以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。図1は本発明の実施形態に係る運転支援装置のブロック構成図である。
図1に示すように、本実施形態に係る運転支援装置1は、逸脱防止支援ECU10を備えている。逸脱防止支援ECU10には、車速検出手段11、操舵トルク検出手段12、白線認識カメラ13、ブレーキスイッチ14、ウィンカースイッチ15、およびメインスイッチ16が接続されている。また、ECU10には、操舵トルク印加手段17、警報ブザー18、およびメーター19が接続されている。
逸脱防止支援ECU10は、車速検出手段11、操舵トルク検出手段12、白線認識カメラ13などから出力される情報に基づいて、自車が車線を逸脱するか否かを判断する。その結果、自車が所定時間後に車線を逸脱すると判断したときに、操舵トルク印加手段17、警報ブザー18などに所定の信号を出力する。逸脱防止支援ECU10のさらに詳しい機能は、後に説明する。
車速検出手段11は、たとえば車両の前輪部分に取り付けられており、自車が走行する際の車速を検出している。車速検出手段11は、検出した車速を逸脱防止支援ECU10に出力している。
操舵トルク検出手段12は、たとえば車室内のステアリングに接続されたステアリングロッドに取り付けられており、ドライバのステアリング操作によってステアリングに入力された操舵トルクを検出している。操舵トルク検出手段12は、検出した操舵トルクを逸脱防止支援ECU10に出力している。
白線認識カメラ13は、たとえば車室内におけるフロントガラス上部から車外を見渡す位置に配置されており、フロントガラス越しに覗く車外の状況を撮像している。白線認識カメラ13は、撮像した車外状況を逸脱防止支援ECU10に出力している。
ブレーキスイッチ14は、たとえば車室内におけるブレーキペダルに取り付けられており、ドライバによるブレーキペダルの操作を検出している。ブレーキスイッチ14は、ドライバがブレーキペダルを操作して車両にブレーキ動作をさせようとした際に、ブレーキ信号を逸脱防止支援ECU10に出力する。
ウィンカースイッチ15は、たとえば車室内におけるウィンカーレバーに取り付けられており、ドライバによるウィンカーの操作を検出している。ウィンカースイッチ15は、ドライバがウィンカーレバーを操作してウィンカーを出そうとした際に、ウィンカー信号を逸脱防止支援ECU10に出力する。
メインスイッチ16は、たとえば車室内における運転席側のドアに取り付けられている。ドライバなどがメインスイッチ16をONにする操作をすると、メインスイッチ16は、ON信号を逸脱防止支援ECU10に出力する。逸脱防止支援ECU10は、このON信号を受けて逸脱防止支援を開始する。
操舵トルク印加手段17としては、たとえばステアリングロッドに接続された電動パワーステアリング装置における電動モータが用いられる。操舵トルク印加手段17は、逸脱防止支援ECU10から出力される印加信号に基づいて、ステアリングロッドに本発明の警報トルクである所定の操舵トルクを印加する。なお、本明細書においては、操舵トルク印加手段17によって印加する操舵トルクを印加トルクという。
警報ブザー18は、たとえば車室内のインストルメントパネル部分に設けられており、ドライバに到達する所定の音量の警報を発する。また、警報ブザー18が発する信号には複数の種類が備えられており、逸脱防止支援ECU10から出力される警報信号に基づいて、所定の種類の警報が出力される。
メーター19には、図2に示すように、速度メーター21およびタコメーター22が設けられている。速度メーター21の表示部分には、「LKA」の文字で表される逸脱防止支援実行表示23、操舵制御実行表示24、白線認識表示25、レーダクルーズ表示26、およびレーダクルーズ設定速度表示27などが表示される。これらの表示部分には、逸脱防止支援ECU10から出力される表示信号に基づいて、適宜の表示がなされる。
以上の構成を有する本実施形態における運転支援装置1における動作、作用について説明する。本実施形態では、車線逸脱防止支援を行うにあたり、車線逸脱防止を行う際に操舵トルク印加手段17に付与する印加トルクのパターンに特徴があるが、この特徴に関する詳しい説明の前に、運転支援制御の全体について説明する。図3は、本実施形態に係る運転支援装置1の制御手順を示すフローチャートである。
