JP2005283899A - 高分子偏光素子およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 大面積でかつ薄く欠陥の少ない高性能な偏光素子を提供すること。
【解決手段】 厚さ1nm以上2000nm以下、高分子の分子配向度が0.97以上、表面粗さ(Ra)が3.0nm以下、且つ支持体に対する被覆率が90%以上である一軸配向高分子薄膜上に二色性色素材料からなる薄膜を有する偏光素子であり、この偏光素子は、表面粗さ(Ra)が1.5nm以下である支持体の表面に一軸配向高分子薄膜を与える高分子成型体を摩擦することにより形成した一軸配向高分子薄膜の上に二色性色素材料を積層することにより製造することができる。
【選択図】 なし
【解決手段】 厚さ1nm以上2000nm以下、高分子の分子配向度が0.97以上、表面粗さ(Ra)が3.0nm以下、且つ支持体に対する被覆率が90%以上である一軸配向高分子薄膜上に二色性色素材料からなる薄膜を有する偏光素子であり、この偏光素子は、表面粗さ(Ra)が1.5nm以下である支持体の表面に一軸配向高分子薄膜を与える高分子成型体を摩擦することにより形成した一軸配向高分子薄膜の上に二色性色素材料を積層することにより製造することができる。
【選択図】 なし
Description
本発明は、液晶表示装置(LCD)用に特に好適に使用される高分子偏光素子及びその製造方法に関する。
現在、液晶表示装置(LCD)に使用されている偏光素子(偏光板)は、ポリビニルアルコール(PVA)の一軸延伸フィルム(以下、単にPVAフィルムという。)を基材としてヨウ素や二色性染料を用いて製造されたもの(以下、PVA系偏光フィルムという。)である。
このPVA系偏光フィルムは偏光度が高く、優れた特性を備えているので広範囲に利用されているが、耐久性が低くい、また、保護膜が必要であり、得られる偏光素子の厚みが増大するという課題点も指摘されている(例えば、特許文献3参照。)。これらは、素材としてPVA系フィルムを用いることが必須であることに起因している。
これに対して、PVAを用いずに偏光素子を製造する試みも多数提案されている。それらの一例は、ラビング法、光配向法、摩擦転写法等により高分子薄膜を形成し、それを配向テンプレートとしてその表面に二色性色素を積層させて偏光素子を製造する方法である(例えば、特許文献1〜8及び非特許文献1参照。)。
このように、高分子薄膜の配向テンプレートを利用した偏光素子は、高分子薄膜材料の選択範囲が広いので、PVA系偏光フィルムが保有する課題点を解決できる可能性がある。
ここで、特許文献1には、表面を一方向にラビングしたフィルム上に色素を塗布した偏光フィルムが開示されている。このようにラビング法を用いてフィルム表面を一軸配向させたり一方向に溝を配した後に、二色性物質を配向させて偏光素子を製造する手法は他にも多く報告されているが、いずれも偏光性能が低いため、実使用に耐えないのが現状である。
また、光配向法により作製された一軸配向高分子薄膜上に色素を配向させた偏光素子の製造方法が提案されているが、いずれも偏光性能が低く、また、用いる色素に制約があるという課題点も指摘されている(例えば、特許文献2参照。)。
これに対して、PTFE高配向薄膜上に色素を配向させた偏光素子の製造方法が近年報告されている(例えば、特許文献3〜7参照。)。これらの偏光素子の製造方法では、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと称すことがある。)を加熱しながら圧力をかけてガラス支持体に擦りつけるという、いわゆる摩擦転写法(Friction Transfer Method)(例えば、特許文献8及び非特許文献1参照。)により作製されるPTFE高配向薄膜を利用している。
特開平3−58004号公報
特開2001−330726号公報(第2頁右欄)
特開平9−73015号公報(従来の技術の欄)
特開平8−278408号公報
特開平8−278409号公報
特開平9−281335号公報
特表平10−509247号公報
米国特許第5180470号公報
ジャーナル、オブ、アプライド、ポリマー、サイエンス(J.Appl.Polym.Sci)、第50巻、1151頁(1993)
特許文献3〜7に開示されているPTFE高配向薄膜上に色素を配向させた偏光素子はいずれも摩擦転写法で作製されたフッ素系高配向薄膜を一軸配向高分子薄膜として使用している。ここで、非特許文献1において摩擦転写法の提案者自身が指摘するとおり、摩擦転写法は支持体の全面を被覆するのが非常に困難であるといわれている。そして、本発明者等が追試した結果では偶然的に偏光性能のよいサンプルが作製できる場合があるものの再現性に乏しく、さらにマイクロスケールでの欠陥が非常に多いことが判明した。
