空気入りタイヤの製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関する。
さらに詳しくは、榭脂成分を含む組成物で作成されたシート状部材を、空気入りタイ ャを構成する一部の材料に用いて空気入りタイヤの製造を行うに際して、特に、軽量 化や耐久性の点で優れた性能を発揮する空気入りタイヤを製造することを可能にす る、新規な空気入りタイヤの製造方法に関するものである。
[0002] 本発明の空気入りタイヤの製造方法は、例えば、該榭脂成分を含む組成物で作成 されたシート状部材をインナーライナ一に使用する場合などに、該インナーライナ一 に貼り合わされるゴムシート材のスプライス部付近にエア溜まりを発生させな 、ように することができるものであり、そのことによって、上記のような高性能の空気入りタイヤ を製造することを実現するものである。
[0003] 以下に、榭脂成分を含む組成物で作成されたシート状部材を、特に、インナーラィ ナ一に使用して空気入りタイヤを製造する場合を例にとり、本発明を説明する。ただ し、本発明は、この場合の例にだけ限られないものである。
背景技術
[0004] チューブレス構造力 なる空気入りタイヤは、その製造に当たり、代表的には、タイ ャ内壁面に非通気性のインナーライナ一を内貼りし、このインナーライナ一により充 填空気圧を保持するようにして ヽるものである。
[0005] このインナーライナ一は、従来、一般に、隣接する層との接着性が良いという観点 力もゴム材により形成されて 、た。
[0006] すなわち、インナーライナ一に隣接する層も、通常はゴム材カも形成されてなるもの であり、ゴム一ゴムどうしとしたときの接着性も比較的良いことから、インナーライナ一 の構成材料もゴム材カゝら形成されていたのである。中でも、特に、ブチル系ゴムが非 通気性に優れていることから、インナーライナ一の形成材料として多く提案され、使用 されてきている。
[0007] し力し、このブチル系ゴムは、比重が大き!/、ためタイヤ重量の軽量化のためには不 都合な点にもなつていた。
[0008] 近年、このようなブチル系ゴムを用いたインナーライナ一がもつ不都合点を解消し、 できるだけタイヤを軽量ィ匕するため、インナーライナ一の材料として、熱可塑性榭脂 にゴム成分を配合した熱可塑性榭脂組成物を使用すると ヽぅ提案がなされて ヽる (特 許文献 1など)。
[0009] しかし、一般に、榭脂成分を含んで形成された部材は、その榭脂成分の存在が、ゴ ム製の他部材との接着性を低下させる場合がある。このため、前述した提案のよう〖こ 、熱可塑性榭脂にゴム成分を配合した熱可塑性榭脂組成物をインナーライナ一に使 用するという場合、該インナーライナ一は、その隣接層となる他ゴムシート材との接着 性が良好でない場合があった。
[0010] このことは、実際の空気入りタイヤの製造プロセスにお 、て、該インナーライナ一と、 周方向端部どうしを重ね合わせスプライスしたゴムシート材とを、成形ドラム上でステ ツチローラで押圧しながら貼り合わせを行った際に、該スプライス部に形成された段 差部分において、該段差形態にそった完全な貼り合わせ接着ができずに、該インナ 一ライナーがゴムシート材力 浮き上がってエア溜まりを発生しやすいという問題を招 くものであった。
[0011] この貼り合わせ時に発生したエア溜まりは、その後のタイヤ製造工程で未加硫タイ ャが加硫されたときに、熱膨張により更にエア溜まりを拡大するため、そのままで製造 されたタイヤが走行を行うと、該拡大エア溜まりの箇所でインナーライナ一が破れを 発生することがあり、タイヤの耐久性が低下すると 、う問題がある。
[0012] したがって、エア溜まりを有する空気入りタイヤは、製品タイヤとしては上巿がされな いものである。
特許文献 1:特開 2002— 80644号公報
発明の開示
[0013] 本発明の目的は、榭脂成分を含む組成物で作成されたシート状物 (A)をインナー ライナーに使用する場合においても、このインナーライナ一に貼り合わされるシート状 部材 (B)のスプライス部付近にエア溜まりを発生させな 、ようにすることができる新規
な空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
[0014] 本発明の空気入りタイヤの製造方法は、上述した課題を達成するため、以下の(1) の構成を有するものである。
