本発明は、単繊維繊度が小さいポリアミド56フィラメントに関する。そして常態での強度が高いだけでなく、沸水処理後においては高強度でありながら、低弾性率で柔軟性に優れる特徴を有しており、耐熱性、耐久性に優れるポリアミド56フィラメントに関するものである。さらに該フィラメントを含有する繊維構造体、ならびにエアバッグ用基布、該フィラメントを製造するのに好適な樹脂ペレットに関するものである。
自動車の乗員保護用安全装置として、エアバッグ装着が急速に普及している。従来から用いられている運転席用、助手席用のエアバッグ装置に加え、最近ではサイドエアバッグ装置、ニーエアバッグ装置、カーテンエアバッグ装置なども開発・搭載されている。
エアバッグは通常袋状に縫製されており、ステアリングホイール等の自動車部品内部に折り畳まれて収納されている。そして自動車に衝撃が加わった際に、そのショックをセンサーが感知し、インフレーターから爆発的に高温ガスが発生することで該エアバッグが瞬時に膨張展開され、衝突による乗員の移動を阻止し、乗員の安全を確保する役割を果たすものである。
よって、エアバッグに用いられる基布(以下、単にエアバッグ用基布と称することがある)の要求特性としては、低通気度(バッグを瞬間的に膨張させるために基布の通気性が小さいことが要求される)、高強度(瞬間的な膨張に耐えられるよう基布の引張強度、引裂き強度、破裂強度等が高いことが要求される)、衝撃吸収能(膨張したエアバッグが乗員に当った際に乗員が傷つかないために高いエネルギー吸収能が要求される)、耐熱性(インフレーターから発生する高温ガスに耐えることが要求される)、耐久性(砂漠地帯などの高温多湿な環境下においても強度など特性が低下しない耐久性が要求される)、柔軟性(エアバッグは通常ステアリングホイールやインストルメントパネルなどの狭い場所に収納されるため、収納容積を小さくするため基布の柔軟性が要求される)であり、これらのすべてが満足される点で、ポリアミド66フィラメントからなる高密度織物が用いられている。
そして該高密度織物をそのまま用いたノンコート基布や、該織物にシリコーン樹脂等のエラストマーを塗布したコート基布が知られているが、前者は後者と比べて通気度の点では不利であるが、基布の柔軟性が高く収納性に優れる特徴を有する。一方で後者は前者に対して収納性には劣るが、低通気度であるため展開速度を高め易いメリットがある。このため適用する部位に応じてこれらの基布が選択されて使用されている。
特に最近ではエアバッグ装置をより多くの部位に設置するようになってきており、より狭いスペースに装置しうる収納性が要求される傾向にある。よって、従来よりもさらに柔軟性が高い基布が求められている。またインフレーターの高性能化が進むにつれ、エアバッグの展開速度が飛躍的に向上した反面、膨張したエアバッグに乗員が当った際に、過度な衝撃力や、摩擦力を受けるのを防ぐべく、従来以上に高いエネルギー吸収能を有するエアバッグ基布が要求されるようになった。
例えば特許文献1において、総繊度が特定の範囲にある合成フィラメントで構成され、経緯の織物組織が対称であり、熱収縮されてなる未塗布織物が開示されている。具体例として高強度ポリアミド66フィラメントからなる織物が開示されており、フィラメントの総繊度を特定の範囲とし、対称性の高い織組織とした効果により、薄地でありながら強度も高い織物を形成できる。しかしながら高強度ポリアミド66フィラメントは熱収縮せしめた後であっても弾性率が高いため、基布を構成する繊維の曲げ剛性が高く、基布の柔軟性の点で、十分ではない。また織物を熱収縮せしめた際の繊維の収縮力で糸同士が過度に拘束されることも基布が硬くなる原因となり、基布の柔軟性が不十分であると、収納性はもちろん、エアバッグの衝撃吸収能も悪化し、酷い場合には展開時の衝撃で乗員が怪我をしてしまう場合があった。
このためエアバッグ用基布の柔軟性、衝撃吸収能を高める手段としてポリアミド66フィラメントの単繊維繊度を極限まで小さくし、フィラメントの見掛けの曲げ剛性を下げる試みがなされているが、単繊維繊度が小さいフィラメントは製糸工程(紡糸、延伸工程)や製織工程で毛羽が発生し易く、毛羽がエアバッグの欠点となってしまうため、操業性や収率が大きな課題となっている。
一方、高強度かつ低弾性率であるマルチフィラメントを用いて構成したエアバッグ用基布が開示されている(特許文献2参照)。特許文献2において、具体例としてポリブチレンテレフタレートからなる低弾性率のフィラメントを用いることで、ポリアミド66フィラメントからなる場合と比べて、柔軟性が高いエアバッグ用基布を構成できることが提案されている。しかしながらポリブチレンテレフタレート等のポリエステルは融点が低いため、インフレーターの高温ガスによって基布に穴あきが生じる場合があった。また穴あきは生じなくとも、高性能インフレーターでの高速展開で基布が破裂してしまう場合があった。これは上記ポリエステル系ポリマーではポリアミド66よりも相対的に強度が低いこと、さらには耐衝撃性、すなわち高速変形に対する追随性が低いポリマーであることが原因であった。
このように、ポリブチレンテレフタレート等の低弾性率ポリエステルフィラメントにより基布を柔軟化することは可能であるが、耐熱性や破裂強度といった特性を含めた総合的観点から、エアバッグ用基布としては実用化されていない。これまで、合成繊維の強度と弾性率との関係はポリマーの分子構造的な特徴によって概ね決まってしまうため、ポリアミド66フィラメントでは特許文献2のごとく低弾性率化することは技術的に困難であった。もちろんポリアミド66に他のモノマーを共重合せしめるなどの改質手段も考えられるが、この手段では繊維の融点が低下してしまうため、エアバッグ用基布の耐熱性を満足できないという問題が生じてしまう。
すなわち、従来のポリアミド66フィラメントからなるエアバッグ用基布においては基布の柔軟性や衝撃吸収能の点で十分に満足できるものではない。
ところで、最近、地球的規模での環境に対する意識向上に伴い、非石油由来の繊維素材の開発が切望されている。従来のポリアミド等の合成繊維は石油資源を主原料としていることから、石油資源が将来枯渇すること、また石油資源の大量消費により生じる地球温暖化が大きな問題として採り上げられている。
二酸化炭素を大気中から取り込み成長する植物資源を原料とすることで、二酸化炭素の循環により地球温暖化の抑制が期待できるとともに、資源枯渇の問題も解決できる可能性がある。よって近年では、植物資源を出発点とするプラスチック、すなわちバイオマス由来のプラスチック(以下、バイオマスプラと記載)に注目が集まっている。
バイオマスプラの代表的なものとして、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルが挙げられ、研究・開発が本格化しているが、強度、耐熱性、耐摩耗性、耐加水分解性などの諸特性が、ポリアミド繊維と比べて低いため、エアバッグ用基布のような安全性に対する要求特性のレベルが高い用途への適用はできないものであった。
新規なバイオマスプラとして、バイオマス利用により製造した1,5−ペンタメチレンジアミンと、アジピン酸とを加熱重合して得られるポリペンタメチレンアジパミド(ポリアミド56)が開示されている(特許文献3、特許文献4参照)。従来から加熱重合で製造されたポリアミド56(非特許文献1)が知られていたが、加熱重合で得られたポリアミド56は、界面重合法で製造されたポリアミド56(非特許文献2、3)と比べて融点が低く、耐熱性に劣るものしか報告されていなかった。一方で界面重合法は、工程が複雑であり、工業的な製造プロセスとして実現することは困難である。そこで特許文献3の如く、リジン脱炭酸酵素を用いた酵素反応等で得られた高純度の1,5−ペンタメチレンジアミンを用いることや、特許文献4の如く特定の重合方法を採用するなどの工夫により、加熱重合法により初めて融点が高く、実用的な重合度を有するポリアミド56樹脂を製造することに成功している。該ポリアミド56樹脂は優れた溶融貯留安定性に加え、紡糸、延伸性も良好であることから、繊維材料としても好適であり、該ポリアミド56樹脂を用い、溶融紡糸、延伸して得たポリアミド56フィラメントは、力学特性、耐熱性などに優れたものである。しかしながら、エアバッグ用基布に用いられるフィラメントに要求されるような、総繊度および単繊維繊度が小さいフィラメントを構成した場合、繊維の強度の点で課題が残されていた。
また、ポリアミド56からなるフィラメントについては透明性に優れ、高強度であるフィラメントが得られる(特許文献5)ことから、具体例として釣り糸等に好適な太繊度のモノフィラメントを製造しうることが開示されている。しかしながら、エアバッグ用基布に求められる総繊度および単繊維繊度が小さいフィラメントを製造しようとすると、紡糸工程や延伸工程で糸切れが頻発し、得られる繊維は毛羽が多く、強度が低いものとなり易かった。また得られた繊維は沸水処理などの熱処理によって収縮し易く、収縮後においてはさらに強度が低下してしまうものであった。
よって、織物を製織しても毛羽が欠点となってしまい通気度の高いものとなり易く、また製織直後の基布の強度が低く、さらに精錬、ファイナルセットにおける熱履歴により強度はさらに低下してしまうため、通気度、力学特性の点でエアバッグ用基布としての要求特性を満足するものは得られていなかった。
特許第2950954号(特許請求の範囲)
特許第3180524号(特許請求の範囲)
特開2003−292612号公報(特許請求の範囲、[0045])
特開2004−075932号公報(特許請求の範囲、[0034])
特開2006−144163号公報(特許請求の範囲)
J.Polym.Sci.2,306(1947)
J.Polym.Sci.50,87(1961)
Macromolecules,30,8540(1998)
本発明の課題は、従来のポリアミド66フィラメントからなるエアバッグ用基布に勝る柔軟性、衝撃吸収能を有し、かつ低通気度、高強度、耐熱性、耐久性にもバランス良く優れたエアバッグ用基布を形成しうるポリアミド56フィラメント、および該フィラメントを含有する繊維構造体、ならびにエアバッグ用基布を提供することである。
本発明者らが細繊度のポリアミド56フィラメントにおける、毛羽の抑制、力学特性や熱収縮特性の改善について鋭意検討した結果、硫酸相対粘度が高く、かつ分子量分布(Mw/Mn)が小さいポリアミド56フィラメントを形成することで、これらの相乗効果によって製糸工程におけるポリアミド56分子鎖の配向度、結晶化度が十分に高まり、細繊度でありながら毛羽が少なく、力学特性や、熱収縮特性に優れたポリアミド56フィラメントを製造することに成功した。
そして本発明者らがさらに詳細に検討した結果、驚くべきことに、ポリアミド56を含有するフィラメントは沸水処理などの湿熱処理で熱収縮せしめることで、弾性率を飛躍的に低減させたフィラメントにすることを可能にした。そしてフィラメントの熱収縮特性を特定の範囲とすることで、収縮処理後でも高強度でありながら、低弾性率であるフィラメントとなることを見出した。そのため該ポリアミド56フィラメントを用いてなる織物を、精錬やファイナルセット等の工程で熱収縮せしめることで、従来のポリアミド66フィラメントからなるエアバッグ用基布に勝る柔軟性、衝撃吸収能を有し、かつ低通気度、高強度、耐熱性、耐久性にも優れたエアバッグ用基布が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、硫酸相対粘度が3〜8、Mw/Mnが1.5〜3、単繊維繊度が0.1〜7dtex、強度が7〜12cN/dtex、98℃30分間の沸水処理による収縮率が5〜20%、沸水処理後の強度が5〜11cN/dtex、沸水処理後の10%伸長時応力が0.3〜1.5cN/dtexであることを特徴とするポリアミド56フィラメントによって達成されるものである。
本発明のポリアミド56フィラメントはバイオマスプラであるポリアミド56を含有するため環境配慮型素材である。また、力学特性、耐熱性、耐摩耗性、耐久性に優れるため、衣料用途や、産業資材用途に幅広く利用可能なフィラメント、およびこれを含んでなる繊維構造体を提供することができる。
そして該フィラメントは湿熱処理などの手段で熱収縮せしめることで、高強度かつ低弾性率のフィラメントとすることで、該フィラメントを用いて製織した後、精錬やファイナルセット等の熱処理を施した織物は、従来のポリアミド66フィラメントからなる織物に勝る、柔軟性、衝撃吸収能を有するとともに、低通気度、高強度、耐熱性、耐久性に優れた基布としてエアバッグに好適に用いることができる。
1軸混練機を備えた直接紡糸、延伸、熱処理装置の模式図である。
エアバッグの1態様を示す模式図である。
衝撃吸収能の測定装置の模式図である。
符号の説明
1:ホッパー
2:1軸エクストルーダー
3:ポリマー配管
4:ギヤポンプ
5:スピンブロック
6:紡糸パック
7:紡糸口金
8:加熱筒
9:冷却装置(環状タイプ)
10:糸条
11:給油装置
12:第1ロール
13:第2ロール
14:第3ロール
15:第4ロール
16:第5ロール(最終加熱ロール)
17:第6ロール
18:交絡ノズル
19:巻取機
20:チーズパッケージ
21:乗員側の布帛
22:インフレーター側の布帛
23:開口部
24:ベントホール
25:エアバッグ
26:ゴム風船
27:鉄球
本発明のポリアミド56フィラメントは、繰り返し単位の90モル%以上がペンタメチレンアジパミド単位で構成されたポリアミド56を含有することが好ましい。ペンタメチレンアジパミド単位とは、1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸とから構成される構造単位である。本発明の効果を損なわない範囲において、10モル%未満の他の共重合成分を含んでもよいが、よりペンタメチレンアジパミド単位を多く含んでなることで分子鎖の規則性が高まり、製糸工程で配向結晶化し易くなるため力学特性、耐熱性に優れたフィラメントとなり好ましい。またシリコーンゴム等のエラストマーを塗布したコートエアバッグとして用いる場合、エラストマーと織物との接着性が長期に渡って維持される、すなわち接着耐久性に優れたものとなるため好ましい。これはペンタメチレンアジパミド単位が、従来のポリアミド66等に含まれるヘキサメチレンアジパミド単位よりも繰り返し単位の分子量が小さく、単位重量当たりのアミド結合の濃度が高いため、繊維とエラストマーとの間で形成される結合(水素結合や共有結合など)が多くなることによるものと推定している。これらのことからペンタメチレンアジパミド単位が94モル%以上であることがより好ましく、96モル%以上であることがさらに好ましく、98モル%以上であることが最も好ましい。また本発明のポリアミド56フィラメントは10重量%未満の範囲で、後述する他の成分を含んでもよい。
本発明のフィラメントは、分子量の指標である硫酸相対粘度が3〜8であることが必要である。硫酸相対粘度が高い、すなわち分子量が高いほど、フィラメントの強度が高まるため好ましい。これは高分子量であることで単位体積当たりに存在する分子鎖の末端(フィラメントの構造欠陥となり易い)の量が少なくなるだけでなく、分子鎖長が長いことで1本の分子鎖がより多くの分子鎖と相互作用(物理的絡み合い、水素結合、ファンデルワールス力など)することとなり、紡糸応力や延伸応力が均一に伝達されるため、フィラメントの製造工程において分子鎖が均一に配向されるためと考えられる。一方で硫酸相対粘度が適度な範囲であることで、適正な紡糸温度での溶融紡糸が可能となり、紡糸機内でのポリマーの熱分解が抑えられるため、製糸性が良好となり、繊維の着色も抑えられるため好ましい。また熱分解が抑えられることで後述する分散度(Mw/Mn)も小さくなりうるため好ましい。より好ましくは3.1〜7であり、さらに好ましくは3.2〜6、特に好ましくは3.3〜5であり、3.4〜4が最良である。
さらに本発明のフィラメントは分子量分布が狭いことが極めて重要であり、分子量分布の指標である分散度(Mw/Mn)が1.5〜3であることが必要である。ここでMwとは重量平均分子量であり、Mnは数平均分子量であり、両者の比であるMw/Mnが小さいほど、分子量分布が狭いことを示している。上述のごとく硫酸相対粘度が高いことに加えて、Mw/Mnも3以下と分子量分布が狭いフィラメントであることで、初めて高強度で、沸水処理における収縮率も小さく、沸水処理後においても高い強度が維持されるフィラメントとなるため好ましい。これはMw/Mnが小さい、すなわち分子鎖長の分布が小さいことで、それぞれの分子鎖における、相互作用を及ぼしあう分子鎖の本数や、相互作用力(物理的絡み合い力、水素結合力、ファンデルワールス力など)が概ね等しくなるため、製糸工程において、それぞれの分子鎖に均等に紡糸応力、延伸応力が掛かり、結果として非晶相の分子鎖が均一に配向され、緻密性の高い配向結晶相が多く形成されるためと推定される。さらに分子鎖が均一に配向された効果によって、非晶相には結晶相同士を連結する非晶鎖(タイ分子)が多く存在しており、該タイ分子の分子鎖長も比較的等しいため、その多くは緊張状態で存在している(結晶相によって運動を拘束されている)ものと推定される。すなわち、緻密性の高い配向結晶相を多く含み、該結晶相は多くの緊張タイ分子によって連結されているため、これらが相乗効果的に作用するため高強度で、沸水処理などの熱処理においても収縮率が小さく、熱処理後においても強度の高いポリアミド56フィラメントとなる。Mw/Mnは2.8以下がより好ましく、2.6以下がさらに好ましく、2.4以下が特に好ましい。Mw/Mnは小さいほど好ましく、1.5以上であれば製造可能なレベルである。
本発明のフィラメントは、エアバッグ基布用として総繊度が200〜600dtexであることが好ましい。総繊度が600dtex以下であることにより、高密度織物としても薄地で柔軟性の高い織物となるため、エアバッグ用基布に用いた場合には、収納性が高く、衝撃吸収能にも優れた基布のとなるため好ましい。また一方で、総繊度が200dtex以上であることで引張強度が十分に高い織物が得られ、エアバッグ用基布などに要求される強度を満たす基布を形成できるため好ましい。250〜550dtexであることがより好ましく、300〜500dtexであることがさらに好ましい。
また、本発明のフィラメントは単繊維繊度が0.1〜7dtexであることが好ましい。単繊維繊度が7dtex以下であることで、単繊維の曲げ剛性が下がるためマルチフィラメントとしても曲げ剛性を低減せしめ、結果として織物の柔軟性が高まるため好ましい。また単繊維繊度が低いほど繊維の比表面積が大きくなるため、織組織を構成するマルチフィラメント同士の拘束力が高まり、外力(引張力、摩擦力、衝撃力など)によって目ズレしにくい織物となるため、エアバッグ用基布として用いた場合には、インフレーターで展開した際に縫製部の周りの織組織に乱れ(目ズレ)が生じてガス漏れするといった不具合を回避でき、通気度の低いエアバッグを歩留まりよく形成できるため好ましい。一方で単繊維繊度が0.1dtex以上であることにより、製糸工程において毛羽の発生を抑えて高倍率延伸を施すことが可能となるため、高強度であり、かつ沸水処理等の熱処理においても収縮し難いフィラメントとなるため好ましい。1〜6dtexであることがより好ましく、1.5〜4dtexがさらに好ましい。
