JP2016216741A - ポリビニルアルコール系重合体フィルム - Google Patents

ポリビニルアルコール系重合体フィルム Download PDF

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Abstract

【課題】欠陥の少ない偏光フィルムひいては偏光板を収率よく製造することのできるPVA系重合体フィルムの提供、および、PVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分から巻き取り終了部分までの表面特性の差が小さくて品質の安定した偏光フィルムひいては偏光板を製造することのできるフィルムロールの提供。【解決手段】フィルム表面から窪んだ欠点であって面積が400μm2以上で深さが0.3μm以上の欠点の数が0.25個/m2以下であるPVA系重合体フィルム、および、長尺のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなるフィルムロールであって、フィルム表面から窪んだ欠点であって面積が400μm2以上で深さが0.3μm以上の欠点について、PVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分における当該欠点の数に対するPVA系重合体フィルムの巻き取り終了部分における当該欠点の数が1.4倍以下であるフィルムロール。【選択図】なし

Description

本発明は偏光フィルム製造用の原反フィルムなどとして有用なポリビニルアルコール系重合体フィルム(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがある)、それを用いた偏光フィルムの製造方法および偏光フィルム、PVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなるフィルムロール、ならびに、PVA系重合体フィルムの製造方法に関する。
PVA系重合体フィルムは透明性・光学特性・機械的強度・水溶性などに関するユニークな性質を利用して様々な用途に使用されており、特に最近ではその優れた光学特性を利用して、液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である偏光板を構成する偏光フィルムの製造原料(原反フィルム)としての用途が拡大している。液晶モニターや液晶テレビの分野では大画面化が急速に進んでいるが、偏光板に欠陥があると製品に組み込むことができなくなって歩留り(製品収率)が低下するため、これまで以上に欠陥の少ない偏光板ひいては偏光フィルムが求められている。
ところで、偏光フィルムのみならず保護膜や位相差フィルムなども含めた光学フィルムに関連して、これまでに様々な技術が知られている。例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンといった熱可塑性樹脂をその融点以上に加熱して溶融ポリマーとし、これを口金より押出し冷却して光学用途などに使用されるフィルムを製造する際などにおいて、ポリマー中に存在するオリゴマー(低重合体)がフィルム製造中に表面に析出してキャスティングドラムやロールの表面に付着しフィルムの表面欠点となる問題を解消するための手段として、外周面が表面粗度1S以下で且つ表面にクロム原子に対して炭素原子を原子個数として0.5〜5%含有するクロムメッキ被膜を有するフィルム製造用ドラムまたはロールを用いてなるフィルムの製造装置を使用することが知られている(特許文献1を参照)。特許文献1には、ポリエチレンテレフタレートを275℃で溶融し、Tダイより押出して25℃に冷却したキャスティングドラムで急冷して非晶シートとした後、当該キャスティングドラムよりも下流側に配置された複数の金属ロールで加熱や冷却をする際に、当該複数の金属ロールの一部として特定のクロムメッキ皮膜を有してなるロールを用いることが具体的に記載されている。
また、高分子樹脂溶液を支持体上に流延して溶液製膜フィルムを製造する際に、表面欠点(フィルム表面に突起状に浮き出した欠点)を解消して光学用途に有用な透明性と表面平坦性に優れた高分子樹脂フィルムを得るために、使用する支持体表面に存在する特定サイズの欠点の単位面積あたりの数を特定数値以下にすることが知られている(特許文献2を参照)。特許文献2には、芳香族ポリカーボネート樹脂をエタノールとメチレンクロライドの混合溶媒に溶解させてなる溶液と特定の表面特性を有する支持体(SUS−316よりなる鏡面研磨板)とを用い、これらの温度をいずれも15℃程度に調節し、当該溶液を支持体上にハンドコートし乾燥して、芳香族ポリカーボネートフィルムとしたことが具体的に記載されている。
さらに、押出し機から溶融押出しされたフィルム状の熱可塑性樹脂(脂環式構造含有ポリマーやセルロースエステルなど)を冷却ドラムにより冷却する溶融流延製膜法によって光学フィルムを製造する際に、冷却ドラムに汚れや異物が強くくっ付いて「押され傷」と呼ばれる外観的な欠陥が生じる問題などを解消するための手段として、有機溶媒を冷却ドラムの表面に付着させ、ついで拭く手段により冷却ドラムの表面を拭いて有機溶媒と共に冷却ドラム表面の汚れを除去し、ついでこの拭き取り後の冷却ドラム表面部分に、押出し機から溶融押出しされたフィルム状の熱可塑性樹脂を付着させて冷却することにより、光学フィルムを製造することが知られている(特許文献3を参照)。特許文献3には、ノルボルネン系開環ポリマーの水素添加物やセルロースアセテートプロピオネートを含む混合物を溶融押出しし、フィルム状の樹脂溶融物を特定の清掃手段を備えた冷却ドラム(ビッカース硬度800の硬化クロムメッキ被膜表面またはビッカース硬度1200の非晶質クロムメッキ被膜表面を有するもの)に密着させて搬送しながら冷却固化させ樹脂シートとしたことが記載されている。
特開平9−207210号公報 特開2000−84960号公報 特開2006−82261号公報 特公平1−19477号公報 特開2005−238833号公報 特開平9−1568号公報 特開2001−315138号公報
しかしながら、上記した従来の技術を単純に採用しただけでは、近年要求されるレベルで欠陥の少ない偏光フィルムや偏光板を製造することは困難であった。すなわち、特許文献1の方法では熱可塑性樹脂をその融点以上に加熱して溶融ポリマーとすることが必要となるが、PVA系重合体は特殊な変性PVA系重合体を除いては熱可塑性樹脂でなく、このような製膜方法をPVA系重合体フィルムの製造に採用することが困難であり、たとえ採用できたとしても表面特性に優れたフィルムを得ることができない。また、PVA系重合体フィルムの製膜方法として、PVA系重合体が液体媒体に溶解してなる製膜原液やPVA系重合体と液体媒体とを含みPVA系重合体が溶融した製膜原液を用い、これを金属支持体上に流延して乾燥させて製膜する方法が知られているが、当該方法は、特許文献1に記載されているような液体媒体を実質的に含まない溶融ポリマーをキャスティングドラム上で冷却して製膜する方法とは大きく異なるため、仮に特許文献1に記載されているフィルム製造用ドラムを単純に用い、上記の製膜原液を使用してこれを当該フィルム製造用ドラム上に流延して乾燥させてPVA系重合体フィルムを製膜したとしても、当該フィルム製造用ドラムが有するクロムメッキ被膜の表面に存在する微細なクラックに基く細かい欠点を十分に制御することができず、得られたPVA系重合体フィルムを用いて製造された偏光板や偏光フィルムは近年要求される品質レベルを十分に達成することができない。
一方、特許文献2は高分子樹脂と溶媒とを主成分とする溶液を支持体上にキャスト後、乾燥させて溶媒を除去する製膜方法に関するものであるが、たとえ特許文献2の方法を単純に採用することによってフィルム表面に突起状に浮き出した欠点を解消できたとしても、フィルム表面から窪んだ欠点を十分に制御することができず、得られたPVA系重合体フィルムを用いて製造された偏光板や偏光フィルムは近年要求される品質レベルを十分に達成することができない。
また、特許文献3の方法は、特許文献1の方法と同様、熱可塑性樹脂の溶融物を冷却ドラムで冷却するものであるため、特許文献3の方法をPVA系重合体フィルムの製造に採用することが困難であり、たとえ採用できたとしても表面特性に優れたフィルムを得ることができない。また、仮に特許文献3に記載された拭く手段を単純に採用し、PVA系重合体が液体媒体に溶解してなる製膜原液やPVA系重合体と液体媒体とを含みPVA系重合体が溶融した製膜原液を使用して、これを金属支持体の上に流延して乾燥させてPVA系重合体フィルムを製膜したとしても、凹状の欠点を十分に制御できず、むしろ、金属支持体表面に拭く手段を接触させることによって金属支持体表面にスクラッチなどの欠陥を生じ、得られるPVA系重合体フィルムの表面特性をかえって悪化させる可能性もある。
上記のような状況下、本発明は、欠陥の少ない偏光フィルムひいては偏光板を収率よく製造することのできるPVA系重合体フィルムを提供することを目的とする。また本発明は、長尺のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなるフィルムロールであってPVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分から巻き取り終了部分までの表面特性の差が小さくて品質の安定した偏光フィルムひいては偏光板を製造することのできるフィルムロールを提供することを目的とする。
またPVA系重合体フィルムは保管や輸送の容易さや連続して使用できることなどの理由から長尺のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなるフィルムロールの形態にされることが多いが、このようなフィルムロールにおいてフィルム間のスリップ性不良などによりフィルムに皺が生じやすく、このような皺は製造される偏光フィルムの品質を低下させる原因となりやすい。一方で偏光フィルムには、上記した欠陥とは異なる染色斑を低減することが求められる場合もある。そこで本発明は、別の側面として、フィルムロールにおいて皺が発生しにくくて、しかも染色斑が低減された偏光フィルムを容易に製造することのできるPVA系重合体フィルムおよびそれが連続的に巻き取られてなるフィルムロールを提供することを目的とする。
またPVA系重合体フィルムを原反フィルムとして用いて偏光フィルムを製造する場合には、通常、PVA系重合体フィルムに対して染色、一軸延伸、固定処理などが施されるが、乾式で一軸延伸を行う場合には染色工程や固定処理工程において、また湿式で一軸延伸を行う場合にはこれらの工程に加えて一軸延伸前の膨潤工程や一軸延伸工程において、使用される処理浴にPVA系重合体の一部が溶出することがあり、溶出したPVA系重合体が処理浴中で析出してフィルムに付着したり、フィルム上で析出したりして、得られる偏光フィルムに異物として残存しその品質や収率を低下させることがある。そこで、本発明はこのような異物の少ない偏光フィルムを製造するための偏光フィルムの製造方法、および、それにより製造される異物の少ない偏光フィルムを提供することを目的とする。
さらに本発明は、上記したようなPVA系重合体フィルムやフィルムロールを簡便に製造することのできるPVA系重合体フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ドラムやベルトといった金属支持体の表面上に溶液状態または溶融状態のPVA系重合体を流延して乾燥させてPVA系重合体フィルムを製膜する場合においては、当該金属支持体の表面に存在していた無数のクラックのうちのごく一部に樹脂堆積物と思われる異物が付着しこれによる凸形状がフィルムに転写されるなどしてフィルム表面から窪んだ欠点の数の多いPVA系重合体フィルムとなること、および、そのようなPVA系重合体フィルムは、それから製造される偏光フィルムや偏光板において欠陥が多くなり、近年要求される品質レベルを十分に達成できなかったり、偏光フィルムや偏光板の収率低下に繋がったりするなどの問題のあることを見出した。
そして、表面にクロムメッキ層を有するとともに表面硬度が特定の範囲にある金属支持体を用いると、バフ研磨などのような製膜開始前に金属支持体の表面に施される一般的な処理によって、金属支持体の表面に存在するクラックの数を容易に低減できて、得られるPVA系重合体フィルムのフィルム表面から窪んだ欠点の数を従来よりも低減することができ、このようなPVA系重合体フィルムを偏光フィルム製造用の原反フィルムとして用いると、欠陥が少なくて近年要求される品質レベルを満足する偏光フィルムや偏光板を収率よく製造することができることを見出した。
また上記の知見に加えて、表面にクロムメッキ層を有するとともに表面硬度が特定の範囲にある金属支持体を用いると、PVA系重合体フィルムを長時間にわたり連続して製膜してもフィルム表面から窪んだ欠点の数の変動を従来よりも低いレベルに保つことができ、例えば、長尺のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなるフィルムロールを製造する際に、PVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分から巻き取り終了部分までの表面特性の差を小さくすることができて品質の安定した偏光フィルムひいては偏光板を製造することのできるフィルムロールが容易に得られることを見出した。
さらに、表面にクロムメッキ層を有するとともに表面硬度が特定の範囲にある金属支持体を用いると、フィルムの両面の表面特性が特定の範囲にあるPVA系重合体フィルムが容易に得られ、当該PVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなるフィルムロールでは皺が発生しにくくて偏光フィルムの品質低下を抑制でき、しかも当該PVA系重合体フィルムによれば染色斑が低減された偏光フィルムが容易に得られること、および、当該PVA系重合体フィルムを用いて特定の方法により偏光フィルムを製造すると、異物の少ない偏光フィルムが容易に得られることを見出した。