本実施形態に係る運転支援装置1では、逸脱防止支援ECU10において、運転支援を開始する前処理として、メインスイッチ16がONになっていることを確認する。メインスイッチ16がONになっていたら、白線認識カメラ13で撮影された画像から白線を取り出す白線情報処理を行い、自車が走行する車線の白線を認識する。それから、白線認識処理を行い、白線の検出結果に基づくフラグ処理を行う。白線情報処理を行った後、操舵支援の可否を判断する(S1)。操舵支援の可否判断は、車速検出手段11から出力される車速情報、白線情報処理によって白線が認識されているか否かの情報などに基づいて行われる。
操舵支援の可否判断が済んだら、次にドライバの操作判定を行う(S2)。ドライバの操作判定は、操舵トルク検出手段12から出力される操舵トルク信号、ブレーキスイッチ14から出力されるブレーキ信号、およびウィンカースイッチ15から出力されるウィンカー信号などに基づいて行われる。操舵トルク信号が所定のトルク量を示す場合には、ドライバがステアリングを操作したと判断する。また、ブレーキスイッチ14からブレーキ信号が出力された場合には、ドライバがブレーキ操作を行ったと判断し、ウィンカースイッチ15からウィンカー信号が出力された場合には、ドライバがウィンカー操作を行ったと判断する。これらのドライバ操作の判断結果に基づいて、運転支援を継続するか否かを判断する。
ドライバ操作判定を行ったら、続いて逸脱緩和制御操作量を算出する(S3)。ここでは、自車を車線内に戻すために必要な目標トルクを算出する。逸脱緩和制御操作量は、ステアリングの切り角に基づいて判断される自車の旋回半径および自車の車速を用いて算出される。また、逸脱緩和制御操作量には、所定の上限値を設定しておく。逸脱緩和制御操作量の算出については、後にさらに説明する。
逸脱緩和制御操作量を算出したら、車線逸脱判定を行う(S4)。ここでは、自車が所定時間経過、たとえば約1秒後に車線を逸脱するか否かを判定し、車線逸脱の判定結果に基づいて、操舵トルク印加手段17などに対する作動を要求するか否かの判断を行う。車線の逸脱判定は、操舵支援の可否状態、白線検出状態、自車の車線に対するオフセット量、ヨー角、道路の推定R、車線幅などに基づいて行われる。
いま、図4に示すように、自車Mが道路R上を走行しているとする。ここで、自車Mの速度、ヨー角、道路Rに対するオフセット量などに基づいて、約1秒後の自車Mの走行到達位置を算出する。その結果、自車Mが走行到達位置に到達するまでの走行経路C1が白線W上を走行すると判断したときに、後の処理で算出される印加トルクを操舵トルク印加手段17によって付加し、たとえば走行経路C2となるようにする。このように走行経路を変えるように制御する。このように、走行経路をC1からC2に変更することにより、車両が白線から逸脱するまでの逸脱余裕時間を長くすることができる。逸脱余裕時間を長くすることにより、ステアリングに印加トルクを付加し、また、ドライバに逸脱の危険を報知することにより、車線逸脱防止を図る。
車線逸脱判定を行った後は、逸脱緩和制御目標トルクを算出する(S5)。ここでは、逸脱緩和操作量に対して実際に操舵トルク印加手段17によって印加する印加トルクの波形を算出する。このときの印加トルクの波形については、後にさらに説明する。
逸脱緩和制御目標トルクを算出したら、逸脱防止支援を行う旨をドライバに知らせるためのブザー吹鳴処理を行う(S6)。車線逸脱判定処理において、自車が車線を逸脱すると判断し、操舵トルク印加手段17によって印加トルクが印加されているときに、警報ブザー18から所定の音の警報が出力される。
また、ブザー吹鳴処理を行うとともに、警報表示処理がなされる(S7)。車線逸脱判定処理において、自車が車線を逸脱すると判断し、操舵トルク印加手段17によって印加トルクが印加されているときに、メーター19には、逸脱防止支援実行表示23および白線認識表示などがなされる。
その後、所定のデータ出力処理を行う(S8)ことにより、運転支援が終了する。