また、先行文献において開示されている各実施例はいずれも評価面積が数cm×数cmと小さい場合であり、実際、我々が評価面積を拡大して実験を行なうと偏光性能や膜の均質性が著しく低下することが判明しており、実用的には不十分であった。
パーソナルコンピュータの画面やテレビ画面などの液晶表示装置(LCD)では、携帯電話などに比べて画面が大型であり、このような大画面を必要とする液晶表示装置に従来の摩擦転写法を利用した偏光素子は実用性に欠けていた。
そこで、本発明は、大面積でかつ薄く欠陥の少ない高性能な偏光素子を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明者等は、摩擦転写法により得られたPTFE高配向薄膜の表面に二色性色素材料を成膜することによる偏光素子の製造方法を面積を拡大して追試し、ナノスケールでの詳細な解析を行ったところ、常法に従う摩擦転写法により得られるPTFE高配向薄膜は、マイクロスケールでの欠陥が非常に多かった。また、これに起因して、作成された偏光素子もマイクロスケールでの欠陥が非常に多いことを確認した。
そこで、本発明者等は、偏光素子を製造するための配向テンプレート(又はアライメント層)としての一軸配向高分子薄膜の製造方法についてさらに広範囲に検討したところ、摩擦転写法を適用する支持体として一般に使用されているガラス基板に代えてシリコン基板を用いて高配向性薄膜をクリーンな環境下で注意深く作成したものが、面積を拡大した場合にもマイクロスケールでの欠陥が少なく、偏光素子として偏光度が格段に改善できることを認めた。
そして、本発明者等は、摩擦転写法を適用するための支持体としてのシリコン基板のナノオーダでの表面平滑性が偏光素子の性能に大きく寄与していることを認めた。
また本発明者等は、このような偏光素子では、二色性色素が積層される表面の表面粗さ(Ra)がナノオーダで平滑であること、さらに、高分子薄膜のミクロオーダでの欠陥がないことが極めて重要であることを認めた。
本発明において、得られた偏光素子の偏光性能が向上する理由は定かではないが、配向テンプレートとして上述の構成を採用することで、無機結晶基板へのエピタキシャル成長時に悪影響を及ぼすとされるステップと類似の作用を排除できたことが一因して考えられる。
すなわち本発明は、厚さが1nm以上2000nm以下の範囲内であり、高分子の分子配向度が0.97以上、表面粗さ(Ra)が3.0nm以下、且つ支持体に対する被覆率が90%以上である一軸配向高分子薄膜上に二色性色素材料からなる薄膜を有することを特徴とする高分子偏光素子に係るものである。
また本発明は、厚さが1nm以上2000nm以下の範囲内であり、高分子の分子配向度が0.97以上、表面粗さ(Ra)が3.0nm以下、且つ薄膜占有率が90%以上である一軸配向高分子薄膜の表面上に二色性色素材料からなる薄膜を有することを特徴とする高分子偏光素子である。
また本発明は、表面粗さ(Ra)が1.5nm以下である支持体の表面に一軸配向高分子薄膜を与える高分子成型体を摩擦することにより一軸配向高分子薄膜を形成する高分子薄膜形成工程、前記一軸配向高分子薄膜の表面に二色性色素材料からなる薄膜を成膜する二色性色素薄膜形成工程、を含むことを特徴とする高分子偏光素子の製造方法である。
さらに本発明は、表面粗さ(Ra)が1.5nm以下である支持体の表面に一軸配向高分子薄膜を与える高分子成型体を摩擦することにより一軸配向高分子薄膜を形成する高分子薄膜形成工程、前記一軸配向高分子薄膜の表面に二色性色素材料からなる薄膜を成膜する二色性色素薄膜形成工程、前記一軸配向高分子薄膜を前記支持体とは異なる他の基材上に転写する転写工程、を含むことを特徴とする高分子偏光素子の製造方法である。
ここで、この転写工程は、二色性色素薄膜形成工程の前後どちらでもよい。二色性色素薄膜形成工程の前に転写工程が行われる場合には、他の基材上に一軸配向高分子薄膜が転写された後にその表面に二色性色素材料からなる薄膜が成膜される。また、二色性色素薄膜形成工程の後に転写工程が行われる場合には、二色性色素薄膜形成工程により得られた一軸配向高分子薄膜と二色性色素材料の薄膜との積層体が該積層体を支持する支持体とは異なる他の基材上に転写される。いずれの場合にも、一軸配向高分子薄膜を形成するときに使用した支持体とは異なる他の基材(支持体)により支持された高分子偏光素子を製造することができる。
