JP6639694B2 - 低塩素含有量のポリフェニレンスルフィド及びその製造方法、樹脂組成物並びに成形体 - Google Patents

低塩素含有量のポリフェニレンスルフィド及びその製造方法、樹脂組成物並びに成形体 Download PDF

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Description

本願は、出願番号CN 201611260486.8の発明特許出願を基礎とする優先権を主張する出願である。
本発明は、低塩素含有量のポリフェニレンスルフィド及びその製造方法、樹脂組成物並びに成形体に関し、特にメルカプト基含有芳香族化合物を末端基調整剤として用いて製造してなる低塩素含有量のポリフェニレンスルフィド及びその製造方法に関し、エンジニアリングプラスチックの製造加工分野に属する。
ポリフェニレンスルフィド樹脂(Polyphenylene Sulfide、PPSと略称する)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気的特性、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックである。PPSは、押出成形、射出成形、圧縮成形などの一般的な溶融加工法により、様々な成形品、フィルム、シート、繊維などに成形できるため、電子及び電気部品、自動車部品等の分野で広く使用されている。
プラスチック等のポリマー製品にハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)が含まれると、燃焼中にハロゲン化水素ガスが放出され、酸素が急速に希釈されるため、火が消されることになる。しかし、放出されるハロゲン化水素の濃度が高い場合、視認性が低下し、避難経路の識別ができなくなるとともに、ハロゲン化水素の毒性が高いため、ヒトの呼吸器系に悪影響を及ぼす。また、ハロゲン含有ポリマーの燃焼によって放出されるハロゲン化水素ガスが水蒸気と接触すると、腐食性液体が生成し、一部の部品及び建物に腐食を引き起こす。したがって、電気電子部品に使用されるポリマーは、ハロゲン含有量が厳しく制限されている。例えば、EUでは、電気電子部品に使用される材料中の臭素及び塩素含有量をそれぞれ900ppm未満、合計含有量を1500ppm未満とすべきと、一般的に規定している。
PPS及びその改質材の50%〜60%は電子電気製品の製造に用いられている。PPSは優れた難燃性を有するため、難燃性のために臭素系難燃剤を加える必要がない。通常のPPS合成プロセスでも臭素の参与がない。したがって、PPS製品には臭素が存在していない。
現在、国内外でPPSを合成するための主要方法は依然としてPhillips法であり、つまり、極性溶媒中で、硫化物とポリハロゲン化芳香族化合物とを高温下で重縮合させてPPS樹脂を合成する方法である。Phillips法では通常、硫化ナトリウム(又は硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウム)及びp−ジクロロベンゼンを主原料として使用することで、PPSを合成する。
その反応式は下記のとおりである。
Figure 0006639694
原料の配合比にもよるが、PPSの末端基として主にクロロ末端基及びメルカプトナトリウム末端基が挙げられる。そのため、PPS製品には塩素が存在している。
Phillips法でPPS樹脂を合成する際に、反応の安定性を確保するために、通常p−ジクロロベンゼンを若干過剰に加え、且つp−ジクロロベンゼンの過剰度合いを制御することによりPPS樹脂の分子量を制御する。理論的には、p−ジクロロベンゼンの使用量を増やすと、PPS樹脂の分子量は低下するが、末端基の絶対数が増加し、且つ末端基におけるクロロ末端基の割合も増加するため、PPS樹脂の塩素含有量が著しく増加することになる。一般のPPS樹脂の塩素含有量は通常、2000ppm以上であり、電子電気業界の材料中のハロゲン含有量への制御要求を満たすことができない。一方、p−ジクロロベンゼンの使用量を減らすと、塩素含有量をある程度低減することはできるが、PPS樹脂の流動性が低下し、改質プロセス及びその下流の使用に影響を及ぼす。
文献に報道されているように、低塩素含有量のPPS樹脂を製造するためには、原料の配合比、重合プロセス、後処理精製プロセルを調整することと、末端基調整剤を添加すること等の方法により、塩素含有量を所望の範囲に低減させることができる。
特許文献1では、PPS粉末を、加熱した脱イオン水で長時間にわたり浸かる方法によって、含まれている無機塩である塩化ナトリウムを除去し、塩素含有量を低減させることが提案されている。特許文献2では、PPSを芳香族溶媒中で加熱処理し、アルカリ金属塩の含有量を低減させることが提案されている。上記2つの方法は、樹脂に含まれている無機塩である塩化ナトリウムを除去しかできず、PPSの末端に結合している塩素の含有量を低減することはできない。
特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6及び特許文献7はいずれも、各種の助剤を加え、且つ、添加量と添加タイミング、及び重合パラメータ等を調整することで、PPSを高分子量化し、製品であるPPS中の塩素含有量を低減させることが提案されているが、樹脂自体の流動性は顕著に低下することがある。PPSを電子電気機器分野に利用する場合、通常、PPS改質材料にガラス繊維を加える必要がある。したがって、環境法規の観点からハロゲン含有量を低減させる必要があると共に、成形加工しやすいことも求められている。その解決策として、溶融粘度が比較的低いPPSの使用が必要となる。その理由は、PPSの溶融粘度が高すぎると、精密な電子部品や大面積シートへの使用ができず、流動性の悪い材料では金型全体を十分に充填することができず、射出成形部品に欠陥が生じるからである。
特許文献8では、PPSと、メルカプト基含有化合物又はそのアルカリ金属塩とを、PPSを溶解可能な溶媒中で加熱処理することで、塩素含有量を低減させる方法が提案されている。特許文献9では、PPS生成物と、2−メルカプトベンゾイミダゾール、水酸化ナトリウムとを溶媒中で高温反応させることで、塩素含有量を低減させる方法が提案されている。しかし、これらの方法では、分離されたPPS樹脂を改めて高温で長期間反応させ、且つ後処理する必要があるため、効率が悪い。
特許文献10では、低ハロゲン含有PPSを得るために、メルカプト化合物、メルカプト化合物の金属塩、フェノール化合物、フェノール化合物の金属塩、及びジスルフィド化合物からなる群から選ばれる一種以上の化合物を、末端基調整剤として添加することが提案されている。それにより低ハロゲン含有量のPPS樹脂を得たメカニズムは、チオフェノール又はジフェニルジスルフィド化合物の開裂から生成する−S−置換基が、PPS末端の塩素を置換して−S−C末端基を形成することで、PPS樹脂のハロゲン含有量が低減される。しかし、この特許文献の実施例では、チオフェノール、フェノール、ジスルフィド化合物(ジフェニルジスルフィド、DPDSと略称する)等の添加剤を用いて合成してなる粉末状のポリアリーレンスルフィド樹脂は、塩素含有量が依然として1200ppmを超えている。また、PPS樹脂の製造工程において、チオフェノールは特異な臭いがあるため、製造工程や回収工程において環境問題が生じる。