本発明者らはこのような知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
[1]フィルム表面から窪んだ欠点であって面積が400μm以上で深さが0.3μm以上の欠点の数が0.25個/m以下であるPVA系重合体フィルム(以下、このPVA系重合体フィルムを「PVA系重合体フィルム(1)」と称することがある);
[2]前記欠点の数が0.15個/m以下である、上記[1]のPVA系重合体フィルム;
[3]PVA系重合体フィルムに含まれるPVA系重合体の重合度が3,000以上10,000以下である、上記[1]または[2]のPVA系重合体フィルム;
[4]長尺のPVA系重合体フィルムである、上記[1]〜[3]のいずれか1つのPVA系重合体フィルム;
[5]長さが6,000m以上である、上記[4]のPVA系重合体フィルム;
[6]前記欠点が、フィルムの長さ方向に実質的に一定の間隔でフィルムの幅方向に実質的に同一の位置に存在する欠点を含む、上記[4]または[5]のPVA系重合体フィルム;
[7]長尺のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなるフィルムロールであって、フィルム表面から窪んだ欠点であって面積が400μm以上で深さが0.3μm以上の欠点について、PVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分における当該欠点の数に対するPVA系重合体フィルムの巻き取り終了部分における当該欠点の数が1.4倍以下であるフィルムロール(以下、このフィルムロールを「フィルムロール(1)」と称することがある);
[8]前記欠点の数が0.25個/m以下である、上記[7]のフィルムロール;
[9]前記欠点の数が0.15個/m以下である、上記[7]のフィルムロール;
[10]PVA系重合体フィルムに含まれるPVA系重合体の重合度が3,000以上10,000以下である、上記[7]〜[9]のいずれか1つのフィルムロール;
[11]PVA系重合体フィルムの長さが6,000m以上である、上記[7]〜[10]のいずれか1つのフィルムロール;
[12]前記欠点が、フィルムの長さ方向に実質的に一定の間隔でフィルムの幅方向に実質的に同一の位置に存在する欠点を含む、上記[7]〜[11]のいずれか1つのフィルムロール;
[13]フィルムの両面のそれぞれにおいて二乗平均粗さを測定した際に、得られた2つの二乗平均粗さの差が0.3nm以上10nm以下であり、小さい方の二乗平均粗さが10nm以下である、PVA系重合体フィルム(以下、このPVA系重合体フィルムを「PVA系重合体フィルム(2)」と称することがある);
[14]大きい方の二乗平均粗さが1nm以上20nm以下である、上記[13]のPVA系重合体フィルム;
[15]長尺のPVA系重合体フィルムである、上記[13]または[14]のPVA系重合体フィルム;
[16]上記[15]のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなるフィルムロール(以下、このフィルムロールを「フィルムロール(2)」と称することがある);
[17]上記[13]〜[15]のいずれか1つのPVA系重合体フィルムを原反フィルムとして用いる偏光フィルムの製造方法であって、染色工程、一軸延伸工程、固定処理工程および乾燥工程を有し、乾燥工程に入る前の最後の処理浴を出るときに、処理浴の液面とフィルム面とのなす角度が30°以上85°以下であると共に、フィルムの上方側の面がポリビニルアルコール系重合体フィルムにおいて小さい方の二乗平均粗さを有していた面である、製造方法;
[18]上記[17]の製造方法によって製造される偏光フィルム;
[19]表面にクロムメッキ層を有し、表面硬度がビッカース硬さで550HV以上900HV未満であり、表面温度が50℃以上115℃以下である金属支持体の表面上に、溶液状態または溶融状態のPVA系重合体を流延して乾燥させて製膜する工程を有するPVA系重合体フィルムの製造方法であって、溶液状態または溶融状態のPVA系重合体を流延し始める直前において金属支持体の表面における面積(最大幅と最大端部間距離との積)が200μm以上のクラックの数が0.7個/mm以下である、製造方法;
[20]溶液状態または溶融状態のPVA系重合体がPVA系重合体と水を含む製膜原液の形態である、上記[19]の製造方法;
[21]前記PVA系重合体の重合度が3,000以上10,000以下である、上記[19]または[20]の製造方法;
[22]前記金属支持体の表面硬度がビッカース硬さで600HV以上800HV未満である、上記[19]〜[21]のいずれか1つの製造方法;
[23]表面にクロムメッキ層を有し、表面硬度がビッカース硬さで550HV以上900HV未満である金属支持体の表面温度を0.5℃/時間以上の変温速度で50℃以上115℃以下にする工程を有する、上記[19]〜[22]のいずれか1つの製造方法;
[24]上記[1]〜[6]および[13]〜[15]のいずれか1つのPVA系重合体フィルムを製造する、[19]〜[23]のいずれか1つの製造方法;
に関する。
本発明によれば、欠陥の少ない偏光フィルムひいては偏光板を収率よく製造することのできるPVA系重合体フィルムを提供することができる。また本発明によれば、長尺のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなるフィルムロールであってPVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分から巻き取り終了部分までの表面特性の差が小さくて品質の安定した偏光フィルムひいては偏光板を製造することのできるフィルムロールを提供することができる。
また本発明によれば、フィルムロールにおいて皺が発生しにくくて、しかも染色斑が低減された偏光フィルムを容易に製造することのできるPVA系重合体フィルムおよびそれが連続的に巻き取られてなるフィルムロール、ならびに、異物の少ない偏光フィルムを製造するための偏光フィルムの製造方法、および、それにより製造される異物の少ない偏光フィルムを提供することができる。
さらに本発明によれば、上記したPVA系重合体フィルムやフィルムロールを簡便に製造することのできるPVA系重合体フィルムの製造方法を提供することができる。
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
[PVA系重合体フィルム(1)]
本発明のPVA系重合体フィルム(PVA系重合体フィルム(1))は、フィルム表面から窪んだ欠点であって面積が400μm以上で深さが0.3μm以上の欠点(以下、この欠点を「欠点A」と称することがある)の数が0.25個/m以下である。プラスチックフィルムに存在する欠点としては、フィルム中のボイド(気泡);異物の混入・付着によるいわゆるフィッシュアイ;フィルムのハンドリング中に生じる傷(多くは溝状の凹み);製膜装置上の凸形状が転写されることによる欠点などが挙げられるが、本発明者らは、上記欠点Aの数を特に制御することによって欠陥の少ない偏光フィルムや偏光板を収率よく製造することができるなどの優れた効果が奏されることを見出した。この欠点Aは上記した製膜装置上の凸形状の転写が原因の1つであると考えられ、特に、後述するようにドラムやベルトといった金属支持体を用いてPVA系重合体フィルムを製膜した場合に、金属支持体上に付着した樹脂堆積物と思われる異物による凸形状がフィルムに転写されることが原因の1つであると考えられる。このような原因によって長尺のPVA系重合体フィルムに欠点Aが生じる場合には、欠点Aのうちの少なくとも一部が、フィルムの長さ方向に実質的に一定の間隔で且つフィルムの幅方向に実質的に同一の位置に複数(例えば3個以上)配列する傾向がある。ここで上記の実質的に一定の間隔は、典型的には、ドラムやベルトといった金属支持体の1周分の長さ(全周長さ)に対応するが、場合によっては、1周分の長さの整数倍に対応することもある。また、異物による凸形状は金属支持体上に複数形成され得るため、上記のように配列した欠点Aの群も複数存在し得る。
上記のように本発明のPVA系重合体フィルム(1)では、欠点Aの数が0.25個/m以下であることが必要である。欠点Aの数が0.25個/mを超えると、それから製造される偏光フィルムや偏光板において欠陥が多くなり、近年要求される品質レベルを十分に達成できなかったり、欠陥の多い偏光フィルムや偏光板を廃棄するなどすることによりこれらの製品の収率低下に繋がったりする。このような観点から、欠点Aの数は0.20個/m以下であることが好ましく、0.15個/m以下であることがより好ましく、0.10個/m以下であることがさらに好ましく、0.075個/m以下であることが特に好ましい。
一方、欠点Aの数の下限については必ずしも限定されないが、欠点Aの数を極度に少なくするためには、製膜設備を設置するためのコストが極度に高くなるなどのおそれがあることから、欠点Aの数は0.001個/m以上であることが好ましく、0.003個/m以上であることがより好ましく、0.005個/m以上であることがさらに好ましい。
欠点Aは、フィルム表面から窪んだ欠点であって面積が400μm以上で深さが0.3μm以上の欠点である。ここで、欠点Aはフィルムの両面のうちのいずれか一方よりフィルム内部に向かって窪んでいればよいが、通常、欠点Aの大部分は、製膜時に使用される後述の金属支持体と接触していた面よりフィルム内部に向かって窪んでいる。また欠点Aの面積とは欠点Aの開口部面積を意味する。さらに、欠点Aの深さとは欠点Aの開口部からのフィルム面に対し垂直な方向の深さであって最も深い位置での深さを意味する。
欠点Aの数(単位は個/m)は、対象となるPVA系重合体フィルムの一方の端から欠点Aを探していき、10個の欠点Aを見つけるまでに検査したPVA系重合体フィルムの面積(単位はm)で10(個)を除すことにより求めることができ、具体的には実施例において後述する方法によって求めることができる。ここで、個々の欠点が欠点Aであるか否かの判定は、非接触表面形状測定機を用いて行うことができる。
PVA系重合体フィルム(1)の形状に特に制限はないが、当該PVA系重合体フィルム(1)を偏光フィルム製造用の原反フィルムとして使用する場合などにおいて、偏光フィルムを生産性よく連続的に製造することができることなどから、長尺のPVA系重合体フィルムであることが好ましい。
当該長尺のPVA系重合体フィルムの長さは特に制限されず、PVA系重合体フィルム(1)の用途などに応じて適宜設定することができ、具体的には当該長さは1,000m以上であることが好ましく、4,000m以上であることがより好ましく、6,000m以上であることがさらに好ましく、7,000m以上であることが特に好ましく、8,000m以上であることが最も好ましい。特に後述するPVA系重合体フィルムの製造方法によれば、PVA系重合体フィルムの欠点Aの数を低減できるとともに、PVA系重合体フィルムを長時間にわたり連続して製膜しても欠点Aの数の変動を低いレベルに保つことができるため、上記長さがより長い場合(例えば6,000m以上)であっても欠点Aの数が低減されたPVA系重合体フィルムを簡便に得ることができる。そしてこのようなより長いPVA系重合体フィルムによれば、偏光フィルムを連続的に製造する場合に欠陥が少なくて近年要求される品質レベルを満足する製品を長時間にわたり収率よく安定して製造することが可能となり、また、フィルムロールの切り替えに伴う煩雑さや時間ロスを低減することもできる。長尺のPVA系重合体フィルムの長さの上限に特に制限はないが、あまりに長いとフィルムロールとした際に重量やロール径が過度に大きくなるなどしてハンドリング性が低下し保管や輸送が困難になる場合があることなどから、当該長さは30,000m以下であることが好ましく、25,000m以下であることがより好ましく、20,000m以下であることがさらに好ましい。
長尺のPVA系重合体フィルムの幅に特に制限はなく、例えば0.5m以上とすることができるが、近年幅広の偏光フィルムが求められていることから、1m以上であることが好ましく、2m以上であることがより好ましく、4m以上であることがさらに好ましい。当該長尺のPVA系重合体フィルムの幅の上限に特に制限はないが、当該幅があまりに広すぎると、実用化されている装置で偏光フィルムを製造する場合などにおいて、均一に延伸することが困難になる傾向があることから、PVA系重合体フィルムの幅は7m以下であることが好ましい。
PVA系重合体フィルム(1)の厚みは特に制限されず、PVA系重合体フィルムの用途などに応じて適宜設定することができ、具体的には当該厚みは300μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。また、近年ではより薄い偏光フィルムが要求されることもあり、このような観点などからは、PVA系重合体フィルム(1)の厚みは45μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることがさらに好ましい。PVA系重合体フィルム(1)の厚みの下限に特に制限はないが、偏光フィルムをより円滑に製造することができることなどから、当該厚みは3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。
PVA系重合体フィルム(1)を構成するPVA系重合体としては、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。ビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
上記のビニルエステル系重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステル系モノマーのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステル系モノマーのみを用いて得られたものがより好ましいが、1種または2種以上のビニルエステル系モノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
