以下、本発明の実施形態に係る操舵支援装置について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施形態に係る操舵支援装置は、車両(以下において、他の車両と区別するために、「自車両」と称呼される場合がある。)に適用され、図1に示すように、運転支援ECU10、電動パワーステアリングECU20、メータECU30、ステアリングECU40、エンジンECU50、ブレーキECU60、および、ナビゲーションECU70を備えている。
これらのECUは、マイクロコンピュータを主要部として備える電気制御装置(Electric Control Unit)であり、CAN(Controller Area Network)100を介して相互に情報を送信可能及び受信可能に接続されている。本明細書において、マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ及びインターフェースI/F等を含む。CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。これらのECUは、幾つか又は全部が一つのECUに統合されてもよい。
CAN100には、車両状態を検出する複数種類の車両状態センサ80、および、運転操作状態を検出する複数種類の運転操作状態センサ90が接続されている。車両状態センサ80は、車両の走行速度を検出する車速センサ、車両の前後方向の加速度を検出する前後Gセンサ、車両の横方向の加速度を検出する横Gセンサ、および、車両のヨーレートを検出するヨーレートセンサなどである。
運転操作状態センサ90は、アクセルペダルの操作量を検出するアクセル操作量センサ、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキ操作量センサ、ブレーキペダルの操作の有無を検出するブレーキスイッチ、操舵角を検出する操舵角センサ、操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ、および、変速機のシフトポジションを検出するシフトポジションセンサなどである。
車両状態センサ80、および、運転操作状態センサ90によって検出された情報(センサ情報と呼ぶ)は、CAN100に送信される。各ECUにおいては、CAN100に送信されたセンサ情報を、適宜、利用することができる。尚、センサ情報は、特定のECUに接続されたセンサの情報であって、その特定のECUからCAN100に送信される場合もある。例えば、アクセル操作量センサは、エンジンECU50に接続されていてもよい。この場合、エンジンECU50からアクセル操作量を表すセンサ情報がCAN100に送信される。例えば、操舵角センサは、ステアリングECU40に接続されていてもよい。この場合、ステアリングECU40から操舵角を表すセンサ情報がCAN100に送信される。他のセンサにおいても同様である。また、CAN100を介在させることなく、特定のECU間における直接的な通信により、センサ情報の授受が行われる構成が採用されてもよい。
運転支援ECU10は、ドライバーの運転支援を行う中枢となる制御装置であって、車線変更支援制御、車線維持支援制御、および、追従車間距離制御を実施する。運転支援ECU10には、図2に示すように、中央前方周辺センサ11FC、右前方周辺センサ11FR、左前方周辺センサ11FL、右後方周辺センサ11RR、および、左後方周辺センサ11RLが接続される。各周辺センサ11FC,11FR,11FL,11RR,11RLは、レーダセンサであり、その検出領域が互いに異なるだけで、基本的には、互いに同じ構成である。以下、各周辺センサ11FC,11FR,11FL,11RR,11RLを個々に区別する必要が無い場合には、それらを周辺センサ11と呼ぶ。
周辺センサ11は、レーダ送受信部と信号処理部(図示略)とを備えており、レーダ送受信部が、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」と称呼する。)を放射し、放射範囲内に存在する立体物(例えば、他車両、歩行者、自転車、建造物など)によって反射されたミリ波(即ち、反射波)を受信する。信号処理部は、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及びミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間等に基づいて、自車両と立体物との距離、自車両と立体物との相対速度、自車両に対する立体物の相対位置(方向)等を表す情報(以下、周辺情報と呼ぶ)を所定時間の経過毎に取得して運転支援ECU10に供給する。この周辺情報によって、自車両と立体物との距離における前後方向成分と横方向成分、および、自車両と立体物との相対速度における前後方向成分と横方向成分とを検出することができる。
図2に示すように、中央前方周辺センサ11FCは、車体のフロント中央部に設けられ、自車両の前方領域に存在する立体物を検出する。右前方周辺センサ11FRは、車体の右前コーナー部に設けられ、主に自車両の右前方領域に存在する立体物を検出し、左前方周辺センサ11FLは、車体の左前コーナー部に設けられ、主に自車両の左前方領域に存在する立体物を検出する。右後方周辺センサ11RRは、車体の右後コーナー部に設けられ、主に自車両の右後方領域に存在する立体物を検出し、左後方周辺センサ11RLは、車体の左後コーナー部に設けられ、主に自車両の左後方領域に存在する立体物を検出する。
周辺センサ11は、本実施形態においては、レーダセンサであるが、それに代えて、例えば、クリアランスソナーおよびライダーセンサなど、他のセンサを採用することもできる。
また、運転支援ECU10には、カメラセンサ12が接続されている。カメラセンサ12は、カメラ部、および、カメラ部によって撮影して得られた画像データを解析して道路の白線を認識するレーン認識部を備えている。カメラセンサ12(カメラ部)は、自車両の前方の風景を撮影する。カメラセンサ12(レーン認識部)は、認識した白線に関する情報を所定の演算周期にて繰り返し運転支援ECU10に供給する。
カメラセンサ12は、白線で区画される領域を表す車線を認識するとともに、白線と自車両との位置関係に基づいて、車線に対する自車両の相対的な位置関係を検出できるようになっている。ここで、自車両の位置とは、自車両の重心位置である。また、後述する自車両の横位置とは、自車両の重心位置の車線幅方向における位置を表し、自車両の横速度は、自車両の重心位置の車線幅方向における速度を表し、自車両の横加速度は、自車両の重心位置の車線幅方向における加速度を表す。これらは、カメラセンサ12によって検出される白線と自車両との相対位置関係によって求められる。尚、本実施形態においては、自車両の位置を重心位置としているが、必ずしも重心位置に限るものではなく、予め設定された特定の位置(例えば、平面視における中心位置など)を採用することができる。
カメラセンサ12は、図3に示すように、自車両の走行している車線における左右の白線WLの幅方向の中心位置となる車線中心ラインCLを決定する。この車線中心ラインCLは、後述する車線維持支援制御における目標走行ラインとして利用される。また、カメラセンサ12は、車線中心ラインCLのカーブの曲率Cuを演算する。
また、カメラセンサ12は、左右の白線WLで区画される車線における自車両の位置および向きを演算する。例えば、カメラセンサ12は、図3に示すように、自車両Cの重心点Pと車線中心ラインCLとのあいだの車線幅方向の距離Dy(m)、つまり、自車両Cが車線中心ラインCLに対して車線幅方向にずれている距離Dyを演算する。この距離Dyを横偏差Dyと呼ぶ。また、カメラセンサ12は、車線中心ラインCLの方向と自車両Cの向いている方向とのなす角度、つまり、車線中心ラインCLの方向に対して自車両Cの向いている方向が水平方向にずれている角度θy(rad)を演算する。この角度θyをヨー角θyと呼ぶ。車線がカーブしている場合には、車線中心ラインCLもカーブしているため、ヨー角θyは、このカーブした車線中心ラインCLを基準として、自車両Cの向いている方向のずれている角度を表す。以下、曲率Cu、横偏差Dy、および、ヨー角θyを表す情報(Cu、Dy、θy)を車線関連車両情報と呼ぶ。尚、横偏差Dyおよびヨー角θyについては、車線中心ラインCLに対する左右方向が、符号(正負)によって特定される。また、曲率Cuについては、カーブの曲がる方向(右または左)が符号(正負)によって特定される。
また、カメラセンサ12は、自車両の車線に限らず隣接する車線も含めて、検出した白線の種類(実線、破線)、隣り合う左右の白線間の距離(車線幅)、白線の形状など、白線に関する情報についても、所定の演算周期にて運転支援ECU10に供給する。白線が実線の場合は、車両がその白線を跨いで車線変更することは禁止されている。一方、白線が破線(一定の間隔で断続的に形成されている白線)の場合は、車両がその白線を跨いで車線変更することは許可されている。こうした車線関連車両情報(Cu、Dy、θy)、および、白線に関する情報を総称して車線情報と呼ぶ。
尚、本実施形態においては、カメラセンサ12が車線関連車両情報(Cu、Dy、θy)を演算するが、それに代えて、運転支援ECU10が、カメラセンサ12の出力する画像データを解析して、車線情報を取得するようにしてもよい。
また、カメラセンサ12は、画像データに基づいて自車両の前方に存在する立体物を検出することもできるため、車線情報に加えて、前方の周辺情報を演算により取得するようにしてもよい。この場合、例えば、中央前方周辺センサ11FC、右前方周辺センサ11FR、および、左前方周辺センサ11FLによって取得された周辺情報と、カメラセンサ12によって取得された周辺情報とを合成して、検出精度の高い前方の周辺情報を生成する合成処理部(図示略)を設け、この合成処理部で生成された周辺情報を、自車両の前方の周辺情報として運転支援ECU10に供給するようにするとよい。
図1に示すように、運転支援ECU10には、ブザー13が接続されている。ブザー13は、運転支援ECU10からのブザー鳴動信号を受信した時に鳴動する。運転支援ECU10は、ドライバーに対して運転支援状況を知らせる場合、および、ドライバーに対して注意を促す場合等においてブザー13を鳴動させる。
尚、ブザー13は、本実施形態においては、運転支援ECU10に接続されているが、他のECU、例えば、報知専用に設けられた報知ECU(図示略)に接続され、報知ECUによって鳴動されるように構成されていてもよい。この場合、運転支援ECU10は、報知ECUに対して、ブザー鳴動指令を送信する。
また、ブザー13に代えて、あるいは、加えて、ドライバーに注意喚起用の振動を伝えるバイブレータを設けてもよい。例えば、バイブレータは、操舵ハンドルに設けられ、操舵ハンドルを振動させることにより、ドライバーに注意を促す。
運転支援ECU10は、周辺センサ11から供給された周辺情報、カメラセンサ12の白線認識に基づいて得られた車線情報、車両状態センサ80により検出された車両状態、および、運転操作状態センサ90により検出された運転操作状態等に基づいて、車線変更支援制御、車線維持支援制御、および、追従車間距離制御を実施する。
運転支援ECU10には、ドライバーによって操作される設定操作器14が接続されている。設定操作器14は、車線変更支援制御、車線維持支援制御、および、追従車間距離制御のそれぞれについて実施するか否かについての設定等を行うための操作器である。運転支援ECU10は、設定操作器14の設定信号を入力して、各制御の実施の有無を決定する。この場合、追従車間距離制御の実施が選択されていない場合は、車線変更支援制御および車線維持支援制御についても実施されないように自動設定される。また、車線維持支援制御の実施が選択されていない場合は、車線変更支援制御についても実施されないように自動設定される。
また、設定操作器14は、上記制御を実施するにあたって、ドライバーの好みを表すパラメータ等を入力する機能も備えている。
電動パワーステアリングECU20は、電動パワーステアリング装置の制御装置である。以下、電動パワーステアリングECU20をEPS・ECU(Electric Power Steering ECU)20と呼ぶ。EPS・ECU20は、モータドライバ21に接続されている。モータドライバ21は、転舵用モータ22に接続されている。転舵用モータ22は、図示しない車両の「操舵ハンドル、操舵ハンドルに連結されたステアリングシャフト及び操舵用ギア機構等を含むステアリング機構」に組み込まれている。EPS・ECU20は、ステアリングシャフトに設けられた操舵トルクセンサによって、ドライバーが操舵ハンドル(図示略)に入力した操舵トルクを検出し、この操舵トルクに基づいて、モータドライバ21の通電を制御して、転舵用モータ22を駆動する。このアシストモータの駆動によってステアリング機構に操舵トルクが付与されて、ドライバーの操舵操作をアシストする。
また、EPS・ECU20は、CAN100を介して運転支援ECU10から操舵指令を受信した場合には、操舵指令で特定される制御量で転舵用モータ22を駆動して操舵トルクを発生させる。この操舵トルクは、上述したドライバーの操舵操作(ハンドル操作)を軽くするために付与される操舵アシストトルクとは異なり、ドライバーの操舵操作を必要とせずに、運転支援ECU10からの操舵指令によってステアリング機構に付与されるトルクを表す。
