<防眩性偏光板>
図1は、本発明の防眩性偏光板の好ましい一例を模式的に示す断面図である。本発明の防眩性偏光板は、図1に示される例のように、透明支持体102および透明支持体102上に積層される微細な凹凸表面を有する防眩層101を備える防眩フィルム1と、透明支持体102における防眩層101とは反対側の面に、第1の接着剤層103aを介して積層されるポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルム104とを備える。第1の接着剤層103aは、エポキシ系樹脂を含有する硬化性組成物の硬化物からなる。本発明の防眩性偏光板は、図1に示される例のように、偏光フィルム104における防眩フィルム1とは反対側の面に、第2の接着剤層103bを介して積層される保護フィルムまたは光学補償層105をさらに備えることができる。光学補償層は、偏光フィルム104における防眩フィルム1とは反対側の面に、第2の接着剤層103bを介して積層される保護フィルム上に積層することもできる。以下、本発明の防眩性偏光板についてより詳細に説明する。
〔1〕防眩フィルム
(防眩層)
本発明の防眩性偏光板に用いられる防眩フィルムは、透明支持体上に積層された微細な凹凸表面(微細凹凸表面)を有する防眩層を備える。当該防眩層は、空間周波数0.01μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH1 2と、空間周波数0.04μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH2 2との比H1 2/H2 2が1〜20の範囲内であり、空間周波数0.1μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH3 2と、空間周波数0.04μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH2 2との比H3 2/H2 2が0.1以下であることを特徴とする。
従来、防眩フィルムの微細凹凸表面の周期については、JIS B 0601に記載される粗さ曲線要素の平均長さRSm、断面曲線要素の平均長さPSm、およびうねり曲線要素の平均長さWSmなどで評価されていた。しかしながら、このような従来の評価方法では、微細凹凸表面に含まれる複数の周期を正確に評価することができなかった。よって、ギラツキと微細凹凸表面との相関および防眩性と微細凹凸表面との相関についても正確に評価することができず、ギラツキの抑制と十分な防眩性能を兼備する防眩フィルムを作製することが困難であった。
本発明者らは、透明支持体上に微細凹凸表面を有する防眩層が形成されてなる防眩フィルムにおいて、その微細凹凸表面が「微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトル」を用いて規定される特定の空間周波数分布を示す、すなわち、標高のエネルギースペクトル比H1 2/H2 2が1〜20の範囲内であり、H3 2/H2 2が0.1以下である防眩フィルムは、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現することを見出した。
まず、防眩層が有する微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルについて説明する。図2は、本発明の防眩性偏光板が備える防眩フィルムの表面を模式的に示す斜視図である。図2に示されるように、本発明に係る防眩フィルム1は、微細な凹凸2から構成される微細凹凸表面を有する防眩層を備える。ここで、本発明でいう「微細凹凸表面の標高」とは、防眩フィルム1表面の任意の点Pにおける、微細凹凸表面の最低点の高さにおいて当該高さを有する仮想的な平面(標高は基準として0μm)からの防眩フィルムの主法線方向5(上記仮想的な平面における法線方向)における直線距離を意味する。図2に示すように、防眩フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示した際には、微細凹凸表面の標高は座標(x,y)の二次元関数h(x,y)で表すことができる。図2には、防眩フィルム全体の面を投影面3で表示している。
微細凹凸表面の標高は、共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)などの装置により測定される表面形状の三次元情報から求めることができる。測定機に要求される水平分解能は、少なくとも5μm以下、好ましくは2μm以下であり、また垂直分解能は、少なくとも0.1μm以下、好ましくは0.01μm以下である。この測定に好適な非接触三次元表面形状・粗さ測定機としては、New View 5000シリーズ(Zygo Corporation社製、日本ではザイゴ(株)から入手可能)、三次元顕微鏡PLμ2300(Sensofar社製)などを挙げることができる。測定面積は、標高のエネルギースペクトルの分解能が0.01μm-1以下である必要があるため、少なくとも200μm×200μm以上とするのが好ましく、より好ましくは、500μm×500μm以上である。
次に、二次元関数h(x,y)より標高のエネルギースペクトルを求める方法について説明する。まず、二次元関数h(x,y)より、下記式(1)で定義される二次元フーリエ変換によって二次元関数H(fx,fy)を求める。
ここで、fxおよびfyは、それぞれx方向およびy方向の空間周波数であり、長さの逆数の次元を持つ。また、式(1)中のπは円周率、iは虚数単位である。得られた二次元関数H(fx,fy)を二乗することによって、標高のエネルギースペクトルH2(fx,fy)を求めることができる。このエネルギースペクトルH2(fx,fy)は、防眩層の微細凹凸表面の空間周波数分布を表している。
以下、防眩層の微細凹凸表面のエネルギースペクトルを求める方法をさらに具体的に説明する。上記の共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡などによって実際に測定される表面形状の三次元情報は、一般的に離散的な値、すなわち、多数の測定点に対応する標高として得られる。図3は、標高を表す関数h(x,y)が離散的に得られる状態を示す模式図である。図3に示すように、防眩フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示し、防眩フィルムの投影面3上にx軸方向にΔx毎に分割した線およびy軸方向にΔy毎に分割した線を破線で示すと、実際の測定では微細凹凸表面の標高は、防眩フィルムの投影面3上の各破線の交点毎の離散的な標高値として得られる。
得られる標高値の数は、測定範囲とΔxおよびΔyによって決まり、図3に示すようにx軸方向の測定範囲をX=MΔxとし、y軸方向の測定範囲をY=NΔyとすると、得られる標高値の数は(M+1)×(N+1)個である。
図3に示すように、防眩フィルムの投影面3上の着目点Aの座標を(jΔx,kΔy)(ここで、jは0以上M以下であり、kは0以上N以下である。)とすると、着目点Aに対応する防眩フィルム表面上の点Pの標高は、h(jΔx,kΔy)と表すことができる。
ここで、測定間隔ΔxおよびΔyは、測定機器の水平分解能に依存し、精度良く微細凹凸表面を評価するためには、上述したとおりΔxおよびΔyともに5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。また、測定範囲XおよびYは上述したとおり、ともに200μm以上が好ましく、ともに500μm以上がより好ましい。
このように、実際の測定では微細凹凸表面の標高を表す関数は(M+1)×(N+1)個の値を持つ離散関数h(x,y)として得られる。したがって、測定によって得られた離散関数h(x,y)と下記式(2)で定義される離散フーリエ変換によって離散関数H(fx,fy)が求まり、離散関数H(fx,fy)を二乗することによってエネルギースペクトルの離散関数H2(fx,fy)が求められる。式(2)中のlは−(M+1)/2以上(M+1)/2以下の整数であり、mは−(N+1)/2以上(N+1)/2以下の整数である。また、ΔfxおよびΔfyは、それぞれx方向およびy方向の空間周波数間隔であり、式(3)および式(4)で定義される。ΔfxおよびΔfyは、標高のエネルギースペクトルの水平分解能に相当する。
図4は、本発明の防眩性偏光板が備える防眩層の微細凹凸表面の標高を二次元の離散関数h(x,y)で表した図の一例である。図4において標高は白と黒のグラデーションで示している。図4に示した離散関数h(x,y)は、512×512個の値を持ち、水平分解能ΔxおよびΔyは1.66μmである。
また、図5は、図4に示した二次元関数h(x,y)を離散フーリエ変換して得られた標高のエネルギースペクトルH2(fx,fy)を白と黒のグラデーションで示したものである。図5に示した標高のエネルギースペクトルH2(fx,fy)も512×512個の値を持つ離散関数であり、標高のエネルギースペクトルの水平分解能ΔfxおよびΔfyは0.0012μm-1である。
図4に示される例のように、本発明の防眩性偏光板が備える防眩層の微細凹凸表面は、ランダムに形成された凹凸からなるため、標高のエネルギースペクトルは、図5に示されるように、原点を中心に対称となる。よって、空間周波数0.01μm-1における標高のエネルギースペクトルH1 2、空間周波数0.04μm-1における標高のエネルギースペクトルH2 2および空間周波数0.1μm-1における標高のエネルギースペクトルH3 2は、二次元関数であるエネルギースペクトルH2(fx,fy)の原点を通る断面より求めることができる。図6に、図5に示したエネルギースペクトルH2(fx,fy)のfx=0における断面を示した。図6より、空間周波数0.01μm-1における標高のエネルギースペクトルH1 2は4.4、空間周波数0.04μm-1における標高のエネルギースペクトルH2 2は0.35、空間周波数0.1μm-1における標高のエネルギースペクトルH3 2は0.00076であることがわかり、比H1 2/H2 2は14、比H3 2/H2 2は0.0022と算出される。
上述したように、本発明に係る防眩層において、空間周波数0.01μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH1 2と、空間周波数0.04μm-1における標高のエネルギースペクトルH2 2との比H1 2/H2 2は、1〜20の範囲内とされる。標高のエネルギースペクトルの比H1 2/H2 2が1を下回ることは、防眩層の微細凹凸表面に含まれる100μm以上の長周期の凹凸形状が少なく、25μm未満の短周期の凹凸形状が多いことを示している。そのような場合には外光の映り込みを効果的に防止することができず、十分な防眩性能が得られない。また、これに対して、標高のエネルギースペクトルの比H1 2/H2 2が20を上回ることは、微細凹凸表面に含まれる100μm以上の長周期の凹凸形状が多く、25μm未満の短周期の凹凸形状が少ないことを示している。そのような場合には、防眩性偏光板を高精細の画像表示装置に適用した際にギラツキを発生させる傾向にある。より優れた防眩性能を示しつつ、ギラツキをより効果的に抑制するためには、標高のエネルギースペクトルの比H1 2/H2 2は、5〜18の範囲内であることが好ましく、8〜15の範囲内であることがより好ましい。
また、本発明に係る防眩層において、空間周波数0.1μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH3 2と、空間周波数0.04μm-1における標高のエネルギースペクトルH2 2との比H3 2/H2 2は、0.1以下とされ、好ましくは0.01以下とされる。比H3 2/H2 2が0.1以下であることは、微細凹凸表面に含まれる10μm未満の短周期成分が十分に低減されていることを示しており、これにより白ちゃけの発生を効果的に抑制することができる。微細凹凸表面に含まれる10μm未満の短周期成分は、防眩性に効果的に寄与しない一方、微細凹凸表面に入射した光を散乱させて白ちゃけの原因となるものである。
特許文献1などに開示されている従来公知の防眩フィルムにおいては、空間周波数0.01μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH1 2と、空間周波数0.04μm-1における標高のエネルギースペクトルH2 2との比H1 2/H2 2が本願よりも大きいためギラツキが発生しやすいという問題があった。よって、比H1 2/H2 2を1〜20の範囲内とするためには、空間周波数0.01μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH1 2を小さくする必要がある。このように空間周波数0.01μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH1 2を小さくした微細凹凸表面を有する防眩フィルムは、後述するように0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないエネルギースペクトルを示すパターンを用いることにより好適に作製することができる。ここで、「パターン」とは、典型的には、防眩フィルムの微細凹凸表面を形成するために用いられる、計算機によって作成された2階調(たとえば、白と黒とに二値化された画像データ)または3階調以上のグラデーションからなる画像データを意味するが、当該画像データへ一義的に変換可能なデータ(行列データなど)も含み得る。画像データへ一義的に変換可能なデータとしては、各画素の座標および階調のみが保存されたデータなどが挙げられる。
このように0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないエネルギースペクトルを示すパターンを用いて防眩フィルムの微細凹凸表面を形成することによって、効果的に空間周波数0.01μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH1 2を小さくすることが可能となり、比H1 2/H2 2を1〜20の範囲内とすることができる。
さらに、空間周波数0.1μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH3 2と、空間周波数0.04μm-1における標高のエネルギースペクトルH2 2との比H3 2/H2 2が0.1以下である微細凹凸表面を有する防眩フィルムを得るためには、前記パターンのエネルギースペクトルは空間周波数が0.04μm-1より大きく0.1μm-1未満の範囲内に極大値を有することが好ましい。このようなエネルギースペクトルを有するパターンを用いて防眩フィルムの微細凹凸表面を形成することによって、効果的に空間周波数0.04μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH2 2を大きくすることが可能となり、比H3 2/H2 2を0.1以下とすることができる。
このようなパターンを用いて防眩フィルムの微細凹凸表面を形成する方法としては、当該パターンを用いて凹凸面を有する金型を作製し、当該金型の凹凸面を、基材フィルム上に形成された樹脂層の表面に転写する方法(エンボス法)が好ましい。
本発明者らはまた、防眩層の微細凹凸表面が特定の傾斜角度分布を示すようにすることが、優れた防眩性能を示しつつ、白ちゃけを効果的に防止する上で一層有効であることを見出した。すなわち、本発明の防眩性偏光板において、防眩層の微細凹凸表面は、傾斜角度が5°以下である面を95%以上含む。傾斜角度が5°以下である面の割合が95%を下回ると、凹凸表面の傾斜角度が急峻になって、周囲からの光を集光し、表示面が全体的に白くなる白ちゃけが発生しやすくなる。このような集光効果を抑制し、白ちゃけを防止するためには、微細凹凸表面の傾斜角度が5°以下である面の割合が高ければ高いほどよく、97%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。
ここで、本発明でいう「微細凹凸表面の傾斜角度」とは、図2を参照して、防眩フィルム1表面の任意の点Pにおいて、防眩フィルムの主法線方向5に対する、そこでの凹凸を加味した局所的な法線6のなす角度(表面傾斜角度)ψを意味する。微細凹凸表面の傾斜角度についても標高と同様に、共焦点顕微鏡、干渉顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)などの装置により測定される表面形状の三次元情報から求めることができる。