本発明に従えば、これまで作成が困難であった大面積でかつ薄く欠陥の少ない高性能な偏光素子を提供することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
まず、本発明の高分子偏光素子は、厚さが1nm以上2000nm以下の範囲内、高分子の分子配向度が0.97以上、表面粗さ(Ra)が3.0nm以下、且つ次に定義される支持体に対する被覆率が90%以上である一軸配向高分子薄膜上に二色性色素材料からなる薄膜を有することを特徴とする。
ここで、被覆率とは、支持体上に支持された一軸配向高分子薄膜の任意の面積(1μm×1μm)をそれぞれ256×256等分し、各画成範囲内の薄膜の有無をパーセントで表現した値である。
また本発明の高分子偏光素子は、厚さが1nm以上2000nm以下の範囲内であり、高分子の分子配向度が0.97以上、表面粗さ(Ra)が3.0nm以下、且つ次に定義される薄膜占有率が90%以上である一軸配向高分子薄膜の表面上に二色性色素材料からなる薄膜を成膜してなることを特徴とする高分子偏光素子である。
ここで、薄膜占有率とは、薄膜の任意の面積(1μm×1μm)をそれぞれ256×256等分し、各画成範囲内の薄膜の有無をパーセントで表現した値であり、薄膜が支持体に支持されている場合には被覆率と同じ値である。
本発明の一軸配向高分子薄膜を形成する高分子としては特に限定されないが、高配向で且つ平滑な一軸配向高分子薄膜を容易に形成するためには結晶性高分子又は液晶性高分子が好ましい。
結晶性高分子としては特に限定されないがポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、四フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、三フッ化塩化エチレン、フッ化ビニリデン−三フッ化ビニリデン共重合体、等のフッ素系樹脂;ポリイミド;ポリアクリロニトニル;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリアミド;ポリエステル;ポリビニルアルコール或いはその共重合体;ポリビニルエーテル;等が具体例として挙げられる。
また液晶性高分子としては特に限定されないが、全芳香族液晶ポリエステル、半剛直性液晶ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド、液晶性ポリアミド、に代表される主鎖型液晶性高分子もしくはメソゲン基を側鎖に導入した側鎖型液晶高分子が好適に使用される。
これらの高分子中で特に一軸配向高分子薄膜の配向度及び平滑性の観点からポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−三フッ化ビニリデン共重合体、に代表されるフッ素系高分子;ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリジアセチレンに代表されるπ共役系高分子、が好適に使用される。
本発明で用いられる一軸配向高分子薄膜は主として上述した高分子から形成される。高分子としては1種類を用いても、複数を混合しても差し支えない。また本発明の主旨を損なわない範囲で適当な低分子化合物、無機物、金属等を含有しても差し支えない。
本発明の一軸配向高分子薄膜を表面に有する基板上に積層する二色性色素材料に関しては特に限定されず、公知のものを使用することが可能であり、アゾ、アントラキノン、メロシアニン、スチリル、アゾメチン、キノン、キノフタロン、ペリレン、インジゴ、テトラジン、スチルベン、ベンジジン等が具体例として挙げられる。その中でも二色性が高く、且つ実用上十分な耐候性を有するアゾおよびアントラキノン二色性色素が、好ましく用いられる。
本発明の一軸配向高分子薄膜上に積層する二色性色素材料の膜厚は特に限定されず、二色性色素材料の二色性、モル吸光係数、色素配向度、必要な偏光性能により適宜選択されるが、通常は1nm以上5μm以下、さらに好ましくは5nm以上1μm以下である。これより薄いと、単体透過率が大きく十分な偏光性能が得られない。またこれより厚いと透過率が低下する場合がある。
本発明の高分子偏光素子においては、一軸配向高分子薄膜の高分子の配向度(配向係数f)が高いこと、一軸配向高分子薄膜の表面平滑性(表面粗さRa)がナノオーダで平滑であること、及び支持体に対する一軸配向高分子薄膜のミクロオーダでの被覆率(又は薄膜占有率)が高いことが重要である。