尚、EPS・ECU20は、運転支援ECU10から操舵指令を受信している場合であっても、ドライバーのハンドル操作による操舵トルクが検出されている場合には、その操舵トルクが閾値よりも大きい場合には、ドライバーのハンドル操舵を優先して、そのハンドル操作を軽くする操舵アシストトルクを発生させる。
メータECU30は、表示器31、および、左右のウインカー32(ウインカーランプを意味する。ターンランプと呼ばれることもある)に接続されている。表示器31は、例えば、運転席の正面に設けられたマルチインフォーメーションディスプレイであって、車速等のメータ類の計測値の表示に加えて、各種の情報を表示する。例えば、メータECU30は、運転支援ECU10から運転支援状態に応じた表示指令を受信すると、その表示指令で指定された画面を表示器31に表示させる。尚、表示器31としては、マルチインフォーメーションディスプレイに代えて、あるいは、加えて、ヘッドアップディスプレイ(図示略)を採用することもできる。ヘッドアップディスプレイを採用する場合には、ヘッドアップディスプレイの表示を制御する専用のECUを設けるとよい。
また、メータECU30は、ウインカー駆動回路(図示略)を備えており、CAN100を介してウインカー点滅指令を受信した場合には、ウインカー点滅指令で指定された方向(右、左)のウインカー32を点滅させる。また、メータECU30は、ウインカー32を点滅させている間、ウインカー32が点滅状態であることを表すウインカー点滅情報をCAN100に送信する。従って、他のECUは、ウインカー32の点滅状態を把握することができる。
ステアリングECU40は、ウインカーレバー41に接続されている。ウインカーレバー41は、ウインカー32を作動(点滅)させるための操作器であり、ステアリングコラムに設けられている。ウインカーレバー41は、左回り操作方向、および、右回り操作方向のそれぞれについて、支軸周りに2段の操作ストロークにて揺動可能に設けられる。
本実施形態のウインカーレバー41は、ドライバーが車線変更支援制御を要求する操作器としても兼用されている。ウインカーレバー41は、図4に示すように、支軸Oを中心として左回り操作方向、および、右回り操作方向のそれぞれについて、中立位置PNから第1角度θW1回動した位置である第1ストローク位置P1L(P1R)と、中立位置PNから第2角度θW2(>θW1)回動した位置である第2ストローク位置P2L(P2R)とに選択的に操作可能に構成される。ウインカーレバー41は、ドライバーのレバー操作によって第1ストローク位置P1L(P1R)に移動されている場合、ドライバーのレバー操作力が解除されると中立位置PNに戻るようになっている。更に、ウインカーレバー41は、ドライバーのレバー操作によって第2ストローク位置P2L(P2R)に移動されている場合、レバー操作力が解除されても、ロック機構によりその第2ストローク位置P2L(P2R)に保持されるようになっている。また、ウインカーレバー41は、第2ストローク位置P2L(P2R)に保持されている状態で、操舵ハンドルが逆回転して中立位置に戻された場合、あるいは、ドライバーがウインカーレバー41を中立位置方向に戻し操作した場合に、ロック機構によるロックが解除されて中立位置PNに戻されるようになっている。
ウインカーレバー41は、その位置が第1ストローク位置P1L(P1R)にある場合にのみオンする(オン信号を発生する)第1スイッチ411L(411R)と、その位置が第2ストローク位置P2L(P2R)にある場合にのみオンする(オン信号を発生する)第2スイッチ412L(412R)とを備えている。
ステアリングECU40は、第1スイッチ411L(411R)、および、第2スイッチ412L(412R)からのオン信号の有無に基づいて、ウインカーレバー41の操作状態を検出する。ステアリングECU40は、ウインカーレバー41が、第1ストローク位置P1L(P1R)に倒されている状態、および、第2ストローク位置P2L(P2R)に倒されている状態のそれぞれにおいて、その操作方向(左右)を表す情報を含めたウインカー点滅指令をメータECU30に対して送信する。
また、ステアリングECU40は、ウインカーレバー41が、第1ストローク位置P1L(P1R)に、予め設定された設定時間(車線変更要求確定時間:例えば、1秒)以上継続して保持されたことを検出した場合、運転支援ECU10に対して、その操作方向(左右)を表す情報を含む車線変更支援要求信号を出力する。従って、ドライバーは、運転中に、車線変更支援を受けたい場合には、ウインカーレバー41を、車線変更方向の第1ストローク位置P1L(P1R)に倒し、その状態を設定時間以上保持すればよい。こうした操作を車線変更支援要求操作と呼ぶ。
尚、本実施形態においては、ドライバーが車線変更支援を要求する操作器としてウインカーレバー41を用いているが、それに代えて、専用の車線変更支援要求操作器を操舵ハンドル等に設けてもよい。
図1に示したエンジンECU50は、エンジンアクチュエータ51に接続されている。エンジンアクチュエータ51は内燃機関52の運転状態を変更するためのアクチュエータである。本実施形態において、内燃機関52はガソリン燃料噴射・火花点火式・多気筒エンジンであり、吸入空気量を調整するためのスロットル弁を備えている。エンジンアクチュエータ51は、少なくとも、スロットル弁の開度を変更するスロットル弁アクチュエータを含む。エンジンECU50は、エンジンアクチュエータ51を駆動することによって、内燃機関52が発生するトルクを変更することができる。内燃機関52が発生するトルクは図示しない変速機を介して図示しない駆動輪に伝達されるようになっている。従って、エンジンECU50は、エンジンアクチュエータ51を制御することによって、自車両の駆動力を制御し加速状態(加速度)を変更することができる。
ブレーキECU60は、ブレーキアクチュエータ61に接続されている。ブレーキアクチュエータ61は、ブレーキペダルの踏力によって作動油を加圧する図示しないマスタシリンダと、左右前後輪に設けられる摩擦ブレーキ機構62との間の油圧回路に設けられる。摩擦ブレーキ機構62は、車輪に固定されるブレーキディスク62aと、車体に固定されるブレーキキャリパ62bとを備える。ブレーキアクチュエータ61は、ブレーキECU60からの指示に応じてブレーキキャリパ62bに内蔵されたホイールシリンダに供給する油圧を調整し、その油圧によりホイールシリンダを作動させることによりブレーキパッドをブレーキディスク62aに押し付けて摩擦制動力を発生させる。従って、ブレーキECU60は、ブレーキアクチュエータ61を制御することによって、自車両の制動力を制御して減速状態(減速度)を変更することができる。
ナビゲーションECU70は、自車両の現在位置を検出するためのGPS信号を受信するGPS受信機71、地図情報等を記憶した地図データベース72、および、タッチパネル(タッチパネル式ディスプレイ)73を備えている。ナビゲーションECU70は、GPS信号に基づいて現時点の自車両の位置を特定するとともに、自車両の位置及び地図データベース72に記憶されている地図情報等に基づいて各種の演算処理を行い、タッチパネル73を用いて経路案内を行う。
地図データベース72に記憶されている地図情報には、道路情報が含まれている。道路情報には、その道路の位置および形状を示すパラメータ(例えば、道路の曲率半径又は曲率、道路の車線幅、車線数、各車線の中央ラインの位置など)が含まれている。また、道路情報には、自動車専用道路であるか否かを区別することができる道路種別情報等も含まれている。
<運転支援ECU10の行う制御処理>
次に、運転支援ECU10の行う制御処理について説明する。運転支援ECU10は、車線維持支援制御および追従車間距離制御の両方が実施されている状況において、車線変更支援要求が受け付けられた場合に、車線変更支援制御を実施する。そこで、先ず、車線維持支援制御および追従車間距離制御から説明する。
<車線維持支援制御(LTA)>
車線維持支援制御は、自車両の位置が「その自車両が走行している車線」内の目標走行ライン付近に維持されるように、操舵トルクをステアリング機構に付与してドライバーの操舵操作を支援する制御である。本実施形態においては、目標走行ラインは、車線中心ラインCLであるが、車線中心ラインCLから所定距離だけ車線幅方向にオフセットさせたラインを採用することもできる。従って、車線維持支援制御は、自車両の走行位置が車線内の車線幅方向の一定位置に維持されるように操舵操作を支援する制御と表現できる。
以下、車線維持支援制御をLTA(レーントレーシングアシスト)と呼ぶ。LTAは、いろいろな名前で呼ばれているが、それ自体は周知である(例えば、特開2008−195402号公報、特開2009−190464号公報、特開2010−6279号公報、及び、特許第4349210号明細書、等を参照。)。従って、以下、簡単に説明する。
運転支援ECU10は、設定操作器14の操作によってLTAが要求されている場合、LTAを実行する。運転支援ECU10は、LTAが要求されている場合に、上述した車線関連車両情報(Cu、Dy、θy)に基づいて、下記の(1)式により、目標舵角θlta*を所定の演算周期にて演算する。
θlta*=Klta1・Cu+Klta2・θy+Klta3・Dy+Klta4・ΣDy
…(1)
ここで、Klta1,Klta2,Klta3,Klta4は制御ゲインである。右辺第1項は、道路の曲率Cuに応じて決定されるフィードフォワード的に働く舵角成分である。右辺第2項は、ヨー角θyを小さくするように(車線中心ラインCLに対する自車両の方向の偏差を小さくするように)フィードバック的に働く舵角成分である。つまり、ヨー角θyの目標値をゼロとしたフィードバック制御によって演算される舵角成分である。右辺第3項は、車線中心ラインCLに対する自車両の車線幅方向位置のずれ(位置偏差)である横偏差Dyを小さくするようにフィードバック的に働く舵角成分である。つまり、横偏差Dyの目標値をゼロとしたフィードバック制御によって演算される舵角成分である。右辺第4項は、横偏差Dyの積分値ΣDyを小さくするようにフィードバック的に働く舵角成分である。つまり、積分値ΣDyの目標値をゼロとしたフィードバック制御によって演算される舵角成分である。
例えば、車線中心ラインCLが左方向にカーブしている場合、自車両が車線中心ラインCLに対して右方向に横ずれが発生している場合、および、自車両が車線中心ラインCLに対して右方向に向いている場合、目標舵角θlta*が左方向の舵角になるように目標舵角θlta*が設定される。また、車線中心ラインCLが右方向にカーブしている場合、自車両が車線中心ラインCLに対して左方向に横ずれが発生している場合、および、自車両が車線中心ラインCLに対して左方向に向いている場合、目標舵角θlta*が右方向の舵角になるように目標舵角θlta*が設定される。従って、運転支援ECU10は、上記式(1)に基づく演算を、左方向及び右方向のそれぞれに応じた符号を用いて実施する。
運転支援ECU10は、演算結果である目標舵角θlta*を表す指令信号をEPS・ECU20に出力する。EPS・ECU20は、舵角が目標舵角θlta*に追従するように転舵用モータ22を駆動制御する。尚、本実施形態においては、運転支援ECU10は、目標舵角θlta*を表す指令信号をEPS・ECU20に出力するが、目標舵角θlta*が得られる目標トルクを演算して、演算結果である目標トルクを表す指令信号をEPS・ECU20に出力してもよい。
また、運転支援ECU10は、自車両が車線の外に逸脱するおそれのある状態になった場合には、ブザー13を鳴動させるなどして車線逸脱警報を発する。
以上が、LTAの概要である。
<追従車間距離制御(ACC)>
追従車間距離制御は、周辺情報に基づいて、自車両の前方を走行している先行車が存在する場合には、その先行車と自車両との車間距離を所定の距離に維持しながら、自車両を先行車に追従させ、先行車が存在しない場合には、自車両を設定車速にて定速走行させる制御である。以下、追従車間距離制御をACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)と呼ぶ。ACC自体は周知である(例えば、特開2014−148293号公報、特開2006−315491号公報、特許第4172434号明細書、及び、特許第4929777号明細書等を参照。)。従って、以下、簡単に説明する。
運転支援ECU10は、設定操作器14の操作によってACCが要求されている場合、ACCを実行する。運転支援ECU10は、ACCが要求されている場合、周辺センサ11から供給される周辺情報に基づいて追従対象車両を選択する。例えば、運転支援ECU10は、予め定められた追従対象車両エリア内に他車両が存在するか否かを判定する。
運転支援ECU10は、他車両が追従対象車両エリア内に所定時間以上に渡って存在する場合、その他車両を追従対象車両として選択し、自車両が追従対象車両に対して所定の車間距離を維持しながら追従するように目標加速度を設定する。運転支援ECU10は、追従対象車両エリア内に他車両が存在しない場合、自車両の車速が設定車速に一致するように、設定車速と検出車速(車速センサによって検出される車速)とに基づいて目標加速度を設定する。