このようなビニルエステル系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数3〜30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。上記のビニルエステル系重合体は、これらの他のモノマーのうちの1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
上記のビニルエステル系重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合に特に制限はないが、ビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
PVA系重合体の重合度に必ずしも制限はないが、重合度が下がるにつれてフィルム強度が低下する傾向があることから200以上であることが好ましく、より好適には300以上、さらに好適には400以上、特に好適には500以上である。また、重合度が高すぎると水溶液あるいは溶融したPVA系重合体の粘度が高くなり、製膜が難しくなる傾向があることから、10,000以下であることが好ましく、より好適には9,000以下、さらに好適には8,000以下、特に好適には7,000以下である。ここでPVA系重合体の重合度とは、JIS K6726−1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味し、PVA系重合体を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。
重合度 = ([η]×10/8.29)(1/0.62)
また、重合度が3,000以上10,000以下の範囲内にあるPVA系重合体を用いて後述する方法によってPVA系重合体フィルムを製造すると、欠点Aの数の極めて少ないPVA系重合体フィルムが得られるとともに、PVA系重合体フィルムを長時間にわたり連続して製膜しても欠点Aの数の変動をより低いレベルに保つことができ、好ましい。このような観点からは、PVA系重合体の重合度は、4,000以上であることがより好ましく、5,000以上であることがさらに好ましい。なお、重合度が3,000以上10,000以下の範囲内にあるPVA系重合体を用いることにより上記効果が奏される理由は必ずしも明らかではないが、PVA系重合体フィルムにおける欠点Aの数は、金属支持体の表面に存在していたクラックに溶液状態または溶融状態のPVA系重合体が入り込みやすいほど増加すると考えられ、上記重合度のPVA系重合体を用いた場合にはこの入り込みが抑制されるためと推定される。
PVA系重合体のけん化度に特に制限はなく、例えば60モル%以上のPVA系重合体を使用することができるが、PVA系重合体フィルムを特に偏光フィルム等の光学フィルム製造用の原反フィルムとして使用する場合などにおいては、PVA系重合体のけん化度は95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましい。ここでPVA系重合体のけん化度とは、PVA系重合体が有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル系モノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)を意味する。PVA系重合体のけん化度は、JIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
PVA系重合体フィルム(1)を製造する際には、1種のPVA系重合体を単独で使用してもよいし、重合度、けん化度、変性度などのうちの1つまたは2つ以上が互いに異なる2種以上のPVA系重合体を併用してもよい。PVA系重合体フィルム(1)におけるPVA系重合体の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。
PVA系重合体フィルム(1)は可塑剤を含むことが好ましい。PVA系重合体フィルム(1)が可塑剤を含むことにより、フィルムロールとする際の皺の発生を防止したり、二次加工の際の工程通過性を向上させたりすることができる。可塑剤としては多価アルコールが好ましく、具体的には、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらの可塑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの可塑剤の中でも、PVA系重合体との相溶性や入手性などの観点から、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましい。
PVA系重合体フィルム(1)における可塑剤の含有量は、PVA系重合体100質量部に対して1〜30質量部の範囲内であることが好ましく、3〜25質量部の範囲内であることがより好ましく、5〜20質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
PVA系重合体フィルム(1)は、その製造に使用される金属支持体からの剥離性の向上やPVA系重合体フィルムの取り扱い性の向上などの観点から、界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤の種類に特に制限はないが、アニオン性またはノニオン性の界面活性剤を好ましく使用することができる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型、オクチルサルフェート等の硫酸エステル型、ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型、ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型、ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型、ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。
これらの界面活性剤は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
PVA系重合体フィルム(1)における界面活性剤の含有量は、金属支持体からの剥離性やPVA系重合体フィルムの取り扱い性などの観点から、PVA系重合体100質量部に対して0.01〜1質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.5質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.3質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
PVA系重合体フィルム(1)には、上述のPVA系重合体、可塑剤、および界面活性剤以外の他の成分を、必要に応じ、さらに含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤、充填剤(無機物粒子、デンプン等)、防腐剤、防黴剤、上記した成分以外の他の高分子化合物などが挙げられる。
[フィルムロール(1)]
本発明のフィルムロール(フィルムロール(1))は、長尺のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなるフィルムロールであって、PVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分(PVA系重合体フィルムをフィルムロールとして巻き取り始めたときのフィルム部分)における上記欠点Aの数に対する、PVA系重合体フィルムの巻き取り終了部分(PVA系重合体フィルムをフィルムロールとして巻き取り終わったときのフィルム部分)における上記欠点Aの数が1.4倍以下である。このようなフィルムロールではPVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分から巻き取り終了部分までの表面特性の差が小さいため、当該フィルムロールによれば品質の安定した偏光フィルムひいては偏光板を製造することが可能となる。このような観点から、PVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分における上記欠点Aの数に対するPVA系重合体フィルムの巻き取り終了部分における上記欠点Aの数は、1.3倍以下であることが好ましく、1.2倍以下であることがより好ましく、1.1倍以下であることがさらに好ましい。また、長尺のPVA系重合体フィルムの製膜において欠点Aの数は概ね経時的に増加する傾向があるため、PVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分における上記欠点Aの数に対するPVA系重合体フィルムの巻き取り終了部分における上記欠点Aの数は通常0.6倍以上となることが多く、また、品質の安定した偏光フィルムひいては偏光板を製造するなどの観点からPVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分における上記欠点Aの数に対するPVA系重合体フィルムの巻き取り終了部分における上記欠点Aの数は0.7倍以上であることが好ましく、0.75倍以上であることがより好ましく、0.8倍以上であることがさらに好ましく、0.9倍以上であることが特に好ましい。
本発明のフィルムロール(1)におけるPVA系重合体フィルムでは、単位面積あたりの欠点Aの数に特に制限はないが、本発明のPVA系重合体フィルム(1)における欠点Aの数として上記した数を満足している、すなわち、欠点Aの数が0.25個/m以下(上限に関し、好ましくは0.20個/m以下、より好ましくは0.15個/m以下、さらに好ましくは0.10個/m以下、特に好ましくは0.075個/m以下で、下限に関し、好ましくは0.001個/m以上、より好ましくは0.003個/m以上、さらに好ましくは0.005個/m以上)であると、偏光フィルムを連続的に製造する場合に欠陥が少なくて近年要求される品質レベルを満足する製品を長時間にわたり収率よく安定して製造することが可能となるため、好ましい。上記単位面積あたりの欠点Aの数について、PVA系重合体フィルムの巻き取り開始部分と巻き取り終了部分の双方において上記した数を満たしていれば、当該PVA系重合体フィルム全体において当該数を満たしていると考えることができる。
本発明のフィルムロール(1)において使用されるPVA系重合体フィルムの長さ(巻き取り長さ)は特に制限されず、PVA系重合体フィルムの用途などに応じて適宜設定することができ、具体的には当該長さは1,000m以上とすることができる。しかしながら、近年、偏光フィルムの製造においてフィルムロールの切り替えに伴う煩雑さや時間ロスを低減するために従来の4,000m程度の長さよりもさらに長いPVA系重合体フィルムが求められることがあり、このようなより長いPVA系重合体フィルムを用いて長時間にわたり連続して偏光フィルムを製造しても製品の品質を安定させることができることから、PVA系重合体フィルムの長さは6,000m以上であることが好ましく、7,000m以上であることがより好ましく、8,000m以上であることがさらに好ましい。長尺のPVA系重合体フィルムの長さの上限に特に制限はないが、あまりに長いとフィルムロールとした際に重量やロール径が過度に大きくなるなどしてハンドリング性が低下し保管や輸送が困難になる場合があり、また、本発明の規定を満たすフィルムロールを製造することが困難になる傾向があることなどから、当該長さは30,000m以下であることが好ましく、25,000m以下であることがより好ましく、20,000m以下であることがさらに好ましい。なお、当該長さが14,000m以下、さらには10,000m以下であれば、本発明の規定を満たすフィルムロールの製造がより容易になる。
本発明のフィルムロール(1)において使用されるPVA系重合体フィルムに関するその他の構成としては、本発明のPVA系重合体フィルム(1)の説明として上記した内容と同様のものとすることができるため、ここでは重複する説明を省略する。
本発明のフィルムロール(1)は長尺のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなり、例えば、円筒状のコアに長尺のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなる。円筒状のコアが使用される場合には、当該コアの両端部はフィルムロールの端面から突出する突出部を形成していることが好ましい。
上記の円筒状のコアの種類に特に制限はなく、例えば、金属製のもの、プラスチック製のもの、紙製のもの、木製のものなどが挙げられる。また、金属とプラスチックの両方が使用されたもの、金属と紙の両方が使用されたもの、プラスチックと紙の両方が使用されたものなど、複合体の形態のコアも使用することができる。これらの中でも、強度、耐久性、低発塵性などを考慮すると、金属および/またはプラスチック製のコアが好ましく、繰り返し使用しても摩耗等の影響を受けにくいことから金属製のコアがより好ましい。上記の金属としては、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウムなどが挙げられ、これらのうちの1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また、上記のプラスチックとしては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリウレア、シリコーン樹脂などが挙げられ、これらのうちの1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。また当該プラスチックは、強度などの観点から炭素繊維強化プラスチック等の繊維強化プラスチック(FRP)であってもよい。
