JP2004311276A - 高分子膜電極接合体および高分子電解質型燃料電池 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜、前記電解質膜の両側に配置された触媒層、および前記各触媒層に接するガス拡散層からなる高分子膜/電極接合体において、ガス拡散層が、炭素質繊維を主たる構成材料とする多孔質のシートからなる基材を具備し、前記基材の面方向の透気度と厚み方向の透気度の積を1.0×10−8m6/m4・sec2・Pa2以上とする。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料として純水素、またはメタノールもしくは化石燃料からの改質水素などの還元剤を用い、酸化剤として空気や酸素を用いる燃料電池、特に高分子電解質型燃料電池の高分子膜電極接合体に関する。
【0002】
【従来の技術】
高分子電解質型燃料電池は、水素などの燃料ガスと空気などの酸化剤ガスとを白金などの触媒層を有するガス拡散電極で電気化学的に反応させ、電気と熱を同時に発生させるものである。この高分子電解質型燃料電池は、基本的には、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜、およびその両面に配置された一対の電極から構成される。電極は、白金族金属触媒を担持したカーボン粉末を主成分とする触媒層と、その外面に配置された、ガス透過性と導電性を兼ね備えたガス拡散層からなる。これらの電極と高分子電解質膜とを含む高分子膜電極接合体(以下、MEAという)を機械的に接合するとともに、隣接するMEA同士を互いに電気的に直列に接続するための導電性セパレータ板がMEA間に挿入される。導電性セパレータ板は、電極に反応ガスを供給するガス流路を有する。これらのガス流路は、電極反応により発生した水や余剰のガスを運び去る役目も有する。
このようにしてMEAとセパレータ板が交互に積層されて電池積層体が構成され、所定の締結圧で積層方向に締結され、MEAとセパレータ板は所定の圧力のもとで面接触している。
【0003】
この種の高分子電解質型燃料電池の電極におけるガス拡散層の役割は、(1)反応ガスを電極に供給する、(2)膜や触媒層を湿潤状態に保つ、(3)過剰な反応生成水や結露水をMEAの外に排出する、(4)MEAとセパレータ板間の導電性を確保する、の4点が挙げられる。このようなガス拡散層を得るため、基材としては一般的に、ガス拡散能および導電性を兼ね備えた導電性炭素繊維基材が用いられる。具体的には、炭素繊維からなり、不織布に分類されるカーボンフェルト、カーボンペーパー、および炭素繊維からなり、織布に分類されるカーボンクロスなどが用いられる。また、これら導電性炭素繊維基材の撥水性を高めるために、フッ素樹脂ディスパージョンなどに浸漬する撥水処理を行う場合がある。より具体的には、これらの撥水処理された導電性炭素繊維基材は、導電性炭素繊維基材をフッ素樹脂のディスパージョンなどに浸漬した後、焼成することによってフッ素樹脂以外の水分および界面活性剤などを取り除いて作製される。
【0004】
一方、このようなガス拡散層を用いて高分子電解質型燃料電池を得る際には、ガス拡散層と高分子電解質膜との間に触媒層が設けられる。導電性炭素繊維基材の繊維のほつれによる膜へのダメージを緩和し、また、さらなる集電性、撥水性を付与するために、ガス拡散層を構成する導電性炭素繊維基材の上に、カーボンおよびフッ素樹脂ディスパージョンを主成分とする被覆層(撥水カーボン層)を設けることも一般的に行われている。すなわち、導電性炭素繊維基材上に、カーボンブラックなどの炭素粉末を含む水系インクを、例えばスプレー法または印刷法、ドクターブレードなどを用いて塗布し、一部が導電性炭素繊維基材に含浸して侵入した被覆層を形成することが行われている。この場合も、水分や界面活性剤などを取り除くために、塗布後に焼成処理が行われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
高分子電解質膜は、水分を含んだ状態で水素イオンを選択的に輸送する電解質として機能するため、燃料ガスや酸化剤ガスは加湿して電池に供給するのが普通である。また、高分子電解質膜の含水率が高くなるほど、水素イオン伝導度が増加し、電池内部の抵抗を低減させ、高分子電解質膜の劣化を抑制する効果がある。そこで、供給するガスを高加湿にして運転することが望ましい。