特許文献11では、ジハロゲン化芳香族化合物と硫黄の配合比を厳密に調整すると同時に、相分離剤を添加して、重合工程において液−液相分離状態を得、そして、ジフェニルジスルフィド化合物(DPDS)により、PPS濃厚相において、ポリマー鎖の末端の塩素を置換し、重合終了後に冷却して降温させ、PPSを粒子に凝固させ、目開き38μm超えのスクリーンで固液分離し、固体ケーキをアセトン、水、酸液等で複数回洗浄し、PPS生成物を得ることが提案されている。この発明により得られる粒子状PPSの塩素含有量は1500ppm以下である。しかし、ジフェニルジスルフィド化合物を末端基調節剤として使用する場合、PPS樹脂にジスルフィド結合(−S−S−)が残存しやすいため、生成物の熱的特性が低下することになる。
特許文献12及び特許文献13では、p−ジヨードベンゼン及び単体硫黄を原料としてPPS樹脂を合成し、且つ重合反応液を減圧下で加熱して、ヨウ素を昇華させて除去することにより、樹脂中のヨウ素含有量を極めて低く制御できることが提案されている。しかし、この方法では、単体硫黄を重合の原料として使用するため、PPS樹脂にジスルフィド結合(−S−S−)が残存し、耐熱性や機械的特性が低下する原因となる。
このように、従来の技術では、ポリフェニレンスルフィド合成時にその塩素含有量を低減することについて検討されていたが、塩素含有量の低減(環境保全性)は十分であるとは言えず、また、塩素含有量を低減するとともに、加工性及び熱安定性を両立させる面においてもさらなる改良の余地がある。
特許文献1:JP特開昭55−156342
特許文献2:JP特開昭59−219331
特許文献3:JP特開昭5−163349
特許文献4:JP 59−219332
特許文献5:JP特開昭52−012240
特許文献6:JP63−033775
特許文献7:US4,038,263
特許文献8:JP特開昭62−106929
特許文献9:US20160208081A1
特許文献10:JP特開昭2010−126621
特許文献11:CN201380005933.3
特許文献12:US4,746,758
特許文献13:US4,786,173
上記従来の技術において、通常環境保全性、加工性、機械的特性を兼ね備えられないことに鑑みて、本発明は、塩素含有量が800ppm以下、且つ、窒素含有量が560ppm未満であり、優れた流動性及び熱安定性を兼ね備える低塩素含有量のポリフェニレンスルフィド及びその製造方法を提供する。
また、本発明はさらに、前記ポリフェニレンスルフィドを含む樹脂組成物、及び該樹脂組成物から製造してなる様々な成形体を提供する。
本発明は、以下の発明により上記の課題を解決した。
本発明はまず、硫黄含有化合物とp−ジクロロベンゼンとを重縮合反応させた後、さらに4−フェニルチオ−ベンゼンチオールにより末端封止してなる低塩素含有量のポリフェニレンスルフィドであって、前記ポリフェニレンスルフィドは、塩素含有量が800ppm以下であり、且つ、窒素含有量が560ppm未満である、低塩素含有量のポリフェニレンスルフィドを提供する。
前記ポリフェニレンスルフィドによれば、前記硫黄含有化合物は水硫化物から選択されるものであり、及び/又は、前記重縮合反応は脂肪酸の存在下で行われるものであり、前記脂肪酸は中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸から選択される1種又は複数種である。
前記ポリフェニレンスルフィドによれば、前記脂肪酸は、短鎖脂肪酸から選択される1種又は複数種であり、好ましくはC5〜C6の脂肪酸から選択される1種又は複数種である。
前記ポリフェニレンスルフィドによれば、前記ポリフェニレンスルフィドの熱安定性指数が0.94以上である。
前記ポリフェニレンスルフィドによれば、前記ポリフェニレンスルフィドの310℃における溶融粘度が10〜100Pa・sである。
本発明さらに、硫黄含有化合物、アルカリ性物質、及びp−ジクロロベンゼンを原料とし、脂肪酸を重縮合助剤とし、4−フェニルチオ−ベンゼンチオール(PTT)を末端基調整剤として、重縮合反応を行うことを含む、低塩素含有量のポリフェニレンスルフィドの製造方法を提供する。
前記の方法によれば、
溶媒にアルカリ性物質、脂肪酸を加えた後、脱水処理を実施するステップ1、
ステップ1で得られた混合系に硫黄含有化合物を加えるステップ2、及び、
ステップ2で得られた混合系にp−ジクロロベンゼンを加えて重縮合反応させ、重縮合反応中後半において、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールを加えて反応させ、反応終了後に、その後の分離又は洗浄ステップが行われやすくなるように、155〜180℃に降温させ、生成物系を得るステップ3、を備え、
前記硫黄含有化合物と脂肪酸とのモル比が1:0.55〜0.8である。
前記の方法によれば、前記重縮合反応の中後半は、前記重縮合反応の予備重合反応の終了後である。
前記の方法によれば、前記ステップ1では、前記アルカリ性物質は水溶液の形態で添加され、及び/又は、前記脂肪酸は中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸から選択される1種又は複数種である。
前記の方法によれば、前記脂肪酸は短鎖脂肪酸から選択される1種又は複数種であり、好ましくはC5〜C6の脂肪酸から選択される1種又は複数種である。
前記の方法によれば、前記ステップ2では、前記硫黄含有化合物と脂肪酸とのモル比が1:0.55〜0.8であり、前記硫黄含有化合物は水硫化物から選択されるものであり、ステップ2の混合系における水分含有量は、硫黄の合計量1.0molに対して、1.0mol未満である。
前記の方法によれば、前記アルカリ性物質はアルカリ金属の水酸化物から選択されるものであり、ステップ2では、硫黄の合計量1.0molに対して、前記アルカリ性物質の合計量が1.00〜1.02molであり、前記溶媒の合計量が3.2〜3.6molである。
前記の方法によれば、前記ステップ3では、硫黄の合計量1.0molに対して、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールの使用量が0.001〜0.02molであり、好ましくは0.002〜0.017molであり、より好ましくは0.005〜0.015molである。
前記の方法によれば、前記ステップ3の重縮合反応では、硫黄の合計量1.0molに対して、p−ジクロロベンゼンの使用量が0.99〜1.02molであり、前記溶媒の合計量が4.3〜4.7molである。