テンプレートの配向度とその上に積層する色素の配向度には相関があり、テンプレートの配向度が高い、すなわち一軸配向高分子薄膜の配向度が高い方が二色性色素の配向度が高くなり、最終的に得られる偏光素子の偏光性能が高くなる。
また、一軸配向高分子薄膜の表面がナノオーダで平滑なテンプレートを用いることにより、二色性色素の配向を高度に制御することが可能となる。
また、一軸配向高分子薄膜によって被覆されていない領域(又は薄膜として占有していない領域)は配向テンプレートとして機能しないため、二色性色素の薄膜に欠陥が生じ、配向には好影響を与えない。本発明においては、このミクロオーダでの被覆率(以降、この被覆率をミクロ被覆率と略称することがある。)又は薄膜占有率(以降、この薄膜占有率をミクロ占有率と略称することがある。)が高いことにより、欠陥の少ない二色性色素の薄膜を形成することができる。
これらの原因は明らかではないが、無機結晶基板へのエピタキシャル成長時に悪影響を及ぼすとされるステップと類似の作用をしているものと考えられる。これにより、一軸配向高分子薄膜の高分子の配向が高く、一軸配向高分子薄膜の表面がナノオーダで平滑であること、さらにはミクロ被覆率(又はミクロ占有率)が高いことにより、二色性色素のエピタキシャル成長が促進され、二色性色素の配向率が高まり結果として偏光性能が格段に優れた偏光素子が得られると考えられる。
それ故、本発明においては、高分子の配向度は0.97以上が必要であり、好ましくは0.98以上、特に好ましくは0.99以上である。ここで、この高分子の配向度は、例えば、インプレーンX線測定装置による測定により決定することができ、その一例は後述される。
また、本発明においては、一軸配向高分子薄膜の表面粗さ(Ra)は、3.0nm以下が必要であり、好ましくは、2.0nm以下、特に好ましくは1.0nm以下である。ここで、この一軸配向高分子薄膜の表面粗さ(Ra)は、例えば、走査型原子間力顕微鏡装置による測定により決定することができ、その一例は後述される。
また、支持体に対する一軸配向高分子薄膜のミクロ被覆率(又はミクロ占有率)が90%以上であることが必要であり、好ましくは、95%以上、特に好ましくは97%以上である。ここで、支持体に対する一軸配向高分子薄膜のミクロ被覆率(薄膜占有率)は、後述するように、走査型原子間力顕微鏡装置の横振動摩擦力顕微鏡測定モードによる測定によって算出することができる。
また、本発明における一軸配向高分子薄膜の厚みとしては特には限定されないが、通常、厚さ1nm以上2000nm以下である。1nmより薄い一軸配向高分子薄膜では、90%以上のミクロ被覆率(薄膜占有率)を維持することが困難であり、一方、厚みが2000nmより厚いと得られる偏光素子の薄型化という本発明の本来の目的を達成できない。
本発明においては、これらの全ての条件を満たした一軸配向高分子薄膜を配向テンプレートとして用いることにより、二色性色素の配向率を高め、これにより偏光性能が格段に優れた偏光素子を製造することができる。また、これにより、大面積でかつ薄く欠陥の少ない高性能な偏光素子を提供するという本発明の目的を達成することができる。
次に本発明における偏光素子の製造方法について説明する。
本発明の高分子偏光素子の製造方法は、表面粗さ(Ra)が1.5nm以下である支持体の表面に一軸配向高分子薄膜を与える高分子成型体を摩擦することにより一軸配向高分子薄膜を形成する高分子薄膜形成工程、該高分子薄膜形成工程で得られた一軸配向高分子薄膜の表面に二色性色素材料からなる薄膜を成膜する二色性色素薄膜形成工程、を順次行うことを特徴とする。
本製造法において重要な点は、表面粗さ(Ra)が1.5nm以下である支持体の表面に一軸配向高分子薄膜を与える高分子成型体を摩擦することにより一軸配向高分子薄膜を形成する高分子薄膜形成工程であり、これにより、偏光素子テンプレートとして有用な、厚さ1nm以上2000nm以下、高分子の分子配向度が0.97以上、表面粗さ(Ra)が3.0nm以下、且つ支持体に対するミクロ被覆率が90%以上である一軸配向高分子薄膜を得ることが可能となる。
得られる一軸配向高分子薄膜上に二色性色素材料を適当な方法により積層することにより、求める偏光素子が得られる。
支持体を構成する材料は特には限定されないが、支持体表面の表面粗さ(Ra)が1.5nm以下であることは重要である。摩擦転写法に用いられる支持体は専らガラス基板が用いられているが、日常的に使用されるガラス基板では本発明が所望とする高分子の分子配向度が0.97以上、表面粗さ(Ra)が3.0nm以下、且つ支持体に対するミクロ被覆率(又はミクロ占有率)が90%以上である一軸配向高分子薄膜を得ることは極めて困難である。