しかしながら、高加湿にされたガスを供給して運転する場合、特に、アノードおよびカソードにそれぞれ供給されるガスの加湿露点が、単電池温度と同じである、フル加湿運転においては、以下のような問題が生じる。
【0006】
単電池内には、電池温度と同じ加湿露点の水蒸気が常に送りこまれており、単電池温度にはある程度の分布が存在するため、運転温度が加湿露点よりも低い部位では、その温度差に応じた結露水が生じてしまう。さらに、カソード側では、反応生成水が存在する。これら結露水や反応生成水といった過剰な水が、MEA外部に排出されず、ガス拡散層に滞留すると、基材中の一部が目詰まりを起こし、ガスの通り道が塞がれてしまう。その結果、反応に必要なガスが均一に触媒層に到達せず、電気化学反応が起こりにくくなり、電池電圧が低下し、電池性能が低下する。この現象はフラッディングと呼ばれており、反応生成水が多量に存在することから、特にカソード側で起こりやすい。いったんフラッディングが起こると、過剰な水を外部に排出する孔が、過剰な水自身により、順番にふさがれていくため、基材中の目詰まりが増加し、徐々に基材のガス拡散性が低下する。そして、最終的には、発電が停止してしまう。
【0007】
単電池を複数個直列または並列に積み上げた積層体で構成される高分子電解質型燃料電池においては、一つの単電池の発電が停止すると、積層体全体の性能を低下させてしまう。したがって、高加湿運転において、ガス拡散層に求められる性能として、特に過剰な水をいかに効率よく排出するかがポイントとなる。このため、例えば、単電池内に発電に必要な量以上のガスを流し、このガスの流れにより、導電性炭素繊維基材内に滞留しそうな過剰水を電極外部へと持ち去ることが一般的に行われている。
しかし、反応に必要な量以上の多量のガスを供給しようとすると、ブロアー出力を高くしなければならず、燃料電池システム全体の効率を低下させてしまう。このため、初期特性および長期の連続運転において、高加湿運転による水の滞留が起こりにくく、高い電池電圧が安定的に保持されるガス拡散層を与える導電性炭素繊維基材単体の開発が望まれている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために、本発明に係る高分子膜電極接合体は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜、前記高分子電解質膜の両側に配置された触媒層、および前記各触媒層に接するガス拡散層からなり、前記ガス拡散層が、炭素質繊維を主たる構成材料とする多孔質のシートからなる基材を具備し、前記基材の面方向の透気度と厚み方向の透気度の積が1.0×10−8m6/m4・sec2・Pa2以上であることを特徴とする。
前記ガス拡散層は、前記基材の触媒層側に導電性粒子を含む被覆層を具備し、前記基材単独の面方向の透気度と前記ガス拡散層の面方向の透気度との比が0.8以上、特に0.86以上であることが好ましい。
前記基材の厚みは20μm〜400μmであることが好ましい。
前記基材の繊維密度は400kg/m3〜500kg/m3であることが好ましい。
【0009】
本発明は、また上記の高分子膜電極接合体とこれを挟む一対のセパレータ板からなる単電池、および前記単電池を締結する締結手段を具備し、前記基材があらかじめその厚み方向に前記締結手段による電池締結圧の2倍〜10倍の圧力でプレス処理されている高分子電解質型燃料電池を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、燃料電池の高加湿運転において、ガス拡散層に水が滞留せず、過剰な水分をすみやかに高分子膜電極接合体(MEA)外部に排出するようなガス拡散層として使用可能な導電性炭素繊維基材に関する。本発明は、ガスの通りやすさをあらわす透気度により、最適化された基材を規定する。
燃料電池の高加湿運転においては、反応ガスと共に供給されてきた加湿露点が高い水蒸気、および反応で生じた生成水の一部が、ガス拡散層に滞留して、ガス拡散層内の透気度が低下し、電池性能が低下する。これを防止するには、高い透気度を有し、発電中もその高い透気度を維持し続けるガス拡散層が求められる。
【0011】