なお本発明のフィラメントのフィラメント数は、上記の総繊度、単繊維繊度となる範囲で目的用途に応じて選択すればよいが、10〜1000の範囲であることが好ましい。
また本発明のフィラメントは強度が7cN/dtexであることが好ましい。強度が7cN/dtex以上であることにより、製織工程における織張力を高めても毛羽が発生し難く、高密度な織物を製造工程通過性良く得ることができるため好ましい。よって7.5cN/dtex以上であることがより好ましく、8cN/dtex以上であることがさらに好ましい。なお強度は高いほど好ましいが、あまりに高強度なフィラメントを製造しようとすると、製糸工程(延伸工程)での高い延伸張力に起因した糸切れ、毛羽が発生し易くなる傾向にある。よって11.5cN/dtex以下であることがより好ましく、11cN/dtex以下がさらに好ましい。
本発明のポリアミド56はこのように高強度なフィラメントであるが、従来技術において、総繊度、単繊維繊度が共に小さいポリアミド56フィラメントを製造しようとすると、延伸工程において毛羽や糸切れが発生し易いため延伸倍率を下げざるを得ず、強度7cN/dtex以上のフィラメントを製造することは困難であった。そして本発明者らが鋭意検討した結果、ポリアミド56の原料である1,5−ペンタメチレンジアミンが重合工程で揮発や環化し易いこと、ポリアミド56があまり溶融貯留安定性の高いポリマーではないこと、また結晶性も従来のポリアミド66と比べて低いなどの特徴から、重合工程、製糸工程において分子量分布が広がり易く、特に高分子量であるポリアミド56フィラメントにおいては、Mw/Mnが3を超えてしまうため、紡糸工程や延伸工程において分子鎖を均一に配向させることが難しくなり、毛羽や糸切れを誘発することがわかった。そして後述するような特定の製造方法を採用することで、初めて高分子量でありながら、分子量分布の狭いポリアミド56フィラメントを形成せしめることができた。これにより細繊度でありながら高強度なフィラメントを得ることに成功したのである。そして驚くべきことに、Mw/Mnが3以下であるポリアミド56フィラメントは、従来のポリアミド66よりも高強度となりうることがわかった。これはポリアミド56の結晶性が低いことにより、製糸工程で球晶が形成され難くなり、構造欠陥を含みにくいフィラメントになったためと推定している。
また本発明のポリアミド56フィラメントは98℃30分間の沸水処理による収縮率(以下、単に沸収と記載することがある)が5〜20%であることが好ましい。沸収が20%以下であることで、沸水処理中において分子鎖の配向度が極端に低下することがなく、後述の如く沸水処理後においても強度の高いフィラメントとなるため好ましい。また織物を熱収縮させる加工でフィラメントを十分に収縮せしめることができるため、柔軟な織物が得られる。前述したようにポリアミド56はポリアミド66などの従来のポリアミドと比べて、単位体積当たりに多くのアミド結合を含むため、分子構造として親水性が高いポリマーである。そのため従来のポリアミド56フィラメントは特に水共存下で熱処理(沸水処理やスチーム処理など)を施すと、多くの水が緻密性の低い非晶相へ進入して分子鎖間相互作用を低下せしめるため、非晶鎖の配向度の低下が大きく沸収が20%を超えるものとなり易かった。しかしながら本発明のフィラメントは分子量分布が狭い効果によって分子配向を容易に高くすることが可能になり、緻密性の高い配向結晶相を多く含み、かつ非晶相には結晶相によって分子運動が拘束された緊張タイ分子を多く含むことから、これらの相乗効果として沸収の小さいフィラメントとすることを可能にしたのである。
一方で、沸収が5%以上であることにより、織物を熱収縮せしめることによって織り密度を高めることができ、製織工程における織り張力を適度な範囲に抑えて高密度な織物を製造できるため好ましい。これにより高密度織物の製造において必ずしも高張力下で製織する必要が無くなるため、製織工程での毛羽やヒケの発生が抑えられ、欠点の少ない織物を工程通過性良く製造することができる。また一般的にはあまり高収縮なフィラメントを用いて熱収縮によって織り密度を高めると、織組織を構成するフィラメント同士が熱収縮力によって過度に拘束を受けるため、織物が硬化してしまう傾向にあるが、本発明のポリアミド56フィラメントは後述するように沸水処理後においては10%伸長応力が低い、すなわち弾性率の低いフィラメントにすることが可能であるため、フィラメント同士の拘束性が高くとも、織物の柔軟性は確保され易いこともわかった。そのため、従来のポリアミド66フィラメントからなる織物よりも、織組織を構成するマルチフィラメント同士の拘束力を高めることも可能となり、エアバッグの展開時における衝撃力によっても縫製部近傍で織り組織が乱れる(目ズレが生じる)ことが無いため好ましい。これらのことから、沸収は7〜18%であることがより好ましく、8〜15%がさらに好ましい。
そして本発明のフィラメントは、沸水処理後の強度が5〜11cN/dtexであることが好ましい。沸水処理後の強度が5cN/dtex以上であることにより、精錬やファイナルセットにおいて十分に熱収縮させた後であっても、十分な強度を有する織物となるため好ましい。沸水処理後の強度は高いほど好ましいが、11cN/dtex以下であることで、織物にした後の強度を適度な範囲に抑えられるため好ましい。より好ましくは5.5〜10cN/dtexであり、さらに好ましくは6〜9cN/dtexであり、特に好ましくは6.5〜8.5cN/dtexである。
また、本発明のポリアミド56フィラメントは沸水処理後の10%伸長時応力が0.3〜1.5cN/dtexであることが好ましい。10%伸長時応力とはフィラメントの弾性率の指標であり、これが低いほど柔軟なフィラメントであると解釈される。沸水処理後の10%伸長時応力が1.5cN/dtex以下であることで、織物を構成した後、該織物の沸水処理後の収縮率が3%以下となるように熱収縮せしめると、柔軟性、衝撃吸収能が優れた織物となるため好ましい。沸水処理後の10%伸長時応力は1.3cN/dtex以下であることがより好ましく、1.1cN/dtex以下であることがさらに好ましい。一方で沸水処理後の10%伸長時応力が0.3cN/dtex以上であることで、熱収縮せしめた後の織物が、外力で変形し難いものとなるため好ましい。0.4cN/dtex以上であることがより好ましく、0.5cN/dtex以上がさらに好ましい。本発明のポリアミド56フィラメントは、常態(沸水処理を施していない)における10%伸長時応力は、従来のポリアミド66フィラメントとさほど変わらなくとも、沸水処理後においては10%伸長時応力が1.5cN/dtex以下と非常に柔軟性に富んだフィラメントとなる。これはポリアミド66フィラメントでは実現が難しいレベルであり、ポリアミド56の分子構造的特徴により達成されるものである。ポリアミド66を構成するヘキサメチレンアジパミド単位は、ジアミン単位とジカルボン酸単位の炭素数が共に6と、非常に規則性の高い分子構造を有しているため、隣接する分子鎖間でアミド結合の位置が揃い易い。そのため沸水処理を行うと分子間の水素結合力が一端は弱まるものの、収縮後に水が系外へ排除されると、大半の分子鎖は再び強固な水素結合を形成する。一方で、本発明のポリアミド56フィラメントを構成するペンタメチレンアジパミド単位は、単位体積当たりのアミド結合の数が多いため親水性が非常に高く、ジアミン単位が炭素数5、ジカルボン酸単位が炭素数6と、ポリアミド66よりも分子鎖の規則性が低い特徴を有している。親水性が高いことから、沸水処理により非晶相に比較的多くの水が取り込まれ、分子鎖間の水素結合力が低下または水素結合が切断され易く、さらに分子鎖の規則性が低い特徴を有することから、収縮後に水が排除されても、一部の分子鎖においては沸水処理前の分子間水素結合力が復元せずに、結合力が弱い状態で安定化するものと考えられる。これらのことから、ポリアミド56フィラメントは沸水処理後においては分子鎖間水素結合力が適度に低くなるため、極めて弾性率の低いフィラメントになる。
一方でポリアミド56フィラメントの10%伸長時応力、すなわち沸水処理を施す前の10%伸長時応力が高いほど、製経工程や製織工程での経糸張力、緯糸張力を高く設定することが可能となり、高密度な織物を製造し易く好ましい。ただしあまりに10%伸長応力が高いフィラメントを得ようとすると、製糸工程で糸切れや毛羽が発生し易くなる。よってポリアミド56フィラメントの10%伸長応力は1.8〜4.5cN/dtexであることが好ましく、1.9〜4.2cN/dtexであることがより好ましく、2〜4cN/dtexであることがより好ましい。
本発明のフィラメントは耐熱性の指標となる融点が高いことが好ましい。融点は240℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。また繊維の溶融に要する熱量の指標である、融解熱量も高いことが好ましく、60J/g以上であることが好ましく、70J/g以上であることがより好ましい。融点および融解熱量が高いことで、例えばインフレーターの高温ガス等の高温物に晒されても、溶融、穿孔することがない。
また、本発明のフィラメントの伸度は10〜50%であると、繊維製品にする際の工程通過性が良好であり好ましい。下限としては12%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましく、18%以上であることがいっそう好ましい。上限としては40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、25%以下であることがいっそう好ましく、23%以下であることがよりいっそう好ましい。
本発明のフィラメントの糸斑が小さいほど、製経工程、製織工程での経糸張力、緯糸張力の変動を抑えることができるため、製縦、製織工程で毛羽が発生することがなく、経緯方向での物性差も小さい織物が得られるため好ましい。このため糸斑の指標であるU%(Normalモード)は3%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1.5以下がさらに好ましく、0.5〜1が特に好ましい。
本発明のフィラメントは必要に応じて交絡処理が施されてもよく、CF値(Coherence Factor)は3〜30の範囲で選択できる。
本発明のフィラメントは単繊維の横断面形状が、丸型、Y型、多葉型、多角形型、扁平型、中空型、田型などの多種多様の断面形状を取ることができるが、より強度が高く、通気度の低い織物が安定して得られる点で、丸型または扁平型が好ましく、丸型が最も好ましい。またそれぞれの単繊維の断面形状は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
本発明のフィラメントは、本発明の目的効果を損なわない範囲で、芯鞘複合糸(単芯、多芯、芯成分部分露出)、バイメタル複合糸などの単繊維内複合糸であったり、他のポリマーとアロイ化したアロイ繊維であったりしてもよいが、より強度が高いフィラメントとなる点で、ポリアミド56単独成分を含有するフィラメントであることが好ましい。以下に複合、アロイ化することができる他のポリマーを例示する。
例えば、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸など)、ポリアミド(ポリアミド6等のポリアミドmであり繰返単位の炭素数mが4〜12のもの、ポリアミド66等のポリアミドmnであり繰返単位の炭素数mが4〜12、炭素数nが4〜12のものなど)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオキシメチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコールなどを挙げることができ、ホモポリマーや共重合ポリマー(下記に共重合成分として例示した成分を含む上記ポリマー)など適宜選択できる。
また、本発明のフィラメントは他の繊維と混繊、混紡、混撚等を施して使用することもでき、例えば他の繊維としては、木綿、麻、羊毛、絹などの天然繊維や、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維や、ポリアミド(ポリアミド6等のポリアミドmであり繰返単位の炭素数mが4〜12のもの、ポリアミド66等のポリアミドmnであり繰返単位の炭素数mが4〜12、炭素数nが4〜12のものなど)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等)、ポリアクリロニトル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルなどのホモポリマーや共重合ポリマー(下記に共重合成分として例示した成分を含む上記ポリマー)を含有する合成繊維が採用できる。
また本発明のフィラメントは、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキノン系化合物、チアゾール系化合物や、フェニルホスホン酸などのリン系化合物、2−メルカプトベンズイミダゾールなどのイミダゾール系化合物、およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物、等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、光沢改善剤(酸化チタン、炭酸カルシウム等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)を少量含んでもよい。
また本発明のポリアミド56は、1,5−ペンタメチレンジアミンや、アジピン酸以外に、本発明の目的を損なわない範囲で他の化合物が共重合されたものであってもよく、例えば下記の成分から誘導される構造単位を含んでいてもよい。
例えば脂肪族カルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸など)、脂環式ジカルボン酸(シクロヘキサンジカルボン酸など)、芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、など)から誘導される構造単位を含むことができる。
またエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ペンタメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミンなどにから誘導される構造単位を含むことができる。
ジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールS、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物から誘導される構造単位を含むことができる。
また、1つの化合物に水酸基とカルボン酸とを有するヒドロキシカルボン酸も挙げられ、例えば乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族のヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位を含むことができる。
また6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタムから誘導される構造単位を含むことができる。
本発明のポリアミド56フィラメントは、総繊度、単繊維繊度が小さいながら、優れた力学特性、耐熱性、耐摩耗性、耐久性を有するため多種多様な繊維構造体として用いることができ、例えば布帛(織物、編物、不織布、パイル布帛など)や、紐状物(ディップコード、ロープ、テープ、漁網、組紐、など)とすることができ、産業用途や衣料用途に幅広く好適に用いられる。例えば、自動車、航空機等の車両内外装材や安全部品を構成する繊維構造体として好適に用いられ、エアバッグ、ゴム補強繊維、シートベルト、シート、マット等が挙げられる。また漁網、ロープ、安全ベルト、スリング、ターポリン、テント、鞄地、組紐、養生シート、帆布、縫糸等、農業用の防草シート、建築資材用の防水シート等、産業用途に好適である。また、例えばアウトドアウェア、スポーツウェアなどの強度や耐摩耗性が要求される衣料用途においても好適に用いられる。該繊維構造体はポリアミド56フィラメント以外の繊維を含んでいてもよいが、本発明のポリアミド56フィラメントの優れた特性を活かすためには、50重量%以上が本発明のポリアミド56フィラメントを含んでなることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。
本発明のフィラメントは上述の特性に加え、適度な沸収を有し、沸水処理後においては高強度かつ低弾性率のフィラメントとなるため、いずれかの段階でフィラメントを熱収縮させることで、高強度でありながら柔軟性に富んだ繊維構造体とすることができる。そして繊維構造体とした後に熱収縮させた場合、さらに繊維構造体を高密度化できるため好ましい。かかる特徴を活かし、例えば本発明のフィラメントを製経、製織して織物とした後、精錬やファイナルセットなどの熱処理によって熱収縮させることで、柔軟性、衝撃吸収性、力学特性、耐熱性、耐久性に優れた高密度織物を得ることができ、エアバッグ用基布として最適な織物を形成することができる。もちろん該織物をエアバッグ用基布以外の産業用途、衣料用途として用いてもよい。
次に本発明のフィラメントを用いてなるエアバッグ用基布について説明する。
エアバッグ用基布とはエアバッグの縫製用として用いられる基布であり、本発明のエアバッグ用基布は本発明のポリアミド56フィラメントを含有する織物を含んでなることを特徴とする。そしてノンコート基布、コート基布のいずれであっても、本発明のポリアミド56フィラメントの特徴である高強度かつ低弾性率が要求されるため好ましい。
例えばノンコート基布として用いた場合、高強度で低弾性率である本発明のフィラメントの特徴が最大現に発揮され、収納性および衝撃吸収能に優れたエアバッグ用基布が得られるため好ましい。後述する好ましい織組織とせしめることで、通気度が低く、力学特性、耐熱性、耐久性にも優れたノンコート基布となるため好ましい。
一方でコート基布とした場合には、ポリアミド56フィラメントの優れた接着性も活かされ、従来のポリアミド66フィラメントからなるコート基布よりもエラストマーの単位面積当たりの含有量を小さくしても、十分な接着耐久性が発現するため好ましい。より柔軟な基布となる点で、エラストマーの含有量は少ないことが好ましく、20g/m2以下であることが好ましく、15g/m2以下がより好ましく、5〜10g/m2がさらに好ましい。ここで、コートするエラストマーとしては従来公知のクロロプレン樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などを用いることができる。
