JP2007154309A - 音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板およびその製造方法 - Google Patents

音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Si含有量を0.10%未満として島状マルテンサイトの体積率が3%未満となるようにすると共に、Nb≧0.025%、Ti≧0.005%で、0.045%≦Nb+2×Ti≦0.105%を満たすように含有し、A=(Nb+2Ti)×(C+N×12/14)の値が0.0022以上、0.0055以下となる範囲で含有し、鋼組織が、ベイナイトの体積率が30%以上、かつ、パーライトの体積率が5%未満であることを特徴とする、音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板およびその製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板、および、この鋼板を、オフラインでの熱処理を必要としない高い生産性のもとに製造することのできる、製造方法に関するものである。本発明鋼は、橋梁、船舶、建築構造物、海洋構造物、圧力容器、ペンストック、ラインパイプなどの溶接構造物の構造部材として、厚鋼板の形態で用いられるものである。
橋梁、船舶、建築構造物、海洋構造物、圧力容器、ペンストック、ラインパイプなどの溶接構造部材として用いられる引張強さ570MPa級以上の高張力鋼板には、強度のほか靭性や溶接性が要求され、近年では特に大入熱での溶接性が要求されることも多く、特性向上の検討は従来からも多数なされている。
このような鋼板の組成および製造条件としては、例えば、特許文献1、2などに開示されている。これらは鋼板を圧延後、オフラインで再加熱焼入れし、さらに再加熱焼戻し熱処理する製造方法に関するものである。また、例えば、特許文献3〜5などには、鋼板の圧延後にオンラインで焼入れを行う、いわゆる直接焼入れによる製造に関する発明が開示されている。これらは、再加熱焼入れ、直接焼入れいずれの場合にもオフラインでの焼き戻し熱処理を必要としているが、生産性を高めるには、焼戻し熱処理も省略してオフラインでの熱処理を必要としないいわゆる非調質の製造方法が望ましい。
非調質の製造方法に関する発明もいくつか開示されており、例えば、特許文献6〜9などに記載の発明がある。これらは、鋼板の圧延後の加速冷却を途中で停止する、加速冷却−途中停止プロセスに関するものである。これは加速冷却によって変態温度以下まで急冷して焼入れ組織を得ながら、変態後の比較的温度の高い状態で水冷を停止することで徐冷過程に移行させ、この徐冷過程で焼戻し効果を得て再加熱焼戻しを省略しようとするものである。
また、特許文献10に記載の発明は、加速冷却−途中停止プロセスによる引張強さ570MPa級以上の高張力鋼板の製造技術に関するものである。
また、特許文献11には、圧延後の水冷も行わない非調質プロセスに関する発明が開示されている。
また、特許文献12には、音響異方性が小さく溶接性に優れる引張強さ570MPa級以上の高張力鋼板の加速冷却−途中停止プロセスでの製造方法に関する発明が開示されている。
特開昭53−119219号公報 特開平01−149923号公報 特開昭52−081014号公報 特開昭63−033521号公報 特開平02−205627号公報 特開昭54−021917号公報 特開昭54−071714号公報 特開2001−064723号公報 特開2001−064728号公報 特開2002−088413号公報 特開2002−053912号公報 特開2005−126819号公報
しかし、上記の特許文献1〜5に記載の発明では、オフラインでの熱処理工程を要するため、どうしても生産性を阻害してしまうという問題があった。
このような生産性の問題を解決するため、焼戻し熱処理も省略してオフラインでの熱処理を必要としないいわゆる非調質の製造方法を開示した上記の特許文献6〜9に記載の発明でも、いずれも靭性や強度を得るために比較的低温での制御圧延を必要としていて、圧延を終了する温度が800℃前後となるので温度待ちの時間を要し生産性が高いとはいえないという問題があった。また、特に橋梁、建築などの用途では、溶接部の超音波斜角探傷試験の精度に影響するために音響異方性が小さいことが要求されるが、800℃程度の温度で圧延を終了する制御圧延では集合組織が形成されるために鋼板の音響異方性が大きくなり、こうした用途には必ずしも合致しないという問題もあった。
また、上記の特許文献10に記載の発明では、Vが途中加速冷却停止後の徐冷段階でも析出強化に寄与するとされているが、本発明者らの検討では後述するようにVは途中加速冷却停止後の徐冷段階での析出速度がNb、Tiに比べて遅く、強化にはさほど有効ではないという知見を得ており、この成分組成では必ずしも安定的な強度は得られないと考えられる。
また、上記の特許文献11に記載の発明では、低温での制御圧延を行わないので音響異方性は大きくならないものの、そのかわり強度を得るためにCu、Ni、Mnなど合金添加量が多くなるなど経済性に問題があった。