[PVA系重合体フィルム(2)]
本発明のPVA系重合体フィルム(PVA系重合体フィルム(2))は、フィルムの両面のそれぞれにおいて二乗平均粗さを測定した際に、得られた2つの二乗平均粗さの差が0.3nm以上10nm以下であり、小さい方の二乗平均粗さが10nm以下である。PVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなる従来のフィルムロールではフィルム間のスリップ性不良などによりフィルムに皺が生じやすいが、本発明のPVA系重合体フィルム(2)によれば、当該皺の発生を低減することができる。なおフィルムロールの皺には、PVA系重合体フィルムを巻き取る際に生じるものと、一旦フィルムロールとした後これを倉庫等で保管しているときにPVA系重合体フィルムに残存していた応力による巻き絞まりが生じてこの際にフィルム間のスリップ性が不良であることにより生じるものとがあり、本発明のPVA系重合体フィルム(2)によれば、前者の皺の発生を効果的に低減することができるが、後者の皺の発生も低減することもできる。これに加えて本発明のPVA系重合体フィルム(2)によれば、上記した欠陥とは異なる染色斑が低減された偏光フィルムを容易に製造することができる。
本発明における二乗平均粗さとはJIS B0601:2001に記載された二乗平均平方根粗さ(Rq)を意味し、フィルムの表面から得られた粗さ曲線においてその平均線から粗さ曲線までの偏差の二乗を平均することにより求められる。PVA系重合体フィルムの両面のそれぞれにおける二乗平均粗さは、実施例において後述する方法により測定することができる。
本発明のPVA系重合体フィルム(2)では、フィルムの両面のそれぞれにおいて二乗平均粗さを測定した際に、得られた2つの二乗平均粗さの差が0.3nm以上10nm以下であることが必要である。両者の差が0.3nm以上であることによりフィルムロールにおける皺の発生を効果的に低減することができる。一方、両者の差が10nm以下であることにより偏光フィルムにおける染色斑を効果的に低減することができる。このような観点から、両者の差は0.5nm以上であることが好ましく、0.8nm以上であることがより好ましく、1.2nm以上であることがさらに好ましく、1.5nm以上であることが特に好ましく、2nm以上であることが最も好ましく、また7nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。
また本発明のPVA系重合体フィルム(2)では、小さい方の二乗平均粗さが10nm以下であることが必要である。小さい方の二乗平均粗さが10nm以下であることにより偏光フィルムにおける染色斑を効果的に低減することができる。このような観点から、小さい方の二乗平均粗さは8nm以下であることが好ましく、6nm以下であることがより好ましく、4nm以下であることがさらに好ましい。なお、二乗平均粗さを極度に低下させるためには特殊な加工を施す必要が生じてPVA系重合体フィルムの製造コストが上昇しやすいことから、小さい方の二乗平均粗さは0.3nm以上であることが好ましく、0.6nm以上であることがより好ましく、0.9nm以上であることがさらに好ましく、1.2nm以上であることが特に好ましい。
PVA系重合体フィルム(2)において、大きい方の二乗平均粗さは1nm以上20nm以下であるのが好ましい。大きい方の二乗平均粗さが1nm以上であることによりフィルムロールにおける皺の発生をより効果的に低減することができる。一方、大きい方の二乗平均粗さが20nm以下であることにより偏光フィルムにおける染色斑をより効果的に低減することができる。このような観点から、大きい方の二乗平均粗さは2nm以上であることがより好ましく、4nm以上であることがさらに好ましく、また15nm以下であることがより好ましく、11nm以下であることがさらに好ましく、8nm以下であることが特に好ましく、6nm以下であることが最も好ましい。
PVA系重合体フィルム(2)の形状に特に制限はないが、当該PVA系重合体フィルム(2)を偏光フィルム製造用の原反フィルムとして使用する場合などにおいて、偏光フィルムを生産性よく連続的に製造することができることなどから、長尺のPVA系重合体フィルムであることが好ましい。
当該長尺のPVA系重合体フィルムの長さは特に制限されず、PVA系重合体フィルム(2)の用途などに応じて適宜設定することができ、具体的には当該長さは1,000m以上であることが好ましく、4,000m以上であることがより好ましく、6,000m以上であることがさらに好ましく、7,000m以上であることが特に好ましく、8,000m以上であることが最も好ましい。このようなより長いPVA系重合体フィルムによれば、フィルムロールの切り替えに伴う煩雑さや時間ロスを低減することができる。長尺のPVA系重合体フィルムの長さの上限に特に制限はないが、あまりに長いとフィルムロールとした際に重量やロール径が過度に大きくなるなどしてハンドリング性が低下し保管や輸送が困難になる場合があることなどから、当該長さは30,000m以下であることが好ましく、25,000m以下であることがより好ましく、20,000m以下であることがさらに好ましい。なお、フィルムロールを保管しているときに発生する皺の原因の1つとしてはPVA系重合体フィルムに残存していた応力による巻き絞まりが挙げられるが、この巻き絞まりはより長くより幅の広いPVA系重合体フィルムにおいて強く現れやすいため、より長いPVA系重合体フィルムにおいて本発明の効果がより顕著に奏される。
長尺のPVA系重合体フィルムの幅に特に制限はなく、例えば0.5m以上とすることができるが、近年幅広の偏光フィルムが求められていることから、1m以上であることが好ましく、2m以上であることがより好ましく、4m以上であることがさらに好ましい。当該長尺のPVA系重合体フィルムの幅の上限に特に制限はないが、当該幅があまりに広すぎると、実用化されている装置で偏光フィルムを製造する場合などにおいて、均一に延伸することが困難になる傾向があることから、PVA系重合体フィルムの幅は7m以下であることが好ましい。なお、PVA系重合体フィルムの長さについて説明したのと同様、巻き絞まりはより長くより幅の広いPVA系重合体フィルムにおいて強く現れやすいため、より幅の広いPVA系重合体フィルムにおいて本発明の効果がより顕著に奏される。
PVA系重合体フィルム(2)の厚みは特に制限されず、PVA系重合体フィルムの用途などに応じて適宜設定することができ、具体的には当該厚みは300μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。また、近年ではより薄い偏光フィルムが要求されることもあり、このような観点などからは、PVA系重合体フィルム(2)の厚みは45μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることがさらに好ましい。PVA系重合体フィルム(2)の厚みの下限に特に制限はないが、偏光フィルムをより円滑に製造することができることなどから、当該厚みは3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。なお、フィルムロールにおける皺はPVA系重合体フィルムの厚みがより薄いほど発生し易いため、より薄いPVA系重合体フィルムにおいて本発明の効果がより顕著に奏される。
本発明のPVA系重合体フィルム(2)に関するその他の構成としては、本発明のPVA系重合体フィルム(1)の説明として上記した内容と同様のものとすることができるため、ここでは重複する説明を省略する。
PVA系重合体フィルム(2)の製造方法に特に制限はないが、後述する本発明のPVA系重合体フィルムの製造方法によれば、目的とするPVA系重合体フィルム(2)を簡便に製造することができるため好ましい。この場合、金属支持体の表面に接した側が大きい方の二乗平均粗さを有する面になりやすい。なお当該製造方法以外にも、表面粗さの異なる金属ロール間に製膜したPVA系重合体フィルムを通過させる方法や、PVA系重合体フィルムの製造に使用される製膜原液中の異物(劣化樹脂や外部からのコンタミネーションなど)をフィルターなどを利用して除去すると共に無機物の超微粒子を製膜原液に添加して平滑面上で製膜して両面の二乗平均粗さを調整する方法などが考えられる。
[フィルムロール(2)]
本発明のフィルムロール(フィルムロール(2))は、上記のPVA系重合体フィルム(2)であって長尺のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなり、例えば、円筒状のコアにPVA系重合体フィルム(2)であって長尺のPVA系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなる。円筒状のコアが使用される場合には、当該コアの両端部はフィルムロールの端面から突出する突出部を形成していることが好ましい。当該コアとしては、フィルムロール(1)の説明として上記したものを用いることができ、ここでは重複する説明を省略する。
本発明のフィルムロール(2)に関するその他の構成についても、本発明のフィルムロール(1)の説明として上記した内容と同様のものとすることができるため、ここでは重複する説明を省略する。
本発明のフィルムロール(2)では、従来のフィルムロールを保管しているときに生じやすい皺の発生を低減することができる。フィルムロールを保管する際の温度としては、あまりに高すぎるとPVA系重合体フィルムが変形して皺が発生しやすくなることから、40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。一方、フィルムロールを保管する際の温度の下限に特に制限はないが、当該温度は−10℃以上であることが好ましく、−5℃以上であることがより好ましく、0℃以上であることがさらに好ましい。
[PVA系重合体フィルムの製造方法]
PVA系重合体フィルムを製造するための本発明の製造方法は、表面にクロムメッキ層を有し、表面硬度がビッカース硬さで550HV以上900HV未満であり、表面温度が50℃以上115℃以下である金属支持体の表面上に、溶液状態または溶融状態のPVA系重合体を流延して乾燥させて製膜する工程を有する。そして、溶液状態または溶融状態のPVA系重合体を流延し始める直前において金属支持体の表面における面積(最大幅と最大端部間距離との積)が200μm以上のクラックの数が0.7個/mm以下である。当該製造方法によれば、上記した本発明のPVA系重合体フィルム(PVA系重合体フィルム(1)および(2))や、本発明のフィルムロール(フィルムロール(1)および(2))において連続的に巻き取られる長尺のPVA系重合体フィルムを簡便に製造することができる。
本発明において使用される金属支持体としてはドラムやベルトなどが挙げられ、その表面にはクロムメッキ層を有する。ここで金属支持体の表面とは溶液状態または溶融状態のPVA系重合体が流延される表面(製膜面)を意味し、金属支持体がドラムである場合にはドラムの外周面にクロムメッキ層を有していればよく、ベルトである場合にはベルトの連続面のうちの外側の面にクロムメッキ層を有していればよい。
クロムメッキ層の厚みに特に制限はないが、金属支持体表面の腐食をより効果的に防止でき、また後述するクラックの数を低減しやすいことなどから、10μm以上500μmの範囲内であるのが好ましい。なお、クロムメッキ層は一度に形成されたものであっても、複数回に分けて形成されたものであってもよく、例えば、クロムメッキ層を複数回に分けて形成する場合には、一旦クロムメッキ層を形成した後、その表面の凹凸を研磨等で除去し、その上にさらにクロムメッキ層を形成すればよい。このようにすればクロムメッキ層のピンホールを低減することができる。また、特許文献4などに記載されているように、クロムメッキ層の下にニッケルメッキ層を設けるとクロムメッキ層におけるクラックをより低減することができる。
表面にクロムメッキ層を有する上記金属支持体において、その表面硬度はビッカース硬さで550HV以上900HV未満であることが必要である。一般的なクロムメッキ層を有する金属支持体は公知であるが(例えば、特許文献4〜7などを参照)、本発明のような特定の表面硬度を有する金属支持体を用いると、理由は不明であるが、バフ研磨などのような製膜開始前に金属支持体の表面に施される一般的な処理によって、金属支持体の表面に存在するクラックの数を容易に低減できて、得られるPVA系重合体フィルムにおける上記欠点Aの数を従来よりも低減することができ、しかも、PVA系重合体フィルムを長時間にわたり連続して製膜しても上記欠点Aの数の変動を従来よりも低いレベルに保つことができる。また、フィルムの両面の二乗平均粗さを所望の範囲に調整することができる。上記表面硬度がビッカース硬さで900HV以上であると、金属支持体の表面に存在するクラックの数を低減することが困難になり、また、PVA系重合体フィルムを長時間にわたり連続して製膜した場合に上記欠点Aの数の変動が大きくなる。加えて、フィルムの両面の二乗平均粗さが所望の範囲から外れやすい。上記のような観点から、上記表面硬度はビッカース硬さで、800HV未満であることが好ましく、780HV未満であることがより好ましい。一方、上記表面硬度がビッカース硬さで550HV未満であると、連続製膜時や金属支持体の表面の清掃時に傷が入るなどの問題を生じやすく、PVA系重合体フィルムを長時間にわたり連続して製膜した場合に上記欠点Aの数の変動も大きくなる。加えて、フィルムの両面の二乗平均粗さが所望の範囲から外れやすい。このような観点から、上記表面硬度はビッカース硬さで600HV以上であることが好ましく、650HV以上であることがより好ましく、700HV以上であることがさらに好ましい。