ここで、図7は、微細凹凸表面の傾斜角度の測定方法を説明するための模式図である。具体的な傾斜角度の決定方法を説明すると、図7に示すように、点線で示される仮想的な平面FGHI上の着目点Aを決定し、そこを通るx軸上の着目点Aの近傍に、点Aに対してほぼ対称に点BおよびDを、また点Aを通るy軸上の着目点Aの近傍に、点Aに対してほぼ対称に点CおよびEをとり、これらの点B,C,D,Eに対応する防眩フィルム面上の点Q,R,S,Tを決定する。なお図7では、防眩フィルム面内の直交座標を(x,y)で表示し、防眩フィルム厚み方向の座標をzで表示している。平面FGHIは、y軸上の点Cを通るx軸に平行な直線、および同じくy軸上の点Eを通るx軸に平行な直線と、x軸上の点Bを通るy軸に平行な直線、および同じくx軸上の点Dを通るy軸に平行な直線とのそれぞれの交点F,G,H,Iによって形成される面である。また図7では、平面FGHIに対して、実際の防眩フィルム面の位置が上方にくるように描かれているが、着目点Aのとる位置によって当然ながら、実際の防眩フィルム面の位置が平面FGHIの上方にくることもあるし、下方にくることもある。
傾斜角度は、着目点Aに対応する実際の防眩フィルム面上の点Pと、その近傍にとられた4点B,C,D,Eに対応する実際の防眩フィルム面上の点Q,R,S,Tの合計5点により張られるポリゴン4平面、すなわち、四つの三角形PQR,PRS,PST,PTQの各法線ベクトル6a,6b,6c,6dを平均して得られる平均法線ベクトル(平均法線ベクトルは、図2に示される凹凸を加味した局所的な法線6と同義である)の極角を、測定された表面形状の三次元情報から求めることにより得ることができる。各測定点について傾斜角度を求めた後、ヒストグラムが計算される。
図8は、防眩フィルムが備える防眩層の微細凹凸表面の傾斜角度分布のヒストグラムの一例を示すグラフである。図8に示すグラフにおいて、横軸は傾斜角度であって、0.5°刻みで分割してある。たとえば、一番左の縦棒は、傾斜角度が0〜0.5°の範囲にある集合の分布を示し、以下、右へ行くにつれて角度が0.5°ずつ大きくなっている。図8では、横軸の2目盛毎に値の下限値を表示しており、たとえば、横軸で「1」とある部分は、傾斜角度が1〜1.5°の範囲にある集合の分布を示す。また、縦軸は傾斜角度の分布を表し、合計すれば1(100%)になる値である。この例では、傾斜角度が5°以下である面の割合は略100%である。
防眩層の微細凹凸表面が傾斜角度が5°以下である面を95%以上含む防眩フィルムを作製するためには、やはり、パターンを用いて凹凸面を有する金型を作製し、当該金型の凹凸面を、基材フィルム上に形成された樹脂層の表面に転写する方法(エンボス法)を採用することが好ましい。このようなエンボス法においては、防眩層の微細凹凸表面の傾斜角度は凹凸面を有する金型の製造条件によって決定される。具体的には、後述する金型の製造方法におけるエッチング工程のエッチング量を変化させることで制御することができる。すなわち、第1エッチング工程におけるエッチング量を減少させることによって、形成される第1の表面凹凸形状の高低差を小さくし、傾斜角度が5°以下である面の割合を増加させることができる。傾斜角度が5°以下である面を95%以上含む微細凹凸表面を有する防眩フィルムを得るためには、第1エッチング工程におけるエッチング量は、2〜8μmであることが好ましい。エッチング量が2μm未満である場合には、金属表面に凹凸形状がほとんど形成されずに、ほぼ平坦な金型となってしまうので、このような金型を用いて作製される防眩フィルムは、十分な防眩性を示さなくなってしまう。また、エッチング量が8μmを超える場合には、金属表面に形成される凹凸形状の高低差が大きくなり、傾斜角度が5°以下である面が95%未満となる可能性がある。このような金型を使用して作製した防眩フィルムは白ちゃけが生じる虞がある。
また、第2エッチング工程におけるエッチング量によっても防眩層の微細凹凸表面の傾斜角度を制御することができる。第2エッチング工程におけるエッチング量を増加させることによって、第1の表面凹凸形状の表面傾斜が急峻な部分を効果的に鈍らすことが可能となり、傾斜角度が5°以下である面の割合を増加させることができる。傾斜角度が5°以下である面を95%以上含む微細凹凸表面を有する防眩フィルムを得るためには、第2エッチング工程におけるエッチング量は4〜20μmの範囲内とすることが好ましい。エッチング量が小さいと、第1エッチング工程により得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、エッチング量が大きすぎると、凹凸形状がほとんどなくなってしまい、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。
本発明において防眩層は、光硬化型樹脂等の硬化型樹脂の硬化物または熱可塑性樹脂などから構成することができ、なかでも光硬化型樹脂の硬化物から構成されることが好ましい。防眩層には、硬化型樹脂の硬化物または熱可塑性樹脂と異なる屈折率を有する微粒子を分散させてもよい。微粒子を分散させることにより、ギラツキをより効果的に抑制することができる。
防眩層に上記微粒子を分散させる場合、微粒子の平均粒径は、5μm以上であることが好ましく、6μm以上であることがより好ましい。また、微粒子の平均粒径は、10μm以下程度とすることができ、好ましくは8μm以下である。平均粒径が5μmを下回る場合には、微粒子による広角側の散乱光強度が上昇し、防眩性偏光板を画像表示装置に適用したときにコントラストを低下させる傾向にある。また、微粒子の屈折率nbと硬化型樹脂の硬化物または熱可塑性樹脂の屈折率nrとの比nb/nrは、0.93以上0.98以下もしくは1.01以上1.04以下であることが好ましく、0.97以上0.98以下もしくは1.01以上1.03以下であることがより好ましい。屈折率比nb/nrが0.93を下回る場合もしくは1.04を上回る場合には、硬化型樹脂の硬化物または熱可塑性樹脂と微粒子との界面における反射率が増大し、結果として後方散乱が上昇し、全光線透過率が低下する傾向にある。全光線透過率の低下は、防眩フィルムのヘイズを増大させ、画像表示装置に適用したときのコントラストの低下を生じさせる。また、屈折率比nb/nrが0.98超過1.01未満である場合には、微粒子による内部散乱効果が小さくなることから、所定の散乱特性を防眩層に与えて微粒子によるギラツキ抑制効果を得るためには、大量の微粒子を添加する必要がある。
微粒子の含有量は、硬化型樹脂または熱可塑性樹脂100重量部に対し、通常50重量部以下であり、好ましくは40重量部以下である。また、微粒子の含有量は、10重量部以上であることが好ましく、15重量部以上であることがより好ましい。微粒子の含有量が10重量部未満である場合には、微粒子によるギラツキ抑制効果が不十分な場合がある。
微粒子を構成する材料は、上記好ましい屈折率比を満たすものであることが好ましい。後述するように、本発明においては防眩層の形成にUVエンボス法が好ましく用いられ、UVエンボス法においては、紫外線硬化型樹脂が好ましく用いられる。この場合、紫外線硬化型樹脂の硬化物は1.50前後の屈折率を示すことが多いので、微粒子としては、その屈折率が1.40〜1.60程度のものから、防眩フィルムの設計に合わせて適宜選択することができる。微粒子としては、樹脂ビーズ、それもほぼ球形のものが好ましく用いられる。かかる好適な樹脂ビーズの例を以下に掲げる。
メラミンビーズ(屈折率1.57)、
ポリメタクリル酸メチルビーズ(屈折率1.49)、
メタクリル酸メチル/スチレン共重合体樹脂ビーズ(屈折率1.50〜1.59)、
ポリカーボネートビーズ(屈折率1.55)、
ポリエチレンビーズ(屈折率1.53)、
ポリスチレンビーズ(屈折率1.6)、
ポリ塩化ビニルビーズ(屈折率1.46)、
シリコーン樹脂ビーズ(屈折率1.46)など。
(透明支持体)
防眩フィルムに用いられる透明支持体としては、実質的に光学的に透明な樹脂フィルムが好適に用いられ、たとえば、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどの樹脂フィルムが挙げられる。これらの樹脂フィルムは、一軸延伸または二軸延伸などの延伸処理が施されたものであってもよい。
透明支持体の厚みは、20μm以上100μm以下であることが好ましく、30μm以上80μm以下であることがより好ましい。透明支持体の厚みが20μm未満であると、ハンドリングしにくい傾向にあり、厚みが100μmを上回ることは最近の画像表示装置の薄型化への要求およびコスト等の観点から好ましくない。
(防眩フィルムの製造方法)
本発明の防眩性偏光板に用いられる防眩フィルムは、下記工程(A)および(B)を含む方法によって好適に製造することができる。
(A)0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないエネルギースペクトルを示すパターンを用いて、凹凸面を有する金型を作製する工程、および、
(B)透明支持体上に形成された、光硬化型樹脂等の硬化型樹脂または熱可塑性樹脂などを含む樹脂層の表面に、金型の凹凸面を転写する工程。
0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないエネルギースペクトルを示すパターンを用いることにより、上記した特定の空間周波数分布を持つ微細凹凸表面を精度よく形成することが可能となる。また、当該パターンを用いて凹凸面を有する金型を作製し、当該金型の凹凸面を、透明支持体上に形成された樹脂層の表面に転写する方法(エンボス法)により、微細凹凸表面を有する防眩層を精度よく、かつ再現性よく得ることが可能となる。ここで、「パターン」とは、典型的には、防眩フィルムの微細凹凸表面を形成するために用いられる、計算機によって作成された2階調(たとえば、白と黒とに二値化された画像データ)または3階調以上のグラデーションからなる画像データを意味するが、当該画像データへ一義的に変換可能なデータ(行列データなど)も含み得る。画像データへ一義的に変換可能なデータとしては、各画素の座標および階調のみが保存されたデータなどが挙げられる。
上記工程(A)で用いられるパターンのエネルギースペクトルは、たとえば画像データであれば、画像データを2階調の二値化画像データに変換した後、画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表し、得られた二次元関数g(x,y)をフーリエ変換して二次元関数G(fx,fy)を計算し、得られた二次元関数G(fx,fy)を二乗することによって求められる。ここで、xおよびyは、画像データ面内の直交座標を表し、fxおよびfyはそれぞれ、x方向の空間周波数およびy方向の空間周波数を表す。
微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルを求める場合と同様に、パターンのエネルギースペクトルを求める場合についても、階調の二次元関数g(x,y)は離散関数として得られる場合が一般的である。その場合は、微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルを求める場合と同様に、離散フーリエ変換によって、エネルギースペクトルが計算される。具体的には、式(5)で定義される離散フーリエ変換によって離散関数G(fx,fy)を計算し、離散関数G(fx,fy)を二乗することによってエネルギースペクトルが求められる。ここで、式(5)中のπは円周率、iは虚数単位である。また、Mはx方向の画素数であり、Nはy方向の画素数であり、lは−M/2以上M/2以下の整数であり、mは−N/2以上N/2以下の整数である。さらに、ΔfxおよびΔfyはそれぞれx方向およびy方向の空間周波数間隔であり、式(6)および式(7)で定義される。式(6)および式(7)中のΔxおよびΔyはそれぞれ、x軸方向、y軸方向における水平分解能である。なお、パターンが画像データである場合には、ΔxおよびΔyは、それぞれ1画素のx軸方向の長さおよびy軸方向の長さと等しい。すなわち、6400dpiの画像データとしてパターンを作成した場合には、Δx=Δy=4μmであり、12800dpiの画像データとしてパターンを作成した場合には、Δx=Δy=2μmである。
図9は、本発明の防眩フィルムを作製するために用いることができるパターンである画像データの一部を示す図であり、階調の二次元離散関数g(x,y)で表したものである。図9に示したパターンである画像データは2mm×2mmの大きさで、12800dpiで作成した。
図10は、図9に示した階調の二次元離散関数g(x,y)を離散フーリエ変換して得られたエネルギースペクトルG2(fx,fy)を白と黒のグラデーションで示した図である。図9に示されるパターンは、ドットをランダムに配置したものであるため、そのエネルギースペクトルは、図10に示されるように、原点を中心に対称となる。よって、パターンのエネルギースペクトルの極大値を示す空間周波数はエネルギースペクトルの原点を通る断面より求めることができる。図11は、図10に示したエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。これより図9に示したパターンは、空間周波数0.045μm-1に極大値を持つが、0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内には極大値を持たないことがわかる。
防眩フィルムを作製するためのパターンのエネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持つ場合には、得られる防眩フィルムの微細凹凸表面が上記した特定の空間周波数分布を示さなくなるため、ギラツキの解消と十分な防眩性を兼備することができない。
エネルギースペクトルG2(fx,fy)が0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないパターンは、たとえば図9に示されるパターンのように、多数のドットをランダムかつ均一に配置することにより作成することができる。ランダムに配置するドット径は1種類でもよいし、複数種類でもよい。多数のドットをランダムに配置して作成したパターンにおいては、エネルギースペクトルはドット間の平均距離の逆数である空間周波数に第一の極大値(空間周波数が0μm-1より大きく最小の空間周波数における極大値)を示す。よって、エネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないパターンを作成するためには、ドット間の平均距離が25μm未満となるようにパターンを作成すればよい。また、防眩フィルムの空間周波数0.1μm-1における微細凹凸表面の標高のエネルギースペクトルH3 2と、空間周波数0.04μm-1における標高のエネルギースペクトルH2 2との比H3 2/H2 2を0.1以下とするために、パターンのエネルギースペクトルは、空間周波数が0.04μm-1より大きく0.1μm-1未満の範囲内に極大値を有することが好ましい。このようなパターンは、ドット間の平均距離を10μmより大きく25μm未満の範囲内となるように作成することによって得られる。
また、このような多数のドットをランダムに配置して作成したパターンから、特定の空間周波数以下の低空間周波数成分を除去するハイパスフィルターを通過させて得られたパターンを用いることもできる。さらに、多数のドットをランダムに配置して作成したパターンから、特定の空間周波数以下の低空間周波数成分と特定の空間周波数以上の高空間周波数成分を除去するバンドパスフィルターを通過させて得られたパターンを用いることもできる。図11に示したように多数のドットをランダムに配置して作成したパターンのエネルギースペクトルは、配置するドットのドット径とドット間の平均距離に依存する極大値を示す。このようなパターンを前記ハイパスフィルターもしくは前記バンドパスフィルターに通過させることによって不必要な成分を除去することができる。このようにハイパスフィルターもしくはバンドパスフィルターを通過させたパターンのエネルギースペクトルは、フィルターによって成分を除去しているため、空間周波数が0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を有さない。また、より効率的に空間周波数が0.04μm-1より大きく0.1μm-1未満の範囲内に極大値を有するパターンを作成することができる。ここで、前記ハイパスフィルターを用いる場合には、空間周波数が0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内の極大値を除去するために、除去する低空間周波数成分の上限空間周波数は0.04μm-1以下であることが好ましい。また、前記バンドパスフィルターを用いる場合、空間周波数が0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内の極大値を除去し、空間周波数が0.04μm-1より大きく0.1μm-1未満の範囲内に極大値を持つようにするために、除去する低空間周波数成分の上限空間周波数は0.04μm-1以下であることが好ましく、除去する高空間周波数成分の下限空間周波数は0.08μm-1以上であることが好ましい。