前記の方法によれば、前記方法はさらに、生成物の分離及び洗浄のステップを備え、前記洗浄のステップは、酸溶液による洗浄ステップ、及び水による洗浄ステップを含み、好ましくは、前記酸溶液による洗浄ステップでは、脂肪酸1.0molに対して、酸の使用量が1.2〜1.3molである。
また、本発明はさらに、前記ポリフェニレンスルフィド、又は、前記方法により得られたポリフェニレンスルフィドを含む樹脂組成物を提供する。
また、本発明は、前記樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、前記成形体の形状として、板状、シート状、フィルム状、又は繊維状を含む成形体も提供する。
本発明で提供するポリフェニレンスルフィド及びその製造方法は、以下の優れた効果を有する。
(1)ポリフェニレンスルフィド樹脂中の塩素含有量がさらに抑制された。具体的には、塩素の含有量が800ppm以下に低減されうるため、本発明で提供するポリフェニレンスルフィド樹脂は、加工時や使用時に、環境により一層優しくなる。
(2)本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂は、比較的低い塩素含有量に加え、、優れた熱安定性及び流動性を兼ね備えているため、望ましい加工使用効果が得られ、特に電子電気分野における中小型部品の加工使用要求を満たすことができる。
(3)本発明で提供するポリフェニレンスルフィドの製造方法は、簡単で、且つ原料の回収も比較的便利であり、溶媒等の原料の再利用を実現し、環境への負担を低減し、生産コストを低減することができる。
(4)使用する4−フェニルチオ−ベンゼンチオールという末端基調整剤は、良好な反応性及び高い沸点を有し、安全な生産に寄与できる。
(5)本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂は、比較的低い塩素含有量及び窒素含有量を同時に有し、樹脂の熱安定性をさらに向上させた。
以下、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。
<第1実施の形態>
本発明の第1実施の形態では、低塩素含有量のポリフェニレンスルフィド樹脂を提供する。本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂は、硫黄含有化合物とp−ジクロロベンゼンとを重縮合反応させた後、さらに末端基調整剤である4−フェニルチオ−ベンゼンチオールにより末端封止して得られたものである。好ましくは、前記重縮合反応は、重縮合助剤の存在下で行われる。
硫黄含有化合物
本実施の形態で使用する硫黄含有化合物は、原則上特に限定されることはないが、例えば、当業界で一般的に使われている硫黄単体、アルカリ金属の硫化物、アルカリ金属の水硫化物等が挙げられる。さらに、本発明の発明者は、熱安定性を併せ持つ観点から、例えば、ポリフェニレンスルフィド構造中の−S−S−の存在により熱安定性が低下する恐れを減少させるために、本実施の形態の硫黄含有化合物として、アルカリ金属の水硫化物が好ましいことを見出した。また、本実施の形態では、前記アルカリ金属も原則上特に限定されることはないが、後処理が便利という点から、ナトリウムが好ましい。つまり、本実施の形態の場合、前記硫黄含有化合物がNaHSであることが好ましい。
重縮合反応
本実施の形態では、ポリフェニレンスルフィドの主な構造は、重縮合反応によって実現される。本実施の形態では、重縮合反応の実施態様や条件は特に限定されることはないが、例えば、重縮合反応において、硫黄含有化合物及びp−ジクロロベンゼンを用いて縮合重合反応を行い、当業界通常の温度及び圧力を与える。これと同時に、助剤成分としてアルカリ性物質等を使用することもできる。典型的には、水酸化ナトリウム又はその水溶液等が挙げられる。
さらに、本施の形態の上記重縮合反応は、重縮合助剤として脂肪酸を用いる条件下で行われることが好ましい。前記脂肪酸は、当業界でよく使用されている脂肪酸であればよい。好ましくは、中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸である。特に、本発明者は驚くべきことに、短鎖脂肪酸(当業界では通常、炭素数1〜6の有機脂肪酸を短鎖脂肪酸と称する)、特にC5〜C6の脂肪酸を縮合反応助剤として使用する場合、窒素含有末端基の形成を効果的に制御できることを見出した。これらの窒素含有末端基は一般に、反応系における極性溶媒、例えばNMP等の高沸点溶媒が参与する副反応に由来すると認識されている。末端基の窒素含有量の減少を制御することによって、得られるポリフェニレンスルフィド樹脂の熱安定性を効果的に向上させることができる。前記C5〜C6の脂肪酸は、ヘキサン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、2−エチルブタン酸及びこれらの任意配合比での混合物であることがさらに好ましい。
末端基調整剤
本実施の形態では、4−フェニルチオ−ベンゼンチオール(p−thiophenoxy thiophenol、PTTと略称する)をポリフェニレンスルフィド合成反応中の末端基調整剤として使用する。上記重縮合反応の中後半、例えば予備重合反応終了後に、末端基調整剤を加えることにより、ポリフェニレンスルフィドの分子量を効果的に制御し、PTT残基により末端封止してなる分子末端基構造を形成することができる。
当業界の従来の技術、例えば特許文献10(JP2010−126621)では、チオフェノール(thiophenol)及びジフェニルジスルフィド(DPDSと略称する)を加え、ポリフェニレンスルフィド主鎖の末端にあるクロロ基と置換反応させ、−S−C末端基を形成することにより、ポリフェニレンスルフィド樹脂のハロゲン含有量を低減する作用を発揮する。一方、本実施の形態で使用する4−フェニルチオ−ベンゼンチオールは、メルカプト基でポリフェニレンスルフィド樹脂の末端基にある塩素を置換し、−S−C−S−C末端基を形成することにより、ポリフェニレンスルフィド樹脂のハロゲン含有量を低減する作用を発揮する。フェノール化合物及びその他のメルカプト基含有化合物に比べ、本実施の形態の末端基調整剤を用いてクロロ末端基を置換した後、ポリマーの主鎖構造がポリフェニレンスルフィドの分子鎖構造に似ているため、処理過程がポリフェニレンスルフィド樹脂の性能に影響を与えることがなく、特にポリフェニレンスルフィド自体の優れた熱安定性を維持することができる。
本実施の形態の末端基の置換方法と従来の技術との比較を下図に示す。
Figure 0006639694
チオフェノールに比べ、本実施の形態で使用する4−フェニルチオ−ベンゼンチオールは、そのパラ位に置換基である−S−Cを有することにより、フェニルチオ基のパラ位にあるメルカプト基の反応活性を高め、該メルカプト基とポリフェニレンスルフィド上のクロロ末端基との反応を促進し、クロロ末端基をよりよく低減する効果を達成できる。しかも、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールは沸点が高く、重合時にほとんど液相に存在するため、製造工程及び回収工程では環境問題が生じない。