金属支持体の表面硬度は、硬さ計などを使用して、複数箇所でクロムメッキ層表面のビッカース硬度を測定し、それらを平均することにより求めることができる。なお、当該表面硬度(ビッカース硬度)の測定は、溶液状態または溶融状態のPVA系重合体が流延される表面(製膜面)で行ってもよいが、測定時に生じた傷が得られるPVA系重合体フィルムの品質を低下させる可能性があることから、ドラムやベルトの端部におけるクロムメッキ層が形成された部分など、溶液状態または溶融状態のPVA系重合体が流延される表面(製膜面)近傍や、あるいは、溶液状態または溶融状態のPVA系重合体が流延される表面(製膜面)であっても、製膜後に耳部カットなどにより除去されるフィルム部分に対応する表面で表面硬度の測定を行い、その値を本発明において規定される表面硬度とすればよい。金属支持体の表面硬度は、具体的には、実施例において後述する方法により求めることができる。
表面にクロムメッキ層を有する金属支持体の表面硬度の調整自体は公知の方法によって容易に行うことができ、具体的には、クロムメッキ処理する際に使用されるクロムメッキ浴の温度を特定の範囲内に調整する方法;クロムメッキ処理する際の電流密度を特定の範囲内に調整する方法;クロムメッキ浴の組成を調整する方法;クロムメッキ処理後に熱処理(アニーリング)や水素ガス暴露等によってクロムメッキ層中に吸蔵される水素濃度を調整する方法などによって行うことができる。これらの中でも、操作が簡便であることなどから、クロムメッキ浴の温度を特定の範囲内に調整する方法;クロムメッキ処理する際の電流密度を特定の範囲内に調整する方法;クロムメッキ処理後にクロムメッキ層中に吸蔵される水素濃度を調整する方法が好ましく、クロムメッキ浴の温度を特定の範囲内に調整する方法がより好ましい。上記の方法に関し、一般的なクロムメッキ浴であるクロム酸−硫酸水溶液を用いて、クロムメッキ浴の温度が40℃以上70℃以下の範囲内、および、電流密度が60A/dm以下の範囲内でクロムメッキ処理を行う場合を例にとってみると、クロムメッキ浴の温度が高いほど、および、電流密度が低いほど、表面硬度は概ね低くなる傾向がある。また、クロムメッキ層中に吸蔵される水素濃度に関しては、熱処理の温度を高くしたり処理時間を長くしてその濃度を低下させるほど、表面硬度は概ね低くなる傾向がある。
上記のクロムメッキ層の形成方法は、表面硬度が上記の範囲を満たす金属支持体とすることができる方法である限り特に制限はなく、公知の方法を採用することができるが、代表的な方法としては、まず金属支持体の表面をバフ研磨やグラインダ研磨などの方法で研磨して表面の凹凸を極力除去した後、浸漬脱脂、電解脱脂、塩酸水溶液浸漬などの下地処理を行い、その後、クロムメッキ浴を用いてクロムメッキ処理し、さらに熱処理する方法が例示される。クロムメッキ浴としてはサージエント浴が代表的でありこれを好ましく使用することができる。サージェント浴の組成とクロムメッキ処理の条件の例を以下に示す。
<サージエント浴の組成>
無水クロム酸:100〜300g/L(使用薬品基準の濃度)
硫酸:使用される無水クロム酸の1/50〜1/150(質量割合)
<クロムメッキ処理の条件>
電流密度 10〜60A/dm
クロムメッキ浴の温度は、上述のように得られる金属支持体の表面硬度に大きく影響を与える。クロムメッキ浴の具体的な温度としては、クロムメッキ処理において採用されるその他の条件やクロムメッキ処理後の熱処理の条件などにもよるが、、50℃以上であることが好ましく、53℃以上であることがより好ましく、54℃以上であることがさらに好ましい。クロムメッキ浴の温度が低すぎると得られる金属支持体の表面硬度が過度に高くなりやすい。一方、クロムメッキ浴の温度は66℃以下であることが好ましく、63℃以下であることがより好ましく、61℃以下であることがさらに好ましく、58℃以下であることが特に好ましい。クロムメッキ浴の温度が高すぎると得られる金属支持体の表面硬度が過度に低くなりやすい。
クロムメッキ処理後に熱処理(アニーリング)を行うのが好ましい。高温で熱処理を行う場合にはそれに要する時間を短縮できるが温度が高すぎるとクロムメッキ層にクラックが生じやすくなるため、熱処理の温度は130℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。逆に低温で熱処理を行う場合にはクラック発生のリスクは下がるが熱処理に要する時間が長くなるため、熱処理の温度は70℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。熱処理の時間はクロムメッキ処理の条件や熱処理の温度などにもよるが、24〜120時間の範囲内で設定することができる。
溶液状態または溶融状態のPVA系重合体としては、PVA系重合体が液体媒体に溶解してなる製膜原液や、PVA系重合体と液体媒体とを含みPVA系重合体が溶融した製膜原液等のような、PVA系重合体と液体媒体を含む製膜原液の形態のものが挙げられる。当該製膜原液は、必要に応じて、上記したような可塑剤、界面活性剤、他の成分をさらに含んでいてもよい。
製膜原液における上記液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷が小さいことや回収性の点から水が好ましい。すなわち、溶液状態または溶融状態のPVA系重合体の好ましい例としては、PVA系重合体と水を含む製膜原液の形態のものが挙げられる。
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の製膜原液中における含有割合)は製膜方法、製膜条件等によっても異なるが、50〜90質量%の範囲内であることが好ましく、55〜80質量%の範囲内であることがより好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなりすぎず、製膜原液調製時の濾過や脱泡が円滑に行われ、異物や欠点の少ないPVA系重合体フィルムの製造が容易になる。一方、製膜原液の揮発分率が90質量%以下であることにより、製膜原液の濃度が低くなり過ぎず、工業的なPVA系重合体フィルムの製造が容易になる。
上記の製膜原液の調製方法に特に制限はなく、例えば、水等の液体媒体にPVA系重合体を溶解させ、その際に必要に応じて可塑剤、界面活性剤、他の成分のうちの少なくとも1種を添加する方法や、水等の液体媒体を含んでいる状態のPVA系重合体を押出機を使用して溶融混練し、その際に必要に応じて可塑剤、界面活性剤、他の成分のうちの少なくとも1種を共に溶融混練する方法などが挙げられる。
PVA系重合体フィルムを製造するための本発明の製造方法では、表面温度が50℃以上115℃以下である上記の金属支持体の表面上に、上記した溶液状態または溶融状態のPVA系重合体を流延して乾燥させて製膜する工程を有する。金属支持体の表面温度が115℃を超えると、得られるPVA系重合体フィルムにおいて欠点Aの数が多くなる。また、フィルムの両面の二乗平均粗さが所望の範囲から外れやすい。この観点より、金属支持体の表面温度は105℃以下であることが好ましく、102℃以下であることがより好ましく、99℃以下であることがさらに好ましく、96℃以下であることが特に好ましく、95℃以下であることが最も好ましい。一方、金属支持体の表面温度が50℃未満であると、金属支持体からのフィルムの剥離が困難になる、あるいはフィルムの透明性が損なわれるなどの問題を生じやすくなる。このような観点から、金属支持体の表面温度は60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。なお金属支持体の表面温度としては、金属支持体の表面上の任意の複数箇所(例えば10箇所以上)の表面温度の平均値(平均温度)を採用すればよい。
製膜開始前において金属支持体の表面温度を上記範囲内にする方法に特に制限はなく、例えば金属支持体としてドラムを使用する場合には、ドラムの内側に水、油、水蒸気等の熱媒を通したり、ドラムの内側に設置された誘電加熱ヒーターで加熱したり、ドラムの表面に対向するように設置された赤外線ヒーターや熱風加熱装置により加熱したりする方法などを採用することができる。
製膜開始前において金属支持体の表面温度を上記範囲内にする際の変温速度に関し、例えば特許文献5に記載されているように3℃/時間以下とすることができるが、表面にクロムメッキ層を有し、上記した表面硬度を有する金属支持体を用いる本発明の製造方法においては、理由は不明であるが、上記変温速度を比較的高くしても金属支持体の表面に存在するクラックの数の上昇を抑制でき、温度調整時間を削減して生産性を向上させた場合であっても得られるPVA系重合体フィルムにおける上記欠点Aの数を低いレベルに制御することができることを見出した。このような観点から、製膜開始前において金属支持体の表面温度を上記範囲内にする際の変温速度は、0.5℃/時間以上であることが好ましく、1℃/時間以上であることがより好ましく、3.5℃/時間以上、4℃/時間以上、4.5℃/時間以上、さらには5℃/時間以上としてもよい。また上記変温速度はクラックの数を低減する観点から10℃/時間以下であることが好ましく、7℃/時間以下であることがより好ましい。
また、製膜開始前において金属支持体の表面温度を上記範囲内にする際には、金属支持体の幅方向の温度差を小さくすることがクラックを低減する観点から好ましく、具体的には金属支持体の表面温度を幅方向に連続的に測定し、得られた温度分布データについて、幅方向の位置を横軸とし温度を縦軸とするグラフにした際に、その傾きの絶対値の最大値が10℃/m以下であることが好ましく、5℃/m以下であることがより好ましく、4℃/m以下であることがさらに好ましく、3℃/m以下であることが特に好ましい。
また、PVA系重合体フィルムを製造するための本発明の製造方法では、溶液状態または溶融状態のPVA系重合体を流延し始める直前において、金属支持体の表面における面積が200μm以上のクラックの数が0.7個/mm以下である。ここでクラックの面積とはクラックの最大幅と最大端部間距離との積を意味する。通常、製膜開始前の金属支持体の表面にはクロムメッキ層のひび割れなどのクラックが存在する。そして製膜中にこのようなクラックに樹脂堆積物と思われる異物が徐々に付着して凸形状をなし、これがフィルムに転写されてフィルムに欠点Aが形成されると考えられる。特にPVA系重合体は他の重合体と比較して親水性が高く金属と良好な親和性を有するため、金属支持体の表面に存在するクラックに入り込み樹脂堆積物として付着し易いと考えられ、乾燥されたフィルムを金属支持体から剥離する際などにおいて凸形状を形成・成長させ易いと考えられる。このような理由から欠点Aの数を低減するためには金属支持体の表面に存在するクラックの数を可能な限り低減するのが好ましいが、上記のとおり、表面にクロムメッキ層を有し、上記した表面硬度を有する金属支持体を用いると、理由は不明であるが、バフ研磨などのような製膜開始前に金属支持体の表面に施される一般的な処理によって、金属支持体の表面に存在するクラックの数を容易に低減できて、得られるPVA系重合体フィルムにおける上記欠点Aの数を従来よりも低減することができ、しかも、PVA系重合体フィルムを長時間にわたり連続して製膜しても上記欠点Aの数の変動を従来よりも低いレベルに保つことができる。金属支持体の表面における当該クラックの数が0.7個/mmを超えると、得られるPVA系重合体フィルムにおいて欠点Aの数が多くなる。得られるPVA系重合体フィルムにおける欠点Aの数を低減する観点などから、溶液状態または溶融状態のPVA系重合体を流延し始める直前において、金属支持体の表面における上記クラックの数は0.3個/mm以下であることが好ましく、0.15個/mm以下であることがより好ましい。一方、金属支持体の表面における上記クラックの数を極度に低減するのは煩雑であり効果も頭打ちになる傾向があることから、当該数は0.005個/mm以上、さらには0.01個/mm以上であることが好ましい。
金属支持体の表面における面積が200μm以上のクラックの数は、金属支持体の表面上で任意の25箇所を定め、それぞれにおいて、顕微鏡を用いて2mm×2mm(4mm)の範囲にある「面積が200μm以上のクラック」を特定し、当該4mmの範囲×25箇所における「面積が200μm以上のクラック」の数を求め、これから1mmあたりの数を算出することにより求めることができる。ここでクラックの面積とは各クラックにおける最大幅と最大端部間距離との積を意味し、当該最大端部間距離とはクラックの端部が2つのみの場合にはそれらの端部間距離(直線距離)を意味し、複数ある場合には複数の端部間距離のうちの最大の距離を意味する。金属支持体の表面における面積が200μm以上のクラックの数は、具体的には、実施例において後述する方法により求めることができる。
金属支持体の幅は目的とするPVA系重合体フィルムの幅に応じて適宜設定することができる。金属支持体の具体的な幅としては、目的とするPVA系重合体フィルムの幅にもよるが、例えば0.5m以上であり、また幅広の偏光フィルムを製造することのできる幅広のPVA系重合体フィルムを効率的に製造する観点から、4.5m以上であることが好ましく、5.0m以上であることがより好ましく、5.5m以上であることがさらに好ましい。また、金属支持体のコストやメンテナンスのし易さなどを考慮すると、当該金属支持体の幅は、7.5m以下であることが好ましく、7.0m以下であることが好ましく、6.5m以下であることがより好ましい。
金属支持体の表面上に溶液状態または溶融状態のPVA系重合体を流延する方法に特に制限はなく、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイなどを用い、公知の方法に従って行うことができる。なお溶融状態または溶液状態のPVA系重合体の温度は50℃以上105℃以下の範囲内であることが好ましい。
流延後の乾燥は公知の方法によって行うことができ、金属支持体から与えられる熱によって乾燥したり、熱風を当てたりすることによって行うことができる。また、上記金属支持体の表面上での乾燥のみによって所望とするPVA系重合体フィルムを製造してもよいが、公知の方法などにより、上記金属支持体の表面上で部分乾燥した後、当該金属支持体の下流側に配置された、当該金属支持体と回転軸が互いに平行な1個または2個以上の乾燥ロールや、あるいは熱風乾燥機によりさらに乾燥して所望とするPVA系重合体フィルムを製造することもできる。