織組織は平織、綾織、朱子織、斜織などを選択できるが、より通気性が低い高密度な織物を工程通過性良く得られる点で平織であることが好ましい。
織物の経糸、緯糸の本数は、それぞれ30〜100本/2.54cmの範囲で、後述するカバーファクターが好ましい範囲となるように選択することが好ましい。経糸と緯糸の本数は同一であっても異なってもよいが、経緯の対称性が高い方が、経緯方向での強度や柔軟性などの諸物性に差が生じ難いため好ましい。また、より通気度が低く、製織工程の通過性も高まるため好ましい。よって経糸、緯糸の本数差は0〜15本/2.54cmであることが好ましく、0〜10本/2.54cmであることがより好ましく、0〜5本/2.54cmであることがさらに好ましい。
また経糸、緯糸に用いるポリアミド56フィラメントの総繊度や単繊維繊度は同一であっても異なっていてもよいが、上述のごとく対称性の高い織物である方が諸特性の異方性が生じにくいことから、同一の繊度構成であることが好ましい。
本発明のエアバッグ用基布は、基布の分解糸の総繊度が200〜600dtexであることが好ましい。基布の分解糸の総繊度が600dtex以下であると、高密度な織物であっても薄地で柔軟性の高い織物となるため、収納性が高く、衝撃吸収能にも優れたものとなるため好ましい。また一方で、基布の分解糸の総繊度が200dtex以上であることで、引張強度や引裂強度といった基布の力学特性が実用品として遜色ないレベルに達するため好ましい。より好ましくは、250〜550dtexであり、300〜500dtexであることがさらに好ましい。
また基布の分解糸の単繊維繊度が0.1〜7dtexであることが好ましい。基布の分解糸の単繊維繊度が7dtex以下であることで、単繊維の曲げ剛性が下がるため基布の柔軟性の高まり、収納性に優れた基布となるため好ましい。また繊維の比表面積が大きくなることで基布を構成するフィラメント同士の拘束力が高まり、インフレーターで展開した際に縫製部の周りの織組織に乱れ(目ズレ)が生じてガス漏れするといった不具合を回避でき、通気度の低いエアバッグを得ることができるため好ましい。一方で単繊維繊度が0.1dtex以上であることにより、引張強度や引裂強度といった基布の力学特性が高くできるため好ましい。以上のことから基布の分解糸の単繊維繊度は1〜6dtexであることがより好ましく、1.5〜4dtexがさらに好ましい。そして高密度織物であるほど通気度が低く、強度の高い織物となるため好ましく、織り密度の指標であるカバーファクター(K)が1500以上であることが好ましく、1700以上であることがより好ましく、1900〜2700であることがさらに好ましい。
また、本発明のエアバッグ用基布の目付は150〜250g/m2であると、基布の力学特性、柔軟性、軽量性にバランスに優れるため好ましい。
本発明のエアバッグ用基布は、98℃30分間の沸水処理による基布の収縮率が0〜3%であることが好ましい。織機にて製造した基布を熱収縮せしめ、沸水処理による基布の収縮率が0〜3%となるように加工することで、ポリアミド56フィラメントの高強度かつ低弾性率である特徴が活かされ、柔軟な基布となるため好ましい。同時に高温多湿な環境下に長時間晒されても寸法変化が起こりにくくなるため、縫い目に皺が寄ることなく展開時にガス漏れする事がないため好ましい。より好ましくは0〜2%、さらに好ましくは0〜1%である。このように沸水処理後の収縮率の低い基布は、後述する好ましい製造方法を採用することによって得られる。ここで、沸水処理による基布の収縮率は織物の経緯方向においてそれぞれ定義されるものであるが、それぞれの収縮率が上記範囲にあることが好ましい。そして経緯方向の物性差が小さいことが袋状のエアバッグを縫製する際には好ましく、経緯方向の収縮率の差は1.5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0〜0.5%であることがさらに好ましい。
また基布の分解糸強度が高いことで、基布の引張強度および引裂強力が高くなるため好ましく、5〜10cN/dtexであることが好ましい。本発明のポリアミド56フィラメントは、沸水処理後においても強度低下が小さいフィラメントであるため、上述の如く沸水処理における収縮率が0〜3%と低い基布であっても、分解糸の強度は5cN/dtex以上になるため好ましい。より好ましくは5.5〜10cN/dtexであり、さらに好ましくは6〜10cN/dtexである。ここで基布の経糸、緯糸それぞれの分解糸が存在するが、いずれから分解した繊維も上記範囲の強度を有することが好ましい。そして経糸、緯糸における分解糸の強度の差が小さいほど、経緯における基布の引張強度、および引裂強力の差が小さくなるため、袋状のエアバッグを縫製しても物性の偏りが生じ難いため好ましい。よって経緯方向の分解糸の強度の差は1cN/dtex以下であることが好ましく、0〜0.5cN/dtexであることがより好ましい。
さらに本発明のエアバッグ用基布は、基布の分解糸の10%伸長時応力が0.3〜2cN/dtexであることが好ましい。分解糸の10%伸長時応力が2cN/dtex以下であることで、柔軟性、衝撃吸収能に優れたエアバッグ用基布となるため好ましい。また分解糸の10%伸長時応力が0.3cN/dtex以上であることで、外力によって変形し難い織物となるため好ましい。より好ましくは0.4〜1.8cN/dtexであり、さらに好ましくは0.5〜1.3cN/dtexである。本発明のポリアミド56フィラメントは、上述したように沸水処理を施すことによって10%伸長時応力が非常に低いフィラメントとなる。そのため該フィラメントで織物を構成した後、沸水処理による基布の収縮率を0〜3%まで低減させることで、分解糸の10%伸長時応力を上記の範囲とすることができる。ここで、織物の経緯方向での物性差が小さいことが好ましいから、経糸、緯糸の分解糸のいずれも10%伸長時応力が上記範囲にあることが好ましく、それぞれの分解糸における10%伸長時応力の差は0.3cN/dtex以下であることが好ましく、0〜0.2cN/dtexであることがより好ましい。
本発明のエアバッグ用基布は引張強度が500N/cm以上が好ましく、より好ましくは600N/cm以上、さらに好ましくは650N/cm以上である。引張強度は高いほど好ましいが、1000N/cm以下にすることで織物の目付を低減でき、薄地で柔軟な基布となるため好ましい。
また、基布の引裂き強力が高いほどインフレーターから噴射されるガスの衝撃によっても破裂しにくい基布となるため好ましく、引裂き強力は180N以上が好ましく、より好ましくは220N以上であり、さらに好ましくは250N以上である。一方で引裂き強力が適度な範囲にあることで、エアバッグ展開時の衝撃力によっても縫製部の周りの織組織が乱れ難くなる(目ズレが生じ難くなる)ため、低い通気度のエアバッグとなり好ましい。よって、引裂き強力は500N以下であることが好ましく、400N以下であることがより好ましい。
本発明のエアバッグ用基布の厚みは0.2〜0.4mmであることが好ましい。かかる範囲の厚みを有するエアバッグ用基布は、インフレーターから噴射される高温ガスに対し十分な耐熱性を有すると同時に、基布の柔軟性も優れたものとなり、収納性の要求が厳しい小型車への適用も可能となるため好ましい。
本発明のエアバッグ用基布の通気度は低いことが好ましく、40cc/cm2/secであることが好ましく、30cc/cm2/secがより好ましく、20cc/cm2/secがさらに好ましく、0〜10cc/cm2/secが特に好ましい。通気度が40cc/cm2/sec以下であると、エアバッグが衝突等により膨張した際にエアバッグ内部の空気が外部に漏れ難くなり、エアバッグの展開速度が高まるため好ましい。また高温ガスが乗員側に流出し難いため、乗員の安全性が確保され好ましい。
本発明のエアバッグ用基布は、JIS L1096(1999)(8.19.1.A法、45°カンチレバー法)にて測定した剛軟性が低いほど収納性に優れた基布となるため好ましく、70mm以下であることが好ましく、65mm以下であることがより好ましく、20〜60mm以下であることがさらに好ましい。分解糸の10%伸長応力、分解糸の総繊度、分解糸の単繊維繊度が小さいほど、剛軟性の低い基布とせしめることができる。また基布のカバーファクター、厚みが小さく、エラストマーの塗布量が少ないほど剛軟性は小さくなる。
本発明のエアバッグ用基布は、引張強度、引裂き強力に優れることに加え、柔軟性、衝撃吸収能、耐熱性、耐久性にも優れるため、例えば運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ、インフレータブルカーテン用エアバッグなど、あらゆる種類のエアバッグに適用することができる。
次に、本発明のポリアミド56フィラメントの好ましい製造方法について以下に説明する。
本発明のポリアミド56フィラメントの製造工程は、モノマー合成工程、重合工程、製糸工程(紡糸工程、延伸工程)に分類され、それぞれの工程で特定の製造方法を採用することが好ましい。本発明の構成要件である硫酸相対粘度が3〜8、Mw/Mnが1.5〜3の両要件を満たすフィラメントを製造するためには、重合工程での製造方法が最も重要である。特定の重合方法で得たポリアミド56樹脂を溶融紡糸に供することで、硫酸相対粘度が3以上であり、かつMw/Mnが3以下と小さいポリアミド56フィラメントを紡出することができる。その結果、製糸工程において分子鎖の配向形成が均一に起こり、本発明の優れた特性を有するフィラメントを工程通過性良く製造することが可能となる。以下にモノマー合成工程から順に、好ましい態様について説明する。
モノマー合成工程において、1,5−ペンタメチレンジアミンは、グルコースやリジンなどのバイオマス由来の化合物から、酵素反応や、酵母反応、発酵反応などによって合成されることが好ましい。上記の方法によれば、2,3,4,5−テトラヒドロピリジンやピペリジンといった化合物の含有量が少なく、高純度の1,5−ペンタメチレンジアミンを調製できるため、溶融貯留安定性の高いポリアミド56樹脂となるため、溶融紡糸工程で分子量が低下してMw/Mnが増加し難いため好ましい。また、バイオマス由来の材料であるから、環境適応性にも優れるというメリットもある。具体的には、特開2002−223771号公報、特開2004−000114号公報、特開2004−208646号公報、特開2004−290091号公報や、特開2004−298034号公報、特開2002−223770号公報、特開2004−222569号公報、等に開示された1,5−ペンタメチレンジアミン、あるいは1,5−ペンタンジアミン・塩酸塩、1,5−ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩を用いて重合されたポリアミド56であることが好ましく、より純度の高い原料を得やすいことから、1,5−ペンタメチレンジアミン・アジピン酸塩を用いて重合されることが好ましい。また、アジピン酸や他のジアミン成分、ジカルボン酸成分については従来公知の方法で製造されたものを用いればよい。
なお、本発明のポリアミド56フィラメント、およびそれを含有する繊維構造体、エアバッグ用基布、樹脂ペレットがバイオマス由来の化合物から合成されたものか否かを判定する方法として、C14(放射性炭素)年代測定の原理に基づいたASTM D6866がある。具体的には、試料(ポリマー)を乾燥して水分を除去した後、秤量し、該試料を燃焼させて発生したCO2を化学操作を経て吸着剤に吸着させ、液体シンチレーションカウンターにて測定する方法、燃焼させて発生したCO2をカーボングラファイトにした後、加速器質量分析計で測定する方法、燃焼させて発生したCO2からベンゼンを合成し、液体シンチレーションカウンターにて測定する方法、等によって試料中のバイオマス比率の濃度を特定することができる。
次に、本発明のフィラメントの製造に用いられるポリアミド56樹脂の重合方法について説明する。
本発明のポリアミド56フィラメントは硫酸相対粘度が3以上と高く、かつ分子量分布の指標であるMw/Mnが3以下と極めて狭い。このように高分子量のポリアミド56を加熱重合法のみで製造しようとすると、重合反応が遅延してしまい、重合缶内を高温状態(240℃以上)で長時間保持せざるを得ず、従来のポリアミド66の加熱重合と比較しても重合時間が長時間化してしまう傾向にあった。これはポリアミド56樹脂の原料である1,5−ペンタメチレンジアミンの沸点が低いため、高温下では揮発して系外へ流出し易いことや、分子内脱アンモニア反応によって、2,3,4,5−テトラヒドロピリジン、ピペリジン、アンモニア等の塩基性アミンへ変化してしまうことが原因であり、重合缶内のジアミンとジカルボン酸とのモルバランスが崩れ易いためと推定される。そして加熱重合法のみで製造した硫酸相対粘度3以上のポリアミド56樹脂を用いて溶融紡糸を行うと、紡出したポリアミド56フィラメントのMw/Mnが3を超えるものとなってしまい、本発明の如く総繊度、単繊維繊度が共に小さく、かつ高強度のフィラメントを製造することは極めて困難となる。
これは重合遅延によって重合後期に熱分解が起こり、Mw/Mnが3を超えるポリアミド56樹脂となってしまったり、Mw/Mnが3以下の樹脂が得られたとしても、多くの塩基性アミンを含むためにポリマーの耐熱性が低く、溶融紡糸工程における熱分解によって分子量分布が大きくなることが原因であった。
よって、本発明の如く硫酸相対粘度が3以上であり、Mw/Mnが3以下であるポリアミド56フィラメントを製造するためには、原料であるポリアミド56樹脂の製造において、硫酸相対粘度が2.9以下のポリアミド56樹脂を予め加熱重合法で製造しておき、ペレット化した後、該ポリアミド56樹脂を固相重合法によって高重合度化することが肝要である。さらにポリアミド56は従来のポリアミド66と比較して耐熱性が低いポリマーであり、結晶性も低いことから、固相重合における重合条件を緻密に制御することが要求される。特に固相重合において重合反応を均一に進行させるためには、アミノ末端基とカルボ末端基の濃度バランスを特定範囲内にすることが重要であり、加熱重合法にて該末端基量を制御、調整したポリアミド56樹脂を製造した後、これを固相重合する2段階での重合法が好ましい。
このように本発明のポリアミド56フィラメントの製造においては、まずはポリアミド56樹脂の製造条件を厳密に制御してアミノ末端基とカルボ末端基の濃度バランスを特定範囲内にすることが重要である。以下に好ましい加熱重合法、及び固相重合法について説明する。
本発明の加熱重合法とは、水の共存下で加圧加熱重合する方法であり、原料となるジアミンとアジピン酸とを含む水溶液を加熱して脱水縮合せしめることで、ポリアミド56樹脂を得る重合方法であり、原料調製工程(原料を含む水溶液を調製して重合缶内に投入する)、濃縮工程(重合系内を微加圧状態に維持しながら加熱し、水溶液中の水を揮発させて原料を濃縮する)、昇圧工程(重合系内を密閉系とし、原料を含む水溶液を加熱して水蒸気を発生させることで、制圧工程での所望圧力へ昇圧する)、制圧工程(重合系内を一定の加圧状態に維持しながら加熱し、プレポリマーを生成させる)、放圧工程(放圧して常圧に戻す、重合系内の温度をプレポリマーの融点以上に上昇させる)、減圧工程(生成ポリマーの融点以上に加熱し、減圧下に保持して重縮合を進行させる)、吐出工程(不活性ガスを重合缶内に注入して生成ポリマーを吐出させてペレタイズする)を含む。
上述したように、ポリアミド56樹脂の原料である1,5−ペンタメチレンジアミン(沸点:約180℃)は、従来のポリアミド66の原料である1,6−ヘキサメチレンジアミン(沸点:約200℃)と比べて沸点が低く、加熱重合の温度で揮発し易いため、重合後期において重合缶内のアミノ末端基とカルボキシル末端基のモルバランスが崩れて重合遅延を招き易い。そして重合時間が長時間化すると、1,5−ペンタメチレンジアミンの分子内脱アンモニア反応による塩基性アミンの形成を誘発する傾向にあるため、加熱重合法においては重合後期において1,5−ペンタメチレンジアミンと、アジピン酸とのモルバランスを保つ工夫を施すことが好ましい。そしてアミノ末端基とカルボ末端基をバランスよく有するポリアミド56樹脂を加熱重合法にて製造し、その後の固相重合に供することが好ましい。より具体的には、加熱重合法にてアミノ末端基濃度とカルボキシル末端基濃度が以下の関係にあるポリアミド56樹脂を製造し、固相重合に供することが好ましい。
0.3≦[NH2]/([NH2]+[COOH])≦0.7
[NH2]:固相重合に供するポリアミド56樹脂中のアミノ末端基濃度(eq/ton)
[COOH]:固相重合に供するポリアミド56樹脂中のカルボキシル末端基濃度(eq/ton)
ここで、固相重合に供するポリアミド56樹脂は0.4≦[NH2]/([NH2]+[COOH])≦0.6であることがより好ましい。
また、水の共存下にて加圧加熱重合法で製造したポリアミド56樹脂は、硫酸相対粘度が2〜2.9であることが好ましい。硫酸相対粘度が2.9以下であることで、重合遅延による熱分解や、塩基性アミンの形成を抑えられるため好ましい。一方で、硫酸相対粘度が2以上であることで、吐出工程におけるポリマーの吐出状態が安定し、ペレット粒度が均一なポリアミド56樹脂を製造できるため好ましい。より好ましくは2.1〜2.85であり、2.2〜2.8がさらに好ましい。
重合後期における1,5−ペンタメチレンジアミンと、アジピン酸とのモルバランスを保つために、重合開始時にアジピン酸に対して、1,5−ペンタメチレンジアミンを過剰に仕込んで加熱重合で揮発する1,5−ペンタメチレンジアミンを補うことや、加熱重合の到達温度、重合時間等を特定の範囲とし、加熱重合における1,5−ペンタメチレンジアミンの揮発を抑える手法も取り得るが、本発明者らが詳細に検討した結果、これらの手法のみでは、アミノ末端基とカルボキシル末端基がバランスよく存在するポリアミド56樹脂を製造することは困難であることがわかった。
そしてさらに鋭意検討した結果、1,5−ペンタメチレンジアミンは特に親水性が高いため、水の蒸発に付随して揮発され易い特徴を有するため、重合反応が殆ど進行していない重合初期段階から原料を含む水溶液を高温にせしめて水を蒸発させると、1,5−ペンタメチレンジアミンの揮発量が非常に多くなってしまう傾向にあることがわかった。具体的には、重合初期段階から液温が150℃を超える状態にしてしまうと、水の蒸発に付随して1,5−ペンタメチレンジアミンが特に揮発し易いことが判明した。