ハイパルフィルターやバンドパスフィルターなどを通過させる手法を用いてパターンを作成する場合には、フィルターを通過させる前のパターンとして、乱数もしくは計算機によって生成された擬似乱数により濃淡を決定したランダムな明度分布を有するパターンを用いることもできる。
以上のようにして得られるパターンを用いて金型を作製する方法の詳細については後述する。
上記工程(B)は、エンボス法により、微細凹凸表面を有する防眩層を透明支持体上に形成する工程である。エンボス法としては、光硬化型樹脂を用いるUVエンボス法、熱可塑性樹脂を用いるホットエンボス法が例示され、なかでも、生産性の観点から、UVエンボス法が好ましい。UVエンボス法においては、透明支持体の表面に光硬化型樹脂層を形成し、その光硬化型樹脂層を金型の凹凸面に押し付けながら硬化させることで、金型の凹凸面が光硬化型樹脂層表面に転写される。より具体的には、透明支持体上に光硬化型樹脂を含む塗工液を塗工し、塗工した光硬化型樹脂を金型の凹凸面に密着させた状態で、透明支持体側から紫外線等の光を照射して光硬化型樹脂を硬化させ、その後金型から、硬化後の光硬化型樹脂層が形成された透明支持体を剥離することにより、金型の凹凸形状が硬化後の光硬化型樹脂層(防眩層)に転写された防眩フィルムが得られる。
UVエンボス法を用いる場合における光硬化型樹脂としては、紫外線により硬化する紫外線硬化型樹脂が好ましく用いられるが、紫外線硬化型樹脂に適宜選択された光開始剤を組み合わせて、紫外線より波長の長い可視光でも硬化が可能な樹脂を用いることも可能である。紫外線硬化型樹脂の種類は特に限定されず、市販の適宜のものを用いることができる。紫外線硬化型樹脂の好適な例は、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリレートの1種または2種以上と、イルガキュアー907(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、イルガキュアー184(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)などの光重合開始剤とを混合した樹脂組成物である。これらの紫外線硬化型樹脂に必要に応じて微粒子や溶媒などを添加し、上記塗工液が調製される。
(防眩フィルム製造用の金型の製造方法)
次に、防眩フィルムの製造に用いる金型を製造する方法について説明する。本発明の防眩性偏光板に用いられる防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法については、上述したパターンを用いた所定の表面形状が得られる方法であれば、特に制限されないが、微細凹凸表面を精度よく、かつ、再現性よく製造するために、(i)第1めっき工程と、(ii)研磨工程と、(iii)感光性樹脂膜形成工程と、(iv)露光工程と、(v)現像工程と、(vi)第1エッチング工程と、(vii)感光性樹脂膜剥離工程と、(viii)第2めっき工程とを基本的に含むことが好ましい。図12は、金型の製造方法の前半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。図12には、各工程での金型の断面を模式的に示している。以下、図12を参照しながら、上記各工程について詳細に説明する。
(i)第1めっき工程
本工程では、金型に用いる基材の表面に、銅めっきまたはニッケルめっきを施す。このように、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すことにより、後の第2めっき工程におけるクロムめっきの密着性や光沢性を向上させることができる。これは、銅めっきまたはニッケルめっきは、被覆性が高く、また平滑化作用が強いことから、金型用基材の微小な凹凸や鬆などを埋めて平坦で光沢のある表面を形成するためである。これらの銅めっきまたはニッケルめっきの特性によって、後述する第2めっき工程においてクロムめっきを施したとしても、基材に存在していた微小な凹凸や鬆に起因すると思われるクロムめっき表面の荒れが解消され、また、銅めっきまたはニッケルめっきの被覆性の高さから、細かいクラックの発生が低減される。
第1めっき工程において用いられる銅またはニッケルとしては、それぞれの純金属であることができるほか、銅を主体とする合金、またはニッケルを主体とする合金であってもよく、したがって、本明細書でいう「銅」は、銅および銅合金を含む意味であり、また「ニッケル」は、ニッケルおよびニッケル合金を含む意味である。銅めっきおよびニッケルめっきは、それぞれ電解めっきで行なっても無電解めっきで行なってもよいが、通常は電解めっきが採用される。
銅めっきまたはニッケルめっきを施す際には、めっき層が余り薄いと、下地表面の影響が排除しきれないことから、その厚みは50μm以上であるのが好ましい。めっき層厚みの上限は臨界的でないが、コストなどに鑑み、500μm程度までとすることが好ましい。
金型用基材を構成する金属材料としては、コストの観点からアルミニウム、鉄などが挙げられる。さらに取扱いの利便性を考慮すると、軽量なアルミニウムを用いることが好ましい。ここでいうアルミニウムや鉄も、それぞれ純金属であることができるほか、アルミニウムまたは鉄を主体とする合金であってもよい。
また、金型用基材の形状は、当該分野において従来採用されている適宜の形状であってよく、たとえば、平板状のほか、円柱状または円筒状のロールであってもよい。ロール状の基材を用いて金型を作製すれば、防眩フィルムを連続的なロール状で製造することができるという利点がある。
(ii)研磨工程
続く研磨工程では、上述した第1めっき工程にて銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する。当該工程を経て、基材表面は、鏡面に近い状態に研磨されることが好ましい。これは、基材となる金属板や金属ロールは、所望の精度にするために、切削や研削などの機械加工が施されていることが多く、それにより基材表面に加工目が残っており、銅めっきまたはニッケルめっきが施された状態でも、それらの加工目が残ることがあるし、また、めっきした状態で、表面が完全に平滑になるとは限らないためである。すなわち、このような深い加工目などが残った表面に後述する工程を施したとしても、各工程を施した後に形成される凹凸よりも加工目などの凹凸の方が深いことがあり、加工目などの影響が残る可能性があり、そのような金型を用いて防眩フィルムを製造した場合には、光学特性に予期できない影響を及ぼすことがある。図12(a)には、平板状の金型用基材7が、第1めっき工程において銅めっきまたはニッケルめっきをその表面に施され(当該工程で形成した銅めっきまたはニッケルめっきの層については図示せず)、さらに研磨工程によって鏡面研磨された表面8を有するようにされた状態を模式的に示している。
銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する方法については特に制限されるものではなく、機械研磨法、電解研磨法、化学研磨法のいずれも使用できる。機械研磨法としては、超仕上げ法、ラッピング、流体研磨法、バフ研磨法などが例示される。また、切削工具を用いて鏡面切削することによって、金型用基材表面7を鏡面としてもよい。その際の切削工具の材質や形状などは特に制限されるものではなく、超硬バイト、CBNバイト、セラミックバイト、ダイヤモンドバイトなどを使用することができるが、加工精度の観点からダイヤモンドバイトを用いることが好ましい。
研磨後の表面粗度は、JIS B 0601の規定に準拠した中心線平均粗さRaが0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。研磨後の中心線平均粗さRaが0.1μmより大きいと、最終的な金型表面の凹凸形状に研磨後の表面粗度の影響が残る可能性がある。また、中心線平均粗さRaの下限については特に制限されず、加工時間や加工コストなどを考慮して適宜決定される。
(iii)感光性樹脂膜形成工程
続く感光性樹脂膜形成工程では、上述した研磨工程によって鏡面研磨を施した金型用基材7の研磨された表面8に、感光性樹脂を溶媒に溶解した溶液として塗布し、加熱・乾燥することにより、感光性樹脂膜を形成する。図12(b)には、金型用基材7の研磨された表面8に感光性樹脂膜9が形成された状態を模式的に示している。
感光性樹脂としては従来公知の感光性樹脂を用いることができる。感光部分が硬化する性質をもったネガ型の感光性樹脂としては、たとえば、分子中にアクリル基またはメタアクリル基を有するアクリル酸エステルの単量体やプレポリマー、ビスアジドとジエンゴムとの混合物、ポリビニルシンナマート系化合物等を用いることができる。また、現像により感光部分が溶出し、未感光部分だけが残る性質をもったポジ型の感光性樹脂としては、たとえば、フェノール樹脂系やノボラック樹脂系等を用いることができる。また、感光性樹脂には、必要に応じて、増感剤、現像促進剤、密着性改質剤、塗布性改良剤等の各種添加剤を配合してもよい。
これらの感光性樹脂を金型用基材7の研磨された表面8に塗布する際には、良好な塗膜を形成するために、適当な溶媒に希釈して塗布することが好ましい。溶媒としては、セロソルブ系溶媒、プロピレングリコール系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、高極性溶媒等を使用することができる。
感光性樹脂溶液を塗布する方法としては、メニスカスコート、ファウンティンコート、ディップコート、回転塗布、ロール塗布、ワイヤーバー塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、およびカーテン塗布等の公知の方法を用いることができる。塗布膜の厚みは乾燥後で1〜6μmの範囲とすることが好ましい。
(iv)露光工程
続く露光工程では、上記エネルギースペクトルが0μm-1より大きく0.04μm-1以下の範囲内に極大値を持たないパターンを、上述した感光性樹脂膜形成工程で形成された感光性樹脂膜9上に露光する。露光工程に用いる光源は、塗布された感光性樹脂の感光波長や感度等に合わせて適宜選択すればよく、たとえば、高圧水銀灯のg線(波長:436nm)、高圧水銀灯のh線(波長:405nm)、高圧水銀灯のi線(波長:365nm)、半導体レーザ(波長:830nm、532nm、488nm、405nm等)、YAGレーザ(波長:1064nm)、KrFエキシマーレーザ(波長:248nm)、ArFエキシマーレーザ(波長:193nm)、F2エキシマーレーザ(波長:157nm)等を用いることができる。
金型の表面凹凸形状、ひいては防眩層の表面凹凸形状を精度良く形成するためには、露光工程において、上記パターンを感光性樹脂膜上に精密に制御された状態で露光することが好ましく、具体的には、コンピュータ上でパターンを画像データとして作成し、その画像データに基づいたパターンを、コンピュータ制御されたレーザヘッドから発するレーザ光によって描画することが好ましい。レーザ描画を行なうに際しては印刷版作成用のレーザ描画装置を使用することができる。このようなレーザ描画装置としては、たとえばLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)等が挙げられる。
図12(c)には、感光性樹脂膜9にパターンが露光された状態を模式的に示している。感光性樹脂膜をネガ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の架橋反応が進行し、後述する現像液に対する溶解性が低下する。よって、現像工程において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスクとなる。一方、感光性樹脂膜をポジ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の結合が切断され、後述する現像液に対する溶解性が増加する。よって、現像工程において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスクとなる。
(v)現像工程
続く現像工程においては、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光されていない領域11は現像液によって溶解され、露光された領域10のみ金型用基材上に残存し、続く第1エッチング工程においてマスクとして作用する。一方、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光された領域10のみ現像液によって溶解され、露光されていない領域11が金型用基材上に残存して、続く第1エッチング工程におけるマスクとして作用する。
現像工程に用いる現像液については従来公知のものを使用することができる。たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水等の無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミン等の第一アミン類、ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン等の第二アミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三アミン類、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩、ピロール、ピペリジン等の環状アミン類等のアルカリ性水溶液;および、キシレン、トルエン等の有機溶剤等を挙げることができる。
現像工程における現像方法については特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像等の方法を用いることができる。
図12(d)には、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行なった状態を模式的に示している。図12(c)において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスク12となる。図12(e)には、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行なった状態を模式的に示している。図12(c)において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスク12となる。
(vi)第1エッチング工程
続く第1エッチング工程では、上述した現像工程後に金型用基材表面上に残存した感光性樹脂膜をマスクとして用いて、主にマスクの無い箇所の金型用基材をエッチングし、研磨されためっき面に凹凸を形成する。図13は、金型の製造方法の後半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。図13(a)には第1エッチング工程によって、主にマスクの無い箇所13の金型用基材7がエッチングされる状態を模式的に示している。マスク12の下部の金型用基材7は金型用基材表面からはエッチングされないが、エッチングの進行とともにマスクの無い箇所13からのエッチングが進行する。よって、マスク12とマスクの無い箇所13との境界付近では、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされる。このようなマスク12とマスクの無い箇所13との境界付近において、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされることをサイドエッチングと呼ぶ。
第1エッチング工程におけるエッチング処理は、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH3)4Cl2)等を用いて、金属表面を腐食させることによって行なわれるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した際の金型用基材に形成される凹形状は、下地金属の種類、感光性樹脂膜の種類およびエッチング手法等によって異なるため、一概にはいえないが、エッチング量が10μm以下である場合には、エッチング液に触れている金属表面から略等方的にエッチングされる。ここでいうエッチング量とは、エッチングにより削られる基材の厚みである。