また、上記の特許文献12に記載の発明は本発明者らによるものであり、音響異方性が小さく溶接性に優れる引張強さ570MPa級以上の高張力鋼板を、合金添加量が少ない経済的な成分組成と、生産性の高い加速冷却−途中停止プロセスを前提とした製造方法にて製造可能であるが、さらなる検討の結果、特許文献12の発明では板厚が30〜100mm程度の厚手材において、特にその板厚中心部において目標とする450MPa以上の降伏応力が得られない場合があることがわかった。元々、特許文献12中の表3、表4に記載されている実施例の降伏強さと引張強さは、本発明者らが板厚の1/4部(以下、1/4t部という。)より採取した引張試験片につき引張試験を実施して得られた結果であった。しかし、本発明鋼板は、橋梁、船舶、建築構造物、海洋構造物、圧力容器、ペンストック、ラインパイプなどの溶接構造物の構造部材として、厚鋼板の形態で用いられるものであり、1/4t部のみならず、板厚中心部についても450MPa以上の降伏応力を有することが望ましいことは言うまでもない。
そこで、本発明は、合金添加量が少ない経済的な成分組成と、生産性の高い加速冷却−途中停止プロセスを前提として、板厚が30〜100mm程度の厚手材の板厚中心部も含めて、音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板およびその製造方法を提供することを目的とするものである。なお、本発明は、鋼板の板厚が30mm以上のものに限定されるものではなく、厚鋼板製造プロセスで製造される板厚が6mm以上から100mmまでのものを対象とする。
本発明は、特許文献12に記載の発明を基に、さらに、厚手材の板厚中心部の降伏応力にも着目した改良発明である。そこで、本発明に至る経緯について、特許文献12に記載の発明に至る経緯についても適宜加えながら、以下に説明する。
高張力鋼の強化手段はいくつかあるが、Nb、V、Ti、Mo、Crの炭化物あるいは窒化物などの析出強化を利用する方法は、比較的少ない合金成分での強化が可能である。その際、大きな析出強化量を得るためには素地と整合性のある析出物を形成させることが重要となる。
圧延後の加速冷却−途中停止プロセスでは、圧延中の段階では鋼組織はオーステナイトであり、加速冷却によって変態しベイナイトやフェライト等のフェライト素地の組織になる。圧延や加速冷却前にオーステナイト中で析出した析出物は変態後には素地との整合性を失って強化効果は小さくなる。また、圧延の早い段階で析出した析出物は粗大化して靭性を低下させる要因ともなる。したがって、圧延中および加速冷却前には析出物の析出は抑制し、加速冷却停止後の徐冷中の段階でベイナイトまたはフェライト組織中にできるだけ析出させることが重要である。水冷後に再加熱して焼戻し熱処理を行う従来の調質プロセスであれば、析出のための温度と時間を十分にとることができるので、大きな析出強化を容易に得ることができる。これに対して、再加熱焼戻しを行わない加速冷却−途中停止プロセスの場合は、加速冷却停止後の徐冷中に析出を期待するのであるが、焼入れ組織を得るために加速冷却停止温度はある程度低温にせざるを得ないので、析出のための温度、時間ともに制約され、析出強化には一般に不利である。こうしたことから前述のように非調質プロセスは生産性が高い反面、従来の調質プロセスと同じ強度を得るには合金元素を多く必要とするか、低温での制御圧延を行わざるを得なかったわけである。
そこで、本発明者らは、生産性の高い加速冷却−途中停止プロセスを前提としながら、合金元素を多量に添加することや低温での制御圧延によることなく高強度を得るために、特に析出強化を最大限に生かす方法について鋭意検討を重ねた。
まず、加速冷却停止後の徐冷過程における析出挙動を明らかにするため、ベイナイトまたはフェライト組織ないしはそれらの混合組織中での各合金元素の炭化物、窒化物、炭窒化物の析出速度および析出強化量と、温度および保持時間との関係について詳細に検討した。その結果、ベイナイトまたはフェライト組織ないしはそれらの混合組織中では、Nb炭窒化物、Ti炭化物の析出速度がVなど他の元素に比べて速く、かつこれらは素地と整合な析出物となるために強化量が大きいこと、特に、600℃〜700℃の温度域での析出速度が速く、強化量が大きいことがわかった。さらに、NbとTi、あるいはNbとTiとMoとを併用して複合析出させた場合には、相乗効果によって短時間の保持でも素地と整合な析出物が微細分散し大きな析出強化を得ることができることを知見した。
しかしながら、Nb、Tiの添加量が多すぎると、生成する析出物が粗大になる傾向があり、析出物の個数はかえって少なくなるために、析出強化量が低下する。また、Nb、Tiの炭化物、窒化物および炭窒化物のオーステナイト中およびフェライト中での析出速度や析出物の形態は、Nb、Ti添加量とC、N量によって大きく影響を受ける。本発明者らは種々の実験および解析により、Nb、Tiの炭化物、窒化物および炭窒化物の析出速度、析出形態は、パラメータA=([Nb]+2×[Ti])×([C]+[N]×12/14)でよく整理され、この値を一定範囲内に制御することで圧延中の析出を抑制しながら水冷途中停止後の徐冷中の微細な析出を十分に得ることができるという知見を得た。すなわち、Nb、Ti添加量が多いほど、C、Nの添加量を少なくする必要があることになる。Aの値が小さすぎると、フェライト中の析出速度が遅くなり、十分な析出強化が得られない。逆に、Aの値が大きすぎると、オーステナイト中の炭化物、窒化物および炭窒化物の析出速度が速くなりすぎて析出物が粗大化し、加速冷却停止後の徐冷中の整合析出量も不足するため、やはり析出強化量が低下する。