ガス拡散層は、ある一定の厚みを有するため、透気度についても、面方向と厚み方向の両方が存在する。ガス拡散層の役割として、反応ガスを触媒層の全面に均一に到達させることが望ましい。そのためには、ガス拡散層の厚み方向だけでなく、面方向のガス拡散性も良好であることが望ましい。また、その方が、基材中を均一にガスが流れやすくなり、過剰な水を外部へ排出する能力がより高くなる。したがって、厚み方向および面方向のいずれに対しても高いガス拡散性を有する導電性炭素繊維基材が求められる。
【0012】
導電性炭素繊維基材は、その製造方法の違いから、大きく織布と不織布に分類することができる。
本発明の不織布からなる導電性炭素繊維基材は、平均繊維径5μm以上、100μm以下で、平均繊維長が5μm以上、100μm以下の、ポリアクリルニトリル系(PAN系)、セルロース系、ビスコースレーヨン系、ピッチ系、フェノール樹脂系の短繊維や長繊維からなる炭素質材料を、例えば、バインダーとしてポリビニールアルコール水溶液中に浸し、分散させて、掬紙法により製紙することによって得られる。これを、例えば窒素ガス雰囲気中、1000℃で加熱して炭化処理したのち、アルゴン雰囲気中で2000℃に加熱して黒鉛化処理をおこなう。
【0013】
したがって、不織布からなる導電性炭素繊維基材は、比較的多量のバインダーを必要とし、かつ十分にプレス加工して一定の厚さにするため、厚み方向、および面方向の透気度が低く、導電性も低い。また、機械的に剛性が大きい反面、もろく、弾性に乏しい。したがってハンドリング性が悪く、製造プロセスにおいては、ロール状に巻きつけることが困難である。
これらの欠点を克服するために、バインダーが比較的少量の不織布からなる導電性炭素繊維基材も検討されている。しかし、この場合は基材の繊維ほつれ(毛羽立ち)を抑制することができず、高分子電解質膜への突き刺しによる微小ショートが発生しやすくなる。
【0014】
上記よりさらに好ましい導電性炭素繊維基材は、織布からなる。織布からなる導電性炭素繊維基材は、機械的もろさが小さく、ガス拡散性が高く、炭素質繊維の構成や製織方法により、その透気度や導電性、剛性、厚みなどを柔軟に変化させることができる。また、比較的少量のバインダーしか必要としないので、ガス拡散性、導電性を確保しつつ、適度の剛性を得ることができる。しかも、比較的長い単繊維をより合わせて炭素質繊維とし、製織して作製しているので、不織布からなる導電性炭素繊維基材と比較して、同量のバインダーを使用した場合、繊維ほつれ(毛羽立ち)が少ない。
【0015】
織布の透気度を決めるパラメーターとしては、導電性炭素繊維基材の織り方、経緯密度、糸番手(糸の太さ)などがあげられる。これらのパラメーターを組み合わせることで、特性の異なる導電性炭素繊維基材を製造することができる。糸番手(糸の太さ)は、使用する繊維糸の直径と、撚る繊維糸の本数で規定することができる。一本あたりの繊維糸の直径を大きくするか、あるいは、撚る繊維糸の本数を増やすと、太い糸を作製できる。一方、一本あたりの繊維糸の直径を小さくするか、あるいは、撚る繊維糸の本数を減らすと、細い糸を作製することができる。
【0016】
厚み方向の透気度が高い基材とは、比較的小さな糸番手からなる繊維を撚り合わせて単糸、あるいはこれを2本撚りあわせて双糸を作製し、経緯密度(基材の面上において、縦方向および横方向に1インチ当たり何本双糸が走っているか、単位は本/インチ)が小さな織布を作製することにより達成できる。これは、結果として厚みが薄く、目付け重量が小さくなり、厚み方向に高いガス拡散性を発揮する。
しかし、このような基材では、集電性の確保、および膜への微小ショート防止のために、一般的な組成のインク状である導電性粒子を有する被覆層を基材に塗工すると、そのインクが基材中へしみ込みやすくなる。被覆層を塗布後、インク中に含まれる界面活性剤、および不純物を取り除くために焼成を行う。被覆層がしみ込んでいる場合、焼成後はインクが固化して、基材中のガスの流路である細孔を塞ぎ、面方向および厚み方向のガス拡散性が低下する。特に、導電性粒子を有する被覆層がしみ込んでいると、面方向のガス拡散性が著しく低下する。逆に、面方向のガス透過性を確保しようと思えば、糸番手を大きくして導電性炭素繊維基材の厚みを厚くする方法がある。しかし、厚くすると、厚み方向のガス拡散性が低下する。また、単電池内部の接触抵抗も増加する。