運転支援ECU10は、自車両の加速度が目標加速度に一致するように、エンジンECU50を用いてエンジンアクチュエータ51を制御するとともに、必要に応じてブレーキECU60を用いてブレーキアクチュエータ61を制御する。
尚、ACC中にドライバーによるアクセル操作が行われた場合、アクセル操作が優先されて、先行車両と自車両との車間距離を維持するための自動減速制御は行われない。
以上が、ACCの概要である。
<車線変更支援制御(LCA)>
車線変更支援制御は、自車両の周囲を監視して安全に車線変更が可能であると判定された後に、自車両の周囲を監視しつつ、自車両が現在走行している車線から隣接する車線に移動するように操舵トルクをステアリング機構に付与して、ドライバーの操舵操作(車線変更操作)を支援する制御である。従って、車線変更支援制御によれば、ドライバーの操舵操作(ハンドル操作)を必要とせずに、自車両の走行する車線を変更することができる。以下、車線変更支援制御をLCA(レーン・チェンジ・アシスト)と呼ぶ。
LCAは、LTAと同様に自車両の車線に対する横位置の制御であり、LTAおよびACCの実施中に車線変更支援要求が受け付けられた場合に、LTAに代わって実施される。以下、LTAとLCAとをあわせて操舵支援制御と総称し、操舵支援制御の状態を操舵支援制御状態と呼ぶ。
尚、操舵支援装置は、ドライバーの操舵操作を支援する制御である。よって、運転支援ECU10は、操舵支援制御(LTA,LCA)を実施する場合、ドライバーのハンドル操作が優先されるように、操舵支援制御用の操舵力を発生させる。従って、ドライバーは、操舵支援制御中においても、自身のハンドル操作で自車両を意図した方向に進めることができる。
図5は、運転支援ECU10の実施する操舵支援制御ルーチンを表す。操舵支援制御ルーチンは、LTA実施許可条件が成立している場合に実施される。LTA実施許可条件は、設定操作器14によってLTAの実施が選択されていること、ACCが実施されていること、カメラセンサ12によって白線を認識できていること、などである。
運転支援ECU10は、操舵支援制御ルーチンを開始すると、ステップS11において、操舵支援制御状態をLTA・ON状態に設定する。LTA・ON状態とは、LTAが実施される制御状態を表す。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS12において、LCA開始条件が成立したか否かについて判定する。
LCA開始条件は、例えば、以下の条件が全て成立した場合に成立する。
1.車線変更支援要求操作(車線変更支援要求信号)が検出されること。
2.設定操作器14によってLCAの実施が選択されていること。
3.ウインカー操作方向の白線(元車線と目標車線との境界となる白線)が破線であること。
4.周辺監視のLCA実施可否判定結果が可であること(周辺センサ11により得られた周辺情報よって、車線変更に障害となる障害物(他車両等)が検出されていなく、安全に車線変更ができると判定されていること)。
5.道路が自動車専用道路であること(ナビゲーションECU70から取得した道路種別情報が自動車専用道路を表していること)。
6.自車両の車速がLCAの許可されるLCA許可車速範囲に入っていること。
例えば、条件4は、自車両と目標車線を走行する他車両との相対速度に基づいて、車線変更後における両者の車間距離が適正に確保されると推定される場合に成立する。
尚、LCA開始条件は、こうした条件に限るものでは無く、任意に設定することができる。
運転支援ECU10は、LCA開始条件が成立しない場合には、その処理をステップS11に戻してLTAの実施を継続する。
LTAが実施されている最中に、LCA開始条件が成立すると(S12:Yes)、運転支援ECU10は、ステップS13において、LTAに代えてLCAを実施する。この場合、運転支援ECU10は、操舵支援制御状態をLCA前半状態に設定する。LCAについての操舵支援制御状態は、LCA前半状態とLCA後半状態とに分けられており、LCAの開始時には、LCA前半状態に設定される。運転支援ECU10は、操舵支援制御状態をLCA前半状態に設定すると、メータECU30に対して、LCA実施表示指令を送信する。これにより表示器31にLCAの実施状況が表示される。
図8は、LTAの実施中において表示器31に表示される画面31a(LTA画面31aと呼ぶ)、および、LCAの実施中において表示される画面31b(LCA画面31bと呼ぶ)の一例を表す。LTA画面31a及びLCA画面31bの何れにおいても、左右の白線の間を自車両が走行しているイメージが表される。LTA画面31aには、左右の白線表示GWLの外側に仮想の壁GWが表示される。ドライバーは、この壁GWによって自車両が車線内を走行するように制御されている状態であることを認識することができる。
一方、LCA画面31bにおいては、この壁GWの表示が消され、代わりに、LCAの軌道Zが表示される。運転支援ECU10は、操舵支援制御状態に応じて、表示器31に表示される画面を、LTA画面31aとLCA画面31bとの間で切り替える。これにより、ドライバーは、操舵支援制御の実施状況がLTAであるのかLCAであるのかを容易に判別することができる。
LCAは、あくまでも車線変更するためのドライバーの操舵操作を支援する制御であって、ドライバーには、周囲を監視する義務がある。そのため、LCA画面31bにおいては、「直接周囲を確認下さい」という、ドライバーに周囲を監視させるためのメッセージGMが表示される。
運転支援ECU10は、LCAの開始にあたって、まず、図5に示したルーチンのステップS14において目標軌道を演算する。ここで、LCAの目標軌道について説明する。
運転支援ECU10は、LCAを実施する場合に、自車両の目標軌道を決める目標軌道関数を演算する。目標軌道は、目標車線変更時間をかけて、自車両を、現在走行している車線(元車線と呼ぶ)から、元車線に隣接する車線変更支援要求方向の車線(目標車線と呼ぶ)の幅方向中心位置(最終目標横位置と呼ぶ)にまで移動させる軌道であり、例えば、図9に示すような形状となる。
目標軌道関数は、後述するように、元車線の車線中心ラインCLを基準として、LCAの開始時点(即ち、LCA開始条件が成立した時点)からの経過時間tを変数として、経過時間tに対応する自車両の横位置の目標値(即ち、目標横位置)を算出する関数である。ここで、自車両の横位置とは、車線中心ラインCLを基準とした、車線幅方向(横方向と呼ぶこともある)における自車両の重心位置を表す。
目標車線変更時間は、自車両をLCAの開始位置(LCAの開始時点での自車両の横位置)である初期位置から最終目標横位置にまで横方向に移動させる距離(以下、必要横距離と呼ぶ)に比例して可変設定される。一例を示すと、車線幅が一般的な3.5mである場合には、目標車線変更時間は、例えば、8.0秒に設定される。この例は、LCAの開始時における自車両が元車線の車線中心ラインCLに位置している場合である。目標車線変更時間は、車線幅の広さに比例して調整される。従って、目標車線変更時間は、車線幅が広いほど大きな値に設定され、逆に、車線幅が狭いほど小さな値に設定される。
また、目標車線変更時間は、LCAの開始時における自車両の横位置が元車線の車線中心ラインCLよりも車線変更側にずれている場合には、そのずれ量(横偏差Dy)が多いほど減少するように設定される。逆に、LCAの開始時における自車両の横位置が元車線の車線中心ラインCLよりも反車線変更側にずれている場合には、目標車線変更時間は、そのずれ量(横偏差Dy)が多いほど増加するように設定される。例えば、ずれ量が0.5mであれば、目標車線変更時間の増減調整量は1.14秒(=8.0×0.5/3.5)とすればよい。尚、ここで示した目標車線変更時間を設定するための値は、あくまでも一例であって、任意に設定された値を採用することができる。
本実施形態においては、目標横位置yは、次式(2)に示す目標軌道関数y(t)によって演算される。この目標軌道関数y(t)は、経過時間tを変数とした5次関数である。
y(t)=c0+c1・t+c2・t2+c3・t3+c4・t4+c5・t5
・・・(2)
この目標軌道関数y(t)は、自車両を最終目標横位置にまで滑らかに移動させるような、関数に設定される。
ここで、係数c0,c1,c2,c3,c4,c5は、LCA開始時の自車両の状態(初期横状態量)と、LCA完了時における自車両の目標状態(最終目標横状態量)とによって決定される。
例えば、目標軌道関数y(t)は、図10に示すように、現時点における自車両Cの走行している車線(元車線)の車線中心ラインCLを基準として、LCAの開始時点(目標軌道の演算時点)からの経過時間t(現在時刻tと呼ぶこともある)に対応する自車両Cの目標横位置y(t)を算出する関数である。図10では、車線が直線に形成されているが、車線が曲線に形成されている場合には、目標軌道関数y(t)は、曲線に形成された車線中心ラインCLを基準として、車線中心ラインCLに対する自車両の目標横位置を算出する関数である。
運転支援ECU10は、この目標軌道関数y(t)の係数c0,c1,c2,c3,c4,c5を決定するために、以下のように目標軌道演算パラメータを設定する。目標軌道演算パラメータは、以下の7つ(P1〜P7)である。
P1.LCA開始時の元車線の車線中心ラインに対する自車両の横位置(初期横位置と呼ぶ)。
P2.LCA開始時の自車両の横方向の速度(初期横速度と呼ぶ)。
P3.LCA開始時の自車両の横方向の加速度(初期横加速度と呼ぶ)。
P4.LCAを完了する時点(LCA完了時と呼ぶ)での元車線の車線中心ラインに対する自車両の目標横位置(最終目標横位置と呼ぶ)。
P5.LCA完了時の自車両の横方向の目標速度(最終目標横速度と呼ぶ)。
P6.LCA完了時の自車両の横方向の目標加速度(最終目標横加速度と呼ぶ)。
P7.LCAを実施する時間(LCA開始時からLCA終了自までの時間)の目標値である目標時間(目標車線変更時間と呼ぶ)。
前述したように、横方向は、車線幅方向である。従って、横速度とは、車線の幅方向の自車両の速度を表し、横加速度とは、車線の幅方向の自車両の加速度を表す。
この7つの目標軌道演算パラメータを設定する処理を初期化処理と呼ぶ。この初期化処理においては、以下のように目標軌道演算パラメータが設定される。すなわち、初期横位置は、LCA開始時におけるカメラセンサ12によって検出された横偏差Dyに等しい値に設定される。初期横速度は、LCA開始時における車速センサによって検出される車速vに、カメラセンサ12によって検出されたヨー角θyの正弦値(sin(θy))を乗算した値(v・sin(θy))に設定される。初期横加速度は、LCA開始時におけるヨーレートセンサによって検出されるヨーレートγ(rad/s)に車速vを乗算した値(v・γ)に設定される。但し、初期横加速度は、上記の初期横速度の微分値に設定してもよい。初期横位置、初期横速度、および、初期横加速度をまとめて初期横状態量と総称する。
また、本実施形態の運転支援ECU10は、目標車線の車線幅を、カメラセンサ12によって検出されている元車線の車線幅と同様であるとみなす。従って、最終目標横位置は、元車線の車線幅と同じ値に設定される(最終目標横位置=元車線の車線幅)。更に、運転支援ECU10は、最終目標横速度および最終目標横加速度は、ともに、その値がゼロに設定される。この最終目標横位置、最終目標横速度、および、最終目標横加速度をまとめて最終目標横状態量と総称する。
目標車線変更時間は、上述したように、車線幅(元車線の車線幅でよい)、および、LCA開始時における自車両の横方向ずれ量に基づいて算出される。
例えば、目標車線変更時間tlenは、次式(3)によって演算される。
tlen=Dini・A・・・(3)
ここでDiniは、自車両をLCA開始位置(初期横位置)からLCA完了位置(最終目標横位置)にまで横方向に移動させる必要距離である。従って、LCA開始時に自車両が元車線の車線中心ラインCLに位置していれば、Diniは、車線幅と等しい値に設定され、自車両が元車線の車線中心ラインCLからずれている場合には、そのずれ量が車線幅に加減調整された値となる。Aは、自車両を単位距離だけ横方向に移動させるのに費やす目標時間を表す定数(目標時間設定定数と呼ぶ)であって、例えば、(8sec/3.5m=2.29sec/m)に設定されている。この例では、例えば、自車両を横方向に移動させる必要距離Diniが3.5mの場合、目標車線変更時間tlenは、8秒に設定される。
尚、この目標時間設定定数Aは、上記の値に限るものでは無く、任意に設定することができる。更に、例えば、設定操作器14を使って、ドライバーの好みによって目標時間設定定数Aを複数通りに選択できるようにしてもよい。あるいは、目標車線変更時間は、固定値であってもよい。
運転支援ECU10は、目標軌道演算パラメータの初期化処理によって求められた初期横状態量、最終目標横状態量、および、目標車線変更時間に基づいて、式(2)で表される目標軌道関数y(t)の係数c0,c1,c2,c3,c4,c5を算出して、目標軌道関数y(t)を確定させる。
上記式(2)で表される目標軌道関数y(t)から、自車両の横速度y’(t)は次式(4)にて表すことができ、自車両の横加速度y’’(t)は次式(5)にて表すことができる。
y’(t)=c1+2c2・t+3c3・t2+4c4・t3+5c5・t4
・・・(4)
y’’(t)=2c2+6c3・t+12c4・t2+20c5・t3
・・・(5)