これらの析出強化効果には組織の影響も大きい。ベイナイト組織は、フェライトに比べ転位密度など加工組織を維持しやすい。微細整合析出を促進させるには、加工組織に含まれる転位や変形帯などの析出サイトが十分に存在することが非常に有効に作用する。本発明者らの検討によれば、十分な強化を得るにはベイナイト単相か、ベイナイトの体積率30%以上のベイナイトとフェライトの混合組織とすることが必要である。パーライトが存在すると、その相界面へNb、Tiの炭化物、窒化物ないし炭窒化物が析出してしまうため、目的とする強化効果が小さくなり、引張強さ570MPaを確保することが困難となるだけでなく、靭性なども低下させる。そのため、パーライトは、極力低減する必要があるが、その体積率が5%未満であれば、このような悪影響は小さいため許容できる範囲である。
引き続き、本発明者らは、最大限の析出強化効果を得るための具体的な製造条件について検討を行い、以下の知見を得た。
本発明は、圧延に引き続く加速冷却−途中停止プロセスにおいて、Nb、Ti等の析出強化を最大限に生かして強度を得るものであり、圧延に先立つ鋼片または鋳片の加熱時にNb、Tiを十分に固溶させておく必要がある。しかしながら、NbとTiが共存すると単独で存在する場合よりも加熱時に固溶しにくくなる傾向があり、それぞれの溶解度積などから予想される固溶温度への加熱では必ずしもこれらは十分には固溶できないことがわかった。本発明者らは、本発明鋼において加熱温度とNb、Tiの固溶状態を調査し、特に、上記のA値とNb、Tiの固溶状態との関係を詳細に解析した。その結果、鋼片または鋳片の加熱温度を、下記に示すようなA値を含む条件式で算出される温度T(℃)よりも高くすることで、Nb、Tiを十分に固溶させることができるとの結論に至った。
T=6300/(1.9−Log(A))−273
ここで、A=([Nb]+2×[Ti])×([C]+[N]×12/14)
であり、[Nb]、[Ti]、[C]、[N]は、それぞれNb、Ti、C、Nの質量%で表した含有量を意味する。
圧延段階でのNb、Tiの析出は、圧延歪によって促進されるので、オーステナイトの高温域での圧延条件、いわゆる粗圧延の条件が最終的な析出強化の効果に大きく影響する。具体的には、粗圧延は1020℃以上の温度域で完了し、1020℃未満、920℃超の温度域では極力圧延をしないことが圧延中の析出を抑制するための要件である。しかしながら、全ての圧延を1020℃以上の温度域で完了してしまうと、回復、再結晶によって加速冷却−途中停止後には加工組織はほとんど残らないため、転位や変形帯などの析出サイトが十分に存在せず、十分な析出強化は得られない。したがって、未再結晶温度域での必要十分な圧延を行い、圧延後すみやかに加速冷却を行うことが必須条件となる。具体的には、920℃以下、860℃以上の限定された範囲において、累積圧下率20〜50%の比較的軽度な圧延を行う。この条件であれば圧延歪は過度に大きくないので、不必要なNb、Tiの析出は抑制され、また強い集合組織を形成することはないので、音響異方性も大きくならない。なおかつ加速冷却停止後も適度な析出サイトを残存させるために必要な量の圧延歪は確保することができる。
加速冷却−途中停止プロセスの加速冷却停止温度は、Nb、Tiの析出に有利なように600〜700℃とするが、このような高い停止温度でもベイナイトの体積率が30%以上の鋼組織を得るためには、鋼の成分組成を後述する特定範囲に限定するとともに、加速冷却においては2℃/sec以上、30℃/sec以下の冷却速度が必要である。
ここで得られた知見は、Nb、Tiの炭化物あるいは炭窒化物の析出を、高温域を含む圧延中、加速冷却中および冷却停止後の徐冷過程に至るまでオンラインで制御する新しい考え方であり、従来の調質プロセス並以上の析出強化が、オフライン熱処理を必要としない加速冷却−途中停止プロセスで実現できる。
また、この製造プロセスによれば、鋼材組成の溶接割れ感受性指数Pcm(Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5[B]、ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[B]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bの質量%を意味する。)を低く抑えることができ、Pcm≦0.18で、大入熱でも溶接熱影響部靭性の高い、溶接性に優れる引張強さ570MPa級以上の高張力鋼材を提供できる。
次に、特許文献12に記載の発明では板厚30〜100mm程度の厚手材の板厚中心部の降伏応力が低下する問題について検討した。まず、表1に示す成分組成の鋼を溶製し、得られた鋼片を表2に示す製造条件にて50mm厚さの鋼板とし、その板厚の1/4部(1/4t部)および板厚中心部(1/2t部)より採取したJIS Z 2201に準拠した4号丸棒引張試験片につき、JIS Z 2241に準拠した方法で降伏応力および引張強さを測定した。その結果を表2に示す。
Figure 2007154309
Figure 2007154309
表2から、1/4t部の降伏応力と引張強さおよび1/2t部の引張強さは満足するが、板厚中心部の降伏応力が低下し、目標値の450MPaを満足できないことを確認した。本発明者らは、この原因について鋭意検討した結果、板厚中心部に生成した島状マルテンサイトが降伏応力の低下をもたらしていること、さらに、特許文献12に記載の成分組成と製造方法の組合せは板厚30〜100mm程度の厚手材の板厚中心部に島状マルテンサイトが生成しやすいことを見出した。