【0017】
このような観点から、厚み方向の透気度を高くしようとすれば、面方向の透気度が減少し、面方向の透気度を高くしようとすれば、厚み方向が減少する。したがって、厚み方向と面方向の透気度のバランスが大切であり、本発明者らはその両方で優れた導電性炭素繊維基材を得ることに成功した。
面方向と厚み方向の透気度の積が1.0×10−8m6/m4・sec2・Pa2未満であると、上記理由から、高加湿運転において、過剰な水を外部へ排出する能力が下がり、導電性炭素繊維基材に水が滞留しやすくなる。1.0×10−8m6/m4・sec2・Pa2以上であると、初期特性においては、高加湿運転でも安定して作動する。しかし、寿命試験においては、劣化率が大きく、長期安定性を考慮すると、1.0×10−6m6/m4・sec2・Pa2以上であることがさらに好ましい。
【0018】
前記導電性炭素繊維基材に導電性粒子を有する被覆層を塗布する前後の面方向の透気度の比、すなわち前記基材単独の面方向の透気度と前記被覆層を形成した基材の面方向の透気度との比は0.8以上であることが好ましく、0.86以上であることがより好ましい。導電性粒子を有する被覆層がしみ込みやすい基材ほど、被覆層を塗布後の面方向の透気度が低下する。従って、基材単体の面方向の透気度が優れているだけでなく、被覆層塗布後の基材もまた、面方向の透気度が優れている必要がある。
すなわち、導電性粒子を有する被覆層を塗布前後の透気度の差が小さい基材が高加湿運転においては最も好ましい。前記導電性炭素繊維基材に導電性粒子を有する被覆層を塗布する前後の、面方向の透気度の比が0.8未満であると、高加湿運転において、過剰な水を外部へ排出する能力が下がり、導電性炭素繊維基材に水が滞留しやすくなる。0.8以上であれば、初期特性においては、高加湿運転でも安定して作動する。しかし、寿命試験においては、劣化率が大きく、長期安定性を考慮すると、0.86以上であることがより好ましい。
【0019】
前記導電性炭素繊維基材において、厚み方向の透気度が面方向の透気度の100倍以上である基材を使用することで、厚みを薄くすることができ、抵抗値を下げることが可能である。加えて、燃料ガス、および酸化剤ガスは、セパレータ板に形成されたガス流路から、導電性炭素繊維基材を通過して触媒層に到達する。したがって、厚み方向の透気度が面方向の透気度の100倍未満である基材を使用すると、ガスが伏流を起こしやすく、触媒層にガスが到達しにくくなる。
本発明の導電性炭素繊維基材の好ましい厚みは、20μm以上、400μm以下である。厚みが薄すぎると、基材の強度が低下し、ハンドリング性が悪くなる。厚さが400μmより大きくなると、ガス拡散性が低下し、抵抗値も増加する。厚さは、20μm以上、400μm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の導電性炭素繊維基材の好ましい繊維密度は、400kg/m3以上、500kg/m3以下である。繊維密度が400kg/m3未満であると、導電性炭素繊維基材中に隙間が増え、抵抗値が増加する。また、導電性粒子を有する被覆層を基材に塗布した場合、インクが基材中にしみ込みやすくなり、ガス拡散性が低下する。繊維密度が500kg/m3を超えると、目が詰まりすぎているため、基材単体のガス拡散性、特に厚み方向のガス拡散性が悪くなり、電池性能を低下させる。加えて、基材材料の使用量が増えるので、コストが高くなる。
【0021】
本発明の導電性炭素繊維基材は、その厚み方向に電池締結圧の2倍以上、10倍以下の圧力でプレスすることで、繊維の毛羽立ちを抑制し、体積密度を大きく、基材の厚みを薄くすることが可能である。また、プレスにより、基材表面が平坦化されることで、被覆層塗布後のガス拡散層表面も平坦になりやすく、触媒層とガス拡散層が密着しやすくなり、導電性が向上し、界面での水たまり抑制の効果が期待できる。加えて長期の寿命試験において、プレスにより基材の剛性が増して、クリープしにくくなり、基材の反発弾性力が維持されて、セパレータ板および触媒層との接触抵抗の増加を防止する。また、対向するガス流路へのたれ込みが低減し、供給するガスの圧力損失の増加を防止でき、ブロアなどの電気効率の向上につながる。