ここで、日常に使用されるガラス基板の表面粗さは2.0nm程度である。このようなガラス基板を用いて摩擦転写法で高分子薄膜を形成したのでは、欠陥が多く、本発明で定義するミクロ被覆率は、高々70%程度であり、90%以上と高いミクロ被覆率を有する一軸配向高分子薄膜を形成することが極めて困難となる。
本発明の偏光素子の製造方法においては、1.5nm以下の表面粗さ(Ra)の支持体が必要である。一般に、液晶ディスプレイ等に利用されるITO(Indium-Tin Oxide)透明電極の表面粗さは2.8nm程度である。また、超平坦高分子フィルムとして市販されているPETフィルムでは、その表面粗さは20nm程度である。本発明においては、ナノオーダで平滑な支持体を用いて摩擦転写法を行うことが重要である。
なお、この支持体の表面粗さ(Ra)は、前述の一軸配向高分子薄膜の表面粗さ(Ra)と同様に走査型原子間力顕微鏡装置による測定により決定することができる。
このようなナノオーダの表面平滑性を備えていれば、支持体を構成する材料としては、特には限定されない。具体的には、ガラス、石英、サファイア等が例示され、またポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタアクリル酸メチル、等のプラスチック支持体も使用できる。また偏光素子を電極上に作製する必要がある場合は、ITO(Indium-Tin Oxide)、ZnO、等の透明電極を直接支持体として使用でき、これらの透明電極は任意に被覆されたものであってもよい。
次に、このような支持体の形状は特に限定されずに、最終的に得られる偏光素子の性能、用途等により適宜選択することもできる。具体的には、フィルム状、板状に限らず、例えば、ロール状であってもよい。
次に、本発明の偏光素子の製造方法に用いられる一軸配向高分子薄膜を与える高分子成型体について説明する。
本発明に用いられる高分子成型体の形態については特に限定されない。ペレット、棒、インゴット、ロッド、スティック、フィルム、その他の成形体として用いることができる。成形体の大きさ、形状などは使用する用途に応じて適宜選択すればよい。
このような高分子成型体を形成する加工方法についても特に限定されない。使用する高分子材料によって公知の方法より適切な方法を選択して加工することができる。具体的には圧縮成型、射出成型、押出成型、焼結成型、キャスト成型、粉末プレス成型、等が挙げられる。一軸配向高分子薄膜の配向度の観点からは高分子成型体作製時においてできるだけ分子の絡み合いの少ない成型法を採用して加工することが好ましい。具体的にはゲルキャスト成型により加工した高分子成型体が好ましい。
本発明において、支持体に対するミクロ被覆率(又はミクロ占有率)を向上させるためには上述したとおり支持体の表面粗さ(ra)をナノオーダで平滑なものを選択することが必要であるが、支持体に擦りつける高分子成形体の表面性状も同様に重要であり、支持体表面に摩擦する際の接触面積にも配慮することが好ましい。
本発明者等の詳細な検討によれば、支持体に対するミクロ被覆率が90%以上を簡易に達成するため支持体表面の表面粗さ(Ra)が1.5nm以下であり、かつ、一軸配向高分子薄膜を与える高分子成型体の表面が十分に平滑であることが好ましいことがわかった。
ナノオーダで平滑な支持体の表面を高分子成型体で摩擦する工程において高分子成型体の表面は平滑である方が好ましいため、より面精度の高い成型加工法が好ましい。また必要に応じて研磨、切削などの手法により平坦な面を出すことも有用である。最も簡便に高分子成型体の表面出しをする方法の具体例は、支持体と同程度にナノオーダで平滑な平滑面を用いて高分子材料をプレス成形することである。これにより、平滑な高分子成型体を形成することができる。
以上のようにして得られた一軸配向高分子薄膜は、必要に応じて摩擦転写に用いられた支持体とは別の支持体(以後、転写支持体という。)に転写した後、二色性色素を成膜することもできる。このときの転写支持体としては、支持体と同一材料が用いられるが、フィルム状の基材であることが、取り扱い性および偏光素子の厚さの点で好ましい。転写は、公知の技術を用いて行なうことができる。
支持体の表面を高分子成型体で摩擦するときの条件(温度、圧力、走引速度)に関しては使用する高分子により適宜選択される。このうち温度については結晶性高分子ではガラス転移点以上融点以下、液晶性高分子では液晶性が発現する温度領域で行なうことが好ましい。ガラス転移点以下では高分子薄膜のミクロ被覆率が低い場合が多く、融点以上では配向した高分子薄膜が作製できない。温度制御の方法に関しては、支持体を加熱してもよいし、高分子成型体を加熱してもよいし、両方を同時に加熱してもよい。耐熱性の低い支持体を使用する場合は高分子成型体のみを加熱するのが好ましい。