同様に、ジフェニルジスルフィドに比べ、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールの反応活性がより良いため、本実施の形態では、相分離法により末端基調整剤とクロロ末端基を有するポリフェニレンスルフィドとの反応機会を増加せず、塩素含有量を低減する要求を満たすことができるので、重合時に相分離剤である水を大量に加えることによる反応圧力の増加問題を回避し、生産の安全係数を向上させると共に、反応装置の耐圧性への要求も低減した。また、ジフェニルジスルフィドの添加によりポリフェニレンスルフィド樹脂にジスルフィド結合が残存する問題を回避することで、ポリフェニレンスルフィド樹脂の優れた熱安定性を確保した。
本実施の形態では、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールにより末端封止してなるポリフェニレンスルフィドの塩素含有量が800ppm以下であり、好ましくは750ppm以下である。しかも、窒素含有量が560ppm未満であり、好ましくは550ppm以下である。上記した低い塩素含有量及び窒素含有量、特に塩素含有量は、本実施の形態のポリフェニレンスルフィドの熱安定性を顕著に向上させることができる。
熱安定性及び流動性
このように、本実施の形態では、重縮合反応の中後半に末端基調整剤を加えることにより、得られたポリフェニレンスルフィド樹脂中の塩素含有量を低減させることができ、且つ、−S−C−S−C末端基が形成され、ポリフェニレンスルフィドの熱安定性を維持した。さらに、重縮合助剤である脂肪酸の使用により、末端基の含有量をさらに低減したため、本実施の形態により得られたポリフェニレンスルフィド樹脂は、良好な熱安定性を有する。
具体的には、本発明の熱安定性は、熱安定性指数で示され、具体的な測定方法は下記のとおりである。
本発明においては、Dynisco社製LCR7001キャピラリーレオメーターによりポリフェニレンスルフィドの溶融粘度を測定する。設定温度は310℃である。ポリマー試料を装置に導入し、5min保持した後、せん断速度1216sec−1で溶融粘度を測定する。
上述した溶融粘度の測定方法において、温度310℃でのポリマー試料の加熱時間を5minと30minとする以外は、上述した溶融粘度の測定方法に従ってポリマーの溶融粘度を測定し、それらの比を算出し、本発明の熱安定性指数とする。つまり、ポリマー試料を310℃で5min保持した後、せん断速度1216sec−1で溶融粘度(MV1)を測定する。同じポリマー試料を310℃で30min保持した後、せん断速度1216sec−1で溶融粘度(MV2)を測定する。次に、MV2/MV1を算出する。この比の値は熱安定性を示すものであり、この比の値が大きいほど、ポリマーの熱安定性が良い。
本実施の形態では、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールにより末端封止してなるポリフェニレンスルフィドは、熱安定性指数が0.94以上であり、好ましくは熱安定性指数が0.95以上である。
また、本実施の形態により提供するポリフェニレンスルフィドは、良好な加工使用性能も有する。末端基調整剤の使用により、ポリフェニレンスルフィド自体の優れた流動性を維持することができる。本実施の形態で提供するポリフェニレンスルフィドの溶融粘度(測定条件は上記と同一)は10〜100Pa・sであり、好ましくは15〜50Pa・sである。
したがって、本実施の形態における特定の末端基構造を有するポリフェニレンスルフィド樹脂は、優れた熱安定性を維持しながら、良好な加工流動性を有すると考えられる。
<第2実施の形態>
本発明は、第2実施の形態において、硫黄含有化合物、アルカリ性物質、及びp−ジクロロベンゼンを原料とし、脂肪酸を重縮合助剤とし、4−フェニルチオ−ベンゼンチオール(PTT)を末端基調整剤として、重縮合反応を行うことを含む、低塩素含有量のポリフェニレンスルフィド樹脂の製造方法を提供する。
具体的に、前記方法は、
溶媒にアルカリ性物質、脂肪酸を加えた後、脱水処理を実施するステップ1、
ステップ1で得られた混合系に硫黄含有化合物を加えるステップ2、及び、
ステップ2で得られた混合系にp−ジクロロベンゼンを加えて重縮合反応させ、重縮合反応の中後半(例えば、予備重合反応の終了後)おいて、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールを加えて反応させ、次に155〜180℃に降温させ、生成物系を得るステップ3、を備え、
前記硫黄含有化合物と脂肪酸とのモル比が1:0.55〜0.8である。
また、前記方法はさらに、生成物の分離及び洗浄のステップを備える。前記分離のステップは、遠心分離ステップ、ろ過ステップを含み、前記洗浄のステップは、酸溶液による洗浄ステップ及び水による洗浄ステップを含み、前記酸溶液による洗浄ステップでは、脂肪酸1.0molに対して、酸の使用量が1.2〜1.3molである。
前記ステップ1におけるアルカリ性物質は、例えば第1実施の形態で言及されているアルカリ性物質であってもよい。本実施の形態では、アルカリ性物質は、水溶液の形態で使用される水酸化ナトリウムであってもよい。前記溶媒は、当業界で一般的に使用されている極性溶媒から選択されてもよく、好ましくは、例えばDMF又はNMP等の高沸点極性溶媒であり、最も好ましくはNMPである。ステップ1では、硫黄含有化合物1molに対して、溶媒の合計使用量が2.8〜3.2molである。
前記ステップ2では、ステップ2の混合系における水分含有量が、硫黄の合計量1.0molに対して、1.0mol未満であるように制御する。ステップ2では、硫黄含有化合物が水溶液の形態で使用される場合、ステップ2はさらに脱水ステップを含んでもよく。また、ステップ2では、溶媒を追加してもよい。
ステップ2では、硫黄の合計量1.0molに対して、前記アルカリ性物質の合計含有量は1.00〜1.02molであり、硫黄含有化合物及び追加可能な溶媒を加えた後、硫黄の合計量1.0molに対して、溶媒の合計量が3.2〜3.6molである。しかも、ステップ2では、硫黄含有化合物を水溶液の形態で使用することができる。
前記ステップ3では、同様に必要に応じて溶媒を追加してもよい。硫黄の合計量1.0molに対して、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールの使用量が0.001〜0.02molであり、好ましくは0.002〜0.017molであり、より好ましくは0.005〜0.015molである。また、前記ステップ3の重縮合反応では、硫黄の合計量1.0molに対して、p−ジクロロベンゼンの使用量を0.99〜1.02molとし、溶媒の合計量を4.3〜4.7molに制御する。
