JP5172697B2 - 硫酸透過酵素の発現が増強された微生物を用いてメチオニンおよびその前駆体ホモセリンまたはスクシニルホモセリンを製造するための方法 - Google Patents

硫酸透過酵素の発現が増強された微生物を用いてメチオニンおよびその前駆体ホモセリンまたはスクシニルホモセリンを製造するための方法 Download PDF

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Description

発明の背景
発明の分野
本発明は、炭素源および硫黄源を含む適切な培養培地内で微生物を培養することによってメチオニンまたはその誘導体を製造するための方法に関する。本発明の対象とする微生物は、システインおよび/もしくはC1単位の生成を増強するように、ならびに/またはホモシステイン上へC1単位を転移させる能力を増大もしくは最適化するように改変される。
背景技術
システイン、ホモシステイン、メチオニンまたはS−アデノシルメチオニンなどの硫黄含有化合物は、細胞代謝にとって重要であり、食品または飼料添加物および医薬品として使用されるべく工業的に製造される。特に、動物が合成することのできない必須アミノ酸であるメチオニンは、多くの身体機能において重要な役割を果たす。タンパク質生合成におけるその役割とは別に、メチオニンは、メチル基転移ならびにセレニウムおよび亜鉛のバイオアベイラビリティに関与している。メチオニンはまた、アレルギーやリウマチ熱のような疾患のための治療薬として直接的に用いられる。しかしながら、製造されるメチオニンの大部分は動物用飼料に添加されている。
BSEおよび鳥インフルエンザ(chicken flu)を理由に動物由来タンパク質の使用が減少するにつれ、純粋なメチオニンに対する需要が高まっている。化学的には、D,L−メチオニンは、通常、アクロレイン、メチルメルカプタンおよびシアン化水素から製造される。しかしながら、ラセミ混合物は、例えば鶏飼料用添加物において、純粋なL−メチオニンほど良好には機能しない(Saunderson, C.L., (1985) British Journal of Nutrition 54, 621-633)。純粋なL−メチオニンは、ラセミ型メチオニンから、例えばN−アセチル−D,L−メチオニンのアシラーゼ処理を行うことによって製造することができるが、製造コストは大幅に増加する。環境問題に関連して純粋なL−メチオニンに対する需要が高まりつつあるため、メチオニンの微生物生成は魅力的である。
微生物は、細胞成分の生合成を微調整する非常に複雑な調節機構を有しており、これにより最大の増殖率が得られる。結果として、必要量のアミノ酸などの代謝産物しか合成されず、通常、野生型株の培養上澄みにおいては検出できない。細菌は、主に酵素のフィードバッグ阻害、および遺伝子転写の抑制または活性化によりアミノ酸生合成を制御する。これらの調節経路に対するエフェクターは、ほとんどの場合、関連経路の最終産物である。結果として、微生物においてアミノ酸を過剰生成させる方策には、これら制御機構の調節を解除することが必要となる。
L−メチオニン生合成経路は、多くの微生物においてよく知られている。メチオニンは、アミノ酸であるアスパラギン酸に由来するが、その合成には、システイン生合成およびC1代謝(N−メチルテトラヒドロフォレート)という更なる2つの経路の収束が必要である。アスパラギン酸は、一連の3種の反応によりホモセリンに変換される。次いで、ホモセリンはトレオニン/イソロイシンまたはメチオニン生合成経路へ入る。大腸菌(E.coli)において、メチオニン経路へ入るには、ホモセリンをアシル化してスクシニル−ホモセリンとすることが必要である。この活性化工程により、次いで、システインの濃縮が行われ、それによりチオエーテル含有シスタチオニンが生じ、これが加水分解されてホモシステインが得られる。B12依存性またはB12独立性メチルトランスフェラーゼのいずれかにより最終的なメチル転移が行われて、メチオニンが生成される。
大腸菌におけるメチオニン生合成は、MetJおよびMetRタンパク質のそれぞれを介してメチオニン生合成遺伝子を抑制および活性化することによって調節される(Neidhardt, F.C. (Ed. in Chief), R. Curtiss III, J.L. Ingraham, E.C.C. Lin, K.B.Low, B.Magasanik, W.S.Reznikoff, M. Riley, M. Schaechter, and H.E. Umbarger (eds), 1996, Eschericia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology, American Society for Microbiology; Weissbach et al., 1991 Mol. Microbiol., 5, 1593-1597において検討)。MetJは、そのコリプレッサーであるS−アデノシルメチオニンと共に、遺伝子metA、metB、metC、metEおよびmetFを調節することが知られている。メチオニン生成に関与する酵素をコードする他の遺伝子(例えば、glyA、metE、metHおよびmetF)は、MetRによって活性化されるが、metAはMetRによって抑制される。対応する酵素はすべて、C1単位の生成およびセリンからメチオニンへのC1単位の転移に関与している。セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードするGlyAは、セリンのグリシンへの変換および補酵素テトラヒドロフォレート(THF)上へのC1単位の同時転移を触媒する。メチレン−THF形態であるC1単位をメチル−THFに還元する必要があり、その後、メチル−THFがホモシステイン上へ転移されてメチオニンが生成され得る。この反応は、MetFタンパク質によって触媒される。メチル基の転移は、ビタミンB12を介してMetHにより触媒されるか、またはMetEによって直接触媒される。MetH酵素は、MetE酵素よりも数百倍高い触媒反応速度を有することが知られている。ビタミンB12および故に活性MetHの不存在下で、MetEは、最大で全細胞タンパク質の5%を構成し得る。活性MetHの存在は、おそらく、通常はMetRを介してmetE転写を活性化させるホモシステインの量を
低減することによりMetE活性を低下させる。故に、MetHを介したメチオニンの生成は、大量のMetEを発現させないことにより、細胞のための重要な資源を節約する。ホモシステインの堆積は大腸菌にとって有毒であり(Tuite et al., 2005 J. Bacteriol, 187, 13, 4362-4371)、同時に、MetRを介したmetA発現に対する制御効果を有する。従って、酵素MetHおよび/またはMetEの強い発現が、効果的なメチオニン生成にとって明らかに必要である。
