましくは1.5〜2.0重量%である。該濃度が0.5重量%未満では、工程(C)におけるブランチング処理中の野菜の退色および軟化の抑制効果が十分に得られないことがある。該濃度が5重量%を超えると、野菜の退色および軟化の抑制効果が頭打ちになる。なお、該濃度が1.5重量%以上であると、野菜の退色および軟化の抑制効果を特に高めることができる。また、該濃度が2.0重量%以下であると、薬剤コストの増大、および、工程(B)における処理後の水洗時間の増大などを避けることができる。
カルシウム含有水溶液の液温は、好ましくは45〜65℃、より好ましくは48〜62℃、特に好ましくは50〜60℃である。該温度が45℃未満では、工程(C)におけるブランチング処理中の野菜の組織の軟化を十分に抑制することができないことがある。該温度が65℃を超えると、工程(B)における処理中の野菜の組織の軟化を十分に抑制することができないことがある。
カルシウム含有水溶液のpHは、通常、6〜8である。
なお、工程(A)(フェルラ酸含有水溶液への浸漬)と、工程(B)(塩化カルシウム水溶液への浸漬)の順序を逆にした場合、野菜の退色の抑制効果を十分に得ることができない。また、工程(A)と工程(B)を同時に行なった場合も、野菜の退色の抑制効果を十分に得ることができない。
工程(C)は、工程(B)の後、クロロフィル含有野菜に対して、ブランチング処理を行なう工程である。
本明細書中、「ブランチング処理」とは、野菜に含まれている酵素を失活させるための加熱処理をいう。
ブランチング処理における加熱温度は、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、さらに好ましくは90℃以上、特に好ましくは95℃以上である。該温度が80℃以上であると、工程(C)の処理時間を短縮することができ、処理効率を高めることができる。
ブランチング処理における加熱温度の上限は、好ましくは160℃、より好ましくは140℃、さらに好ましくは120℃、特に好ましくは110℃である。該温度が160℃を超えると、ブランチング処理中の野菜の組織の軟化を十分に抑制することができないことがある。なお、該温度が110℃以下であると、ブランチング処理中の野菜の退色を十分に抑制することができる。
ブランチング処理の処理時間は、好ましくは2〜10分間、より好ましくは3〜9分間、さらに好ましくは4〜8分間、さらに好ましくは5〜8分間、特に好ましくは6〜8分間である。処理時間が2分間未満では、野菜に含まれている酵素の失活が不十分となる。処理時間が10分間を超えると、ブランチング処理中に野菜の組織が軟化することがある。なお、処理時間が4分間以上(特に6分間以上)であると、野菜に含まれている酵素の失活の程度を特に高めることができる。
工程(D)は、工程(C)の後、クロロフィル含有野菜を凍結させて、冷凍野菜を得る工程である。
凍結は、例えば、急速冷凍庫を用いることによって行なうことができる。
工程(D)によって得られた冷凍野菜は、所定の低温下(例えば、−18℃以下)で保存することによって、長期保存が可能である。
[工程(E)]
工程(E)は、冷凍保存後のクロロフィル含有野菜(冷凍野菜)を解凍する工程である。
解凍は、例えば、電子レンジを用いることによって行なうことができる。
解凍後のクロロフィル含有野菜は、外観(例えば、鮮やかな緑色)、食感(例えば、歯応え)、および風味(例えば、新鮮野菜と同等な風味)のすべてに優れている。
生のさやいんげんをフェルラ酸含有水溶液(0.04重量%のフェルラ酸、および酸化防止剤として少量のアスコルビン酸ナトリウムを含む水溶液;液温:20℃;2.0重量%のサンカノンFRL(丸善製薬社製)の水溶液として調製したもの)中に30分間浸漬させた。次いで、フェルラ酸含有水溶液からさやいんげんを取り出し、冷水(液温:10℃)で洗浄した。
次に、洗浄後のさやいんげんを1.5重量%の塩化カルシウム水溶液(液温:55℃)中に20分間浸漬させた。次いで、塩化カルシウム水溶液からさやいんげんを取り出し、冷水(液温:10℃)で洗浄した。
次に、洗浄後のさやいんげんを熱湯(液温:98〜100℃)中に6分間浸漬させることによって、ブランチング処理を行なった。
