JP4112733B2 - 強度および低温靭性に優れた50キロ(490MPa)ないし60キロ(588MPa)級の厚手高張力鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強度・低温靱性および溶接性に優れた高張力鋼板に関わるものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、経済性、安全性等の面から溶接構造物(建築、橋梁、圧力容器、造船、建機等)における、高張力鋼の使用は多岐にわたり、溶接用高張力鋼の需要は着実な増加を示している。溶接構造物に使用される鋼は当然のことながら高強度に加え、安全性、作業性の面から、高靱性と優れた溶接性を併せ持つことが要求されるが、これらの特性を満足する鋼の製造法として現在ではラインパイプ材の製造に広く使用されている制御圧延法(CR法)と圧延後焼き入れ焼き戻し処理を行う焼き入れ焼き戻し法(QT法)がよく知られている。
【0003】
しかし、前者の方法では圧延組織は一般的にフェライト・パーライトであり、得られる強度と板厚には自ずと限界が存在する。すなわち、高靱性に有利なアシキュラーフェライトもしくはベイナイト組織とするには冷却速度を著しく速めるかもしくは多量の合金添加を必要とする。また、後者では、再加熱工程が必要なためコスト高になると共に生産能力上の制約がある。
【0004】
このため、今日ではこれらの方法を一歩進め、省エネルギ−、省資源(合金元素の削減)化を徹底した制御圧延・制御冷却法(TMCP法)の開発が進められている。この方法で製造した鋼はCRとQT法の長所を併せ持ち低合金ないし特別な合金添加無しで優れた材質が得られるという特徴をもつ。しかしながら、従来の制御冷却法で製造した鋼は次のような欠点を有している。(1)圧延後急冷を行った場合、強度が高すぎるため延靱性回復のために焼き戻し処理が必須となる。(2)溶接時の熱影響部(HAZ)の軟化が大きく、特に高降伏点、高張力鋼では溶接部の強度確保が困難である。(3)板厚断面方向の組織が不均一で硬度差が大きい。(4)冷却条件(冷却開始、停止温度及び速度)のコントロールが微妙で材質が不安定である。
【0005】
例えば、特開昭63−179020号公報あるいは特開昭61−67717号公報では成分、圧下量、冷却速度、停止温度を制御することによって、板厚断面硬度差を小さくするとしている。しかしながら、極厚鋼板では板厚方向での冷却速度が必然的に異なるために、板厚断面硬度差を制御することは難しい。
また、特開昭58−77528号公報にはNbとBの複合添加により組織をベイナイト組織とし、板厚断面方向の硬度差を制御すると記載されているが、冷却速度を15〜40℃/秒範囲に制御するために、極厚鋼板での板厚方向の硬度差を均一にすることは非常に難しい。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、板厚方向での材質のバラツキが少なく、かつ強度・低温靱性および溶接性に優れた50キロ(490MPa)ないし60キロ(588MPa)級の機械的性質を有する高張力鋼板を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を満足する高張力鋼板の成分とその製造方法を特定するに至って完成されたもので、その要旨とするところは、
(1)質量%で、C:0.005〜0.12%、Si:0.02〜0.5%、Mn:0.3〜2.2%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Mo:0.01〜1%、Al:0.05%以下、Ti:0.005〜0.03%、B:0.0005〜0.003%、N:0.01%以下、Nb:0.001〜0.15%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、0%≦Ti−3.4N≦0.02%を満足する鋼片を1000〜1250℃の温度に加熱し、950℃以下の圧下量が30%以上かつ仕上げ温度が700〜850℃となるように圧延を行って、仕上げ板厚を35mm以上とし、圧延後0.05〜100℃/秒の冷却速度で冷却することにより、ベイナイト(アシキュラーフェライト、ベイニティックフェライト、上部ベイナイト、下部ベイナイトを含む)単相組織とすることを特徴とする、強度および低温靱性に優れた50キロ(490MPa)ないし60キロ(588MPa)級の厚手高張力鋼板の製造方法。