特に、本実施の形態では、従来と異なるのは、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールを末端基調整剤として用いて末端封止反応させた後に、系を155〜180℃に降温させ、且つ該温度下でその後の分離処理を実施する点にある。このような温度範囲が、従来技術の温度よりも高い。その理由は、本発明者が、本実施の形態の上記温度で処理する場合、後の処理で高分子量のPPS分子をできる限りに析出させながら、反応が不十分な低分子量のPPS分子を反応液中に残すことができ、このような反応液を後で利用することにより、全体的にPPSの収率を向上させるに有利であることを発見したからである。また、本発明者は、上記の155〜180℃の温度で処理する場合、小分子PPSをできる限り反応液に残すと同時に、最終生成物中の窒素含有量をさらに低減することができ、その理由は、小分子量PPSがより多くの窒素元素を含有するからであることも驚くべきことに発見した。
また、本実施の形態における脂肪酸、硫黄含有化合物の具体的な種類は、すべて第1実施の形態と同じであってもよいが、好ましくは前記脂肪酸はC5〜C6の脂肪酸であり、且つ硫黄含有化合物が硫化水素ナトリウムである。
本実施の形態に係る上記ステップでは、溶媒の使用量を限定している。本発明者は、上記の溶媒をかかる範囲に限定することで、特定の含有量の脂肪酸の使用と組み合わせて、ポリフェニレンスルフィド製品における窒素元素の含有量を低減することができるため、最終製品の熱安定性を向上させるのに有利であることを発見した。また、特定の含有量の溶媒の使用に、本発明における4−フェニルチオ−ベンゼンチオールという末端基調整剤の使用(塩素含有量の低減)を組み合わせることによって、さらに熱安定性の向上に相乗効果を発揮することができる。
典型的には、本実施の形態における低塩素含有量のポリフェニレンスルフィドの製造方法は、
反応釜に、NMP、40〜50%NaOH水溶液、及びC5〜C6脂肪酸を加え、窒素雰囲気下で、攪拌しながら、1.0〜2.0℃/minの速度で90〜120℃まで昇温させ、1〜3時間保温し、さらに、1.0〜2.0℃/minの速度で180〜200℃まで昇温させて脱水を行い、脱水後、110〜130まで降温させるステップ(1)、
ステップ(1)終了後の反応釜に、NaHS水溶液及びNMPを加え、窒素雰囲気下で、攪拌しながら、系における水分含有量が、硫黄の合計量1.0molに対して、1.0mol未満になるように、0.7〜1.5℃/minの速度で180〜200℃まで昇温させて脱水を行い、その後、140〜160℃まで降温させるステップ(2)、
ステップ(2)終了後の反応釜に、PDCB及びNMPを加え、1.0〜1.5時間内に220〜240℃まで昇温させ、0.5〜3時間保温し、さらに、1.0〜1.5℃/minの速度で260〜280℃まで昇温させ、1〜4時間保温し、前記重合反応の中後半(予備重合反応の終了後)において、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールを加え、保温後、1〜2時間以内に155〜180℃まで降温させ、PPS反応液を得るステップ(3)、
ステップ(3)終了後のPPS反応液を、遠心ろ過して脱水させた後、得られたケーキと等質量の、155〜180℃のNMPでリンスし、脱水させ、さらにケーキと等質量の塩酸溶液でリンスし、遠心脱水させ、ろ液を合わせて収集し、C5〜C6脂肪酸及びNMPを回収するステップ(4)、及び、
ステップ(4)で得られたケーキを、塩素イオンが合格になるまで脱イオン水で複数回洗浄し、ケーキを加熱乾燥させてポリフェニレンスルフィド樹脂を得るステップ(5)、を備えることができる。
前記ステップ(2)で使用される原料は、NaHS1.0molに対して、C5〜C6脂肪酸の合計使用量が0.55〜0.8molであり、C5〜C6脂肪酸は、好ましくはヘキサン酸、ペンタン酸、イソペンタン酸、2−エチルブタン酸及びこれらの任意配合比での混合物であり、NMPの使用量が2.8〜3.2molである。
前記ステップ(2)で使用される原料は、硫黄の合計量1.0molに対して、NaHS及びNMPが加えた後の系における合計NMPが3.2〜3.6molであり、合計NaOHが1.00〜1.02である。
前記ステップ(3)で使用される原料は、硫黄の合計量1.0molに対して、PDCB及びNMPが加えた後のPDCBの使用量が0.99〜1.02molであり、系における合計NMPが4.3〜4.7molである。
前記ステップ(3)で使用される4−フェニルチオ−ベンゼンチオールは、硫黄の合計量1.0molに対して、通常0.001〜0.02molであり、好ましくは0.002〜0.017molであり、より好ましくは0.005〜0.015molである。
前記ステップ(4)における塩酸溶液によるリンスでは、重縮合助剤1.0molに対して、塩酸の使用量が1.2〜1.3molである。
ポリフェニレンスルフィド樹脂における窒素含有量が高いことによって、熱安定性が低下しやすい問題に対して、本実施の形態では、NaOHと硫黄の合計量との比例を厳密に制御し、重合の主反応を顕著に促進できる縮合反応助剤であるC5〜C6脂肪酸を加えることで、窒素含有末端基の形成を制御する。また、重合反応の中後半(予備重合反応終了後)において、末端基調整剤を加えることで、末端基調整剤と低分子ポリマー及びp−ジクロロベンゼンとの反応による消費を低減する。また、後処理段階では、加熱ろ過及び熱溶媒洗浄で窒素含有量の高い低分子量ポリフェニレンスルフィドを母液に溶解させる方法により、最終のポリフェニレンスルフィド製品における窒素含有量を低減し、ポリフェニレンスルフィド樹脂の優れた熱安定性をさらに保証した。
したがって、本実施の形態では、重縮合反応段階の中後半に4−フェニルチオ−ベンゼンチオールを添加し、末端クロロ基の数を低減させ、且つ元の樹脂の熱安定性を維持することにより、下流の加工時に安定且つ良好な溶融成形条件を得ることができる。
また、本実施の形態で使用される設備について、原則上、上記反応又は処理工程を実施できれば、特に限定されることはない。
<第3実施の形態>
本発明の第3実施の形態は、樹脂組成物、及び該樹脂組成物を使用して製造してなる成形品に関する。
本実施の形態の樹脂組成物は、第1実施の形態及び第2実施の形態で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂を含む。該樹脂組成物において、使用目的により含まれる別の樹脂成分については限定されず、ポリフェニレンスルフィド樹脂と相溶性のある様々なエンジニアリングプラスチックや一般の樹脂等が挙げられる。
また、上記の樹脂組成物はさらに、工業上、特に電子電気部品の加工及び使用要求を満たすように、例えば難燃剤、耐候剤、充填材等の様々な助剤成分を、必要に応じて添加することができる。
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂を使用して製造した複合材は、典型的に繊維補強複合材である。例えば、チョップドストランド補強複合材又は連続繊維補強複合材が挙げられる。