圧力については使用する高分子により適宜選択されるが、通常は0.1MPa〜10MPaの範囲から選択される。
走引速度については使用する高分子により適宜選択されるが、通常は0.05m/min〜50m/minの範囲から選択される。走引速度が遅すぎると生産が低く非効率的であり、走引速度が速すぎると支持体に対するミクロ被覆率が低下する傾向があり好ましくない。
また支持体の表面を高分子成型体で摩擦して薄膜を作製する薄膜形成工程において、クリーン性を確保し、且つ、支持体表面の清浄度を保持することは重要である。具体的には支持体の表面は薄膜形成工程に先立って洗浄することが好ましく、また薄膜形成工程はクリーン度クラスが1000以下、特にはクリーン度クラスが100以下であるような環境で実施されることが好ましい。支持体の上に付着したパーティクル等の異物は支持体の表面粗さに悪影響を及ぼしたり、また、高分子成型体で摩擦し、薄膜を形成する際の環境が不十分であるとミクロ被覆率を低下させる。
一軸配向高分子薄膜上へ二色性色素を積層する方法は用いる二色性色素により適宜選択される。具体的には「二色性色素を蒸着する方法」、「溶融した二色性色素を塗布する方法」、「二色性色素の溶液を塗布する方法」等が例示され、真空蒸着、スプレイコート、スピンコート、インクジェットで積層することが好ましい。
次に、本発明の偏光素子の製造方法において、転写工程を含んで偏光素子を製造する場合について説明する。
本発明において用いられる一軸配向高分子薄膜は、薄膜占有率が高いので、薄膜としての機械的強度が相対的に優れているという特徴を備えている。それ故、得られた一軸配向高分子薄膜は、支持体と剥離することが相対的に容易となるという特徴を備えている。これにより、常法に従い、必要に応じて支持体とは異なる他の支持体(又は基材)に転写して一軸配向高分子薄膜を用いることができる。
ここで、この転写工程は、二色性色素薄膜形成工程の前後どちらでもよい。二色性色素薄膜形成工程の前に転写工程が行われる場合には、他の基材上に一軸配向高分子薄膜が転写された後にその表面に二色性色素材料からなる薄膜が成膜される。
また、二色性色素薄膜形成工程の後に転写工程が行われる場合には、二色性色素薄膜形成工程により得られた一軸配向高分子薄膜と二色性色素材料の薄膜との積層体が該積層体を支持する支持体とは異なる他の基材上に転写される。
いずれの場合にも、一軸配向高分子薄膜を形成するときに使用した支持体とは異なる他の基材(支持体)により支持された高分子偏光素子を製造することができる。
また、二色性色素薄膜を積層後に直接基材に転写する場合には、二色性色素薄膜は、一軸配向高分子薄膜と基材との間に介在されることになる。
以上のようにして作成された偏光素子は、支持体を引き剥がす引き剥がし工程、他の支持体に付与する付与工程を含む転写工程を経ることにより、一軸配向高分子薄膜を形成した支持体とは異なる他の支持体(基材)に転写して偏光素子として利用することもできる。このような転写工程は、接着性の高い他の基材と面接触させる等、適宜に手法により行うことができる。この場合、間に適宜に接着剤を介在させてもよい。
このような基材としては、支持体に用いられたと同様な材料でよいし、また、異なった材料でもよい。何れの場合にも転写工程を経ることにより形状の選択範囲が広がるなど、支持体としての選択範囲が広がる。また、LCD用として他の光学素子との複合化(ハイブリッド化)が容易となり、大量生産などの簡易性を備えているので、産業上非常に有用となる。
以下、本発明の効果を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明の一軸配向高分子薄膜を規定する各種パラメータの測定方法は以下の通りである。
<一軸配向高分子薄膜の配向度>
一軸配向高分子薄膜の配向度には薄膜資料用全反射X線回折装置(理学電機 ATX−G)を用いた。インプレーン測定のX線入射角は0.2〜0.3°の範囲で調整を行なう。次に2θχ/φを5〜40degの範囲でIn-plane coupled scanを実行し、回折ピークを同定する。その後、φrocking scanを実行し、ピークの半値角αを算出し、式(1)に代入し、配向度faを求める。
式(1):fa=(3〈cos2α〉−1)/2
<一軸配向高分子薄膜および支持体の表面粗さ(Ra)並びに一軸配向高分子薄膜の厚さ>