【0008】
(2)鋼片が、質量%で、Ni:0.1〜5%、Cr:0.1〜1.5%、Cu:0.1〜1.5%、V:0.01〜0.2%以下、Ca:0.0005〜0.005%以下、Mg:0.0001〜0.005%以下、REM:0.0005〜0.005%以下のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)に記載の強度および低温靱性に優れた50キロ(490MPa)ないし60キロ(588MPa)級の厚手高張力鋼板の製造方法である。
【0009】
【発明の実施の形態】
発明者らは、従来技術の欠点を解決すべく制御圧延・制御冷却法(TMCP法)に適した成分系、加熱圧延、冷却プロセスについて多数の実験と詳細な検討を実施した結果、微量のTi、BにMoまたは微量のTi、BにMoとNbを複合添加した鋼を制御圧延、冷却することによって強度・低温靱性バランスが飛躍的に向上することを見いだした。
【0010】
発明者らの検討によれば、Bは鋼の焼き入れ性向上元素としてよく知られているが、ただ単にB添加によって焼き入れ性を向上するだけでは良好な強度・低温靱性は得られない。このため、微量TiおよびBとMoまたは微量TiにBとNb、Moを複合添加する。Tiは鋼中のNを固定し、Bの焼き入れ性向上効果を安定化させるとともにNとの結合でできた微細なTiNは加熱圧延中のオーステナイト粒成長を抑制し、変態後のフェライト粒をも細粒化する。Nbはよく知られているように低温域での圧延(約950℃以下)によってオーステナイト粒を未再結晶化させ圧延組織を細粒化させる。またNbは固溶NbあるいはNb炭窒化物の析出によって、鋼の強度を向上させる。Moもよく知られているように固溶Moによって鋼の強度を向上させる。
【0011】
しかしながら、発明者らは微量Tiの存在下でBとMoあるいはBとMo、Nbの複合添加によって従来知られていなかった全く新しい現象が起きることを発見した。すなわち、オーステナイトの未再結晶化開始温度(再結晶温度)が、50℃以上高くなると同時に、焼き入れ性が大幅に向上してB、Mo、Nbそれぞれ単独系から予想される値に比べて強度・低温靱性バランスの向上が極めて大きいことを発見した。さらにこの効果は通常の熱処理または制御圧延単独効果よりも大きいことを見いだした。
【0012】
発明者らは、BとMoあるいはBとMoとNbの複合添加によって強度・低温靱性バランスが極めて向上する理由は以下のように推察している。B単独添加鋼の場合、Bはオーステナイト粒界に偏析しているもの以外に、M23(CB)6の粗大な析出物を生成する。ここで、Mは金属元素を意味しており、例えばFe23(CB)6等である。しかしながら、BとMoあるいはBとMoとNbを複合添加するとNbの炭窒化物およびNbおよびMoのCクラスターが微細に析出することが電子顕微鏡やアトムプローブ電界イオン顕微鏡で確認されている。
【0013】
このため、Nb,Moによるγ中でのC原子の拡散速度が減少し、M23(CB)6へのC原子の供給を抑制する。すなわち、B,MoあるいはB,Mo,Nbを複合的に添加した場合にはM23(CB)6としてのBの析出量が減少し、結果的に焼き入れ性に有効なB原子の粒界偏析量が単独添加の場合に比較して著しく増大したものと考えられる。
この微量TiおよびBとMoの複合添加または微量TiにB、Mo、Nbの複合添加を施した鋼を用いれば、冷却速度が0.05℃/秒以上100℃/秒以下の範囲で板厚方向の硬度差が少なくかつ均一なベイナイト組織を有することが判明した。
【0014】
本発明に従えば前述の制御冷却法における上記の(1)から(4)の欠点は除去される。すなわち、(1)についてはミクロ組織がベイナイト(アシキュラーフェライト、ベイニティックフェライト、上部ベイナイト、下部ベイナイトを含む)単相組織となるため、焼き戻し処理がなくても延靱性が良好である。(2)についてはTiとB、MoあるいはTiとB、Mo、Nbの複合添加により、溶接部についても焼き入れ性が向上し、溶接部の強度確保が容易である。
【0015】
(3)についても上記複合効果により細粒化効果、焼き入れ性が大きいため冷却速度・厚みにかかわらず安定した硬さ分布を示す。さらに950℃以下の低温未再結晶温度域で圧下量30%以上で圧延するため、表面ほど細粒オーステナイトとなり、焼き入れ性が低下して厚み方向の組織は均一となる。(4)についてはオーステナイト粒の細粒化の徹底、焼き入れ性の安定確保により、比較的広範囲の加熱圧延冷却条件下で安定な強度/低温靱性バランスを示す。