さらに、前記樹脂組成物は、必要に応じて様々な部品に製造することができる。限定されるものではないが、押出成形、射出成形等の様々な成形工程を用いることができる。前記部品の形状として、板状、シート状、フィルム状、又は繊維状(単繊維又は繊維群)等が挙げられる。
以下、実例を挙げて本発明をより詳しく説明する。ただし、本発明はこれらの実例に限定されるものではない。
本発明における物性及び特性の測定方法は以下のとおりである。
(1)ハロゲン含有量の測定方法
PPS中のハロゲン含有量は、EN 14582:2007の方法に準じて測定し、酸素ボンベ燃焼ICPにより塩素含有量を測定する。
(2)溶融粘度の測定方法
PPSの溶融粘度について、Dynisco社製LCR7001キャピラリーレオメーターにより溶融粘度を測定する。設定温度は310℃である。ポリマー試料を装置に導入し、5min保持した後、せん断速度1216sec−1で溶融粘度を測定する。
(3)熱安定性の測定方法
上述した溶融粘度の測定方法において、温度310℃でのポリマー試料の加熱時間を5minと30minとする以外は、上述した溶融粘度の測定方法に従ってポリマーの溶融粘度を測定し、それらの比を算出する。つまり、ポリマー試料を310℃で5min保持した後、せん断速度1216sec−1で溶融粘度(MV1)を測定する。同じポリマー試料を310℃で30min保持した後、せん断速度1216sec−1で溶融粘度(MV2)を測定する。次に、MV2/MV1を算出する。この比の値は熱安定性を示すものであり、この比の値が大きいほど、ポリマーの熱安定性が良い。
(4)窒素含有量の測定方法
微量硫黄・窒素分析装置により、PPSの窒素含有量を測定する。
(5)合計NaOH量
合計NaOH量は、供給されたNaOHから、助剤の反応に必要なNaOHを引いた後、脱水によって生成されたNaOHを足した和である。つまり、
[合計NaOH量]=[供給されたNaOH]−[助剤の反応に必要なNaOH]+[脱水によって生成されたNaOH]
[実施例1]
100Lの反応釜に、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する)31.92Kg(320.0mol)、50%水酸化ナトリウム水溶液12.34Kg(154.2mol)及びイソペンタン酸5.62Kg(55.0mol)を加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.5℃/minの速度で100℃まで昇温させ、2時間保温した。保温後、1.5℃/minの速度で190℃まで昇温させ、7.20Kgの水溶液(水分含有量97.82%)を除去し、110℃まで降温させた。50%硫化水素ナトリウム11.22Kg(100.0mol)、NMP3.17Kg(32.0mol)を加え、同じ撹拌速度で、1.5℃/minの速度で190℃まで昇温させ、6.24Kgの水溶液(水分含有量89.87%)を除去した。脱水後、150℃まで降温させた。このとき、系における硫黄の合計量は99.0mol、水分含有量は84.4mol、合計NaOH/合計硫黄のモル比は1.01であった。
上記反応釜にp−ジクロロベンゼン(以下、PDCBと略称する)14.55Kg(99.0mol)、NMP10.40Kg(105.0mol)を加え、PDCB/合計硫黄のモル比は1.00であった。約1時間かけて220℃まで昇温させ、3時間保温した。さらに1.0℃/minの速度で260℃まで昇温させ、1時間保温し、4−フェニルチオ−ベンゼンチオール(以下、PTTと略称する)108.13g(0.496mol)を加え、3時間保温し続けた。PTT/合計硫黄のモル比は0.005であった。保温後、約1時間かけて155℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを155℃のNMP20.0Kgでリンスし、遠心脱水させ、さらに10%塩酸溶液24.1Kg(66mol)でリンスし、遠心脱水させた。ろ液を合わせ、共沸蒸留によりイソペンタン酸5.52Kgを回収し、減圧蒸留によりNMP58.1Kgを回収した。
上記リンスしたケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は94.3%であった。
[実施例2]
100Lの反応釜に、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する)31.92Kg(320.0mol)、40%水酸化ナトリウム水溶液17.78Kg(177.8mol、及びヘキサン酸9.28Kg(80.0mol)を加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.0℃/minの速度で90℃まで昇温させ、3時間保温した。保温後、1.0℃/minの速度で180℃まで昇温させ、12.30Kgの水溶液(水分含有量98.10%)を除去し、130℃まで降温させた。50%硫化水素ナトリウム11.22Kg(100.0mol)、NMP3.99Kg(40.0mol)を加え、同じ撹拌速度で、0.7℃/minの速度で180℃まで昇温させ、10.41Kgの水溶液(水分含有量91.85%)を除去した。脱水後、140℃まで降温させた。このとき、系における硫黄の合計量は98.9mol、水分含有量は97.8mol、合計NaOH/合計硫黄のモル比は1.00であった。
上記反応釜にp−ジクロロベンゼン(以下、PDCBと略称する)14.83Kg(100.9mol)、NMP 10.97Kg(110.0mol)を加え、PDCB/合計硫黄のモル比は1.02であった。約1.5時間かけて240℃まで昇温させ、0.5時間保温した。4−フェニルチオ−ベンゼンチオール(以下、PTTと略称する)323.4g(1.49mol)を加え、PTT/合計硫黄のモル比は0.015であった。さらに1.5℃/minの速度で280℃まで昇温させ、1時間保温した。保温後、約2時間かけて180℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを180℃のNMP20.0Kgでリンスし、遠心脱水させ、さらに15%塩酸溶液25.3Kg(104mol)でリンスし、遠心脱水させた。ろ液を合わせ、共沸蒸留によりヘキサン酸9.21Kgを回収し、減圧蒸留によりNMP65.2Kgを回収した。
上記リンスしたケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は93.3%であった。
[実施例3]