それでは、操舵トルク印加手段17によって印加する印加トルクの波形について説明する。本実施形態に係る逸脱防止支援ECU10では、たとえば図5に示す波形の印加トルクを操舵トルク印加手段17に出力し、操舵トルク印加手段17から印加トルクとしてステアリングロッドに印加している。
図5に示す波形では、逸脱防止支援を開始してから、印加最大トルクに到達するまでの区間(Start区間)、一定の変化率で印加トルクを増加させている。印加最大トルクに到達したら、しばらくそのまま印加トルクを維持する(Keep区間)。その後、印加終了条件を満たしたときに、印加トルクを減少させ(Close区間)、しばらく減少させた後、減少率を低くして0になるまで印加トルクを減少させる。その後、処理を終了する(Freeze区間)。以下に、印加トルクの波形の設定についての考え方について個々に説明する。
このような印加トルクの波形を作成するにあたり、まず、印加最大トルクを決定する。印加最大トルクは、図3に示すフローチャートのステップS3において、逸脱緩和制御操作量として、自車の車速などに応じて決定される。最大印加トルクが車速によらず一定である場合、高車速域では、最大印加トルクの大きさに対する操舵フィーリングや車両挙動の面では特に問題は生じない。ところが、高車速域で車両挙動に問題を感じない大きさの最大印加トルクを低車速域での付加すると、車両挙動を大きく感じ、ドライバの操舵フィーリングの面で問題を生じる。
たとえば、図6(a)に示すように、車速の高さによらず最大印加トルクを一定にする場合について考える。図6(b)に示すように、車速とヨーレートとは反比例の関係にあり、図6(c)に示すように、横加速度とは車速によらず一定となる。したがって、車速が増加した場合、横加速度は変化しないもののヨーレートが減少する。このヨーレートの減少が、ドライバに与える操舵フィーリングの違和感に通じるものと考えられる。
このような違和感を緩和するため、車速に応じて最大印加トルクを設定する。このように、車速に応じて最大印加トルクを設定し、車速が高くなるほど最大印加トルクを大きくすることにより、車線逸脱防止支援を行っている間におけるドライバに与える違和感を減少させることができる。
特に、最大印加トルクを与えるにあたり、車両に発生するヨーレートが一定になるような設定とするのが好適となる。図7(a)に示すように、車速が増加すると、最大印加トルクが大きくなるように設定したとする。このような最大印加トルクの設定を行うにあたり、図7(b)に示すように、車速によらずヨーレートが一定となるように最大印加トルクを設定するのが好適となる。
車速によらずヨーレートが一定となるように最大印加トルクを設定することにより、図7(c)に示すように、車速に応じて横加速度が変化し、車速が高くなるほど横加速度を大きくすることができる。したがって、印加トルクを印加する際のドライバに与える違和感をさらに減少させることができる。
ところで、車速が高くなるほど最大印加トルクを大きくするようにして、50〜100km/hといった低〜中高車速域では最大印加トルクと実車両挙動との差が大きくなりすぎないようにすることはできる。ところが、この場合には、上記の低〜中高車速域を超える高車速域では、横加速度、すなわち実車両挙動が大きくなりすぎてしまい、ドライバに違和感を与えるおそれがある。
そこで、最大印加トルクを設定するにあたり、車速に応じて最大印加トルクを変化させるにあたり、車速に上限値を設定する。この上限値は、たとえば基準車速に応じて決定される。具体的に、図8(a)に示すように、上限値として設定された基準車速以下の車速で逸脱防止支援を行う際には、車速に応じて最大印加トルクを変化させ、車速が高くなるほど、最大印加トルクを大きくし、図8(b)に示すように、ヨーレートが一定となるようにする。一方、車速が基準車速を超える車速で逸脱防止支援を行う際には、最大印加トルクを一定とする。最大印加トルクを一定とすることにより、ヨーレートは減少するものの図8(c)に示すように、横加速度は一定となり、操舵トルクと実車両挙動との差が小さくなる。
このようにして最大印加トルクを設定することにより、低車速域においては、ヨーレートの減少に伴いドライバに与える違和感を緩和することができる。また、高車速域においては、操舵トルクと実車両挙動との差に伴いドライバに与えられる違和感を緩和することができる。