(1)榭脂成分を含む組成物で作成されたシート状部材 (A)と、周方向両端部を互い に重ね合わせスプライスしたゴム組成物で作成されたシート状部材 (B)とを成形ドラ ム上で押圧しながら貼り合わせる工程を含む空気入りタイヤの製造方法において、 前記シート状部材 (B)として、該シート状部材 (B)の周方向両端部の切断線力 該シ ート状部材 (B)の幅方向の中間部に頂点を有するとともに、該頂点からそれぞれ該 幅方向の左右両エッジ部に向力うに従って前記成形ドラムの反回転方向へ変位して 形成されてなるものを用いることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
[0015] また、力かる本発明の空気入りタイヤの製造方法において、具体的に、より好ましく は、下記の(2)〜(8)の 、ずれかに記載の構成を有するものである。
(2)榭脂成分を含む組成物が、ゴム成分を含む熱可塑性榭脂組成物であることを特 徴とする上記(1)に記載の空気入りタイヤの製造方法。
(3)シート状部材 (A)が、タイヤインナーライナ一を構成するものであることを特徴と する上記(1)または(2)に記載の空気入りタイヤの製造方法。
(4)前記シート状部材 (B)が、前記タイヤインナーライナ一とカーカス層との間に介在 するタイゴムであることを特徴とする上記(3)に記載の空気入りタイヤの製造方法。
(5)前記切断線が、前記成形ドラムの周方向に対してなす平均角度として 20° 〜80 ° の範囲のものであることを特徴とする上記(1)、 (2)、 (3)または (4)に記載の空気 入りタイヤの製造方法。
(6)前記シート状部材 (B)が、前記インナーライナ一の内側に非通気層として積層さ れるものであり、かつブチル系ゴム力 なるものであることを特徴とする上記(3)、 (4) または(5)に記載の空気入りタイヤの製造方法。
(7)前記インナーライナ一が、周方向にスプライスレスのチューブ状に形成されてい るものであることを特徴とする上記(3)〜(6)の 、ずれかに記載の空気入りタイヤの 製造方法。
(8)成形ドラム上で押圧により貼り合わせる工程を、ステッチローラを用いて行うことを
特徴とする上記(1)〜(7)の 、ずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
図面の簡単な説明
[0016] [図 1]図 1 (A)〜(D)は、本発明の空気入りタイヤの製造方法の 1実施態様例として、 シート状部材 (A)をインナーライナ一として用い、シート状部材 (B)をタイゴムとして 用いた場合のそれらの貼合わせ工程に本発明の方法を採用した場合における、該 貼合わせ工程を、工程順に説明するプロセス説明図である。
[図 2]図 2は、図 1に説明した本発明の空気入りタイヤの製造方法の実施態様例にお いて、シート状部材 (B)を、成形ドラムに巻き付けて重ね合わせスプライスした後にお ける成形ドラム上での該スプライス部付近の状態を表した概略モデル正面図である。
[図 3]図 3は、図 2に示した成形ドラム上でのスプライス部付近の状態を表した概略モ デル正面図における X—X矢視断面図である。
[図 4]図 4は、本発明の空気入りタイヤの製造方法の 1実施態様例として、シート状部 材 (A)をインナーライナ一として用い、シート状部材 (B)をタイゴムとして用いた場合 の他の実施形態を示すものであり、図 2に対応する成形ドラム上でのスプライス部付 近の状態を表した概略モデル正面図である。
[図 5]図 5は、本発明の空気入りタイヤの製造方法の 1実施態様例として、シート状部 材 (A)をインナーライナ一として用い、シート状部材 (B)をタイゴムとして用いた場合 の、更に他の実施形態を示すものであり、図 2に対応する成形ドラム上でのスプライス 部付近の状態を表した概略モデル正面図である。
符号の説明
[0017] 1:榭脂成分を含む組成物で作成されたシート状部材 (A) (インナーライナ一)
2 :シート状部材 (B) (タイゴム)
3 :成形ドラム
4 :ステッチローラ
2a, 2b ; 2a' 、21/ :シート状部材 (B)の周方向両端部の切断線
2c、 2c' :シート状部材 (B)の周方向両端部の切断線の頂点
2e :エッジ部
S :スプライス咅