プレスする方法としては、例えば、室温での油圧プレス、ホットプレス、ロールプレスなどが挙げられる。なお、過度なプレス圧をかけると、基材を構成する炭素繊維が粉砕され、繊維構造が破壊されることから、ガス拡散層としての機能が損なわれる。このため、過度なプレス圧は好ましくない。プレス時間としては生産性の観点、および上記繊維構造破壊防止の観点から、10秒以上、10時間以内が好ましい。
【0022】
本発明の導電性炭素繊維基材を構成する炭素質繊維としては、ポリアクリルニトリル系(PAN系)、セルロース系、ビスコースレーヨン系、ピッチ系、フェノール樹脂系、その他あらゆる炭素質繊維を使用することができる。なかでも、強度や導電性などから、ポリアクリルニトリル系が好ましい。
導電性炭素繊維基材を構成する単繊維の直径は、1μm以上100μm以下であることが好ましい。ハンドリング性、強度、コストなどを考えると、特に5μm以上、20μm以下であることが好ましい。
【0023】
本発明の導電性炭素繊維基材に導電性粒子を有する被覆層を備えることにより、高分子電解質型燃料電池に用いるガス拡散層として好適である。導電性粒子を有する被覆層としては、例えば、アセチレンブラック、水、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、および界面活性剤(TritonX−100)を15:80:4:1の重量比で混合して、カーボンインクを作製し、例えばドクターブレードを用いて、導電性炭素繊維基材上に塗布し、325℃で1時間焼成することにより作製できる。
本発明の導電性炭素繊維基材を用いて作製した高分子膜電極接合体(MEA)は、定置用や自動車用、モバイル用の高分子電解質型燃料電池に好適である。
【0024】
本発明が適用される燃料電池の代表的な構造を図1に示す。
MEA5は高分子電解質膜1、これを挟むカソード2およびアノード3、並びにこれら電極の周囲を囲むガスケット4からなる。このMEAと交互に積層されるセパレータ板は2種ある。その1つは、一方の面にカソード2へ酸化剤ガスを供給する流路12を有し、他方の面にアノードへ燃料ガスを供給する流路13を有する単一のセパレータ板10である。他の1つは、一方の面に酸化剤ガスの流路16を有し、他方の面に冷却水の流路18を有するセパレータ板10bと、一方の面に燃料ガスの流路15を有し、他方の面に冷却水の流路17を有するセパレータ板10aを組み合わせた複合セパレータ板である。
【0025】
本発明による電極20は、図2に示すように、高分子電解質膜1に接する触媒層21、およびその外側に設けられたガス拡散層22からなる。好ましいガス拡散層22は、導電性炭素繊維基材23およびその触媒層側に形成された導電性粒子を含む被覆層24からなる。
【0026】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
《実施例1》
単繊維の直径が8μmのPAN系の繊維50本を撚り合わせて単糸を作製した。この単糸を2本撚り合わせて双糸を作製した。これを糸番手▲1▼とする。この双糸を平織りで、経緯密度(基材の面上において、縦方向、および横方向に1インチ当たり何本双糸が走っているか、単位は本/インチ)が50本×44本の織布を得た。この織布の繊維の毛羽立ちを抑制するとともに表面をより平滑にするために、両側を四フッ化エチレン樹脂シートで挟み、さらにステンレス鋼板で挟み、室温において油圧プレス機により厚み方向に50kgf/cm2の圧力で30分間プレスした。これにより、厚みが250μmであった織布は、210μmまで圧縮された。
【0028】
この織布を窒素雰囲気中、900℃で加熱して炭化処理したのち、アルゴン雰囲気中2000℃に加熱して黒鉛化処理をした。得られた導電性炭素繊維基材の経緯密度は、60本×54本であった。この導電性炭素繊維基材を基材Aとする。
得られた基材の厚み方向および面方向の透気度を測定した。透気度の測定は、JIS L 1096の通気性試験方法B法(ガーレ形法)を参考に行った。装置は東洋精機(株)製のパーミヤグラフを用いた。透気度は、単位圧力を加えたとき、単位断面積あたりを単位時間に通過するガスの体積量で規定した。単位は、m3/m2・sec・Paである。
【0029】