次に、図3に示すフローチャートのステップS5で算出される逸脱緩和制御目標トルクについて説明する。ここでは、最大印加トルクに到達するまで、および最大印加トルクから印加トルクが0になるまでの印加トルクの波形を設定する。印加トルクの波形は、最大印加トルクなどに基づいて設定される。
たとえば、印加トルクについて、図9に細線L1で示すような基本パターンを設定したとする。このような基本パターンに対して、車速に対応させて最大印加トルクに変化させる際、図9に破線L2で示すように、最大印加トルクに到達するまでの変化率と最大印加トルクから減少する際の変化率とをそれぞれ一定とすると、最大印加トルクが基本パターンより大きくなると、立上げ時間および立下げ時間がいずれも長くなってしまう。
ここで、立上げ時間が長くなると、狙い通りの車両挙動が発生するまでの時間が長くなってしまう。このため、高車速域では十分な逸脱余裕時間を確保することができないことになってしまう。また、立下げ時間が長くなると、逸脱運転支援のために必要な操作が終了した後も、速やかに制御が終了しないので、ドライバが違和感を覚えることになる。
この問題に対して、図9に実線L3で示すように、最大印加トルクに到達するまでの時間が予め決められた一定の時間、たとえば0.4secで到達するように、印加トルクの立上げ時の変化率を設定する。このようにして最大印加トルクに到達するまでの印加トルクの立上げ時の変化率を設定すると、最大印加トルクに到達するまでの時間を一定とすることができる。このため、狙い通りの車両挙動が発生するまでの時間を短くすることができる。したがって、高車速域においても、十分な逸脱余裕時間を確保することができる。また、高車速域では、逸脱防止支援が開始されると、大きな印加トルクが付加されることになるので、ドライバに対して、危険な車線を逸脱しうる状況であることを、ステアリングを通じて知らせることができる。
また、立上げ時の変化率と同様に、立下げ時も最大印加トルクに基づいて最大印加トルクからの減少開始時点から付与終了までの変化率を設定する。さらに、最大印加トルクの最大値からの減少開始時点から付与終了までの時間が第二の所定時間となるように、警報トルクの変化率を設定する。いま、印加トルクの立上げ時間を第一の所定時間に設定したとすると、立下げ時間としての第二の所定時間は、第一の所定時間よりも長く設定することが望ましい。このように設定することで、立上げ時は警報が必要と判断した後、すばやく警報を与えることができると同時に、立下げ時は急な印加トルクの変動によってドライバに与える違和感を削減することができる。
さらに、立上げ時の変化率を決定すると、立下げ時の変化率についても、立上げ時の変化率の絶対値と同じ変化率で印加トルクを減少させることが考えられる。ところが、立上げ時の変化率の絶対値と同じ変化率で印加トルクを減少させると、高車速域では、急に印加トルクが抜けることになる。このため、ドライバが違和感を覚えることになる。
そこで、最大印加トルクからの立下げ時については、図9に実線L3で示すように、立上げ時の変化率の絶対値よりも、絶対値が低い変化率で印加トルクを立下げるようにしている。具体的には、たとえば立下げ時間が0.6secとなるような変化率に設定している。
このように、立上げ時の変化率の絶対値よりも絶対値が低い変化率で印加トルクを立下げることにより、ドライバに与える違和感を減少させることができ、しかも、車両の挙動を穏やかに収束させることができる。したがって、立上げ時における逸脱余裕時間の確保や、立下げ時におけるドライバに与える違和感の解消といった課題を一気に解決することができる。
他方、逸脱防止支援を開始する際には、運転をしているドライバに対して、早期かつ確実に逸脱防止支援を開始する旨を報知することが求められる。ドライバに逸脱防止支援を報知する際、ドライバに印加トルクを感じさせることが確実な方法である。このため、逸脱防止支援を開始する際には、ドライバに印加トルクを早く感じさせることが要求される。また、逸脱防止支援では、逸脱余裕時間を確保するため、早期に逸脱防止支援のための車両挙動を開始させることも要求される。