このようにして得られたPVA系重合体フィルムには、必要に応じて、熱処理を施したり、幅方向両端部(耳部)をカットしたりすることができる。また、上記のように連続的に巻き取ってフィルムロールとしてもよい。
[用途]
本発明のPVA系重合体フィルム(PVA系重合体フィルム(1)および(2))や、本発明のフィルムロール(フィルムロール(1)および(2))から巻き出されたPVA系重合体フィルムは、欠点Aの数が少ない;品質が安定している;皺が発生しにくい;などの利点を活かして各種用途に使用することができるが、本発明の効果がより顕著に奏されることから、偏光フィルムや位相差フィルムなどの光学フィルム製造用の原反フィルムとして使用するのが好ましく、偏光フィルム製造用の原反フィルムとして使用するのがより好ましい。
上記のPVA系重合体フィルムを原反フィルムとして用いて偏光フィルムを製造する方法に特に制限はなく公知の方法を採用することができ、例えば、上記のPVA系重合体フィルムを用いて、染色、一軸延伸、固定処理、乾燥、さらに必要に応じて洗浄や熱処理を行えばよい。ここで、染色、一軸延伸、固定処理などの各処理の順序は特に制限されず、1つまたは2つ以上の処理を同時に行うこともできる。また、各処理の1つまたは2つ以上を2回またはそれ以上行うこともでき、例えば、一軸延伸を2回またはそれ以上の回数行ってもよい。染色、一軸延伸、固定処理などの各工程を行う前には必要に応じて膨潤処理を行ってもよい。
染色は、一軸延伸前、一軸延伸時、一軸延伸後のいずれの段階で行ってもよい。染色に用いる染料としては、ヨウ素−ヨウ化カリウム;ダイレクトブラック17、19、154;ダイレクトブラウン44、106、195、210、223;ダイレクトレッド2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;ダイレクトブルー1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;ダイレクトバイオレット9、12、51、98;ダイレクトグリーン1、85;ダイレクトイエロー8、12、44、86、87;ダイレクトオレンジ26、39、106、107等の二色性染料などのうちの1種または2種以上を用いることができる。染色は、PVA系重合体フィルムを上記染料を含有する溶液(染色浴)中に浸漬させることにより行うことができる。なお、PVA系重合体フィルムを製膜する際に上記の染料を予め含有させてもよい。
一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法のいずれで行ってもよく、温水中(上記した染色浴や後述する固定処理浴を含む)で行うこともできるし、吸水後のPVA系重合体フィルムを用いて空気中で行うこともできる。
一軸延伸する際の温度は特に制限されないが、PVA系重合体フィルムを温水中で一軸延伸(湿式延伸)する場合には30℃以上90℃以下の範囲内であることが好ましく、また乾熱延伸する場合には50℃以上180℃以下の範囲内であることが好ましい。
一軸延伸の延伸倍率(多段で一軸延伸する場合には合計の延伸倍率)は、偏光性能の点から4倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましい。延伸倍率の上限に特に制限はないが、8倍以下であると一軸延伸を安定して行い易いため好ましい。一軸延伸後のフィルムの厚みは、用いるPVA系重合体フィルムの厚みにもよるが、3μm以上75μm以下の範囲内であることが好ましく、5μm以上50μm以下の範囲内であることがより好ましい。
PVA系重合体フィルムへの上記染料の吸着を強固にすることを目的に、固定処理を行うことが多い。固定処理に使用する固定処理浴としては、ホウ酸、硼砂等のホウ素化合物の1種または2種以上を含む水溶液を用いることができる。固定処理浴には、必要に応じてヨウ素化合物を添加してもよい。
染色、一軸延伸、固定処理などの各処理を行った後、乾燥の前に、フィルム表面に付着した各処理の処理浴液や異物などを除去するために、洗浄を行うことが好ましい。洗浄に使用される洗浄液には純水を使用してもよいし、洗浄による染料やホウ素化合物の流出を抑制するために、これらの薬剤を少量添加した水を使用してもよい。洗浄液は、シャワー等で各処理を経たフィルムの表面に噴霧することにより行ってもよいし、各処理を経たフィルムを洗浄浴中に浸漬させることにより行ってもよい。
乾燥や熱処理は、30℃以上150℃以下の範囲内で行うのが好ましく、50℃以上150℃以下の範囲内で行うのがより好ましい。
PVA系重合体フィルム(2)や、フィルムロール(2)から巻き出されたPVA系重合体フィルムを偏光フィルム製造用の原反フィルムとして用いて、染色工程、一軸延伸工程、固定処理工程および乾燥工程の各工程を経て偏光フィルムを製造する場合において、乾燥工程に入る前の最後の処理浴(例えば、固定処理浴や洗浄浴など)を出るときに、処理浴の液面とフィルム面とのなす角度(鋭角側の角度)を30°以上85°以下にすると共に、フィルムの上方側の面が原反フィルムとして使用したPVA系重合体フィルムにおいて小さい方の二乗平均粗さを有していた面となるようにすると、異物の少ない偏光フィルムを容易に得ることができるため好ましい。
上記の効果が奏される理由は必ずしも明らかではないが、上記のようにして偏光フィルムを製造することにより、各処理浴で析出したPVA系重合体や各処理で使用した処理液の付着が低減されるためと考えられる。乾燥工程に入る前の最後の処理浴を出るときの処理浴の液面とフィルム面とのなす角度は、大きすぎても小さすぎても析出したPVA系重合体や処理液が付着・残存しやすくなることから、当該角度は35°以上であることが好ましく、40°以上であることがより好ましく、50°以上であることがさらに好ましく、また80°以下であることが好ましく、75°以下であることがより好ましく、70°以下であることがさらに好ましい。
以上のようにして得られた偏光フィルムは、通常、その両面または片面に、光学的に透明で、かつ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にして使用される。保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、貼り合わせのための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などを挙げることができるが、中でもPVA系接着剤が好適である。
以下に、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、以下の調製例、実施例、参考例および比較例において採用された各測定または評価方法を以下に示す。
[製膜用ドラムの表面硬度の測定]
製膜用ドラムの表面(周面)において、両端からそれぞれ5mm内側に入りこんだ線上で、製膜用ドラムの全周長さを4等分するように各端部4点ずつ合計8点を定めた。そして各点において、UCI式硬さ計 MIC10(GEセンシング&インスペクション・テクノロジーズ株式会社製;プローブはMIC−2101−Aを使用)にてクロムメッキ層表面のビッカース硬度を測定し、それらの平均値を製膜用ドラムの表面硬度とした。
[製膜用ドラムの表面における面積が200μm以上のクラックの数の測定]
製膜用ドラムの表面(周面)上で任意の25箇所を定め、それぞれにおいて、デジタルビデオマイクロスコープ VHX−900(キーエンス社製)を用いて1000倍の倍率で2mm×2mm(4mm)の範囲内にあるクラック(クロムメッキ層上のひび割れ)の写真を撮影した。そして写真上に見られる各クラックの最大幅と最大端部間距離(端部が2つのみの場合にはそれらの端部間距離を意味し、複数ある場合には複数の端部間距離のうちの最大の距離を意味する)をμm単位で求めてこれらの積を算出し、その積が200μm以上となるクラックを「面積が200μm以上のクラック」とした。このようにして上記4mmの範囲×25箇所において「面積が200μm以上のクラック」の数を求めて、これから1mmあたりの数を算出した。
[製膜用ドラムの表面温度の測定]
製膜用ドラムの表面(周面)上の任意の1点を通過する幅方向の1直線と、この1直線に平行でこの1直線と共に周面を4等分するようなその他の3直線(すなわち製膜用ドラムが1/4周する毎に同一直線上に位置する直線)を定め、これらの4直線上における温度分布を、サーモトレーサ TH9100MR(NEC Avio赤外線テクノロジー株式会社製)を用いて測定した。次いで、得られた温度分布データから、各直線につき幅方向中央部と両端部から中央部に向けて20cmの位置の各3点(合計12点)の温度を得て、これら12点の温度を平均した値をそのときの製膜用ドラムの表面温度とした。また、得られた各直線毎の温度分布データを、幅方向の位置を横軸とし温度を縦軸とする4本のグラフにし、その傾きの絶対値の最大値を求め、これをそのときの製膜用ドラムの最大温度勾配とした。
[PVAフィルムの欠点の数の測定]
フィルムロールよりPVAフィルムを巻き出しながらフィルムを通してその後ろに置かれた蛍光灯を見たときの蛍光灯の像のゆがみからフィルムの欠点を見つけ、その回りを油性マジックペンで丸く囲った。次に、見つけた欠点を非接触表面形状測定機「NewView」6300(ザイゴ社製)を用いて観察し、フィルム表面から窪んだ欠点であって面積(開口部面積)が400μm以上で深さが0.3μm以上の欠点(欠点A)であるか否かを判定した。上記の操作を、製造されたフィルムロールにおける巻き取り終了部分(なお誤差を低減するためフィルムの長さ方向の端部より10mまでの部分は除外した)から始め、欠点Aの数が10個になったときまでのPVAフィルムの面積(操作を始めてから10個目の欠点Aまでの長さ×フィルムの幅;単位はm)を求め、その面積で10(個)を除すことにより、巻き取り終了部分における欠点Aの数(単位は個/m)を算出した。また10個の欠点Aのうち、フィルムの幅方向に実質的に同一の位置にあり且つフィルムの長さ方向の間隔が使用された製膜用ドラムの全周長さの整数倍に実質的に一致する関係にある2個以上の欠点(以下、「回転周期欠点」と称することがある。なおこのような欠点は、測定に供された部分以外の部分も含めて、フィルムの長さ方向に実質的に一定(製膜用ドラムの全周長さの整数倍)の間隔で3個以上配列していると考えることができる。)の数を求め、これを上記面積(単位はm)で除すことにより、巻き取り終了部分における回転周期欠点の数(単位は個/m)を算出した。
続いて、残りのフィルムロールを用いて後述するように偏光フィルム(巻き取り終了部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルム)を製造後、大部分のPVAフィルムが未使用の状態にある残りのフィルムロールからPVAフィルムを巻き出して新たにフィルムロールに巻き直すことにより、当初のフィルムロールの巻き取り開始部分が新たなフィルムロールの外側に位置するようにした。この新たなフィルムロールを用いて上記と同様の操作を行い、当初のフィルムロールの巻き取り開始部分における欠点Aおよび回転周期欠点の数(いずれも単位は個/m)を求め、残りのフィルムロールを用いて後述するように偏光フィルム(巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルム)を製造した。
[フィルムロールの皺の評価]
フィルムロールを目視で観察し、以下の基準で皺を評価した。
Aランク:皺が認められない
Bランク:皺が僅かに存在するが、実用上問題ないレベル
Cランク:実用上問題となるレベルの皺がある
[PVAフィルムの二乗平均粗さの測定]
PVAフィルムの一方の面の任意の10箇所の二乗平均粗さを白色干渉顕微鏡 NV6300(ザイゴ社製)を用いて測定し、それらの平均値をその面の二乗平均粗さとした。次いで、PVAフィルムの他方の面についても同様にして二乗平均粗さを得た。
[偏光フィルムの評価(20枚試験)]
上記のフィルムロールから巻き出されたPVAフィルムを予備膨潤・染色・一軸延伸・固定処理・乾燥・熱処理の順番で連続的に処理して偏光フィルムを作製した。
すなわち、PVAフィルムを30℃の水中に30秒間浸漬して予備膨潤し、次いでヨウ素濃度0.4g/Lおよびヨウ化カリウム濃度40g/Lの35℃の水溶液(染色浴)中に3分間浸漬して染色した。続いて、ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液(延伸浴)中で長さ方向に延伸倍率5倍で一軸延伸を行い、さらにヨウ化カリウム濃度40g/L、ホウ酸濃度40g/Lおよび塩化亜鉛濃度10g/Lの30℃の水溶液(固定処理浴)中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後、フィルムを40℃で熱風乾燥し、さらに100℃で5分間熱処理を行った。
得られた偏光フィルムの任意の位置から、長さ方向に50cm、幅方向に25cmの試験片を20枚採取した。一方、欠陥の少ない50cm×50cmの偏光板を準備して、この偏光板上に上記の各試験片を配向軸が垂直になるように重ね、それをレントゲン写真観察用のシャウカッセンの上に置いて、それぞれの試験片における欠陥を確認した。なお、試験片に欠陥がない場合、重ねた偏光板/試験片は真っ黒に見えるが、試験片に欠陥がある場合、その部分から光が漏れて点状の明るい欠陥として認識することができる。この明るい欠陥が2個以上観察された試験片は不合格として、20枚の試験片中の合格率を算出した。
[偏光フィルムの評価(100枚試験)]
試験片の数を20枚から100枚に変更するとともに、明るい欠陥が1個以上観察された試験片を不合格としたこと以外は上記の20枚試験と同様にして、100枚の試験片中の合格率を算出した。
[偏光フィルムの染色斑および異物の評価]