そこで、加熱重合法にてポリアミド56樹脂を製造する方法において、原料調製工程にて原料モノマーから原料水溶液を調製する際のモノマー濃度を55〜80重量%とした後、濃縮工程での該水溶液の温度を100〜150℃とし、原料モノマーの濃度が80〜95重量%まで濃縮することが好ましい。そして、昇圧工程、制圧工程、放圧工程、減圧工程、吐出工程を経て、ポリアミド56樹脂を製造する。
原料水溶液の濃度を55重量%以上にすることで、後の濃縮工程で蒸発する水が少なくなり、1,5−ペンタンジアミンの揮発量を低減できるため好ましい。ここで、原料モノマーとは、本発明のポリアミド56を構成するモノマーを指し、1,5−ペンタメチレンジアミン、アジピン酸、およびそれ以外の上述した共重合成分を含むものである。そして原料モノマー濃度とは、原料モノマーの総重量を、水溶液の重量で除して100倍した値である。一方で、原料水溶液の濃度を80重量%以下にすることで水溶液が流れる配管の保温温度を適度な範囲に抑えることができ、配管の耐熱性、エネルギー消費の観点から好ましい。より好ましくは60〜80重量%、さらに好ましくは65〜80重量%である。
ところで、一般的なポリアミド66の原料である1,6−ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸からなる塩は、水への溶解度があまり高くないため、あまり高濃度にすると塩が再結晶化して析出する問題を抱えていた。よって水溶液中の塩の濃度は50重量%程度に調整する必要があり、50重量%以下であっても水溶液の温度が低いと再結晶化し易いため、配管ラインを保温するなどの対策が必要であった。このため原料調製工程において、塩の水溶液を高めることは技術的に困難とされてきた。それに対し、ポリアミド56の原料である1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸との塩は、水に対する溶解度が極めて高い塩であることがわかった。例えば、ポリアミド66樹脂の原料である1,6−ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩の50重量%水溶液は、液温が40℃を下ると再結晶化が開始してしまうのに対し、1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩の50重量%水溶液は、液温5℃でも再結晶化は起こらず、均一な溶解状態が保たれることを発見した。この新たな特徴により、予め高濃度の原料水溶液を調製することができ、1,5−ペンタメチレンジアミンを殆ど揮発させずに高濃度化することを見出したのである。
原料調製工程での水溶液の温度が10〜70℃の範囲であると、1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸との塩の水への溶解度が高まり、かつ配管ラインの保温に要するエネルギー消費量が抑えられるため好ましい。より好ましくは20〜60℃である。
本発明の加熱重合法においては、原料調製工程後に、原料を含む水溶液を濃縮する工程(濃縮工程)を含むことが好ましく、濃縮工程において水溶液の濃度を80〜95重量%に濃縮してから昇圧工程へ供することが好ましい。水溶液の濃度を80重量%以上とすることで、重合工程における1,5−ペンタンジアミンの揮発量が抑えられるため好ましい。一方で、水溶液の濃度を95重量%以下にすることで、制圧工程においてプレポリマーが生成され易くなるため好ましい。よって濃縮工程終了時の水溶液の濃度は83〜93重量%であることがより好ましく、85〜90重量%であることがさらに好ましい。このとき水溶液の温度を150℃以下に保つことが好ましく、該温度範囲で濃縮することで、1,5−ペンタメチレンジアミンの揮発を抑えながら、水を積極的に蒸発させることが可能となる。より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは130℃以下、特に好ましくは100〜120℃である。また同様の理由により、重合缶内の圧力(ゲージ圧)を0.05〜0.5MPaに保持するように、重合缶のバルブを調整することが好ましく、0.1〜0.4MPaに保つことがより好ましい。濃縮時間は水溶液の濃度が上記範囲になるように選択すればよいが、0.5〜5時間であることが好ましい。
上述した本発明の好ましい加熱重合方法においては、重合缶に仕込む塩の水溶液の濃度が高いため揮発する水の絶対量が少なく、かつ濃縮工程において比較的低温、かつ微加圧で水溶液を濃縮しているため、重合工程で揮発する1,5−ペンタメチレンジアミンの量を大幅に低減できる。よって上記の要件を満たす加熱重合方法にて、原料調製工程で原料水溶液中に存在する、1,5−ペンタメチレンジアミンのモル数と、アジピン酸のモル数との比を、0.95〜1.05の範囲で調整することや、制圧工程、放圧工程、減圧工程における缶内温度、缶内圧力、処理時間等の条件を調整することで、上述の如くアミノ末端基とカルボキシル末端基とがバランスよく存在したポリアミド56樹脂を製造できるため好ましい。また、上述にて例示したポリアミド56に共重合可能なアミン化合物や、カルボン酸化合物などを併用することで重合反応を制御して末端基を調整することもできる。
そして重合反応を促進することが、1,5−ペンタメチレンジアミンの揮発を抑制するためには好ましいことから、重合促進剤をポリアミド56樹脂の製造工程におけるいずれかの段階で含有せしめることが好ましい。重合促進剤としては、促進効果が高く、かつ耐熱安定剤としての作用を有するリン系化合物が好ましく、フェニルホスホン酸が好適に用いられる。
重合工程における上記以外の工程については、例えば特開2003−292612号公報、特開2004−075932号公報、等の公知の方法を採用することができるが、より具体的に好ましい製造方法を以下に説明する。
昇圧工程では重合系内を密閉系とし、原料を含む水溶液を加熱して水蒸気を発生させることで、後述する制圧工程での所望の圧力へ昇圧することが好ましい。昇圧に要する時間は0.1〜2時間の範囲とすることが好ましい。これにより重合缶内の温度を均一に高められ、1,5−ペンタメチレンジアミンの環化反応も抑えられるため好ましい。
制圧工程では重合系内を一定の加圧状態に維持しながら加熱し、プレポリマーを生成させることが好ましい。このとき缶内圧力(ゲージ圧)を1〜2MPaとすることで、1,5−ペンタメチレンジアミンの揮発が抑えられるとともに、プレポリマーが形成され易くなるため好ましい。缶内圧力は外界と繋がるバルブの開閉度合いを調整する等によって調整すればよい。また缶内温度は180〜280℃とすることが好ましく、200〜270℃とすることがより好ましい。
放圧工程では重合缶内の圧力を放圧して常圧に戻し、重合缶内の温度をプレポリマーの融点以上にすることが好ましい。放圧に要する時間を0.1〜3時間の範囲で調整することで、未反応で残存する1,5−ペンタメチレンジジアミンが揮発し難くなるため好ましい。より好ましくは0.2〜2時間であり、さらに好ましくは0.3〜1時間である。そして上記の時間をかけて、重合缶内の温度をプレポリマーの融点以上まで上昇させることが好ましく、具体的には220〜270℃とすることが好ましい。より好ましくは230〜260℃とすることが好ましい。
減圧工程では、重合缶内の温度を生成ポリマーの融点以上に加熱することで重縮合が進行し易くなるため好ましい。一方で適度な温度に抑えることでポリマーの熱分解が抑えられるため好ましい。よって重合缶内の温度は240〜300℃とすることが好ましい。
また重合缶内の圧力を低くすると重縮合で発生した水を系外へ除去でき反応を進行させ易くなり、適度な減圧下とすることで反応の均一性も維持されるため好ましい。よって重合缶内の圧力(ゲージ圧)は−5〜−50kPaの範囲で調整することが好ましい。減圧工程での重合時間は所望の硫酸相対粘度のポリアミド56樹脂となる範囲で選択すればよいが、0.1〜2時間にすることで、重合缶内での熱分解が抑えられるため好ましい。
吐出工程においては、窒素等の不活性ガスを重合缶内に注入して重合缶内の圧力(ゲージ圧)を0.1〜2MPaに加圧し、ポリマーを吐出させればよい。吐出されたポリマーを水冷し、後述のごとく固相重合せしめるのに好ましいペレット粒度となるようにカットすることが好ましい。
次に好ましい固相重合法について説明する。
ポリアミド56樹脂は、従来のポリアミド66樹脂と比べて結晶化速度が遅く、急速に高温まで昇温してしまうとペレット同士が部分融着したり、酷い場合には塊状になったりして固相重合が均一に進行しない場合がある。よって、加熱重合法で得られたポリアミド56樹脂のペレットを、まず缶内温度80〜120℃、減圧または窒素フロー下で、ペレットを攪拌しながら、1〜10時間かけて乾燥および予備結晶化させることが好ましい。
その後、缶内温度130〜200℃にて、ペレットを攪拌しながら減圧下で、1〜48時間、固相重合することで、所望の硫酸相対粘度のポリアミド56樹脂を製造することが好ましい。このとき、ペレットの外層と内層で固相重合を均一に進行させるために、缶内圧力を399Pa以下まで減圧することが好ましく、133Pa以下まで減圧することがより好ましい。また缶内温度を段階的に高めながら徐々に固相重合を進行させることが好ましく、缶内温度が130℃に到達してからの昇温速度は1〜20℃/hrであることが好ましく、2〜10℃/hrとすることがより好ましい。そして缶内の最高到達温度が低いほど、固相重合工程における熱分解が抑えられ、結果として分子量分布の狭いポリアミド56フィラメントを製造できる。よって、固相重合における缶内温度は195℃以下であることがより好ましく、190℃以下であることがさらに好ましく、185℃以下であることが特に好ましい。
固相重合に供するポリアミド56樹脂のペレットの形状は角型、丸形などを選択できるが、ペレット粒度(mg/個)が小さいほど、固相重合でのペレットの内外層で重合度の斑が生じにくいため好ましい。一方で適度な粒度であることで高温に晒されてもペレット同士の融着が起こり難いため好ましい。よってペレットの粒度は2〜70mg/個であることが好ましい。下限としては5mg/個以上であることがより好ましく、8mg/個以上であることがさらに好ましく。10mg/個以上であることがいっそう好ましい。上限としては50mg/個以下であることがより好ましく、30mg/個であることがさらに好ましい。また、ペレット粒度が揃っているほど、固相重合反応がペレット間で均一に進行するため好ましく、ペレット粒度のCV%は20%以下であることが好ましく、0〜10%がより好ましい。
また本発明のフィラメントを製造する際には固相重合後のポリアミド56樹脂ペレットを用いるが、固相重合後のポリアミド56樹脂ペレットの粒度は2〜70mg/個であることが好ましい。該粒度の範囲にすることで、上記の硫酸相対粘度3〜8と、分子量分布の指標である分散度(Mw/Mn)1.5〜3を達成できる。すなわち、ポリアミド56樹脂のペレット粒度(mg/個)が小さいほど、固相重合でのペレットの内外層で重合度の斑が生じにくく、一方で、ある一定のサイズ以上にすることで、高温に晒されてもペレット同士の融着が起こり難いためペレットのハンドリングが向上して好ましい。下限としては5mg/個以上であることがより好ましく、8mg/個以上であることがさらに好ましく、10mg/個以上であることがいっそう好ましい。上限としては50mg/個以下であることがより好ましく、30mg/個であることがさらに好ましい。
次に、本発明の製糸方法について説明する。
上記の如く加熱重合方法および固相重合法によって製造したポリアミド56樹脂を用いて、硫酸相対粘度3〜8、Mw/Mn1.5〜3である紡出糸を形成し、該紡出糸を冷却風にて固化した後、非含水油剤を付与し、300〜2000m/分で引取った後、得られるフィラメントの伸度が10〜50%となる延伸倍率で延伸し、最終熱処理ロールの温度を210〜250℃として熱処理した後、リラックス倍率0.8〜0.95としてリラックスせしめた後、巻き取ることで本発明のポリアミド56フィラメントを製造することができる。
ここではまず、ポリアミド56樹脂を溶融して紡出するまでの工程で熱分解を抑え、Mw/Mnが3以下のポリアミド56フィラメントを紡出することが肝要である。そのためポリアミド56樹脂を加熱乾燥して水分率を1000ppm以下にしてから溶融紡糸に供することが好ましい。ところで、通常のポリアミド66では過度に水分率が低いと溶融貯留におけるゲル化が誘発されて、糸切れを招く傾向にあるが、ポリアミド56ではゲル化は起こり難く、溶融貯留での熱劣化を抑えるためには水分率は低いほど好ましい。水分率は600ppm以下がより好ましく、10〜400ppmがさらに好ましい。ポリアミド56がポリアミド66と比べて溶融貯留時にゲル化し難い理由は定かではないが、アミノ末端基が結合するメチレン鎖の炭素数が短いことが原因と考えられる。つまり、ポリアミド66においてはアミノ末端基が炭素数6のメチレン鎖に結合しているため、アミノ末端近傍の分子鎖が還化し易く、熱分解すると還化物が遊離してゲル化を誘発するのに対し、ポリアミド56樹脂では、メチレン鎖の炭素数が5であるため、立体障害によって還化し難く、ゲル化が殆ど起こらないものと推定している。
次に、溶融紡糸における紡糸温度は260〜310℃であることが好ましい。紡糸温度が310℃以下に設定することで、ポリアミド56の熱分解が抑えられるため好ましい。より好ましくは300℃以下であり、さらに好ましくは295℃以下である。一方で紡糸温度が260℃以上であることでポリアミド56が十分な溶融流動性を示し、吐出孔間の吐出量が均一化され、高倍率延伸が可能となるため好ましい。270℃以上がより好ましく、275℃以上がさらに好ましい。
また、ポリアミド56はポリアミド66に対比で耐熱性が低いポリマーであるため、熱分解による分子量低下、Mw/Mnの増加を抑えるために、溶融紡糸工程における滞留時間(ポリアミド56樹脂が溶融され、紡糸口金から吐出されるまでの時間)は短いほど好ましい。滞留時間は30分以下であることが好ましく、15分以下であることがより好ましく、0.5〜7分であることがさらに好ましい。
また、溶融紡糸工程において、溶融部には1軸および/または2軸のエクストルーダーが付帯されていることが好ましい。上記のエクストルーダーによってポリアミド56樹脂に適度な圧力を加えながらポリマー配管、ギヤポンプ、紡糸パックへ導くことができるため、これら流路において異常滞留を起こすことが無く、ポリアミド56の熱分解が抑えられるため好ましい。
また、紡糸口金から吐出される前の段階で、SUS不織布フィルターや、サンド等によってポリアミド56樹脂を濾過することで、紡糸操業が安定化するため好ましい。
紡糸口金における口金孔の形状は製造するフィラメントを構成する単繊維の断面形状に応じて選択すればよいが、本発明の好ましい態様である丸断面の単繊維で構成されるフィラメントにおいて、単繊維間で均一にポリマーを吐出するには孔径は0.1〜0.4mm、孔長は0.1〜5mmの範囲で選択することが好ましい。また口金を複数枚の構成として、1枚目の口金でポリマーの計量性を高めるなどの手段を講じることもできる。
このようにして硫酸相対粘度が3〜8、Mw/Mnが1.5〜3の紡出糸を形成した後、該紡出糸を冷却風にて固化し、引取った後、延伸し、熱処理することで本発明のフィラメントを得るが、このとき製糸工程におけるポリアミド56フィラメントの吸湿を抑えることが好ましい。これは、ポリアミド56が主として親水性の高いペンタメチレンアジパミド単位で構成されるため繊維が吸湿し易く、延伸に供する未延伸糸に多くの水が担持され易いためであり、水が含まれるとポリアミド56分子鎖間の相互作用力が低減したり、相互作用力に分布が生じたりして、紡糸、延伸工程で分子鎖を均一に配向させることが難しくなる傾向にあるためである。フィラメントの吸湿を抑える点で、溶融紡糸、延伸、熱処理は連続して行うことが好ましい。
また、紡出糸を冷却する方法としては、一般に水冷により固化させる方法、冷却風にて固化させる方法があるが、吸湿を抑えることが好ましいことから冷却風にて固化させることが好ましい。そして冷却風は、風速0.3〜1m/秒、風温15〜25℃、相対湿度20〜70%の気体で冷却させることがより好ましい。同様に溶融紡糸、延伸を行う室内の温湿度環境は、温度20〜30℃であることが好ましく、相対湿度は20〜65%の範囲で出来るだけ低いことが好ましい。また、その時の温湿度変化は±3℃以内、湿度は±5%以内で調整されていることが好ましい。また冷却風の発生装置としては、ユニフロータイプ、環状タイプが挙げられるが、単繊維間で均一な冷却が行える点で環状タイプが好ましい。
そして冷却風開始点が口金面から鉛直下方に離れているほど、フィラメントの強度が高くなるため好ましい。一方で、過度に離れるとフィラメントの冷却が不十分となって糸斑を招く場合がある。よって冷却開始点は0.05〜0.5mの地点とすることが好ましい。より好ましくは0.1〜0.4m、さらに好ましくは0.12〜0.3mである。
ここで口金面から冷却開始点までの間に加熱筒を配して紡出糸を再加熱した後、冷却風にて冷却することが好ましい。加熱筒で再加熱することで高温域での細化が誘発され、より均一な配向形成が起こるため好ましく、加熱筒の温度が紡糸温度+20〜100℃であれば紡出糸の再加熱が効率的に行え、かつ紡出糸の熱分解も抑えられるため好ましい。
また引取ロールやガイド等での擦過が大きいと、得られるフィラメント中の強度低下や、毛羽の発生を招く傾向にあるため、紡出糸を引き取る前の段階にて紡糸油剤を付着させることが好ましい。さらにポリアミド56の吸湿を抑えるために、水を含まない非含水油剤であることが好ましい。非含水紡糸油剤とは、平滑剤、帯電防止剤、乳化剤等の油剤有効成分を、炭素数が12〜20である鉱物油にて希釈したものであり、従来公知のものを用いることができる。付着量は油剤有効成分が得られる捲縮糸に対して0.1〜2重量%となるように調整することが好ましい。
そして非含水油剤を付着せしめた紡出糸を引き取ることで未延伸糸を形成するが、このときの引取速度を300〜2000m/分とすることが好ましい。引取速度が300m/分以上であることで紡糸張力が適度に高まって紡出糸の糸揺れが軽減されるため好ましい。一方で引取速度を適度な範囲とすることで高倍率延伸が可能となり、強度の高いフィラメントとなるため好ましい。引取速度は500〜1500m/分がより好ましく、700〜1200m/分がさらに好ましい。
引き続いて未延伸糸に、得られるフィラメントの伸度が10〜50%となるように延伸を施すことが好ましい。下限としては12%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましく、18%以上であることがいっそう好ましい。上限としては40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましく、25%以下であることがいっそう好ましく、23%以下であることがよりいっそう好ましい。