このような要求に対して、操舵機構の摩擦特性に基づいて印加トルクの初期値を決定している。逸脱防止支援による印加トルクが操舵機構の摩擦特性による操舵系摩擦量以下の場合には、ドライバが印加トルクを感じることがなく、印加トルクが操舵系摩擦量を超えたときに、ドライバが印加トルクを感じるようになる。また、印加トルクが操舵系摩擦量を超えたときに、逸脱防止支援のための車両挙動が生じる。
このため、図10に示すように、自車における操舵トルクと横加速度との実特性を求めて、実特性曲線P1を求める。この実特性曲線P1に接する接線P2を求め、接線P2と横加速度が0の線との交点を求め、この交点が示すトルク量Xを摩擦補償量とし、印加トルクを急増範囲である初期値として設定する。本実施形態では、急増範囲を初期値として設定しているが、ある程度の時間範囲を設定して、急増範囲とすることもできる。
このように、印加トルクの初期値を設定することにより、印加トルクを感じさせることによって逸脱防止支援が開始したことをドライバに早期に報知することができる。また、自車に対して、逸脱防止支援のための車両挙動を早期に開始させることができる。
一方、印加トルクを最大値から減少させる際、速やかに印加トルクを0にすることが要求される。ところが、一気に印加トルクを0にすると、急に印加トルクが抜けたことによって、ドライバが違和感を覚えることがあり、このような違和感を解消することが要求される。また、印加トルクが比較的強かったり、外乱が小さかったりするという理由から、逸脱防止支援のための車両挙動が行われずに自車が車線内に復帰した場合、車両偏向角を緩くすることが要求される。
このような要求に対して、印加トルクを最大値から減少させる際にも、操舵系摩擦量と同等の印加トルクを急減少することができる。ここでの操舵系摩擦量は、印加トルクを増加する場合に対して、逆効率として働くので、図10に示すトルク量Xの2倍のトルク量2Xを摩擦補償量とする。この摩擦補償量に相当する印加トルクの減少範囲を急減範囲として設定する。この急減範囲では、印加トルクが急激に減少したとしても、操舵摩擦によって相殺されるので、ドライバが印加トルクの減少に伴う違和感を覚えることが少ないものとなる。また、逸脱支援のための車両挙動が行われなかった場合でも、車両偏向角を小さくすることができる。
また、操舵トルク印加手段17による印加トルクの印加は、所定の印加終了条件が満たされたときに終了する。その印加終了条件には、操舵操作、ブレーキ操作、ウィンカー操作、故障時メインスイッチオフ操作、車線逸脱状態からの復帰などがある。操舵操作、ブレーキ操作、ウィンカー操作、および故障時メインスイッチオフ操作は、それぞれ操舵トルク検出手段12、ウィンカースイッチ15、ブレーキスイッチ14、およびメインスイッチ16からの入力信号によって判断される。また、車線逸脱状態からの復帰は、逸脱防止支援ECU10における演算処理によって判断される。
このうち、ドライバの操舵操作によって印加トルクの印加が終了する際には、操舵系摩擦量はなくなっている。したがって、ドライバの操舵操作によって印加トルクの印加を終了する際には、印加トルクの急減範囲の設定を中止し、印加トルクの急減範囲を設定することなく、印加トルクを急減させずに0まで減少させる。
以下に、印加トルク減少処理が開始されてからの手順について説明する。図11は、印加トルク減少区間処理開始後の手順を示すフローチャートである。
印加トルク減少区間処理が開始されたら、印加トルク減少区間処理に移行する際、操舵操作によって印加トルク減少区間処理に移行したか否かを判断する(S11)。その結果、操舵操作以外の終了条件によって印加トルク減少区間に移行した場合には、急勾配でのトルク減少処理を行う(S12)。
この場合には、図12に実線Q1で示すように、印加トルク減少区間(Close区間)では、まず急勾配による印加トルク減少処理を行う。急勾配による印加トルク減少処理では、操舵系摩擦量の範囲を急減範囲として設定し、この急減範囲内で印加トルクを急減する。このように、印加トルクを急減させることにより、ドライバには違和感を与えることなく、印加トルクを早期に0にすることができる。
その後、急減範囲内での印加トルクの急減処理が終了したら、緩勾配によるトルク減少処理を行う(S13)。緩勾配での印加トルク減少処理では、印加トルクを減少させても、ドライバが違和感を覚えない程度の変化率で印加トルクを減少させる。