そこで、降伏応力(上降伏点あるいは0.2%耐力)に及ぼす島状マルテンサイトの影響について検討した。まず、表3に示す成分組成の鋼を溶製し、得られた鋼片を、表4に示す製造条件にて50mm厚さの鋼板とし、その板厚中心部(1/2t部)につき、倍率500倍の顕微鏡組織写真で100mm×100mmの範囲を10視野を観察して島状マルテンサイトの体積分率を算出した。さらに、これらの試作鋼板の1/2t部より採取したJIS Z 2201に準拠した4号丸棒引張試験片につき、JIS Z 2241に準拠した方法で降伏応力を測定した。これらの結果を表4および図1に示す。
Figure 2007154309
Figure 2007154309
図1から、体積分率で3%以上の島状マルテンサイトが存在すると、降伏応力が大幅に低下することが分かる。この理由は、引張試験時の応力−歪み曲線の形が降伏応力の領域で大きく変化することによる。具体的には、島状マルテンサイトを含有しない鋼の応力−歪み曲線は、模式図として図2のA鋼に例示するように上降伏点を有する。一方、体積分率で数%の島状マルテンサイトを含有する鋼の応力−歪み曲線は、模式図として図2のB鋼に例示するように明瞭な上降伏点が出現しないラウンド型となる。これは、上降伏点が出現する前の低応力負荷時に既に局所的に降伏(局所降伏)が起こるためであり、0.2%耐力で測定したときの降伏応力は、上降伏点が生成する鋼の降伏応力に比較し低下する。このため、島状マルテンサイトが存在する鋼では、0.2%耐力で測定する降伏応力が、島状マルテンサイトが存在しない鋼に比較し大幅に低下する。島状マルテンサイトが存在する鋼での、引張応力負荷時に局所降伏が生じる理由は明らかではないが、島状マルテンサイトが生成する際に島状マルテンサイトに隣接するフェライト粒内あるいはベイナイト粒内にマルテンサイト変態膨張に起因する可動転位が導入され、この可動転位が引張試験時の低応力負荷時に局所的に移動して局所降伏をもたらすためと考えている。
さらに、島状マルテンサイトの生成条件につき詳細な検討を行った。その結果、特許文献12に記載の発明の成分組成では、板厚が30〜100mm程度の厚手材の板厚中心部で島状マルテンサイトが生成しやすいことがわかった。これは、特許文献12に記載の発明の成分組成の特徴として、析出強化を最大限に利用するためNbの多量添加を必須とすることも一因である。Nbはオーステナイトからフェライトおよびベイナイトへの変態を遅延させる効果を有する。そして、特許文献12に記載の発明の製造方法では、圧延は860℃以上で行われ、かつ、920℃以下での累積圧下率も50%以下に限定されるため、板厚が30〜100mm程度の厚手材の板厚中心部では圧延歪の蓄積が少なくなり、その結果、オーステナイト粒は圧延歪による再結晶を通じての細粒化が起こりにくく比較的粗大な粒となる。オーステナイト粒が粗大であるとフェライト変態あるいはベイナイト変態開始温度が低下する。このため板厚中心部では圧延後の加速冷却中のベイナイト変態が不足したまま徐冷に移行し、成分組成の特徴である多量のNb添加による変態遅延効果と相まって、徐冷中にも一部、ベイナイト変態あるいはパーライト変態が完了しない部分で島状マルテンサイトが生成するものと推定される。
しかし、板厚中心部の島状マルテンサイトの体積率が3%未満であれば、図1に示すように降伏応力の低下が小さいため、許容できる範囲である。厚手材の板厚中心部での降伏応力として500MPa以上を満足する必要がある場合、望ましい島状マルテンサイトの体積率は1%以下である。
次に、板厚中心部の島状マルテンサイトを低減する方法につき鋭意検討した。その結果、図3に示すように、Si量を0.10%未満に低減することで、板厚中心部の島状マルテンサイトの生成を3%未満に低減可能であることがわかった。さらに、図4に、板厚中心部の降伏応力に及ぼすSi量の影響を示す。Si量を0.10%未満に低減することで板厚中心部の降伏応力が大幅に向上する。厚手材の板厚中心部での降伏応力として500MPa以上を満足する必要がある場合、望ましいSi量は0.07%以下である。Si量を0.10%未満に低減することで島状マルテンサイトの生成が抑制できる理由は明らかではないが、Siはセメンタイト中に固溶し難くセメンタイトの成長を遅らせることが知られており、Si量を低減したことでセメンタイトの成長を促進し、ベイナイト変態あるいはパーライト変態が促進された結果、島状マルテンサイトの生成が抑制された可能性が考えられる。
以上のような知見に基づき本発明は初めて成されたものであって、その要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.03%以上、0.07%以下、Si:0.10%未満(0%を含む)、Mn:0.8%以上、2.0%以下、Al:0.003%以上、0.1%以下、を含有し、さらに、Nb、Tiを、Nb:0.025%以上、Ti:0.005%以上で、かつ、0.045%≦[Nb]+2×[Ti]≦0.105%を満たすように含有し、さらに、N :0.0025%超、0.008%以下を含有し、さらに、Nb、Ti、C、Nを、下記に示されるAの値が、0.0022以上、0.0055以下となる関係を満足する範囲で含有し、溶接割れ感受性指数Pcmが0.18以下であり、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、鋼組織が、ベイナイトの体積率が30%以上、パーライトの体積率が5%未満、島状マルテンサイトの体積率が3%未満であることを特徴とする、音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板。
A=([Nb]+2×[Ti])×([C]+[N]×12/14)、
Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5[B]。
ここで、[Nb]、[Ti]、[C]、[N]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[B]は、それぞれNb、Ti、C、N、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bの質量%を意味する。
(2)さらに、質量%で、Mo:0.05%以上、0.3%以下を含有することを特徴とする、上記(1)に記載の音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板。
(3)さらに、質量%で、Cu:0.1%以上、0.8%以下、Ni:0.1%以上、1.0%以下、Cr:0.1%以上、0.8%以下、V:0.01%以上、0.03%未満、W:0.1%以上、3%以下、B:0.0005%以上、0.0050%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板。
(4)さらに、質量%で、Mg:0.0005%以上、0.01%以下、Ca:0.0005%以上、0.01%以下の1種または2種を含有することを特徴とする、上記(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板。
(5)上記(1)ないし(4)のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼片または鋳片を、下記に示されるT(℃)以上、1300℃以下に加熱し、1020℃以上の温度範囲での粗圧延の後、1020℃未満、920℃超の範囲での圧延は累積圧下率を15%以下に抑制し、920℃以下、860℃以上の範囲での累積圧下率を20%以上、50%以下とする仕上げ圧延を行い、これに引き続き、冷却速度が2℃/sec以上、30℃/sec以下となる加速冷却を800℃以上から開始し、700℃以下、600℃以上で該加速冷却を停止して、その後0.4℃/sec以下の冷却速度で冷却することを特徴とする、音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
T=6300/(1.9−Log(A))−273
ここで、A=([Nb]+2×[Ti])×([C]+[N]×12/14)であり、[Nb]、[Ti]、[C]、[N]は、それぞれNb、Ti、C、Nの質量%を意味する。
本発明によれば、音響異方性が小さく溶接性に優れる板厚100mmまでの降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板を、板厚が30〜100mm程度の厚手材の板厚中心部も含めて、合金添加量が少ない経済的な成分系と生産性の高い非調質の製造方法により得ることができ、その工業界への効果は極めて大きい。
以下に、本発明における各成分およびミクロ組織等の各発明特定事項の限定理由を説明する。
Cは、Nb、Tiとの炭化物、炭窒化物を形成し本発明鋼の強化機構の主要素となる重要な元素である。C量が不足であると、加速冷却停止後の徐冷中の析出量が不足して強度が得られない。逆に、過剰であっても、圧延中のオーステナイト域における析出速度が速くなり、結果的に、加速冷却停止後の徐冷中の整合析出量が不足して強度が得られない。そのため、C量は、0.03%以上、0.07%以下の範囲に限定する。
Siは、島状マルテンサイトの生成を抑制するために、その上限を0.10%未満に限定する必要がある。Si量が0.10%以上の場合は、板厚が30mm程度以上の厚手材の特に板厚中心部において、島状マルテンサイトの体積率が3%を超えて降伏応力(0.2%耐力)や靭性が低下しやすい。厚手材の板厚中心部での降伏応力として500MPa以上を満足する必要がある場合、好ましいSi量は0.07%以下である。Si量の下限は特に限定する必要はなく、0%である。
Mnは、焼入性を高めベイナイト単相か、ベイナイト体積率30%以上のベイナイトとフェライトの混合組織を得るために必要な元素である。この目的のためには0.8%以上は必要であるが、2.0%を超えて添加すると母材靭性の低下をもたらす場合があるので、上限を2.0%とする。
Alは、通常脱酸元素として添加される範囲の0.003%以上、0.1%以下とする。
NbおよびTiは、NbC、Nb(CN)、TiC、TiN、Ti(CN)、あるいはこれらの複合析出物と、さらにこれらとMoとの複合析出物を形成し、本発明鋼の強化機構の主要素となる重要な元素である。加速冷却−途中停止プロセスにおいて、十分な複合析出物を得るためには、0.025%以上のNbと、0.005%以上のTiを同時に添加し、[Nb]+2×[Ti]が0.045%以上、さらにA=([Nb]+2×[Ti])×([C]+[N]×12/14)とするときにAの値が0.0022以上、となるように制御することが必要である(ここで、[Nb]、[Ti]、[C]、[N]はそれぞれNb、Ti、C、Nの質量%を意味する。)。570MPaを超える引張強さ、例えば、600MPa以上の引張強さを必要とする場合には、0.035%以上のNbと、0.005%以上のTiを同時に添加し、[Nb]+2×[Ti]が0.055%以上となるように制御することが望ましい。[Nb]+2×[Ti]が0.105%を超えると、Nb、Tiの添加量が多すぎるため、生成する析出物が粗大になる傾向があり、析出物の個数はかえって少なくなるために、析出強化量が低下し引張強さ570MPaを満足できなくなる。そのため、[Nb]+2×[Ti]は0.105%以下とする必要がある。A=([Nb]+2×[Ti])×([C]+[N]×12/14)の値が0.0055を超えると、オーステナイト中の炭化物、窒化物および炭窒化物の析出速度が速くなりすぎて析出物が粗大化し、加速冷却停止後の徐冷中の整合析出量も不足するため、析出強化量が低下し引張強さ570MPaを満足できなくなる。そのため、Aの値は0.0055以下とする必要がある。