得られた偏光フィルムの任意の位置から、長さ方向に50cm、幅方向に25cmの試験片を採取した。一方、染色斑や異物の少ない50cm×50cmの偏光板を準備して、この偏光板上に上記の試験片を配向軸が垂直になるように重ね、それをレントゲン写真観察用のシャウカッセンの上に置いて、試験片における染色斑および異物を以下の基準で評価した。
・染色斑
Aランク:染色斑が認められない
Bランク:染色斑が僅かに存在するが、実用上問題ないレベル
Cランク:実用上問題となるレベルの染色斑がある
・異物
Aランク:異物が認められない
Bランク:異物が僅かに存在するが、実用上問題ないレベル
Cランク:実用上問題となるレベルの異物がある
[調製例1]
《ドラム1の調製》
幅1.0mの炭素鋼製の製膜用ドラムのドラム表面(周面)をバフ研磨して脱脂処理などの下地処理を行った後、当該ドラム表面にクロムメッキ浴を用いて以下の条件でクロムメッキ処理を実施した。なお、使用薬品基準の濃度で無水クロム酸200g/Lおよび硫酸2g/Lとなるようにこれらの薬品を蒸留水に溶解したものをクロムメッキ浴とした。
・クロムメッキ浴温度:55℃
・電流密度:20A/dm
・クロムメッキ層厚み(研磨後):50μm
そして、クロムメッキ処理の終了後、当該製膜用ドラムを102℃で50時間熱処理し、放冷した。
上記のクロムメッキ処理と熱処理により表面(周面)にクロムメッキ層が形成された製膜用ドラムについて、その表面硬度を上記した方法に従って測定したところ760HVであった。以下、この製膜用ドラムを「ドラム1」と称する。
[調製例2]
《ドラム2の調製》
クロムメッキ浴温度を52℃に変更したこと以外は調製例1と同様にしてクロムメッキ処理と熱処理を行い、表面(周面)にクロムメッキ層が形成された製膜用ドラムを調製した。この製膜用ドラムについて、その表面硬度を上記した方法に従って測定したところ840HVであった。以下、この製膜用ドラムを「ドラム2」と称する。
[調製例3]
《ドラム3の調製》
クロムメッキ浴温度を48℃に変更したこと以外は調製例1と同様にしてクロムメッキ処理と熱処理を行い、表面(周面)にクロムメッキ層が形成された製膜用ドラムを調製した。この製膜用ドラムについて、その表面硬度を上記した方法に従って測定したところ950HVであった。以下、この製膜用ドラムを「ドラム3」と称する。
[調製例4]
《ドラム4の調製》
クロムメッキ浴温度を67℃に変更したこと以外は調製例1と同様にしてクロムメッキ処理と熱処理を行い、表面(周面)にクロムメッキ層が形成された製膜用ドラムを調製した。この製膜用ドラムについて、その表面硬度を上記した方法に従って測定したところ525HVであった。以下、この製膜用ドラムを「ドラム4」と称する。
[実施例1]
ドラム1をキャスト製膜設備に取り付け、温水循環装置と接続した。次いで、ドラム1の周面をバフ研磨した。バフ研磨後のドラム1の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.10個/mmであった。その後、ドラム1の表面温度を温水循環装置により1℃/時間の変温速度で上昇させ、表面温度90℃で維持した。この際の最大温度勾配は最大で3.8℃/mであった。
一方、けん化度99.9モル%、重合度2,400のPVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物)のチップ100質量部を35℃の蒸留水2,500質量部に24時間浸漬した後、遠心脱水を行い、PVA含水チップを得た。PVA含水チップ中の揮発分率は70質量%であった。そのPVA含水チップ333質量部(乾燥状態PVA換算で100質量部)に対して、グリセリン12質量部および界面活性剤(ラウリン酸ジエタノールアミド95質量%含有)0.3質量部を添加した後、よく混合して混合物とし、これを最高温度130℃のベント付き二軸押出機で加熱溶融した。得られた溶融状態のPVAを熱交換機で100℃に冷却した後、900mm幅のコートハンガーダイから表面温度を90℃にした前記ドラム1上に押出製膜して、さらに熱風乾燥炉内を通して乾燥して、幅方向両端部(耳部)をカットすることにより幅0.7mの長尺のPVAフィルムを連続的に製造した。なお、製膜速度は8m/分とした。製膜が安定した後のPVAフィルム(厚み60μm、長さ8,000m)は直径6インチのアルミニウム製の円筒状のコアに連続的に巻き取ってフィルムロールとした。
得られたフィルムロールを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの欠点の数の測定と偏光フィルムの評価(20枚試験)を行ったところ、巻き取り開始部分における欠点Aの数は0.102個/m(うち、回転周期欠点は0.031個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は100%、巻き取り終了部分における欠点Aの数は0.098個/m(うち、回転周期欠点は0.029個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は100%であった。巻き取り開始部分における欠点Aの数に対する巻き取り終了部分における欠点Aの数は0.96倍と計算された。
[実施例2]
PVAフィルムの長さを8,000mから3,000mに変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム1の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.11個/mmであった。
得られたフィルムロールを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの欠点の数の測定と偏光フィルムの評価(20枚試験)を行ったところ、巻き取り開始部分における欠点Aの数は0.110個/m(うち、回転周期欠点は0.044個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は100%、巻き取り終了部分における欠点Aの数は0.121個/m(うち、回転周期欠点は0.036個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は100%であった。巻き取り開始部分における欠点Aの数に対する巻き取り終了部分における欠点Aの数は1.10倍と計算された。
[参考例1]
PVAフィルムの長さを8,000mから15,000mに変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム1の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.10個/mmであった。
得られたフィルムロールを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの欠点の数の測定を行ったところ、巻き取り開始部分における欠点Aの数は0.108個/m(うち、回転周期欠点は0.032個/m)、巻き取り終了部分における欠点Aの数は0.160個/m(うち、回転周期欠点は0.096個/m)であった。巻き取り開始部分における欠点Aの数に対する巻き取り終了部分における欠点Aの数は1.48倍と計算された。
[実施例3]
PVAの重合度を2,400から3,300に変更するとともに、PVAフィルムの長さを8,000mから15,000mに変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム1の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.10個/mmであった。
得られたフィルムロールを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの欠点の数の測定と偏光フィルムの評価(100枚試験)を行ったところ、巻き取り開始部分における欠点Aの数は0.088個/m(うち、回転周期欠点は0.018個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの100枚試験における合格率は98%、巻き取り終了部分における欠点Aの数は0.118個/m(うち、回転周期欠点は0.024個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの100枚試験における合格率は95%であった。巻き取り開始部分における欠点Aの数に対する巻き取り終了部分における欠点Aの数は1.34倍と計算された。
[実施例4]
PVAの重合度を2,400から6,000に変更するとともに、PVAフィルムの長さを8,000mから15,000mに変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム1の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.13個/mmであった。
得られたフィルムロールを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの欠点の数の測定と偏光フィルムの評価(100枚試験)を行ったところ、巻き取り開始部分における欠点Aの数は0.067個/m(うち、回転周期欠点は0.007個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの100枚試験における合格率は99%、巻き取り終了部分における欠点Aの数は0.074個/m(うち、回転周期欠点は0.007個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの100枚試験における合格率は99%であった。巻き取り開始部分における欠点Aの数に対する巻き取り終了部分における欠点Aの数は1.10倍と計算された。
[実施例5]
ドラム1に代えてドラム2を用いるとともに、PVAフィルムの長さを8,000mから3,000mに変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム2の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.39個/mmであった。
得られたフィルムロールを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの欠点の数の測定と偏光フィルムの評価(20枚試験)を行ったところ、巻き取り開始部分における欠点Aの数は0.172個/m(うち、回転周期欠点は0.052個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は90%、巻き取り終了部分における欠点Aの数は0.224個/m(うち、回転周期欠点は0.134個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は85%であった。巻き取り開始部分における欠点Aの数に対する巻き取り終了部分における欠点Aの数は1.30倍と計算された。
[実施例6]
ドラム1の表面温度を90℃から110℃に変更するとともに、PVAフィルムの長さを8,000mから3,000mに変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム1の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.13個/mmであった。
得られたフィルムロールを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの欠点の数の測定と偏光フィルムの評価(20枚試験)を行ったところ、巻き取り開始部分における欠点Aの数は0.132個/m(うち、回転周期欠点は0.053個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は95%、巻き取り終了部分における欠点Aの数は0.180個/m(うち、回転周期欠点は0.090個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は90%であった。巻き取り開始部分における欠点Aの数に対する巻き取り終了部分における欠点Aの数は1.36倍と計算された。
[実施例7]
変温速度を1℃/時間から5℃/時間に変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム1の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.10個/mmであった。
得られたフィルムロールを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの欠点の数の測定を行ったところ、巻き取り開始部分における欠点Aの数は0.110個/m(うち、回転周期欠点は0.044個/m)、巻き取り終了部分における欠点Aの数は0.122個/m(うち、回転周期欠点は0.049個/m)であった。巻き取り開始部分における欠点Aの数に対する巻き取り終了部分における欠点Aの数は1.11倍と計算された。
[比較例1]
ドラム1に代えてドラム3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム3の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.73個/mmであった。
得られたフィルムロールを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの欠点の数の測定と偏光フィルムの評価(20枚試験)を行ったところ、巻き取り開始部分における欠点Aの数は0.291個/m(うち、回転周期欠点は0.175個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は80%、巻き取り終了部分における欠点Aの数は0.938個/m(うち、回転周期欠点は0.750個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は50%であった。巻き取り開始部分における欠点Aの数に対する巻き取り終了部分における欠点Aの数は3.22倍と計算された。