ここで、初期横位置をy0、初期横速度をvy0、初期横加速度をay0とし、最終目標横位置をy1、最終目標横速度をvy1、最終目標横速度をay1、元車線の車線幅をWとすると、上記の目標軌道演算パラメータに基づいて、以下の関係式が得られる。
y(0)=c0= y0 ・・・(6)
y’(0)=c1=vy0 ・・・(7)
y’’(0)=2c2=ay0 ・・・(8)
y(tlen)=c0+c1・tlen+c2・tlen2+c3・tlen3
+c4・tlen4+c5・tlen5=y1=W ・・・(9)
y’(tlen)=c1+2c2・tlen+3c3・tlen2
+4c4・tlen3+5c5・tlen4=vy1=0 ・・・(10)
y’’(tlen)=2c2+6c3・tlen+12c4・tlen2
+20c5・tlen3=ay1=0 ・・・(11)
従って、この6つの式(6)〜(11)から、目標軌道関数y(t)の係数c0,c1,c2,c3,c4,c5の値を算出することができる。そして、算出された係数c0,c1,c2,c3,c4,c5の値を式(2)に代入することで、目標軌道関数y(t)が算出される。運転支援ECU10は、LCAを終了させるまで、この目標軌道関数y(t)を記憶維持する。また、運転支援ECU10は、この目標軌道関数y(t)の算出と同時に、計時タイマ(初期値:ゼロ)を起動してLCA開始からの経過時間tのカウントアップを開始する。
こうして目標軌道関数が演算されると、運転支援ECU10は、続くステップS15において、目標軌道関数に基づいて操舵制御を行う。この操舵制御について具体的に説明する。
まず、運転支援ECU10は、現時点における自車両の目標横状態量を演算する。目標横状態量は、自車両の車線幅方向の横位置の目標値である目標横位置と、自車両の車線幅方向の速度(横速度)の目標値である目標横速度と、自車両の車線幅方向の加速度(横加速度)の目標値である目標横加速度とを含む。横速度および横加速度をまとめて横運動状態量と総称し、目標横速度および目標横加速度をまとめて目標横運動状態量と総称することもある。
この場合、運転支援ECU10は、ステップS14にて確定させた目標軌道関数y(t)と、現在時刻tとに基づいて、現時点における目標横位置、目標横速度、および、目標横加速度を演算する。現在時刻tは、ステップS14において目標軌道関数y(t)を確定させた後の経過時間であり、LCAの開始からの経過時間と同等である。運転支援ECU10は、ステップS14において、目標軌道関数y(t)を算出すると、計時タイマをリセットしてLCA開始からの経過時間t(=現在時刻t)のカウントアップを開始する。目標横位置は、目標軌道関数y(t)に現在時刻tを代入して算出され、目標横速度は、目標軌道関数y(t)を一階微分した関数y’(t)に現在時刻tを代入して算出され、目標横加速度は、目標軌道関数y(t)を二階微分した関数y’’(t)に現在時刻tを代入して算出される。運転支援ECU10は、タイマによって計測された経過時間tを読み込み、この計測時間tと上記関数とに基づいて、目標横状態量を演算する。
以下、現在時刻における目標横位置をy*、現在時刻における目標横速度をvy*、現在時刻における目標横加速度をay*として表す。
続いて、運転支援ECU10は、自車両の向きを変える運動に関する目標値である目標ヨー状態量を演算する。目標ヨー状態量は、現時点における、自車両の目標ヨー角θy*、自車両の目標ヨーレートγ*、および、目標曲率Cu*を表す。目標曲率Cu*は、自車両を車線変更させる軌道の曲率、つまり、車線のカーブ曲率を含めない車線変更に係るカーブ成分の曲率である。
運転支援ECU10は、現時点における車速v(車速センサにて検出されている現在車速)を読み込むとともに、この車速vと、目標横速度vy*、目標横加速度ay*とに基づいて、以下の式(12),(13),(14)を使って、現時点における目標ヨー角θy*、目標ヨーレートγ*、および、目標曲率Cu*を演算する。
θy*=sin-1(vy*/v) ・・・(12)
γ*=ay*/v ・・・(13)
Cu*=ay*/v2 ・・・(14)
即ち、目標ヨー角θy*は、目標横速度vy*を車速vで除算した値を逆正弦関数に代入して算出される。また、目標ヨーレートγ*は、目標横加速度ay*を車速vで除算して算出される。目標曲率Cu*は、目標横加速度ay*を車速vの二乗値で除算して算出される。
続いて、運転支援ECU10は、LCAの目標制御量を演算する。本実施形態においては、目標制御量として目標舵角θlca*を演算する。目標舵角θlca*は、上述したように演算された目標横位置y*、目標ヨー角θy*、目標ヨーレートγ*、目標曲率Cu*、および、曲率Cuに基づいて次式(15)にて算出される。
θlca*=Klca1・(Cu*+Cu)+Klca2・(θy*−θy)+Klca3・(y*−y)
+Klca4・(γ*−γ)+Klca5・Σ(y*−y) ・・・(15)
ここで、Klca1,Klca2,Klca3,Klca4,Klca5は制御ゲインである。Cuは、カメラセンサ12によって検出されている現時点(演算時)における曲率である。yは、カメラセンサ12によって検出されている現時点(演算時)における横位置、つまり、Dyに相当する。θyは、カメラセンサ12によって検出されている現時点(演算時)におけるヨー角である。また、γは、ヨーレートセンサによって検出される現時点における自車両のヨーレートを表す。尚、γは、ヨー角θyの微分値を用いることもできる。
右辺第1項は、目標曲率Cu*と曲率Cu(車線のカーブ)との加算値に応じて決定されるフィードフォワード制御量である。Klca1・Cu*は、車線変更を行うためのフィードフォワード制御量であり、Klca1・Cuは、自車両を車線のカーブに沿って走行させるためのフィードフォワード制御量である。従って、右辺第1項で表される制御量は、その制御量で操舵角を制御すれば、基本的には、自車両を目標とする進路に沿って走行させることができる値に設定される。この場合、制御ゲインKlca1は、車速vに応じた値に設定される。例えば、制御ゲインKlca1は、ホイールベースL、スタビリティファクタKsf(車両ごとに決められた固定値)に応じて次式(16)のように設定されるとよい。ここで、Kは、固定の制御ゲインである。
Klca1=K・L・(1+Ksf・v2) ・・・(16)
右辺第2項〜5項は、フィードバック制御量である。右辺第2項は、目標ヨー角θy*と実ヨー角θyとの偏差を小さくするようにフィードバック的に働く舵角成分である。右辺第3項は、目標横位置y*と実横位置yとの偏差を小さくするようにフィードバック的に働く舵角成分である。右辺第4項は、目標ヨーレートγ*と実ヨーレートγとの偏差を小さくするようにフィードバック的に働く舵角成分である。右辺第5項は、目標横位置y*と実横位置yとの偏差の積分値Σ(y*−y)を小さくするようにフィードバック的に働く舵角成分である。
目標舵角θlca*は、上記の5つの舵角成分にて演算されるものに限るわけでなく、そのうちの任意の舵角成分のみを使用して演算されてもよいし、他の舵角成分を追加するなどして演算されるようにしてもよい。例えば、ヨー運動に関するフィードバック制御量については、ヨー角の偏差あるいはヨーレートの偏差の何れか一方を用いるようにしてもよい。また、目標横位置y*と実横位置yとの偏差の積分値Σ(y*−y)を用いたフィードバック制御量については、省略することもできる。
運転支援ECU10は、目標制御量を演算すると、目標制御量を表す操舵指令をEPS・ECU20に送信する。本実施形態においては、運転支援ECU10は、目標制御量として目標舵角θlca*を演算するが、目標舵角θlca*が得られる目標トルクを演算して、この目標トルクを表す操舵指令をEPS・ECU20に送信してもよい。
以上が、ステップS15の処理である。
EPS・ECU20は、CAN100を介して運転支援ECU10から操舵指令を受信すると、舵角が目標舵角θlca*に追従するように転舵用モータ22を駆動制御する。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS16において、車線変更の進捗状況が後半であるか否かについて判定する。
ここで車線変更の進捗状況の前後半の判定について説明する。運転支援ECU10は、自車両の基準点(本実施形態においては車両の重心)の位置と、予め設定された判定位置とを比較して車線変更の進捗状況の前後半について判定する。運転支援ECU10は、自車両の基準点の位置(以下、単に、自車両の位置あるいは横位置と呼ぶこともある)が判定位置よりも反車線変更側(即ち、元車線側)であれば、車線変更の進捗状況は前半であると判定し、自車両の横位置が判定位置よりも車線変更側であれば、車線変更の進捗状況は後半であると判定する。
後述するように、LCAの実施中において、周辺センサ11よって得られた周辺情報に基づいて、周辺車両の監視が行われる。そして、LCAを継続すると、目標車線において自車両に異常接近するおそれのある他車両(接近車両と呼ぶこともある)が検知された場合、LCAが停止される。自車両が元車線からはみ出ないようにすることができれば、自車両に接近車両が衝突することはない。一方、自車両が目標車線に進入している場合には、自車両と接近車両との衝突を回避する必要がある。
そこで、本実施形態の運転支援ECU10は、車線変更の進捗状況を把握し、車線変更の前半と後半とで接近車両が検出された場合の処理を切り替える。そのために、車線変更の進捗状況の前後半が判定される。車線変更の進捗状況の判定は、カメラセンサ12によって検出される車線情報に基づいて行われる。
<前後半判定方法の例1>
例えば、運転支援ECU10は、自車両の車体全体が元車線内に位置していると推定される場合に、車線変更の進捗状況は前半であると判定し、自車両の車体の少なくとも一部が元車線から目標車線にはみ出ていると推定される場合に、車線変更の進捗状況は後半であると判定する。この場合、カメラセンサ12によって検出される車線情報(特に、車線幅および横偏差Dy)と、車体寸法(特に、車体幅)に基づいて、自車両の車線変更方向の側面が元車線と目標車線との境界となる境界白線を目標車線側に超えたか否か(例えば、車線変更方向のタイヤが境界白線を通過したか否か)について判定すればよい。
<前後半判定方法の例2>
また、後述するように、車線変更の前半において接近車両が検出された場合、LCAが途中停止され、自車両を元車線の車線幅方向の中央位置に戻すような操舵制御が行われる。この操舵制御をLCAキャンセル制御と呼ぶ。接近車両が検出されてLCAキャンセル制御が実施されても、制御の応答遅れ、白線認識の遅れ、周辺監視の認識遅れ、および、演算遅れ等により、自車両が目標車線に進入するおそれがある。そこで、これらの要因による遅れ(接近車両を検知した時点から、自車両の横速度が反車線変更方向に切り替わる時点、までの遅れ時間)によるオーバーシュート(車線変更方向に移動する横方向距離)を考慮して、自車両の側面(タイヤ)が境界白線を通過する前の早めのタイミングで、車線変更の進捗状況の前後半を切り替えるようにしてもよい。
この場合、オーバーシュートを考慮した先読み横位置Dyfに基づいて、自車両の側面が境界白線を目標車線側に超えたか否かについて判定すればよい。オーバーシュートは、自車両の横速度が高いほど大きくなる。そこで、次式(17)にて先読み横位置Dyfを演算し、この先読み横位置Dyfに基づいて、自車両の側面が境界白線を目標車線側に超えたか否かについて判定すればよい。
Dyf=Dy+vy・Tre ・・・(17)
ここでDyは現時点の横偏差、vyは現時点の横速度を表し、Treは、応答遅れを補償するための予め設定された時間(先読み時間と呼ぶ)である。
この場合、カメラセンサ12によって検出される自車両の横位置に対して、横速度vyに応じて設定される所定距離(vy・Tre)だけ横方向(元車線の車線中央を基準として目標車線に近づく方向)にオフセットされた位置が自車両の横位置(先読み位置)であるとみなされる。そして、この先読み位置における自車両の側面が境界白線を超えたか否かについて判定される。
<前後半判定方法の例3>
例えば、LCAキャンセル制御によって、自車両が目標車線に進入しないと推定される特定位置を判定位置として予め決めておいてもよい。例えば、一例として、判定位置をDy=0.5m(固定値)とする。この判定位置は、車線中心ラインCLに対して車線変更側となる位置を表す。この場合、自車両の重心位置が車線中心ラインCLから車線変更側に0.5mを超えない場合、つまり、車線変更側の横偏差Dyが0.5m以下であれば車線変更は前半であり、車線変更側の横偏差Dyが0.5mを超えていれば車線変更は後半であると判定される。この例において、例えば、車線幅を3.5m、自車両の車幅を1.8mとすると、横偏差Dyが0.5mであるとき、自車両の重心位置と境界白線との距離は、1.25m(=(3.5/2)−0.5)であるから、自車両の車線変更側の側面と境界白線との距離は、0.35m(=1.25−(1.8/2))である。従って、この例では、0.35m以下のオーバーシュートであれば、LCAキャンセル制御によって自車両を目標車線に進入させないようにすることができる。この前後半判定方法を用いる場合には、車線幅、および、オーバーシュート量を想定しておいて、判定位置を決定すればよい。