大腸菌において、分解された硫黄は、システインに組み込まれ、次いでメチオニン前駆体であるO−スクシニル−ホモセリン上へ転移される。このプロセスは硫黄基転移(transulfuration)と呼ばれる(Neidhardt, F.C. (Ed. in Chief), R. Curtiss III, J.L. Ingraham, E.C.C. Lin, K.B. Low, B. Magasanik, W.S. Reznikoff, M. Riley, M. Schaechter, and H.E. Umbarger (eds). 1996. Escherichia coli and Salmonella: Cellular and Molecular Biology. American Society for Microbiologyにおいて検討)。システインは、O−アセチルセリンおよびHSから硫黄基転移により生成される。本プロセスは、生成物であるシステインが、CysEにコードされたセリントランスアセチラーゼに作用することによって負のフィードバック制御を受ける。O−アセチル−セリンから同時に生成されるN−アセチル−セリンは、転写因子CysBと共に、硫黄化合物の輸送、それらのHSへの還元および有機硫黄化合物であるシステイン(メチオニンと同様に必須アミノ酸である)内へのそれらの組み込みに関与する酵素をコードする遺伝子を活性化させる。
システインの不存在下では、MetBは、メチオニン前駆体O−スクシニルホモセリンの、アンモニア、α−ケトブチラートおよびスクシネートへの変換を触媒し、この反応はγ脱離と呼ばれる(Aitken & Kirsch, 2005, Arch Biochem Biophys 433, 166-75)。次いで、α−ケトブチラートはイソロイシンへと変換され得る。この副反応は、メチオニンの工業的製造には望ましくない。その理由は、これら2つのアミノ酸を分離するのは困難だからである。故に、低いγ脱離活性が、メチオニンの工業的製造にとって重要な態様である。米国仮特許出願US60/650,124(2005年2月7日出願)には、酵素MetBを最適化することによってどのようにγ脱離を低減し得るかが記載されている。システイン生合成の流れを最適化することによっても、γ脱離を低下させ、従って副産物であるイソロイシンの生成を低減することができ、これは本発明の一つの実施態様を構成している。
本発明は、システインの生成が増大されていると共に、規定の炭素源および硫黄源上で増殖する微生物を用いた発酵による製造において、メチオニン、その前駆体またはその誘導生成物を製造するための方法に関する。
メチオニンの前駆体は、メチオニン特異的代謝経路の一部である代謝産物、またはこれら代謝産物から誘導され得るものと定義される。メチオニン特異的経路は、酵素ホモセリンスクシニルトランスフェラーゼ(MetA)によりホモセリンをスクシニルホモセリンへ転換することから始まる。
メチオニン誘導生成物は、メチオニン転換および/または分解経路から生じる。
システイン生成を増大させるために、本発明者らは、システイン生成に関与する遺伝子の発現を増強した。
用語「増強」は、本発明において、例えば、遺伝子コピー数を増大させる、強いプロモーターを使用する、または増大された活性を有する対立遺伝子を使用する、および、おそらくはこれらの方法を組み合わせることによって、対応するDNAによりコードされる酵素の細胞内活性を増大させることを意味する。
本明細書中で使用される用語「増大された発現」または「増強された発現」はいずれも同様の意味を有する。
遺伝子の発現を増大させるために、該遺伝子は、染色体内で、または染色体外でコードされてもよい。染色体内では、当業者に知られている組み換え方法により導入され得る1つまたは複数のコピーがゲノム上にあってもよい。染色体外では、遺伝子は、複製起点が異なり、それに伴ってそれらの細胞内でのコピー数が異なる様々な種類のプラスミドに担持されていてもよい。それら遺伝子は、1〜5個のコピー、約20個または最大500個のコピーとして存在してもよく、これらは、厳密な複製を有する低コピー数のプラスミド(pSC101,RK2)、低コピー数のプラスミド(pACYC,pRSF1010)または高コピー数のプラスミド(pSK bluescript II)に相当する。
本発明の好ましい実施態様において、遺伝子は、誘発因子分子により誘発される必要があるか、またはその必要がない、様々な強度のプロモーターを用いて発現させてもよい。これらのプロモーターは同種であっても、異種であってもよい。例としては、プロモーターPtrc、Ptac、Plac、λプロモーターcIまたは当業者に知られている他のプロモータが挙げられる。
標的遺伝子の発現は、対応するメッセンジャーRNA(Carrier and Keasling (1998) Biotechnol. Prog. 15, 58-64)またはタンパク質(例えば、GSTタグ(Amersham Biosciences))を安定化または不安定化させる因子によって、促進または低減されてもよい。
本発明はまた、本発明に従って増強すべき遺伝子の1つまたは幾つかの対立遺伝子を含有する微生物に関する。
本発明の特定の実施態様では、システイン生成に関与する遺伝子の発現が増強される。
システイン生成に関与する遺伝子は、硫黄源の取り込み(import)、該硫黄源の硫化水素への転換、および硫化水素または硫黄源のシステインまたはその誘導体への同化に必要なタンパク質をコードする遺伝子を含む。
大腸菌において、これらのタンパク質は、以下の遺伝子(アクセッション番号および対応するポリペプチドの機能も示す)によってコードされる。
Figure 0005172697
本発明の説明では、遺伝子およびタンパク質は、大腸菌の対応する遺伝子の名称を用いて識別される。しかしながら、特記されない限り、これら名称の使用は、本発明によるより包括的な意味を有し、他の生物、より特定的には微生物の、対応する遺伝子およびタンパク質のすべてを包含する。
PFAM(アラインメントのタンパク質ファミリーデータベースおよび隠れマルコフモデル;http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/)は、タンパク質配列アラインメントを多数集めたものである。各PFAMにより、多重アラインメントを視覚化し(タンパク質ドメインを参照のこと)、生物間の分布を評価し、他のデータベースへのアクセスを獲得し、既知のタンパク質構造を視覚化することができる。
30個の主要な系統発生系を示す66個の完全に配列決定されたゲノムからのタンパク質配列を比較することにより、COG(タンパク質のオーソロガス群のクラスター;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/COG/)が得られる。各COGは、少なくとも3つの系から規定されるので、前に保存されたドメインを同定することができる。
相同配列およびそれらの相同性(%)を同定する手段は、当業者によく知られており、特にBLASTプログラムが挙げられる。このプログラムは、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/から、このウェブサイト上に示されたデフォルトパラメーターと共に利用することができる。次いで、例えばプログラムCLUSTALW(http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)またはMULTALIN(http://prodes.toulouse.inra.fr/multalin/cgi-bin/multalin.pl)を、これらウェブサイト上に示されたデフォルトパラメーターと共に用いて、得られた配列を活用する(例えば、整列させる)ことができる。