厚み方向の透気度測定方法は、試験条件として大透過モードを使用し、測定速度は100%とした。あらかじめ約6cm角に切断した基材を、透過セル内の下部セル上に水平に配置し、上部セルをかぶせ、電池締結圧と同じ10kgf/cm2の圧力でしめつけた。上部及び下部セルと基材との間には、Oリングが挟まれていて、セルの隙間からガスが漏れることを防いでいる。透過セル上部は大気開放されている。同種のサンプルを各5枚ずつ用意し、5枚の平均値をもってそのサンプルの透気度を算出した。
面方向の透気度測定方法は、試験条件として標準モードを使用し、測定圧力は1kPaとした。あらかじめ約6cm角に切断した基材を、透過セル内の下部セル上に水平に配置し、基材より一回り大きいシリコンゴム(厚さ100μm)を基材の上に置いて、ガスが厚み方向に通過するのを阻止した。上部セルをかぶせ、電池締結圧と同じ10kgf/cm2の圧力でしめつけた。導電性粒子を有する被覆層を塗布後の導電性炭素繊維基材も、同様の方法で、面方向の透気度を測定した。
【0030】
上記の基材Aに導電性粒子を有する被覆層を形成して高分子電解質型燃料電池用のガス拡散層を作製した。このガス拡散層を用い、以下の手順で単電池を作製し、電池運転試験を行い、初期特性および寿命特性を調べた。
アセチレンブラック系カーボン粉末に、平均粒径約30Åの白金粒子を25重量%担持させた。この触媒粉末のイソプロパノール分散液に、パーフルオロカーボンスルホン酸粉末のエチルアルコール分散液を混合してペースト状にした。このペーストを原料とし、スクリーン印刷法を用いて、高分子電解質膜(ジャパンゴアテックス(株)製、ゴアセレクト膜 膜厚30μm)の両面に塗布し、電極触媒層を形成した。得られた触媒層中に含まれる白金量は0.5mg/cm2、パーフルオロカーボンスルホン酸の量は1.2mg/cm2とした。
【0031】
上記触媒層を両面に塗布した高分子電解質膜の両面に、上記ガス拡散層の被覆層を備えた側が高分子電解質膜側となるように配置し、ホットプレスで接合して高分子電解質膜電極接合体(MEA)を作製した。MEAの電極周囲にはシリコーン製ガスケットを配置した。隣接するMEA同士を互いに電気的に直列に接続し、さらに電極に反応ガスを供給し、かつ反応により発生した水や余剰のガスを運び去るためのガス流路を形成した導電性セパレータ板を配置した。このようにして作製した単電池を10kgf/cm2の圧力で締結した。
【0032】
本実施例および以下の実施例、比較例における電池運転条件は、アノード側に水素を、カソード側に空気をそれぞれ供給し、フル加湿運転とした。すなわち、電池温度は70℃に保持し、加湿条件として、水素ガスは70℃の露点に、空気は70℃の露点に設定した。この単電池を、燃料利用率80%、空気利用率40%、電流密度0.2A/cm2で運転した。
初期特性において、特性が向上したかどうかの判断基準は、フル加湿運転(アノード側露点70℃、カソード側露点70℃、電池運転温度70℃)において、電流密度を0.2A/cm2とした場合に、電圧が750mV以上、望ましくは770mV以上、さらに望ましくは770mV以上であれば、性能が向上したと判断した。
寿命特性において、特性が向上したかどうかの判断基準は、フル加湿運転(アノード側露点70℃、カソード側露点70℃、電池運転温度70℃)において、電流密度を0.2mA/cm2とした場合に、10000時間後の電圧が、700mV以上、望ましくは720mV以上であれば、性能が向上したと判断した。
【0033】
基材Aの黒鉛化処理後の経緯密度、厚み方向の透気度と面方向の透気度の積、導電性粒子を含む被覆層を塗布する前後における面方向の透気度の比、および電池特性(初期および10000時間後の特性)を以下に説明する基材と共に表1に示す。
表1および後述の表2、3において、○印は初期電池特性が770mV以上である場合、寿命特性では10000時間後の電池電圧が720mV以上である場合を表す。△印は初期電池特性が750mV以上770mV未満である場合、寿命特性では10000時間後の電池電圧が700mV以上720mV未満である場合を表す。×印は初期電池特性が750mV未満である場合、寿命特性では10000時間後の電池電圧が700mV未満である場合を表す。
【0034】
基材Aと同じ糸番手▲1▼の双糸を用い、経緯密度が47本×41本となるように織布を作製し、基材Aと同じ方法でプレス処理、炭化処理、および黒鉛化処理を行った。黒鉛化処理後の経緯密度は、57×51本であった。この導電性炭素繊維基材を基材Bとする。