[0018] 本発明によれば、シート状部材 (B)の周方向両端部における切断線を、該シート状 部材 (B)の幅方向の中間部にある頂点からそれぞれ左右両エッジ部に向かうに従つ て成形ドラムの反回転方向へ変位するように形成したので、榭脂成分を含む組成物 で作成されたインナーライナ一などのシート状部材 (A)と、タイゴムなどの該シート状 部材 (B)とを成形ドラム上で、例えば、ステッチローラなどを用いて、押圧しながら貼り 合わせるときに、シート状部材 (B)のスプライス部に対するステッチローラの押圧点が 、切断線の頂点を起点として順次に両外側エッジ部に向けて移動することになる。こ の押圧点の移動作用によって、スプライス部の段差部におけるエアを頂点からエッジ 部に向けて順次に追 、出すことができ、スプライス部付近にエア溜まりを残さな 、よう にすることができる。
[0019] その結果、エア溜まりのない空気入りタイヤを製造することを可能にするものであり、 軽量化と耐久性という点で両立した優れた空気入りタイヤを製造することができるよう になる。
発明を実施するための最良の形態
[0020] 以下、本発明の空気入りタイヤの製造方法について、図面に示した実施例などを 参照しながら説明をする。
[0021] 図 1 (A)〜 (D)は、本発明の空気入りタイヤの製造方法の 1実施態様例として、シ ート状部材 (A)をインナーライナ一として用い、シート状部材 (B)をタイゴムとして用 いた場合で、それらの貼合わせ工程に本発明の方法を採用した場合における、該貼 合わせ工程を、工程順に説明するプロセス説明図である。通常、この工程は、未カロ 硫タイヤの一次成形ドラム上で実施される。
[0022] 図 1において、 1は、榭脂成分を含む組成物で作成されたシート状部材 (A)の 1例 として、空気入りタイヤ内壁の非通気層になるインナーライナ一であり、ゴム成分を含 む熱可塑性榭脂組成物からチューブ状フィルムとして成形されているものである。
[0023] 2は、シート状部材 (B)の 1例として、インナーライナ一 1とカーカス材との間に挿入 されるタイゴムである。
[0024] また、成形ドラム 3と表層が弾性ゴムで構成されたステッチローラ 4が成形装置として 設けられている。
[0025] この例において、上述のインナーライナ一 1とシート状部材 2の貼り合わせ工程は、 成形ドラム 3とステッチローラ 4を使用して次のように実施する。
[0026] まず、図 1 (A)に示すように、インナーライナ一 1を成形ドラム 3の外側に矢印で示す ように差し込み、図 1 (B)に示すように、成形ドラム 3の外周にインナーライナ一 1が被 覆された状態にする。
[0027] 次 、で、図 1 (C)に示すように、図示して ヽな 、シート状部材 (タイゴム) Bのストック 力もシート状部材 (タイゴム) 2を引き出し、一定長さに切断して、インナーライナ一 1が 被覆された成形ドラム 3上に巻き付ける。
[0028] 一定長さに切断されたシート状部材 (タイゴム) 2の周方向両端部は、それぞれ該シ 一ト状部材の幅方向の中間部に頂点 2c、 2c' を有し、その頂点 2c、 2c' から左右 両側のエッジ部 2e、 2eに切断線 2a、 2b ; 2a^ 、21/ が延びるようにする。この切断 線 2a、 2b ; 2a' 、 2b' は、いずれも頂点 2c、 2c' 力もそれぞれ左右両側のエッジ部 に向かうに従って、成形ドラム 3の反回転方向に変位するように形成されて!、るもので ある。
[0029] 該切断線の変位によって、巻き付き方向の前端側の切断線 2a、 2bは凸形状をなし 、巻き付き方向の後端側の切断線 2 、 21/ は凹形状をなしている。
[0030] 周方向両端部にそれぞれ切断線 2a、 2b ; 2 、21/ を形成したシート状部材 2は 、周方向両端部たるその切断端部同士を図 1 (C)のように重ね合わせていきスプライ スする。図 2は、このようにシート状部材 2が重ね合わせスプライスされて、スプライス 部 Sを形成した成形ドラムの正面図であり、そのスプライス部 Sは図 3に示すように段 差を形成し、その段差部にエア溜まり Aが形成されて 、る。
[0031] 上記のようにシート状部材 2が重ね合わせスプライスされた後、図 1 (D)に示すよう に、成形ドラム 3を矢印方向に回転させながらステッチローラ 4で押圧すると、インナ 一ライナー 1とシート状部材 B (タイゴム) 2が密着するように貼り合わされる。