GenBank上で得られる既知の遺伝子に関する参考番号を用いて、当業者は、他の生物、細菌株、酵母、菌類、哺乳類、植物などにおける同等の遺伝子を決定することができる。この常套作業は、有利には、他の微生物由来の遺伝子との配列アラインメントを行い、縮重プローブを設計して、他の生物における対応する遺伝子をクローニングすることにより決定することができるコンセンサス配列を使用して行われる。これらの分子生物学の常套手段は、当業者によく知られており、例えば、Sambrook et al. (1989 Molecular Cloning: a Laboratory Manual. 2nd ed. Cold Spring Harbor Lab., Cold Spring Harbor, New York)に記載されている。
一つの好ましい実施態様として、本発明の方法において用いられる微生物は、セリントランスアセチラーゼをコードするcysEの発現を増大させるように改変される。
本発明はまた、本発明に従ってセリントランスアセチラーゼをコードする1つまたは幾つかの対立遺伝子を含有する微生物に関する。
かかる株は、γ−シスタチオニン合成(MetBにより触媒される反応)のための基質濃度を高めることによって、メチオニンに向かう流束を増大させることが可能なシステイン代謝を備えるという事実により特徴づけられる。システイン濃度が低いと、MetB酵素は、スクシニル−ホモセリンからアンモニア、スクシネートおよびα−ケトブチラートを生成する。この反応はγ脱離と呼ばれる。システイン濃度が高くなると、α−ケトブチラートの生成量が低下し、故にメチオニンへの流動が増大する。
セリントランスアセチラーゼ活性の発現の増強は、セリンおよびアセチル−CoAを用いた酵素テストにおいて検証することができる。この反応は、セリントランスアセチラーゼ活性を含有するタンパク質抽出物を添加することにより開始され、O−アセチル−セリンの形成は、タンパク質沈殿およびシリル化試薬による誘導体化の後にGC−MSによってモニタリングされる。
本発明はまた、O−アセチルセリンスルフヒドリラーゼをコードするcysM遺伝子の発現増強に関するものであり、これにより、チオ硫酸塩のスルホシステインへの組み込みが増加し、システイン生成が促進される。
故に、本発明は、システイン生成を最適化することにより、γ脱離を低下させ、従ってイソロイシン生成を低減させる方法を対象とする。
本発明による異種プロモーターは、改変した野生型プロモーター、または他の生物もしくは全体的に合成したプロモーターから得られる任意のプロモーターとして理解される。好ましくは、異種プロモーターはPtrc、Ptac、λcIまたは当業者に知られている他のプロモーターなどの強いプロモーターである。
本発明の別の好ましい実施態様では、メチオニンまたはその誘導体を生成するために微生物を使用する方法が対象とされ、C1単位の生成および/またはC1単位をホモシステイン上へ転移させる能力に関与する遺伝子の発現が増大または最適化される。
本発明によれば、最も高いメチオニン生成を得るように、関与遺伝子の発現レベルを適合させることによって、最適化が達成される。ほとんどの場合、これは、例えば、異種プロモーターを用いて関与遺伝子の発現ライブラリを作製し、スクリーニングして最良の生成株(producer)を得ることによって行われる。
本発明によれば、C1単位という用語は、メチル、メチレン、メテニルまたはホルミル基として、キャリア分子テトラヒドロフォレートに結合される単一の炭素原子をいう。
「転移させる能力」という用語は、C1単位をホモシステイン上に転移させる微生物の能力をいう。この能力は、本発明者らによって増強および/または最適化されたMetFおよび/またはMetHの活性により決定される。
C1単位の生成に関与する遺伝子は以下の通りである。
Figure 0005172697
ホモシステイン上へのC1単位の転移に関与する遺伝子は以下の通りである。
Figure 0005172697
本発明の特に好ましい実施態様では、メチオニンの製造に使用される微生物は、metFもしくはmetH、またはその両方の発現を増大させるか、または異種プロモーターからmetFを発現させるように改変される。
増強されたビタミンB12依存性メチオニンシンターゼ(MetH)活性は、ビタミンB12およびSAMの存在下、メチル−THFおよびホモシステインを用いた酵素テストにおいて検証することができる。メチレンテトラヒドロフォレート還元酵素活性を含有するタンパク質抽出物を添加することによって反応が開始され、メチオニン形成は、タンパク質沈殿およびシリル化試薬による誘導体化の後にGC−MSによってモニタリングされる。
メチオニン生合成に関与する更なる遺伝子の発現を増大させることによってメチオニン生成を更に増大させることができ、これもまた、本発明の目的である。
これらの遺伝子は以下の通りである。
Figure 0005172697
更に、メチオニンを分解する、またはメチオニン生成経路から逸脱する経路における遺伝子の発現を低減するか、または該遺伝子を欠失させてもよい。
Figure 0005172697
アナプレロティック(補充)反応は、以下の遺伝子を発現させることによって促進してもよい。
Figure 0005172697
酢酸塩消費反応は、以下の遺伝子を過剰発現させることによって促進してもよい。
Figure 0005172697
L−メチオニン、その前駆体またはその誘導化合物の生成の更なる増加は、次の遺伝子の1つまたは幾つかを過剰発現させることによって達成することができる:ピルビン酸カルボキシラーゼ(例えばRhizobium etli(pyc,U51439))またはその相同体の1つ、好ましくはフィードバック感度が低下した、遺伝子thrA(ホモセリンデヒドロゲナーゼ/アスパルトキナーゼ、1786183)、metL(ホモセリンデヒドロゲナーゼ/アスパルトキナーゼ、g1790376)またはlysC(アスパルトキナーゼ、1790455)およびasd(アスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ)によりコードされたホモセリン合成酵素。
L−メチオニン、その前駆体またはその誘導化合物の生成の更なる増加は、特許出願JP2000157267−A/3(GenBank 1790373も参照)に示唆されているように、メチオニンレギュロンの下方調節を担うリプレッサータンパク質の遺伝子MetJを欠失させることによって達成される。
メチオニン生成は、国際特許出願WO2005/111202(本明細書の一部とする)に記載されるように、その抑制因子SAMおよびメチオニンに対するフィードバック感度が低下したホモセリンスクシニルトランスフェラーゼ対立遺伝子を使用することによって更に増大される。
L−メチオニン、その前駆体またはその誘導化合物の生成の増加は、以下の遺伝子の1つの活性を減衰させるか、または該遺伝子を欠失させることによって達成することができる。
「減衰」という用語は、本発明において、酵素の発現を低下させる、該酵素の安定性を低下させる、その分解を増大させる、および/または当業者に知られている他の解決策などの方策による、該酵素の細胞内活性の低下を意味する。