Nは、Tiと結びついてTiNを形成する。TiNは、微細に分散している場合には、ピニング効果によって溶接熱影響部組織の粗大化を抑えて溶接熱影響部靭性を向上させる。しかし、Nが0.0025%以下となるほど不足であると、TiNは粗大になってピニング効果が得られない。そこで、TiNを微細に分散させるために、Nは少なくとも0.0025%超が必要である。溶接熱影響部(HAZ)のより高温に晒された溶融線(FL)近傍の部分でもTiNの微細分散効果を得て靭性をより向上させるためには、Nは0.004%超とするのが好ましい。また、Nを過剰に含有するとかえって母材および溶接継手の靭性を低下させる場合があるため、許容できる上限は0.008%とする。靭性の低下を極力抑える必要がある場合のNの上限は、0.006%とするのが好ましい。
Moは、焼入性を向上させ、かつNb、Tiとの複合析出物を形成して強化に大きく寄与する。この効果を得るためには0.05%以上を添加する。しかし、過剰に添加すると溶接熱影響部靭性を阻害するため添加は0.3%以下とする。
Cuは、強化元素として添加する場合、その効果を発揮するには0.1%以上を必要とするが、0.8%を超えて添加しても添加量の割にはその効果は大きくなく、過剰に添加すると溶接熱影響部靭性を阻害する場合があるので、0.8%以下とする。
Niは、母材靭性を高めるために添加する場合は0.1%以上を必要とするが、過剰に添加すると溶接性を阻害する場合があり、高価な元素でもあるので添加の上限は1.0%とする。
Crは、Mnと同様に焼入れ性を高め、ベイナイト組織を得やすくする効果がある。その目的のためには0.1%以上添加するが、過剰に添加すると溶接熱影響部靭性を阻害するので、上限を0.8%とする。
Vは、Nb、Tiに比べ強化効果は少ないが、ある程度の析出強化と焼入れ性を高める効果がある。この効果を得るには0.01%以上の添加が必要であるが、過剰に添加すると溶接熱影響部靭性の低下をもたらすので、添加する場合でも0.03%未満とする。
Wは、強度を向上させる。添加する場合には0.1%以上添加するが、多量に添加するとコストが高くなるので、添加量は3%以下とする。
Bは、焼入れ性を高め、強度を得るために、添加する場合には0.0005%以上の添加を必要とするが、0.0050%を超えて添加してもその効果は変わらないので、添加量は0.0005%以上、0.0050%以下とする。
MgおよびCaの1種または2種を添加することにより、硫化物や酸化物を形成して母材靭性および溶接熱影響部靭性を高めることができる。この効果を得るためには、MgあるいはCaは、それぞれ0.0005%以上の添加が必要である。しかし、0.01%を超えて過剰に添加すると、粗大な硫化物や酸化物が生成するため、かえって靭性を低下させることがある。したがって、添加量を、それぞれ0.0005%以上、0.01%以下とする。
上記の成分の他に不可避的不純物として、P、Sは、母材靭性を低下させる有害な元素であるので、その量は少ないほうが良い。望ましくは、Pは0.02%以下、Sは0.02%以下とする。
また、溶接割れ感受性指数Pcmは、0.18を超えると大入熱溶接での溶接熱影響靭性の低下を回避できなくなるので、0.18%以下とする必要がある。ここで、Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5[B]であり、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[B]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bの質量%で表した含有量を意味する。
本発明のNb、Tiの炭化物、窒化物ないし炭窒化物の微細整合析出を促進させて十分な強化を得るためには、加工組織に含まれる転位や変形帯などの析出サイトが十分に存在することが望ましく、この点で、ベイナイト組織はフェライト組織に比べ転位密度など加工組織を維持しやすく、望ましい金属組織である。ただし、ベイナイトの体積率が30%未満では、引張強さ570MPaを確保することが困難となるため、その体積率は30%以上とする必要がある。
パーライトが存在すると、その相界面へNb、Tiの炭化物、窒化物ないし炭窒化物が析出してしまうため、目的とする強化効果が小さくなり、引張強さ570MPaを確保することが困難となるだけでなく、靭性なども低下させるため、極力低減する必要があるが、その体積率が5%未満であれば、このような悪影響は小さいため許容できる範囲である。
島状マルテンサイトが存在すると、降伏応力(上降伏点あるいは0.2%耐力)や靭性を低下させるため、極力低減する必要があるが、その体積率が3%未満であれば、このような悪影響は小さいため許容できる範囲である。島状マルテンサイトは、特に、板厚中心部で生成しやすい。板厚中心部においても450MPa以上の降伏応力を得るためには、板厚中心部においても島状マルテンサイトの体積率を3%未満とする必要がある。望ましい島状マルテンサイトの体積率は2%未満である。