第1エッチング工程におけるエッチング量は好ましくは1〜50μmであり、より好ましくは2〜10μmである。エッチング量が1μm未満である場合には、金属表面に凹凸形状がほとんど形成されずに、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。また、エッチング量が50μmを超える場合には、金属表面に形成される凹凸形状の高低差が大きくなり、得られた金型を使用して作製した防眩フィルムを適用した画像表示装置において白ちゃけが生じる虞がある。傾斜角度が5°以下である面を95%以上含む微細凹凸表面を有する防眩フィルムを得るためには、第1エッチング工程におけるエッチング量は、2〜8μmであることがより好ましい。第1エッチング工程におけるエッチング処理は1回のエッチング処理によって行なってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行なってもよい。エッチング処理を2回以上に分けて行なう場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が上記範囲内とされることが好ましい。
(vii)感光性樹脂膜剥離工程
続く感光性樹脂膜剥離工程では、第1エッチング工程でマスクとして使用した残存する感光性樹脂膜を完全に溶解し除去する。感光性樹脂膜剥離工程では剥離液を用いて感光性樹脂膜を溶解する。剥離液としては、上述した現像液と同様のものを用いることができる。剥離液のpH、温度、濃度および浸漬時間等を変化させることによって、ネガ型の感光性樹脂膜を用いた場合には露光部の、ポジ型の感光性樹脂膜を用いた場合には非露光部の感光性樹脂膜を完全に溶解して除去する。感光性樹脂膜剥離工程における剥離方法についても特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像等の方法を用いることができる。
図13(b)は、感光性樹脂膜剥離工程によって、第1エッチング工程でマスク12として使用した感光性樹脂膜を完全に溶解し除去した状態を模式的に示している。感光性樹脂膜からなるマスク12を利用したエッチングによって、第1の表面凹凸形状15が金型用基材表面に形成されている。
(viii)第2めっき工程
続いて、形成された凹凸面(第1の表面凹凸形状15)にクロムめっきを施すことによって、表面の凹凸形状を鈍らせる。図13(c)には、第1エッチング工程のエッチング処理によって形成された第1の表面凹凸形状15にクロムめっき層16を形成することにより、第1の表面凹凸形状15よりも凹凸が鈍った表面(クロムめっきの表面17)が形成されている状態が示されている。
クロムめっきとしては、平板やロールなどの表面に、光沢があって、硬度が高く、摩擦係数が小さく、良好な離型性を与え得るクロムめっきを採用することが好ましい。このようなクロムめっきとしては特に制限されないが、いわゆる光沢クロムめっきや装飾用クロムめっきなどと呼ばれる、良好な光沢を発現するクロムめっきを用いることが好ましい。クロムめっきは通常、電解によって行なわれ、そのめっき浴としては、無水クロム酸(CrO3)と少量の硫酸を含む水溶液が用いられる。電流密度と電解時間を調節することにより、クロムめっきの厚みを制御することができる。
なお、第2めっき工程において、クロムめっき以外のめっきを施すことは好ましくない。何故なら、クロム以外のめっきでは、硬度や耐摩耗性が低くなるため、金型としての耐久性が低下し、使用中に凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりする。そのような金型から得られた防眩フィルムでは、十分な防眩機能が得られにくい可能性が高く、また、防眩フィルム上に欠陥が発生する可能性も高くなる。
また、めっき後の表面研磨も好ましくない。すなわち、第2のめっき工程後に表面を研磨する工程を設けることなく、クロムめっきが施された凹凸面を、そのまま透明支持体上の樹脂層表面に転写される金型の凹凸面として用いることが好ましい。研磨することにより、最表面に平坦な部分が生じるため、光学特性の悪化を招く可能性があること、また、形状の制御因子が増えるため、再現性のよい形状制御が困難になることなどの理由による。
このように、微細表面凹凸形状が形成された表面にクロムめっきを施すことにより、凹凸形状が鈍らせられるとともに、その表面硬度が高められた金型が得られる。この際の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、第1エッチング工程より得られた凹凸のサイズと深さ、まためっきの種類や厚みなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、やはりめっき厚みである。クロムめっきの厚みが薄いと、クロムめっき加工前に得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、めっき厚みが厚すぎると、生産性が悪くなる上に、ノジュールと呼ばれる突起状のめっき欠陥が発生してしまうため好ましくない。そこで、クロムめっきの厚みは1〜10μmの範囲内であるのが好ましく、3〜6μmの範囲内であるのがより好ましい。
当該第2めっき工程で形成されるクロムめっき層は、ビッカース硬度が800以上となるように形成されていることが好ましく、1000以上となるように形成されていることがより好ましい。クロムめっき層のビッカース硬度が800未満である場合には、金型使用時の耐久性が低下する上に、クロムめっきで硬度が低下することはめっき処理時にめっき浴組成、電解条件などに異常が発生している可能性が高く、欠陥の発生状況についても好ましくない影響を与える可能性が高いためである。
また、上述した(vii)感光性樹脂膜剥離工程と(viii)第2めっき工程との間に、第1エッチング工程によって形成された凹凸面をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含むことが好ましい。第2エッチング工程では、感光性樹脂膜をマスクとして用いた第1エッチング工程によって形成された第1の表面凹凸形状15を、エッチング処理によって鈍らせる。この第2エッチング処理によって、第1エッチング処理によって形成された第1の表面凹凸形状15における表面傾斜が急峻な部分がなくなり、得られた金型を用いて製造された防眩フィルムの光学特性が好ましい方向へと変化する。図14には、第2エッチング処理によって、金型用基材7の第1の表面凹凸形状15が鈍化し、表面傾斜が急峻な部分が鈍らされ、緩やかな表面傾斜を有する第2の表面凹凸形状18が形成された状態が示されている。
第2エッチング工程のエッチング処理も、第1エッチング工程と同様に、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH3)4Cl2)などを用い、表面を腐食させることによって行なわれるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した後の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、エッチング手法、および第1エッチング工程により得られた凹凸のサイズと深さなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、エッチング量である。ここでいうエッチング量も、第1エッチング工程と同様に、エッチングにより削られる基材の厚みである。エッチング量が小さいと、第1エッチング工程により得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、エッチング量が大きすぎると、凹凸形状がほとんどなくなってしまい、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。そこで、エッチング量は1〜50μmの範囲内とすることが好ましく、また、傾斜角度が5°以下である面を95%以上含む微細凹凸表面を有する防眩フィルムを得るために、4〜20μmの範囲内とすることがより好ましい。第2エッチング工程におけるエッチング処理についても、第1エッチング工程と同様に、1回のエッチング処理によって行なってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行なってもよい。エッチング処理を2回以上に分けて行なう場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が上記範囲内とされることが好ましい。
〔2〕偏光フィルム
次に、本発明の防眩性偏光板に用いられる偏光フィルムについて説明する。本発明においては、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向された偏光フィルムが好ましく用いられる。偏光フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルおよびこれと共重合可能な他の単量体の共重合体などが例示される。酢酸ビニルに共重合される他の単量体としては、たとえば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%、好ましくは98〜100モル%の範囲である。このポリビニルアルコール系樹脂は、さらに変性されていてもよく、たとえば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなども使用し得る。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1000〜10000、好ましくは1500〜10000の範囲である。
本発明に用いられる偏光フィルムは、このようなポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色して、その二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、ホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て、製造することができる。
一軸延伸は、二色性色素による染色の前に行なってもよいし、二色性色素による染色と同時に行なってもよいし、二色性色素による染色の後に行なってもよい。一軸延伸を二色性色素による染色後に行なう場合には、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行なってもよいし、ホウ酸処理中に行なってもよい。また勿論、これらの複数の段階で一軸延伸を行なうことも可能である。一軸延伸するには、周速の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また、大気中で延伸を行なう乾式延伸であってもよいし、溶剤により膨潤した状態で延伸を行なう湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常4〜8倍程度である。
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色するには、たとえば、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬すればよい。二色性色素として、具体的にはヨウ素または二色性染料が用いられる。
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は、通常、ヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は通常、水100重量部あたり0.01〜0.5重量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は通常、水100重量部あたり0.5〜10重量部程度である。この水溶液の温度は、通常20〜40℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間は、通常30〜300秒程度である。
一方、二色性色素として二色性染料を用いる場合は、通常、水溶性二色性染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性染料の含有量は通常、水100重量部あたり0.001〜0.01重量部程度である。この水溶液は、硫酸ナトリウムなどの無機塩を含有していてもよい。この水溶液の温度は、通常20〜80℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間は、通常30〜300秒程度である。
二色性色素による染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に浸漬することにより行なわれる。ホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は通常、水100重量部あたり2〜15重量部程度、好ましくは5〜12重量部程度である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合には、このホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましい。ホウ酸水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は通常、水100重量部あたり2〜20重量部程度、好ましくは5〜15重量部である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、通常100〜1200秒程度、好ましくは150〜600秒程度、さらに好ましくは200〜400秒程度である。ホウ酸水溶液の温度は、通常50℃以上であり、好ましくは50〜85℃である。
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、通常、水洗処理される。水洗処理は、たとえば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行なわれる。水洗後は乾燥処理が施されて、偏光フィルムが得られる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度であり、浸漬時間は、通常2〜120秒程度である。その後に行なわれる乾燥処理は、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行なうことができる。乾燥温度は、通常40〜100℃である。乾燥処理における処理時間は、通常120〜600秒程度である。
こうして、ヨウ素または二色性染料が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムが得られる。偏光フィルムの厚みは、たとえば、1〜50μm程度とすることができる。この偏光フィルムは、上記した防眩フィルムの透明支持体に、後述するエポキシ系樹脂を含有する硬化性組成物からなる接着剤(第1の接着剤層を形成する接着剤)を用いて貼合される。
〔3〕保護フィルム
本発明の防眩性偏光板においては、機械強度の観点から、偏光フィルムの防眩フィルムが貼合されている側とは反対側の面に、後述する第2の接着剤層を介して保護フィルムが貼合されていることが好ましい。保護フィルムとしては、透明樹脂フィルムが好ましく用いられる。透明樹脂フィルムの具体例を挙げれば、たとえば、トリアセチルセルロースフィルム、非晶性ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂フィルム、ポリサルホン系樹脂フィルム、脂環式ポリイミド系樹脂フィルムなどである。なかでも、トリアセチルセルロースフィルムもしくは非晶性ポリオレフィン系樹脂フィルムが特に好ましく用いられる。
非晶性ポリオレフィン系樹脂は、通常、ノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマーのような環状オレフィンの重合単位を有するものであり、環状オレフィンと鎖状オレフィンとの共重合体であってもよい。なかでも、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂が代表的である。非晶性ポリオレフィン系樹脂には、極性基が導入されていてもよい。市販されている非晶性ポリオレフィン系樹脂としては、たとえば、アートン(JSR(株)製)、ゼオノア(日本ゼオン(株)製)、ゼオネックス(日本ゼオン(株)製)、APO(三井化学(株)製)、アペル(三井化学(株)製)などが挙げられる。このような市販品の非晶性ポリオレフィン系樹脂を用いる場合、当該非晶性ポリオレフィン系樹脂を、溶剤キャスト法、溶融押出法等の公知の方法により製膜してフィルムとすることができる。