Figure 0005172697
メチオニン生成は、改変metB対立遺伝子を使用することによって更に増大させてもよく、この改変metB対立遺伝子は、優先的または排他的にHSを利用することにより、国際特許出願WO2004/076659(その内容を、参照することにより本明細書の一部とする)に記載されているように、O−スクシニル−ホモセリンからホモシステインを生成する。
L−メチオニン、その前駆体またはその誘導化合物の発酵生成に使用される硫黄源は、次のいずれかまたはそれらの組み合わせであってもよい:硫酸塩、チオ硫酸塩、硫化水素、ジチオン酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩。
本発明の好ましい実施態様では、硫黄源は硫酸塩および/またはチオ硫酸塩である。
本発明はまた、L−メチオニン、その前駆体またはその誘導化合物の製造方法に関し、この方法は、上述のメチオニン生成微生物の発酵、メチオニン、その前駆体またはその誘導化合物の濃縮、および発酵ブロスの所望生成物の単離を含む。
本発明によれば、「培養」および「発酵」という用語は、単純な炭素源を含有する適切な培養培地上での微生物の増殖を意味するものとして区別なく使用される。
本発明によれば、単純な炭素源は、微生物、特に細菌を普通に増殖させるために、当業者が使用できる炭素源である。特に、グルコース、ガラクトース、スクロース、ラクトースまたはモラスなどの吸収可能な糖、またはこれら糖の副産物であり得る。特に好ましい単純炭素源はグルコースである。別の好ましい単純炭素源はスクロースである。
当業者は、本発明による微生物のための培養条件を規定することができる。特に、細菌類は、20℃〜55℃、好ましくは25℃〜40℃、より特定的にはC.glutamicumの場合には約30℃、および大腸菌の場合には約37℃の温度で発酵される。
発酵は、使用する細菌に適合した既知の規定された組成を有する無機培養培地を備えた発酵槽において行われるのが一般的であり、該無機培養培地は、少なくとも1種の炭素源と、必要であれば代謝産物を生成するのに必要な補基質とを含有する。
特に、大腸菌用の無機培養培地は、M9培地(Anderson, 1946, Proc. Natl. Acd. Sci. USA 32:120-128)、M63培地(Miller, 1992; A Short Course in Bacterial Genetics: A Laboratory Manual and Handbook for Escherichia coli and Related Bacteria, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York)またはSchaeferらにより規定されるもののような培地(1999, Anal. Biochem. 270:88-96)と同一または同様の組成であり得る。
同様に、C.glutamicum用の無機培養培地は、BMCG培地(Liebl et al., 1989, Appl. Microbiol. Biotechnol. 32: 205-210)またはRiedelらにより記載されるような培地(2001, J. Mol. Microbiol. Biotechnol. 3: 573-583)と同一または同様の組成であり得る。これらの培地を補充して、変異により導入される栄養要求性を補うことができる。
発酵後、L−メチオニン、その前駆体またはその誘導化合物を回収し、必要であれば精製する。培養培地で生成した化合物(メチオニンなど)の回収および精製方法は、当業者によく知られている。
場合により、発酵生成物の精製を行っている間、0%〜100%のバイオマスを保持してもよい。
本発明はまた、メチオニンの発酵生成に合わせて最適化される微生物にも関する。
「最適化された微生物」という用語は、上述の改変が組み込まれて、所望の代謝産物を生成するため、および、おそらくは副産物の生成を最小限に抑えるために最良な工業的性能をもたらす微生物を指す。
好ましい実施態様では、前記生物は、大腸菌またはC.glutamicumまたはSaccharomyces cerevisiaeのいずれかである。
最も好ましい実施態様では、前記生物は大腸菌である。
発明の具体的説明
metJ遺伝子にコードされるメチオニンリプレッサーがクロラムフェニコールカセットにより置換されており(ΔmetJ::Cm)、かつ、メチオニンおよびSAMに対するフィードバック感度が低下したmetA対立遺伝子を有する(metA11)大腸菌株が、2004年5月12日に出願されたPCT国際特許出願PCT/IB04/001901に記載されている。この株に、以下の遺伝的改変を導入した。
MG1655 metA 11 ΔmetJ::Cm Ptrc−metF::Kmの構築
異種Ptrcプロモーターの制御下にmetF遺伝子をクローニングするために、Datsenko&Wanner(2000)により記載された相同組み換え法を用いた。この方法により、関与遺伝子近傍にクロラムフェニコールまたはカナマイシン耐性カセットを挿入することができる。この目的のため、以下のオリゴヌクレオチドを使用した。
Figure 0005172697
このオリゴヌクレオチドは、以下の領域を有する:
−遺伝子metFの配列(4130259−4160195)と相同な領域(大文字)(ウェブサイトhttp://genolist.pasteur.fr/Colibri/の参照配列);
−RBS(太字)、−35および−10ボックス(太字)を有するプロモーターPtrc配列と相同な配列(斜体);
−カナマイシン耐性カセットの増幅用領域(大文字)(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645における参照配列)。
Figure 0005172697
このオリゴヌクレオチドは、以下の領域を有する:
− 遺伝子metFの領域の配列(4130114−4130195)と相同な領域(小文字)(ウェブサイトhttp://genolist.pasteur.fr/Colibri/の参照配列);
−バクテリオファージT7末端の配列(Genbank V01146)と相同な領域(斜体、小文字);
−カナマイシン耐性カセットの増幅用領域(大文字)(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645における参照配列)。
オリゴヌクレオチドPtrc−metF FおよびPtrc−metF Rを使用して、プラスミドpKD4からカナマイシン耐性カセットを増幅した。次いで、得られたPCR産物をエレクトロポレーションにより株MG1655 metA11 ΔmetJ(pKD46)に導入した。この株では、発現したRed組み換え酵素により相同組み換えが可能となる。カナマイシン耐性形質転換体を選択し、以下に規定されるオリゴヌクレオチドPtrc−metFv FおよびPtrc−metFv Rを用いたPCR分析により、耐性カセットの挿入を検証した。
Ptrc−metFv F(配列番号3):GCCCGGTACTCATGTTTTCGGGTTTATGG(4129866〜4129894の配列と相同である);