延伸倍率(=巻取速度/引取速度)は上記の伸度になるように2〜7倍の範囲で選択すればよく、まず特定の延伸倍率でフィラメントを製造し、得られたフィラメントの伸度を測定し、該伸度から逆算して延伸倍率を再調整することを繰り返して上述の伸度のフィラメントとなるように延伸倍率を決定する。
延伸工程における熱源としてはフィラメントの吸湿を抑えることが重要であることから、延伸、熱処理の熱源としては、加熱ロール、熱板、乾熱炉、レーザー等の乾式の熱源を採用することが好ましく、より加熱効率に優れることから、加熱ロールを熱源とすることが好ましい。温水やスチーム等の湿式の熱源では、ポリアミド56フィラメントが延伸工程で吸湿してしまって、分子間相互作用が弱まり、均一に配向化させ難くなる傾向にある。
延伸は2段以上の多段で延伸することで、分子間の相互作用を高めながら高配向化させ、分子鎖を均一に配向せしめて緻密な配向結晶相を形成できるため好ましい。より好ましくは3段以上、さらに好ましくは4段以上、特に好ましくは5段以上である。
そして吸湿性の高いポリアミド56フィラメントの分子鎖を、延伸工程で均一に配向させるためには、延伸温度100〜245℃で、延伸倍率が1.3倍以上であることが好ましい。多段延伸を施す場合は、100℃未満の低温域(1段目延伸)で施す延伸倍率を低く設定し、100℃以上の高温域(2段目以降の延伸)で施す延伸倍率を高くすることを意味する。そして引取速度が高い場合には、未延伸糸中に微結晶が形成されている効果によってロール上での糸揺れが抑えられるため、第1ロール(1段目延伸)から延伸温度を100℃以上とすることも可能である。100℃以上の温度に繊維を加熱した後に延伸することにより、水の沸点以上に繊維が加熱された後に延伸されるため、それまでに繊維が吸湿していた水が系外へ排除され、分子間相互作用が高まるため、非晶鎖に均一に延伸応力が伝わって配向の均一性が高まるため好ましい。一方で延伸温度を245℃以下とすることで、非晶鎖の運動性が適度な範囲に抑えられ、非晶鎖が配向緩和を起こすことなく高配向化するため好ましい。延伸温度のより好ましい範囲は120〜235℃であり、さらに好ましい範囲は140〜225℃である。従来のポリアミド66繊維においては、高強度で高品位な繊維が工程通過性良く得るために、延伸温度100℃以上の高温域(2段目以降の延伸)での延伸倍率を低く設定し、100℃未満の低温度域(1段目延伸)で出来る限り高倍率で延伸を施すことが好ましい方法であった。これはポリアミド66の高結晶性に起因するものであり、延伸温度100℃以上の加熱ロールではフィラメント中に球晶が形成され、延伸性を阻害するためである。一方で、ポリアミド56フィラメントは、その低結晶性に由来し、延伸温度100℃以上の加熱ロール上においても球晶は形成され難い。よって高吸湿性による悪影響を排除する方が優先されるため、100℃未満の低温度域(1段目延伸)で施す延伸倍率を低く設定し、100℃以上の高温度域(2段目以降延伸)で施す延伸倍率を高くすることが好ましい。延伸温度100〜245℃での延伸倍率は高いほど好ましく、また上記の延伸温度で施される延伸倍率は1.5倍以上であることがより好ましく、1.7倍以上であることがさらに好ましく、2倍以上であることが特に好ましく、2.3倍以上が最良である。
ここで、延伸温度とは以下のように定義されるものである。例えば加熱ロールを熱源として2つの加熱ロール間で延伸を施す場合、延伸温度は上流側のロールの温度と定義する。ロール間に熱板を配置して延伸を施す場合、延伸温度は熱板の温度と定義する。ロール間に加熱炉を配置して延伸を施す場合、延伸温度は加熱炉の温度と定義する。また炭酸ガスレーザー等の熱源を用いて延伸を施す場合、赤外線放射温度計等の温度計で測定した糸温度を延伸温度とする。
例えば非加熱ロール、加熱ロールを併用し、複数のロール間で多段延伸を施す場合の、延伸温度100〜245℃の延伸倍率の算出方法について以下に例示する。第1ロールから第6ロールを介して巻き取られる5段延伸を施す場合であって、第1ロール温度25℃、第2ロール温度60℃、第3ロール温度145℃、第4ロール210℃、第5ロール230℃、第6ロール25℃とし、第1ロールと第2ロールとの速度比によって延伸倍率r1で延伸し、第2ロールと第3ロールとの速度比によって延伸倍率r2で延伸し、第3ロールと第4ロールとの速度比によって延伸倍率r3で延伸し、第4ロールと第5ロールとの速度比によって延伸倍率r4で延伸し、第5ロールと第6ロールとの速度比によってリラックス倍率r5でリラックス処理される場合、延伸温度100〜245℃の延伸倍率とは、第3ロールから第5ロール間で施される延伸倍率の積算値として求められる。そして第5ロールから第6ロール間のリラックス処理で施されるリラックス倍率r5のような1未満の倍率は延伸倍率に計上しないものとする。すなわち上述の場合、延伸温度100〜245℃での延伸倍率は、r3×r4となる。
そして245℃以下の範囲で、延伸温度を段階的に高めて多段延伸することで、配向した非晶鎖を部分的に配向結晶化させながら延伸することができるため、結晶相からの分子鎖の引き抜きが起こって結晶相同士をつなぐ緊張タイ分子が多く形成され、高強度で沸収の低いフィラメントが得られる。
特に最高熱処理温度が210〜250℃であることが極めて重要であり、上述の溶融紡糸、延伸方法によって高配向化させたポリアミド56分子を210℃以上の温度で熱セットすることで、配向非晶が効率的に結晶化し、伸びきり鎖状態で緻密性の高い結晶相が多く形成され、高強度かつ低沸収のフィラメントとなるため好ましい。但し、Mw/Mnが3を超えるポリアミド56フィラメントの場合、熱処理に供する延伸糸の分子配向が不均一になり易く、最高熱処理温度を210℃以上とすると、糸揺れ、糸割れが激しくなって連続サンプリングが難しくなる。また硫酸相対粘度が3未満のポリアミド56フィラメントの場合、分子1本当たりに作用する相互作用力が不十分のため、最高熱処理温度を210℃以上とすると、高配向化した非晶鎖の配向状態が維持できずに緩和してしまい、強度が低下する傾向にある。よって、ポリアミド56フィラメントの硫酸相対粘度が3以上で、Mw/Mnが3以下である場合に初めて、最高熱処理温度210℃以上で安定して延伸することが可能となり、本発明の目的とする機械的特性に優れたポリアミド56フィラメントを製造することが可能になる。
一方で、最高熱処理温度の温度が250℃を超える温度であると、ロールに糸が融着して糸切れを招き、工程通過性が悪化する場合があったり、結晶化は促進されるものの、非晶鎖の配向状態が乱れて、フィラメントの強度が低下してしまう場合がある。
これらのことから最高熱処理温度の温度は215〜245℃であることがより好ましく、220〜240℃であることがさらに好ましい。
ここで最高熱処理温度とは、延伸糸を巻き取る前の段階において施される熱処理において、最も高温度で施される熱処理の温度である。例えば上述の第1ロールから第6ロールで延伸を施す手法の場合であれば、第5ロールで施す熱処理の温度が、最高熱処理温度に該当する。また、延伸温度は段階的に高めることが好ましいことから、該最高熱処理は最終加熱ロール(上述の例であれば第5ロール)で施すことが好ましい。
上記のとおり延伸を施した後、連続して最終加熱ロールと最終ロールとの間の速度比によって、リラックス処理されることが好ましい。リラックス処理とは最終ロール速度/最終加熱ロール速度で定義される倍率が1未満の場合を指し、リラックス倍率は0.8〜0.95倍であることが好ましい。リラックス倍率が0.95倍以下であることで、延伸工程で非晶鎖に加わった不均一な歪みが平均化され非晶鎖が安定化するため、得られるフィラメントの沸収が低くなり好ましい。より好ましくは0.93倍以下、さらに好ましくは0.91倍以下である。リラックス倍率は低いほど好ましいが、リラックス倍率を0.8以上とすることで、ロール間で適度な糸張力が発現し、工程通過性も良好となるため好ましい。より好ましくは0.83以上、さらに好ましくは0.86以上である。
また、ポリアミド56フィラメントをリラックス処理後に巻取機にて巻き取る際の張力は0.05〜0.15cN/dtexで行うことが好ましい。巻取張力を0.15cN/dtex以下とすることでパッケージの巻締まりを回避でき、巻取張力を0.05cN/dtex以上とすることにより、パッケージフォームが良好となるため好ましい。より好ましい巻取張力は0.07〜0.13cN/dtexであり、さらに好ましくは0.09〜0.11cN/dtexである。
また、フィラメントは巻き取る前の任意の段階で、交絡処理を施してもよい。交絡処理の回数、処理圧力は、捲縮糸のCF値が3〜30となるように調整すればよい。
以上の製造方法によって総繊度、単繊維繊度が小さいながら、高強度であり、適度な沸収を有するポリアミド56フィラメントを製造することができる。そして該フィラメントは沸水処理後も高強度かつ低弾性率なフィラメントとなるため、エアバッグ用基布などの高密度織物に最適である。
次に、本発明のエアバッグ用基布の製造方法について説明する。本発明のエアバッグ用基布の製造方法としては、従来公知の製造方法を採用することができるが、より好ましい製造方法を以下に例示する。
本発明のポリアミド56フィラメントを整経、製織する際の織機は、ウォータージェットルーム、エアージェットルーム、レピアルームなどが採用でき、生産性よく高密度な織物を形成できる点で、ウォータージェットルーム、またはエアージェットルームであることが好ましい。織構造については、上述の如く平織、綾織、斜織、朱子織、これらの組み合わせなどを採用できるが、平織が最も好ましく、袋織り製織されることが好ましい。経糸、緯糸の打ち込み本数は、得られるエアバッグ用基布のカバーファクターが上記範囲となるように選択すればよい。
整経工程および製織工程においては、経糸張力および緯糸張力が高いほど、高密度織物を工程通過性よく製造することができるため好ましく、一方で経糸張力を適度な範囲に抑えることでフィラメントが伸ばされて変形したり、毛羽が発生したりする問題が無く、高品位な高密度織物を形成することができるため好ましい。よって、経糸張力および緯糸張力は0.05〜0.6cN/dtexの範囲で調整することが好ましく、0.1〜0.5cN/dtexの範囲で調整することがより好ましい。
このようにして製織された織物を湿熱処理により熱収縮せしめることが好ましく、これにより最終的に得られる基布の分解糸の10%伸長時応力を2cN/dtex以下にすることができるため好ましい。湿熱処理の方法は、温水や加圧熱水、スチームなどを選択でき、湿熱処理は1段階でも、2段階以上の他段階処理でもよい。また湿熱処理と同時に従来公知の精錬剤を付与して同時に精錬を施すことも好ましい手法である。湿熱処理の温度は60〜150℃の範囲、処理時間0.01〜90分、緊張処理および/または弛緩処理を施すことが好ましい。この範囲で処理することにより、最終的に得られる基布の沸水処理における収縮率や分解糸の強度、10%伸長時応力が本発明の好ましい範囲となるように調整する。上記範囲において処理温度が高く、処理時間が長い弛緩状態で処理すると、基布の沸水処理後の収縮率が低く、分解糸の強度が低く、かつ10%伸長時応力が低い基布となり易い。一方で処理温度が低く、処理時間が短い条件で緊張状態で処理すると、基布の沸水処理後の収縮率が高く、分解糸の強度が高く、10%伸長時応力が高い基布となり易い傾向にある。
湿熱処理は、製織工程の後に連続して行ってもよく、一旦製織した後、別工程で行ってもよい。また、バッチ方式、連続方式のいずれも採用することができるが、湿熱処理ゾーンに基布を供給、排出させながら連続的に湿熱処理を行うことが生産性に優れるため好ましい。この場合、上述の如く処理温度、処理時間を調整することに加え、経方向および緯方向の収縮度合いを制御しながら湿熱処理することが好ましい。経方向の収縮度合いは湿熱処理の際の織物の供給量と排出量を変更することでコントロールでき、緯方向に関しては湿熱処理の際に織物の両端の距離を固定しながら行うことにより達成できる。そして、湿熱処理前の緯方向の織り幅に対する両端の織物固定部の距離を調整することで収縮度合いをコントロールできる。
また、織物はファイナルセット工程で熱固定することが好ましい。ファイナルセット温度は80〜200℃が好ましく、より好ましくは120〜180℃であり、ファイナルセット時間は0.1〜30分の範囲で適宜選択すればよい。そして前記湿熱処理時の寸法が保持される様に緊張させながら乾燥することが好ましい。
なお、湿熱処理後の織物はファイナルセット工程の前に、必要に応じて乾燥処理を施してもよい。乾燥温度は80〜200℃の範囲であることが好ましく、100〜170℃であることがより好ましい。また処理時間は0.1〜30分で適宜選択することが好ましい。乾燥は織物を弛緩状態で行ってもよいし、緊張状態で行ってもよい。
また、より低い通気度の基布とするためには、得られた織物にカレンダ−加工処理を施すこともできる。カレンダ−加工の温度は180〜220℃、圧力は3000〜10000N/cm、速度は4〜50m/分が好ましい。カレンダ−加工を片面または両面に施すことで、通気度を制御することもできる。
以上の製法によって、本発明の一態様であるエアバッグ用ノンコ−ト基布が得られる。
次に、別の態様であるエアバッグ用コ−ト基布を製造する場合について説明する。コート基布の場合は、ノンコート基布にエラストマーをコーティングし、ヒートセット加工してエアバッグ用コ−ト基布とする。織物表面にエラストマーをコーティングする方法としては、織物を樹脂溶液槽に浸漬させた後、余分な樹脂をマングル、バキューム、さらにはコーティングナイフ等を用いて除去・均一化する方法、スプレー装置やフォーミング装置を用いて樹脂を吹き付ける方法などが採用できる。これらの内、樹脂を均一かつ、少なく塗布するという観点からはコーティングナイフを用いたナイフコーティング法が好ましい。
また、塗布するエラストマーは難燃性、耐熱性、空気遮断性等に優れているものが好ましく、例えば、シリコーン樹脂、クロロプレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド系樹脂などが好適であり、より少ない塗布量でも均一なコーティングがし易い点で、シリコーン樹脂であることが好ましい。
なお、上記の高次加工の工程順序は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜入れ替えることができる。
以上、本発明のエアバッグ用織物の製造法によって、本発明のエアバッグ用基布、すなわちノンコ−ト基布もしくはコ−ト基布が得ることができ、これらの基布を用いて従来公知の方法により、エアバッグ装置を構成することができる。
以下、本発明を、実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
A.硫酸相対粘度
試料(樹脂、フィラメント、分解糸)0.25gを濃度98重量%の硫酸100mlに対して1gになるように溶解し、オストワルド型粘度計を用いて25℃での流下時間(T1)を測定した。引き続き、濃度98重量%の硫酸のみの流下時間(T2)を測定した。T2に対するT1の比、すなわちT1/T2を硫酸相対粘度とした。
B.Mw/Mn
試料(樹脂、フィラメント、分解糸)を90℃の熱水で30分間洗浄した後、90℃で真空乾燥して水分率を1000ppmとし、ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解して測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、PMMA換算で重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を求め、Mw/Mnを求めた。測定条件は下記の通りである。
・GPC装置:Waters510
・カラム:Shodex GPC HFIP−806Mを2本連結して使用
・溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール
・温度:30℃
・流速:0.5ml/分
・試料濃度:2mg/4ml
・濾過:0.45μm−DISMIC 13HP(東洋濾紙)
・注入量:100μl
・検出器:示差屈折計RI(Waters 410)
・スタンダード:PMMA(濃度:サンプル0.25mg/溶媒1ml)
・測定時間:62分
C.アミノ末端基濃度
試料(樹脂、フィラメント、分解糸)1gを50mLのフェノール/エタノール混合溶液(フェノール/エタノール=80/20)に、30℃で振とう溶解させて溶液とし、この溶液を0.02Nの塩酸で中和滴定し要した0.02N塩酸量を求めた。また、上記フェノール/エタノール混合溶媒(上記と同量)のみを0.02N塩酸で中和滴定し要した0.02N塩酸の量を求める。そしてその差から試料1tonあたりのアミノ末端基量を求めた。
D.カルボキシル末端基濃度
試料(樹脂、フィラメント、分解糸)0.5gを196±1℃のベンジルアルコール20mlに溶解し、この溶液を0.02Nの水酸化カリウムエタノール溶液で中和滴定し、要した0.02N水酸化カリウムエタノール溶液の量を求める。また、上記ベンジルアルコール20mlのみを0.02Nの水酸化カリウムエタノール溶液で中和滴定し、要した0.02N水酸化カリウムエタノール溶液の量を求める。そしてその差から試料1tonあたりのカルボキシル末端基量を求めた。
E.融点、融解熱量
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、試料(樹脂、フィラメント、分解糸)10mgを昇温速度16℃/分にて測定して得た示差熱量曲線において吸熱側に極値を示すピークを融解ピークと判断し、極値を与える温度を融点(℃)とした。なお、複数の極値が存在する場合は高温側の極値を融点とした。また融解ピークの面積から求められる熱容量の積算し(複数の融解ピークを有する場合には合算し)を融解熱量とした。
F.水分率
カールフィッシャー電量滴定法水分計(平沼産業株式会社製微量水分測定装置AQ−2000、および同社製水分気化装置EV−200)を用い、水分気化温度180℃にて乾燥窒素ガスを流して測定した。
G.ペレット粒度、ペレット粒度のCV%
ランダムに選択したペレットの重量を測定し1個当たりのペレット重量(mg/個)を測定した。30個のペレットについて測定を行いそれぞれをxiとした(i=1〜30)。そして下記の式に基づき、ペレット粒度(記号:xave、単位:mg/個)、ペレット粒度のCV%(%)を求めた。
H.総繊度、単繊維繊度
試料がフィラメントである場合、1m/周の検尺機を用いて全長10mのかせを採取し、該かせの重量を測定して1000倍することで総繊度を求めた。そして総繊度をフィラメント数で除することで単繊維繊度を求めた。