保護フィルムの厚みは、通常、5〜200μm程度の範囲であり、好ましくは10〜120μm、さらに好ましくは10〜85μmである。
〔4〕光学補償層
本発明の防眩性偏光板においては、上記保護フィルムの代わりに、偏光フィルムの防眩フィルムが貼合されている側とは反対側の面に、後述する第2の接着剤層を介して積層された光学補償層を備えることも好ましい。あるいは、この光学補償層は、偏光フィルムの防眩フィルムが貼合されている側とは反対側の面に貼合された上記保護フィルム上に積層されてもよい。光学補償層は、位相差の補償などを目的とする層(フィルムを含む)であり、位相差の補償を目的とする光学補償層は「位相差板(あるいは位相差フィルム)」とも呼ばれる。
光学補償層としては、たとえば、透明樹脂の延伸フィルムなどからなる複屈折性フィルム;ディスコティック液晶やネマチック液晶が配向固定されたフィルム;基材フィルム上にディスコティック液晶やネマチック液晶からなる液晶層が形成されたものなどの光学補償フィルムが挙げられる。なかでも、コスト、耐久性などの観点から、透明樹脂の延伸フィルムなどからなる複屈折性フィルムが好ましく用いられる。当該複屈折性フィルムは、高い耐久性を有することから、保護フィルムとしての機能を兼備しており、したがって、当該複屈折性フィルムを用いる場合には、別途の保護フィルムを省略することができる。
偏光フィルムに積層される光学補償層は一層のみであってもよいし、複数層であってもよい。複数の光学補償層を設ける場合には、同種の光学補償層を積層してもよいし、異種の光学補償層を積層してもよい。たとえば、透明樹脂の延伸フィルムからなる複屈折性フィルムにさらに別の透明樹脂の延伸フィルムからなる複屈折性フィルムを、粘着剤層を介して積層してもよいし、透明樹脂の延伸フィルムからなる複屈折性フィルムにディスコティック液晶やネマチック液晶を配向固定してもよい。
上記複屈折性フィルムを構成する透明樹脂としては、たとえば、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリアリレート、ポリアミド、非晶性ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。延伸フィルムは、一軸や二軸などの適宜な方式で処理したものであってよい。また、上記透明樹脂からなるフィルムに熱収縮性フィルムを貼合した状態で収縮力および/または延伸力を加えることによってフィルムの厚み方向の屈折率を制御した複屈折性フィルムを光学補償フィルムとして用いることもできる。
光学補償層を保護フィルム上に積層させる場合、接着作業の簡便性や光学歪の発生防止などの観点から、光学補償層と保護フィルムとの貼合は、粘着剤(感圧接着剤とも呼ばれる)を用いて行なうことが好ましい。粘着剤としては、アクリル系重合体、シリコーン系重合体、ポリエステル、ポリウレタンまたはポリエーテルなどをベースポリマーとする粘着剤組成物を用いることができる。なかでも、光学的な透明性に優れ、適度な濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらには耐候性や耐熱性などを有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれなどの剥離問題を生じないアクリル系粘着剤(アクリル系重合体をベースポリマーとする粘着剤)を用いることが好ましい。アクリル系粘着剤のベースポリマーとしては、メチル基、エチル基、ブチル基などの炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどの官能基含有アクリル系モノマーとのアクリル系共重合体であって、ガラス転移温度が25℃以下(好ましくは0℃以下)、重量平均分子量が10万以上のアクリル系共重合体が好ましく用いられる。
粘着剤を用いた光学補償層と保護フィルムとの貼合は、保護フィルムまたは光学補償層上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層を介して他方の被貼合物(光学補償層または保護フィルム)を積層、貼合することにより行なわれる。粘着剤層の形成は、たとえば、トルエンや酢酸エチルなどの有機溶媒に粘着剤組成物を溶解または分散させて10〜40重量%の溶液を調製し、これを保護フィルムまたは光学補償層上に直接塗工して粘着剤層を形成する方式や、予めプロテクトフィルム上に粘着剤層を形成しておき、それを保護フィルムまたは光学補償層上に移着することで粘着剤層を形成する方式などにより行なうことができる。粘着剤層の厚みは、その接着力などに応じて決定されるが、1〜50μm程度の範囲が適当である。
粘着剤層には、必要に応じて、ガラス繊維、ガラスビーズ、樹脂ビーズ、金属粉、その他の無機粉末などの充填剤、顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが配合されていてもよい。紫外線吸収剤としては、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。
光学補償層が、保護フィルムを介することなく直接、偏光フィルム上に積層される場合には、光学補償層と偏光フィルムとの貼合は、接着剤を用いてなされる。この接着剤は第2の接着剤層を形成するものである。
次に、本発明の防眩性偏光板が備え得る位相差板としての光学補償層または保護フィルムと、該防眩性偏光板が適用される液晶表示装置が備える液晶セルの駆動モードとの関係について詳細に説明する。本発明の防眩性偏光板が備え得る位相差板または保護フィルムの好ましい態様は、適用する液晶表示装置が備える液晶セルの駆動モードに依存する。液晶セルの駆動モードには、垂直配向(Vertical Alignment:VA)モード、横電界(In−Plane Switching:IPS)モード、ねじれネマチック(Twisted Nematic:TN)モードなどがある。
(垂直配向モード)
垂直配向モードは、非駆動状態においては、液晶分子が基板に対して垂直に配向するため、光は偏光の変化を伴わずに液晶層を通過する。このため、液晶セルの上下に互いに偏光軸が直交するように直線偏光板を配設することで、正面から見た場合にほぼ完全な黒表示を得ることができ、高いコントラスト比を得ることができる。しかしながら、このような液晶セルに直線偏光板のみを配設した垂直配向モードの液晶表示装置では、それを斜めから見た場合に、配設された直線偏光板の軸角度が90°からずれてしまうことと、液晶セル内の棒状の液晶分子が複屈折を発現することに起因して、光漏れが生じ、コントラスト比が著しく低下してしまう。
垂直配向モードの液晶表示装置において、このような光漏れを解消するためには、液晶セルと直線偏光板との間に位相差板を配設する必要がある。垂直配向モードでは、上述したとおり、黒表示状態では液晶分子が基板に対して垂直に配向するため、当該液晶層は、液晶セルの面内遅相軸方向の屈折率をnx、液晶セルの面内進相軸方向の屈折率をny、液晶セルの厚み方向の屈折率をnzとしたとき、nx=ny<nzの関係を示すポジティブC−プレートとみなすことができる。このため、偏光フィルムと液晶セルとの間に、フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、フィルムの面内進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとしたときに、nx>ny=nzの関係を示すポジティブA−プレートおよびnx=ny>nzの関係を示すネガティブC−プレートの双方を配置すれば好適に光漏れを解消できることが知られている。また、特開2007−256766号公報には、nx>ny≧nzの関係を有する第一の位相差板を、その遅相軸を、隣接する偏光フィルムの透過軸とほぼ平行関係またはほぼ直交関係になるように配置し、該第一の位相差板とセル基板の間または他方のセル基板とそれに向かい合う偏光フィルムの間には、nx≒ny>nzの関係を有する第二の位相差板を配置することが記載されている。
本発明の防眩性偏光板を垂直配向モードの液晶表示装置に用いる場合には、偏光フィルムの防眩フィルムが貼合された側とは反対側に、上述した構成となるように位相差板を適宜配置することが好ましい。本発明の防眩性偏光板を垂直配向モードの液晶表示装置に適用する場合における、コスト、生産性、防眩性偏光板の耐久性等に鑑みた本発明の防眩性偏光板の好ましい実施態様の一例は、偏光フィルムの防眩フィルムが貼合されている側とは反対側の面に、後述する第2の接着剤層を介してnx>ny≧nzの関係を有する第一の位相差板を積層し、この第一の位相差板上に粘着剤層などを介してnx≒ny>nzの関係を有する第二の位相差板を積層する構成である。nx>ny≧nzの関係を有する第一の位相差板は、正の屈折率異方性を有する透明樹脂からなるフィルムを、適当な条件下で一軸または二軸延伸することにより得ることができる。正の屈折率異方性を有する透明樹脂としては、トリアセチルセルロースなどのアシル化セルロースに代表されるセルロース系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネートなどを使用することができる。ここで、環状オレフィン系樹脂は、ノルボルネンやジメタノオクタヒドロナフタレンのような環状オレフィンをモノマーとする樹脂であり、市販品としては、アートン(JSR(株)製)、ゼオノア(日本ゼオン(株)製)、ゼオネックス(日本ゼオン(株)製)などがある。これらの透明樹脂のなかでも、光弾性係数が小さく、使用条件下における熱歪による面内特性ムラの発生などが少ないことから、トリアセチルセルロースまたは環状オレフィン系樹脂が好適に用いられる。
nx≒ny>nzの関係を有する第二の位相差板としては、たとえば、ディスコティック液晶を基材フィルム上に塗布したもの、コレステリック液晶を短ピッチで基材フィルム上に塗布したもの、マイカなどの無機層状化合物の層を基材フィルム上に形成したもの、透明樹脂フィルムを逐次または同時二軸延伸したもの、未延伸の溶剤キャストフィルムなどを挙げることができる。nx≒ny>nzの関係を有する市販の位相差板としては、たとえば「VACフィルム」(住友化学(株)製)、「フジタックフィルム」(富士写真フイルム(株)製)などがある。この第二の位相差板は、nx≒ny、したがって、面内の位相差値R0がほぼゼロであるため、たとえ多少のR0値を有する場合でも、その遅相軸の軸角度を特に規定する必要はない。
なお、面内の位相差値R0と厚み方向の位相差値Rthは、フィルム(位相差板)の面内遅相軸方向の屈折率をnx、フィルムの面内進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnz、フィルムの厚みをdとしたとき、それぞれ下式(a)および(b)で定義される。
R0=(nx−ny)×d (a)
Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (b)
このようなフィルム(位相差板)の位相差値は、たとえば、粘着剤を介して測定対象のフィルムをガラス板に貼合した状態で、市販の位相差測定装置(KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)など)を用いて直接測定することができる。このような位相差測定装置では、たとえば波長559nmの単色光を用いた回転検光子法により、そのフィルムの面内の位相差R0を測定し、一方で、そのフィルムの面内遅相軸を傾斜軸として40度傾斜させたときの位相差値R40を測定し、測定された位相差値R40、フィルムの厚みdおよびフィルムの平均屈折率n0を用いてnx、nyおよびnzを求め、これらの値から上記式(b)に基づいて、厚み方向の位相差値Rthを算出するようになっている。
(IPSモード)
IPSモードは、基板面に平行に電圧を印加する横電界で液晶分子の配向状態を変化させるものであり、電圧無印加の状態において、液晶分子は基板面に平行に配向する。このようなIPSモードの液晶表示装置において、液晶セルを挟んで偏光板のみを配設した構成では、それを斜めから見た場合に、配設された直線偏光板の軸角度が90°からずれてしまうことと、液晶セル内の棒状の液晶分子が複屈折を発現することに起因して、光漏れが生じ、コントラスト比が著しく低下してしまう。
IPSモードの液晶表示装置において、このような光漏れを解消するためには、液晶セルと偏光フィルムとの間に位相差板を配設する必要がある。IPSモードの液晶表示装置における視角変化による液晶層の複屈折変化を補償するためには、光学的に負の一軸性で、その光学軸がフィルム面に対して平行である位相差板や、厚み方向に配向した位相差板が有効であることが知られている。たとえば、特開平10−54982号公報には、IPSモードの液晶表示装置において、液晶セルと少なくとも一方の偏光板との間に、光学的に負の一軸性でその光学軸がフィルム面に対して平行である光学補償フィルムを配置することが記載されている。また、特開平11−133408号公報には、IPSモードの液晶表示装置における一対の偏光板の間、すなわち、液晶セルと偏光板との間に、正の一軸性で基板面に垂直な方向に光学軸を有する光学補償層を配置することが記載されている。また、特開2005−309110号公報では、IPSモードの液晶表示装置において、液晶セルと上下一対の偏光板との間に、それぞれ面内位相差値の異なる光学補償フィルム(位相差板)を配置することが開示されている。また、特開2006−235576号公報には、背面側偏光フィルムと液晶セルとの間に、背面側偏光フィルムの液晶セル側表面から液晶セルの背面側基板表面までの間に存在する位相差板を含む複屈折層の厚み方向の位相差値Rthの和が−40nmから+40nmの範囲にあり、かつ、それらの面内の位相差値R0の和が100nmから200nmの範囲にある位相差板を少なくとも1枚配置し、前面側偏光板には、偏光フィルムと、少なくともその液晶セルに向かい合う側と反対側に設けられた視認側透明保護層とを備え、偏光フィルムの液晶セル側表面から液晶セルの前面側基板表面までの間の厚み方向の位相差値Rthが−10nmから+40nmの範囲にある偏光板を用いることが記載されている。
また、樹脂フィルムを厚み方向に配向させる方法として、たとえば特開平7−230007号公報には、一軸延伸された熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、熱収縮性を有するフィルムを、その熱収縮性フィルムの熱収縮方向が一軸延伸された熱可塑性樹脂フィルムの延伸軸方向と直交するように貼合し、熱収縮させた後、熱収縮性フィルムを剥離除去する方法が開示されている。
本発明の防眩性偏光板をIPSモードの液晶表示装置に用いる場合には、偏光フィルムの防眩フィルムが貼合された側とは反対側に、上述した構成となるように保護フィルムもしくは位相差板を適宜配置することが好ましい。本発明の防眩性偏光板をIPSモードの液晶表示装置に適用する場合における本発明の防眩性偏光板の好ましい実施態様の一例は、偏光フィルムの防眩フィルムが貼合されている側とは反対側の面に、後述する第2の接着剤層を介して厚み方向の位相差値Rthが−10nmから+40nmの範囲である保護フィルムを積層する構成である。このような厚み方向の位相差値Rthが−10nmから+40nmの範囲である保護フィルムとしては、市場から入手できる、実質的に無配向で厚み方向の位相差値Rthが10nm以下、さらには5nm以下である環状オレフィン系樹脂フィルム、トリアセチルセルロースなどのセルロースアセテート系樹脂フィルムなどが挙げられる。さらに、トリアセチルセルロースなどのセルロースアセテート系樹脂フィルムの溶剤キャストフィルムであっても、薄肉のものは、厚み方向の位相差値Rthが40nm以下となる。
本発明の防眩性偏光板が厚み方向の位相差値Rthが−10nmから+40nmの範囲である保護フィルムを備える場合には、上述のように、背面側偏光板の偏光フィルムの液晶セル側表面から液晶セルの背面側基板表面までの間に存在する複屈折層の厚み方向の位相差値Rthの和を−40nmから+40nmの範囲とし、かつ、それらの面内の位相差値R0の和を100nmから200nmの範囲とすることが好ましい。このような複屈折層といしては、たとえば、一軸延伸されるとともに厚み方向にも配向された熱可塑性樹脂フィルム;負の屈折率異方性を有する熱可塑性樹脂フィルム(ポリスチレンフィルムなど)を一軸または二軸延伸して得られるいわゆるネガティブA−プレート(二軸性でもよい);正の一軸性を有し、光学軸がフィルム法線方向にあるいわゆるポジティブC−プレートに、負の一軸性を有し、光学軸がフィルム面に平行な方向にあるいわゆるネガティブA−プレートを積層したものなどを挙げることができる。