Ptrc−metFv R(配列番号4):CCGTTATTCCAGTAGTCGCGTGCAATGG(4130524〜4130497の配列と相同である)。
得られた株は、MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metF:Kmと命名した。
プラスミドpME101−thrA 1−cysEの構築
pME101−thrA
ホモセリンの生成を促進するために、トレオニンに対するフィードバック耐性が低下したアスパルトキナーゼ/ホモセリンをコードするthrAを、プロモーターPtrcを用いてプラスミドpCL1920(Lerner & Inouye, 1990, NAR 18, 15, p. 4631)から発現させた。プラスミドpME101−thrA1を構築するために、以下のオリゴヌクレオチドを用いてゲノムDNAからthrAをPCR増幅した:
BspH1 thrA(配列番号5):ttaTCATGAgagtgttgaagttcggcggtacatcagtggc;
Sma1 thrA(配列番号6):ttaCCCGGGccgccgccccgagcacatcaaacccgacgc。
PCR増幅した断片を、制限酵素BspHIおよびSmaIで切断し、ベクターpTRC99A(Stratagene)のNcoI/SmaI部位にクローニングした。低コピーベクターからの発現のために、プラスミドpME101を以下のように構築した。プラスミドpCL1920を、オリゴヌクレオチドPME101FおよびPME101Rを用いてPCR増幅し、lacI遺伝子を有するベクターpTRC99AからのBstZ17I−XmnI断片およびPtrcプロモーターを、増幅したベクター内に挿入した。得られたベクターおよびthrA遺伝子を有するベクターを、ApaIおよびSmaIにより制限処理し、thrA含有断片をベクターpME101にクローニングした。フィードバック阻害からThrAを解放するために、オリゴヌクレオチドThrAF F318SおよびThrAR F318Sを使用した部位特異的突然変異誘発(Stratagene)によって変異F318Sを導入することにより、ベクターpME101−thrA1を得た。
PME101F(配列番号7):Ccgacagtaagacgggtaagcctg;
PME101R(配列番号8):Agcttagtaaagccctcgctag;
ThrAF F318S(SmaI)(配列番号9):Ccaatctgaataacatggcaatg[tcc]agcgtttctggcccggg
ThrAR F318S(SmaI)(配列番号10):Cccgggccagaaacgct[gga]cattgccatgttattcagattgg。
pME101−thrA 1−cysE
pME101−thrA1−cysEを構築するために、オリゴヌクレオチドOmeB001およびOme B002を用いたPCRによりcysE遺伝子を増幅し、PCR産物を制限酵素PvuIIで切断し、ベクターpME101−thrA1のSmaI部位にクローニングし、結果としてベクターpME101−thrA1−cysEを得た。
Ome B001_cysER−PvuII(配列番号11):
GGAGGGACAGCTG[ATACGAAAGAAGTCCGCGAACTGGCGC];
Ome B002_cysEF−PvuII(配列番号12):
Atacgcagctg[ggacattagatcccatccccatactcaaatgtatgg]。
PvuII部位には下線を引いた。括弧内の配列はcysE(Colibri)(3780423−3780397)に相当する。
MG1655 metA 11 ΔmetJ::Cm Ptrc−metH::Kmの構築
メチオニンの生成を促進するために、Ptrcプロモーターを用いてmetH遺伝子を過剰発現させた。構築のために、以下のオリゴヌクレオチドを使用した。
Figure 0005172697
このオリゴヌクレオチドは、以下の領域を有する:
−遺伝子metHの配列(4221461−4221408)と相同な領域(小文字)(ウェブサイトhttp://genolist.pasteur.fr/Colibri/の参照配列)
−RBS(太字)、−35および−10ボックス(太字)を有するプロモーターPtrc配列と相同な領域(斜体、大文字);
−カナマイシン耐性カセットの増幅用領域(大文字)(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645における参照配列)。
Figure 0005172697
このオリゴヌクレオチドは、以下の領域を有する:
−遺伝子metHの領域の配列(4221327−4221406)と相同な領域(斜体、大文字)(ウェブサイトhttp://genolist.pasteur.fr/Colibri/の参照配列);
−カナマイシン耐性カセットの増幅用領域(大文字)(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645における参照配列)。
オリゴヌクレオチドDiclR−metHFおよびiclR−metHFを使用して、プラスミドpKD4からカナマイシン耐性カセットを増幅した。次いで、得られたPCR産物を、エレクトロポレーションによって株MG1655 metA11 ΔmetJ(pKD46)に導入した。この株では、Red組み換え酵素を発現させることにより、相同組み換えが可能となった。カナマイシン耐性形質転換体を選択し、以下に規定されるオリゴヌクレオチドiclFおよびiclRを用いたPCR分析によって、耐性カセットの挿入を検証した。
iclF(配列番号15):CCTTTGAGGTCGCATGGCCAGTCGGC(4221558〜4221533の配列と相同である);
iclR(配列番号16):GCTTTTTAATAGAGGCGTCGCCAGCTCCTTGCC(4219917〜4219949の配列と相同である)。
得られた株は、MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metH:Kmと命名した。
MG1655 metA 11 ΔmetJ::Cm Ptrc−metF:Km Ptrc−metHの構築
株MG1655 metA11 ΔmetJ::Cm Ptrc−metF:Km Ptrc−metHを構築するために、クロラムフェニコールおよびカナマイシン耐性カセットを、株MG1655 metA11 ΔmetJ::Cm Ptrc−metH:Kmから取り除いた。
クロラムフェニコール耐性カセットのFRT部位で作用するFLPリコンビナーゼを担持するプラスミドpCP20を、エレクトロポレーションにより組み換え株に導入した。42℃での一連の培養後、2つのカセットの欠失をPCR分析により検証した。保持された株は、MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metHと命名した。
プロモーター構築物Ptrc::metF:Kmを株MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metH内に転移させるために、ファージP1形質導入法を用いた。以下のプロトコールを二段階で実施した:株MG1655 MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metF:Kmのファージ溶解物を調製し、次いで、株MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metH内へそれを形質導入した。