試料が繊維構造体から採取した分解糸である場合、分解糸の糸端同士を結んで、ほどけないようにした周長60cmのループ状かせを作成した。そして室温25℃、相対湿度55%の雰囲気中に該かせを無荷重で24時間放置して調湿した。その後、同環境下において、結び目が下端なるようにしてかせをフックにかけ、かせの下端に0.08cN/dtexの荷重を掛け、かせ長25cm(周長50cm)の位置にマーキングした。そして荷重を取り除き、マーキングの位置でカセを切断することで50cmの分解糸を得た(結び目含まず)。そして50cmの分解糸の重量を測定し、20000倍することで分解糸の総繊度を求めた。測定は10回行い平均値をとった。このとき初めの測定では分解糸の総繊度が分からないため、測定に用いる荷重を決定するために予め暫定的な総繊度(暫定総繊度)を求めた。すなわち上記の測定における荷重を50g(1周のかせに対して)として暫定総繊度を求め、該暫定総繊度から荷重(0.08cN/dtex)を決定した。暫定総繊度の測定は10回行い、平均値をとった。その後、分解糸を構成するフィラメントの数を数えて、分解糸の総繊度をフィラメント数で除することで単糸繊度を求めた。
I.強度、伸度、10%伸長応力
JIS L1017 (1995)、7.5項の引張強さ及び伸び率、(1)標準時試験の測定方法に準じ、オリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT−100を用いて、試料(フィラメントまたは分解糸)のS−S曲線を測定した。測定に先立ち、試料を室温25℃、相対湿度55%の環境下、無荷重の状態で48時間放置して調湿した。そして該試料を同環境下において、初荷重0.08cN/dtex、試料長250mm、引張速度300m/分として、S−S曲線を測定した。
強度はS−S曲線における最大強力を示した点での強力を、総繊度で除することにより求めた。伸度はS−S曲線において最大強力を示した点の伸びを、試料長で除し、100倍することで求めた。10%伸長応力は伸度10%の強力を、総繊度で除することにより求めた。測定は10回行い平均値を取った。
J.98℃30分間の沸水処理による収縮率(沸収)
室温25℃、相対湿度55%の雰囲気中に24時間放置されていたパッケージから、1m/周の検尺機で10回転させて、該かせの糸端同士を結んで、ほどけないようにしたループ状かせを作成した。該ループ状かせを室温25℃、相対湿度55%の雰囲気中に、無荷重の状態で24時間放置したものと試料とした。同環境下にて、ループ状かせをフックにかけ、ループ状かせに0.08cN/dtexの荷重をかけてかせ長を測定し、元長L1とした。その後、該ループ状かせを無荷重な状態で沸騰水(98℃)に30分間浸積し、取り出した沸水処理後のかせを室温25℃、相対湿度55%で24時間乾燥する。乾燥後のループ状かせをフックにかけ、ループ状かせの下端に0.08cN/dtexの荷重をかけてかせ長を測定し、処理後長L2とした。そしてL1、L2を用い、次式により沸収を求めた。
沸収(%)=[(L1−L2)/L1]×100
K.沸水処理後の強度、10%伸長応力
室温25℃、相対湿度55%の雰囲気中に24時間放置したパッケージから解舒したフィラメントを切り出し、糸端同士を結んで、解けないようにした周長1メートルのループ状かせを作成した。該ループ状かせを室温25℃、相対湿度55%の雰囲気中に、無荷重の状態で24時間放置した後、無荷重な状態で沸騰水(98℃)に30分間浸積し、取り出した沸水処理後のかせを室温25℃、相対湿度55%で24時間乾燥した。該沸騰水処理後のフィラメントを試料とし、I項に記載の方法に準じて沸水処理後の強度、沸水処理後の10%伸長応力を求めた。このとき沸水処理後のフィラメントの総繊度としては下記の値を用いた。
沸水処理後のフィラメントの総繊度=フィラメントの総繊度×(1+沸収/100)
L.乾収
JIS L1017 (1995)、7.10項の 乾熱収縮率、(2)加熱後乾熱収縮率(B法)の測定方法に準じ、試料(フィラメント)の乾収を測定した。まず1m/周の検尺機で10回転させて、該かせの糸端同士を結んで、解けないようにしたループ状かせを作成した。そして該ループ状かせを室温25℃、相対湿度55%の環境下、無荷重の状態で48時間放置して調湿した。その後同環境下にて、試料長測定用のループ状かせをフックにかけ、ループ状かせに0.08cN/dtexの荷重をかけてかせ長を測定し、元長L3とした。そして荷重を取り除き、ループ状カセを、タバイエスペック社製ギヤーオーブンGPHH−200に投入し、荷重フリーの状態で、雰囲気温度150℃、処理時間30分間の乾熱処理を施した。そして乾熱処理後のループ状かせをオーブンから取り出した後、再度室温25℃、相対湿度55%の環境下、無荷重の状態で、48時間放置して調湿した。その後、同環境下で乾熱処理後のループ状かせをフックにかけ、0.08cN/dtexの荷重をかけてかせ長を測定し、処理後長L4とした。L3、L4を用いて、下記の式により乾収を求めた。測定は5回行い、平均値を求めた。
乾収=(L3−L4)/L3×100
M.U%
Zellweger uster社製UT4−CX/Mを用い、糸速度200m/分、測定時間1分間でU%(Normal)を測定した。
N.毛羽数
東レ(株)製毛羽 テスター(DT−104型)を使用し、10万m当たりの毛羽数を測定した。F形検出部を用い、測定糸速300m/分、張力0.08cN/dtex、測定時間180分間の条件で測定した。10本のパーケージについて測定を行い、検知された総毛羽数を総測定長54万m(5.4万m×10本)で除して10倍することにより、10万m当たりの毛羽数を求めた。本発明の目標レベルは10万m当たりの毛羽数が5個以下であり、0個以下が最良である。
O.糸切れ回数
100kgのフィラメントを製糸する際に発生した糸切れ回数をカウントした。糸切れ回数が少ないほど製糸性が良好と判断した。
P.98℃30分間の沸水処理による基布の収縮率
JIS L1096(1999)8.64.4、織物の寸法変化、B法(沸騰水浸漬法)に準じ、沸水処理による基布の収縮率を測定した。
まず室温25℃、相対湿度55%の環境下にてエアバッグ用基布を24時間放置した。そして25cm×25cmのエアバッグ用基布を切り出して試料した。そしてJIS L1096(1999)8.64.4の図58のごとく、測定区間を20cmとして該試料にマーキングを施したのち、弛緩状態で98℃の水に30分間浸漬して取り出した。取り出した試料を軽く押さえて水を切り、室温25℃、相対湿度55%の環境下において24時間自然乾燥した。沸水処理後の試料における測定区間の長さを測定した(L5:経方向、L6:緯方向)。そして下記の式を用いて、沸水処理による基布の収縮率を求めた。
沸水処理による経方向の基布の収縮率(%)=(20−L5)/20×100
沸水処理による緯方向の基布の収縮率(%)=(20−L6)/20×100
Q.基布の引張強度
JIS L1096(1999)8.12.1、引張り強さ及び伸び率、標準時、A法(ストリップ法)に準じ、オリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT−100を用いて、エアバッグ用基布の引張強度を測定した。
室温25℃、相対湿度55%の環境下にてエアバッグ用基布を24時間放置した後、試験片を切り出し、同環境下において、試験片の幅3cm、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分の条件で、切断時の強さ(N)を測定した。経方向、緯方向それぞれ5回測定を行い、平均値をそれぞれの方向の引張強度とした。
R.基布の引裂強力
JIS L1096(1999)8.15.1、引裂強さ、A−1法(シングルタング法)に準じ、エアバッグ用基布の引裂強力を測定した。
室温25℃、相対湿度55%の環境下にてエアバッグ用基布を24時間放置した後、10cm×25cmの試験片を切り出し、短辺の中央に辺と直角に10cmの切れ目を入れた後、オリエンテック(株)社製テンシロン(TENSILON)UCT−100を用いて、同温湿度境下において、つかみ間隔10cm、引張速度10cm/分の条件で引き裂くときの最大荷重(N)を測定した。経方向(経糸を切断する方向)、緯方向(緯糸を切断する方向)それぞれ5回測定を行い、平均値をそれぞれの方向の引裂強力とした。
S.経糸、緯糸の本数
JIS L1096(1999)8.6.1、織物の密度の測定方法に準じて、経糸の本数(本/2.54cm)、緯糸の本数(本/2.54cm)を測定した。室温25℃、相対湿度55%の環境下に24時間放置した試料(エアバッグ用基布)を、同温湿度環境下にて10cm区間の経糸の本数、10cm区間の緯糸の本数を数え、2.54cm当たりの経糸の本数、緯糸の本数に換算した。測定は5回行い平均値をとった。
T.厚さ
JIS L1096(1999)8.5.1、織物の厚さの測定方法に準じてエアバッグ用基布の厚さを測定した。室温25℃、相対湿度55%の環境下に24時間放置した試料(エアバッグ用基布)を、同温湿度環境下にて、厚さ測定器(株式会社安田精機製作所、ショッパー形厚さ測定器)を用い、圧力23.5kPaで、異なる5箇所について厚さを測定して、平均値を求めた。
U.通気度
JIS L1096(1999)、8.27.1、A法に準じてエアバッグ用基布の通気度を測定した。室温25℃、相対湿度55%の環境下に24時間放置したエアバッグ用基布から、縦20cm、横15cmに切り出して試料とした。同温湿度環境下にて、通気度測定機(テクステスト社製、FX3300−III)を用い、測定面積38cm2、テスト圧力19.6kPaの条件において、試料を通過する空気量(cc/cm2/sec)を測定した。異なる20個の試料について測定を行って平均値を基布の通気度とした。
V.剛軟性
JIS L1096(1999)、8.19.1、A法(45°カンチレバー法)に準じてエアバッグ用基布の剛軟性を測定した。室温25℃、相対湿度55%の環境下に24時間放置したエアバッグ用基布から、2cm×15cmの試験片を切り出して試料とし、同温湿度環境下にてカンチレバー形試験機を用いて剛軟性を測定した。測定は経方向(経糸が試料の長辺となる場合)、緯方向(緯糸が試料の長辺となる場合)についてそれぞれ5回行い、平均値をとった。
W.収納性
50cm×50cmのエアバッグ用基布を経方向、緯方向の順で折り返し、4つ折りにした試料を5つ用意し、水平な台の上に5つの試料を重ね合わせておいた後、30cm×30cm、重さ300gの鉄板を乗せた。そして5分間放置して安定させた後、エアバッグ用基布5枚分の高さを測定し、参考例1のエアバッグ用基布を用いて測定した値で除して100倍した値を用いて、収納性を評価した。小さいほど収納性の高いエアバッグ用基布と判断した。測定は異なる試料を用いて5回行い、平均値で評価した。
X.膨張展開性
エアバッグ用基布から直径725mmの円状布帛2枚を打抜き法にて裁断し、一方の円状布帛の中央に、同一布帛からなる直径200mmの円状補強布を3枚積層して、直径110mm、145mm、175mm線上を、上下糸ともポリアミド66繊維の470dtex/1×3から構成される縫糸で本縫いによるミシン縫製し、直径90mmの孔を設け、インフレーター取付け口とした。さらに中心部よりバイアス方向に255mmの位置に相反して同一布帛からなる直径75mmの円状補強布を一枚当て直径50mm、60mmの線上を上下糸ともポリアミド66繊維の470dtex/1×3から構成される縫糸で本縫いによるミシン縫製し、直径40mmの孔を設けたベントホールを2カ所設置した。次いで、本円状布帛の補強布帛側を外にし、他方の円状布帛と経軸を45°ずらして重ね合わせ、直径700mm、710mmの円周状を上下糸ともポリアミド66繊維の1400dtex/1から構成される縫糸で二重環縫いによるミシン縫製した後、袋体を裏返し、図2の如く、60L容量の運転席用エアバッグを作製した。
該運転席用エアバッグを、電気着火式インフレーターにて膨張展開テストを行った。膨張展開によってバッグが破裂せず、バランス良く膨らみ、基布の破れ、溶融が無く、縫い目におけるエアー漏れも無いものを良品と判断した。また上記のいずれか1つでも満たされないものは不良品と判断した。100回の膨張展開テストを行い、良品が得られた数を膨張展開性の指標とした。本発明の目標レベルは95以上である。
Y.衝撃吸収能
X項にて作成したエアバッグの内部に、極薄のゴム風船を入れ、内圧19.6kPaで、容量60Lに膨らませ、エアバッグを展開させた状態にした。その後、図3の如く鉄球(1kg)からなる振り子を、45°の角度から放してエアバッグに衝突させ、反発によって跳ね返された角度a(°)を測定した。そして得られた角度を、参考例1のエアバッグにおける跳ね返りの角度で除した後、100倍した値を衝撃吸収能の指標とした。本衝撃吸収能の値が小さいほど、優れた衝撃吸収性を有していると判断した。
Z.カバーファクター
カバーファクター(K)は下記の式で表される。
K=NW×(0.9×DW)0.5+NF×(0.9×DF)0.5
NW:経糸の本数(本/2.54cm)
DW:経糸の総繊度(dtex)
NF:緯糸の本数(本/2.54cm)
DF:緯糸の総繊度(dtex)。
またDW、DFは分解糸の値を用いた。さらにNW、NFはS項にて記載の方法で測定した。
[調製例1](リジン脱炭酸酵素の調製)
まずE.coli JM109株の培養を以下のように行った。まず、この菌株をLB培地5mlに1白金耳植菌し、30℃で24時間振とうして前培養を行った。次に、LB培地50mlを500mlの三角フラスコに入れ、予め115℃、10分間蒸気滅菌した。この培地に前培養した上記菌株を植え継ぎ、振幅30cmで、180rpmの条件下で、1N塩酸水溶液でpHを6.0に調整しながら、24時間培養した。こうして得られた菌体を集め、超音波破砕および遠心分離により無細胞抽出液を調製した。これらのリジン脱炭酸酵素活性の測定を定法に従って行った(左右田健次、味園春雄、生化学実験講座、vol.11上、P.179〜191(1976))。
リジンを基質とした場合、本来の主経路と考えられるリジンモノオキシゲナーゼ、リジンオキシダーゼおよびリジンムターゼによる転換が起こり得るので、この反応系を遮断する目的で、75℃で5分間、E.coli JM109株の無細胞抽出液を加熱した。さらにこの無細胞抽出液を40%飽和および55%飽和硫酸アンモニウムにより分画した。この粗精製リジン脱炭酸酵素溶液を用い、リジンから1,5−ペンタメチレンジアミンの生成を行った。
[調製例2](1,5−ペンタメチレンジアミンの調製)
50mM リジン塩酸塩(和光純薬工業製)、0.1mM ピリドキサルリン酸(和光純薬工業製)、40mg/L−粗精製リジン脱炭酸酵素(参考例1で調製)となるように調製した水溶液を、0.1N塩酸水溶液でpHを5.5〜6.5に維持しながら、45℃で48時間反応させ、1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩を得た。この水溶液に水酸化ナトリウムを添加することによって1,5−ペンタメチレンジアミン塩酸塩を1,5−ペンタメチレンジアミンに変換し、クロロホルムで抽出して、減圧蒸留(1.33kPa、60℃)することにより、1,5−ペンタメチレンジアミンを得た。
[調製例3](1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸の塩の50重量%水溶液の調製)
製造例2で製造した1,5−ペンタメチレンジアミン102gを、水248g中に溶解した水溶液を、50℃のウォーターバスに浸して撹拌しているところに、アジピン酸(カーク製)を約1gずつ、中和点付近では約0.2gずつ添加していき、アジピン酸添加量に対する水溶液のpH変化を調べ、中和点を求めると、pH8.32であった。中和点でのアジピン酸添加量は146gであった。pHが8.32になるように、1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩の50重量%水溶液(496g)を調製した。
[調製例4](1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸の塩の70重量%水溶液の調製)
製造例3において、水の量を104.3gとした以外は、製造例3と同様にして1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩の70重量%水溶液(354.3g)を調製した。
[調製例5](1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸の塩の57重量%水溶液の調製)
製造例3において、水の量を187.1gとした以外は、製造例3と同様にして1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩の57重量%水溶液(435.1g)を調製した。
(実施例1)
調製例4の1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩の70重量%水溶液を、水温50℃に温調しながら、該水溶液に1,5−ペンタメチレンジアミンおよび水を加え、水溶液中に存在する1,5−ペンタメチレンジアミンのモル数とアジピン酸のモル数の比(1,5−ペンタメチレンジアミンのモル数/アジピン酸のモル数)を1.007、水溶液中の原料モノマーの濃度を70重量%に調整した。さらに原料水溶液にフェニルホスホン酸を、得られるポリアミド56樹脂中にリン原子が100ppm含まれるように添加した後、予め窒素置換された熱媒加熱式の重合釜に仕込んだ(原料調製工程)。
次に缶内を窒素パージしながら熱媒を加熱して水溶液を濃縮した(濃縮工程)。このとき缶内温度を125℃、缶内圧力(ゲージ圧)を0.2MPaに制圧しながら、水溶液中の原料の濃度が90重量%となるまで濃縮した。缶内の水溶液の濃度は留出水量から判断した。
そして重合釜を密閉して熱媒温度を270℃まで上昇させ、缶内圧力(ゲージ圧)1.7MPaに到達するまで昇圧した(昇圧工程)。この後缶内圧力(ゲージ圧)を1.7MPaで制圧し、缶内温度が250℃となるまで維持した(制圧工程)。さらに熱媒温度を285℃に変更し、60分間かけて大気圧まで放圧した(放圧工程)。さらに缶内圧力(ゲージ圧)を−13.3kPaまで減圧し、所定の攪拌動力となったところで重合反応を停止した(減圧工程)。最後に重合缶内を窒素で微加圧としてポリマーを吐出せしめ、水冷してカットした(吐出工程)。所定の攪拌動力となるには減圧工程において、缶内圧力(ゲージ圧)が−13.3kPaになってから0.5時間保持する必要があった。
得られたポリアミド56樹脂の硫酸相対粘度は2.75、アミノ末端基濃度とカルボ末端基濃度のバランスの指標である[NH2]/([NH2]+[COOH])は0.48、ペレット粒度は35g/個、ペレット粒度のCV%は8%であった。