[比較例2]
ドラム1の表面温度を90℃から120℃に変更するとともに、PVAフィルムの長さを8,000mから3,000mに変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム1の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.11個/mmであった。
得られたフィルムロールを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの欠点の数の測定と偏光フィルムの評価(20枚試験)を行ったところ、巻き取り開始部分における欠点Aの数は0.252個/m(うち、回転周期欠点は0.101個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は80%、巻き取り終了部分における欠点Aの数は0.358個/m(うち、回転周期欠点は0.251個/m)、巻き取り開始部分側のPVAフィルムから製造された偏光フィルムの20枚試験における合格率は65%であった。巻き取り開始部分における欠点Aの数に対する巻き取り終了部分における欠点Aの数は1.42倍と計算された。
[比較例3]
実施例1において、ドラム1の表面温度を90℃から40℃に変更してPVAフィルムの製造を試みたが、ドラム上での乾燥が不十分であってフィルムをドラムから剥離することが困難であったため、各評価は行わなかった。
[比較例4]
変温速度を1℃/時間から5℃/時間に変更したこと以外は比較例1と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム3の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.73個/mmであった。
得られたフィルムロールを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの欠点の数の測定を行ったところ、巻き取り開始部分における欠点Aの数は0.332個/m(うち、回転周期欠点は0.166個/m)、巻き取り終了部分における欠点Aの数は1.349個/m(うち、回転周期欠点は1.214個/m)であった。巻き取り開始部分における欠点Aの数に対する巻き取り終了部分における欠点Aの数は4.06倍と計算された。
[実施例8]
ドラム1をキャスト製膜設備に取り付け、温水循環装置と接続した。次いで、ドラム1の周面をバフ研磨した。バフ研磨後のドラム1の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.10個/mmであった。その後、ドラム1の表面温度を温水循環装置により上昇させ、表面温度90℃で維持した。
一方、けん化度99.9モル%、重合度2,400のPVA(酢酸ビニルの単独重合体のけん化物)のチップ100質量部を35℃の蒸留水2,500質量部に24時間浸漬した後、遠心脱水を行い、PVA含水チップを得た。PVA含水チップ中の揮発分率は70質量%であった。そのPVA含水チップ333質量部(乾燥状態PVA換算で100質量部)に対して、グリセリン12質量部および界面活性剤(ラウリン酸ジエタノールアミド95質量%含有)0.3質量部を添加した後、よく混合して混合物とし、これを最高温度130℃のベント付き二軸押出機で加熱溶融した。得られた溶融状態のPVAを熱交換機で100℃に冷却した後、900mm幅のコートハンガーダイから表面温度を90℃にした前記ドラム1上に押出製膜して、さらに熱風乾燥炉内を通して乾燥して、幅方向両端部(耳部)をカットすることにより幅0.7mの長尺のPVAフィルムを連続的に製造した。なお、製膜速度は8m/分とした。製膜が安定した後のPVAフィルム(厚み60μm、長さ12,000m)は直径6インチのアルミニウム製の円筒状のコアに連続的に巻き取ってフィルムロールとした。
得られたフィルムロールの皺(PVAフィルムを巻き取る際に生じる皺)を上記した方法により評価したところAランクであった。また、得られたフィルムロールから巻き出したPVAフィルムを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの二乗平均粗さを測定したところ、ドラム1の表面に接した側の面における二乗平均粗さは4.1nmであり、他方の面における二乗平均粗さは1.9nmであった。両者の差は2.2nmと計算された。
上記のフィルムロールから巻き出されたPVAフィルムを予備膨潤・染色・固定処理・一軸延伸・洗浄・乾燥の順番で連続的に処理して偏光フィルムを作製した。すなわち、PVAフィルムを30℃の水中に60秒間浸して予備膨潤し、次いでヨウ素濃度0.4g/Lおよびヨウ化カリウム濃度40g/Lの35℃の水溶液(染色浴)中に110秒間浸漬して染色した。続いて、ホウ酸濃度30g/Lの30℃の水溶液(固定処理浴)中に90秒間浸漬して固定処理を行い、さらにホウ酸濃度4%の50℃の水溶液(延伸浴)中で長さ方向に延伸倍率5倍で一軸延伸を行った。その後、ホウ酸濃度15g/Lの30℃の水溶液(洗浄浴)中に10秒間浸漬して洗浄を行い、55℃で熱風乾燥して偏光フィルムとした。なお乾燥工程に入る前の最後の処理浴である洗浄浴を出るときの洗浄浴の液面とフィルム面とのなす角度をガイドロールの位置を変更することにより60°に設定すると共に、そのときのフィルムの上方側の面が使用したPVAフィルムにおいて小さい方の二乗平均粗さを有していた面となるようにした。
得られた偏光フィルムの染色斑を上記した方法により評価したところAランクであった。また、得られた偏光フィルムの異物を上記した方法により評価したところAランクであった。
[実施例9]
ドラム1に代えてドラム2を用いたこと以外は実施例8と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム2の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.37個/mmであった。
得られたフィルムロールの皺(PVAフィルムを巻き取る際に生じる皺)を上記した方法により評価したところBランクであった。また、得られたフィルムロールから巻き出したPVAフィルムを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの二乗平均粗さを測定したところ、ドラム2の表面に接した側の面における二乗平均粗さは6.7nmであり、他方の面における二乗平均粗さは2.0nmであった。両者の差は4.7nmと計算された。
上記のフィルムロールから巻き出されたPVAフィルムに対して、実施例8と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの染色斑を上記した方法により評価したところBランクであった。また、得られた偏光フィルムの異物を上記した方法により評価したところBランクであった。
[比較例5]
ドラム1に代えてドラム3を用いたこと以外は実施例8と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム3の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.73個/mmであった。
得られたフィルムロールの皺(PVAフィルムを巻き取る際に生じる皺)を上記した方法により評価したところAランクであった。また、得られたフィルムロールから巻き出したPVAフィルムを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの二乗平均粗さを測定したところ、ドラム3の表面に接した側の面における二乗平均粗さは28.3nmであり、他方の面における二乗平均粗さは2.6nmであった。両者の差は25.7nmと計算された。
上記のフィルムロールから巻き出されたPVAフィルムに対して、実施例8と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの染色斑を上記した方法により評価したところCランクであった。また、得られた偏光フィルムの異物を上記した方法により評価したところCランクであった。
[比較例6]
ドラム1に代えてドラム4を用いたこと以外は実施例8と同様にして、PVAフィルムを連続的に製造しフィルムロールとした。なお、バフ研磨後のドラム4の表面(周面)における面積が200μm以上のクラックの数を上記した方法によって測定したところ0.15個/mmであった。
得られたフィルムロールの皺(PVAフィルムを巻き取る際に生じる皺)を上記した方法により評価したところCランクであった。また、得られたフィルムロールから巻き出したPVAフィルムを用いて、上記した方法によりPVAフィルムの二乗平均粗さを測定したところ、ドラム4の表面に接した側の面における二乗平均粗さは2.8nmであり、他方の面における二乗平均粗さは2.6nmであった。両者の差は0.2nmと計算された。
上記のフィルムロールから巻き出されたPVAフィルムに対して、実施例8と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの染色斑を上記した方法により評価したところAランクであった。また、得られた偏光フィルムの異物を上記した方法により評価したところAランクであった。
[実施例10]
実施例8で得られたフィルムロールを用い、洗浄浴を出るときの洗浄浴の液面とフィルム面とのなす角度を60°から45°に変更したこと以外は実施例8と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの染色斑を上記した方法により評価したところAランクであった。また、得られた偏光フィルムの異物を上記した方法により評価したところBランクであった。
[比較例7]
実施例8で得られたフィルムロールを用い、洗浄浴を出るときのフィルムの上方側の面が使用したPVAフィルムにおいて大きい方の二乗平均粗さを有していた面となるように変更したこと以外は実施例8と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの染色斑を上記した方法により評価したところAランクであった。また、得られた偏光フィルムの異物を上記した方法により評価したところCランクであった。
[比較例8]
実施例8で得られたフィルムロールを用い、洗浄浴を出るときの洗浄浴の液面とフィルム面とのなす角度を60°から25°に変更したこと以外は実施例8と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの染色斑を上記した方法により評価したところAランクであった。また、得られた偏光フィルムの異物を上記した方法により評価したところCランクであった。
[比較例9]
実施例8で得られたフィルムロールを用い、洗浄浴を出るときの洗浄浴の液面とフィルム面とのなす角度を60°から88°に変更したこと以外は実施例8と同様にして偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムの染色斑を上記した方法により評価したところAランクであった。また、得られた偏光フィルムの異物を上記した方法により評価したところCランクであった。

Claims (12)

  1. フィルム表面から窪んだ欠点であって面積が400μm以上で深さが0.3μm以上の欠点の数が0.25個/m以下であるポリビニルアルコール系重合体フィルム。
  2. 前記欠点の数が0.15個/m以下である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
  3. ポリビニルアルコール系重合体フィルムに含まれるポリビニルアルコール系重合体の重合度が3,000以上10,000以下である、請求項1または2に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
  4. 長尺のポリビニルアルコール系重合体フィルムである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
  5. 長さが6,000m以上である、請求項4に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
  6. 前記欠点が、フィルムの長さ方向に実質的に一定の間隔でフィルムの幅方向に実質的に同一の位置に存在する欠点を含む、請求項4または5に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
  7. 長尺のポリビニルアルコール系重合体フィルムが連続的に巻き取られてなるフィルムロールであって、フィルム表面から窪んだ欠点であって面積が400μm以上で深さが0.3μm以上の欠点について、ポリビニルアルコール系重合体フィルムの巻き取り開始部分における当該欠点の数に対するポリビニルアルコール系重合体フィルムの巻き取り終了部分における当該欠点の数が1.4倍以下であるフィルムロール。
  8. 前記欠点の数が0.25個/m以下である、請求項7に記載のフィルムロール。
  9. 前記欠点の数が0.15個/m以下である、請求項7に記載のフィルムロール。
  10. ポリビニルアルコール系重合体フィルムに含まれるポリビニルアルコール系重合体の重合度が3,000以上10,000以下である、請求項7〜9のいずれか1項に記載のフィルムロール。
  11. ポリビニルアルコール系重合体フィルムの長さが6,000m以上である、請求項7〜10のいずれか1項に記載のフィルムロール。
  12. 前記欠点が、フィルムの長さ方向に実質的に一定の間隔でフィルムの幅方向に実質的に同一の位置に存在する欠点を含む、請求項7〜11のいずれか1項に記載のフィルムロール。
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