ファージ溶解物P1の調製:
−10mlのLB+Km 50μg/ml+グルコース 0.2%+CaCl 5mMに、株MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metF:Kmの一夜培養物100μlを植菌する。
−37℃で30分間振とうしながらインキュベートする。
−株MG1655上で調製された100μlのファージ溶解物P1(約1.10ファージ/ml)を添加する。
−全ての細胞が溶解するまで、37℃で3時間振とうする。
−200μlのクロロホルムを添加し、渦流動させる。
−4500gで10分間遠心分離にかけ、細胞片を取り除く。
−上澄みを殺菌チューブへ移し、200μlのクロロホルムを添加する。
−4℃で溶解物を保存する。
形質導入
−LB培地における株MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metHの一夜培養物5mlを1500gで10分間遠心分離にかける。
−2.5mlの10mM MgSOおよび5mM CaClに細胞ペレットを懸濁させる。
−対照チューブ:細胞100μl、株MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metF:KmのファージP1 100μl。
−試験チューブ:細胞100μl、株MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metF:KmのファージP1 100μl。
−30℃で30分間、振とうせずにインキュベートする。
−各チューブに1M 酢酸ナトリウム100μlを添加し、渦流動させる。
−1mlのLBを添加する。
−37℃で1時間、振とうしながらインキュベートする。
−7000rpmで3分間チューブを遠心分離にかけた後、LB+Km50μg/mlを皿の上に広げる。
−37℃で一晩インキュベートする。
株の検証
カナマイシン耐性形質転換体を選択し、プロモーター構築物Ptrc−metF:Kmの存在を、上述のオリゴヌクレオチドPtrc−metFv FおよびPtrc−metFv Rを用いたPCR分析により検証した。保持された株は、MG1655 metA11 ΔmetJ::Cm Ptrc−metH Ptrc−metF:Kmと命名した。
MG1655 metA 11 ΔmetJ::Cm Ptrc−cysM::Kmの構築
異種Ptrcプロモーターの制御下にcysM遺伝子をクローニングするために、Datsenko&Wanner(2000)によって記載された相同組み換え法を用いた。本方法により、関連遺伝子の近傍にクロラムフェニコールまたはカナマイシン耐性カセットを挿入することができる。この目的のため、以下のオリゴヌクレオチドを使用した。
Figure 0005172697
このオリゴヌクレオチドは、以下の領域を有する:
−遺伝子cysMの配列(2537627−2537681)と相同な領域(小文字)(ウェブサイトhttp://genolist.pasteur.fr/Colibri/の参照配列)
−RBS(太字)、−35および−10ボックス(太字)を有するプロモーターPtrc配列と相同な領域(斜体、小文字);
−カナマイシン耐性カセットの増幅用領域(大文字)(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645における参照配列)。
Figure 0005172697
このオリゴヌクレオチドは、以下の領域を有する:
− 遺伝子cysMの領域の配列(2537734−2537684)と相同な領域(小文字)(ウェブサイトhttp://genolist.pasteur.fr/Colibri/の参照配列);
−バクテリオファージT7末端の配列(Genbank V01146)と相同な領域(斜体、大文字);
−カナマイシン耐性カセットの増幅用領域(大文字)(Datsenko, K.A. & Wanner, B.L., 2000, PNAS, 97: 6640-6645における参照配列)。
オリゴヌクレオチドPtrc−cysM FおよびPtrc−cysM Rを使用して、プラスミドpKD4からカナマイシン耐性カセットを増幅した。次いで、得られたPCR産物をエレクトロポレーションにより株MG1655 metA11 ΔmetJ(pKD46)に導入した。この株では、Red組み換え酵素が発現し、それにより相同組み換えが可能となった。次いで、カナマイシン耐性形質転換体を選択し、以下に規定されるオリゴヌクレオチドPtrc−cysMv FおよびPtrc−cysMv Rを用いたPCR分析により、耐性カセットの挿入を検証した。
Ptrc−cysMv F:ggtgacaagaatcagttccgc(2537262〜2537282の配列と相同である)(配列番号19);
Ptrc−cycMv R:GCGTTTATTCGTTGGTCTGC(2537833〜2537814の配列と相同である)(配列番号20)。
得られた株は、MG1655 metA11 ΔmetJ J Ptrc−cysM::Kmと命名した。
MG1655 metA 11 ΔmetJ Ptrc−metF Ptrc−metH Ptrc−cysM::Kmの構築
株MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metF Ptrc−metH Ptrc−cysM::Kmを構築するために、上述のように、プラスミドpCP20を用いて、株MG1655 metA11 ΔmetJ:Cm Ptrc−metF:Km Ptrc−metHからクロラムフェニコールおよびカナマイシン耐性カセットを取り除いた。保持された株は、MG1655 metA*11 ΔmetJ Ptrc−metF Ptrc−metHと命名した。
プロモーター構築物Ptrc−cysMを株MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metF Ptrc−metH内に移行させるために、ファージP1形質導入法を用いた。以下のプロトコールを二段階で実施した:株MG1655 MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−cysM:Kmのファージ溶解物を調製し、次いで、上述のような株MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metF Ptrc−metH内へそれを形質導入した。保持された株は、MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metF Ptrc−metH Ptrc−cysM:Kmと命名した。
対立遺伝子metA 11およびΔmetJによる、cysEおよびmetHの増強された発現と、metFおよびcysMの最適化された発現との組み合わせ