次に、成分以外の製造方法の各発明特定事項について述べる。
鋼片または鋳片の加熱温度は、Nb、Tiを十分に固溶させるために、下記に示すようなA値を含む条件式で算出される温度T(℃)よりも高くする。
T=6300/(1.9−Log(A))−273
ここで、A=([Nb]+2×[Ti])×([C]+[N]×12/14)であり、[Nb]、[Ti]、[C]、[N]は、それぞれNb、Ti、C、Nの質量%を意味する。また、ここでの対数Log(A)は、常用対数である。しかし、1300℃を超える加熱温度とすると、オーステナイト粒径が粗大化して靭性低下の原因ともなるので、圧延時の鋼片または鋳片の加熱温度は、T(℃)以上、1300℃以下とする。
圧延は、できるだけ圧延中のNb、Tiの析出を抑制するため、1020℃以上の温度範囲での適当な圧下率での粗圧延の後、1020℃未満、920℃超の範囲での圧延は、累積圧下率15%以下とする。さらに、析出サイトとして必要十分な加工組織を得るために、920℃以下、860℃以上の範囲で、累積圧下率20%以上、50%以下の圧延を行う。この圧延条件であれば、集合組織の形成が抑制されるので、音響異方性が大きくならない。
加工組織の回復、加工後の析出を抑制するため、圧延終了後すみやかに加速冷却を行う。この加速冷却は、800℃以上から、冷却速度が2℃/sec以上、30℃/sec以下となる条件で行う。ベイナイトの体積率を30%以上とするために、2℃/sec以上の冷却速度が必要であり、かつパーライトの体積率を5%未満、および島状マルテンサイトの体積率を3%未満とするため、冷却速度の上限を30℃/sec以下とする。鋼板温度が700℃以下、600℃以上となるように加速冷却を途中停止し、その後、放冷等により冷却速度を0.4℃/sec以下とする。この目的は、Nb、Tiおよびこれらの複合析出、さらに、Moとの複合析出に十分な温度、時間を確保することにある。加速冷却停止温度が高温すぎるとベイナイト組織が得にくく、逆に、低温では析出が遅くなって十分な強化が得られない。なお、加速冷却停止直後には、鋼板の中心部温度は表面よりも高温になっているため、その後内部からの復熱によって鋼板表面の温度は一度上昇し、その後冷却に転じる。ここでいう加速冷却停止温度とは、復熱した後の鋼板表面の最高到達温度を意味する。
本発明鋼は、橋梁、船舶、建築構造物、海洋構造物、圧力容器、ペンストック、ラインパイプなどの溶接構造物の構造部材として、厚鋼板の形態で用いられるものである。
表5、表6に示す成分組成の鋼を溶製し、得られた鋼片を、表7、表8に示す製造条件にて、12〜100mm厚さの鋼板とした。これらのうち、1−A〜20−Tは本発明鋼であり、21−U〜48−Aは比較例である。表中、下線で示す数字は成分または製造条件が特許範囲を逸脱しているか、あるいは特性が下記の目標値を満足していないものである。
Figure 2007154309
Figure 2007154309
Figure 2007154309
Figure 2007154309
これらの鋼板についての母材強度、靭性と溶接熱影響部靭性および音響異方性の測定結果を表7、表8に示す。母材強度は、JIS Z 2201に準拠した1A号全厚引張試験片あるいは4号丸棒引張試験片を採取し、JIS Z 2241に準拠した方法で測定した。引張試験片は、板厚25mm以下では1A号全厚引張試験片を採取し、板厚25mm超では4号丸棒引張試験片を板厚の1/4部(1/4t部)と板厚中心部(1/2t部)より採取した。母材靭性は、圧延方向に直角な方向の板厚中心部からJIS Z 2202に準拠した衝撃試験片を採取し、JIS Z 2242に準拠した方法で破面遷移温度(vTrs)を求めて評価した。溶接熱影響部靭性は、板厚32mm以下の鋼材は元の厚さのまま、板厚32mm超の鋼材は32mmに減厚した鋼板を用意して、レ型開先の突合せ部に入熱量20kJ/mmの大入熱サブマージアーク溶接を行い、ノッチ底が溶融線(フュージョン・ライン)に沿うように、JIS Z 2202に規定の衝撃試験片を採取して、−20℃での吸収エネルギー(vE−20)にて評価した。音響異方性は、日本非破壊検査協会規格NDIS2413−86に従って、音速比が1.02以下であれば音響異方性が小さいものと評価した。各特性の目標値は、それぞれ降伏応力が450MPa以上、引張強さが570MPa以上、vTrsが−20℃以下、vE−20が70J以上、音速比が1.02以下とした。母材組織の体積分率は、板厚中心部にて撮影した倍率500倍の顕微鏡組織写真で100mm×100mmの範囲を10視野観察して算出した。
実施例1−A〜20−Tは、いずれも降伏応力が450MPa超、引張強さが570MPa超であり、溶接熱影響部靭性vE−20が200J超であり、かつ音速比が1.02以下と音響異方性が小さい。
これに対して、比較例21−UはCが低いため、比較例22−VはCが高いため、比較例25−YはMnが低いため、比較例28−ABはNbが低いため、比較例30−ADはTiが低いため、比較例32−AFは上記パラメータAの値(A=([Nb]+2×[Ti])×([C]+[N]×12/14))が0.0022に満たないため、比較例33−AGはパラメータAの値が0.0055を超えているため、比較例42−Aは加熱温度がT℃より低いため、比較例46−Aは冷却速度が小さいため、降伏応力や引張強さが不足する。
比較例47−Aは加速冷却停止温度が高いため、比較例48−Aは加速冷却停止温度が低いため、いずれも降伏応力、引張強さが不足する。