【0016】
本発明にしたがって製造した鋼は従来の鋼材に比べ、低成分(低炭素当量)で優れた強度・低温靱性が得られるため、溶接時の硬化性、割れ感受性が低く、また、溶接部の靱性が極めて良好である。このため、本発明鋼は50キロ(490MPa)ないし60キロ(588MPa)級の溶接構造用鋼として広い用途(建築、橋梁、圧力容器、造船、建機等)に適用可能である。
【0017】
以下、本発明の成分の限定理由について述べる。
C:鋼における母材強度を向上させる基本的な元素として欠かせない元素であり、その有効な下限値として0.005%以上の添加が必要であるが、0.12%を越える過剰の添加では、鋼材の溶接性や靱性の低下を招くので、その上限を0.12%とした。
Si:Siは製鋼上脱酸元素として必要な元素であり、鋼中に0.02%以上の添加が必要であるが、0.5%を越えると溶接部ならびにの靱性を低下させるのでそれを上限とする。
【0018】
Mn:Mnは、母材の強度および靱性の確保に必要な元素であるが、2.2%を越えると焼き入れ性が増加し、ベイナイトだけでなく靱性に有害な島状マルテンサイトを多量に生成し、母材ならびに溶接部の靱性を著しく阻害するが、逆に0.3%未満では、母材の強度確保が困難になるために、その範囲を0.3〜2.2%とする。
【0019】
P:Pは鋼の靱性に影響を与える元素であり、0.02%を越えて含有すると鋼材の母材だけでなく溶接部の靱性を著しく阻害するのでその含有される上限を0.02%とした。
S:Sは0.01%を越えて過剰に添加されると粗大な硫化物の生成の原因となり、母材ならびに溶接部の靱性を劣化させるのでその含有される上限を0.01%とした。
【0020】
Mo:Moは本発明においてTi、B、Nbと共に重要な合金元素であり、母材の強度・低温靱性をともに向上させる基本元素である。しかしながら、0.01%未満では顕著な効果がない。一方多すぎると焼き入れ性を増大させ、母材、溶接部の靱性を劣化させるので上限を1%とした。
Al:Alは通常脱酸材として添加されるが、0.05%を越えると溶接部の靱性が劣化するために上限を0.05%とした。
【0021】
Ti:添加量が少ない範囲(Ti:0.005〜0.03%)では微細なTiNを形成し、圧延組織およびHAZの細粒化、つまり、靱性向上に効果的である。この場合NとTiは化学量論的に当量近傍が望ましく、0%≦Ti−3.4N≦0.02%が良好である。また、本発明では、Nを固定、Bの焼き入れ性を確保する効果を併せ持つ。Ti添加量の上限は微細なTiNが鋼片中に通常の製法で得られ、また、TiCによる靱性劣化が起きない条件から0.03%とした。また、0.005%未満ではTiNの十分な効果が得られないので下限を0.005%とした。
【0022】
なお、TiとN量を0%≦Ti−3.4N≦0.02%と限定した理由はTiによってNを十分に固定し、Bの焼き入れ性向上効果を発揮させるためであって上限0.02%は過剰のTiがTiCを大量に形成して靱性を劣化させない条件から、また、下限の0%はフリーNが多くならない条件、換言するとBNの形成を抑制するために規定したものであり、焼き入れ性が低下しない条件からその値は決定した。
【0023】
B:圧延中にオーステナイト粒界に偏析し、焼き入れ性を向上させ、ベイナイト組織を生成しやすくするが、0.0005%未満では顕著な焼き入れ性改善効果が無く、0.003%超になるとBNやBconstituentを多く生成するようになるために母材やHAZの靱性を劣化させる。このため、下限を0.0005%、上限を0.003%とした。
Nb:圧延組織の細粒化、焼き入れ性の向上と析出硬化のため含有させるもので強度・低温靱性を共に向上させる重要な元素である。制御圧延材では0.15%を越えて添加しても材質効果がなく、また、溶接性およびHAZ靱性に有害であるために上限を0.15%に限定した。また、下限0.001%は材質上の効果を有する最小値である。
【0024】
次いで、Ni、Cr、Cu、REM、Ca、Mgの成分限定の理由について示す。
Ni:HAZの硬化性および靱性に悪影響を与えることなく母材の強度・低温靱性を向上させる特性を持つが、0.1%未満ではその効果が無く、5%を越えるとHAZの硬化性および靱性上好ましく無いため、下限を0.1%、上限を5%とした。
V:Nbとほぼ同様の効果をもつが、0.01%以下では顕著な効果が無く、上限は0.2%まで許容できる。