原子間力顕微鏡装置(セイコーインスツルメンツ社製SPI−3700)を使用し、探針:SN−FF01(材質Si3N4)、走査モード:コンタクトモード、走査範囲:1μm×1μm、画素数:256×256、スキャン速度0.5Hzの条件で測定し、表面粗さRa(2乗平均粗さ)を算出し、同時に一軸配向高分子薄膜の厚さを求めた。
一軸配向高分子薄膜の配向度には薄膜資料用全反射X線回折装置(理学電機 ATX−G)を用いた。インプレーン測定のX線入射角は0.2〜0.3°の範囲で調整を行なう。次に2θχ/φを5〜40degの範囲でIn-plane coupled scanを実行し、回折ピークを同定する。その後、φrocking scanを実行し、ピークの半値角αを算出し、式(1)に代入し、配向度faを求める。
式(1):fa=(3〈cos2α〉−1)/2
<一軸配向高分子薄膜および支持体の表面粗さ(Ra)並びに一軸配向高分子薄膜の厚さ>
原子間力顕微鏡装置(セイコーインスツルメンツ社製SPI−3700)を使用し、探針:SN−FF01(材質Si3N4)、走査モード:コンタクトモード、走査範囲:1μm×1μm、画素数:256×256、スキャン速度0.5Hzの条件で測定し、表面粗さRa(2乗平均粗さ)を算出し、同時に一軸配向高分子薄膜の厚さを求めた。
<一軸配向高分子薄膜の支持体に対するミクロ被覆率>
原子間力顕微鏡装置(セイコーインスツルメンツ社製SPI−3700)を使用し、探針:SN−FF01(材質Si3N4)、走査モード:LM−FFM(横振動FFM)、走査範囲:1μm×1μm、画素数:256×256、スキャン速度0.5Hzの条件で測定した。
原子間力顕微鏡装置(セイコーインスツルメンツ社製SPI−3700)を使用し、探針:SN−FF01(材質Si3N4)、走査モード:LM−FFM(横振動FFM)、走査範囲:1μm×1μm、画素数:256×256、スキャン速度0.5Hzの条件で測定した。
得られたFFM像のコントラストの差を画像処理により白と黒に変換することにより一軸配向高分子薄膜の支持体に対する被覆率(%)を算出し、これをミクロ被覆率と定義した。
また、本発明の薄膜占有率の測定は薄膜を適宜の支持体に支持させることにより、このミクロ被覆率の測定に準じて測定できる。
<色素配向膜の二色比>
分光光度計(日立製U−4000)を使用し、色素吸収軸における吸光度(A1)と色素透過軸における吸光度(A2)を測定した。ベースラインとして空気を使用した。二色比はA1/A2で表される。
分光光度計(日立製U−4000)を使用し、色素吸収軸における吸光度(A1)と色素透過軸における吸光度(A2)を測定した。ベースラインとして空気を使用した。二色比はA1/A2で表される。
<実施例1>
クリーンルーム(Class100)内にて、300℃に加熱した石英基板(表面粗さ0.4nm)上に、シリコンウェハーの鏡面を用いてプレス成型することにより表面を平坦化したPTFEペレットを圧力15kg/cm2、走引速度0.3m/分の条件で摩擦することによりPTFE一軸配向高分子薄膜を作製した。
クリーンルーム(Class100)内にて、300℃に加熱した石英基板(表面粗さ0.4nm)上に、シリコンウェハーの鏡面を用いてプレス成型することにより表面を平坦化したPTFEペレットを圧力15kg/cm2、走引速度0.3m/分の条件で摩擦することによりPTFE一軸配向高分子薄膜を作製した。
このPTFE一軸配向高分子薄膜の平均厚みは30nm、配向度は0.99、表面粗さRaは0.6nm、支持体に対するミクロ被覆率は100%であった。
この一軸配向高分子薄膜上にポリアゾ系色素である林原生物化学研究所製の商品名G−205を厚さ200nm真空蒸着して色素配向膜を成膜し、偏光素子を得た。この偏光素子を400nmから800nmの範囲の偏光吸光度を測定し、560nmでの二色比を算出すると42であった。
また、各パラメータを測定し、結果を纏めて表1に示した。
<実施例2、3、比較例1、2>
表面粗さの異なる支持体を用いた以外は実施例1と同様にして偏光素子を作製し、各パラメータを測定し結果を実施例1と併せて表1に示した。
表面粗さの異なる支持体を用いた以外は実施例1と同様にして偏光素子を作製し、各パラメータを測定し結果を実施例1と併せて表1に示した。
上記の結果から、支持体の表面粗さが1.5nmを超えた比較例1,2のものでは、一軸配向高分子薄膜の表面粗さが粗く、支持体の被覆率及び色素二色比が急激に低下することがわかる。