[0032] 図 1 (D)におけるステッチローラ 4の貼り合わせ操作において、スプライス部 Sは、ま ず、最初にステッチローラ 4により頂点 2c、 2c' を押圧された後、破線矢印で示すよ うに切断線 2a、 2b ; 2a' 、21/ に沿って左右両側のエッジ部 2e、 2eに進むように押 圧されていく。したがって、スプライス部 Sの段差部におけるエア溜まり Aは、順次押し
潰されながら、切断線 2a、 2b ; 2a' 、 2b' に沿ってエッジ部 2e、 2e側へ移動し、最 後に外側へ排出されるので、スプライス部 Sの付近にエア溜まりが残存しない成形を 行うことができるのである。
[0033] 本発明にお ヽて、榭脂成分を含む組成物で作成されたシート状部材 (A)であるィ ンナーライナ一に貼り合わされるシート状部材 (B)としては、タイゴムに限定されるも のではなぐシート状部材 (A)に隣接するようにして積層されるものであれば、他のも のでも採用することができる。例えば、インナーライナ一に対して、カーカス層を直接 貼り合わせる場合のゴム引きの該カーカス材などが該当するものである。あるいはま た、非通気層として、熱可塑性榭脂組成物からなるインナーライナ一に従来のブチル 系ゴムシート状部材を内側に貼り合わせて併用する場合の該ブチル系ゴム製のシー ト状部材であってもよい。
[0034] 本発明にお 、て、シート状部材 (B)の切断線における頂点の位置は、シート状部 材の幅方向の中心部に位置するものである必要はなく、幅方向中心から左右!/、ずれ か一方に変位して 、てもよ 、。
[0035] また、切断線は、直線状である必要はなぐ頂点力もエッジ部に向かうに従って成 形ドラムの反回転方向へ変位する軌跡をとるものであればよぐ曲線であっても、ある いは屈曲線であってもよい。また、図 4や図 5に例示したように、直線、曲線、屈曲線 の少なくとも 2種以上が組み合わされた切断線であってもよい。いずれの場合も、成 形ドラムを回転させながらステッチローラで押圧すると、エア溜まりのエアをエッジ部 の外側へ排気することができる力もである。
[0036] 本発明において、シート状部材 (B)の周方向端部の切断線が、成形ドラムの周方 向 Eに対してなす角度は、頂点から両側のエッジ部に延びる 2本の切断線がそれぞ れ成形ドラムの周方向 Eに対してなす平均角度 θ、 θ ' として定義するとき、左右の 平均角度 θ、 θ ' は互いに同一であってもよぐあるいは、異なっていてもよい。
[0037] 平均角度 0、 θ ' の大きさは 20° 〜80° の範囲が好ましぐさらに好ましくは 30 ° 〜75° の範囲である。平均角度が 20° よりも小さいと、頂点力もエッジ部まで延 びる切断線が非常に長くなり、その結果として、エアが抜ける際の流動抵抗が増大す るためエア抜き効果が低下する場合があるので注意を要する。また、平均角度が 80
° よりも大きいと、従来の切断角度 90° に近い状態になるため、エア抜き効果が低 下する場合があるので注意を要する。
[0038] ここで、切断線の平均角度 0、 0 ' とは、頂点 2c (2 )と切断線が両エッジ部 2e
、 2eに交差する交点 B、 Cとの間を結んだ直線が、成形ドラムの周方向 Eに対してな す角度として定義される。
[0039] なお、シート状部材 (B)の周方向両端部の切断線を、シート状部材 (B)の幅方向の 一方のエッジ部力も他方のエッジ部に向けて単に変位するだけにしても、ステッチ口 一ラのスプライス部に対する押圧点が一方のエッジ部力 他方のエッジ部に移動す ることになるので、段差部のエアを一方のエッジ部力 他方のエッジ部に向けて、一 応、追い出すことができる。しかし、この場合は、本発明のようにシート状部材 (B)の 幅方向中間部の頂点力 エア通路をニ路に分けてエアの移動をさせる場合に比べ て、エア通路が約 2倍以上に長くなるため、それだけ流動抵抗が増大してエア抜き効 果が低下するため好ましくな 、。
[0040] 本発明においては、シート状部材 (A)として用いられる前述したインナーライナ一 は、図 1の (A)に例示したような、周方向にスプライス部が形成されないチューブ状に 形成されているものを用いることが、本発明の前述した効果を良好に発揮できる点で 最も効果的なものである。