得られたポリアミド56樹脂を、バキュームドライヤー型の真空乾燥機に仕込み、酢酸銅5重量%水溶液を銅原子としてポリアミド56樹脂に対して100ppmとなるように添加し、ドライヤーを回転させて約1時間ブレンドした。そしてヨウ化カリウム50重量%水溶液をカリウム原子としてポリアミド56樹脂に対して600ppmとなるように添加し、再びドライヤーを回転させて約1時間ブレンドした。その後ドライヤーの回転により、缶内の樹脂を攪拌しながら、窒素フロー下で缶内温度90℃まで昇温し、缶内温度を90℃で5時間維持して予備結晶化を行った。
そして窒素の供給を止めて缶内の減圧を開始した後、再度缶内の温度を昇温し、缶内温度が130℃に達してから、昇温速度が5℃/時間となるようにヒーター出力をコントロールしながら缶内温度を170℃に昇温した。そして缶内温度170℃、缶内圧力133Pa以下の条件下で所定時間保持した後、ポリアミド56樹脂を抜き出した。このとき缶内圧力133Pa以下の条件下での保持時間は、得られるポリアミド56樹脂の硫酸相対粘度が3.85となるように調整した。すなわち保持時間を変更したポリアミド56樹脂を製造し、得られたポリアミド56樹脂の硫酸相対粘度と保持時間との相関曲線を求め、硫酸相対粘度が3.85となる保持時間を決定した。
得られたポリアミド56樹脂の硫酸相対粘度は3.85、Mw/Mnは2.17、水分率は300ppmであった。
得られたポリアミド56樹脂を、図1に示す1軸混練機を備えた紡糸延伸熱処理装置を用い、溶融紡糸、延伸、熱処理、を連続的に施してポリアミド56フィラメントを得た。
まずホッパーに樹脂を投入し、1軸押出混練機にて溶融および混練して紡糸ブロックに導き、ギヤポンプにてポリマーを計量、排出し、内蔵された紡糸パックに導き、丸断面用の細孔を136ホール有する、紡糸口金から紡出した。
そして紡糸ブロックの下に配した加熱筒にてフィラメントを再加熱した後、環状型冷却風発生装置で糸条を冷却固化し、給油装置により給油した。その後、第1ロールで引き取った後、第2ロールの速度を第1ロールの速度の1.02倍の速度として未延伸糸にストレッチを加えた後、第2ロールと第3ロールの速度比により延伸を施し、第3ロールで熱処理を施し、第3ロールと第4ロールの速度比により再度延伸を施し、第4ロールで再度熱処理を施し、第4ロールと第5ロール(最終加熱ロール)の速度比により再度延伸を施し、第5ロールで再度熱処理を施した後、第5ロールと第6ロール(最終ロール)との間でリラックス処理を施した後、第6ロールと巻取機の間に廃した交絡ノズル(0.2MPa圧力)にてフィラメントに交絡を施し、巻取張力0.08cN/dtex(繊度は巻取ったフィラメントの繊度を用いる)にて巻き取り、紡糸、延伸、熱処理、捲縮処理を1段階で施した350デシテックス136フィラメントのポリアミド56フィラメントを得た。溶融紡糸、延伸、熱処理の条件は以下のとおりである。
・混練機温度:275℃
・紡糸温度:285℃
・滞留時間:6分
・濾層:φ2mmガラスビーズ充填
・フィルター:10μm不織布フィルター
・紡糸口金:孔径0.18mm、孔深度0.4mm、孔数136
・吐出量:75.25g/分(1パック1糸条、136フィラメント)
・加熱筒:温度310℃、加熱筒長さ0.15m
・冷却:環状型冷却風発生装置使用(冷却風発生方向内向き)、温度20℃、相対湿度55%、風速0.45m/秒、冷却開始位置は口金面下0.30m
・油剤:油剤有効成分として脂肪酸エステル、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、変性シリコーンの混合物を25重量部含み、炭素数14の鉱物油75重量部で希釈したもの。鉱物油以外の成分が繊維重量に対して1重量%付着するように付着量を調整。
・溶融紡糸、延伸環境:25℃RH55%
・第1ロール温度:25℃
・第2ロール温度:50℃
・第3ロール温度:140℃
・第4ロール温度:180℃
・第5ロール温度:230℃
・第6ロール温度:25℃
・第1ロール速度:450m/分
・第2ロール速度:459m/分
・第3ロール速度:1285m/分
・第4ロール速度:1671m/分
・第5ロール速度:2339m/分
・第6ロール速度:2152m/分
・巻取速度:2150m/分
・延伸倍率:4.78倍(延伸温度100〜245℃での延伸倍率:1.82倍)
実施例1のポリアミド56フィラメントは、硫酸相対粘度が3.82、Mw/Mnが2.21、融点255℃、融解熱量80J/g、強度9cN/dtex、伸度23%、10%伸長応力3.3cN/dtex、沸収12%、乾収4%、U%は0.9であった。そして沸水処理後のフィラメントは、強度7.9cN/dtex、10%伸長応力0.8cN/dtexと高強度、低弾性率なフィラメントであった。実施例1は製糸性が良好であり、また得られたフィラメントは毛羽もなく(0個/10万m)、高品位なものであった。
実施例1のポリアミド56フィラメントを用いて製経し、次いでウォータージェットルーム(津田駒社製、ZW303)を用いて製織して平織物(生機)を製造した。このとき生機の経糸、緯糸の本数が53本/2.54cmとなるように織機を調整した。生機のカバーファクターは1881であった。製経、製織工程における工程通過性は良好であった。
得られた織物をドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.5g/Lおよびソーダ灰0.5g/Lを含んだ温水に投入して弛緩状態で精錬処理を施して織物を熱収縮させた後(温水温度90℃、処理時間1分)弛緩状態で130℃、1分間乾燥処理した。そして得られるエアバッグ用基布の沸水処理による収縮率(経方向および緯方向)が0.3%となるように、織物の経方向、緯方向の収縮を制限しながら180℃で1分間のファイナルセットを施し、実施例1のエアバッグ用基布を得た。得られたエアバッグ用基布は経糸、緯糸の本数がともに59本/2.54cmであり、カバーファクターが2213であり、厚みは0.32mmであった。実施例1の結果を表1に示す。
実施例1のエアバッグ用基布は分解糸の強度が高いことから、優れた引張強度、引裂強力を有しており、加えて通気度も低い織物であったことから膨張展開性に優れていた。さらに分解糸の10%伸長応力が低いことから、剛軟性が低い柔軟な基布であり、収納性、衝撃吸収能にも優れたエアバッグ用基布であった。
(参考例1)
予め窒素置換した熱媒加熱式の重合釜に、1,6−ヘキサメチレンジアミンのモル数とアジピン酸のモル数の比(1,6−ヘキサメチレンジアミンのモル数/アジピン酸のモル数)が1.007であり、水溶液中の原料モノマーの濃度が50重量%であり、水温が50℃である水溶液を仕込み、熱媒温度を280℃に設定して加熱を開始した。重合缶内の圧力を1.47MPaに調整し内容物を270℃まで昇温し、次に缶内の圧力を除々に放圧し、更に減圧圧力にした後に所定の攪拌動力となったところで重合反応を停止し、吐出したストランドを水冷し、カットすることでポリアミド66樹脂を得た。
得られたポリアミド66樹脂の硫酸相対粘度は2.85、アミノ末端基濃度とカルボ末端基濃度のバランスの指標である[NH2]/([NH2]+[COOH])は0.42、ペレット粒度は39g/個、ペレット粒度のCV%は9%であった。
得られたポリアミド66樹脂を、バキュームドライヤー型の真空乾燥機に仕込み、酢酸銅5重量%水溶液を銅原子としてポリアミド56樹脂に対して100ppmとなるように添加し、ドライヤーを回転させて約1時間ブレンドした。そしてヨウ化カリウム50重量%水溶液をカリウム原子としてポリアミド56樹脂に対して600ppmとなるように添加し、再びドライヤーを回転させて約1時間ブレンドした。
その後ドライヤーの回転により、缶内の樹脂を攪拌しながら、缶内の減圧を開始した後、再度缶内の温度を昇温し、缶内温度を170℃に昇温した。そして170℃に到達後、缶内圧力133Pa以下として所定時間保持した後、ポリアミド66樹脂を抜き出した。このとき缶内圧力133Pa以下での保持時間は、得られるポリアミド66樹脂の硫酸相対粘度が3.85となるように調整した。すなわち維持時間を変更したポリアミド66樹脂を製造し、得られたポリアミド66樹脂の硫酸相対粘度、保持時間との相関曲線を求め、硫酸相対粘度が3.85となる維持時間を決定した。得られたポリアミド66樹脂の硫酸相対粘度は3.85、Mw/Mnは2.2であった。
その後、得られたポリアミド66樹脂の水分率を600ppmとなるように調湿し、実施例1と同様にしてフィラメントを製造した。このとき、混練機温度を285℃、紡糸温度を295℃、加熱筒温度を320℃、第2ロールの温度を60℃に変更した。また得られるフィラメントの伸度が23%となるように、第1ロールと第2ロールの速度を調整した。このとき第2ロールの速度は第1ロールの速度の1.02倍とした。
参考例1のポリアミド66フィラメントは、硫酸相対粘度が3.81、Mw/Mnが2.26、強度8.6cN/dtex、伸度23%、10%伸長応力3.4cN/dtex、沸収5.7%であった。そして沸水処理後のフィラメントは、強度8cN/dtex、10%伸長応力1.9cN/dtexであった。また実施例1と同様に製糸性は良好であったが、フィラメントは若干の毛羽を有していた(0.2個/10万m)。
得られたポリアミド66フィラメントを用い、実施例1と同様にてエアバッグ用基布を製造するに際し、ファイナルセット後に得られるエアバッグ用基布の経糸、緯糸の本数が共に59本/2.54cmとなるように、ウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数を調整した以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。参考例1の結果を表1に示す。調整後のウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数はともに56本/2.54cmであった。参考例1の結果を表1に示す。
参考例1のフィラメントは、ポリアミド66からなるため、実施例1と比べて沸水処理後の10%伸長応力が高いフィラメントであった。そのため織物を製織した後、精錬、乾燥、ファイナルセット工程において、得られるエアバッグ用基布の沸水処理による収縮率が十分に低いものとなるように熱収縮せしめても、基布を構成するフィラメント(分解糸)の10%伸長応力は実施例1と比べて高いものであった。よって実施例1の方が剛軟性が低く、柔軟で収納性に優れ、衝撃吸収能にも優れたエアバッグ用基布であった。
(比較例1)
予め窒素置換した熱媒加熱式の重合釜に、調製例3で得た1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩の50重量%水溶液を仕込み、熱媒温度を280℃に設定して加熱を開始した。重合缶内の圧力を1.47MPaに調整し内容物を270℃まで昇温し、次に缶内の圧力を除々に放圧し、更に重合缶内の圧力(ゲージ圧)を−13.3kPaまで減圧した後、所定の攪拌動力となったところで重合反応を停止し、吐出したストランドを水冷し、カットすることで硫酸相対粘度3.72のポリアミド56樹脂を得た。比較例1では加熱重合法のみで硫酸相対粘度が3以上のポリアミド56樹脂を製造したため、所定の攪拌動力に達するには、重合缶内の圧力(ゲージ圧)が−13.3kPaに達してから3時間と、保持時間を長くする必要があった。得られたポリアミド56樹脂のMw/Mnは3.2と分子量分布の広いものであり、アミノ末端基濃度とカルボ末端基濃度のバランスの指標である[NH2]/([NH2]+[COOH])が0.15と低く、重合缶内でのモルバランスが崩れてしまっていた。なおポリアミド56樹脂のペレット粒度は35g/個、ペレット粒度のCV%は8%であった。
得られたポリアミド56樹脂を、バキュームドライヤー型乾燥機にて、缶内温度90℃で真空乾燥を行い、乾燥後のポリマーの水分率が300ppmとなるまで乾燥した。
該ポリマーを用い、実施例1と同様にしてポリアミド56フィラメントを製造しようと試みたが、第3ロール以降で糸切れが多発したためサンプリングすることができなかった。そこで、第3ロール以降のロール速度を変更し、第5ロールの温度を下げることで糸条走向が安定化し、フィラメントの連続サンプリングが可能となった。このとき巻取速度は、第6ロールと巻取機間の糸条張力が0.08cN/dtexとなるように補正し、得られるフィラメントの総繊度が350dtexとなるように吐出量を補正した。比較例1のロール速度を下記に、結果を表1に示す。
・第1ロール速度:450m/分
・第2ロール速度:459m/分
・第3ロール速度:1377m/分
・第4ロール速度:1584m/分
・第5ロール速度:1773m/分
・第6ロール速度:1632m/分
・巻取速度:1640m/分
・延伸倍率:3.63倍(延伸温度100〜245℃での延伸倍率:1.29倍)
・第5ロール温度:200℃
比較例1の製糸性は悪く、得られたフィラメントは32個/10万mと多くの毛羽を有し、品位も悪いものであった。
そして比較例1のポリアミド56フィラメントを用いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造するに際し、精錬、乾燥、ファイナルセット後に得られるエアバッグ用基布の、経糸、緯糸の本数が共に59本/2.54cmとなるように、ウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数を調整した以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。調整後のウォータージェットルームの縦糸、緯糸の本数は49本/2.54cmであった。比較例1のフィラメントは毛羽を多く有するものであったため製織工程における通過性が悪かった。比較例1の結果を表1に示す。
実施例1と比較例1を比較するとわかるように、本発明にて好ましい重合方法を採用することで、加熱重合における1,5ペンタメチレンジアミンの揮発や環化を抑えられ、重合缶内でのモルバランスが保たれるため、Mw/Mnが3以下のポリアミド56フィラメントを得ることが可能となる。そしてこれにより、総繊度、単繊維繊度が共に小さいながら、高強度であり、沸収も20%以下であるフィラメントを安定的に製造することができる。そして沸水処理後においても高強度であるフィラメントとなることがわかる。これはMw/Mnが3以下と低いことにより、紡糸、延伸工程においてフィラメント中のポリアミド56分子鎖を均一に配向され、最終ロールでの熱処理において速やかに結晶化が進行するため、フィラメント中に緻密な配向結晶相や結晶相を連結する緊張タイ分子が多く形成されたためと考えられる。
よって得られたエアバッグ用基布において、実施例1の方が分解糸の強度が高いものとなり、引張強度、引裂強力が高いエアバッグ用基布となった。比較例1のエアバッグ用基布は、分解糸の強度不足により引張強度、引裂強力が不十分であり、膨張展開性テストにおいて基布の穴あきが多く発生した。また用いたフィラメント中の毛羽が欠点となり、基布の通気度が高くなってしまい、やはり膨張展開性に劣るものであった。
(比較例2)
比較例1のポリアミド56フィラメントを用いて、エアバッグ用基布を製造するに際し、ウォータージェットルームで製織する織物の経糸、緯糸の本数を51本/2.54cmに調整し、精錬を施す温水の温度を50℃とし、得られるエアバッグ用基布の沸水処理による収縮率(経方向、緯方向)が5%となるように精錬工程、乾燥工程、ファイナルセット工程における織物の収縮を制限した以外は、比較例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。比較例2の結果を表1に示す。
比較例2のエアバッグ用基布は、沸水処理による基布の収縮率が3%を超えるものであり、基布の製造工程における織物の熱収縮が不十分であったため、分解糸の10%伸長応力が高い状態で保たれ、2cN/dtexを超えるものとなった。そのため基布の剛軟性、収納性、衝撃吸収能の点で、実施例1と比べて劣るものであった。また実施例1の方が分解糸の強度も高く、基布の引張強度、引裂強力も高いものであったため、膨張展開性も実施例1の方が優れていた。
(実施例2)
実施例1において、濃縮工程における缶内温度を145℃とした以外は実施例1と同様にして加熱重合を行い、ポリアミド56樹脂を得た。得られたポリアミド56樹脂の硫酸相対粘度は2.75、アミノ末端基濃度とカルボ末端基濃度のバランスの指標である[NH2]/([NH2]+[COOH])は0.41、ペレット粒度は35g/個、ペレット粒度のCV%は8%であった。
該ポリアミド56樹脂について、実施例1と同様に固相重合を施したのち、実施例1と同様にしてポリアミド56フィラメントを製造した。製糸性は優れており、得られたフィラメントの毛羽は0個/10万mと高品位なものであった。
そして実施例2のフィラメントを用いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造するに際し、精錬、乾燥、ファイナルセット後に得られるエアバッグ用基布の、経糸、緯糸の本数が共に59本/2.54cmとなるように、ウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数を調整した以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。調整後のウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数はともに52本/2.54cmであった。実施例2の結果を表2に示す。
(実施例3)
実施例1において、調製例5で調製した1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩の57重量%水溶液を水温50℃に温調しながら、該水溶液に1,5−ペンタメチレンジアミンおよび水を加え、水溶液中に存在する1,5−ペンタメチレンジアミンのモル数とアジピン酸のモル数の比(1,5−ペンタメチレンジアミンのモル数/アジピン酸のモル数)を1.007、水溶液中の原料モノマーの濃度を57重量%に調整して用いた以外は、実施例1と同様にして加熱重合を行ってポリアミド56樹脂を得た。
得られたポリアミド56樹脂の硫酸相対粘度は2.75、アミノ末端基濃度とカルボ末端基濃度のバランスの指標である[NH2]/([NH2]+[COOH])は0.33、ペレット粒度は35g/個、ペレット粒度のCV%は8%であった。
該ポリアミド56樹脂について、実施例1と同様に固相重合を施したのち、実施例1と同様にしてポリアミド56フィラメントを製造した。製糸性は優れており、得られたフィラメントの毛羽は0個/10万mと高品位なものであった。
そして実施例3のフィラメントを用いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造するに際し、精錬、乾燥、ファイナルセット後に得られるエアバッグ用基布の、経糸、緯糸の本数が共に59本/2.54cmとなるように、ウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数を調整した以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。調整後のウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数はともに52本/2.54cmであった。実施例3の結果を表2に示す。