ここで、比較例2の支持体は表面粗さが2.8nmの基板であり、摩擦転写法を用いる常法として用いられているガラス基板と同程度の表面平滑性を備えている。表面粗さが2.8nmであるガラス基板は、一般的には平滑性に優れている基板といわれているが、本発明を実施するための基板としては更にナノオーダでの平滑性を有する基板が必要であることがこの表1から理解される。ナノオーダでの平滑性を有する基板を用いた場合のみ一軸配向高分子薄膜の表面粗さを著しく低減させ、且つ、ミクロ被覆率を90%以上に高めることができる。従来のガラス基板を用いた場合には、ミクロ被覆率が低く、ミクロでの配向斑が多いと示唆され、この結果、2色性色素材料の配向が不十分となり色素二色比が低いと考えられる。
これにより、一軸配向高分子薄膜の配向度、表面粗さ、支持体に対する被覆率は、一軸配向高分子薄膜を表面に有する基板上に二色性色素を積層する場合の偏光性能において非常に重要であり、配向度0.97以上、表面粗さ3.0nm以下、支持体に対するミクロ被覆率90%以上を全て達成することが必要であることが理解される。
本発明に従えば、これまで作成が困難であった大面積でかつ薄く欠陥の少ない高性能な偏光素子を提供することができるので、液晶表示装置を小型又は薄型とすることが可能となる。
また、本発明の偏光素子は、機械的強度も高く、かつ、耐久性があり、さらに支持体が広範囲に選択できるので各種デバイスへの応用が期待される。
Claims (4)
- 厚さが1nm以上2000nm以下の範囲内であり、高分子の分子配向度が0.97以上、表面粗さ(Ra)が3.0nm以下、且つ支持体に対する被覆率が90%以上である一軸配向高分子薄膜上に二色性色素材料からなる薄膜を有することを特徴とする高分子偏光素子。
- 厚さが1nm以上2000nm以下の範囲内であり、高分子の分子配向度が0.97以上、表面粗さ(Ra)が3.0nm以下、且つ薄膜占有率が90%以上である一軸配向高分子薄膜の表面上に二色性色素材料からなる薄膜を有することを特徴とする高分子偏光素子。
- 表面粗さ(Ra)が1.5nm以下である支持体の表面に一軸配向高分子薄膜を与える高分子成型体を摩擦することにより一軸配向高分子薄膜を形成する高分子薄膜形成工程、
前記一軸配向高分子薄膜の表面に二色性色素材料からなる薄膜を成膜する二色性色素薄膜形成工程、を含むことを特徴とする高分子偏光素子の製造方法。 - 表面粗さ(Ra)が1.5nm以下である支持体の表面に一軸配向高分子薄膜を与える高分子成型体を摩擦することにより一軸配向高分子薄膜を形成する高分子薄膜形成工程、
前記一軸配向高分子薄膜の表面に二色性色素材料からなる薄膜を成膜する二色性色素薄膜形成工程、
前記一軸配向高分子薄膜を前記支持体とは異なる他の基材上に転写する転写工程、を含むことを特徴とする高分子偏光素子の製造方法。
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---|---|---|---|
JP2004096603A JP2005283899A (ja) | 2004-03-29 | 2004-03-29 | 高分子偏光素子およびその製造方法 |
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Cited By (5)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2008052152A (ja) * | 2006-08-28 | 2008-03-06 | National Institute Of Advanced Industrial & Technology | 色素の配向方法 |
JP2011104886A (ja) * | 2009-11-18 | 2011-06-02 | Nitto Denko Corp | 積層体の製造方法 |
JP2014024340A (ja) * | 2013-09-11 | 2014-02-06 | Nitto Denko Corp | 積層体の製造方法 |
CN107728247A (zh) * | 2016-08-10 | 2018-02-23 | 住友化学株式会社 | 偏振膜 |
CN112505818A (zh) * | 2012-03-30 | 2021-03-16 | 株式会社可乐丽 | 聚乙烯醇系聚合物膜 |
-
2004
- 2004-03-29 JP JP2004096603A patent/JP2005283899A/ja active Pending
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