一方、ステップS11において、操舵操作によって印加トルク減少区間処理に移行した場合には、操舵操作によって操舵系摩擦量がなくなっている。この場合には、図12に破線Q2に示すように、急減範囲を設定することなく、緩勾配で印加トルクを減少させる((S13)。こうして、印加トルク減少区間の処理を終了する(S13)。
このように、印加トルク減少区間処理において、急減範囲を設定すると、ドライバに違和感をほとんど与えることなく、短時間で印加トルク減少処理を行うことができる。また、急減範囲を設定した場合には、たとえば図13に実線で示すように、制御終了後の自車の向きと道路Rにおける白線Wとの間の角度は、車両偏向角θAとなる。これに対して、急減範囲を設定しない場合には、たとえば図13に破線で示すように、制御終了後の自車の向きと道路Rにおける白線Wとの間の角度は、車両偏向角θBとなる。このとき、急減範囲を設定した場合の車両偏向角θAは、急減範囲を設定しない場合の車両偏向角θBよりも小さくなる。したがって、急減範囲を設定した場合には、制御終了後の車両偏向角を小さくし、車両を車線に沿った方向に近い角度で復帰させることができる。
以上の考えに基づいて、図3に示すフローチャートのステップS5における逸脱緩和制御目標トルクにおける図5に示す印加トルクの波形は、次のようにして設定される。
印加トルクの波形は、Start区間、Keep区間、Close区間、およびFreeze区間の4つの区間より構成される。まず、ステップS3で求めた最大印加トルクにより、Keep区間の波形が決定される。Keep区間では、最大印加トルクとなる印加トルクを付加し続ける。Keep区間の滞在時間は、車速、車幅、自車のオフセット量などに基づいて、車線逸脱状態からの復帰するまでの時間を算出することによって決定される。ただし、印加終了条件が車線逸脱状態からの復帰以外の条件となった場合には、その印加復帰条件を満たした時点で、Close区間に移行する。
Keep区間の設定が済んだら、Start区間における印加トルクの初期値を設定する。印加トルクの初期値としては、操舵機構の摩擦特性に基づいて決定された操舵系摩擦量である図10に示すトルク量Xがそのまま印加トルクの初期値として設定される。操舵系摩擦量を印加トルクの初期値とすることにより、早期に逸脱防止のための車両挙動が生じ、ドライバがその印加トルクを感じることができる。
次に、Start区間の滞在時間は一定時間、たとえば0.4secに決められていることから、印加トルクの初期値と最大印加トルクとによって、Start区間における印加トルクの変化率が決定される。この変化率によって、印加トルクが増加させられる。Start区間の滞在時間は一定時間に設定されていることにより、高車速域でも十分な逸脱余裕時間を確保することができる。
続いて、Close区間の波形を決定する。Close区間では、図12に示すフローチャートにしたがって、波形を決定する。Close区間への移行が操舵操作以外の条件によって生じたものである場合には、急減範囲を設定し、操舵系摩擦量に相当する印加トルクが減少するまでの間、印加トルクを急減させる波形とする。その後、操舵系摩擦量に相当する印加トルクが減少したら、印加トルクを減少させても、ドライバが違和感を覚えない程度の変化率で印加トルクを減少させる波形とする。こうして、ドライバに違和感を与えることなく、印加トルクの付加を早期に終了することができる。
一方、Close区間への移行が操舵操作によって行われた場合には、図5には示さないが、急減範囲を設定せず、印加トルクを減少させても、ドライバが違和感を覚えない程度の変化率で印加トルクを減少させる波形を設定する。こうして、印加トルクを減少させても、ドライバに違和感を与えないようにすることができる。
1…運転支援装置、10…逸脱防止支援ECU、11…車速検出手段、12…操舵トルク検出手段、13…白線認識カメラ、14…ブレーキスイッチ、15…ウィンカースイッチ、16…メインスイッチ、17…操舵トルク印加手段、18…警報ブザー、19…メーター、21…速度メーター、22…タコメーター、23…逸脱防止支援実行表示、24…操舵制御実行表示、25…白線認識表示、26…レーダクルーズ表示、27…レーダクルーズ設定速度表示、C1…走行経路、C2…走行経路、M…自車、R…道路、W…白線。