株MG1655 metA11 ΔmetJ::Cm(pME101−thrA1)、MG1655 metA11 ΔmetJ::Cm Ptrc−metH:Km(pME101−thrA1−cysE)、MG1655 metA11 ΔmetJ::Cm Ptrc−metH Ptrc−metF:Km(pME101−thrA1−cysE)およびMG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metF Ptrc−metH Ptrc−cysM:Km(pME101−thrA1−cysE)を構築するために、プラスミド(pME101−thrA1)または(pME101−thrA1−cysE)を、形質転換により、株MG1655 metA11 ΔmetJ::Cm、MG1655 metA11 ΔmetJ::Cm Ptrc−metH:Km、MG1655 metA11 ΔmetJ::Cm Ptrc−metH Ptrc−metF:KmおよびMG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metF Ptrc−metH Ptrc−cysM:Kmに導入した。
異種プロモーターの制御下における、cysE、metHおよび/またはcysMおよび/またはmetFの発現が増強されたメチオニン生成株の評価
小エルレンマイヤーフラスコ内で、初めに生産株を評価した。2.5g/lグルコースを含むLB培地内で前培養物を増殖させ、これを使用して、最小培地PC1に一夜培養物を植菌した。この培養物を供給し、0.01g.L−1のビタミンB12を補充した培地PC1に50mlの培養物を植菌しOD600を0.2とした。特に示した場合には、硫酸アンモニウムの代わりに5.6g/lのチオ硫酸アンモニウムを使用した。必要に応じて、スペクチノマイシンを100mg/lの濃度で添加した。OD600が4.5〜5に達したら、OPA/Fmoc誘導体化後にHPLCによって細胞外アミノ酸を定量し、他の関連代謝産物をシリル化後にGC−MSを用いて分析した。
Figure 0005172697
表2に見られるように、メチオニンの量は、cysE、cysEおよびmetH、またはcysE、metHの過剰発現およびmetFの完全に変性された発現により増大する。cysMの発現が増強されることにより、メチオニン生成が更に増大し得る。幾つかの株は、チオ硫酸塩の存在下、より多くの量のメチオニンを生成した。cysE、cysMおよびmetHを過剰発現し、かつ、metF発現がチオ硫酸塩の存在下でPtrcプロモーターの制御下にある場合に、最も高いメチオニン生成が得られる。イソロイシン生成は、cysEおよびmetHの発現により劇的に低減され、これはγ脱離活性の低下を示している。cysMの過剰発現により、異種プロモーターからcysEおよびmetHを過剰発現させ、かつmetFを発現させる株におけるγ脱離が低減される。
Figure 0005172697
3.CysEおよびMetHの酵素活性における変化の測定
cysEおよびmetH発現における変化を検証するために、対応する酵素の活性を粗抽出物において測定した。
酵素活性をin vitroで測定するために、大腸菌株を上述のような最小培地内で培養し、中対数期に回収した。冷リン酸カリウム緩衝液中に細胞を再懸濁し、氷上で超音波分解した(Bransonソニファイアー、70W)。遠心分離後、上澄みに含有されたタンパク質を定量した(Bradford, 1976)。
セリンアセチルトランスフェラーゼ活性(CysE)を測定するために、100mM リン酸カリウム(pH7.5)、4mM アセチル−CoA、30mM L−セリン中で、10μlの抽出物を25℃で10分間アッセイした。タンパク質をアセトンで沈殿させ、シリル化試薬による誘導体化の後、GC−MSによってO−アセチル−セリンを検出した。
ビタミンB12依存性メチオニンシンターゼ活性(MetH)を測定するために、100mM リン酸カリウム(pH7.2)、1mM ホモシステイン、0.25mM メチルテトラヒドロフォレート、50μM ビタミンB12、20μM S−アデノシル−メチオニンおよび25mM DTT中で、100μlの抽出物を37℃で10分間アッセイした。タンパク質をアセトンで沈殿させ、シリル化試薬による誘導体化の後、GC−MSによって生成されたメチオニンを検出した。
表3に見られるように、遺伝子cysEおよびmetHの過剰発現により、対応する酵素活性が増大する。故に、これら遺伝子の活性が増大することにより、メチオニン生成が増大する。
Figure 0005172697
発酵条件下でのメチオニン生成の検証
次いで、供給バッチプロトコールを用いて、300mlの発酵槽(DASGIP)において、製造条件下で目的の代謝産物の実質量を生成する株を試験した。
この目的のため、2.5g/lグルコースを含むLB培地内で増殖された8時間培養物を用いて、最小培地PC1(上記参照のこと)に一晩前培養物を植菌した。150mlの最小培地(B1)を発酵槽に充填し、バイオマス濃度がほぼ0.09g/lになるまで1.5mlの濃縮した前培養物(9g/l〜12g/l)を植菌した。
Figure 0005172697
Figure 0005172697
Figure 0005172697
培養物の温度は37℃で一定に保ち、pHは、NHOH溶液を用いて、6.5〜8、好ましくは6.7の値に永久的に調節した。攪拌速度は、バッチ段階中は600rpmに保ち、供給バッチ段階の終わりに最大1000rpmまで上げた。溶解酸素濃度は、ガスコントローラーを用いて20%〜40%、好ましくは30%飽和の値で維持した。細胞マスが0.9g/l〜1.2g/lの濃度に達したら、0.1ml/h〜1.5ml/h、好ましくは0.43ml/hの初期流速で供給バッチを開始し、最大で0.5ml/h〜5.8ml/h、好ましくは1.7ml/hの流速値までS字状に流速を上げた(24h)。正確な供給条件は、以下の式により計算した:
Figure 0005172697
式中、Q(t)は、150mLのバッチ容量についての供給流速(mL/h)であり、
P1は、0.025〜0.35、好ましくは0.100であり、
P2は、0.400〜5.600、好ましくは1.600であり、
P3は、0.068〜0.95、好ましくは0.270であり、
P4は、1.250〜17.5、好ましくは5.000である。
この場合、300g/l〜800g/l(好ましくは500g/l)の濃度でグルコースを含有するFB培地を使用した。
バイオマスの濃度が20g/l〜50g/l(好ましくは35g/l、40〜80時間)の値に達したら、発酵を停止し、HPLCによって細胞外メチオニンおよびイソロイシン濃度を測定した。
Figure 0005172697
表7に見られるように、異種プロモーターの制御下におけるcysE、cysEおよびmetH、cysE、metHおよびmetFの発現の増強、またはチオ硫酸塩の存在下での株の増殖によりメチオニン生産が著しく増大し得る。イソロイシン生成は、cysEおよび/またはmetHの過剰発現により著しく低減される。
300mLの発酵槽において最も多量のメチオニンを生成した株を、その後、供給バッチプロトコールを用いて2.5lの発酵槽(PIERRE GUERIN)中で製造条件下で試験した。
この目的のため、2.5g/lのグルコースを含むLB培地において増殖させた8時間培養物を使用して、最小培地PC1に一晩前培養物を植菌した。発酵槽を600mlの最小培地(B2)で充填し、6mlの濃縮した前培養物(9g/l〜12g/l)を、0.9g/lのバイオマスになるまで植菌した。