尚、この前後半判定方法の例2および例3について換言すれば、運転支援ECU10は、自車両が元車線と目標車線との境界よりも元車線の中央側となる位置であって元車線の車線幅方向の中央位置よりも境界側となる特定位置を判定位置として、自車両が判定位置よりも車線変更方向とは反対方向に位置すると推定される場合に進捗状況が前半であると判定し、自車両が判定位置よりも車線変更方向に位置すると推定される場合に進捗状況が後半であると判定するように構成されている。
以下の説明においては、運転支援ECU10は、前後半判定方法の例2あるいは例3を用いて、車線変更の進捗状況を判定する。
図5の操舵支援制御ルーチンの説明に戻る。LCAの開始当初における進捗状況は、前半であるため、ステップS16の判定は「No」となる。この場合、運転支援ECU10は、ステップS17において、周辺センサ11によって得られた周辺情報に基づいて、自車両が目標軌道に沿って車線変更をした場合に、自車両に異常接近する他車両(衝突する可能性のある他車両)が存在しないか否かについて判定する。
例えば、運転支援ECU10は、自車両と「元車線及び元車線に隣接する車線に存在する他車両」との相対速度、および、自車両と他車両との距離に基づいて、現時点から他車両が自車両に衝突するまでの予測時間(衝突時間TTC:Time to Collision)を演算する。運転支援ECU10は、衝突時間TTCが前半用閾値TTC1以上であるか否かについて判定し、その判定結果である周辺監視結果を出力する。周辺監視結果は、衝突時間TTCが前半用閾値TTC1以上であれば「接近車両なし」、衝突時間TTCが前半用閾値TTC1未満であれば「接近車両あり」である。例えば、前半用閾値TTC1は4秒に設定される。
尚、運転支援ECU10は、ステップS17において、更に、自車両の横方向に他車両が存在するか否かを判定し、自車両の横方向に他車両が存在する場合に接近車両ありと判定してもよい。加えて、運転支援ECU10は、ステップS17において、車両がLCAによって車線変更を行った場合に自車両が目標車線に存在する他車両に異常接近しないか否かを、その他車両との距離及び相対速度に基づいて判定し、その他車両に異常接近する場合に接近車両ありと判定してもよい。
運転支援ECU10は、ステップS17において、周辺監視結果が「接近車両なし」である場合(S17:Yes)、その処理をステップS15に戻し、周辺監視結果が「接近車両あり」である場合(S17:No)、その処理をステップS30に進める。ここでは、周辺監視結果が「接近車両なし」である場合から説明する。
運転支援ECU10は、周辺監視結果が「接近車両なし」であるあいだ、上述したステップS15〜S17の処理を所定の演算周期で繰り返す。これにより、LCAが継続され、自車両は目標車線に向かって移動する。
こうした処理が繰り返され、車線変更の進捗状況が後半であると判定された場合(S16:Yes)、運転支援ECU10は、ステップS18において、操舵支援制御状態をLCA後半状態に設定する。尚、LCAの制御内容そのものは、接近車両が検出されてLCAが停止されない限り、LCA前半状態とLCA後半状態とで異ならない。換言すると、接近車両が検出されてLCAが停止された場合、そのLCAが停止された時点の車線変更の進捗状態がLCA前半状態であるかLCA後半状態であるかに応じて、その後の処理が相違する。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS19において、周辺センサ11によって得られた周辺情報に基づいて、自車両が目標軌道に沿って車線変更をした場合に、自車両に異常接近する他車両(衝突する可能性のある他車両)が存在しない否かについて判定する。この場合、運転支援ECU10は、ステップS17と同様に、衝突時間TTCを演算して異常接近する車両の有無を判定するが、その判定閾値として後半用閾値TTC2を用いる。つまり、運転支援ECU10は、衝突時間TTCが後半用閾値TTC2以上であれば、「接近車両なし」と判定し、衝突時間TTCが後半用閾値TTC2未満であれば、周辺監視結果として「接近車両あり」と判定する。
後半用閾値TTC2は、前半用閾値TTC1に比べて小さい値に設定されている。例えば、後半用閾値TTC2は2秒に設定される。従って、LCA後半状態においてはLCA前半状態に比べて、接近度合が高いレベルに達している他車両が検出された場合に、「接近車両あり」と判定される。
運転支援ECU10は、ステップS19において、周辺監視結果が「接近車両なし」であれば、その処理をステップS20に進めて、LCA完了条件が成立したか否かについて判定する。本実施形態においては、LCA完了条件は、自車両の横位置yが最終目標横位置y*に到達したときに成立する。運転支援ECU10は、LCA完了条件が成立していない場合は、その処理をステップS15に戻して、上述したステップS15〜S20の処理を所定の演算周期で繰り返し実施する。こうして、LCAが継続される。
LCAの実施中においては、経過時間tに応じた目標横状態量(y*、vy*、ay*)が演算される。更に、その演算された目標横状態量(y*、vy*、ay*)と車速vとに基づいて目標ヨー状態量(θy*、γ*、Cu*)が演算され、その演算された目標ヨー状態量(θy*、γ*、Cu*)に基づいて目標制御量(θlca*)が演算される。そして、目標制御量(θlca*)が演算される都度、目標制御量(θlca*)を表す操舵指令がEPS・ECU20に送信される。こうして、自車両は、目標軌道に沿って走行する。
尚、LCAの実施中に、自車両の走行位置が元車線から目標車線に切り替わると、カメラセンサ12から運転支援ECU10に供給される車線関連車両情報(Cu、Dy、θy)は、元車線にかかる車線関連車両情報から目標車線にかかる車線関連車両情報に切り替わる。このため、LCAの開始当初に演算した目標軌道関数y(t)をそのまま使用することができない。自車両の位置する車線が切り替わった場合には、横偏差Dyの符号が反転する。そこで、運転支援ECU10は、カメラセンサ12が出力する横偏差Dyの符号(正負)が切り替わったことを検出すると、目標軌道関数y(t)を元車線の車線幅Wだけオフセットさせる。これにより、元車線の車線中心ラインCLを原点として演算された目標軌道関数y(t)を、目標車線の車線中心ラインCLを原点とした目標軌道関数y(t)に変換することができる。
運転支援ECU10は、ステップS20において、LCA完了条件が成立したと判定した場合、ステップS21において、操舵支援制御状態をLTA・ON状態に設定する。つまり、LCAを終了して、LTAを再開する。これにより、自車両が目標車線における車線中心ラインCLに沿って走行するように操舵制御が行われる。運転支援ECU10は、ステップS21において操舵支援制御状態をLTA・ON状態に設定すると、その処理をステップS11に戻して、上述した操舵支援制御ルーチンをそのまま継続させる。
LCAが完了して操舵支援制御状態がLTA・ON状態に設定されると、表示器31に表示される画面は、図8に示すように、LCA画面31bからLTA画面31aに切り替えられる。
尚、運転支援ECU10は、LCAを開始してから本操舵支援制御ルーチンを終了するまでの期間において、メータECU30に対して、ウインカー操作方向のウインカー32の点滅指令を送信する。ウインカー32は、LCAが開始される前から、ウインカーレバー41の第1ストローク位置P1L(P1R)への操作に伴ってステアリングECU40から送信される点滅指令によって点滅する。メータECU30は、ステアリングECU40から送信される点滅指令が停止されても、運転支援ECU10から点滅指令が送信されている間、ウインカー32の点滅を継続させる。
次に、LCA前半状態において、ステップS17における周辺監視結果が「接近車両あり」となった場合について説明する。LCA前半状態において、周辺監視結果が「接近車両あり」となった場合、運転支援ECU10は、その処理をステップS30に進めて、LCAキャンセル制御を実施する。図6は、ステップS30の処理であるLCAキャンセル制御ルーチンを表すフローチャートである。
LCA前半状態においては、自車両は元車線に存在している。このため、自車両を目標車線に進入させなければ、他車両(接近車両)と異常接近しない。そこで、LCAキャンセル制御ルーチンにおいては、自車両を目標車線に進入させないように以下の処理が実施される。
まず、運転支援ECU10は、ステップS31において、操舵支援制御状態をLCAキャンセル制御状態に設定する。操舵支援制御状態がLCAキャンセル制御状態に設定されると、LCAが終了される。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS32において、自車両を、現在位置(LCAキャンセル制御状態に設定された瞬間の自車両の位置)から元車線の車線幅方向の中央位置(以下、単に中央位置と呼ぶ)に移動させるための目標軌道を演算する。以下、この目標軌道を中央戻し目標軌道と呼ぶ。この中央戻し目標軌道についても、式(2)に示される関数y(t)が用いられる。中央戻し目標軌道を表す関数を中央戻し目標軌道関数y(t)と呼ぶ。中央戻し目標軌道関数y(t)の算出に当たっては、式(2)に示される関数y(t)の係数c0,c1,c2,c3,c4,c5を決定するために、以下のように中央戻し目標軌道演算パラメータが設定される。中央戻し目標軌道演算パラメータは以下の7つ(P11〜P17)である。
P11.現時点(LCAキャンセル制御状態に設定された時)の自車両の横位置
P12.現時点(LCAキャンセル制御状態に設定された時)の自車両の横速度
P13.現時点(LCAキャンセル制御状態に設定された時)の自車両の横加速度
P14.自車両を移動させる横位置の目標値である目標横位置(本例において元車線の中央位置であり、以下、中央戻し完了目標横位置と呼ぶ)
P15.自車両を中央戻し完了目標横位置に移動させたときの自車両の目標横速度(中央戻し完了目標横速度と呼ぶ)
P16.自車両を中央戻し完了目標横位置に移動させたときの自車両の目標横加速度(中央戻し完了目標横加速度と呼ぶ)
P17.自車両を現在位置から中央戻し完了目標横位置に移動させるのに要する時間の目標値である目標時間(中央戻し目標時間と呼ぶ)
ここで、現時点(LCAキャンセル制御状態に設定された時)の自車両の横位置をycancel、横速度をvycancel、横加速度をaycancelとし、操舵支援制御状態がLCAキャンセル制御状態に設定された時刻を新たにt=0とし、中央戻し目標時間をtcancelとする。中央戻し目標軌道演算パラメータは、y(0)=ycancel,y’(0)=vycancel,y’’(0)=aycancel,y(tcancel)=0,y’(tcancel)=0,y’’(tcancel)=0に設定される。
横位置ycancel、横速度vycancel、横加速度aycancelは、現時点における検出値であり、上述した初期横状態量を求めるための方法と同様の方法で演算できる。即ち、横位置ycancelは現時点の横偏差Dyである。横速度vycancelは、現時点の車速v及び現時点のヨー角θyとから求められる(vycancel=v・sin(θy))。横加速度aycancelは、現時点のヨーレートγに現時点の車速vを乗算した値(v・γ)である。また、y(tcancel)は、中央戻し完了目標横位置であって、元車線の中央位置に設定される。y’(tcancel)は、中央戻し完了目標横速度を表し、y’’(tcancel)は中央戻し完了目標横加速度を表し、これらは何れもゼロに設定される。
また、中央戻し目標時間tcancelは、LCAの開始時に目標車線変更時間tlenを演算したときに用いた目標時間設定定数Aと同程度の値に設定された目標時間設定定数Acancelを用いて、次式(18)によって演算される。
tcancel=Dcancel・Acancel ・・・(18)
ここで、Dcancelは、操舵支援制御状態がLCAキャンセル制御状態に設定された時の自車両の横位置から中央戻し完了目標横位置(元車線の中央位置)にまで自車両を横方向に移動させる必要距離である。LCAキャンセル制御状態においては、自車両は元車線に存在しているため、緊急性を有しない。そのため、自車両を横方向に移動させる速度は、LCAと同程度でよいため、目標時間設定定数Acancelは、LCAを実施する場合の目標時間設定定数Aと同程度の値に設定されている。
運転支援ECU10は、中央戻し目標軌道演算パラメータの設定値に基づいて、ステップS14と同様の方法で、式(2)に示される関数y(t)の係数c0,c1,c2,c3,c4,c5の値を算出する。そして算出した係数c0,c1,c2,c3,c4,c5の値を式(2)に代入することによって、中央戻し目標軌道関数y(t)を算出する。