ブランチング処理の後、熱湯からさやいんげんの一部を試料として取り出して、酵素の失活の有無を判定した。この判定は、グアヤコール反応判定基準によって行なった。具体的には、0.08重量%の過酸化水素水、および、0.5重量%のグアヤコール溶液(オルトメトキシフェノール)をそれぞれ試料に滴下し、3分間以内に発色(褐色)した場合は陽性(酵素が失活していない;表1中の「失活せず」)とし、3分間以内に発色しなかった場合を陰性(酵素が失活している;表1中の「失活」)として判定した。
この冷凍野菜を電子レンジで解凍した後、さやいんげんの外観を評価した。評価は、生のさやいんげんと同等な鮮やかな緑色を有する場合を「良好」とし、緑色が退色している場合を「不良」として評価した。
また、解凍後のさやいんげんについて、レオメーター(山電社製)を用いて硬度を評価した。硬度を評価するための物性として、破断応力(単位:kPa)および破断歪率(単位:%)を測定した。このうち、破断応力は、破断時の抵抗の大きさを表すものであり、数値が大きいほど、硬度が大きく、歯応えのある食感を与えることを示す。また、破断歪率は、数値が大きいほど、歯応えのある食感を与えることを示す。破断応力および破断歪率は、各々、5個のサンプルの平均値として算出した。
結果を表1に示す。
生のさやいんげんを熱湯(液温:98〜100℃)中に6分間浸漬させることによって、ブランチング処理を行なった。ブランチング処理の後、実施例1と同様にして、酵素の失活の有無、外観および硬度を評価した。結果を表1に示す。
[比較例2]
生のさやいんげんを熱湯(液温:98〜100℃)中に2.5分間浸漬させることによって、ブランチング処理を行なった。ブランチング処理の後、実施例1と同様にして、酵素の失活の有無、外観および硬度を評価した。結果を表1に示す。
一方、比較例1では、酵素は失活しているものの、破断応力および破断歪率が共に小さく、歯応えが悪いことがわかる。また、比較例2では、破断応力および破断歪率が共に大きいものの、酵素が失活しておらず、長期に冷凍保存した場合に色調および食味が劣化することが予想される。
Claims (8)
- (A)クロロフィル含有野菜をフェルラ酸含有水溶液中に浸漬させる工程と、
(B)工程(A)の後、上記クロロフィル含有野菜をカルシウム含有水溶液中に浸漬させる工程と、
(C)工程(B)の後、上記クロロフィル含有野菜に対して、ブランチング処理を行なう工程、
を含むクロロフィル含有野菜の処理方法であって、
工程(C)におけるブランチング処理が、90℃以上の温度で加熱することによって行なわれることを特徴とするクロロフィル含有野菜の処理方法。 - 工程(C)におけるブランチング処理が、95〜110℃の温度で加熱することによって行なわれる請求項1に記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
- 工程(C)におけるブランチング処理が、熱湯中に、上記クロロフィル含有野菜を浸漬することによって行なわれる請求項1又は2に記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
- 工程(A)で用いるフェルラ酸含有水溶液が、0.01〜0.1重量%のフェルラ酸またはそのアルカリ金属塩を含み、かつ、40℃以下の液温を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
- 工程(B)で用いるカルシウム含有水溶液が、0.5〜5重量%の水溶性カルシウム塩を含み、かつ、45〜65℃の液温を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
- 工程(A)における浸漬時間が5〜60分間であり、工程(B)における浸漬時間が5〜50分間であり、工程(C)における処理時間が、2〜10分間である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
- (D)工程(C)の後、上記クロロフィル含有野菜を凍結させて、冷凍野菜を得る工程、
を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。 - 上記クロロフィル含有野菜が、さやいんげん、緑いんげん豆、グリーンピース、枝豆、そら豆、グリーンアスパラガス、ブロッコリー、ホウレンソウ、チンゲン菜、およびピーマンからなる群より選ばれる一種以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のクロロフィル含有野菜の処理方法。
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