同様にして、糸番手▲1▼の双糸を用い、その経緯密度だけを変えて、基材C〜Gを作製した。基材B〜Gを基材Aと同様の方法で、透気度を測定した。また、単電池を作製して電池運転を行い、初期、および連続運転10000時間後の出力特性を調べた。これらの結果を、基材Aとともに、表1に示す。なお、いずれの基材においても、厚み方向の透気度は面方向の透気度の100倍以上であった。
【0035】
【表1】
【0036】
《実施例2》
単繊維の直径が10μmのPAN系の繊維60本を撚り合わせて単糸を作製し、これを2本撚り合わせて双糸を作製した。これを糸番手▲2▼とする。この双糸を平織りで、経緯密度が48本×40本の織布を得た。これを実施例1と同じく、室温で油圧プレス機により厚み方向に50kg/cm2の圧力で30分間プレスした。プレスにより厚みが300μmから260μmに圧縮された。
この織布を窒素雰囲気中、900℃で加熱して炭化処理したのち、アルゴン雰囲気中で2000℃に加熱して黒鉛化処理をした。得られた導電性炭素繊維基材の経緯密度は、58本×50本であった。この導電性炭素繊維基材を基材Hとする。
【0037】
基材Hと同じ糸番手▲2▼の双糸を用い、経緯密度が45本×37本の織布を作製し、基材Hと同じ方法でプレス処理、炭化処理、黒鉛化処理を行った。黒鉛化処理後の経緯密度は、55本×47本であった。この導電性炭素繊維基材を基材Iとする。同様にして、糸番手▲2▼の双糸を用い、その経緯密度だけを変えて、基材J〜Oを作製した。
上記の基材H〜Oの透気度を実施例1と同様の方法で測定した。また、これらの基材に実施例1と同様に被覆層を形成したガス拡散層を用いて単電池を作製して電池運転を行い、初期および長期の出力特性を調べた。これらの結果を表2に示す。なお、いずれの基材においても、厚み方向の透気度は面方向の透気度の100倍以上であった。
【0038】
【表2】
【0039】
《実施例3》
単繊維の直径が20μmのPAN系の繊維80本を撚り合わせて単糸を作製し、これを2本撚り合わせて双糸を作製した。これを糸番手▲3▼とする。この双糸を平織りで、経緯密度が46本×38本の織布を得た。これを実施例1と同じく、室温で油圧プレス機により厚み方向に50kg/cm2の圧力で30分間プレスした。プレスにより厚みは360μmから310μmに圧縮した。
この織布を窒素雰囲気中、900℃で加熱して炭化処理したのち、アルゴン雰囲気中で2000℃に加熱して黒鉛化処理をした。得られた導電性炭素繊維基材の経緯密度は、56本×48本であった。この導電性炭素繊維基材を基材Pとする。
【0040】
基材Pと同じ糸番手▲2▼の双糸を用い、経緯密度が43本×36本の織布を作製し、基材Pと同じ方法でプレス処理、炭化処理、および黒鉛化処理を行った。黒鉛化処理後の経緯密度は、53本×46本であった。この導電性炭素繊維基材を基材Qとする。同様にして、糸番手▲2▼の双糸を用い、その経緯密度だけを変えて、基材R〜Vを作製した。
【0041】
これら基材P〜Vの透気度を、実施例1と同様の方法で測定した。また、これらの基材に実施例1と同様に被覆層を形成したガス拡散層を用いて単電池を作製して電池運転を行い、初期および長期の出力特性を調べた。これらの結果を表3に示す。なお、いずれの基材においても、厚み方向の透気度は面方向の透気度の100倍以上であった。
【0042】
【表3】
【0043】
《実施例4》
基材の撥水処理の影響を検討した。テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体の水性ディスパージョン(ダイキン工業(株)製ND−1)と水を、前記共重合体と水の体積比が1:20となるように混合して撥水処理液を作製した。実施例1で作製した基材Aを、この撥水処理液中に、室温において、大気中で1分間浸漬させた。撥水処理液から取り出した基材Aを270℃で2時間焼成を行い、水分および界面活性剤などを取り除いた。同様の方法で基材Bから基材Vについても撥水処理を行った。
撥水処理後の基材に、導電性粒子を有する被覆層を設けてガス拡散層を作製した。これらのガス拡散層を用いて電池を作製し、初期および長期の出力特性を調べたところ、撥水処理を施した方が長期の出力特性において若干性能が向上した。