【0025】
Cr:母材の強度を高め、耐水素誘起割れ性にも効果を有するが、0.1%未満では顕著な効果が無く、1.5%を越えるとHAZの硬化性を増大させ、低温靱性・溶接性の低下が大きくなり好ましくない。このため、下限を0.1%、上限を1.5%とした。
Cu:Niとほぼ同等の効果を持つと共に、耐食性、耐水素誘起割れ性にも効果がある。しかし、0.1%未満ではNi同様顕著な効果が無く、1.5%を越えるとNiを添加しても圧延中に割れが発生し、製造が難しくなる。このため、下限を0.1%、上限を1.5%とした。
【0026】
Ca:CaはREMと同様の効果をもち、その有効範囲は0.0005〜0.005%である。
Mg:Tiとの複合脱酸によって微細な酸化物が微細分散し、溶接部の粗大粒成長の防止、粒内フェライトの生成促進効果によりHAZ靱性の向上をもたらす。また、REMやCaと同様にMnSの球状化によってシャルピー吸収エネルギ−、延性脆性遷移温度が向上する。0.0001%未満であると事実上効果が無く、また、0.005%を越えて添加すると粗大なMg酸化物、Mg硫化物が生成して大型介在物となり、鋼の低温靱性のみならず清浄度を害し、また溶接性についても悪影響を及ぼす。
【0027】
REM:MnSを球状化させ、シャルピー吸収エネルギ−衝撃値を向上させる他、圧延によって、延伸化したMnSと水素による内部欠陥の発生防止を防止する。REMの含有量については0.0005%未満であると事実上効果が無く、また、0.005%を越えて添加するとREM−S(硫化物)またはREM−O−S(酸化物と硫化物の複合体)が大量に生成して大型介在物となり、鋼の低温靱性のみならず清浄度を害し、また溶接性についても悪影響を及ぼす。
【0028】
以下では製造条件の限定理由について述べる。まず、加熱温度を1000〜1250℃に限定した理由は、加熱時のオーステナイト粒を小さく保ち圧延組織の細粒化をはかるためである。1250℃は加熱時のオーステナイト粒が極端に粗大化しない上限であって、加熱温度がこれを越えるとオーステナイト粒が粗大混粒化し、冷却後の上部ベイナイト組織も粗大化するため、鋼の靱性が著しく劣化する。
一方、加熱温度があまりに低すぎると、Nb,Vなどの析出硬化元素が十分に固溶せず強度・低温靱性バランスが劣化するだけでなく、圧延終段の温度の下がりすぎのために、制御冷却による十分な材質向上効果が期待できない。このため、下限を1000℃とする必要がある。
【0029】
次に、900℃以下の未再結晶温度域での圧下量を30%以上とし、仕上げ温度を700〜850℃の範囲とした理由は未再結晶温度での十分な圧延を加えることによってオーステナイト粒の細粒化・延伸化を徹底し、冷却後に生成する変態組織を細粒均一化するためである。このように細粒オーステナイトを十分延伸化することにより、圧延冷却後生成するフェライト、上部ベイナイト組織を十分細粒化すると、靱性が大幅に向上する。しかし、仕上げ温度が不適当であると良好な強度・低温靱性が得られない。仕上げ温度の下限を700℃としたのは過度の変態点以下の(γ+α)域圧延によって延靱性を劣化させないためである。また、仕上げ温度が700℃未満では制御圧延による十分な強度上昇効果が期待できない。一方、仕上げ温度が余りにも高すぎると制御圧延によるオーステナイト粒の細粒化効果が期待できず靱性が低下する。このため上限を850℃とする必要がある。
【0030】
圧延後の冷却であるがこれは良好な強度、低温靱性を得るために板厚方向に均一な変態組織が得られるように行わなければならない。このため、種々の実験を行った結果、圧延終了後から0.05℃/秒以上100℃/秒以下の冷却速度で実施すると板厚方向に均一な変態組織が得られることがわかった。この理由は0.05℃未満ではベイナイト組織が生成しにくく、強度の向上が十分でない。また、100℃/秒の上限を規定した理由は現状設備の最も大きい値であり、特にこれに限定されるものではない。しかしながら、成分系によっては多量の島状マルテンサイトが生成し、延靱性を劣化させる場合があり、0.1℃/秒〜80℃/秒の範囲が実用的に有効である。
【0031】
【実施例】
次に、本発明の実施例について述べる。