運転支援ECU10は、ステップS32において、中央戻し目標軌道関数を算出すると同時に、ドライバーに対してLCAがキャンセル(途中終了)されたことを通知する。例えば、運転支援ECU10は、ブザー13を駆動して通知音(例えば、「ピピッ」という音)を発生させるとともに、LCAキャンセル通知指令をメータECU30に送信する。メータECU30は、LCAキャンセル通知指令を受信すると、図11に示すように、表示器31にLCAキャンセル画面31cを表示する。LCAキャンセル画面31cでは、それまで明るく表示されていた軌道Z(図8参照)が暗くなる、あるいは消される。これにより、ドライバーは、LCAが終了したことを認識する。LCAキャンセル画面31cは、LCAキャンセル制御状態が終了するまで表示される。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS33において、先のステップS32にて算出した中央戻し目標軌道関数y(t)に基づいて操舵制御を行う。この場合、運転支援ECU10は、計時タイマtをリセット(ゼロクリアした後スタート)して、操舵支援制御状態がLCAキャンセル制御状態に設定された後の経過時間tと中央戻し目標軌道関数y(t)とから、ステップS15と同様に、目標横運動状態量(y*,vy*,ay*)の演算、および、目標ヨー状態量(θy*,γ*,Cu*)の演算を行って、最終的な目標舵角θcancel*を演算する。目標舵角θcancel*は、例えば、式(15)の左辺をθcancel*に置き換えてθlca*と同様に演算することができる。
運転支援ECU10は、目標制御量(目標舵角θcancel*)を演算すると、目標制御量を表す操舵指令をEPS・ECU20に送信する。本実施形態においては、運転支援ECU10は、目標制御量として目標舵角θcancel*を演算するが、目標舵角θcancel*が得られる目標トルクを演算して、この目標トルクを表す操舵指令をEPS・ECU20に送信してもよい。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS34において、LCAキャンセル制御状態の終了条件が成立したか否かについて判定する。この場合、運転支援ECU10は、上記の操舵制御によって自車両の横位置が中央戻し完了目標横位置(元車線の中央位置)に到達したことを検出したときに、LCAキャンセル制御状態の終了条件が成立したと判定する。あるいは、運転支援ECU10は、LCAキャンセル制御状態が予め設定された一定時間(例えば、中央戻し目標時間tcancel及び中央戻し目標時間tcancelよりも所定時間だけ長い時間)継続したことを検出したときに、LCAキャンセル制御状態の終了条件が成立したと判定するようにしてもよい。
運転支援ECU10は、LCAキャンセル制御状態の終了条件が成立していないと判定した場合(S34:No)、その処理をステップS33に戻す。従って、LCAキャンセル制御状態の終了条件が成立するまで、操舵制御が実施される。これにより、自車両は、元車線の中央位置に向かって走行していく。
こうした処理が繰り返されて、LCAキャンセル制御状態の終了条件が成立すると、運転支援ECU10は、LCAキャンセル制御ルーチンを終了して、その処理を、メインルーチン(操舵支援制御ルーチン)のステップS21に進める。これにより、操舵支援制御状態が、LCAキャンセル制御状態からLTA・ON状態に切り替えられる。このLCAキャンセル制御ルーチンを実施する運転支援ECU10の機能部が、本発明の中央戻し支援制御手段に相当する。
図14は、LCA前半状態において、自車両C1と目標車線を走行する他車両C2とが接近した場合の中央戻し目標軌道を表す。
次に、LCA後半状態において、ステップS19における周辺監視結果が「接近車両あり」となった場合(S19:No)について説明する。LCA後半状態において、周辺監視結果が「接近車両あり」となった場合、運転支援ECU10は、その処理をステップS40に進めてLCA接近警報制御を実施する。図7は、ステップS40の処理であるLCA接近警報制御ルーチンを表すフローチャートである。
LCA前半状態における周辺監視結果が「接近車両なし」であれば、通常なら、LCA後半状態においても接近車両は検出されない。しかし、LCAの実施中に、図16に示すように、目標車線の後方から他車両C2が想定外の相対速度で自車両C1に急接近するケースや、目標車線の更に隣の車線(元車線に対して2車線離れた車線)から、他車両C3が目標車線に進入して自車両C1に異常接近するケースなどが考えられる。また、周辺センサ11の死角範囲にいた自車両が、自車両の異常接近するケースも考えられる。
そこで、ステップS40のLCA接近警報制御では、基本的には、自車両を元車線に戻すように操舵を制御して衝突回避を支援する。
ただし、ドライバーが元車線を走行している先行車両を追い越そうとしてアクセル操作をしている状況において、自車両を元車線に戻すように操舵を制御すると、その先行車両に自車両が斜めに接近するおそれがある。この場合、ドライバーの意図した追い越し操作とは異なる自車両の挙動により、ドライバーに違和感を与えてしまうおそれがある。また、アクセル操作が行われている場合には、ドライバーは、自身の状況判断によって運転操作を行っていると考えられる。このため、操舵支援装置による衝突回避のための操舵支援を行わないほうが好ましい。
ステップS40のLCA接近警報制御ルーチンが開始されると、運転支援ECU10は、ステップS41において、ドライバーによるアクセル操作が行われたか否かについて判定する。本実施形態においては、運転支援ECU10は、ACCにおいて自動減速制御が実施されないように設定されるアクセル操作レベルを用いて、アクセル操作が行われたか否かについて判定する。LCAは、ACCと並行して実施される。ACCの実施中においては、先行車両との車間距離を一定に保つように加減速制御が行われるが、ドライバーによってアクセル操作が行われているとき(アクセル開度がアクセル操作判定閾値を超えているとき)には、アクセル操作を優先して(ドライバーの意図を優先して)、先行車両と自車両との車間距離を維持するための自動減速制御については行われない。このため、自車両は先行車両に接近可能である。運転支援ECU10は、ACCにおけるアクセル操作の判定結果を利用して、ドライバーによるアクセル操作が行なわれているか否かについて判定する。
運転支援ECU10は、ステップS19における周辺監視結果が「接近車両あり」と判定された瞬間における、アクセル操作の有無を判定するが、それに代えて、LCAが開始されてからステップS19における周辺監視結果が「接近車両あり」と判定されるまでの期間に、一度でもアクセル操作が行われているか否かについて判定し、一度でもアクセル操作が行われている場合には、アクセル操作が行われたと判定してもよい。
また、運転支援ECU10は、ACCによるアクセル操作判定を利用せずに、直接、アクセルセンサによって検出されるアクセル操作量(アクセル開度)を読み込み、アクセル操作量が閾値(例えば、ゼロ、あるいは、ゼロ近傍値)を超えている場合に、アクセル操作が行われたと判定してもよい。
このアクセル操作の有無の判定は、加速しながら車線変更して先行車両を追い越そうするドライバーの意図を検出するものである。
運転支援ECU10は、アクセル操作が行われていないと判定した場合(S41:No)、その処理をステップS42に進める。運転支援ECU10は、ステップS42において、操舵支援制御状態をLCA接近警報制御状態に設定する。操舵支援制御状態がLCA接近警報制御状態に設定されると、LCAが終了される。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS43において、自車両のヨー角をLCAの開始直前の状態に戻すためのヨー角戻し目標軌道を演算する。
ここで、ヨー角戻し目標軌道について説明する。ヨー角戻し目標軌道とは、自車両のヨー角を、車両の走行安定性上において支障のない範囲内において出来るだけ短時間でゼロにするための目標軌道(換言すれば、自車両の車線変更方向の横速度を、車両の走行安定性上において支障のない範囲内において出来るだけ短時間でゼロにするための目標軌道)を表す。LCAの開始直前においてはLTAが実施されている。従って、LCAが開始されるときには、ヨー角はゼロに近い値となっていると推定される。そこで、運転支援ECU10は、LCAで発生したヨー角をLCA開始直前の状態に戻すことによって、LCAの目標軌道関数から演算された目標横速度vy*が打ち消されるような(目標横速度vy*がゼロになるような)ヨー角戻し目標軌道を演算する。
上述したLCA中における目標軌道は、LCA開始時からの経過時間に対する目標横位置を表すが、ヨー角戻し目標軌道は、LCA後半状態で接近車両が検出された時点からの経過時間に対する目標曲率を表す。最終的にEPS・ECU20に出力される目標制御量は、この目標曲率と、カメラセンサ12によって検出された曲率(車線のカーブ曲率)とを加算した値に制御ゲイン(曲率を舵角に変換する係数であって、上述した制御ゲインKlca1でよい)を乗算した値に設定される。
ここで、ヨー角をLCAの開始直前の状態に戻す方法について説明する。LCAにおける目標制御量は、目標舵角θlca*で表される。この目標舵角θlca*には、上記の式(15)で表されるように、目標曲率Cu*から演算されるフィードフォワード制御項(Klca1・Cu*)が含まれている。
目標曲率の変化は、操舵角の変化に対応し、ヨー角の変化として捉えることができる。従って、LCA後半状態において接近車両が検出された場合には、LCAの開始から接近車両が検出されるまでの期間における目標曲率Cu*の積分値を演算し、その目標曲率Cu*の積分値に対応する制御量を、符号を反転してEPS・ECU20に出力することで、ヨー角をLCA開始直前の状態に戻すことができる。
例えば、図12に示すように、時刻t1で接近車両が検出された場合には、LCAが開始された時刻t0から時刻t1までの目標曲率Cu*の積分値は、同図のグレーで塗られた部分の面積に相当する。従って、この面積に対応するフィードフォワード制御量を符号を反転して(左右方向を反転して)EPS・ECU20に指令すれば、フィードフォワード制御量の出力が完了した時点でヨー角をLCA開始直前の状態に戻すことができる。この時刻t0から時刻t1までの目標曲率Cu*の積分値の符号(正負)を反転した値を反転積分値と呼ぶ。時刻t0から時刻t1までの目標曲率Cu*の積分値に、この反転積分値を加算することによって、LCAの開始からの目標曲率Cu*の積分値をゼロにすることができる。
LCA後半状態において接近車両(目標車線において自車両に異常接近するおそれのある他車両)が検出された場合は、自車両の一部が目標車線に進入している可能性が高いので、緊急状態である。従って、できるだけ短時間のあいだにヨー角をゼロに戻して、自車両を車線の形成方向と平行にする必要がある。一方、操舵支援装置における制御システムとしては、車両の横加速度(車両に働く横加速度であって、車線幅方向の横加速度とは異なる)の大きさの上限値、および、横加速度を変化させることができる変化率の大きさ(単位時間あたりの横加速度の変化量の大きさ)の上限値が決められている。
そこで、運転支援ECU10は、図12に太線で示すように、時刻t1以降における目標曲率Cuemergency*を演算する。目標曲率Cuemergency*は、最大値(Cumax)および最大変化勾配(Cu’max)を用いて演算される。この最大値(Cumax)は、操舵支援装置における制御システムにおいて許容される車両の横加速度の上限値に設定されている。また、最大変化勾配(Cu’max)は、目標曲率Cuemergency*を最大値Cumaxに向けて増加させる変化勾配、および、最大値Cumaxからゼロに向けて低下させる変化勾配を表し、操舵支援制御システムにおいて許容される上限値に設定されている。例えば、最大値Cumaxは、車両の横加速度が0.2G(G:重力加速度)となる値に設定される。車両に働く横加速度YGは、車速の二乗値(v2)に曲率(Cu)を乗算した値として算出することができる(YG=v2・Cu)。従って、この関係式から、最大値Cumaxを求めることができる。尚、最大値Cumaxおよび最大変化勾配Cu’maxの符号は、反転積分値の符号によって決定される。
運転支援ECU10は、反転積分値の大きさと、目標曲率の最大値Cumaxと、目標曲率の最大変化勾配Cu’maxとに基づいて、接近車両が検出された時点(図12の時刻t1)からの経過時間tに対する目標曲率Cuemergency*を演算する。以下、経過時間tに対する目標曲率Cuemergency*を目標曲率関数Cuemergency*(t)と呼ぶこともある。目標曲率関数Cuemergency*(t)は、自車両の目標軌道を決定する。従って、この目標曲率関数Cuemergency*(t)がヨー角戻し目標軌道に相当する。
反転積分値は、LCAの実施中において目標曲率Cu*が演算されるたびに、その値を積算して、その積算値の符号を反転することにより算出することもできるが、本実施形態においては、以下のように算出される。
LCAにおける目標曲率Cu*は、目標横加速度ay*と車速vとを使って次式(19)のように表すことができる。
Cu*=ay*/v2 ・・・(19)
従って、この目標曲率Cu*を時刻t0(即ち、経過時間t=0)から時刻t1(即ち、経過時間t=t1)まで積分した値は、車速vと目標横速度vy*とを使って次式(20)のように表すことができる。尚、式(20)は、車速vがLCA実施中において一定であるとみなせるとの前提に基づく。
従って、反転積分値は、式(20)によって得られた積分値の符号を反転することによって算出される。反転積分値が算出されれば、上述したように、反転積分値の大きさと、目標曲率の最大値Cumaxと、目標曲率の最大変化勾配Cu’maxとに基づいて、接近車両が検出された時点からの経過時間tに対する目標曲率Cuemergency*を演算することができる。このように運転支援ECU10は、最大値Cumaxと最大変化勾配Cu’maxとの制限下において、最短時間で、LCAの開始からの目標曲率Cu*の積分値をゼロに戻す目標曲率Cuemergency*を演算する。