培養物の温度は37℃で一定に保ち、pHはNHOH28%溶液を用いて、6.3〜8、好ましくは6.8の値に永久的に調節した。初期攪拌速度は、バッチ段階中は200rpmに保ち、供給バッチ段階中は最大1200rpmまで上げた。初期気流速度は、バッチ段階中は40Nl/hに設定し、供給バッチ段階中は最大250Nl/hまで上げた。溶解酸素濃度は、攪拌速度および気流速度を上げることによって、20%〜40%飽和、好ましくは30%の値で維持した。バイオマス濃度が1.2g/l〜1.5g/lに達したら、0.5ml/h〜4ml/h、好ましくは1.0ml/hの初期流速で供給バッチを開始し、最大で3ml/h〜35ml/h、好ましくは20.1ml/hの流速値まで幾何級数的に流速を上げた(15h)。この時点で、流速を10時間〜45時間、好ましくは30時間一定に維持した。供給のために、300g/l〜800g/l、好ましくは750g/lの濃度でグルコースを含有するFBタイプT2を使用した(表8を参照)。
バイオマスの濃度が40g/l〜110g/l、好ましくは90g/lの値に達したら、発酵を停止し、HPLCを用いて細胞外メチオニン濃度を測定した。株MG1655 metA11 ΔmetJ Ptrc−metH Ptrc−metF(pME101−thrA1−cysE)は、これらの条件下で169mMのメチオニンを生成した。
Figure 0005172697
Figure 0005172697

Claims (20)

  1. 炭素源と硫黄源とを含む適切な培養培地内で微生物を培養し、該培養培地からメチオニンを回収することにより、メチオニンを製造するための方法であって、
    ・前記微生物において、遺伝子組換えにより、組換え前の該微生物と比べてcysEの発現が増大しており、かつ
    ・前記微生物において、遺伝子組換えにより、組換え前の該微生物と比べてmetHの発現が増大しており、かつ
    ・S−アデノシルメチオニンおよび/もしくはメチオニンに対するフィードバック感度が低下した酵素をコードするホモセリンスクシニルトランスフェラーゼ(MetA)対立遺伝子が株に組み込まれており、
    前記微生物が大腸菌(E.coli)である、方法。
  2. C1単位の生成および該C1単位をホモシステイン上へ転移させる能力に関与する少なくとも1つの遺伝子が、遺伝子組換えにより、組換え前の微生物と比べて過剰発現しており、該遺伝子が以下の遺伝子:
    ・メチオニンシンターゼをコードするmetE;
    ・5,10−メチレンテトラヒドロフォレート還元酵素をコードするmetF;
    ・セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードするglyA;および
    ・グリシン開裂複合体をコードするgcvTHP、lpd
    からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
  3. 遺伝子組換えにより、組換え前の微生物と比べてmetHおよびmetFの発現が増大している、請求項2に記載の方法。
  4. metH遺伝子およびmetF遺伝子の少なくとも1つが異種プロモーターから発現する、請求項3に記載の方法。
  5. γ脱離活性が低減され、それにより副産物イソロイシンの生成が低下している、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  6. 遺伝子組換えにより、組換え前の微生物と比べて、メチオニン生成に関与する更なる遺伝子の発現が増大している、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  7. メチオニン生成を低減する遺伝子が欠失している、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  8. metJ遺伝子によりコードされるメチオニンリプレッサーが欠失または変異している、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  9. 培養培地中の硫黄源が、硫酸塩、チオ硫酸塩、硫化水素、ジチオン酸塩、亜ジチオン酸塩、亜硫酸塩、または異なる供給源の組み合わせである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
  10. 培養培地中の硫黄源が、硫酸塩もしくはチオ硫酸塩、またはこれらの混合物である、請求項に記載の方法。
  11. メチオニンを単離する工程を含んでなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
  12. メチオニンの発酵による製造に使用される微生物であって、遺伝子組換えにより、組換え前の微生物と比べて、少なくともシステイン生成に関与するcysEの発現が増大しており、かつ、C1単位の生成および該C1単位をホモシステイン上へ転移させる能力に関与するmetHの発現が増大しており、かつ、S−アデノシルメチオニンおよび/もしくはメチオニンに対するフィードバック感度が低下した酵素をコードするホモセリンスクシニルトランスフェラーゼ(MetA)対立遺伝子が組み込まれており、該微生物が大腸菌(E.coli)である、微生物。
  13. cysEまたはmetHの発現が異種プロモーターによって駆動される、請求項12に記載の微生物。
  14. C1単位の生成および該C1単位をホモシステイン上へ転移させる能力に関与する少なくとも1つの遺伝子が、遺伝子組換えにより、組換え前の微生物と比べて過剰発現しており、該遺伝子が以下の遺伝子:
    ・メチオニンシンターゼをコードするmetE;
    ・5,10−メチレンテトラヒドロフォレート還元酵素をコードするmetF;
    ・セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼをコードするglyA;および
    ・グリシン開裂複合体をコードするgcvTHP、lpd
    からなる群から選択される、請求項12に記載の微生物。
  15. 遺伝子組換えにより、組換え前の微生物と比べてmetHおよびmetFの発現が増大している、請求項13に記載の微生物。
  16. metH遺伝子およびmetF遺伝子の少なくとも1つが異種プロモーターから発現する、請求項15に記載の微生物。
  17. γ脱離活性が低減され、それにより副産物イソロイシンの生成が低下している、請求項12〜16のいずれか一項に記載の微生物。
  18. 遺伝子組換えにより、組換え前の微生物と比べて、メチオニン生成に関与する更なる遺伝子の発現が増大している、請求項12〜17のいずれか一項に記載の微生物。
  19. メチオニン生成を低減する遺伝子が欠失している、請求項12〜18のいずれか一項に記載の微生物。
  20. metJ遺伝子によりコードされるメチオニンリプレッサーが欠失または変異している、請求項12〜19のいずれか一項に記載の微生物。
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