100Lの反応釜に、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する)27.93Kg(280.0mol)、50%水酸化ナトリウム水溶液11.955Kg(149.4mol)及びペンタン酸6.12Kg(60.0mol)を加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、2.0℃/minの速度で120℃まで昇温させ、1時間保温した。保温後、2.0℃/minの速度で200℃まで昇温させ、4.90Kgの水溶液(水分含有量96.02%)を除去し、さらに120℃まで降温させた。50%硫化水素ナトリウム11.22Kg(100.0mol)、NMP3.99Kg(40.0mol)を加え、同じ撹拌速度で、1.0℃/minの速度で200℃まで昇温させ、6.61Kgの水溶液(水分含有量92.37%)を除去した。脱水後、160℃まで降温させた。このとき、系における硫黄の合計量は98.7mol、水分含有量は85.5mol、合計NaOH/合計硫黄のモル比は1.02であった。
上記反応釜にp−ジクロロベンゼン(以下、PDCBと略称する)14.36Kg(97.7mol)、NMP10.97Kg(110.0mol)を加え、PDCB/合計硫黄のモル比は0.99であった。約1時間かけて230℃まで昇温させ、2時間保温した。さらに1.2℃/minの速度で270℃まで昇温させ、4−フェニルチオ−ベンゼンチオール(以下、PTTと略称する)215.2g(0.987mol)を加え、3時間保温し続けた。PTT/合計硫黄のモル比は0.010であった。保温後、約1時間かけて160℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを160℃のNMP20.0Kgでリンスし、遠心脱水させ、さらに10%塩酸溶液26.2Kg(36mol)でリンスし、遠心脱水させた。ろ液を合わせ、共沸蒸留によりペンタン酸6.02Kgを回収し、減圧蒸留によりNMP61.3Kgを回収した。
上記リンスしたケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は94.3%であった。
[実施例4]
100Lの反応釜に、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する)31.92Kg(320.0mol)、50%水酸化ナトリウム水溶液13.54Kg(169.2mol)及びイソペンタン酸7.15Kg(70.0mol)を加え、200rpmの撹拌速度及び窒素雰囲気下で、1.5℃/minの速度で100℃まで昇温させ、2時間保温した。保温後、1.5℃/minの速度で190℃まで昇温させ、7.20Kgの水溶液(水分含有量97.82%)を除去し、110℃まで降温させた。50%硫化水素ナトリウム11.22Kg(100.0mol)、NMP3.17Kg(32.0mol)を加え、同じ撹拌速度で、1.5℃/minの速度で190℃まで昇温させ、6.24Kgの水溶液(水分含有量89.87%)を除去した。脱水後、150℃まで降温させた。このとき、系における硫黄の合計量は99.0mol、水分含有量は89.4mol、合計NaOH/合計硫黄のモル比は1.01であった。
上記反応釜にp−ジクロロベンゼン(以下、PDCBと略称する)14.55Kg(99.0mol)、NMP10.40Kg(105.0mol)を加え、PDCB/合計硫黄のモル比は1.00であった。約1時間かけて220℃まで昇温させ、1時間保温し、4−フェニルチオ−ベンゼンチオール(以下、PTTと略称する)108.13g(0.496mol)を加え、2時間保温し続けた。さらに1.0℃/minの速度で260℃まで昇温させ、4時間保温し、PTT/合計硫黄のモル比は0.005であった。保温後、約1時間かけて170℃まで降温させた。釜内の物質を遠心ろ過して遠心脱水させ、ケーキを170℃のNMP20.0Kgでリンスし、遠心脱水させ、さらに14%塩酸溶液21.9Kg(84mol)でリンスし、遠心脱水させた。ろ液を合わせ、共沸蒸留によりイソペンタン酸7.05Kgを回収し、減圧蒸留によりNMP58.1Kgを回収した。
上記リンスしたケーキを脱イオン水で複数回洗浄し、洗浄後のケーキを加熱乾燥させることで、白色のポリフェニレンスルフィド樹脂を得、質量収率は92.5%であった。
[実施例5]
260℃で2時間保温した後にPTTを加え、さらに2時間保温した以外は、実施例1と同様であった。
これにより得られたPPS樹脂の質量収率は94.1%であった。
[実施例6]
PDCB/合計硫黄のモル比が0.99で、PTT/合計硫黄のモル比が0.012である以外は、実施例1と同様であった。
これにより得られたPPS樹脂の質量収率は93.5%であった。
[比較例1]
PTTを加えない以外は、実施例1と同様であった。これにより得られたPPS樹脂の質量収率は93.5%であった。
[比較例2]
中国特許CN201380005933.3における実例2の合成方法及びパラメータに従い、PPS樹脂を合成した。これにより得られたPPS樹脂の質量収率は90.2%であった。
[比較例3]
末端基調整剤としてチオフェノールを使用する以外は、実施例1と同様であった。これにより得られたPPS樹脂の質量収率は93.1%であった。
[比較例4]
末端基調整剤としてフェノールを使用する以外は、実施例1と同様であった。これにより得られたPPS樹脂の質量収率は92.8%であった。
[比較例5]
末端基調整剤としてジフェニルジスルフィド化合物を使用する以外は、実施例1と同様であった。これにより得られたPPS樹脂の質量収率は93.5%であった。
[比較例6]
末端基調整剤としてナトリウムフェニルチオラートを使用する以外は、実施例1と同様であった。これにより得られたPPS樹脂の質量収率は94.1%であった。
[比較例7]
末端基調整剤としてナトリウムフェノキシドを使用する以外は、実施例1と同様であった。これにより得られたPPS樹脂の質量収率は93.8%であった。
以上の実施例及び比較例の各測定データを表1にまとめた。
Figure 0006639694
表1から、実施例で得られたポリフェニレンスルフィドは高いレベルの収率を維持しながら、高い流動性を維持していることが分かった。また、各比較例と比べると、得られた樹脂の塩素含有量がより低かった。さらに、塩素・窒素含有量及び熱安定性の測定データを総合的に考えると、本発明に準じる各実施例の効果は、各比較例より優れている。
本発明は、塩素含有量が800ppm未満で、熱安定性が良好なPPS樹脂を得ることができるため、電子電気、及び自動車部品等の広い分野に適用できる。

Claims (18)

  1. 脂肪酸の存在下で、硫黄含有化合物とp−ジクロロベンゼンとを重縮合反応させた後、さらに4−フェニルチオ−ベンゼンチオールにより末端封止してなるポリフェニレンスルフィドであって、
    前記ポリフェニレンスルフィドは、塩素含有量が800ppm以下であり、且つ、窒素含有量が560ppm未満であることを特徴とする、低塩素含有量のポリフェニレンスルフィド。
  2. 前記硫黄含有化合物は水硫化物から選択されるものであり、
    前記脂肪酸は、中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸から選択される1種又は複数種であることを特徴とする、請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド。