以上が、ヨー角戻し目標軌道(目標曲率Cuemergency*(t))の演算の説明である。
運転支援ECU10は、ステップS43において、ヨー角戻し目標軌道を演算すると同時に、ドライバーに対して、LCAが途中終了されたこと、および、接近車両が検出されたこと知らせるための警報を行う。例えば、運転支援ECU10は、ブザー13を駆動して警報音(例えば、「ピピピピッ」という音)を発生させるとともに、LCA接近警報指令をメータECU30に送信する。この警報音は、最も注意喚起レベルの高い態様で発せられる。
メータECU30は、LCA接近警報指令を受信すると、図13に示すように、表示器31にLCA接近警報画面31dを表示する。LCA接近警報画面31dでは、それまで表示されていた軌道Z(図8参照)が消されるとともに、車線変更方向側(この例では右側)の白線表示GWLの横に、白線表示GWLと平行に警報マークGAが点滅表示される。ドライバーは、ブザー13の鳴動と表示器31に表示されたLCA接近警報画面31dとにより、LCAが途中終了されたこと、および、目標車線において他車両が自車両に異常接近していることを認識することができる。この場合、音声アナウンスにより警報メッセージを発生させてもよい。また、バイブレータ(図示略)を振動させてドライバーに警報を発するようにしてもよい。尚、LCA接近警報画面31dは、LCA接近警報制御状態の終了条件が成立するまで継続される。
続いて、運転支援ECU10は、図7に示すルーチンのステップS44において、先のステップS43にて算出した目標曲率関数Cuemergency*(t)に基づいて操舵制御を行う。この場合、運転支援ECU10は、計時タイマtをリセット(ゼロクリアした後スタート)して、LCA後半状態において接近車両が検出された時点からの経過時間tと目標曲率関数Cuemergency*(t)とから現時点の目標曲率Cuemergency*を演算する。運転支援ECU10は、目標曲率Cuemergency*と、現時点のカメラセンサ12によって検出されている曲率Cuとから、現時点の目標舵角θemergency*を演算する。目標舵角θemergency*は、次式(21)に示すように、現時点の目標曲率Cuemergency*とカメラセンサ12によって検出されている曲率Cuとの加算値に制御ゲインKlca1を乗算することにより算出される。
θemergency*=Klca1・(Cuemergency*+Cu) ・・・(21)
運転支援ECU10は、目標舵角θemergency*を算出する都度、目標舵角θemergency*を表す操舵指令をEPS・ECU20に送信する。EPS・ECU20は、操舵指令を受信すると、舵角が目標舵角θemergency*に追従するように転舵用モータ22を駆動制御する。本実施形態においては、運転支援ECU10は、目標制御量として目標舵角θemergency*を演算するが、目標舵角θemergency*が得られる目標トルクを演算して、この目標トルクを表す操舵指令をEPS・ECU20に送信してもよい。
以下、目標舵角θemergency*を使った操舵制御をヨー角戻し制御と呼ぶ。ヨー角戻し制御においては、目標曲率Cuemergency*とカメラセンサ12により検出される曲率Cuとの加算値を用いたフィードフォワード制御項のみによって操舵角が制御される。つまり、カメラセンサ12により検出されるヨー角θyを用いたフィードバック制御は行われない。
尚、運転支援ECU10は、接近車両が検出された時点(時刻t1)の直前において演算されたフィードバック制御量(式(15)の右辺第2〜5項)の値を保持し、その保持した値(固定値)を、ヨー角戻し制御中、フィードフォワード制御量の一部として式(21)の右辺に加算するようにしてもよい。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS45において、ヨー角戻し制御が完了したか否かについて判定する。ヨー角戻し制御の完了は、目標曲率Cuemergency*がゼロとなるタイミング(図12において時刻t2)である。運転支援ECU10は、ヨー角戻し制御が完了していない場合、その処理をステップS44に戻して、同様の処理を実施する。こうした処理が、所定の演算周期で繰り返されることにより、ヨー角が速い速度で低減される。
ヨー角は、LCAキャンセル制御によって自車両が元車線の中央位置に戻される場合にも変化するが、ヨー角角戻し制御の場合には、上記の目標曲率の最大値Cumaxおよび最大変化勾配Cu’maxの設定により、LCAキャンセル制御時における変化速度に比べて、速い速度(つまり、緊急速度)で低下する。
こうした処理が繰り返され、ヨー角戻し制御が完了すると(S45:Yes)、運転支援ECU10は、その処理をステップS46に進める。この時点においては、ヨー角がほぼゼロにまで低減されている。つまり、自車両の横速度がほぼゼロになっている。従って、自車両が目標車線の幅方向中央側に移動していかないようにすることができ、接近車両との衝突回避を支援する(衝突の可能性を低減するように支援する)ことができる。
運転支援ECU10は、ステップS46において、自車両を、現在位置(ヨー角戻し制御が完了した瞬間の自車両の位置)から元車線の中央位置に移動させるための目標軌道を演算する。以下、この目標軌道を元車線戻し目標軌道と呼ぶ。この元車線戻し目標軌道についても、式(2)に示される関数y(t)が用いられる。元車線戻し目標軌道を表す関数を元車線戻し目標軌道関数y(t)と呼ぶ。元車線戻し目標軌道関数y(t)の算出に当たっては、式(2)に示される関数y(t)の係数c0,c1,c2,c3,c4,c5を決定するために、以下のように元車線戻し目標軌道演算パラメータが設定される。元車線戻し目標軌道演算パラメータは以下の7つ(P21〜P27)である。
P21.現時点(ヨー角戻し制御が完了した時)の自車両の横位置
P22.現時点(ヨー角戻し制御が完了した時)の自車両の横速度
P23.現時点(ヨー角戻し制御が完了した時)の自車両の横加速度
P24.自車両を移動させる横位置の目標値である目標横位置(本例において元車線の中央位置であり、以下、元車線戻し完了目標横位置と呼ぶ)
P25.自車両を元車線戻し完了目標横位置に移動させたときの自車両の目標横速度(元車線戻し完了目標横速度と呼ぶ)
P26.自車両を元車線戻し完了目標横位置に移動させたときの自車両の目標横加速度(元車線戻し完了目標横加速度と呼ぶ)
P27.自車両を現在位置から元車線戻し完了目標横位置に移動させるのに要する時間の目標値である目標時間(元車線戻し目標時間と呼ぶ)
ここで、現時点(ヨー角戻し制御が完了した時)の自車両の横位置をyreturn、横速度をvyreturn、横加速度をayreturnとし、ヨー角戻し制御が完了した時刻を新たにt=0とし、元車線戻し目標時間をtreturnとする。元車線戻し目標軌道演算パラメータは、y(0)=yreturn,y’(0)=vyreturn,y’’(0)=ayreturn,y(treturn)=W(車線変更方向に応じて符号が設定される),y’(treturn)=0,y’’(treturn)=0に設定される。
横位置yreturn、横速度vyreturn、横加速度ayreturnは、現時点における検出値であり、上述した初期横状態量を求めるための方法と同様の方法で演算できる。即ち、横位置yreturnは現時点の横偏差Dyである。横速度vyreturnは、現時点の車速v及び現時点のヨー角θyとから求められる(vyreturn=v・sin(θy))。横加速度ayreturnは、現時点のヨーレートγに現時点の車速vを乗算した値(v・γ)である。また、y(treturn)は、元車線戻し完了目標横位置であって、元車線の中央位置に設定される。この場合、ヨー角戻し制御が完了した時点においてカメラセンサ12が元車線の車線情報を出力している場合には、y(treturn)=0である。y’(treturn)は、元車線戻し完了目標横速度を表し、y’’(treturn)は元車線戻し完了目標横加速度を表し、これらは何れもゼロに設定される。
また、元車線戻し目標時間treturnは、LCAの開始時に目標車線変更時間tlenを演算したときに用いた目標時間設定定数Aと同程度の値である目標時間設定定数Areturnを用いて、次式(22)によって演算される。
treturn=Dreturn・Areturn ・・・(22)
ここで、Dreturnは、ヨー角戻し制御が完了した時点の自車両の横位置から元車線戻し完了目標横位置(元車線の中央位置)まで自車両を横方向に移動させる必要距離である。ヨー角戻し制御が完了した時点においては、他車両との衝突が回避されている。そのため、自車両の位置を横に移動させる速度は、LCAと同程度でよいため、目標時間設定定数Areturnは、LCAを実施する場合の目標時間設定定数Aと同程度の値に設定されている。
運転支援ECU10は、元車線戻し目標軌道演算パラメータの設定値に基づいて、ステップS14と同様の方法で、式(2)に示される関数y(t)の係数c0,c1,c2,c3,c4,c5の値を算出する。そして算出した係数c0,c1,c2,c3,c4,c5の値を式(2)に代入することによって、元車線戻し目標軌道関数y(t)を算出する。
運転支援ECU10は、ステップS46において、元車線戻し目標軌道関数を算出すると、その処理をステップS47に進める。運転支援ECU10は、ステップS47において、先のステップS46にて算出した元車線戻し目標軌道関数に基づいて操舵制御を行う。この場合、運転支援ECU10は、計時タイマtをリセット(ゼロクリアした後スタート)して、ヨー角戻し制御が完了した時点からの経過時間tと元車線戻し目標軌道関数y(t)とから、ステップS15と同様に、目標横運動状態量(y*,vy*,ay*)の演算、目標ヨー状態量(θy*,γ*,Cu*)の演算を行って、最終的な目標舵角θreturn*を演算する。目標舵角θreturn*は、例えば、式(15)の左辺をθreturn*に置き換えて演算することができる。
運転支援ECU10は、目標制御量(目標舵角θreturn*)を演算すると、目標制御量を表す操舵指令をEPS・ECU20に送信する。本実施形態においては、運転支援ECU10は、目標制御量として目標舵角θreturn*を演算するが、目標舵角θreturn*が得られる目標トルクを演算して、この目標トルクを表す操舵指令をEPS・ECU20に送信してもよい。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS48において、LCA接近警報制御状態の終了条件が成立したか否かについて判定する。この場合、運転支援ECU10は、ステップS47の操舵制御によって自車両の横位置が元車線戻し完了目標横位置(元車線の中央位置)に到達したことを検出したときに、LCA接近警報制御状態の終了条件が成立したと判定する。あるいは、運転支援ECU10は、LCA接近警報制御状態が予め設定された一定時間継続したことを検出したときに、LCA接近警報制御状態の終了条件が成立したと判定するようにしてもよい。
運転支援ECU10は、LCA接近警報制御状態の終了条件が成立していないと判定した場合(S48:No)、その処理をステップS47に戻す。従って、LCA接近警報制御状態の終了条件が成立するまで、ステップS47の操舵制御が実施される。これにより、自車両は、元車線の中央位置に向かって走行していく。
こうした処理が繰り返されて、LCA接近警報制御状態の終了条件が成立すると、運転支援ECU10は、LCA接近警報制御ルーチンを終了して、その処理を、メインルーチン(操舵支援制御ルーチン)のステップS21に進める。これにより、操舵支援制御状態が、LCA接近警報制御状態からLTA・ON状態に切り替えられる。ステップS43〜ステップS48までの処理を行う運転支援ECU10の機能部が、本発明の元車線戻し支援制御手段に相当する。
図15は、LCA後半状態において、自車両C1と他車両C3とが接近した場合の元車線戻し目標軌道を表す。
次に、ステップS41において、ドライバーによるアクセル操作が検出された場合について説明する。運転支援ECU10は、ドライバーのアクセル操作が検出されている場合(S41:Yes)、その処理をステップS49に進める。運転支援ECU10は、ステップS49において、LCAを終了し、ブザー13を駆動して警報音(例えば、「ピピピピッ」という音)を発生させるとともに、LCA接近警報指令をメータECU30に送信する。この警報音は、最も注意喚起レベルの高い態様で発せられる。
メータECU30は、LCA接近警報指令を受信すると、図13に示すように、表示器31にLCA接近警報画面31dを表示する。LCA接近警報画面31dでは、それまで表示されていた軌道Z(図8参照)が消されるとともに、車線変更方向側(この例では右側)の白線表示GWLの横に、白線表示GWLと平行に警報マークGAが点滅表示される。ドライバーは、ブザー13の鳴動と表示器31に表示されたLCA接近警報画面31dとにより、LCAが途中終了されたこと、および、目標車線において他車両が自車両に異常接近していることを認識することができる。この場合、音声アナウンスにより警報メッセージを発生させてもよい。また、バイブレータ(図示略)を振動させてドライバーに警報を発するようにしてもよい。