(TNモード)
TNモードは、基板面に垂直に電圧を印加する縦電界で液晶分子の配向状態を変化させるものである。TNモードにおいて液晶分子は、一方の基板からもう一方の基板に追跡したとき、電圧無印加の状態における液晶配向が、各部分において基板に平行な面内を向きながら上下基板間で90度ねじれた(ツイストした)状態となるように、基板面に平行に配向する。
従来のTN型液晶表示装置では、液晶セル内の液晶物質のプレチルトに起因する屈折率の異方性により、視野角特性が十分なものではなかった。そこで、特開平6−214116号公報には、負の一軸性を示し、その光学軸がフィルム面に対して斜め方向となるように配置された光学異方性層を、TN型液晶表示装置における液晶セルと偏光板との間に配置することが開示されている。また、特開平10−186356号公報には、正の一軸性を示す液晶性高分子が液晶状態において形成したネマティックハイブリッド配向を固定化してなる光学補償フィルムが開示されており、この光学補償フィルムをTN型液晶表示装置に適用して、視野角の拡大を図ることも開示されている。このような、光学軸がフィルム面に対して斜め方向にある光学異方性層を光学補償フィルム(位相差板)として用いることにより、TN型液晶表示装置における視野角の改良がなされている。
本発明の防眩性偏光板をTNモードの液晶表示装置に用いる場合には、偏光フィルムの防眩フィルムが貼合された側とは反対側に、上述したような光学補償フィルム(位相差板)を適宜配置することが好ましい。本発明の防眩性偏光板をTNモードの液晶表示装置に適用する場合における本発明の防眩性偏光板の好ましい実施態様の一例は、偏光フィルムの防眩フィルムが貼合されている側とは反対側の面に、後述する第2の接着剤層を介して保護フィルムを積層し、この保護フィルム上に位相差板としての上記光学異方性層を積層する構成である。保護フィルムと位相差板との貼合は、アクリル系粘着剤等の粘着剤を用いて行なわれることが好ましい。ただし、光学異方性層は偏光フィルム上に直接積層することもできる。光学異方性層としては、光学的に負の一軸性で、その光学軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜している光学異方性層や、光学的に正の一軸性で、その光学軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜している光学異方性層が好適である。
光学的に負の一軸性で、その光学軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜している光学異方性層としては、たとえば、特開平6−214116号公報に記載されるような、有機化合物、なかでも液晶性を示し、円盤状の分子構造を有する化合物や、液晶性を示さないが、電界または磁界により負の屈折率異方性を発現する化合物が、トリアセチルセルロースなどからなる透明樹脂フィルム上に塗布され、光学軸がフィルム法線方向から5〜50°の間で傾斜するように配向されたフィルムなどが好ましく用いられる。配向は、一方向のみならず、たとえば、フィルムの片面から他面に向かって順次傾きが大きくなる、いわゆるハイブリッド配向であってもよい。
液晶性を示す円盤状の分子構造を有する有機化合物としては、低分子または高分子のディスコティック液晶、たとえば、トリフェニレン、トルクセン、ベンゼンなどの平面構造を有する母核に、アルキル基、アルコキシ基、アルキル置換ベンゾイルオキシ基、アルコキシ置換ベンゾイルオキシ基などの直鎖状の置換基が放射状に結合したものが例示される。なかでも、可視光領域に吸収を示さないものが好ましい。
円盤状の分子構造を有する有機化合物は、1種類を単独で用いるのみならず、所望の配向を得るために、必要に応じて複数種を併用したり、あるいは高分子マトリクスなど、他の有機化合物と混合して用いることができる。混合して用いる有機化合物としては、円盤状の分子構造を有する有機化合物と相溶性を有するか、円盤状の分子構造を有する有機化合物を、光を散乱しない程度の粒径に分散できるものであれば特に限定されない。セルロース系樹脂からなる透明基材フィルムに、かかる液晶性化合物からなる層が設けられ、光学軸がフィルム法線に対して傾斜しているフィルムとしては、たとえば、WVフィルム(富士写真フイルム(株)製)を好適に用いることができる。
また、光学的に正の一軸性で、その光学軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜している光学異方性層としては、たとえば、特開平10−186356号公報に記載されるような、細長い棒状構造を有する有機化合物、なかでもネマティック液晶性を示し、正の光学異方性を与える分子構造を有する化合物や、液晶性を示さないが、電界または磁界により正の屈折率異方性を発現する化合物が、セルロース系樹脂などからなる透明基材フィルム上に製膜され、光学軸がフィルム法線方向から5〜50°の間で傾斜するように配向されたフィルムが挙げられる。配向は、一方向のみならず、たとえば、フィルムの片面から他面に向かって順次傾きが大きくなる、いわゆるハイブリッド配向であってもよい。透明基材フィルムにネマティック液晶化合物からなる層が設けられ、光学軸がフィルム法線に対して傾斜しているフィルムとしては、たとえば、NHフィルム(新日本石油(株)製)を好適に用いることができる。
また、真空蒸着により薄膜の形成が可能で、蒸着を行なったときに正の屈折率異方性を発現する誘電体を、透明基材フィルム上に、その法線に対して傾斜した方向から蒸着することにより、光学的に正の一軸性で、その光学軸がフィルムの法線方向から5〜50゜傾斜している光学異方性層を得ることもできる。このために用いられる誘電体は、無機化合物からなる誘電体、有機化合物からなる誘電体のいずれでもよいが、真空蒸着時に作用する熱に対する安定性の点で、無機誘電体が好ましく用いられる。無機誘電体としては、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化タングステン(WO3)、二酸化ケイ素(SiO2)、一酸化ケイ素(SiO)、酸化ビスマス(Bi2O5)、酸化ネオジム(Nd2O3)などの金属酸化物が、透明性に優れるなどの点で好ましく用いられる。金属酸化物の中でも、酸化タンタル、酸化タングステン、酸化ビスマスなど、屈折率異方性が発現しやすく、かつ膜質の硬いものが、より好ましく用いられる。
このような透明基材フィルム上に屈折率異方性を発現する誘電体の層を積層した光学異方性層を用いる場合は、当該光学異方性層は、その透明基材フィルム側が偏光フィルムまたはこれに貼合された保護フィルムに対向するように、偏光フィルムまたは保護フィルム上に積層される。
なお、TNモードにおいては、視野角特性および表示特性をより向上させるために、液晶セルを挟んで対となる背面側偏光板にも光学異方性層を配置するのが好ましい。背面側偏光板に設けられる光学異方性層としては、先に説明したような、光学的に負の一軸性でその光学軸がフィルムの法線方向から5〜50゜の間で傾斜している光学異方性層を好ましく用いることができる。
〔5〕接着剤層
本発明では、図1に示されるように、防眩フィルム1は、第1の接着剤層103aを介して偏光フィルム104の一方の面に積層される。また、保護フィルムまたは光学補償層105を積層する場合、これらは第2の接着剤層103bを介して偏光フィルム104の他方の面に積層される。
本発明においては、第1の接着剤層を形成する接着剤として、エポキシ系樹脂を含有する(好ましくはこれを主成分として含有する)硬化性組成物が用いられる。かかる硬化性組成物の使用により、得られる防眩性偏光板の耐水性を向上させることができるとともに、防眩フィルムと偏光フィルムとの間の高い接着強度が得られるため、防眩性偏光板の耐久性を向上させることができる。第2の接着剤層を形成する接着剤は、第1の接着剤層を形成する接着剤と同種のものであってもよいし、異種のものであってもよいが、接着性および耐久性の観点から、第1の接着剤層と同様、エポキシ系樹脂を含有する(好ましくはこれを主成分として含有する)硬化性組成物を用いることが好ましい。ここで、エポキシ系樹脂とは、分子中に平均2個以上のエポキシ基を有し、反応により硬化する化合物をいい、ポリマーのほか、オリゴマーおよびモノマーを含む。
上記硬化性組成物からなる接着剤を用いた防眩フィルムと偏光フィルムとの接着、偏光フィルムと保護フィルムまたは光学補償層との接着は、貼合されるフィルム間に介在する当該接着剤の塗布層に対して、活性エネルギー線を照射するか、または加熱し、接着剤に含有される硬化性のエポキシ系樹脂を硬化させることにより行なうことができる。この活性エネルギー線の照射または加熱によるエポキシ系樹脂の硬化は、好ましくは、カチオン重合により行なわれる。なお、活性エネルギー線とは、可視光線、紫外線、X線、電子線などを含む概念である。
耐候性、屈折率、カチオン重合性などの観点から、接着剤である硬化性組成物に含有されるエポキシ系樹脂としては、水素化エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂などが例示できる。
水素化エポキシ化合物は、芳香族エポキシ樹脂の原料となる芳香族ポリヒドロキシ化合物を触媒の存在下、加圧下で選択的に核水素化反応を行ない、次いでグリシジルエーテル化することにより得ることができる。芳香族エポキシ樹脂としては、たとえば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェールFのジグリシジルエーテル、およびビスフェノールSのジグリシジルエーテル等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂、およびヒドロキシベンズアルデヒドフェノールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型のエポキシ樹脂;テトラヒドロキシフェニルメタンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、およびエポキシ化ポリビニルフェノール等の多官能型のエポキシ樹脂などが挙げられる。これら芳香族エポキシ樹脂の原料である、たとえばビスフェノール類等の芳香族ポリヒドロキシ化合物に、上記のような核水素化反応を施し、次いでエピクロロヒドリンを反応させれば、水素化エポキシ化合物が得られる。なかでも、水素化エポキシ化合物としては、水素化したビスフェノールAのグリシジルエーテルが好適である。
脂環式エポキシ樹脂とは、脂環式環に結合したエポキシ基を分子内に1個以上有するエポキシ樹脂を意味する。「脂環式環に結合したエポキシ基」とは、次式に示される構造における橋かけの酸素原子−O−を意味し、次式中、mは2〜5の整数である。
上記式における(CH2)m中の1個または複数個の水素原子を取り除いた形の基が他の化学構造に結合している化合物が、脂環式エポキシ化合物となり得る。(CH2)m中の1個または複数個の水素原子は、メチル基やエチル基等の直鎖状アルキル基で適宜置換されていてもよい。脂環式エポキシ樹脂の中でも、オキサビシクロヘキサン環(上記式においてm=3のもの)や、オキサビシクロヘプタン環(上記式においてm=4のもの)を有するものは、優れた接着性を示すことから好ましく用いられる。以下に、好ましく用いられる脂環式エポキシ樹脂を具体的に例示するが、これらの化合物に限定されるものではない。
(a)次式(I)で示されるエポキシシクロヘキシルメチルエポキシシクロヘキサンカルボキシレート類:
(式中、R1およびR2は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
(b)次式(II)で示されるアルカンジオールのエポキシシクロヘキサンカルボキシレート類:
(式中、R3およびR4は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、nは2〜20の整数を表す)。
(c)次式(III)で示されるジカルボン酸のエポキシシクロヘキシルメチルエステル類:
(式中、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、pは2〜20の整数を表す)。
(d)次式(IV)で示されるポリエチレングリコールのエポキシシクロヘキシルメチルエーテル類:
(式中、R7およびR8は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、qは2〜10の整数を表す)。
(e)次式(V)で示されるアルカンジオールのエポキシシクロヘキシルメチルエーテル類:
(式中、R9およびR10は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表し、rは2〜20の整数を表す)。
(f)次式(VI)で示されるジエポキシトリスピロ化合物:
(式中、R11およびR12は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
(g)次式(VII)で示されるジエポキシモノスピロ化合物:
(式中、R13およびR14は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
(h)次式(VIII)で示されるビニルシクロヘキセンジエポキシド類:
(式中、R15は、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
(i)次式(IX)で示されるエポキシシクロペンチルエーテル類:
(式中、R16およびR17は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
(j)次式(X)で示されるジエポキシトリシクロデカン類:
(式中、R18は、水素原子または炭素数1〜5の直鎖状アルキル基を表す)。
ここに例示した脂環式エポキシ樹脂の中でも、次の脂環式エポキシ樹脂は、入手が比較的容易であるなどの理由から、より好ましく用いられる。
(A)7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン−3−カルボン酸と(7−オキサ−ビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メタノールとのエステル化物〔式(I)において、R1=R2=Hの化合物〕、
(B)4−メチル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン−3−カルボン酸と(4−メチル−7−オキサ−ビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メタノールとのエステル化物〔式(I)において、R1=4−CH3、R2=4−CH3の化合物〕、
(C)7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン−3−カルボン酸と1,2−エタンジオールとのエステル化物〔式(II)において、R3=R4=H、n=2の化合物〕、
(D)(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メタノールとアジピン酸とのエステル化物〔式(III)において、R5=R6=H、p=4の化合物〕、
(E)(4−メチル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メタノールとアジピン酸とのエステル化物〔式(III)において、R5=4−CH3、R6=4−CH3、p=4の化合物〕、
(F)(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)メタノールと1,2−エタンジオールとのエーテル化物〔式(V)において、R9=R10=H、r=2の化合物〕。