【0044】
《比較例1》
糸番手▲1▼の双糸を用い、油圧プレス機によるプレスを行わなかった以外は、実施例1と全く同じ方法で、経緯密度が異なる数種類の導電性炭素繊維基材を作製した。得られた基材に実施例1と同様に被覆層を形成したガス拡散層を用いて電池を作製し、実施例1と同じ条件で、初期および長期の出力特性を調べたところ、初期特性で770mV以上、かつ10000時間後の電圧が720mV以上を維持する単電池は全く無かった。
【0045】
《比較例2》
糸番手▲2▼の双糸を用い、油圧プレス機によるプレスを行わなかった以外は、実施例2と全く同じ方法で、経緯密度が異なる数種類の導電性炭素繊維基材を作製した。
得られた基材に被覆層を形成したガス拡散電極を用いて実施例1と同様の電池を作製した。それらの電池について、実施例1と同じ条件で、初期、および長期の出力特性を調べたところ、初期特性で770mV以上、かつ10000時間後の電圧が720mV以上を維持する単電池は全く無かった。
【0046】
《比較例3》
糸番手▲3▼の双糸を用い、油圧プレス機によるプレスを行わなかった以外は、実施例3と全く同じ方法で、経緯密度が異なる数種類の導電性炭素繊維基材を作製した。
得られた基材に被覆層を形成したガス拡散電極を用いて実施例1と同様の電池を作製した。それらの電池について、実施例1と同じ条件で、初期、および長期の出力特性を調べたところ、初期特性で770mV以上、かつ10000時間後の電圧が720mV以上を維持する単電池は全く無かった。
【0047】
《比較例4》
糸番手▲3▼より太い、糸番手▲4▼の双糸を作製し、実施1と全く同じ方法で、経緯密度が異なる数種類の導電性炭素繊維基材を作製した。
得られた基材に被覆層を形成したガス拡散電極を用いて実施例1と同様の電池を作製した。それらの電池について、実施例1と同じ条件で、初期、および長期の出力特性を調べたところ、初期特性で770mV以上、かつ10000時間後の電圧が720mV以上を維持する単電池は全く無かった。
【0048】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、初期特性および長時間の連続運転において、フラッディングを起こさず、高い出力特性、安定性、信頼性を発揮する高分子電解質型燃料電池を与える高分子膜電極接合体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的な高分子電解質型燃料電池の一部を切り欠いた断面図である。
【図2】本発明によるMEAの要部断面図である。
【符号の説明】
1 高分子電解質膜
2、3、20 電極
21 触媒層
22 ガス拡散層
23 基材
24 被覆層
Claims (6)
- 水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜、前記高分子電解質膜の両側に配置された触媒層、および前記各触媒層に接するガス拡散層からなる高分子膜電極接合体であって、前記ガス拡散層が、炭素質繊維を主たる構成材料とする多孔質のシートからなる基材を具備し、前記基材の面方向の透気度と厚み方向の透気度の積が1.0×10−8m6/m4・sec2・Pa2以上であることを特徴とする高分子膜電極接合体。
- 前記ガス拡散層が、前記基材の触媒層側に導電性粒子を含む被覆層を具備し、前記基材単独の面方向の透気度と前記ガス拡散層の面方向の透気度との比が0.8以上である請求項1記載の高分子膜電極接合体。
- 前記基材単独の面方向の透気度と前記ガス拡散層の面方向の透気度との比が0.86以上である請求項2記載の高分子膜電極接合体。
- 前記基材の厚みが20μm〜400μmである請求項1ないし3のいずれかに記載の高分子膜電極接合体。
- 前記基材の繊維密度が400kg/m3〜500kg/m3である請求項1ないし4のいずれかに記載の高分子膜電極接合体。
- 請求項1ないし7のいずれかに記載の高分子膜電極接合体とこれを挟む一対のセパレータ板からなる単電池、および前記単電池を締結する締結手段を具備し、前記基材があらかじめその厚み方向に前記締結手段による電池締結圧の2倍〜10倍の圧力でプレス処理されている高分子電解質型燃料電池。
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