この場合、運転支援ECU10は、LCA接近警報制御状態のように、自車両を元車線へ戻すような操舵支援を行わない。
LCA中にアクセル操作を行った場合、ドライバーは、元車線を走行する先行車両を追い越そうとしている状況である。この場合、自車両を元車線に戻す操舵支援を行うと、上述したように、ドライバーの意図した追い越し操作とは異なる自車両の挙動により、ドライバーに違和感を与えてしまうおそれがある。そこで、本実施形態においては、自車両を元車線に戻す操舵支援が禁止されている。また、アクセル操作が行われている場合には、ドライバーは、自身の状況判断によって運転操作を行っていると考えられる。このため、ドライバーは、ブザー13および表示器31による接近警報によって、自身の運転操作によって接近車両との衝突を回避することができる。
続いて、運転支援ECU10は、ステップS50において、接近警報の終了条件が成立したか否かについて判定する。例えば、運転支援ECU10は、自車両と警報対象となっている接近車両との衝突時間TTCが警報終了閾値TTC3(TTC2と同じ値、あるいは、TTC2よりも大きな値))よりも大きい以上となった場合に、接近警報の終了条件が成立したと判定する。あるいは、運転支援ECU10は、接近警報が設定時間継続された場合に、接近警報の終了条件が成立したと判定する。
運転支援ECU10は、接近警報の終了条件が成立しない間(S50:No)は、その処理をステップS49に戻して、接近警報を継続する。そして、接近警報の終了条件が成立すると(S50:Yes)、運転支援ECU10は、その処理をステップS21に戻して、操舵支援制御状態をLTA・ON状態に設定する。
以上説明した本実施形態の操舵支援装置によれば、周辺監視のもとにLCAが開始された後においても周辺監視が継続されるとともに、接近車両が検出された場合には、LCAが途中終了され、そのときの車線変更の進捗状況に応じて、それ以降の操舵支援制御の態様が切り替えられる。車線変更の前半に接近車両が検出された場合には、自車両を元車線の車線幅方向の中央位置に戻すように操舵操作が支援される。これにより、安全を確保した状態で、ドライバーにとって好ましい位置に自車両が戻される。従って、利便性を向上させることができる。
また、車線変更の後半に接近車両が検出された場合には、ドライバーに接近警報が発せられるとともに、自車両のヨー角を素早くLCAの開始直前の状態に戻すように操舵角が制御される。LCAの開始直前においては、LTAが実施されている。このため、ヨー角は、ほぼゼロにまで低減される。しかも、ヨー角戻し制御においては、目標曲率Cu*の積分値に基づいて演算された目標舵角θemergency*を用いて、フィードフォワード制御のみで舵角が制御される。
ヨー角戻し制御は、できるだけ短時間で行われる必要がある。例えば、カメラセンサ12の検出値を用いて、素早く舵角を変化させた場合には、カメラセンサ12の検出値に誤りがあった場合には、それによって舵角が誤った方向に早く変化してしまい、ドライバーに違和感を与えてしまう。また、カメラセンサ12によって検出されるヨー角θyを用いてフィードバック制御を実施した場合には、車両の挙動変化を検出して目標制御量が設定されるため、制御遅れが発生する。そこで、本実施形態においては、目標曲率Cu*の積分値に基づいたフィードフォワード制御でヨー角をLCAの開始直前の状態に戻すことによって、素早く、ヨー角をゼロに向けて低下させることができる。これにより、自車両の横速度を短時間で低下させることができる。従って、素早く、自車両が目標車線の幅方向中央側に移動していかないようにすることができ、接近車両との衝突回避を支援する(衝突の可能性を低減するように支援する)ことができる。尚、フィードフォワード制御量には、道路のカーブ形状を表す曲率Cuの成分(Klca1・Cu)が含まれるが、この成分は道路形状に沿って自車両を走行させる制御量であり、その変化が極めて緩やかであるため、ヨー角戻し制御に悪影響を及ぼすものでは無い。
また、ヨー角戻し制御が完了すると、自車両を元車線の中央位置に戻す元車線戻し目標軌道が演算され、その元車線戻し目標軌道にそって自車両が移動するように舵角が制御される。従って、自車両を更に安全な位置で、かつ、ドライバーにとって好ましい位置に戻すことができる。
また、LCAの後半に接近車両が検出された場合には、ドライバーのアクセル操作が行われているか否かについて判定される。ドライバーのアクセル操作が行われている場合には、自車両を元車線に戻すような操舵操作が禁止される。従って、ドライバーの意図に反して、元車線を走行する先行車両に向かって自車両が接近することがなく、ドライバーに違和感を与えないようにすることができる。
また、接近車両の有無の判定に用いる衝突時間TTCの閾値については、前半用閾値TTC1に比べて後半用閾値TTC2の方が小さな値に設定されている。このため、LCA前半状態においては、自車両に異常接近するおそれのある他車両が検出された場合には、安全が確保されている状態で余裕をもってLCAを終了することができる。一方、LCA後半状態においては、必要以上に衝突回避用の緊急操作支援が行われないようにすることができる。従って、必要以上にLCAを途中停止させないようにすることができ、利便性を向上させることができる。
また、LCAの完了時だけでなく、LCAキャンセル制御状態の終了時、および、LCA接近警報制御状態の終了時には、自車両の目標横速度および目標横加速度がゼロに設定されるため、そのまま、自車両を車線中心ラインCLに沿って安定走行させることができる。
<変形例1>
ヨー角戻し制御に関して、本実施形態においては、反転積分値を用いてヨー角をLCA開始直前の状態に戻す制御を行っているが、必ずしも、反転積分値を用いる必要は無い。例えば、運転支援ECU10は、図7に示すルーチンのステップS43において、操舵支援装置において許容される最大舵角を使って、ヨー角(絶対値)を低下させる方向の目標舵角を演算する。この場合、運転支援ECU10は、上記実施形態と同様に、目標曲率の最大値Cumaxと、目標曲率の最大変化勾配Cu’maxとに基づいて、目標舵角を演算すればよい。運転支援ECU10は、ステップS44において、この目標舵角を表す操舵指令をEPS・ECU20に送信する。
そして、運転支援ECU10は、ステップS45において、カメラセンサ12によって検出されるヨー角θyがゼロになったか否か、あるいは、ヨー角θyの符号(正負)が反転したか否かについて判定する。運転支援ECU10は、ヨー角θyがゼロになったとき、あるいは、ヨー角θyの符号が反転したときに、ヨー角戻しが完了したと判定する(S45:Yes)。この変形例1は、高精度のカメラセンサ12を搭載している場合に、適用することが好ましい。
<変形例2>
本実施形態のLCA接近警報制御ルーチン(S40)においては、自車両を元車線に戻すにあたって、その前段の処理として、ヨー角戻し制御(S43〜S45)が実施される。しかし、必ずしも、ヨー角戻し制御を、自車両を元車線に戻す制御処理と分けて実施する必要はない。例えば、LCA接近警報制御ルーチン(S40)において、ステップS43〜S45の処理を省略し、その代わりとして、ステップS46の元車線戻し目標軌道の演算において、元車線戻し目標時間treturnを衝突回避用の短時間に設定する手法を採用することができる。ただし、ステップS43におけるドライバーへの警報処理については実施される。
この場合、運転支援ECU10は、ステップS46において、7つの元車線戻し目標軌道演算パラメータ(P21〜P27)を設定するが、パラメータP21,P22およびP23については、操舵支援制御状態がLCA接近警報制御状態に設定されたときの自車両の横位置(P21)、横速度(P22)および横加速度(P23)にそれぞれ設定される。また、他のパラメータP24〜P26については、実施形態と同様に設定される。
ここで、現時点(LCA接近警報制御状態に設定された時)の自車両の横位置をyreturn、横速度をvyreturn、横加速度をayreturnとし、操舵支援制御状態がLCA接近警報制御状態に設定された時刻を新たにt=0とし、元車線戻し目標時間をtreturnとする。元車線戻し目標軌道演算パラメータは、y(0)=yreturn,y’(0)=vyreturn,y’’(0)=ayreturn,y(treturn)=W(車線変更方向に応じて符号が設定される),y’(treturn)=0,y’’(treturn)=0に設定される。
横位置yreturn、横速度vyreturn、横加速度ayreturnは、現時点における検出値であり、上述した初期横状態量と同様の方法で演算できる。また、y(treturn)は、元車線戻し完了目標横位置であって、元車線の中央位置に設定される。この場合、操舵支援制御状態がLCA接近警報制御状態に設定された時点においてカメラセンサ12が元車線の車線情報を出力している場合には、y(treturn)=0である。y’(treturn)は、元車線戻し完了目標横速度を表し、y’’(treturn)は元車線戻し完了目標横加速度を表し、これらは何れもゼロに設定される。
パラメータP27の元車線戻し目標時間treturnについては、衝突回避用の短時間に設定する必要がある。このため、元車線戻し目標時間treturnは、衝突回避用に設定された目標時間設定定数Areturnを用いて上記式(22)により演算される。従って、目標時間設定定数Areturnは、LCAキャンセル制御において用いられた目標時間設定定数Acancelよりも小さい値に設定される。また、式(22)におけるDreturnは、操舵支援制御状態がLCA接近警報制御状態に設定された時点の自車両の横位置から元車線戻し完了目標横位置(元車線の中央位置)まで自車両を横方向に移動させるのに必要な距離である。
運転支援ECU10は、元車線戻し目標軌道演算パラメータの設定値に基づいて、ステップS14と同様の方法で、式(2)に示される関数y(t)の係数c0,c1,c2,c3,c4,c5の値を算出する。そして算出した係数c0,c1,c2,c3,c4,c5の値を式(2)に代入することによって、元車線戻し目標軌道関数y(t)を算出する。運転支援ECU10は、ステップS46において、元車線戻し目標軌道関数を算出すると、その処理をステップS47に進める。
この変形例2においても、車線変更の後半に接近車両が検出された場合には、自車両のヨー角を素早く低下させることができる。
<変形例3>
本実施形態においては、操舵支援制御状態がLCA接近警報制御状態に設定された場合、ドライバーへの警報(S42)と衝突回避用の操舵支援(S42,S43)とが同時に開始される。これ代えて、ドライバーへの警報を先に実施してドライバーのハンドル操作を促し、その後、自車両と他車両との接近度合が更に高くなった場合に、LCAを終了して、LCA接近警報制御を開始するようにしてもよい。
図17は、操舵支援制御ルーチンの変形例(変形部分)を表す。運転支援ECU10は、ステップS19において「接近車両あり」と判定した場合(S19:No)、ステップS60において、ドライバーへの警報を発する。続いて、運転支援ECU10は、ステップS61において、LCA接近警報制御を開始する条件が成立したか否かを判定する。この場合、運転支援ECU10は、衝突時間TTCが閾値TTCsteer未満となったことを判定する。例えば、閾値TTCsteerは、ステップS19における後半用閾値TTC2よりも短い値に設定される。運転支援ECU10は、衝突時間TTCが閾値TTCsteer以上の場合には、その処理をステップS20に進める。一方、衝突時間TTCが閾値TTCsteer未満であれば、その処理をステップS40に進める。この変形例によれば、更に、利便性を向上させることができる。
以上、本実施形態および変形例に係る操舵支援装置について説明したが、本発明は上記実施形態および変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、LCAの後半において接近車両が検出され、かつ、ドライバーのアクセル操作が検出された場合には、ドライバーに接近警報を発するように構成されているが、接近警報を発しない構成(ステップS49,S50を省略した構成)であってもよい。
また、LCAの後半において接近車両が検出された場合、ドライバーのアクセル操作が検出されている状況であれば、LCAを終了させない構成であってもよい。この場合、運転支援ECU10は、ステップS41において「Yes」と判定した後に、その処理をステップS20に進める。
また、上記実施形態においては、LCAキャンセル制御状態、および、LCA接近警報制御状態においては、最終的な目標横位置が元車線の中央位置に設定されるが、必ずしも、その位置にする必要は無く、例えば、元車線内の任意の横位置であってもよい。
また、上記実施形態においては、操舵支援制御状態がLTA・ON状態(LTAが実施されている状態)であることがLCAを実施するための前提となっているが、必ずしも、そのような前提は必要としない。また、ACCが実施されている状態であるという前提もなくてもよい。また、本実施形態においては、LCAは、自車両が走行する道路が自動車専用道路であることを条件として実施されるが、必ずしも、そうした条件を設ける必要はない。
また、上記実施形態においては、カメラセンサ12により車線を認識するように構成されているが、例えば、ナビゲーションECU70によって、車線に対する自車両の相対位置関係を検出してもよい。