また、脂肪族エポキシ樹脂としては、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルを挙げることができる。より具体的には、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル;1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル;グリセリンのトリグリシジルエーテル;トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル;ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル;プロピレングリコールのジグリシジルエーテル;エチレングリコール、プロピレングリコール、およびグリセリン等の脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなど)を付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
ここに例示したエポキシ系樹脂は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
エポキシ系樹脂のエポキシ当量は、通常30〜3000g/当量であり、好ましくは50〜1500g/当量の範囲内である。エポキシ当量が30g/当量を下回ると、硬化後の防眩性偏光板の可撓性が低下したり、接着強度が低下したりする可能性がある。一方、3000g/当量を超えると、接着剤に含有される他の成分との相溶性が低下する可能性がある。
反応性の観点から、エポキシ系樹脂の硬化反応としてカチオン重合が好ましく用いられる。そのためには、接着剤である硬化性組成物は、カチオン重合開始剤を含有することが好ましい。カチオン重合開始剤は、可視光線、紫外線、X線、および電子線等の活性エネルギー線の照射または加熱によって、カチオン種またはルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させる。いずれのタイプのカチオン重合開始剤であっても、潜在性が付与されていることが、作業性の観点から好ましい。以下、活性エネルギー線の照射によりカチオン種またはルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるカチオン重合開始剤を「光カチオン重合開始剤」といい、熱によりカチオン種またはルイス酸を発生し、エポキシ基の重合反応を開始させるカチオン重合開始剤を「熱カチオン重合開始剤」という。
光カチオン重合開始剤を用い、活性エネルギー線の照射により接着剤の硬化を行なう方法は、常温での硬化が可能となり、偏光フィルムの耐熱性または膨張による歪を考慮する必要が減少し、防眩フィルム(および保護フィルムまたは光学補償層)と偏光フィルムとを良好に接着できる点において有利である。また、光カチオン重合開始剤は、光で触媒的に作用するため、エポキシ系樹脂に混合しても保存安定性や作業性に優れる。光カチオン重合開始剤としては、たとえば、芳香族ジアゾニウム塩;芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩;鉄−アレン錯体などを挙げることができる。
芳香族ジアゾニウム塩としては、たとえば、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロホスフェート、ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロボレートなどが挙げられる。
芳香族ヨードニウム塩としては、たとえば、ジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、ジ(4−ノニルフェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられる。
芳香族スルホニウム塩としては、たとえば、トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4,4’−ビス(ジフェニルスルホニオ)ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、4,4’−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロアンチモネート、4,4’−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントン ヘキサフルオロアンチモネート、7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントン テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4−フェニルカルボニル−4’−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロホスフェート、4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4’−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロアンチモネート、4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4’−ジ(p−トルイル)スルホニオ−ジフェニルスルフィド テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。
また、鉄−アレン錯体としては、たとえば、キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II)ヘキサフルオロアンチモネート、クメン−シクロペンタジエニル鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート、キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II)−トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタナイドなどが挙げられる。
これらの光カチオン重合開始剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。これらのなかでも、特に芳香族スルホニウム塩は、300nm以上の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械強度や接着強度を有する硬化物を与えることができるため、好ましく用いられる。
これらの光カチオン重合開始剤は、市販品を容易に入手することが可能であり、たとえば、それぞれ商品名で、「カヤラッド PCI−220」および「カヤラッド PCI−620」(以上、日本化薬株式会社製)、「UVI−6990」(ユニオンカーバイド社製)、「アデカオプトマー SP−150」および「アデカオプトマー SP−170」(以上、株式会社ADEKA製)、「CI−5102」、「CIT−1370」、「CIT−1682」、「CIP−1866S」、「CIP−2048S」および「CIP−2064S」(以上、日本曹達株式会社製)、「DPI−101」、「DPI−102」、「DPI−103」、「DPI−105」、「MPI−103」、「MPI−105」、「BBI−101」、「BBI−102」、「BBI−103」、「BBI−105」、「TPS−101」、「TPS−102」、「TPS−103」、「TPS−105」、「MDS−103」、「MDS−105」、「DTS−102」および「DTS−103」(以上、みどり化学株式会社製)、ならびに「PI−2074」(ローディア社製)などを挙げることができる。
光カチオン重合開始剤の配合量は、エポキシ系樹脂100重量部に対して、通常0.5〜20重量部であり、好ましくは1重量部以上、また好ましくは15重量部以下である。光カチオン重合開始剤の配合量が、エポキシ系樹脂100重量部に対して0.5重量部を下回ると、硬化が不十分になり、硬化物の機械強度や接着強度が低下する傾向にある。また、光カチオン重合開始剤の配合量が、エポキシ系樹脂100重量部に対して、20重量部を超えると、硬化物中のイオン性物質が増加することで硬化物の吸湿性が高くなり、耐久性能が低下する可能性がある。
光カチオン重合開始剤を用いる場合、硬化性組成物は、必要に応じて、さらに光増感剤を含有することができる。光増感剤を用いることで、カチオン重合の反応性が向上し、硬化物の機械強度や接着強度を向上させることができる。光増感剤としては、たとえば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾおよびジアゾ化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素などが挙げられる。
光増感剤のより具体的な例としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、およびα,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン等のベンゾイン誘導体;ベンゾフェノン、2,4−ジクロロベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、および4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体;2−クロロチオキサントン、および2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体;2−クロロアントラキノン、および2−メチルアントラキノン等のアントラキノン誘導体;N−メチルアクリドン、およびN−ブチルアクリドン等のアクリドン誘導体;その他、α,α−ジエトキシアセトフェノン、ベンジル、フルオレノン、キサントン、ウラニル化合物、ハロゲン化合物などが挙げられる。これらの光増感剤は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。光増感剤は、硬化性組成物100重量部中に、0.1〜20重量部の範囲内で含有されることが好ましい。
一方、熱カチオン重合開始剤としては、ベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミドなどを挙げることができる。これらの熱カチオン重合開始剤は、市販品を容易に入手することが可能であり、たとえば、いずれも商品名で、「アデカオプトンCP77」および「アデカオプトンCP66」(以上、株式会社ADEKA製)、「CI−2639」および「CI−2624」(以上、日本曹達株式会社製)、「サンエイドSI−60L」、「サンエイドSI−80L」および「サンエイドSI−100L」(以上、三新化学工業株式会社製)などが挙げられる。
接着剤に含有されるエポキシ系樹脂は、光カチオン重合または熱カチオン重合のいずれかにより硬化してもよいし、光カチオン重合および熱カチオン重合の双方により硬化してもよい。後者の場合、光カチオン重合開始剤と熱カチオン重合開始剤とを併用することが好ましい。
また、接着剤である硬化性組成物は、オキセタン類やポリオール類など、カチオン重合を促進させる化合物をさらに含有してもよい。
オキセタン類は、分子内に4員環エーテルを有する化合物であり、たとえば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル〕ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ〔(3−エチル−3−オキセタニル)メチル〕エーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、フェノールノボラックオキセタンなどが挙げられる。これらのオキセタン類は、市販品を容易に入手することが可能であり、たとえば、いずれも商品名で、「アロンオキセタン OXT−101」、「アロンオキセタン OXT−121」、「アロンオキセタン OXT−211」、「アロンオキセタン OXT−221」および「アロンオキセタン OXT−212」(いずれも東亞合成株式会社製)などを挙げることができる。これらのオキセタン類は、硬化性組成物中に、通常5〜95重量%、好ましくは30〜70重量%の割合で含有される。
ポリオール類は、フェノール性水酸基以外の酸性基が存在しないものであることが好ましく、たとえば、水酸基以外の官能基を有しないポリオール化合物、ポリエステルポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物、フェノール性水酸基を有するポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物などを挙げることができる。これらのポリオール類の分子量は、通常48以上、好ましくは62以上、さらに好ましくは100以上、また好ましくは1000以下である。これらポリオール類は、硬化性組成物中に、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下の割合で含有される。
さらに、硬化性エポキシ樹脂組成物には、その接着性を損なわない限り、他の添加剤、たとえば、イオントラップ剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤などを配合することができる。イオントラップ剤としては、たとえば、粉末状のビスマス系、アンチモン系、マグネシウム系、アルミニウム系、カルシウム系、チタン系およびこれらの混合系等の無機化合物が挙げられ、酸化防止剤としては、たとえば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤などが挙げられる。
以上のようなエポキシ系樹脂を含有する硬化性組成物からなる接着剤を、被貼合物(偏光フィルム、防眩フィルム、保護フィルム、光学補償層)の少なくともいずれかの貼合面に塗工した後、塗工した接着剤を介在させて被貼合物同士を貼合し、活性エネルギー線を照射するかまたは加熱することにより、未硬化の接着剤層を硬化させて、本発明の防眩性偏光板が得られる。未硬化の接着剤層の厚さは、通常50μm以下、好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。接着剤の塗工方法としては、たとえば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式を利用できる。この際、各塗工方式にはそれぞれ最適な粘度範囲があるため、硬化性組成物には、粘度調整のために溶剤を含有させてもよい。溶剤としては、偏光フィルムの光学性能を低下させることなく、硬化性組成物を良好に溶解するものを用いることが好ましく、たとえば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類等の有機溶剤を挙げることができる。
偏光フィルムの防眩フィルムが貼合される側とは反対側に保護フィルムまたは光学補償層を貼合する場合、防眩フィルムと、保護フィルムまたは光学補償層とは、段階的に片面ずつ貼合してもよいし、双方を一段階で貼合してもよい。
接着剤による被貼合物の貼合にあたっては、あらかじめ被貼合物の少なくともいずれかの貼合面に、ケン化処理、コロナ放電処理、プライマー処理、アンカーコーティング処理などの易接着処理が施されてもよい。
活性エネルギー線の照射により接着剤の硬化を行なう場合、用いる光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する、たとえば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプなどを用いることができる。接着剤への光照射強度は、その組成物ごとに異なり得るが、重合開始剤の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜100mW/cm2であることが好ましい。接着剤への光照射強度が0.1mW/cm2未満であると、反応時間が長くなりすぎ、100mW/cm2を超えると、ランプから輻射される熱および硬化性組成物の重合時の発熱により、接着剤の黄変や偏光フィルムの劣化を生じる可能性がある。接着剤への光照射時間は、その組成物ごとに制御されるものであり、やはり特に制限されないが、照射強度と照射時間との積として表される積算光量が10〜5000mJ/cm2となるように設定されることが好ましい。接着剤への積算光量が10mJ/cm2未満であると、重合開始剤由来の活性種の発生が十分でなく、接着剤の硬化が不十分となる場合がある。また、積算光量が5000mJ/cm2を超えると、照射時間が非常に長くなり、生産性向上には不利となる場合がある。
熱により接着剤の硬化を行なう場合は、一般的に知られた方法で加熱することができ、その条件なども特に制限されないが、通常、接着剤に配合された熱カチオン重合開始剤がカチオン種やルイス酸を発生する温度以上で加熱が行なわれ、具体的な加熱温度は、たとえば、50〜200℃程度である。