転炉、連続鋳造工程で製造した種々の化学成分の鋳片を用い、製造プロセスを変えて板厚20〜180mmの鋼板を製造した。表1および2は本発明鋼と比較鋼の化学成分を示したものである。これらの鋼板を再加熱後に種々の圧延条件で製造した場合の母材の機械的性質を表3に示した。表3から明らかなように、板厚を広く変えた鋼板であるにもかかわらず本発明に従って製造した鋼材1〜15はいずれも高強度と良好な低温靱性を兼ね備えている。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
すなわち、本発明によれば、50キロ(490MPa)ないし60キロ(588MPa)級の強度レベルを十分に確保できると同時に、建築や橋梁用鋼として脆性破壊の抑制の観点から必要な低温靱性(vE0:0℃でのシャルピー吸収エネルギー、あるいはvE-20:−20℃での同値)が三ケタ以上を有し、母材の強度・靱性バランスは著しく向上する。JIS規格によれば、建築用鋼として利用されるSN鋼の場合にはvE0≧27J、また、橋梁用のSM570鋼ではvE 5≧47Jがそれぞれ保証されるべき数値として示されており、本発明鋼の靱性値はこれら用途に対して極めて良好である。また、表4は入熱量50kJ/cm、100kJ/cmの各溶接条件で実継手を作製した場合のHAZ靱性の評価結果であり、母材靱性と同様に良好な値となっている。なお、表3および表4のシャルピー吸収エネルギーの値は3本の試験結果の平均値である。
【0036】
一方、本発明によらない比較鋼は母材の強度あるいは低温靱性のいずれかが不満足で、溶接構造用鋼としてのバランスに欠けている。表3の比較鋼中、鋼材16、17、18は本発明の必須元素であるMo、Ti、Bのいずれかが添加されていないため母材強度と低温靱性が劣っている。これらは表4に示すごとくHAZ靱性も本発明鋼に比較して低値になっている。また、比較鋼19〜25はC、Si、Mn、P、Sの含有量が規定外の場合であり、19と22は強度の著しい低下が生じており、他は母材靱性あるいはHAZ靱性が十分でない。
【0037】
比較鋼26、27、28はMoとBが本発明の範囲外であり、母材の強度不足やHAZ靱性の劣化が生じている。さらに、比較鋼29と30は(Ti−3.4N)の値がいずれも負の値になっており、過剰なフリーNによって母材靱性並びにHAZ靱性が著しく低い値を呈している。
表5は表1および2の鋼材2を圧延条件を変えて製造した場合の母材の機械的特性を示したもので、再加熱温度、圧下率、仕上げ温度が本発明の範囲外に該当し、十分な機械的特性が得られていない。
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
【発明の効果】
本発明によって強度・低温靱性および溶接性に優れた高張力鋼板の製造が可能となり、建築分野や橋梁分野、さらには圧力容器、造船分野、建機分野等の産業界への貢献は計り知れない。
Claims (2)
- 質量%で、
C :0.005〜0.12%、
Si:0.02〜0.5%、
Mn:0.3〜2.2%、
P :0.02%以下、
S :0.01%以下、
Mo:0.01〜1%、
Al:0.05%以下、
Ti:0.005〜0.03%、
B :0.0005〜0.003%、
N :0.01%以下、
Nb:0.001〜0.15%
を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、0%≦Ti−3.4N≦0.02%を満足する鋼片を1000〜1250℃の温度に加熱し、950℃以下の圧下量が30%以上かつ仕上げ温度が700〜850℃となるように圧延を行って、仕上板厚を35mm以上とし、圧延後0.05〜100℃/秒の冷却速度で冷却することにより、ベイナイト(アシキュラーフェライト、ベイニティックフェライト、上部ベイナイト、下部ベイナイトを含む)単相組織とすることを特徴とする、強度および低温靱性に優れた50キロ(490MPa)ないし60キロ(588MPa)級の厚手高張力鋼板の製造方法。 - 鋼片が、質量%で、
Ni:0.1〜5%、
Cr:0.1〜1.5%、
Cu:0.1〜1.5%、
V :0.01〜0.2%以下、
Ca:0.0005〜0.005%以下、
Mg:0.0001〜0.005%以下、
REM:0.0005〜0.005%以下
のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の強度および低温靱性に優れた50キロ(490MPa)ないし60キロ(588MPa)級の厚手高張力鋼板の製造方法。
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