比較例23−W、24−Xは、Si量が多いため、島状マルテンサイトの体積率が3%以上となり、1/2t部において降伏応力が不足する。
比較例27−AAはMo量が多いため、比較例29−ACはNb量が多くNb+2Tiが0.105%を超えているため、比較例31−AEはTi量が多くNb+2Tiが0.105%を超えているため、比較例34−AHはN量が少ないため、比較例36−AJはV量が多いため、比較例37−AKはCu量が多いため、比較例38−ALはNi量が多いため、比較例39−AMはCr量が多いため、比較例40−ANはMg量が多いため、比較例41−AOはCa量が多いため、いずれも溶接熱影響部靭性が低い。
比較例26−ZはMn量が多いため、比較例35−AIはN量が多いため、いずれも母材靭性が低い。
比較例43−Aは1020℃未満、920℃超の範囲での累積圧下率が高いため、比較例44−Aは920℃以下、860℃以上の範囲での累積圧下率が低いため、いずれも降伏応力や引張強さが低い。
比較例45−Aは、920℃以下860℃以上の範囲での累積圧下率が高いため、降伏応力や引張強さが低く、音響異方性も大きい。
板厚中心部の島状マルテンサイトの体積率と降伏応力の関係を示す図である。 島状マルテンサイトの存在しない鋼板(A鋼)の引張試験時の応力−歪み曲線と、島状マルテンサイトの存在する鋼板(B鋼)の引張試験時の応力−歪み曲線との相違を、模式的に対比して示す図である。 板厚中心部の島状マルテンサイトの体積率に及ぼす鋼成分Si量の影響を示す図である。 板厚中心部の降伏応力に及ぼす鋼成分Si量の影響を示す図である。

Claims (5)

  1. 質量%で、
    C :0.03%以上、0.07%以下、
    Si:0.10%未満、
    Mn:0.8%以上、2.0%以下、
    Al:0.003%以上、0.1%以下、
    を含有し、さらに、Nb、Tiを、
    Nb:0.025%以上、
    Ti:0.005%以上
    で、かつ、
    0.045%≦[Nb]+2×[Ti]≦0.105%
    を満たすように含有し、さらに、
    N :0.0025%超、0.008%以下
    を含有し、さらに、Nb、Ti、C、Nを、下記に示されるAの値が、0.0022以上、0.0055以下となる関係を満足する範囲で含有し、溶接割れ感受性指数Pcmが0.18以下であり、残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するとともに、鋼組織が、ベイナイトの体積率が30%以上、パーライトの体積率が5%未満、島状マルテンサイトの体積率が3%未満であることを特徴とする、音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板。
    A=([Nb]+2×[Ti])×([C]+[N]×12/14)
    Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5[B]
    ここで、[Nb]、[Ti]、[C]、[N]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[B]は、それぞれNb、Ti、C、N、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bの質量%で表した含有量を意味する。
  2. さらに、質量%で、
    Mo:0.05%以上、0.3%以下
    を含有することを特徴とする、請求項1に記載の音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板。
  3. さらに、質量%で、
    Cu:0.1%以上、0.8%以下、
    Ni:0.1%以上、1.0%以下、
    Cr:0.1%以上、0.8%以下、
    V :0.01%以上、0.03%未満、
    W :0.1%以上、3%以下、
    B :0.0005%以上、0.0050%以下
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板。
  4. さらに、質量%で、
    Mg:0.0005%以上、0.01%以下、
    Ca:0.0005%以上、0.01%以下
    の1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の成分組成を有する鋼片または鋳片を、下記に示されるT(℃)以上、1300℃以下に加熱し、1020℃以上の温度範囲での粗圧延の後、1020℃未満、920℃超の範囲での圧延は累積圧下率を15%以下に抑制し、920℃以下、860℃以上の範囲での累積圧下率を20%以上、50%以下とする仕上げ圧延を行い、これに引き続き、冷却速度が2℃/sec以上、30℃/sec以下となる加速冷却を800℃以上から開始し、700℃以下、600℃以上で該加速冷却を停止して、その後0.4℃/sec以下の冷却速度で冷却することを特徴とする、音響異方性が小さく溶接性に優れる降伏応力450MPa以上かつ引張強さ570MPa以上の高張力鋼板の製造方法。
    T=6300/(1.9−Log(A))−273
    ここで、
    A=([Nb]+2×[Ti])×([C]+[N]×12/14)
    であり、[Nb]、[Ti]、[C]、[N]は、それぞれNb、Ti、C、Nの質量%で表した含有量を意味する。
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