  3. 前記脂肪酸は短鎖脂肪酸から選択される1種又は複数種であり、好ましくはC5〜C6の脂肪酸から選択される1種又は複数種であることを特徴とする、請求項2に記載のポリフェニレンスルフィド。
  4. 前記ポリフェニレンスルフィドの熱安定性指数が0.94以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド。
  5. 前記ポリフェニレンスルフィドの310℃における溶融粘度が10〜100Pa・sであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド。
  6. 低塩素含有量のポリフェニレンスルフィドの製造方法であって、
    硫黄含有化合物、アルカリ性物質及びp−ジクロロベンゼンを原料とし、脂肪酸を重縮合助剤とし、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールを末端基調整剤として、重縮合反応を行うことを特徴とする、低塩素含有量のポリフェニレンスルフィドの製造方法。
  7. 溶媒にアルカリ性物質、脂肪酸を加えた後、脱水処理を実施するステップ1、
    ステップ1で得られた混合系に硫黄含有化合物を加えるステップ2、及び、
    ステップ2で得られた混合系にp−ジクロロベンゼンを加えて重縮合反応させ、重縮合反応の中後半において、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールを加えて反応させ、次に155〜180℃に降温させ、生成物系を得るステップ3、
    を備え、
    前記硫黄含有化合物と脂肪酸とのモル比が1:0.55〜0.8であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
  8. 前記重縮合反応の中後半は、前記重縮合反応の予備重合反応の終了後であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
  9. 前記ステップ1では、前記アルカリ性物質は水溶液の形態で添加され、及び/又は、前記脂肪酸は中鎖脂肪酸、短鎖脂肪酸から選択される1種又は複数種であることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
  10. 前記脂肪酸は短鎖脂肪酸から選択される1種又は複数種であり、好ましくはC5〜C6の脂肪酸から選択される1種又は複数種であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
  11. 前記ステップ2では、前記硫黄含有化合物は水硫化物から選択されるものであり、
    ステップ2の混合系における水分含有量は、硫黄の合計量1.0molに対して、1.0mol未満であることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。
  12. 前記アルカリ性物質はアルカリ金属の水酸化物から選択されるものであり、
    ステップ2では、硫黄の合計量1.0molに対して、前記アルカリ性物質の合計量が1.00〜1.02molであり、前記溶媒の合計量が3.2〜3.6molであることを特徴とする、請求項7〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 前記ステップ3では、硫黄の合計量1.0molに対して、4−フェニルチオ−ベンゼンチオールの使用量が0.001〜0.02molであり、好ましくは0.002〜0.017molであり、より好ましくは0.005〜0.015molであることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 前記ステップ3の重縮合反応では、硫黄の合計量1.0molに対して、p−ジクロロベンゼンの使用量が0.99〜1.02molであり、前記溶媒の合計量が4.3〜4.7molであることを特徴とする請求項7〜13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記方法はさらに、生成物の分離及び洗浄のステップを備え、前記洗浄のステップは、酸溶液による洗浄ステップ、及び水による洗浄ステップを含み、好ましくは、前記酸溶液による洗浄ステップでは、脂肪酸1.0molに対して、酸の使用量が1.2〜1.3molであることを特徴とする、請求項7〜14のいずれか1項に記載の方法。
  16. 反応釜に、NMP、40〜50%NaOH水溶液、及びC5〜C6脂肪酸を加え、窒素雰囲気下で、攪拌しながら、1.0〜2.0℃/minの速度で90〜120℃まで昇温させ、1〜3時間保温し、さらに、1.0〜2.0℃/minの速度で180〜200℃まで昇温させて脱水を行い、脱水後、110〜130まで降温させるステップ(1)、
    ステップ(1)終了後の反応釜に、NaHS水溶液及びNMPを加え、窒素雰囲気下で、攪拌しながら、系における水分含有量が、硫黄の合計量1.0molに対して、1.0mol未満になるように、0.7〜1.5℃/minの速度で180〜200℃まで昇温させて脱水を行い、その後、140〜160℃まで降温させるステップ(2)、
    ステップ(2)終了後の反応釜に、p−ジクロロベンゼン及びNMPを加え、1.0〜1.5時間内に220〜240℃まで昇温させ、0.5〜3時間保温し、さらに、1.0〜1.5℃/minの速度で260〜280℃まで昇温させ、1〜4時間保温し、前記重合反応の中後半において、末端基調整剤である4−フェニルチオ−ベンゼンチオールを加え、保温後、1〜2時間以内に155〜180℃まで降温させ、PPS反応液を得るステップ(3)、
    ステップ(3)終了後のPPS反応液を遠心ろ過し、遠心脱水させた後、得られたケーキと等質量の、155〜180℃のNMPでリンスし、遠心脱水させ、さらに塩酸溶液でリンスし、遠心脱水させ、ろ液を合わせて収集し、C5〜C6脂肪酸及びNMPを回収するステップ(4)、及び、
    ステップ(4)で得られたケーキを脱イオン水で複数回洗浄した後、加熱乾燥させてポリフェニレンスルフィド樹脂を得るステップ(5)、
    を備えることを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
  17. 請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド、又は、請求項6〜16のいずれか1項に記載の方法により得られたポリフェニレンスルフィドを含むことを特徴とする、樹脂組成物。
  18. 請求項17に記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体であって、前記成形体の形状として、板状、シート状、フィルム状、又は繊維状を含むことを特徴とする、成形体。
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