(実施例4)
実施例3において、固相重合における昇温速度を19℃/hrとした以外は実施例3と同様にしてポリアミド56フィラメントを製造しようと試みたが、紡糸、延伸、熱処理工程において第5ロール上で糸揺れが発生して糸条走向が不安定となったため、第5ロールの温度を225℃に変更した。これにより安定製糸が可能となり、製糸性は良好となった。また得られたフィラメントの毛羽は0個/10万mであり、高品位なものであった。
そして実施例4のフィラメントを用いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造するに際し、精錬、乾燥、ファイナルセット後に得られるエアバッグ用基布の、経糸、緯糸の本数が共に59本/2.54cmとなるように、ウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数を調整した以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。調整後のウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数はともに51本/2.54cmであった。実施例4の結果を表2に示す。
(実施例5、6)
実施例3において、加熱重合で得られたポリアミド56樹脂をカットしてペレット化する際に、実施例5ではペレット粒度が68mg/個、ペレット粒度のCV%が8%、実施例6ではペレット粒度が8mg/個、ペレット粒度のCV%が8%、に調整して固相重合に供した以外は、実施例3と同様にしてポリアミド56樹脂を製造した。
そして該ポリアミド56樹脂から、実施例3と同様にしてフィラメントを製造しようと試みたが、実施例5、6ともに、紡糸、延伸、熱処理工程において第5ロール上で糸揺れが発生して糸条走向が不安定となったため、第5ロールの温度を225℃に変更した。これにより製糸性は良好となった。また得られたフィラメントの毛羽は、実施例5は0.2個/10万mであり、実施例6は0個/10万mであり、いずれも高品位なものであった。
そして実施例5、6のフィラメントを用いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造するに際し、精錬、乾燥、ファイナルセット後に得られるエアバッグ用基布の、経糸、緯糸の本数が共に59本/2.54cmとなるように、ウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数を調整した以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。調整後のウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数は、実施例5、6ともに51本/2.54cmであった。実施例5、6の結果を表2に示す。
(比較例3)
予め窒素置換した熱媒加熱式の重合釜に、調製例3で得た1,5−ペンタメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩の50重量%水溶液を仕込み、熱媒温度を280℃に設定して加熱を開始した。重合缶内の圧力を1.47MPaに調整し内容物を270℃まで昇温し、次に缶内の圧力を除々に放圧し、更に重合缶内の圧力(ゲージ圧)を−13.3kPaまで減圧した後、所定の攪拌動力となったところで重合反応を停止し、吐出したストランドを水冷し、カットすることで硫酸相対粘度2.75のポリアミド56樹脂を得た。
得られたポリアミド56樹脂のアミノ末端基濃度とカルボ末端基濃度のバランスの指標である[NH2]/([NH2]+[COOH])は0.18、ペレット粒度は35g/個、ペレット粒度のCV%は8%であった。
得られたポリアミド56樹脂を用い、実施例1と同様にして固相重合を行った後、実施例1と同様にしてポリアミド56フィラメントを製造しようと試みたが、第3ロール以降で糸切れが多発したためサンプリングすることができなかった。そこで、第3ロール以降のロール速度を変更するとともに、第5ロールの温度を下げることで糸条走向が安定化し、フィラメントの連続サンプリングが可能となった。このとき巻取速度は、第6ロールと巻取機間の糸条張力が0.08cN/dtexとなるように補正し、得られるフィラメントの総繊度が350dtexとなるように吐出量を補正した。比較例3のロール速度を下記に、結果を表2に示す。
・第1ロール速度:450m/分
・第2ロール速度:459m/分
・第3ロール速度:1469m/分
・第4ロール速度:1689m/分
・第5ロール速度:1892m/分
・第6ロール速度:1740m/分
・巻取速度:1749m/分
・延伸倍率:3.89倍(延伸温度100〜245℃での延伸倍率:1.29倍)
・第5ロール温度:200℃
比較例3の製糸性は悪く、得られたフィラメントは24個/10万mと多くの毛羽を有し、品位も悪いものであった。
そして比較例3のポリアミド56フィラメントを用いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造するに際し、精錬、乾燥、ファイナルセット後に得られるエアバッグ用基布の、経糸、緯糸の本数が共に59本/2.54cmとなるように、ウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数を調整した以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。調整後のウォータージェットルームの縦糸、緯糸の本数は49本/2.54cmであった。比較例3のフィラメントは毛羽を多く有するものであったため製織工程における通過性が悪かった。比較例3の結果を表2に示す。
実施例1〜6、比較例3を比較するとわかるように、加熱重合において好ましい方法を採用することで、[NH2]/([NH2]+[COOH])が好ましい範囲のポリアミド56樹脂を製造することができ、該ポリアミド56樹脂を好ましい方法で固相重合したポリアミド56樹脂でフィラメントを形成することで、初めてMw/Mnが小さいポリアミド56フィラメントとなることがわかる。
そしてMw/Mnが小さいフィラメントであることで、より高強度で低沸収なポリアミド56フィラメントとなり、沸水処理後の強度も高いフィラメントとなった。これはMw/Mnが小さいほど紡糸、延伸工程においてポリアミド56分子鎖を均一かつ十分に配向せしめることが可能となり、最終ロールでの熱処理において効率的な結晶形成が起こるためと考えられる。Mw/Mnが小さいフィラメントほど沸水処理後においても高強度なフィラメントとなり、エアバッグ用基布の分解糸においても強度が高いため、引張強度、引裂強力が高く、膨張展開性に優れたエアバッグ基布となることがわかる。
そして実施例1〜6のエアバッグ用基布は十分な力学特性を有すると同時に、参考例1と比べて剛軟性が低い基布であり、収納性、衝撃吸収能に優れたものであった。
(実施例7)
実施例1と同様にしてポリアミド56フィラメントを製造するに際し、固相重合において缶内温度が160℃に達した時点でポリアミド56樹脂を抜き出した。そして該ポリアミド56樹脂を用いて実施例1と同様にしてポリアミド56フィラメントを製造するに際し、得られるフィラメントの伸度が23%となるように、第1ロール、第2ロールの速度を調整した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド56フィラメントを製造した。このとき第2ロールの速度は第1ロールの速度の1.02倍とした。製糸性は優れており、毛羽も0.2個/10万mと少なく高品位なフィラメントであった。
そして実施例7のフィラメントを用いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造するに際し、精錬、乾燥、ファイナルセット後に得られるエアバッグ用基布の、経糸、緯糸の本数が共に59本/2.54cmとなるように、ウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数を調整した以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。調整後のウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数は、53本/2.54cmであった。製織工程の通過性は良好であった。実施例7の結果を表3に示す。
(比較例4)
実施例1において、加熱重合で得られたポリアミド56樹脂に固相重合を施さず、バキュームドライヤー型乾燥機にて、缶内温度90℃で真空乾燥を行い、乾燥後のポリマーの水分率が300ppmとなるまで乾燥した。
そして該ポリマーを用い、実施例1と同様にしてポリアミド56フィラメントを製造した。比較例4の製糸性は実施例と比べると見劣りするものの問題無いレベルであり、フィラメントの毛羽も0.6個/10万mとまずまずのものであった。
そして比較例4のポリアミド56フィラメントを用いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造するに際し、精錬、乾燥、ファイナルセット後に得られるエアバッグ用基布の、経糸、緯糸の本数が共に59本/2.54cmとなるように、ウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数を調整した以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。調整後のウォータージェットルームの縦糸、緯糸の本数は53本/2.54cmであった。比較例4のフィラメントは強度が低く、製織工程で糸切れが発生して通過性が悪かった。比較例4の結果を表3に示す。
実施例1、7、比較例4を比較するとわかるように、本発明のフィラメントの硫酸相対粘度が3以上であることで高強度なフィラメントとなることがわかる。これは硫酸相対粘度が高いことで分子鎖間の相互作用が高まり、紡糸、延伸工程で分子鎖が均一に高配向化され、最終加熱ロールにて配向緩和を起こすこと無く、結晶化せしめることができた効果と考えられる。
実施例1、7のフィラメントは高強度であるため製織工程での通過性に優れ、また沸水処理後においても十分な強度を有するフィラメントであるため、製造工程において熱収縮せしめたエアバッグ用基布は、力学特性に優れ、柔軟性、衝撃吸収能にも優れたエアバッグ用基布となることがわかる。比較例4のフィラメントは強度が低いため製織工程での通過性が悪く、また沸水処理後の強度も低いため、エアバッグ用基布の分解糸の強度が低いものであり、力学特性が不十分な基布であるため、膨張展開性に劣るものであった。
(実施例8、9、比較例5)
実施例1において第5ロールの温度を変更した以外は、実施例1と同様にして実施例8、9、比較例5のポリアミド56フィラメントを製造した。実施例8、9、比較例5の第5ロール温度を下記に示す。いずれも製糸性は良好であり、毛羽も0.2個/10万mと問題ないレベルであった。
実施例8:235℃
実施例9:218℃
比較例5:200℃
そして実施例8、9、比較例5のフィラメントを用いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造するに際し、精錬、乾燥、ファイナルセット後に得られるエアバッグ用基布の、経糸、緯糸の本数が共に59本/2.54cmとなるように、ウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数を調整した以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。調整後のウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数は、実施例8では55本/2.54cmであり、実施例9では52本/2.54cm、比較例5では49本/2.54cmであった。実施例8、9はいずれも製織工程の通過性は良好であった。実施例8、9の結果を表4に示す。
実施例1、8、9、比較例5を比較するとわかるように、ポリアミド56フィラメントの沸収が20%以下であることにより、沸水処理後においても高強度であるフィラメントとなることがわかる。これはフィラメント中に存在する非晶鎖が結晶相によって拘束されており、沸水処理後においても非晶鎖の配向度が高く維持できたためと考えられる。
実施例1、8、9のフィラメントから得られたエアバッグ用基布は、分解糸の強度が高く十分な力学特性を有するため膨張展開性に優れたものであった。また分解糸の10%伸長応力も低いため柔軟性、衝撃吸収能にも優れたエアバッグ用基布となった。
比較例4のフィラメントは沸収が高いため、沸水処理後における強度が低く、熱処理せしめたエアバッグ用基布の分解糸の強度も低くなってしまうため、力学特性が不十分で、膨張展開性に劣る基布であった。
(実施例10、11)
実施例1で得られた経糸、緯糸の本数が53本/2.54cmであり、カバーファクターが1881である織物に、精錬、乾燥、ファイナルセットを施して、実施例10、11のエアバッグ用基布を得た。このとき織物をドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ0.5g/Lおよびソーダ灰0.5g/Lを含んだ温水に投入して弛緩状態で精錬処理を施して織物を熱収縮させた後(温水温度70℃、処理時間1分)、弛緩状態で130℃で1分間乾燥処理し、織物の経方向、緯方向の収縮を制限しながら180℃で1分間のファイナルセットを施した。実施例10のエアバッグ用基布の経糸、緯糸の本数はともに58本/2.54cmであり、98℃30分間の沸水処理による基布の収縮率(経方向および緯方向)は1.5%であった。
実施例11では、精錬処理の温水温度を60℃、処理時間を1分とし、弛緩状態で130℃で1分間乾燥処理した後、織物の経方向、緯方向の収縮を制限しながら150℃で1分間のファイナルセットを施した。実施例11のエアバッグ用基布の経糸、緯糸の本数はともに57本/2.54cmであり、98℃30分間の沸水処理による基布の収縮率(経方向および緯方向)は2.7%であった。実施例10、11の結果を表5に示す。
実施例1、10、11を比較すると分かるように、本発明のエアバッグ用基布の沸水処理による収縮率が低いほど、分解糸の10%伸長応力が低いものであり、より柔軟で、衝撃吸収能に優れたエアバッグ用基布となることがわかる。これは基布を構成する分解糸が、製造工程において湿熱処理される過程でフィラメント中への多くの水が進入し、分子間水素結合力が適度に弱まった効果と考えられる。
(実施例12、13、比較例6)
実施例1において、用いる紡糸口金を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例12、13、比較例6のポリアミド56フィラメントを製造した。そして実施例1と同様にして実施例12、13、比較例6のエアバッグ用基布を製造した。実施例12、13、比較例6で用いた紡糸口金を下記に、実施例12、13、比較例6の結果を表6に示す。
・実施例12の紡糸口金:孔径0.15mm、孔深度0.3mm、孔数256
・実施例13の紡糸口金:孔径0.23mm、孔深度0.45mm、孔数80
・比較例6の紡糸口金:孔径0.3mm、孔深度0.6mm、孔数48
実施例1、12、13、比較例6を比較するとわかるように、ポリアミド56フィラメントの単繊維繊度が本発明の範囲にあることで、力学特性、柔軟性、衝撃吸収能にバランス良く優れたエアバッグ基布が得られることがわかる。比較例6の基布は高強度ではあったが、実施例と比べて柔軟性が不足しており、収納性や衝撃吸収に劣るものであった。
(実施例14、15)
実施例1において、得られるフィラメントの総繊度を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例14,15のポリアミド56フィラメントを製造した。このときフィラメントの総繊度は吐出量を調整することにより変更した。またフィラメントの単繊維繊度が、実施例1と同一となるように紡糸口金の孔数を変更した。実施例14,15の総繊度、および紡糸口金の孔数下記に示す。
・実施例14の総繊度:170dtex
・実施例14の紡糸口金の孔数:65
・実施例15の総繊度:605dtex
・実施例15の紡糸口金の孔数:236
実施例14,15のフィラメントを用いて実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造するに際し、精錬、乾燥、ファイナルセット後に得られるエアバッグ用基布の、経糸、緯糸の本数が、実施例14では共に85本/2.54cmとなるように、実施例15では共に45本/2.54cmとなるように、ウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数を調整した以外は、実施例1と同様にしてエアバッグ用基布を製造した。調整後のウォータージェットルームの経糸、緯糸の本数は、実施例14では77本/2.54cmであり、実施例15では41本/2.54cmであった。また実施例14の基布の厚みは0.18mmであり、実施例15の基布の厚みは0.43mmであった。実施例14、15の結果を表7に示す。
実施例1、実施例14、15を比較するとわかるように、ポリアミド56フィラメントの総繊度が本発明の範囲にあることで、力学特性、柔軟性、衝撃吸収能にバランス良く優れたエアバッグ基布が得られることがわかる。実施例14のエアバッグ用基布は厚みが小さく、柔軟性、収納性が良好なものであり、カーテンエアバッグ等に適した特性であった。一方で実施例15のエアバッグ用基布は厚みが大きく、実施例と比べて柔軟性が不足しており収納性が劣るものであったが、ニーエアバッグ等に適用可能なレベルであった。
本発明のポリアミド56フィラメントは、バイオマスプラであるポリアミド56を含有するため環境配慮型素材である。また、力学特性、耐熱性、耐摩耗性、耐久性に優れるため、衣料用途や、産業資材用途に幅広く利用可能なフィラメント、およびこれを含んでなる繊維構造体を提供することができる。
そして該フィラメントは湿熱処理などの手段で熱収縮せしめ、高強度かつ低弾性率のフィラメントとすることで、該フィラメントを用いて製織した後、精錬やファイナルセット等の熱処理を施した織物は、従来のポリアミド66フィラメントからなる織物に勝る、柔軟性、衝撃吸収能を有するとともに、低通気度、高強度、耐熱性、耐久性に優れた基布としてエアバッグに好適に用いることができる。