活性エネルギー線の照射または加熱のいずれの条件で硬化させる場合でも、偏光フィルムの偏光度、透過率および色相、防眩フィルムや保護フィルムの透明性および光学補償層の位相差特性などの防眩性偏光板の諸機能が低下しない範囲で硬化させることが好ましい。
<画像表示装置>
本発明はさらに、上述した本発明の防眩性偏光板と、画像表示素子とを備える画像表示装置を提供する。本発明の画像表示装置において、防眩性偏光板は、その防眩層側を外側にして画像表示素子の視認側に配置される。すなわち、本発明の防眩性偏光板は、前面側偏光板として好適に用いられるものであり、その防眩フィルムの凹凸面、すなわち防眩層側が外側(視認側)となるように、画像表示素子の視認側に配置される。画像表示素子としては、上下基板間に液晶が封入され、電圧印加により液晶の配向状態を変化させて画像の表示を行なう液晶セルが代表的である。防眩性偏光板は、画像表示素子の表面に直接貼合してもよいし、たとえば上述したように、保護フィルムや光学補償層を介して画像表示素子の表面に貼合することもできる。
本発明の防眩性偏光板を備えた画像表示装置は、防眩フィルムの有する表面の凹凸により入射光を散乱して映り込み像をぼかすことができ、優れた視認性を与える。また、本発明の防眩性偏光板は、高精細の画像表示装置に適用した場合でも、従来の防眩フィルムに見られたようなギラツキが発生することもなく、十分な映り込み防止、白ちゃけの防止、ギラツキの抑制、コントラストの低下抑制という優れた性能を示す。
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下の例における防眩性偏光板に用いられる防眩フィルムおよび防眩フィルム製造用のパターンの評価方法は、次のとおりである。
〔1〕防眩性偏光板に用いられる防眩フィルムの表面形状の測定
三次元顕微鏡「PLμ2300」(Sensofar社製)を用いて、防眩フィルムの表面形状を測定した。サンプルの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。測定の際、対物レンズの倍率は10倍とした。水平分解能ΔxおよびΔyはともに1.66μmであり、測定面積は850μm×850μmであった。
(標高のエネルギースペクトルの比H1 2/H2 2およびH3 2/H2 2)
上で得られた測定データから、防眩フィルムの微細凹凸表面の標高を二次元関数h(x,y)として求め、得られた二次元関数h(x,y)を離散フーリエ変換して二次元関数H(fx,fy)を求めた。二次元関数H(fx,fy)を二乗してエネルギースペクトルの二次元関数H2(fx,fy)を計算し、fx=0の断面曲線であるH2(0,fy)より、空間周波数0.01μm-1におけるエネルギースペクトルH1 2および空間周波数0.04μm-1におけるエネルギースペクトルH2 2を求め、エネルギースペクトルの比H1 2/H2 2を計算した。また、空間周波数0.1μm-1におけるエネルギースペクトルH3 2を求め、エネルギースペクトルの比H3 2/H2 2についても計算した。
(微細凹凸表面の傾斜角度)
上で得られた測定データをもとに、前述のアルゴリズムに基づいて計算し、凹凸面の傾斜角度のヒストグラムを作成し、そこから傾斜角度毎の分布を求め、傾斜角度が5°以下である面の割合を計算した。
〔2〕防眩性偏光板に用いられる防眩フィルムの光学特性の測定
(ヘイズ)
防眩フィルムのヘイズは、JIS K 7136に規定される方法で測定した。具体的には、この規格に準拠したヘイズメータ「HM−150型」(村上色彩技術研究所製)を用いてヘイズを測定した。防眩フィルムの反りを防止するため、光学的に透明な粘着剤を用いて凹凸面が表面となるようにガラス基板に貼合してから、測定に供した。一般的にヘイズが大きくなると、画像表示装置に適用したときに画像が暗くなり、その結果、正面コントラストが低下しやすくなる。それ故に、ヘイズは低い方が好ましい。
〔3〕防眩性偏光板の防眩性能およびコントラストの評価
暗室内で、作製した液晶表示装置のバックライトを点灯し、輝度計「BM5A型」((株)トプコン製)を使用して、黒表示状態および白表示状態における液晶表示装置の輝度を測定し、コントラストを算出した。ここでコントラストは、黒表示状態の輝度に対する白表示状態の輝度の比で表される。次に、この評価系を明室内に移し、黒表示状態として、映り込み状態、白ちゃけを目視観察した。次に、明室内で白表示状態とし、ギラツキに関しても目視観察した。映り込み状態、白ちゃけ、ギラツキに関しての評価基準は以下の通りである。
映り込み 1:映り込みが観察されない、
2:映り込みが少し観察される、
3:映り込みが明瞭に観察される。
白ちゃけ 1:白ちゃけが観察されない、
2:白ちゃけが少し観察される、
3:白ちゃけが明瞭に観察される。
ギラツキ 1:ギラツキが観察されない、
2:ごくわずかにギラツキが観察される、
3:ひどくギラツキが観察される。
〔4〕防眩性偏光板の耐水性の評価
作製した防眩性偏光板について、次に示す方法により耐水性を評価した。まず、防眩性偏光板の吸収軸(偏光フィルムの延伸方向)を長辺として5cm×2cmの大きさに防眩性偏光板をカットしてサンプルを作製し、長辺方向の寸法を正確に測定した。ここで、偏光フィルムは、吸着されたヨウ素に起因して、全面にわたって均一に特有の色を呈している。次に、当該サンプルの一短辺側を把持した状態でサンプルの長手方向の8割ほどを60℃の水槽に浸漬し、4時間保持した。その後、サンプルを水槽から取り出し、水分を拭取り、偏光板を観察した。この温水浸漬により、サンプルの偏光フィルムは収縮する。また、この温水浸漬によって、温水に接する偏光フィルムの周縁部からヨウ素が溶出し、サンプル周縁部に色が抜けた部分が生じる。この偏光フィルムの収縮および色抜けの程度を、サンプル短辺の中央における、サンプルの端(防眩フィルムの端)から収縮した偏光フィルムにおいて偏光フィルム特有の色が残っている領域までの距離を測定することにより評価し、侵食長さとした。この侵食長さが小さいほど、偏光フィルムの収縮および色抜けが小さいことを示しており、すなわち、防眩性偏光板としての耐水性が高いと判断することができる。
〔5〕防眩フィルム製造用のパターンの評価
作成したパターンデータの階調を二次元の離散関数g(x,y)で表した。離散関数g(x,y)の水平分解能ΔxおよびΔyはともに2μmとした。得られた二次元関数g(x,y)を離散フーリエ変換して、二次元関数G(fx,fy)を求めた。二次元関数G(fx,fy)を二乗してエネルギースペクトルの二次元関数G2(fx,fy)を計算し、fx=0の断面曲線であるG2(0,fy)より、0μm-1より大きく0.04μm-1以下の空間周波数範囲内における極大値の有無を評価した。
<実施例1>
(A)偏光フィルムの作製
平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上で厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の純水に浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.02/2/100の水溶液に30℃で浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が12/5/100の水溶液に56.5℃で浸漬した。引き続き、8℃の純水で洗浄した後、65℃で乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。延伸は、主に、ヨウ素染色およびホウ酸処理の工程で行ない、トータル延伸倍率は5.3倍であった。
(B)防眩フィルム製造用の金型の作製
直径200mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面に銅バラードめっきが施されたものを用意した。銅バラードめっきは、銅めっき層/薄い銀めっき層/表面銅めっき層からなるものであり、めっき層全体の厚みは、約200μmとなるように設定した。その銅めっき表面を鏡面研磨し、研磨された銅めっき表面に感光性樹脂を塗布、乾燥して感光性樹脂膜を形成した。ついで、図15に示される画像データからなるパターンの複数を連続して繰り返し並べたパターンを感光性樹脂膜上にレーザ光によって露光し、現像した。レーザ光による露光、および現像は「Laser Stream FX」((株)シンク・ラボラトリー製)を用いて行なった。感光性樹脂膜にはポジ型の感光性樹脂を使用した。図15に示されるパターンは、ドット径が12μmであるドットを多数ランダムに配置したパターンに対して、空間周波数が0.04μm-1以下の低空間周波数成分と0.1μm-1以上の高空間周波数成分とを除去するバンドパスフィルターを適用して作成したものである。
その後、塩化第二銅液で第1のエッチング処理を行なった。その際のエッチング量は3μmとなるように設定した。第1のエッチング処理後のロールから感光性樹脂膜を除去し、再度、塩化第二銅液で第2のエッチング処理を行なった。その際のエッチング量は10μmとなるように設定した。その後、クロムめっき加工を行ない、金型Aを作製した。このとき、クロムめっき厚みが4μmとなるように設定した。
(C)防眩フィルムの作製
光硬化性樹脂組成物GRANDIC 806T(大日本インキ化学工業(株)製)を酢酸エチルにて溶解して、50重量%濃度の溶液とし、さらに、光重合開始剤であるルシリンTPO(BASF社製、化学名:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)を、硬化性樹脂成分100重量部あたり5重量部添加して塗布液を調製した。次に、厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に、この塗布液を乾燥後の塗布厚みが6μmとなるように塗布し、60℃に設定した乾燥機中で3分間乾燥させた。乾燥後のTACフィルムを、先に得られた金型Aの凹凸面に、光硬化性樹脂組成物層が金型側となるようにゴムロールで押し付けて密着させた。この状態でTACフィルム側より、強度20mW/cm2の高圧水銀灯からの光をh線換算光量で200mJ/cm2となるように照射して、光硬化性樹脂組成物層を硬化させた。この後、TACフィルムを硬化樹脂ごと金型から剥離して、表面に凹凸を有する硬化樹脂(防眩層)とTACフィルムとの積層体からなる、透明な防眩フィルムAを作製した。
(D)エポキシ系樹脂を主成分とする硬化性組成物からなる接着剤の調製
ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート100重量部、水添ビスフェノールAのジグリシジルエーテル25重量部、ならびに、光カチオン重合開始剤〔4,4’−ビス(ジフェニルスルホニオ)ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート〕2.2重量部を混合後、脱泡することにより、硬化性組成物からなる接着剤を得た。なお、光カチオン重合開始剤は、50質量%プロピレンカーボネート溶液として配合した。
(E)防眩性偏光板の作製
防眩フィルムAの防眩層が形成された側とは反対側の面(TACフィルム面)に、上記接着剤を、3μmバーコータで塗工し、その上に上記偏光フィルムを積層した。また、保護フィルムとしての、表面をコロナ放電処理した厚さ70μmの延伸ノルボルネン系樹脂フィルム(「ゼオノア(ZEONOR)」、日本ゼオン(株)製)(以下、ノルボルネンフィルムとも記載する)のコロナ放電処理面に、上記接着剤を3μmバーコータで塗工した後、このノルボルネンフィルムを、その塗工面側で、偏光フィルムの防眩フィルムを貼合している側とは反対側の面に積層した。その後、ベルトコンベア付き紫外線照射装置(ランプ:Fusion Dランプ、積算光量:1000mJ/cm2)にて紫外線の照射を行ない、室温で1時間放置して、防眩性偏光板Aを得た。
(F)液晶表示装置の作製
垂直配向モードの液晶表示素子が搭載された市販の液晶テレビ(「LC−32GH3」、シャープ(株)製)の液晶セルから偏光板を剥離し、液晶セルの背面(バックライト側)側には、偏光板「スミカラン SRW842E」(住友化学(株)製)を、液晶セルの前面(視認側)には、上記防眩性偏光板を、いずれも偏光板の吸収軸が、元々液晶テレビに貼付していた偏光板の吸収軸方向と一致するように、粘着剤層を介して貼り合わせて、液晶パネルを作製した。次に、この液晶パネルを、バックライト/光拡散板/液晶パネルの構成で組み立てて、液晶表示装置Aを作製した。
<実施例2>
金型作製における露光工程において、図16に示される画像データからなるパターンの複数を連続して繰り返し並べたパターンを感光性樹脂膜上にレーザ光によって露光し、第1のエッチング処理におけるエッチング量を5μmとなるように設定し、第2のエッチング処理におけるエッチング量を12μmとなるように設定したこと以外は、実施例1と同様にして金型Bを作製した。得られた金型Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムBを作製した。また、防眩フィルムBを使用したこと以外は、実施例1と同様にして防眩性偏光板Bおよび液晶表示装置Bを作製した。図16に示されるパターンは、ドット径が12μmであるドットを多数ランダムに配置したパターンに対して、空間周波数が0.035μm-1以下の低空間周波数成分と0.135μm-1以上の高空間周波数成分とを除去するバンドパスフィルターを適用して作成したものである。
<比較例1>
直径300mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面を鏡面研磨し、研磨されたアルミ面に、ブラスト装置((株)不二製作所製)を用いて、ジルコニアビーズTZ−SX−17(東ソー(株)製、平均粒径:20μm)を、ブラスト圧力0.1MPa(ゲージ圧)、ビーズ使用量8g/cm2(ロールの表面積1cm2あたりの使用量)でブラストし、表面に凹凸をつけた。得られた凹凸つきアルミロールに対し、無電解ニッケルめっき加工を行ない、金型Cを作製した。このとき、無電解ニッケルめっき厚みが15μmとなるように設定した。得られた金型Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムCを作製した。また、防眩フィルムCを使用したこと以外は、実施例1と同様にして防眩性偏光板Cおよび液晶表示装置Cを作製した。
<比較例2>
水100重量部に対して、(株)クラレから販売されているカルボキシル基変性ポリビニルアルコール「クラレポバール KL318」(変性度2モル%)を1.8重量部溶解し、さらに、水溶性ポリアミドエポキシ樹脂である住化ケムテックス(株)から販売されている「スミレーズレジン 650」(固形分30重量%の水溶液)を1.5重量部加えて溶解し、ポリビニルアルコール系接着剤を作製した。
次に、防眩フィルムAの防眩層が形成された側とは反対側の面にケン化処理した後、ケン化処理面に上記ポリビニルアルコール系接着剤を10μmバーコータで塗工し、その上に上記偏光フィルムを積層した。また、保護フィルムとしての、表面をコロナ放電処理したノルボルネンフィルム(実施例1と同じもの)のコロナ放電処理面に、上記ポリビニルアルコール系接着剤を10μmバーコータで塗工した後、このノルボルネンフィルムを、その塗工面側で、偏光フィルムの防眩フィルムを貼合している側とは反対側の面に積層した。その後、80℃で5分間乾燥し、さらに、常温で1日間養生して防眩性偏光板Dを得た。
上記〔1〕〜〔4〕の測定・評価結果を表1および表2にまとめた。また、図17に金型AおよびBの作製に使用したパターンより得られたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示した。図17より、当該パターンのエネルギースペクトルは、0μm-1より大きく0.04μm-1以下の空間周波数範囲に極大値を示さないことがわかる。
表1に示す結果から、本発明の要件を全て満たす防眩性偏光板Aおよび防眩性偏光板Bは、ギラツキが全く発生せず、十分な防眩性を示し、白ちゃけも発生しなかった。また、画像表示装置に配置した際にも高いコントラストを示した。また、表2に示した通り、本発明の防眩性偏光板Aは接着剤としてエポキシ系樹脂を主成分とする硬化性組成物を使用しているため耐水性も高かった。一方、エネルギースペクトルの比H1 2/H2 2が本発明の要件を満たさない比較例1の防眩性偏光板Cはギラツキが発生していた。また、ポリビニルアルコール系接着剤を用いた比較例2の防眩性偏光板Dは耐水性が劣っていた。